(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】吹付用増粘性混和剤及びそれを用いた吹付材料
(51)【国際特許分類】
C04B 24/38 20060101AFI20220117BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20220117BHJP
C04B 18/08 20060101ALI20220117BHJP
C04B 28/04 20060101ALI20220117BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
C04B24/38 A
C04B22/14 B
C04B18/08 Z
C04B28/04
C04B22/08 Z
(21)【出願番号】P 2018058284
(22)【出願日】2018-03-26
【審査請求日】2021-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】倉形 公悦
(72)【発明者】
【氏名】羽根井 誉久
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-249365(JP,A)
【文献】特開平04-164850(JP,A)
【文献】特開平10-212149(JP,A)
【文献】特開2001-240443(JP,A)
【文献】特開2009-078934(JP,A)
【文献】特開2006-206404(JP,A)
【文献】特開2014-125389(JP,A)
【文献】特開平10-265247(JP,A)
【文献】特開平10-324553(JP,A)
【文献】特開2004-323356(JP,A)
【文献】特開2008-179527(JP,A)
【文献】特開2006-342027(JP,A)
【文献】特開2017-165632(JP,A)
【文献】特開平09-255387(JP,A)
【文献】特開平10-212150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルセルロース系増粘剤
、並びに、石膏類及び/又はフライアッシュである無機材料からなる吹付用増粘性混和剤であって、
前記無機材料のブレーン比表面積が4500~20000cm
2/gであり、
前記増粘剤に対する前記無機材料の質量割合([
前記無機材料の質量]/[
前記増粘剤の質量])が0.2~3.5である、吹付用増粘性混和剤。
【請求項2】
セメントと、請求項
1に記載の吹付用増粘性混和剤と、急結剤とを
含み、
前記吹付用増粘性混和剤の含有量が、前記セメント100質量部に対して0.04~0.25質量部である、吹付材料。
ただし、前記吹付用増粘性混和剤以外の前記増粘剤及びブレーン比表面積が4500~20000cm
2
/gの前記無機材料は含まない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吹付用増粘性混和剤及びそれを用いた吹付材料に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル、地下空間、法面等の建設工事において、吹付コンクリート等の吹付材料を用いた吹付工法が用いられている。一般の吹付工法は、ベースコンクリート等のセメント混練物及び急結剤を別々の輸送管を通して別経路で圧送し、圧送途中で合流混合した後に吹付ノズルの筒先より地山等に吹き付けることにより行なわれている。
【0003】
しかしながら、一般的に吹付工法では粉塵発生量が多いこと、吹き付けたモルタルのはね返り量が多いこと等の課題がある。このような課題に対して、例えば特許文献1の吹付材料はセメントコンクリートに増粘剤を配合することで、モルタルの粘性を高め、吹付作業に伴って発生する粉塵を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、十分な粘性を確保するためにセメントコンクリートに増粘剤を添加すると、初期強度発現性が低下するおそれがあり、所要の吹付厚さに到達する前に吹付箇所が剥落するという問題があった。そのため、従来の増粘剤に代わる新たな増粘性混和剤が求められている。
【0006】
本発明は、吹付時に発生する粉塵を低減し、且つ、初期強度発現性を向上させる吹付用増粘性混和剤及びそれを用いた吹付材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、特定のブレーン比表面積を有する無機材料を特定の割合で増粘剤と併用することで、粉塵低減性及び初期強度発現性を両立できる吹付用増粘性混和剤が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば以下のとおりである。
[1]増粘剤及び無機材料からなる吹付用増粘性混和剤であって、無機材料のブレーン比表面積が4500~20000cm2/gであり、増粘剤に対する無機材料の質量割合([無機材料の質量]/[増粘剤の質量])が0.2~3.5である、吹付用増粘性混和剤。
[2]無機材料が石膏類及び/又はフライアッシュである、[1]の吹付用増粘性混和剤。
[3]増粘剤がセルロース系増粘剤である、[1]又は[2]の吹付用増粘性混和剤。
[4]セメントと、[1]~[3]のいずれかの吹付用増粘性混和剤と、急結剤とを含む、吹付材料。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、吹付時に発生する粉塵を低減し、且つ、初期強度発現性を向上させる吹付用増粘性混和剤及びそれを用いた吹付材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0011】
[吹付用増粘性混和剤]
本実施形態の吹付用増粘性混和剤は、増粘剤及び無機材料からなる。
【0012】
