(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】加圧式リチウム金属ポリマバッテリ
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0565 20100101AFI20220203BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220203BHJP
H01M 50/103 20210101ALI20220203BHJP
H01M 50/107 20210101ALI20220203BHJP
H01M 10/0587 20100101ALI20220203BHJP
H01M 4/134 20100101ALN20220203BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M10/052
H01M50/103
H01M50/107
H01M10/0587
H01M4/134
(21)【出願番号】P 2018554783
(86)(22)【出願日】2017-04-13
(86)【国際出願番号】 CA2017000092
(87)【国際公開番号】W WO2017181266
(87)【国際公開日】2017-10-26
【審査請求日】2020-04-03
(32)【優先日】2016-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518203836
【氏名又は名称】ブルー・ソリューションズ・カナダ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クロード・カリニャン
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン・モルトルー
(72)【発明者】
【氏名】イヴァン・ロイ
(72)【発明者】
【氏名】ギイ・ジルベール
(72)【発明者】
【氏名】アラン・ヴァレ
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-110239(JP,A)
【文献】特開平04-294071(JP,A)
【文献】特開2005-129535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0565
H01M 10/052
H01M 50/103
H01M 50/107
H01M 4/134
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の壁および前記第1の壁の反対側の第2の壁を有する剛性筐体と、
前記剛性筐体内で前記第1の壁と前記第2の壁との間にスタックされた複数の電気化学セルと、
を備えるリチウム金属ポリマバッテリであって、
前記複数の電気化学セルの各電気化学セルは、
リチウムまたはリチウム合金の金属シートで作られたアノードと、
リチウム化された状態においてオリビン型構造、スピネル型構造または層状型構造を備える活物質で作られたカソードと、
前記アノードと前記カソードとの間に配置された固体ポリマ電解質と、を備え、
前記複数の電気化学セルは、前記複数の電気化学セルの第1の状態において第1の厚さを有し、それによって前記第1の壁および前記第2の壁は、第1の圧力を前記複数の電気化学セルにかけ、
前記複数の電気化学セルは、前記複数の電気化学セルの第2の状態において第2の厚さを有し、それによって前記第1の壁および前記第2の壁は、第2の圧力を前記複数の電気化学セルにかけ、
前記第2の厚さは、前記第1の厚さよりも大きく、
前記第2の圧力は、前記第1の圧力よりも大きく、
前記第1の圧力は、ゼロより大きく、
前記第2の圧力は、400psi
(2757.9028kPa)より大きく、
前記第1の状態は、放電状態であり、
前記第2の状態は、充電状態および前記複数の電気化学セルが熱膨張している加熱状態のうちの少なくとも1つであり、
前記バッテリは、能動的な機械的圧力システムがない、バッテリ。
【請求項2】
前記電気化学セルが、フラットな巻回角形構成に組み立てられる、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項3】
前記第1の壁が前記剛性筐体の下部壁であり、前記第2の壁が前記剛性筐体の上部壁である、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項4】
