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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】劣化検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/72 20060101AFI20220117BHJP
【FI】
G01N25/72 K
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017147149
(22)【出願日】2017-07-28
(65)【公開番号】P2019027903
(43)【公開日】2019-02-21
【審査請求日】2020-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】松尾 顕守
(72)【発明者】
【氏名】松田 哲志
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-295148(JP,A)
【文献】特開平08-145923(JP,A)
【文献】特開平04-296645(JP,A)
【文献】特開2005-283452(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0007774(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00 - 25/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線サーモグラフィ装置により絶縁材料からなる配電設備用部品の表層部を撮影し、該撮影した前記配電設備用部品の表層部熱画像に基づいて、前記配電設備用部品の表層部における劣化箇所を特定する方法において、
前記配電設備用部品の表層部温度で気化することが可能な液体としてアルコールを前記配電設備用部品の表層部に噴霧又は塗布することで表層部を濡らす熱負荷付与ステップと、
前記熱負荷付与ステップの前に又は前記熱負荷付与ステップと同時に前記配電設備用部品の表層部を加熱する加熱ステップと、
前記熱負荷付与ステップと同時に又は前記熱負荷付与ステップの後に、前記赤外線サーモグラフィ装置により撮影された前記表層部熱画像に基づいて前記配電設備用部品の表層部の温度変化を経時的に計測する温度観測ステップと、を含み、
前記温度観測ステップにより計測された前記配電設備用部品20~35℃の表層部の温度分布において、周辺部に比べて温度低下が生じている部位を劣化箇所と判断することを特徴とする劣化検出方法。
【請求項2】
赤外線サーモグラフィ装置により絶縁材料からなる配電設備用部品の表層部を撮影し、該撮影した前記配電設備用部品の表層部熱画像に基づいて、前記配電設備用部品の表層部における劣化箇所を特定する方法において、
前記配電設備用部品の表層部温度で気化することが可能な液体として水に前記配電設備用部品の表層部を浸漬することで表層部を濡らす熱負荷付与ステップと、
前記熱負荷付与ステップの前に又は前記熱負荷付与ステップと同時に前記配電設備用部品の表層部を加熱する加熱ステップと、
前記熱負荷付与ステップと同時に又は前記熱負荷付与ステップの後に、前記赤外線サーモグラフィ装置により撮影された前記表層部熱画像に基づいて前記配電設備用部品の表層部の温度変化を経時的に計測する温度観測ステップと、
前記温度観測ステップの最中に前記配電設備用部品の表層部に対して送風を行う送風ステップと、を含み、
前記温度観測ステップにより計測された前記配電設備用部品の25℃以上の表層部の温度分布において、周辺部に比べて温度低下が生じている部位を劣化箇所と判断することを特徴とする劣化検出方法。
【請求項3】
赤外線サーモグラフィ装置により絶縁材料からなる配電設備用部品の表層部を撮影し、該撮影した前記配電設備用部品の表層部熱画像に基づいて、前記配電設備用部品の表層部における劣化箇所を特定する方法において、
前記配電設備用部品の表層部温度で気化することが可能な液体としてアルコールを前記配電設備用部品の表層部に噴霧又は塗布することで表層部を濡らす熱負荷付与ステップと、
前記熱負荷付与ステップの前に又は前記熱負荷付与ステップと同時に前記配電設備用部品の表層部を加熱する加熱ステップと、
前記熱負荷付与ステップと同時に又は前記熱負荷付与ステップの後に、前記赤外線サーモグラフィ装置により撮影された前記表層部熱画像に基づいて前記配電設備用部品の表層部の温度変化を経時的に計測する温度観測ステップと、を含み、
前記温度観測ステップにより計測された前記配電設備用部品の25℃以上の表層部の温度分布において、周辺部に比べて温度低下が生じている部位を劣化箇所と判断することを特徴とする劣化検出方法。
【請求項4】
赤外線サーモグラフィ装置により絶縁材料からなる配電設備用部品の表層部を撮影し、該撮影した前記配電設備用部品の表層部熱画像に基づいて、前記配電設備用部品の表層部における劣化箇所を特定する方法において、
前記配電設備用部品の表層部温度で気化することが可能な液体として水に前記配電設備用部品の表層部を浸漬することで表層部を濡らす熱負荷付与ステップと、
前記熱負荷付与ステップの前に又は前記熱負荷付与ステップと同時に前記配電設備用部品の表層部を加熱する加熱ステップと、
前記熱負荷付与ステップと同時に又は前記熱負荷付与ステップの後に、前記赤外線サーモグラフィ装置により撮影された前記表層部熱画像に基づいて前記配電設備用部品の表層部の温度変化を経時的に計測する温度観測ステップと、を含み、
