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特許7007333抗炎症活性を有するペプチド、及びそれを含む組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】抗炎症活性を有するペプチド、及びそれを含む組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/10 20060101AFI20220117BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220117BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20220117BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
A61K38/10 ZNA
A61P29/00
A61P13/08
C07K7/08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019114719
(22)【出願日】2019-06-20
(62)【分割の表示】P 2017174211の分割
【原出願日】2013-05-07
(65)【公開番号】P2019194216
(43)【公開日】2019-11-07
【審査請求日】2019-06-20
(31)【優先権主張番号】10-2012-0050529
(32)【優先日】2012-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2012-0050533
(32)【優先日】2012-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2012-0071989
(32)【優先日】2012-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2012-0104144
(32)【優先日】2012-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2012-0104207
(32)【優先日】2012-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2013/055329
(32)【優先日】2013-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514286826
【氏名又は名称】ジェムバックス アンド カエル カンパニー,リミティド
(73)【特許権者】
【識別番号】514286848
【氏名又は名称】キム サン チェ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】キム サン チェ
(72)【発明者】
【氏名】キム キョン ヘ
(72)【発明者】
【氏名】リ キュ-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】コ ソン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】パク ヒョン-ヘ
(72)【発明者】
【氏名】フ ソン チン
(72)【発明者】
【氏名】リ ウ チン
(72)【発明者】
【氏名】キム ポム チュン
【審査官】吉川 阿佳里
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-520293(JP,A)
【文献】国際公開第2011/101173(WO,A1)
【文献】特表2015-521039(JP,A)
【文献】特表2015-517488(JP,A)
【文献】特表2015-517489(JP,A)
【文献】特表2015-518818(JP,A)
【文献】特表2015-523323(JP,A)
【文献】国際公開第2009/025871(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61P 1/00-43/00
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドを有効成分として含む、炎症性疾患の治療
または予防のための医薬組成物であり、前記炎症性疾患が、前立腺炎である、医薬組成物。
【請求項2】
前記組成物が0.1μg/mg~1mg/mgの前記ペプチドを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ペプチドが0.1μg/kg~1.0g/kgの濃度における単回投与用量で投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ペプチドが1μg/kg~10mg/kgの濃度における単回投与用量で投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
1日に1~3回投与される、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記ペプチドが0.1μg/kg~1.0g/kgの1日投与用量で投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
経口、直腸、経皮、静脈内、筋肉内、腹腔内、骨髄内、硬膜内または皮下手段を通じて投与される、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗炎症活性を有するペプチド、及びそれを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症は、外部の物理的刺激、各種アレルギー誘発物質の接触を例として挙げることができる化学的刺激、あるいは細菌、かびまたはウイルスのような微生物の侵入などによって、生体組織が損傷されることを防ぐための生体の防御反応のうち一つである。
【0003】
炎症信号は、シクロオキシゲナーゼ(COX)経路またはリポキシゲナーゼ(LOX)経路を介して作られ、プロスタグランジン、トロンボキサンなどを生成する。炎症信号が伝達されれば、生体内では、さまざまな変化が起こるが、そのうちの一つとして、炎症が、必要な部位の血管を拡張させ、血液供給を旺盛にし、好中球など炎症反応に必要な血液細胞が集中供給される現象を挙げることができる。しかし、そのような生体の防御反応が非正常的に過度に起これば、さまざまな炎症性疾患が発病することになるので、それを防止するために、炎症信号経路の酵素(例えば、COX-1、COX-2、5-LOX、12-LOXなど)を抑制して炎症信号経路を遮断することにより、過度の炎症反応を抑制することができる薬物が開発されている。
