(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】リモネン含有炭酸飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/00 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
A23L2/00 B
A23L2/00 T
A23L2/00 A
(21)【出願番号】P 2016247645
(22)【出願日】2016-12-21
【審査請求日】2019-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100196243
【氏名又は名称】運 敬太
(72)【発明者】
【氏名】冨安 佑騎
(72)【発明者】
【氏名】朝見 陽次
【審査官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/148761(WO,A1)
【文献】特開平10-136953(JP,A)
【文献】特開平10-136952(JP,A)
【文献】特開2015-062408(JP,A)
【文献】特開2015-204771(JP,A)
【文献】リモネン含有量(%)精油の一覧表(フィトアロマ研究所発売精油): フィトアロマ研究所 オーガニック&希少精油販売 [online],インターネット,2008年09月26日,[Retrieved on 2021.03.25],http://aromahonjin.way-nifty.com/blog/2008/09/post-8ec8.html
【文献】日本食品工業学会誌,1992年,Vol.39, No.1,p.16-24
【文献】Burdock,Fenaroli's handbook of flavor ingredients, CRC Press, 2010, p.1090-1091
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リモネンの含有量が
60~200ppmであり、
炭酸ガス圧が1.0~2.7kgf/cm
2であり、
pHが2.7~3.8であり、
果汁含有量が5%未満であり、
前記リモネンがリモネン含有乳化香料として配合されたものである、炭酸飲料。
【請求項2】
加熱殺菌処理されたものである、請求項1に記載の炭酸飲料。
【請求項3】
容器詰め飲料である、請求項1又は2に記載の炭酸飲料。
【請求項4】
前記果汁がレモン果汁を含むものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の炭酸飲料。
【請求項5】
非アルコール飲料である、請求項1~4のいずれか1項に記載の炭酸飲料。
【請求項6】
炭酸飲料の製造方法であって、
(a)リモネンを、リモネン含有乳化香料として配合して、飲料中のリモネンの含有量を
60~200ppmに調整する工程、
(b)飲料中の炭酸ガス圧を1.0~2.7kgf/cm
2に調整する工程、
(c)飲料のpHを2.7~3.8に調整する工程、及び、
(d)飲料が果汁を含む場合は、飲料中の果汁含有量を5%未満に調整する工程、
を含む、前記製造方法。
【請求項7】
前記果汁がレモン果汁を含むものである、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記飲料が非アルコール飲料である、請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項9】
炭酸飲料における炭酸ガス特有の苦味と刺激を緩和する方法であって、
(a)リモネンを配合して、飲料中のリモネンの含有量を50~200ppmに調整する工程、
(b)飲料中のガス圧を1.0~2.7kgf/cm
2に調整する工程、
(c)飲料のpHを2.7~3.8に調整する工程、及び、
(d)飲料が果汁を含む場合は、飲料中の果汁含有量を5%未満に調整する工程、
