(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】コンクリート剥落防止用多層シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20220117BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20220117BHJP
E21D 11/00 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
E04G23/02 D
E01D22/00 A
E21D11/00 Z
(21)【出願番号】P 2016192258
(22)【出願日】2016-09-29
【審査請求日】2019-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 忍
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 奈央
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-092237(JP,A)
【文献】特開2006-342538(JP,A)
【文献】特開2004-027718(JP,A)
【文献】特開2008-297787(JP,A)
【文献】特開2010-144360(JP,A)
【文献】特開2009-061718(JP,A)
【文献】特開2006-016703(JP,A)
【文献】特開2016-125193(JP,A)
【文献】特開2002-256707(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0794925(KR,B1)
【文献】欧州特許出願公開第02186955(EP,A2)
【文献】米国特許出願公開第2008/0124576(US,A1)
【文献】特開2009-162033(JP,A)
【文献】特開2015-078600(JP,A)
【文献】特開2005-155051(JP,A)
【文献】特開平10-338851(JP,A)
【文献】特開2002-348749(JP,A)
【文献】特開2002-088176(JP,A)
【文献】特開2010-242493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E01D 22/00
E21D 11/00
B32B 5/00
B32B 27/12
C09J 7/02
C09J 7/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の(メタ)アクリル系紫外線硬化感圧接着剤層と、
前記第1の(メタ)アクリル系紫外線硬化感圧接着剤層上の補強基材と、
前記補強基材上の第2の(メタ)アクリル系紫外線硬化感圧接着剤層と、を備える、コンクリート剥落防止用多層シートであって、
前記第1及び前記第2の(メタ)アクリル系紫外線硬化感圧接着剤層が、単官能モノマー及び多官能メタクリレートを含むモノマー成分の部分重合体を含有する紫外線硬化型(メタ)アクリル系感圧接着剤の硬化物を含み、
前記第1の(メタ)アクリル系紫外線硬化感圧接着剤層又は前記第2の(メタ)アクリル系紫外線硬化感圧接着剤層は、コンクリート構造体に、直接又はコンクリート構造体に適用された
プライマー層としての表面処理層を介して貼り合わされる層であり、
前記補強基材の屈折率が1.40~1.60であり、
前記補強基材が前記第1及び/又は第2の(メタ)アクリル系紫外線硬化感圧接着剤層の(メタ)アクリル系紫外線硬化感圧接着剤で含浸されている、コンクリート剥落防止用多層シート。
【請求項2】
第1の(メタ)アクリル系紫外線硬化感圧接着剤層と、
前記第1の(メタ)アクリル系紫外線硬化感圧接着剤層上の補強基材と、
前記補強基材上の第2の(メタ)アクリル系紫外線硬化感圧接着剤層と、を備える、コンクリート剥落防止用多層シートであって、
前記第1及び前記第2の(メタ)アクリル系紫外線硬化感圧接着剤層が、単官能モノマー及び多官能メタクリレートを含むモノマー成分の部分重合体を含有する紫外線硬化型(メタ)アクリル系感圧接着剤の硬化物を含み、
前記第1の(メタ)アクリル系紫外線硬化感圧接着剤層又は前記第2の(メタ)アクリル系紫外線硬化感圧接着剤層は、コンクリート構造体に、直接又はコンクリート構造体に適用された
プライマー層としての表面処理層を介して貼り合わされる層であり、
前記補強基材が4.0mm以上の開口長及び40%以上の開口領域を有し、
前記開口領域に相当する部分が透明性を有する、コンクリート剥落防止用多層シート。
【請求項3】
前記補強基材が、ガラス繊維又はポリマーモノフィラメントを含む、請求項1又は2に記載のコンクリート剥落防止用多層シート。
【請求項4】
前記補強基材がガラス繊維を含み、該補強基材の厚さ及び坪量が0.20mm以下及び40~130g/m
2である、請求項1記載のコンクリート剥落防止用多層シート。
【請求項5】
前記補強基材がポリマーモノフィラメントを含み、該補強基材の厚さが0.40mm以下である、請求項1に記載のコンクリート剥落防止用多層シート。
【請求項6】
前記補強基材が目止め剤及び集束剤で処理されていないガラス繊維を含む、請求項1又は4に記載のコンクリート剥落防止用多層シート。
【請求項7】
前記補強基材の引張強度及び厚さが、200N/25mm以上及び0.05mm以上である、請求項1~6の何れか一項に記載のコンクリート剥落防止用多層シート。
【請求項8】
前記第1又は第2の(メタ)アクリル系紫外線硬化感圧接着剤層の補強基材側と反対側にポリマー層を備える、請求項1~7の何れか一項に記載のコンクリート剥落防止用多層シート。
【請求項9】
前記ポリマー層がフッ素系ポリマー層である、請求項8記載のコンクリート剥落防止用多層シート。
【請求項10】
前記第1及び/又は第2の(メタ)アクリル系紫外線硬化感圧接着剤層が充填剤を含まない、請求項1~9の何れか一項に記載のコンクリート剥落防止用多層シート。
【請求項11】
第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を提供する工程であって、該感圧接着剤層が紫外線硬化型感圧接着剤を含む、工程と、
前記第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層上に補強基材を提供する工程と、
前記補強基材上に第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を提供する工程であって、該感圧接着剤層が紫外線硬化型感圧接着剤を含む、工程と、
紫外線を照射して前記第1及び第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を硬化させて、第1及び第2の(メタ)アクリル系紫外線硬化感圧接着剤層を形成する工程と、を備える、請求項1~10の何れか一項に記載のコンクリート剥落防止用多層シートの製造方法。
【請求項12】
前記紫外線硬化型感圧接着剤の部分重合体の粘度が10000mPa・s以下である、請求項11に記載のコンクリート剥落防止用多層シートの製造方法。
【請求項13】
コンクリート構造体の剥落を防止する多層シートの施工方法であって、
請求項1~10の何れか一項に記載のコンクリート剥落防止用多層シートを、コンクリート構造体に直接適用する工程、又は
プライマー層としての表面処理層を介してコンクリート構造体に適用する工程を備える、施工方法。
【請求項14】
紫外線硬化型感圧接着剤を含む第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を提供する工程と、
前記第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層上に屈折率が1.40~1.60である補強基材を提供する工程と、
前記補強基材上に、紫外線硬化型感圧接着剤を含む第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を提供して含浸させる工程と、
紫外線を照射して前記第1及び第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を同時に又は別個に硬化させて、第1及び第2の(メタ)アクリル系紫外線硬化感圧接着剤層を形成する工程と、を備える、
請求項1、4及び5の何れか一項に記載のコンクリート剥落防止用多層シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コンクリート剥落防止用多層シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁、トンネル、高架道路などのコンクリート構造体からのコンクリート片の剥落を防止するために、コンクリート剥落防止用のコーティング剤などをコンクリート構造体表面に適用する方法が使用されてきた。
【0003】
特許文献1(特開2006-342538号公報)には、コンクリート構造物表面に下塗り樹脂を塗布し、該塗布面に繊維基材を被着し、該繊維基材表面に上塗り樹脂を塗布するコンクリート構造物の補修方法であって、下塗り樹脂の粘度が4,000mPa・s以上100,000mPa・s以下、チクソトロピックインデックスが2.0以上5.0以下であり、上塗り樹脂の粘度が100mPa・s以上4,000mPa・s未満、チクソトロピックインデックスが1.0以上2.0未満である、コンクリート構造物の補修方法が記載されている。
【0004】
