(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】遺伝子治療用の改良された複合型二重組換えAAVベクターシステム
(51)【国際特許分類】
C12N 15/864 20060101AFI20220117BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220117BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220117BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20220117BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220117BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N5/10 ZNA
A61K48/00
A61K35/12
A61K35/76
A61P27/02
(21)【出願番号】P 2018533804
(86)(22)【出願日】2016-12-21
(86)【国際出願番号】 EP2016082149
(87)【国際公開番号】W WO2017108931
(87)【国際公開日】2017-06-29
【審査請求日】2019-12-06
(32)【優先日】2015-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(73)【特許権者】
【識別番号】507421289
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ナント
(73)【特許権者】
【識別番号】518220604
【氏名又は名称】サントル・オスピタリエ・ウニヴェルシテール・ドゥ・ナント
(73)【特許権者】
【識別番号】515011944
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ・ドゥ・モンペリエ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヴァジリキ・カラツィス
(72)【発明者】
【氏名】アシル・フランソワ
【審査官】佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-516424(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0003218(US,A1)
【文献】特表2018-512125(JP,A)
【文献】IVANA TRAPANI,IMPROVED DUAL AAV VECTORS WITH REDUCED EXPRESSION OF TRUNCATED PROTEINS ARE SAFE AND EFFECTIVE IN THE RETINA OF A MOUSE MODEL OF STARGARDT DISEASE,HUMAN MOLECULAR GENETICS,英国,2015年09月29日,VOL:24, NR:23,PAGE(S):6811 - 6825,http://dx.doi.org/10.1093/hmg/ddv386
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A61K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
宿主細胞における目的遺伝子のコーディング配列の発現に適す
る複合型二重構築物システム
であって、以下:
a)5'-3'の方向に向かって、以下を含む第1のポリヌクレオチド:
- 5'逆向き末端反復(5'-ITR)配列、
- ヒトロドプシンキナーゼ(RK)のプロモーター配列、
- 前記コーディング配列の5'末端部分であって、前記プロモーターに作動可能に連結され前記プロモーターの制御下にある
、5'末端部分、
- スプライシングドナー(SD)シグナルの核酸配列(配列番号1)を含む合成イントロンの配列の5'末端部分、
- アルカリホスファターゼ(AP)から派生したか又はこれに由来する組換え誘導(recombinogenic)領域の核酸配列、並びに
- 3'逆向き末端反復(3'-ITR)配列、
並びに
b)5'-3'の方向に向かって、以下を含む第2のポリヌクレオチド:
- 5'逆向き末端反復(5'-ITR)配列、
- アルカリホスファターゼ(AP)から派生したか又はこれに由来する組換え誘
導領域の核酸配列、
- 分岐部位、ポリピリミジントラクト及びスプライシングアクセプター(SA)シグナル(配列番号2)を含む合成イントロンの配列の3'末端部分、
- 前記コーディング配列の3'末端、
- ポリアデニル化(pA)シグナル核酸配列、並びに
- 3'逆向き末端反復(3'-ITR)配列
を含み、
前記組換え誘導領域のAPが、配列番号3の配列、又は配列番号6の派生コドン改変(mAP)配列を有し、前記コーディング配列が、ABCA4遺伝子である、
複合型二重構築物システム。
【請求項2】
ITRのヌクレオチド配列が、同じAAV血清型から、又は異なるAAV血清型から派生したものである、請求項
1に記載の複合型二重構築物システム。
【請求項3】
第1のプラスミドの3'-ITR及び第2のプラスミドの5'-ITRが、同じAAV血清型に由来する、請求項1
又は2に記載の複合型二重構築物システム。
【請求項4】
第1のプラスミドの5'-ITR及び3'-ITR、並びに第2のプラスミドの5'-ITR及び3'-ITRが、それぞれ異なるAAV血清型に由来する、請求項1
又は2に記載の複合型二重構築物システム。
【請求項5】
第1のプラスミド
の5'-ITR、及び第2のプラスミドの3'-ITRが、異なるAAV血清型に由来する、請求項1
又は2に記載の複合型二重構築物システム。
【請求項6】
前記コーディング配列が、遺伝性の網膜変性を修正することが可能なタンパク質をコードするヌクレオチド配列である、請求項1から
5のいずれか一項に記載の複合型二重構築物システム。
【請求項7】
前記コーディング配列が、遺伝病を修正することが可能なタンパク質をコードするヌクレオチド配列である、請求項1から
5のいずれか一項に記載の複合型二重構築物システム。
【請求項8】
前記コーディング配列の5'末端部分が、配列番号7(エクソン1~21)の配列を有し、前記コーディング配列の3'末端が、配列番号8(エクソン22~50)の配列を有する、請求項
1に記載の複合型二重構築物システム。
【請求項9】
前記第1のポリヌクレオチドが、配列番号10(RK-5'ABCA4-SD-AP)の配列を含み、前記第2のポリヌクレオチドが、配列番号11(AP-SA-3'ABCA4-pA)の配列を含む、請求項1に記載の複合型二重構築物システム。
【請求項10】
宿主細胞における目的遺伝子のコーディング配列の発現に適す
る複合型二重rAAV(hdrAAV)ベクターシステム
であって、以下:
a)5'-3'の方向に向かって、以下を含む第1のポリヌクレオチドを含む第1のrAAVベクター:
- 5'逆向き末端反復(5'-ITR)配列、
- ヒトロドプシンキナーゼ(RK)のプロモーター配列、
- 前記コーディング配列の5'末端部分であって、前記プロモーターに作動可能に連結され前記プロモーターの制御下にある
、5'末端部分、
- スプライシングドナー(SD)シグナルの核酸配列(配列番号1)を含む合成イントロンの配列の5'末端部分、
- アルカリホスファターゼ(AP)から派生したか又はこれに由来する組換え誘導(recombinogenic)領域の核酸配列、並びに
- 3'逆向き末端反復(3'-ITR)配列、
並びに
b)5'-3'の方向に向かって、以下を含む第2のポリヌクレオチドを含む第2のrAAVベクター:
- 5'逆向き末端反復(5'-ITR)配列、
- アルカリホスファターゼ(AP)から派生したか又はこれに由来する組換え誘
導領域の核酸配列、
- 分岐部位及びポリピリミジントラクト及びスプライシングアクセプター(SA)シグナルの核酸配列(配列番号2)を含む合成イントロンの配列の3'末端部分、
- 前記コーディング配列の3'末端、
- ポリアデニル化シグナル核酸配列、並びに
- 3'逆向き末端反復(3'-ITR)配列
を含み、
前記組換え誘導領域のAPが、配列番号3の配列、又は配列番号6の派生コドン改変(mAP)配列を有し、前記コーディング配列が、ABCA4遺伝子である、
複合型二重rAAV(hdrAAV)ベクターシステム。
【請求項11】
前記組換えAAVベクターが、血清型2、血清型4、血清型5及び血清型8から選択される、請求項
10に記載のhdrAAVベクターシステム。
【請求項12】
前記第1のrAAVベクターが、配列番号13(AAV-RK-5'ABCA4-mAPベクター)の配列を含み、前記第2のrAAVベクターが、配列番号14(AAV-mAP-SA-3'ABCA4-pAベクター)の配列を含む、請求項
