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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】離解機
(51)【国際特許分類】
   D21D 1/38 20060101AFI20220117BHJP
【FI】
D21D1/38
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017231906
(22)【出願日】2017-12-01
(65)【公開番号】P2019099943
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】アイアット国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】石川 聡
(72)【発明者】
【氏名】岩中 元気
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-212680(JP,A)
【文献】特表2001-513151(JP,A)
【文献】特表2016-516138(JP,A)
【文献】特開2016-108715(JP,A)
【文献】特開2007-182659(JP,A)
【文献】特開2014-177731(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-D21J7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同心円上に配された複数のリングのそれぞれの側面に刃が形成された該リングの中心を軸として回転するローターと、該ローターの回転軸を中心として同心円上に配された複数のリングの側面に刃が形成されたステーターとを備えて、これら刃の面を対向させて配し、前記ローターを回転させて、ローターの中心部に供給された製紙原料を外周部に移動させながらパルプ繊維を離解する離解機において、
前記ステーターの複数のリングのうちの一つまたは二つ以上のリングを取り外したことを特徴とする離解機。
【請求項2】
前記取り外すリングは、最外周以外のものであることを特徴とする請求項1に記載の離解機。
【請求項3】
前記取り外すリングは、最外周を残して内周部に向かって一本おきとすることを特徴とする請求項1に記載の離解機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回収された古紙や損紙等を水中で離解分散して、パルプ繊維を分離させ、該パルプ繊維を含有するスラリーを生成する離解機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、製紙工場において抄紙機により紙を製造するに際して、抄紙機の運転開始時や抄紙機に不具合が発生して所望の品質が得られない場合等には製品としては不適な損紙が発生する。この損紙は抄紙機におけるドライパートを通過した後に回収されるため、紙としての形態を備えている。回収された損紙は改めて製紙原料として利用することになるが、紙の形態であるのでその状態のままでは原料にできず、パルプ繊維に分離する必要がある。このための装置として離解機が用いられる。また、再生紙を製造する場合には、回収した古紙からパルプ繊維を分離することを要し、この場合にも離解機が用いられる。
【0003】
図6には横型の離解機1の概略の構造を示してある。離解機1はローター2とステーター3とが組み合わされている。なお、図6はステーター3を開放した状態を示している。これらローター2とステーター3は、それぞれ刃を備えたリングが同心状に配されて構成されており、刃が形成された面が対向されて配されている。原料は供給口1aから供給されて矢標Pで示す方向、すなわち、ローター2の回転軸の方向に供給され、該ローター2の高速回転によりローターの中心部から外周部へ、すなわち外周方向へ移動しながら、該ローター2の刃とステーター3の刃との間で衝撃を受けてパルプ繊維が離解される。また、ローター2の中央部にはローター2と共に回転する攪拌羽根4が設けられており、供給された原料は攪拌されながら、吐出口1bから矢標Qで示す外周方向へ排出される。
【0004】