特許文献2(特開2004-027718号公報)には、保護層と補強層及び/又は貼付層からなる接着剤塗布層とを接着するとともに、接着剤塗布層のコンクリート構造物への接着面に粘着剤又はホットメルト型接着剤からなる接着剤層を形成したコンクリート構造物の補修・補強・劣化防止用シートを、コンクリート構造体に適用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-342538号公報
【文献】特開2004-027718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、コンクリート構造体表面に接着剤を塗布した後に補強用繊維層を適用するなどして、コンクリート構造体を補強する施工が行われてきた。しかしながら、このような施工は、作業工程や時間を要するため、作業中に道路を一部封鎖する等で不便を強いる時間がかかったり、施工できる箇所に時間面、費用面、安全面等の制限がかかったりする。また、仕上がりが作業員の施工のスキルにもよる。このような補強を行ったコンクリート構造体であっても、クラック、ひび割れ等が生じる場合があり、コンクリート構造体表面の経時変化を補強後においても観察できる、簡易な補強手段が望まれていた。
【0007】
本開示は、コンクリート構造体の補強後においても構造体表面の経時観察ができ、且つ、短時間で簡易に施工することが可能なコンクリート剥落防止用多層シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一実施態様によれば、第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層と、第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層上の補強基材と、補強基材上の第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層と、を備える、コンクリート剥落防止用多層シートであって、補強基材の屈折率が約1.40~約1.60であり、補強基材が第1及び/又は第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層の接着剤で含浸されている、コンクリート剥落防止用多層シートが提供される。
【0009】
本開示の別の実施態様によれば、第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層と、第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層上の補強基材と、補強基材上の第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層と、を備える、コンクリート剥落防止用多層シートであって、補強基材が約4.0mm以上の開口長及び約40%以上の開口領域を有し、開口領域に相当する部分が透明性を有する、コンクリート剥落防止用多層シートが提供される。
【0010】
本開示の別の実施態様によれば、紫外線硬化型感圧接着剤を含む第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を提供する工程と、第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層上に屈折率が約1.40~約1.60である補強基材を提供する工程と、補強基材上に、紫外線硬化型感圧接着剤を含む第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を提供して含浸させる工程と、紫外線を照射して第1及び第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を同時に又は別個に硬化させる工程と、を備える、コンクリート剥落防止用多層シートの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本開示のコンクリート剥落防止用多層シートは、全体的又は部分的に透明であるため、コンクリート構造体の補強後においても構造体表面のクラック、ひび割れ等を経時的に観察することができる。
【0012】
本開示のコンクリート剥落防止用多層シートは、任意に表面処理層を備えるコンクリート構造体に一度に直接適用することができるため、施工時に塗布手段を必要とする従来の施工方法に比べて、観察するのに十分な透明性が熟練度を要さず簡易に発現できるとともに、短時間で施工作業を完了することができる。
【0013】
上述の記載は、本発明の全ての実施態様及び本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示の一実施態様のコンクリート剥落防止用多層シートの斜視図である。
【
図2】
図1のコンクリート剥落防止用多層シートを適用したコンクリート構造体の断面図である。
【
図3】本開示の別の実施態様におけるコンクリート剥落防止用多層シートの断面図である。
【
図6】別構成の押抜き試験装置の上面図(右側)及びA-A’横断面図(左側)である。
【
図7】本開示の実施例1及び2の実施態様におけるコンクリート剥落防止用多層シートの写真である。
【
図8】本開示の比較例1~3の実施態様におけるコンクリート剥落防止用多層シートの写真である。
【
図9】本開示の参考例1及び2における補強基材の写真である。
【
図10】本開示の実施例3及び4の実施態様におけるコンクリート剥落防止用多層シートの写真である。
【
図11】本開示の比較例4及び5の実施態様におけるコンクリート剥落防止用多層シートの写真である。
【
図12】本開示の補強基材における開口長(OP)及び繊維径(D)の関係を例示する簡略図である。
【
図13】従来の施工方法(比較例6)及び実施例1の実施態様におけるコンクリート剥落防止用多層シートにより補強されたコンクリート構造体の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
第1の実施形態におけるコンクリート剥落防止用多層シートは、第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層と、第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層上の補強基材と、補強基材上の第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層と、を備える、コンクリート剥落防止用多層シートであって、補強基材の屈折率が約1.40~約1.60であり、補強基材が第1及び/又は第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層の接着剤で含浸されている。このコンクリート剥落防止用多層シートは、全体的に透明であるため、コンクリート構造体表面の外観変化を経時的に観察することができる。施工時に塗布手段を必要とする従来の施工方法に比べて、観察するのに十分な透明性(視認性)が熟練度を要さず簡易に発現できるとともに、短時間で施工作業を完了することができる。
【0016】
第2の実施形態におけるコンクリート剥落防止用多層シートは、第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層と、第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層上の補強基材と、補強基材上の第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層と、を備える、コンクリート剥落防止用多層シートであって、補強基材が約4.0mm以上の開口長及び約40%以上の開口領域を有し、開口領域に相当する部分が透明性を有する。このコンクリート剥落防止用多層シートは、部分的に透明であるため、コンクリート構造体表面の外観変化を経時的に観察することができる。施工時に塗布手段を必要とする従来の施工方法に比べて、簡易に観察するのに十分な透明性(視認性)が熟練度を要さず簡易に発現できるとともに、短時間で施工作業を完了することができる。
【0017】
第1又は第2の実施形態におけるコンクリート剥落防止用多層シートにおいて、補強基材はガラス繊維又はポリマーモノフィラメントを含むことができる。補強基材がこのような材料を含むことで、透明性及びコンクリートの剥落防止性を向上させることができる。
【0018】
第1の実施形態におけるコンクリート剥落防止用多層シートにおいて、補強基材はガラス繊維を含み、該補強基材の厚さ及び坪量は約0.20mm以下及び約40~約130g/m2であってもよい。このような補強基材は、コンクリートの剥落防止性を十分に備えながら、感圧接着剤が補強基材に含浸し易くなり、透明性を向上させることができ、コンクリート構造体への追従性及び貼付性にも優れる。
【0019】
第1の実施形態におけるコンクリート剥落防止用多層シートにおいて、補強基材はポリマーモノフィラメントを含み、該補強基材の厚さは約0.40mm以下であってもよい。ポリマーモノフィラメントを含む補強基材は、コンクリートの剥落防止性を十分に備えるとともに、感圧接着剤が補強基材に含浸し易くなり、透明性を向上させることができる。補強基材の厚さが約0.40mm以下であると、コンクリート構造体への追従性及び貼付性にも優れる。
【0020】
第1の実施形態におけるコンクリート剥落防止用多層シートにおいて、補強基材は目止め剤及び集束剤で処理されていないガラス繊維を含んでもよい。このような補強基材を使用すると、感圧接着剤が補強基材に含浸し易くなり、多層シートの透明性が向上する。
