IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山シポレックス株式会社の特許一覧

特許7007038回転刃切削装置及び軽量気泡コンクリートパネルの切削加工方法
<>
  • 特許-回転刃切削装置及び軽量気泡コンクリートパネルの切削加工方法 図1
  • 特許-回転刃切削装置及び軽量気泡コンクリートパネルの切削加工方法 図2
  • 特許-回転刃切削装置及び軽量気泡コンクリートパネルの切削加工方法 図3
  • 特許-回転刃切削装置及び軽量気泡コンクリートパネルの切削加工方法 図4
  • 特許-回転刃切削装置及び軽量気泡コンクリートパネルの切削加工方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】回転刃切削装置及び軽量気泡コンクリートパネルの切削加工方法
(51)【国際特許分類】
   B28D 1/18 20060101AFI20220117BHJP
【FI】
B28D1/18
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017178942
(22)【出願日】2017-09-19
(65)【公開番号】P2019051678
(43)【公開日】2019-04-04
【審査請求日】2020-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】399117730
【氏名又は名称】住友金属鉱山シポレックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】梶原 信
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-198743(JP,A)
【文献】特開2015-030073(JP,A)
【文献】特開2004-230531(JP,A)
【文献】特開2004-314218(JP,A)
【文献】実開平02-078688(JP,U)
【文献】特開昭61-152311(JP,A)
【文献】特開2000-246704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 1/00-1/20
B23C 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽量気泡コンクリートパネル用の切削加工装置であって、
切削用の回転刃(外径6mm以下の微小ワーク用の回転刃を除く)を有し、
前記回転刃の刃先のすくい角が-5°以上0°未満であり、逃げ角が-1°以上0.5°以下である、回転刃切削装置。
【請求項2】
前記刃先のすくい角が-3°であり、逃げ角が0°である、請求項1に記載の回転刃切削装置。
【請求項3】
回転刃で切削する回転刃切削装置であって、
前記回転刃の刃先は、回転方向前方部側の回転軸に対する垂直断面形状が半円形であって、逃げ角が-1°以上0.5°以下である、回転刃切削装置。
【請求項4】
逃げ角が0°である、請求項3に記載の回転刃切削装置。
【請求項5】
硬化後の軽量気泡コンクリートパネルに平滑面を形成するための切削加工を、請求項1から4のいずれかに記載の回転刃切削装置によって行い、
前記切削加工によって前記軽量気泡コンクリートパネルの表面に露出した気泡内に前記切削加工によって生じた切削屑が充填されている状態のまま、前記気泡が露出している部分の塗装を、下地処理を経ることなく行う、
軽量気泡コンクリートパネルの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転刃切削装置及び軽量気泡コンクリートパネルの切削加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量気泡コンクリート(ALC)パネルは、耐火性、断熱性、施工性に優れているため、建築材料として広く使用されている。
【0003】
ALCパネルは、珪石等の珪酸質原料と、セメントや生石灰等の石灰質原料とを、主原料とし、これらの微粉末に、水、石こう、アルミニウム粉末等の副原料を加えたスラリー状のALC原材料を、予め補強用鉄筋が並べられた型枠に鋳込んで硬化させるプロセスによって製造される。型枠に鋳込まれたALC原材料は、アルミニウム粉末の反応により発泡し、石灰質原料の反応により硬化が進行する。そして、半硬化状態のALCを、ピアノ線によりパネル状に切断した後、高温高圧水蒸気養生によって硬化を完了させることによりALCパネルが完成する。
