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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】食材の製造方法及び蒲焼の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/00 20160101AFI20220117BHJP
【FI】
A23L17/00 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018550101
(86)(22)【出願日】2017-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2017037771
(87)【国際公開番号】W WO2018088155
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2016219739
(32)【優先日】2016-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306002858
【氏名又は名称】明神 宏幸
(73)【特許権者】
【識別番号】521321170
【氏名又は名称】明神 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100081271
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 芳春
(73)【特許権者】
【識別番号】521321181
【氏名又は名称】山▲崎▼ 祥真
(74)【代理人】
【識別番号】100081271
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 芳春
(73)【特許権者】
【識別番号】521321192
【氏名又は名称】青野 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100081271
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 芳春
(72)【発明者】
【氏名】明神 宏幸
【審査官】吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-170411(JP,A)
【文献】特開平10-229840(JP,A)
【文献】特開2003-033162(JP,A)
【文献】国際公開第2016/163511(WO,A1)
【文献】簡単!サンマの蒲焼き 蒲焼き丼でも旨い*, クックパッド, [online],2015年10月27日,[2018年1月25日検索], インターネット<http://cookpad.com/recipe/3481020>
【文献】蔀 伸一, 矢口登希子,未利用魚(アメリカナマズ)の有効利用について,茨城県水産試験場報業報告書 平成15年度,2005年03月,p. 306, 307
【文献】寺嶋昌代, 萩生田憲昭,世界のナマズ食文化とその歴史,日本食生活学会誌,2014年,第25巻, 第3号,p.211-220
【文献】米粉でかば焼きイワシ。, クックパッド, [online],2016年04月02日,[2018年1月25日検索], インターネット<URL: https://cookpad.com/recipe/3761367>
【文献】BARI, M. L. et al.,Preservation of Fish Cutlet (Pangasius pangasius) at Ambient Temperature by Irradiation,Journal of Food Protection,2000年,Vol. 63, No. 1,p. 56-62,ISSN 1944-9097
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/CABA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナマズの皮付き切り身を高い塩分濃度を有する食塩水に浸漬して水分を抜く水抜き工程と、
1~3wt%の穀物粉と水との懸濁液を前記水抜き工程後の皮付き切り身にそそぐか、又は1~3wt%の穀物粉と水との懸濁液内に前記水抜き工程後の皮付き切り身を浸漬することにより、前記皮付き切り身に身崩れを抑制するための穀物粉からなる身締め材を付加する身締め材付加工程と、