【0021】
第1又は第2の実施形態におけるコンクリート剥落防止用多層シートにおいて、補強基材の引張強度及び厚さが、約200N/25mm以上及び約0.05mm以上であってもよい。引張強度が約200N/25mm以上の補強基材を使用することで、コンクリートの剥落防止性を向上させることができる。補強基材の厚さが約0.05mm以上であると、多層シートの製造時に補強基材に付加されるMD方向のテンションによる縦皺が発生し難くなり、多層シートの厚み不良、外観不良を防止することができる。
【0022】
第1又は第2の実施形態におけるコンクリート剥落防止用多層シートにおいて、第1又は第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層の補強基材側と反対側にフッ素系ポリマーなどを含むポリマー層を備えてもよい。このようなポリマー層を採用することで、耐候性などの性能を向上させることができる。
【0023】
第1又は第2の実施形態におけるコンクリート剥落防止用多層シートにおいて、第1及び/又は第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層は充填剤を含まなくてもよい。感圧接着剤層に充填剤が含まれないと、補強基材への含浸性及び多層シートの透明性を向上させることができる。
【0024】
第1又は第2の実施形態におけるコンクリート剥落防止用多層シートの製造方法は、紫外線硬化型感圧接着剤を含む第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を提供する工程と、第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層上に補強基材を提供する工程と、補強基材上に、紫外線硬化型感圧接着剤を含む第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を提供し、場合によって該感圧接着剤層を含浸させる工程と、任意に、第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層上にポリマー層を提供する工程と、紫外線を照射して第1及び第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を同時に又は別個に硬化させる工程と、を備える。この製造方法は、コンクリート構造体表面の経時変化を観察するのに十分な透明性を有する多層シートを簡易に製造することができる。
【0025】
第1又は第2の実施形態におけるコンクリート剥落防止用多層シートの製造方法は、紫外線硬化型感圧接着剤の部分重合体の粘度が約10000mPa・s以下であってもよい。感圧接着剤層を構成する紫外線硬化型感圧接着剤の部分重合体の粘度がこの範囲であると、補強基材中への感圧接着剤の含浸性に優れ、得られる多層シートの透明性を向上させることができる。
【0026】
第1又は第2の実施形態におけるコンクリート剥落防止用多層シートの施工方法は、該多層シートを、コンクリート構造体に直接適用する工程、又は表面処理層を介してコンクリート構造体に適用する工程を備える。この施工方法は、施工時に塗布手段を必要とする従来の施工方法に比べ、透明性を発現させる上での熟練度を要さず、短時間で簡易に施工することができる。
【0027】
以下、本発明の代表的な実施態様を例示する目的でより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。
【0028】
本開示において「透明」又は「部分的に透明」とは、コンクリート構造体における約0.3mm以下、約0.2mm以下又は約0.1mm以下のヘアラインクラックなどを視認することができる性能を意味する。あるいは、後述する式3より算出される光透過率に基づけば、「全体的に透明」とは、コンクリート剥落防止用多層シートの光透過率が65%以上、75%以上又は80%以上であることを意味してもよく、「部分的に透明」とは、コンクリート剥落防止用多層シートの光透過率が65%超、70%以上又は75%以上であることを意味してもよい。
【0029】
本開示において「(メタ)アクリル」とはアクリル又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とはアクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0030】
本開示において「開口長」とは、例えば、
図12に示されるような略正方形の格子状の補強基材の場合では、隣接する繊維の端から端までの間の距離、即ち、略正方形の開口部における一辺「OP」を意味する。補強基材の製造工程や等方性を鑑みると開口部の形状として略正方形が望ましいように考えられるが、開口部の形状が他の場合には最大の対角線の長さを開口長としてよい。「開口領域」とは、補強基材全体の面積に対する開口部の面積の割合を意味し、例えば、
図12に示されるような略正方形の格子状開口部を備える補強基材では、繊維の太さを「D」とした場合、次の式(1)を満足する。格子状開口部が略長方形の場合には、開口部における長辺及び短辺を「OP
長」及び「OP
短」としたとき、次の式(2)を満足する。ここで、「略」とは、製造誤差などによって生じるバラつきを含むことを意味し、±約20%程度の変動が許容されることを意図する。
【数1】
【数2】
【0031】
本開示において「含浸」とは、補強基材が感圧接着剤に浸され、覆われている状態を意味する。補強基材がモノフィラメントで構成されている場合には、モノフィラメントの周囲が感圧接着剤で覆われている状態であり、補強基材がマルチフィラメントで構成されている場合には、各繊維の間の一部にも感圧接着剤が侵入しつつマルチフィラメントの周囲が覆われていることを意味する(必ずしもすべての繊維の間に感圧接着剤が侵入している必要はない)。透明性を向上するために、気泡(空気)が含まれないように覆われていることが望ましい。
【0032】
本開示の一実施態様のコンクリート剥落防止用多層シートは、第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層と、第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層上の補強基材と、補強基材上の第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層と、を備え、補強基材の屈折率が約1.40~約1.60であり、補強基材が第1及び/又は第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層の接着剤で含浸されている。
【0033】
本開示の一実施態様のコンクリート剥落防止用多層シートを
図1に斜視図で示し、該コンクリート剥落防止用多層シートを適用したコンクリート構造体を
図2に断面図で示す。
図1及び2に示すように、コンクリート剥落防止用多層シート1は、第1及び/又は第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を構成する感圧接着剤2で含浸された補強基材3を備える。
【0034】
第1及び第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層は粘着性であり、各々、同一の成分又は異なる成分から構成されてもよく、単官能モノマー及び多官能メタクリレートを含むモノマー成分を、部分重合してなる部分重合体を含有することができる。ここで、「粘着性」とは、適用温度(20℃~22℃で測定することができる)において10ラジアン/秒で測定した貯蔵弾性率(G’)が約3×105パスカル未満であることを意味する(ダールキスト基準)。
【0035】
((メタ)アクリル系感圧接着剤)
本実施形態において、(メタ)アクリル系感圧接着剤は、単官能モノマー及び多官能メタクリレートを含むモノマー成分を、部分重合してなる部分重合体を含有する。
【0036】
単官能モノマーは、アルキル基の炭素数が1~18のアルキルアクリレート(以下、場合により「C1~18アルキルアクリレート」と称する。)、並びに、ビニルカルボニル基及び極性基を有する不飽和モノマー(以下、場合により「極性不飽和モノマー」と称する。)から得ることができる。
【0037】
単官能モノマーに占めるC1~18アルキルアクリレートと極性不飽和モノマーとの割合は、単官能モノマーの総量を100質量%として、C1~18アルキルアクリレートが、約70質量%以上、約85質量%以上又は約87質量%以上、約99質量%以下又は約98質量%以下であり、極性不飽和モノマーが、約1質量%以上又は約2質量%以上、約30質量%以下、約15質量%以下又は約13質量%以下であることが好ましい。単官能モノマーに占めるC1~18アルキルアクリレートと極性不飽和モノマーとの割合が、上記範囲内であると、追従性、接着力及び保持力に優れる。
【0038】
アルキル基の炭素数が1~18のアルキルアクリレートとは、アルキルアクリレートをアクリル酸とアルキルアルコールのエステルとして見た場合に、当該アルキルアルコールの炭素数が1~18であることを意味する。すなわち、アルキルアクリレートをCH2=CH-COO-R1と表した場合、R1が、炭素数1~18のアルキル基であることを意味する。
【0039】
アルキルアクリレートのアルキル基の炭素数は、4以上であることが好ましく、12以下であることが好ましい。このようなアルキルアクリレートを単官能モノマーとして有すると、多層シートの接着力(付着力)が向上する。
【0040】
アルキルアクリレートとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、sec-ブチルアクリレート、tert-ブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ヘプチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、n-ノニルアクリレート、イソノニルアクリレート、n-デシルアクリレート、n-ウンデシルアクリレート、n-ドデシルアクリレート、n-トリデシルアクリレート、n-テトラデシルアクリレート、n-ペンタデシルアクリレート、n-ヘキサデシルアクリレート、n-ヘプタデシルアクリレート、n-オクタデシルアクリレート等が挙げられる。
【0041】
これらのうち、透明性、凹凸や曲面等への追従性、接着力、保持力等を考慮すると、n-ブチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、n-ノニルアクリレート、イソノニルアクリレート、n-デシルアクリレートが好ましく、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレートがより好ましい。
【0042】
極性不飽和モノマーは、ビニルカルボニル基及び極性基を有する。
【0043】
極性基としては、水酸基、カルボキシル基、カルバモイル基、アミノ基、エポキシ基、ニトリル基等が挙げられ、これらのうち、水酸基、カルボキシル基、アミノ基が好ましい。
【0044】
ビニルカルボニル基は、CH2=CH-C(=O)-で表される基をいう。ビニルカルボニル基と極性基とは直接結合していてもよいし、アルキレン基等の連結基を介して結合していてもよい。
【0045】
極性不飽和モノマーとしては、例えば、
2-ヒドロキシエチルアクリレート、3-ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリプロピレングリコールアクリレート等の水酸基含有不飽和モノマー;
アクリル酸等のカルボキシル基含有不飽和モノマー;
アクリルアミド等のカルバモイル基含有不飽和モノマー;
N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリレート等のアミノ基含有モノマー;
グリシジルアクリレート等のエポキシ基含有不飽和モノマー;などが挙げられる。
【0046】
透明性、追従性、接着力、保持力等を考慮すると、これらのうち、水酸基含有不飽和モノマー、カルボキシル基含有不飽和モノマー、カルバモイル基含有不飽和モノマーが好ましく、カルボキシル基含有不飽和モノマー、カルバモイル基含有不飽和モノマーがより好ましく、カルボキシル基含有不飽和モノマーがさらに好ましい。具体的には、2-ヒドロキシエチルアクリレート、アクリル酸、アクリルアミドが好ましく、アクリル酸、アクリルアミドがより好ましく、アクリル酸がさらに好ましい。
【0047】
多官能メタクリレートは、CH2=C(CH3)-C(=O)-で表される基を2つ以上有する化合物である。
【0048】
多官能メタクリレートは、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート等が挙げられる。
【0049】
透明性、追従性、接着力、保持力等を考慮すると、これらのうち、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレートが好ましい。
【0050】
モノマー成分における多官能メタクリレートの含有量は、単官能モノマー100gに対して、約0.05mmol以上又は約0.1mmol以上、約0.25mmol以下であることが好ましい。多官能メタクリレートの含有割合が上記範囲であると、追従性、接着力及び保持力に優れる。
【0051】
部分重合体は、モノマー成分を部分重合してなるものであり、「モノマー成分の部分重合体」ということもできる。
【0052】
ここで部分重合体とは、モノマー成分の少なくとも一部が重合してなる組成物であって、組成物中に、単官能モノマー又は多官能メタクリレートに由来する未反応のエチレン性不飽和結合(C=C)が存在しているものをいう。
【0053】
部分重合体の25℃における粘度は、約10000mPa・s以下、約8000mPa・s以下又は約5000mPa・s以下とすることができる。該粘度は約500mPa・s以上にすることもできる。部分重合体の粘度範囲が上記範囲であると、補強基材への含浸性が向上し且つ厚みをもたせて塗工できるため、透明性に優れる多層シートが得られるとともに、強度、追従性、接着力及び保持力に優れる多層シートを得ることができる。また、ここで規定する粘度とは、東京計器株式会社(日本国東京都港区)により製造されたB型粘度計(BH型)を用いて測定される値であり、測定は、#5又は#6ローターを用いて25℃で実施し(回転数:20rpm)、測定開始後1分の値を測定値とする。
【0054】
部分重合体の粘度は、部分重合の進行度合いによって変化し、部分重合が進行するほど部分重合体の粘度は高くなる傾向にある。そのため、部分重合体の粘度は、部分重合に用いる重合開始剤の量、部分重合の反応時間等を適宜調整することで、容易に所望の範囲に調整することができる。
【0055】
部分重合体は、未反応のモノマー成分と、該モノマー成分の重合体である固形分と、を含有するということもできる。ここで、部分重合体中の固形分量は、補強基材への含浸性等を考慮し、部分重合体の総量基準で約1質量%以上又は約2質量%以上、約10質量%以下又は約7質量%以下であることが好ましい。
【0056】
部分重合体中の固形分量は、部分重合体から未反応のモノマー成分を除去した残りの固形分の量を測定することで求めることができ、例えば、部分重合体を120℃のオーブンで2時間乾燥させた後の質量を固形分量とすることができる。
【0057】
部分重合体は、例えば、モノマー成分に光重合開始剤を配合して光照射して、モノマー成分を光重合することによって得ることができる。
【0058】
光重合開始剤としては、アゾビスインブチロニトリル等のアゾ系化合物;
ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾイソエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、α-メチルベンゾイン、α-フェニルベンゾイン等のベンゾイン類;
アントラキノン、メチルアントラキノン、クロルアントラキノン等のアントラキノン類;
p-メトキシベンゼンジアゾニウム、ヘキサフルオロフォスフェート、ジフェニルアイオドニウム、トリフェニルスルフォニウム等のオニウム塩;等が挙げられる。
【0059】
光重合開始剤としては、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン等のベンジルジアルキルケタール類;
1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン等のα-ヒドロキシアルキルフェノン類;
2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン等のα-アミノアルキルフェノン類;
2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド類;
ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム等のチタノセン類;
1.2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(0-アセチルオキシム)等のオキシムエステル類;等も挙げられる。
【0060】
光照射は、紫外線照射であることが好ましい。例えば、光重合開始剤を配合したモノマー成分に、照射強度約0.05mW/cm2以上又は約0.1mW/cm2以上、約10mW/cm2以下又は約5mW/cm2以下、照射時間約5秒以上又は約10秒以上、約300秒以下又は約240秒以下の条件で紫外線照射して、部分重合体を得ることができる。
【0061】
本実施形態において、(メタ)アクリル系感圧接着剤は、上記部分重合体とは別に、さらに多官能メタクリレートを添加したものであってもよい。但し、本実施形態において、(メタ)アクリル系感圧接着剤に配合される多官能メタクリレートの総量は、前記単官能モノマー100gに対して約0.05mmol以上又は約0.1mmol以上、約0.25mmol以下とすることができる。
【0062】
ここで「(メタ)アクリル系感圧接着剤に配合される多官能メタクリレートの総量」とは、部分重合体を得るためのモノマー成分として使用した多官能メタクリレートと、部分重合体とは別にアクリル系粘着剤組成物に添加された多官能メタクリレートの合計量を示す。
【0063】
本実施形態においては、(メタ)アクリル系感圧接着剤に配合される多官能メタクリレートの総量を上記範囲とすることで、優れた追従性と保持力を両立させることができる。
【0064】
本実施形態において、(メタ)アクリル系感圧接着剤は、部分重合体以外の成分を含有していてもよい。
【0065】
(メタ)アクリル系感圧接着剤は、紫外線硬化による感圧接着剤層の形成が容易となるため、光重合開始剤を含有していることが好ましい。光重合開始剤としては、上記と同様のものが挙げられる。紫外線硬化型の感圧接着剤の方が、熱硬化型接着剤、速硬化型接着剤等の他の接着剤に比べて、次のような優位性を有する。
(1)本開示の紫外線硬化型感圧接着剤は溶剤を含まなくてもよいため、溶剤系の接着剤等に比べて厚膜化し易い(たとえば0.3mm以上)。
