(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】積層造形物の製造方法及び積層造形物
(51)【国際特許分類】
B23K 9/04 20060101AFI20220117BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220117BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20220117BHJP
B23K 9/032 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B33Y10/00
B33Y80/00
B23K9/04 Z
B23K9/032 Z
(21)【出願番号】P 2018107904
(22)【出願日】2018-06-05
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 岳史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸志
(72)【発明者】
【氏名】山崎 雄幹
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-214635(JP,A)
【文献】特開2017-114118(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110001(WO,A1)
【文献】実開平02-034237(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2017/0173692(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/04
B33Y 10/00
B33Y 80/00
B23K 9/032
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属材料の溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させてなる第1造形体と、前記第1金属材料と異なる第2金属材料の溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させてなる第2造形体とを接合して製造される積層造形物の製造方法であって、
前記第1金属材料の前記溶着ビードを積層させて前記第1造形体の本体部を造形する第1造形体本体部造形工程と、
前記第1造形体の前記本体部に、前記第1金属材料の前記溶着ビードからなる複数の第1突条部及び前記第2金属材料の前記溶着ビードからなる複数の第2突条部を形成し、前記第1突条部と前記第2突条部とを交互に配列させた接合部を造形する接合部造形工程と、
前記接合部に、前記第2金属材料の前記溶着ビードを積層して前記第2造形体の本体部を造形する第2造形体本体部造形工程と、
を含み、
前記第1突条部の前記溶着ビードは、積層方向において、前記第2突条部の前記溶着ビード間、又は前記第2突条部の前記溶着ビードと前記第2造形体の本体部の前記溶着ビードとの間で挟持され、且つ、
前記第2突条部の前記溶着ビードは、前記積層方向において、前記第1突条部の前記溶着ビード間、又は前記第1突条部の前記溶着ビードと前記第1造形体の本体部の前記溶着ビードとの間で挟持され
、
前記接合部造形工程において、前記各第1突条部と前記各第2突条部の少なくとも一方の積層方向への突出長さは、前記第1突条部と前記第2突条部との配列方向において交互に異なる、
積層造形物の製造方法。
【請求項2】
前記接合部造形工程において、前記第1突条部及び前記第2突条部
の前記配列方向の幅が層ごとに異なるように、前記第1金属材料の前記溶着ビード及び前記第2金属材料の前記溶着ビードを形成する請求項1に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項3】
前記接合部造形工程において、前記第1突条部が、前記積層方向へ向かって次第に幅広となるように、前記第1金属材料の前記溶着ビード及び前記第2金属材料の前記溶着ビードを形成する請求項1
又は2に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項4】
第1金属材料の溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させてなる第1造形体と、前記第1金属材料と異なる第2金属材料の溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させてなる第2造形体とを接合して製造される積層造形物であって、
前記第1金属材料の前記溶着ビードを積層させて造形される前記第1造形体の本体部と、