前記穀物粉が付加された前記皮付き切り身を加熱した油に浸漬することにより、前記穀物粉を固化させる身締め材固化工程と、
を備えたことを特徴とする食材の製造方法。
【請求項2】
前記身締め材付加工程は、前記穀物粉として米粉を用いることを特徴とする請求項1に記載の食材の製造方法。
【請求項3】
前記水抜き工程の前に、冷凍されている前記皮付き切り身を流水で解凍する解凍工程をさらに備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の食材の製造方法。
【請求項4】
前記ナマズとしてパンガシウスを用いることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の食材の製造方法。
【請求項5】
ナマズの皮付き切り身を高い塩分濃度を有する食塩水に浸漬して水分を抜く水抜き工程と、
1~3wt%の穀物粉と水との懸濁液を前記水抜き工程後の皮付き切り身にそそぐか、又は1~3wt%の穀物粉と水との懸濁液内に前記水抜き工程後の皮付き切り身を浸漬することにより、前記皮付き切り身に身崩れを抑制するための穀物粉からなる身締め材を付加する身締め材付加工程と、
前記身締め材付加工程によって前記穀物粉が付加された前記皮付き切り身を加熱した油に浸漬することにより、前記穀物粉を固化させる身締め材固化工程と、
前記身締め材固化工程後の皮付き切り身をタレに浸漬するタレ漬け工程と、
前記タレ漬け工程後の皮付き切り身を焼く焼き入れ工程と、
を備えたことを特徴とする蒲焼の製造方法。
【請求項6】
前記タレ漬け工程及び前記焼き入れ工程を複数回繰り返すことを特徴とする請求項に記載の蒲焼の製造方法。
【請求項7】
前記身締め材付加工程は、前記穀物粉として米粉を用いることを特徴とする請求項5又は6に記載の蒲焼の製造方法。
【請求項8】
前記水抜き工程の前に、冷凍されている前記皮付き切り身を流水で解凍する解凍工程をさらに備えていることを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載の蒲焼の製造方法。
【請求項9】
前記ナマズとしてパンガシウスを用いることを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載の蒲焼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナマズを用いて、例えば蒲焼用、照り焼き用又は素焼き用の食材を製造する食材の製造方法及び蒲焼の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、うなぎの蒲焼の価格は、うなぎ稚魚の漁獲量の激減に伴って大幅に高騰しており、一般消費者が日常的に食することができなくなってきている。特に、国産(日本産)うなぎの蒲焼の価格は、著しく高騰している。
【0003】
このような状況を打開すべく、見た目の感じや食感をできるだけうなぎの蒲焼に近付けた蒲焼代替品が種々の提案されている。例えば特許文献1には、うなぎ蒲焼風食品の製造方法が提案されている。この製造方法は、魚肉切り身と魚肉すり身とを含む表側成形物と、魚肉すり身と黒色着色剤とを含む裏側成形物とを貼り合わせて成形し、蒸し煮又は揚成後に両面焼成し、蒲焼のタレを塗布するものである。
【0004】
魚肉すり身を用いたこのような代替品が提案される一方で、食感や身の質感がうなぎに近いナマズを用いてうなぎ蒲焼風に製造した食品も市場に出回っている。ナマズによる蒲焼代替品の市場での評判は良好であり、漁獲量が低下しているうなぎの代替品として大いに期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-62346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ナマズは、コラーゲンの含有量が非常に多く、加熱すると身が柔らかくなるという特性を有している。周知のようにコラーゲンは加熱すると溶けてゼラチンに変質し25℃前後で液体状態となるため、身の結合組織がコラーゲンで構成されるナマズを加熱すると、結合が弱くなって身が柔らかくなってしまうのである。
【0007】
従って、ナマズを用いて蒲焼を製造する場合、温度が上がると身の結合が弱まって柔らかくなるため、焼いている途中で身崩れが起きないように慎重に処理する必要があった。身崩れした状態で焼き上げると、商品価値が大幅に低下してしまうためである。このため、焼き上げ処理にかなりの熟練度を要し、生産効率を高めることが難しかった。
【0008】
