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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】仮撚加工糸および織編物
(51)【国際特許分類】
   D02G 1/02 20060101AFI20220117BHJP
   D02G 3/04 20060101ALI20220117BHJP
   D03D 15/40 20210101ALI20220117BHJP
【FI】
D02G1/02 A
D02G1/02 B
D02G3/04
D03D15/40
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017198344
(22)【出願日】2017-10-12
(65)【公開番号】P2019073807
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000219255
【氏名又は名称】東レ・テキスタイル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】前田 亘洋
(72)【発明者】
【氏名】三輪 和人
(72)【発明者】
【氏名】大和 宜民
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-008254(JP,A)
【文献】特開2003-201621(JP,A)
【文献】特開2004-332164(JP,A)
【文献】特開2015-078459(JP,A)
【文献】特開昭54-068427(JP,A)
【文献】特開2007-056407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
D03D1/00-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸条の長手方向に開繊部と収束部が交互に形成されてなる仮撚加工糸であり、前記開繊部では捲縮が発現し、前記収束部では実質的に捲縮が発現しておらず、伸縮復元率が15%以下であり、かつ0.4413cN/dtexで緊張処理後の収束部の数が80~200個/mであり、膨らみ係数比が、1.3以上8.0以下であることを特徴とする仮撚加工糸。
【請求項2】
1種類の熱可塑性マルチフィラメント、あるいは少なくとも2種類の熱可塑性マルチフィラメントからなる複合加工糸であることを特徴とする請求項1記載の仮撚加工糸。
【請求項3】
少なくとも2種類の熱可塑性マルチフィラメントからなる複合加工糸であって、異なる種類の熱可塑性マルチフィラメントの糸長差が3%以下であることを特徴とする請求項記載の仮撚加工糸。
【請求項4】
少なくとも2種類の熱可塑性マルチフィラメントからなる複合加工糸であって、そのうち1種類はカチオン染料可染糸条であり、前記カチオン染料可染糸条を10~90質量%含むことを特徴とする請求項2または3記載の仮撚加工糸。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の仮撚加工糸を、一部または全部に用いてなることを特徴とする織編物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後加工工程の条件に広い自由度を有するとともに、ソフトな膨らみ感に加え、ドライ感を合わせ持つ仮撚加工糸、およびこの仮撚加工糸を用いてなる織編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィラメントに自然な斑感を与え、ふくらみ感を与える糸条として、シックアンドシンポリエステルフィラメントの仮撚加工糸が知られている。
【0003】
しかしながら、繊維軸方向に延伸部と未延伸部とを有するフィラメントを仮撚加工すると、未延伸部の熱による劣化が力学的特性の低下につながり、織密度やアルカリ処理による減量率等において、これらの条件が限定される場合がある。
【0004】
そこで異繊度混合フィラメントからなる未延伸糸を特定条件下で延伸することによって、最小繊度のフィラメントは繊維軸方向に実質的に均斉となし、自然な色調、熱的および機械的な安定性とを持たせている方法が提案されている(特公昭62-31094号公報参照。)。しかしながら、この提案の場合には、色の濃淡は表現できても異なる色相を含ませることは事実上不可能であり、与えられる色調には限度がある。
【0005】
また、異なる色相と濃淡差の両者を与えることができる糸条が提案されている(特開平2-80631号公報参照。)。この提案によれば、繊維軸方向に未延伸部と延伸部を含むマルチフィラメント糸Aと、そのマルチフィラメント糸Aとは異染性または異色で繊維軸方向にほぼ均一な特性を有する熱可塑性フィラメントからなる延伸マルチフィラメント糸Bを含んでなる仮撚加工糸とすることにより、繊維軸方向の濃淡効果と断面方向に異色相効果を持たせている。
【0006】
しかしながら、この提案においては、次のような課題がある。すなわち、この提案では、ポリエチレンテレフタレートからなる繊維軸方向に未延伸部と延伸部を含むマルチフィラメントAと、カチオン染料可染性ポリエステルからなる繊維軸方向にほぼ均一な特性を有するフィラメントからなる延伸マルチフィラメント糸Bの組み合わせを意図している。従って、供給される両糸条の強度は高くなく、しかも仮撚加工時のポリエチレンテレフタレートからなる繊維軸方向に未延伸部と延伸部を含むマルチフィラメントAの熱による劣化もあり、仮撚加工後の強度は必ずしも十分ではなく、織編密度やアルカリ処理による減量加工時の条件が制限される場合がある。
【0007】
さらに別に、カチオン染料可染性シックアンドシンポリエステルマルチフィラメントAと、ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントBとが含まれているポリエステル複合加工糸が提案されている(特開平7-324237号公報参照。)。この提案によれば、ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントが存在することにより、力学的特性が保持されると記載されている。ただし、カチオン染料可染性ポリエステルシックアンドシンマルチフィラメントは、仮撚加工時のカチオン染料可染性ポリエチレンテレフタレートの繊維軸方向に未延伸部と延伸部を含むマルチフィラメントの熱による劣化の課題もあり、仮撚加工後の強度は必ずしも十分ではなく、織編密度やアルカリ処理による減量加工時の条件が制限される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特公昭62-31094号公報
