(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】建物の壁構造およびその構築方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/82 20060101AFI20220117BHJP
E04B 1/76 20060101ALI20220117BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20220117BHJP
E04B 2/74 20060101ALI20220117BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
E04B1/82 W
E04B1/76 500F
E04B1/94 L
E04B2/74 551E
G10K11/16 110
(21)【出願番号】P 2017054237
(22)【出願日】2017-03-21
【審査請求日】2020-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105843
【氏名又は名称】神保 泰三
(72)【発明者】
【氏名】中瀬 弘之
(72)【発明者】
【氏名】矢島 浩之
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】実公平02-031602(JP,Y2)
【文献】実開昭52-145937(JP,U)
【文献】特開2001-115575(JP,A)
【文献】実開昭51-119710(JP,U)
【文献】米国特許第04702046(US,A)
【文献】特開2000-204695(JP,A)
【文献】実開昭63-156314(JP,U)
【文献】実開昭53-139715(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62 - 1/99
E04B 2/74
G10K 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸音性を有する
吸音パネル自体が、当該
吸音パネルを貫通して
壁に固定される締結部材自体によって
上記壁の下の床面から浮いた状態で当該壁に固定され、上記
吸音パネルの重量が壁に付与されることを特徴とする建物の壁構造。
【請求項2】
請求項1に記載の建物の壁構造において、上記
吸音パネルの表側と上記締結部材の頭部との間に上記頭部よりも大径の座金が介在されていることを特徴とする建物の壁構造。
【請求項3】
請求項1または請求項
2に記載の建物の壁構造において、上記
吸音パネルは断熱性と耐火性の少なくとも一方の特性を兼ねることを有することを特徴とする建物の壁構造。
【請求項4】
請求項
1~請求項3のいずれか1項に記載の建物の壁構造を構築する方法であって、上記壁の下の床面上にスペーサを配置する工程と、上記スペーサ上に上記吸音パネルを積み上げて当該吸音パネルを締結部材によって上記壁に固定する工程と、上記スペーサを取り外す工程とを含むことを特徴とする建物の壁構造の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、防音性能(遮音性および吸音性)を向上させる建物の壁構造およびその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、湿熱接着性繊維を含み、この湿熱接着性繊維の融着により繊維が固定された不織繊維構造体とハニカム構造体とが積層されている構造パネルが開示されている。そして、この特許文献1は、その従来項において、遮音パネルの上に、接着剤、釘、ビスなどの締結部材を利用して、多孔質材料などで構成された吸音パネルを取り付けることが行われている点が指摘されており、また、グラスウールやロックウールなどの多孔質材料で構成された吸音材は、一般に強度が弱く、運搬時、搬入時、施工時等に破損し易い上に、吸音特性、特に低周波数域での吸音特性が低いこと等も指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のように、壁に、接着剤、釘、ビスなどの締結材によって、多孔質材料などで構成された吸音パネル(自立型の吸音材)を固定することにおいては、防音性の向上と施工性の向上とが求められる。また、グラスウールやロックウールなどの多孔質材料で構成された非自立型の吸音材を用いる場合においては、単に壁の前に吸音材を積み上げて設置するのでは、良好な防音性を得られたとしても大量の吸音材が必要になり、施工コストが割高になる。