前記第2の状態では、前記複数の電気化学セルの体積が、前記第1の状態よりも少なくとも3%高い、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項5】
前記第2の圧力が、400psi
(2757.9028kPa)から800psi
(5515.8056kPa)の間である、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項6】
前記第2の状態が、前記充電状態である、請求項1~5のいずれか1項に記載のバッテリ。
【請求項7】
前記第2の状態が、前記充電状態および前記加熱状態である、請求項1~5のいずれか1項に記載のバッテリ。
【請求項8】
前記複数の電気化学セルのうちの最も外側の電気化学セルは、前記第1の壁および前記第2の壁と接触している、請求項1に記載のバッテリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ある温度で動作するリチウム金属ポリマバッテリに関し、より具体的には、バッテリの電気化学セルが加圧された状態を維持するための機械的システムを有しないリチウム金属ポリマバッテリに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム金属ポリマバッテリは、典型的には、電気自動車で使用するため、電話通信局、データセンタなどの配管網の停電が許されないアプリケーションへの連続性を確保するバックアップのために固定アプリケーションに使用するため、または、工業用または居住用の建物にピークシェービングの目的で代替電源を提供するために、20kWh以上の大型バッテリとして構築されている。
【0003】
リチウム金属ポリマバッテリは、薄層から構成された1つ以上の基本的な電気化学セル積層体からなり、各積層体は、リチウムまたはリチウム合金の金属シート層で作られたアノードまたは負極と、金属集電体に広がったポリマ塩バインダ内の電気活性な活物質で作られたカソードまたは正極のフィルム層と、正極と負極を分離して電極間のイオン伝導性を与える、ポリマとリチウム塩との混合物の薄層を備える固体電解質と、を含む。より具体的には、正極は、電気化学活物質粒子と、電子導電性添加剤と、固体ポリマ電解質と、からなり、固体ポリマ電解質は、バインダとして機能し、電気化学活性粒子と隣接する固体電解質セパレータとの間の必要なイオン経路(ionic path)を提供する。
【0004】
電気化学セル積層体の層を圧縮状態に維持することによって、リチウム金属ポリマバッテリの性能および耐用年数が大幅に改善されることは十分に確立されている。圧縮状態において、様々な界面でのイオン移動が改善され、リチウム金属シートの表面上の潜在的な樹枝状結晶成長が著しく低下する。隣接するセル間の強制的な接触が維持されるとき、電気化学セルのスタックの熱伝導特性も著しく改善される。改善された性能および耐用年数は、バッテリサイクル(充電-放電)を通して、積層体の対向する表面に圧縮力を加える一連のばね式要素を備える機械的圧力システムを用いて、積層体に加わる圧力を維持することによって達成されてきた。
【0005】
リチウム金属ポリマバッテリの設計に機械的圧力システムを含める必要性は、このようなバッテリの構成を複数の積層体からなる角形レイアウトに制限し、複数の積層体を順にスタックして角形電気化学セルを形成し、複数の角形電気化学セルを順にスタックして、大型バッテリを形成する。さもなければ、リチウム金属ポリマバッテリは、単一の積層体で作ることができ、単一の積層体は、螺旋状に巻かれて円筒形バッテリを形成するか、またはフラットに巻かれてフラットな巻回(wound)角形バッテリを形成するが、機械的圧力システムは、もっとはるかに複雑であり、円筒形または半円筒形容器または筐体内に組み立てることが困難であるだろう。
【0006】
リチウム金属ポリマ電気化学セルの充電サイクルおよび放電サイクルに周期的な体積変化が起こるので、機械的圧力システムは、ばね式機構を必要とする。電気化学セルの体積は、リチウム金属アノードと、カソード材料の格子構造との間でリチウムイオンが移動することに起因して、充電サイクルおよび放電サイクルそれぞれの間に膨張および収縮する。充電サイクルの間に、リチウムイオンは、カソード材料の格子構造の外に移動し、アノードのリチウム金属シートの表面にめっきされ、それによって、アノードの厚さを増加させ、その結果、アノードの体積を8%も増加させる。放電サイクルにおいて、アノードのリチウム金属シートの表面にめっきされたリチウムイオンがもとのカソードに移動し、もとのカソード材料の格子構造内に挿入され、それによってアノードの厚さを減少させ、アノードの体積を同じ8%減少させる。
【0007】