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リモネン含有炭酸飲料に関する。より詳細には、炭酸ガス特有の苦味と刺激が緩和されたリモネン含有炭酸飲料、前記炭酸飲料の製造方法、及び炭酸飲料における炭酸ガス特有の苦味と刺激を緩和する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸飲料は、飲料に含まれる炭酸によって爽快感を感じることができるため、嗜好性に優れた飲料として幅広い層の消費者に好んで飲用されている。現在市販されている炭酸飲料は多種多様であるが、容器を開栓した際又はコップ等の容器に注いだ際の泡立ちにより飲用者を視覚的に楽しませたり、飲用者にのど越しの爽快感を与えたりする等の特性を有している。また、炭酸飲料には食欲増進効果があることも知られている。
【0003】
さらに近年、泡感が改善された炭酸飲料や、炭酸感や爽快感が高められた炭酸飲料などが開発されている。例えば、特許文献1には、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、又は塩化カルシウムのような二価の無機金属塩を特定量で添加することにより、炭酸飲料の泡感が改善されることが開示されている。また、特許文献2には、スパークリングワインにポリグリセリン脂肪酸エステルを添加することで、ワインの泡感及び炭酸感を高めることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-246771号公報
【文献】特開2014-128246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炭酸飲料には上記のような特徴がある一方で、炭酸ガス特有の苦味と刺激がある。そのため、炭酸飲料における炭酸ガス特有の苦味と刺激を緩和することができれば、炭酸飲料をよりストレスなく飲用することができる。
【0006】
本発明は、炭酸ガス特有の苦味と刺激が緩和され、後口の良好な飲みやすい炭酸飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、炭酸ガス圧が1.0kgf/cm2以上の炭酸飲料では、炭酸ガス特有の苦味と刺激が認識されることを見出した。さらに、本発明者らは、驚くべきことに、前記のような炭酸飲料にリモネンを配合し、その含有量を50~200ppmに調整し、かつ炭酸飲料のpHを2.7~3.8に調整することで、炭酸ガス特有の苦味と刺激を緩和できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、これらに限定されないが、以下を含む。
(1)リモネンの含有量が50~200ppmであり、
炭酸ガス圧が1.0~2.7kgf/cm2であり、
pHが2.7~3.8であり、
果汁含有量が5%未満である、炭酸飲料。
(2)リモネンがリモネン含有乳化香料として配合されたものである、請求項(1)に記載の炭酸飲料。
(3)加熱殺菌処理されたものである、(1)又は(2)に記載の炭酸飲料。
(4)容器詰め飲料である、(1)~(3)のいずれかに記載の炭酸飲料。
(5)炭酸飲料の製造方法であって、
(a)リモネンを配合して、飲料中のリモネンの含有量を50~200ppmに調整する工程、
(b)飲料中の炭酸ガス圧を1.0~2.7kgf/cm2に調整する工程、
(c)飲料のpHを2.7~3.8に調整する工程、及び、
(d)飲料が果汁を含む場合は、飲料中の果汁含有量を5%未満に調整する工程、
を含む、前記製造方法。
(6)炭酸飲料における炭酸ガス特有の苦味と刺激を緩和する方法であって、
(a)リモネンを配合して、飲料中のリモネンの含有量を50~200ppmに調整する工程、
(b)飲料中のガス圧を1.0~2.7kgf/cm2に調整する工程、
(c)飲料のpHを2.7~3.8に調整する工程、及び、
(d)飲料が果汁を含む場合は、飲料中の果汁含有量を5%未満に調整する工程、
