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特許7007270電極用導電性樹脂組成物及び電極組成物、並びにそれを用いた電極及びリチウムイオン電池
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  • 特許-電極用導電性樹脂組成物及び電極組成物、並びにそれを用いた電極及びリチウムイオン電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】電極用導電性樹脂組成物及び電極組成物、並びにそれを用いた電極及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20220117BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220117BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20220117BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220117BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220117BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20220117BHJP
   C08L 27/16 20060101ALI20220117BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20220117BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20220117BHJP
   C01B 32/168 20170101ALI20220117BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/58
H01M4/525
H01M4/505
C08L51/06
C08L27/16
C08K3/22
C08K3/04
C01B32/168
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018529785
(86)(22)【出願日】2017-07-14
(86)【国際出願番号】 JP2017025758
(87)【国際公開番号】W WO2018021073
(87)【国際公開日】2018-02-01
【審査請求日】2020-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2016148198
(32)【優先日】2016-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】永井 達也
(72)【発明者】
【氏名】成冨 拓也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】横田 博
【審査官】近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/053224(WO,A1)
【文献】特開2015-125964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/13
H01M 4/58
H01M 4/525
H01M 4/505
C08L 51/06
C08L 27/16
C08K 3/22
C08K 3/04
C01B 32/168
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散剤、導電剤及び結着材を含有する電極用導電性樹脂組成物であり、
分散剤が、ポリビニルアルコールに、アクリロニトリルを主成分とする単量体がグラフトしたグラフト共重合体を含有し、
ポリビニルアルコールの、平均重合度が300~3000であり、かつ鹸化度が90モル%~100モル%であり、
グラフト共重合体中の、ポリビニルアルコール量が10質量%~40質量%であり、ポリアクリロニトリル量が90質量%~60質量%であり、
結着材が、ポリフッ化ビニリデンを含有することを特徴とする、電極用導電性樹脂組成物。
【請求項2】
分散剤と導電剤との質量比(分散剤の質量/導電剤の質量)が、0.01~1である、請求項1に記載の電極用導電性樹脂組成物。
【請求項3】
導電剤が、(i)繊維状炭素、(ii)球状炭素、及び(iii)繊維状炭素と球状炭素とが相互に連結した炭素複合体からなる群から選択される少なくとも1種を含有する、請求項1または2に記載の電極用導電性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載の電極用導電性樹脂組成物と活物質とを含有する、電極組成物。
【請求項5】
活物質が、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiMPO、LiMSiO、LiNiMn(2-X)、Li(MnNiCo)O、Li(AlNiCo)OおよびxLiMnO-(1-x)LiMOから選択された、少なくとも1種であることを特徴とする請求項に記載の電極組成物。
但し、LiNiMn(2-X)中のXは0<X<2という関係を満たし、
Li(MnNiCo)O及びLi(AlNiCo)O中のX、Y及びZは、X+Y+Z=1という関係を満たし、かつ0<X<1、0<Y<1、0<Z<1という関係を満たし、
xLiMnO-(1-x)LiMO中のxは0<x<1という関係を満たし、
LiMPO、LiMSiO及びxLiMnO-(1-x)LiMO中のMは、Fe、Co、Ni、及びMnから選ばれる1種以上の元素である。
【請求項6】
金属箔上に、請求項4または5に記載の電極組成物を含む層を有する、電極。
【請求項7】
請求項に記載の電極を正極として有する、リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極用導電性樹脂組成物及び電極組成物、並びにそれを用いた電極及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
環境及びエネルギー問題の高まりから、化石燃料への依存度を減らす低炭素社会の実現に向けた技術の開発が盛んに行われている。このような技術開発の例としては、ハイブリッド電気自動車や電気自動車等の低公害車の開発、太陽光発電や風力発電等の自然エネルギー発電及び蓄電システムの開発、電力を効率よく供給し、送電ロスを減らす次世代送電網の開発等があり、多岐に渡っている。
【0003】
これらの技術に共通して必要となるキーデバイスの一つが電池であり、このような電池に対しては、システムを小型化するための高いエネルギー密度が求められる。また、使用環境温度に左右されずに安定した電力の供給を可能にするための高い出力特性が求められる。さらに、長期間の使用に耐えうる良好なサイクル特性等も求められている。そのため、従来の鉛蓄電池、ニッケル-カドミウム電池、ニッケル-水素電池から、より高いエネルギー密度、出力特性およびサイクル特性を有するリチウムイオン二次電池への置き換えが急速に進んでいる。
【0004】
近年ではこのリチウムイオン二次電池のエネルギー密度のさらなる向上が求められている。このため電極合材中における導電剤の含有量をより少なくすることが求められるようになっている。例えばデジタル機器等の民生機器用電池においては、正極合材中、導電剤の含有量は典型的には2質量パーセント以下、さらには1質量パーセント以下であることが好ましいとされている。かかる事情から、導電剤であるカーボンブラックには添加量が少量であっても十分な電子伝導性を発揮することが要求されている。
【0005】
ところで、カーボンブラックはその共通の構造として球形に近い1次粒子が数珠状に繋がりあった構造を有しており、このような構造はストラクチャと呼ばれている。一般に、1次粒子径が小さいほど、同質量の導電剤の中に、より多数の電気的接点が存在することになり、電子伝導性が向上する。また、ストラクチャが長く連結しているほど、接触抵抗なく電子伝導できる距離が大きくなるため、電子伝導性が向上する。
