(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】X線回折により物体を分析する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/203 20060101AFI20220117BHJP
【FI】
G01N23/203
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2016248922
(22)【出願日】2016-12-22
【審査請求日】2019-12-11
(32)【優先日】2015-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】510132347
【氏名又は名称】コミサリア ア レネルジ アトミク エ オウ エネルジ アルタナティヴ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】バルベス ダミアン
(72)【発明者】
【氏名】パウルス カロリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】タバリー ジョアキム
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/045045(WO,A1)
【文献】特表2006-526138(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0348298(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0247920(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02743687(EP,A2)
【文献】特開2017-142233(JP,A)
【文献】GHAMMARAOUI,B,A Complete and Multi Purpose Software Tool for Modeling Energy Dispersive X-ray Diffraction,2011 IEEE Nuclear Science Symposium Conference Record,2011年,NP4.M-134,pp.1353-1357
【文献】MARTICKE, F,MULTI-ANGLE RECONSTRUCTION OF ENERGY DISPERSIVE X-RAY DIFFRACTION SPECTRA,2014 6th Workshop on Hyperspectral Image and Signal Processing: Evolution in Remote Sensing,2014年06月24日,pp.1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
JSTPlus(JDreamIII)
JMEDPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体を分析する方法であって、
a)電離した電磁放射線を放出する照射源に面する物体を配置して、伝搬軸に沿って前記物体に向かって伝搬するコリメート入射ビームを形成するように前記照射源から第1のコリメータを介して前記物体に照射し、
b)それぞれの画素が前記物体によって散乱された放射線を検出することができる複数の画素を有する検出器を配置し、前記散乱された放射線は、前記伝搬軸に対して散乱角と呼ばれる鋭角を成す方向に伝搬しており、
c)前記検出器の複数の画素を用いて、前記散乱された放射線のエネルギー分布を示す散乱スペクトルを取得し、それぞれの散乱スペクトルは一つの画素と関連し、
d)物体を基本体積に分解し、それぞれの画素をそれぞれの画素によって検出された散乱放射線に対する
それぞれの基本体積の寄与を示す
空間分散関数と関連付けし、
e)取得された前記散乱スペクトルとそれぞれの画素に関連付けられた前記
空間分散関数に基づいて、それぞれの画素に関連する散乱シグネチャを決定し、前記散乱シグネチャは前記基本体積を形成する材料の
特性を示し、
f)それぞれの前記基本体積に関連付けられた前記散乱シグネチャに基づいて、前記物体の前記基本体積を形成する材料の性質を評価し、
異なる基本体積でそれぞれ散乱された異なる放射線が1つの画素で検出されており、
前記画素に関連付けられた前記空間分散関数はそれぞれの基本体積で散乱され、前記画素で検出されたそれぞれの放射線の強度を示す、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記e)のステップは、それぞれの画素によって取得された前記散乱スペクトルに基づいて、前記画素に関連付けられた散乱関数を決定することを含み、前記
散乱関数は、参照材料が前記物体の場所に配置された間に前記画素によって取得された参照スペクトルに前記散乱スペクトルを結合することで取得される方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、それぞれの画素に関連付けられた前記散乱関数の決定は、画素について前記参照材料に対して設定された参照散乱関数を考慮することを含む方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、画素に関連付けられた前記散乱関数の決定は、項別の前記参照スペクトルに対する散乱スペクトルの比の設定を含み、前記比は、前記画素に対して設定された前記参照散乱関数を項別に乗じたものである方法。
【請求項5】
請求項2に記載の方法であって、前記e)のステップは、物体の減衰スペクトル関数と参照物体の減衰スペクトル関数を考慮することを含む方法。
【請求項6】
請求項2に記載の方法であって、前記e)のステップは、
それぞれの画素に関連付けられた前記散乱関数に基づいて、応答行列を設定し、
それぞれの画素に関連付けられた
空間分散関数に基づいて、分散行列を設定し、
それぞれの基本体積の散乱シグネチャの行列による前記分散行列の行列積が前記応答行列に対応するように、それぞれの基本体積の散乱シグネチャを含む行列を評価する、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、
画素に関連付けられた前記
空間分散関数は、キャリブレーション物体を前記伝搬軸に沿って様々な位置に置いて、かつ、それぞれの位置で以下のステップを実行することによって構成され、
前記以下のステップは、
i)前記キャリブレーション物体を照射して、前記画素により、前記位置に配置された前記キャリブレーション物体によって散乱された放射線のキャリブレーションスペクトルを取得し、
ii)それぞれのキャリブレーションスペクトルにおいて、前記キャリブレーション物体の特性であるキャリブレーションピークを特定し、
iii)前記キャリブレーションピークの強度を決定する、ことを有し、
前記
空間分散関数は、前記キャリブレーション物体のそれぞれに位置において前記画素に対してそれぞれ取得された前記キャリブレーションピークの前記強度に基づいて取得される方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、
