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特許7007040管内張りの裏込め材及び管内張りの裏込め材の施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】管内張りの裏込め材及び管内張りの裏込め材の施工方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20220117BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20220117BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20220117BHJP
   C04B 24/06 20060101ALI20220117BHJP
   C04B 24/22 20060101ALI20220117BHJP
   C04B 24/30 20060101ALI20220117BHJP
   E03F 3/06 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/08 Z
C04B22/14 B
C04B24/06 A
C04B24/22 B
C04B24/30 C
E03F3/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017251709
(22)【出願日】2017-12-27
(65)【公開番号】P2019116403
(43)【公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】513026399
【氏名又は名称】三菱ケミカルインフラテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】澤田 健司
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-190652(JP,A)
【文献】特開2002-068819(JP,A)
【文献】特開平03-193648(JP,A)
【文献】特開2017-190278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
E03F 1/00-11/00
F16L 51/00-55/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設管と、前記既設管の内面側に配置された更生管との間を固定するためのセメント系組成物を含んでなる管内張りの裏込め材であって、
水硬性セメント及び混練水を含む主材液と、アルミナセメント、無水石膏及び混練水を含む硬化材液とを含み、
前記主材液が、分散剤としてナフタレン系化合物及びメラミン系化合物からなる群のうち、1つ以上を含み、
前記水硬性セメント100質量部に対して、前記分散剤が0.2~0.5質量部である、管内張りの裏込め材。
【請求項2】
前記硬化材液が、遅延剤としてカルボン酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種以上含む、請求項1に記載の管内張りの裏込め材。
【請求項3】
前記水硬性セメント、前記アルミナセメント及び前記無水石膏の合計100質量部に対して、前記アルミナセメント及び前記無水石膏の合計が10~40質量部であり、前記混練水の合計が45~80質量部である、請求項1又は2に記載の管内張りの裏込め材。
【請求項4】
前記アルミナセメント及び前記無水石膏の合計100質量部に対して、前記遅延剤が0.1~0.2質量部である、請求項2に記載の管内張りの裏込め材。
【請求項5】
前記硬化材液1容量部に対して前記主材液が1~4容量部である、請求項1~4のいずれか1項に記載の管内張りの裏込め材。
【請求項6】
前記分散剤として、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物塩を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の管内張りの裏込め材。
【請求項7】
前記無水石膏がII型無水石膏である、請求項1~6のいずれか1項に記載の管内張りの裏込め材。
【請求項8】
前記遅延剤がクエン酸、クエン酸塩、グルコン酸、グルコン酸塩から選ばれる少なくとも1種以上である、請求項2又は4に記載の管内張りの裏込め材。
【請求項9】