リチウム金属ポリマバッテリは、この技術を極めて安全なものにする固体ポリマ電解質を使用する。しかしながら、最適なイオン伝導性、ひいては最適な性能を得るためには、電気化学セルを60℃~80℃の温度まで加熱しなければならない。したがって、リチウム金属ポリマバッテリは、バッテリを約40℃の公称温度で維持し、動作時に電気化学セルの温度を60℃~80℃の間まで急上昇させるための加熱システムを含む。電気化学セルの温度の上昇によっても、セルの体積がさらに3%熱膨張する。
【0008】
スタック構成内に多数の薄膜電気化学セルを備えるモジュールまたはバッテリにおいて、イオン移動および熱膨張に起因する体積変化が複合化され、それによって、全体的な体積変化が顕著であり、対応しなければならない。
【0009】
一群の電気化学セルの充電サイクリングおよび放電サイクリングに起因する電気化学セルの体積におけるこれらの複合的な変化に対応するために、充電/放電サイクリングの間の体積膨張および体積減少を通して、電気化学セルのスタックに加わる均等に分配された圧力を維持しながら、これらの大きな体積変化を緩和するように、容器または筐体の壁に隣接するばね式要素を備える能動的な機械的圧力システムが、典型的に使用されている。大型バッテリ用途では、能動的な機械的圧力システムは、典型的には、複数の金属ばねからなり、複数の金属ばねは、金属プレートに対して圧力を加え、体積膨張および体積減少を通して、必要な圧縮力を生じさせることができ、また、隣接する電気化学セル間に配置されたばねインサートをセルのスタック内に含むことができ、セルのスタック内の圧縮力の分散を強化することができる。
【0010】
上述したような能動的な機械的圧力システムは、嵩高く、当初の段階からリチウム金属ポリマバッテリのエネルギー密度(W/Kg)を減少させる重量ペナルティ(weight penalty)を示す。さらには、上述したように、機械的圧力システムは、リチウム金属ポリマバッテリの構成を角形レイアウトに制限し、さもなければ、リチウム金属ポリマバッテリは、円筒形構成またはフラットな巻回角形構成を有することができる。
【0011】
したがって、バッテリの電気化学セルを加圧された状態に維持するための機械的圧力システムを有しない状態で設計され、組み立てられたリチウム金属ポリマバッテリが必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、従来技術に存在する不都合の少なくとも一部を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
1つの態様において、本発明は、剛性筐体と、少なくとも1つの電気化学セルと、を備えるリチウム金属ポリマバッテリであって、能動的な機械的圧力システムを有しない状態で組み立てられている、バッテリを提供する。
【0014】
本発明の実施形態は、それぞれ上記の目的および/または態様の少なくとも1つを有するが、必ずしもそれらの全てを有する必要はない。上記の目的を達成しようと試みた結果として生じた本発明のいくつかの態様は、これらの目的を満足しない場合があり、および/または本明細書で特に記載しない他の目的を満たす場合があることを理解すべきである。
【0015】
本発明の実施形態の追加の、および/または代替の特徴、態様、および利点は、以下の説明、添付の図面、および添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0016】
本発明、ならびに本発明の他の態様、およびさらなる特徴のより良い理解のために、添付図面と併せて使用される以下の説明が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】順にスタックされている2つの基本的な二面(bi-face)リチウム金属ポリマ積層体の概略断面図である。
【
図2】複数の角形電気化学セルを有するバッテリの一実施形態の概略断面図である。
【
図3】螺旋状に巻かれた円筒形電気化学セルを有する円筒形バッテリの一実施形態の概略上面図である。
【
図3a】
図3に示される円筒形バッテリの概略断面図である。
【
