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  • 特許-電気集塵機の補修方法 図1
  • 特許-電気集塵機の補修方法 図2
  • 特許-電気集塵機の補修方法 図3A
  • 特許-電気集塵機の補修方法 図3B
  • 特許-電気集塵機の補修方法 図3C
  • 特許-電気集塵機の補修方法 図3D
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】電気集塵機の補修方法
(51)【国際特許分類】
   B03C 3/45 20060101AFI20220117BHJP
   B03C 3/47 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
B03C3/45 Z
B03C3/47
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018067026
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019177324
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】596032177
【氏名又は名称】住友金属鉱山エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】安部 雅美
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 茂
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-150937(JP,A)
【文献】特開2016-77984(JP,A)
【文献】特開2017-920(JP,A)
【文献】特開2017-80718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B03C 3/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気集塵機の補修方法であって、
前記電気集塵機は、集塵極枠に両側辺を支持されている集塵板が、水平方向に複数枚連接されて集塵極が構成されている乾式の電気集塵機であって、
各々の前記集塵板について、下端寄りの一部範囲である切断範囲を決定する切断範囲決定工程と、
複数の前記集塵板について、前記切断範囲を切断除去する切断工程と、
前記切断範囲と同一形状であって導電性を有する集塵板補修用板材を、前記切断範囲が切断された集塵板が支持されている前記集塵極枠に接合する接合工程と、
を含んでなる、電気集塵機の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾式の電気集塵機の補修方法、より詳しくは、電気集塵機に設置される集塵極の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排ガス中の煤塵や粉塵を除去するためのガス処理装置として、乾式の電気集塵機が知られている(特許文献1参照)。この乾式の電気集塵機は、交互に配置された放電極と集塵極との間に高電圧を印加することにより両極間に荷電帯を形成し、排ガス中のダストを集塵極に吸着させて捕集するものである。
【0003】
乾式集塵機の操業中、恒常的に高温の排ガスや排ガス中のダストに曝される集塵極は、一定の操業時間を経た場合に、酸化腐食等による劣化を回避しえず、一定期間の経過毎に集塵極の補修や交換が必要とされていた。
【0004】
例えば、溶接等により集塵極の劣化部分を補修する場合、集塵極と放電極との間の狭い空間に入り込んでの作業となるため、作業の効率と安全性において問題があった。一方、部分的な劣化の発生毎に集塵極を構成する各金属板を丸ごと全交換する場合には、作業の困難性や危険性は少なくなるが、材料費が嵩み経済面において許容され難かった。
【0005】