前記第1造形体の前記本体部に、前記第1金属材料の前記溶着ビードからなる複数の第1突条部及び前記第2金属材料の前記溶着ビードからなる複数の第2突条部を形成し、前記第1突条部と前記第2突条部とを交互に配列させて造形される接合部と、
前記接合部に、前記第2金属材料の前記溶着ビードを積層して造形される前記第2造形体の本体部と、
を含み、
前記第1突条部の前記溶着ビードは、積層方向において、前記第2突条部の前記溶着ビード間、又は前記第2突条部の前記溶着ビードと前記第2造形体の本体部の前記溶着ビードとの間で挟持され、且つ、
前記第2突条部の前記溶着ビードは、前記積層方向において、前記第1突条部の前記溶着ビード間、又は前記第1突条部の前記溶着ビードと前記第1造形体の本体部の前記溶着ビードとの間で挟持され
、
前記各第1突条部と前記各第2突条部の少なくとも一方の積層方向への突出長さは、前記第1突条部と前記第2突条部との配列方向において交互に異なる、
積層造形物。
【請求項5】
前記第1突条部及び前記第2突条部は
前記配列方向の幅が層ごとに異なる請求項
4に記載の積層造形物。
【請求項6】
前記第1突条部が、前記積層方向へ向かって次第に幅広となる請求項
4又は5に記載の積層造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形物の製造方法及び積層造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産手段としての3Dプリンタのニーズが高まっており、特に金属材料への適用については航空機業界等で実用化に向けて研究開発が行われている。金属材料を用いた3Dプリンタは、レーザやアーク等の熱源を用いて、金属粉体や金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させて造形物を造形する。
【0003】
また、ビードを積層しつつ異種金属を接合して造形物を造形する技術として、特許文献1に記載のものが知られている。この技術では、金属粉末を用いて低入熱でのビード形成を繰り返して異種金属層が順次積層された金属積層構造を形成しており、脆弱な金属間化合物が生成されるような金属の組合せを積層する場合においても、必要な強度の確保を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1では、異種金属の第一のビードと第二のビードの幅や面積を工夫しながら積層することによって必要な強度を確保しようとしているが、機械的な接合力が十分に得られるように積層されておらず、さらなる改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的は、異種金属同士の接合箇所における強度を高めつつ、異種金属を接合して積層造形物を造形することが可能な積層造形物の製造方法及び積層造形物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は下記構成によって達成される。
(1) 第1金属材料の溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させてなる第1造形体と、前記第1金属材料と異なる第2金属材料の溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させてなる第2造形体とを接合して製造される積層造形物の製造方法であって、
前記第1金属材料の前記溶着ビードを積層させて前記第1造形体の本体部を造形する第1造形体本体部造形工程と、
前記第1造形体の前記本体部に、前記第1金属材料の前記溶着ビードからなる複数の第1突条部及び前記第2金属材料の前記溶着ビードからなる複数の第2突条部を形成し、前記第1突条部と前記第2突条部とを交互に配列させた接合部を造形する接合部造形工程と、
前記接合部に、前記第2金属材料の前記溶着ビードを積層して前記第2造形体の本体部を造形する第2造形体本体部造形工程と、
を含み、
前記第1突条部の前記溶着ビードは、積層方向において、前記第2突条部の前記溶着ビード間、又は前記第2突条部の前記溶着ビードと前記第2造形体の本体部の前記溶着ビードとの間で挟持され、且つ、
前記第2突条部の前記溶着ビードは、前記積層方向において、前記第1突条部の前記溶着ビード間、又は前記第1突条部の前記溶着ビードと前記第1造形体の本体部の前記溶着ビードとの間で挟持され、
前記接合部造形工程において、前記各第1突条部と前記各第2突条部の少なくとも一方の積層方向への突出長さは、前記第1突条部と前記第2突条部との配列方向において交互に異なる、
積層造形物の製造方法。
(2) 第1金属材料の溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させてなる第1造形体と、前記第1金属材料と異なる第2金属材料の溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させてなる第2造形体とを接合して製造される積層造形物であって、