図4】複数のフラットな巻回(wound)角形電気化学セルを有するバッテリの一実施形態の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、順にスタックされている2つの基本的な二面(bi-face)リチウム金属ポリマ積層体10および10aを概略的に図示している。各々の基本的な積層体10は、中心金属集電体18と、中心金属集電体18の両面に広がったポリマ-塩バインダ中の電気化学活物質からなるカソードまたは正極の層16と、カソードの各層16上の固体ポリマ電解質の薄層14と、固体ポリマ電解質の2つの層14のうちの1層上に配置されたリチウムまたはリチウム合金の金属シートからなるアノードまたは負極12と、を備える。基本的な二面リチウム金属ポリマ積層体10および10aは、第1の積層体10のリチウム金属アノード12が第2の積層体10aの固体ポリマ電解質の層14と接触するようにスタックされ、それによって、リチウム金属アノード12の両面はイオン過程において活性である。固体ポリマ電解質の各層14は、カソード層16をリチウム金属アノード12から分離し、負極12と正極16との間にイオン伝導性を与える。複数の基本的な二面リチウム金属ポリマ積層体10および10aが、順にスタックされて電気化学セル22を形成している。
【0019】
従来、リチウム金属ポリマバッテリのカソード16の電気化学活物質は、バナジウム酸化物(V205またはV308)からなった。積層体、電気化学セルおよびバッテリが製造され、組み立てられるとき、これらの電気化学活物質から、最初にリチウムイオンが失われ、リチウムイオン源はリチウム金属アノードである。したがって、基本的な二面リチウム金属ポリマ積層体10は、初めて組み立てられたときに、初めは完全に充電されており、それ故に、前述したようにその最大体積にある。したがって、カソードの電気化学活物質としてのバナジウム酸化物を含む電気化学セルおよびバッテリは、それらの最大体積で剛性筐体内に組み立てられ、設置され、リチウムイオンがリチウム金属シートの表面からカソード材料の格子構造内に移動するにつれて、放電サイクルで電気化学セルの体積がその最小体積まで減少する。したがって、機械的圧力システムは、リチウム金属バッテリの最初の放電サイクルにおける電気化学セルの体積の減少を補償しながら、電気化学セルが加圧された状態を維持するのに極めて重要である。
【0020】
しかしながら、Liイオンバッテリに一般的に含まれる他のカソードの電気化学活物質は、リチウム金属アノードと組み合わされて、LiMPO4(M:Co、Fe、Ni、Mn、およびその組み合わせ)などのオリビン格子構造(olivine lattice structures)、LiMn2O4および変異体(variants)(LMO)などのスピネル構造(spinel structures)、および層状構造のLiCoO2、NCAおよびNMCを有するカソードの電気化学活物質などのリチウム金属ポリマバッテリを形成することができ、これらはリチウム化された(放電)状態に調製される。これらの材料は、バナジウムベースの材料より毒性が低く、より環境に優しく、より安全なカソード材料として浮上している。カソード材料としてオリビン型、スピネル型または層状型の活物質を含むリチウム金属ポリマバッテリは、優れた性能および耐用年数を得るために、依然として圧縮状態に維持される必要があり、それ故に依然として機械的圧力システムを必要とする。
【0021】
上記のようなオリビン構造、スピネル構造または層状構造を備えるカソード材料は、それらの格子構造に挿入されたリチウムイオンで最初に充填され、その結果、組み立てられた電気化学セルおよびバッテリのリチウムイオンの最初の供給源である。したがって、リチウム金属アノードは、リチウムイオンの最初の供給源ではないので、リチウム金属アノードはより薄く作られることができ、このようなバッテリの最初のサイクルは、充電サイクルであり、充電サイクルは、リチウムイオンが材料の格子構造の外に移動して、アノードのリチウム金属シートの表面にめっきされ、それによってリチウム金属アノードの厚さを増加させ、その結果、リチウム金属アノードの体積を増加させる。
【0022】
オリビン型構造、スピネル型構造または層状型構造の電気化学活物質を有するカソードを備えるリチウム金属ポリマバッテリは、依然として、電気化学セルを圧縮された状態に維持するため、および充電および放電の間の電気化学セルの体積変化を補償するためのばね式要素を備える、嵩高く、能動的な機械的圧力システムを有する剛性筐体内に組み立てられている。
【0023】
しかしながら、オリビン型構造、スピネル型構造または層状型構造の電気化学活物質を有するカソードで作られた積層体および電気化学セルが放電状態にあり、その結果、前述したようにその最小体積にあるという事実をうまく利用することにより、バッテリのエネルギー密度(W/Kg)を低下させる重量ペナルティを示し、またリチウム金属ポリマバッテリの構成を角形レイアウトに制限する、この嵩高く能動的な機械的圧力システムを、リチウム金属ポリマバッテリから排除することができることが発見された。積層体および電気化学セルの体積は、積層体および電気化学セルが、剛性筐体を含むバッテリ内に組み立てられると、最初の充電サイクルで膨張するだろう。