前記f)のステップは、それぞれの基本体積において、e)のステップで取得された前記それぞれの基本体積に関連付けられた前記散乱シグネチャと既知の材料に対応して事前に設定された散乱シグネチャとを比較することを含む方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、前記画素は、前記検出器の物理画素をサブピクセル化することで得られた仮想画素である方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法のd)からf)のステップを実行する指令を含むプロセッサ可読データ記録媒体であって、前記検出器の画素によってそれぞれ取得された散乱スペクトルに基づいて、それぞれの散乱スペクトルは散乱放射線のエネルギー分布を示し、それぞれの散乱スペクトルは、一つの画素に関連付けられ、
異なる基本体積でそれぞれ散乱された異なる放射線が1つの画素で検出されており、
前記画素に関連付けられた前記空間分散関数はそれぞれの基本体積で散乱され、前記画素で検出されたそれぞれの放射線の強度を示す、データ記録媒体。
【請求項11】
物体を分析する装置であって
前記物体を保持することができるホルダに向かって伝搬する電離した電磁波を生成することができる照射源と、
前記照射源と前記ホルダとの間に配置された第1のコリメータであって、前記ホルダに向かう伝搬軸に沿って伝搬するコリメートビームを形成することができるアパーチャを備えた前記第1のコリメータと、
前記ホルダと検出器との間に配置された第2のコリメータであって、前記伝搬軸に対して傾いた中間軸に沿って前記ホルダと前記検出器の間に延在するアパーチャを有する第2のコリメータと、
複数の画素を有する検出器であって、それぞれの画素は、前記物体で散乱された電磁放射線を前記アパーチャを介して検出することができ、かつ、散乱スペクトルであるエネルギースペクトルを取得することができる検出器と、を備え、
前記装置は、それぞれの画素によって取得された散乱スペクトルに基づいて、請求項1に記載の方法のd)~f)のステップを実行するマイクロプロセッサを有し、
異なる基本体積でそれぞれ散乱された異なる放射線が1つの画素で検出されており、
前記画素に関連付けられた前記空間分散関数はそれぞれの基本体積で散乱され、前記画素で検出されたそれぞれの放射線の強度を示す、装置。
【請求項12】
請求項11に記載の装置であって、
前記中間軸は前記伝搬軸に対してコリメート角度である角度を形成し、前記角度は厳密に0°よりも大きく、かつ20°よりも小さいことを特徴とする装置。
【請求項13】
請求項11に記載の装置であって、
前記ホルダに保持された前記物体を前記伝搬軸に沿って透過した放射線のスペクトルを透過スペクトルとして取得することができる補助検出器をさらに備えた装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は、物体から回折された電離した放射線の分光分析による物体の分析である。本発明は診断を目的とする生物組織の分析と産業分野又はセキュリティ関連利用における非破壊テストの両方に応用可能である。
【背景技術】
【0002】
X線回折分光、頭文字EDXRDでよく知られている(energy dispersive x-ray diffraction エネルギー分散X線回折)は物体を作る材料を特定するために使用されている非破壊分析技術である。この技術は、電離した電磁放射線の弾性散乱に基づくものであり、それはレイリー散乱と呼ばれている。それは、爆発物又は他の違法な物質の検出にも既に利用されている。一般にこの技術は、多エネルギーのX線の物体への照射により構成され、小さい角度で物体で後方散乱したエネルギースペクトルの決定により構成され、典型的には、物体に入射するX線のパスに対して1°~20°の範囲である。このスペクトルの分析は、物体の構成材料を特定することを許す。具体的には、ほとんどの物質は、その分子又は原子構造に依存するスペクトルの痕跡(シグネチャ)のセットを有している。測定された散乱スペクトルを既知の物質の痕跡と比較することで、物質の組成が推定される。
【0003】
従来の装置では、照射源は物体に向かって伝搬する多エネルギーのX線を生成し、精密にコリメートされたX線ビームを物体に入射させるために1つ目のコリメータ又はプリコリメータが照射源と物体の間に配置されている。2つ目のコリメータは、分析すべき物体と検出器との間に配置され、後者は物体で後方散乱した放射線のエネルギースペクトルを取得することができる。
【0004】
特許文献1(WO2013098520)は、画素を有する検出器と用いて、物体で放出された回折X線のスペクトルを取得する方法を記載しており、それぞれの画素は、仮想画素と呼ばれるものにさらに分割されている。特許文献1は、2つ目のコリメータが相対的に大きいアパーチャを規定する方法を示し、仮想画素への再分割(subdivision)は、角度分解能を改善する。複数の隣接する画素で取得されたスペクトルの組み合わせは、高分解能のスペクトルの取得を許す。この方法は分析すべき物体の様々な材料の存在を特定することを許すが、物体の構成の正確な空間情報の決定ができない。特許文献2(WO2016001536)は、回折X線の検出に基づく物質を特定する方法を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2013/98520号明細書
【文献】国際公開2016/1536号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者はこれらの方法を改善することを追求し、物体、特には、様々な材料によって形成された複合物体を分析する代替の方法を提案する。本方法は、空間分解能を改善し、物体のより精密な分画(Segment)を基本体積に分割し、これらの基本体積のそれぞれの材料の性質を復元するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の主題は、付随するクレームのいずれか一つにかかる物体を分析する方法である。方法は以下のステップを有している。
a)電離した電磁放射線を放出する照射源に面する物体を配置して、伝搬軸に沿って前記物体に向かって伝搬するコリメートされた入射ビームを形成するように前記照射源から第1のコリメータを介して前記物体に照射し、
b)それぞれの画素が前記物体によって散乱された放射線を検出することができる複数の画素を有する検出器を配置し、前記散乱された放射線は、前記伝搬軸に対して散乱角と呼ばれる鋭角を成す方向に伝搬しており、
c)前記検出器の複数の画素を用いて、前記散乱された放射線のエネルギー分布を示す散乱スペクトルを取得し、それぞれの散乱スペクトルは一つの画素と関連し、
d)物体を基本体積に分解し、それぞれの画素をそれぞれの画素によって検出された散乱放射線に対する基本体積の寄与を示す分散関数と関連付けし、
e)取得された前記散乱スペクトルとそれぞれの画素に関連付けられた前記分散関数に基づいて、それぞれの画素に関連する散乱シグネチャを決定し、前記シグネチャは前記基本体積を形成する材料であり、
f)前記それぞれの基本体積に関連付けられた前記散乱シグネチャに基づいて、前記物体の前記基本体積を形成する材料の性質を推定する、方法。
【0008】