前記温度観測ステップにより計測された前記配電設備用部品の40℃以上の表層部の温度分布において、周辺部に比べて温度低下が生じている部位を劣化箇所と判断することを特徴とする劣化検出方法。
【請求項5】
赤外線サーモグラフィ装置により絶縁材料からなる配電設備用部品の表層部を撮影し、該撮影した前記配電設備用部品の表層部熱画像に基づいて、前記配電設備用部品の表層部における劣化箇所を特定する方法において、
前記配電設備用部品の表層部温度で気化することが可能な液体として水に前記配電設備用部品の表層部を浸漬することで表層部を濡らす熱負荷付与ステップと、
前記熱負荷付与ステップの前に又は前記熱負荷付与ステップと同時に前記配電設備用部品の表層部を加熱する加熱ステップと、
前記熱負荷付与ステップと同時に又は前記熱負荷付与ステップの後に、前記赤外線サーモグラフィ装置により撮影された前記表層部熱画像に基づいて前記配電設備用部品の表層部の温度変化を経時的に計測する温度観測ステップと、
前記温度観測ステップの最中に前記配電設備用部品の表層部に対して送風を行う送風ステップと、を含み、
前記温度観測ステップにより計測された前記配電設備用部品の15℃以上の表層部の温度分布において、周辺部に比べて温度低下が生じている部位を劣化箇所と判断することを特徴とする劣化検出方法。
【請求項6】
前記劣化箇所は、前記配電設備用部品に生じたクラックである請求項1又は2に記載の劣化検出方法。
【請求項7】
前記劣化箇所は、前記配電設備用部品に生じたトラッキングによる表面汚損部である請求項3乃至5のいずれか一項に記載の劣化検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、劣化検出方法に関し、さらに詳しくは、赤外線サーモグラフィ装置により被検物の表層部を撮影し、該撮影した被検物の表層部熱画像に基づいて、被検物の表層部における劣化箇所を特定する劣化検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、絶縁材料からなる部品等の劣化検出方法として、例えば、パッシブサーモグラフィ法、アクティブサーモグラフィ法、浸透探傷試験等が一般に知られている。このパッシブサーモグラフィ法は、被検物の発熱等の熱変化を熱画像として異常部を検知する方法である(例えば、特許文献1参照)。また、アクティブサーモグラフィ法は、自ら熱を発生しない被検物に、外部から刺激(例えば、加熱、応力負荷による発熱、電磁気的な負荷による発熱等)を付加することで、熱応答の違いにより健全部と異常部を判定する方法である(例えば、特許文献2、3参照)。さらに、浸透探傷試験は、被検物に浸透液を塗布し、現像処理を行うことで、表面欠陥(例えば、クラック、ピンホール等)を検出する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-238393号公報
【文献】特開2016-156733号公報
【文献】特開2010-210270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
配電設備をはじめとして多くの設備・構造物は、高度経済成長期に大量施設され、近年の経済成長の停滞から設備更新サイクルが長期化している。例えば配電設備に用いられる絶縁材料からなる配電設備用部品においては、磁器のクラック(ひび割れ)や有機絶縁物のトラッキングによる表面汚損部等、表面に現れる劣化箇所の位置を特定して、その結果に基づいて設備更新することが望まれている。
【0005】
しかし、上記パッシブサーモグラフィ法では、配電設備用部品が発熱現象を示す状況では適用可能であるが、自ら発熱しない配電設備用部品には適用できない。また、上記アクティブサーモグラフィ法では、高所に設置され、かつ活線である配電設備に適用する場合、遠隔操作で加熱する必要がある。また、配電設備用部品において有機絶縁物のトラッキングによる表面汚損部に関しては熱変化を引き起こせないので検出できない。さらに、上記浸透探傷試験では、浸透液、現像液などの残留物質の影響が懸念される。なお、このような配電設備用部品以外の設備用部品や製品においても、表面に現れる劣化箇所の位置を正確に特定することが望まれている。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、被検物の表層部に現れる劣化箇所の位置を正確に特定することができる劣化検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を解決するために、請求項1に記載の発明は、赤外線サーモグラフィ装置により被検物の表層部を撮影し、該撮影した前記被検物の表層部熱画像に基づいて、前記被検物の表層部における劣化箇所を特定する方法において、前記被検物の表層部温度で気化することが可能な液体で表層部を濡らすか、若しくは前記被検物の表層部温度で気化することが可能な液化ガスを表層部へ噴霧する熱負荷付与ステップと、前記熱負荷付与ステップと同時に又は前記熱負荷付与ステップの後に、前記赤外線サーモグラフィ装置により撮影された前記表層部熱画像に基づいて前記被検物の表層部の温度変化を経時的に計測する温度観測ステップと、を含み、前記温度観測ステップにより計測された前記被検物の表層部の温度分布において、周辺部に比べて温度低下が生じている部位を劣化箇所と判断することを要旨とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記液体は、水又はアルコールであることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記液化ガスは、沸点が-20℃以下の圧縮された液化ガスであることを要旨とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の発明において、前記熱負荷付与ステップの前に又は前記熱負荷付与ステップと同時に前記被検物の表層部を加熱する加熱ステップを含むことを要旨とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の発明において、前記温度観測ステップの最中に前記被検物の表層部に対して送風を行う送風ステップを含むことを要旨とする。
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の発明において、前記熱負荷付与ステップは、前記被検物の表層部に前記液体を噴霧又は塗布することにより、若しくは前記被検物の表層部を前記液体に浸漬することにより、前記液体で表層部を濡らすことを要旨とする。
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の発明において、前記被検物は、絶縁材料からなる配電設備用部品であることを要旨とする。
請求項8に記載の発明は、請求項7記載の発明において、前記劣化箇所は、前記配電設備用部品に生じたクラック及びトラッキングによる表面汚損部のうちの少なくとも1つであることを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の劣化検出方法によると、被検物の表層部(表面)温度で気化することが可能な液体で表層部を濡らすか、若しくは被検物の表層部温度で気化することが可能な液化ガスを表層部へ噴霧する熱負荷付与ステップと、熱負荷付与ステップと同時に又は前記熱負荷付与ステップの後に、前記赤外線サーモグラフィ装置により撮影された前記表層部熱画像に基づいて前記被検物の表層部の温度変化を経時的に計測する温度観測ステップと、を含む。そして、前記温度観測ステップにより計測された前記被検物の表層部の温度分布において、周辺部に比べて温度低下が生じている部位を劣化箇所と判断する。これにより、被検物の表層部に劣化箇所が存在する場合、熱負荷付与ステップにおいて、液体で表層部を濡らすか、若しくは液化ガスを表層部へ噴霧することにより、健全部では、液体又は気化ガスがすみやかに気化して温度変化が緩和するのに対し、劣化箇所では、液体が滞留し気化が継続することで冷却されるか、若しくは液化ガスの気化により劣化箇所の空隙が冷却されて、温度低下が比較的長い時間継続する。そのため、温度観測ステップにより計測された被検物の表層部の温度において、劣化箇所では、健全部に比べて大きな温度低下が認められ、被検物の表層部に現れている劣化箇所の位置を正確に特定することができる。
また、前記液体が、水又はアルコールである場合は、被検物の表層部への残留液体を無くすことができる。
また、前記液化ガスが、沸点が-20℃以下の圧縮された液化ガスである場合は、被検物の表層部への残留液化ガスを無くすことができる。
また、前記熱負荷付与ステップの前に又は前記熱負荷付与ステップと同時に前記被検物の表層部を加熱する加熱ステップを含む場合は、被検物の表層部での液体又は液化ガスの気化が促進されるため、劣化箇所では健全部に比べて更に大きく温度低下する。
また、前記温度観測ステップの最中に前記被検物の表層部に対して送風を行う送風ステップを含む場合は、被検物の表層部での液体又は液化ガスの気化が促進されるため、劣化箇所では健全部に比べて更に大きく温度低下する。
また、前記熱負荷付与ステップが、前記被検物の表層部に前記液体を噴霧又は塗布することにより、若しくは前記被検物の表層部を前記液体に浸漬することにより、前記液体で表層部を濡らす場合は、被検物の表層部を液体で効果的に濡らすことができる。
また、前記被検物が、絶縁材料からなる配電設備用部品である場合は、配電設備用部品の表層部に現れる劣化箇所の位置を正確に特定できる。
さらに、前記劣化部が、前記配電設備用部品に生じたクラック及びトラッキングによる表面汚損部のうちの少なくとも1つである場合は、配電設備用部品に生じたクラック及び/又はトラッキングによる表面汚損部を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
図1】実施例及び参考例に係る劣化検出方法を説明するための説明図であり、(a)は被検物の表層部を加熱する加熱ステップを示し、(b)は被検物の表層部に液体又は液化ガスを噴霧する熱負荷付与ステップとともに、被検物の表層部を赤外線サーモグラフィ装置で計測する温度観測ステップを示す。
図2】他の実施例及び参考例に係る劣化検出方法を説明するための説明図であり、(a)は被検物の表層部を加熱する加熱ステップとともに水浸漬する熱負荷付与ステップを示し、(b)は被検物の表層部を赤外線サーモグラフィ装置で計測する温度観測ステップを示す。
図3】液体又は液化ガスの気化による被検物の表層部の温度変化を説明するための説明図であり、(a)は液体又は液化ガスを被検物の表層部に噴霧した状態を示し、(b)は液体又は液化ガスの気化状態を示す。
図4】上記被検物の例を説明するための説明図であり、(a)は高圧カットアウトを示し、(b)は高圧引下線を示す。