図9図10は、従来のローター2とステーター3のそれぞれの刃面を示す図である。ローター2にはそれぞれに刃が形成された4組のリング2a、2b、2c、2dが備えられており、ステーター3にはそれぞれに刃が形成された4組のリング3a、3b、3c、3dが備えられている。ローター2のリング2a、2b、2c、2dとステーター3のリング3a、3b、3c、3dとは互い違いとなって配されている。このため、供給された原料は前記矢標Q方向に移動する際に、攪拌羽根4からローター2のリング2a、ステーター3のリング3a、リング2b、リング3b、リング2c、リング3c、リング2d、リング3dの順で徐々に外周方向に移動させられ、せん断力を受けて離解され、吐出口1bから外部に吐出されることになる。
【0005】
また、前記ローター2のリング2a、2b、2c、2dとステーター3のリング3a、3b、3c、3dとはいずれも、内側のリングの刃幅が大きくて刃数が少なく、刃間隔が大きく、外側に行くに従って徐々に刃幅が小さく、刃数が増加し、刃間隔が小さくなっている。
【0006】
離解機1では、投入された原料がローター2の回転により生じる回流の流れを受けてローター2とステーター3との間を通過することにより、これらが備えた刃によりパルプを離解させるが、この際に確実に離解されることが要求される。パルプの離解を効率よく行うようにするため、例えば、特許文献1には高濃度の繊維材料を機械的に処理する装置として、高濃度の繊維材料を機械的に処理する装置であって、相対運動可能な少なくとも2つの処理工具が設けられており、(イ)該処理工具が、それぞれ1つのほぼ回転対称的な基体を有していて、互いに同軸的に配置されており、(ロ)処理工具が、中心に対して同心的な環状の列を成して配置された歯を有しており、該歯相互間にギャップが位置しており、該ギャップが、処理しようとする繊維材料によって流過可能な自由な横断面を形成しており、(ハ)処理工具が、歯列相互間に環状の空きスペースを有しており、(ニ)1つの処理工具の少なくとも1つの歯列が、別の1つの処理工具の1つの環状の空きスペースに突入するように、処理工具が互いに位置決めされている形式のものにおいて、繊維材料によって流過可能な、隣り合う歯相互間のギャップが、それぞれ異なる長さを有している構成が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には離解能力の増大を図った離解機として、原料入口と離解出口を有し、内部に前記原料入口と前記離解出口を接続する通路を備えたケ-シングと、このケ-シング内に回転自在に軸支された回転体と、前記通路内に設けられると共に前記回転体の先端に取り付けられ、両面に凹凸形状を備えた回転部と、この回転部を覆うように前記ケ-シングは形成され、前記ケ-シングの内壁であって前記回転部の両面に設けられた凹凸形状に対向して設けられた凹凸形状の固定部と、前記回転部の両面は、前記原料入口に近い側に位置する第1の凹凸回転部と、前記原料入口に遠い側に位置する第2の凹凸回転部とで構成され、前記固定部は、前記第1の凹凸回転部に対向する第1の凹凸固定部と、前記第2の凹凸回転部に対向する第2の凹凸固定部とで構成され、前記通路内に、前記第1の凹凸回転部の凹部が前記第1の凹凸固定部の凸部に、前記第1の凹凸回転部の凸部が前記第1の凹凸固定部の凹部にそれぞれ間隙を有して位置して形成される第1の通路と、前記第2の凹凸回転部の凹部が前記第2の凹凸固定部の凸部に、前記第2の凹凸回転部の凸部が前記第2の凹凸固定部の凹部にそれぞれ間隙を有して位置して形成される第2の通路とを設け、前記回転体の先端には回転体の凹部が形成され、該回転体の凹部の開口部と前記原料入口の開口部とは対向し、前記回転体の先端には前記回転体の凹部の開口部と前記第2の通路を連通する回転体通路が形成され、前記原料入口から流入した製紙原料は前記第1の通路と前記第2の通路に分流し、前記第1の通路の前記製紙原料は前記第1の凹凸回転部と前記第1の凹凸固定部との間隙を通過する際、前記第1の凹凸回転部と前記第1の凹凸固定部とで離解され、前記第2の通路の前記製紙原料は前記第2の凹凸回転部と前記第2の凹凸固定部との間隙を通過する際、前記第2の凹凸回転部と前記第2の凹凸固定部とで離解される構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平09-170184号公報
【文献】特開平10-212680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
