(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】プロセストランスミッタ隔離補償
(51)【国際特許分類】
G01K 7/00 20060101AFI20220117BHJP
G01K 1/14 20210101ALI20220117BHJP
【FI】
G01K7/00 381D
G01K1/14 B
G01K1/14 E
(21)【出願番号】P 2019566568
(86)(22)【出願日】2018-02-13
(86)【国際出願番号】 US2018017937
(87)【国際公開番号】W WO2018156383
(87)【国際公開日】2018-08-30
【審査請求日】2019-10-21
(32)【優先日】2017-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515231553
【氏名又は名称】ローズマウント インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ルド、ジェイソン ハロルド
(72)【発明者】
【氏名】トリンブル、スティーブ リチャード
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0178446(US,A1)
【文献】特開2011-027619(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105716733(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0185085(US,A1)
【文献】特開平05-171984(JP,A)
【文献】特開平04-357426(JP,A)
【文献】特開平06-249715(JP,A)
【文献】特開2004-279311(JP,A)
【文献】特表2011-511382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器に含まれるプロセス媒体の温度を測定するための工業プロセス温度送信機であって、
隔離壁によって前記プロセス媒体から分離されたプロセス温度センサと、
感知された温度に基づいて二次温度信号を生成するように構成された二次温度センサと、
を含み、温度測定中に前記プロセス温度センサから出力されるプロセス温度信号及び前記二次温度信号に基づいて前記プロセス媒体の温度を示す温度信号を生成するように構成された、温度感知ユニットと、
前記温度信号を、前記プロセス媒体の温度の変化に対する温度測定の応答時間に対して補償し、補償温度信号を出力するように構成された補償回路と、
前記補償温度信号の関数として温度出力を生成するように構成された出力回路と、
熱伝導部によって前記処理容器の外側に装着され、前記二次温度センサを含むハウジングと、
を含む、送信機。
【請求項2】
温度測定の応答時間は、前記隔離壁の質量、前記隔離壁の熱伝導率、および前記隔離壁の厚さからなる群から選択される前記隔離壁の少なくとも1つの性質に依存し、
前記補償回路は前記温度信号を補償し、前記隔離壁の少なくとも1つの特性に基づいて補償温度信号を出力する、
請求項1に記載の送信機。
【請求項3】
前記隔離壁はプロセス媒体を収容するように構成された処理容器の壁を形成し、
プロセス温度センサは前記隔離壁の外面と接触している、
請求項1に記載の送信機。
【請求項4】
前記処理容器は、パイプおよびタンクからなる群から選択される、
請求項3に記載の送信機。
【請求項5】
前記二次温度センサは、前記ハウジングに含まれている前記送信機の端子台温度を測定することを特徴とする、
請求項3に記載の送信機。
【請求項6】
前記温度感知ユニットは、アナログ形式の前記プロセス温度信号をデジタルプロセス温度信号に変換し、アナログ形式の前記二次温度信号をデジタル二次温度信号に変換するように構成された、少なくとも1つのアナログ-デジタル変換器を含み、
処理回路は、前記デジタルプロセス温度信号および前記デジタル二次温度信号に基づいて、デジタル形式の温度信号を生成し、
デジタル形式の補償温度信号をアナログ補償温度信号に変換するように構成されたデジタル-アナログ変換器を含み、
前記出力回路は、前記アナログ補償温度信号の関数として、前記温度出力を生成するように構成されている、
請求項3に記載の送信機。
【請求項7】
プロセス媒体内に延在し、キャビティを画定する前記隔離壁を含むサーモウェルを含み、
前記プロセス温度センサが前記キャビティ内に含まれる、
請求項1に記載の送信機。
【請求項8】
前記温度感知ユニットは、アナログ形式の前記プロセス温度信号をデジタルプロセス温度信号に変換してデジタル形式の温度信号を生成するように構成されたアナログ-デジタル変換器を含み、
デジタル形式の前記補償温度信号をアナログ補償温度信号に変換するように構成されたデジタル-アナログ変換器を含み、