を含む、前記方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、炭酸飲料における炭酸ガス特有の苦味と刺激が緩和された、後口の良好な飲みやすい炭酸飲料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.リモネン含有炭酸飲料
本発明の一態様は、リモネンの含有量が特定の範囲内であり、炭酸ガス圧が特定の範囲内であり、pHが特定の範囲内であり、果汁含有量が特定の範囲内である、炭酸飲料である。
【0011】
1-1.炭酸飲料
本発明の飲料は、炭酸ガスを含有させた炭酸飲料である。炭酸飲料における炭酸ガス圧は、低すぎると炭酸ガスの刺激や苦味がほとんど感じられず、高すぎると炭酸ガス圧の刺激や苦味が強すぎて緩和できない。従って、本発明の炭酸飲料における炭酸ガス圧は、20℃において好ましくは1.0kgf/cm2以上、より好ましくは1.1kgf/cm2以上、さらに好ましくは1.2kgf/cm2以上であり、好ましくは2.7kgf/cm2以下、より好ましくは2.5kgf/cm2以下、さらに好ましくは2.3kgf/cm2以下である。典型的には、本発明の炭酸飲料における炭酸ガス圧は、20℃において1.0~2.7kgf/cm2、好ましくは1.1~2.5kgf/cm2、より好ましくは1.2~2.3kgf/cm2である。
【0012】
飲料中の炭酸ガス圧は、当業者に通常知られる方法を用いて調製することができ、特に限定されない。例えば、二酸化炭素を加圧下で飲料に溶解させてもよいし、ツーヘンハーゲン社のカーボネーターなどのミキサーを用いて配管中で二酸化炭素と飲料とを混合してもよい。また、二酸化炭素が充満したタンク中に飲料を噴霧することにより二酸化炭素を飲料に吸収させてもよいし、飲料と炭酸水などを混合してもよい。
【0013】
飲料中の炭酸ガス圧の測定は、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば、京都電子工業製ガスボリューム測定装置GVA-500Aを用いて測定することができる。より詳細には、試料温度を20℃とし、前記ガスボリューム測定装置において容器内空気中のガス抜き(スニフト)、振とう後、炭酸ガス圧を測定する。本明細書においては、特段の記載がない限り、当該方法によって炭酸ガス圧を測定する。
【0014】
1-2.リモネン
本発明の炭酸飲料は、リモネンを含有する。リモネン(d-limonene、C10H16)は、柑橘系果実の果皮などに含まれる単環式モノテルペンの一種であり、いわゆる柑橘様の香りを呈する成分である。本発明の炭酸飲料におけるリモネンの含有量は、好ましくは50ppm以上であるが、50~200ppmの範囲であれば60ppm以上、70ppm以上、80ppm以上、90ppm以上とすることができる。また、リモネン含有量は好ましくは200ppm以下であるが、50~200ppmの範囲であれば180ppm以下、150ppm以下、100ppm以下とすることができる。典型的には、本発明の炭酸飲料におけるリモネンの含有量は50~200ppm、好ましくは50~180ppm、より好ましくは50~150ppmである。
【0015】
前述の通り、リモネンは柑橘系果実の「果皮」に多く含まれ、柑橘系果実の「果肉」にはあまり含まれない。従って、果皮以外の果肉を用いて製造される一般的な柑橘系果汁には、リモネンはほとんど含まれていない。
【0016】
炭酸ガス圧が1.0~2.7kgf/cm2の炭酸飲料に対して、リモネンの含有量が50ppmより少ないと、炭酸ガス特有の苦味と刺激の緩和効果が得られない。一方で、リモネン含有量が200ppmより多いと、リモネン特有の柑橘様の香りが強くなり過ぎ、飲料の風味バランスや味の厚みのバランスが崩れる。本発明では、炭酸ガス圧が1.0~2.7kgf/cm2の炭酸飲料に対して、リモネンを上記の量で含有させることにより、炭酸ガス特有の苦味と刺激を適度に緩和しながら、後口の良好な飲みやすい炭酸飲料を提供することが可能となる。
【0017】
本発明では、炭酸飲料中のリモネンの含有量が上記の範囲内にあれば、リモネン含有量の調整方法は特に限定されない。例えば、市販品や合成品のリモネンを用いることや、リモネンを含む精油、香料、乳化香料等を用いることや、リモネンを含む果汁を用いることもできる。また、市販品や合成品のリモネンやリモネンを含む精油、香料、乳化香料等を2種類以上組み合わせて調整してもよい。