【0004】
炎症は、反応期間により、急性炎症(acute inflammation;即刻反応、非特異的反応、数日~数週間)、慢性炎症(chronic inflammation;遅延された反応、特異性反応、数週間以上)、亜急性炎症(subacute inflammation;急性炎症と慢性炎症との中間段階、多核球と単核球との混合型産出物の特徴)に分けられる。
【0005】
また、炎症を誘発する因子には、ペプチド性因子以外に、プロスタグランジン、ロイコトリエン、血小板活性因子のような脂質性因子、炎症因子合成酵素、NO(nitric oxide)のようなフリーラジカル、さまざまな種類の細胞接着分子、免疫系、凝固因子などが関与する。
【0006】
現在まで知られた炎症のメカニズムは、外部の生物学的な原因(細菌、ウイルス、寄生虫)、物理学的な原因(機械的な刺激、熱、放射線、電気)、化学的原因などによる細胞損傷により、ヒスタミン及びキニンなどが放出され、血管拡張、毛細管透過性増大、及び炎症部位への大食細胞の集結が起こり、それによって、感染部位の血流量増加、浮腫、兔疫細胞及び抗体の移動、痛症、発熱などの現象が起こる。
【0007】
現在使用されている炎症の治療剤には、イブプロフェンのような合成医薬品、抗ヒスタミン剤、ステロイド、コティソン、免疫抑制剤、免疫亢進制などが使用されているが、治療効果が一時的であったり、単純症状緩和であったり、あるいは過敏反応、免疫体系悪化などの副作用が多くあったりして、炎症の根本的な治療が困難である。従って、最近、効果的な炎症緩和のために、前記炎症関連タンパク質の発現を抑制することができる物質に係わる研究が進められている。しかし、そのような研究によって開発された抗炎物質の場合、いくつかの副作用が問題になっている。非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)とステロイド性抗炎症薬(SAID)とを始めとした、多様なメカニズムの炎症抑制用薬物が開発されているが、それらは、少なくない副作用を示すだけではなく、炎症反応を根本的に抑制するものではないために、さらに効果的であって安全であり、経済性の高い薬物に対する要求が依然として存在する。一例として、急性関節炎またはリュウマチ性関節炎のような慢性炎症疾患の治療に使用される非ステロイド性消炎薬物は、COX-2酵素を抑制するだけではなく、COX-1酵素も抑制することにより、胃腸管障害のような副作用を示すと知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】KR2012-013996A
【文献】KR2012-0133661A
【文献】KR2011-0060940A
【文献】US2011-0150873A1
【非特許文献】
【0009】
【文献】Bonaldi T et al., EMBOJ, (22)5551-60, 2003
【文献】Yankner BA et al., Science(New York, N. Y.)[1990, 250(4978): 279-282]
【文献】Dahlgren KN et al., J. Biol. Chem. 277: 32046-32053, 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、テロメラーゼ由来のペプチドが抗炎活性を有するということを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
従って、本発明の目的は、新規ペプチドを提供するところにある。
【0012】
本発明の他の目的は、新規ペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供するところにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、抗炎症活性を有するペプチドを提供するところにある。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、抗炎症活性を有するペプチドを有効成分にする抗炎症組成物を提供するところにある。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、抗炎症活性を有するペプチドを有効成分として含む化粧品組成物を提供するところにある。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、抗炎症活性を有するペプチドを有効成分として含む医薬組成物を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一側面によれば、抗炎症活性を有するペプチドであって、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号1の配列と少なくとも80%の配列相同性を有するペプチド、または前記ペプチドの断片であるペプチドが提供される。
【0018】
本発明の他の側面によれば、前記断片は、3個以上のアミノ酸から構成された断片でもある。例えば、前記断片は、4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25または26個のアミノ酸から構成された断片でもある。
【0019】
本発明の他の側面によれば、前記ペプチドは、30個以下のアミノ酸から構成されてもよい。
【0020】
本発明の他の側面によれば、前記ペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドでもある。例えば、前記ペプチドは、29,28,27,26,25,24,23,22,21,20,19,18,17,16,15,14,13,12,11,10,9または8個のアミノ酸から構成された断片でもある。
【0021】
本発明の他の側面によれば、前記ペプチドは、ヒトテロメラーゼに由来したものでもある。
【0022】
本発明の一側面によれば、抗炎症活性を有するペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号1の配列と80%以上の配列相同性を有するペプチド、またはその断片であるペプチドをコードするポリヌクレオチドが提供される。