【0024】
図2は、複数の角形電気化学セル22を備えるリチウム金属ポリマバッテリ20を概略的に図示し、複数の角形電気化学セル22は順にスタックされた状態で剛性筐体24内に挿入され、適用要件に応じて直列または並列で共に電気的に接続されている。図示したように、バッテリは能動的な機械的圧力システムを特徴としていない。放電状態にあり、その結果、その最小体積にある角形電気化学セル22のスタックは、剛性筐体内に直接挿入され、図示したように、一番上の角形電気化学セル26および一番下の角形電気化学セル28の広い面は、高剛性筐体24の上部壁30および下部壁32に直接当接している。
【0025】
最初は、角形電気化学セル22のスタックに加わる機械的圧力は、ほとんどゼロである。角形電気化学セル22のスタックは、剛性筐体24内に挿入される前に、挿入しやすくするためにわずかに圧縮され得、それによって、角形電気化学セル22のスタックに加わる圧縮力が解放されるときに、角形電気化学セル22のスタックがその初期体積に戻り、わずかに膨張して高剛性筐体24の上部壁30および下部壁32に当接し、角形電気化学セル22のスタックに対する上部壁30および下部壁32の抵抗の機械的圧力は、ゼロを超えるだろう。
【0026】
角形電気化学セル22のスタックが剛性筐体24内に挿入されると、剛性筐体24は密封されて、リチウム金属ポリマバッテリ20が完成する。バッテリ20は、60℃~80℃の間のバッテリ20の動作温度に達するように、最初に、加熱システム(図示せず)によって加熱される。最初の加熱段階の間に、角形電気化学セル22のスタックは、角形電気化学セル22のスタックの熱膨張に抵抗する上部壁30および下部壁32の機械的圧力が、約20~100psiの初期動作圧力まで上昇するという効果を伴って、その体積が約3%増加する、最初の熱膨張を経る。角形電気化学セル22のスタックの熱膨張によって引き起こされる初期機械的圧力は、初期機械的圧力の下で各電気化学セル22の個々の積層体10それぞれのポリマが軟化し、沈降するにつれて最終的に減少することに留意すべきである。
【0027】
リチウム金属ポリマバッテリ20の動作温度に達すると、新しいバッテリ20を完全に充電するために第1の充電サイクルが開始される。充電サイクルの全体を通して、カソードの電気化学活物質の格子構造の内部に貯蔵されたリチウムイオンは、カソードの格子構造の外に移動して、アノードのリチウム金属シートの表面にめっきされ、それによってリチウム金属アノードの厚さを増加させ、その結果、各角形電気化学セル22の各積層体10の体積をさらに5%膨張させて、それにより、充電の間に、リチウムイオンがアノードのリチウム金属シートにめっきされることによって引き起こされる体積膨張に高剛性筐体24が抵抗するにつれて、高剛性筐体24の上部壁30および下部壁32によって角形電気化学セル22のスタックにかかる機械的圧力がさらに上昇する。バッテリ20が完全に充電されるとき、角形電気化学セル22のスタックに加わる機械的圧力は、400~800psiの最大動作圧力に達する。
【0028】
400psi付近の機械的圧力は、リチウム金属ポリマバッテリの性能および耐用年数を改善する、必要な圧縮状態に電気化学セル22のスタックにおける各電気化学セル22の各積層体10を維持するのに十分過ぎるものである。前述したように、圧縮状態において、積層体10の様々な界面でのイオン移動が改善され、リチウム金属シート12の表面上の潜在的な樹枝状結晶成長が著しく低下する。
【0029】
したがって、リチウム金属ポリマバッテリ20の改善された性能および耐用年数は、電気化学セル22のスタックに圧縮力を加える一連のばね式要素を備える、嵩高く、能動的な機械的圧力システムを使用しなくても達成される。代わりに、圧縮力は、充電サイクルを通した電気化学セル22のスタックの体積膨張に対する、剛性筐体24の壁30および壁32の抵抗によってもたらされる。
【0030】
リチウム金属ポリマバッテリ20の新しい設計は、従来の嵩高く、能動的な機械圧力システムを取り除くために、オリビン型構造、スピネル型構造または層状型構造の電気化学活物質を有するカソードで作られた積層体および電気化学セルが最初は放電状態にあり、その結果、その最小体積にある、という特性をうまく利用し、充電サイクルの間の電気化学セル22のスタックの体積膨張をうまく利用して、電気化学セル22のスタックの体積膨張に対する剛性筐体24の壁30および壁32の機械的抵抗により必要な圧縮力を生じさせる。