ある実施形態によれば,前記e)のステップは、それぞれの画素によって取得された前記散乱スペクトルに基づいて、前記画素に関連付けられた散乱関数を決定することを含み、前記関数は、参照材料が前記物体の場所に配置された間に前記画素によって取得された参照スペクトルに前記散乱スペクトルを結合することで取得される。
それぞれの画素に関連付けられた前記散乱関数の決定は、画素について前記参照物質に対して設定された参照散乱関数を考慮することを含むことができる。
それは、また、項別の前記参照スペクトルに対する散乱スペクトルの比の設定を含み、前記比は、前記画素に対して設定された前記参照散乱関数を項別に乗じたものである。
前記比はエネルギーと項別の乗算の前の運動量伝達との間の変数の変化のテーマである。
それは、また、項別の前記参照スペクトルに対する散乱スペクトルの比の設定を含み、前記比は、前記画素に対して設定された前記参照散乱関数を項別に乗じたものである。
前記比はエネルギーと項別の乗算の前の運動量伝達との間の変数の変化のテーマである。
【0009】
参照材料は特にその散乱シグネチャが既知である。散乱シグネチャによって、意味することはスペクトル値の分布であり、例えば、データに関連する運動量伝達又はエネルギーの分布である。
【0010】
ある実施形態によれば、e)のステップは、物体の減衰スペクトル関数と前記参照物体の減衰スペクトル関数を考慮することを含む。上記の比は、項別に、減衰スペクトル関数の比によって乗算されてもよい。
【0011】
ある実施形態によれば、e)のステップは、
それぞれの画素に関連付けられた前記散乱関数に基づいて、応答行列を設定し、
それぞれの画素に関連付けられた分散関数に基づいて、分散行列を設定し、
それぞれの基本体積の散乱シグネチャの行列による前記分散行列の行列積が前記応答行列に対応するように、それぞれの基本体積の散乱シグネチャを含む行列を推定することを、含む。
【0012】
画素に関連付けられた前記分散関数は、キャリブレーション物体を前記伝搬軸に沿って様々な位置に置き、それぞれの位置は分析される物体の基本体積に対応し、それぞれの位置で以下のステップを実行し、
以下のステップは、
i)前記キャリブレーション物体を照射して、前記画素により、前記位置に配置された前記キャリブレーション物体によって散乱された放射線のキャリブレーションスペクトルを取得し、
ii)それぞれのキャリブレーションスペクトルにおいて、前記キャリブレーション物体の特性であるキャリブレーションピークを特定し、
iii)前記キャリブレーションピークの強度を決定する、ことを有している。
前記分散関数は、前記キャリブレーション物体のそれぞれに位置において前記画素に対してそれぞれ取得された前記キャリブレーションピークの前記強度に基づいて取得される。キャリブレーション物体のキャリブレーション材料は、参照材料と異なるものであってもよい。
【0013】
ある実施形態によると、f)のステップは、それぞれの基本体制において、e)のステップで取得された前記それぞれの基本体積に関連付けられた前記散乱シグネチャと既知の材料に対応して事前に設定された散乱シグネチャとを比較することを含む。
【0014】
好ましい構成によれば、検出器は、複数の物理画素を備え、物理画素は、電子処理回路に関連付けられ、それぞれの物理画素は複数の仮想画素に分割される。上記の参照される画素は、仮想画素である。
【0015】
方法は、以下の特徴の一つを単独で、又は組み合わせて有していてもよく、特徴は、
物体で散乱され、画素に到着した放射線は、第2のコリメータのアパーチャを通過しており、第2のコリメータは、前記ホルダと検出器との間に配置され、アパーチャは前記伝搬軸に対して傾いた中間軸に沿って前記ホルダと前記検出器の間に延在している。
角度範囲に属する散乱角度で放出された散乱放射が検出器に到達し、角度範囲の外側の角度で放出された散乱放射が第2のコリメータ減衰するように、アパーチャが角度範囲を規定している。
検出器は、上記の伝搬軸に対して90°よりも小さい角度で傾いた検出面に沿って伸びている。
物体の減衰スペクトル関数は、照射源から放出された放射線のスペクトルと、前記伝搬軸に沿って前記物体を透過した放射線のスペクトルをそれぞれ測定することで得られる。
物体は、伝搬軸に沿って伝搬するコリメート入射ビームを形成するように第1のコリメータを介して照射源によって照射されている。
【0016】
本発明の他のテーマは、本出願に記載されたような方法を実行する指令を含むデータ記録媒体であり、これらの指令は、プロセッサによって実行可能である。
【0017】
本発明の他のテーマは、物体を分析する装置であって、装置は、コリメート
前記物体を保持することができるホルダに向かって伝搬する電離した電磁波を生成することができる照射源と、
前記照射源と前記ホルダとの間に配置された第1のコリメータであって、前記ホルダに向かう伝搬軸に沿って伝搬するコリメートビームを形成することができるアパーチャを備えた前記第1のコリメータと、
前記ホルダと検出器との間に配置された第2のコリメータであって、前記伝搬軸に対して傾いた中間軸に沿って前記ホルダと前記検出器の間に延在するアパーチャを有する第2のコリメータと、
複数の画素を有する検出器であって、それぞれの画素は、前記物体で散乱された電磁放射線を前記アパーチャを介して検出することができ、かつ、散乱スペクトルであるエネルギースペクトルを取得することができる検出器と、を備え、
前記装置は、それぞれの画素によって取得された散乱スペクトルに基づいて、上記の方法のd)~f)のステップを実行することができるマイクロプロセッサを有していることを特徴とする装置。
【0018】
前記中間軸は前記伝搬軸に対してコリメート角度である角度を形成することができ、前記角度は厳密に0°よりも大きく、かつ20°よりも小さい。
【0019】
装置は、前記ホルダに保持された前記物体を前記伝搬軸に沿って透過した放射線のスペクトルを透過スペクトルとして取得することができる補助検出器をさらに備えていてもよい。
【0020】
他の効果と特徴は、本発明の具体的な実施形態の下記の説明からより明らかになり、それは、付随された図に示され、単に限定されない実施例として与えられている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】
図1Aは本発明にかかる装置の実施形態を示している。
【
図1B】
図1Bは
図1Aの詳細を示しており、それぞれの画素の観察視野と、物体の基本体積への分解を示している。
【
図1C】
図1Cは、画素に関連付けられた、いわゆる角度応答行列を示している。
【
図1D】
図1Dは、画素に関連付けられた、いわゆる角度応答行列を示している。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態にかかる分析方法の主要なステップを示している。
【
図3A】
図3Aは、分散関数を取得することができる装置を示している。
【
図3B】
図3Bは、そのような関数を取得することができる方法の主要なステップを示している。
【
図3C】
図3Cは、透過スペクトルで規格化する前後のそれぞれにおいて、キャリブレーションピークと呼ばれる特性散乱ピークを含むスペクトルの例を示す図である。
【
図3D】