(2)熱硬化型接着剤は熱重合に時間がかかるとともに、加熱時にモノマーの気泡発生のリスク(外観不良)があるが、本開示の紫外線硬化型感圧接着剤はそのようなリスクを低減することができる。
(3)補強材中への接着剤の含浸具合を考慮しながら所望の段階で硬化させることができるため、所望の透明性を確保し易い。
【0066】
(メタ)アクリル系感圧接着剤が含有する光重合開始剤は、上述の部分重合体の製造に用いた光重合開始剤の未反応物であってもよく、部分重合体の製造後に新たに添加されたものであってもよいが、感圧接着剤の分子量の調整のし易さ、生産性等を考慮すると、後者がより好ましい。
【0067】
(メタ)アクリル系感圧接着剤における光重合開始剤の含有量は、部分重合体100質量部に対して約0.01質量部以上又は約0.05質量部以上、約1.0質量部以下又は約0.5質量部以下とすることができる。
【0068】
(メタ)アクリル系感圧接着剤は、部分重合体とは別に、さらに極性不飽和モノマー等を含有していてもよい。これらを含有させることで、(メタ)アクリル系感圧接着剤の接着力を調整することができる。ここで極性不飽和モノマーとしては上記と同じものが例示される。
【0069】
(メタ)アクリル系感圧接着剤は、透明性及び補強基材への含浸性を考慮した場合、充填剤を含まないことが好ましいが、透明性に不具合を生じさせない範囲で、充填剤を含有してもよい。充填剤の含有量は、(メタ)アクリル系感圧接着剤の固形分全量基準で、約0.1体積%以上、約10体積%以下とすることができる。
【0070】
充填剤の形状は特に制限されず、球状、板状、フレーク状、針状等の形状を有する充填剤を用いることができる。これらのうち、多層シートへの成形性、補強基材への含浸性等を考慮し、球状の充填剤が好ましい。透明性の観点から、充填剤の平均粒子径は約100μm以下であることが好ましい。
【0071】
充填剤としては、例えば、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニア、バナジア、セリア、酸化鉄、酸化アンチモン、酸化スズ、アルミニウム/シリカ、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される無機物からなる無機充填剤が挙げられる。
【0072】
(メタ)アクリル系感圧接着剤は、透明性、硬化性等に不具合を生じさせない範囲で上記以外の添加剤を含有してもよい。該添加剤としては、可塑剤、粘着付与剤、顔料、染料、補強剤、強化剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、安定化剤等が挙げられる。
【0073】
(メタ)アクリル系感圧接着剤はその硬化前に、例えば真空脱泡機によって脱泡処理を施されていることが好ましい。これにより、気泡(空気)との接触による(メタ)アクリル系感圧接着剤の硬化阻害、外観不良等を抑制できる。
【0074】
図1で例示される、感圧接着剤2を含む多層シートの厚さ(第1及び第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層及び補強基材3を含む厚さ)は、例えば、約200μm以上、約400μm以上、約600μm以上、約800μm以上、又は約1000μm以上であってよい。
【0075】
(補強基材)
補強基材3は、互いに交差した複数の繊維3aで形成することができる。例えば、補強基材3は、複数の繊維3aが二方向以上又はランダムに配向した状態で互いに交差しており、当該交差点において、交絡、融着及び接着の1以上によって繊維3a間を結合させることができる。このような補強基材3としては、例えば織物、編物、不織布を使用することができる。ここでいう織物/編物は、それぞれ複数の繊維が二方向以上に配向した二軸織物/編物、三軸織物/編物等の多軸織物/編物である。補強基材3は、コンクリート構造体を好適に補強できる観点から、二軸織物又は三軸織物であることが好ましい。二軸織物又は三軸織物の織り方は、例えば平織、綾織、朱子織、からみ織、模紗織であってよい。
図1及び2に示した多層シート1においては、補強基材3として、複数の繊維3aが二方向(略直交方向)に配列した状態で互いに織り込まれている二軸織物を採用している。
【0076】
繊維3aは、モノフィラメント及びマルチフィラメントのいずれであってもよいが、感圧接着剤の補強基材への含浸性を考慮すると、モノフィラメントであることが好ましい。繊維3aは、例えばガラス、ビニロン、アラミド、ナイロン(ポリアミド)、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンの内の少なくとも1つから形成されていてよい。全体的に透明な多層シートを得る場合には、ガラス、ナイロン(ポリアミド)、ポリエステル、ポリプロピレンの内の少なくとも1つの繊維3aを含む補強基材を使用することができる。以下で述べる、部分的に透明な多層シートを得る場合には、ポリエチレン、ビニロン、アラミド、ガラスの内の少なくとも1つの繊維3aを含む補強基材を使用することができる。繊維3aは目止め剤、集束剤で処理されてもよいが、ガラス繊維の場合には、目止め剤及び集束剤で処理されていないことが好ましい。この場合、感圧接着剤の補強基材への含浸性が向上する。
【0077】
図7に示すように全体的に透明な多層シートを得る場合には、補強基材の屈折率が約1.40以上、約1.43以上又は約1.45以上、約1.60以下、約1.57以下又は約1.54以下であるとともに、感圧接着剤を含浸することが可能な補強基材を用いる。
【0078】
マルチフィラメントのガラス繊維を含む補強基材を使用して全体的に透明な多層シートを得る場合には、感圧接着剤の含浸性、多層シートの強度を考慮し、該補強基材の厚さは、約0.20mm以下、約0.15mm以下又は約0.13mm以下とすることが好ましく、補強基材の坪量は、約40g/m2以上、約50g/m2以上又は約60g/m2以上、約130g/m2以下、約120g/m2以下又は約110g/m2以下とすることが好ましい。ポリマーモノフィラメントを含む補強基材を使用して全体的に透明な多層シートを得る場合には、感圧接着剤の含浸性、多層シートの強度、可撓性及び施工性等を考慮し、該補強基材の厚さは、約0.40mm以下、約0.35mm以下又は約0.30mm以下とすることが好ましい。マルチフィラメントガラス繊維とポリマーモノフィラメントとで厚さの条件が異なるのは、マルチフィラメントの場合には厚いと感圧接着剤の含浸性が特に下がるためである。全体的又は部分的に透明な多層シートの製造時に補強基材に付加されるMD方向のテンションによる縦皺を抑制し、多層シートの厚み不良、外観不良を防止する観点から、補強基材の厚さは、約0.05mm以上、約0.06mm以上又は約0.07mm以上にすることが好ましい。
【0079】
コンクリート構造体を好適に補強する観点から、補強基材3の引張強度は、約200N/25mm以上、約300N/25mm以上又は約450N/25mm以上が好ましく、約2500N/25mm以下とすることもできる。
【0080】
本開示の別の実施態様のコンクリート剥落防止用多層シートは、第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層と、第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層上の補強基材と、補強基材上の第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層と、を備え、補強基材が約4mm以上の開口長及び約40%以上の開口領域を有し、開口領域に相当する部分が透明性を有する。
【0081】
この実施態様におけるコンクリート剥落防止用多層シートは、補強基材の開口長が約4.0mm以上、約4.5mm以上又は約5.0mm以上であり、約100mm以下、約50mm以下又は約20mm以下であってもよく、開口領域が約40%以上、約45%以上又は約50%以上であり、約90%以下、約85%以下又は約80%以下であってもよく、
図10に例示されるように部分的に透明である限り、第1及び第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層及び補強基材としては、上述と同一の構成を採用することができる。部分的に透明な多層シートは、(メタ)アクリル系感圧接着剤が補強基材の所定の大きさの開口部内に侵入していればよく、必ずしもマルチフィラメントの繊維間に侵入しなくてもよいため、補強基材の屈折率、厚さ及び坪量は上記の範囲外であってもよく、目止め剤及び集束剤を含むガラス繊維なども使用することができる。
【0082】
補強基材の開口部の形状は特に制限されず、たとえば略三角形(略正三角形、略二等辺三角形等)、略四角形(略正方形、略長方形、略菱形等)などの略多角形を使用することができる。中でも、縦方向及び横方向における強度の異方性が少ないこと、開口部への感圧接着剤の侵入のし易さ、コスト等の観点から、略正方形の開口部が好ましい。
【0083】
補強基材3は、感圧接着剤2中に配置されている。すなわち、補強基材3の両主面上には感圧接着剤2が存在しており、補強基材3の両主面は露出していない。
図2に示すように、補強基材3を形成する複数の繊維3a間に生じた開口部は、感圧接着剤2で満たされている。したがって、第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層と第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層とが同一の材料で形成される場合には、これらの接着剤層は二層構成ではなく単一構成とみなすこともできる。繊維間の開口部を感圧接着剤2が満たすことで、繊維の移動が抑制されるため、コンクリート片の剥落防止性能をより向上させることができる。