【0004】
ALCパネルは、上記の製造プロセスからなるものであることより、その内部に多量の気泡を含む。しかしながら、これらの気泡のうち、切断面近傍の気泡については、上述のように、半硬化の状態での切断時に押しつぶされて消失する。よって、ALCパネルの表面(ピアノ線による切断面)は、気泡の露出がほとんどなく、平滑な状態となる。
【0005】
一方で、例えば、ALCパネルの目地面に形成される面取り面等、ALCパネルの硬化後に切削加工によって形成される面については、上記の切断面(ピアノ線による切断面)とは異なり、切削加工後の表面が、直ちに平滑な状態とはならない。このような面取り面は、一般に、回転する切削用刃物を備える回転刃切削装置で切削加工されて形成されるが、切削加工後の切削加工面の表面には、ALCパネルの表面近傍に潜在していた多量の気泡が露出した状態となってしまうからである。
【0006】
このようなALCパネル表面への気泡の露出は、ALCパネル外観の意匠性低下につながるため、これを回避するために、表面に露出してしまった気泡内への充填物の充填や、気泡が露出している範囲への塗料の塗布等、これらの気泡をパネル表面から消去するための追加作業が必要となる。ALCパネルの製造においては、この追加作業の煩雑さが、生産性を向上させる上での障害の一つとなっていた。
【0007】
尚、通常、硬化後のALCパネルに対する上記のような切削加工を行う回転刃切削装置においては、良好な切削加工面と刃物の摩耗に対する寿命を確保するため、回転刃2の先端形状を、図2に例示するように、すくい角(θ)がポジティブ(正の角度)であり、逃げ角(θ)も3°以上の正の角度とすることが一般的であった(特許文献1参照)。
【0008】
尚、「すくい角」とは、回転刃切削装置の刃先において、回転刃の進行方向の前面に形成されている、すくい面の垂直面に対する角度のことを言う。図2に示すように、すくい面が垂直面に対して回転刃の進行方向とは反対側にある時のすくい角θを正のすくい角とする。又、これに対して、図3に示すように、すくい面が垂直面に対して回転刃の進行方向の側にある時のすくい角θを負のすくい角とする。
【0009】
又、「逃げ角」とは、一般に工具が工作物と干渉しないようにつける角度であり、回転刃切削装置の回転刃においてはALCパネルの表面を削り取った後の刃先とALCパネル表面の不要な接触を避けるためのものである。通常、図2に示すように、0°よりも大きい角度θの逃げ角が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2000-246704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記状況に鑑みて考案されたものであり、ALCパネルの目地面に形成される面取り面等、ALCパネルの硬化後に切削加工によって形成される面の表面の平滑性を担保するための追加作業の負担を軽減し、ALCパネルの意匠性の維持と生産性の向上とを同時に実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、回転刃切削装置の刃先の形状を、すくい角及び逃げ角が異なる角度範囲にある独自の形状とすることによって、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。具体的には、以下のものを提供する。
【0013】
(1) 回転刃で切削する回転刃切削装置であって、前記回転刃の刃先のすくい角が-5°以上0°未満であり、逃げ角が-1°以上0.5°以下である、回転刃切削装置。
【0014】
(1)の発明においては、回転刃切削装置の回転刃の刃先の形状を、上記の通り、従来品とは、すくい角及び逃げ角が異なる角度範囲にある独自の形状に特定した。このような回転刃切削装置によれば、ALCパネルの硬化後の切削加工時に、ALCパネル表面近傍に内在していた気泡が切削加工面の表面に露出したとしても、追加的な表面処理作業を伴わずに、当該切削加工面の平滑性を保持することができる。
【0015】
(2) 前記刃先のすくい角が-3°であり、逃げ角が0°である、(1)に記載の回転刃切削装置。
【0016】
(2)の発明によれば、(1)の発明の奏しうる上記の切削加工面の平滑性を保持する効果を、より高い精度で発現させることができる。
