(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】炭化水素から水素及び黒鉛状炭素を生成するプロセス
(51)【国際特許分類】
C01B 3/26 20060101AFI20220117BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20220117BHJP
B01J 23/745 20060101ALI20220117BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
C01B3/26
C01B32/05
B01J23/745 M
C22B1/00 101
(21)【出願番号】P 2018502293
(86)(22)【出願日】2016-03-31
(86)【国際出願番号】 AU2016000115
(87)【国際公開番号】W WO2016154666
(87)【国際公開日】2016-10-06
【審査請求日】2018-10-19
(32)【優先日】2015-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517343324
【氏名又は名称】ヘイザー グループ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・コルネホ
(72)【発明者】
【氏名】フイトン・チュア
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-158790(JP,A)
【文献】特表2009-521606(JP,A)
【文献】特開2006-290682(JP,A)
【文献】米国特許第06048382(US,A)
【文献】特開2006-326521(JP,A)
【文献】国際公開第2011/029144(WO,A1)
【文献】特開2013-249496(JP,A)
【文献】Jianqiang ZHANG and O.OSTROVSKI,Cementite Formation in CH4-H2-Ar Gas Mixture and Cementite Stability,ISIJ International,2001年,Vol.41,pp.333-339
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00-6/34
C01B 32/00-32/991
B01J 21/00-38/74
C21B 3/00-5/06
C21B 11/00-15/04
C22B 1/00-1/26
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素ガスのみから水素及び黒鉛状炭素を生成するプロセスであって、
600℃と1,000℃との間の温度、1バール(g)から10バール(g)である圧力において触媒を前記炭化水素ガスに接触させて前記炭化水素ガスの少なくとも一部を水素及び黒鉛状炭素に触媒的に変換することを含み、
前記触媒が、低品位な酸化鉄であり、
前記酸化鉄の少なくとも一部を鉄に還元
し、
前記触媒を前記炭化水素ガスに接触させる工程が、ガスが第一の反応器から後続の反応器に流れることを可能にするために、直列配置された複数の加圧反応器内で行われ、
前記直列配置における各後続の前記反応器が、先行する前記反応器よりも低い圧力で動作して前記ガスがより低い圧力の前記反応器へと移動することを可能にし、
各前記反応器に未反応触媒が設けられることを特徴とする
水素及び黒鉛状炭素を生成するプロセス。
【請求項2】
前記温度が、700℃と950℃との間、800℃と900℃との間、又は650℃と750℃との間である請求項1に記載の水素及び黒鉛状炭素を生成するプロセス。
【請求項3】
前記反応器の前記直列配置が、前記触媒が第一の前記反応器から後続の前記反応器に流れることを可能にし、前記直列配置における各後続の前記反応器が、先行する前記反応器よりも高い圧力で動作して前記触媒がより高い圧力の前記反応器へと移動することを可能にする請求項1に記載の水素及び黒鉛状炭素を生成するプロセス。
【請求項4】
未反応炭化水素ガスが、各前記反応器に供給される請求項3に記載の水素及び黒鉛状炭素を生成するプロセス。
【請求項5】
前記反応器の前記直列配置が、前記炭化水素ガス及び前記触媒の両方が前記反応器間を対向方向に流れることを可能にする請求項1に記載の水素及び黒鉛状炭素を生成するプロセス。
【請求項6】
未反応触媒が、圧力が最も低い前記反応器に設けられ、未反応炭化水素ガスが、圧力が最も高い前記反応器に設けられ、チャンバー間の前記ガスの流れとは対向流として、前記触媒を前記チャンバー間においてより高い圧力の方へと移動させる請求項5に記載の水素及び黒鉛状炭素を生成するプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素及び黒鉛状炭素を生成するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、内燃機関エンジンの燃料に対するクリーンかつ環境に優しい代替品等、多くの商業的用途を有する。炭素、より特定的には黒鉛は、新興するグリーンテクノロジー市場における重要な材料と考えられ、エネルギー貯蔵、電気伝導デバイス、触媒担体、潤滑添加剤、及び現代の電子機器において有用であることが示された。本特許における炭素に関するあらゆる言及は、炭素の黒鉛状の形態に関連するので、これらの用語は全体を通して互換的に使用される。
【0003】
しかし、化石燃料から水素を生成する従来の方法は、環境に有害な二酸化炭素を生成する(天然ガス水蒸気改質及び石炭ガス化)。
【0004】
天然ガスは、式(1)に従って水素ガス及び固体炭素に触媒分解することができる。
CH4→C+2H2 (1)
【0005】
このようなプロセスでは、炭素が触媒の表面に堆積し、水素ガスは放出される。このプロセスについては、貴金属及び炭素系触媒を含む数多くの公知の触媒が存在する。
【0006】
上記のプロセスは公知ではあるが、数多くの経済上の理由から商業的に活用されてこなかった。主に、これは、初期供給時及びリサイクル/再生時の両方における下部の触媒のコストに関連する。この分野の研究者の大半は、触媒活性及び製品収量が高にも拘わらず、触媒ターンオーバーコストが非常に高くなってしまう高額な錯体担持触媒を使用してきた。このようなコストは、これらの触媒の使用を商業化するに当たって著しい障壁となる。炭化水素を安定的で商業的に価値がある水素及び固体炭素に触媒的に変換するための新しく改良されたプロセス及び触媒が著しく必要とされている。
【0007】
背景技術における上記の議論は、本発明の理解を促すことのみを意図している。上記の議論は、言及された題材のいずれかが、本願の優先日にオーストラリアで共通の一般的な知識の一部であったということを確認又は承認するものでないことを理解されたい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、その最も広い観点において、炭化水素ガスから水素及び黒鉛状炭素を生成するプロセスを提供する。特に、本発明は、低品位触媒を使用して、炭化水素ガスを水素及び黒鉛状炭素に触媒的に変換するプロセスを提供する。
【0009】