【0018】
(リモネン含有量の測定方法)
本発明の炭酸飲料中のリモネン含有量の測定方法は特に限定されないが、例えば、以下のような方法が挙げられる。
【0019】
まず、試料6~8gに水150mL及びヘプタン8mLを加えて、精油定量用蒸留装置で90分間蒸留する。その後、ヘプタン層を回収し、当該ヘプタン層に含まれるリモネン含有量をガスクロマトグラフィー分析で測定する。ガスクロマトグラフィー分析条件は以下の通りである。
【0020】
(GC-MS分析条件)
GC装置:7890A/5975C inertXL(Agilent Technologies社製)
カラム:DB-WAX(Agilent Technologies社製)
カラム長さ:30m、カラム内径:250μm、カラム膜厚:0.25μm
導入系:スプリット 10:1
注入量:1μL
温度:試料注入口 220℃
GCオーブン温度条件:40℃(5分)-15℃/min-220℃(5分)
ガス流量:ヘリウム(キャリヤーガス) 1mL/min
イオン源温度:230℃
イオン化法:EI
設定質量数:m/z 136、107
1-3.pH
本発明の炭酸飲料のpHは特に限定されないが、pHが低すぎると味わいがシャープになりすぎてリモネンの効果が期待できず、pHが高すぎるとミネラル(ナトリウムなど)の後味が強くなり、リモネンの効果が低下する。従って、本発明の炭酸飲料におけるpHは、好ましくは2.7以上、より好ましくは2.8以上、さらに好ましくは2.9以上であり、好ましくは3.8以下、より好ましくは3.7以下、さらに好ましくは3.6以下である。典型的には、本発明の炭酸飲料におけるpHは2.7~3.8、好ましくは2.8~3.7、より好ましくは2.9~3.6である。
【0021】
pHの調整のためには、公知の方法を用いることができるが、例えば、飲料に使用する酸味料の量を調整することでpHを調整できる。
pHの測定方法としては公知の方法を用いることができ、例えば、JIS Z 8802 pH測定方法に従って、pHメーター(JIS Z 8805 pH測定用ガラス電極)を用いて20℃にて測定することができる。
【0022】
1-4.果汁
本発明の炭酸飲料は無果汁であっても、1種類又は2種類以上の果汁を含んでいてもよい。本発明においては、果汁の種類は特に限定されないが、リモネンを豊富に含む柑橘系果汁を含有させることもできるし、非柑橘系の果汁を含有させることもできる。本発明の炭酸飲料中の果汁の含有量は特に限定されないが、果汁含有量が5.0w/w%以上になると、果汁の厚みや味わいが目立ち、リモネンの効果が低下する。そのため、本発明の炭酸飲料における果汁の含有量は、果汁中のリモネンの含有量にもよるが、果汁率に換算して5.0w/w%未満が好ましい。また、本発明の炭酸飲料における果汁の含有量は、果汁率に換算して、好ましくは0w/w%以上、より好ましくは0.5w/w%以上、さらにより好ましくは1.0w/w%以上であり、好ましくは5.0w/w%未満、より好ましくは4.0%w/w以下、さらにより好ましくは3.0w/w%以下である。典型的には、本発明の炭酸飲料における果汁の含有量は0w/w%以上5.0w/w%未満、好ましくは0.5w/w%以上4.0w/w%以下、より好ましくは1.0w/w%以上3.0w/w%以下である。
【0023】
なお、本発明では、炭酸飲料中の「果汁率」を飲料100g中に配合される果汁配合量(g)を用いて下記換算式によって計算することとする。また、濃縮倍率を算出する際はJAS規格に準ずるものとし、果汁に加えられた糖質、はちみつ等の糖用屈折計示度を除くものとする。
【0024】
果汁率(w/w%)=<果汁配合量(g)>×<濃縮倍率>/100mL/<飲料の比重>×100