【0031】
理論的には、リチウム金属ポリマバッテリ20の放電サイクルおよび充電サイクルの間に、電気化学セル22のスタックに加えられる圧力は、放電サイクルの開始時の最大動作圧力から放電サイクルの終了時の初期動作圧力の間、および充電サイクルの開始時のほぼゼロの圧力から充電サイクルの終了時の最大動作圧力まで変動する。動作中、リチウム金属ポリマバッテリ20は、ほとんど完全な放電状態にはなく、それによって、剛性筐体24の壁によって電気化学セル22のスタックに加えられた圧力は決してゼロではないが、代わりに、放電サイクルの開始時の最大動作圧力から放電サイクルの終了時のゼロではない最小圧力の間、および充電サイクルの開始時の最小圧力から充電サイクルの終了時の最大動作圧力まで変動し、それによって、電気化学セル22は、充電サイクルおよび放電サイクルを通して圧縮力が加えられた状態にあり、電気化学セル22の化学的構造(chemistry)は常に加圧された状態にある。
【0032】
剛性筐体24の上部壁30および下部壁32によって電気化学セル22のスタックにかかる最大圧力を制御するために、硬質発泡体層または硬質ゴム層などの弾性材料の層が、上部壁30と第1の角形電気化学セル26との間、および下部壁32と一番下の角形電気化学セル28との間に配置され得る。弾性材料の層は、所定の最大圧力で降伏するように設計され、それによって、剛性筐体24の構造的完全性および角形電気化学セル22の完全性を維持するために最大機械的圧力が制限される。
【0033】
嵩高く、能動的な機械的圧力システムを排除することにより、リチウム金属ポリマバッテリのエネルギー密度(W/Kg)を当初の段階から減少させた重量ペナルティが取り除かれ、リチウム金属ポリマバッテリ20は、従来技術のリチウム金属ポリマバッテリよりも高いエネルギー密度を有する。
【0034】
さらには、加圧された状態でリチウム金属ポリマバッテリを維持するための能動的な機械的圧力システムを有する必要性を排除することは、角形レイアウト以外、例えば円筒形構成またはフラットな巻回角形構成などの新しい構成のリチウム金属ポリマバッテリの可能性を開いた。
【0035】
図3は、単一の基本的な積層体10を備える円筒形リチウム金属ポリマバッテリ40を概略的に図示し、単一の基本的な積層体10は中心柱44の周りに螺旋状のロールになるように複数回巻かれて円筒形電気化学セル42を形成している。単一の基本的な積層体10の長さは、円筒形電気化学セル42の容量を規定する螺旋状のロール内の層数または巻き数を規定する。円筒形電気化学セル42は、初めに巻かれて、次いで剛性キャニスタ46内に挿入される。図示したように、バッテリは能動的な機械的圧力システムを特徴としていない。放電状態にあり、その結果、その最小体積にある円筒形電気化学セル42は、剛性キャニスタ46内に直接挿入され、螺旋状のロールの外面は、剛性キャニスタ46の内部壁に直接当接している。
【0036】
最初は、円筒形電気化学セル42に加わる機械的圧力は、ほとんどゼロである。しかしながら、円筒形電気化学セル42は、剛性キャニスタ46内に挿入される前に、挿入しやすくするためにわずかに圧縮され得、それによって、円筒形電気化学セル42に加わる圧縮力が解放されるときに、円筒形電気化学セル42はその初期体積に戻り、わずかに膨張して剛性キャニスタ46の内部壁に当接し、円筒形電気化学セル42に対する内部壁の抵抗の機械的圧力は、ゼロではないだろう。
【0037】
円筒形電気化学セル42が剛性キャニスタ46内に挿入されると、剛性キャニスタ46は、リチウム金属アノード12と電気的に接続され、負バッテリポール(negative battery poll)として機能する第1の金属プレート50、および集電体18と電気的に接続され、正バッテリポール(positive battery poll)として機能する第2の金属プレート52と密封されている。円筒形リチウム金属ポリマバッテリ40は、60℃~80℃の間のバッテリ40の動作温度に達するために、最初に、加熱システム(図示せず)によって加熱される。最初の加熱段階の間に、円筒形電気化学セル42は、その体積が約3%増加する最初の熱膨張を経るとともに、円筒形電気化学セル42の熱膨張に抵抗する高剛性キャニスタ46の内部壁の機械的圧力が初期動作圧力まで上昇するという結果になる。
図2を参照して前述したように、円筒形電気化学セル42の熱膨張によって引き起こされる初期機械的圧力は、積層体10のポリマが初期機械的圧力下で軟化し、沈降するにつれて最終的に減少するだろう。
【0038】