図5】実施例1-4及び参考例1-3に係る劣化検出方法(被検物;高圧カットアウト)の評価結果を示す表である。
図6】実施例5-9及び参考例4、5に係る劣化検出方法(被検物;高圧引下線)の評価結果を示す表である。
図7】実施例1に係る劣化検出方法(エタノール噴霧)で撮影された表層部熱画像の一例を示す。
図8】実施例2に係る劣化検出方法(液化ガス噴霧)で撮影された表層部熱画像の一例を示す。
図9】実施例3に係る劣化検出方法(水浸漬で送風無し)で撮影された表層部熱画像の一例を示す。
図10】実施例4に係る劣化検出方法(水浸漬で送風有り)で撮影された表層部熱画像の一例を示す。
図11】実施例5に係る劣化検出方法(エタノール噴霧)で撮影された表層部熱画像の一例を示す。
図12】実施例6に係る劣化検出方法(水蒸気噴霧)で撮影された表層部熱画像の一例を示す。
図13】実施例7に係る劣化検出方法(水噴霧で送風有り)で撮影された表層部熱画像の一例を示す。
図14】実施例8に係る劣化検出方法(水浸漬で送風無し)で撮影された表層部熱画像の一例を示す。
図15】実施例9に係る劣化検出方法(水浸漬で送風有り)で撮影された表層部熱画像の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係る劣化検出方法は、例えば、図1及び図2に示すように、赤外線サーモグラフィ装置(7)により被検物(1A、1B)の表層部(表面)(2)を撮影し、該撮影した被検物の表層部熱画像に基づいて、被検物の表層部における劣化箇所(3A、3B)を特定する方法において、被検物の表層部温度で気化することが可能な液体(11)で表層部を濡らすか、若しくは被検物の表層部温度で気化することが可能な液化ガス(12)を表層部へ噴霧する熱負荷付与ステップと、熱負荷付与ステップと同時に又は熱負荷付与ステップの後に、赤外線サーモグラフィ装置(7)により撮影された表層部熱画像に基づいて被検物(1A、1B)の表層部(2)の温度変化を経時的に計測する温度観測ステップと、を含む。そして、例えば、図3に示すように、温度観測ステップにより計測された被検物(1A、1B)の表層部の温度分布において、周辺部に比べて温度低下が生じている部位を劣化箇所(3A、3B)と判断する。
【0011】
上記被検物(1A、1B)の種類、用途、材質等は特に問わない。この被検物としては、例えば、絶縁材料からなる配電設備用部品(例えば、図4等参照)、配電設備以外の設備に用いられる部品や製品等が挙げられる。この配電設備部品としては、例えば、高圧カットアウト、高圧ピン碍子等の磁器製の部品や高圧引下線等の有機絶縁物で電線を被覆した部品などが挙げられる。さらに、被検物として配電設備用部品を採用する場合、例えば、配電設備用部品は、配電設備から取り外された状態で劣化箇所の特定が行われてもよいし、高所に設置された状態(即ち、自然環境内に配置された状態)のままで劣化箇所の特定が行われてもよい。
【0012】
上記液体(11)の種類等は特に問わない。この液体としては、例えば、水、アルコール、水蒸気等が挙げられる。これらのうち、取扱い性及び気化熱の大きさ(吸熱性)の観点から、水であることが好ましい。この水としては、例えば、後述のように被検物が雨中に曝されていることを考慮して雨水を利用することができる。また、被検物の表層部への濡れ性の観点から、アルコールであることが好ましい。このアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。これらのうち、作業環境性の観点から、エタノールであることが好ましい。さらに、上記液化ガス(12)の種類等は特に問わない。この液化ガスは、例えば、沸点が-20℃以下の圧縮された液化ガスであることができる。なお、液化ガスの沸点は、通常、-100℃以上である。
【0013】
上記熱負荷付与ステップの熱負荷形態、タイミング等は特に問わない。この熱負荷付与ステップとしては、例えば、被検物(1A、1B)の表層部(2)に液体(11)を噴霧又は塗布することにより液体で表層部を濡らすA形態(例えば、図1(b)等参照)、被検物(1A、1B)の表層部(2)を液体(11)に浸漬することにより液体で表層部を濡らすB形態(例えば、図2(a)等参照)が挙げられる。このB形態は、例えば、水槽内の液体中に被検物の表層部を浸漬して行われてもよいし、自然環境内に設置された被検物の表層部を雨中に曝すことで行われてもよい。
【0014】
上記被検物(1A、1B)の表層部(2)に劣化箇所(3A、3B)が存在する場合、例えば、図3に示すように、熱負荷付与ステップにおいて、液体(11)で表層部を濡らすか、若しくは液化ガス(12)を表層部へ噴霧することにより、健全部(14)では、液体(11)又は気化ガス(12)がすみやかに気化して温度変化が緩和するのに対し、劣化箇所(3A、3B)では、液体(11)が滞留し気化が継続することで冷却されるか、若しくは液化ガス(12)の気化により劣化箇所(3A、3B)の空隙が冷却されて、温度低下が比較的長い時間継続する。そのため、熱負荷付与後に被検物(1A、1B)の表層部(2)の温度分布の変化を経時的に計測すれば、劣化箇所(3A、3B)では健全部(14)に比べて大きな温度低下が認められ、被検物(1A、1B)の表層部(2)に現れている劣化箇所(3A、3B)の位置を正確に特定することができる。
【0015】