【0006】
一方、1次粒子径が小さくストラクチャが長いカーボンブラックは、導電性に優れる反面、粒子同士の相互作用が大きくなるため、解砕し難く凝集し易いという側面を持つ。したがって、一般に電極製造時には活物質、導電剤および結着材を水または有機溶剤に分散した電極組成物を金属箔に塗布する方法がとられるが、1次粒子径が小さくストラクチャが長いカーボンブラックを導電剤として用いた場合、電極組成物中に導電剤の凝集物が残存して電極に凹凸が生じたり、電極組成物の粘度が高すぎて塗布不能になったりといった導電剤の分散不良が発生しやすい。
【0007】
かかる課題を克服するために、例えば特許文献1では、固練りと希釈分散の2段階の混練を行うことを提案している。しかしながら、前記したような1次粒子径が小さくストラクチャが長いカーボンブラックに対しては必ずしも十分な効果を発揮するとはいえない。
【0008】
また、導電剤の分散不良を克服する手段として、ポリビニルピロリドン系高分子とノニオン系界面活性剤とを分散剤として添加する方法がある(特許文献2)。しかしながら特許文献2に記載の方法では、導電剤の分散不良を改善できるものの、前記分散剤を含有した電極をリチウムイオン電池として使用した際に4.45V以上の電圧において前記分散剤が酸化分解してしまうことで電池の容量が低下するといった問題があった。現在のリチウムイオン二次電池市場では、電池の高電圧化が望まれており、分散性と耐酸化性を両立した分散剤を含む電極用導電性樹脂組成物が必要不可欠である。
【文献】特開2012-59466号公報
【文献】国際公開第2012/014616号
【発明の概要】
【0009】
本発明は、上記問題と実情に鑑み、分散性及び耐酸化性が良好な電極用導電性樹脂組成物を提供することを課題とする。加えて、この電極用導電性樹脂組成物を用いて製造される分散性に優れた電極組成物、さらにそれらを用いて製造される低抵抗且つ結着性に優れた電極および高出力特性に優れ、良好なサイクル特性を有するリチウムイオン電池を提供することを課題とする。
【0010】
本発明者等は、上記課題を達成するために鋭意努力した結果、ポリビニルアルコールにアクリロニトリルを主成分とする単量体がグラフトしたポリマーを電極用導電性樹脂組成物中に分散剤として添加することで導電剤の分散性を向上させ且つ高い耐酸化性を示すことを見出した。
【0011】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、下記より構成される。
(1)分散剤、導電剤及び結着材を含有する電極用導電性樹脂組成物であり、分散剤が、ポリビニルアルコールに、アクリロニトリルを主成分とする単量体がグラフトしたグラフト共重合体を含有し、ポリビニルアルコールの、平均重合度が300~3000で、かつ鹸化度が90~100モル%であり、グラフト共重合体中の、ポリビニルアルコール量が10質量%~40質量%であり、ポリアクリロニトリル量が90質量%~60質量%であることを特徴とする電極用導電性樹脂組成物。
(2)分散剤と導電剤との質量比(分散剤の質量/導電剤の質量)が0.01~1である、(1)に記載の電極用導電性樹脂組成物。
(3)結着材がポリフッ化ビニリデンを含有する、(1)または(2)に記載の電極用導電性樹脂組成物。
(4)導電剤が、(i)繊維状炭素、(ii)球状炭素、及び(iii)繊維状炭素と球状炭素とが相互に連結した炭素複合体からなる群から選択される少なくとも1種以上を含有する、(1)から(3)の何れかに記載の電極用導電性樹脂組成物。
(5)(1)から(4)の何れかに記載の電極用導電性樹脂組成物と活物質とを含有する、電極組成物。
(6)前記活物質が、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiMPO、LiMSiO、LiNiMn(2-X)、Li(MnNiCo)O、Li(AlNiCo)OおよびxLiMnO-(1-x)LiMOから選択された、少なくとも1種である、(5)に記載の電極組成物。
但し、LiNiMn(2-X)中のXは0<X<2という関係を満たし、
Li(MnNiCo)O及びLi(AlNiCo)O中のX、Y及びZは、X+Y+Z=1という関係を満たし、かつ0<X<1、0<Y<1、0<Z<1という関係を満たし、
xLiMnO-(1-x)LiMO中のxは0<x<1という関係を満たし、
LiMPO、LiMSiO、及びxLiMnO-(1-x)LiMO中のMはFe、Co、Ni、Mnから選ばれる元素の1種以上である。
(7)金属箔上に(5)または(6)に記載の電極組成物を含む層を有する電極。若しくは、(5)または(6)に記載の電極組成物を金属箔上に塗布してなる電極。
(8)(7)に記載の電極を正極として有する、リチウムイオン電池。若しくは、(7)に記載の電極を正極に用いたリチウムイオン電池。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に用いられるリチウムイオン電池の模式図である。
図2】実施例1の電極用導電性樹脂組成物を用いて作製した電極の走査型電子顕微鏡の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは鋭意研究の結果、ポリビニルアルコールの平均重合度が300~3000で、かつ鹸化度が90モル%~100モル%であり、グラフト共重合反応物中の、ポリビニルアルコール量が10質量%~40質量%であり、ポリアクリロニトリル量が90質量%~60質量%であるグラフト共重合反応物を、導電剤と結着材とを含む電極用導電性樹脂組成物中に分散剤として添加することで、導電剤の分散性を向上させたことによる低い粘度と高い耐酸化性を両立できることを見出した。加えて、前記電極用導電性樹脂組成物を用いて製造した電極組成物の粘度を低減する効果も高く、これらを用いて製造した電極は極板抵抗が低く、リチウムイオン電池は高い出力特性および良好なサイクル特性に優れるという特徴を持つ。
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。なお、本願明細書において、特にことわりがない限り、「~」という記号は両端の値「以上」および「以下」の範囲を意味する。例えば、「A~B」というのは、A以上、B以下であるという意味である。
【0015】
[電極用導電性樹脂組成物]
本実施形態に係る電極用導電性樹脂組成物は、分散剤、導電剤及び結着材を含有する電極用導電性樹脂組成物である。以下、本発明の構成材料について詳細に説明する。
【0016】
<分散剤>
分散剤は、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略すことがある。)にアクリロニトリルを主成分とする単量体がグラフトしたグラフト共重合体(以下、単に「グラフト共重合体」ともいう。)を含有する。このグラフト共重合体は、ポリビニルアルコールの主鎖に、ポリアクリロニトリル(以下、「PAN」と略すことがある。)の側枝が生成したグラフト共重合体(ポリビニルアルコールを含む主鎖と、ポリアクリロニトリルを含む側鎖とを有するグラフト共重合体)である。なお、本明細書において、「グラフト共重合体」には、グラフト共重合体自体のほか、グラフト共重合に関与していない、PANのホモポリマー及び/又はPVAのホモポリマーが混在している場合を含む。したがって、本実施形態で用いる分散剤は、樹脂分(ポリマー分)として、グラフト共重合体自体のほか、PANホモポリマー及び/又はPVAホモポリマーを含有してもよい。
【0017】
ポリビニルアルコールとは、ポリビニルアルコール部位を有する化合物であり、例えば、ポリビニルアルコールに対し、部分的にアセタール化やブチラール化等された変成化合物も含め、従来公知のポリビニルアルコールを使用することができる。
【0018】
PVAの鹸化度は、耐酸化性の観点から90モル%~100モル%であり、活物質への被覆性を高める観点から95モル%以上が好ましい。ここでいうPVAの鹸化度は、JIS K 6726に準ずる方法で測定される値である。
【0019】