図3Dは、透過スペクトルで規格化する前後のそれぞれにおいて、キャリブレーションピークと呼ばれる特性散乱ピークを含むスペクトルの例を示す図である。これらのスペクトルは、ピーク強度を決定することを許し、それゆえ分散関数が得られる。
【
図3E】
図3Eは、それぞれの行が一つの分散関数を示す分散行列を示す図である。
【
図4B】
図4Bは、本例ではプレキシグラスである参照材料を用いて、様々な仮想画素によって取得された様々な散乱スペクトルを示す。
【
図4C】
図4Cは、テスト物体を用いた実験において、様々な仮想画素によって取得された様々な散乱スペクトルを示す。
【
図4D】
図4Dは、様々な画素によって測定された散乱関数を示し、全期間数は、エネルギーの関数、又は運動量伝達の関数としての表現されている。
【
図4E】
図4Eは、様々な画素によって測定された散乱関数を示し、全期間数は、エネルギーの関数、又は運動量伝達の関数としての表現されている。
【
図4F】
図4Fは、様々な基本体積の散乱シグネチャを示し、前記シグネチャは、
図4Eの散乱関数を用いて取得されている。
【
図4G】
図4Gの右側は、テスト物体で特定された様々な材料を示す。 これらの図において、同じ構成要素を示すために同じ符号が用いられている。この明細書の残りにおいて、当業者に公知の特徴と機能は詳細な説明が記載されていない。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1Aは、物体10を分析するための実施例にかかる装置1を示す。照射源11は、物体10に向かって伝搬する電離した電磁放射線12を放出し、物体10の組成を決定することが要求される物体10は、ホルダ10sに保持されている。
【0023】
装置は、物体に向かって伝搬軸12zに沿って伝搬する、コリメート入射ビーム12cを形成するために、照射源11によって放出された放射線をコリメートすることができる第1のコリメータ30、すなわち、プリコリメータを有している。装置は、画素20kを有する検出器20を有しており、それぞれの画素は、伝搬軸12zと散乱角θをなす方向において、物体10によって散乱された放射線14θを検出することができる。この放射線は、例えば、コリメート入射ビーム12cを形成する放射線の弾性散乱によって生成される。
【0024】
分析装置1は、物体10と検出器20との間に配置された第2のコリメータ40を有している。この第2のコリメータ40は、伝搬軸12zに対して角度範囲Δθを有する散乱角度θにおいて物体10で散乱された放射散乱14θが選択的に進むのを許す。選択的に進むことによって、意味することは、角度範囲Δθ以外の角度で散乱された放射線が、第2のコリメータで減衰する。
【0025】
分析装置1は、
図1Aに示すようなXYZ直交座標系の枠組みに配置されている。
【0026】
電離した電磁放射線という用語は、1keVよりも高く、好ましくは5MeVよりも低いエネルギーのフォトンで生成された電磁放射線を指定している。電離放射線のエネルギー範囲は、1keVから2MeVの間であってもよく、最も頻繁には、1keVと、150keV又は300keVとの間である。電離した放射線はX線又は放射線を含む。好ましくは、電離した放射線源は、多エネルギーであり、入射放射線は一般的に数十~数百keVに渡るエネルギー範囲において放出される。それは特に、X線管の問題である。
【0027】
照射源11は、一般に40~170kVの間の電圧が印加されるタングステン陽極が設けられたX線管であり、それは、入射放射線12のエネルギー範囲を修正するために可変である。検出器20は、1列又は2次元マトリクスアレイに画素20kを有しており、それぞれの画素は、2.5×2.5mm2の領域に渡っており、その厚さは5mmである。
それぞれの画素を形成する材料は、半導体であり、例えば、CdTe、CdZnTe又は好ましくは室温において、分光測定を実行するのに適した他の材料である。それは、シンチレータ材料でもよく、十分高いエネルギー分解能を提供する。検出器は、エネルギー分解され、それぞれの画素は、約1keVのエネルギー分解能のチャネルでスペクトルを取得することができる。照射源11は、プリコリメータ30に向かう20keV未満のエネルギーの放射線の伝搬を遮蔽するため例えば銅製の金属スクリーンを有していてもよい。このスクリーンが銅製の場合、その厚さは、例えば、0.2mmである。
【0028】
第1のコリメータ30、すなわちプリコリメータは、照射源11で放出された放射線12のほとんど全てを吸収することができる、例えば、タングステンを含む密集材料31のブロックを有している。第1のコリメータ30は、細いコリメートビーム12cが通過できるように伝搬軸12zと呼ばれる軸に沿って延びた細いアパーチャ32を有している。細いアパーチャによって、意味することは、アパーチャの直径又は対角線が2cm未満、さらには1cm未満になる。この例では、アパーチャは、直径1mmの円柱である。
【0029】
物体10は、産業部品かもしれず、その量及び組成が決定される。また、物体10は、検査が望まれる手荷物の一つかもしれない。装置1は、非破壊試験/検査目的に使用される。それは、例えば動物や人間の体の一部である、生きている生物の組織の問題かもしれない。装置は、診断目的に用いられる医療分析装置である。体の一部は、特には、例えば、レントゲン又はスキャンなどの一次検査が行われる、存在が疑われる特異ながん性腫瘍等の臓器である。
【0030】
第2のコリメータ40は、物体によって散乱された上記の角度範囲の外側のほとんど全ての放射線14θを吸収することができる密集材料製の壁41を有している。前記密集材料のアパーチャは、中間軸45に沿って延びているチャネル42を規定する。中間軸によって、意味することは、軸はチャネルに沿って延びており、チャネルの境界となる壁から同じ距離にあるということである。この中間軸45は、コリメート入射ビーム12
cの伝搬軸12
zから傾いている。チャネル42の中間軸45と伝搬軸12
zの間の角度Θは、いわゆるコリメート角度であり、厳密に0°より大きく、20°より小さい。コリメータは、コリメータ角度Θについて規定された角度範囲Δθ内の散乱角度θである角度で伝搬して、検出器20に向かう散乱放射線14
θ透過することができる。
図1Aは、第2のコリメータ40の観察視野
Ω1、Ω2,Ω3を境界づける2つの放射散乱14
θを示しており、それぞれの散乱角度は、第2のコリメータ40と関連付けられた角度範囲のθ
minとθ
maxとで制限されている。それぞれのチャネルの長さは,典型的には、50mmと100mmとの間であり、アパーチャの中間軸45と直交する方向におけるサイズは、数百μmであり、例えば500μmである。
【0031】
図1Aに示す実施形態において、第2のコリメータ40は、単一のチャネル42を有している。他の実施形態によれば、コリメータ40は、複数のチャネル42
nを有しており、それは、例えば、互いに平行に配置されており、それぞれのチャネルは、コリメータ角度Θ
nと角度範囲Δθ
nに関連付けられている。
【0032】
放射線検出器は検出面P20と呼ばれる面に配置された複数の画素20kを有する検出器である。指標kは、検出面P20におけるそれぞれの画素の座標を示す。画素は、一列に配置されていてもよいが、一般には、一定の2次元マトリクスアレイに配置されている。本出願に記載された例では、検出面P20は、コリメート入射放射線12cの伝搬軸12zに対して厳密に90°未満の角度αを形成する方向に延びている。角度αは、好ましくは70°と88°又は89°との間の範囲である。好ましくは、検出面P20は第2のコリメータ40のチャネル42の中間軸45に直交する。