既設管と、前記既設管の内面側に配置された更生管との間に、請求項1~8のいずれか1項に記載の、管内張りの裏込め材を注入する、管内張りの裏込め材の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管内張りの裏込め材及び管内張りの裏込め材の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下水道配管や上水道配管等の既設管の更生を目的として、この既設管の内面側に更生管を設置する管内張り工法が採用されている(例えば、特許文献1を参照)。このような更生管としては、例えば、特許文献1に記載のような、樹脂等からなる長尺の帯板が螺旋状に巻回されて設置された、所謂ダンビー工法によって構築される断面略円形状(環状)のものが一般的に用いられている。また、更生管としては、リング状とされた複数の帯板が連結されてなるものや、帯板状のライニング材の背面側、即ち既設管側にストレートフレーム及びハンチフレームが配置され、ライニング材と各フレームとが連結材で一体化された、所謂クリアフロー工法によって構築される断面略矩形状のもの等があり、既設管の構成に応じて適宜採用されている。
【0003】
管内張り工法に用いられる裏込め材として、特許文献2にはアルミナセメントを除く水硬性セメントを含む主材液と、アルミナセメント及びII型無水石膏を含む硬化材液とを含むセメント系組成物が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献2に開示された裏込め材は、主材液と硬化材液の粘度差が大きい為、両液の混合性が十分でない場合がある。その為、施工面では主材液や硬化材液の送液量や、比例注入の割合等、現場状況によっては得られる硬化体が不均一なものになる場合がある。また、主材液を調製してから経時による粘度上昇が大きく、特に高温時期の施工場面において、施工時間が長くなった場合にはポンプ負荷が増大する。特にこの傾向は夏場での施工場面で顕著である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平07-100925号公報
【文献】特開2002-68819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、管内張り工法に用いられる管内張りの裏込め材において、主材液と硬化材液との粘度差が小さく、両液の混合性に優れ、また主材液の経時による粘度上昇が小さい管内張りの裏込め材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、管内張りの裏込め材となるセメント系組成物を構成する主材液(A液)と硬化材(B液)のうち、主材液(A液)の成分中に特定の分散剤を含ませることで、前記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1] 既設管と、前記既設管の内面側に配置された更生管との間を固定するためのセメント系組成物を含んでなる管内張りの裏込め材であって、水硬性セメント及び混練水を含む主材液と、アルミナセメント、無水石膏及び混練水を含む硬化材液とを含み、前記主材液が、分散剤としてナフタレン系化合物及びメラミン系化合物からなる群のうち、1つ以上を含む、管内張りの裏込め材。
[2] 前記硬化液が、遅延剤としてカルボン酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種以上を含む、[1]に記載の管内張りの裏込め材。
[3] 前記水硬性セメント、前記アルミナセメント及び前記無水石膏の合計100質量部に対して、前記アルミナセメント及び前記無水石膏の合計が10~40質量部であり、前記混練水の合計が45~80質量部である、[1]又は[2]に記載の管内張りの裏込め材。
[4] 前記アルミナセメント及び前記無水石膏の合計100質量部に対して、前記遅延剤が0.1~0.2質量部である、[2]又は[3]に記載の管内張りの裏込め材。
[5] 前記硬化材液1容量部に対して前記主材液が1~4容量部である、[1]~[4]のいずれかに記載の管内張りの裏込め材。
[6] 前記分散剤として、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物塩を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の管内張りの裏込め材。
[7] 前記無水石膏がII型無水石膏である、[1]~[6]のいずれかに記載の管内張りの裏込め材。
[8] 前記遅延剤がクエン酸、クエン酸塩、グルコン酸、グルコン酸塩から選ばれる少なくとも1種以上である、[2]又は[4]に記載の管内張りの裏込め材。