PVAの平均重合度は、溶解性及び電極用導電性樹脂組成物の分散性の観点から300~3000である。PVAの平均重合度は、320~2950が好ましく、500~2500がより好ましく、500~1800がさらに好ましい。PVAの平均重合度が300未満では電極にした際の活物質および導電剤の分散性が低下し、耐久性が低下する場合がある。また、PVAの平均重合度が3000を超えると溶解性が低下し、粘度が上昇するため、電極用導電性樹脂組成物の製造が困難になる。ここでいうPVAの平均重合度は、JIS K 6726に準ずる方法で測定される値である。
【0020】
PVAへグラフトする単量体は、耐酸化性の点で、アクリロニトリルを必須成分とする。PVAへグラフトする単量体には、アクリロニトリルと併用できる成分として、電極用導電性樹脂組成物の耐酸化性を損なわない範囲で、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル及びアクリル酸2-エチルヘキシル等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸及びイタコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸、並びにスチレン等がある。これらは1種用いてもよく、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0021】
PVAへグラフトする単量体中のアクリロニトリルは、グラフト共重合した単量体の主成分であり、グラフト共重合した単量体のうち50質量%以上となる量であることが好ましく、90質量%以上となる量であることがより好ましい。アクリロニトリルが、グラフト共重合した単量体のうち90質量%以上の場合には電極用導電性樹脂組成物の耐酸化性及び分散性をより高められる可能性がある。尚、PVAへグラフトした単量体の組成はH-NMR(プロトン核磁気共鳴分光法)により求めることができる。
【0022】
グラフト共重合体のグラフト率は、150%~900%であることが好ましく、300%~570%であることがより好ましい。グラフト率を150%以上とすることで、耐酸化性が低下することを防ぐことができる。また、グラフト率を900%以下とすることで、分散性が低下することを防ぐことができる。グラフト共重合体を合成する際(グラフト共重合時)に、PANのホモポリマーが生成することがあることから、グラフト率の計算には、グラフト共重合体からPANのホモポリマーを分離する工程が必要となる。PANのホモポリマーは、ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と略すことがある。)には溶解するが、PVAおよびグラフト共重合したPANはDMFに溶解しない。この溶解性の差を利用し、PANのホモポリマーを遠心分離等の操作により分離することができる。
【0023】
具体的には、グラフト共重合体を含有する組成物(グラフト共重合反応物)を所定量のDMFに浸漬し、PANのホモポリマーをDMF中に溶出させる。次に浸漬させた液を遠心分離によりDMF可溶分とDMF不溶分に分離する。
ここで、
a:測定に用いたグラフト共重合体を含有する組成物の質量、
b:測定に用いたグラフト共重合体を含有する組成物中のPANの質量%、
c:DMF不溶分の質量とすると、
グラフト率は、以下の式(1)により求めることができる。
グラフト率=[c-a×(100-b)×0.01]/[a×(100-b)×0.01]×100(%)・・・(1)
なお、b(測定に用いたグラフト共重合体を含有する組成物中のPANの質量%)は、後述する式(2)より算出することができる。上記式(1)により求められるグラフト率は、[PVAにグラフトしたPAN量]/[グラフト共重合体を含有する組成物中のPVA量]×100(%)と定義する。
上記式(1)により求められるグラフト共重合体のグラフト率は、活物質への被覆性を高める観点からも150%~900%であることが好ましい。
【0024】
グラフト共重合体中のPVA量は、10質量%~40質量%であり、10質量%~20質量%であることが好ましい。PVA量が10質量%未満であると、結着性及び分散性が低下する場合がある。また、40質量%を超えると耐酸化性が低下する場合がある。
なお、「グラフト共重合体中のPVA量」とは、質量換算のグラフト共重合体、PANのホモポリマーおよびPVAのホモポリマーの総和に対する、グラフト共重合体中のPVA量およびPVAのホモポリマー量を意味する。
【0025】
グラフト共重合体中のPAN量は90質量%~60質量%であり、90質量%~80質量%であることが好ましい。PAN量が90質量%を超えると結着性及び分散性が低下する場合がある。また、60質量%未満であると耐酸化性が低下する場合がある。
なお、「グラフト共重合体中のPAN量」とは、質量換算のグラフト共重合体、PANのホモポリマーおよびPVAのホモポリマーの総和に対する、グラフト共重合したPAN量およびPANのホモポリマー量を意味する。
【0026】
グラフト共重合体中のPAN量(共重合時に生成したPANの質量)は、PVAにグラフトしたPANとPANホモポリマーとの総量であり、アクリロニトリルの重合率と仕込みのアクリロニトリルの質量とから、算出することができる。
具体的には、グラフト共重合体中のPANの質量%は、以下の式(2)から求めることができる。
グラフト共重合体中のPANの質量%=d×0.01×e/(f+d×0.01×e)×100(質量%)・・・(2)
ここで、上記式(2)中、dはアクリロニトリルの重合率(%)、eはグラフト共重合に使用したアクリロニトリルの質量(仕込み量)、fはグラフト共重合に使用したPVAの質量(仕込み量)を表す。なお、アクリロニトリルの重合率(%)dは、以下の式(3)により求めることができる。
アクリロニトリル重合率%=(g-f)/e×100(%)・・・(3)
ここで、上記式(3)中、gは重合されたグラフト共重合体を含有する組成物の質量を表す。
【0027】
また、このPANの質量と、PVAの仕込みの質量との比を取ることで、グラフト共重合体中のPVAとPANの質量比(組成比)を算出することができる。グラフト共重合体中のPVA量とPAN量との比(組成比)は、耐酸化性の点で、10:90~40:60であることが好ましい。
【0028】
分散剤中のグラフト共重合体の含有量は、分散性をより高めることができる点で、50質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0029】
グラフト共重合体(グラフト共重合反応物)の製造方法については、特に制限されないが、ポリ酢酸ビニルを重合後、鹸化してPVAを得た後に、PVAにアクリロニトリルを主成分とする単量体をグラフト共重合させる方法が好ましい。
【0030】
ポリ酢酸ビニルを重合する方法については、塊状重合、溶液重合等公知の任意の方法を用いることができる。ポリ酢酸ビニルの重合に使用される開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系開始剤や、過酸化ベンゾイル、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートなどの有機過酸化物等が挙げられる。
【0031】
ポリ酢酸ビニルの鹸化反応は、例えば有機溶媒中、鹸化触媒存在下で鹸化する方法により行うことができる。有機溶媒としてはメタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、ベンゼン、トルエンなどが挙げられる。これらは単独でも、または2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、メタノールが好ましい。鹸化触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムアルコキシド等の塩基性触媒や硫酸、塩酸等の酸性触媒が挙げられる。これらの中では、水酸化ナトリウムが鹸化速度の観点から好ましい。
【0032】
ポリビニルアルコールにアクリロニトリルを主成分とする単量体をグラフト共重合させる方法は、溶液重合によって行うことができる。用いる溶媒としては、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0033】