離解機では、製紙原料にせん断力を付与するために、ステーターに対するローターの回転の負荷が大きくなって、稼働時の電力が大きくなっている。発明者は種々の試行を行って、周速が最も大きい外周側のリングの刃によるものが繊維の離解効率が最も高いことを見出した。そこで、この外周側のリングの刃による離解の高効率を利用して、省電力化を図って、エネルギー効率の改善を図る離解機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するための技術的手段として、この発明に係る離解機は、同心円上に配された複数のリングのそれぞれの側面に刃が形成された該リングの中心を軸として回転するローターと、該ローターの回転軸を中心として同心円上に配された複数のリングの側面に刃が形成されたステーターとを備えて、これら刃の面を対向させて配し、前記ローターを回転させて、ローターの中心部に供給された製紙原料を外周部に移動させながらパルプ繊維を離解する離解機において、前記ステーターの複数のリングのうちの一つまたは二つ以上のリングを取り外したことを特徴としている。
【0013】
ステーターのリングを外すことによりローターの回転にかかる負荷が小さくなるので、該ローターの回転に要する電力の削減を図るものである。
なお、ローターの回転軸を中心として回転して供給された製紙原料を攪拌する攪拌羽根が設けられており、製紙原料を外周部に移動させる回流は、この攪拌羽根の回転によって生じされる。特に、この攪拌羽根の外形寸法を、ローターの最小径のリングの内周面に極力接近させることが好ましい。
【0014】
また、請求項の発明に係る離解機は、前記取り外すリングは、最外周以外のものであることを特徴としている。
【0015】
発明者は周速が最も大きい最外周のリングの刃による離解効率が最も高いことを見出した。この知見に着目してステーターの最外周以外のリングを取り外すこととしたものである。
【0016】
また、請求項の発明に係る離解機は、前記取り外すリングは、最外周を残して内周部に向かって一本おきとすることを特徴としている。
【0017】
ローターの回転により供給された製紙原料に遠心力を付与して外周方向へ移動させるための回流を発生させるものである。製紙原料はローターの回転軸に沿って供給されるから、内側のローターの回転による遠心力を受けて外周方向へ移動することになる。この移動途中においてステーターのリングの刃により離解が促進される。したがって、この離解のためのリングとして最外周のリングの他に、内側に位置しているリングを残すものである。
【発明の効果】
【0022】
この発明に係る離解機によれば、ローターの回転に対する負荷が小さくなるから、回転に要する電力を削減できて、省エネルギー化を図ることができる。
また、攪拌羽根の外形寸法を、ローターの最小径のリングの内周面に極力接近させることで、攪拌羽根による攪拌効果が向上すると共に、大きな遠心力を発生させることにより、離解性の向上を図ることができる。
【0023】
また、請求項の発明に係る離解機によれば、消費電力の削減と共に、離解効率の低下を抑制することができる。
【0024】
また、請求項の発明に係る離解機によれば、離解効率の維持を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】この発明に係る離解機のローターの概略を示す正面図である。
図2】この発明に係る離解機のステーターの概略を示す正面図である。
図3】ローターの一部を拡大して示す正面図である。
図4】ステーターの一部を拡大して示す正面図である。
図5】この発明に係る攪拌羽根の概略を示す正面図である。
図6】この発明を実施するのに適した離解機を説明する図であり、横型の離解機の概略構造を示すもので、ステーターをローターに対して開放した状態を示している。
図7】ステーターとローターの刃の部分を拡大して示す断面図である。
図8】従来の離解機と本発明による離解機とにより離解させたパルプ強度の影響を比較・確認する表である。
図9】従来の離解機のローターを示す図で、図1に相当する正面図である。
図10】従来の離解機のステーターを示す図で、図2に相当する正面図である。
図11】従来の攪拌羽根を示す図で、図5に相当する正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図示した好ましい実施の形態に基づいて、この発明に係る離解機を具体的に説明する。
【0028】
図1にはこの発明に係る離解機に用いられるローター10の正面図を示してあり、このローター10は側面に刃が形成された複数本のリングが同心円上に配されている。このローター10は内側から第1リング10a、第2リング10b、第3リング10c、第4リング10dの順に4本のリングがディスク11に取り付けられて形成されている。このディスク11の回動軸を中心として攪拌羽根12が設けられており、この攪拌羽根12の外形寸法が、図9及び図11に示す従来の攪拌羽根4の外形寸法に比べて、図1に示すように、内側の第1リング10aの内側面に接近させるように大きくしてある。
【0029】