【0017】
(3) 回転刃で切削する回転刃切削装置であって、前記回転刃の刃先は、回転方向前方部側の回転軸に対する垂直断面形状が半円形であって、逃げ角が-1°以上0.5°以下である、回転刃切削装置。
【0018】
(3)の発明においては、回転刃切削装置の回転刃の刃先の形状を、上記の通り、従来品とは、回転方向前方部側の形状が異なり、且つ、逃げ角も従来品とは異なる角度範囲にある独自の形状に特定した。このような回転刃切削装置によれば、ALCパネルの硬化後の切削加工時に、ALCパネル表面近傍に内在していた気泡が切削加工面の表面に露出したとしても、追加的な表面処理作業を伴わずに、当該切削加工面の平滑性を保持することができる。
【0019】
(4) 逃げ角が0°である、(3)に記載の回転刃切削装置。
【0020】
(4)の発明によれば、(3)の発明の奏しうる上記の切削加工面の平滑性を保持する効果を、より高い精度で発現させることができる。
【0021】
(5) 軽量気泡コンクリートパネルの切削加工方法であって、平滑面を形成するための切削加工を、(1)から(4)のいずれかに記載の回転刃切削装置によって行う、切削加工方法。
【0022】
(5)の発明によれば、(1)から(4)のいずれかに記載の回転刃切削装置の奏する上記各効果を享受して、ALCパネルの目地面に形成される面取り面等、ALCパネルの硬化後に切削加工によって形成される面の平滑性を、追加的な表面処理作業を伴わずに保持することができる。これにより、ALCパネル製造時の作業負担を軽減し、ALCパネルの意匠性の維持と生産性の向上とを同時に実現することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ALCパネルの目地面に形成される面取り面等、ALCパネルの硬化後に切削加工によって形成される面の表面の平滑性を担保するための追加的な作業負担を軽減し、ALCパネルの意匠性の維持と生産性の向上とを同時に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の回転刃切削装置の構成及び各主要部分の形状、及び、それらの基本的な動作の説明に供する模式図である。
図2】従来の回転刃切削装置における刃先の形状とその基本的な動作態様の説明に供する模式図である。
図3】本発明の回転刃切削装置における刃先の形状とその基本的な動作態様の説明に供する模式図である。
図4】本発明の回転刃切削装置の他の実施形態における刃先の形状とその基本的な動作態様の説明に供する模式図である。
図5】本発明の回転刃切削装置を用いた切削加工方法によって形成された切削加工面と、従来の切削加工方法によって形成された切削加工面との、表面の平滑性の差異を記録した写真である。
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明する。但し、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<回転刃切削装置>
本発明の回転刃切削装置1は、図1に示すように、モーター(図示せず)により回転する回転胴3に多数の回転刃2が設置されてなる切削装置である。主たる加工対象物としてALCパネル4が想定されている。
【0027】
図3に示す通り、回転刃切削装置1の回転刃2は、その刃先21のすくい角θが-5°以上0°未満であり、より好ましくは、-3°である。回転刃2の刃先21のすくい角θが0度又は所定の負の角度であることにより、加工対象物であるALCパネル4の被切削面41から削り取られた微細な切削屑のALCパネル4上方への噴出が抑制される。そして、切削の進行に伴い、これらの切削屑の多くの部分は、切削加工面42Aに流しこまれていく。
【0028】
又、同じく図3に示す通り、回転刃切削装置1の回転刃2は、その刃先21の逃げ角θが、-1°以上0.5°以下であり、より好ましくは、0°である。回転刃2の刃先の逃げ角θが、このように、0°又はその近傍の角度であることにより、上記の切削屑は、ALCパネル4の切削加工面42Aに押し付けられながら後方に流される、その際、これらの切削屑の一部である切削屑44は、切削加工面42Aの表面に一時的に露出した気泡43の内部に加圧されながら充填されていく。この作用により、切削加工面42Aは、切削直後の段階において一時的に露出していた気泡43の存在にかかわらず、見かけ上平滑な状態となる。