グラフト共重合に使用する開始剤としては、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等を用いることができる。
【0034】
上記のようにして得られたグラフト共重合体は溶媒に溶解させて用いることができる。溶媒としてはジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0035】
<導電剤>
導電剤は、(i)繊維状炭素、(ii)球状炭素、及び(iii)繊維状炭素と球状炭素とが相互に連結した炭素複合体からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。繊維状炭素としては、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ及びカーボンナノファイバー等が挙げられる。球状炭素としてはカーボンブラックが挙げられ、カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック及びケッチェンブラック(登録商標)等が挙げられる。これらの導電剤は単体で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの中ではアセチレンブラック、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノファイバーからなる群から選択される1種又は2種以上を用いることが導電剤の分散性を向上させる効果が高いことから最も好ましい。
【0036】
導電剤の大きさは、特に限定されず、繊維状炭素の場合、一次粒子の平均長さが0.5μm~3.0μm程度とすることができ、球状炭素の場合、個数平均一次粒子径が10nm~50nm程度とすることができる。平均長さは、数十本程度の繊維片の長さの平均値である。個数平均一次粒子径は、数千個程度の一次粒子の直径の平均値である。
【0037】
導電剤の含有量は、電極用導電性樹脂組成物中に0.5質量%~1.5質量%であることが好ましい。この範囲にすることで、分散性に優れた電極を作製することができる。
【0038】
<結着材>
結着材は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエン共重合体、(メタ)アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。結着材としてのポリマーの構造には制約がなく、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体なども使用できる。これらの中では、耐酸化性の点でPVdFが好ましい。
【0039】
結着材の含有量は、電極用導電性樹脂組成物中に1.0質量%~3.0質量%であることが好ましい。この範囲にすることで、結着性に優れ且つ低抵抗な電極を作製することができる。
【0040】
<電極用導電性樹脂組成物>
電極用導電性樹脂組成物の製造には公知の方法を用いることができる。例えば、導電剤、結着材及びグラフト共重合体の溶媒分散溶液をボールミル、サンドミル、二軸混練機、自転公転式攪拌機、プラネタリーミキサー、ディスパーミキサー等により混合することで得られ、一般的には、スラリーにして用いられる。前記の導電剤、結着材及びグラフト共重合体としては、既述したものを用いればよい。電極用導電性樹脂組成物の分散媒としては、水、N-メチルピロリドン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。高分子結着材としてポリフッ化ビニリデンを使用する際は、溶解性の点でN-メチルピロリドンが好ましく、スチレン-ブタジエン共重合体を使用する際は水が好ましい。
【0041】
電極用導電性樹脂組成物中の固形分含有量は特に限定はないが、10質量%~90質量%がより好ましく、10質量%~20質量%が最も好ましい。電極用導電性樹脂組成物中の固形分含有量を10質量%~50質量%にすることで電極用導電性樹脂組成物の粘度が高まり、導電剤を解砕する力が高まることで、より高い導電剤分散効果が得られ易くなり、10質量%~20質量%にすることで電極用導電性樹脂組成物の流動性が高まり、電極用導電性樹脂組成物の経時安定性がより高まる。
【0042】
電極用導電性樹脂組成物中の分散剤と導電剤の質量比(分散剤の質量/導電剤の質量)は0.01~1であることが好ましく、0.01~0.5であることがより好ましく、0.01~0.1であることが最も好ましい。電極用導電性樹脂組成物中の分散剤と導電剤との質量比を0.01~1にすることで、分散剤中のグラフト共重合体が導電剤に吸着し、より高い分散効果が得られ易くなり、0.01~0.1にすることでより高い分散効果に加えて、過剰なグラフト共重合体が導電剤表面を被覆し電荷移動反応を妨害する効果を抑え、電池の高抵抗化が抑えられる。
【0043】
[電極組成物]
本実施形態に係る電極組成物は、電極用導電性樹脂組成物と活物質とを含有する。電極用導電性樹脂組成物の材料については、上記のとおりであるからここでは記載を省略する。電極用導電性樹脂組成物の含有量は、分散性と高出力の点で、電極組成物中、10質量%以上、又は20質量%以上とすることが好ましい。
【0044】
<活物質>
活物質は、体積抵抗率1×10Ω・cm以上のMnを含むリチウム含有複合酸化物またはリチウム含有ポリアニオン化合物であり、カチオンを可逆的に吸蔵放出可能な正極活物質のことである。例えば、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiMPO、LiMSiO、LiNiMn(2-X)、Li(MnNiCo)O、Li(AlNiCo)OまたはxLiMnO-(1-x)LiMOなどが挙げられる。
但し、LiNiMn(2-X)中のXは0<X<2という関係を満たし、Li(MnNiCo)O中又はLi(AlNiCo)O中のX、Y及びZは、X+Y+Z=1という関係を満たし、かつ0<X<1、0<Y<1、0<Z<1という関係を満たし、xLiMnO-(1-x)LiMO中のxは0<x<1という関係を満たし、さらにLiMPO中、LiMSiO中又はxLiMnO-(1-x)LiMO中のMは、Fe、Co、Ni、Mnから選ばれる元素の1種以上であることが好ましい。なお、上記におけるX,Y及びZは、いずれも自然数である。
【0045】
上記活物質の内、本発明で用いる活物質はレーザー光散乱法で測定した平均粒子径(D50)が20μm以下、好ましくは5μm以下であることが好ましい。このような構成にすることで、電極組成物の粘度の低減効果が十分に発現され、導電剤の分散性が向上した電極と高いサイクル特性を有するリチウムイオン電池が得られ易くなる。
【0046】
電極組成物の製造には公知の方法を用いることができる。例えば、電極用導電性樹脂組成物と活物質の溶媒分散溶液をボールミル、サンドミル、二軸混練機、自転公転式攪拌機、プラネタリーミキサー、ディスパーミキサー等により混合することで得られ、一般的には、スラリーにして用いられる。前記の電極用導電性樹脂組成物は、既述したものを用いれば良い。電極組成物の分散媒としては、水、N-メチルピロリドン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。高分子結着材としてポリフッ化ビニリデンを使用する際は、溶解性の点でN-メチルピロリドンが好ましく、スチレン-ブタジエン共重合体を使用する際は水が好ましい。また、製造した電極組成物スラリーは、塗膜に欠陥が生じないようにして平滑性を確保するため、塗工前の段階で真空脱泡を行うことが好ましい。電極組成物スラリー中に気泡が存在すると、電極に塗布した際に、塗膜に欠陥が生じ、平滑性を損なう原因となる。
【0047】
[電極]
本実施形態に係る電極は、金属箔上に、上記した電極組成物を含む層を有する。この電極は、上記の電極組成物スラリーをアルミニウム箔等の集電体上に塗布した後、加熱によりスラリーに含まれる溶剤を除去し、活物質が結着材を介して集電体表面に結着された多孔質体である電極合材層を形成する。さらに集電体と電極合材層とをロールプレス等により加圧して密着させることにより、目的とする電極を得ることができる。