【文献】特開2001-115351号公報
【文献】特開平7-324237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明の目的は、上記の従来技術の課題を解決し、糸条の力学的特性を保持し、後加工工程の条件に広い自由度を有するとともに、ソフトな膨らみ感に加え、ドライ感を合わせ持つ、後工程通過性の良好な仮撚加工糸を共有することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決せんとするものであって、本発明の仮撚加工糸は、糸条の長手方向に開繊部と収束部が交互に形成されてなる仮撚加工糸であり、前記の開繊部では捲縮が発現し、前記の収束部では実質的に捲縮が発現しておらず、伸縮復元率が15%以下であり、かつ0.4413cN/dtexで緊張処理後の収束部の数が80~200個/mであることを特徴とする仮撚加工糸である。
【0011】
本発明の仮撚加工糸の好ましい態様によれば、前記の仮撚加工糸の染色加工前後の膨らみ係数比は、1.3以上8.0以下である。
【0012】
本発明の仮撚加工糸の好ましい態様によれば、前記の仮撚加工糸は、1種類の熱可塑性マルチフィラメント、あるいは少なくとも2種類の熱可塑性マルチフィラメントからなる複合加工糸である。
【0013】
本発明の仮撚加工糸の好ましい態様によれば、前記の少なくとも2種類の熱可塑性マルチフィラメントからなる複合加工糸において、異なる種類の熱可塑性マルチフィラメントの糸長差は3%以下である。
【0014】
本発明の仮撚加工糸の好ましい態様によれば、前記の少なくとも2種類の熱可塑性マルチフィラメントからなる複合加工糸において、そのうち1種類はカチオン染料可染糸条であり、前記のカチオン染料可染糸条を10~90質量%含むことである。
【0015】
本発明においては、前記の仮撚加工糸を、一部または全部に用いて織編物を製編織することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、糸の力学的特性を保持し、後加工工程の条件に広い自由度を有するとともに、ソフトな膨らみ感に加え、ドライ感を合わせ持つ、後工程通過性の良好な仮撚加工糸が得られる。
【0017】
また、本発明によれば、撚糸せずに、撚糸をしたときのような風合いの糸が得られ、かつ、従来の仮撚加工糸では、織編物にしたときに、糸の収束部がとれやすいのに対して、本発明の仮撚加工糸は織編物にしたときにも、糸の収束部がとれにくく、撚糸をしたときのような風合いを有する織編物をつくることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の仮撚加工糸を例示する模式側面図である。
図2図2は、本発明の仮撚加工糸の製造工程を例示説明する概略側面図である。
図3図3は、本発明の仮撚加工糸の他の製造工程を例示説明する概略側面図である。
図4図4は、本発明の仮撚加工糸の他の製造工程を例示説明する概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の仮撚加工糸について、詳細に説明する。
【0020】
本発明の仮撚加工糸は、糸条の長手方向に開繊部と収束部が交互に形成されてなる仮撚加工糸であり、前記の開繊部では捲縮が発現し、前記の収束部では実質的に捲縮が発現していない仮撚加工糸である。
【0021】
本発明において、糸条の長手方向に開繊部と収束部が交互に形成されてなる仮撚加工糸とは、糸条の長手方向に、捲縮が発現した開繊部と、捲縮が実質的に発現していない収束部が交互に形成された状態のことを指し、染色加工後に同糸形態が形成されることを特徴とする。
【0022】
図1は、本発明の仮撚加工糸を例示する模式側面図である。図1において、仮撚加工糸は、捲縮が発現した開繊部1と収束部2が交互に形成されている。
【0023】
開繊部1と収束部2の個数は、それぞれ略80~200個/mで規定されており、また、開繊部1と収束部2の長さはそれぞれ略2.0~10mmであり、上記の開繊部1と収束部2は、求める風合いに応じて適宜調整することができる。
【0024】
このように収束部2は、マルチフィラメント同士が密に絡みあい、捲縮の発現ができない状態になっている。一方、開繊部1は、各フィラメントが拘束されずに自由に動くことができることにより捲縮が発現する。
【0025】
本発明の仮撚加工糸は、後述の算出方法による膨らみ係数比が、1.3以上8.0以下であることが好ましい態様である。膨らみ係数比は、より好ましくは1.5以上6.0以下であり、さらに好ましくは、1.8以上5.0以下である。
【0026】
膨らみ係数比が、1.3未満であるということは、染色加工前後の仮撚加工糸の膨らみの変化が小さいことを示しており、仮撚加工糸の膨らみが小さい場合、後工程での加工通過性は良好であるものの、染色加工後の開繊部の膨らみがほとんどなく、ソフトな膨らみに乏しく風合いに劣る。一方、仮撚加工糸の膨らみが大きい場合、後工程での糸解舒性等の課題があり、加工通過性が劣るという懸念が考えられる。また、膨らみ係数比が8.0を超える場合は、染色加工後の膨らみが大きすぎて、ソフト感は得られるが、ドライ感が損なわれ、求める風合いを得ることが困難である。
【0027】
この膨らみ係数比は、伸縮復元率および開繊部と収束部をコントロールすることにより得られる。
【0028】
本発明の仮撚加工糸は、好ましくは1種類の熱可塑性マルチフィラメント、あるいは少なくとも2種類の熱可塑性マルチフィラメントからなる複合加工糸である。
【0029】
熱可塑性マルチフィラメントとしては、繊維形成性の良好なポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、およびポリエチレンなどの熱可塑性樹脂からなるマルチフィラメントが好ましく用いられる。