【0084】
補強基材3の両主面と対向する感圧接着剤2の各主面との間の厚さ(平均値)のうち、少なくも一方は、約10μm以上、約30μm以上又は約50μm以上が好ましい。上記以上の厚さ(平均値)側の感圧接着剤2の主面をコンクリート構造体に貼り合わせることにより、コンクリート構造体を好適に補強できる。
【0085】
図3は、コンクリート剥落防止用多層シートの他の実施形態を示す断面図である。
図3に示すように、本開示のコンクリート剥落防止用多層シート11は感圧接着剤2の一面側に透明なポリマー層5を更に備えていてもよい。
【0086】
(ポリマー層)
ポリマー層5は、耐候性、防汚性、防水性、遮塩性などの少なくとも1つの性能を付与し得る保護層として機能する材であってよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリウレタン、アクリル系ポリマー、シリコーン、フッ素系ポリマー等の樹脂を1種又は2種以上使用することができる。中でも、フッ素系ポリマーが好ましく、フッ素系ポリマーとしては、ポリフッ化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体などを1種又は2種以上使用することができる。ポリマー層5は、透明性に不具合を生じさせない範囲で、上述した充填剤、可塑剤、顔料、染料、補強剤、強化剤、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、安定化剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0087】
ポリマー層5は、感圧接着剤層に上記の樹脂を溶融押出し、塗装、溶剤キャストなどによって積層してもよく、予めフィルム又はシートの形態に成型したものを感圧接着剤層に適用してもよい。ポリマー層5は、単層又は多層構成であってもよい。また、ポリマー層と感圧接着剤層との密着性を向上させるため、ポリマー層の感圧接着剤との積層面に、コロナ処理、プラズマ処理、プライマー処理などの易接着処理をすることもできる。
【0088】
ポリマー層5の厚さは、例えば、約1μm以上、約5μm以上、又は約10μm以上、約1000μm以下、約500μm以下、又は約100μm以下であってよい。
【0089】
本開示のコンクリート剥落防止用多層シートは、感圧接着剤層のポリマー層と反対側の主面をコンクリート構造体に貼り合わせて用いられる。ポリマー層は、施工前に予め感圧接着剤層に貼り合わせておいてもよく、或いは、一方の感圧接着剤層をコンクリート構造体に貼り合わせた後に、他方の感圧接着剤層にポリマー層を貼り合わせてもよい。
【0090】
図3に示される、感圧接着剤層のポリマー層5と反対側の主面と補強基材3の主面との間の厚さ(平均値)T1は、コンクリート構造体を好適に補強できる観点から、約10μm以上、約30μm以上、又は約50μm以上が好ましい。感圧接着剤層のポリマー層5側の主面と補強基材3の主面との間の厚さ(平均値)T2は、約10μm以上、又は約20μm以上、約300μm以下、又は約100μm以下であってよい。T1とT2と補強基材3の厚みを含む感圧接着剤2全体の厚さ(
図3における上下方向の距離)は、300μm(0.3mm)以上、600μm(0.6mm)以上、1000μm(1mm)以上であってよい。
【0091】
本開示のコンクリート剥落防止用多層シート1、11は、例えば以下の方法により製造することができる。
(1)剥離性基材又はフィルム若しくはシートの形態のポリマー層5上に、例えば紫外線硬化型感圧接着剤を塗布することにより第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を形成し、必要に応じて紫外線を照射することにより第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を硬化させる。
(2)第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層上に補強基材3を配置する。第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層が未硬化である場合には、補強基材3を配置したときに、該感圧接着剤層の一部若しくは全部を補強基材3に含浸又は補強基材3の開口部に侵入させてもよい。
(3)補強基材3上に、例えば紫外線硬化型感圧接着剤を塗布することにより第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を形成し、補強基材3の未含浸又は未侵入箇所が存在する場合には、該感圧接着剤層の一部若しくは全部を補強基材3に含浸又は補強基材3の開口部に侵入させ、必要に応じて紫外線を照射することにより第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を硬化させる。第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層が未硬化である場合には、このとき同時に該感圧接着剤層を硬化させることができる。
(4)(1)の工程で剥離基材を使用する場合、任意に、ポリマー層5を例えば塗布、溶融押出し、フィルム若しくはシートの形態での貼り合わせにより第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層上に適用することができる。ポリマー層5を適用した後に、紫外線を照射することにより第1及び第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を硬化させてもよい。
【0092】
コンクリート剥落防止用多層シートは、上記実施形態以外の態様であってもよい。例えば、コンクリート剥落防止用多層シートは、第1及び第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層の両方の主面上に剥離性基材を備えていてもよい。
【0093】
本開示のコンクリート剥落防止用多層シート1、11を、例えば以下の方法によりコンクリート構造体4に施工することができる。
(1)任意に、コンクリート構造体4に、表面処理剤を塗布、乾燥させ、必要に応じ、熱や光等を適用して表面処理層を形成する。
(2)コンクリート構造体4に直接又は表面処理層を介して、コンクリート剥落防止用多層シート1、11の感圧接着剤層を適用する。
(3)任意に、コンクリート剥落防止用多層シート1のコンクリート構造体4の反対側の感圧接着剤層に、ポリマー層5をさらに適用する。
【0094】
コンクリート構造体のクラックを防止する観点から、コンクリート剥落防止用多層シートをコンクリート構造体に適用する前に、コンクリート構造体表面にアクリル系接着剤又はエポキシ系接着剤などの表面処理剤を適用することができる。該表面処理剤は、熱、光、湿気などを与えると硬化促進する促進硬化性樹脂であってもよい。適用された表面処理層は、コンクリート剥落防止用多層シートに対するプライマー層としての機能を有していてもよい。
【0095】
本開示のコンクリート剥落防止用多層シートは、橋梁、トンネル、高架道路などのコンクリート構造体からのコンクリート片の剥落防止用として好適であり、該コンクリート剥落防止用多層シートをコンクリート構造体に単に貼り合わせるだけでコンクリート構造体を好適に補強でき、コンクリート構造体の外観変化を経時的に観察することができる。
【実施例】
【0096】
以下の実施例において、本開示の具体的な実施態様を例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。部及びパーセントは全て、特に明記しない限り質量による。
【0097】
本実施例で使用した試薬、原料などを以下の表1に示す。
【0098】
【0099】
(全体的に透明なコンクリート剥落防止用多層シート)
<実施例1>
2EHA91質量部、AA9質量部、及び光重合開始剤(Irgacure 651)0.04質量部を窒素パージしたガラス容器中で混合した。得られた混合物に対して0.5mW/cm2の紫外光を照射し、該混合物を部分重合させた。紫外光を照射した後の混合物に、HDDA0.08質量部、光重合開始剤(Irgacure 651)0.1質量部を加えて粘度2000mPa・sの感圧接着剤Aを得た。
【0100】
次いで、シリコーンで処理された剥離性PETフィルム上に、得られた感圧接着剤Aを500μm厚でナイフコーティングして第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を形成し、該接着剤層上にガラス繊維クロス2116を配置した。該ガラス繊維クロス2116上に、得られた感圧接着剤Aを500μm厚でタンデムコーティングして含浸させ、第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を形成した。次いで、第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層上にシリコーンで処理された剥離性PETフィルムをもう一枚配置し、UV-Aランプを用いて0.5mW/cm2(総エネルギー:1J)の紫外光を照射して感圧接着剤層を硬化させた。
【0101】
硬化後、片側の剥離性PETフィルムを除去し、該除去面にポリマー層としてのTEFKAフィルムを積層してコンクリート剥落防止用多層シートを得た(