【0023】
本発明の他の側面によるポリヌクレオチドにおいて、前記断片は、3個以上のアミノ酸から構成された断片でもある。例えば、前記断片は、4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25または26個のアミノ酸から構成された断片でもある。
【0024】
本発明の他の側面によるポリヌクレオチドにおいて、前記ペプチドは、30個以下のアミノ酸から構成されたペプチドでもある。例えば、前記ペプチドは、29,28,27,26,25,24,23,22,21,20,19,18,17,16,15,14,13,12,11,10,9または8個のアミノ酸から構成された断片でもある。
【0025】
本発明の他の側面によるポリヌクレオチドにおいて、前記ペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列からなる。
【0026】
本発明の他の側面によるポリヌクレオチドにおいて、前記ペプチドは、ヒトテロメラーゼに由来したものでもある。
【0027】
本発明の一側面によれば、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号1の配列と80%超の配列相同性を有するペプチド、またはその断片であるペプチドを有効成分として含む抗炎症組成物が提供される。
【0028】
本発明の他の側面による組成物において、前記断片は、少なくとも3個のアミノ酸からなる(前記参照)。
【0029】
本発明の他の側面による組成物において、前記ペプチドは、30個以下のアミノ酸からなる(前記参照)。
【0030】
本発明の他の側面による組成物において、前記ペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列からなる。
【0031】
本発明の他の側面による組成物において、前記ペプチドは、ヒトテロメラーゼに由来したものでもある。
【0032】
本発明の他の側面による組成物において、前記組成物は、炎症性疾患の治療用または予防用である。
【0033】
本発明の他の側面による組成物において、前記組成物は、皮膚炎症の改善または予防のための化粧品組成物である。
【0034】
本発明の他の側面による組成物において、前記組成物は、炎症性疾患の治療または予防のための医薬組成物である。
【0035】
本発明の他の側面による組成物において、前記組成物は、炎症の治療または予防のための食品組成物である。
【0036】
本発明の他の側面による組成物で前記炎症性疾患は、(1)全身または局所の炎症疾患(例えば、アレルギー;免疫複合体疾患;枯草熱;過敏性ショック;耐毒素ショック;悪液質(cachexia)、異常高熱;肉芽腫症;または類肉腫症);(2)胃腸管系疾患(例えば、虫垂炎;胃潰瘍;十二指腸潰瘍;腹膜炎;膵腸炎;潰瘍性、急性または虚血性の大腸炎;胆管炎;胆嚢炎、脂肪便症、肝炎、クローン病;またはウィップル病);(3)皮膚関連疾患(例えば、乾癬;火傷;日焼け火傷;皮膚炎;蕁麻疹性のいぼまたは膨疹);(4)心血管系疾患(例えば、血管炎;脈管炎;心内膜炎;動脈炎;粥状動脈硬化症;血栓静脈炎;心膜炎;鬱血性心不全;心筋炎;心筋虚血症;結節性動脈周囲炎;再発性狭窄症;バーガー氏病;またはリューマチ熱);(5)呼吸器系疾患(例えば、喘息;喉頭蓋炎;気管支炎;肺気腫(emphysema);鼻炎;嚢胞性纎維症;癲癇性肺炎;慢性閉鎖性疾患(COPD);成人呼吸障害症侯群;塵肺症;肺胞炎;細気管支炎;咽頭炎;肋膜炎;または副鼻腔炎);(6)骨、関節、筋肉及び結合組織関連疾患(例えば、読み上げ算性肉芽種;関節炎;関節痛;骨髄炎;皮膚筋炎;筋膜炎;パジェット病;通風;歯周疾患;リューマチ性関節炎;重症筋無力症;強直性脊椎炎;または潤滑膜炎);(7)泌尿生殖系疾患(例えば、副睾丸炎;膣炎;前立腺炎;または尿道炎);(8)中枢または末梢神経系関連疾患(例えば、アルツハイマー病;髄膜炎;脳炎;多発性硬化症;脳梗塞;脳塞栓症;キラン・バレー症侯群(Guillain-Barre syndrome);神経炎;神経痛;骨髄外傷;麻痺;またはぶどう膜炎);(9)ウイルス(例えば、インフルエンザ;呼吸器細胞融合ウイルス;HIV;B型肝炎ウイルス;C型肝炎ウイルスまたはヘルペスウイルス)感染疾患(例えば、デング熱;または敗血症(septicemia))、真菌感染疾患(例えば、カンジダ症)、または細菌、寄生虫のようなその他微生物感染疾患(例えば、散在性菌血症;マラリア;糸状虫症;またはアメーバ症);(10)自己免疫疾患(例えば、甲状腺炎;ループス;グッドパスチャー症侯群;同種移植拒否反応;移植片対宿主病;または糖尿病);及び(11)癌または腫瘍性疾患(例えば、ホジキン病)からなる群から選択されるものでもある。
【0037】
本発明の一側面によれば、前述の抗炎症組成物を投与することによって炎症性疾患を治療または予防するための方法が提供される。
【0038】
本発明の一側面によれば、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号1の配列と80%超の配列相同性を有するペプチド、または前記ペプチド断片であるペプチドである、抗炎症活性を有するペプチド、または当該ペプチドを含む組成物;及び、当該ペプチド、または組成物の投与量、投与経路、投与回数及び適応症の少なくとも一つを含む指示書;を含む、炎症性疾患の予防または治療のためのキットが提供される。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、配列番号1の配列を有するペプチドは、炎症の抑制において、及び予防手段において優れた効果を有する。従って、本発明のペプチドを含む組成物は、抗炎症医薬組成物または化粧品組成物として使用され得、多様な異なる種類の炎症性疾患の治療及び予防に使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】PBMC由来モノサイトを、LPS(10ng/ml)で2時間刺激させた後、それぞれのペプチド、すなわち、FITC,FITC-TAT,PEP1-FITC及びFITC-ペプチドで2時間処理し、その細胞培養液で、TNF-α ELISAを行った結果を示したグラフである(**P<0.01;陰性対照群との比較(FITC及びFITC-TAT)。