[9] 既設管と、前記既設管の内面側に配置された更生管との間に、[1]~[8]のいずれかに記載の、管内張りの裏込め材を注入する、管内張りの裏込め材の施工方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の管内張りの裏込め材によれば、主材液は特定の分散剤を含み、硬化剤との粘度差が小さいため、硬化材液との混合性に優れ、均一な硬化体が得られる。また、主材液の経時による粘度上昇が小さいので施工時間が長くなった場合でもポンプ負荷増大等が抑制できる。
また、本発明の管内張りの裏込め材によれば、硬化材液は高温時期での施工場面でも硬化材液に施工に十分な可使時間を確保することもできる。
従って、既設管の内面側に更生管を設置する管内張り工法において、既設管と更生管との接合に本発明の裏込め材を適用することで、例えば、下水道配管や上水道配管等の既設管の更生を目的とした用途において非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の管内張りの裏込め材(以下、単に裏込め材と略称する場合がある)について、その実施形態を挙げて詳述する。
【0010】
<裏込め材の成分>
本発明の裏込め材の成分について以下に説明する。
本発明の裏込め材は、水硬性セメント、ナフタレン系化合物及びメラミン系化合物からなる群のうち、1つ以上を含む分散剤及び混練水を含む主材液(A液)と、アルミナセメント、無水石膏及び混練水を含む硬化材液(B液)とを含むセメント系組成物である。
【0011】
本発明の裏込め材を構成するセメント系組成物は、上記のように、主材液(A液)と硬化材液(B液)とを含む。
以下、各成分とその物性について詳しく説明する。
【0012】
<主材液(A液)>
本発明の裏込め材に配合される主材液(A液)は、少なくとも、水硬性セメント(アルミナセメントを除く)、分散剤及び混練水を含む。即ち、主材液(A液)は、水硬性セメントと分散剤を水で混練したものである。
【0013】
(水硬性セメント)
主材液(A液)に用いることのできる水硬性セメントとしては、例えば、普通・早強・超早強・中庸熱・白色等の各種ポルトランドセメント類、高炉セメント・シリカセメント・フライアッシュセメント等の混合セメント類等を挙げることができる。
また、これらのセメントは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
(分散剤)
主材液(A液)に用いることのできる分散剤は、日本工業規格 JIS A6204「コンクリート用化学混和剤」で定義されている各種減水剤に属する物の中で、ナフタレン系化合物及びメラミン系化合物が挙げられる。
ナフタレン系化合物として具体的にはナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物塩が挙げられる。ナフタレン系化合物の市販品としては「マイティ100(花王(株))」が例示できる。
メラミン系化合物として具体的にはメラミンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物塩が挙げられ、市販品としては「シーカメントFF86/100(日本シーカ(株))」が例示できる。
分散液としては、ナフタレン系化合物及びメラミン系化合物からなる群のうち、いずれか1つ、又は、2つ以上を組み合わせて使用することができる。
【0015】
分散剤として、ナフタレン系化合物及びメラミン系化合物を用いることで、主材液の粘度を低くできるため、硬化材液(B液)との混合性に優れ、均一な硬化体を得ることができる。また、主材液(A液)の経時による粘度上昇が小さくなるので施工時間が長くなった場合でもポンプ負荷増大が抑制できる。
【0016】
また、上記分散剤を用いることで、主材液(A液)と硬化材液(B液)との混合液の硬化時間が遅延化を抑制でき、管内張りの裏込め材に必要な1時間後の初期強度を得られる効果を奏する。
【0017】
主材液(A液)と硬化材液(B液)との混合液の硬化時間とは、主材液(A液)と硬化材液(B液)とを混合した時点を経時の起点とし、容器内に静置した混合液が容器を傾けてもその液面が動かなくなるまでの所要時間をいう。
また、初期強度とは、主材液(A液)と硬化材液(B液)との混合液を円柱状の型枠(径5cm×高さ10cm)内で硬化させた硬化体を供試体とし、主材液(A液)と硬化材液(B液)とを混合した時点を経時の起点とした、材令1時間における圧縮強度値をいう。
【0018】
本発明の裏込め材によれば、主材液(A液)中に分散剤として、ナフタレン系化合物及びメラミン系化合物を含むため、硬化時間が2~20分程度となり、初期強度が1N/mm2以上となる。
【0019】
また、上記分散剤を用いることにより、例えば、調製した主材液(A液)を静置した場合でも、主材液(A液)中に水硬性セメントが混練槽や送液ホース内に短時間で固く締まった状態で沈降しない為、ポンプでの送液が出来なくなり施工に支障を来たすことはないという効果を奏する。