【0030】
マルチフィラメントの1フィラメントあたりの単繊維繊度は0.5dtex以上10dtex以下であることが好ましい。1フィラメントあたりの単繊維繊度が低い場合は、織編物にした場合、風合いは柔らかくなるが、張り腰が弱くなる傾向がある。織編物に適度な張り腰を与えるためには、単繊維繊度は1.5dtex以上4dtex未満であることが好ましい。また、織編物の張り腰を強調したい場合は、単繊維繊度は4dtex以上10dtex以下であることが好ましい。1フィラメントあたりの繊度が高すぎると、張り腰強くなりすぎ、縫製工程が難しくなる傾向がある。単繊維繊度が0.5dtex未満の場合には、仮撚加工時の毛羽立ちが多くなる。また、単繊維繊度が10.dtexを超える場合には、風合いが粗硬になる。
【0031】
また、少なくとも2種類の熱可塑性マルチフィラメントからなる複合加工糸であって、そのうち1種はカチオン染料可染マルチフィラメントである場合、カチオン染料可染ポリアミドやカチオン染料可染ポリエステルなどからなるマルチフィラメントが好ましく用いられる。1種をカチオン染料可染とし、その他の熱可塑性マルチフィラメントをカチオン染料不可染とすることにより、自然な杢感が得られる。
【0032】
さらに、本発明において、少なくとも2種類の熱可塑性マルチフィラメントからなる複合加工糸であって、そのうち1種はカチオン染料可染マルチフィラメントである場合、カチオン染料可染マルチフィラメントの質量比率は、10質量%以上90質量%以下の範囲にあることが好ましい。カチオン染料可染マルチフィラメントの質量比率(混率)が10質量%未満の場合、染色後に杢として認識できず、自然な杢感が得られない。また、質量比率(混率)が90質量%を越える場合には、カチオン染料可染マルチフィラメント起因により糸強度が低く、製織工程や編成工程で毛羽が発生し、工程通過性が悪くなる。また、染色後の杢感は杢として認識できなくなることがある。
【0033】
本発明の仮撚加工糸は、緊張処理後の収束部の数が80個/m以上、200個/m以下を有することが好ましい態様である。これは、撚糸工程、製織工程および編成工程で、一般に最大0.26478cN/dtexの張力がかかるため、これより高い張力0.4413cN/dtexで緊張処理後の収束部の数は、撚糸工程、製織工程および編成工程を通過して、製品である織編物になったときに、収束部の数が保持され、ドライ感を付与することができる。
【0034】
緊張処理後の収束部の数が、80個/m未満の場合には、撚糸工程前のパーンワインド工程での糸割れが多くなる。また、いずれの後工程でも、チーズパッケージからの仮撚加工糸の解舒性が悪く、糸切れが増加することがある。また、無撚り糸条を経糸に用いて製織した場合、開口不良が発生し、製織性が悪くなることがある。さらには、製品である織編物のドライ感も乏しくなることがある。
【0035】
一方で、収束部の数が200個/mを超える場合には、後工程での加工性は良好であるものの、風合いが硬化し、製品である織編物のソフト感が得られないという傾向を示す。収束部の数は、より好ましくは80個/m以上180個/m以下であり、さらに好ましくは、80個/m以上150個/m以下である。
【0036】
さらに、本発明の仮撚加工糸は、伸縮復元率が15%以下であることが好ましい。伸縮復元率を15%以下とすることにより、製品である織編物にふくらみ感とドライ感を両立することが出来き、さらに適度な張り腰感を付与することができる。伸縮復元率が15%を超えると、ふくらみ感が優勢になり、製品である織編物のドライ感と張り腰が減少する傾向がある。伸縮復元率下限値は、5%程度であり、より好ましくは7%以上である。
【0037】
上記のように、本発明においては、仮撚加工糸の緊張処理後の収束部の数と伸縮復元率を適切に制御することにより、開繊部によるソフトで嵩高な風合いと、収束部によるドライ感を両立させることを可能にすることができる。
【0038】
少なくとも2種類の熱可塑性マルチフィラメントからなる複合加工糸の場合、異なる種類のフィラメントの糸長差は3%以下であることが好ましい。本発明では、異なる種類のフィラメントの糸長差を3%以下とすることにより、仮撚加工糸はほぼ引き揃え状となる。特に、少なくとも2種類の熱可塑性マルチフィラメントからなる複合加工糸であって、そのうち1種類をカチオン染料可染糸条とする場合には、自然な杢感が得られる。一方、糸長差が3%を超えると、糸長差の小さい芯糸が鞘糸にカバリングされてしまい、自然な杢感が得られにくくなる。さらに、高次加工で開繊部の糸がしごかれて、ネップ状の欠点になることがある。
【0039】
本発明で用いられる熱可塑性マルチフィラメントの繊維(フィラメント)断面形状は、通常の丸断面の他、多葉断面、多角断面、中空断面、偏平断面やその他特殊異形断面のどのような断面形状のものも適用可能である。
【0040】
次に、本発明の仮撚加工糸の製造方法について詳細に説明する。
【0041】
図2図3および図4は、本発明の仮撚加工糸の製造工程を例示説明する概略側面図である。
【0042】
図2において、ローラーCによって供給糸Aから引き出された糸条と、ローラーDによって供給糸Bから引き出された糸条は、第1ヒーターF入口に設置されたガイドEで合流し、第1ヒーターF、仮撚り装置GおよびデリベリーローラーHを経て、複合捲縮糸となる。複合捲縮糸となった糸条は、第2ヒーターJとローラーKを経て、流体ノズルLに入り、収束部を形成する。収束部が形成された糸条、すなわち、本発明の仮撚加工糸Qは、ローラーMを経て、巻き取りローラーNで紙管Pに巻き取られる。
【0043】
仮撚り装置Gには、例えば、仮撚りスピンドルではスピナーを装着することができ、そのスピナーのピンに糸条を巻いて装着し、スピンドルを回転させると、送り出しローラーと仮撚りスピンドルの間の糸条は、例えば、Z撚りが加えられる(加撚工程)。この撚りが加えられている糸条を、第1ヒーターFで熱セット(乾熱処理)し、仮撚りスピンドルとデリベリーローラーの間で、前記と反対の例えばS撚りが加えられることによって撚りが解かれ(解撚工程)て、複合捲縮糸となる。ヒーター出口と仮撚り装置の間は冷却ゾーンであり、クーリングプレートなどで冷却することが好ましい。