ナマズの一種であるパンガシウスは、ベトナム、カンボジア及びタイ等の東南アジアにおいて漁獲量が非常に多いため、今後予想される需要の増大に対する供給量確保の観点から有望視されている。しかしながら、パンガシウスは、コラーゲンの含有量が国産(日本産)ナマズに比して遥かに大きいことから、より身崩れを起こし易く、従って、パンガシウスをうなぎの蒲焼代替品として用いることは非常に難しく、生産効率を高めることは極めて困難であった。
【0009】
本発明はこのような状況に鑑みて創案されたもので、その目的は、パンガシウス等のナマズを焼き上げ処理して食材を製造する場合にその生産性を大幅に向上させることができる食材の製造方法及び蒲焼の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、食材の製造方法は、ナマズの皮付き切り身(皮付きフィレ)を高い塩分濃度(皮付き切り身の塩分濃度より高い塩分濃度)を有する食塩水に浸漬して水分を抜く水抜き工程と、水抜き工程後の皮付き切り身に身崩れを抑制するための身締め材を付加する身締め材付加工程と、身締め材付加工程によって皮付き切り身に付加された身締め材を固化させる身締め材固化工程とを備えている。
【0011】
水抜き工程において水分を抜くことにより皮付き切り身が締り、さらに、身締め材を付加した後、この身締め材を固めることにより、その後の皮付き切り身も身崩れに対する取り扱い性を向上させることができる。即ち、できる限り食感を損なうことなく、焼く前に身崩れ易さを効果的に防止し、取り扱い性を向上させて、生産性の歩留まりを抑制するようにしている。このようにして製造された食材は、蒲焼、照り焼き及び素焼きの食材として供給することができる。
【0012】
身締め材付加工程は、皮付き切り身に穀物粉、例えば米粉又は小麦粉、を振りかける工程を含んでいることが好ましい。皮付き切り身に穀物粉を振りかけることにより、簡単に身締め材を付加することができる。
【0013】
身締め材付加工程は、1~3wt%の穀物粉と水との懸濁液を皮付き切り身にそそぐ工程、又は1~3wt%の穀物粉と水との懸濁液内に皮付き切り身を浸漬する工程を含んでいることも好ましい。身締め材付加工程をこのように構成することにより、穀物粉を均一に付加することができる。また、穀物粉の含有割合を上述の範囲とすることにより、身崩れ防止機能を得つつ穀物粉による膜が厚くなることによって食感が低下することを抑制できる。
【0014】
身締め材付加工程は、穀物粉として米粉を用いることも好ましい。穀物粉として米粉を用いれば、小麦タンパクの一種でアレルギーや疾患の原因となるグルテンが含まれないので、いわゆるグルテンフリーの食材を提供することができる。
【0015】
身締め材固化工程は、身締め材付加工程後の皮付き切り身を加熱した油に浸漬する工程を含んでいることも好ましい。なお、穀物粉として米粉を用いた場合、米粉は小麦粉に比べて油の吸収率が低いので、油の付着を少なくでき、油の付着による味わいの低下を抑制できる。
【0016】
水抜き工程の前に、冷凍されている皮付き切り身を流水で解凍する解凍工程をさらに備えていることも好ましい。
【0017】
ナマズとしてパンガシウスを用いることも好ましい。安価にかつ多量に安定して入手可能なパンガシウスを用いることにより、製造コストの大幅な低減化を図ると共に安定した供給を行うことができる。
【0018】
本発明によれば、さらに、蒲焼の製造方法は、(皮付きフィレ)を高い塩分濃度(皮付き切り身の塩分濃度より高い塩分濃度)を有する食塩水に浸漬して水分を抜く水抜き工程と、水抜き工程後の皮付き切り身に身崩れを抑制するための身締め材を付加する身締め材付加工程と、身締め材付加工程によって皮付き切り身に付加された身締め材を固化させる身締め材固化工程と、身締め材固化工程後の皮付き切り身をタレに浸漬するタレ漬け工程と、タレ漬け工程後の皮付き切り身を焼く焼き入れ工程とを備えている。
【0019】
水抜き工程において水分を抜くことにより皮付き切り身が締り、さらに、身締め材を付加した後、この身締め材を固めることにより、その後の皮付き切り身も身崩れに対する取り扱い性を向上させることができる。即ち、できる限り食感を損なうことなく、焼く前に身崩れ易さを効果的に防止し、取り扱い性を向上させて、生産性の歩留まりを抑制するようにした。このようにして製造された食材は、蒲焼、照り焼き及び素焼きの食材として供給することができる。
【0020】
タレ漬け工程及び焼き入れ工程を複数回繰り返すことが好ましい。
【0021】
身締め材付加工程は、皮付き切り身に穀物粉、例えば米粉又は小麦粉、を振りかける工程を含んでいることが好ましい。皮付き切り身に穀物粉を振りかけることにより、簡単に身締め材を付加することができる。