【0029】
ここで、本発明の回転刃切削装置1は、図4に示すような形状の刃先22を有するものであってもよい。この刃先22は、同図に示す通り、回転方向前方部側の回転軸に対する垂直断面形状が半円形である。この場合、この半円の半径は2mm以上5mm以下であることが好ましい。又、この場合における刃先22の逃げ角は、上記の刃先21と同様、-1°以上0.5°以下であればよく、0°であることがより好ましい。この場合も、刃先の回転方向前方部側の形状が上記のような半円形状であることにより、加工対象物であるALCパネル4の被切削面41から削り取られた微細な切削屑のALCパネル4上方への噴出が抑制される。よって、刃先22を有する回転刃切削装置1も、刃先21を有する上記の回転刃切削装置1と同様の作用効果を発揮することができる。
【0030】
<軽量気泡コンクリートパネルの切削加工方法>
本発明の軽量気泡コンクリートパネルの切削加工方法は、硬化後のALCパネルに切削加工により平滑面を形成するための部分切削又は面取り切削を、上述の回転刃切削装置1によって行う切削加工方法である。この切削加工方法は、図1に示すように、回転刃切削装置1を、回転胴3をR方向に高速で回転させながら、ALCパネル4に対してD方向に進行させながら行う。このように回転刃切削装置1を作動させることにより、ALCパネル4の被切削面41を面状に削り取って、平滑な切削加工面42を形成することができる。
【0031】
例えば、ALCパネル4の表面を切削することによって、切削加工に伴ってALCパネル4の表面に露出する気泡の直径が2mm以上である場合には、最終的に当該気泡の露出している領域に塗装を施したとしても、アバタ状の凹みが塗装面に残りやすい。そこで目安として、直径2mm以上の気泡が切削加工面に露出している場合には、切削加工後に、当該気泡内に目止め剤を塗りこむ等の塗装前の下地処理が必須であった。しかしながら、本発明の軽量気泡コンクリートパネルの切削加工方法によれば、図3又は図4に示す通り、切削直後の段階において一時的に露出していた気泡43の直径が2mm以上である場合においても、上述の通り、切削屑44が、そのような気泡43の内部に加圧されながら充填されていくことにより、切削加工面42Aは、少なくとも見かけ上は切削加工直後において十分に平滑な状態となり、上述のような下地処理を経ることなく、表面が平滑な切削加工面を形成することができる。
【0032】
尚、図1においては、回転刃2が、切削加工面42の方向に抜けながら、回転刃切削装置1が進行していく所謂ダウンカットによる切削態様が図示されている。切削時にALCパネル4が不要に欠けて破損するリスクを低減するためには、このようなダウンカットによる切削が好ましい。但し、進行方向Dに対してRとは反対方向に回転しながら切削を行う所謂アップカット方式の切削態様にも本発明の回転刃切削装置1を適用することができる。何れの切削態様においても、刃先の形状を本願独自の態様に最適化することによって、本発明の奏する上述の各効果を十分に享受することが可能である。
【0033】
図5は、本発明の回転刃切削装置を用いた切削加工方法によって形成された切削加工面と、従来の切削加工方法によって形成された切削加工面との、表面の平滑性の差異を記録した写真である。従来の一般的な回転刃切削装置としては、ダイアモンド性の刃先で、すくい角が0°逃げ角が15°の装置(図2に示す形状の刃先を備える装置)を用いた。一方、本発明の回転刃切削装置として同材料の刃先で、すくい角が-3°逃げ角が-1°の装置(図3に示す形状の刃先を備える装置)を用いた。刃先の形状以外の切削装置のスペックや切削加工条件は全く同条件とした。具体的に、回転刃先端直径は250mm、回転数は3000rpm、切削加工対象としたALCパネルの搬送速度は、22m/minとした。42Aが本発明の回転刃切削装置によって切削加工した切削加工面である。本発明の回転刃切削装置により、従来の回転刃切削装置によって切削加工した切削加工面42Bと比較して、著しく平滑性に優れる面が形成されていることが、明らかである。
【符号の説明】
【0034】
1 回転刃切削装置
2 回転刃
21 刃先
3 回転胴
4 軽量気泡コンクリート(ALC)パネル
41 被切削面
42、42A 切削加工面
42B 切削加工面(従来品)
43 気泡
44 切削屑
図1
図2
図3
図4
図5