図7)。
【0102】
<実施例2>
補強基材をメッシュNB80に変更した以外は、実施例1と同様にしてコンクリート剥落防止用多層シートを作製した(
図7)。
【0103】
<比較例1>
例1の感圧接着剤Aに、2.0質量部のA200ヒュームドシリカ及び6.0質量部のグラスバブルズK15をさらに配合して粘度10000mPa・s以下の不透明な感圧接着剤Bとしたこと以外は、例1と同様にしてコンクリート剥落防止用多層シートを作製した(
図8)。
【0104】
<比較例2>
2EHA87.5質量部、AA12.5質量部、及び光重合開始剤(Irgacure 651)0.04質量部を窒素パージしたガラス容器中で混合した。得られた混合物に対して0.5mW/cm2の紫外光を照射し、該混合物を部分重合させた。紫外光を照射した後の混合物に、HDDA0.08質量部、光重合開始剤(Irgacure 651)0.1質量部を加えて粘度2000mPa・s以下の感圧接着剤Cを得た。
【0105】
次いで、シリコーンで処理された剥離性PETフィルム上に、得られた感圧接着剤Cを1000μm厚でナイフコーティングして(メタ)アクリル系感圧接着剤層を形成した。次いで、該(メタ)アクリル系感圧接着剤層上にシリコーンで処理された剥離性PETフィルムをもう一枚配置し、UV-Aランプを用いて0.5mW/cm2(総エネルギー:1J)の紫外光を照射して感圧接着剤層を硬化させた。
【0106】
硬化後、片側の剥離性PETフィルムを除去し、該除去面にTEFKAフィルムを積層して、補強基材を含まないコンクリート剥落防止用多層シートを得た(
図8)。
【0107】
<比較例3>
比較例2で得られた感圧接着剤Cを、シリコーンで処理された剥離性PETフィルム上に500μm厚でナイフコーティングして第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を形成し、該第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層上にシリコーンで処理された剥離性PETフィルムをもう一枚配置し、UV-Aランプを用いて0.5mW/cm2(総エネルギー:1J)の紫外光を照射して感圧接着剤層を硬化させた。この硬化させた感圧接着剤層を含む感圧接着剤シートを2つ用意した。
【0108】
一方の感圧接着剤シートの片側の剥離性PETフィルムを除去し、該除去面にガラス繊維クロス2116を積層した。次いで、もう一方の感圧接着剤シートの片側の剥離性PETフィルムを除去し、該シートをガラス繊維クロス2116上に積層して第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を形成した。さらに、この感圧接着剤層のもう一方の剥離性PETフィルムを除去し、該除去面にTEFKAフィルムを積層して、感圧接着剤を含浸させていないコンクリート剥落防止用多層シートを得た(
図8)。
【0109】
<参考例1>
補強基材であるガラス繊維クロス2116のみの構成である(
図9)。
【0110】
<参考例2>
補強基材であるメッシュNB80のみの構成である(
図9)。
【0111】
上記の各コンクリート剥落防止用多層シートについて、以下のコンクリート剥落防止評価試験1及び透明性試験1を行った。
【0112】
(コンクリート剥落防止評価試験1)
コンクリート剥落防止用多層シート11を70mm×110mmの大きさにカットしてサンプル用の多層シート11を作製した。
図6に示されるように、該多層シート11のポリマー層側が上面となるように、固定具13で下部金属ブロック14上に多層シート11を固定した。次いで、30mm×30mmの大きさの上部金属ブロック12を上方から下方に振幅させて該多層シート11を打ち抜いた。試験は室温下で実施し、振幅の大きさを25mm、波長を0.1Hzとし、上部金属ブロック12の変位量及び荷重を観察し、得られた最大荷重を最大打ち抜き強度とした。ここで、振幅の大きさが25mmとは、多層シートの上面を基準0mmとして上部金属ブロック12の下端を多層シート上面より25mm上方(+25mm)に位置するように配置し、上部金属ブロック12を下方に移動して多層シートと接触させ、ここからさらに25mm下方(-25mm)まで移動させることを意味する。コンクリート剥落防止評価試験1において、最大押し抜き強度は、500N以上、好ましくは800N以上、より好ましくは1100N以上である。最大押し抜き強度がこの範囲であると、コンクリート剥落防止用多層シートの用途として望ましい。
【0113】
(透明性試験1)
コンクリート剥落防止用多層シートを所定のクラックを有するコンクリート構造体の上に適用して透明性を目視観察した。コンクリート構造体における0.3mm以下のヘアラインクラックを観察できなかったもの又は施工後の外観に問題のあるものを「+」、0.3mm以下、0.1mm超のヘアラインクラックを観察できたものを「++」、0.1mm以下のヘアラインクラックを観察できたものを「+++」とした。
【0114】
【0115】
(部分的に透明なコンクリート剥落防止用多層シート)
<実施例3>
補強基材をCRENETTE(登録商標)DN1000に変更した以外は、実施例1と同様にしてコンクリート剥落防止用多層シートを作製した(
図10)。
【0116】
<実施例4>
補強基材をCRENETTE(登録商標)VHA1102に変更した以外は、実施例1と同様にしてコンクリート剥落防止用多層シートを作製した(
図10)。
【0117】
<比較例4>
補強基材をガラスクロスM340に変更した以外は、実施例1と同様にしてコンクリート剥落防止用多層シートを作製した(
図11)。
【0118】
<比較例5>
例1で得られた感圧接着剤Aを、シリコーンで処理された剥離性PETフィルム上に500μm厚でナイフコーティングして第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を形成し、該第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層上にシリコーンで処理された剥離性PETフィルムをもう一枚配置し、UV-Aランプを用いて0.5mW/cm2(総エネルギー:1J)の紫外光を照射して感圧接着剤層を硬化させた。この硬化させた感圧接着剤層を含む感圧接着剤シートを2つ用意した。
【0119】
一方の感圧接着剤シートの片側の剥離性PETフィルムを除去し、該除去面にCRENETTE(登録商標)DN1000を積層した。次いで、もう一方の感圧接着剤シートの片側の剥離性PETフィルムを除去して該シートをCRENETTE(登録商標)DN1000上に積層して第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を形成した。さらに、この感圧接着剤層のもう一方の剥離性PETフィルムを除去し、該除去面にTEFKAフィルムを積層して、感圧接着剤を補強基材の開口部に侵入させていないコンクリート剥落防止用多層シートを得た(
図11)。
【0120】
実施例3~4及び比較例4~5における、コンクリート剥落防止評価試験1及び透明性試験1の結果を表3に示す。
【0121】
【0122】
(コンクリート剥落防止評価試験2)
NEXCO試験法424-2011にしたがって測定した。まず、
図4及び5に示すように、縦400mm、横600mm、高さ60mmのコンクリートブロック7の中央に、コンクリート用コアカッターにより内径100mm、溝幅5mm、深さ55mmの残存部を有するコア部を形成した。このコンクリートブロック7のコア部と反対の面にアルファテック380を塗布してプライマー層を形成した後、コンクリート剥落防止用多層シートを適用した。施工面積は縦400mm、横400mmとした。次いで、
図4及び5に示すように、押抜き試験機6の剥落防止性を確認できる高さh以上の位置に、50℃又は-30℃の雰囲気下で、コンクリートブロック7を設置した。コンクリートブロック7のコア部を、球面座8を介して矢印の方向に1mm/minの速度で、コア部の残存部が破壊するまで載荷した。破壊後は5mm/minで載荷してコンクリート剥落防止用多層シートに強制変位を与え、荷重と変位を荷重計9及び変位計10で連続的に記録した。その間、10mm、20mm、30mmの各変位において載荷を一時中断し、コンクリート剥落防止用多層シートの剥離範囲の計測(マーキング)を行った。変位が30mmまでの間において最終的な耐荷力が確認できた場合には、その時点で試験を終了した。さらに耐荷力を有すると判断した場合には、約50mm程度まで載荷を継続した。なお、最大荷重が大きく、最大変位量が小さいものが剥落防止性に優れることを示す。コンクリート構造体の補強部材の合格基準は、NEXCO試験法では、1.5kN以上である。また、NEXCO試験法以外のたとえば首都高速道路株式会社の試験法では、最大荷重が0.3kN以上1.5kN未満のものをB種、1.5kN以上のものをA種と区別して使用されているが、測定温度が50℃や零下ではなく、室温(23℃)と定められており、この首都高速道路株式会社の測定温度の場合には、50℃や零下で測定したときの最大荷重の値よりも高い値を示す(より実施的に低い機械強度の材料であってもA種やB種のレベルを超える)ことが予測される。このように、最大荷重の要求性能は使用用途に応じて変動するが、NEXCO試験法の合格基準のレベルを超えることが一つの目安であり、また首都高速道路株式会社の試験法のA種やB種のレベルを超えることが続くレベルといえる。
【0123】
以下の実施例5~7におけるコンクリート剥落防止用多層シートについて、コンクリート剥落防止評価試験2を行い、その結果を表4に示す。