【0005】
この発明は、上記の事情に鑑み、吸音材を用いて吸音性を高めるとともに壁の重量による遮音性を高めることによって低周波数域での防音性を向上できる建物の壁構造およびその構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の建物の壁構造は、上記の課題を解決するために、吸音性を有する吸音材を、当該吸音材の重量が壁に付与されるように当該壁に取り付けたことを特徴とする。
【0007】
上記の構成であれば、上記吸音材を設けたことで吸音による防音性の向上が図れるとともに、上記吸音材の重量が壁に付与されることによって、上記壁による空気振動の遮断性能を向上し、遮音による防音性も向上できる。
【0008】
上記吸音材は非自立型であり、締結部材が上記吸音材に貫通し上記壁に固定されることで上記吸音材が支持されてもよい。これによれば、上記吸音材を、その重量が壁に付与されるように当該壁に取り付ける作業が迅速に行える。
【0009】
上記吸音材の表側と上記締結部材の頭部との間に上記頭部よりも大径の座金が介在されていてもよい。ここで、上記締結部材の打ち込み過ぎによって上記締結部材の頭部が上記吸音材の表側に食い込み、凹状部が生じる場合がある。上記凹状部は、上記吸音材の厚みを薄くしてしまうため、吸音性能を阻害することになる。上記のように座金が介在される構造であれば、上記締結部材の打ち込み過ぎを施工業者が認識し易くなり、上記凹状部の発生を抑制し吸音性能の低下を回避することができる。
【0010】
上記吸音材に当該吸音材の厚み以上の長さを有するパイプ状部材が貫通されており、このパイプ状部材内に上記締結部材が設けられていてもよい。かかる構成であれば、上記パイプ状部材が存在することで、上記締結部材によって吸音材に凹みが生じるのを防止できる。
【0011】
上記吸音材は非自立型であり、上記壁に固定された受け部材によって上記吸音材が支持されていてもよい。かかる構成であれば、上記吸音材は、上記受け部材によって支持されるので、締結部材による吸音材の凹みを生じさせることなく、上記壁に取り付けることができる。
【0012】
上記吸音材は自立型の吸音パネルであり、当該吸音パネルが上記壁の下の床面から浮いた状態で当該壁に締結部材によって固定されていてもよい。かかる構成であれば、自立型の吸音パネルを用いる場合においても、上記吸音パネルの重量が壁に付与されることになり、上記壁による空気振動の遮断性能を向上させることができる。
【0013】
これらの壁構造において、音響透過損失が、中心周波数125Hzで25dB以上、中心周波数250Hzで42.5dB以上であってもよい。
【0014】
上記吸音材は断熱性と耐火性の少なくとも一方の特性を兼ねていてもよい。これによれば、防音性の向上とともに、断熱性の向上或いは耐火性の向上を同時に実現することができる。
【0015】
また、この発明の建物の壁構造の構築方法は上記吸音パネルを用いる方法であって、上記壁の下の床面上にスペーサを配置する工程と、上記スペーサ上に上記吸音パネルを積み上げて当該吸音パネルを締結部材によって上記壁に固定する工程と、上記スペーサを取り外す工程とを含むことを特徴とする。
【0016】
上記の方法であれば、上記吸音パネルが上記壁の下の床面から浮いた状態を作り出すことができるので、上記吸音パネルの重量を壁に確実に付与することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明であれば、上記吸音材を設けたことで吸音による防音性の向上が図れるとともに、上記吸音材の重量が壁に付与されることによって、上記壁による空気振動の遮断性能を向上し、遮音による防音性も向上できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】同図(A)は本発明の実施形態にかかる建物の壁構造を示した概略の断面図であり、同図(B)は本発明の他の実施形態にかかる建物の壁構造を示した概略の断面図である。
【
図2】
図1(A)の壁構造の音響透過損失および比較例の音響透過損失を中心周波数125Hzと250Hzとについて示した棒グラフである。
【