【0020】
主材液(A液)中における水硬性セメントの含有量は、特に限定されないが、主材液(A液)200Lあたりで水硬性セメントが200質量部以上であることが好ましく、220質量部以上290質量部以下であることがより好ましい。主材液(A液)200Lあたりの水硬性セメントが200質量部以上だと、硬化後の裏込め材の最終到達強度が低くなることを抑制することができる。
一方、硬化後の裏込め材の強度を高めるために、主材液(A液)200Lあたりで290質量部を超えて水硬性セメントを配合すると粘度が増大し、ポンプに負荷がかかるとともに混合性も低下するため、この場合には、水硬性セメントが200質量部以上290質量部以下となるように主材液(A液)を調製したうえで、例えば、{主材液(A液):硬化材液(B液)=2:1~4:1}となるように比例配合することができる。
【0021】
分散剤の使用量は、前記水硬性セメント100質量部に対して、0.2質量部以上1.2質量部以下が好適である。
分散剤は使用量が0.2質量部以上であれば、主材液(A液)の粘度が高くなり硬化材液(B液)との粘度差が小さく、両液の混合性が向上する傾向にある。また主材液(A液)を調製してから経時による粘度上昇を抑制でき、施工時間が長くなった場合でも、ポンプ負荷の増大を抑制できる傾向にある。
一方、経済性の観点から、分散剤の使用量は、1.2質量部以下が好ましい。
【0022】
<硬化材液(B液)>
本発明の裏込め材に配合される硬化材液(B液)は、少なくとも、アルミナセメント、無水石膏及び混練水を含む。更に、本発明の裏込め材に配合される硬化材液(B液)は、遅延剤としてカルボン酸又はその塩を含むことが好ましい。即ち、硬化材液は、主材液に含まれる水硬性セメントに対しての硬化材を水で混練したものである。
【0023】
硬化材液(B液)の配合による裏込め材の硬化時間としては、施工時の待ち時間や、硬化途中で更生管の浮き上がり等が生じるのを抑制すること等を考慮し、通常、20℃において5~15分程度の短い時間に設定される。また、裏込め材の既設管と更生管との隙間への注入を、全断面注入ではなく、鉛直方向で下側と上側とに分けてステップ注入で行う場合には、特に下側への注入ステップにおいて、本発明の裏込め材を好適に用いることができる。
【0024】
(アルミナセメント)
本発明において硬化材液(B液)に用いられるアルミナセメントとは、石灰質原料(カルシウム分)とアルミナ質原料(アルミナ分)とを混合し、この混合物を焼成するか、あるいは、前記混合物を溶融から硬化させた後に粉砕することで得られるセメント鉱物全般を意味する。
【0025】
このようなアルミナセメントの一例としては、例えば、主要鉱物組成がガラス質(非晶質)のC12となるように、上記の石灰質原料とアルミナ質原料との混合物を溶融した後に急冷し、この硬化物を粉砕したもの、これにさらに石膏を添加して混合させたものなどが挙げられる。
ここで、石膏は、上記混合物の硬化物を粉砕しながら添加してもよいし、硬化物の粉砕が完了してから添加してもよい。また、添加する石膏の結晶形態としては、II型であってもよいし、他の形態であってもよい。
【0026】
また、アルミナセメントの他の例としては、主要鉱物組成がCAとなるように、上記の石灰質原料とアルミナ質原料との混合物を焼成するか、あるいは、混合物を溶融した後に急冷し、この硬化物を粉砕することで得られるものが挙げられる。
また、この例のアルミナセメントは、焼成又は溶融条件や、原料に含まれる不純物の影響により、CAに加えて、例えば、上記したような、CA、C12、CAS、CAF等の鉱物を副成分として含むことがある。
【0027】
このようなアルミナセメントしては、例えば、CA、CA等のカルシウムアルミネートを主成分とし、CAF等のカルシウムアルミノフェライト、CAS等のカルシウムアルミノシリケート、等の化合物で構成されるセメントが挙げられる。
なお、上記の各化学式の例示において、「A」はAl、「C」はCaO、「F」はFe、「S」はSiOを表す。
【0028】
(無水石膏)
本発明において硬化材液(B液)に用いられる無水石膏は、例えば、不溶性のII型無水石膏である。
硬化材液(B液)中におけるアルミナセメントと無水石膏との含有量比は、特に限定されないが、例えば、アルミナセメント1質量部に対し、無水石膏0.5質量部~1.5質量部の範囲とすることができる。アルミナセメント1質量部に対する無水石膏の配合比が0.5質量部以上1.5質量部以下であると、主材液(A液)と混合して硬化させた硬化体の強度が低くなる傾向を抑えることができる。
【0029】