図2】HEK293/null及びHEK293/TLR2細胞株に、NF-kBルシフェラーゼをトレンスフェクションし、リポプロテイン(10ng/ml)、FITC及びFITC-PEP1(4μM)で処理し、18時間培養した後、ルシフェラーゼ分析を行った結果を示したグラフである。ルシフェラーゼ結果は、レニラ(renilla)で補正して得られたものである(**P<0.01;陰性対照群(非治療群)及びリポプロテイン処理サンプルと比較)。
図3】それぞれ何も処理していないもの;LPS、PEP1及びLPS+PEP1で処理したものの場合、THP1細胞株でのサイトカインの阻害レベルを示すグラフである。
図4】それぞれ0,2.5,5.0,10,40μM濃度のベータアミロイドタンパク質で処理した神経幹細胞の生存力を示すグラフである。
図5】それぞれ0,2.5,5.0,10,40μM濃度のベータアミロイドタンパク質で処理した神経幹細胞の増殖を示すグラフである。
図6】それぞれ0,1,10,50,100,200μM PEP1で処理した神経幹細胞の生存力を示すグラフである。
図7】それぞれ0,1,10,50,100,200μM PEP1で処理した神経幹細胞の増殖を示すグラフである。
図8】20μMベータアミロイドタンパク質によって損傷された後、それぞれ異なる濃度のPEP1(1,10,50,100μM)で処理された後で測定された神経幹細胞の生存力を示すグラフである(対照群は、ベータアミロイドタンパク質及びテロメラーゼ基盤ペプチドで処理していない集団である)。
図9】20μMベータアミロイドタンパク質によって損傷された後、それぞれ異なる濃度のPEP1(1,10,50,100μM)で処理された後で測定された神経幹細胞の毒性を示すグラフである(対照群は、ベータアミロイドタンパク質及びテロメラーゼ基盤ペプチドで処理していない集団である)。
図10】20μMベータアミロイドタンパク質によって損傷された後、それぞれ異なる濃度のPEP1(1,10,50,100μM)で処理された後で測定された神経幹細胞の増殖を示すグラフである(対照群は、ベータアミロイドタンパク質及びテロメラーゼ基盤ペプチドで処理していない集団である)。
図11】20μMベータアミロイドタンパク質によって損傷された後、それぞれ異なる濃度のPEP1(1,10,50,100μM)で処理された後で測定された神経幹細胞の移動を示すグラフである(対照群は、ベータアミロイドタンパク質及びテロメラーゼ基盤ペプチドで処理していない集団である)。
図12】20μMベータアミロイドタンパク質によって損傷された後、それぞれ異なる濃度のPEP1(1,10,50,100μM)で処理された後で測定された神経幹細胞の細胞自殺(apoptosis)を示すグラフである(対照群は、ベータアミロイドタンパク質及びテロメラーゼ基盤ペプチドで処理していない集団である)。
図13】20μMベータアミロイドタンパク質によって損傷された後、それぞれ異なる濃度のPEP1(1,10,50,100μM)で処理された後で測定された損傷された神経幹細胞内PEP1の活性酸素阻害効果を示すグラフである(対照群は、ベータアミロイドタンパク質及びテロメラーゼ基盤ペプチドで処理していない集団である)。
図14】20μMベータアミロイドタンパク質によって損傷された後、それぞれ異なる濃度のPEP1(1,10,50μM)で処理された後で測定され、(A)2D電気泳動、及び(B)抗体アレイによって分析されたタンパク質発現程度の結果を示す図面である(対照群は、ベータアミロイドタンパク質及びテロメラーゼ基盤ペプチドで処理していない集団である)。
図15-1】炎症関連タンパク質の発現レベルを示すウェスタンブロットの結果を示す図面である(神経幹細胞は、20μMベータアミロイドタンパク質によって損傷された後、それぞれ異なる濃度のPEP1(1,10,50μM)で処理した)。
図15-2】炎症関連タンパク質の発現レベルを示すウェスタンブロットの結果を示す図面である(神経幹細胞は、20μMベータアミロイドタンパク質によって損傷された後、それぞれ異なる濃度のPEP1(1,10,50μM)で処理した)。
図16】ベータアミロイドタンパク質凝集に影響を及ぼすPEP1の阻害効果を示す図面であり、(A)は、1μMベータアミロイドタンパク質及びPEP 1(0.1,1,10μM)が共に処理されたとき、ベータアミロイドタンパク質の低下したオリゴマー化を示し、(B)は、すでに凝集が誘導されたベータアミロイドタンパク質をPEP 1で処理した場合を示す。
図17】PI3K抑制剤である、LY294002が、PEP 1で処理されたときに細胞の生存力に及ぼす効果を示し、細胞生存率は、PEP 1で処理された後で上昇し、LY294002で処理した後に低下した。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明は、多様な変換を加えることができ、さまざまな実施例を有するが、以下、本発明についてさらに具体的に説明する。しかし、それは、本発明を特定の実施形態について限定するものではなく、本発明の思想及び技術範囲に含まれる全ての変換、均等物ないし代替物を含むものであると理解されなければならない。本発明について説明するにあたり、関連公知技術に係わる具体的な説明が、本発明の要旨を不明確にすると判断される場合、その詳細な説明を省略する。
【0042】
テロメア(telomere)は、染色体の末端に反復して存在する遺伝物質であり、当該染色体の損傷や、他の染色体との結合を防止すると知られている。細胞が分裂するたびに、テロメアの長さは少しずつ短くなるが、一定回数以上の細胞分裂後、テロメアの長さは非常に短くなり、その細胞は、分裂を止めて死滅する。一方、テロメアを長くすれば、細胞の寿命が延長すると知られており、その例として、癌細胞では、テロメラーゼ(telomerase)という酵素が分泌し、テロメアが短くなることを防ぐために、癌細胞が死滅せず、続けて増殖可能であると知られている。本発明は、抗炎症効果を有するテロメラーゼ由来のペプチドの発見に基づいてなされた。
【0043】
本発明の一側面によれば、抗炎症活性を有するペプチドであって、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、前記アミノ酸配列と80%超の配列相同性を有するペプチド、またはその断片であるペプチドを提供する。
【0044】
本発明において抗炎症活性を有するペプチドは、下記配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドである。下記配列番号1のペプチドは、テロメラーゼでの[611-626]の位置にある16個アミノ酸から構成されたペプチドである。