本明細書の全体において、「低品位」という用語は、文脈上その他の意味が要求される場合を除き、合成した材料でないことを意味することが理解されるであろう。当業者には理解されるであろうが、合成材料は、前駆体材料の化学反応により生成される。本発明から除外される触媒の標準的な合成技術は、たとえば、ナノサイズの触媒元素を不活性担体に含浸させることである。「低品位」という用語は、天然の材料を含むが、しかし破砕及びスクリーニング又は分級等の物理選鉱を経た材料は除外すると理解されるべきでない。
【0010】
本明細書の全体において、その他の断りがない限り、圧力は全てバール(測定基準)で与えられ、0バールは大気圧である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によると、炭化水素ガスから水素及び黒鉛状炭素を生成するプロセスであって、600℃と1,000℃との間の温度において触媒を炭化水素ガスに接触させて炭化水素ガスの少なくとも一部を水素及び黒鉛状炭素に触媒的に変換することを含み、触媒が低品位な酸化鉄であるプロセスが提供される。
【0012】
好ましくは、圧力は大気圧より高い。
【0013】
本発明の一形態において、600℃と1,000℃との間の温度において触媒を炭化水素ガスに接触させて炭化水素ガスの少なくとも一部を水素及び黒鉛状炭素に触媒的に変換する工程は、より特定的には、酸化鉄の少なくとも一部を鉄に還元する工程と、炭化水素ガスを分解して水素ガス及び炭化鉄中間体を生成する工程と、鉄の表面に黒鉛状炭素を沈殿させる工程とを含む。
【0014】
本発明の一形態において、600℃と1,000℃との間の温度において触媒を炭化水素ガスに接触させる工程は、0バールから100バールの圧力において行われる。好ましくは、600℃と1,000℃との間の温度において触媒を炭化水素ガスに接触させる工程は、0バールから50バールの圧力において行われる。より好ましくは、600℃と1,000℃との間の温度において触媒を炭化水素ガスに接触させる工程は、0バールと20バールとの間の圧力において行われる。さらに好ましくは、600℃と1,000℃との間の温度において触媒を炭化水素ガスに接触させる工程は、2バールと10バールとの間の圧力において行われる。
【0015】
本発明の一形態において、600℃と1,000℃との間の温度において触媒を炭化水素ガスに接触させて炭化水素ガスの少なくとも一部を水素及び黒鉛状炭素に触媒的に変換する工程は、好ましくは、700℃から950℃の温度において行われる。
【0016】
本発明の第二の形態においては、600℃と1,000℃との間の温度において触媒を炭化水素ガスに接触させて炭化水素ガスの少なくとも一部を水素及び黒鉛状炭素に触媒的に変換する工程は、好ましくは、800℃から900℃の温度において行われる。
【0017】
本発明の第三の形態においては、600℃と1,000℃との間の温度において触媒を炭化水素ガスに接触させて炭化水素ガスの少なくとも一部を水素及び黒鉛状炭素に触媒的に変換する工程は、好ましくは、650℃から750℃の温度において行われる。
【0018】
本発明者らは、本発明の方法によって、高い変換率及び収量を得ながら、低品位触媒を使用することが可能になることを発見した。
【0019】
理論に拘束されることを望むことなく、本発明者らは、鉄鉱石の使用に利点があるのは、金属種は分解反応に対して触媒作用を及ぼし、且つ触媒元素が鉱石の鉱物学に従って炭化水素ガスに露出されるからであることを理解している。出願人は、触媒成分の表面に黒鉛層が沈殿する力は、覆い被さっている触媒粒子を触媒から砕き剥がし、触媒の酸化鉄をさらに露出させるのに十分であることを理解している。したがって、触媒は自己担持的であり、使用前に大規模な調製を必要としない。
【0020】
本発明の一形態においては、炭化水素ガスはメタンである。好ましくは、炭化水素ガスは天然ガスである。
【0021】
本発明の一形態においては、触媒は20mm未満の粒度に粉砕される。好ましくは、触媒は15mm未満の粒度に粉砕される。より好ましくは、触媒は10mm未満の粒度に粉砕される。さらに好ましくは、触媒は5mm未満の粒度に粉砕される。さらに好ましくは、触媒は1mm未満の粒度に粉砕される。さらに好ましくは、触媒は0.5mm未満の粒度に粉砕される。さらに好ましくは、触媒は0.1mm未満の粒度に粉砕される。
【0022】
本発明の一形態においては、600℃と1,000℃との間の温度において触媒を炭化水素ガスに接触させる工程は、加圧反応器内で行われる。好ましくは、加圧反応器は、静止床反応器、移動床反応器、及び流動床反応器の群から選択される。
【0023】
本発明の一形態においては、触媒は、反応器の実質的に水平な面に配置され、炭化水素ガスの横断流に晒される。
本発明の第二の形態においては、触媒は流動床反応器内に吊るされ、炭化水素ガスが流動床に流される。
【0024】
本発明の一形態においては、触媒を炭化水素ガスに接触させる工程は、直列に配置された複数の加圧反応器内で行われる。
【0025】
本発明の一形態においては、反応器の直列配置によって、第一の反応器から後続反応器へとガスが流れることが可能になる。好ましくは、直列における各後続反応器は、先行する反応器よりも低い圧力で動作して、ガスがより低い圧力の反応器へと移動できるようにする。直列配置においては、未反応炭化水素ガスがあれば、より低い圧力の後続反応器へと移動し、追加的な触媒に接触してさらに処理され、炭化水素ガスがより完全に水素及び黒鉛状炭素に変換される。
【0026】
本発明の別の形態においては、反応器の直列配置によって、第一の反応器から後続反応器へと触媒が流れることが可能になる。好ましくは、直列における各後続反応器は、先行する反応器よりも高い圧力で動作して、触媒がより高い圧力の反応器へと移動できるようにする。低い圧力では、触媒のある部分が、部分的に不活性化されるのみとなる場合がある。直列配置においては、部分的に不活性化された触媒は、より高い圧力の後続反応器へと移動し、追加的な炭化水素ガスに接触してさらに処理を行い、より純度が高い黒鉛状炭素を生成する。出願人は、反応器間の触媒の流れが重力により補助されるように、後続反応器を先行する反応器の下に設けることを構想している。出願人は、これをカスケード状配置と命名している。
【0027】
本発明の一形態においては、二つの加圧反応器を直列に使用する。
第一の反応器は、15バールと25バールとの間の圧力にある。
第二の反応器は、0バールと1バールとの間の圧力にある。
【0028】
本発明の別の形態においては、三つの加圧反応器を直列に使用する。三つの加圧反応器を直列に使用する場合、
第一の反応器は、15バールと25バールとの間の圧力にあり、
第二の反応器は、5バールと10バールとの間の圧力にあり、
第三の反応器は、0バールと1バールとの間の圧力にある。
【0029】
本発明の別の形態においては、四つの加圧反応器を直列に使用する。四つの加圧反応器を直列に使用する場合、
第一の反応器は、20バールと30バールとの間の圧力にあり、
第二の反応器は、5バールと15バールとの間の圧力にあり、
第三の反応器は、4バールと6バールとの間の圧力にあり、
第四の反応器は、0バールと1バールとの間の圧力にある。
【0030】
本発明の別の形態においては、五つの加圧反応器を直列に使用する。五つの加圧反応器をを直列に使用する場合、
第一の反応器は、25バールと35バールとの間の圧力にあり、