10に記載のhdrAAVベクターシステム。
【請求項13】
請求項1から
9のいずれか一項に記載の複合型二重構築物システム又は請求項
10から
12のいずれか一項に記載のhdrAAVベクターシステムを、形質導入、形質転換又はトランスフェクションされた宿主細胞。
【請求項14】
請求項
10から
12のいずれか一項に記載のhdrAAVベクターシステム又は請求項
13に記載の宿主細胞と、薬理学的に許容されるビヒクルとを含む医薬組成物。
【請求項15】
薬物としての使用のための、請求項
10から
12のいずれか一項に記載のhdrAAVベクターシステム又は請求項
13に記載の宿主細胞を含む医薬組成物。
【請求項16】
それを必要とする被験体における網膜変性を特徴とする病理又は疾患の治療及び/又は予防のための、請求項
15に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に5Kb超の遺伝子による有効な遺伝子治療を可能にする構築物、ベクター、関連する宿主細胞及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、ヒト及び幾つかの他の霊長類の種に感染する小型ウイルスである。AAVにより媒介される遺伝子治療は、動物モデルにおいて、また遺伝性の視覚障害性の症状を有する患者において、効果的である一方、網膜に影響を及ぼし、5kb(大型遺伝子と呼ばれる)より大きい遺伝子の転送を必要としている疾患へのその適用は、AAVの限られた輸送能力により阻害される。これを克服するため、大型遺伝子のトランスダクションに対応する各種のAAVベースのストラテジー、AAVオーバーサイズ(OZ)ベクター、並びに例えば二重AAVオーバーラップ(OV)、AAVトランススプライシング(TS)及びAAVハイブリッド(組換え誘導配列のAP又はAKを有する)ベクターシステム等の二重AAVストラテジーが開発されている。
【0003】
特に、眼性疾患の遺伝子治療用のAAV二重ハイブリッドベクターシステムは、国際公開第2013/075008号パンフレット及び国際公開第2014/170480号パンフレットに記載されている。意外なことに、前記インビトロ及びインビボで示される結果が、前記国際公開第2014/170480号パンフレットにおいて、示されており、そこでは、前記AAV二重ハイブリッドAKが、驚くべきことに、前記二重AAVハイブリッドAPを上回り、発明者が試験した全ての二重AAVストラテジー(前記二重AAVハイブリッドAPを除く)が、トランスダクションのレベルにおいて、AAV OZベクターを上回っている。実際、導入遺伝子の発現を定量したところ、前記二重AAV複合型APアプローチでは、導入遺伝子の発現レベルが最低レベルとなる一方、前記二重AAV OV、TS及び複合型AKアプローチでは前記AAV OZアプローチより効果的であることが示された。
【0004】
二重複合型AKアプローチは、このように、光受容体(PR)及び網膜色素上皮(RPE)において、効果的に大型遺伝子の再構成を促進する。二重複合型AKベクターの投与は、STGD及びUSH1Bマウスモデルの網膜における表現型を改善することから、PR並びにRPEに対する大型遺伝子の導入を必要とするこれらの及び他の視覚障害性の症状の遺伝子治療に対して、これらのストラテジーが有効であることを裏付けるものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2013/075008号パンフレット
【文献】国際公開第2014/170480号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、有効な遺伝子治療を可能にする構築物、ベクター、関連する宿主細胞及び医薬組成物に関する。本発明は、具体的には特許請求の範囲により定義される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、前記組換え誘導領域APを含む新規な二重構築物が、二重AAVハイブリッドAPにおいて、生じる前記課題を解決するという予想外の発見に基づくものであり、そこでは、かかる二量体構築物が網膜細胞における全長の転写物の最適な発現、それに続く、複合型二重AAVベクターシステムにより生じる組換え誘導/転写/スプライシングプロセスをもたらす。
【0008】
したがって、発明者らは、前記改良された二重AAVハイブリッドAPシステムに基づく、網膜細胞における全長ABCA4 mRNAの産生の顕著な改善を観察しており、当該システムは、以下の一対の核酸配列から構成されるこの新規に設計された二重構築物を含むものである:
(a)以下を含む第1の核酸配列:
- スプライシングドナー(SD)シグナルの核酸配列(配列番号1)を含む合成イントロンの核酸配列の5'末端部分、及び
- 組換え誘導(recombinogenic)領域の核酸配列、並びに、
(b)以下を含む第2の核酸配列:
- 組換え誘導領域の核酸配列、及び
- 分岐部位及びポリピリミジントラクト及びスプライシングアクセプター(SA)シグナル(配列番号2)の核酸配列を含む合成イントロンの核酸配列の3'末端部分。
【0009】
定義:
本明細書の全体にわたり、幾つかの用語が使用され、また以下の段落の通り定義される。
【0010】
本明細書において、「アデノ随伴ウイルス」(AAV)という用語は、ヒト及び幾つかの他の霊長類種に感染する小型の、複製不能な、非エンベロープウイルスを指す。AAVは、疾患を引き起こすことが知られていないが、非常に軽度の免疫応答を惹起する。AAVを利用した遺伝子治療ベクターは、分裂細胞及び静止細胞のいずれにも感染することができ、宿主細胞のゲノムに統合されず、染色体外で維持されうる。これらの特徴により、AAVは、遺伝子治療のための魅力的なウイルスベクターとなる。現在までに、AAVの12の認識された血清型(AAV1~12)が存在する。
【0011】
本明細書中で用いる「ベクター」という用語は、その複製及び/又は宿主細胞への取り込むベクター能力を損なわずに外来核酸の挿入を可能にする核酸分子を指す。ベクターは、宿主細胞における複製を可能にする核酸配列(例えば複製開始点)を含んでもよい。ベクターは、1つ以上の選抜可能マーカー遺伝子及び他の遺伝的因子を含んでもよい。発現ベクターは、必要な調節配列を含み、挿入された1つ以上の遺伝子の転写及び翻訳を可能にするベクターである。
【0012】
本明細書において、「組換えAAVベクター」(rAAVベクター)という用語は、前記遺伝子に有害な変異を有する患者における網膜細胞の形質転換のための機能的遺伝子(すなわち目的のポリヌクレオチド)をコードする核酸配列を保持するAAVベクターを指す。前記rAAVベクターは、アデノ随伴ウイルスの5'及び3'逆向き末端反復(ITR)を含み、前記目的のポリヌクレオチドが、目標細胞における、本発明の前後関係では好ましくは、又は具体的には網膜細胞(光受容体(PR)及び網膜色素上皮(RPE))におけるその発現を制御する配列と作動可能に連結されている。
【0013】
本明細書中で用いる「逆向き末端反復(ITR)」という用語は、効率的な複製及びカプシド形成のために必要とされるアデノ随伴ウイルスのゲノム中における対称形の核酸配列を指す。ITR配列はAAV DNAゲノムの各末端に存在する。前記ITRは、ウイルスDNA合成のための複製開始点として機能し、AAVベクターの生成のための必須のシスコンポーネントである。
【0014】
本明細書中で用いる「複合型二重rAAV(hdrAAV)ベクターシステム」という用語は、全長タンパク質の発現のための要素を提供し、そのコーディング配列が個々のrAAVベクターのポリヌクレオチドのパッケージング能力を超える、特定のrAAVベースの二重ベクターシステムを指す。実際、rAAVベクターの遺伝子含量は、約5kbのDNAに限られることが解っている。組換えAAVの前記パッケージング能力を2倍にする汎用プラットフォームとして、かかるhdrAAVベクターシステムが開発されている。このシステムにおいて、その発現カセットは、2つの独立したAAVベクターに分けられる。組換え誘導性の高い架橋DNA配列は両方のベクターに含まれ、前記分けられたベクターゲノム間の、標的遺伝子から独立した相同組換えを媒介する。かかるhdrAAVベクターシステムは、前記国際公開第2013/075008号パンフレット及び国際公開第2014/170480号パンフレットに記載されている。
【0015】