前記第1金属材料の前記溶着ビードを積層させて造形される前記第1造形体の本体部と、
前記第1造形体の前記本体部に、前記第1金属材料の前記溶着ビードからなる複数の第1突条部及び前記第2金属材料の前記溶着ビードからなる複数の第2突条部を形成し、前記第1突条部と前記第2突条部とを交互に配列させて造形される接合部と、
前記接合部に、前記第2金属材料の前記溶着ビードを積層して造形される前記第2造形体の本体部と、
を含み、
前記第1突条部の前記溶着ビードは、積層方向において、前記第2突条部の前記溶着ビード間、又は前記第2突条部の前記溶着ビードと前記第2造形体の本体部の前記溶着ビードとの間で挟持され、且つ、
前記第2突条部の前記溶着ビードは、前記積層方向において、前記第1突条部の前記溶着ビード間、又は前記第1突条部の前記溶着ビードと前記第1造形体の本体部の前記溶着ビードとの間で挟持され、
前記各第1突条部と前記各第2突条部の少なくとも一方の積層方向への突出長さは、前記第1突条部と前記第2突条部との配列方向において交互に異なる、
積層造形物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、異種金属同士の接合箇所における強度を高めつつ、異種金属を接合して積層造形物を造形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】積層造形物の製造方法に使用される製造システムの構成図である。
【
図2】積層造形物の構造を模式的に示す断面図である。
【
図3】第1造形体と第2造形体との接合部を示す、
図2の部分拡大断面図である。
【
図4】積層造形物の製造手順を示し、(a)は、第1造形体本体部造形工程の断面図、(b)は、第1造形体本体部造形工程の平面図である。
【
図5】積層造形物の製造手順を示し、(a)は、接合部造形工程の断面図、(b)は接合部造形工程の平面図である。
【
図6】積層造形物の製造手順を示し、(a)は第2造形体本体部造形工程の断面図、(b)は第2造形体本体部造形工程の平面図である。
【
図7】変形例1を説明する積層造形物を模式的に示す断面図である。
【
図8】変形例2を説明する積層造形物を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の積層造形物の製造方法に使用される製造システムの概略構成図である。
【0011】
本構成の製造システム100は、積層造形装置11と、積層造形装置11を統括制御するコントローラ15と、を備える。
【0012】
積層造形装置11は、先端軸にトーチ17を有する溶接ロボット19と、トーチ17に溶加材(溶接ワイヤ)Mを供給する溶加材供給部21とを有する。トーチ17は、溶加材Mを先端から突出した状態に保持する。
【0013】
コントローラ15は、CAD/CAM部31と、軌道演算部33と、記憶部35と、これらが接続される制御部37と、を有する。
【0014】
溶接ロボット19は、多関節ロボットであり、先端軸に設けたトーチ17には、溶加材Mが連続供給可能に支持される。トーチ17の位置や姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。
【0015】
トーチ17は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。本構成で用いられるアーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、製作する積層造形物Wに応じて適宜選定される。
【0016】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ17は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。溶加材Mは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構により、溶加材供給部21からトーチ17に送給される。そして、トーチ17を移動しつつ、連続送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、溶加材Mの溶融凝固体である線状の溶着ビード25が形成される。
【0017】
なお、溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビームやレーザを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビームやレーザにより加熱する場合、加熱量を更に細かく制御でき、溶着ビードの状態をより適正に維持して、積層構造物の更なる品質向上に寄与できる。
【0018】