【0048】
[リチウムイオン電池]
本実施形態に係るリチウムイオン電池は、電極を正極に用いたリチウムイオン電池である。リチウムイオン電池の作製方法には、特に制限は無く、従来公知の二次電池の作製方法を用いて行えば良いが、例えば、図1に模式的に示した構成で、以下の方法により作製することもできる。すなわち、前記の電極を用いた正極1にアルミ製タブ4を溶接し、負極2にニッケル製タブ5を溶接した後、各電極の間に絶縁層となるポリオレフィン製微多孔膜3を配し、正極1、負極2およびポリオレフィン製微多孔膜3の空隙部分に非水電解液が十分に染込むまで注液し、外装6で封止することで作製することができる。
【0049】
リチウムイオン電池の用途は、特に限定されないが、例えば、デジタルカメラ、ビデオカメラ、ポータブルオーディオプレイヤー、携帯液晶テレビ等の携帯AV機器、ノート型パソコン、スマートフォン、モバイルPC等の携帯情報端末、その他、携帯ゲーム機器、電動工具、電動式自転車、ハイブリット自動車、電気自動車、電力貯蔵システム等の幅広い分野において使用することができる。
【実施例
【0050】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、その趣旨を損なわない限り、以下に示す実施例に限定されるものではない。また実施例および比較例とも使用した部材は、吸着した水分を揮発させるために170℃で3時間真空乾燥を行った。
【0051】
<ポリビニルアルコール(PVA)の調製>
酢酸ビニル600質量部およびメタノール400質量部を仕込み、窒素ガスをバブリングして脱酸素したのち、重合開始剤としてビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート0.3質量部を仕込み、60℃で4時間重合させた。重合停止時の重合溶液の固形分濃度は48%であり、固形分から求めた酢酸ビニルの重合率は80%であった。得られた重合溶液にメタノール蒸気を吹き込んで、未反応の酢酸ビニルを除去したのち、ポリ酢酸ビニルの濃度が40質量%になるようにメタノールで希釈した。
希釈したポリ酢酸ビニル溶液1200質量部に、濃度10質量%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液20質量部を添加して、30℃で2時間鹸化反応を行った。
鹸化反応後の溶液を酢酸で中和し、濾過して100℃で2時間乾燥させてPVAを得た。得られたPVAの平均重合度は330、鹸化度は96.3モル%であった。
【0052】
<重合度および鹸化度>
PVAの平均重合度および鹸化度は、JIS K 6726に準ずる方法で測定した。
【0053】
<グラフト共重合体Aの合成>
得られたPVA1.65質量部を、ジメチルスルホキシド265.1質量部に添加し、60℃にて2時間撹拌して溶解させた。さらに、アクリロニトリル30.3質量部とジメチルスルホキシド3質量部に溶解させたペルオキソ二硫酸アンモニウム0.03質量部とを60℃にて添加し、60℃で撹拌しながらグラフト共重合させた。重合開始より4時間後、室温まで冷却し重合を停止させた。得られたグラフト共重合体Aを含む反応液297質量部をメタノール2970質量部中に滴下し、グラフト共重合体Aを析出させた。濾過してポリマーを分離して室温で2時間真空乾燥させ、更に80℃で2時間真空乾燥させた。得られたグラフト共重合体を含有する組成物の固形分は8.87質量部で、アクリロニトリルの重合率は前記固形分より前記式(3)を用いて計算すると23.8%であった。
得られたグラフト共重合体A中のPANの質量は全ポリマーの81.4質量%であり、グラフト率は438%、PANのホモポリマーの質量平均分子量は256200であった。なお、グラフト率は、上記した式(1)を用いて算出した。
【0054】
<組成比>
グラフト共重合体A中のポリビニルアルコール量及びポリアクリロニトリル量(組成比)を、アクリロニトリルの反応率(重合率)と重合に用いた各成分の仕込み量の組成から計算した。共重合時に生成したPANの質量%(グラフト共重合体中のPANの質量%)は、アクリロニトリルの重合率(%)、グラフト共重合に使用したアクリロニトリルの質量(仕込み量)、及びグラフト共重合に使用したPVAの質量(仕込み量)から、上記した式(2)を用いて算出した。グラフト共重合体A中のPVAとPANの質量比は18.6:81.4であった。なお、後記表中のポリビニルアルコール量及びポリアクリロニトリル量は、グラフト共重合体自体、並びにその共重合時に生成するPVAホモポリマー及びPANホモポリマーを含む樹脂分中の各質量である。
【0055】
<グラフト共重合体Bの合成>
グラフト共重合体Aにおけるビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート0.15質量部へ変更し、60℃で5時間重合した。重合率は80%であった。グラフト共重合体Aと同様に未反応の酢酸ビニルを除去したのち、ポリ酢酸ビニルの濃度が30質量%となるようにメタノールで希釈した。このポリ酢酸ビニル溶液2000質量部に濃度10質量%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を20質量部添加して、30℃で2.5時間鹸化反応を行った。
グラフト共重合体Aと同様にして中和、濾過、乾燥を行い、平均重合度1650、鹸化度95.5モル%のPVAを得た。
得られたPVAを用いてグラフト共重合体Aと同様にしてPANとのグラフト共重合を行い、グラフト共重合体Bを調製した。グラフト共重合体BのPVAとPANの質量比は19:81であった。この組成比については、グラフト共重合体Aと同様の方法により測定した。以下のグラフト共重合体C~Gも同様である。
【0056】
<グラフト共重合体Cの合成>
グラフト共重合体Aにおける酢酸ビニルを900質量部、重合開始剤ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート0.15質量部に変更し、60℃、5時間で重合させた。重合率は70%であった。ポリ酢酸ビニルの濃度が30質量%となるようにメタノールで希釈した。このポリ酢酸ビニル溶液2000質量部に濃度10質量%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を20質量部添加して、30℃で2.5時間鹸化反応を行った。グラフト共重合体Aと同様にして中和、濾過、乾燥を行い、平均重合度2940、鹸化度94.8モル%のPVAを得た。
得られたPVAを用いてグラフト共重合体Aと同様にしてPANとのグラフト共重合を行い、グラフト共重合体Cを調製した。得られたグラフト共重合体CのPVAとPANの質量比は21:79であった。
【0057】
<グラフト共重合体Dの合成>
グラフト共重合体Aにおけるポリ酢酸ビニル重合時の仕込みを酢酸ビニル500質量部、メタノール500質量部、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート0.3質量部とした以外はグラフト共重合体Aと同様の操作を行い、平均重合度290、鹸化度91モル%のPVAを得た。
得られたPVAを用いてグラフト共重合体Aと同様にしてPANとのグラフト共重合を行い、グラフト共重合体Dを調製した。グラフト共重合体Dの調製はグラフト共重合体AにおけるPVA質量部を3.2とした以外は、グラフト共重合体Aと同様にして行った。得られたグラフト共重合体DのPVAとPANの質量比は42:58であった。
【0058】
<グラフト共重合体Eの合成>
グラフト共重合体Aにおけるポリ酢酸ビニル重合時の仕込みを酢酸ビニル3000質量部、メタノール500質量部、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート0.15質量部、反応時間を12時間,鹸化時間を2時間とした以外はグラフト共重合体Aと同様の操作を行い、平均重合度3640、鹸化度93モル%のPVAを得た。