「コーディング配列」は、適切な調節配列の制御下に置かれるときに(DNAの場合)転写され、(mRNAの場合)インビボでポリペチドに翻訳される核酸分子である。コーディング配列の境界は、5'(アミノ)末端の開始コドン及び3'(カルボキシル)末端の翻訳終止コドンにより画定される。転写終結配列は通常、コーディング配列に対して3'方向に位置しうる。したがって、前記ベクターは、前記コードされたタンパク質の発現及び分泌を可能にする、例えばプロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、内部リボソーム導入部位(IRES)、タンパク質トランスダクションドメイン(PTD)をコードする配列等の調節配列を含む。この場合、前記ベクターは、作動可能に前記目的のポリヌクレオチド配列と連結されたプロモーター領域を含み、それにより感染した細胞における前記タンパク質の発現が生じ、又は改善される。かかるプロモーターは、ユビキタスであっても、組織特異的であっても、強力でも、弱くとも、制御可能であっても、キメラであっても、誘導可能であっても、その他のものであってもよく、それにより、前記感染細胞における前記タンパク質の効率的及び適切な(好適な)発現が可能となる。本発明で用いる好適なプロモーターは、網膜細胞(例えば光受容細胞及び網膜色素上皮(RPE)細胞)において、機能的でなければならない。
【0016】
第1の核酸配列は、当該第1の核酸配列が第2の核酸配列と機能的関係を有する形で配置されるとき、当該第2の核酸配列に「作動可能に連結される」という。例えば、プロモーターがコーディング配列の転写又は発現に影響を及ぼす場合、当該プロモーターはコーディング配列に作動可能に連結している。通常、作動可能に連結するDNAの塩基配列は隣接しており、必要な場合、同じ読み枠において、2つのタンパク質コード領域が連結する。
【0017】
本明細書中で用いる「コドンを最適化された」という用語は、特定の系(例えば特定の種又は種群)における発現のために最適となるように当該コドンが変更された核酸配列を指す。例えば、核酸配列は、哺乳動物細胞における、又は、特定の哺乳類の種(例えばヒト細胞)における発現のために最適化されうる。コドン最適化は、コードされたタンパク質のアミノ酸配列を変更させない。
【0018】
本明細書中で用いる「イントロン」という用語は、通常、タンパク質のコーディングに関する情報を含まない、遺伝子内のDNAの区域を指す。RNAスプライシングと呼ばれる方法によって、イントロンはメッセンジャーRNAの翻訳前に除去される。このように、スプライセオソームのイントロンは通常、真核生物のタンパク質のコーディング遺伝子の配列中に存在する。前記イントロン中には、ドナー部位(前記イントロンの5'末端)、分岐部位(前記イントロンの前記3'末端付近)及びアクセプター部位(前記イントロンの3'末端)が、スプライシングのために必要となる。スプライスドナー部位は、より長く、より保存性の低い領域内のイントロンの5'末端に、ほぼ不変のGU配列を含む。イントロンの3'末端のスプライスアクセプター部位は、ほぼ不変のAG配列により前記イントロンを終了させる。前記AGから上流域(5'側部分)は、高いピリミジン類(C及びU)含量の領域であるか、又はポリピリミジントラクトである。前記ポリピリミジントラクトの上流は分岐部位であり、それはアデニンヌクレオチドを含む。
【0019】
本明細書で用いられる「合成された」という用語は、人工的手段により産生されることを意図するものであり、例えば、合成核酸は、実験室において、化学的又は酵素的に合成できる。
【0020】
本発明の二重構築物:
第1の態様において、本発明は、以下の一対の核酸配列から構成される二重構築物に関する:
(a)以下を含む第1の核酸配列:
- スプライシングドナー(SD)シグナルの核酸配列(配列番号1)を含む合成イントロンの核酸配列の5'末端部分、及び
- 組換え誘導領域の核酸配列、並びに、
(b)以下を含む第2の核酸配列:
- 組換え誘導領域の核酸配列、及び
- 分岐部位及びポリピリミジントラクト及びスプライシングアクセプター(SA)シグナルの核酸配列(配列番号2)を含む合成イントロンの核酸配列の3'末端部分。
【0021】
本発明の一実施形態では、前記組換え誘導領域は、アルカリホスファターゼ(AP)から、若しくはバクテリオファージF1(AK)から派生したか若しくは由来するポリヌクレオチド配列、又はミニサテライトDNA若しくはMHC遺伝子組換えホットスポットから派生したか若しくは由来する配列等の相同組換えホットスポットとして公知の他のポリヌクレオチド配列である。
【0022】
本発明の具体的実施形態では、前記組換え誘導領域APは、配列番号3の配列、又はその断片(配列番号4=頭部1/3又は配列番号5=尾部1/3)、又は、更に好ましくは、両DNA鎖上の全てのATGコドン(但し1つを除く)が除去された、派生コドン改変(mAP)配列(配列番号6)を有する。
【0023】
本発明にかかる複合型二重構築物システム:
第2の態様において、本発明は、宿主細胞における目的遺伝子のコーディング配列の発現に適する、以下を含む複合型二重構築物システムに関する:
a)5'-3'の方向に向かって、以下を含む第1のポリヌクレオチド:
- 5'逆向き末端反復(5'-ITR)配列、
- プロモーター配列、
- 前記コーディング配列の5'末端部分であって、前記プロモーターに作動可能に連結されその制御下にある5'末端部、
- スプライシングドナー(SD)シグナルの核酸配列(配列番号1)を含む合成イントロンの配列の5'末端部分、
- 組換え誘導領域の核酸配列、及び
- 3'逆向き末端反復(3'-ITR)配列、
並びに、
b) 5'-3'の方向に向かって、以下を含む第2のポリヌクレオチド:
- 5'逆向き末端反復(5'-ITR)配列、
- 組換え誘導領域の核酸配列、
- 分岐部位、ポリピリミジントラクト及びスプライシングアクセプター(SA)シグナル(配列番号2)を含む合成イントロンの配列の3'末端部分、
- 前記コーディング配列の3'末端、
- ポリアデニル化(pA)シグナル核酸配列、及び
- 3'逆向き末端反復(3'-ITR)配列。
【0024】
宿主細胞への前記第1のポリヌクレオチド及び前記第2のポリヌクレオチドの導入の後、(1)両方のポリヌクレオチド間の遺伝子組換えにより単一のDNA分子が形成され、(2)転写が行われ、(3)スプライシングドナー(SD)及びスプライシングアクセプター(SA)シグナル間のスプライシングが行われることにより、前記コーディング配列が再構成される。
【0025】
本発明の一実施形態では、前記コーディング配列は、遺伝性の網膜変性を修正することが可能なタンパク質をコードしているヌクレオチド配列である。
【0026】
目的遺伝子は、遺伝子の転写を促進するプロモーターと共に逆向き末端反復(ITR)間に挿入され、一本鎖のベクターDNAが宿主細胞のDNAポリメラーゼ複合体によって、二本鎖DNAに変換された後、核におけるコンカテマー形成を補助する。AAVベースの遺伝子治療ベクターは、宿主の核において、エピソームコンカテマー構造単位を形成する。非分裂細胞において、これらのコンカテマーは、宿主細胞の寿命が尽きるまで維持される。エピソームのDNAは宿主細胞のDNAと共に複製されないため、分裂細胞において、AAV DNAは、細胞分裂により失われる。
【0027】
一実施形態では、ITRのヌクレオチド配列は、同じAAV血清型に、又は異なるAAV血清型から派生したものである。
【0028】
一実施形態では、第1のプラスミドの3'-ITR及び第2のプラスミドの5'-ITRは、同じAAV血清型に由来する。
【0029】
一実施形態では、第1のプラスミドの5'-ITR及び3'-ITR、並びに第2のプラスミドの5'-ITR及び3'-ITRは、それぞれ異なるAAV血清型に由来する。
【0030】
一実施形態では、第1のプラスミドの5'-ITR及び第2のプラスミドの3'-ITRは、異なるAAV血清型に由来する。
【0031】
好ましくは、コーディング配列は、遺伝病、具体的には遺伝性の網膜変性を修正することが可能なタンパク質をコードするヌクレオチド配列である。更に好ましくは、コーディング配列は、ABCA4、MY07A、CEP290、CDH23、EYS、USH2A、GPR98及びALMS1遺伝子からなる群から選択される。本発明の具体的実施形態では、目的の遺伝子のコーディング配列は、ABCA4遺伝子の配列である。
【0032】
本発明では、コーディング配列は、天然のエクソン-エクソン接合部において、第1及び第2の断片(5'末端部分及び3'末端部)に分割される。
【0033】
好ましくは、コーディング配列の各断片は、5.2kbのサイズを超えてはならない。好ましくは、各5'末端部及び3'末端部は、2.5Kb、3.0Kb、3.5Kb、4.5Kb、5Kb、又はより小さいサイズを有しうる。
【0034】
したがって、本発明の具体的実施形態では、ABCA4遺伝子のコーディング配列の5'末端部分は、配列番号7の配列(エクソン1~21)を有し、前記ABCA4遺伝子のコーディング配列の3'末端は、配列番号8の配列(エクソン22~50)を有する。
【0035】
本発明の一実施形態では、プロモーター配列は、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター又はヒトロドプシンキナーゼ(RK)プロモーターである(またGRK1(G結合受容体キナーゼ1)又はRHOKとも称される)。
【0036】