上記温度観測ステップの温度観測形態、タイミング等は特に問わない。この温度観測ステップでは、通常、撮影された表層部熱画像の温度分布において、周辺部に比べて所定値以上の温度低下が認められる際に、温度低下が認められた部位を劣化箇所(3A、3B)と判断する。この所定値としては、例えば、0.1℃以上(好ましくは0.2℃以上)が挙げられる。ただし、赤外線サーモグラフィの検出感度によっては、0.1℃以下の温度低下でも劣化箇所の検出が可能になる。なお、上記温度低下は、通常、10℃以下である。劣化箇所(3A、3B)を判断するタイミング(例えば、熱負荷付与ステップ後の経過時間)は、被検物(1A、1B)の材料・形状・大きさ、熱負荷の方法、検出すべき劣化の種類等に応じて、適宜設定される。
また、温度観測ステップにおいて被検物(1A、1B)の表層部の温度変化の勾配等を計測することにより、例えば、周辺部に比べて単位時間当たりの温度低下が急速に生じている部位を劣化箇所(3A、3B)と判断することもできる。
【0016】
本実施形態に係る劣化検出方法としては、例えば、上記熱負荷付与ステップの前に又は熱負荷付与ステップと同時に被検物(1A、1B)の表層部(2)を加熱する加熱ステップを有する形態(例えば、図1(a)及び図2(a)等参照)が挙げられる。この加熱ステップの加熱形態、タイミング等は特に問わない。この加熱ステップは、例えば、ホットプレート(ヒータ)、熱風ブロア、エアコンディショナ等の加熱手段で行われてもよいし、水槽内の温度制御された水中に被検物の表層部を浸漬することで行われてもよいし、自然環境内に設置された被検物の表層部に対して日射及び/又は大気気温が作用することで行われてもよい。
【0017】
本実施形態に係る劣化検出方法としては、例えば、上記温度観測ステップの最中に被検物(1A、1B)の表層部(2)に対して送風を行う送風ステップを有する形態(例えば、図1(b)及び図2(b)等参照)が挙げられる。この送風ステップの送風形態、タイミング等は特に問わない。この送風ステップは、例えば、ブロア、エアコンディショナ等の送風手段で行われてもよいし、自然環境内に設置された被検物の表面に対して自然風が作用することで行われてもよい。また、送風ステップは、例えば、温度観測ステップの前に開始されて温度観測ステップで継続して行われることができる。
【0018】
なお、上記実施形態で記載した各構成の括弧内の符号は、後述する実施例に記載の具体的構成との対応関係を示すものである。
【実施例
【0019】
以下、図面を用いて実施例及び参考例により本発明を具体的に説明する。
【0020】
本実施例及び参考例に係る劣化検出方法は、図1及び図2に示すように、被検物1A、1Bの表層部温度で気化することが可能な液体11で表層部2を濡らすか、若しくは被検物1A、1Bの表層部温度で気化することが可能な液化ガス12を表層部2へ噴霧する熱負荷付与ステップ(図1(b)及び図2(a)参照)と、熱負荷付与ステップと同時に又は熱負荷付与ステップの後に、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像(図7図15参照)に基づいて被検物1A、1Bの表層部2の温度変化を経時的に計測する温度観測ステップ(図1(b)及び図2(b)参照)と、を含んでいる。
【0021】
そして、温度観測ステップにより計測された被検物1A、1Bの表層部2の温度分布において、周辺部に比べて温度低下が生じている部分を劣化箇所3A、3Bと判断する。具体的に、図3(a)に示すように、被検物1A、1Bの表層部2に劣化箇所3A、3Bが存在する場合、熱負荷付与ステップにおいて、液体11で表層部2を濡らすか、若しくは液化ガス12を表層部2へ噴霧することにより、例えば、図3(b)に示すように、健全部14では、液体11又は気化ガス12がすみやかに気化して温度変化が緩和するのに対し、劣化箇所3A、3Bでは、液体11が滞留し気化が継続することで冷却されるか、若しくは液化ガス12の気化により劣化箇所3A、3Bの空隙が冷却されて、温度低下が比較的長い時間継続する。そのため、温度観測ステップにより計測された被検物の表層部の温度において、劣化箇所3A、3Bでは、健全部14に比べて大きな温度低下が認められ、被検物1A、1Bの表層部2に現れている劣化箇所3A、3Bの位置を正確に特定することができる。
【0022】
また、本実施例及び参考例に係る劣化検出方法は、熱負荷付与ステップの前に又は熱負荷付与ステップと同時に被検物1A、1Bの表層部2を加熱する加熱ステップを含んでいる。具体的に、図1(a)に示すように、被検物1A、1Bは、熱負荷付与ステップの前に、ホットプレート4aの加熱により表層部2が所定の温度となるように加熱される。また、図2(a)に示すように、熱負荷付与ステップと同時に、ホットプレート4bの加熱により温度制御された水槽5中の水により表層部2が所定の温度となるように加熱される。なお、被検物1A、1Bの表層部温度が30℃未満のものは、ホットプレート4a、4bを作動させずエアコンディショナの制御等により所定の温度とされる。
【0023】
また、本実施例4、7、9及び参考例3に係る劣化検出方法(図5及び図6参照)は、温度観測ステップの最中に被検物1A、1Bの表層部に対して送風を行う送風ステップを含んでいる。具体的に、図1(b)及び図2(b)に示すように、温度観測ステップの最中に、ブロア9により被検物1A、1Bの表層部に対して送風(熱線式風速計(Testo425)で測定した風速;0.6~1.0m/sec)が行われる。
【0024】