前記出力回路は、前記アナログ補償温度信号の関数として、前記温度出力を生成するように構成される、
請求項1に記載の送信機。
【請求項9】
隔離壁を介して処理容器に含まれるプロセス媒体の温度を測定するための工業プロセス温度送信機であって、
前記隔離壁によって前記プロセス媒体から分離され、前記隔離壁の外面と接触し、前記プロセス媒体の温度に基づいてプロセス温度信号を生成するように構成されたプロセス温度センサと、
前記プロセス媒体および前記隔離壁から離れた位置における温度に基づいて二次温度信号を生成するように構成された二次温度センサと、
前記プロセス温度信号および前記二次温度信号に基づいて前記プロセス媒体の温度を示す温度信号を生成するように構成された処理電子機器と、
を含む温度感知ユニットと、
温度測定の応答時間に対して前記温度信号を補償し、補償温度信号を出力するように構成された補償回路と、
前記補償温度信号の関数として送信機出力を生成するように構成された出力回路と、
前記処理容器に装着された第一端と前記処理容器及び前記隔離壁から離隔されている第二端とを有するステム部分と、
前記ステム部分の前記第二端に装着され、前記二次温度センサを含むハウジングと、
を含む、送信機。
【請求項10】
温度測定の応答時間は、前記隔離壁の質量、前記隔離壁の熱伝導率、および前記隔離壁の厚さからなる群から選択される前記隔離壁の少なくとも1つの特性に依存し、
前記補償回路は、前記温度信号を補償し、前記隔離壁の少なくとも1つの特性に基づいて前記補償温度信号を生成する、
請求項9に記載の送信機。
【請求項11】
前記隔離壁は前記処理容器の壁を形成する、
請求項9に記載の送信機。
【請求項12】
処理容器は、パイプおよびタンクからなる群から選択される、
請求項10に記載の送信機。
【請求項13】
前記温度感知ユニットは、アナログ形式の前記プロセス温度信号をデジタルプロセス温度信号に変換するように構成された第1のアナログ-デジタル変換器と、アナログ形式の二次温度信号をデジタル二次温度信号に変換するように構成された第2のアナログ-デジタル変換器とを含み、
処理回路は、前記デジタルプロセス温度信号および前記デジタル二次温度信号に基づいて、デジタル形式の温度信号を生成し、
デジタル形式の前記補償温度信号をアナログ補償温度信号に変換するように構成されたデジタル-アナログ変換器を含み、
前記出力回路は、前記アナログ補償温度信号の関数として、温度出力を生成するように構成されている、
請求項10に記載の送信機。
【請求項14】
工業用プロセス温度送信機を使用して処理容器に含まれるプロセス媒体の温度を測定する方法であって、
サーミスタを含むプロセス温度センサを用いて隔離壁を介して前記プロセス媒体の温度を検知することと、
前記処理容器の外部に熱伝導部によって付着されているハウジング内に含まれている二次温度センサを使用して前記工業用プロセス温度送信機の
前記ハウジング内
の温度を検知することと、を
含め、温度感知ユニットを用いて前記プロセス媒体の温度の温度測定を行うことと、
前記プロセス温度センサからの温度信号及び前記二次温度センサからの二次温度
信号を処理することを含め、
前記温度感知ユニットを用いて温度測定に応答して温度信号を生成することと、
補償回路を用いて温度測定の応答時間に対して前記温度信号を補償することと、
補償回路を用いて、温度測定の応答時間を低減または除去した補償温度信号を生成することと、
出力回路を用いて前記補償温度信号の関数として温度出力を生成することと、
を含む、方法。
【請求項15】
前記温度信号を補償することは、前記隔離壁の質量、前記隔離壁の熱伝導率、および前記隔離壁の厚さからなる群から選択される前記隔離壁の少なくとも1つの特性に基づいて、前記温度信号を補償することを含む、
請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記隔離壁は前記プロセス媒体を収容する処理容器の壁を形成し、
温度測定を実行することは前記隔離壁の外面を前記プロセス温度センサに接触させることを含む、
請求項14
に記載の方法。
【請求項17】
前記隔離壁は前記プロセス媒体内に延在するサーモウェルのキャビティの一部を画定し、前記キャビティは前記プロセス温度センサを含み、
温度測定を実行することは、前記プロセス温度センサを使用して前記サーモウェルの前記隔離壁を通してプロセス媒体の温度を感知することを含む、
請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は工業プロセス温度トランスミッタに関し、より具体的には、温度測定の応答時間について温度トランスミッタによって実行される温度測定を補償することに関する。
【背景技術】
【0002】
工業プロセスは、多くの種類の材料の製造および輸送に使用される。このようなシステムでは、プロセス内の異なるパラメータを測定することがしばしば必要とされる。そのようなパラメータの1つは、プロセス媒体の温度である。