【0033】
放射線検出器20のそれぞれの画素20kは、
物体10を透過して2のコリメータ40を介した散乱放射線14θの光子と相互作用することができる検出器材料を備え、この材料はシンチレータ材料、又は好ましくは室温において使用可能な例えば、CdTe、CdZnTeである半導体材料である検出器材料と、
振幅A に応じた信号を生成することができる電子回路21であって、好ましくは、検出器材料と相互作用したそれぞれの光子によって蓄積したエネルギーEに比例する信号を生成する電子回路と、
取得期間である期間の間に検出された信号の、Sk
Eで示されるエネルギースペクトルを求めることができる分光回路と、を備えている。
【0034】
従って、それぞれの画素20kは照射源によって照射されている期間の間に物体によって散乱された放射線14θのスペクトルSk
Eを生成することができる。
【0035】
エネルギースペクトルという用語はスペクトルの取得期間の間に検出された信号の振幅Aのヒストグラムを指定している。放射線の信号の振幅AとエネルギーEの関係は、当業者によって知られている原理、例えばE=g(A)のような、エネルギーキャリブレーション関数gによって取得される。エネルギースペクトルSk
Eはベクトル形式で得られ、それぞれの項Sk
E(E)は、エネルギー範囲E±∂E/2において画素20kで検出された放射線の総量を示しており、ここでは、∂Eは、スペクトルのエネルギー離散化間隔、つまりチャネルの幅である。
【0036】
装置は、例えば、マイクロプロセッサのような、検出器20の画素20kによって取得されたそれぞれのスペクトルSk
Eを処理することができる計算ユニット又はプロセッサ22を有している。具体的には、プロセッサは、本明細書に記載されたスペクトル処理動作及び計算を実行するための一連の指示が格納されたプログラマブルメモリ23に接続されたマイクロプロセッサである。これらの指示は、ハードディスク、CD-ROMや他のタイプのメモリのような、プロセッサによって読み込み可能な記録媒体に保存されている。
プロセッサは、例えばスクリーンである表示部24に接続されている。
【0037】
それぞれの画素20kはコリメータ40を透過した放射散乱のエネルギーを示す信号を収集する電子回路21に接続されている。電子回路21は、上記のプロセッサ22に接続されていてもよく、画素が配列されたピッチよりも小さい空間分解能で検出された放射線の衝突位置を決めるために、複数の隣接画素から出力された信号の分析からなる初期処理を実行する。このような処理は、当業者には、サブピクセル化(sub-pixelation or sur-pixelation,)として知られており、いわゆる仮想画素20’kを形成することを意味し、それぞれの仮想画素の領域は、例えば、0.5mm×0.5mm、又は0.1mm×0.1mmとなることが可能である。本実施例では、それぞれの仮想画素のサイズは、150μm×150μmである。従って、検出器20の空間分解能を向上することができる。このような仮想画素の分解は、当業者に知られている。それは、以下の文献に記載されている。
Warburton W.K, “An approach to sub-pixel spatial resolution in room temperature X-ray detector arrays with good energy resolution”
Montemont et al. “Studying spatial resolution of CZT detectors using sub-pixel positioning for SPECT”, IEEE transactions on nuclear science, Vol. 61, No. 5, October 2014.
【0038】
残りの文章において、画素20kは、仮想画素、又は物理画素を参照する。好ましくは、最も空間分解能の高い検出器を取得するための仮想画素の問題である。
【0039】
装置1は、好ましくは、いわゆる透過構成に配置された補助検出器200である検出器を有しており、その検出器は、ホルダに保持された物体によって散乱された放射線ではなく、伝搬軸12zに沿って物体10を透過した放射線140を検出することができる。そのような放射線は、放射透過と呼ばれ、物体との相互作用なしに物体10を透過している。補助検出器200は、コリメート入射ビーム12cの伝搬方向12zにおいて、物体10を透過した放射線140のスペクトルS0
Eを設定することができる。そのようなスペクトルは、後述する減衰スペクトル関数Attを決定するために用いられる。
【0040】
図1Bは、物体10と第2のコリメータ40によって規定された観察視野をより詳細に示している。この図において、散乱された放射線14
θを受けることができる3つの画素20
1・・・20
3は、それぞれの画素に関連付けられた一つの観察視野Ω1、Ω2,Ω3を示している。それぞれの画素の観察視野は、画素のサイズとコリメータ40の幾何構成によって規定される。物体は、さらに、規則的又は非規則的に複数の基本体積V
1・・・V
NZにサンプリングされ、それぞれの基本体積V
Zは、伝搬軸12
zに沿ったZ方向に関連付けられている。N
Zは、基本体積V
Zの数を示している。
図1Bは、伝搬軸に沿って、座標z
1、z
2、z
3、z
4を中心とする4つの基本体積V
1、V
2、V
3、V
4をそれぞれ示している。本発明の基本概念は、以下の記載するような分解アルゴリズムを用いて、それぞれの基本体積において物体10を構成する材料の性質を推定することである。コリメータ40のアパーチャのため、与えられた基本体積V
Zは、検出器の様々な画素20
kに向かう散乱放射線を放出し、特に検出器はサイズの小さい仮想画素に分割されている。それぞれの画素によって測定された散乱スペクトルは、物体の様々な基本体積によって様々な散乱角度での放射散乱の検出の結果となる。それぞれの画素の観察視野を独立する基本体積にサンプリングすることは、任意に定義された微細なサンプリングに基づいて物体が分解されることを許す。
【0041】
分析中において、物体10は、多エネルギーの入射ビーム12cが照射される。レイリー弾性散乱の効果において、入射ビーム12cの一部は、複数の方向に散乱され、放射散乱の強度は、光子のエネルギーと散乱方向のペアに多かれ少なかれ依存している。散乱角度θの関数である強度の変化は散乱シグネチャを形成し、それは、それぞれの材料を特定する。結晶の場合、散乱強度は以下のブラッグの式によって定義された,正確な入射光子のエネルギー/散乱角度のペアのみで、ゼロとならない。
2dsin(θ/2)=nhc/E ・・・(1)
【0042】
ここで、dは、照射された物体の成分材料の分子又は原子の配置の特性距離である。分析する材料が結晶の場合、dは、網間の距離に対応し、nは、干渉の次数を指定する整数であり、Eは、keVで示される散乱放射線のエネルギーを示し、θは散乱角度であり、hとcは、それぞれプランク定数と光速である
【0043】