第二の反応器は、10バールと20バールとの間の圧力にあり、
第三の反応器は、5バール10バールとの間の圧力にあり、
第四の反応器は、4バールと6バールとの間の圧力にあり、
第五の反応器は、0バールと1バールとの間の圧力にある。
【0031】
炭化水素ガスを水素及び黒鉛状炭素に変換することの利用性や経済的動因は、当該反応の、競合する動的動因及び熱力学的動因である。先に議論したように、炭化水素ガスが分解することで、最終的に黒鉛状炭素が触媒の金属粒子の表面上に沈殿する。メタンが覆い被さる黒鉛を貫いて触媒に到達することができなくなるまで沈殿は続く。動的には、反応圧力を増大させることが反応の動因となるのは、これにより活性触媒表面に覆い被さる黒鉛状構造へのメタンの拡散がより良好に可能となり、より高い触媒利用につながるからである。触媒利用が高まることで、黒鉛状生成物の純度がより高まることにもつながる。競合する要因となるのは、反応の熱力学では、より低い圧力で反応を開始させることに重きが示されていることである。圧力が高いほど、生成物のガス量が増加し(メタンの供給モル当たり、2モルの水素が生成され)、生成物よりも当初の試薬に対してより好都合な平衡位置になる。この平衡位置が、水素に変換可能なメタン供給の割合(%)の限度となる。これは、当業分野では、反応圧力を増大させるほど減少する熱力学平衡の限界(TEL)として知られている。
【0032】
本発明者らは、複数の反応器を直列に設けることで、反応の競合する動的動因及び熱力学的動因を、各後続反応器の圧力を変化させることにより制御できることを知見した。これにより、圧力が高いほど触媒活性を高くすることが可能になるだけでなく、圧力が低い反応器ほど炭化水素ガス供給の変換が高くなる。多数の反応器の直列使用の便益は、高いメタン変換効率(TEL)を維持しつつ、使用する触媒の単位当たりの製品収量(触媒利用性)を増加させるべく、反応圧力の増大を利用することが可能になることである。
【0033】
多数の反応器を直列に使用して反応器間のガスの流れを可能にする本発明の一形態においては、各反応器に未反応触媒を設ける。この構成では、各反応器に炭化水素ガスを接触させる前に未反応触媒を充填する。炭化水素ガスの一部は、圧力が最も高い反応器内で、水素及び黒鉛状炭素に変換される。第一の反応器には付随したTELがあり、炭化水素ガスの水素ガス及び炭素への変換が過小となる。結果の炭化水素ガス/水素混合物は、一以上の後続のより圧力が低い反応器へと移動する。圧力が低い反応器ほど付随するTELが高く、炭化水素ガスの水素ガス及び炭素へのさらなる変換が可能となる。未反応触媒を各反応器に設ける場合、出願人はこの構成を平行ガス多数圧力反応器(平行ガスMPR(Multiple Pressure Reactor))と命名した。
【0034】
多数の反応器を直列に使用して反応器間の触媒の流れを可能にする本発明の第二の形態においては、各反応器に未反応炭化水素ガスを供給する。この構成では、炭化水素ガスを連続的に反応器に流す。圧力が最も低い反応器に未反応触媒を供給すると、メタンが触媒的に変換された後、部分的に不活性化された触媒が生成される。部分的に不活性化された触媒は、直列の中の圧力がより高い次の反応器に移動し、さらにメタンを触媒的に変換する。反応器の圧力がより高くなることで、触媒のさらなる不活性化が可能になる。部分的に不活性化された触媒の移動は、圧力がより高くなる多数の反応器に沿って繰り返される。未反応炭化水素ガスを各反応器に供給する場合、出願人はこの構成を平行触媒多数圧力反応器(平行触媒MPR)と命名した。
【0035】
本発明の第三の形態においては、多数の反応器を直列に配置して炭化水素ガス及び触媒の両方を反応器間で対向方向に流すことを可能にする。この構成では、未反応触媒を圧力が最も低い反応器に供給し、未反応炭化水素ガスを圧力が最も高い反応器に供給する。触媒は、チャンバー間のガス流とは対向流として、圧力チャンバー間を圧力が高くなる方へ移動する。出願人は、この構成を対向流多数圧力反応器(対向流MPR)と命名した。部分的に不活性化された触媒は、より高い圧力の反応器内で活性が維持され、結果としての黒鉛生成物の純度(質量の割合(%))はより高くなり、対応して価値がより高くなる。
【0036】
本発明者らは、対向流MPR構成によると、炭化水素ガスをより完全に変換し、黒鉛状炭素生成物の純度をより高めることができることを知見した。平行ガスMPRでは触媒の流れがなく、又は平行触媒MPRではガスの流れがないので、対向流MPRに比べて設計がずっと簡易である。
【0037】
本発明の一形態においては、プロセスは、より高純度の水素又は黒鉛状炭素のいずれかを優先的に生成するよう構成される。当業者には理解されるであろうが、水素及び黒鉛状炭素生成物の両方は、基礎的反応化学量論で決定されるように質量ベースで1:3の定比率(炭素:黒鉛状炭素)で生成されるのが常である。これにも拘わらず、生成物の一方の純度が他方よりも高くなるよう強めることができる。
【0038】
プロセスがより高純度の水素を優先的に生成するように調整された本発明の一形態では、プロセスは、800℃と900℃との間の温度及び大気圧下において触媒を炭化水素ガスに接触させて、炭化水素ガスの少なくとも一部を水素及び黒鉛状炭素に触媒的に変換することを含む。
【0039】
好ましくは、プロセスは、単一の流動床反応器内で行われる。
【0040】
より高純度の水素が望まれる場合は、メタン変換効率を高める条件を強める。単一段の反応器内で水素の純度を高める場合、通常、これは圧力をより低め、温度をより高めることであり、これにより熱力学に従って変換を最も高めることができる。より変換を高める場合は、代償として、触媒がより消費され、触媒の単位当たりの収量が低下する結果として黒鉛の純度が低下することとなる。
【0041】
より純度の高い黒鉛状炭素を優先的に生成するようプロセスを調整する本発明の一形態においては、プロセスは、650℃と950℃との間の温度、及び2バールと100バールとの間の圧力において触媒を炭化水素ガスに接触させて、炭化水素ガスの少なくとも一部を水素及び黒鉛状炭素に触媒的に変換することを含む。
【0042】
好ましくは、プロセスは、流動床反応器内で行われる。
【0043】
より純度の高い黒鉛状炭素が望まれる場合は、触媒利用性を高める条件を強める。黒鉛の品質は、非炭素含有物及び結晶度に対する純度の関数である。単一段の反応器内で黒鉛状炭素の純度を高める場合、通常、これは温度範囲を広め、圧力を高めることであり、これにより触媒利用が最大化される。
【0044】
本発明のさらなる観点によると、鉱石を含有する触媒金属を選鉱する方法であって、600℃と1,000℃との間の温度において鉱石を含有する触媒金属を炭化水素ガスに接触させて炭素被覆金属種を形成することを含む方法が提供される。
【0045】
好ましくは、圧力は大気圧より高い。
【0046】
本発明の一形態においては、炭素被覆金属種は、黒鉛被覆金属種である。
【0047】
本発明の一形態においては、600℃と1,000℃との間の温度において鉱石を含有する触媒金属を炭化水素ガスに接触させて炭素被覆金属種を形成する工程は、より特定的には、
鉱石を含有する触媒金属の少なくとも一部を触媒金属種に還元する工程と、
炭化水素ガスを分解して水素ガス及び触媒金属炭化物中間体を生成する工程と、