CAD/CAM部31は、製作しようとする積層造形物Wの形状データを作成した後、複数の層に分割して各層の形状を表す層形状データを生成する。軌道演算部33は、生成された層形状データに基づいてトーチ17の移動軌跡を求める。記憶部35は、生成された層形状データやトーチ17の移動軌跡等のデータを記憶する。
【0019】
制御部37は、記憶部35に記憶された層形状データやトーチ17の移動軌跡に基づく駆動プログラムを実行して、溶接ロボット19を駆動する。つまり、溶接ロボット19は、コントローラ15からの指令により、軌道演算部33で生成したトーチ17の移動軌跡に基づき、溶加材Mをアークで溶融させながらトーチ17を移動する。なお、
図1においては、板状のベース20の上面に沿ってトーチ17を移動させて溶着ビード25を形成して積層造形物Wを造形する様子を示している。
【0020】
上記構成の製造システム100は、設定された層形状データから生成されるトーチ17の移動軌跡に沿って、トーチ17を溶接ロボット19の駆動により移動させながら、溶加材Mを溶融させ、溶融した溶加材Mをベース20上に供給する。これにより、ベース20の上面に複数の線状の溶着ビード25が並べられて積層された積層造形物Wが造形される。
【0021】
ところで、積層造形では、例えば、鉄とアルミニウムなどの異種金属を接合して積層造形物Wを製造することがある。このような場合、異種金属の接合箇所で脆性的な金属化合物が生成され、強度が低下するおそれがある。
【0022】
このため、本実施形態に係る製造方法では、異種金属同士の接合箇所を有する積層造形物Wを製造するにあたり、その接合箇所の機械的強度を高めて製造している。
【0023】
以下、
図2及び
図3を参照して、本実施形態で製造する積層造形物Wについて説明する。
図2に示すように、積層造形物Wは、第1金属材料の溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビード25を積層させてなる第1造形体W1と、第1金属材料と異なる第2金属材料の溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビード25を積層させてなる第2造形体W2とを接合して製造される。
なお、ここでは、第1金属材料を鋼製とし、第2金属材料をアルミニウム製(純アルミ、アルミニウム合金を含む)としているが、これに限らず、第2金属材料をチタン製としてもよい。また、第1金属材料を軟鋼とし、第2金属材料をステンレス鋼やステライト合金、コルモノイ合金などとする組合せや、第1金属材料をステンレス鋼、第2金属材料をステライト合金やコルモノイ合金とするような組合せなど、異なる種類の鋼製同士の組合せであってもよい。
【0024】
本実施形態では、第1造形体W1及び第2造形体W2は、それぞれ溶着ビード25を同一方向に沿って形成したものを、該溶着ビード25の伸長方向に直交する幅方向に複数配列して各層を形成し、これらの溶着ビード25を積層させることで造形されている。なお、溶着ビード25としては、直径4mm~5mm程度であることが好ましい。
【0025】
第1造形体W1は、ベース20の上面に積層された板状の本体部W1aと(
図1参照)、この本体部W1aにおける第2造形体W2との接合側に形成された突条からなる複数の第1突条部W1bとを有している。第1突条部W1bは、本体部W1aから突出するように形成され、溶着ビード25の伸長方向に直交する幅方向に間隔をあけて形成されている。
【0026】
第2造形体W2は、板状の本体部W2aと、この本体部W2aにおける第1造形体W1との接合側に形成された突条からなる複数の第2突条部W2bとを有している。第2突条部W2bは、本体部W2aから突出するように形成され、溶着ビード25の伸長方向に直交する幅方向に間隔をあけて形成されている。
【0027】
接合部WSでは、第1造形体W1の第1突条部W1bは、第2造形体W2の第2突条部W2b同士の間に入り込んでおり、第2造形体W2の第2突条部W2bは、第1造形体W1の第1突条部W1b同士の間に入り込んでいる。そして、第1造形体W1と第2造形体W2とは、第1突条部W1bと第2突条部W2bとが互いに噛み合わされた部分が接合部WSとされて互いに接合されている。また、第1突条部W1b及び第2突条部W2bは配列方向の幅が層ごとに異なるように形成されている。
【0028】
即ち、
図3に示すように、第1突条部W1bの溶着ビード25は、積層方向において、第2突条部W2bの溶着ビード25間に挟持され、第2突条部W2bの溶着ビード25は、積層方向において、第1突条部W1bの溶着ビード25間に挟持される。したがって、第1造形体W1の第1突条部W1bと第2造形体W2の第2突条部W2bとの境界部では、互いの溶着ビード25がオーバーラップして積層方向に積み重なっている。
これにより、第1突条部W1bと第2突条部W2bとの境界部においてアンカー効果を持たせることができ、異種金属からなる第1造形体W1と第2造形体W2との接合強度を高めることができる。
【0029】
