(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】EGFR阻害薬フリー塩基または酸性塩の多結晶形、その製造方法、および応用
(51)【国際特許分類】
C07D 403/04 20060101AFI20220117BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220117BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220117BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20220117BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
C07D403/04
A61P35/00
A61P35/02
A61K31/506
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2018547390
(86)(22)【出願日】2016-12-23
(86)【国際出願番号】 CN2016111717
(87)【国際公開番号】W WO2017161937
(87)【国際公開日】2017-09-28
【審査請求日】2019-09-26
(31)【優先権主張番号】201610165018.6
(32)【優先日】2016-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】317010428
【氏名又は名称】ジエンス ハンセン ファーマセウティカル グループ カンパニー リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】516196853
【氏名又は名称】シャンハイ ハンセン バイオメディカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100153394
【氏名又は名称】謝 卓峰
(74)【代理人】
【識別番号】100145056
【氏名又は名称】當別當 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100116311
【氏名又は名称】元山 忠行
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ジョンクァ
(72)【発明者】
【氏名】リュウ、フピン
(72)【発明者】
【氏名】リュウ、レイ
(72)【発明者】
【氏名】バオ、ルディ
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/195228(WO,A1)
【文献】特表2013-544273(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104140418(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104860941(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104761544(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104961731(CN,A)
【文献】国際公開第2016/054987(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性塩が、無機酸塩または有機酸塩から成り;
該無機酸塩
は、塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩、フッ化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩およびリン酸塩から成る群から選択さ
れ;
該有機酸塩
は、酢酸塩、プロピオン酸塩、ヘキサン酸塩、カプリル酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、グルタル酸塩、アジピン酸塩、セバシン酸塩、ジクロロ酢酸塩、トリクロロ酢酸塩、アセトヒドロキサム酸塩、サリチル酸塩、4-アミノサリチル酸塩、安息香酸塩、4-アセチルアミノ安息香酸塩、4-アミノ安息香酸塩、カプリン酸塩、桂皮酸塩、クエン酸塩、アスパラギン酸塩、樟脳酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、グルタミン酸塩、エリソルビン酸塩、乳酸塩、アスパラギン酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、ピログルタミン酸塩、酒石酸塩、ラウリル硫酸塩、ジベンゾイル酒石酸塩、2,5-ジヒドロキシ安息香酸塩、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸塩、メシル酸塩、エチル-1,2-ジスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、4-クロロベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、シクロへキシルスルファミン酸塩、カンファースルホン酸塩、1,5-ナフタレンジスルホン酸塩、ナフタレン-2-スルホン酸塩、ギ酸塩、ガラクトン酸塩、ゲンチジン酸塩、2-ケトグルタル酸塩、グリコール酸塩、馬尿酸塩、イセチオン酸塩、ラクトビオン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ラウリン酸塩、樟脳酸塩、ニコチン酸塩、オレイン酸塩、オロト酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、ステアリン酸塩、チオシアン酸塩、ウンデシレン酸塩、トリフルオロ酢酸塩およびコハク酸塩から成る群から選択さ
れる、
式(I)の化合物、
のフリー塩基または酸性塩の多形体。
【請求項2】
前記無機酸塩は、塩酸塩、硫酸塩およびリン酸塩から成る群から選択される、
請求項1に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩の多形体。
【請求項3】
前記有機酸塩は、メシル酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩および酢酸塩から成る群から選択される、請求項1に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩の多形体。
【請求項4】
酸性塩の多形体
が、メシル酸塩の結晶形I、メシル酸塩の結晶形II、メシル酸塩の結晶形III、メシル酸塩の結晶形IV、メシル酸塩の結晶形Vおよびメシル酸塩の結晶形VIから成る群から選択されるメシル酸塩多形体であって、
メシル酸塩の結晶形Iの粉末X線回折スペクトルが
25.6±0.2°,25.0±0.2°, 19.1±0.2°及び15.0±0.2°の回折角(2θ)にピークを含み;
メシル酸塩の結晶形IIの粉末X線回折スペクトルが
24.3±0.2°, 20.6±0.2°,20.1±0.2°および 11.0±0.2°の回折角(2θ)にピークを含み;
メシル酸塩の結晶形IIIの粉末X線回折スペクトルが
24.5±0.2°, 22.6±0.2°, 18.8±0.2°および6.1±0.2°の回折角(2θ)にピークを含み;
メシル酸塩の結晶形IVの粉末X線回折スペクトルが
25.1±0.2°,21.0±0.2°, 18.0±0.2°および13.6±0.2°の回折角(2θ)にピークを含み;
メシル酸塩の結晶形Vの粉末X線回折スペクトルが
24.6±0.2°, 23.3±0.2°, 20.1±0.2°および 14.9±0.2°の回折角(2θ)にピークを含み;
メシル酸塩の結晶形VIの粉末X線回折スペクトルが,
19.8±0.2°,17.2±0.2°,11.7±0.2°および6.8±0.2°の回折角(2θ)にピークを含むことを特徴とする、請求項1に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩の多形体。
【請求項5】
メシル酸塩の結晶形Iの粉末X線回折スペクトルが24.4±0.2°,23.0±0.2°,20.5±0.2°,19.7±0.2°および10.2±0.2°の回折角(2θ)にピークを更に含む、請求項4に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩の多形体。
【請求項6】
メシル酸塩の結晶形Iの粉末X線回折スペクトルが22.6±0.2°, 21.2±0.2°, 17.4±0.2°, 16.3±0.2°,9.4±0.2°および 8.6±0.2°の回折角(2θ)にピークを更に含む、請求項4に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩の多形体。
【請求項7】
メシル酸塩の結晶形Iの粉末X線回折スペクトルが32.4±0.2°, 27.6±0.2°, 17.9±0.2°,16.9±0.2°および6.8±0.2°の回折角(2θ)にピークを更に含む、請求項4に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩の多形体。
【請求項8】
メシル酸塩の結晶形IIの粉末X線回折スペクトルが23.8±0.2°, 22.7±0.2°,17.4±0.2°, 15.7±0.2°および 12.1±0.2°の回折角(2θ)にピークを更に含む、請求項4に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩の多形体。
【請求項9】
メシル酸塩の結晶形IIの粉末X線回折スペクトルが18.5±0.2°, 17.7±0.2°,16.7±0.2°,15.1±0.2°,8.7±0.2°および6.5±0.2°の回折角(2θ)にピークを更に含む、請求項4に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩の多形体。
【請求項10】
メシル酸塩の結晶形IIの粉末X線回折スペクトルが40.6±0.2°, 32.8±0.2°,26.8±0.2°,12.7±0.2°および7.0±0.2°の回折角(2θ)にピークを更に含む、請求項4に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩の多形体。
【請求項11】
メシル酸塩の結晶形IIIの粉末X線回折スペクトルが23.8±0.2°, 21.3±0.2°,15.7±0.2°,11.7±0.2°および8.4±0.2°の回折角(2θ)にピークを更に含む、請求項4に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩の多形体。