又、従来の一般的な補修方法は、腐食・劣化した集塵板に集塵板と同じ材質の薄板をあてて溶接取付けする、いわゆる「パッチ当て」による補修方法であるが、集塵極板が著しく腐食・劣化している場合には母材へのしっかりとした溶接が実施困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-246348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、乾式集塵機の集塵極を効率よく安全に補修できる方法であって、尚且つ、経済性にも優れる電気集塵機の補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ケーシング内での温度分布により下部が上部よりも低温となり、酸露点となって酸腐食しやすいこと、及び、集塵極のダストを落とす槌打は集塵極の下部を叩くため、下部がハンマの衝撃により常に断続的に機械的応力を受け劣化しやすく、特に腐食があところに機械的応力が加わると劣化が進行しやすいことに起因して、乾式集塵機の集塵極の初期の酸化腐食による部分的な劣化の多くは、集塵極の下方側半分の範囲内で発生していること、又、多くの集塵極は、金属板を何等かの外枠で支持する構造が水平方向に連接されてなることに着目し、先ず集塵極を構成する各金属板等の下端寄りの所定範囲を集塵極の補修対象範囲として想定し、この範囲を切断し、交換することによって、上記課題を解決することができることに想到し、本発明を完成させるに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
(1) 電気集塵機の補修方法であって、前記電気集塵機は、集塵極枠に両側辺を支持されている集塵板が、水平方向に複数枚連接されて集塵極が構成されている乾式の電気集塵機であって、各々の該集塵板について、下端寄りの一部範囲である切断範囲を決定する切断範囲決定工程と、複数の前記集塵板について、前記切断範囲を切断除去する切断工程と、前記切断範囲と同一形状であって導電性を有する集塵板補修用板材を、前記切断範囲が切断された集塵板が支持されている前記集塵極枠に接合する接合工程と、を含んでなる、電気集塵機の補修方法。
【0010】
(1)の発明によれば、集塵極と放電極との間の狭い空間に入り込んでのパッチ当てによる煩雑な溶接作業が不要となり、集塵極乾式集塵機の集塵極を効率よく安全に補修することができる。又、集塵極を構成する金属板のサイズ消費量も、従来の全交換の場合よりも低減させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、乾式集塵機の集塵極を効率よく安全に補修できる方法であって、尚且つ、経済性にも優れる電気集塵機の補修方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の補修方法を適用可能な乾式の電気集塵機の斜視図であり、内部構成を含む全体構成の説明に供するためにその一部を透視図としたものである。
図2】本発明の補修方法を適用可能な乾式の電気集塵機の集塵極の正面図である。
図3A図2に示す集塵極の補修前の劣化の状態を模式的に示す集塵極の正面図である。
図3B図3Aの状態の集塵極について、本発明の補修方法における切断工程を行なった状態を模式的に示す集塵極の正面図である。
図3C図3Bの状態の集塵極について、本発明の補修方法における接合工程を行ないつつある状態を模式的に示す集塵極の正面図である。
図3D図2に示す集塵極の本発明の補修方法による補修後の状態を模式的に示す集塵極の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、先ずは、本発明の補修方法を適用可能な乾式の電気集塵機について、適宜、図面を参照しながら説明する。
【0014】
<電気集塵機>
本発明の補修方法の実施を想定する電気集塵機は、電気集塵によって排ガスからダストを除去する集塵装置である。電気集塵とは静電気力を応用した集塵方式であり、放電極に高電圧が印加され集塵極との間に電界を形成すると共に、コロナ放電により放電極の周囲のガスを電離してイオンを供給する。この状態で、放電極と集塵極の間に煙霧体粒子であるダストを含むガスを流すと、ガス中に含まれるダストはイオンによって帯電する。帯電したダストは集塵極に付着しこれらが捕集される。
【0015】
又、一般に、乾式の電気集塵機においては、上記の集塵極は、ステンレス板等の導電性を有する板材が集塵極枠に両側辺を支持されている構成からなる集塵板が、水平方向に複数枚連接されて集塵極全体が構成されていることが一般的である。本発明の電気集塵機の補修方法は、集塵極全体が上記構成からなる電気集塵機において実施することができる。
【0016】
[全体構造]
図1は、上記において説明した一般的な構成からなる本発明の電気集塵機の補修方法を好ましく適用することができる乾式の電気集塵機10の全体構造を示す斜視図である。この電気集塵機10は、集塵極1と放電極2とが交互に配置されている箱状の集塵室を備える。
【0017】