次に、本構成の製造システム100により積層造形物Wを造形する手順について詳述する。
図4~
図6は、積層造形物の製造手順を説明する為、各製造工程での積層造形物を示している。
【0030】
積層造形物Wを製造する際に、製造システム100では、第1造形体W1の造形時には、第1造形体W1の金属材料からなる第1金属材料の溶加材M1をトーチ17へ供給し、第2造形体W2の造形時には、溶加材供給部21から供給する溶加材Mを、溶加材M1から第2造形体W2の金属材料からなる第2金属材料の溶加材M2に切り替えてトーチ17へ供給する(
図1参照)。
【0031】
(第1造形体本体部造形工程)
図4に示すように、トーチ17へ第1造形体W1の金属材料からなる溶加材M1を供給し、トーチ17によって同一方向に伸長する溶着ビード25を配列方向に並べることで層を形成する。さらに、該層の上に、同様に複数の溶着ビード25を形成することで積層し、これを繰り返すことで、第1造形体W1の本体部W1aを造形する。なお、本実施形態では、溶着ビード25は、下層において、配列方向に隣り合う2つの溶着ビード25の中間位置を狙ってそれぞれ形成される。
【0032】
(接合部造形工程)
次に、
図5に示すように、第1造形体W1の本体部W1aの上部に、第1造形体W1の第1突条部W1bとなる溶着ビード25及び第2造形体W2の第2突条部W2bとなる溶着ビード25を層ごとに形成し、さらに積層させる。そして、第1突条部W1b及び第2突条部W2bが互いに噛み合わされた接合部WSを造形する。このとき、第1突条部W1bの溶着ビード25は、溶加材M1をトーチ17へ供給して形成し、第2突条部W2bの溶着ビード25は、溶加材M2をトーチ17へ供給して形成する。なお、接合部WSを造形する際には、この接合部WSで必要となる接合強度に応じて第1突条部W1b及び第2突条部W2bの幅寸法や突出寸法を適宜調整するのが好ましい。
特に、本実施形態では、溶着ビード25の中心位置が、上下の層の溶着ビード25の中心位置に対して溶着ビード25の直径の1/2ずつずれているので、第1突条部W1bと第2突条部W2bとの境界部では、互いの溶着ビード25がオーバーラップして積層方向に積み重なっている。
【0033】
また、第1突条部W1b及び第2突条部W2bの配列方向の幅を層ごとに異ならせる、即ち、配列方向の溶着ビード25の本数を層ごとに異ならせ、各突状部W1b、W2bの形状が線対称となっているので、各突状部W1b、W2bの配列方向両側での境界部に作用するせん断力F(
図3参照)が等しくなる。
【0034】
なお、本実施形態では、配列方向の幅を1層ごとに異ならせているが、本発明は、これに限らず、複数層ごとに異ならせてもよい。即ち、第1突条部W1bの溶着ビード25が、積層方向において、第2突条部W2bの溶着ビード25間に挟持され、第2突条部W2bの溶着ビード25が、積層方向において、第1突条部W1bの溶着ビード25間に挟持される構成となればよい。
【0035】
(第2造形体本体部造形工程)
そして、
図6に示すように、接合部WSを造形したら、トーチ17へ第2造形体W2の金属材料からなる溶加材M2を供給し、接合部WS上にトーチ17によって同一方向に伸長する溶着ビード25を配列方向に並べることで層を形成する。さらに、該層の上に、同様に、複数の溶着ビード25を形成することで積層して、これを繰り返すことで、第2造形体W2の本体部W2aを造形する。したがって、異種金属からなる第1造形体W1と第2造形体W2とが接合部WSで接合された積層造形物Wが製造される。
【0036】
以上、説明したように、本実施形態に係る積層造形物Wの製造方法及び積層造形物Wによれば、異種金属からなる第1造形体W1と第2造形体W2との接合部WSを、複数の第1突条部W1bと第2突条部W2bとを交互に配列させ、第1突条部W1bの溶着ビード25は、積層方向において、第2突条部W2bの溶着ビード25間で挟持され、且つ、第2突条部W2bの溶着ビード25は、積層方向において、第1突条部W1bの溶着ビード25間で挟持される。これにより、異種金属からなる第1造形体W1と第2造形体W2とが、高い強度で接合された積層造形物Wを製造することができる。特に、接合部WSにおける第1突条部W1bと第2突条部W2bとの境界部では、互いの溶着ビード25が入り込んで噛み込んだ状態となり、アンカー効果を持たせることができる。したがって、第1突条部W1bと第2突条部W2bとの境界部に作用するせん断力F(
図3参照)に対する強度を高めることができ、第1造形体W1と第2造形体W2との接合強度を高めることができる。
【0037】
(変形例1)
図7は変形例1を説明する積層造形物の断面図である。変形例1では、接合部造形工程において、各第1突条部W1bの積層方向への突出長さが、配列方向において交互に異なり、同様に、各第2突条部W2bの積層方向への突出長さが、配列方向において交互に異なるようにして、接合部WSが造形される。
【0038】