本発明の望ましい実施形態では、第1のポリヌクレオチドが、配列番号9(CMV-5'ABCA4-SD-AP)又は配列番号10(RK-5'ABCA4-SD-AP)の配列を含み、第2のポリヌクレオチドが、配列番号11(AP-SA-3'ABCA4-pA)の配列を含む。
【0037】
本発明による複合型二重rAAVベクターシステム:
第3の態様において、本発明は、宿主細胞における目的遺伝子のコーディング配列の発現に適する、以下を含む複合型二重rAAV(hdrAAV)ベクターシステムに関する:
a)5'-3'の方向に向かって、以下を含む第1のポリヌクレオチドを含む第1のrAAVベクター:
- 5'逆向き末端反復(5'-ITR)配列、
- プロモーター配列、
- 前記コーディング配列の5'末端部分であって、前記プロモーターに作動可能に連結されその制御下にある5'末端部、
- スプライシングドナー(SD)シグナルの核酸配列(配列番号1)を含む合成イントロンの配列の5'末端部分、
- 組換え誘導領域の核酸配列、及び
- 3'逆向き末端反復(3'-ITR)配列、
並びに、
b)5'-3'の方向に向かって、以下を含む第2のポリヌクレオチドを含む第2のrAAVベクター:
- 5'逆向き末端反復(5'-ITR)配列、
- 組換え誘導領域の核酸配列、
- 分岐部位及びポリピリミジントラクトを含む合成イントロンの配列の3'末端部分(配列番号2)、
- スプライシングアクセプター(SA)シグナルの核酸配列、
- 前記コーディング配列の3'末端、
- ポリアデニル化(pA)シグナル核酸配列、及び
- 3'逆向き末端反復(3'-ITR)配列。
【0038】
本発明の一実施形態では、組換えAAVベクターは、血清型2、血清型4、血清型5及び血清型8から選択される。
【0039】
本発明の望ましい実施形態では、第1のrAAVベクターが、配列番号12(AAV-CMV-5'ABCA4-SD-mAPベクター)又は配列番号13(AAV-RK-5'ABCA4-mAPベクター)の配列を含み、第2のrAAVベクターが、配列番号14(AAV-mAP-SA-3'ABCA4-pAベクター)の配列を含む。
【0040】
前記AAVゲノムは一本鎖デオキシリボ核酸(ssDNA)から形成され、ポジティブセンス又はネガティブセンスであってもよく、約4.7キロベース長である。前記ゲノムはDNA鎖の両端の逆向き末端反復(ITR)と2つのオープンリーディングフレーム(ORF):rep及びcapとを有する。前者は、AAVのライフサイクルの間必要とされるRepタンパク質をコードする4つのオーバーラッピング遺伝子から構成され、後者は、カプシドタンパク質のオーバーラッピングヌクレオチド配列:VP1、VP2及びVP3を含み、それらは共に相互作用し、正二十面体の対称形のカプシドを形成する。逆向き末端反復(ITR)配列は、各々145塩基を含む。それらは左右対称のためそのように名づけられ、それはAAVゲノムの効率的な複製に必要であることが示されていた。これらの配列の別の性質は、ヘアピンを形成する能力であり、それにより、第2のDNA鎖のプライマーゼから独立した合成を可能にするいわゆるセルフプライミングに貢献する。ITRは、AAV DNAの宿主細胞ゲノム(ヒトにおける第19染色体)への取り込み、及びそこからのレスキュー、並びに、完全にアセンブルされたDNA分解酵素耐性AAV粒子の生成と組み合わされたAAV DNAの効率的なカプシド形成、の両方に、必要とされることも示されている。遺伝子治療に関して、ITRは、シス型において、治療用遺伝子の次に必要とされる唯一の配列と考えられ、構造(cap)及びパッケージング(rep)遺伝子は、プロデューサー細胞内ではベクターアセンブリにおいて、トランス型において、輸送されうる。
【0041】
rAAV2/5ベクター等のrAAVベクターは、公知の方法を用いて、後述のように産生される。簡潔に述べると、前記方法は一般的には、宿主細胞に以下を導入することを含む:(a)rAAVベクター、(b)前記rAAVベクターからウイルスのrep及びcap遺伝子を欠失させた、AAVをトランスで補完(trans-complementing)する構築物、及び(c)ヘルパーウイルス由来のAAVヘルパー機能を含むヘルパー構築物。AAVカプシドアセンブリ、rAAV DNA複製及びパッケージングの機能は全て、前記rAAVベクターの複製及びrAAVビリオンへのパッケージングを行うために存在しなければならない。前記宿主細胞への前記導入は、標準的な生物学的技術を用いて、同時に、又は順次行ってもよい。最後に、前記宿主細胞を培養してrAAVビリオンを産生させ、次にそれを標準的な技術、例えば塩化セシウム勾配、又はイオン交換クロマトグラフィー等の高度な技術等、様々な方法を用いて精製する。次に、精製されたrAAVビリオンを前記方法への使用に供する。
【0042】
本発明による宿主細胞:
本明細書における「宿主細胞又は遺伝子組換え宿主細胞」という用語は、前記構築物によって、又は前記ベクターを、形質導入され、形質転換され、又はトランスフェクションされた宿主細胞を関する。適切な宿主細胞の代表例として、細菌細胞(例えば大腸菌、ストレプトマイセス属菌、チフス菌(Salmonella typhimurium)、酵母等の菌類の細胞、Sf9等の昆虫細胞、動物細胞(例えばCHO又はCOS)、植物細胞等が挙げられる。適切な宿主の選択は、本明細書の教示から、当業者の技量の範囲内であると考えられる。好ましくは、前記宿主細胞は動物細胞、最も好ましくはヒト細胞である。本発明は更に、本明細書に記載されるいずれかの組換え発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。前記宿主細胞は培養細胞又は初代細胞、すなわち生物(例えばヒト)から直接に単離された細胞でありうる。前記宿主細胞は、付着型の細胞又は懸濁型の細胞(すなわち懸濁液中で増殖する細胞)でありうる。適切な宿主細胞は、従来技術において、公知であり、例えば、大腸菌DH5α細胞、チャイニーズハムスター卵細胞(CHO)、サルVERO細胞及びCOS細胞、ヒトHEK293及びHeLa細胞等が挙げられる。
【0043】
本発明による医薬組成物:
本発明の第4の態様は、本発明による前記複合型二重構築物システム、本発明による前記複合型二重ウイルスベクターシステム、又は本発明による前記宿主細胞と、薬理学的に許容されるビヒクルとを含む医薬組成物に関する。
【0044】
前記医薬組成物は、ヒト用、又は動物用であってもよい。典型的には、医師が個々の被験体に最も適する実際の投与量を決定し、それは特定の個体の年齢、体重及び反応に応じて変化する。
【0045】
好ましくは、前記で詳述した目的の導入遺伝子を含む前記rAAVベクターを、好ましくは従来法によって、汚染に関して評価し、次に、網膜下注入を目的とする医薬組成物中に製剤化する。かかる製剤は、薬理学的に及び/又は生理的に許容できるビヒクル又は担体、特に網膜下注入等の眼内への投与に適する、例えば生理緩衝食塩水又は他の緩衝液(例えばHEPES)等を使用してpHを適切な生理的レベルに維持し、また、任意に他の薬剤、医薬製剤、安定化剤、緩衝剤、担体、アジュバント、希釈剤等を使用してもよい。注入の際、前記担体は典型的には液体である。典型的な生理的に許容できる担体としては、滅菌済のパイロジェンフリーの水、及び滅菌済みのパイロジェンフリーのリン酸緩衝生理食塩水が挙げられる。前記担体又は他の材料の実際の性質は、投与経路(すなわち本発明では網膜下注入)に応じて、当業者が決定できる。かかる材料は無毒性でなければならず、有効成分(すなわち本発明の前記rAAVベクター)の有効性を妨げてはならない。
【0046】
本発明による治療方法:
本発明の第5の態様は、薬物としての、好ましくは遺伝子治療における使用のための、更に好ましくは網膜変性を特徴とする病理又は疾患の治療及び/又は予防方法における使用のための、本発明の複合型二重構築物システム、本発明の複合型二重ウイルスベクターシステム又は本発明の宿主細胞に関する。
【0047】
したがって、本発明は、それを必要とする被験体における網膜変性を特徴とする病理又は疾患の治療及び/又は予防方法であって、治療的有効量の本発明の複合型二重構築物システム、本発明の複合型二重ウイルスベクターシステム又は本発明の宿主細胞を、それを必要とする当該被験体に投与する工程を含む予防方法に関する。
【0048】
好ましくは、前記網膜変性は遺伝性である。更に好ましくは、前記病理又は疾患は、色素性網膜炎(RP)、レーバー先天性黒内障(LCA)、Stargardt疾患、アシャー症候群、Alstrom症候群、ABCA4遺伝子における変異によって、生じる疾患(ABCA4関連疾患とも称する)、からなる群から選択される。Stargardt疾患、3型錐体桿体ジストロフィー、黄色斑眼底、2型加齢関連黄斑部変性、若年性の重度の網膜ジストロフィー及び19型色素性網膜炎は、ABCA4遺伝子における変異によって、生じる疾患の例である(ABCA4関連疾患)。
【0049】