本発明では、上記の通り、リモネンを含む果汁を用いて飲料中のリモネンの含有量を調整することができる。その場合、果汁にリモネンが含まれていれば果汁の種類は特に限定されないが、リモネンは柑橘系果実の果皮に多く含まれル成分であるため、柑橘系果実由来の果汁を使用することが好ましく、例えば、レモン果汁、グレープフルーツ果汁、オレンジ果汁、カボス果汁、キンカン果汁、ウンシュウミカン果汁、ナツミカン果汁、スウィーティー果汁、ユズ果汁、シークワァーサー果汁、ライム果汁等が挙げられ、レモン果汁を使用することが特に好ましい。
【0025】
本発明の炭酸飲料に使用する果汁は、ストレート果汁、ストレート果汁を希釈した果汁、濃縮果汁及び濃縮還元果汁のいずれを用いて調製したものであってもよい。なお、ストレート果汁とは、果実の搾汁に対し、濃縮や希釈などを行っていない果汁をいう。また、濃縮果汁とは、ストレート果汁に対し、加熱濃縮法や冷凍濃縮法などによって果汁中の水分を取り除き、果汁の濃度を高めたものをいう。また、濃縮還元果汁とは、濃縮果汁に対し、計算上、ストレート果汁と同等の濃度となるように水等で希釈した果汁をいう。さらに、透明果汁、混濁果汁を使用することもでき、果実の外皮を含む全果を破砕し種子など特に粗剛な固形物のみを除いた全果果汁、果実を裏ごしした果実ピューレ、又は乾燥果実の果肉を破砕若しくは抽出した果汁を用いることもできる。
【0026】
また、果汁は、非加熱殺菌された果汁を用いても、加熱殺菌したものを用いてもよい。なお、非加熱殺菌としては、例えば、メンブレンフィルターや中空糸を用いたろ過滅菌、紫外線殺菌などが挙げられる。また、加熱殺菌としては、例えば、100℃以上で行う高温殺菌、100℃未満で行う低温殺菌などが挙げられる。
【0027】
1-5.リモネン含有乳化香料
乳化香料は、乳化剤を使用して香気成分をミセル化することにより分散性を高めた香料であり、コールドプレス(CP)オイルやテルペンレスオイルから難水溶性成分を分離処理していないため力強い香味を実現することができる。本明細書において乳化香料というときは、特に記載した場合を除き、CPオイル及び/又はテルペンレスオイルを含む油相と、乳化剤を含む水相を攪拌混合することによって、油相に含まれる難水溶性成分を乳化したものをいう。確実に乳化し、かつ安定化させるため、乳化香料は通常、臨界ミセル濃度(CMC)以上の過剰の乳化剤を含有している。本発明に用いられる乳化香料は、このような過剰の乳化剤を含有したものである。
【0028】
乳化香料における香料(CPオイル及び/又はテルペンレスオイル)の濃度は、例えば0.25%(w/w)以上、好ましくは0.50%(w/w)以上、さらに好ましくは1.0%(w/w)以上とすることができる。
【0029】
一般に、乳化剤には大別して天然乳化剤と合成乳化剤がある。天然乳化剤としてはアラビアガム、ガティーガム、グァーガムなどが、合成乳化剤としてグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられる。合成系の乳化剤には特有の苦味があり、天然原料と併用した場合には凝集、沈殿を生じやすいという難点がある。天然乳化剤は合成乳化剤と比較して、幅広く飲料に適用でき、ミセルの粒子が大きくなるため白濁しやすいものの、それにより複雑な味、厚み、ボディーが付与できるなどの効果も得られる。
【0030】
本発明に用いられる乳化香料においては、乳化剤は天然乳化剤であることが好ましい。このような乳化剤の好ましい例は、アラビアガム、ガティーガム、グァーガム、カラヤガム、カロブビーンガム(ローカストビ-ンガム)、キサンタンガム、ジェランガム、トラガンドガム、サイリウムシードガム、カラギナン、微小繊維状セルロース(微結晶セルロース)、ファーセレラン、ペクチン、寒天、シクロデキストリン、ゼラチン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリデキストロース、アラビノガラクタン、カードラン、加工ユーケマ藻類、精製カラギナンユーケマ藻末、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリアクリル酸ナトリウム、カゼインナトリウムである。
【0031】