以下の式のように、運動量伝達によって、文字χ(nmー1)で示される量を表現することは一般的である。
χ=sin(θ/2)E/(hc) ・・・(2)
【0044】
検出器20のそれぞれの画素、又は仮想画素20kは、放射散乱14θが画素に到達する最も確実な角度を示す散乱角度θkに対応する。サブピクセル化の効果は、小さなサイズの画素を得ることであり、それによって、それに到達する放射散乱の角度範囲を減少することができる。
【0045】
物体10を分析する方法の主要なステップは、
図2を参照して記載される。
【0046】
第1のステップ100において、物体は照射源11によって照射され、検出器20のそれぞれの画素20kは放射散乱14θのスペクトルSk
Eを取得する。本実施例では、コリメート角度Θは1°~20°の間にある。指数Eは、スペクトルがエネルギーの関数であることを示す。それぞれの画素20kに関連付けられた散乱角度θkは既知であるので、式(2)によって変数を変換することで散乱関数をエネルギーの関数としてではなく、運動量伝達χの関数として表現することが可能となり、この場合、スペクトルはSχ
kとなる。
【0047】
エネルギースペクトルは、以下の式で表現される
S
k
E=D
k・(S
inc×Att×(A
k・f
k
χ))・・・(3)
ここでは、S
k
Eはサイズ(N
E,1)の画素20
kで測定されたエネルギースペクトルであり、N
Eはスペクトルのチャンネル数であり、例えば、エネルギーの離散間隔の数である。D
kは、検出の不完全さを示す画素20
kの応答行列である。この行列のそれぞれの項D
k(E,Ei)は、光子が検出器に入射する確率を示し、エネルギーEiの項は、検出器によって検出されたエネルギーと考えられる。この行列は、N
E×N
Eのサイズの正方行列である。S
incは、コリメート入射ビームの、次元(N
E,1)のエネルギースペクトルである。Attは減衰スペクトル関数と呼ばれるベクトルであり、物体10による入射スペクトルの減衰を示し、次元は(N
E,1)である。A
kは、サイズ(N
E, N
χ)のそれぞれの画素20
kに関連付けられた角度の応答関数を示す行列であり、ここでN
χは、運動量伝達χの離散間隔の数を示している。それぞれの項A
k(E,χ)は、検出器20
kによって検出されたエネルギーEの光子のエネルギーが式(2)で与えられる、χに等しい運動量伝達に対応する確率を示す。この行列の応用は、エネルギーEの関数として示される画素で測定されたスペクトルと、運動量伝達χで示される同じスペクトルの変換を実行することができる。
図1Cはこの行列の図であり、この最大項は、式(4)で定義される列に位置している。
E=hcχ/sin(θ
k/2) ・・・(4)
ここで、θ
kは、画素20
kに関連付けられた平均散乱角度を示している。このような行列は、それぞれの画素20
kに定義される。f
k
χはそれぞれの画素20
kに関連付けられた散乱関数である。それは、画素20
kで測定された運動量伝達χの値のスペクトルである。この散乱関数は画素20
kの観察視野Ω
kにある基本体積V
zに存在する材料のみに依存する。f
k
χの次元は(N
χ,1)である。×はアダマール積(項別の積)を示し、・は行列積を示す。
【0048】
小さいサイズの画素にすることは、それが物理画素又は仮想画素でも、それぞれの画素の観察視野を制限することを許す。本実施例では、E=hcχ/sin(θ
k/2)の場合、角度応答行列A
kはA
k(E,χ)=1を用いて、変数の変化を示す全単射関数を表現する対角行列と考えられ、この対角行列が
図1Dで示される。
【0049】
さらに、本実施例では、検出器のエネルギー分解能は、それぞれの画素20kの応答行列Dkが単位行列と考えられるほど、十分高いと考えられる。
【0050】
よって、式(3)は、以下のようになる。
Sk
E=Sinc×Att×(Ak・fk
E)・・・(5)
ここで、fk
Eはエネルギーの関数である、それぞれの画素20kで測定された散乱関数である。エネルギーの関数として示されるこの散乱関数に基づいて、χの関数として示される推定された散乱関数fk
χを求めることが可能になり、ベクトルfk
E
,とベクトルfk
χとの間の移行は、fk
E=Ak・fk
χを用いて上記の行列Akを用いることで求めることができる。
【0051】
ステップ120とステップ140とにおいて、既知の材料からなる参照物体10refが物体10の代わりに配置された間に、それぞれの画素20kで取得された参照散乱スペクトルSk
E
,refが考えられる。参照物体の散乱特性は既知である。従って、それぞれの画素20kに関連付けられた散乱関数fk
E
,ref,fk
χ
,refを求めることが可能になる。この参照散乱関数を取得する方法が以下に記載される。参照物体の散乱スペクトルの測定Sk
E
,refと、分析される物体の散乱スペクトルSk
Eの測定の間で、コリメート入射ビーム12cのスペクトルSincが変化しないと仮定すると、画素20kによって測定された散乱放射線は以下のようになる。
Sk
E
,ref =Sinc×Attref×fk
E
,ref・・・(6)
ここで、Attrefは、参照物体10refの減衰スペクトル関数を示す。
【0052】
従って、S’E
kで示される散乱スペクトルを形成することが可能となり、それは、以下のように参照散乱スペクトルSk
E
,refによって規格化されている。
S’k
E=Sk
E/Sk
E
,ref=(Att×fk
E)/(Attref×fk
E
,ref)・・・(7)
【0053】
この規格化は、ステップ120に続く。規格化されたスペクトルに基づいて、それぞれの画素20kに対して、散乱関数fk
χを決定することが可能になり、これはステップ140に続き、以下の式となる。
fk
χ=fk
χ
,ref×Ak
-1・[(S’ k
E×Att,ref)/Att]・・・(8)
ここで、fk
χ
,refは画素に関連付けられた参照散乱関数であり、運動量伝達の関数として表現されている。Att,refとfk
χ
,refとAttとは既知であり、Sk
Eは測定されるため、式(8)を用いて、fk
χを推定することができる。
【0054】
ステップ160において、それぞれの画素20kで取得された散乱関数fk
χに基づいて、物体のそれぞれの基本体積の散乱シグネチャを取得することを考える。具体的には、コリメータ40の角度アパーチャのため、様々な基本体積で発生して、様々な角度に散乱した放射線は、一つかつ同じ画素20kで検出されるかもしれない。
【0055】
分散関数によって特徴付けられる空間分散は、強度空間分散関数と呼ばれ、gkで示されており、それは座標zを中心とする基本体積Vzで散乱されて、画素20kに到達する放射線強度を示す。
【0056】
この分散関数gkはそれぞれの画素20kに対して求められる。この分散関数gkを求める方法が以下に記載される。
【0057】
分散行列Gは、そのそれぞれの行が、zの関数として、画素20kに関連付けられた分散関数gkの様々な値によって形成されるように構成されるかもしれない。行列Gのそれぞれの項G(k,z)は、zを中心とする基本体積Vzから発生し、一つの画素20kによって検出された放射散乱の強度を示している。換言すると、G(k,z)=gk(z)である。
【0058】