なお、本実施例及び参考例に係る劣化検出方法では、赤外線サーモグラフィ装置7と被検物との距離をおよそ30~40mmとした。この赤外線サーモグラフィ装置7として、検出する波長が8~14μmであり、320×240画素を有する赤外線サーモグラフィカメラを使用した。さらに、本実施例及び参考例に係る劣化検出方法による評価結果(図5及び図6参照)においては、「○」は劣化部を明瞭に検出可能であることを示し、「△」は劣化部での温度差を検出可能であることを示し、「×」は劣化部を検出困難であることを示す。なお、見かけ上温度上昇している現象により劣化部を検出できる場合には、本発明とは異なるメカニズムであるため、「△」の塗りつぶし記号「▲」で示す。
【0025】
(1)実施例1-4及び参考例1-3
以下に、実施例1-4及び参考例1-3に係る劣化検出方法について図5を用いて説明する。なお、本実施例及び参考例では、被検物として、絶縁材料からなる配電設備用部品である高圧カットアウト1A(図4(a)参照)を採用した。この高圧カットアウト1Aでは、通常、劣化箇所として磁器のクラック(ひび割れ)3Aが生じる。
【0026】
<参考例1>
参考例1の劣化検出方法では、図1に示すように、予めホットプレート4aで被検物1Aの表層部2を所定の温度となるように加熱し(加熱ステップ)、その後、被検物1Aの表層部2に水11を噴霧するとともに(熱負荷付与ステップ)、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像に基づいて被検物1Aの表層部2の温度変化を経時的に計測した(温度観測ステップ)。その結果、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像では、劣化箇所3Aを検出できなかった。その理由として、水は被検物1Aに対して濡れにくいので効率良く劣化箇所3Aに浸透しなかったことが挙げられる。
【0027】
<実施例1>
実施例1の劣化検出方法では、図1に示すように、予めホットプレート4aで被検物1Aの表層部2を所定の温度となるように加熱し(加熱ステップ)、その後、被検物1Aの表層部2にエタノール11を噴霧するとともに(熱負荷付与ステップ)、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像に基づいて被検物1Aの表層部2の温度変化を経時的に計測した(温度観測ステップ)。その結果、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像(図7参照;被検物1Aの表層部温度30℃の例)では、被検物1Aの表層部温度が20~35℃の範囲で劣化箇所3Aを明瞭にとらえることができた(図7中の丸囲み部Pを参照)。また、被検物1Aの表層部温度が40℃、50℃の場合には、劣化箇所3Aを検出できるが、20~35℃の時のようにシャープな像として検出できない。
【0028】
<実施例2>
実施例2の劣化検出方法では、図1に示すように、予めホットプレート4aで被検物1Aの表層部2を所定の温度となるように加熱し(加熱ステップ)、その後、被検物1Aの表層部2に液化ガス12(具体的に、沸点が-20℃以下の圧縮された液化ガス12)を噴霧するとともに(熱負荷付与ステップ)、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像に基づいて被検物1Aの表層部2の温度変化を経時的に計測した(温度観測ステップ)。その結果、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像(図8参照;被検物の表層部温度10℃;1/60秒ごとに採取した画像サンプリングの例)では、いずれの初期表層部温度の場合も、液化ガスの噴霧中にわずかに劣化箇所3Aを検出できた(図8中の丸囲み部Pを参照)。
【0029】
<参考例2>
参考例2の劣化検出方法では、図1に示すように、予めホットプレート4aで被検物1Aの表層部2を所定の温度となるように加熱し(加熱ステップ)、その後、被検物1Aの表層部2に水蒸気11を噴霧するとともに(熱負荷付与ステップ)、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像に基づいて被検物1Aの表層部2の温度変化を経時的に計測した(温度観測ステップ)。その結果、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像では、水蒸気噴霧中に温度低下を観測することによって劣化箇所3Aの位置を特定することができなかった。
【0030】
<参考例3>
参考例3の劣化検出方法では、図1に示すように、予めホットプレート4aで被検物1Aの表層部2を所定の温度となるように加熱し(加熱ステップ)、その後、被検物1Aの表層部2に水11を噴霧するとともに(熱負荷付与ステップ)、被検物1Aの表層部2に対してブロア9で送風を行いつつ(送風ステップ)、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像に基づいて被検物1Aの表層部2の温度変化を経時的に計測した(温度観測ステップ)。その結果、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像では、劣化箇所3Aの検出には至らなかった。
【0031】
<実施例3>