【0022】
身締め材付加工程は、1~3wt%の穀物粉と水との懸濁液を皮付き切り身にそそぐ工程、又は1~3wt%の穀物粉と水との懸濁液内に皮付き切り身を浸漬する工程を含んでいることも好ましい。身締め材付加工程をこのように構成することにより、穀物粉を均一に付加することができる。また、穀物粉の含有割合を上述の範囲とすることにより、身崩れ防止機能を得つつ穀物粉による膜が厚くなることによって食感が低下することを抑制できる。
【0023】
身締め材付加工程は、穀物粉として米粉を用いることも好ましい。穀物粉として米粉を用いれば、小麦タンパクの一種でアレルギーや疾患の原因となるグルテンが含まれないので、いわゆるグルテンフリーの食材を提供することができる。
【0024】
身締め材固化工程は、身締め材付加工程後の皮付き切り身を加熱した油に浸漬する工程を含んでいることも好ましい。なお、穀物粉として米粉を用いた場合、米粉は小麦粉に比べて油の吸収率が低いので、油の付着を少なくでき、油の付着による味わいの低下を抑制できる。
【0025】
水抜き工程の前に、冷凍されている皮付き切り身を流水で解凍する解凍工程をさらに備えていることも好ましい。
【0026】
ナマズとしてパンガシウスを用いることも好ましい。安価にかつ多量に安定して入手可能なパンガシウスを用いることにより、製造コストの大幅な低減化を図ると共に安定した供給を行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ナマズを用いた食材の製造及び蒲焼の製造において、身崩れに対する取り扱い性を向上させることができる。即ち、できる限り食感を損なうことなく、焼く前に身崩れ易さを効果的に防止し、取り扱い性を向上させて、生産性の歩留まりを抑制することができる。従って、国産(日本産)ナマズや輸入ナマズについて、ナマズの蒲焼としての生産性を向上させることができる。特に、ナマズとして、パンガシウスを用いることにより、製造コストの大幅な低減化を図ると共に安定した供給を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の食材の製造方法及び蒲焼の製造方法の工程を示すフローチャートである。
図2】本発明の一実施形態における蒲焼の製造方法の工程を示すフローチャートである。
図3】1枚のナマズの皮付き切り身の例を示す斜視図である。
図4】食塩水に浸して皮付き切り身の水分を抜く水抜き工程を概略的に示す説明図である。
図5】皮付き切り身の表面に身崩れを抑制するための身締め材を付加する身締め材付加工程を概略的に示す説明図である。
図6】皮付き切り身を液切り金具に載せた状態を概略的に示す斜視図である。
図7】皮付き切り身を所定温度の食用油に浸漬して身締め材を固める身締め材固化工程を概略的に示す説明図である。
図8】身締め材固化工程を終えた皮付き切り身を焼きタレに浸漬する第1のタレ漬け工程を概略的に示す説明図である。
図9】焼きタレに浸漬した皮付き切り身の一面(身側)を焼く第1の焼き入れ工程を概略的に示す説明図である。
図10】一面を焼いた皮付き切り身を仕上げタレに浸漬する第2のタレ漬け工程と皮付き切り身を仕上げタレ槽内で反転させる処理を概略的に示す説明図である。
図11】仕上げタレに浸漬した皮付き切り身の他面(皮側)を焼く第2の焼き入れ工程を概略的に示す説明図である。
図12】本発明の他の実施形態における蒲焼の製造方法の工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の食材の製造方法及び蒲焼の製造方法について説明する。
【0030】
図1に示すように、本発明の食材の製造方法は、ナマズの皮付き切り身(皮付きフィレ)を食塩水に浸して水分を抜く水抜き工程(ステップS1)と、身締め材を付加する身締め材付加工程(ステップS2)と、身締め材を固める身締め材固化工程(ステップS3)とを備えている。また、本発明の蒲焼の製造方法は、身締め材固化工程(ステップS3)を終えた食材である皮付き切り身を焼きタレに浸漬する第1のタレ漬け工程(ステップS4)と、タレ漬けした皮付き切り身の一面を焼く第1の焼き入れ工程(ステップS5)と、第1の焼き入れを行った皮付き切り身を仕上げタレに浸漬する第2のタレ漬け工程(ステップS6)と、タレ漬けした皮付き切り身の他面を焼く第2の焼き入れ工程(ステップS7)とを備えている。
【0031】