【0003】
工業プロセス温度トランスミッタは、典型的には温度センサを使用してプロセス媒体の温度を測定し、測定された温度を制御室などの所望の場所に伝達する。そのような温度送信機は、典型的には温度センサをプロセス媒体から隔離して、温度センサおよび関連する電子機器を、センサを損傷し、かつ/または温度測定に悪影響を及ぼす可能性があるプロセス条件から保護する。
【0004】
いくつかの温度送信機は、温度センサをサーモウェル内に収容する。温度センサは、開放端を介してサーモウェル内に設置される。サーモウェルのシールされた端部は、プロセス媒体に挿入される。これにより、温度センサは、プロセス媒体に直接さらされることなく、サーモウェルを介してプロセス媒体の温度を測定することができる。したがって、温度センサは、センサを損傷する可能性がある過酷な条件からの保護を提供しながら、プロセス媒体内に挿入することができる。
【0005】
他の温度送信機は、プロセスへの侵入を回避しながら、プロセス媒体の温度を測定する。このような非侵入型温度トランスミッタは、典型的にはプロセス媒体を収容するパイプの外面のようなプロセス媒体を収容する処理容器壁の外面と接触するように、温度センサを位置決めする。温度センサは、処理容器壁を通るプロセス媒体の温度を測定する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
温度送信機は、少なくとも部分的に、サーモウェルの壁または処理容器の壁を通して温度を伝達する必要性に起因する、プロセス媒体の温度の変化の検出における遅延を経験する。温度測定タイミングがプロセス管理にとって重要であるようないくつかの用途では、このような温度測定の遅延は許容できないことがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の実施形態は、プロセス媒体の温度を測定するための工業プロセス温度トランスミッタ、および工業プロセス温度トランスミッタを使用してプロセス媒体の温度を測定するための方法に関する。温度送信機のいくつかの実施形態は、温度感知ユニットと、補償回路と、出力回路とを含む。温度感知ユニットは、隔離壁によってプロセス媒体から分離されたプロセス温度センサを含む。温度感知ユニットは、温度測定中にプロセス温度センサから出力されるプロセス温度信号に基づいて、プロセス媒体の温度を示す温度信号を生成するように構成される。補償回路はプロセス媒体の温度の変化に対する温度測定の応答時間について温度信号を補償し、補償温度信号を出力するように構成される。出力回路は、プロセス媒体の温度に対応する補償温度信号の関数として温度出力を生成するように構成される。
【0008】
本方法のいくつかの実施形態では、プロセス媒体の温度の温度測定がプロセス温度センサを使用して隔離壁を通してプロセス媒体の温度を感知することを含む温度感知ユニットを使用して実行される。温度信号は、温度感知ユニットを用いた温度測定に応答して生成される。温度信号は温度測定の応答時間に対して補償され、補償温度信号が生成され、補償温度信号において、温度測定の応答時間は補償回路を使用して低減または除去される。温度出力は、送信機の出力回路を用いて、補償温度信号の関数として生成される。
【0009】
この概要は、以下の「発明を実施するための形成」でさらに説明される概念の選択を簡略化された形成で紹介するために提供される。この発明の概要は、特許請求される主題の重要な特徴または本質的な特徴を識別することを意図するものではなく、特許請求される主題の範囲を決定する際の補助として使用されることを意図するものでもない。特許請求される主題は、背景技術で言及される任意のまたはすべての欠点を解決する実装形態に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】プロセスと相互作用する、本開示の1つまたは複数の実施形態による、工業プロセス温度送信機の簡略化されたブロック図である。
【
図2】本開示の実施形態による、工業プロセス温度送信機の補償回路によって実行される例示的な信号処理を示す簡略化されたブロック図である。
【
図3】本開示の実施形態による、プロセス媒体の温度を感知するように構成された温度送信機を含む例示的な工業プロセス制御システムを示す簡略図である。
【
図4】本開示の例示的な実施形態による、温度送信機のサーモウェル内の温度感知ユニットの一部の簡略化された断面図である。
【
図5】本開示の例示的な実施形態による、処理容器の外部に配置される例示的な非侵入型温度送信機の温度感知ユニットの簡略化された概略図である。
【