実施例3の劣化検出方法では、図2に示すように、ホットプレート4bで加熱された水槽5内の水中に被検物1Aの表層部2を所定の温度となるように水浸漬し(加熱ステップ・熱負荷付与ステップ)、その後、水槽5内から被検物1Aを取り出して、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像に基づいて被検物1Aの表層部2の温度変化を経時的に計測した(温度観測ステップ)。その結果、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像(図9参照;被検物の表層部温度45℃の例)では、被検物1Aの表層部温度が45℃、50℃の場合、劣化箇所3Aの位置で僅かな温度低下が認められた(図9中の丸囲み部Pを参照)。ただし、被検物1Aの表層部温度が40℃以下では、ほとんど劣化箇所3Aを検出できなかった。
【0032】
<実施例4>
実施例4の劣化検出方法では、図2に示すように、ホットプレート4bで加熱された水槽5内の水中に被検物1Aの表層部2を所定の温度となるように水浸漬し(加熱ステップ・熱負荷付与ステップ)、その後、水槽5から被検物1Aを取り出して、被検物1Aの表層部2に対してブロア9で送風を行いつつ(送風ステップ)、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像に基づいて被検物1Aの表層部2の温度変化を経時的に計測した(温度観測ステップ)。その結果、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像では、被検物1Aの表層部温度が15℃、20℃の場合、劣化箇所3Aの位置で僅かな温度低下が認められた。また、被検物1Aの表層部温度が25℃以上(図10参照;被検物の表層部温度30℃の例)では、劣化箇所3Aが明確に検出された(図10中の丸囲み部Pを参照)。
【0033】
なお、上記実施例3、4(水浸漬)は、高所に設置されたままの配電設備用部品が雨水に曝された後には劣化箇所に十分な水分が浸透すると考えられため、これを模擬するために行った。特に、実施例4(水浸漬後に送風有り)は、配電設備用部品が雨水に曝された後に僅かな風が発生することで水分の蒸発が促進されることが期待されるため、これを模擬するために行った。
【0034】
以上より、高圧カットアウト1Aのように水との濡れ性が悪い材料の劣化箇所(クラック)3Aの検出については、高圧カットアウト1Aの表層部2にエタノール11を噴霧すること、もしくは高圧カットアウト1Aの表層部2を水浸漬した後に送風を行うことが有効である。一方、水と濡れ性のよい材質の被検物の場合には、エタノールと同様に水噴霧することで劣化箇所の検出が可能であることは本原理から明らかである。さらに、液化ガス12を用いた場合、何れの表層部温度域でも劣化箇所3Aが検出可能と考えられるため、エタノール噴霧や水浸漬が適用できない表層部温度が15℃以下の低い温度で有効と考えられる。
【0035】
(2)実施例5-9及び参考例4、5
次に、実施例5-9及び参考例4、5に係る劣化検出方法について図6を用いて説明する。なお、本実施例及び参考例では、被検物として、絶縁材料からなる配電設備用部品である高圧引下線1B(図4(b)参照)を採用した。この高圧引下線1Bでは、通常、劣化箇所として、有機絶縁物のトラッキングによる表面汚損部3Bが生じる。
【0036】
<参考例4>
参考例4の劣化検出方法では、図1に示すように、予めホットプレート4aで被検物1Bの表層部2を所定の温度となるように加熱し(加熱ステップ)、その後、被検物1Bの表層部2に水11を噴霧するとともに(熱負荷付与ステップ)、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像に基づいて被検物の表層部2の温度変化を経時的に計測した(温度観測ステップ)。その結果、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像では、被検物1Bの表層部温度が5~50℃の場合、劣化箇所3Bを検出することができなかった。その理由として、水は被検物1Bに対して濡れにくいので効率良く劣化箇所に広がらなかったことが挙げられる。
【0037】
<実施例5>
実施例5の劣化検出方法では、図1に示すように、予めホットプレート4aで被検物1Bの表層部2を所定の温度となるように加熱し(加熱ステップ)、その後、被検物1Bの表層部2にエタノール11を噴霧するとともに(熱負荷付与ステップ)、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像に基づいて被検物1Bの表層部2の温度変化を経時的に計測した(温度観測ステップ)。その結果、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像(図11参照;被検物の表層部温度30℃の例)では、被検物1Bの表層部温度が25℃以上の場合に劣化箇所3Bを明瞭にとられることができた(図11中の丸囲み部Pを参照)。
【0038】
<参考例5>
参考例5の劣化検出方法では、図1に示すように、予めホットプレート4aで被検物1Bの表層部2を所定の温度となるように加熱し(加熱ステップ)、その後、被検物1Bの表層部2に液化ガス12(具体的に、沸点が-20℃以下の圧縮された液化ガス12)を噴霧するとともに(熱負荷付与ステップ)、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像に基づいて被検物1Bの表層部2の温度変化を経時的に計測した(温度観測ステップ)。その結果、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像(1/60秒ごとに採取した画像サンプリング)では、噴霧中の画像や噴霧後放置後の画像からは劣化箇所3Bを検出できなかった。