ステップ160は、それぞれの行が一つの画素20kによって得られる散乱関数fk
χを示す行列Fkを構成することでこの分散を考慮することを意味している。この行列のそれぞれの項Fk(k,χ)は、一つの画素20kによるχの一つの値で測定された散乱関数fk
χの値を示している。この行列の次元は、(Nk,Nχ)であり、ここでNkは、画素数を示す。
【0059】
それは、物体10の散乱シグネチャの行列Fzを形成し、この行列のそれぞれの行は、中心をzとする基本体積Vzに対する散乱シグネチャfz
χの値を示す。この行列のそれぞれの項Fz(z,χ)は、基本体積Vzの、値χでの散乱シグネチャ(又は形状因子)を示す。この行列の次数は、(Nz,Nχ)であり、ここでNzは、基本体積Vzの数を示す。
【0060】
分散行列Gは、行列Fkを形成しているそれぞれの画素の散乱関数fk
χと、それぞれの基本体積の散乱シグネチャfz
χの行列Fz
χとの関係を求め、これは、以下のように示される。
Fk=G・Fz ・・・(9)
【0061】
それは、それぞれの画素のレベルで集められた測定に基づいて、それぞれの基本体積で散乱された放射線を特徴付ける情報を取得する問題である。
【0062】
分散行列Gを決定することと、測定に基づいて散乱関数の行列F
kを形成することで、変換アルゴリズムを用いて、散乱シグネチャの行列F
zの推定を取得することが可能となる。広く利用されている反復の変換アルゴリズムのうち、最大尤度期待値最大化アルゴリズム、つまりMLEMが使用される。そのようなアルゴリズムによれば、行列F
zのそれぞれの項は、以下の式を用いて推定される。
【数1】
指数nは、各反復のランクを示している。それぞれの反復は、行列F
zの推定を取得することを許す(なお、行列F
zの推定は以下の記号で示される)。
【数2】
【0063】
収束基準が合致するまで、反復が繰り返され、それは、反復のプリセット数となるか、あるいは、連続する2つの反復の推定値の変化が小さくなることである。このアルゴリズムの導入は、行列F
zの初期化のステップを仮定する。例えば、初期化は以下の式となる。
【数3】
【0064】
ステップ160の最後で、行列Fzの推定が取得され、そのそれぞれの行は物体10の基本体積Vzの構成材料の散乱シグネチャfz
χを示す。
【0065】
ステップ180で、基本体積V
zを形成する材料は、散乱シグネチャf
z
χで特定され、それらは関連付けられている。このようにするため、様々な標準材料10
iの散乱シグネチャf
i
χが提供されている。標準散乱シグネチャは、実験的に求められているか、文献から求められている。基本体積V
zにおける材料10
iの比率γ
z(i)は、以下の式で決定されるかもしれない。
【数4】
ここで、N
iは、既知の標準材料10
iの数を示している。
【0066】
それぞれの項γz(i)が基本体積Vzにおける材料10iの比率を示すベクトルγzが取得される。
【0067】
(分散行列Gにおける分散関数の取得)
画素によって測定された散乱関数fk
χと基本体積Vzから放出された放射線の散乱シグネチャfz
χとの間の移行は、分散関数gkの使用を要求し、上述の分散関数は、それぞれの画素20kと関連付けられて、それに基づいて、分散行列Gを求めることができる。これらの関数は、計算コードを用いたシミュレーションによって取得される。キャリブレーション物体10cを用いて、それらを実験的に求めることも可能であり、キャリブレーション物体10cは、コリメート入射ビーム12cの伝搬軸12zに沿って連続的に移動可能な薄板形状の既知の材料によって形成されている。薄板によって意味することは、基本体積の幅であり、例えば、望ましく取得される空間分解能である。
【0068】
図3Aは、
図3Bに示されたメインステップに関連付けられて、それぞれの画素の分散関数g
kを取得することができる装置を示している。キャリブレーション物体10
cは、分析すべき物体の基本体積V
zを連続的に占めるように、軸12
zに沿って移動される。キャリブレーション物体10
cのそれぞれの位置において、後者は照射源11によって照射され、それぞれの画素20
kは、キャリブレーション物体10cが位置zに占めるとき、放射散乱のキャリブレーションスペクトルS
k
E,
c,zを取得する。
【0069】
散乱シグネチャが特性ピークを持つように、キャリブレーション物体10cは選択されている。例えば、2.0248オングストロームの特性距離を有する厚さ3mmのアルミニウムが選ばれている。これに対応する運動量伝達=2.469nm-1である。キャリブレーション物体の厚さは後に求められる空間分解能に一致していなければならない。1cmよりも良い空間分解能を取得することが望ましいため、それは、例えば、1mmと1cmの間の範囲にある。
【0070】
2.5°の角度θで放出された放射散乱を実質的に受けるように設けられた画素20
kを考える。
図3Cはこの画素によって取得された散乱放射のスペクトルS
k
E
,c,zを示す。
図3Dに示される規格化されたスペクトルを取得するため、透過の位置に配置された補助検出器20
0で測定された透過スペクトルS
0
E
,cによって,規格化する。透過スペクトルS
0
E
,cは、キャリブレーション物体10
cと相互作用せずに、伝搬軸12
zと平行にキャリブレーション物体10
cを通過した放射線のスペクトルに対応する。120keVのエネルギーを中心とするキャリブレーションピークと呼ばれるピークが観測され、これは、χ=2.469nm
-1,θ=2.5°の場合の式(2)で得られるエネルギーEに関連付けられている。画素のエネルギーと角度の分解能のため、キャリブレーションピークは、120keVの前後にまで延びている。
図3Dに示す、積分I
k,c,zは、分光分野において、従来から用いられているスペクトル処理アルゴリムの1つを用いて、容易に取得されるかもしれない。それは、キャリブレーション物体が位置zに配置されたときに、キャリブレーションピークにおいて、画素20
kによって検出された放射線量を示している。キャリブレーション物体10
cのそれぞれのz位置において、キャリブレーションピークの積分I
k,c,zは散乱スペクトルS
k
E
,c,zから決定され、それは、好ましくは、透過スペクトルS
0
E
,cで規格化されている。画素20
kに関連付けられた分散関数g
kは、位置zの全てに対して、キャリブレーションピークの積分I
k,c,zを含んでいる。
換言すると、以下の式となる。
g
k(z)=I
k,c,z ・・・(13)
【0071】
従って、後者が物体の位置zを占める場合、すなわち、zを中心とする基本体積Vzを示す場合、キャリブレーション物体を代表するピークにおいて、画素20kによって検出された光子の総量を示す強度値Ik,c,zが取得される。
【0072】
それぞれの項G(k,z)=g
k(z)=I
k,c,zである、
図3Eに示すような分散行列Gを求めることが可能になる。この行列は、zを中心とする物体の基本体積V
zで発生し、画素20
kによって検出された散乱放射線の強度を示している。その次元は、(N
k,N
z)である。この行列のそれぞれの行kは、前記行に関連付けられた画素20
kの分散関数g
kを示す。強度I
k,c,zの値は、グレースケールで示されている。
【0073】
従って、分散行列の決定は、以下のステップを有している。