図6】本開示の実施形態による、ステップ入力に対する測定変化率に関連して温度測定に適用されるべき例示的な補正を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の実施形態は、添付の図面を参照して、以下でより完全に説明される。同じまたは類似の参照符号を使用して識別される要素は、同じまたは類似の要素を指す。しかしながら、本開示の様々な実施形態は、多くの異なる形態で具現化されてもよく、本明細書に記載された実施形態に限定されるものとして解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は本開示が完全かつ完全であり、本開示の範囲を当業者に完全に伝えるように提供される。
【0012】
具体的な詳細は実施形態の完全な理解を提供するために、以下の説明で与えられる。しかしながら、当業者であれば、これらの具体的な詳細なしに実施形態を実施できることを理解するであろう。例えば、回路、システム、ネットワーク、プロセス、フレーム、サポート、コネクタ、モータ、プロセッサ、および他の構成要素は実施形態を不必要な詳細で不明瞭にしないために、図示されず、またはブロック図形式で示されてもよい。
【0013】
本明細書で使用される用語は特定の実施形態を説明するためだけのものであり、本開示を限定することを意図するものではない。本明細書で使用されるように、単数形「a」、「an」および「the」は文脈が別段の明確な指示をしない限り、複数形も含むことを意図する。さらに、「備える」および/または「備える」という用語は本明細書で使用される場合、述べられた特徴、整数、ステップ、動作、要素、および/または構成要素の存在を指定するが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、動作、要素、構成要素、および/またはそれらのグループの存在または追加を排除しないことを理解されたい。
【0014】
要素が別の要素に「接続される」、「結合される」、または「取り付けられる」と言及される場合、要素は他の要素に直接接続される、結合される、または取り付けられることが可能であり、あるいは、介在要素または中間要素が存在し得る他の要素に間接的に接続される、結合される、または取り付けられることが可能であることが理解されるのであろう。対照的に、要素が、別の要素に「直接接続されている」、「直接結合されている」、または「直接取り付けられている」と呼ばれる場合、介在する要素は存在しない。要素間の直接的な接続部、連結、または取り付けを示す図面はまた、要素が互いに間接的に接続部され、連結され、または取り付けられる実施形態を含む。
【0015】
第1、第2などの用語は様々な要素を説明するために本明細書で使用され得るが、これらの要素はこれらの用語によって限定されるべきではないことが理解されるのであろう。これらの条件は、1つの要素を別の要素から区別するためにのみ使用される。したがって、本開示の教示から逸脱することなく、第1の要素を第2の要素と呼ぶことができる。
【0016】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本開示に関連する当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。さらに、一般的に使用される辞書で定義されるような用語は関連技術の文脈におけるそれらの意味と一致する意味を有するものとして解釈されるべきであり、本明細書で明示的にそのように定義されない限り、理想化されたまたは過度に形式的な意味で解釈されるべきではないことが理解されるのであろう。
【0017】
本開示の実施形態はまた、フローチャート図およびブロック図を使用して説明されてもよい。フローチャートは動作を順次プロセスとして説明することができるが、動作の多くは並行して、または同時に実行することができる。さらに、動作の順序は、再配置されてもよい。プロセスはその動作が完了したときに終了するが、図に含まれていない、または本明細書に記載されていない追加のステップを有することができる。
【0018】
本開示の実施形態は、温度測定値の応答時間を改善するために、工業用温度送信機温度測定値を補償することを対象とする。これは、一般に、プロセス媒体の温度の関数である温度センサによって生成される温度信号を、隔離壁によるプロセス媒体からの温度センサの分離に関連する温度測定の遅延、および他の要因に対して補償することによって達成される。温度送信機の改善された応答時間はプロセスの効率を改善することができ、高速温度測定が望まれるプロセスにおいて温度送信機を好ましく使用することを可能にする。
【0019】
図1は、本開示の1つまたは複数の実施形態に従って形成され、プロセス媒体102と相互作用する、一般に100と呼ばれる工業用温度送信機の簡略化されたブロック図である。いくつかの実施形態では、プロセス媒体102は、より価値の低い材料を、石油、化学物質、紙、食品などのより価値があり有用な製品に変換するために、パイプおよびタンクを通って移動する、流体などの材料を含む工業プロセスを含む。例えば、製油所は、原油をガソリン、燃料油、および他の石油化学物質に加工することができる工業プロセスを実施する。工業プロセス制御システムはプロセスパラメータ、例えば、圧力、流量、温度、レベル、および他のパラメータを感知および測定するための測定機器としてのプロセストランスミッタなどのプロセスデバイスを、例えば、バルブ、ポンプ、およびモータなどの制御デバイスと組み合わせて使用して、それらの処理中に材料の流れを制御する。