ここで、硬化材液(B液)中においてアルミナセメントと併用される石膏として、II型無水石膏以外の他の形態の石膏、例えば、α半水石膏、β半水石膏、二水石膏、又はIII型無水石膏等を用いた場合、何れにおいても硬化体における目的の強度が得られないおそれがある。一方、硬化材液(B液)に用いる無水石膏中に、II型無水石膏以外の他の形態の石膏が不純物レベルの含有量で混入することは許容される。
【0030】
なお、硬化材液(B液)を調製する際に用いるアルミナセメント及び無水石膏の包装形態については特に限定されず、例えば、アルミナセメントとII型無水石膏とを別々の包装袋で現場に搬入し、各々所定量を硬化材液の調製に用いる方法が挙げられる。その他、例えば、予め、アルミナセメントとII型無水石膏とを所定量比で混合し、プレミックスの包装袋で現場に搬入して用いる方法等も挙げることができる。これらの方法のうち、現場における作業効率や煩雑性等を考慮すると、後者の方法が好ましい。
【0031】
(遅延剤)
硬化材液(B液)には、遅延剤としてカルボン酸又はその塩を後記する量で配合する事が好ましい。
これにより、管内張りの裏込め材に求められる硬化時間や圧縮強度の性能を維持しつつ更に、硬化材液(B液)は高温時期、例えば夏場での施工場面でも硬化材液(B液)に施工に十分な可使時間の確保が可能となる効果を奏でる。
尚、高温とは、30℃以上を指す。
管内張りの裏込め材に求められる硬化時間とは、2分~20分が好ましく、5分~15分がより好ましく、5分~10分が更に好ましい。
また、管内張りの裏込め材に求められる圧縮強度とは、主材液(A液)と硬化材液(B液)とを混合して形成された硬化体の圧縮強度である。材令1時間の強度は0.5N/mm2以上が好ましく、1N/mm2以上がより好ましく、2N/mm2以上が更に好ましい。また材令28日の強度は1.5N/mm2以上が好ましく、2N/mm2以上がより好ましく、3N/mm2以上が更に好ましい。
【0032】
カルボン酸又はその塩として具体的には、グルコン酸、グルコヘプトン酸、クエン酸、酒石酸及び、塩等が例示できる。カルボン酸又はその塩として具体的には、グルコン酸、グルコヘプトン酸、クエン酸、酒石酸及び、これらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、等が例示できる。
この中でも特に、少量でも高温時期での施工場面における硬化材液(B液)に十分な可使時間の確保ができ、管内張りの裏込め材に求められる硬化時間や圧縮強度の性能への影響が少ないことから、本発明では、グルコン酸、クエン酸及び、これらの塩が好適である。
【0033】
遅延剤の含有量は、前記アルミナセメント及び無水石膏の合計100質量部に対して、0.1~0.6質量部が好適である。
遅延剤は使用量が0.1質量部以上0.6質量部以下であれば、確保できる硬化材液(B液)の可使時間が長くなる傾向にある。一方使用量を過剰に多くすると、主材液(A液)と硬化材液(B液)との混合液の硬化時間が長くなる上、硬化体の1時間後の圧縮強度が低下する傾向にある。
【0034】
<その他の添加剤>
(消泡剤)
本発明の裏込め材はその他の成分として、消泡剤を更に含有してもよい。
具体的には、例えば、高級アルコール系、アルキルフェノール系、ジエチレングリコール系、ジブチルフタレート系、非水溶性アルコール系、トリブチルホスフェート系、ポリグリコール系、シリコーン系、又は酸化エチレン-酸化プロピレン共重合物系等の消泡剤が挙げられる。
上記の消泡剤を含有した場合には、裏込め材の硬化体の物性が安定し、また、作業性も良好となる。
【0035】
<主材液と硬化材液との混合比>
本発明の裏込め材は、主材液(A液)と硬化材液(B液)とを混合して使用する。
本発明における主材液と硬化材液との混合比は、特に限定されないが、硬化時間や、硬化後の初期強度及び最終到達強度等を勘案しながら設定することが好ましい。例えば、上述したように、硬化後の裏込め材の強度を高めながら、粘度の増大を抑制する場合には、主材液中における水硬性セメントの含有量比を適正化したうえで、主材液と硬化材液との混合比が適正範囲となるように比例配合することで目的を達成することができる。
【0036】
ここで本発明に於いては、主材液(A液)と硬化材液(B液)とを配合した際に、水硬性セメント(主材液(A液))、アルミナセメント(硬化材液(B液))及び無水石膏(硬化材液(B液))の合計100質量部に対して、アルミナセメント及び無水石膏との合計が10~40質量部、混練水(主材液(A液)及び硬化材液(B液))の合計が45~80質量部となるように調製することが好ましい。
各成分の配合比が上記範囲に含まれるように主材液(A液)及び硬化材液(B液)を調製し配合することにより、裏込め材としての硬化時間を適正に調整でき且つ、硬化後の硬化体の1時間強度及び最終到達強度も十分に得られる。