【0124】
<実施例5>
2EHA及びAAの配合量を90質量部及び10質量部に変更し、かつ、補強基材及びポリマー層をH105H及びDXフィルムに変更した以外は、実施例1と同様にして全体的に透明なコンクリート剥落防止用多層シートを作製した。
【0125】
<実施例6>
補強基材をCRENETTE(登録商標)VHA1102に変更した以外は、実施例5と同様にして部分的に透明なコンクリート剥落防止用多層シートを作製した。
【0126】
<実施例7>
補強基材をCRENETTE(登録商標)DN1000に変更した以外は、実施例5と同様にして部分的に透明なコンクリート剥落防止用多層シートを作製した。
【0127】
【0128】
表4に示すように、本開示のコンクリート剥落防止評価試験2において、実施例5~7はNEXCO試験法の合格基準に相当する1.5kN以上の値を示し、コンクリート剥落防止の用途において特に高い最大荷重の要求を満たしている。
【0129】
なお、参考のため、本開示のコンクリート剥落防止評価試験2と1の結果を比較する。実施例6と実施例4とが同じ補強基材CRENETTE(登録商標)VHA1102を用いており、実施例7と実施例3とが同じ補強基材CRENETTE(登録商標)DN1000を用いている。2EHA及びAAの配合量は1質量部の差であり、表面のポリマー層は最大荷重に大きな影響までは与えないことを鑑みると、NEXCO試験法の合格基準を満たしている実施例6及び7と、実施例4及び3は近似の最大荷重を示すものと推定される。よって、実施例4及び3のコンクリート剥落防止評価試験1の結果である最大打ち抜き強度1289N及び1158Nの基準に近い1100Nを超えている実施例1~4は、コンクリート剥落防止の用途において特に高い最大荷重の要求を満たしていると推定される。
【0130】
(透明性に関する比較試験)
<比較例6>
150番の研磨布でモルタル板を研磨して下地処理した後、アルファテック380を塗布してプライマー層を形成した。24時間乾燥させた後、ハードロックII DK550-003をプライマー層上に塗布し、その上にNAVシートを設置し、さらにハードロックII DK550-003を重ね塗りして、従来工法に従うコンクリート構造体の補修を実施した。その結果を
図13の左側に示し、右側には実施例1のコンクリート剥落防止用多層シートをコンクリート構造体に適用した後の外観写真を示す。比較例6の従来工法でも、ある程度の透明性は得られてはいるが、補強基材、塗布ムラ等に基づく凹凸表面が明確に確認でき、本願例示態様の実施例1のものと比べると、その透明性は明らかに劣っていることが確認できた。また、比較例6の従来工法による補修部の外観は、接着剤の塗布量、作業者の熟練度などに依存するところも大きく、本願例示態様の実施例1と同様な視認性を安定して得ることは困難であることが容易に予測し得る。
【0131】
(透明性試験2)
色彩照度計(コニカミノルタ社製:CL-200A)の受光部を覆うように、測定サンプル(補強基材又はコンクリート剥落防止用多層シート)を配置して各サンプルの照度(LX
1)を測定した。測定サンプルを受光部に覆わない場合の照度(LX
0)に基づき、各測定サンプルの光透過率を下記の式(3)より算出した。その結果を表5、6に示す。ここで、表5は、全体的に透明なコンクリート剥落防止用多層シートの実施例1、2及び補強基材以外は実施例1と同じ方法で作製された各種サンプルの結果であり、表6は、部分的に透明なコンクリート剥落防止用多層シートの実施例3、4及び比較例4の結果である。なお、表6の結果は、格子部分と開口部分との両方を含むサンプルに光を照射して得られた照度によるものである。
【数3】
【0132】
【0133】
【0134】
本発明の基本的な原理から逸脱することなく、上記の実施態様及び実施例が様々に変更可能であることは当業者に明らかである。また、本発明の様々な改良及び変更が本発明の趣旨及び範囲から逸脱せずに実施できることは当業者には明らかである。
【符号の説明】
【0135】
1、11 コンクリート剥落防止用多層シート
2 感圧接着剤
3 補強基材
3a 繊維
4 コンクリート構造体
5 ポリマー層
6 押抜き試験機
7 コンクリートブロック
8 球面座
9 荷重計
10 変位計
12 上部金属ブロック
13 固定具
14 下部金属ブロック
本開示の実施態様の一部を以下の[項目1]-[項目14]に記載する。
[項目1]
第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層と、
前記第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層上の補強基材と、
前記補強基材上の第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層と、を備える、コンクリート剥落防止用多層シートであって、
前記補強基材の屈折率が1.40~1.60であり、
前記補強基材が前記第1及び/又は第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層の接着剤で含浸されている、コンクリート剥落防止用多層シート。
[項目2]
第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層と、
前記第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層上の補強基材と、
前記補強基材上の第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層と、を備える、コンクリート剥落防止用多層シートであって、
前記補強基材が4.0mm以上の開口長及び40%以上の開口領域を有し、
前記開口領域に相当する部分が透明性を有する、コンクリート剥落防止用多層シート。
[項目3]
前記補強基材が、ガラス繊維又はポリマーモノフィラメントを含む、項目1又は2に記載のコンクリート剥落防止用多層シート。
[項目4]
前記補強基材がガラス繊維を含み、該補強基材の厚さ及び坪量が0.20mm以下及び40~130g/m
2
である、項目1記載のコンクリート剥落防止用多層シート。
[項目5]
前記補強基材がポリマーモノフィラメントを含み、該補強基材の厚さが0.40mm以下である、項目1に記載のコンクリート剥落防止用多層シート。
[項目6]
前記補強基材が目止め剤及び集束剤で処理されていないガラス繊維を含む、項目1又は4に記載のコンクリート剥落防止用多層シート。
[項目7]
前記補強基材の引張強度及び厚さが、200N/25mm以上及び0.05mm以上である、項目1~6の何れか一項に記載のコンクリート剥落防止用多層シート。
[項目8]
前記第1又は第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層の補強基材側と反対側にポリマー層を備える、項目1~7の何れか一項に記載のコンクリート剥落防止用多層シート。
[項目9]
前記ポリマー層がフッ素系ポリマー層である、項目8記載のコンクリート剥落防止用多層シート。
[項目10]
前記第1及び/又は第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層が充填剤を含まない、項目1~9の何れか一項に記載のコンクリート剥落防止用多層シート。
[項目11]
第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を提供する工程であって、該感圧接着剤層が紫外線硬化型感圧接着剤を含む、工程と、
前記第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層上に補強基材を提供する工程と、
前記補強基材上に第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を提供する工程であって、該感圧接着剤層が紫外線硬化型感圧接着剤を含む、工程と、
紫外線を照射して前記第1及び第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を硬化させる工程と、を備える、項目1~10の何れか一項に記載のコンクリート剥落防止用多層シートの製造方法。
[項目12]
前記紫外線硬化型感圧接着剤の部分重合体の粘度が10000mPa・s以下である、項目11に記載のコンクリート剥落防止用多層シートの製造方法。
[項目13]
コンクリート構造体の剥落を防止する多層シートの施工方法であって、
項目1~10の何れか一項に記載のコンクリート剥落防止用多層シートを、コンクリート構造体に直接適用する工程、又は表面処理層を介してコンクリート構造体に適用する工程を備える、施工方法。
[項目14]
紫外線硬化型感圧接着剤を含む第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を提供する工程と、
前記第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層上に屈折率が1.40~1.60である補強基材を提供する工程と、
前記補強基材上に、紫外線硬化型感圧接着剤を含む第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を提供して含浸させる工程と、
紫外線を照射して前記第1及び第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層を同時に又は別個に硬化させる工程と、を備える、コンクリート剥落防止用多層シートの製造方法。