得られたPVAを用いてグラフト共重合体Aと同様にしてPANとのグラフト共重合を行い、グラフト共重合体Eを調製した。グラフト共重合体Eの調製はグラフト共重合体AにおけるPVA質量部を3.2とした以外は、グラフト共重合体Aと同様にして行った。得られたグラフト共重合体EのPVAとPANの質量比は45:55であった。
【0059】
<グラフト共重合体Fの合成>
グラフト共重合体Aにおけるポリ酢酸ビニル重合時の仕込みを酢酸ビニル1800質量部、反応時間を12時間,鹸化時間を0.5時間とした以外はグラフト共重合体Aと同様の操作を行い、平均重合度1710、鹸化度63モル%のPVAを得た。
得られたPVAを用いてグラフト共重合体Aと同様にしてPANの重合を行い、グラフト共重合体Fを調製した。グラフト共重合体Fの調製はグラフト共重合体AにおけるPVA質量部を6.5とした以外は、グラフト共重合体Aと同様にして行った。得られたグラフト共重合体FのPVAとPANの質量比は86:14であった。
【0060】
<グラフト共重合体Gの合成>
グラフト共重合体Aにおけるポリ酢酸ビニル重合時の仕込みを酢酸ビニル3000質量部、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート0.15質量部,反応時間を12時間,鹸化時間を2時間とした以外はグラフト共重合体Aと同様の操作を行い、平均重合度3380、鹸化度93モル%のPVAを得た。
得られたPVAを用いてグラフト共重合体Aと同様にしてPANの重合を行い、グラフト共重合体Gを調製した。グラフト共重合体Gの調製はグラフト共重合体AにおけるPVA質量部を3.7とした以外は、グラフト共重合体Aと同様にして行った。得られたグラフト共重合体GのPVAとPANの質量比は49:51であった。
【0061】
<グラフト共重合体Hの合成>
グラフト共重合体Aにおけるポリ酢酸ビニル重合時の仕込みを酢酸ビニル3000質量部、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート0.13質量部,反応時間を12時間,鹸化時間を2.5時間とした以外はグラフト共重合体Aと同様の操作を行い、平均重合度3350、鹸化度89モル%のPVAを得た。
得られたPVAを用いてグラフト共重合体Aと同様にしてPANの重合を行い、グラフト共重合体Hを調製した。グラフト共重合体Hの調製はグラフト共重合体AにおけるPVA質量部を2.3とした以外はグラフト共重合体Aと同様にして行った。得られたグラフト共重合体HのPVAとPANの質量比は39:61であった。
【0062】
<グラフト共重合体Iの合成>
グラフト共重合体Aにおけるポリ酢酸ビニル重合時の仕込みを酢酸ビニル2000質量部、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート0.15質量部,反応時間を12時間,鹸化時間を0.5時間とした以外はグラフト共重合体Aと同様の操作を行い、平均重合度1950、鹸化度75モル%のPVAを得た。
得られたPVAを用いてグラフト共重合体Aと同様にしてPANの重合を行い、グラフト共重合体Iを調製した。グラフト共重合体Iの調製はグラフト共重合体AにおけるPVA質量部を2.0とした以外はグラフト共重合体Aと同様にして行った。得られたグラフト共重合体HのPVAとPANの質量比は35:65であった。
実施例及び比較例に使用したグラフト共重合体の各特性を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
<実施例1>
(電極用導電性樹脂組成物の調製)
溶媒としてN-メチルピロリドン(関東化学株式会社製、以下、「NMP」と記載する。)、結着材としてポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製、「HSV900」、以下、「PVdF」と記載する。)、導電剤としてカーボンブラック(デンカ社製、「Li-435」、以下、「Li-435」と記載する。)、分散剤として前記グラフト共重合体Aをそれぞれ用意した。PVdFが固形分で47.6質量%、Li-435が固形分で47.6質量%、グラフト共重合体Aが固形分で4.76質量%(分散剤の質量/導電剤の質量=0.1)となるように秤量して混合し、この混合物に固形分含有量が15質量%になるようにNMPを添加し、自転公転式混合機(シンキー社製、あわとり練太郎ARV-310)を用いて、均一になるまで混合し電極用導電性樹脂組成物を得た。
【0065】
[分散性の評価(電極用導電性樹脂組成物中の粗粒)]
電極用導電性樹脂組成物の分散性をJIS K5600-2-5に記載される粒ゲージを用いた方法で粗粒を評価した。具体的には、スクレパーを用い、電極用導電性樹脂組成物を塗布し、試料面に10mm以上連続した線状痕が、一つの溝について3本以上並んだ箇所の目盛りを測定した。粒ゲージの数値が低い程、良好な分散性を意味する。本実施例の粒ゲージは、5μmであった。
【0066】
[分散性の評価(電極用導電性樹脂組成物の粘度)]
電極用導電性樹脂組成物の分散性をJIS K7244-10に記載される回転型レオメータを用いた方法で粘度を評価した。具体的には、回転型レオメータ(アントンパール社製、MCR300)を用いて、固形分含有量が15質量%の電極用導電性樹脂組成物1gをディスク上に塗布し、せん断速度を100s-1~0.01s-1まで変化させて測定を行い、せん断速度1s-1の粘度を評価した。粘度の数値が低い程、良好な分散性を意味する。本実施例の粘度は、5.8Pa・sであった。
【0067】
[耐酸化性の評価(酸化分解電流値)]
電極用導電性樹脂組成物をアルミ箔上に乾燥後の厚さが20μmとなるように塗工し、105℃で1時間乾燥させて試験片とした。
作用極に得られた試験片、対極及び参照極にリチウム、電解液にLiPFを電解質塩とするエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(=1/2(体積比))溶液(濃度1mol/L)を用いて3極セル(東洋システム株式会社製)を組み立てた。電気化学測定システム(ソーラトロン社製、ファンクションジェネレーター1260およびポテンショガルバノスタット1287)を用いてサイクリックボルタンメトリー(以下「CV」と略す。)を25℃で10mV/secの走査速度にて2.5V~5.0Vの範囲で行った。5.0V時の電流値を酸化分解電流値と定めた。酸化分解電流値が低い程、酸化分解しにくく耐酸化性が高いと判断される。本実施例の酸化分解電流値は、0.05mA/cmであった。
【0068】
(電極組成物の調製)
調製した電極用導電性樹脂組成物と活物質としてLiCoO(ユミコア社製、「KD20」、平均一次粒子径15μm)をそれぞれ用意した。LiCoOが固形分で98質量%、電極用導電性樹脂組成物が固形分で2質量%なるように秤量して混合し、この混合物に固形分含有量が72質量%になるようにNMPを添加し、自転公転式混合機(シンキー社製、あわとり練太郎ARV-310)を用いて、均一になるまで混合し電極組成物を得た。
【0069】
[分散性の評価(電極組成物の粘度)]
電極組成物の分散性をJIS K7244-10に記載される回転型レオメータを用いた方法で粘度を評価した。具体的には、回転型レオメータ(アントンパール社製、MCR300)を用いて、固形分含有量が72質量%の電極組成物1gをディスク上に塗布し、せん断速度を100s-1~0.01s-1まで変化させて測定を行い、せん断速度1s-1の粘度を評価した。粘度の数値が低い程、良好な分散性を意味する。本実施例の粘度は、12.5Pa・sであった。
【0070】
(電極の作製)
調製した電極組成物を、厚さ15μmのアルミニウム箔(UACJ社製)上に、アプリケータにて成膜し、乾燥機内に静置して105℃、一時間で予備乾燥させた。次に、ロールプレス機にて200kg/cmの線圧でプレスし、厚さ15μmのアルミニウム箔を含んだ膜の厚さが60μmになるように調製した。揮発成分を除去するため、170℃で3時間真空乾燥して電極を得た。図2に電極の走査型電子顕微鏡画像を示す。導電剤8が活物質7と均一に分布しており、高い分散性であった。
【0071】
[電極の極板抵抗評価]