【0044】
仮撚りを与える方法には、上述の仮撚りスピンドルのほか、糸条を高速回転する円筒の内壁や円盤の外周あるいは高速走行するベルトの表面と接触させ、摩擦によって仮撚りを与える方法があり、すなわち、ここではフリクションディスクやニップベルトなどが用いられる。
【0045】
仮撚り装置Gによる仮撚り数は、糸条を適度に捲縮させるとともに撚りをかけすぎることによる繊維の切断を防ぐため、下記の式で表わされる撚り係数(K1)の値が21,000~30,000程度であることが好適である。
・K1=t×D1/2
〔式中、tは仮撚り数(回/m)、Dは繊度(dtex)を表す。〕
ヒーター温度に関しては、第1ヒーターFは上記複合捲縮糸の染色の色差バラツキが少なくなる温度に設定し、第2ヒーターJは本発明の仮撚加工糸の伸縮復元率が15%以下になるように適宜調節する。ヒーターは、接触ヒーターでも、非接触ヒーターでもよく、公知の手段が用いられる。
【0046】
デリベリーローラーHの速度は、加工安定性と経済性を考慮して、設定される。
【0047】
ローラーCとローラーDの速度は、供給糸Aおよび供給糸Bの破断伸度に応じて、適宜設定することができるが、本発明の仮撚加工糸の糸長差が3%以下になるように、ローラーCとローラーDの速度を調整する。ローラーCとローラーDの速度が同じときは、ローラーCまたはローラーDに供給糸Aおよび供給糸Bを同時に供給することができる。
【0048】
ローラーKの速度は、第2ヒーターJでの糸条の走向安定性が良くなるように設定される。
【0049】
流体ノズルLとしては、整流交絡ノズルや乱流交絡ノズルなどを使用することができる。中でもより好ましくは、開繊部と収束部が交互に発生しやすい整流交絡ノズルを使用することである。ローラーMの速度と流体ノズルLの圧力は、0.4413cN/dtex緊張後の収束部の数が80~200個/mとなるように、それぞれ調整することが好ましい。
【0050】
流体ノズルLは、図3のように、デリベリーローラーHと第2ヒーターJの間に設置し、流体ノズルL処理と第2ヒーターJでの熱処理を同時に行うことができる。この場合は、ローラーKの速度と流体ノズルLの圧力は、第2ヒーターKでの糸条の走向安定性が良くなるように、かつ、0.4413cN/dtex緊張後の収束部の数が80~200個/mになるように調整することが好ましい。
【0051】
また、流体ノズルLは、上記の方法の他に図4のように、ローラーCの前に設置し、さらに流体ノズルLの前にローラーRを設置し、流体処理を行うことができる。
【0052】
本発明の織編物は、織物であれば、本発明の仮撚加工糸を少なくとも経糸の一部に使用することにより、その効果が得られるが、本発明の仮撚加工糸を経糸および緯糸ともに使用しても、その効果は損なわれない。また、編物(横編、丸編、経編)の場合は、本発明の仮撚加工糸を一部に使用することにより、その効果が得られるが、生地の表面または/かつ、裏面に本発明の仮撚加工糸が配置されることが効果的である。
【0053】
本発明の仮撚加工糸を用いて得られる製品である織編物は、ブラウス、ドレスシャツ、スーツ、ワンピース、コート、フォーマルなどの婦人・紳士衣料、作業着、防塵衣などのワーキングウエア、およびスキーウェアなどのスポーツ衣料用途に好適に用いられる。
【実施例
【0054】
次に、本発明の仮撚加工糸について、実施例により更に詳細に説明する。本発明の実施例中の各評価は、次の方法で評価した。
【0055】
[風合い]:
・ソフト感の評価について、熟練者によって次の4段階判定法で評価し、◎、○、△および×で表示した。
◎:手で触った際のソフト感を特に強く感じる風合い。
○:手で触った際のソフト感を感じる風合い。
△:手で触った際のソフト感を少し感じる風合い。
×:手で触った際のソフト感を感じない風合い。
【0056】
・ドライ感のそれぞれの評価について、熟練者によって次の4段階判定法で評価し、◎、○、△および×で表示した。
◎:手で触った際のドライ感を特に強く感じる風合い。
○:手で触った際のドライ感を感じる風合い。
△:手で触った際のドライ感を少し感じる風合い。
×:手で触った際のドライ感を感じない風合い。
【0057】
風合い合否については、ソフト感が×、かつ/あるいは、ドライ感の評価が×のときに生地風合いを不合格とし、その他の場合を合格とした。ソフト感が◎、あるいは○、かつ、ドライ感が◎、あるいは、○の時が生地風合いとしてはより好ましい態様である。
【0058】
[杢感]:
織物の外観の評価について、2m離れたところから、熟練者が杢感を認識できるか、次の2段階判定法で評価した。
○:ナチュラルな杢感が認識できる。
×:色差が認識できない、もしくは欠点やパターン異常により、杢感が認識できない。
-:糸条の構成上、杢にならない。
【0059】
[膨らみ係数比]:
0.4413cN/dtexで緊張処理した糸条を沸騰水処理後、乾熱処理した糸条に、1.77×10-3cN/dtexの荷重をかけ、その状態での糸条形態を株式会社キーエンス社製デジタルマイクロスコープVHX-500によって観察し、仮撚加工糸の太さ(mm)を測定する。測定は、糸条の長さ方向に開繊部と集束部毎に測定し、開繊部と集束部のそれぞれの中央部20か所を測定する。測定した数値の最大値から順番に大きい数値を3点および最小値から順番に小さい数値を3点除外した14か所の平均値を用いて、次式によって算出する。
・膨らみ係数比=染色後(開繊部の太さの平均値(mm)/集束部の太さの平均値(mm))/染色前(開繊部の太さの平均値(mm)/集束部の太さの平均値(mm))。
【0060】
[伸縮復元率]:
JIS L 1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法8.12により伸縮復元率を測定した。測定前の前処理として、かせ状にした測定試料をガーゼに包んだまま、ポリエステルの場合、90℃、ナイロンの場合、60℃、ポリプロピレンの場合、70℃の温度で20分間の温水処理を行い、室温20℃で自然乾燥させた。約12時間後、8.12により伸縮復元率を測定した。
【0061】
[緊張処理後の収束部の数、開繊部の数、収束部の平均長さ、開繊部の平均長さ]:
糸状約120cmの片方の糸端を固定して、垂直に吊す。固定していない糸端に1.77×10-3cN/dtexの荷重をかけ、任意に1mの両端に黒インキで印をつける。その後、0.4413cN/dtexの荷重に付け替え、1分間放置する。その後、0.4413cN/dtexの荷重を外し、1分間放置する。1.77×10-3cN/dtexの荷重に付け替えて、黒インキで印をつけた間の収束部と開繊部の数を数える。それぞれの個数を0.4413cN/dtex緊張後の収束部の数(個/m)、0.4413cN/dtex緊張後の開繊部の数(個/m)とする。また、収束部と開繊部の長さを測定し、平均値をそれぞれ、収束部の平均長さ(mm)、開繊部の平均長さ(mm)とする。
【0062】
[糸長差]:
少なくとも2種類の熱可塑性マルチフィラメントからなる複合加工糸である場合は、次の方法で糸長差を測定した。
【0063】
仮撚加工糸の糸長差のことである。約5cmの長さの糸を取り出し、繊維自体が伸びないように注意深く単糸1本1本に分解する。グリセリンを塗布したスケール板上に分解した単糸を乗せて、1種の熱可塑性マルチフィラメント単糸群の平均長をL1、もう1種の熱可塑性マルチフィラメント単糸群の平均長をL2として、次式により算出する。
・糸長差(%)={(L2-L1)/L1}×100。
【0064】
[後加工工程加工性]:
◎:製織工程または編成行程において、不具合発生が極めて少なく、加工安定性が良く、量産性に優れる。
○:製織工程または編成行程において、不具合が若干発生するが、量産可能なレベル。
(◎にくらべ、製織スピード、編成スピードを遅くする必要があり、生産効率がやや低下するが、量産性に大きな問題なし。)
×:製織工程または編成行程において、不具合が多く発生し、加工安定性がなく、量産性に乏しい。この後加工工程加工性の評価においては、◎と○を合格とした。
【0065】
(実施例1)
167dtex-36フィラメントのポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸を、図2に示した装置を用いて延伸仮撚加工し巻取った。加工条件としては、第1ヒーター温度170℃と、第2ヒーター温度190℃で熱処理を施し、フリクション方式仮撚装置を用いて1.68倍に仮撚延伸を行い、整流交絡ノズルを用いて加工圧0.3Mpaで交絡を付与し、100dtex-36フィラメントの仮撚加工糸を得た。仮撚加工性は良好であった。この仮撚加工糸は、開繊部では捲縮が発現し、収束部では実質的に捲縮が発現はなかった。また、伸縮復元率が11%で、緊張処理後の開繊部と収束部の数はそれぞれ112個/mであり、開繊部と収束部の平均長さはそれぞれ5.9mmと3.0mmであった。この仮撚加工糸に撚糸加工を施さずに、タテ糸およびヨコ糸に使用し、織密度タテ112本/インチ×ヨコ108本/インチで織組織:平織で製織した。次いで、分散染料による染色加工を行なった。後加工工程の加工性は良好であった。膨らみ係数比は3.0であり、得られた織物は、ソフトでふくらみ感を有し、かつドライ感も合わせ持つ織物であった。結果を表1に示す。
【0066】
(実施例2)
130dtex-36フィラメントのポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸と90dtex-36フィラメントのポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸とを、図2に示した装置を用いて同時引き揃え延伸仮撚加工し巻取った。加工条件としては、第1ヒーター温度170℃と、第2ヒーター温度185℃で熱処理を施し、フリクション方式仮撚装置を用いて1.68倍と、1.57倍にそれぞれ仮撚延伸を行い、整流交絡ノズルを用いて加工圧0.3Mpaで交絡を付与し、135dtex-72フィラメントの仮撚加工糸を得た。仮撚加工性は良好であった。この仮撚加工糸は、開繊部では捲縮が発現し、収束部では実質的に捲縮が発現はなかった。また、伸縮復元率が14%で、緊張処理後の開繊部と収束部の数は95個/mで、開繊部と収束部の平均長さはそれぞれ6.8mmと3.7mmで、糸長差は1.0%であった。この仮撚加工糸に撚糸加工を施さずに、織密度タテ97本/インチ×ヨコ93本/インチで織組織:平織で製織した。次いで、分散染料による染色加工を行なった。後加工工程の加工性は良好であった。膨らみ係数比は7.5であり、得られた織物は、ソフトでふくらみ感を有し、かつドライ感に優れる織物であった。結果を表1に示す。
【0067】
(実施例3)
180dtex-48フィラメントのポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸と20dtex-10フィラメントのカチオン染料可染性のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸とを、図2に示した装置を用いて同時引き揃え延伸仮撚加工し巻取った。加工条件としては、第1ヒーター温度165℃と、第2ヒーター温度185℃で熱処理を施し、フリクション方式仮撚装置を用いてポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸を1.70倍、カチオン染料に可染性のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸を1.50倍にそれぞれ仮撚延伸を行い、整流交絡ノズルを用いて加工圧0.25Mpaで交絡を付与し、120dtex-58フィラメントの仮撚複合加工糸を得た。仮撚加工性は良好であった。この仮撚加工糸は、開繊部では捲縮が発現し、収束部では実質的に捲縮が発現はなかった。また、伸縮復元率が11%で、緊張処理後の開繊部と収束部の数は86個/mで、開繊部と収束部の平均長さはそれぞれ7.3mmと4.3mmで、糸長差は0%であった。この仮撚加工糸に撚糸加工を施さずに、織密度タテ103本/インチ×ヨコ99本/インチで織組織:平織で製織した。次いで、カチオン染料による染色加工を行なった。後加工工程の加工性は良好であった。膨らみ係数比は5.0であり、得られた織物は、ソフトでふくらみ感を有し、かつドライ感を有する織物であったが、杢感は杢として認識できなかった。結果を表1に示す。