【0045】
SEQ ID NO:1 EARPALLTSRLRFIPK
【0046】
本発明の一側面は、抗炎症活性を有するペプチドであって、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、前記アミノ酸配列と80%超の配列相同性を有するペプチド、またはその断片であるペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。前記ポリヌクレオチドを利用して、ペプチドを量産することができる。例えば、ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを、宿主細胞に入れて培養することにより、ペプチドを量産することができる。
【0047】
本明細書に開示されたペプチドは、80%超、85%超、90%超、95%超、96%超、97%超、98%超、99%超の配列相同性を有するペプチドを含んでもよい。また、本明細書に開示されたペプチドは、配列番号1を含むペプチドまたはその断片、及び1個超のアミノ酸、2個超のアミノ酸、3個超のアミノ酸、4個超のアミノ酸、5個超のアミノ酸、6個超のアミノ酸または7個超のアミノ酸が変化されたペプチドを含んでもよい。
【0048】
本明細書において、「相同性(homology)」及び「配列同一性(sequence identity)」というのは、相互変換可能に使用され、それは、2個のアミノ酸(または、関連したものとして核酸)間での配列のオーバーラップ程度を示す。
【0049】
本明細書において、ペプチドや核酸に対して「配列同一性」の用語使用にあたって特に使用していないとしても、配列の同一性は、(nref-ndif)*100/nrefを使用して計算され、前記計算式で、2つの配列を整列し、最多の一致数が出てくるとき、ndifは、2つの配列間で非一致残基の総個数を、nrefは、2つの配列のうち短い配列の残基の総個数を意味する。例えば、DNA配列agtcagtcは、aatcaatcの配列との配列同一性を前記式で求めれば、75%である(nref=8、ndif=2)。
【0050】
本明細書の一側面で、配列の同一性は、従来公知の下記の方法で決定された:Smith and Waterman, 1981, Adv. Appl. Math. 2:482, by the search for similarity method of Pearson & Lipman, 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444, using the CLUSTAL W algorithm of Thompson et al., 1994, Nucleic Acids Res 22:467380, by computerized implementations of these algorithms (GAP, BESTFIT, FASTA, and TFASTA in the Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group). The BLAST algorithm (Altschul et al., 1990, Mol. Biol. 215:403-10) for which software may be obtained through the National Center for Biotechnology Information (www.ncbi.nlm.nih.gov/) may also be used. When using any of the aforementioned algorithms, the default parameters for "Window" length, gap penaltyなど。
【0051】
本発明の一側面で、アミノ酸変化は、ペプチドの物理化学的特性を変更させる性質に属する。例えば、ペプチドの熱安定性を向上させ、基質特異性を変更させ、最適のpHを変化させるようなアミノ酸変化が行われる。
【0052】
本発明の一側面で、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、前記アミノ酸配列と80%超の配列相同性を有するペプチド、またはその断片であるペプチドは、30個以下のアミノ酸から構成されてもよい。
【0053】
本発明の一側面で、配列番号1の配列を有するペプチド、前記ペプチド配列と80%超の配列相同性を有するペプチド、またはその断片であるペプチドは、テロメラーゼ、具体的には、ヒトテロメラーゼに由来したペプチドを含む。
【0054】
本明細書において「アミノ酸」とは、自然にペプチドに統合される22個の標準アミノ酸だけではなく、D-アイソマー及び変形されたアミノ酸を含む。それによって、本発明の一側面においてペプチドは、D-アミノ酸を含むペプチドでもある。一方、本発明の他の側面においてペプチドは、翻訳後変形(post-translational modification)された非標準アミノ酸などを含んでもよい。翻訳後変形の例は、リン酸化(phosphorylation)、糖化(glycosylation)、アシル化(acylation)(例えば、アセチル化(acetylation)、ミリストイル化(myristoylation)及びパルミトイル化(palmitoylation)を含む)、アルキル化(alkylation)、カルボキシル化(carboxylation)、ヒドロキシル化(hydroxylation)、糖化反応(glycation)、ビオチニル化(biotinylation)、ユビキチニル化(ubiquitinylation)、化学的性質の変化(例えば、ベータ除去脱イミド化、脱アミド化)及び構造的変化(例えば、二硫化物ブリッジの形成)を含む。また、ペプチドコンジュゲートを形成するための架橋剤(cross linker)との結合過程で起こる化学反応によって生ずるアミノ酸の変化、例えば、アミノ基、カルボン酸基または側鎖での変化のようなアミノ酸の変化を含む。
【0055】