作製した電極を直径14mmの円盤状に切り抜き、表裏をSUS304製平板電極によって挟んだ状態で、電気化学測定システム(ソーラトロン社製、ファンクションジェネレーター1260およびポテンショガルバノスタット1287)を用いて、振幅電圧10mV、周波数範囲1Hz~100kHzにて交流インピーダンスを測定した。得られた抵抗成分値に切り抜いた円盤状の面積を掛けた抵抗値を極板抵抗とした。本実施例の電極の極板抵抗は240Ω・cmであった。
【0072】
(負極の作製)
溶媒として純水(関東化学社製)、負極活物質として人造黒鉛(日立化成社製、「MAG-D」)、結着材としてスチレンブタジエンゴム(日本ゼオン社製、「BM-400B」、以下、「SBR」と記載する。)、分散剤としてカルボキシメチルセルロース(ダイセル社製、「D2200」、以下、「CMC」と記載する。)をそれぞれ用意した。次いで、CMCが固形分で1質量%、人造黒鉛が固形分で97質量%となるように秤量して混合し、この混合物に純水を添加し、自転公転式混合機(シンキー社製、あわとり練太郎ARV-310)を用いて、均一になるまで混合した。さらに、SBRが固形分で2質量%となるように秤量し、上記混合物に添加し、上記自転公転式混合機を用いて、均一になるまで混合し、非水系電池用負極スラリーを得た。次いで、非水系電池用負極スラリーを、厚さ10μmの銅箔(UACJ社製)上にアプリケータにて成膜し、乾燥機内に静置して60℃、一時間で予備乾燥させた。次に、ロールプレス機にて100kg/cmの線圧でプレスし、銅箔を含んだ膜の厚さが40μmになるように調製した。残留水分を完全に除去するため、120℃で3時間真空乾燥して負極を得た。
【0073】
(リチウムイオン電池の作製)
露点-50℃以下に制御したドライルーム内で、上記電極を40mm×40mmに加工し、負極を44mm×44mmに加工した後、電極合材塗工面が中央で対向するようにし、さらに電極間に45mm×45mmに加工したポリオレフィン微多孔質膜を配置した。次に70mm×140mm角に切断及び加工したアルミラミネートシートを、長辺の中央部で二つ折りにし、電極の集電用タブがラミネートシートの外部に露出するように配置して挟み込んだ。次にヒートシーラーを用いて、アルミラミネートシートの集電用タブが露出した辺を含む2辺を加熱融着した後、加熱融着していない一辺から、2gの電解液(キシダ化学製、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート=1/2(体積比)+1M LiPF溶液、以下、「電解液」と記載する。)を注液し、上記電極を用いた正極、負極およびポリオレフィン微多孔膜に十分に染み込ませてから、真空ヒートシーラーにより、電池の内部を減圧しながら、アルミラミネートシートの残り1辺を加熱融着してリチウムイオン電池を得た。
【0074】
(リチウムイオン電池の評価)
作製したリチウムイオン電池について、以下の方法により電池性能を評価した。
[放電レート特性(3C放電時の容量維持率)]
作製したリチウムイオン電池を、25℃において4.45V、0.2C制限の定電流定電圧充電をした後、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電した。次いで、放電電流を0.2C、0.5C、1C、2C、3Cと変化させ、各放電電流に対する放電容量を測定した。各測定における回復充電は4.45V、0.2C制限の定電流定電圧充電を行った。そして、0.2C放電時に対する3C放電時の容量維持率を計算した。本実施例のリチウムイオン電池の3C放電時の容量維持率は82.5%であった。
【0075】
[サイクル特性(サイクル後放電容量維持率)]
作製したリチウムイオン電池を、25℃において4.45V、1C制限の定電流定電圧充電をした後、1Cの定電流で3.0Vまで放電した。次いで、上記充放電を400サイクル繰り返し、放電容量を測定した。そして、1サイクル放電時に対する400サイクル放電時のサイクル後放電容量維持率を計算した。本実施例のリチウムイオン電池のサイクル後放電容量維持率は90%であった。
【0076】
<実施例2>
実施例1の分散剤を、グラフト共重合体Bへ変更した以外は、実施例1と同様な方法で電極用導電性樹脂組成物、電極組成物、電極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表2に示す。
【0077】
<実施例3>
実施例1の分散剤を、グラフト共重合体Cへ変更した以外は、実施例1と同様な方法で電極用導電性樹脂組成物、電極組成物、電極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表2に示す。
【0078】
<実施例4>
実施例1のPVdFが固形分で49.75質量%、Li-435が固形分で49.75質量%、グラフト共重合体Aが固形分で0.498質量%(分散剤の質量/導電剤の質量=0.01)となるように秤量して混合した以外は、実施例1と同様な方法で電極用導電性樹脂組成物、電極組成物、電極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表2に示す。
【0079】
<実施例5>
実施例1のPVdFが固形分で40.0質量%、Li-435が固形分で40.0質量%、グラフト共重合体Aが固形分で20.0質量%(分散剤の質量/導電剤の質量=0.5)となるように秤量して混合した以外は、実施例1と同様な方法で電極用導電性樹脂組成物、電極組成物、電極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表3に示す。
【0080】
<実施例6>
実施例1のPVdFが固形分で33.3質量%、Li-435が固形分で33.3質量%、グラフト共重合体Aが固形分で33.3質量%(分散剤の質量/導電剤の質量=1)となるように秤量して混合した以外は、実施例1と同様な方法で電極用導電性樹脂組成物、電極組成物、電極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表3に示す。
【0081】
<実施例7>
実施例1のPVdFが固形分で20.0質量%、Li-435が固形分で20.0質量%、グラフト共重合体Aが固形分で60.0質量%(分散剤の質量/導電剤の質量=3)となるように秤量して混合した以外は、実施例1と同様な方法で電極用導電性樹脂組成物、電極組成物、電極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表3に示す。
【0082】
<実施例8>
実施例1の導電剤をカーボンナノチューブ(シーナノ社製、Flotube9000、以下、「CNT」と記載する。)へ変更した以外は、実施例1と同様な方法で電極用導電性樹脂組成物、電極組成物、電極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表3に示す。
【0083】
<実施例9>
実施例1の導電剤をLi-435とCNTの併用し、Li-435が固形分で23.8質量%、CNTが固形分で23.8質量%となるように秤量して混合した以外は、実施例1と同様な方法で電極用導電性樹脂組成物、電極組成物、電極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表4に示す。
【0084】
<実施例10>
実施例1の導電剤をカーボンブラックLi-250(デンカ社製)へ変更した以外は、実施例1と同様な方法で電極用導電性樹脂組成物、電極組成物、電極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表4に示す。
【0085】
<実施例11>
実施例1の導電剤をケッチェンブラック(ライオンスペシャリティケミカルズ社製ECP)へ変更した以外は、実施例1と同様な方法で電極用導電性樹脂組成物、電極組成物、電極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表4に示す。
【0086】
<比較例1>
実施例1の分散剤を添加せずにPVdFが固形分で50.0質量%、Li-435が固形分で50.0質量%になるように秤量して混合した以外は、実施例1と同様な方法で電極用導電性樹脂組成物、電極組成物、電極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表4に示す。比較例1で用いた電極用導電性樹脂組成物を用いた場合、分散性に乏しく、粘度が高く、極板抵抗も高い値を示した。また、電池評価においても3C放電時の放電容量維持率が低い結果となった。