第7の態様は、患者の網膜変性を特徴とする病理又は疾患の治療及び/又は予防方法であって、それを必要とする患者に、有効量の、本明細書に記載の複合型二重構築物システム、本明細書に記載の複合型二重ウイルスベクターシステム又は本明細書に記載の宿主細胞を投与することを含む予防方法に関する。
【0050】
本明細書において、「患者」という用語は、ヒトを意図するものである。典型的には、前記患者は、網膜色素上皮(RPE)細胞又は前記光受容体細胞に影響を及ぼす遺伝性網膜変性障害に罹患したか、又は罹患しやすい患者である。例えば、当該患者は、LCA又はStargardt疾患であると診断された、前記治療方法の候補患者が挙げられる。最初にLeberにより1869年に記載されたように、LCAは、他の網膜ジストロフィーとは異なり、先天性失明に関与する常染色体劣性疾患である。レーバー先天性黒内障(LCA)(MIM 204000)は、主に幼少期から視覚機能の重篤な、又は完全な喪失を特徴とし、視覚刺激への反応、眼振及び眼球運動の不能を伴う。罹患者では、網膜電図が消失しており、最終的には色素性網膜炎等の眼底の異常を呈する。LCAは、10以上の遺伝子における変異によって、生じうる、重篤な小児期発症失明病である。最も変異頻度の高い遺伝子の1つは、CEP290である。
【0051】
Stargardt疾患(別名、黄色斑眼底)は、最も一般的な遺伝性の若年性黄斑部変性である。それは周辺(側方)視野が保存される一方での、中心視野の低減を特徴とする。Stargardt疾患は、常染色体劣性障害としてほとんど常に遺伝する。Stargardt疾患に関与する遺伝子は、ABCRタンパク質をコードするABCA4遺伝子と同定されている。ABCRは「ATP結合カセット輸送レチナール」を意味する。ABCRタンパク質は、視覚サイクルにおいて、重要な役割を演ずる。すなわち、光受容細胞のディスクルーメンへ放出されるオールトランスレチナールは、ホスファチジルエタノールアミン(PE)と反応してN-レチニリデン-PEとなるが、それがABCRの機能によって、サイトゾル中にその後輸送される。このように、ABCRは、視覚サイクルにおける網膜輸送の速度キーパーである。ABCR機能が損なわれた場合、N-レチニリデン-PEは前記ディスクルーメンに蓄積する。前記ディスクが網膜色素上皮(RPE)細胞により食作用を受けると、過剰なN-レチニリデン-PEが、リポフスチンの主成分であるN-レチニルイジン-N-レチニルエタノールアミン(A2-E)に変換される。リポフスチンの蓄積により、RPE細胞はアポトーシスに至る。このようにABCR遺伝子における変異は、その輸送機能を発揮できない機能不全のタンパク質を産生させる。その結果、視細胞は退化し、視野消失が生じる。常染色体劣性Stargardt疾患の全例の10%を占める最も一般的な変異は、G1961E、G863A、[Δ]G863及びA1038Vである。
【0052】
本発明の特定の実施形態では、非侵襲性網膜イメージング及び機能性試験を行い、治療の標的とする保持された光受容体領域を同定することが望ましい。これらの実施形態では、臨床診断試験を行い、1回以上の網膜下注入のための正確な部位を決定する。これらの試験としては、網膜電図(ERG)、視野測定、コンフォーカルスキャニングレーザー検眼鏡検査(eSLO)及び光学的干渉断層法(OCT)による網膜層のトポロジカルマッピング及びその層厚の測定、適応制御光学(AO)による錐体密度のトポロジカルマッピング、機能的眼検査等が挙げられる。
【0053】
前記イメージング及び機能性試験に鑑み、更に後述するように、各注入液の量及びウイルスタイターを個々に決定するが、それは同じ目又は反対側の目に実施しようとする他の注入液と同一でも異なってもよい。
【0054】
「有効量」とは、処置しようとする疾患を予防し、治療し、又は遅延させることができるrAAVベクターの濃度を確保するのに十分な量を意味する。かかる濃度は、当業者によりルーチン的に決定されうる。実際に投与されるrAAV組成物の量は典型的には、治療しようとする疾患、選択された投与経路、年齢、体重及び患者の反応、患者の症状の重篤度等の関連する状況に鑑み、医師により決定される。当業者であれば、前記投与量が投与されるrAAVベクターの安定性に依存しうることを認識するであろう。
【0055】
一実施形態では、rAAVベクターの体積及び濃度は、光受容体等、損傷を受けた網膜細胞の領域のみが作用を受ける態様で選択される。別の実施形態では、rAAVベクターの体積及び/又は濃度を高くし、損傷を受けない光受容体を含む目の大部分に到達させる。
【0056】
前記医薬組成物は、治療しようとする領域のサイズ、ウイルスタイター及び前記方法の目的の効果に応じて、約50μLから約1mL(当該範囲内の全ての数値を含む)の体積で輸送しうる。一実施形態では、前記量は約50μLである。別の実施形態では、前記量は約100μLである。別の実施形態では、前記量は約150μLである。また別の実施形態において、前記量は約200μLである。別の実施形態では、前記量は約250μLである。別の実施形態では、前記量は約300μLである。別の実施形態では、前記量は約400μLである。の実施形態では、前記量は約450μLである。別の実施形態では、前記量は約500μLである。別の実施形態では、前記量は約600μLである。別の実施形態では、前記量は約750μLである。別の実施形態では、前記量は約800μLである。別の実施形態では、前記量は約900μLである。また別の実施形態において、前記量は約1000μLである。
【0057】
ベクターの用量は、前記疾患の状態、患者、治療計画等に応じて調整できる。本発明の前後関係における好適な有効量は、光受容体及び/又はRPE細胞の最適なトランスダクションを可能にする用量である。典型的には、108~1010のウイルスゲノム(vg)がマウスへの投与当たりで投与される。典型的には、ヒトにおいて、投与されるAAVベクターの用量は、1010~1012vgの範囲でありうる。
【0058】
したがって、目的の導入遺伝子をコードする核酸配列を保持する組換えアデノ随伴ウイルスの有効濃度は、望ましくは1mLあたり約108~1014のベクターゲノム(vg/mL)の範囲で変動する。好ましくは、前記濃度は約1×109vg/mL~約1×1013vg/mL、より好ましくは、約1×1011vg/mL~約1×1012vg/mLである。一実施形態では、有効濃度は約5×1011vg/mLである。
【0059】
本発明は、以下の図及び実施例で更に例示される。しかしながら、これらの実施例及び図は、いかなる態様であれ、本発明の範囲を限定するものとして解釈されてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1】ABCA4遺伝子導入のための、5'及び3'複合型二重AAVベクターゲノムの概略図である。
【
図2】インビトロにおけるABCA4発現のための対照プラスミドの概略図である。
【
図3】PCRによるインビトロにおけるAAV-5'ABCA4及びAAV-3'ABCA4ベクターでの遺伝子組換えの検出を示す図である。(A)APにより媒介される遺伝子組換え産物、及び対照プラスミドpCMV-5'ABCA4-mAP-3'ABCA4-pA(上図)、並びに対照プラスミドpCMV-5'ABCA4-3'ABCA4-pA(下図)について予想されるDNA配列及びPCRアンプリコンの概略図である。矢印はPCR用のRTfor及びRTrevプライマーを表し、また予想されるPCR産物のサイズも示す。(B)プラスミドのトランスフェクション又はAAV2/5による感染後のCOS7細胞における、PCRによるABCA4の5'/3'接合部の検出を示す。
【
図4】RT-PCRによるインビトロにおけるABCA4 mRNAの検出を示す図である。(A)DNA、及びスプライシングされていないRNA(上図)、及びスプライシングされたpolyA+mRNA(下図)の、予想される配列の概略図である。PCRプライマーを矢印により示し、予想されるPCR製品を、それらのサイズと共に示す。(B)プラスミドのトランスフェクション又はAAV2/5感染後のHEK293細胞における、RT-PCRによるABCA4mRNA発現の検出を示す。
【
図5】プラスミドのトランスフェクション又はAAV2/5感染(+/-Ad5)後の、HeLa細胞上の免疫蛍光染色によるABCA4タンパク質発現の検出を示す図である。
【
図6】C57/BL6マウスにおける筋肉内注射後の、PCRによる二重ABCA4ベクターDNAの検出を示す図である。(A)二重AAVのAP及び対照プラスミドpCMV-5'ABCA4-mAP-3'ABCA4-pAにより媒介される遺伝子組換え産物の予想されるDNA配列及びPCRアンプリコンの概略図を示し、矢印はPCRプライマーを表し、また予想されるPCR産物のサイズも示す。(B)二重AAV5-ABCA4ベクターで注射された(又は注射されない)マウスの筋肉から得られたPCR結果を示す。サンプルは、以下の通りである:(C)PBSを注射された対照マウス、(A1及びA2)二重AAV5-ABCA4ベクターを注射されたマウス、(-又は+)注射を受けていない又は注射を受けた筋肉、(P)pCMV-5'ABCA4-mAP-3'ABCA4プラスミドDNA、及び(N)鋳型のない対照。