【0068】
(実施例4)
180dtex-48フィラメントのポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸と22dtex-10フィラメントのカチオン染料可染性のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸とを、図2に示した装置を用いて同時引き揃え延伸仮撚加工し巻取った。加工条件としては、第1ヒーター温度165℃と、第2ヒーター温度185℃で熱処理を施し、フリクション方式仮撚装置を用いてポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸を1.71倍、カチオン染料に可染性のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸を1.50倍にそれぞれ仮撚延伸を行い、整流交絡ノズルを用いて加工圧0.25Mpaで交絡を付与し、120dtex-58フィラメントの仮撚複合加工糸を得た。仮撚加工性は良好であった。この仮撚加工糸は、開繊部では捲縮が発現し、収束部では実質的に捲縮が発現はなかった。また、伸縮復元率が12%で、緊張処理後の開繊部と収束部の数は85個/mで、開繊部と収束部の平均長さはそれぞれ7.5mmと4.3mmで、糸長差は0%であった。この仮撚複合加工糸に撚糸加工を施さずに、織密度タテ103本/インチ×ヨコ99本/インチで織組織:平織で製織した。次いで、カチオン染料と分散染料による染色加工を行なった。後加工工程の加工性は良好であった。膨らみ係数比は5.0であり、得られた織物は、ナチュラルで流れるような杢感と、特にソフトでふくらみ感を有し、かつドライ感を有する織物であった。結果を表1に示す。
【0069】
(実施例5)
90dtex-24フィラメントのポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸と90dtex-36フィラメントのカチオン染料可染性のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸とを、図2に示した装置を用いて同時引き揃え延伸仮撚加工し巻取った。加工条件としては、第1ヒーター温度165℃と、第2ヒーター温度185℃で熱処理を施し、フリクション方式仮撚装置を用いてポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸を1.52倍、カチオン染料に可染性のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸を1.49倍にそれぞれ仮撚延伸を行い、整流交絡ノズルを用いて加工圧0.25Mpaで交絡を付与し、120dtex-60フィラメントの仮撚複合加工糸を得た。仮撚加工性は良好であった。この仮撚加工糸は、開繊部では捲縮が発現し、収束部では実質的に捲縮が発現はなかった。また、伸縮復元率が12%で、緊張処理後の開繊部と収束部の数は90個/mで、開繊部と収束部の平均長さはそれぞれ6.9mmと4.2mmで、糸長差は0%であった。この仮撚複合加工糸に撚糸加工を施さずに、織密度タテ103本/インチ×ヨコ99本/インチで織組織:平織で製織した。ついで、カチオン染料による染色加工を行なった。後加工工程の加工性は良好であった。膨らみ係数比は5.0であり、得られた織物は、ナチュラルで流れるような杢感と、特にソフトでふくらみ感を有し、かつドライ感を有する織物であった。結果を表1に示す。
【0070】
(実施例6)
ポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸を1.45倍、カチオン染料に可染性のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸を1.53倍にそれぞれ仮撚延伸したこと以外は、実施例5と同じ仮撚加工を実施した。得られた仮撚複合加工糸は、開繊部では捲縮が発現し、収束部では実質的に捲縮が発現はなかった。また、伸縮復元率が12%で、緊張処理後の開繊部と収束部の数は90個/mで、開繊部と収束部の平均長さはそれぞれ6.8mと4.3mmで、糸長差は4%であった。この仮撚加工糸に、実施例5と同様の後加工を実施した。後加工工程の加工性は開繊部にネップがみられるため、タテ糸の開口不良が発生し、製織性が若干悪かったので、製織スピードを遅くした。膨らみ係数比は5.0であり、得られた織物は、ナチュラルで流れるような杢感と、特にソフトでふくらみ感を有するが、ドライ感は少し感じる程度の織物であった。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
(実施例7)
22dtex-6フィラメントのポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸と180dtex-72フィラメントのカチオン染料可染性のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸とを、図2に示した装置を用いて同時引き揃え延伸仮撚加工し巻取った。加工条件としては、第1ヒーター温度165℃と、第2ヒーター温度185℃で熱処理を施し、フリクション方式仮撚装置を用いてポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸を1.60倍、カチオン染料に可染性のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸を1.68倍にそれぞれ仮撚延伸を行い、整流交絡ノズルを用いて加工圧0.25Mpaで交絡を付与し、120dtex-78フィラメントの仮撚複合加工糸を得た。仮撚加工性は良好であった。この仮撚加工糸は、開繊部では捲縮が発現し、収束部では実質的に捲縮が発現はなかった。また、伸縮復元率が12%で、緊張処理後の開繊部と収束部の数は88個/mで、開繊部と収束部の平均長さはそれぞれ7.0mmと4.4mmで、糸長差は0%であった。この仮撚複合加工糸に撚糸加工を施さずに、織密度タテ103本/インチ×ヨコ99本/インチで織組織:平織で製織した。次いで、カチオン染料と分散染料による染色加工を行なった。後加工工程の加工性は良好であった。膨らみ係数比は5.0であり、得られた織物は、ナチュラルで流れるような杢感と、特にソフトでふくらみ感を有し、かつドライ感を有する織物であった。結果を表2に示す。