【0020】
いくつかの実施形態では、温度送信機100は、プロセス媒体102の温度を感知し、プロセス媒体102の温度を示す、一般に106と呼ばれる測定温度信号を出力するように構成された温度感知ユニット104を含む。いくつかの実施形態では、ユニット104がプロセス媒体102の温度を測定するために使用される、一般に105と呼ばれる1つまたは複数の温度センサを含む。1つまたは複数の温度センサ105は、任意の適切な形態をとることができる。例えば、センサ105はそれぞれ、熱電対、抵抗温度検出器、サーミスタ、および/または別の適切な温度感知デバイスを含むことができる。
【0021】
いくつかの実施形態では、ユニット104は、プロセス媒体102に係合し、プロセス媒体102からセンサ105Aを隔離する隔離壁108によってプロセス媒体102から隔離された少なくとも1つのプロセス温度センサ105A(以下、「温度センサ105A」)を含む。以下で論じるように、隔離壁108は例えば、温度送信機100の構成要素(例えば、サーモウェルの壁)、またはプロセス媒体102を収容する処理容器の壁(例えば、パイプ、タンクなど)とすることができる。いくつかの実施形態では、隔離壁108が温度センサ105Aまたは他のハウジングのシースまたは壁である。センサ105Aは、壁108を介して伝達されるプロセス媒体102の温度の関数である温度信号106Aを生成するように構成される。いくつかの実施形態では、温度信号106が以下で説明するように、温度送信機100がサーモウェルを使用するときなどに、1つまたは複数のプロセス温度センサ105Aによって生成される温度信号106Aのみを使用して、ユニット104によって生成される。
【0022】
いくつかの実施形態では、温度感知ユニット104が1つ以上の二次温度センサ105B(以下、「二次温度センサ105B」)と、破線で示される処理回路110とを含む。処理回路110は、アナログ回路及び/又はデジタル回路を含むことができる。いくつかの実施形態では、処理回路110が本明細書で説明される1つまたは複数の機能を実行するために、処理回路110のメモリに、または送信機100から離れたメモリにローカルに格納され得る命令を実行するように構成される1つまたは複数のプロセッサを表す。
【0023】
温度センサ105Bは、処理回路110によって温度信号106Aと共に処理されてプロセス媒体102の温度を推定する温度信号106Bを出力するように構成される。いくつかの実施形態では、温度信号106Bが隔離壁108および/または送信機100の別の構成要素が曝される周囲条件を示すことができる。いくつかの実施形態では、処理回路110が温度信号106Aおよび106Bを処理して、ユニット104によって測定された温度を表す温度信号106を生成する。典型的には、二次温度センサ105B及び処理回路110が以下に説明するように、非侵入型温度送信機100と共に使用される。
【0024】
いくつかの実施形態では、送信機100は、温度信号106、106A、および/または106B(存在する場合)がアナログ信号であるアナログデバイスである。いくつかの実施形態では、温度送信機100が、
図1に示すように、デジタル領域における送信機の回路によって処理するために、アナログ温度信号をデジタル温度信号(例えば、106'、106A'、106B')にデジタル化する、1つまたは複数のアナログ/デジタル変換器(ADC)112を含む。いくつかの実施形態では、
図1に示すように、別個のADC112が使用される。いくつかの実施形態では、単一のADC112が多重化された入力信号(例えば、106Aおよび106B)と共に使用されてもよい。
【0025】
隔離壁108を介したプロセス媒体102の温度の伝達は、媒体102の温度変化の温度センサ105Aへの伝達を遅延させる。その結果、媒体102の温度変化がセンサ105Aによって測定され、温度信号106によって表される測定温度が温度変化を示す前に、ある期間が経過しなければならない。温度測定におけるこの遅延は温度測定の応答時間に対応し、これは、隔離壁108を形成する材料、隔離壁108の厚さ、隔離壁108の質量、隔離壁108の熱伝導率、隔離壁108が曝される周囲温度、および/または他の変数などの1つまたは複数の変数に依存し得る。
【0026】