本発明に用いられる乳化香料においては、比重調整を目的として、乳化効果が十分でない界面活性剤が、天然乳化剤とともに用いられる場合がある。このような界面活性剤の例は、ショ糖脂肪酸エステルである。
【0032】
乳化香料に用いられる香料は、オイル香料に用いられる精油と同一又は同種の起源物質から得られたものであってもよく、また、異なっていてもよい。本発明において用いられる精油及び/又は香料の起源物質は、リモネンを含むものであれば特に限定されないが、例えば、レモン、グレープフルーツ、オレンジ、カボス、キンカン、ウンシュウミカン、ナツミカン、スウィーティー、ユズ、シークワァーサー、ライム等が挙げられ、レモンを使用することが好ましい。なお、本明細書においては、リモネンを含有する乳化香料を「リモネン含有乳化香料」と称する。
【0033】
乳化香料には、オイル、乳化剤、油相の溶媒(例えば、プロピレングリコール、食用油脂)、及び水相の溶媒(例えば、水)のほか、キレート剤(例えば、フィチン酸)、トコフェノール、L-アスコルビン酸、色素類を含んでいてもよい。
【0034】
1-6.他の成分
本発明の炭酸飲料には、上記の果汁や香気成分に加えて、通常の飲料に配合するような、糖類、甘味料、酸味料、ビタミン、色素類、酸化防止剤、乳化剤、保存料、調味料、エキス類、pH調整剤、品質安定剤等を配合することができる。
【0035】
1-7.飲料の種類
本発明の炭酸飲料の種類は特に限定されない。例えば、清涼飲料、果汁含有飲料、乳性飲料、茶飲料、コーヒー飲料、健康飲料、スポーツ飲料などの非アルコール飲料であっても、アルコール飲料であってもよいが、本発明の炭酸飲料は非アルコール飲料であることが好ましい。
【0036】
1-8.容器詰め飲料、加熱殺菌処理された飲料
本発明の炭酸飲料は、容器詰め飲料とすることもできる。容器詰め飲料とすることにより長期間に渡って安定に保存することが可能になるため好適である。容器詰め飲料の容器は特に限定されず、金属製容器、樹脂製容器、紙容器、ガラス製容器など、通常用いられる容器のいずれも用いることができる。具体的には、アルミ缶やスチール缶などの金属製容器、PETボトルなどの樹脂製容器、紙パックなどの紙容器、ガラス瓶などのガラス製容器などを挙げることができる。
【0037】
また、本発明の炭酸飲料は、加熱殺菌処理されていても、加熱殺菌処理されていなくてもよい。本発明の炭酸飲料を加熱殺菌処理する場合、加熱殺菌方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、炭酸飲料や炭酸ガス封入前の飲料を容器に充填した後に加熱殺菌を行う方法や、炭酸ガス封入前の飲料を加熱殺菌して容器に充填する方法などにより、加熱殺菌処理された容器詰め飲料を製造することができる。より具体的には、ペットボトルや紙パック、瓶飲料、パウチ飲料などの容器詰め飲料とする場合には、例えば90~130℃で1~60秒保持するFP又はUHT殺菌を行うことができる。本発明の炭酸飲料を容器詰め飲料とする場合は、ホットパック充填法又は無菌充填法のいずれも用いることができる。
【0038】
2.炭酸飲料の製造方法、炭酸ガス特有の苦味と刺激を緩和する方法
本発明の一態様は、炭酸飲料の製造方法であって、(a)リモネンを配合して、炭酸飲料中のリモネンの含有量を50~200ppmに調整する工程、(b)炭酸飲料中の炭酸ガス圧を1.0~2.7kgf/cm2に調整する工程、(c)飲料のpHを2.7~3.8に調整する工程、及び(d)飲料が果汁を含む場合は、飲料中の果汁含有量を5%未満に調整する工程、を含む、前記製造方法である。また、別の態様では、炭酸飲料における炭酸ガス特有の苦味と刺激を緩和する方法であって、(a)リモネンを配合して、炭酸飲料中のリモネンの含有量を50~200ppmに調整する工程、(b)炭酸飲料中の炭酸ガス圧を1.0~2.7kgf/cm2に調整する工程、(c)飲料のpHを2.7~3.8に調整する工程、及び(d)飲料が果汁を含む場合は、飲料中の果汁含有量を5%未満に調整する工程、を含む、前記方法である。
【0039】