図2は本発明の一実施形態における蒲焼の製造方法の一連の工程を具体的に示しており、以下、同図に基づいて、本実施形態のこれら工程について詳細に説明する。なお、以下に記載する温度や時間等の数値は単なる一例であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
図2に示すように、まず、-20℃の冷凍庫に保管されているナマズ(例えば、パンガシウス)の皮付き切り身(皮付きフィレ)を取り出し(ステップS10)、取り出した冷凍の皮付き切り身を流水で解凍する(ステップS11)。本実施形態における1枚の皮付き切り身の大きさは、例えば約230gであり、流水解凍の時間は約10分である。皮付き切り身の大きさを、100g~300g又はそれ以上としても良い。この流水による解凍によれば、淡水魚特有の泥臭さも除去される。
【0033】
なお、冷凍庫に保管されている皮付き切り身は、国内で製造されたものであっても良いが、ベトナム、カンボジア及びタイ等の東南アジアで養殖されたパンガシウスを採肉して皮付き切り身(皮付きフィレ)に加工して冷凍したものを輸入したものであっても良い。もちろん、冷凍されていない生の皮付き切り身をそのまま用いても良い。この場合は、当然のことながら、解凍処理は不要である。図3は解凍後の1つの皮付き切り身1を示しており、この皮付き切り身1は、一方の面側の身2と他方の面側の皮3とから構成されている。
【0034】
次いで、解凍を終えた皮付き切り身1の水抜き工程を行う(ステップS12)。この水抜き工程は、図4に示すように、例えば容器(鍋)4内に3wt%濃度の食塩水5を収容しておき、この食塩水5内に解凍した皮付き切り身を浸漬するものである。この場合の食塩水5の塩分濃度は、ナマズ(例えばパンガシウス)の皮付き切り身1の塩分濃度よりも高い濃度に設定されている。従って、食塩水5の塩分濃度は3%に限定されず、1~3wt%である。
【0035】
皮付き切り身1を高い塩分濃度の食塩水5に浸漬すると、浸透圧の原理で皮付き切り身1の内部から水分が流出し、その身2が固くなって締まる。この浸漬時間は約3分である。なお、この食塩水5への浸漬によれば、淡水魚特有の臭み等の異臭の排除も行われる。
【0036】
次いで、水抜き工程を終えた皮付き切り身1の表面に、身崩れを抑制するための身締め材を付加する身締め材付加工程を行う(ステップS13)。本実施形態において、身締め材付加工程は、図5に示すように、穀物粉と水との懸濁液6を例えば容器(鍋)7内に収容しておき、この懸濁液6内に皮付き切り身1を浸漬することによって行う。この浸漬により、懸濁液6が皮付き切り身1の内部へ浸透し、その表面には懸濁液6の皮膜が形成される。
【0037】
身締め材である穀物粉としては、米粉、小麦粉又はその他の穀物粉を用いることができる。本実施形態では、後述するように、油に浸漬する身締め材固化工程における油の付着量を抑制する観点から、米粉を使用している。また、米粉には小麦タンパクの一種でアレルギーや疾患の原因となるグルテンが含まれず、いわゆるグルテンフリーを実現できる利点もある。
【0038】
水に対する米粉の含有割合は、1~3wt%が望ましい。含有量がこの範囲よりも少ないと良好な身締め機能が得られず、焼いている途中や流通過程で身崩れを起し易い。また、含有量がこの範囲を超えると、米粉の膜厚が大きくなり、食感の低下につながる。また、食感を損なわずかつ身締め機能が得られるように、米粉の懸濁液6への浸漬時間は、ほんの短い時間(数秒)とすることが望ましい。浸漬時間が増えるにつれて表面の膜厚が大きくなり、食感が損なわれる。
【0039】
なお、本実施形態では、皮付き切り身1を懸濁液6内に浸漬するようにしているが、この懸濁液6を皮付き切り身1にそそぐことによっても、身締め材を同様に付加することができる。
【0040】
次いで、身締め材付加工程を終えた皮付き切り身1について、付加された米粉を固めるための身締め材固化工程を行う(ステップS14)。まず、図6に示すように、液切り金具8上に皮付き切り身1を身2が上となるように複数枚並べる。身2を上にする理由は、皮付き切り身1の自重で身崩れが起きないようするためである。液切り金具8は、格子状又は網状に構成された切り身載置部の両端に取手8aを設け、加熱した場合にこれら取手8aにフック9を引っ掛けて持ち運びできるように構成されている。複数の皮付き切り身1を載置したこのような液切り金具8を、加熱された油11内に浸漬する。図7に示すように、容器(鍋)12内に油11を収容し、この油11をガスコンロ等の加熱器10で所定温度(例えば180℃)に加熱しておき、この油11内に複数の皮付き切り身1を浸漬するのである。加熱油への浸漬時間は約5分である。油11としては、サラダ油やオリーブオイル等を使用できる。