【請求項12】
メシル酸塩の結晶形IIIの粉末X線回折スペクトルが22.0±0.2°, 17.3±0.2°,16.7±0.2°,15.3±0.2°,12.2±0.2°および9.4±0.2°の回折角(2θ)にピークを更に含む、請求項4に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩の多形体。
【請求項13】
メシル酸塩の結晶形IIIの粉末X線回折スペクトルが30.3±0.2°,28.7±0.2°, 27.2±0.2°, 18.4±0.2°および 13.7±0.2°の回折角(2θ)にピークを更に含む、請求項4に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩の多形体。
【請求項14】
メシル酸塩の結晶形IVの粉末X線回折スペクトルが22.6±0.2°,21.4±0.2°,19.9±0.2°,19.1±0.2°および10.4±0.2°の回折角(2θ)にピークを更に含む、請求項4に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩の多形体。
【請求項15】
メシル酸塩の結晶形IVの粉末X線回折スペクトルが33.5±0.2°, 31.7±0.2°,30.4±0.2°,17.5±0.2°,12.4±0.2°および8.3±0.2°の回折角(2θ)にピークを更に含む、請求項4に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩の多形体。
【請求項16】
メシル酸塩の結晶形IVの粉末X線回折スペクトルが37.0±0.2°, 34.2±0.2°,25.5±0.2°,23.9±0.2°および16.8±0.2°の回折角(2θ)にピークを更に含む、請求項4に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩の多形体。
【請求項17】
メシル酸塩の結晶形Vの粉末X線回折スペクトルが25.7±0.2°,22.9±0.2°, 17.0±0.2°,13.9±0.2°および10.9±0.2°の回折角(2θ)にピークを更に含む、請求項4に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩の多形体。
【請求項18】
メシル酸塩の結晶形Vの粉末X線回折スペクトルが30.5±0.2°, 27.0±0.2°,21.9±0.2°,20.6±0.2°,18.7±0.2°および15.3±0.2°の回折角(2θ)にピークを更に含む、請求項4に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩の多形体。
【請求項19】
メシル酸塩の結晶形Vの粉末X線回折スペクトルが39.8±0.2°, 39.3±0.2°,15.9±0.2°,9.4±0.2°および8.4±0.2°の回折角(2θ)にピークを更に含む、請求項4に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩の多形体。
【請求項20】
メシル酸塩の結晶形VIの粉末X線回折スペクトルが25.5±0.2°, 24.2±0.2°,23.6±0.2°,23.2±0.2°および22.6±0.2°の回折角(2θ)にピークを更に含む、請求項4に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩の多形体。
【請求項21】
メシル酸塩の結晶形VIの粉末X線回折スペクトルが24.6±0.2°, 22.4±0.2°,18.9±0.2°,18.6±0.2°,14.1±0.2°および10.9±0.2°の回折角(2θ)にピークを更に含む、請求項4に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩の多形体。
【請求項22】
メシル酸塩の結晶形VIの粉末X線回折スペクトルが22.0±0.2°, 17.8±0.2°,12.6±0.2°,8.7±0.2°および7.9±0.2°の回折角(2θ)にピークを更に含む、請求項4に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩の多形体。
【請求項23】
フリー塩基多形体を製造する方法が、次の製造方法:
方法1:
ステップ1:式(I)の化合物のフリー塩基を水性溶媒、有機溶媒または混合溶媒に溶解する;ステップ2:溶液を冷却して多形体を沈殿させる、または化合物の透明な溶液に貧溶媒を添加して多形体を沈殿させる、または化合物の透明な溶液をゆっくりと蒸発させる、または化合物の溶液にヘテロ核種結晶としてオリジナル化合物の固体または他の固体粒子添加剤を添加して多形体を誘導する;
方法2:化合物を水性溶媒、有機溶媒または混合溶媒中に、またはこれらの媒体の雰囲気中に分散させて多形体を得る;および
方法3:方法1と方法2を組み合わせてフリー塩基多形体を得る、
から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩の多形体を製造する方法。
【請求項24】
式(I)の化合物の酸性塩多形体を製造する方法が、次のステップ:
ステップ1:式(I)の化合物の酸性塩を次のようにして製造する:化合物のフリー塩基を水性溶媒または適当な有機溶媒に溶解または分散させ、次いで無機酸または有機酸の液体または固体または溶液を上記系に加えて式(I)の化合物の酸性塩を調製する;または、フリー塩基固体を酸溶液に加えて式(I)の化合物の酸性塩を調製する;および
ステップ2:請求項
23に記載のフリー塩基多形体を製造する方法に従って式(I)の化合物の酸性塩多形体を調製する、
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩の多形体を製造する方法。
【請求項25】
有機溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、アセトン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、トルエン、n-ブタノール、シクロヘキサン、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、
ジエチルエーテル、n-ヘプタン、n-ヘキサン、メチルエチルケトン、イソオクタン、ペンタン、
ジエチレングリコール、テトラヒドロフラン、ジメチルテトラヒドロフラン、トリクロロエタン、ジメチルベンゼンおよびそれらの混合物から成る群から選択されることを特徴とする、請求項
23または
24に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩の多形体を製造する方法。
【請求項26】
請求項1~
22のいずれか1項に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩多形体の治療有効量、および薬剤的に許容される担体を含有する医薬組成物。
【請求項27】
EGFR変異体の活性またはエクソン19欠損により活性化された変異体の活性によって媒介される疾患の治療薬の製造における請求項1~
22のいずれか1項に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩多形体、または請求項
26に記載の医薬組成物の使用。
【請求項28】
EGFR変異体がEGFR-L858R変異体およびEGFR-T790M変異体から成る群から選択される、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
EGFR変異体の活性によって媒介される疾患がEGFR変異体の活性により単独でまたは部分的に媒介される疾患を含む、請求項27に記載の使用。
【請求項30】
癌
が、卵巣癌、子宮頸癌、大腸癌、乳癌、膵臓癌、グリオーマ、神経膠芽腫、メラノーマ、前立腺癌、白血病、リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、胃癌、肺癌、肝細胞癌、胃癌、消化管間質腫瘍(GIST)、甲状腺癌、胆管細胞癌、子宮内膜癌、腎臓癌、未分化大細胞リンパ腫、急性骨髄性白血病(AML)、多発性骨髄腫、メラノーマおよび中皮腫から成る群から選択され
る、
癌の治療薬の製造における請求項1~
22のいずれか1項に記載の式(I)の化合物のフリー塩基または酸性塩多形体、または請求項
26に記載の医薬組成物の使用。
【請求項31】
癌が、非小細胞肺癌である、請求項30に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物開発の技術分野に属し、具体的にはEGFR阻害薬のフリー塩基または酸性塩の多形体、製造方法およびそれらの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
EGFR(上皮増殖因子受容体)は、膜貫通タンパク質チロシンキナーゼ受容体に属するerbB受容体ファミリーの一員である。上皮増殖因子(EGF)などの、そのリガンドに結合することにより、EGFRは細胞膜上にホモ二量体を形成、またはerbB2、erbB3、またはerbB4などのファミリーの他の受容体とヘテロ二量体を形成することができる。これらの二量体の生成はEGFR細胞において重要なチロシン残基のリン酸化を引き起こし、それによって細胞における多くの下流シグナル経路を活性化する。これらの細胞内シグナル経路は細胞の増殖、生存および抗アポトーシスにおいて重要な役割を果たす。リガンドや受容体の発現増加、EGFR遺伝子の増幅や変異などのEGFRシグナル伝達経路の障害は、細胞の悪性形質転換を促進し、腫瘍細胞の増殖、侵襲、転移および血管新生において重要な役割を果たす。それ故、EGFRは抗がん剤の開発にとって合理的なターゲットである。
【0003】
従って、Jiangsu Hansoh Pharmaceutical Group Co., Ltd.は、特許出願(特許文献1:次の構造;
【化1】
を有する式Iの化合物、化学名は:N-(5-((4-(1-シクロプロピル-1H-インドール-3-イル)ピリミジン-2-イル)アミノ)-2-((2-(ジメチルアミノ)エチル)(メチル)アミノ)-4-メトキシフェニル)アクリルアミドである)における小分子EGFR阻害薬を開発した。
【0004】