前記方法は、さらに容器詰めする工程や加熱殺菌処理工程を含んでもよい。なお、これらの工程は、どの順序で行ってもよく、最終的に得られた炭酸飲料における含有量や炭酸ガス圧、pHなどが所定の範囲にあればよい。
【0040】
リモネンや果汁の含有量範囲、炭酸ガス圧やpHの範囲、乳化香料などについては、炭酸飲料に関して上記した通りである。また、炭酸ガスの封入方法や炭酸ガス圧の調整方法、pHの調整方法、容器詰め方法や加熱殺菌処理方法についても、炭酸飲料に関して上記した通りである。
【0041】
以下に実施例に基づいて本発明の説明をするが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
実施例1:リモネン含有乳化香料の調製
表1に示す配合でD-リモネン(株式会社井上香料製造所製:リモネン含有量95w/w%)を乳化して香料製剤にしたリモネン含有乳化香料を調製した。具体的には、クエン酸(オーウイル株式会社製)とL-アスコルビン酸(オーウイル株式会社製)を適量の純水で溶解し、さらにアラビアガム(Nexira社製)を投入してホモミキサーで撹拌して溶解させた。その後、前記原料が完全に溶解したのを確認し、一晩冷暗室で保管して水層とした。
【0043】
これとは別にSucrose Acetate Isobutyrate(EASTMAN社製)とD-リモネンを混合した後、ミックストコフェロール(BASF社製)と中鎖脂肪酸トリグリセリド(阪本薬品工業社製)を添加して混合し、油層とした。
【0044】
前記水層をホモミキサーにより5000rpmで撹拌しながら、前記油層を投入した。その後、均質化状況を観察しながら撹拌速度を上げ、10分程度撹拌を続けた。さらに、ホモゲナイザーで均質化(約50MPa)し、乳化香料を調製した。
【0045】
【0046】
実施例2:リモネン含有量、及びpHが炭酸ガス特有の苦味と刺激に及ぼす影響
飲料中のリモネン含有量、ガス圧、及びpHを様々に変えてサンプル炭酸飲料1~24を調製し、それぞれについて官能評価試験を行った。サンプル炭酸飲料1~24の調製方法及び官能評価試験の方法を以下に示す。
【0047】
(サンプル炭酸飲料1~24の調製方法)
表2に示す処方で容器詰め炭酸飲料を製造した。具体的には、表2に示す通り、砂糖、クエン酸、クエン酸三ナトリウムを水に溶解した後、GC-MSでリモネン含量を測定したリモネン含有乳化香料を、所定のリモネン含有量になるように添加した。その後、250mLにメスアップして4倍濃度のシロップを調製し、これに炭酸水を混合して所定のガス圧の炭酸飲料を調製した。なお、コントロールとしては、リモネン含有量が0ppm、ガス圧が1.0kgf/cm2、及びpHが3.0の飲料を用いた。
【0048】
【0049】
各サンプル炭酸飲料のリモネン含有量(ppm)、炭酸ガス圧(kgf/cm2)、及びpHを表3~5に示す。なお、リモネン含有量、炭酸ガス圧及びpHの測定方法は、以下の通りである。
【0050】
(リモネン濃度の測定方法)
サンプル6~8gに水150mL及びヘプタン8mLを加えて、精油定量用蒸留装置で90分間蒸留する。その後、ヘプタン層を回収し、当該ヘプタン層に含まれるリモネン含有量をガスクロマトグラフィー分析で測定する。ガスクロマトグラフィー分析条件は以下の通りである。
【0051】
(GC-MS分析条件)
GC装置:7890A/5975C inertXL(Agilent Technologies社製)
カラム:DB-WAX(Agilent Technologies社製)
カラム長さ:30m、カラム内径:250μm、カラム膜厚:0.25μm
導入系:スプリット 10:1
注入量:1μL
温度:試料注入口 220℃
GCオーブン温度条件:40℃(5分)-15℃/min-220℃(5分)
ガス流量:ヘリウム(キャリヤーガス) 1mL/min
イオン源温度:230℃
イオン化法:EI
設定質量数:m/z 136、107
(炭酸ガス圧の測定方法)
サンプル炭酸飲料における炭酸ガス圧の測定は、試料温度を20℃とし、ガスボリューム測定装置において容器内空気中のガス抜き(スニフト)、振とう後の炭酸ガス圧を測定することにより行った。