黒鉛状炭素を触媒金属の表面に沈殿させる工程と
を含む。
【0048】
理論に拘束されることを望むことなく、出願人は、触媒成分の表面に黒鉛層が沈殿する力は、残存している鉱脈石から覆い被さっている触媒粒子を砕き剥がすのに十分であることを理解している。覆い被さっている触媒粒子が砕かれると、鉱石の中のさらなる触媒成分が炭化水素ガスに露出される。
【0049】
本発明の一形態においては、鉱石を含有する触媒金属は鉄鉱石である。
【0050】
先に議論したように、鉄鉱石の中の金属種は分解反応に対して触媒作用を及ぼす。地殻上の鉄の大半は、典型的にはSiO2である非鉄鉱物の層により分離された鉄の層から構成される縞状鉄鉱層(BIF)と呼ばれる形態として存在する。この構成の便益は、鉄層が非鉄種に完全に閉じ込められていることは決してないので、ガスが常に鉄層へのアクセスを有していることである。さらに、鉄鉱石の鉄濃度は比較的高い。対照的に、その他の鉱石の中の触媒元素は、濃度が非常に低く且つ層状になっていないので、非触媒種に閉じ込められていることが多く、プロセスガスが触媒元素に接触して反応することができない。
【0051】
本発明の一形態においては、プロセスは、加圧ダスティング反応器内で行われる。好ましくは、加圧ダスティング反応器内で、鉱石を含有する触媒金属を炭化水素ガスに接触させてナノ/ミクロンサイズの黒鉛被覆金属粒子を生成する。利点は、それより大きい(1mm超)非触媒脈石種は変化せずに残ることである。このサイズ差により、物理的分離技術を用いて、黒鉛被覆金属種を脈石から分離して取り出すことができる。
【0052】
本発明の一形態においては、ダスティング反応器は流動床反応器である。本発明者らは、流動床反応器の使用の利点は、選鉱処理中に同時にナノ/ミクロンサイズの黒鉛被覆金属粒子がそれより大きい脈石種から分離されることであることを知見した。サイズがより小さい黒鉛被覆金属粒子は、プロセスガス流に運ばれ、このガス流によって反応器から取り出され、より大きい脈石粒子は反応器内に残留する。本発明の一形態においては、より小さい黒鉛被覆金属種は、粒子を沈降させることが可能な気体-固体分離器によってガス流から取り出される。脈石は、重力による定期的排出によってダスティング反応器から連続的に取り出すことができる。
【0053】
本発明の一形態においては、600℃と1,000℃との間の温度において、鉱石を含有する触媒金属を炭化水素ガスに接触させて炭素被覆金属種を形成する工程は、好ましくは、700℃から950℃の温度において行われる。
【0054】
本発明の一形態においては、600℃と1,000℃との間の温度において、鉱石を含有する触媒金属を炭化水素ガスに接触させて炭素被覆金属種を形成する工程は、好ましくは、800℃から900℃の温度において行われる。
【0055】
本発明の一形態においては、600℃と1,000℃との間の温度において、鉱石を含有する触媒金属を炭化水素ガスに接触させて炭素被覆金属種を形成する工程は、好ましくは、650℃から750℃の温度において行われる。
【0056】
本発明の一形態においては、600℃と1,000℃との間の温度において、鉱石を含有する触媒金属を炭化水素ガスに接触させて炭素被覆金属種を形成する工程は、0バールから100バールの圧力において行われる。
【0057】
本発明の一形態においては、600℃と1,000℃との間の温度において、鉱石を含有する触媒金属を炭化水素ガスに接触させて炭素被覆金属種を形成する工程は、0バールから50バールの圧力において行われる。
【0058】
本発明の一形態においては、600℃と1,000℃との間の温度において、鉱石を含有する触媒金属を炭化水素ガスに接触させて炭素被覆金属種を形成する工程は、0バールから20バールの圧力において行われる。
【0059】
本発明の一形態においては、600℃と1,000℃との間の温度において、鉱石を含有する触媒金属を炭化水素ガスに接触させて炭素被覆金属種を形成する工程は、0バールから10バールの圧力において行われる。
【0060】
本発明の一形態においては、700℃から900℃の温度において黒鉛被覆金属種を水素ガスに接触させることにより黒鉛を黒鉛被覆金属種から取り出す。好ましくは、700℃から900℃の温度において黒鉛被覆金属種を水素ガスに接触させる工程は、加圧還元反応器内で行われる。
【0061】
本発明の一形態においては、黒鉛の黒鉛被覆金属種からの取り出しは、加圧還元反応器内で0バールから100バールの圧力において行われる。本発明者らは、圧力が高いほど、黒鉛の取り出しには好都合であることを理解している。本発明の好ましい形態においては、黒鉛の黒鉛被覆金属種からの取り出しは、加圧還元反応器内で10バールから20バールの圧力において行われる。
【0062】
700℃から900℃の温度において黒鉛被覆金属種を水素ガスに接触させる工程は、メタンを生成する。本発明の一形態においては、メタンをリサイクルして水素を生成する。より特定的には、メタンをリサイクルする工程は、600℃と1,000℃との間の温度において、低品位な鉄鉱石触媒をメタンに接触させて、メタンの少なくとも一部を水素及び黒鉛状炭素に触媒的に変換することを含む。
【0063】
本発明の一形態においては、メタンをリサイクルする工程で生成された水素は、700℃から900℃の温度において黒鉛被覆金属種を水素ガスに接触させて黒鉛を黒鉛被覆金属種から取り出す工程において使用される。
【0064】
鉄鉱石を選鉱するとき、還元反応内で黒鉛を取り出すと、金属種は高純度の形態で、しばしば鉄金属として残る。
【図面の簡単な説明】
【0065】
本発明の更なる特徴は、本発明のいくつかの非限定的な実施形態の以下の記載においてより完全に記載される。この記載は、本発明を例示する目的のみにおいて含められており、上記の本発明の広範な概要、開示、又は記載への限定と理解されるべきでない。記載は、添付の図面を参照して行われる。
【
図1】
図1は、本発明の対向流MPRに従って水素及び黒鉛を生成するプロセスの概略図を示す。
【
図2】
図2は、本発明の平行ガスMPRに従って水素及び黒鉛を生成するプロセスの概略図を示す。
【
図3】
図3は、本発明の平行触媒MPRに従って水素及び黒鉛を生成するプロセスの概略図を示す。
【
図4】
図4は、第一の実施形態に従って鉱石を含有する触媒金属を選鉱するプロセスの概略図を示す。
【
図5】
図5は、分析グレード酸化鉄及び鉄鉱石触媒試料のXRDプロットのグラフ図である。
【
図6】
図6は、反応後の酸化鉄触媒の炭素純度(重量%)及び炭素収量(鉄のグラム数当たりの炭素のグラム数-GC/GFe)のグラフ図である。
【
図7】
図7は、三段カスケード対向流システムの概略図である。
【
図8A】
図8Aは、静止固定床反応器を使用した三つの直列反応器を有するMPRシステムのメタン変換を試験するために用いられる実験条件の概略図を示す。
【
図8B】
図8Bは、静止固定床反応器を使用した三つの直列反応器を有するMPRシステムのメタン変換を試験するために用いられる実験条件の概略図を示す。
【
図9】
図9は、異なる反応圧力におけるヘマタイト触媒のメタン変換結果のグラフ図である。
【
図10】
図10は、異なる反応圧力におけるヘマタイト触媒の炭素純度(重要%)及び炭素収量(鉄のグラム数当たりの炭素のグラム数-GC/GFe)のグラフ図である。
【
図11】