【0037】
<裏込め材を用いた施工方法>
本発明の管内張りの裏込め材を用いた裏込め材の施工方法においては、主材液(A液)と硬化材液(B液)とを前記の量比で混合して既設管と更生管との間に注入する。
この様な量比で主材液(A液)と硬化材液(B液)とを混合する方法としては、例えば、200L当たりの主材液(A液)中の水硬性セメントの質量を200としたときに、主材液(A液)と等容量の硬化材液(B液)中のアルミナセメントと無水石膏の合計質量が20以上となるように調製した主材液(A液)と硬化材液(B液)とをそれぞれ、単位時間当たりの送液容量を変化できるポンプ、或いは別々のポンプをもちいて個別にY字管、攪拌装置、注入管内に設けられた混合室(管内混合器、管路混合器)等に圧送して合流させ混合する方法が挙げられる。
【0038】
背面にリブ付きストリップのスパイラル状巻回によるライナーと、これを施した管内面との間に前記リブで生じた隙間にセメント系の裏込め材を注入する裏込め工法において、管内張りの裏込め材を用いた管内張りの裏込め材の施工方法を採用することもできる。
【0039】
また、主材液(A液)と硬化材液(B液)両液の混合液中における、主材液(A液)中の水硬性セメントと硬化材液(B液)中のアルミナセメント及び無水石膏との合計100質量部に対し、硬化材液(B液)中のアルミナセメント及び無水石膏との合計質量比が10~40質量部且つ、主材液中の水硬性セメントと硬化材液中のアルミナセメントとII型無水石膏との合計100質量部に対し、主材液(A液)中の混練水と硬化材液(B液)中の混練水との合計質量比が45~80となる様に混合すれば、主材液(A液)と硬化材液(B液)の単位時間当たりの送液容量は、特に制限されることはなく、比率を変えても差し支えない。
この場合主材液(A液)と硬化材液(B液)の比率は、混合方法にもよるが、Y字管を用いる通常の方法の場合、主材液(A液):硬化材液(B液)が1:1~4:1である事が好ましい。すなわち、前記硬化材液1容量部に対して前記主材液が1~4容量部である。4:1を超えて主材液(A液)量が多くなると、施工時の主材液(A液)や硬化材液(B液)の送液量(L/分)にもよるが、主材液(A液)がY字管の合流部から硬化材液(B液)側へ逆流を起こしたりして施工に支障を生じる傾向にある。
【0040】
<作用効果>
以上説明したように、本発明の管内張りの裏込め材によれば、主材液(A液)に分散剤としてナフタレン系化合物又はメラミン系化合物が含まれることで、主材液(A液)と硬化材液(B液)との粘度差が小さく、両液の混合性に優れるので均一な硬化体が得られる。また、主材液(A液)の経時粘度上昇が小さいので施工時間が長くなった場合でもポンプ負荷増大が抑制できる。
また、硬化材液(B液)に遅延剤としてカルボン酸又はその塩を含ませると、硬化材液(B液)は高温時期での施工場面でも施工に十分な可使時間の確保も可能となる。
従って、既設管の内面側に更生管を設置する管内張り工法において、既設管と更生管との接合に本発明の裏込め材及び管内張りの裏込め材の施工方法を適用することで、例えば、下水道配管や上水道配管等の既設管の更生を目的とした用途において非常に有用である。
【実施例
【0041】
以下、実施例を挙げて、本発明の管内張りの裏込め材をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0042】
<実施例1>
先ず、下記方法で、表1に示す内容の主材液(A液)と硬化材液(B液)を調製し、後述する方法で各液の性状を評価した。次いで、この主材液(A液)と硬化材液(B液)とを、その割合が主材液(A液):硬化材液(B液)=3:1で混合して裏込め材を調製し、後述する方法でこの裏込め材の性状を評価した。
なお、この裏込め材における各成分の量比(水硬性セメントとアルミナセメントと無水石膏の合計量に対するアルミナセメントと無水石膏の合計量の量比;水硬性セメントとアルミナセメントと無水石膏の合計量に対する混練水の合計量の量比;水硬性セメント量に対する分散剤量の量比;アルミナセメントと無水石膏の合計量に対する遅延剤量の量比)は表1に示した通りである。
【0043】
[主材液(A液)の調製]
水硬性セメントとして、下記(a)に示す市販の普通ポルトランドセメントを準備した。
分散剤として、下記(b)に示す市販品を準備した。
そして、これら(a)及び(b)を以下に示す量で混練槽に投入し、これに水(混練水)123Lを加えた状態で混練することにより、練上容量が200Lとなる様に調製した。この際、先ず、水と分散剤とを1分間混練した後、更に、水硬性セメントを加えた状態で2分間混練した。
【0044】