プロセス媒体102の温度測定における遅延の影響には、測定帯域幅に対する制限が含まれる。具体的には、遅延が遅延の増加または応答時間の減少に応じてカットオフ周波数が低下するローパスフィルタとして作用する。その結果、カットオフ周波数より高い周波数で発生するプロセス媒体102の温度変化は、温度感知ユニット104によって検出不能にされる。本開示の実施形態は温度測定の「知覚される」応答時間を低減することによって、または温度測定の応答時間の影響を低減することによって、温度測定遅延を低減または排除するように動作し、それによって、カットオフ周波数および潜在的に価値のある情報の損失を低減する。
【0027】
いくつかの実施形態では、温度送信機100は、温度測定の応答時間について温度信号106または温度信号106によって示される温度測定値を補償し、プロセス媒体102の現在の温度をより正確に表す補償温度信号122を出力するために、温度感知ユニット104によって出力された温度信号106を処理するように構成された補償回路120を含む。したがって、いくつかの実施形態では、補償回路120がプロセス温度センサ105Aから出力される温度信号106Aに基づいて生成される温度信号106を補償する。他の実施形態では、補償回路120が温度センサ105Aから出力される温度信号106Aおよび温度センサ105Bから出力される温度信号106Bに基づいて、処理回路110によって出力される温度信号106を補償する。
【0028】
図2は、補償回路120によって実行される例示的な信号処理を示す簡略化されたブロック図である。例えば、プロセス媒体102を表すボックス内のチャートに示されるように、温度T0から温度T1への上昇のような、プロセス媒体102への段階的な温度変化が時間t0で生じる場合、温度変化が温度感知ユニット104によって測定される前に遅延が生じる。この遅延は、温度感知ユニット104を表すボックス内に提示される信号106によって示される温度測定値を表すチャートに示される。温度信号106によって示される温度とプロセス媒体102の実際の温度との間の遅延を引き起こす温度測定の応答時間は、少なくとも部分的には隔離壁108を介して温度変化を伝達する必要性に起因する。他の要因もまた、温度測定の遅い応答時間に寄与し得る。補償回路120は補償温度信号122を表すボックスに示されるように、補償温度信号122がプロセス媒体の実際の温度に実質的に一致するように、温度測定の応答時間を実質的に排除または低減するように信号106を補償する。
【0029】
補償回路120は、アナログ回路及び/又はデジタル回路を含むことができる。いくつかの実施形態では、補償回路120は、本明細書で説明される1つまたは複数の機能を実行するために、補償回路120のメモリに、または送信機100から離れたメモリにローカルに格納され得る命令を実行するように構成される、1つまたは複数のプロセッサを表す。いくつかの実施形態では補償温度信号122はデジタル信号であり、温度送信機100は補償温度信号122をアナログ補償温度信号122'に変換するデジタル/アナログ変換器(DAC)124を含む。
【0030】
いくつかの実施形態では、温度送信機100が補償温度信号122を受信し、補償温度信号122の関数として温度出力128を生成する出力回路126を含む。いくつかの実施形態では、出力回路126が所望のデータ通信プロトコルに従って温度出力128を生成する。
【0031】
図3は、本明細書で説明する1つまたは複数の実施形態に従って形成された温度送信機100を含む例示的な工業プロセス制御システム130を示す簡略図である。いくつかの実施形態では、送信機100が例えば、補償回路120、出力回路126、および/または本明細書で説明される送信機の他の構成要素を含むことができるハウジング132を含む。いくつかの実施態様において、出力回路126は、温度出力128を、パイプのような処理容器136を流れるプロセス流体のようなプロセス媒体102の態様を制御するために温度出力128を使用する適当なコントローラ134に送信するように構成される。いくつかの実施形態では、コントローラ134が
図3に示すように、遠隔制御室138内など、温度送信機100から離れて配置される。
【0032】
いくつかの実施形態では、出力回路126が
図3に示すように、2線式ループ139を介してコントローラ134に接続される。いくつかの実施形態では、2線式ループ139が動作するために温度送信機100によって必要とされるすべての電力を送信するように構成される。いくつかの実施形態では、出力回路126が4~20ミリアンペアの間で変化する電流を変調することによって、温度出力128を2線式ループ139を介してコントローラ134に伝達する。あるいは、出力回路126が温度出力128を、ポイントツーポイント構成、メッシュネットワーク、または温度送信機100がそれ自体の電源を有する他の適切な構成で、コントローラ134に無線で送信するように構成されてもよい。
【0033】