本明細書に開示されたペプチドは、自然そのままの供給源から同定及び分離された野生型ペプチドでもある。一方、本明細書に開示されたペプチドは、配列番号1の断片であるペプチドと比較し、一つ以上のアミノ酸が置換、欠失及び/または挿入されたアミノ酸配列を含む、人工変異体でもある。人工変異体でだけではなく、野生型ポリペプチドでのアミノ酸変化は、タンパク質のフォールディング(folding)及び/または活性に、有意の影響を及ぼさない保存性アミノ酸置換を含む。保存性置換の例としては、塩基性アミノ酸(アルギニン、リシン及びヒスチジン)、酸性アミノ酸(グルタミン酸及びアスパラギン酸)、極性アミノ酸(グルタミン及びアスパラギン)、疎水性アミノ酸(ロイシン、イソロイシン、バリン及びメチオニン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシン)及び小アミノ酸(グリシン、アラニン、セリン及びトレオニン)の群の範囲内にある。一般的に、特異的活性を変更させないアミノ酸置換が本分野に公知されている。最も一般的に発生する交換は、Ala/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Tyr/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Val、Ala/Glu及びAsp/Gly、並びにそれらと反対であるものである。保存的置換の他の例は、下記表1の通りである。
【0056】
【表1】
【0057】
ペプチドの生物学的特性における実在的な変形は、(a)置換領域内のポリペプチド骨格の構造、例えば、シートまたは螺旋立体構造の維持におけるそれらの効果、(b)標的部位での前記分子の電荷または疎水性の維持におけるそれらの効果、または(c)側鎖のバルク維持におけるそれらの効果が、相当に異なる置換部を選択することによって行われる。天然残基は、一般的な側鎖特性に基づいて、次のグループに区分される:
(1)疎水性:ノルロイシン、met、ala、val、leu、ile;
(2)中性親水性:cys、ser、thr;
(3)酸性:asp、glu;
(4)塩基性:asn、gln、his、lys、arg;
(5)鎖配向に影響を及ぼす残基:gly、pro;及び
(6)芳香族:trp、tyr、phe。
【0058】
非保存的置換は、それら部類のうち1つの構成員を、他の部類で交換することによって行われる。ペプチドの適当な立体構造の維持と関連がないいかなるシステイン残基も、一般的にセリンで置換され、前記分子の酸化的安定性を向上させ、異常な架橋結合を防止することができる。逆に言えば、システイン結合を、前記ペプチドに加え、その安定性を向上させることができる。
【0059】
ペプチドの他の類型のアミノ酸変異体は、抗体のグリコシル化パターンが変化したものである。変化という意味は、ペプチドで発見された一つ以上の炭水化物残基の欠失、及び(または)ペプチド内に存在しない一つ以上のグリコシル化部位の付加を示す。
【0060】
ペプチドのグリコシル化は、典型的に、N-連結されたり、あるいはO-連結されたものである。N-連結されたということは、炭水化物残基がアスパラギン残基の側鎖に付着したということをいう。トリペプチド配列アスパラギン-X-セリン及びアスパラギン-X-トレオニン(ここで、Xは、プロリンを除いた任意のアミノ酸である)は、炭水化物残基をアスパラギン側鎖に酵素的付着を行わせるための認識配列である。従って、それらトリペプチド配列のうち一つがポリペプチドに存在することにより、潜在的なグリコシル化部位が生成される。O-連結されたグリコシル化は、糖N-アセチルガラクトサミン、ガラクトースまたはキシロースのうち一つを、ヒドロキシアミノ酸、最も一般的には、セリンまたはトレオニンに付着させることを意味するが、5-ヒドロキシプロリンまたは5-ヒドロキシリシンを使用することもできる。
【0061】
ペプチドへのグリコシル化部位の付加は、一つ以上の前述のトリペプチド配列を含むように、アミノ酸配列を変化させることによって便利に行われる(N-連結されたグリコシル化部位の場合)。そのような変化は、一つ以上のセリン残基またはトレオニン残基を、最初の抗体の配列に付加するか、あるいはそれら残基で置換することによってもなされる(O-連結されたグリコシル化部位の場合)。
【0062】
本発明の一側面で、ポリヌクレオチドは、核酸分子であり、自然発生的または人工的なDNA分子またはRNA分子であり、一本鎖または二本鎖でもある。核酸分子は、一つ以上でもあるが、同一類型の(例えば、同一ヌクレオシド配列を有する)核酸分子でもあり、他の類型としての核酸分子でもある。DNA、cDNA、decoy DNA、RNA、siRNA、miRNA、shRNA、stRNA、snoRNA、snRNA、PNA、アンチセンスオリゴマー(antisense oligomer)、プラスミド(plasmid)、及びそれ以外の変形された核酸のうち一つ以上を含むが、それらに制限されるものではない。
【0063】
HMGB1タンパク質は、外部刺激によって核内に存在するHMGB1タンパク質がアセチル化されて細胞質に移動していて、その後細胞外部に分泌されることによって、炎症誘発サイトカイン(cytokine)の役割を行うと知られている。そのように炎症がある場合、HMGB1タンパク質が細胞外部に分泌されるので、炎症性疾患であるチャーグ・ストラウス症侯群、リューマチ関節炎及びシェーグレン症候群の患者の血清は、正常人よりはるかく多くの量のHMGB1タンパク質を有する。従って、炎症が誘発されるいかなる刺激が与えられても、細胞核内のHMGB1タンパク質量が多ければ、それは、HMGB1タンパク質が細胞外部に分泌されていないということを意味するので、炎症が抑制されていると見られる。
【0064】
本発明の一側面において、配列番号1の配列を含むペプチド、前記ペプチド配列と80%超の配列相同性を有するペプチド、又は上記ペプチドの断片で細胞が処理されるとき、細胞核内HMGB1タンパク質の量は増加する。それは、上記ペプチドが優れた炎症の予防効果または抑制効果を有するということを意味する。
【0065】
また、本発明の一側面による配列番号1の配列を含むペプチド、前記ペプチド配列と80%超の配列相同性を有するペプチド、又は上記ペプチドの断片は、細胞内毒性が低いために高い実施可能性を有するという長所を有する。
【0066】