円筒形リチウム金属ポリマバッテリ40の動作温度に達すると、新しいバッテリ40を完全に充電するために第1の充電サイクルが開始される。充電サイクル全体を通して、カソードの電気化学活物質の格子構造の内部に貯蔵されたリチウムイオンは、カソードの格子構造の外に移動して、アノードのリチウム金属シートの表面にめっきされ、それによってリチウム金属アノードの厚さを増加させ、その結果、円筒形電気化学セル42の巻き(rolled)積層体10の体積をさらに5%膨張させ、それにより、充電の間に、リチウムイオンがアノードのリチウム金属シートにめっきされることによって引き起こされる体積膨張に剛性キャニスタが抵抗するにつれて、高剛性キャニスタ46の内部壁によって円筒形電気化学セル42にかかる機械的圧力がさらに上昇する。バッテリ40が完全に充電されるとき、円筒形電気化学セル42に加わる機械的圧力は、最大動作圧力に達する。
【0039】
400~800psiの間であり得る最大動作圧力は、リチウム金属ポリマバッテリの性能および耐用年数を改善する、必要な圧縮状態に円筒形電気化学セル42の巻き積層体10を維持するのに十分過ぎるものである。前述したように、圧縮状態において、積層体10の様々な界面でのイオン移動が改善され、リチウム金属シート12の表面上の潜在的な樹枝状結晶成長が著しく低下する。
【0040】
リチウム金属ポリマバッテリ20を参照して前述したように、剛性キャニスタ46の内部壁によって円筒形電気化学セル42にかかる最大圧力を制御するために、硬質発泡体層または硬質ゴム層などの弾性材料の層を剛性キャニスタ46の内部壁と、円筒形電気化学セル42との間に配置することができ、および/または中心柱44として弾性コアを用いることができる。弾性材料の層は、所定の最大圧力で降伏するように設計され、それによって、剛性キャニスタ46の構造的完全性および円筒形電気化学セル42の完全性を維持するために最大機械的圧力が制限される。
【0041】
オリビン構造、スピネル型構造または層状構造の電気化学活物質を有するカソードで作られた積層体および電気化学セルが、最初は放電状態にあり、その結果、その最小体積にあるという特性は、円筒形構成を有するリチウム金属ポリマバッテリを組み立てることを可能にする。これは、必要な圧縮力が、充電サイクルの間の円筒形電気化学セル42の体積膨張に対する剛性キャニスタ46の内部壁の機械的抵抗によって生じ、能動的な機械的圧力システムがもはや必要ないからである。
【0042】
したがって、円筒形リチウム金属ポリマバッテリ40の改善された性能および耐用年数は、一連のばね式要素を備える、嵩高く、能動的な機械的圧力システムを使用しなくても達成される。代わりに、圧縮力は、円筒形電気化学セル42の体積膨張に対する、剛性キャニスタ46の内壁の機械的抵抗によってもたらされる。
【0043】
図4は、一対のフラットな巻回(wound)角形電気化学セル62を備えるリチウム金属ポリマバッテリ60を概略的に図示している。各々のフラットな巻回角形電気化学セル62は、単一の基本的な積層体10で作られ、単一の基本的な積層体10はフラットなロールになるように複数回巻回されてフラットな巻回角形電気化学セル62を形成している。単一の基本的な積層体10の長さは、フラットな巻回角形電気化学セル62の容量を規定するフラットなロール内の層数を規定する。フラットな巻回角形電気化学セル62は、初めにフラットに巻かれて、次いで、順にスタックされる。スタックされたフラットな巻回角形電気化学セル62は、剛性筐体64内に挿入される。図示したように、バッテリ60は、能動的な機械的圧力システムを特徴としていない。放電状態にあり、その結果、その最小体積にあるフラットな巻回角形電気化学セル62は、剛性筐体64に直接挿入され、スタックされたフラットな巻回角形電気化学セル62の外面は、剛性筐体64の内部壁に直接当接している。
【0044】
リチウム金属ポリマバッテリ20およびリチウム金属ポリマバッテリ40を参照して前述したように、最初は、スタックされたフラットな巻回角形電気化学セル62に加わる機械的圧力は、ほとんどゼロである。しかしながら、スタックされたフラットな巻回角形電気化学セル62は、剛性筐体64内に挿入される前に、挿入しやすくするためにわずかに圧縮され得、それによって、スタックされたフラットな巻回角形電気化学セル62に加わる圧縮力が解放されるときに、フラットな巻回角形電気化学セル62がその初期体積に戻り、わずかに膨張して剛性筐体64の内部壁に当接し、フラットな巻回角形電気化学セル62のスタックに対する内部壁の抵抗の機械的圧力は、ゼロを超えるだろう。
【0045】