図11は、対向流MPRシステムの物質収支計算用の変数の概略図を示す。
【
図12】
図12は、水素生成率が2,000m
3/hrの均衡システムに求められる触媒質量流量を示す対向流MPR及び平行MPRの両方の物質収支計算結果のグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0066】
当業者は、本明細書に記載される発明が、詳細に記載される以外の変更や改変も許容することを理解するであろう。発明は、全てのこのような変更や改変を含む。また、発明は、明細書で言及又は示される全ての工程、特徴、処方、及び化合物を、個別に又は集合的に、あらゆる組み合わせ、又はあらゆる二つ以上の工程又は特徴として含む。
【0067】
本文で引用される各文献、参照文献、特許出願、又は特許は、それらの全てが参照として本明細書に明示的に組み込まれる。これは、それらが本文の一部として読み手に読まれ考慮されるべきであるという意味である。本文において引用される文献、参考文献、特許出願、又は特許を本文では繰り返さないのは、簡潔性を意図してのみである。しかし、引用された題材又は当該題材に含まれる情報のいずれも、共通の一般的な知識と解されるべきでない。
【0068】
本明細書又は本明細書に参照として組み込まれるあらゆる文献において言及されるあらゆる製品についての製造者のマニュアル、説明書、製品仕様書、及び製品シートは、本明細書に参照として組み込まれるものであり、また発明の実施において採用され得る。
【0069】
本発明は、本明細書に記載される特定の実施形態のいずれによっても範囲を限定されるものでない。これらの実施形態は、例示のみを意図したものである。機能的に均等な製品、処方、及び方法は、本明細書に記載される発明の範囲に明確に含まれる。
【0070】
本明細書に記載される発明は、一以上の、範囲のある値(たとえば、サイズ、濃度等)を含み得る。範囲のある値は、範囲内の全ての値を含むと理解されるものであり、範囲を規定する値、及び範囲に近接し、範囲の境界を規定する値に直近の値と同一、又は実質的に同一の結果を導く値を含む。
【0071】
明細書の全体において、文脈上その他の意味が要求される場合を除き、「含む(comprise)」という用語、又は「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」という変形は、述べられた整数又は整数群を含むが、その他の整数又は整数群を除外するものではないこと意味すると理解されるものである。
【0072】
本明細書で使用される選択された用語のその他の定義は、発明の詳細な説明内で見受けられ、その定義は全体において適用される。その他に定義されない限り、本明細書で使用されるその他全ての科学的及び技術的な用語は、発明が属する分野の当業者に共通に理解されている意味と同一の意味を有する。
【0073】
以下の非限定的な記載及び実施例を参照して、発明の特徴を記載する。
【0074】
一般的な形態においては、発明は、炭化水素ガスから水素及び黒鉛状炭素を生成するプロセスに関する。特に、本発明は、低品位な酸化鉄含有触媒を使用して、炭化水素ガスを水素及び黒鉛状炭素に触媒的に変換するプロセスを提供する。
【0075】
炭化水素ガスは、軽質炭化水素を含むいかなるガス流であってもよい。炭化水素ガスの例示的な例は、天然ガス、炭層ガス、埋立地ガス、及びバイオガスを含むが、これらに限定されない。炭化水素ガスの組成は大きく広がりがあるが、一般的には、メタン、エタン、エチレン、プロパン、及びブタンを含む群における一以上の軽質炭化水素を含む。
【0076】
本発明の好ましい実施形態においては、炭化水素ガスは天然ガスである。
【0077】
天然ガスから水素及び黒鉛状炭素を生成するプロセスは、600℃と1,000℃との間の温度において、触媒を炭化水素ガスに接触させて、炭化水素ガスの少なくとも一部を水素及び黒鉛状炭素に触媒的に変換することを含み、触媒は低品位な酸化鉄である。
【0078】
図1を参照すると、たとえば天然ガス16である炭化水素ガスから水素12及び黒鉛状炭素14を生成する、三つの流動床反応器を使用した対向流MPRプロセス10が記載さている。
【0079】
図1に示す実施形態では、プロセスは、異なる圧力で動作する三つの反応器、18バール下の高圧力反応器18、6バール下の中圧力反応器20、及び1バール下の低圧力反応器22を使用する。反応器の温度は、それぞれ850℃である。反応器18、20、及び22は直列に配置され、水素及び未反応炭化水素天然ガスを隣接する反応器間で、たとえば、高圧力反応器18から中圧力反応器20へ、また中圧力反応器20から低圧力反応器22へと移動させる。
【0080】
各反応器22、20、及び18には、それぞれ低品位な酸化鉄触媒、たとえば、鉄鉱石24”、24’、及び24が充填されている。24が未使用の未反応触媒であり、24’及び24”が順々に使用が進んだものであり、黒鉛状炭素がより多く付着し、全体的な触媒活性がより少なく残留している。流れ14は、完全に消尽した触媒をごく微量含有し、この流れの大半(850℃の反応温度で90重量%超)は黒鉛状炭素である。
【0081】
この反応に要求される触媒の量は、要求する水素の量、プロセス条件、及び触媒の種類に関連する。三つの反応器で上記の条件下で動作する2,000m3/hr水素生成プラントでは、約14kg/hrの鉄が要求される。
【0082】
天然ガス16を、高圧力反応器18から中圧力反応器20及び低圧力反応器22へと、直列の反応器を通過させる。各反応器は天然ガスの一部を水素に変換し、後続の各ガス流28、30、及び12は、より多くの水素を含むようになる。未使用の天然ガス16は、初めに高圧力反応器18内で850℃の温度及び18バールの圧力で触媒24”に接触し、天然ガスの一部が水素に変換されるので、対応するガス流28は水素及び未反応天然ガスを含む混合物である。また、この反応器は、流れ14における黒鉛状炭素全量に寄与するいくらかの黒鉛状炭素を触媒24”に堆積させる。
【0083】
ガス流28は、中圧力反応器20に移動し、850℃の温度及び6バールの圧力で触媒24’に接触し、天然ガスが水素及び炭素に変換される。中圧力反応器20の圧力がより低いことにより、ガス流28の変換が可能になり、全水素量12に寄与する。プロセスは、黒鉛状炭素を触媒24’に堆積させ、全黒鉛状炭素流14に寄与する。ガス流28の中の天然ガスの一部は未反応のまま残り、生成された水素ガスと混合してガス流30を形成する。
【0084】
ガス流30は、低圧力反応器22に移動し、850℃の温度及び1バールの圧力(大気圧)で触媒24に接触する。低圧力反応器22の圧力がより低いことにより、反応の熱力学平衡が反応の分解方向に好都合となることが可能になり、第二のガス流30の炭素及び水素ガスへのさらなる変換が可能になる。プロセスは、黒鉛状炭素を触媒24に堆積させ、全黒鉛状炭素流14に寄与する。また、この反応器は、全水素流12の中の水素ガスに寄与し、全水素流12は使用又はさらなるプロセスのために反応器から出る。
【0085】
理論的経験的計算では、反応器18、20、及び22は、それぞれ54%、75%、及び94%の変換効率を有し、対応してガス流28、30、及び12は、それぞれ70重量%、86重量%、及び97重量%の水素濃度を有することが決定される。
【0086】