本明細書において「炎症性疾患」は、炎症を主な原因にする疾患、または疾患によって炎症が発生する疾患など炎症と係わる疾患をいずれも含む広範囲な概念である。具体的には、炎症性疾患は、(1)全身または局所の炎症疾患(例えば、アレルギー;免疫複合体疾患;枯草熱;過敏性ショック;耐毒素ショック;悪液質(cachexia)、異常高熱;肉芽腫症;または類肉腫症);(2)胃腸管系疾患(例えば、虫垂炎;胃潰瘍;十二指腸潰瘍;腹膜炎;膵腸炎;潰瘍性、急性または虚血性の大腸炎;胆管炎;胆嚢炎、脂肪便症、肝炎、クローン病;またはウィップル病);(3)皮膚関連疾患(例えば、乾癬;火傷;日焼け火傷;皮膚炎;蕁麻疹性のいぼまたは膨疹);(4)心血管系疾患(例えば、血管炎;脈管炎;心内膜炎;動脈炎;粥状動脈硬化症;血栓静脈炎;心膜炎;鬱血性心不全;心筋炎;心筋虚血症;結節性動脈周囲炎;再発性狭窄症;バーガー氏病;またはリューマチ熱);(5)呼吸器系疾患(例えば、喘息;喉頭蓋炎;気管支炎;肺気腫(emphysema);鼻炎;嚢胞性纎維症;癲癇性肺炎;慢性閉鎖性疾患(COPD);成人呼吸障害症侯群;塵肺症;肺胞炎;細気管支炎;咽頭炎;肋膜炎;または副鼻腔炎);(6)骨、関節、筋肉及び結合組織関連疾患(例えば、好酸性肉芽種;関節炎;関節痛;骨髄炎;皮膚筋炎;筋膜炎;パジェット病;通風;歯周疾患;リューマチ性関節炎;重症筋無力症;強直性脊椎炎;または潤滑膜炎);(7)泌尿生殖系疾患(例えば、副睾丸炎;膣炎;前立腺炎;または尿道炎);(8)中枢または末梢神経系関連疾患(例えば、アルツハイマー病;髄膜炎;脳炎;多発性硬化症;脳梗塞;脳塞栓症;キラン・バレー症侯群(Guillain-Barre syndrome);神経炎;神経痛;骨髄外傷;麻痺;またはぶどう膜炎);(9)ウイルス(例えば、インフルエンザ;呼吸器細胞融合ウイルス;HIV;B型肝炎ウイルス;C型肝炎ウイルスまたはヘルペスウイルス)感染疾患(例えば、デング熱;または敗血症(septicemia))、真菌感染疾患(例えば、カンジダ症)、または細菌、寄生虫及び類似の微生物感染(例えば、散在性菌血症;マラリア;糸状虫症;またはアメーバ症);(10)自己免疫疾患(例えば、甲状腺炎;ループス;グッドパスチャー症侯群;同種移植拒否反応;移植片対宿主病;または糖尿病);または(11)癌または腫瘍性疾患(例えば、ホジキン病)を含むが、それらに制限されるものではない。
【0067】
そのような疾病の炎症性要素の治療は、数十年間、全世界製薬業界の最も重要な目標であり、数多くの有用な治療法が開発されてきた。その例としては、コルチコステロイド(プレドニソロン、メチルプレドニソロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、フルチカゾンなどを含み、コルチゾールの効果を模倣するように考案された多様な範囲の天然、半合成及び合成の製剤)、シクロオキシゲナーゼ抑制剤(インドメタシン、スルファサラジン及びアスピリンのように、非選択性またはcox-1選択性、及びさらに最近のセレコキシブのように、cox-2選択性)、(モンテルカストのような)ロイコトリエン遮断製、及び(サリドマイドのような低分子TNF-α合成抑制剤だけではなく、インフリキシマブ(RemicadeTM)及びアダリムマブ(HumiraTm)を含む改良モノクローナル中和抗体、エタネルセプト(EnbrelTM)のようなTNF受容体融合タンパク質のような)抗TNFを含む。
【0068】
本発明の一側面では、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、前記アミノ酸配列と80%超の配列相同性を有するペプチド、またはその断片であるペプチドを有効成分として含む抗炎症組成物を提供する。
【0069】
本発明の一側面による抗炎症組成物は、一側面では、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、前記アミノ酸配列と80%超の配列相同性を有するペプチド、またはその断片であるペプチドを0.1μg/mgないし1mg/mg、具体的には1μg/mgないし0.5mg/mg、さらに具体的には10μg/mgないし0.1mg/mgの含量で含んでもよい。前記範囲で含む場合、本発明の意図した効果を示すのに適切なだけではなく、組成物の安定性及び安全性をいずれも満足することができ、コスト対比効果の側面で、も前記範囲で含むことが適切である。
【0070】
本発明の一側面による組成物は、ヒト、犬、ニワトリ、豚、牛、羊、ギニアピッグまたは猿を含む全ての動物に適用されてもよい。
【0071】
本発明の一側面において、該組成物は、配列番号1の配列を有するペプチド、配列番号1の配列の断片であるペプチド、または前記ペプチド配列と80%超の配列相同性を有するペプチドを有効成分として含む炎症性疾患の治療用または予防用の医薬組成物を提供する。本発明の一側面において、医薬組成物は、経口、直腸、経皮、静脈内、筋肉内、腹腔内、骨髄内、硬膜内または皮下手段を通じて投与されてもよい。
【0072】
経口投与のための剤形は、錠剤、丸剤、軟質または硬質のカプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤または乳濁剤でもあるが、それらに制限されるものではない。非経口投与のための剤形は、注射剤、点滴剤、ローション、軟膏、ゲル、クリーム、懸濁液剤、乳剤、坐剤、パッチまたは噴霧剤でもあるが、それらに制限されるものではない。
【0073】
本発明の一側面による医薬組成物は、必要によっては、希釈剤、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、緩衝剤、分散剤、界面活性剤、着色剤、香料または甘味剤などの添加剤を含んでもよい。本発明の一側面による医薬組成物は、当業界の一般的な方法によって製造されてもよい。
【0074】
本発明の一側面による医薬組成物の有効成分は、投与される対象の年齢、性別、体重、病理状態及びその深刻度、投与経路、または処方者の判断によって異なる。そのような因子に基づいた適用量の決定は、当業者のレベル内にあり、その1日投与用量は、例えば、0.1μg/kg/日ないし1g/kg/日、具体的には1μg/kg/日ないし10mg/kg/日、さらに具体的には10μg/kg/日ないし1mg/kg/日、一層具体的には50μg/kg/日ないし100μg/kg/日になるが、それらに制限されるものではない。本発明の一側面による医薬組成物は、1日1回ないし3回投与されるが、それに制限されるものではない。
【0075】
本発明の一側面では、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、前記アミノ酸配列と80%超の配列相同性を有するペプチド、またはその断片であるペプチドを有効成分として含む皮膚炎症の改善用または予防用の皮膚外用剤組成物を提供する。
【0076】