【0039】
<実施例6>
実施例6の劣化検出方法では、図1に示すように、予めホットプレート4aで被検物1Bの表層部2を所定の温度となるように加熱し(加熱ステップ)、その後、被検物1Bの表層部2に水蒸気11を噴霧するとともに(熱負荷付与ステップ)、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像に基づいて被検物1Bの表層部2の温度変化を経時的に計測した(温度観測ステップ)。その結果、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像(図12参照;被検物の表層部温度30℃の例)では、水蒸気を噴霧することで均一に液膜を形成するため、参考例4(水噴霧)の濡れ性の問題が解決され、健全部に比べて多くの水が集まることで温度低下をもたらし劣化箇所3Bを判別できた(図12中の丸囲み部Pを参照)。
【0040】
<実施例7>
実施例7の劣化検出方法では、図1に示すように、予めホットプレート4aで被検物1Bの表層部2を所定の温度となるように加熱し(加熱ステップ)、その後、被検物1Bの表層部2に水11を噴霧するとともに(熱負荷付与ステップ)、被検物1Bの表層部2に対してブロア9で送風を行いつつ(送風ステップ)、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像に基づいて被検物1Bの表層部2の温度変化を経時的に計測した(温度観測ステップ)。その結果、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像(図13参照;被検物の表層部温度30℃の例)では、送風が無い場合に比べ顕著な温度低下が認められた。そして、被検物1Bの表層部温度が30℃の場合に、劣化箇所3Bの位置で温度低下をもたらし劣化箇所3Bを判別できた(図13中の丸囲み部Pを参照)。
【0041】
<実施例8>
実施例8の劣化検出方法では、図2に示すように、ホットプレート4bで加熱された水槽5内の水中に被検物1Bの表層部2を所定の温度となるように水浸漬し(加熱ステップ・熱負荷付与ステップ)、その後、水槽5から被検物1Bを取り出して、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像に基づいて被検物1Bの表層部2の温度変化を経時的に計測した(温度観測ステップ)。その結果、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像(図14参照;被検物の表層部温度40℃の例)では、被検物1Bの表層部温度が40℃以上で劣化箇所3Bを検出することができた(図14中の丸囲み部Pを参照)。
【0042】
<実施例9>
実施例9の劣化検出方法では、図2に示すように、ホットプレート4bで加熱された水槽5内の水中に被検物1Bの表層部2を所定の温度となるように水浸漬し(加熱ステップ・熱負荷付与ステップ)、その後、水槽5から被検物1Bを取り出して、被検物1Bの表層部2に対してブロア9で送風を行いつつ(送風ステップ)、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像に基づいて被検物1Bの表層部2の温度変化を経時的に計測した(温度観測ステップ)。その結果、赤外線サーモグラフィ装置7により撮影された表層部熱画像(図15参照;被検物の表層部温度30℃の例)では、被検物1Bの表層部温度が15℃以上で劣化箇所3Bを検出することができた(図15中の丸囲み部Pを参照)。
【0043】
なお、上記実施例8、9(水浸漬)は、高所に設置されたままの配電設備用部品が雨水に長期曝された後には劣化箇所に十分な水分が浸透すると考えられため、これを模擬するために行った。特に、実施例9(水浸漬後に送風有り)は、配電設備用部品が雨水にさらされた後に僅かな風が発生することで水分の蒸発が促進されることが期待されるため、これを模擬するために行った。
【0044】
以上より、高圧引下線1Bの劣化箇所(トラッキングによる表面汚損部)3Bの検出については、高圧引下線1Bの表層部2にエタノール11を噴霧すること、もしくは高圧引下線1Bの表層部2を水浸漬した後に送風を行うことが有効である。特に、表層部温度が20~50℃の高圧引下線1Bの表層部2にエタノール11を噴霧することが有効である。さらに、高圧引下線1Bの表層部2を水浸漬した後に、表層部温度が15~50℃の高圧引下線1Bの表層部2に対して送風を行うことが有効である。
【0045】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形または変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、赤外線サーモグラフィ装置により撮影された被検物の表層部熱画像に基づいて、被検物の表層部における劣化箇所を特定する技術として広く利用される。
【符号の説明】
【0047】
1A;高圧カットアウト(被検物)、1B;高圧引下線(被検物)、2;表層部、3A;クラック(劣化箇所)、3B;トラッキング汚損部(劣化箇所)、7;赤外線サーモグラフィ装置、11;液体、12;液化ガス。
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
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