この小分子EGFR阻害薬は、EGFR T790M変異体を高い選択性で阻害し、野生型EGFRには活性がないか低い。この高い選択性のために、野生型EGFRの阻害により引き起こされる皮膚および胃腸の損傷は大きく減少し、そしてEGFR T790Mの二次変異によって生じる薬剤耐性腫瘍も治療することができる。さらに、それはEGFR活性化変異体(エクソン19欠損を持つEGFR-L858RおよびdelE746_A750など)に対する阻害活性を維持することを意味している。この小分子EGFR阻害薬の高い選択性と安全性のために、臨床の第一治療薬に開発されることが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先行技術における技術的課題を解決するために、発明者らは、式Iの化合物のフリー塩基や酸性塩の異なる凝集状態を鋭意研究して、式Iの化合物のアモルファス形の物理的化学的特性、例えば結晶化度、溶解性、吸湿性および化学的安定性などを大きく改善した多くの式Iの化合物のフリー塩基や酸性塩の多形体を得て、プロセスの操作性を改善し、それによって薬剤的に許容される最も適した凝集状態をスクリーニングして薬物開発の化学的基礎を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様において、本発明は、式(I)の化合物、即ちN-(5-((4-(1-シクロプロピル-1H-インドール-3-イル)ピリミジン-2-イル)アミノ)-2-((2-(ジメチルアミノ)エチル)(メチル)アミノ)-4-メトキシフェニル)アクリルアミドのフリー塩基または酸性塩の多形体を提供する。
【0008】
好ましい実施態様において、酸性塩は、無機酸塩または有機酸塩を含む。
【0009】
さらに好ましい実施態様において、無機酸塩は、塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩、フッ化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩およびリン酸塩から成る群から選択され;好ましくは、無機酸塩は、塩酸塩、硫酸塩およびリン酸塩から成る群から選択される。
【0010】
さらに好ましい実施態様において、有機酸塩は、酢酸塩、プロピオン酸塩、ヘキサン酸塩、カプリル酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、グルタル酸塩、アジピン酸塩、セバシン酸塩、ジクロロ酢酸塩、トリクロロ酢酸塩、アセトヒドロキサム酸塩、サリチル酸塩、4-アミノサリチル酸塩、安息香酸塩、4-アセチルアミノ安息香酸塩、4-アミノ安息香酸塩、カプリン酸塩、桂皮酸塩、クエン酸塩、アスパラギン酸塩、樟脳酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、グルタミン酸塩、エリソルビン酸塩、乳酸塩、アスパラギン酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、ピログルタミン酸塩、酒石酸塩、ラウリル硫酸塩、ジベンゾイル酒石酸塩、2,5-ジヒドロキシ安息香酸塩、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸塩、メシル酸塩、エチル-1,2-ジスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、4-クロロベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、シクロへキシルスルファミン酸塩、カンファースルホン酸塩、1,5-ナフタレンジスルホン酸塩、ナフタレン-2-スルホン酸塩、ギ酸塩、ガラクトン酸塩、ゲンチジン酸塩、2-ケトグルタル酸塩、グリコール酸塩、馬尿酸塩、イセチオン酸塩、ラクトビオン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ラウリン酸塩、樟脳酸塩、ニコチン酸塩、オレイン酸塩、オロト酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、ステアリン酸塩、チオシアン酸塩、ウンデシレン酸塩、トリフルオロ酢酸塩およびコハク酸塩から成る群から選択され、好ましくは、有機酸塩はメシル酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩および酢酸塩から成る群から選択される。
【0011】
なお更に好ましい実施態様において、本発明は、式Iの化合物のフリー塩基多形体を提供する。フリー塩基多形体は、それぞれフリー塩基の結晶形I、結晶形IIおよび結晶形IIIと呼ばれる3つの結晶形を含んでいる。
【0012】
本発明は、24.4±0.2°, 15.1±0.2°, 25.2±0.2°および7.4±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む粉末X線回折スペクトルを有する式Iの化合物のフリー塩基の結晶形Iを提供する。
【0013】
好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに23.1±0.2°, 19.6±0.2°, 14.1±0.2°, 16.7±0.2°および11.4±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0014】
より好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに24.9±0.2°, 20.6±0.2°, 22.7±0.2°, 9.7±0.2°, 26.1±0.2°および21.8±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0015】
最も好ましくは、本発明の式Iの化合物のフリー塩基の結晶形Iの粉末X線回折スペクトルは、
図1に示すような回折角(2θ)に実質的に同じピーク有しており、粉末X線回折データを表1に示す:
【表1】
【0016】
本発明は、18.9±0.2°, 25.9±0.2°, 31.6±0.2°および21.0±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む粉末X線回折スペクトルを有する式Iの化合物のフリー塩基の結晶形IIを提供する。
【0017】
好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに15.0±0.2°, 16.1±0.2°, 24.4±0.2°, 19.1±0.2°および8.7±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0018】
より好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに8.4±0.2°, 10.4±0.2°, 22.0±0.2°, 17.7±0.2°, 22.5±0.2°および26.4±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0019】
最も好ましくは、本発明の式Iの化合物のフリー塩基の結晶形IIの粉末X線回折スペクトルは、
図2に示すような回折角(2θ)に実質的に同じピーク有しており、粉末X線回折データを表2に示す:
【表2】
【0020】
本発明は、8.0±0.2°, 23.7±0.2°, 19.0±0.2°および18.6±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む粉末X線回折スペクトルを有する式Iの化合物のフリー塩基の結晶形IIIを提供する。
【0021】
好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに23.9±0.2°, 16.1±0.2°, 22.5±0.2°, 22.1±0.2°および11.1±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0022】
より好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに10.4±0.2°, 14.1±0.2°, 15.7±0.2°, 12.1±0.2°, 8.7±0.2°および28.9±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0023】
最も好ましくは、本発明の式Iの化合物のフリー塩基の結晶形IIIの粉末X線回折スペクトルは、
図3に示すような回折角(2θ)に実質的に同じピーク有しており、粉末X線回折データを表3に示す:
【表3】
【0024】
なお更に好ましい実施態様において、本発明は、24.0±0.2°, 6.6±0.2°, 8.8±0.2°および25.8±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む粉末X線回折スペクトルを有する式Iの化合物の塩酸塩の結晶形Iを提供する。
【0025】
好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに14.2±0.2°, 21.6±0.2°, 6.9±0.2°, 25.2±0.2°および27.0±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0026】
より好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに22.7±0.2°, 12.7±0.2°, 6.4±0.2°, 20.2±0.2°, 17.8±0.2°および11.0±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0027】
最も好ましくは、本発明の式Iの化合物の塩酸塩の結晶形Iの粉末X線回折スペクトルは、
図4に示すような回折角(2θ)に実質的に同じピーク有しており、粉末X線回折データを表4に示す:
【表4】
【0028】
なお更に好ましい実施態様において、本発明は、多結晶形における式Iの化合物の硫酸塩の多形体を提供する。硫酸塩の多形体は、それぞれ結晶形I、結晶形II、結晶形IIIおよび結晶形IVと呼ばれる4つの結晶形を含んでいる。
【0029】
本発明は、16.3±0.2°, 11.9±0.2°, 13.7±0.2°および22.3±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む粉末X線回折スペクトルを有する式Iの化合物の硫酸塩の結晶形Iを提供する。
【0030】
好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに24.3±0.2°, 19.6±0.2°, 24.9±0.2°, 20.7±0.2°および18.8±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0031】