【0041】
このように身締め材を表面に付加した皮付き切り身1を油11内へ浸漬することにより、身締め材である米粉が固化される。これは、水と熱の作用で米の主成分であるデンプンがアルファ化(糊化)する性質を利用し、皮付き切り身1に付加された米粉を固め、身締め機能を発現させるものである。即ち、皮付き切り身1の表面に付着された米粉が皮付き切り身1の表面を包むようにして固まるので、身が締められて身崩れが抑制される。皮付き切り身1の内部に浸透した米粉も、加熱により固まり、身崩れ防止に寄与する。
【0042】
皮付き切り身1を加熱油へ浸漬する処理は、後に行われる焼き工程における身崩れを防止するために、身締め材として付加された米粉を固めるためのものである。うなぎの蒲焼ではよく「脂が乗っている」というような味わいの表現が使われるが、脂の乗りは切り身自体が持っているものであり、加熱油への浸漬における油の付着はその味わいを阻害する。このため、油の付着はできるだけ少ない方がよい。この観点から、本実施形態では、油の吸収率が小麦粉よりも低い米粉を身締め材として用いている。小麦粉を用いた場合、米粉よりも油の吸収率が高いので、揚げ物感が強まり、蒲焼としての味わい及び食感を損なうおそれがある。また、皮付き切り身1の表面に米粉による身崩れ防止皮膜が形成されることにより、加熱油への浸漬処理において切り身の水分が蒸発し過ぎることによる身のパサパサ感を抑制することができる。
【0043】
加熱油へ浸漬する処理は、その後に皮付き切り身1を焼いたときに、身2の内部の生焼きを回避できる副次的効果がある。即ち、皮付き切り身1を加熱された油11へ浸漬することにより、身2の中央部まで熱を印加することができるため、後に行われる焼き工程での焼き具合が不十分な場合でも、生臭さや食あたり等の発生を未然に防止することができる。さらに、加熱油へ浸漬する処理は、脂質を増加させてうなぎの蒲焼に近付ける機能をも有する。
【0044】
身締め材である米粉の固まりを向上させるために、米粉の粒度は100メッシュ(約140μm)以上であることが望ましい。粒度が大きくなればなる程、凝集力が大きくなり、固まり易くなる。グルテンフリーの効果を予定しない場合には、米粉にグルテンを15~20%程度加えて網膜組織を作り、固まり易さを向上させても良い。
【0045】
なお、本発明における身締め材固化工程における加熱処理は、皮付き切り身1を加熱油へ浸漬する処理に限定されない。例えば、皮付き切り身1をレンジやオーブン等で直接的に加熱してもよい。
【0046】
以上説明した水抜き工程、身締め材付加工程、及び身締め材固化工程によって、本発明の食材の製造方法が構成され、この方法で製造された皮付き切り身は、ナマズの蒲焼材料、照り焼き材料、又は素焼き材料として流通させることができる。
【0047】
次に、本発明の蒲焼の製造方法において、上述した食材の製造方法の各工程に続く工程を説明する。
【0048】
図2のステップS14における身締め材固化工程に続いて、第1のタレ漬け工程を行う(ステップS15)。即ち、皮付き切り身1の載った液切り金具8を、フック9を使って、図7に示す容器12から引き上げ、図8に示す容器14内に収容されている焼きタレ13に浸漬する。このタレ漬けを、約10分間行う。
【0049】
次いで、第1の焼き入れ工程を行う(ステップS16)。即ち、皮付き切り身1の載った液切り金具8を、図8に示す容器14から引き上げ、図9に示す空の容器15に入れて皮付き切り身1の身2側をガスバーナ16で焼く。これは皮付き切り身1の一面を焼く工程であり、約3間分行う。焼き入れを行う手段は、ガスバーナに限定されない。焼く面を適宜に焦がすことができる手段であればどのようなものであっても良い。
【0050】
次いで、第2のタレ漬け工程を行う(ステップS17)。即ち、皮付き切り身1が載った液切り金具8を、図9に示す容器15から引き上げ、図10に示す仕上げタレ槽18内に収容されている仕上げタレ17内に浸漬する。この第2のタレ漬け工程は、第1のタレ漬け工程と同様に約10分間行う。
【0051】
次いで、同じく図10に示すように、仕上げタレ17が入った仕上げタレ槽18中で、皮付き切り身1を浮かした状態でその皮3側が上になるように反転させる(ステップS18)。仕上げタレ槽18にはこの反転動作が充分に可能な量の仕上げタレ17が収容されている。このように浮力を利用して切り身を反転させているので、裏返し動作中に身崩れの起きる心配はない。
【0052】