【
図7】C57/BL6マウスにおける二重AAV5-ABCA4ベクターの筋肉内注射後のRT-PCRによるABCA4mRNAの検出を示す図である。(A)DNA及びスプライシングされていないRNA(上図)及びスプライシングされたpolyA+mRNA(下図)の予想される配列の概略図である。PCRプライマーを矢印により示し、予想されるPCR産物を、それらのサイズと共に示す。(B)二重AAV5-ABCA4ベクターで注射された(又は注射されない)マウスの筋肉から得られたRT-PCR結果を示す。サンプルは、以下の通りである:マウスA1非注射(1)及び二重AAV筋肉注射(2及び3)、マウスA2非注射(4)及び二重AAV筋肉内注射(5及び6)、マウスC筋肉に非注射(7)、pCMV-5'ABCA4-mAP-3'ABCA4プラスミドDNA(8)、及び鋳型のない対照(9)。筋肉RNAサンプルを、PCR前にM-MLV RTによって、逆転写した(+)、又はしなかった(-)。
【
図8】C57/BL6マウスにおける二重AAV5 ABCA4ベクターの筋肉内注射後の筋肉凍結切片の、免疫蛍光法染色によるABCA4タンパク質発現の検出を示す図である。細胞核は灰色で表され、ABCA4タンパク質は白色で表される(白色の矢印はABCA4陽性筋繊維)。
【
図9】2つの独立の実験における、注射後のAbca4
-/-マウスの目のRT-qPCR解析による、ヒトのABCA4の転写物の検出を示す図である。A)二重AAV2/5 ABCA4ベクターの注射後5週において、ABCA4転写物が、注射後のAbca4
-/-マウスの神経網膜において、検出された(72Inj、99Inj)。転写物は、対照Abca4
+/-(69+/)及び注射を受けていないAbca4
-/-マウス(71NI)の神経網膜においては検出されなかった。B)二重AAV2/5 ABCA4ベクターの注射後4週において、ABCA4転写物は、注射後のAbca4
-/-マウスの神経網膜において、検出された(Inj 242、Inj 211)。転写物は、対照Abca4
+/+(WT 227)及び注射を受けていないAbca4
-/-マウス(KO 231)の神経網膜においては検出されなかった。非トランスフェクション(NT)細胞と比較し、前記qPCR反応の陽性対照として用いた、プラスミドpCMV-5'ABCA4-3'ABCA4-pA(COS ABCA4)をトランスフェクションしたCos細胞において、ABCA4転写物が検出された。
【
図10】異なるベクターの組合せを用い、注射後のAbca4
-/-マウスの目のRT-qPCR解析による、ヒトABCA4の転写物の検出を示す図である。二重AAV2/5 ABCA4ベクターの注射後7週において、注射後のAbca4
-/-マウス(Inj 728-781-786-814)の神経網膜において、ヒトABCA4の転写物が検出された。マウス728及び781には、CMV-5'ABCA4-mAPベクター及びmAP-3'ABCA4ベクターを注射した。マウス786及び814には、RK-5'ABCA4-mAPベクター及びmAP-3'ABCA4ベクターを注射した。対照Abca4
+/+(WT 742)及び注射を受けていないAbca4
-/-マウス(KO 737)の神経網膜において、転写物は検出されなかった。
【
図11】異なるベクターの組合せを用いて注射したラットの目のRT-qPCR解析による、ヒトABCA4の転写物の検出を示す図である。ベクターの注入の8週後、二重AAV2/5 ABCA4ベクターを注射したラットの神経網膜において、ヒトABCA4の転写物が検出された。ラットC1及びC2には、RK-5'ABCA4-mAPベクター及びmAP-3'ABCA4ベクターを注射した。ラットD1及びD2には、CMV-5'ABCA4-mAPベクター及びmAP-3'ABCA4ベクターを注射した。RK-5'ABCA4-mAP(A1及びA2)、又はmAP-3'ABCA4(B1及びB2)ベクター単独を注射したラット、並びに注射を受けていないラット(NI)の神経網膜において、転写物は検出されなかった。
【実施例】
【0061】
材料及び方法:
プラスミドの構築:スプリットABCA4のコーディング配列(Genbank NM_000350.2)、イントロン配列、APから派生した組換え誘導配列及び短いポリアデニル化配列を、公表された配列に基づきin silicoにおいて、設計した。設計された配列を含むDNAを、遺伝子合成によって、得た。
【0062】
AAVベクター構築の際、適切な制限エンドヌクレアーゼを用いた標準的なクローニングにより、これらの配列をカナマイシン耐性AAV-2プラスミドバックボーン(pSSV9Kana)に組み込んだ。ベクター中のITRに挟まれたゲノムの状態を、以下に、及び
図1に記載する。
【0063】
AAV-5'ABCA4ベクターの構造の際、pcDNA3.1(Invitrogen社)由来のヒトサイトメガロウイルス(CMV)初期エンハンサー/プロモーター、又は、ヒトロドプシンキナーゼ(RK)核プロモーター(Khaniら、IOVS 2007)を、コンセンサスKozak配列、ヒトABCA4コーディング配列のエクソン1~21、pCI-Neo(Promega社)のキメライントロン由来のスプライスドナー配列(SD)、及び、Ghosh et al. (Mol Ther 2008)に記載のものに対応する、ヒトアルカリホスファターゼ(AP)から派生した配列を含む断片の上流にクローニングした。但し、両方のDNA鎖上の全てのATGコドン(1つを除く)を除去した。全ベクターゲノム長(ITRからITRまで)は、CMVプロモーターを有する場合は5166 bp、又はRKプロモーターを有する場合は4745 bpであった。
【0064】
AAV-3'ABCA4ベクターの構築の際、前記5'ベクターと同じ、APから派生した配列を、分岐部位、ポリピリミジントラクト及びpCI-Neoキメライントロン(Promega社)由来のスプライスアクセプター配列、ヒトABCA4コーディング配列のエクソン22~50、及びpCI-Neo(Promega社)由来の合成ポリアデニル化シグナルの上流にクローニングした。全ベクターゲノム長(ITRからITRまで)は5024 bpであった。
【0065】
本発明で設計されたABCA4発現系の機能をインビトロで試験するため、pBlueScriptプラスミドバックボーンの2つの対照プラスミドを構築した(
図2)。
【0066】
プラスミドpCMV-5'ABCA4-mAP-3'ABAC4は、前記5'及び3'ベクター間の相同組換えにより再構成されなければならない発現カセットを含み、すなわち、APから派生した組換え誘導配列を含むキメライントロンによって、ABCA4コーディング配列の5'及び3'部分が仕切られている。前記AP配列が前記イントロンから削除されたことを除き、プラスミドpCMV-5'ABCA4-3'ABCA4は同じ発現カセットを含む。
【0067】
AAVベクターの産生:HEK293細胞(Grimm et al., 2003)の二重トランスフェクションによって、AAV2/5ベクターの産生を行った。使用したヘルパープラスミドは、pDP5-Kana、すなわちpDP5rs(Grimm et al., 2003)の派生体であり、アンピシリン耐性がカナマイシン耐性に置き換えられ、DsRed発現カセットが削除されている。CellStack-5培養チャンバーで増殖させた細胞に、各AAVベクタープラスミド(pSSV9Kana-CMV-5'ABAC4-mAP、pSSV9Kana-RK-5'ABAC4-mAP又はpSSV9Kana-mAP-3'ABCA4-pA)と共にヘルパープラスミドpDP5-Kanaをコトランスフェクションし、AAV粒子を、トランスフェクション後96時間目において、細胞及び培養液上清の両方から回収した。前記上清からのAAVをPEG-8000によって、沈殿させ、ベクター粒子を、前述したように2ラウンドの塩化セシウム勾配超遠心分離(Ayuso et al., Gene Ther 2010)により精製した。
【0068】
完全なAAV粒子、すなわちカプシド形成されたベクターゲノム(vg)を、ドットブロットハイブリダイゼーションによって、定量し、感染性のAAV粒子を、前述したようにHeRC32細胞上の感染中心アッセイ(ICA)によって、定量した(Salvettiら、Hum Gene Ther 1998)。ドットブロット及びICAの両方に使用するプローブは、プライマーhPLAP326sens及びhPLAP785anti、並びに鋳型DNAとしてのpCMV-5'ABCA4-mAP-3'ABCA4プラスミドを用いてPCR Fluorescein Labelling Mix(Roche社)によって、生成させた。ハイブリダイゼーションの後、CDP-Star ready-to-use labelling kit (Roche社)を使用して検出を行った。
【0069】