本実施形態に係る増粘剤の種類は特に限定されず、例えば、セルロース系増粘剤、アクリル系増粘剤、グアーガム系増粘剤が挙げられる。増粘剤としてはセルロース系増粘剤が好ましい。セルロース系増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。増粘剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0013】
本実施形態に係る無機材料は、ブレーン比表面積が下記で規定する範囲内である無機粉末であれば特に限定されるものではない。無機材料としては、例えば、石膏類、炭酸カルシウム等のカルシウム塩;フライアッシュ、シリカフューム、メタカオリン等のポゾラン物質が挙げられる。石膏類としては、例えば、無水石膏、二水石膏、半水石膏が挙げられる。石膏類は無水石膏が好ましい。フライアッシュはJIS A 6201:2015により数種に分類されており、良好な粘性及び初期強度発現性が得られやすいという観点から、JIS I種又はJIS II種が好ましい。無機材料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。無機材料の中でも、モルタルの粘性が更に増加して吹付時に発生する粉塵が少なくなりやすく、初期強度発現性も確保しやすいという観点から、石膏類及び/又はフライアッシュが好ましい。
【0014】
無機材料のブレーン比表面積は、4500~20000cm2/gである。無機材料のブレーン比表面積が4500cm2/g未満だとモルタルの粘性が十分に得られず、吹付時に粉塵抑制効果が得られにくくなり、20000cm2/gを超えると粘性が高すぎるため圧送性が低下する問題が発生する。無機材料のブレーン比表面積は、モルタルの粘性を更に増加させ、初期強度発現性が確保しやすいという観点から、5000~18000cm2/gであることが好ましく、5500~16000cm2/gであることが更に好ましい。
【0015】
本実施形態の吹付用増粘性混和剤において、増粘剤に対する無機材料の質量割合([無機材料の質量]/[増粘剤の質量])は0.2~3.5である。無機材料の質量割合が0.2未満だと粘性が増加して圧送性及び急結剤の混合性が低下し、急結性能に悪影響を及ぼす。無機材料の質量割合が3.5を超えるとモルタルの粘性が十分に得られず、吹付け時に粉塵抑制効果が得られにくくなる。モルタルの粘性が更に増加して吹付時に発生する粉塵抑制効果が得られやすく、初期強度発現性も確保しやすいという観点から、増粘剤に対する無機材料の質量割合は0.22~2.5であることが好ましく、0.24~1.5であることがより好ましい。
【0016】
吹付用増粘性混和剤の調製は特に限定されず、上述した増粘剤と無機材料とを混合すればよい。
【0017】
[吹付材料]
本発明の別の実施形態である吹付材料は、セメントと、上記吹付用増粘性混和剤と、急結剤とを含む。
【0018】
セメントは特に限定されるものではなく、普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントにフライアッシュ又はシリカ混合剤等を混合した各種混合セメント、焼却灰、汚泥等の廃棄物を原料としたエコセメント等を用いることができる。セメントは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0019】
吹付用増粘性混和剤は上述したものである。吹付用増粘性混和剤の含有量は、モルタルの粘性が更に増加して吹付時に発生する粉塵が少なくなりやすく、初期強度発現性も確保しやすいという観点から、セメント100質量部に対して0.04~0.25質量部であることが好ましく、0.06~0.15質量部であることがより好ましく、0.07~0.1質量部であることが更に好ましい。
【0020】
急結剤は特に限定されるものではなく、粉末急結剤、粉末急結剤に液体を混合したスラリー状急結剤、液体急結剤等を用いることができる。急結剤は、その目的に応じて適宜選択することができ、例えば、初期強度発現性をより向上させるという観点からは粉末急結剤が好ましく、発生する粉塵やはね返りをより低減させるという観点からはスラリー状急結剤又は液体急結剤が好ましい。
【0021】
粉末急結剤としては、カルシウムアルミネート類を有効成分として含有した粉末急結剤であることが好ましい。カルシウムアルミネート類としては、カルシウムアルミネート、カルシウムハロアルミネート、カルシウムナトリウムアルミネート、カルシウムサルホアルミネート及びこれらにSiO2、K2O、Fe2O3、TiO2等が固溶又は化合したものが挙げられる。カルシウムアルミネート類は一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。カルシウムアルミネート類は、結晶質のものであってもよく、非晶質のものであってもよく、結晶質及び非晶質の混合体であってもよい。カルシウムアルミネート類の粉末度は、初期強度発現性をより向上させるという観点から、ブレーン比表面積で3000cm2/g以上であることが好ましく、5000cm2/g以上であることがより好ましい。カルシウムアルミネート類の粉末度は、ブレーン比表面積で8000cm2/g以下であることが好ましい。粉末急結剤にはカルシウムアルミネート類の他に各種の炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、アルミン酸塩、水酸化物、酸化物等の配合も可能である。
【0022】
液体急結剤としては、例えば、硫酸アルミニウム、アルミン酸塩、ケイ酸ナトリウム等を有効成分とする液体急結剤が挙げられる。硫酸アルミニウムを有効成分とする液体急結剤は、通常、粉末状の硫酸アルミニウム(又はその水和物)を水と混ぜ、水溶液として調製されるが、特にこれに限定されるものではない。硫酸アルミニウムを有効成分とする液体急結剤は、可溶性アルミニウム成分と硫酸等の硫黄源を調整して、硫酸アルミニウムを水溶液として調製したものと同じ効果をもたらすものであってもかまわない。硫酸アルミニウムの濃度は、液体急結剤全量に対して、7質量%以上が好ましく、15~65質量%がより好ましく、30~60質量%が更に好ましい。液体急結剤には、本発明の効果が損なわれない程度において更に他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば、沈降性シリカ、アルカノールアミン、フッ化物、硫酸マグネシウム、シュウ酸等が挙げられる。