より好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに24.0±0.2°, 8.5±0.2°, 10.5±0.2°, 17.8±0.2°, 21.9±0.2°および22.8±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0032】
最も好ましくは、本発明の式Iの化合物の硫酸塩の結晶形Iの粉末X線回折スペクトルは、
図5に示すような回折角(2θ)に実質的に同じピーク有しており、粉末X線回折データを表5に示す:
【表5】
【0033】
本発明は、10.7±0.2°, 22.5±0.2°, 25.8±0.2°および9.3±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む粉末X線回折スペクトルを有する式Iの化合物の硫酸塩の結晶形IIを提供する。
【0034】
好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに21.6±0.2°, 15.8±0.2°, 19.9±0.2°, 18.9±0.2°および22.2±0.2の回折角(2θ)にピークを含む。
【0035】
より好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに14.0±0.2°, 27.9±0.2°, 11.5±0.2°, 23.0±0.2°, 31.7±0.2°および24.0±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0036】
最も好ましくは、本発明の式Iの化合物の硫酸塩の結晶形IIの粉末X線回折スペクトルは、
図6に示すような回折角(2θ)に実質的に同じピーク有しており、粉末X線回折データを表6に示す:
【表6】
【0037】
本発明は、22.1±0.2°, 23.6±0.2°, 10.4±0.2°および21.6±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む粉末X線回折スペクトルを有する式Iの化合物の硫酸塩の結晶形IIIを提供する。
【0038】
好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに24.0±0.2°, 12.7±0.2°, 8.0±0.2°, 25.7±0.2°および14.6±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0039】
より好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに17.1±0.2°, 20.9±0.2°, 27.0±0.2°, 11.0±0.2°, 18.2±0.2°および16.5±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0040】
最も好ましくは、本発明の式Iの化合物の硫酸塩の結晶形IIIの粉末X線回折スペクトルは、
図7に示すような回折角(2θ)に実質的に同じピーク有しており、粉末X線回折データを表7に示す:
【表7】
【0041】
本発明は、20.0±0.2°, 6.8±0.2°, 9.3±0.2°および23.2±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む粉末X線回折スペクトルを有する式Iの化合物の硫酸塩の結晶形IVを提供する。
【0042】
好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに25.2±0.2°, 22.5±0.2°, 17.7±0.2°, 20.5±0.2°および14.9±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0043】
より好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに14.4±0.2°, 24.2±0.2°, 17.4±0.2°, 26.3±0.2°, 16.9±0.2°および14.2±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0044】
最も好ましくは、本発明の式Iの化合物の硫酸塩の結晶形IVの粉末X線回折スペクトルは、
図8に示すような回折角(2θ)に実質的に同じピーク有しており、粉末X線回折データを表8に示す:
【表8】
【0045】
なお更に好ましい実施態様において、本発明は、22.6±0.2°, 10.7±0.2°, 21.6±0.2°および17.8±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む粉末X線回折スペクトルを有する式Iの化合物のリン酸塩の結晶形Iを提供する。
【0046】
好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに24.4±0.2°, 13.3±0.2°, 15.3±0.2°, 12.8±0.2°および20.1±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0047】
より好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、粉末X線回折分析法において更に14.4±0.2°, 20.6±0.2°, 25.4±0.2°, 19.2±0.2°, 10.1±0.2°および12.3±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0048】
最も好ましくは、本発明の式Iの化合物のリン酸塩の結晶形Iの粉末X線回折スペクトルは、
図9に示すような回折角(2θ)に実質的に同じピーク有しており、粉末X線回折データを表9に示す:
【表9】
【0049】
なお更に好ましい実施態様において、本発明は、式Iの化合物のメシル酸塩の多形体を提供する。メシル酸塩多形体は、それぞれメシル酸塩の結晶形I、結晶形II、結晶形III、結晶形IV、結晶形Vおよび結晶形VIと呼ばれる6つの結晶形を含んでいる。
【0050】
本発明は、19.1±0.2°, 25.6±0.2°, 15.0±0.2°および25.0±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む粉末X線回折スペクトルを有する式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形Iを提供する。
【0051】
好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに20.5±0.2°, 10.2±0.2°, 19.7±0.2°, 24.4±0.2°および23.0±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0052】
より好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに9.4±0.2°, 16.3±0.2°, 17.4±0.2°, 8.6±0.2°, 21.2±0.2°および22.6±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0053】
最も好ましくは、本発明の式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形Iの粉末X線回折スペクトルは、
図10に示すような回折角(2θ)に実質的に同じピーク有しており、粉末X線回折データを表10に示す:
【表10】
【0054】
本発明は、24.3±0.2°, 20.1±0.2°, 11.0±0.2°および20.6±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む粉末X線回折スペクトルを有する式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形IIを提供する。
【0055】
好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに17.4±0.2°, 22.7±0.2°, 23.8±0.2°, 12.1±0.2°および15.7±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0056】
より好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに8.7±0.2°, 16.7±0.2°, 15.1±0.2, 18.5±0.2°, 17.7±0.2°および6.5±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0057】
最も好ましくは、本発明の式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形IIの粉末X線回折スペクトルは、
図11に示すような回折角(2θ)に実質的に同じピーク有しており、粉末X線回折データを表11に示す:
【表11】
【0058】
本発明は、24.5±0.2°, 22.6±0.2°, 6.1±0.2°および18.8±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む粉末X線回折スペクトルを有する式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形IIIを提供する。
【0059】
好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに15.7±0.2°, 11.7±0.2°, 21.3±0.2°, 23.8±0.2°および8.4±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0060】
より好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに16.7±0.2°, 17.3±0.2°, 9.4±0.2°, 15.3±0.2°, 22.0±0.2°および12.2±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0061】
最も好ましくは、本発明の式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形IIIの粉末X線回折スペクトルは、