図1に示すように、通常、電気集塵機の排ガス入口部4は、電気集塵機10の本体内部に向けて急激に開かれた形状とされている。一方、排ガス出口部5は電気集塵機10の本体内部から外部に向けて急激に絞られた形状とされている。これは、電気集塵機10においては、通常、集塵室内を通過する排ガスの流速は排ガス入口部4の煙道内における流速よりも低速であることが好ましいからである。集塵室内を通過する排ガスの速度を適切に抑制することにより、集塵極1へのダストの付着を促進することができる。又、この排ガス速度の抑制により、集塵室下方のホッパー6へ落下させるべきダストが、電気集塵機10から排出されるダスト除去済の排ガスG2中へ散逸することを防止することもできる。
【0018】
電気集塵機10には、図1に示すように、一般的に、排ガス入口部4の側の集塵室の入口端近傍に、格子状のスリットを有する整流板3Aが配置される。この整流板3Aの整流効果により、排ガスの偏流及び渦流を抑制することができる。又、電気集塵機10においては、排ガス出口部5でも、排ガスの偏流や渦流が発生しやすく、それが集塵室内のガス流へ影響をおよぼすことがある。これを防止するためには、排ガス出口部5の側の集塵室の出口端近傍に整流板3Bを配置することが有効である。
【0019】
集塵極1に捕集されたダストは、ハンマー等の槌打装置(図示せず)により、間欠的に叩き落される。槌打装置は、集塵極1に機械的衝撃を与えることができる手段であれば特定の手段に限定されないが、回転式のハンマー等を好ましい例として挙げることができる。又、この槌打装置は、所定の時間間隔で自動的に作動する制御手段を更に備える自動槌打装置であることがより好ましい。
【0020】
整流板から叩き落とされたダストは、電気集塵機10の下部に設けられるホッパー6に集められる。集められたダストは、その後、ロータリーバルブやフローコンベア等で切出して掻き出すことにより、電気集塵機10の外部に排出される。
【0021】
[集塵極]
電気集塵機10の集塵極1は、図2に示す通り、集塵極枠12に両側辺を支持されている集塵板11が、水平方向に複数枚連接されて、全体が構成されている。
【0022】
各々の集塵板11は、SS(炭素鋼)材やSUS(ステンレス鋼)材等からなる導電性の矩形状の板材である。集塵極枠12は、例えば、ステンレス製の鋼材により形成され、複数の集塵板11を上記態様で支持可能な形状に形成されている支持枠部材であり、少なくとも天枠121とこれに接合されている側枠122(122A、122B)を備え、好ましくは、更に、底枠123を備える。通常の稼働時において、個々の集塵板11は、主には、側枠122Aと122Bとにその両側辺を支持されることにより必要十分な安定性が保持されている。
【0023】
[排ガスからの集塵方法]
乾式の電気集塵機10は、一例として、鉄鋼ダスト等の亜鉛含有鉱を還元焙焼して粗酸化亜鉛を得る酸化亜鉛焼鉱の製造プロセスにおいて好ましく用いることができる。
【0024】
上記製造プロセスにおいては、先ず還元焙焼工程において鉄鋼ダストを還元焙焼用のロータリーキルン(RRK)によって還元焙焼する処理が行われる。この工程では、RRK炉内で鉄鋼ダスト由来の原材料は還元焙焼されて、揮発した金属亜鉛は炉内で再酸化されて粉状の酸化亜鉛となる。同工程に続く湿式工程においては、還元焙焼工程で得た粗酸化亜鉛に含有されるフッ素等の不純物を処理液中に分離抽出し、更に固液分離処理によって、粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式処理が行われる。
【0025】
引き続き行われる乾燥加熱工程において、上記の湿式工程で得た粗酸化亜鉛ケーキを、乾燥加熱用のロータリーキルン(DRK)に投入して焼成することにより、ハロゲン濃度を更に低減させつつ、高品位の酸化亜鉛鉱を製造する乾式処理を行う。ここで、上述したRRKからの排出ガスから粗酸化亜鉛を捕捉する集塵機として、本発明の電気集塵機10を好ましく用いることができる。
【0026】
<電気集塵機の補修方法>
上記において説明した電気集塵機10に対して好適に用いることができる本発明の電気集塵機の補修方法について、以下、図3A~Dを適宜参照しながら説明する。
【0027】
本発明の電気集塵機の補修方法は、電気集塵機10を構成する各部材の中でも、排ガスによる腐食劣化が最も早期に進行しやすい集塵極1を直接の補修対象とする補修方法である。この補修方法は、以下に詳細を説明する切断範囲決定工程、切断工程、及び接合工程を順次行うことにより、腐食箇所を、上述した従来のいわゆる「パッチ当て」による溶接によって修復するよりも安全で効率的に集塵極1を補修することができる補修方法である。又、集塵板の全交換よりも交換材料のコストを抑えることもできる。
【0028】
[切断範囲決定工程]