インビトロにおけるABCA4遺伝子導入:10%のウシ胎児血清(HyClone社)を添加した、2mMのL-グルタミン及び4.5g/Lのグルコース(Sigma-Aldrich社)を含むダルベッコの改良Eagle培地(DMEM)中でHEK293、HeLa及びCOS-7細胞を維持した。5型アデノウイルスの有無において、AAV2/5ベクターを含む、2%のウシ胎児血清を添加したDMEM中において、AAVへの感染症を実施した。プラスミドのトランスフェクションは、リン酸カルシウム沈殿法により実施した。
【0070】
PCR及びRT-PCR解析の際、感染又はトランスフェクションの後48時間(アデノウイルス有り)又は72時間(アデノウイルスなし)において、細胞を回収し、1×PBSにおいて、洗浄した。PCRの際、全DNAを、NucleoSpin Bloodキット(Macherey-Nagel社)を使用して抽出した。RT-PCRの際、全RNAを、Trizol試薬(Life Technologies社)を使用して抽出した。オリゴ(dT)プライマーを用い、ポリアデニル化されたmRNAをM-MLV逆転写酵素(Life Technologies社)によりcDNAに逆転写した。プライマーABCA4-RTfor及びABCA4-RTrev(
図3A及び
図4A)を用い、GoTaq DNAポリメラーゼにより、PCR増幅を全DNA又は相補DNAに対して実施した。
【0071】
免疫蛍光染色の際、2%のパラホルムアルデヒドを含むPBSにおいて、感染又はトランスフェクションの72時間後に細胞を固定し、PBS(0.2%のトリトンX-100)中に浸漬した。次に細胞を抗ABCA4マウスモノクローナル抗体3F4(Santa Cruz社)、次にマウス抗AlexaFluor-488抗体(Life Technologies社)とインキュベートした。スライドを最後にProlong Gold antifade reagent(Life Technologies社)と共に装着し、Nikon Eclipse 90i顕微鏡で観察した。
【0072】
インビボにおけるマウス筋肉へのABCA4遺伝子導入:骨格筋へのABCA4遺伝子導入の際、AAV2/5-CMV-5'ABCA4-mAP及びAAV2/5-mAP3'ABCA4ベクターのそれぞれ8.4×1011vg/mLの混合物を、2匹の8週齢のC57/BL6マウス(A1及びA2)の前脛骨筋に注射した。2本の脚には~30μLのベクター混合物を注射し、すなわち注射された筋肉あたり~2.5×1010vg(全量~5.0×1010vg/筋肉)のベクターを各々注射した。1匹の対照マウス(C)には、同じ方法で緩衝液(DPBS)単独を注射した。注射後1ヵ月において、全3匹のマウスを安楽死させ、注射された、及び注射を受けていない筋肉の解析に供した。
【0073】
PCR解析の際、TissueLyser II装置(Qiagen社)及びGentra Puregene試薬(Qiagen社)を使用し、筋肉サンプルから全DNAを抽出した。プライマーABCA4-F1及び-R1、ABCA4-4088s及び-4497as、並びにABCA4-RTfor及び-RTrevを用い、GoTaq DNAポリメラーゼ(Promega社)によりPCRを実施し、ABCA4の5'及び3'末端、並びに5'ABCA4及び3'ABCA4ベクター間の接合部を検出した(
図6A)。
【0074】
RT-PCR解析の際、TissueLyser II装置(Qiagen)及びTrizol試薬(Life Technologies社)を使用し、筋肉から全RNAを抽出し、ポリアデニル化されたmRNAを、オリゴ(dT)プライマーを用い、M-MLV逆転写酵素(Life Technologies社)により相補DNAに逆転写した(又はされなかった)。プライマーABCA4-5P及び-RTrev(又はABCA4-RTfor及び-3P)を用い、KOD Xtrem DNAポリメラーゼ(Novagen社)によりPCRを実施し、2つの重複する断片として全長ABCA4mRNAを増幅した(
図7A)。
【0075】
免疫蛍光顕微鏡解析の際、筋肉凍結切片を室温で10分間、4%のパラホルムアルデヒドで固定し、0.2%のトリトンX-100に浸漬し、30分間ブロッキング緩衝液(20%のヤギ血清)中でインキュベートした。次にそれらを抗ABCA4マウス単クローン抗体3F4(Santa Cruz社)、次にマウス抗AlexaFluor-488抗体(Life Technologies社)と共に一晩インキュベートした。次に、切片をDRAQ5(Biostatus社)と共にインキュベートして核を対比染色し、共焦鏡顕微鏡観察により画像を取得した。染色された筋肉切片をProlong Gold antifade reagent(Life Technologies社)を用いて装着し、Nikon Eclipse TE-2000共焦点顕微鏡で観察した。
【0076】
マウス網膜へのABCA4遺伝子導入:Abca4遺伝子のエクソン1をLacZ/neoカセットと置き換えて得たABCA4-/-マウスを、Lexicon Pharmaceuticals社から購入した。全ての動物の育種及び実験は、「実験動物の飼育及び使用に関する欧州及び国家ガイドライン(European and National guidelines for the care and use of laboratory animals)」(Council Directive 86/6009/EEC)に準拠し行った。網膜下注射の際、8週齢のマウスに、70mg/kgのケタミン及び28mg/kgのキシラジンにより麻酔をかけ、1滴の0.5%トロピカミド(Mydiatricum、Thea社)によって、瞳孔を拡張させた。角膜を1滴のLacryvisc(Alcon社)及びカバーグラスで覆った。外科用顕微鏡下で、1.4~2.8×109vgのAAV2/5-CMV-5'ABCA4-mAPと、1.2~2.4×109vgのAAV2/5-mAP-3'ABCA4ベクターの混合物、又は、1.5~5×109vgのAAV2/5-RK-5'ABCA4-mAP及び5×109のAAV2/5-mAP-3'ABCA4ベクターの混合物を、2μLの総容積において、Abca4-/-マウスの眼内への網膜下注射により投与した。
【0077】
RT-qPCR解析の際、神経網膜を解剖し、瞬間凍結させ、RNeasy Miniキット(Qiagen社)によりRNAを単離し、製造業者の取り扱い説明に従いSuperScript III Reverse Transcriptase(Invitrogen社)によりcDNA合成を行った。定量的PCR解析は、AmpliTaq Gold(登録商標)360 Master Mix(Applied Biosystems社)及びLightCycler(登録商標)480 SYBR Green I Master(Roche)を用いたqPCR解析を用いて実施した。
【0078】
インビボにおけるラット網膜へのABCA4遺伝子導入:スピローグドーリーCDラットをCharles River社から購入し、前記実験動物の飼育及び使用に関するガイドラインに従い取り扱った。網膜下注射の際、3月齢のラットに、50mg/kgのケタミン及び6mg/kgのキシラジンにより麻酔をかけ、1滴のオキシブプロカインクロリドレート(1.6mg/0.4mL)により追加の局所麻酔を行った。1滴の0.5%のトロピカミド(Mydiatricum、Thea社)によって、瞳孔を拡張させ、外科用顕微鏡の下で網膜下注射を実施し、眼底試験に供した。注射された目を最後に、Sterdex抗炎症軟膏で覆った。動物に対し、3.7×109vgのAAV2/5-RK-5'ABCA4-mAPベクター単独、3.7×109vgのAAV2/5mAP3'ABCA4ベクター単独、1.85×109vgのAAV2/5-RK-5'ABCA4-mAP及び1.85×109vgAAV2/5-mAP3'ABCA4ベクターの混合物、又は、1.85×109vgのAAV2/5-CMV-5'ABCA4-mAP及び1.85×109vgのAAV2/5mAP3'ABCA4ベクターの混合物で、5μLの総体積において、注射した。
【0079】
RT-qPCR解析の際、神経網膜を解剖し、瞬間凍結し、NucleoSpin RNAキット(Macherey-Nagel社)によりRNAを単離し、製造業者の取り扱い説明に従いM-MLV Reverse Transcriptase(Invitrogen社)によりcDNA合成を実施した。SYBR qPCR Premix Ex Taq(Takara Bio社)を用いて定量的PCR解析を実施した。
【0080】
結果:
二重AAV2/5-ABCA4ベクターの効果的な産生:本発明の二重ベクター、AAV2/5-CMV-5'ABCA4-mAP及びAAV2/5-mAP3'ABCA4の産生は、前記ベクターゲノムのかなりのサイズにもかかわらず効果的であり、それは、AAVの最大のパッケージング能力付近、すなわち約5.1~5.2kbであった(Wuら、Mol Ther 2010)。データ(Table 1(表1))から、適正な産生レベル(CellStack-5培養チャンバー当たり約1013vg)を示し、全体(vg)に対する感染性粒子の比率(ベクターの品質の指標)は、標準的な正規のサイズのAAV2/5ベクターのそれに等しかった。