【0052】
(pHの測定方法)
pHメーターを用いて測定した。
(官能評価試験)
サンプル炭酸飲料について、専門パネラー3名による官能評価を実施した。具体的には、各専門パネラーごとに下記基準に基づいて「後味の刺激」、「後味の苦味」及び「総合評価」の観点から点数付けを行い、その平均点を表3に示した。平均点3点を超えるものが好ましい飲料であると判定した。
【0053】
(官能評価の基準)
5点:非常に良好(後味の刺激又は後味の苦味が抑えられている)
4点:良好(後味の刺激又は後味の苦味がやや抑えられている)
3点:基準
2点:やや悪い(後味の刺激又は後味の苦味がやや強い)
1点:悪い(後味の刺激又は後味の苦味が強い)
結果を表3~5に示す。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
表3~4に記載の通り、リモネン含有量、炭酸ガス圧、及びpHが本発明の所定の範囲内にある炭酸飲料は官能評価点が全て3点を超え、炭酸ガス特有の苦味と刺激が緩和されていることが明らかとなった。また、表5に記載の通り、リモネンを直接添加してリモネン含有量を調整した場合でも、本発明の効果が得られることが示された。従って、本発明によると、炭酸飲料中のリモネン含有量、炭酸ガス圧、及びpHを本発明の範囲内に調整することで、炭酸ガス特有の苦味と刺激が緩和され、より好ましく飲用できる炭酸飲料を実現できることが明らかとなった。
【0058】
実施例3:果汁含有量が炭酸ガス特有の苦味と刺激に及ぼす影響
表6に示す処方で容器詰め飲料を製造し、それぞれについて官能評価試験を行った。具体的には、砂糖、クエン酸、クエン酸三ナトリウムを水に溶解した後、6.9倍冷凍濃縮レモン混濁果汁を混合し、これにあらかじめリモネン含有量をGC-MSで測定したリモネン含有乳化香料を所定量添加した。その後、250mLにメスアップして4倍濃度のシロップを調製し、これに炭酸水を混合して所定のガス圧の炭酸飲料を調製した。なお、サンプル飲料25~34におけるリモネン含有量は0~200ppm、ガス圧は2.0kgf/cm2、pHは3.0とした。
【0059】
【0060】
また、サンプル炭酸飲料25~34におけるリモネン含有量、炭酸ガス圧、及びpHの測定方法や、官能評価試験も実施例2に準じて行った。
結果を表7に示す。
【0061】
【0062】
表7に記載の通り、果汁含有量が本発明の所定の範囲内にある炭酸飲料は官能評価点が全て3点を超え、炭酸ガス特有の苦味と刺激が緩和されていることが明らかとなった。
実施例4:飲料の加熱殺菌処理の影響
表8に示す処方で、飲料中のリモネン含有量、及びガス圧を様々に変え、かつ加熱殺菌処理を行ったサンプル炭酸飲料35~42を調製し、それぞれについて官能評価試験を行った。具体的には、砂糖、クエン酸、クエン酸三ナトリウムを水に溶解し、これにあらかじめリモネン含有量をGC-MSで測定したリモネン含有乳化香料を添加した。その後、250mLにメスアップして4倍濃度のシロップを調製し、これを93℃、30秒の加熱殺菌をした後、所定量を容器に充填し、その後炭酸水を混合し所定のガス圧の炭酸飲料を調製した。
【0063】
【0064】
また、サンプル炭酸飲料におけるリモネン含有量、炭酸ガス圧、及びpHの測定方法や、官能評価試験は実施例2に準じて行った。
結果を表9~10に示す。
【0065】
【0066】
【0067】
表9~10に記載の通り、加熱殺菌処理の有無によって炭酸飲料の官能評価点に影響はないことが示された。従って、本発明の炭酸飲料では、加熱殺菌処理の有無にかかわらず、炭酸飲料中のリモネン含有量、炭酸ガス圧、及びpHを所定の範囲内に調整することで、炭酸ガス特有の苦味と刺激が緩和され、より好ましく飲用できる炭酸飲料を実現できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、炭酸飲料における炭酸ガス特有の苦味と刺激が緩和された、より好ましく飲用できる炭酸飲料を調製する新たな手段を提供するものであるため、産業上の利用性が高い。