(a)水硬性セメント:普通ポルトランドセメント(市販品);240kg
(b)分散剤:メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物塩からなる市販のコンクリート用減水剤;1.2kg(なお、表1ではMと略して表記してある)
【0045】
[硬化材液(B液)の調製]
アルミナセメントとして、下記(c)に示す市販のアルミナセメントを準備した(JIS R2511に準拠)。
また、無水石膏として、下記(d)に示す市販のII型無水石膏を準備した。
そして、これら(c)及び(d)を以下に示す量で混練槽に投入し、これに水(混練水)147Lを加えた状態で混練することにより、練上容量が200Lとなる様に調製した。この際の混練時間は2分間とした。
【0046】
(c)アルミナセメント:JIS R2511:1995「耐火物用アルミナセメント」に規定されるアルミナセメント、3種(市販品);80kg
(d)無水石膏:ブレーン値を5000cm/gに調整したII型無水石膏(市販品);80kg
【0047】
[評価項目及び評価方法]
(主材液(A液)の粘度)
上記手順で調製した主材液(A液)の調製直後と、調製から1時間経過後の粘度をB型粘度計で測定した。なお評価温度は20℃及び35℃とした。
【0048】
(主材液(A液)の粒子沈降)
上記手順で調製した主材液(A液)の約5Lをポリバケツに分取して10分間静置した後、ポリバケツ底部の状況を目視観察した。
その際、ポリバケツ底部に水硬性セメントの粒子分が固く締まった状態での沈降が観察された場合は、粒子沈降の有無で「有」と判定した。一方、水硬性セメントの粒子分の沈降が無いもしくは緩い堆積であった場合は、粒子沈降の有無で「無」と判定した。なお評価温度は20℃とした。
【0049】
(硬化材液(B液)の粘度)
上記手順で調製した硬化材液(B液)の調製直後の粘度をB型粘度計で測定した。なお評価温度は20℃とした。
【0050】
(硬化材液(B液)の可使時間)
上記手順で調製した硬化材液(B液)の約5Lをポリバケツに分取、1時間毎にポリバケツを傾け、その時点での硬化材液(B液)の流動性有無を目視観察し、流動性が消失した時点を可使時間と判定した。なお評価温度は20℃及び35℃とした。
【0051】
(裏込め材、主材液(A液)と硬化材液(B液)の混合性)
上記手順で調製した主材液(A液)0.6Lを容量1Lのビーカーに分取した上で、硬化材液(B液)0.2Lを分取した容量1Lのビーカーに注ぎ込む、次いでこの混合液を先に主材液(A液)を分取していたビーカーに注ぎ込む、という操作により主材液(A液)と硬化材液(B液)を混合し1時間静置、ビーカー内で裏込め材を硬化させ、この硬化体の色調を目視観察した。
その際、硬化体に主材液(A液)と硬化材液(B液)の色調差に由来するマダラ模様が生じていた場合は、主材液(A液)と硬化材液(B液)の混合性で「不十分」と判定した。一方、硬化体にマダラ模様が無く均一な色調であった場合は、主材液(A液)と硬化材液(B液)の混合性で「良好」と判定した。なお評価温度は20℃とした。
【0052】
(裏込め材、主材液(A液)と硬化材液(B液)の混合液の硬化時間)
上記手順で調製した主材液(A液)0.6Lと硬化材液(B液)0.2Lとを良く撹拌混合して容量1Lのビーカー内に静置し、その後、容器を傾けても内容物(裏込め材)が動かなくなるまでの所要時間を硬化時間として測定した。なお評価温度は20℃とした。
【0053】
(裏込め材の圧縮強度)
上記手順で調製した主材液(A液)と硬化材液(B液)とを、その割合が主材液(A液):硬化材液(B液)=3:1で良く混合した上で、円柱形の型枠(径5cm×高さ10cm)内に流し込み硬化させた硬化体を供試体として、材令1時間及び材令28日の一軸圧縮強度を測定した。供試体の養生は水中養生とし、評価温度は20℃とした。
【0054】
<実施例2>
実施例2においては、成分及び含有量を以下に示す様に変更した点を除き、実施例1と同様の手順で主材液(A液)と硬化材液(B液)を調製し、実施例1と同様に評価を実施した。
【0055】
[主材液(A液)の調製]
下記(a)、(b)に示す各成分を混練槽に投入し、これに水(混練水)123Lを加えた状態で混練することにより、練上容量が200Lとなる様に調製した。この際、先ず、水と分散剤とを1分間混練した後、更に、水硬性セメントを加えた状態で2分間混練した。
実施例2で調製した主材液(A液)は、分散剤にナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物塩を用いている点で、実施例1の主材液(A液)とは異なる。
【0056】
(a)水硬性セメント:普通ポルトランドセメント(市販品);240kg