第2のコリメータの観察視野において、位置zに既知の材料で構成されたキャリブレーション物体10cを配置すること(ステップ200)、
位置zで、検出器20の画素20kによって散乱スペクトルSk
E
,c,zを測定すること(ステップ210)、
それぞれの散乱スペクトルを、キャリブレーション物体を透過して補助検出器200で測定された透過スペクトルSc
E
,0によって規格化すること(ステップ220)、
この規格化は、選択的に、ただし好ましくは、それぞれの規格化された散乱スペクトルにおいて,キャリブレーション物体の構成材料を代表するキャリブレーションピークの強度Ik,c,zを決定しており(ステップ230)、
キャリブレーション物体を第2のコリメータの観察視野における様々な位置zに連続的に移動している間に、ステップ210~230を繰り返し行うこと(ステップ240)、及び
前記強度を用いて、それぞれの画素に関連付けられた分散関数gkと、分散行列Gを取得すること(ステップ250)。
【0074】
キャリブレーション物体10cのある位置zにおいて、画素20kによって測定されたキャリブレーションスペクトルSk
E
,c,zは、識別可能なキャリブレーションピークを含んでいないかもしれない。この場合、キャリブレーションスペクトルは、画素と関連付けられた分散関数の決定に考慮されない。
(それぞれの画素20kに対する、参照材料の散乱関数fk
χ
,refの取得)
【0075】
ステップ160は、参照材料10refからの放射散乱が検出された場合、知られているべきそれぞれの画素20kの散乱関数fk
χ
,refを要求する。そのような材料の存在において、第2のコリメータ40の観察視野の全ての基本体積Vzを占めるので、それぞれの基本体積Vzの散乱シグネチャfz
χ
,refは、参照材料の散乱シグネチャfχ
refに対応し、そのシグネチャは、全ての基本体積で既知であり、共通である。それぞれの画素の散乱関数fk
χ
,refは、式(9)に応じて取得され、行列Fz,refを構成しているそれぞれの行は、参照材料10refの散乱シグネチャfχ
refに対応している。行列Fk,ref=G.Fz,ref・・・式(14)が得られ、行列Fk,refのそれぞれの行はそれぞれの画素20kと関連付けられた参照物体10refの散乱関数fk
χ
,refを示している。
(減衰スペクトル関数の取得)
【0076】
方法は、好ましくは、減衰スペクトル関数Att、Attrefの使用を仮定し、それらは物体10と参照物体10refによるコリメート入射ビーム12cの減衰をそれぞれ示す。これらの関数は、透過位置に配置された補助検出器200を用いて取得され、補助検出器は、コリメート入射ビーム12cのエネルギースペクトルを測定し、このスペクトルは、補助検出器200と第1のコリメータ30との間に物体がない状態で取得され、物体10又は参照物体10refを伝搬軸12zに沿って透過した放射線140のエネルギースペクトルを測定している。この透過放射線は、物体(又は参照物体)と相互作用しない。
【0077】
これらのスペクトルを取得して、比の形式である比較によって、減衰スペクトル関数を定義することが可能になる。物体10の減衰
スペクトル関数Attは、S
incとS
0
Eとの比によって取得され、参照物体の減衰
スペクトル関数Att
refは、S
incとS
0
E
,refとの比によって取得される。これは以下の式に対応している。
【数5】
【数6】
【0078】
(実験)
1cmの厚さの銅板10
test-1と、1cmの厚さのアルミニウム板10
test-2とからなり、これら2枚の板が2cmの間隔離れたテスト物体10
testを用いた、シミュレータに基づく実験が実行された。コリメート角度Θは5°である。シミュレーションされた装置は
図4Aに示されている。
【0079】
それぞれの画素20kの散乱関数fk
χを取得することを許す参照測定fk
χ
,ref、Attref(ステップ140参照)は、厚さ10cmのプレクシガラス(Plexiglas)のブロックを用いて実行された。
【0080】
最初に、プレクシガラスが配置され、補助検出器200を用いて、透過スペクトルS0
χ
,refが決定される。補助検出器は、補助検出器200と第1のコリメータ30との間に物体がない状態で、コリメート入射ビーム12cのスペクトルSincを測定することを許す。参照材料の減衰スペクトル関数Attrefは、式(16)にしたがって、S0
χ
,refとSincとの比に基づいて取得される。
【0081】
ここではプレクシガラスである参照材料の放射散乱のスペクトルS
k
E
,refは、様々な仮想画素20
kに対して決定される。
図4Bは、これらの様々なスペクトルを示す。この図において、x軸はエネルギーを示し、y軸はそれぞれの仮想画素の番号を示し、カラーコードはスペクトルの振幅を示す。この図のそれぞれのラインは、それぞれの画素で取得されたスペクトルを示し、強度はグレースケールで示されている。
【0082】
次に、式(15)にしたがって、その比で減衰スペクトル関数Attを求めることができるスペクトルS0
EとSincとをそれぞれ取得するために、補助検出器200を用いて、テスト物体10testの減衰スペクトル関数Attがテスト物体を用いた及び用いないスペクトルの測定によって決定される。
【0083】
テスト物体の散乱スペクトルS
k
Eは、様々な仮想画素20
kによって取得され、これらのスペクトルは
図4Cに示されえている。この図において、x軸はエネルギーを示し、y軸は各仮想画素の番号を示し、強度はグレースケールで示されている。
【0084】
それぞれの画素において、規格化されたスペクトルS’k
Eを取得するために、物体の散乱スペクトルSk
Eは、それぞれの画素20kにおいて、参照物体の散乱スペクトルSk
E
,refを用いて式(7)で規格化される。
【0085】
運動量伝達χの関数で示されたそれぞれの画素20
kの散乱関数f
k
χ(式(8))は、それぞれの画素に関連付けられた参照材料散乱関数f
k
χ
,refを用いることでそれぞれの規格化されたスペクトルS’
k’
Eから得られる。
図4Dと
図4Eは、エネルギーの関数と運動量伝達の関数で示されたそれぞれ散乱関数f
k
E、f
k
χを示す。強度はグレーススケールで示されている。
【0086】
分散行列Gを知ることで、物体内で、伝搬軸12
zに沿って分布した様々な基本体積の散乱シグネチャf
z
χが、式(9)と式(10)を適用することで得られる。散乱シグネチャは
図4Fにプロットされ、座標z=0は、試験物体の中心を示している。アルミニウム(Al)と銅(Cu)の特定のシグネチャは、実際に得られる。分散行列は上記のように実験的に求められる。
【0087】
図4Gは、最後に、座標zの関数として決定された様々な材料を示している。銅とアルミニウムが正しく特定されている。2つの材料の間のエアギャップは特定されておらず、アルミニウムと銅の間の空間はアルミニウム又は銅によって占められるように特定されている。物体の一端における水の存在は、エッジ効果の結果である。
【0088】
本発明は、非破壊試験用途、又は医療診断補助のいずれかに利用することが可能であり、明細書に詳述したような単一チャネルを含むコリメータ、又は、複数のチャネルを含むコリメータを採用することができる。