図12に示すような回折角(2θ)に実質的に同じピーク有しており、粉末X線回折データを表12に示す:
【表12】
【0062】
本発明は、21.0±0.2°, 18.0±0.2°, 25.1±0.2°および13.6±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む粉末X線回折スペクトルを有する式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形IVを提供する。
【0063】
好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに21.4±0.2°, 22.6±0.2°, 19.9±0.2°, 19.1±0.2°および10.4±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0064】
より好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに30.4±0.2°, 33.5±0.2°, 12.4±0.2°, 31.7±0.2°, 17.5±0.2°および8.3±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0065】
最も好ましくは、本発明の式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形IVの粉末X線回折スペクトルは、
図13に示すような回折角(2θ)に実質的に同じピーク有しており、粉末X線回折データを表13に示す:
【表13】
【0066】
本発明は、24.6±0.2°, 23.3±0.2°, 14.9±0.2°および20.1±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む粉末X線回折スペクトルを有する式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形Vを提供する。
【0067】
好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに22.9±0.2°, 10.9±0.2°, 17.0±0.2°, 25.7±0.2°および13.9±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0068】
より好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに15.3±0.2°, 27.0±0.2°, 30.5±0.2°, 18.7±0.2°, 20.6±0.2°および21.9±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0069】
最も好ましくは、本発明の式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形Vの粉末X線回折スペクトルは、
図14に示すような回折角(2θ)に実質的に同じピーク有しており、粉末X線回折データを表14に示す:
【表14】
【0070】
本発明は、11.7±0.2°, 19.8±0.2°, 17.2±0.2°および6.8±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む粉末X線回折スペクトルを有する式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形VIを提供する。
【0071】
好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに23.6±0.2°, 22.6±0.2°, 25.5±0.2°, 24.2±0.2°および23.2±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0072】
より好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに18.9±0.2°, 18.6±0.2°, 22.4±0.2°, 14.1±0.2°, 24.6±0.2°および10.9±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0073】
最も好ましくは、本発明の式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形VIの粉末X線回折スペクトルは、
図15に示すような回折角(2θ)に実質的に同じピーク有しており、粉末X線回折データを表15に示す:
【表15】
【0074】
なお更に好ましい実施態様において、本発明は、式Iの化合物のフマル酸塩の多形体を提供する。フマル酸塩多形体は、それぞれフマル酸塩の結晶形Iおよび結晶形IIと呼ばれる2つの結晶形を含んでいる。
【0075】
本発明は、7.1±0.2°, 12.0±0.2°, 14.9±0.2°および17.1±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む粉末X線回折スペクトルを有する式Iの化合物のフマル酸塩の結晶形Iを提供する。
【0076】
好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに19.1±0.2°, 23.4±0.2°, 23.7±0.2°, 26.6±0.2°および28.7±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0077】
より好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに25.2±0.2°, 10.5±0.2°, 25.6±0.2°, 38.7±0.2°, 13.3±0.2°および7.8±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0078】
最も好ましくは、本発明の式Iの化合物のフマル酸塩の結晶形Iの粉末X線回折スペクトルは、
図16に示すような回折角(2θ)に実質的に同じピーク有しており、粉末X線回折データを表16に示す:
【表16】
【0079】
本発明は、6.0±0.2°, 22.7±0.2°, 25.1±0.2°および23.3±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む粉末X線回折スペクトルを有する式Iの化合物のフマル酸塩の結晶形IIを提供する。
【0080】
好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに16.9±0.2°, 25.5±0.2°, 24.2±0.2°, 8.8±0.2°および11.9±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0081】
より好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに20.5±0.2°, 29.5±0.2°, 8.3±0.2°, 19.9±0.2°, 13.7±0.2°および37.6±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0082】
最も好ましくは、本発明の式Iの化合物のフマル酸塩の結晶形IIの粉末X線回折スペクトルは、
図17に示すような回折角(2θ)に実質的に同じピーク有しており、粉末X線回折データを表17に示す:
【表17】
【0083】
なお更に好ましい実施態様において、本発明は、式Iの化合物のマレイン酸塩の多形体を提供する。マレイン酸塩多形体は、それぞれマレイン酸塩の結晶形I、結晶形IIおよび結晶形IIIと呼ばれる3つの結晶形を含んでいる。
【0084】
本発明は、7.9±0.2°, 24.6±0.2°, 7.5±0.2°および18.2±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む粉末X線回折スペクトルを有する式Iの化合物のマレイン酸塩の結晶形Iを提供する。
【0085】
好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに7.2±0.2°, 22.5±0.2°, 14.5±0.2°, 25.4±0.2°および21.0±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0086】
より好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに19.7±0.2°, 13.0±0.2°, 15.1±0.2°, 19.1±0.2°, 22.0±0.2°および11.7±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0087】
最も好ましくは、本発明の式Iの化合物のマレイン酸塩の結晶形Iの粉末X線回折スペクトルは、
図18に示すような回折角(2θ)に実質的に同じピーク有しており、粉末X線回折データを表18に示す:
【表18】
【0088】
本発明は、20.3±0.2°, 24.9±0.2°, 23.4±0.2°および16.8±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む粉末X線回折スペクトルを有する式Iの化合物のマレイン酸塩の結晶形IIを提供する。
【0089】
好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに7.2±0.2°, 18.6±0.2°, 21.0±0.2°, 10.1±0.2°および9.8±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0090】
より好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに25.5±0.2°, 13.6±0.2°, 18.3±0.2°, 12.5±0.2°, 21.6±0.2°および15.4±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0091】
最も好ましくは、本発明の式Iの化合物のマレイン酸塩の結晶形IIの粉末X線回折スペクトルは、
図19に示すような回折角(2θ)に実質的に同じピーク有しており、粉末X線回折データを表19に示す:
【表19】
【0092】
本発明は、21.6±0.2°, 22.4±0.2°, 17.9±0.2°および25.8±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む粉末X線回折スペクトルを有する式Iの化合物のマレイン酸塩の結晶形IIIを提供する。