【0081】
【0082】
インビトロにおける二重AAV2/5-ABCA4ベクターによる感染によりABCA4遺伝子導入がなされる:COS-7細胞から抽出したDNAのPCR解析によって、(
図3)、AAV2/5-CMV-5'ABCA4-mAP及びAAV2/5m-AP3'ABCA4ベクター(レーン9及び10)による共感染の後、又は、直鎖状ベクタープラスミド(レーン6)とのコトランスフェクションの後、1.3kbのPCR産物の存在で示されるように、5'及び3'ABCA4配列間の接合部が検出され、前記ベクター間でのAPにより媒介される分子間遺伝子組換え、及び完全なABCA4発現カセットの細胞内再構成が示唆された。この結果は、例えばHEK293等の他の細胞株においても確認された。HEK293細胞から抽出したRNAのRT-PCR解析によって、(
図4)、スプライシングされたABCA4mRNAに対応する0.3kbの特異的なバンドが、対照プラスミド(レーン5)をトランスフェクションした、直鎖状5'及び3'AAVベクタープラスミド(レーン4)をコトランスフェクションした、又は前記5'及び3'AAV2/5ベクター(レーン6)を共感染させた細胞において、明瞭に検出された。未処理の細胞(レーン1)において、またAAVベクタープラスミド単独(レーン2及び3)を、トランスフェクションした細胞においても、同一サイズのかすかなバンドが検出されたが、シグナル強度は非常に低かった。HEK293細胞が、低いレベルのABCA4mRNAを、又は(例えば別のABCトランスポーターをコードする)配列相同性を有するmRNAを発現することが考えられる。しかしながら、二重ベクター間のAPにより媒介される分子間遺伝子組換えが、全長の、転写活性を有するABCA4発現カセットの再構成を実際に実現することを前記実験は示した。この結果は、例えばHeLa等の他の細胞株においても確認されている。
【0083】
二重AAV2/5-ABCA4ベクターを共感染させた細胞において、抗ABCA4 3F4抗体により特異的なシグナルが検出されたため、HeLa細胞の免疫蛍光顕微鏡解析によって、(
図5)、PCR及びRT-PCRの結果を確認した。その結果、5'及び3'ベクターゲノム間の分子間遺伝子組換えの後、ABCA4タンパク質が発現することが示唆された。この結果は、HEK293細胞においても確認された。
【0084】
マウス骨格筋への二重AAV2/5-ABCA4ベクターの筋肉内注射によって、ABCA4遺伝子導入がインビボでなされる。AAV2/5-CMV-5'ABCA4-mAP及びAAV2/5-mAP-3'ABCA4ベクターの混合注射を、C57/BL6マウスの前脛骨筋に対して行い、ABCA4を発現しない分化終了細胞において、インビボにおけるABCA4遺伝子導入を試験した。
【0085】
筋肉サンプルから抽出したDNAのPCR解析は、5'ABCA4及び3'ABCA4ベクターゲノムが注射された筋細胞中に存在し、APにより媒介される遺伝子組換えによっても、両ベクター間の接合部が注射された4つの筋肉全てにおいて、実際に生じていたことを示す(
図6)。
【0086】
筋肉サンプルから抽出されたRNAのRT-PCR解析は、転写物の全長(開始コドンから下流のスプライスアクセプターまでの3.3kb、及び上流のスプライスドナーから停止コドンまでの3.8kb)にわたる2つの重複断片の検出に示されるように、再構成されたABCA4発現カセットの転写及びスプライシングも、前記注射された筋肉において、生じることを示している。実際に、ABCA4mRNAの5'側の半分に対応する3.3kbの断片が、注射された筋肉のうちの3つにおいて、検出され、またABCA4mRNAの3'側の半分に対応する3.8kbの断片が、注射された4つの筋肉全てにおいて、検出された(
図7)。
【0087】
最後に、二重AAV2/5ベクターを注射された、又は注射を受けていないマウス筋肉について、3F4モノクローナル抗体を用いた筋肉切片の免疫蛍光顕微鏡解析を行った(
図8)。AAVベクターを注射した筋肉においてのみ、特異的な蛍光シグナルが検出された。シグナルは弱く、また幾つかの筋肉繊維においてのみ検出されたものの(AAV5ベクターによるトランスダクションが骨格筋において、効率的でないことから予想できる)、この結果は、前記二重AAVベクターによって、ABCA4タンパク質がインビボで実際に発現されることを確認するものであった。
【0088】
ABCA4遺伝子導入は、マウスの目への二重AAV2/5-ABCA4ベクターの網膜下注射によって、インビボにおいてなされる:2.8×109vgのAAV2/5-CMV-5'ABCA4-mAP、及び2.4×109vgのAAV2/5-mAP-3'ABCA4ベクターの投与を、Abca4-/-マウスの目への網膜下注射により実施した。
【0089】
5'ベクターのエクソン21に対応するFプライマー及び3'ベクターのエクソン22に対応するRプライマーを使用した、逆転写された神経網膜RNAの定量的PCR解析は、注射された目における接合部断片の特異的な増幅を示した(
図9)。対照Abca4+/-(ヒト遺伝子に特異的なプライマー)又はAbca4-/-マウスの目において増幅は検出されなかった。これらの結果は、5'ABCA4及び3'ABCA4ベクターゲノムが注射された網膜細胞内に存在したこと、また、APにより媒介される遺伝子組換えによる両ベクター間の接合部が、全ての注射された目において、生じていたことを示す。おそらく目当たりの単離効率の違いのため、発現は変動的であった。RT-PCR解析では、これらの結果が、注射された目において、のみ検出される適正なサイズ(183 bp)の断片を示すことが確認された。DNA鋳型からの増幅の可能性を排除するために行った逆転写非存在下の試験では、増幅は検出されなかった。
【0090】
遺伝子組換えが行われたことを更に確認するため、qPCR断片を直接シークエンシングした。ABCA4コーディング配列との配列アラインメントにより、増幅産物が、分子間遺伝子組換え及び介在アルカリホスファターゼ含有イントロン配列のスプライシング後の、エクソン21-エクソン22の融合体に対応することが示された。
【0091】
マウス及びラットの目のいずれの場合も、二重AAV2/5-ABCA4ベクターの網膜下注射後のABCA4導入遺伝子の発現は、CMVプロモーターと比較しRKプロモーターによる場合に高いと考えられる:
Abca4
-/-マウスの目への、1.4×10
9vgのAAV2/5-CMV-5'ABCA4-mAP又は1.5~5×10
9vgのAAV2/5-RK-5'ABCA4-mAPベクター、及び1.2×10
9vg又は5×10
9vgのAAV2/5-mAP-3'ABCA4の網膜下投与後、逆転写された神経網膜RNAの定量的PCR解析を上記の通りに実施した(
図10)。前記二重ベクターにより注射されたAbca4
-/-マウスにおいてのみ、ヒトのABCA4エクソン21-エクソン22接合部に対応する183bp増幅産物が検出され、注射を受けていない野生型(Abca4
+/+)及びAbca4
-/-マウスでは検出されなかった。注射された神経網膜におけるヒトABCA4mRNAの発現レベルは、前記光受容体に特異的なRKプロモーターから発現させたとき、ユビキタスCMVプロモーターと比較し、用量に関係なく、約1.6倍高かった
【0092】
逆転写された神経網膜RNAの同じ定量的PCR解析を、スピローグドーリーラットへのベクターの網膜下投与後に実施した(
図11)。ラットに対し、3.7×10
9vgのAAV2/5-RK-5'ABCA4-mAPベクター単独、3.7×10
9vgのAAV2/5-mAP-3'ABCA4ベクター単独、1.85×10
9vgのAAV2/5-RK-5'ABCA4-mAP及び1.85×10
9vgのAAV2/5-mAP-3'ABCA4ベクターの混合物、又は、1.85×10
9vgのAAV2/5-CMV-5'ABCA4-mAP及び1.85×10
9vgのAAV2/5-mAP-3'ABCA4ベクターの混合物を注射した。二重ベクターを注射されたラットにおいてのみ、ヒトのABCA4エクソン21-エクソン22接合部に対応する183bpの増幅産物が検出され、RK-5'ABCA4-AP又はmAP-3'ABCA4単独を注射したラットにおいて、又は注射を受けていないラットにおいては検出されなかった。マウスにおいて、得られた結果と同様、二重ベクターを注射したラット網膜におけるヒトABCA4mRNA発現レベルは、光受容体に特異的なRKプロモーターから発現させたとき、ユビキタスCMVプロモーターの場合と比較し(約9.5倍)高いことが解った。
【0093】
参考文献
本明細書の全体にわたり記載される各種の参考文献は、本発明が関係する最高水準の技術を記載する。これらの参考文献の開示は、参照により本明細書の本開示に組み込まれる。
(参考文献)
【配列表】