【0073】
(実施例8)
22dtex-6フィラメントのポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸と180dtex-72フィラメントのカチオン染料可染性のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸とを、図2に示した装置を用いて同時引き揃え延伸仮撚加工し巻取った。加工条件としては、第1ヒーター温度165℃と、第2ヒーター温度185℃で熱処理を施し、フリクション方式仮撚装置を用いてポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸を1.61倍、カチオン染料に可染性のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸を1.68倍にそれぞれ仮撚延伸を行い、整流交絡ノズルを用いて加工圧0.25Mpaで交絡を付与し、120dtex-78フィラメントの仮撚複合加工糸を得た。仮撚加工性は良好であった。この仮撚加工糸は、開繊部では捲縮が発現し、収束部では実質的に捲縮が発現はなかった。また、伸縮復元率が13%で、緊張処理後の開繊部と収束部の数は89個/mで、開繊部と収束部の平均長さはそれぞれ6.9mmと4.4mmで、糸長差は0%であった。この仮撚複合加工糸に撚糸加工を施さずに、織密度タテ103本/インチ×ヨコ99本/インチで織組織:平織で製織した。次いで、カチオン染料と分散染料による染色加工を行なった。後加工工程のカチオン可染糸の質量比が91%と高いので、強度が若干弱いため、タテ糸切れが発生したので製織スピードを遅くした。膨らみ係数比は5.0であり、得られた織物は、ソフトでふくらみ感を有し、かつドライ感を有する織物であったが、杢感は杢として認識できなかった。結果を表2に示す。
【0074】
(実施例9)
140dtex-36フィラメントのポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸と130dtex-36フィラメントのカチオン染料可染性ポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸とを、図3に示した装置を用いて同時引き揃え延伸仮撚加工し巻取った。加工条件としては、第1ヒーター温度165℃と、第2ヒーター温度185℃で熱処理を施し、ベルトニップ方式仮撚装置を用いてポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸を1.65倍、カチオン染料に可染性のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸を1.53倍にそれぞれ仮撚延伸を行い、整流交絡ノズルを用いて加工圧0.4Mpaで交絡を付与し、170dtex-72フィラメントの仮撚複合加工糸を得た。仮撚加工性は良好であった。この仮撚加工糸は、開繊部では捲縮が発現し、収束部では実質的に捲縮が発現はなかった。また、伸縮復元率が10%で、緊張処理後の開繊部と収束部の数は198個/mで、開繊部と収束部の平均長さはそれぞれ3.0mmと2.1mmで、糸長差は3%であった。この仮撚加工糸に撚糸加工を施さずに、織密度タテ86本/インチ×ヨコ83本/インチで織組織:平織で製織した。次いで、カチオン染料、分散染料による染色加工を行なった。後加工工程の加工性は良好であった。膨らみ係数比は1.3であり、得られた織物は、ナチュラルで流れるような杢感と、ソフトでふくらみ感を有し、かつドライ感に優れる織物であった。結果を表2に示す。
【0075】
(実施例10)
第2ヒーター温度190℃とした以外実施例9と同じ仮撚加工を実施した。仮撚加工性は良好であった。得られた仮撚加工糸は、開繊部では捲縮が発現し、収束部では実質的に捲縮が発現はなかった。また、伸縮復元率が9%で、緊張処理後の開繊部と収束部の数は198個/mで、開繊部と収束部の平均長さはそれぞれ3.0mと2.1mmで、糸長差は3%であった。この仮撚加工糸に撚糸加工を施さずに、織密度タテ86本/インチ×ヨコ83本/インチで織組織:平織で製織した。次いで、カチオン染料による染色加工を行なった。後加工工程の加工性は良好であった。膨らみ係数比は1.2であり、得られた織物は、ナチュラルで流れるような杢感で、ドライ感に優れる織物であったが、ソフト感は少し感じる程度の織物であった。結果を表2に示す。
【0076】
(実施例11)
90dtex-24フィラメントのポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸と90dtex-36フィラメントのカチオン染料可染性のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸とを、図4に示した装置を用いて同時引き揃え延伸仮撚加工し巻取った。加工条件として、ポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸と、カチオン染料に可染性のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸を、整流交絡ノズルを用いて加工圧0.35Mpaで交絡を付与し、第1ヒーター温度165℃と、第2ヒーター温度185℃で熱処理を施し、フリクション方式仮撚装置を用いて1.52倍に同時に仮撚延伸を行い、110dtex-60フィラメントの仮撚複合加工糸を得た。仮撚加工性は良好であった。この仮撚加工糸は、開繊部では捲縮が発現し、収束部では実質的に捲縮が発現はなかった。また、伸縮復元率が13%で、緊張処理後の開繊部と収束部の数は85個/mで、開繊部と収束部の平均長さはそれぞれ7.5mmと4.5mmで、糸長差は1%であった。この仮撚複合加工糸に、実施例5と同様の後加工を実施した。後加工工程の加工性は良好であった。膨らみ係数比は5.0であり、得られた織物は、ナチュラルで流れるような杢感と、特にソフトでふくらみ感を有し、かつドライ感を有する織物であった。結果を表2に示す。