フラットな巻回角形電気化学セル62のスタックが剛性筐体64内に挿入されると、剛性筐体64は密封される。フラットな巻回角形電気化学セル62は、60℃~80℃の間の電気化学セル62の動作温度に達するように、最初に、加熱システム(図示せず)によって加熱される。最初の加熱段階の間に、フラットな巻回角形電気化学セル62は、フラットな巻回角形電気化学セル62の熱膨張に抵抗する剛性筐体64の上方および下方の内部壁の機械的圧力が、初期動作圧力まで上昇するという効果を伴って、その体積が約3%増加する最初の熱膨張を経る。
図2および
図3を参照して前述したように、フラットな巻回角形電気化学セル62の熱膨張によって引き起こされる初期機械的圧力は、初期機械的圧力下で積層体10のポリマが軟化し、沈降するにつれて最終的には減少するだろう。
【0046】
フラットな巻回角形リチウム金属ポリマバッテリ60の動作温度に達すると、新しいバッテリ60を完全に充電するために第1の充電サイクルが開始される。充電サイクル全体を通して、カソードの電気化学活物質の格子構造の内部に貯蔵されたリチウムイオンは、カソードの格子構造の外に移動して、アノードのリチウム金属シートの表面にめっきされ、それによってリチウム金属アノードの厚さを増加させ、その結果、フラットな巻回角形電気化学セル62の積層体10の体積をさらに5%膨張させて、それにより、充電の間に、リチウムイオンがアノードのリチウム金属シートにめっきされることによって引き起こされる体積膨張に剛性筐体が抵抗するにつれて、剛性筐体64の上部壁および下部壁によってフラットな巻回角形電気化学セル62にかかる機械的圧力がさらに上昇する。バッテリ60が完全に充電されるとき、フラットな巻回角形電気化学セル62に加わる機械的圧力は、最大動作圧力に達する。
【0047】
前述したように、400~800psiの間であり得る最大動作圧力は、リチウム金属ポリマバッテリの性能および耐用年数を改善する、必要な圧縮状態にフラットな巻回角形電気化学セル62の積層体10を維持するのに十分過ぎるものである。前述したように、圧縮状態において、積層体10の様々な界面でのイオン移動が改善され、リチウム金属シート12の表面上の潜在的な樹枝状結晶成長が著しく低下する。
【0048】
この場合も同様に、剛性筐体64の上部壁および下部壁によってフラットな巻回角形電気化学セル62にかかる最大圧力を制御するために、硬質発泡体層または硬質ゴム層などの弾性材料の層が剛性筐体64の上部壁および下部壁と、フラットな巻回角形電気化学セル62との間に配置され得る。弾性材料の層は、所定の最大圧力で降伏するように設計され、それによって、剛性筐体64の構造的完全性およびフラットな巻回角形電気化学セル62の完全性を維持するために最大機械的圧力が制限される。
【0049】
オリビン構造、スピネル型構造または層状構造の電気化学活物質を有するカソードで作られた積層体および電気化学セルが、最初は放電状態にあり、その結果、その最小体積にあるという特性は、フラットな巻回角形構成を有するリチウム金属ポリマバッテリを組み立てることを可能にする。これは、必要な圧縮力が、充電サイクルの間のフラットな巻回角形電気化学セル62の体積膨張に対する剛性筐体64の上部壁および下部壁の機械的抵抗によって生じ、能動的な機械的圧力システムがもはや必要ないからである。
【0050】
したがって、フラットな巻回角形リチウム金属ポリマバッテリ60の改善された性能および耐用年数は、一連のばね式要素を備える、嵩高く、能動的な機械的圧力システムを使用しなくても達成される。代わりに、圧縮力は、フラットな巻回角形電気化学セル62の体積膨張に対する、剛性筐体64の上部壁および下部壁の機械的抵抗によってもたらされる。
【0051】
本発明の上述の実施形態に対する修正および改良は、当業者には明らかになるであろう。前述の説明は、限定するものではなく例示的なものであることが意図されている。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることが意図されている。
【符号の説明】
【0052】
10 積層体
10a 積層体
12 リチウム金属アノード/負極
14 固体ポリマ電解質の層
16 カソード層/正極
18 中心金属集電体
20 リチウム金属ポリマバッテリ
22 角形電気化学セル
24 剛性筐体
26 一番上の角形電気化学セル
28 一番下の角形電気化学セル
30 上部壁
32 下部壁
40 円筒形リチウム金属ポリマバッテリ
42 円筒形電気化学セル
44 中心柱
46 剛性キャニスタ
50 第1の金属プレート
52 第2の金属プレート
60 フラットな巻回角形リチウム金属ポリマバッテリ
62 フラットな巻回角形電気化学セル
64 剛性筐体