また、図3はローター10の一部を拡大して示す正面図で、ローター10の第1リング10aの刃を該ローター10の半径方向から傾けてあり、このローター10の回転による該刃の旋回によって製紙原料を該ローター10の接線方向に加速するように力が作用するようにしてある。
【0030】
また、図2にはこの発明に係る離解機に用いられるステーター15の正面図を示してある。このステーター15は、図10に示した従来のステーター3が備えているリング3a、3b、3c、3dのうちの第1リング3aと第3リング3cとを取り外したものとしてある。すなわち、このステーター15は従来の最外周に位置している第4リング3dに相当する外側リング15bと、同じく第2リング3bに相当する内側リング15aとが、ディスク16に取り付けられているものである。なお、この実施形態では内側リング15aを取り付けた構造としてあるが、最も外周側の外側リング15bが取り付けられていれば、内側リング15aを取り外しても構わない。これは、本願の発明者が最大周速の刃を有するリングである外側リング15bが最も高い繊維離解効率を備えていることに着目したものである。
【0031】
また、前記ローター10とステーター15とのそれぞれの刃は、図7に示すように、刃先を対向させた方向で連係させてあり、ローター10の刃の先端面とステーター15のディスク16の面との間隙Gを約0.7mmとした。従来のローター2とステーター3との場合では、この間隙は約1.2mmとしてあったが、本願発明では、ステーター15のリングを減じたことによりこの間隙を小さくすることができるようになったものであり、これにより離解効率を向上させることができたものである。
【0032】
以上により構成されたこの発明に係る離解機の作用を、以下に説明する。
【0033】
供給口1aから供給された製紙原料は、回転するローター10の攪拌羽根12により攪拌されながら遠心力が付与される。この遠心力により回流が発生して製紙原料は、この回流の流れによって徐々に外周方向に移動する。この移動途中でローター10とステーター15のそれぞれのリング10a、10b、10c、10d、15a、15bの刃の間を通過しながらパルプ繊維が離解される。このとき、前記ローター10の第1リング10aの刃の傾きによって製紙原料には該ローター10の接線方向の力が付与され、前記攪拌羽根12による遠心力と共に、良好な回流を発生させて、製紙原料の移動を円滑に行うことができる。
【0034】
また、前記リングリング10a、10b、10c、10d、15a、15bの刃数は、ローター10とステーター15のいずれも、外周側に行くにしたがって増加するため、製紙原料からのパルプ繊維の離解を徐々に進行させることになる。特に、ステーター15の外側リング15bの刃を通過する際に、効率よく離解させることができることになる。
【0035】
そして、離解されたパルプ繊維は前記吐出口1bから排出されて次工程へ給送される。
【0036】
本願発明に係る離解機により生成されたパルプ繊維の強度と、従来の離解機1で生成されたパルプ繊維の強度とを比較したパルプ強度影響確認の表を図8に示す。この表に示されているように、本願発明による離解機で生成されたパルプの品質に対する影響は殆ど認められない。しかも、消費電力を比較すると、パルプ濃度3.17%のパルプ液を0.8mmスリット、スリット数70の離解機において3000rpmで処理する際、従来の離解機1の場合には処理流量27.6立方メートル、54.5Kwの負荷が掛かり、風乾パルプ1t当たり56.1Kw/ADTの電力を要していたのに対して、本願発明に係る離解機の場合には処理流量27.8立方メートル、29.7Kwの負荷が掛かり、風乾パルプ1t当たり30.3Kw/ADTの電力を要するのみで、約46%の電力消費量を抑制できたことを確認した。なお、生成されたパルプのスラリーを手漉きによりシートを作成して観察したところ、未離解原料が存していないことも確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
この発明に係る離解機によれば、ステーターのリングを取り除いたため、ローターの回転にかかる負荷が減じられ、該ローターの回転に要する電力を小さくできるので、離解機の稼働の際の省エネルギー化に寄与する。
【符号の説明】
【0038】
10 ローター
10a 第1リング
10b 第2リング
10c 第3リング
10d 第4リング
11 ディスク
12 攪拌羽根
15 ステーター
15a 内側リング
15b 外側リング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11