【0077】
(実施例12)
実施例5で得られた仮撚加工糸に撚糸加工を施さずに、28ゲージ30インチの丸編機でフライス組織を編成した。次いで、カチオン染料による染色加工を行なった。後加工工程の加工性は良好であった。膨らみ係数比は5.0であり、得られた編物は、ナチュラルな杢感と、特にソフトでふくらみ感を有し、かつドライ感を有する編物であった。結果を表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
(比較例1)
第2ヒーター温度を170℃で熱処理を施し以外は、実施例1と同じ仮撚加工を実施した。仮撚加工性は良好であった。得られた仮撚加工糸は、開繊部では捲縮が発現し、収束部では実質的に捲縮が発現はなかった。また、伸縮復元率が16%で、緊張処理後の開繊部と収束部の数は112個/mで、開繊部と収束部の平均長さはそれぞれ6.1mmと2.8mmであった。この仮撚加工糸に、実施例1と同じ後加工を実施した。膨らみ係数比は5.5であり、得られた織物は、ソフトでふくらみ感を有するものの、ドライ感に乏しい織物であった。結果を表3に示す。
【0080】
(比較例2)
第2ヒーターを使用しなかったこと以外は、実施例2と同じ仮撚加工を実施した。仮撚加工性は良好であった。得られた仮撚複合加工糸は、開繊部では捲縮が発現し、収束部では実質的に捲縮が発現はなかった。また、伸縮復元率が22%で、緊張処理後の開繊部と収束部の数は93個/mで、開繊部と収束部の平均長さはそれぞれ7.9mmと2.9mmで、糸長差は1%であった。この仮撚加工糸に、実施例2と同じ後加工を実施した。膨らみ係数比は10であり、得られた織物は、ソフトでふくらみ感を有するものの、ふかつきが大きく、ドライ感に乏しい織物であった。結果を表3に示す。
【0081】
(比較例3)
整流交絡ノズルの加工圧を0.1Mpaとしたこと以外は、実施例9と同じ加工を実施した。仮撚加工性は良好であった。得られた仮撚加工糸は、開繊部では捲縮が発現し、収束部では実質的に捲縮が発現はなかった。また、伸縮復元率が10%で、緊張処理後の開繊部と収束部の数は75個/mで、開繊部と収束部の平均長さはそれぞれ10.1mmと3.2mmで、糸長差は3%であった。この仮撚加工糸に実施例9と同じ後加工を実施した。後加工工程の加工性は、チーズパッケージからの仮撚加工糸の解舒性が悪く糸切れが発生した。また、タテ糸の開口不良も発生し、製織性が悪かった。膨らみ係数比は1.5であり、得られた織物は、ナチュラルな杢感で、ソフトでふくらみ感に優れるものの、ドライ感に乏しい織物であった。結果を表3に示す。
【0082】
(比較例4)
整流交絡ノズルの加工圧を0.5Mpaとしたこと以外は、実施例9と同じ加工を実施した。仮撚加工性は良好であった。得られた仮撚加工糸は、開繊部では捲縮が発現し、収束部では実質的に捲縮が発現はなかった。また、伸縮復元率が10%で、緊張処理後の開繊部と収束部の数は202個/mで、開繊部と収束部の平均長さはそれぞれ2.5mmと2.5mmで、糸長差は3%であった。この仮撚加工糸に実施例9と同じ後加工を実施した。膨らみ係数比は1.5であり、得られた織物は、ナチュラルな杢感で、特にドライ感に優れる織物であったが、硬い風合いでソフト感を感じない織物であった。結果を表3に示す。
【0083】
【表3】
【0084】
実施例1および実施例2と、比較例1および比較例2を比べると、仮撚加工糸の伸縮復元率が高く15%を超える比較例1および比較例2は、ドライ感に乏しくなり、実施例9と比較例3を比べると、緊張処理後の収束部の数が少なく80個/m未満である比較例3は、ドライ感に乏しくなった。また、実施例9と比較例4を比べると、緊張処理後の収束部が多く200個/mを超える比較例4は、風合いが硬化し、ソフト感が乏しくなった。すなわち、本発明の仮撚加工糸は、伸縮復元率が15%以下であり、かつ緊張処理後の収束部の数が80個~200個/mとすることにより、ソフトなふくらみ感に加え、かつドライ感を合わせ持つ織編物が得られる。
【0085】
実施例9と実施例10を比べると、膨らみ係数比が低く1.3未満である実施例10は、ドライ感に優れたが、ソフト感を感じるものの少し感じる程度であり、実施例2と比較例2を比べると、膨らみ係数比が高く8.0を超える比較例2は、ソフト感に優れたが、ドライ感は損なわれた。すなわち、本発明の仮撚加工糸は、膨らみ係数比が、1.3以上8.0以下とすることにより、ソフトなふくらみ感に加え、かつドライ感を合わせ持つ織編物が得られる。
【0086】
実施例5と実施例6を比べると、糸長差が高く3%を超える実施例6は、開繊部にネップが見られ、開口不良が発生し、製織性が若干悪くなることから、製織スピードを遅くする必要があり、生産効率がやや低下するが、量産性に大きな問題はない。実施例9と比較例3を比べると、緊張処理後の収束部の数が低く80個/m未満である比較例3は、チーズパッケージからの仮撚加工糸の解舒性が悪く糸切れが発生し、さらに開口不良が発生し、製織性が悪くなった。すなわち、本発明の仮撚加工糸は、糸長差を3%以下、緊張処理後の収束部の数が80個/m以上とすることにより、製織性が良好となる。
【0087】
実施例3と実施例4を比べると、仮撚加工糸中のカチオン可染性マルチフィラメントの質量比率が低く10%未満である実施例3は、杢感は杢として認識できなかった。また、実施例7と実施例8を比べると、仮撚加工糸中のカチオン可染性マルチフィラメントの質量比率が高く90%を超える実施例8は、杢感は杢として認識できず、さらにタテ糸切れが発生し、製織性は若干悪くなることから、製織スピードを遅くする必要があり、生産効率がやや低下するが、量産性に大きな問題はない。すなわち、本発明の仮撚加工糸は、仮撚加工糸中のカチオン可染性糸条の質量比が10%以上90以下とすることにより、ナチュラルな杢感が得られ、かつ製織性も良好となる。
【符号の説明】
【0088】
1:開繊部
2:収束部
A:供給糸
B:供給糸
C:ローラー
D:ローラー
E:ガイド
F:第1ヒーター
G:仮撚り装置
H:デリベリーローラー
J:第1ヒーター
K:ローラー
L:流体ノズル
M:ローラー
N:巻き取りローラー
P:紙管
Q:仮撚加工糸
R:ローラー0
図1
図2
図3
図4