【0093】
好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに7.7±0.2°, 23.4±0.2°, 24.4±0.2°, 11.9±0.2°および26.6±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0094】
より好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに16.4±0.2°, 15.4±0.2°, 17.6±0.2°, 12.4±0.2°, 19.7±0.2°および21.2±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0095】
最も好ましくは、本発明の式Iの化合物のマレイン酸塩の結晶形IIIの粉末X線回折スペクトルは、
図20に示すような回折角(2θ)に実質的に同じピーク有しており、粉末X線回折データを表20に示す:
【表20】
【0096】
なお更に好ましい実施態様において、本発明は、式Iの化合物の酢酸塩の多形体を提供する。酢酸塩多形体は、それぞれ酢酸塩の結晶形Iおよび結晶形IIと呼ばれる2つの結晶形を含んでいる。
【0097】
本発明は、23.0±0.2°, 11.8±0.2°, 16.3±0.2°および7.4±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む粉末X線回折スペクトルを有する式Iの化合物の酢酸塩の結晶形Iを提供する。
【0098】
好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに22.5±0.2°, 13.0±0.2°, 14.9±0.2°, 13.4±0.2°および6.5±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0099】
より好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに29.3±0.2°, 12.4±0.2°, 20.1±0.2°, 9.7±0.2°, 24.0±0.2°および28.0±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0100】
最も好ましくは、本発明の式Iの化合物の酢酸塩の結晶形Iの粉末X線回折スペクトルは、
図21に示すような回折角(2θ)に実質的に同じピーク有しており、粉末X線回折データを表21に示す:
【表21】
【0101】
本発明は、8.4±0.2°, 19.9±0.2°, 23.0±0.2°および24.8±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む粉末X線回折スペクトルを有する式Iの化合物の酢酸塩の結晶形IIを提供する。
【0102】
好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに24.4±0.2°, 16.9±0.2°, 13.9±0.2°, 19.6±0.2°および11.0±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0103】
より好ましくは、該粉末X線回折スペクトルは、さらに6.4±0.2°, 17.8±0.2°, 24.1±0.2°, 9.7±0.2°, 11.9±0.2°および26.6±0.2°の回折角(2θ)にピークを含む。
【0104】
最も好ましくは、本発明の式Iの化合物の酢酸塩の結晶形IIの粉末X線回折スペクトルは、
図22に示すような回折角(2θ)に実質的に同じピーク有しており、粉末X線回折データを表22に示す:
【表22】
【0105】
本明細書で使用するX線回折ピーク位置に関する用語“実質的に同じ”は、典型的なピーク位置と強度の変動性を考慮することを意味する。例えば、当業者は、ピーク位置(2θ)の測定値は異なるXRPD装置によって変動し、時にはこの変動は0.2°に達することを理解している。さらに、当業者は、XRPDサンプルの調製方法、XRPD装置、サンプルの結晶化度、サンプル量、結晶の好ましい配向および他の因子がXRPDスペクトルにおけるサンプルの相対ピーク強度の変動を引き起こすことを理解している。
【0106】
他の態様において、本発明は、式Iの化合物のフリー塩基多形体、酸性塩または酸性塩多形体の製造方法を提供する。フリー塩基多形体を製造する方法は、次の製造方法から選択される:
方法1:ステップ1:式Iの化合物のフリー塩基を水性溶媒、有機溶媒または混合溶媒に溶解する;ステップ2:溶液を冷却して多形体を沈殿させる、または化合物の透明な溶液に貧溶媒を添加して多形体を沈殿させる、または化合物の透明な溶液をゆっくりと蒸発させる、または化合物の溶液にヘテロ核種結晶としてオリジナル化合物の固体または他の固体粒子添加剤を添加して多形体を誘導する;
方法2:化合物を水性溶媒、有機溶媒または混合溶媒に、またはこれらの媒体の雰囲気中に分散させて多形体を得る;および
方法3:方法1と方法2を組み合わせてフリー塩基多形体を得る。
【0107】
式Iの化合物の酸性塩多形体を製造する方法は、次のステップ:
ステップ1:式Iの化合物の酸性塩を製造する、具体的ステップは次の通りである:化合物のフリー塩基を水性溶媒または適当な有機溶媒に溶解または分散させ、次いで無機酸または有機酸の液体または固体または溶液を上記系に加えて式Iの化合物の酸性塩を製造する;または、フリー塩基固体を酸溶液に加えて式Iの化合物の酸性塩を製造する;および
ステップ2:フリー塩基多形体を製造する上記方法に従って式Iの化合物の酸性塩多形体を製造する。
【0108】
さらに好ましい実施態様において、有機溶媒には、これらに限定されないが、下記に挙げる溶媒、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、アセトン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、トルエン、n-ブタノール、シクロヘキサン、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、ジエチルエーテル、n-ヘプタン、n-ヘキサン、メチルエチルケトン、イソオクタン、ペンタン、ジエチレングリコール、テトラヒドロフラン、ジメチルテトラヒドロフラン、トリクロロエタン、ジメチルベンゼンまたはそれらの混合物が含まれる。他の溶媒は、液体二酸化炭素、イオン液体、高分子溶液などの超臨界流体でもよい。
【0109】
他の態様において、本発明は、上記式Iの化合物のフリー塩基または酸性塩多形体の治療有効量および薬剤的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0110】
他の態様において、本発明は、EGFR変異体の活性またはエクソン19欠損により活性化された変異体の活性によって媒介される疾患の治療薬の製造における上記式Iの化合物のフリー塩基または酸性塩多形体、または上記医薬組成物の使用を提供する。
【0111】
好ましくは、EGFR変異体は、EGFR-L858R変異体およびEGFR-T790Mから成る群から選択される。
【0112】
より好ましくは、EGFR変異体の活性によって媒介される疾患は、EGFR変異体の活性により単独でまたは部分的に媒介される疾患を含む。
【0113】
他の態様において、本発明は、癌の治療薬の製造における上記式Iの化合物のフリー塩基または酸性塩多形体、または上記医薬組成物の使用を提供する。
【0114】
好ましくは、癌は、卵巣癌、子宮頸癌、大腸癌、乳癌、膵臓癌、グリオーマ、神経膠芽腫、メラノーマ、前立腺癌、白血病、リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、胃癌、肺癌、肝細胞癌、胃癌、消化管間質腫瘍(GIST)、甲状腺癌、胆管細胞癌、子宮内膜癌、腎臓癌、未分化大細胞リンパ腫、急性骨髄性白血病(AML)、多発性骨髄腫、メラノーマおよび中皮腫から成る群から選択される。
【0115】
より好ましくは、癌は、非小細胞肺癌である。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【
図1】式Iの化合物のフリー塩基の結晶形Iの粉末X線回折スペクトルである。
【
図2】式Iの化合物のフリー塩基の結晶形IIの粉末X線回折スペクトルである。
【
図3】式Iの化合物のフリー塩基の結晶形IIIの粉末X線回折スペクトルである。
【
図4】式Iの化合物の塩酸塩の結晶形Iの粉末X線回折スペクトルである。
【
図5】式Iの化合物の硫酸塩の結晶形Iの粉末X線回折スペクトルである。
【
図6】式Iの化合物の硫酸塩の結晶形IIの粉末X線回折スペクトルである。
【
図7】式Iの化合物の硫酸塩の結晶形IIIの粉末X線回折スペクトルである。
【
図8】式Iの化合物の硫酸塩の結晶形IVの粉末X線回折スペクトルである。
【
図9】式Iの化合物のリン酸塩の結晶形Iの粉末X線回折スペクトルである。
【
図10】式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形Iの粉末X線回折スペクトルである。
【
図11】式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形IIの粉末X線回折スペクトルである。
【
図12】式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形IIIの粉末X線回折スペクトルである。
【
図13】式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形IVの粉末X線回折スペクトルである。
【
図14】式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形Vの粉末X線回折スペクトルである。
【
図15】式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形VIの粉末X線回折スペクトルである。
【
図16】式Iの化合物のフマル酸塩の結晶形Iの粉末X線回折スペクトルである。
【
図17】式Iの化合物のフマル酸塩の結晶形IIの粉末X線回折スペクトルである。
【
図18】式Iの化合物のマレイン酸塩の結晶形Iの粉末X線回折スペクトルである。
【
図19】式Iの化合物のマレイン酸塩の結晶形IIの粉末X線回折スペクトルである。
【
図20】式Iの化合物のマレイン酸塩の結晶形IIIの粉末X線回折スペクトルである。