図3】
図1(A)の壁構造の音響透過損失および比較例の音響透過損失を中心周波数125Hz、250Hz、500Hz、1000Hz、2000Hzについて示した折れ線グラフである。
【
図4】同図(A)は本発明の他の実施形態にかかる建物の壁構造を示した概略の断面図であり、同図(B)は本発明の他の実施形態にかかる建物の壁構造を示した概略の断面図である。
【
図5】本発明の他の実施形態にかかる建物の壁構造およびその構築方法を示した概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。この実施形態の建物の壁構造は、
図1(A)に示すように、吸音性を有する吸音材1を、当該吸音材1の重量が壁2に付与されるように当該壁2に取り付けた構造を有する。上記吸音材1は、柔軟性を有する非自立型のものである。そして、この実施形態においては、釘やビス等の締結部材3が、上記吸音材1を貫通して上記壁2に打ち込まれており、これによって、上記吸音材1が上記締結部材3を介して上記壁2に支持される。上記壁2は、例えば、壁下地桟2aと壁面材2bとからなり、図示しないビス等によって上記壁面材2bが上記壁下地桟2aに固定される。また、上記締結部材3は上記壁面材2bを貫通してもよいが、上記壁下地桟2aに干渉しないのが望ましい。
【0020】
また、
図1(A)に示す実施形態では、少しでも上記吸音材1の重量が上記壁2の下の床面4にかからないようにするため、最も下位置の上記吸音材1を上記床面4から例えば5mm程度浮かせている。もちろん、上記吸音材1を上記床面4から浮かせることに限定するものではない。
【0021】
上記非自立型の吸音材1は、例えば、シート状に形成されたグラスウールやロックウールといった繊維系材料等を適宜の大きさに裁断したものである。もちろん、予め適宜の大きさにカットされているものを利用することもできる。また、上記吸音材1は、繊維系材料の表面を不織布等で覆ったものでもよい。
【0022】
図1(A)に示す実施形態の壁構造においてJIS A1416:2000の防音試験を行った。この際の仕様では、上記吸音材1として、ロックウールを基材とした厚さが65mmで幅が915mmの巻き付け耐火被覆材(商品名マキベエ)を2枚重ね貼りして総厚みを130mmとしたものを用いた。この場合の吸音材1の面密度は、11.7kg/m
2であった(面密度は、9kg/m
2以上、望ましくは10kg/m
2以上であるのが望ましい。)。また、上記締結部材3の打ち込みピッチは910mmとした(締結部材3のピッチは、1365mm以下であるのが望ましい。)。また、上記壁面材2bとして、厚さ15mmの石こうボードを用いた。
【0023】
このような仕様での防音試験結果においては、中心周波数125Hzにおける音響透過損失が27dBであり、中心周波数250Hzにおける音響透過損失が42dB、中心周波数500Hzにおける音響透過損失が61dB、中心周波数1000Hzにおける音響透過損失が69dB、中心周波数2000Hzにおける音響透過損失が73dB、という結果が得られた。なお、比較のために、以下に表1を示すとともに、
図2および
図3を示す。上記仕様は表1等における条件番号13に相当する。また、条件番号1の仕様は吸音材無しであり、厚さ9.5mmの石こうボードと厚さ15mmの石こうボードを2枚重ねにした壁面材が用いられている。
【表1】
【0024】
また、上記表1等において、条件番号2,3,4の仕様では、吸音材としてフェルト状のロックウールを壁の前に積み上げており、壁に貼り付けてはいない。この場合、特に条件番号2の仕様では、良好な音響透過損失が得られるものの、大量の吸音材が必要になり、現実的でない。また、上記表1等において、条件番号19の仕様は、条件番号13とほぼ同様であるが、以下の点で異なっている。すなわち、条件番号13では、巻き付け用に長くされているロール状の耐火材を縦長に切られたことで縦目地のみ生じて横目地ができないのに対し、条件番号19の仕様では短く切られたことで横目地も生じている。防音結果については、条件番号19と条件番号13の仕様で特段の差異は見られなかった。このことにより、プレカット状の耐火材を用いても問題ないといえる。
【0025】