(b)分散剤:ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物塩からなる市販のコンクリート用減水剤;1.2kg(なお、表1ではNと略して表記してある)
【0057】
[硬化材液(B液)の調製]
下記(c)~(e)に示す各成分を混練槽に投入し、これに水(混練水)147Lを加えた状態で混練することにより、練上容量が200Lとなる様に調製した。この際の混練時間は2分間とした。
実施例2で調製した硬化材液(B液)は、遅延剤が含まれている点で、実施例1の硬化材液(B液)とは異なる。
【0058】
(c)アルミナセメント:JIS R2511:1995「耐火物用アルミナセメント」に規定されるアルミナセメント、3種(市販品);80kg
(d)無水石膏:ブレーン値を5000cm/gに調整したII型無水石膏(市販品);80kg
(e)遅延剤:無水クエン酸;0.3kg
【0059】
<比較例1~3>
比較例1においては主材液(A液)に分散剤を用いなかった点を除き、実施例2と同様の手順で主材液(A液)と硬化材液(B液)を調製し、実施例2と同様に評価を実施した。
比較例2においては主材液(A液)に用いる分散剤をリグニンスルホン塩(表1ではRと略して表記してある)に変更した点を除き、実施例2と同様の手順で主材液(A液)と硬化材液(B液)を調製し、実施例2と同様に評価を実施した。
比較例3においては主材液(A液)に用いる分散剤をポリオキシエチレンノニルフェニールエーテル(表1ではPと略して表記してある)に変更した点を除き、実施例2と同様の手順で主材液(A液)と硬化材液(B液)を調製し、実施例2と同様に評価を実施した。
【0060】
【表1】
【0061】
<評価結果>
実施例1、2及び比較例1~3の評価結果は表2~表4にまとめた。
表2は主材液(A液)の性状に関する評価結果、表3は硬化材液(B液)の性状に関する評価結果、表4は主材液(A液)と硬化材液(B液)を混合した裏込め材の性状を示す。
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
上記評価試験の結果、主材液(A液)に分散剤(メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物塩)を含有する実施例1の場合、硬化時間は6分、圧縮強度(材令1時間)は3.0N/mm、圧縮強度(材令28日)は31N/mmであり、管内張り工法に用いられる裏込め材の性能を維持した上で、主材液(A液)と硬化材液(B液)の粘度値は近似しているので主材液(A液)と硬化材液(B液)との混合性に優れる、高温時での主材液(A液)の経時による粘度上昇が小さい、主材液(A液)を静置した場合に粒子沈降が無い、等の効果が確認できた。
【0066】
また、主材液(A液)に分散剤(ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物塩)を含有し更に、硬化材液(B液)に遅延剤(無水クエン酸)を含有する実施例2の場合には、実施例1で確認できた効果に加え更に、硬化材液(B液)の高温時での可使時間が大幅に延長できる効果も確認できた。
【0067】
一方、主材液(A液)に分散剤が含まれていない比較例1の場合では、主材液(A液)と硬化材液(B液)の粘度差が大きいので主材液(A液)と硬化材液(B液)との混合性が不十分であること、高温時での主材液(A液)の経時による粘度上昇が大きいこと、等が確認できた。
【0068】
また、主材液(A液)に用いる分散剤が本発明で定める以外の分散剤を用いた場合では下記の事が確認できた。
分散剤がリグニンスルホン塩である比較例2の場合では、裏込め材の硬化時間が25分と長い上、圧縮強度(材令1時間)が0.4N/mmと小さく、管内張り工法に用いられる裏込め材の性能が維持できない。
分散剤がポリオキシエチレンノニルフェニールエーテルである比較例3の場合では、主材液(A液)を静置した場合、粒子沈降を生じ、施工に支障を来たす。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の管内張りの裏込め材によれば、主材液は粘度が低く硬化材液との混合性に優れるので均一な硬化体が得られ、経時粘度上昇が小さいので施工時間が長くなった場合でもポンプ負荷増大等が抑制できる。また、本発明の管内張りの裏込め材によれば、硬化材液は高温時期での施工場面でも硬化材液に施工に十分な可使時間を確保することもできる。従って、既設管の内面側に更生管を設置する管内張り工法において、既設管と更生管との接合に本発明の裏込め材を適用することで、例えば、下水道配管や上水道配管等の既設管の更生を目的とした用途において非常に有用である。