酸化鉄流24、24’、24”、及び14における黒鉛状炭素の割合は、それぞれ0%、91%、95%、及び98%である。
【0087】
図1に示す実施形態では、高温で天然ガス16が触媒24に接触して水素ガス12及び炭素14を生成すると、触媒24は消耗して部分的に不活性化された触媒24’を形成する。部分的に不活性化された触媒24’は、反応器間を天然ガス16流の対向流として移動する。触媒24は低圧が最も低い反応器22に導入され、その後より高い圧力の反応器に渡される。したがって、部分的に不活性化された触媒24’は、より高い圧力の反応器20において活性を保持し、結果の黒鉛状炭素14はより高い炭素純度(質量の割合(%)として)を有し、対応してより高い価値を持つ。
【0088】
図2では、平行ガスMPRプロセス50が示される。平行ガスMPRプロセス50は、対向流MPRプロセス10と共通の特徴を有しており、同様の参照番号は同様の部分を示す。
【0089】
図2に示す実施形態では、プロセスは、異なる圧力で動作する三つの反応器、18バール下の高圧力反応器18、6バール下の中圧力反応器20、及び1バール下の低圧力反応器22を使用する。反応器の温度は、それぞれ850℃である。反応器18、20、及び22は直列に配置され、未反応炭化水素天然ガスを隣接する反応器間で、たとえば高圧力反応器18から中圧力反応器20へ、中圧力反応器20から低圧力反応器22へと移動させることができる。
【0090】
各反応器18、20、及び22には、それぞれ鉄鉱石触媒52が充填されている。先に示した対向流MPRプロセス10とは対照的に、各反応器22、20、及び18には、炭化水素ガスを接触させる前に、未反応触媒52を供給する。
【0091】
この反応に要求される触媒の量は、要求する水素の量、プロセス条件、及び触媒の種類に関連する。三つの反応器を使用して上記の条件下で動作する2,000m3/hr水素生成プラントでは、約27kg/hrの鉄が要求される。
【0092】
天然ガス16を、高圧力反応器18から中圧力反応器20及び低圧力反応器22へと、直列の反応器を通過させる。各反応器は、天然ガスの一部を水素に変換し、後続の各ガス流28、30、及び12は、より多くの水素を含むようになる。未反応の天然ガス16は、初めに高圧力反応器18内で850℃の温度及び18バールの圧力で触媒34に接触し、天然ガスの一部が水素に変換され、水素及び未反応天然ガスの混合物であるガス流28が生成される。また、黒鉛が触媒34に堆積し、部分的黒鉛流54が生成される。
【0093】
ガス流28は、中圧力反応器20へと渡り、850℃の温度及び6バールの圧力で触媒52に接触し、天然ガスが水素及び炭素に変換される。中圧力反応器20の圧力がより低いことにより、ガス流28のさらなる変換が可能になり、全水素流12に寄与する。プロセスは、炭素を触媒52に堆積させ、部分的黒鉛流56が生成される。ガス流28の中の天然ガスの一部は、未反応のまま残り、生成された水素ガスと混合してガス流30を形成する。
【0094】
ガス流30は、低圧力反応器22へと渡り、850℃の温度及び1バールの圧力(大気圧)で触媒52に接触する。低圧力反応器22の圧力がより低いことにより、反応の熱力学平衡が反応の分解方向に好都合になることが可能になり、第二ガス流30の中の天然ガスの炭素及び水素ガスへの変換が可能になる。プロセスは、炭素を触媒52上に堆積させ、部分的黒鉛流58が生成される。また、この反応器は、全水素流12の中の水素ガスに寄与し、水素ガスは使用又はさらなるプロセスのために反応器から出る。
【0095】
部分的黒鉛流54、56、及び58は、未反応の鉄鉱石及び黒鉛状材料の混合物を含有する。各反応器22、20、及び18の圧力が異なることを考えると、各部分的黒鉛流は、異なる変換率を有する。部分的黒鉛流58は、鉄不純物が最も多く、その次に部分的黒鉛流56及び部分的黒鉛流54が続く。
【0096】
実験では、反応器18、20、及び22は、それぞれ54%、75%、及び94%の変換効率を有し、対応してガス流28、30、及び12は、それぞれ70重量%、86重量%、及び97重量%の水素濃度を有する。
【0097】
図3では、平行触媒MPRプロセス60が示される。平行MPRプロセス60は、対向流MPRプロセス10と共通の特徴を有しており、同様の参照番号は同様の部分を示す。
【0098】
図3に示す実施形態では、プロセスは、異なる圧力で動作する三つの反応器、18バール下の高圧力反応器18、6バール下の中圧力反応器20、及び1バール下の低圧力反応器22を使用する。反応器の温度は、それぞれ850℃である。
【0099】
各反応器18、20、及び22には、触媒を含有する低品位な酸化鉄、たとえば、鉄鉱石24”、24’、及び24がそれぞれ充填されている。24が未反応触媒であり、24’及び24”が順々に使用が進んだものであり、炭素がより多く付着し、全体的な触媒活性がより少なく残留している。流れ14は、完全に消尽した触媒をごく微量含有し、この流れの大半(850℃の反応温度で90重量%超)は黒鉛である。
【0100】
反応器18、20、及び22は、直列に配置され、触媒24”、24’、及び24を隣接する反応器間で、たとえば低圧力反応器22から中圧力反応器20へ、中圧力反応器20から高圧力反応器18へと移動させる。
【0101】
先に示した対向流MPRプロセス10とは対照的に、未反応天然ガス16が各反応器22、20、及び18に供給される。
【0102】
図3に示す実施形態では、天然ガス16が高温度において触媒24に接触して水素ガス12及び炭素14を生成すると、触媒24は消耗して部分的に不活性化された触媒24’を形成する。部分的に不活性化された触媒24’及び24”は、反応器間を移動する。触媒24は最も低い圧力の反応器22に導入され、その後より高い圧力の反応器20及び18に渡される。したがって、部分的に不活性化された触媒24’は、より高い圧力の反応器20において活性を保持し、結果の炭素14はより高い炭素純度(質量の割合(%))として)を有し、対応してより高い価値を持つ。
【0103】
天然ガス16が低圧力反応器22内で850℃の温度及び18バールの圧力で触媒24に接触し、天然ガス16の一部が水素に変換され、水素及び未反応天然ガスを含む混合物であるガス流68が生成される。黒鉛状炭素が触媒24に堆積し、流れ14の中の全炭素に寄与する触媒24’が生成される。
【0104】
天然ガス16が中圧力反応器20内で850℃の温度及び6バールの圧力で触媒24’に接触し、天然ガス16が水素に変換され、水素及び未反応天然ガスを含む混合物であるガス流64が生成される。黒鉛状炭素が触媒24’に堆積し、流れ14の中の全炭素に寄与する触媒24”が生成される。
【0105】
天然ガス16が高圧力反応器18内で850℃の温度及び18バールの圧力で触媒24”に接触し、天然ガス16の一部が水素に変換され、水素及び未反応天然ガスを含む混合物であるガス流62が生成される。黒鉛状炭素が触媒2”に堆積し、触媒黒鉛状炭素14が生成される。
【0106】
図4を参照すると、たとえば鉄鉱石102である鉱石を含有する触媒金属を選鉱するためのプロセス100が記載される。
【0107】