上記構成の壁構造であれば、上記吸音材1を設けたことで吸音による防音性の向上が図れるとともに、上記吸音材1の重量が壁2の面材であるとによって、上記壁2による空気振動の遮断性能を向上し、遮音による防音性も向上できる。また、上記吸音材1が非自立型であり、上記締結部材3が上記吸音材1に貫通して当該吸音材1を支持するので、簡単な施工作業で上記吸音材1を、その重量が壁2に付与されるように当該壁2に取り付けることができる。
【0026】
図1(B)に他の実施形態を示す。この実施形態では、上記吸音材1の表側と上記締結部材3の頭部との間に上記頭部よりも大径(例えば、直径30mm)の座金5が介在されている。ここで、先の
図1(A)に示した実施形態では、上記締結部材3の打ち込み過ぎによって上記締結部材3の頭部が上記吸音材1の表側に食い込み、凹状部が生じがちとなる。上記凹状部は、上記吸音材1の厚みを薄くしてしまうため、吸音性能を阻害することになる。上記のように座金5が介在される構造であれば、上記締結部材3の打ち込み過ぎを施工業者が認識し易くなり、上記凹状部の発生を抑制し吸音性能の低下を回避することができる。
【0027】
図4(A)に他の実施形態を示す。この実施形態では、上記吸音材1に当該吸音材1の厚みに相当する長さを有する例えば難燃性樹脂製のパイプ状部材6が貫通されており、このパイプ状部材6内に上記締結部材3が設けられている。上記パイプ状部材6は、例えば、上記吸音材1を壁2に貼り付ける前に事前に吸音材1に埋め込んでおいてもよい。そして、上記吸音材1を壁2に貼り付ける際に、上記締結部材3を上記パイプ状部材6に挿通して、壁2に打ち付ける。このような構成であれば、上記締結部材3の打ち込み過ぎが上記パイプ状部材6によって防止されるので、上記凹状部の発生を抑制し吸音性能の低下を回避することができる。
【0028】
図4(B)に他の実施形態を示す。この実施形態でも、上記吸音材1は柔軟性を有する非自立型であるが、この吸音材1は、上記壁2に横配置で固定された受け部材7によって支持されている。上記受け部材7としては、例えば鋼製のLアングルを用いることができる。上記吸音材1は、上記受け部材7の水平板部7aとその上側位置の受け部材7の水平板部7aとの間の間隔よりも長く形成されており、これら上下の水平板部7a間に押し込まれることで保持され、当該吸音材1の重量が上記受け部材7を介して上記壁2に付与されることになる。なお、上記受け部材7の立上板部の高さを低くして、上下に配置される受け部材7の上記立上板部間に空気層を形成し、この空気層を利用した防音効果を得るようにしてもよい。
【0029】
図5に他の実施形態を示す。この実施形態では、吸音材は、自立型で多孔質材をボード状或いはブロック状にした吸音パネル1Aとなっている。そして、上記吸音パネル1Aは、上記壁2の下の床面から浮いた状態で当該壁2に締結部材3によって固定されている。このような建物の壁構造であれば、上記吸音パネル1Aを用いる場合においても、上記吸音パネル1Aの重量が上記壁2に付与されることになり、上記壁2による空気振動の遮断性能を向上させることができる。
【0030】
また、この発明の建物の壁構造の構築方法は、上記
図5に示しているように、上記壁2の下の床面上に例えば厚さが5mm~10mm程度のスペーサ8を配置する。次に、上記スペーサ8上に上記吸音パネル1Aを積み上げて当該吸音パネル1Aを締結部材3によって上記壁2に固定する。このように吸音パネル1Aの壁2への固定が完了したら、上記スペーサ8を取り外す。もちろん、全吸音パネル1Aの壁2への固定完了以前の、例えば、最も下側の吸音パネル1Aの壁2への固定が完了した段階で、上記スペーサ8を取り外すようにしてもよい。
【0031】
上記の方法であれば、上記吸音パネル1Aが上記壁2の下の床面4から浮いた状態を作り出すことができるので、上記吸音パネルの重量が壁に付与されることを確実に実現することができる。
【0032】
また、以上に示した壁構造は、建物の小屋裏界壁に用いることができる。また、上記吸音材1および上記吸音パネル1Aについては、断熱性と耐火性の少なくとも一方の性能を有するのがよい。もちろん、小屋裏に限らず、機械室やシネマコンプレックス等にも用いることができる。
【0033】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 :吸音材
1A :吸音パネル
2 :壁
2a :壁下地桟
2b :壁面材
3 :締結部材
4 :床面
5 :座金
6 :パイプ状部材
7 :受け部材
7a :水平板部
8 :スペーサ