【0023】
急結剤の含有量は、初期強度発現性をより向上させるという観点から、セメント100質量部に対して4.5~13.0質量部であることが好ましく、5.0~10.0質量部であることがより好ましい。なお、液体急結剤を用いる場合、上記含有量は液体急結剤中に含まれる硫酸アルミニウム等の有効成分の固形分換算である。
【0024】
本実施形態の吹付材料には細骨材や粗骨材を含んでもよい。これらの骨材としては、例えば、川砂、珪砂、砕砂、寒水石、石灰石砂等が挙げられる。これらの骨材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0025】
モルタルにおける細骨材の含有量は、セメント100質量部に対して100~450質量部であることが好ましく、200~400質量部であることがより好ましく、250~350質量部であることが更に好ましい。
【0026】
コンクリートにおける細骨材及び粗骨材の総含有量は、セメント100質量部に対して330~570質量部であることが好ましく、330~550質量部であることがより好ましく、350~530質量部であることが更に好ましい。
【0027】
本実施形態の吹付材料は、上記構成成分に加えて、本発明の効果を喪失させない範囲でその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、例えば、減水剤、遅延剤、膨張材、収縮低減剤、顔料、消泡剤、発泡剤、繊維、ポリマーが挙げられる。その他の成分は、それぞれ一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0028】
本実施形態の吹付材料において、水の含有量は、セメント100質量部に対して30~75質量部であることが好ましく、35~70質量部であることがより好ましく、40~68質量部であることがより好ましい。
【0029】
本実施形態の吹付材料は、上記の各材料を混合することで製造することができる。混合方法は特に限定されず、使用目的に応じて適宜設定することができる。ただし、セメント、急結剤及び水を混合すると急速に硬化するため、これらの材料は使用直前に混合することが好ましい。
【0030】
吹付工法としては、例えば、セメント、吹付用増粘性混和剤、骨材等の粉体を混合し、混合した粉体と水及び急結剤の混合液とをそれぞれ別のホース等で送付し、吹付ノズルの先端で混合させて吹き付ける乾式方法、セメント、吹付用増粘性混和剤、骨材等及び水を混合したモルタル・コンクリートと急結剤とをそれぞれ別のホース等で圧送し、吹付ノズルの先端で混合させて吹き付ける湿式工法が挙げられる。吹付工法は湿式工法であることが好ましい。
【0031】
本実施形態の吹付用増粘性混和剤は、これを混合した吹付材料に対して粘性を付与することができるため、発生する粉塵を低減することができ、更に初期強度発現性を増加させることができる。そのため、本実施形態の吹付用増粘性混和剤及びそれを用いた吹付材料は、通常の吹き付け作業に加え、トンネル等の閉鎖空間においてもより安全に作業することができるため好適に用いることができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものでは
ない。
【0033】
[材料]
実施例で用いる材料は以下のとおりである。
・セメント(普通ポルトランドセメント)
・細骨材(珪砂)
・増粘剤(メチルセルロース系増粘剤)
・無機材料
A:無水石膏、ブレーン比表面積12800cm2/g
B:無水石膏、ブレーン比表面積8400cm2/g
C:無水石膏、ブレーン比表面積6300cm2/g
D:無水石膏、ブレーン比表面積4100cm2/g
E:フライアッシュ、ブレーン比表面積5600cm2/g
・急結剤(非晶質カルシウムアルミネート及びアルミン酸ナトリウムを含む粉末急結剤)
【0034】
[吹付材料の作製]
20℃環境下でセメント、細骨材、増粘剤、無機材料に水を加え、ホバート社製モルタルミキサで練り混ぜてベースモルタルを調製した。ベースモルタルに急結剤を添加し、吹付材料を作製した。各材料の配合比率を表1に示す。
【0035】
【0036】
[評価方法]
各項目については以下の方法で評価した。評価結果を表2に示す。
・コンシステンシー
JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」12.フロー試験に準じて、20℃環境下でベースモルタルのフロー値(0打、15打)を測定した。
・粘性試験
20℃環境下でベースモルタルを内径75mm、高さ75mmの底面開閉可能な円筒形容器に充填した。水を加えてから45秒後に円筒形容器の底面を開き、高さ1mの位置からベースモルタルを落下させ、落下物の飛散寸法を測定した。飛散寸法は、落下物の広がり面の最大長さ及びこれと直行する広がり面の長さを測定し、その平均値を算出した。
・プロクター貫入抵抗試験
20℃環境下でベースモルタルに急結剤を添加後、油圧式のプロクター試験機を用いてプロクター貫入抵抗試験を行った。試験方法は、JSCE-D 102-2013に準拠して行った。急結剤添加時を0秒とし、モルタルミキサで5秒間撹拌して型枠に充填し、試験を行った。
【0037】
【0038】
表2の結果より、実施例の配合であれば落下試験による拡がりが少なくベースモルタルの粘性が増加しているため粉塵抑制効果が向上しており、更に初期強度発現性(急結剤添加後30秒時点でのプロクター貫入抵抗値)も高いことがわかる。