次いで、第2の焼き入れ工程を行う(ステップS19)。即ち、皮付き切り身1の載った液切り金具8を、図10に示す仕上げタレ槽18から引き上げ、図11に示す空の容器19に入れて皮付き切り身1の皮3側をガスバーナ16で焼く。これは皮付き切り身1の他面を焼く工程であり、第1の焼き入れ工程と同様に約3分間行う。焼き入れを行う手段は、ガスバーナに限定されない。焼く面を適宜に焦がすことができる手段であればどのようなものであっても良い。
【0053】
以上述べた各工程においては、容器に対する液切り金具8の収まりを均一とし、作業性を向上させるために、これら工程で全て同じ形状及び同じ大きさの容器を用いている。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、各工程において互いに異なる形状及び大きさの容器を用いても良いことは明らかである。逆に、これら工程で使用する容器を同一の容器で兼用しても良い。
【0054】
ステップS19の第2の焼き入れ工程の終了後、皮付き切り身1を、図示しない常温放置台に載せ常温放置し、放熱させて冷却する(ステップS20)。この常温放置時間は約8分である。
【0055】
次いで、常温冷却後の皮付き切り身1を真空袋へ投入し(ステップS21)、この真空袋へ仕上げタレを注入した後、真空パッケージングを行う(ステップS22)。
【0056】
その後、皮付き切り身1の真空パッケージを、塩化カルシウム等を冷媒とする凍結槽へ投入し凍結する(ステップS23)。凍結後、パッケージを清水で洗浄し(ステップS24)、出荷する(ステップS25)。
【0057】
なお、本実施形態では、皮付き切り身1の身2側を上にして処理を行い、最終的に皮3側(背側)を上にして処理を行っているが、皮付き切り身1の皮3側を上にして処理を行い、最終的に身2側を上にして処理を行っても良い。
【0058】
以上説明したように、本実施形態によれば、ナマズ(例えばパンガシウス)の皮付き切り身を皮付き切り身の塩分濃度より高い塩分濃度を有する食塩水に浸漬して水分を抜いているので皮付き切り身が締り、さらに、身締め材を付加した後この身締め材を固めているので、その後の皮付き切り身も身崩れに対する取り扱い性を向上させることができる。即ち、できる限り食感を損なうことなく、焼く前に身崩れ易さを効果的に防止し、取り扱い性を向上させて、生産性の歩留まりを抑制するようにしている。従って、うなぎの蒲焼の代替品としてのナマズの蒲焼の生産性を国産ナマズ(日本産ナマズ)及び輸入ナマズの違いに拘わらず向上させることができる。
【0059】
図12は本発明の他の実施形態における蒲焼の製造方法の一連の工程を具体的に示している。
【0060】
本実施形態と図2図11に示した実施形態との工程上の相違点は、身締め材付加工程の相違にあり、その他の工程については、これら実施形態は互いに同じである。即ち、図12に示すように、本実施形態におけるステップS13′の身締め材付加工程は、皮付き切り身1の表面に米粉を直接的に振りかけて付加している。皮付き切り身1の表面は水分を含んでいるので、振りかけた米粉はこの皮付き切り身1の表面に容易に付着する。本実施形態におけるその他の構成、及び作用効果等は、図2図11の実施形態の場合と同様であるため、説明を省略する。
【0061】
本実施形態のように皮付き切り身1の表面に米粉を振りかけて身締め材付加を行う場合でも、前述の実施形態のように米粉と水との懸濁液内に皮付き切り身を浸漬する場合と同様に、切り身側に水分があるため、加熱した際に水と熱の条件が満たされデンプンの糊化による身締め機能を得ることができる。
【0062】
以上の実施形態では、ナマズによる食材の製造方法及び蒲焼の製造方法について説明したが、身締め材固化工程(図2及び図12のステップS14)を終えた後に、皮付き切り身1にハケ等でタレを付けて焼き、又はこれを複数回繰り返すことにより、ナマズの照り焼きを提供することができる。また、タレを付けずに焼くことにより、ナマズの素焼き(白焼き)を提供することができる。
【0063】
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、なまず、特にパンガシウス、を用いた蒲焼の製造、照り焼きの製造及び素焼きの製造に適用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 皮付き切り身
2 身
3 皮
4、7、12、14、15、18、19 容器
5 食塩水
6 懸濁液
8 液切り金具
8a 取手
9 フック
10 加熱器
11 油
13 焼きタレ
16 ガスバーナ
17 仕上げタレ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12