【
図21】式Iの化合物の酢酸塩の結晶形Iの粉末X線回折スペクトルである。
【
図22】式Iの化合物の酢酸塩の結晶形IIの粉末X線回折スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0117】
好ましい実施態様
1.用語
本明細書で使用する用語“薬剤的に許容される”とは、健全な医療判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応や他の問題になる事態もなく人間や動物の組織との接触に適していて、妥当な利益比/リスク比に相応する化合物、物質、組成物、および/または剤形をいう。
【0118】
本明細書で使用する用語“実質的に純粋な”とは、本発明のある特定の実施態様において、式Iの化合物の結晶構造が実質的に純粋な形態にあり、即ち、HPLC純度または結晶形が実質的に90%以上(数字自身を含む)、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、そして最も好ましくは99.5%以上であることをいう。
【0119】
本明細書で使用する用語“多形”または“多形体”とは、同じ化学組成を持つが、結晶を形成する分子、原子、および/またはイオンの異なった空間配置を有する結晶形をいう。多形体は同じ化学組成を有するが、それらはパッキングや幾何学的配置が異なり、融点、形状、色、密度、硬度、変形能、安定性、溶解性、溶解速度および類似特性などの異なる物理特性を示す。それらの温度‐安定性相関により、2つの多形体はモノトロピックであるか、またはエナンチオトロピックである。モノトロピック系については、2つの固相関の相対的安定性は、温度が変化しても一定のままである。これに対し、エナンチオトロピック系においては、2つの相の安定性が逆転する遷移温度がある(Theory and Origin of Polymorphism in “Polymorphism in Pharmaceutical Solids” (1999) ISBN: )-8247-0237)。異なる結晶構造に存在する化合物の現象は、薬物多形現象と呼ばれる。
【0120】
本発明の結晶構造は、適当な溶媒からの結晶化や再結晶、昇華、融液からの成長、他の相からの固体状態変換、超臨界流体からの結晶化、ジェットスプレーなどの種々の方法によって製造できる。溶媒混合液からの結晶構造の結晶化や再結晶の技術には、溶媒の蒸発、溶媒混合液の温度の低下、分子および/またはその塩の過飽和溶媒混合液中への播種、溶媒混合液の凍結乾燥、または溶媒混合液への貧溶媒の添加などが挙げられる。多形体などの結晶構造は、高生産性結晶化技術を用いて製造できる。多形体を含む薬物結晶、製造方法および薬物結晶の特性は、Solid-State Chemistry of Drugs, S.R. Byrn, R.R. Pfeiffer, and J.G. Stowell, 2nd, SSCI, West Lafayette, Indiana, 1999に開示されている。
【0121】
その上、当業者に知られているように、種結晶は、どのような結晶化混液にも添加して結晶化を促進できる。それ故、本発明でも、特定の結晶構造の成長をコントロールする手段として、または結晶生成物の粒子径分布をコントロールする手段として、種結晶を用いることができる。従って、“Programmed cooling of batch crystallizers,” J. W. Mullin and J. Nyvlt, Chemical Engineering Science, 1971, 26, 369-377に記載されているように、必要な種結晶の計算量は、利用できる種結晶のサイズや平均の生成物粒子の希望サイズに依存する。一般に、小さなサイズの種が、バッチでの結晶の成長を効率的にコントロールするのに必要である。小サイズの種結晶は、大結晶のふるい分け、製粉、または微粒化により、または溶液マイクロ結晶化により製造できる。結晶の製粉や微粒化は望みの結晶構造の結晶化度に何ら変化(即ち、アモルファスへ、または他の多形体への変化)をもたらさないことに注意する必要がある。
【0122】
本発明で開示またはクレームする結晶構造と等価の結晶構造は、試験条件、純度、装置、および当業者に知られた他の一般的な変数に依存して、合理的な誤差範囲内で類似ではあるが同一ではない分析特性を示す。従って、本発明の範囲や精神から離れることなく本発明に種々の修正や変更をすることができることは当業者に明らかである。本発明の他の実施態様は、ここに開示する本発明の明細書の考察と実践に基づいて当業者に明らかである。出願人は、明細書と実施例は代表例であって、その範囲を限定するものと考えてはならないということを意図している。
【0123】
本明細書において、用語”室温”または“RT”は、20~25°C (68-77°F)の環境温度をいう。
【0124】
2.試験物質
本発明の実施例で使用した試薬は、市販で入手できる工業グレードまたは分析グレードの試薬である。式Iの選択した化合物は、Hansonにより出願された特許出願(特許文献1)の実施例26に従って調製したアモルファス固体である。
【0125】
3.分析方法
3.1粉末X線回折
当業者は、粉末X線回折パターンは使用する測定条件に依存する測定誤差を持って得られることを認識している。具体的には、粉末X線回折パターンにおける強度は用いる物質の状態によって増減する。相対強度は、また、試験条件によっても変動し、従って、正確な強度を考慮することができないことも更に理解する必要がある。更に、慣用の粉末X線回折角の測定誤差は、通常約5%以下であり、そのような程度の測定誤差は上述の回折角に属すると見なされる。それ故、本発明の結晶構造は、本明細書に開示された図に示された粉末X線回折スペクトルと正確に同じX線回折スペクトルを与える結晶構造に限定されないということを理解する必要がある。図に開示されたものと実質的に同じ粉末X線回折スペクトルを与えるどんな結晶構造も、本発明の範囲に入る。実質的に同じ粉末X線回折スペクトルを測定する能力は、当業者の能力の範囲内である。他の適切な標準検定は、当業者に公知である。しかしながら、相対強度は結晶の大きさや形状に依存して変動する。
【0126】
式Iの化合物の多形体は、それらの粉末X線回折(XRPD)スペクトルによって特徴づけられた。それ故、粉末X線回折スペクトルは、Rigaku Uitimalv粉末X線回折計により反射モードでCu Kα放射線(1.54 Å)を用いて収集した。管電圧と電流量は、それぞれ40 kVおよび40 mAにセットした。5.0°~45°の2θ範囲で、サンプルを5分間スキャンした。全ての分析は、通常20°C-30°Cの室温で行った。XRPDのサンプルは、次のようにして調製した:サンプルを単結晶シリコンのウエハ上に置き、次いで粉末サンプルをガラスシートまたは同等物でプレスして、サンプル表面が平らで、適切な高さを持つようにした。次いで、サンプルホルダーをRigaku Uitimalv装置に置いて、粉末X線回折スペクトルを上記装置パラメータを用いて収集した。粉末X線回折の解析結果に関する測定差は、(a)サンプル調製のエラー(例、サンプルの高さ)、(b)装置エラー、(c)キャリブレーションエラー、(d)オペレーターエラー(ピーク位置の測定で生じるエラー等)、および(e)物質の特性(例、好ましい配向エラー)などの種々のファクターによって生じる。キャリブレーションエラーとサンプルの高さのエラーは、しばしば全てのピークの同じ方向のシフトを起こす。一般に、キャリブレーションファクターは測定ピーク位置を予想ピーク位置と2θ予想値 ± 0.2°の範囲で一致させる。
【0127】
本発明の実施例で得られた各多形体の角度2θ値(°)および強度値(最も高いピーク値に対する%)は、表1~22に示す。
【0128】
3.2熱重量分析(TGA)
熱重量分析(TGA)試験は、TA InstrumentsTM model Q500で行った。サンプル(約2-10 mg)を前もって秤量した白金皿の上に置いた。サンプル重量を装置で正確に測定して、千分の1ミリグラム(a thousand of a milligram)まで記録した。炉は100 ml/分で窒素でパージした。データは、10°C/分の加熱速度で室温と300°Cの間で収集した。
【0129】
3.3示差走査熱量測定(DSC)
示差走査熱量測定(DSC)試験は、TA InstrumentsTM model Q200で行った。サンプル(約2-10 mg)をアルミニウム皿に秤量し、百分の1ミリグラムの(a hundred of a milligram)まで正確に記録して、DSCに移した。装置は、50 ml/分で窒素でパージした。データは、10°C/分の加熱速度で室温と300°Cの間で収集した。スペクトルは、吸熱ピークが下向きのときにプロットした。しかしながら、当業者は、DSC測定において、測定したスタート温度と最高温度は、加熱速度、結晶の形状と純度、および他の測定パラメータに依存して、一定程度で変動するということを知っている。
【0130】
以下の具体的実施例は本発明の解決法の具体的態様をさらに説明するために用いるものであり、これらの実施例はいかなる場合も本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0131】
式Iの化合物のフリー塩基の結晶形Iの調製
式Iの化合物のフリー塩基固体(アモルファス)の約20 mgを秤量して1.5 mLバイアル瓶に入れ、ポジティブ溶媒としてプロパノール100 μLを各ステップで添加し、混合物を垂直に振とうして固体が完全に溶解するまで超音波処理を行い、次いでポジティブ溶媒の添加をストップした。撹拌条件下に、貧溶媒としての水を大量の固形物が沈降するまで室温でゆっくりと添加した。沈降が止まった後、20分間撹拌を続けた。固液分離を行って式Iの化合物のフリー塩基の結晶形Iを得た。粉末X線回折スペクトルを
図1に示す。
【実施例2】
【0132】
式Iの化合物のフリー塩基の結晶形IIの調製
式Iの化合物のフリー塩基固体(アモルファス)の約20 mgを秤量して1.5 mLバイアル瓶に入れ、次いでポジティブ溶媒としてギ酸エチルを添加した。混合物を垂直に振とうし、固体をまず溶解し、次いで急速に再結晶させて固体を生成させた。固液分離を行って式Iの化合物のフリー塩基の結晶形IIを得た。粉末X線回折スペクトルを
図2に示す。
【実施例3】
【0133】
式Iの化合物のフリー塩基の結晶形IIIの調製
式Iの化合物のフリー塩基固体(アモルファス)の約20 mgを秤量して1.5 mLバイアル瓶に入れ、ポジティブ溶媒としてメタノール100 μLを各ステップで添加し、混合物を垂直に振とうして固体が完全に溶解するまで超音波処理を行い、次いでポジティブ溶媒の添加をストップした。撹拌条件下に、貧溶媒としての水を大量の固形物が沈降するまで室温でゆっくりと添加した。沈降が止まった後、20分間撹拌を続けた。固液分離を行って式Iの化合物のフリー塩基の結晶形IIIを得た。粉末X線回折スペクトルを