図4は、本開示の例示的な実施形態による、温度送信機100のサーモウェル140内の温度感知ユニット104の一部の簡略化された断面図である。サーモウェル140は隔離壁108を含み、温度センサ105Aを囲む。送信機100が現場に設置されると、サーモウェル140はプロセス媒体102内にサーモウェル140を配置するために、プロセスパイプ(図示せず)、タンク、または他の処理容器などの処理容器136の壁142を通って延びる。いくつかの実施形態では、温度センサ105Aが温度センサ105Aをサーモウェル140の温度感知領域148内に位置決めするセンサプローブ146の遠位端に配置される。温度トランスミッタの1つの例示的なサーモウェルは米国特許第9,188,490号に開示されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0034】
サーモウェル140の隔離壁108は、温度センサ104をプロセス媒体102から隔離する。いくつかの実施形態では、隔離壁108が温度センサ105Aを取り囲む円筒形または円錐形の壁である。いくつかの実施形態では、隔離壁108が黄銅、鋼、銅、または他の適切な熱伝導性材料などの高熱伝導性材料で形成される。このような材料は媒体102の温度をセンサ105Aに伝達(すなわち、伝導)するのに必要な時間を短縮する。温度センサ104によって出力される温度信号108(
図1)は例えば、ワイヤ149を介して、補償回路110などの送信機100の他の構成要素に伝達されてもよい。
【0035】
図5は本開示の実施形態による、処理容器136(例えば、パイプ、タンクなど)の外部に配置された例示的な非侵入型温度送信機100の温度感知ユニット104の概略図である。別の例示的な非侵入型温度送信機は米国特許出願公開第2015/0185085号に開示されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0036】
いくつかの実施形態では、処理容器136の壁142が
図5に示されるように、壁142の外面144と接触して、またはそのすぐ近くに配置される温度センサ105A(Tsensor)からプロセス媒体102を分離する隔離壁108を形成する。プロセス温度センサ105Aは、外面144の温度を測定することによって、
図5にパイプとして示される壁142を通るプロセス媒体102の温度測定を実行する。
【0037】
熱流は、電気的構成要素に関して
図5にモデル化されている。具体的には、プロセス流体の温度がノード150として示され、抵抗器154として概略的に示されるパイプ136または壁142の熱インピーダンス(Rpipe)を介して温度センサ105Aに結合される。パイプ136または壁142の熱インピーダンスは適切なインピーダンスパラメータが補償回路120などのユニット104の回路に入力され得るように、パイプ136自体の材料およびパイプ壁142の厚さのいずれかによって知られ得ることに留意されたい。例えば、システムを構成するユーザは、パイプ136がステンレス鋼から構成され、壁142が1/2インチの厚さであることを示すことができる。次いで、メモリ内の適切なルックアップデータに補償回路120がアクセスして、選択された材料および壁厚に一致する対応する熱インピーダンスを識別することができる。さらに、パイプ材料が単純に選択され、選択された材料および選択された壁厚に基づいて熱インピーダンスを計算することができる実施形態を実施することができる。それにもかかわらず、本開示の実施形態は一般に、パイプ材料の熱インピーダンスの知識を活用する。さらに、パイプ材料の熱インピーダンスを事前に知ることができない実施形態では、既知のプロセス流体温度が非侵襲性プロセス流体温度計算システムに提供され、熱インピーダンスが較正パラメータとして設定される較正動作を提供することも可能である。
【0038】
図5に示すように、熱は、温度センサ105Aからステム部分154の側壁を出て、参照番号156で示す周囲環境に流れることもできる。これは、参照番号158で熱インピーダンス(R2)として概略的に示されている。周囲環境に対する熱インピーダンス(R2)は、温度センサ105Aを断熱することによって増加させることができる。
【0039】
熱はまた、パイプ136の外面144からステム部分154を通ってハウジング159またはステム部分154を通る伝導を介してパイプ136から離間した他の位置に流れる。ハウジング159は例えば、補償回路120及び出力回路126のような、温度感知ユニット104の回路を囲む。ステム部分154(Rsensor)の熱インピーダンスは、参照番号160で概略的に示されている。いくつかの実施形態では、温度感知ユニット104が端子温度を測定するためにハウジング159内の端子ブロックまたは他の位置に結合された温度センサ105B(Tterm)を含む。熱は、温度センサ105Bから熱インピーダンス164(R1)を介して周囲環境に流れることができる。
【0040】