【0087】
<比較例2>
実施例1の分散剤をグラフト共重合体Dへ変更した以外は、実施例1と同様な方法で電極用導電性樹脂組成物、電極組成物、電極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表5に示す。比較例2で用いた電極用導電性樹脂組成物を用いた場合、分散性に乏しく、粘度が高く、極板抵抗も高い値を示した。また、電池評価においても3C放電時の放電容量維持率が低い結果となった。
【0088】
<比較例3>
実施例1の分散剤をグラフト共重合体Eへ変更した以外は、実施例1と同様な方法で電極用導電性樹脂組成物、電極組成物、電極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表5に示す。比較例3で用いた電極用導電性樹脂組成物を用いた場合、分散性に乏しく、粘度が高く、極板抵抗も高い値を示した。また、電池評価においても3C放電時の放電容量維持率が低い結果となった。
【0089】
<比較例4>
実施例1の分散剤をグラフト共重合体Fへ変更した以外は、実施例1と同様な方法で電極用導電性樹脂組成物、電極組成物、電極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表5に示す。比較例4で用いた電極用導電性樹脂組成物を用いた場合、分散性に乏しく、粘度が高く、極板抵抗も高い値を示した。また、電池評価においても3C放電時の放電容量維持率が低い結果となった。
【0090】
<比較例5>
実施例1の分散剤をグラフト共重合体Gへ変更した以外は、実施例1と同様な方法で電極用導電性樹脂組成物、電極組成物、電極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表5に示す。比較例5で用いた電極用導電性樹脂組成物を用いた場合、分散性に乏しく、粘度が高く、極板抵抗も高い値を示した。また、電池評価においても3C放電時の放電容量維持率が低い結果となった。
【0091】
<比較例6>
実施例1の分散剤をポリビニルアルコール(関東化学社製、Mw16,000、製品番号18330)へ変更した以外は、実施例1と同様な方法で電極用導電性樹脂組成物、電極組成物、電極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表6に示す。比較例6で用いた電極用導電性樹脂組成物を用いた場合、分散性は向上するが高い酸化分解電流値を示した。
【0092】
<比較例7>
実施例1の分散剤をポリアクリロニトリル(シグマアルドリッチ社製、Mw150,000、製品番号181315)へ変更した以外は、実施例1と同様な方法で電極用導電性樹脂組成物、電極組成物、電極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表6に示す。比較例7で用いた電極用導電性樹脂組成物を用いた場合、分散性に乏しく、粘度が高く、極板抵抗も高い値を示した。また、電池評価においても3C放電時の放電容量維持率が低い結果となった。
【0093】
<比較例8>
実施例1の分散剤をポリビニルアルコール(関東化学社製、Mw16,000、製品番号18330)とポリアクリロニトリル(シグマアルドリッチ社製、Mw150,000、製品番号181315)の併用へ変更した以外は、実施例1と同様な方法で電極用導電性樹脂組成物、電極組成物、電極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表6に示す。比較例8で用いた電極用導電性樹脂組成物を用いた場合、分散性に乏しく、粘度が高く、高い酸化分解電流値を示し、極板抵抗も高い値を示した。また、電池評価においても3C放電時の放電容量維持率が低い結果となった。
【0094】
<比較例9>
実施例1の分散剤をポリビニルピロリドン(第一工業製薬社製、K-90)へ変更した以外は、実施例1と同様な方法で電極用導電性樹脂組成物、電極組成物、電極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表6に示す。比較例9で用いた電極用導電性樹脂組成物を用いた場合、分散性は向上するが高い酸化分解電流値を示した。
【0095】
<比較例10>
実施例1の分散剤をポリオキシエチレンアルキルエーテル(ライオン社製、レオコールTD-50)へ変更した以外は、実施例1と同様な方法で電極用導電性樹脂組成物、電極組成物、電極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表7に示す。比較例10で用いた電極用導電性樹脂組成物を用いた場合、分散性は向上するが高い酸化分解電流値を示した。
【0096】
<比較例11>
実施例1の分散剤をポリビニルピロリドン(第一工業製薬社製)とポリオキシエチレンアルキルエーテル(ライオン社製)の併用へ変更した以外は、実施例1と同様な方法で電極用導電性樹脂組成物、電極組成物、電極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表7に示す。比較例11で用いた電極用導電性樹脂組成物を用いた場合、分散性は向上するが高い酸化分解電流値を示した。
【0097】
<比較例12>
実施例1の結着材を添加せずにグラフト共重合体Aが固形分で50.0質量%(分散剤の質量/導電剤の質量=1)、Li-435が固形分で50.0質量%になるように秤量して混合した以外は、実施例1と同様な方法で電極用導電性樹脂組成物、電極組成物、電極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表7に示す。比較例12で用いた電極用導電性樹脂組成物を用いた場合、分散性の向上及び低い酸化分解電流値を示したが、極板抵抗が高く、電池評価においても3C放電時の放電容量維持率が低い結果となった。
【0098】
<比較例13>
実施例1の分散剤をグラフト共重合体Hへ変更した以外は、実施例1と同様な方法で電極用導電性樹脂組成物、電極組成物、電極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表7に示す。比較例13で用いた電極用導電性樹脂組成物を用いた場合、分散性に乏しく、粘度が高く、極板抵抗も高い値を示した。また、電池評価においても3C放電時の放電容量維持率が低い結果となった。
【0099】
<比較例14>
実施例1の分散剤をグラフト共重合体Iへ変更した以外は、実施例1と同様な方法で電極用導電性樹脂組成物、電極組成物、電極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表7に示す。比較例14で用いた電極用導電性樹脂組成物を用いた場合、分散性に乏しく、粘度が高く、極板抵抗も高い値を示した。また、電池評価においても3C放電時の放電容量維持率が低い結果となった。
【表2】

【0100】
【表3】

【0101】
【表4】

【0102】
【表5】

【0103】
【表6】

【0104】
【表7】
【0105】
実施例1~11の電極用導電性樹脂組成物は、比較例1~14の電極用導電性樹脂組成物に比べて分散性と耐酸化性を両立できることが明らかになった。これにより本発明の実施例の電極組成物は粘度が低く、電極組成物を用いた電極は極板抵抗が低いため放電時の電圧降下を抑えられることが分かった。
【0106】
さらに、実施例1~11のリチウムイオン電池は、比較例1~14のリチウムイオン電池に比べて放電レート特性が高く、サイクル特性も高いことが明らかになった。これにより本発明の電極用導電性樹脂組成物を用いたリチウムイオン電池は放電電流の増加に伴う出力低下を抑えられ、高い寿命も兼ね備えていることが分かった。
【符号の説明】
【0107】
1 リチウムイオン電池正極
2 リチウムイオン電池負極
3 ポリオレフィン製微多孔膜
4 アルミ製タブ
5 ニッケル製タブ
6 外装
7 活物質
8 導電剤
図1
図2