図3に示す。
【実施例4】
【0134】
式Iの化合物の塩酸塩の結晶形Iの調製
式Iの化合物のフリー塩基固体(アモルファス)の約20 mgを秤量して1.5 mLバイアル瓶に入れ、次いでポジティブ溶媒としてアセトニトリル200 μLを添加して、固形物を溶解した。撹拌条件下に、等モルの塩酸を室温でバイアル瓶に添加した。撹拌を24時間継続した後、固液分離を行って式Iの化合物の塩酸塩の結晶形Iを得た。粉末X線回折スペクトルを
図4に示す。
【実施例5】
【0135】
式Iの化合物の硫酸塩の結晶形Iの調製
式Iの化合物のフリー塩基固体(アモルファス)の約20 mgを秤量して1.5 mLバイアル瓶に入れ、次いでポジティブ溶媒としてメタノール200 μLを添加して、固形物を溶解した。撹拌条件下に、等モルの硫酸を室温でバイアル瓶に添加した。撹拌を24時間継続した後、固液分離を行って式Iの化合物の硫酸塩の結晶形Iを得た。粉末X線回折スペクトルを
図5に示す。
【実施例6】
【0136】
式Iの化合物の硫酸塩の結晶形IIの調製
式Iの化合物のフリー塩基固体(アモルファス)の約20 mgを秤量して1.5 mLバイアル瓶に入れ、次いでポジティブ溶媒としてアセトニトリル200 μLを添加して、固形物を溶解した。撹拌条件下に、等モルの硫酸を室温でバイアル瓶に添加した。撹拌を24時間継続した後、固液分離を行って式Iの化合物の硫酸塩の結晶形IIを得た。粉末X線回折スペクトルを
図6に示す。
【実施例7】
【0137】
式Iの化合物の硫酸塩の結晶形IIIの調製
式Iの化合物のフリー塩基固体(アモルファス)の約20 mgを秤量して1.5 mLバイアル瓶に入れ、次いでポジティブ溶媒としてアセトン200 μLを添加して、固形物を溶解した。撹拌条件下に、等モルの硫酸を室温でバイアル瓶に添加した。撹拌を24時間継続した後、固液分離を行って式Iの化合物の硫酸塩の結晶形IIIを得た。粉末X線回折スペクトルを
図7に示す。
【実施例8】
【0138】
式Iの化合物の硫酸塩の結晶形IVの調製
式Iの化合物のフリー塩基固体(アモルファス)の約20 mgを秤量して1.5 mLバイアル瓶に入れ、次いでポジティブ溶媒としエタノール200 μLを添加して、固形物を溶解した。撹拌条件下に、等モルの硫酸を室温でバイアル瓶に添加した。撹拌を24時間継続した後、固液分離を行って式Iの化合物の硫酸塩の結晶形IVを得た。粉末X線回折スペクトルを
図8に示す。
【実施例9】
【0139】
式Iの化合物のリン酸塩の結晶形Iの調製
式Iの化合物のフリー塩基固体(アモルファス)の約20 mgを秤量して1.5 mLバイアル瓶に入れ、次いでポジティブ溶媒としてアセトニトリル200 μLを添加して、固形物を溶解した。撹拌条件下に、等モルのリン酸を室温でバイアル瓶に添加した。撹拌を24時間継続した後、固液分離を行って式Iの化合物のリン酸塩の結晶形Iを得た。粉末X線回折スペクトルを
図9に示す。
【実施例10】
【0140】
式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形Iの調製
式Iの化合物のフリー塩基固体(アモルファス)の約20 mgを秤量して1.5 mLバイアル瓶に入れ、次いでポジティブ溶媒としてジオキサン200 μLを添加して、固形物を溶解した。撹拌条件下に、2.5 μLのメタンスルホン酸を室温でバイアル瓶に添加した。撹拌を24時間継続した後、固液分離を行って式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形Iを得た。粉末X線回折スペクトルを
図10に示す。
【実施例11】
【0141】
式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形IIの調製
式Iの化合物のフリー塩基固体(アモルファス)の約20 mgを秤量して1.5 mLバイアル瓶に入れ、次いでポジティブ溶媒としてイソプロパノール200 μLを添加して、固形物を溶解した。撹拌条件下に、2.5 μLのメタンスルホン酸を室温でバイアル瓶に添加した。撹拌を24時間継続した後、固液分離を行って式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形IIを得た。粉末X線回折スペクトルを
図11に示す。
【実施例12】
【0142】
式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形IIIの調製
式Iの化合物のフリー塩基固体(アモルファス)の約20 mgを秤量して1.5 mLバイアル瓶に入れ、次いでポジティブ溶媒としてジクロロメタン200 μLを添加して、固形物を溶解した。撹拌条件下に、2.5 μLのメタンスルホン酸を室温でバイアル瓶に添加した。撹拌を24時間継続した後、固液分離を行って式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形IIIを得た。粉末X線回折スペクトルを
図12に示す。
【実施例13】
【0143】
式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形IVの調製
約20 mgの式Iの化合物のメシル酸塩固形物を秤量して1.5 mLバイアル瓶に入れ、次いで0.5 mLのメチルtert-ブチルエーテルを添加した。撹拌を24時間継続した後、固液分離を行って式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形IVを得た。粉末X線回折スペクトルを
図13に示す。
【実施例14】
【0144】
式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形Vの調製
約20 mgの式Iの化合物のメシル酸塩固形物を秤量して1.5 mLバイアル瓶に入れ、次いで0.5 mLのテトラヒドロフランを添加した。撹拌を24時間継続した後、固液分離を行って式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形Vを得た。粉末X線回折スペクトルを
図14に示す。
【実施例15】
【0145】
式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形VIの調製
約20 mgの式Iの化合物のメシル酸塩固形物を秤量して1.5 mLバイアル瓶に入れ、次いで0.5 mLのイソプロパノールを添加した。撹拌を24時間継続した後、固液分離を行って式Iの化合物のメシル酸塩の結晶形VIを得た。粉末X線回折スペクトルを
図15に示す。
【実施例16】
【0146】
式Iの化合物のフマル酸塩の結晶形Iの調製
式Iの化合物のフリー塩基固体(アモルファス)の約20 mgを秤量して1.5 mLバイアル瓶に入れ、次いでポジティブ溶媒としてアセトニトリル200 μLを添加して、固形物を溶解した。撹拌条件下に、等モルのフマル酸を室温でバイアル瓶に添加した。撹拌を24時間継続した後、固液分離を行って式Iの化合物のフマル酸塩の結晶形Iを得た。粉末X線回折スペクトルを
図16に示す。
【実施例17】
【0147】
式Iの化合物のフマル酸塩の結晶形IIの調製
式Iの化合物のフリー塩基固体(アモルファス)の約20 mgを秤量して1.5 mLバイアル瓶に入れ、次いでポジティブ溶媒としてアセトン200 μLを添加して、固形物を溶解した。撹拌条件下に、等モルのフマル酸を室温でバイアル瓶に添加した。撹拌を24時間継続した後、固液分離を行って式Iの化合物のフマル酸塩の結晶形IIを得た。粉末X線回折スペクトルを
図17に示す。
【実施例18】
【0148】
式Iの化合物のマレイン酸塩の結晶形Iの調製
式Iの化合物のフリー塩基固体(アモルファス)の約20 mgを秤量して1.5 mLバイアル瓶に入れ、次いでポジティブ溶媒としてアセトニトリル200 μLを添加して、固形物を溶解した。撹拌条件下に、等モルのマレイン酸を室温でバイアル瓶に添加した。撹拌を24時間継続した後、固液分離を行って式Iの化合物のマレイン酸塩の結晶形Iを得た。粉末X線回折スペクトルを
図18に示す。
【実施例19】
【0149】
式Iの化合物のマレイン酸塩の結晶形IIの調製
式Iの化合物のフリー塩基固体(アモルファス)の約20 mgを秤量して1.5 mLバイアル瓶に入れ、次いでポジティブ溶媒として酢酸エチル200 μLを添加して、固形物を溶解した。撹拌条件下に、等モルのマレイン酸を室温でバイアル瓶に添加した。撹拌を24時間継続した後、固液分離を行って式Iの化合物のマレイン酸塩の結晶形IIを得た。粉末X線回折スペクトルを
図19に示す。
【実施例20】
【0150】
式Iの化合物のマレイン酸塩の結晶形IIIの調製
式Iの化合物のフリー塩基固体(アモルファス)の約400 mgを秤量して20 mLバイアル瓶に入れ、次いでポジティブ溶媒として酢酸エチル4 mLを添加して、固形物を溶解した。撹拌条件下に、等モルのマレイン酸を室温でバイアル瓶に添加した。撹拌を24時間継続した後、固液分離を行って式Iの化合物のマレイン酸塩の結晶形IIIを得た。粉末X線回折スペクトルを
図20に示す。
【実施例21】
【0151】
式Iの化合物の酢酸塩の結晶形Iの調製
式Iの化合物のフリー塩基固体(アモルファス)の約20 mgを秤量して1.5 mLバイアル瓶に入れ、次いでポジティブ溶媒としてアセトニトリル200 μLを添加して、固形物を溶解した。撹拌条件下に、等モルの酢酸を室温でバイアル瓶に添加した。撹拌を24時間継続した後、固液分離を行って式Iの化合物の酢酸塩の結晶形Iを得た。粉末X線回折スペクトルを
図21に示す。
【実施例22】
【0152】
式Iの化合物の酢酸塩の結晶形IIの調製
式Iの化合物のフリー塩基固体(アモルファス)の約20 mgを秤量して1.5 mLバイアル瓶に入れ、次いでポジティブ溶媒として酢酸エチル200 μLを添加して、固形物を溶解した。撹拌条件下に、等モルの酢酸を室温でバイアル瓶に添加した。撹拌を24時間継続した後、固液分離を行って式Iの化合物の酢酸塩の結晶形IIを得た。粉末X線回折スペクトルを
図22に示す。
【0153】
最後に、上記実施例は本発明の技術的解決法を説明するためにのみ用いるものであって、本発明の範囲を限定するものではないことに注意しなければならない。本発明を好ましい実施例を参照して詳述したが、当業者は、本発明の技術的解決法は本発明の精神と範囲から外れることなく修正し、または等価に変更することができ、そのような修正や変更も本発明のクレームに含まれるということを理解する必要がある。