これにより、第1造形体W1の第1突条部W1bと第2造形体W2の本体部W2aとの突き合わせ箇所を通るラインL1及び第2造形体W2の第2突条部W2bと第1造形体W1の本体部W1aとの突き合わせ箇所を通るラインL2が直線状とならず、凹凸状となる。
【0039】
例えば、上記実施形態では、第1造形体W1の第1突条部W1bと第2造形体W2の本体部W2aとの突き合わせ箇所を通るラインL1及び第2造形体W2の第2突条部W2bと第1造形体W1の本体部W1aとの突き合わせ箇所を通るラインL2は直線状となる(
図2参照)。
【0040】
ここで、例えば、第1造形体W1の強度が第2造形体W2の強度よりも低い場合では、ラインL2が破断ラインとして想定されるが、該変形例1のように、ラインL2を凹凸状とすることで、破断ラインが長くなり、第1造形体W1と第2造形体W2との接合部WSでの破断強度を高めることができる。
【0041】
なお、この変形例1では、各第1突条部W1bと各第2突条部W2bの両方の積層方向への突出長さを、配列方向において交互に異なられせているが、強度が高い側の造形体の突状部の積層方向への突出長さのみを長くするようにしても、本変形例の効果を発揮することができる。
【0042】
(変形例2)
図8は変形例2を説明する積層造形物の断面図である。変形例2では、接合部造形工程において、第1造形体W1の第1突条部W1bが積層方向へ向かって次第に幅広とされ、代わりに、第2造形体W2の突条部W2bが積層方向へ向かって次第に幅狭となるように接合部WSが造形される。
この場合、第1突条部W1bの溶着ビード25は、積層方向において、第2突条部W2bの溶着ビード25と第2造形体W2の本体部W2aの溶着ビード25との間で挟持され、且つ、第2突条部W2bの溶着ビード25は、積層方向において、第1突条部W1bの溶着ビード25と第1造形体W1の本体部W1aの溶着ビード25との間で挟持される。
【0043】
したがって、この変形例2においても、接合部WSにおける第1突条部W1bと第2突条部W2bとのアンカー効果をより高めることができ、第1造形体W1と第2造形体W2との接合強度が高められた積層造形物Wを製造することができる。
【0044】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0045】
例えば、上記実施形態の製造システム100では、溶加材M1及び溶加材M2を切り替えて溶加材供給部21からトーチ17へ供給して第1造形体W1及び第2造形体W2を造形したが、製造システム100としては、他の構成としてもよい。例えば、溶加材M1によって溶着ビード25を形成するトーチ17及び溶加材M2によって溶着ビード25を形成するトーチ17を設け、これらの二つのトーチ17によって溶着ビード25を形成して第1造形体W1及び第2造形体W2を造形してもよい。
【0046】
また、上記実施形態では、第1突条部W1b及び第2突条部W2bを直線状の複数の溶着ビード25によって形成される構成としたが、本発明は、これに限らず、例えば、円形や矩形などの環状の溶着ビードや螺旋状の溶着ビードを中心から離れる方向に交互に配列するようにして各層を構成してもよい。この場合も、第1突条部の溶着ビードが、積層方向において、第2突条部の溶着ビード間、又は第2突条部の溶着ビードと第2造形体の本体部の溶着ビードとの間で挟持され、且つ、第2突条部の溶着ビードが、積層方向において、第1突条部の溶着ビード間、又は第1突条部の溶着ビードと第1造形体の本体部の溶着ビードとの間で挟持されることで、接合部WSにおける接合強度を高めることができる。
【0047】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 第1金属材料の溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させてなる第1造形体と、前記第1金属材料と異なる第2金属材料の溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させてなる第2造形体とを接合して製造される積層造形物の製造方法であって、
前記第1金属材料の前記溶着ビードを積層させて前記第1造形体の本体部を造形する第1造形体本体部造形工程と、
前記第1造形体の前記本体部に、前記第1金属材料の前記溶着ビードからなる複数の第1突条部及び前記第2金属材料の前記溶着ビードからなる複数の第2突条部を形成し、前記第1突条部と前記第2突条部とを交互に配列させた接合部を造形する接合部造形工程と、
前記接合部に、前記第2金属材料の前記溶着ビードを積層して前記第2造形体の本体部を造形する第2造形体本体部造形工程と、
を含み、
前記第1突条部の前記溶着ビードは、積層方向において、前記第2突条部の前記溶着ビード間、又は前記第2突条部の前記溶着ビードと前記第2造形体の本体部の前記溶着ビードとの間で挟持され、且つ、