低品位な鉄鉱石102がサージビン104を介してダスティング反応器106へと通過する。ダスティング反応器106では、鉄鉱石102が850℃の温度及び10バールと20バールとの間の圧力で炭化水素ガス108に接触し、黒鉛被覆鉄流110及びより大きい(1mm超)脈石粒子を含む廃棄物流112が生成される。黒鉛被覆鉄流110と廃棄物流112との間のサイズ差によってこれらの流れが分離される。黒鉛被覆鉄流110はガス/固体分離器114に通され、ガス流116が固体流118から分離され、固体流118は還元反応器120に渡される。
【0108】
還元反応器120内では、固体流118の黒鉛被覆鉄粒子が、炭素被覆を除去されるべく、800℃と900℃との間の温度及び10バールと20バールとの間の圧力で水素ガス122に接触し、鉄精鉱流124が残る。また、反応によって、メタンガス流126が形成され、プロセスのその他の部分へとリサイクルされる。
図2に示す実施形態では、メタンガス流126を800℃と900℃との間の温度で、サージビン130を通過する鉄鉱石102に、水素反応器127内でさらに接触させ、水素ガス122及び黒鉛粉末128を生成する。
図4に示すように、水素ガス122は還元反応器120に戻される。
[実施例]
[実施例1]
【0109】
メタンの熱触媒分解を介して水素及び黒鉛を経済的に生成するための触媒としての鉄鉱石の使用
[実験の詳細]
【0110】
本発明は、低品位な酸化鉄をメタンの分解のための触媒として使用することを可能にする方法を提供する。本発明の低品位な酸化鉄触媒の触媒活性を実証するため、低品位な酸化鉄の試料を高品位な酸化鉄試料と比較した。二種類の高品位な酸化鉄を試験した:ヘマタイト(99%、5μm未満、シグマ-アルドリッチ)及びマグネタイト(95%、5μm未満、シグマ-アルドリッチ);並びに、二つの鉄鉱石試料:ヘマタイト鉱(ピルバラ鉱山)及びグーサイト鉱(ヤンディ鉱山)。鉱石試料を150μm未満に粉砕し、それ以外は未処理とした。全ての試料の「未処理状態(as received)」での組成データ、粒度分布、及び表面積を表1に詳細に示す。
【表1】
表1-酸化鉄試料の組成、粒度、及び表面積のデータ
【0111】
各試料は、別々の単一段の反応器に配置した。反応器は、3/8”石英管内装用ライナーを有する縦型1/2”径ステンレス鋼(SS316 スウェージロック)管である。石英管内装用ライナーは、反応しているメタンガスとの接触を制限することによりステンレス鋼反応器の壁の触媒効果を低減させる。20gの触媒試料を3/8”「試験管状」石英チャンバーに収容した。
【0112】
高品位酸化鉄触媒試料、つまり分析グレード(ヘマタイト及びマグネタイト)、及び低品位酸化鉄触媒試料(ヘマタイト鉱及びグーサイト鉱)のXRDプロットを
図5に示す。
【0113】
750℃から950℃の範囲の温度で、10sccmの純メタン(UHP)を使用して、1バールと9バール(絶対値)との間の反応圧力で、各試料を反応させた。完全に不活性化された後(約19時間)、反応を終了させ、試料を20sccmの純窒素(UHP)で冷却した。結果の炭素(及び包埋された触媒粒子)の重量を測定して、使用した鉄触媒のグラム当たりの全炭素収量を決定した。
【0114】
図6は、850℃及び大気圧の反応条件でのこれらの実験の結果を示す。結果によると、低品位鉄鉱石試料は、高品位酸化物とほぼ同等な働きをし、炭素収量が鉄のグラム当たり9.2グラムから8.9グラムの範囲であり、対応して炭素純度がそれぞれ90重量%から89重量%である。これらの値は、定量的XRDで導出した値と密接に相関することが示され、差は2重量%未満である(
図6において、中空形状として示される)。
【0115】
当業者には理解されるであろうが、触媒の活性を高める一般的な方法は、反応面積を大きくするべく、触媒を非常に高純度にすることである。試験した高品位酸化鉄試料等の酸化鉄触媒は、純度が99%を超えるよう特異的に合成しなければならない。この実験の結果では、本発明の特定のプロセス条件によって、低品位触媒を使用しても高い変換率及び収量を得ることができることが示される。
[実施例2]
対向流MPRを使用した熱触媒メタン分解
対向流
【0116】
三反応器対向流MPRを
図7の概略図に示すようにカスケード状配置に組み立てた。
【0117】
静止(非連続)システムを使用して、対向流MPRシステムの実験評価を行った。これは、メタン変換効率及び炭素収量に対する圧力の効果を試験することにより行った。結果によると、圧力を増大させると、メタン変換が低下して炭素収量が増加し、反対に圧力が低いほど、メタン変換が増加して全炭素収量が低下することが確認された。
[実験の詳細]
【0118】
メタン変換の限界に対する反応圧力の効果
【0119】
反応器のセットアップは、異なる背圧の設定(12バール、4バール、及び大気圧)を有し、かつ850℃の等温度の三つの独立した反応器段(3×1/2” OD316SS スウェージロック、70mm長さ)を含む。反応器を直列に連結する代わりに、個別の性能を査定するため個別にフィードして分析を行った。各反応器のフィードガス組成は各反応器の動作が直列に誘発されるように設定され、各反応器は反応圧力(表2)で可能な理論的最大変換で動作させた。各段の性能は、ガスクロマトグラフ(GC)を使用して各反応器からの排水を監視することにより決定した。このプロセスの概略図が
図8に示される。過剰量の酸化鉄は、この静止システム内で連続的な触媒流となる条件を誘導するべく使用され、期待される定常状態の連続動作を瞬間的に垣間見えるようにした。
【表2】
表2-MPR実験のプロセス条件
【0120】
この実験から得られた結果が
図9に示されており、理論的な期待値と良好な相関にあり、理論が立証された。三つの反応器の段は、20時間を超える期間にわたって期待される熱力学平衡の限界(破線で示される)と良好に相関し、その後、反応を終了させた。MPRシステムを使用した場合、高水素濃度は、反応が熱力学平衡の限界での変換を達成する能力に影響を与えないことが明らかである。
【0121】
これらの結果によって、連続MPRシステムは、水素のレベルによらず、熱力学平衡の限界での安定した変換を維持することができることが示される。
[製品収量に対する圧力の効果]
【0122】
20mgの触媒を使用し、1バールの圧力間隔で、その他の反応条件は全て以前の実験と同一にしたままで(つまり、850℃、20sccmのメタン、自動還元、及び19時間の持続期間)、反応圧力の効果を試験した。
【0123】
結果によると、反応圧力と全炭素収量との間に正の線形関係があることが示される。
図10に示すように、プロファイルは、鉄のグラム当たりの炭素収量が、大気圧から9絶対値バールまでの圧力範囲にわたって9gから22gまで増加し、それぞれ90%から96%の炭素純度に対応することを示す。
[経験的な触媒流量の算出]
【0124】
MPRシステムの全体的な実現可能性は、質量流量バランスに依存する。これが対向流MPRには特に重要であるのは、触媒の質量流量が(1)圧力反応器の段数、(2)圧力範囲、及び(3)触媒の炭素容量プロファイルと厳格に相互依存するためである。経験的な物質収支計算を行って、バランスを得るための実現可能性を決定した。
【0125】
各反応器内での触媒の流量は、共に反応器の圧力範囲によって境界される、各反応器の炭素堆積率を触媒利用性で割ることにより決定することができる。
【数1】
ここで、M(・)
cat(Rn)は触媒の質量流量であり、M(・)
c(Rn)は炭素堆積率であり、ΔC
(Rn)は反応器‘Rn’での触媒利用性である。
[平行MPR]