プロセス流体の温度が変化すると、温度センサ105Aからの読み取り値と端子温度センサ105Bからの読み取り値の両方に影響を及ぼすが、これはそれらの間に比較的高い熱伝導率を有する堅固な機械的相互接続(ステム部分154を通る熱伝導)があるためである。周囲温度についても同様である。周囲温度が変化すると、これらの測定値の両方に影響を与えるが、その程度はるかに小さい。
【0041】
ゆっくりと変化する条件の場合、基本的な熱流束の計算は、次のように簡略化することができる:
【0042】
【0043】
上述のように、補償回路120の実施形態は温度測定の応答時間、例えば、パイプ136の壁142の形態の隔離壁108を介してプロセス媒体102の温度を伝達するのに必要な時間、ならびに、例えば、センサシースまたはセンサ105Aの他の材料などの他の材料に対して、温度信号106または106'によって示される補正された温度(Tcorrected)を補償するように動作する。これは一般に、以下の一次式を用いて近似することができる。ここで、tは温度測定(Tcorrected)の更新速度(例えば1秒以下)であり、τは温度測定に関与する成分の時定数である。
【0044】
【0045】
いくつかの実施形態では、補償回路120が温度測定値に関する時定数および傾向情報を知ることによって、温度測定値に動的補償を適用する。測定値の変化率はサンプリングノイズを最小限に抑える補正のパーセンテージおよび方向を提供するために、多数のサンプルにわたって評価することができる。変化率は式2に示すように、測定された温度に動的補償を提供するために、式1の指数部分で割ることができる。
【0046】
【0047】
補償温度信号122(
図1)によって表される補償された温度測定値(TempeasCompensated)は式3に示されるように、感知ユニット104からの信号106または106'に対応する測定された温度値(Tempeas)に動的補償値(TempdynamicComp)を加算することによって計算される。測定された温度(Tempeas)と媒体102の現在の温度との間の上述の時間遅延は
図2の信号122によって示されるように、補償された温度測定(TempeasCompensated)において除去されるか、または著しく低減される。
【0048】
【0049】
図6は、60℃から120℃への段階的な入力に対して、3分間の時定数で、温度測定に適用すべき補正量を測定変化率に対して示すグラフである。
図6に示すように、温度測定の傾向変化が小さいほど、必要な補正(TempdynamicComp)も小さい。
【0050】
図5を参照して上述したような非侵入型温度トランスミッタ100では、隔離壁108を形成する処理容器壁142のパラメータ、例えば壁142を形成する材料、壁142の厚さ、及び/又は処理容器壁142の他のパラメータを知らなければならない。これらは、送信機100に設定することができる。いくつかの実施形態では、処理容器壁142のそのようなパラメータが送信機100がプロセス媒体102の温度を測定している特定の処理容器壁142の時定数を決定するために使用される。試験は、各支持されたパイプ材料の時定数が任意のパイプ壁厚についての線形方程式を使用して近似され得ることを示した。例えば、炭素鋼の分単位の時定数は、以下の式4を用いて計算することができる。
【0051】
【0052】
図4を参照して上述したサーモウェル140のようなサーモウェルを利用する送信機100の時定数は必要とされる測定温度(Tempmeas)の補正量(TempdynamicComp)を決定するために、同様の方法で計算することができる。
【0053】
処理容器136内に含まれるプロセス媒体のタイプ、プロセス媒体102の密度、および/または他の情報などの追加情報が供給される場合、計算された時定数に対する調整を行うことができる。
【0054】
本開示の実施形態は、他のタイプの温度センサの応答時間の遅延を補償するために適用され得ることが理解される。例えば、熱電対の冷接点補償に使用される抵抗温度検出器(RTD)の応答時間は周囲温度が急速に変化するときなどに、上述の技術を使用して補償することができる。さらに、RTDは熱電対よりも応答時間が遅いので、本開示の実施形態を使用して、例えば、RTDの外壁の形態の隔離壁を有するRTDによって実行される測定を高速化することができる。
【0055】
いくつかの実施形態では、時定数、壁厚、および/または補償回路120によって使用される他の情報などのパラメータ値を、補償回路120によってアクセス可能なメモリに記憶することができる。いくつかの実施形態では、パラメータ値が1つまたは複数の無線周波数識別(RFID)タグに格納される。いくつかの実施形態では、そのようなRFIDタグが補償される温度センサ、隔離壁(例えば、サーモウェルまたは処理容器)、または他の構成要素に取り付けられる。
【0056】
本発明は好ましい実施形態に関して説明されているが、当業者であれば、様々な変更が本発明の精神および範囲から逸脱することなく形状および細部になされてもよいことは認識できる。