集塵極1を構成する集塵板11の劣化部分cは、図3Aに示す通り、操業開始からある程度の期間までは、通常、集塵板11のその下端寄りの範囲に最初に発生しやすい。そこで、本発明の補修方法においては、各々の集塵板11に対して、下端寄りの一部である切断範囲を決定する工程を先ず行う。各々の集塵板の切断位置(切断線C1、C2、C3、C4)は、事前に実施する運転休止時の内部点検等で予め各集塵板11の腐食の状態等を確認した上で決定すればよい。予め内部点検を行うことにより枠付き補修用集塵板の高さ方向の最適な寸法を決めることができ、その寸法に合わせて補修用集塵板を事前に製作しておくことができるので補修作業のための設備の運転停止時間を短縮することができる。
【0029】
切断範囲決定の目安としては、図3Aにおける集塵板11の全高hに対して下端からaの距離にある部分までを切断範囲とするならば、a/hを1/5~1/2の範囲内で決定することが好ましい。この切断範囲の割合(a/h)が、1/5未満であると、この切断範囲以外に劣化部分cが残存してしまう割合が増えやすいこと、又、補修後に補修した部分における劣化の再発生までの時間が短くなってしまうことがその理由である。一方、この切断範囲の割合(a/h)が1/2を超える場合には、全交換に対する経済面での優位性が極めて小さくなってしまうため切断範囲の上記割合の1/2以下であることが好ましい。
【0030】
[切断工程]
次に、図3Bに示す通り、上記切断範囲決定工程において決定された切断範囲の上辺(切断線C1、C2、C3、C4)に沿って、補修対象とする集塵板11の切断範囲を切断除去する。この切断除去処理は、全ての集塵板11のうち、その一部である任意の複数の集塵板に対してのみ行うこともできるが、適切な補修計画を策定し決定された時期に、全ての集塵板に対して、一斉にこの切断除去処理を行うことが補修効率上好ましい。
【0031】
尚、そのような切断除去処理を行った後、切断範囲を切断除去した後の集塵板の残存部111内に、ごく限られた範囲で残存することが想定される劣化部分については、必要に応じて個別に溶接等の補修を行う。但し、このような溶接の作業量は、全ての劣化部分を対象とした個別の溶接に頼る従来の補修方法と比較すれば激減するため、本発明の補修方法の採用により、集塵機の補修作業における作業員の安全性と作業効率は顕著に改善される。
【0032】
[接合工程]
上記の切断工程の完了後、図3Cに示す通り、上記切断工程において、切断除去した切断範囲と同一形状の集塵板補修用板材112を、集塵板の残存部111の切断線C(C1、C2、C3、C4)に沿って設置し、集塵板の残存部111が支持されている集塵極枠12に、必要十分な強度で接合する接合工程を行う。集塵板補修用板材112は、切断範囲と同形状であって、導電性の板材であれば、特段限定はされないが、集塵極枠12への溶接が可能なものであり、集塵板11(集塵板の残存部111)と同材料のものであることが好ましい。
【0033】
この接合は特定の方法に限定されないが、例えば、集塵極枠12の側枠122が中空の円筒状の構造である場合、集塵板補修用板材112として、図3Cに示すように、中空の側枠122に挿入可能な丸棒状の接合補助部124が側辺上に形成されているものを用いることが好ましい。このような集塵板補修用板材112の接合補助部124を集塵極枠12の側枠122に挿入係合させた上で両者の接合面周囲を溶接する方法を用いれば、簡易な作業で強固な接合を行うことができる。
【0034】
尚、通常、乾式の集塵装置には、集塵極1の下方に作業員が作業を行うことができる程度のスペースが存在するため、このスペースにおいて集塵板補修用板材112を挿入する作業が行えれば、わざわざ集塵極1と放電極2の間の狭くて危険なスペースに立ち入って作業をする必要がなくなる。又、集塵板補修用板材112の集塵極枠12への溶接作業についても、集塵板毎に予め個所が特定されている作業のみに限定されるため、不規則な作業箇所への侵入を繰り返しを余儀なくされる従来の補修作業と比較して作業負担を顕著に軽減することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 集塵極
11 集塵板
11A 補修が完了した集塵板
111 集塵板の残存部
112 集塵板補修用板材
12 集塵極枠
121 天枠
122A、122B 側枠
123 底枠
124 接合補助部
2 放電極
3A、3B 整流板
4 排ガス入口部
5 排ガス出口部
6 ホッパー
10 電気集塵機
c 劣化部分
C(C1、C2、C3、C4) 切断線
G1 ダストを含有する排ガス
G2 ダストが除去された排ガス
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D