平行流MPRは、設計が簡易であること、及び段数と圧力の限界値を決定する制約が少ないことが利点である。
[対向流MPR]
【0126】
対向流MPR構成の最大の制約は、連続的動作を可能にするために、全ての反応器段の間で触媒の質量流量を均衡させることである。各段で要求される触媒の流量は、(1)反応器の段数、及び(2)圧力に対する触媒の炭素容量プロファイルに依存する。このバランスが
図11に示されている。
【0127】
この計算の目的は、所与の触媒の炭素容量プロファイル及び反応温度(等温条件を想定)について、全ての段の間で触媒の流量を均衡させる圧力段数を決定することである。
【0128】
触媒の質量流量が各反応器段を出るときに完全に不活性化されているように設定される場合、各段での触媒利用性は、反応器圧力での総触媒利用性と、隣接するより低い圧力の反応器との間の差である。したがって、
【数2】
である。
【0129】
‘n’は、反応器番号(n=1が圧力が最も低い反応器)である。
【0130】
したがって、各反応器段での触媒の質量流量は、
【数3】
である。
ここで、P、R、及びTは、それぞれSTP圧力、気体定数、及び温度である。Q(・)CH
4(I)は初期メタン送り量であり、ξ
Rnは反応器‘n’でのでのTELであり、α及びβは炭素容量に対する圧力の効果に関する係数であり、K
Tは温度‘T’での平衡定数である。
【0131】
反応器を一つだけ(n=1)有する反応器システムでは、反応器(n-1)及び反応器(n+1)の段は存在しないので、
【数4】
に簡略化することができる。
【0132】
二段の反応器の場合も同様に、反応器(n-1)及び反応器(n+2)は存在せず、三段の反応器の場合は、反応器(n-1)及び反応器(n+3)は存在しない。
[触媒の質量流量バランス]
【0133】
多段プロセスを連続的にするには、触媒の流量は、等価でなければならない。
【数5】
したがって、二段の反応器の場合、
【数6】
である。
【0134】
等温条件の場合、これは、
【数7】
に簡略化することができる。
【0135】
反応器‘R1’が大気圧で動作し、且つTELで動作している場合、ξR1は既知であり、ξR2は、上記の等式を使用して解くことができる。この解によって、反応器2が等触媒流量となるために要求される圧力が解かれるであろう。
【0136】
これは、より反応器数が大きい場合についても同様になされる。
反応器の段数3:
【数8】
反応器の段数4:
【数9】
【0137】
上記は、追加的な反応器の段数に補外することができる。
[結果]
【0138】
9バール(絶対値)を超える圧力について線形補外した値を用いた経験的結果がグラフとして
図12に示される。これらの結果によると、対向流MPRは、あらゆる場合において平行流プロセスよりも消費する触媒がかなり少ないであろうことが示される。5個の反応段を有する対向流プロセスでは、単一の反応器で要求される触媒の19%しか要求せず、それに対し平行流プロセスでは、同一の段数の場合42%要求する。しかし、対向流プロセスは、全ての段において触媒の質量流量が一定となるには、最大で5個の反応段しか有することができない。対照的に、平行流プロセスの段数は無制限である。しかし、各段の収穫は逓減し、全体としては対向流オプションの場合に比べて要求する触媒が著しく多いことは理解されよう。触媒の質量流量は、2,000m
3/hrの水素出力流量の想定に基いて算出される。
[実施例3]
鉄鉱石の選鉱
実験の詳細
【0139】
通常の低品位鉄鉱石の岩は、高品位な酸化鉄と低品位な同等物とによる明確に区別可能なセクションから構成される。この種の岩は、縞状鉄鉱層(BIF)として知られる。BIF鉄鉱石の6.39gの試料を調製し、特性の分析を表3に示す。
【表3】
表3-試料分析
【0140】
試料を静止反応器の床に充填して、900℃及び大気圧下において4時間の間メタンガスに接触させた。反応の後、高品位な酸化鉄の縞は砕かれており、それに対して低品位な同等物の大部分は影響を受けていなかった。
【0141】
理論に拘束されることを望むことなく、本発明者らは、最初に起こる反応が、凝集した酸化鉄種鉱石の炭化鉄への還元であり、水蒸気、H2、CO2、及び微量COが放出されることを理解している。反応を連続させると、凝集した炭化鉄がメタルダスティング(先に述べたように)により砕かれ、酸化物の不在下で、系はH2ガスのみを放出する。このダスティングにおいては、あらゆる鉄種がそれらを包み込む黒鉛層によって、ミクロン及びナノサイズの断片に分解される。鉄鉱石の脈石(通常、SiO2及びAl2O3を含有する安定性の高い鉱物)は、これらのプロセス条件によって影響を受けず、無損傷且つ元のままに残る。したがって、このプロセスの生成物としては、より大きい脈石の凝集体と、黒鉛に包囲された第二鉄/炭化鉄の微粒子とが残る。次に、鉄種と脈石との間のサイズ及び密度の差を利用して、これら二種を物理的スクリーニングにより分離することができる。
【0142】
反応、及びサイズによる物理的分離の後の試料の組成データを表4に示す。
【表4】
表4-試料分析
【0143】
分析によると、サイズ分離によって鉄種の大部分を分離することができることが示され、試料Aが鉄の大部分に対応する。予め試料を酸化させることが必要なXRF分析により組成データを測定したので、あらゆる鉄種がフェライトではなく酸化物として示される。か焼の前に行ったエネルギー分散型X線分光法分析では、鉄種がフェライトであることが示された。経験的に、鉄組成からこの酸化物を除去すると、プロセスは、85重量%鉄である生成物を、約35重量%である元の全体的岩組成から抽出することができると我々は算出することができる。
【0144】
次に、黒鉛に包囲された第二鉄/炭化鉄から黒鉛状炭素をメタン化反応と呼ばれるプロセスによって除去することが可能と想定される。この反応では、鉄/炭素粒子を高温で水素ガスに接触させて、下記の反応2によりメタンガスを形成する。
C+2H2→CH4 (2)
【0145】
鉄粒子が非常に小さく、この反応が発熱反応であるため、鉄粒子が凝塊してより大きい純鉄の粒子を形成する。
【0146】
次に、800℃及び20バールで、黒鉛に包囲された第二鉄/炭化鉄を水素ガスに接触させることにより、黒鉛に包囲された第二鉄/炭化鉄から黒鉛状炭素を除去することが可能であると想定される。
【0147】
従来の鉄鉱石選鉱方法に対する本発明の選鉱方法の利点は、脈石が除去されることに加えて、生成された酸化鉄種が還元される(酸素が除去されて第二鉄が残される)ことである。この還元鉄は90重量%から95重量%鉄であるのに対し、高品位鉄鉱石は通常55重量%から63重量%である(70%が理論的最大値)。還元鉄は、鉄鉱石に比べて高品質な生成物であるので、より高価である。また、圧搾酸素(ballast oxygen)を運送しないので、還元鉄生成物の運送コストの方がおそらく低く、重量で30%から40%、体積で50%以下の節約となる。鉄鉱石産業で使用されてきた従来の選鉱プロセスは、粉砕、磁選、浮選、比重選鉱、濃化/濾過、及び凝塊を含む。
【0148】
当業者は、本明細書に記載される発明が、詳細に記載される以外の変更や改変も許容することを理解するであろう。発明は、全てのこのような変更や改変を含む。また、発明は、明細書で言及又は示される全ての工程、特徴、処方、及び化合物を、個別に又は集合的に、またいずれも全て含む。