前記第2突条部の前記溶着ビードは、前記積層方向において、前記第1突条部の前記溶着ビード間、又は前記第1突条部の前記溶着ビードと前記第1造形体の本体部の前記溶着ビードとの間で挟持される積層造形物の製造方法。
これにより、異種金属からなる第1造形体と第2造形体とが、高い強度で接合された積層造形物を製造することができる。特に、第1突条部と第2突条部との境界部におけるせん断強度を高めることができ、第1造形体と第2造形体との接合強度を高めることができる。
【0048】
(2) 前記接合部造形工程において、前記第1突条部及び前記第2突条部が配列方向の幅が層ごとに異なるように、前記第1金属材料の前記溶着ビード及び前記第2金属材料の前記溶着ビードを形成する(1)に記載の積層造形物の製造方法。
これにより、接合部における第1突条部と第2突条部との境界部では、互いの溶着ビードが入り込んで噛み込んだ状態となり、アンカー効果を持たせることができる。
【0049】
(3) 前記接合部造形工程において、前記各第1突条部と前記各第2突条部の少なくとも一方の積層方向への突出長さは、前記配列方向において交互に異なる(1)または(2)に記載の積層造形物の製造方法。
これにより、第1造形体の第1突条部と第2造形体の本体部との突き合わせ箇所を通るライン及び第2造形体の第2突条部と第1造形体の本体部との突き合わせ箇所を通るラインの少なくとも一方を凹凸状にでき、該ラインを長くして、第1造形体と第2造形体との接合部での破断強度を高めることができる。
【0050】
(4) 前記接合部造形工程において、前記第1突条部が、前記積層方向へ向かって次第に幅広となるように、前記第1金属材料の前記溶着ビード及び前記第2金属材料の前記溶着ビードを形成する(1)~(3)のいずれか1項に記載の積層造形物の製造方法。
これにより、接合部における第1突条部と第2突条部とのアンカー効果をより高めることができ、第1造形体と第2造形体との接合強度がさらに高められた積層造形物を製造することができる。
【0051】
(5) 第1金属材料の溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させてなる第1造形体と、前記第1金属材料と異なる第2金属材料の溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させてなる第2造形体とを接合して製造される積層造形物であって、
前記第1金属材料の前記溶着ビードを積層させて造形される前記第1造形体の本体部と、
前記第1造形体の前記本体部に、前記第1金属材料の前記溶着ビードからなる複数の第1突条部及び前記第2金属材料の前記溶着ビードからなる複数の第2突条部を形成し、前記第1突条部と前記第2突条部とを交互に配列させて造形される接合部と、
前記接合部に、前記第2金属材料の前記溶着ビードを積層して造形される前記第2造形体の本体部と、
を含み、
前記第1突条部の前記溶着ビードは、積層方向において、前記第2突条部の前記溶着ビード間、又は前記第2突条部の前記溶着ビードと前記第2造形体の本体部の前記溶着ビードとの間で挟持され、且つ、
前記第2突条部の前記溶着ビードは、前記積層方向において、前記第1突条部の前記溶着ビード間、又は前記第1突条部の前記溶着ビードと前記第1造形体の本体部の前記溶着ビードとの間で挟持される積層造形物。
これにより、異種金属からなる第1造形体と第2造形体とが、高い強度で接合された積層造形物を製造することができる。特に、第1突条部と第2突条部との境界部におけるせん断強度を高めることができ、第1造形体と第2造形体との接合強度を高めることができる。
【0052】
(6) 前記第1突条部及び前記第2突条部が配列方向の幅が層ごとに異なる(5)に記載の積層造形物。
これにより、接合部における第1突条部と第2突条部との境界部では、互いの溶着ビードが入り込んで噛み込んだ状態となり、アンカー効果を持たせることができる。
【0053】
(7) 前記各第1突条部と前記各第2突条部の少なくとも一方の積層方向への突出長さは、前記配列方向において交互に異なる(5)または(6)に記載の積層造形物。
これにより、第1造形体の第1突条部と第2造形体の本体部との突き合わせ箇所を通るライン及び第2造形体の第2突条部と第1造形体の本体部との突き合わせ箇所を通るラインの少なくとも一方を凹凸状にでき、該ラインを長くして、第1造形体と第2造形体との接合部での破断強度を高めることができる。
【0054】
(8) 前記第1突条部が、前記積層方向へ向かって次第に幅広となる(5)~(7)のいずれかに記載の積層造形物。
これにより、接合部における第1突条部と第2突条部とのアンカー効果をより高めることができ、第1造形体と第2造形体との接合強度がさらに高められた積層造形物を製造することができる。
【符号の説明】
【0055】
25 溶着ビード
M,M1,M2 溶加材
W 積層造形物
W1 第1造形体
W2 第2造形体
W1a,W2a 本体部
W1b 第1突条部
W2b 第2突条部
WS 接合部