本発明の他の一側面では、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、前記アミノ酸配列と80%以上の配列相同性を有するペプチド、またはその断片であるペプチドを有効成分として含む皮膚炎症の改善用または予防用の化粧品組成物を提供する。
【0077】
本発明の一側面による皮膚外用剤組成物または化粧品組成物は、局所適用に適する全ての剤形に提供されてもよい。例えば、溶液、水相に油相を分散させて得たエマルジョン、油相に水相を分散させて得たエマルジョン、懸濁液、固体、ゲル、粉末、ペースト、泡沫(foam)またはエアロゾールの剤形で提供されてもよい。そのような剤形は、当該分野の一般的な方法によって製造されてもよい。
【0078】
本発明の一側面による化粧品組成物は、主効果を損傷させない範囲内で、望ましくは、主効果に相乗効果を与えることができる他の成分を含んでもよい。また、本発明の一側面による化粧品組成物は、保湿剤、エモリエント剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、防腐剤、殺菌剤、酸化防止剤、pH調整剤、有機または無機の顔料、香料、冷感剤または制汗剤をさらに含んでもよい。前記成分の配合量は、本発明の目的及び効果を損傷させない範囲内で、当業者が容易に選定可能であり、その配合量は、化粧品組成物全体重量を基準に、0.01ないし5重量%、具体的には0.01ないし3重量%でもある。
【0079】
本発明の一側面において該組成物は、配列番号1の配列を有するペプチド、配列番号1の配列の断片であるペプチド、または前記ペプチド配列と80%超の配列相同性を有するペプチドを有効成分として含む炎症予防用または抑制用の食品組成物を提供する。
【0080】
本発明の一側面による食品組成物の剤形は、特別に限定されるものではないが、例えば、錠剤、顆粒剤、粉末剤、液剤、固形製剤などで剤形化にもなる。各剤形は、有効成分以外に、当該分野で一般的に使用される成分を剤形または使用目的によって、当業者が困難なしに、適宜選定して配合することができ、他の原料と同時に適用する場合、相乗効果が起こるのである。
【0081】
前記有効成分の投与量決定は、当業者のレベル内にあり、その1日投与用量は、例えば、具体的には1μg/kg/日ないし10mg/kg/日、さらに具体的には10μg/kg/日ないし1mg/kg/日、一層具体的には50μg/kg/日ないし100μg/kg/日にもなるが、それらに制限されるものではなく、投与する対象の年齢、健康状態、合併症など多様な要因によって異なる。
【0082】
本発明の一側面においては、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、前記アミノ酸配列と80%超の配列相同性を有するペプチド、またはその断片であるペプチドの炎症性疾患の予防用途または治療用途を提供する。
【0083】
本発明の一側面によれば、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、前記アミノ酸配列と80%超の配列相同性を有するペプチド、またはその断片であるペプチドの炎症性疾患を予防または治療する方法が提供される。
【0084】
本発明の一側面において、炎症性疾患の予防用または治療用のキットが提供される。当該キットは、抗炎症活性を有するペプチド又は当該ペプチドを含む組成物と、ペプチドまたは組成物の投与量、投与経路、投与回数及び適応症のうち一つ以上を含む指示書とを含み得る。ここで、当該ペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を含むか、前記アミノ酸配列と80%超の配列相同性を有するか、または前記ペプチドの断片である。
【0085】
本明細書で使用された用語は、特定具体例について説明するための目的のみに意図されたものであり、本発明を限定する意図ではない。名詞の前に個数が省略された用語は、数量を制限するものではなく、言及された名詞物品が一つ以上存在するということを示すものである。用語「含む」、「有する」及び「なる」は、開かれた用語と解釈される(すなわち、「含むが、それに限定されるものではない」という意味)。
【0086】
数値の範囲を言及したのは、ただその範囲内に属するそれぞれの別個の数値を個別的に言及することの代わりとする容易な方法だからであり、そうではないということが明示されていない限り、各別個の数値は、まさに個別的に明細書に言及されているように本明細書に統合される。全ての範囲の終値は、その範囲内に含まれ、独立して組み合わせ可能である。
【0087】
本明細書に言及された全ての方法は、異なって明示されているか、あるいは文脈によって明白に矛盾しない限り、適切な手順で遂行されてもよい。ある一実施例及び全ての実施例、または例示的言語(例えば、「~のような」)を使用するのは、特許請求の範囲に含まれていない限り、単に本発明をさらに良好に記述するためであり、本発明の範囲を制限するものではない。明細書のいかなる言語も、いかなる非請求の構成要素を、本発明の実施に必須なものであると解釈されてはならない。取り立てての定義がない限り、本明細書に使用される技術的及び科学的な用語は、本発明が属する技術分野で当業者によって、通常理解されるような意味を有する。
【0088】
本発明の望ましい具体例は、本発明を遂行するために、発明者に知られた最適のモードを含む。望ましい具体例の変動は、先行記載を読めば、当業者に明白になるであろう。本発明者らは、当業者がかような変動を適切に利用することを期待し、本明細書に記載されたところと異なる方式で本発明が実施されることを期待する。従って、本発明は、特許法によって許容されるように、添付された特許請求の範囲で言及された発明の要旨の均等物及び全ての変形を含む。さらに、全ての可能な変動内で、前述の構成要素のいかなる組み合わせでも、ここで反対に明示するか、あるいは文脈上明白に矛盾しない限り、本発明に含まれるものである。本発明は、例示的な具体例を参照し、具体的に示されて記述されたが、当業者であるならば、特許請求の範囲によって定義される発明の精神及び範囲を外れずとも、形態及びディテールにおいて、多様な変化が行われるということを十分に理解するであろう。
【0089】
腫瘍懐死因子(TNF)、特にTNF-αは、炎症性細胞から放出され、多彩な細胞毒性反応、免疫反応及び炎症反応を起こすと知られている。TNF-αは、多くの炎症疾患及び自己免疫疾患の発症や遷延化に関与し、また血液中に放出されて全身に作用すれば、重症の敗血症及び敗血症性ショックを起こということが知られている。そのようにTNF-αは、生体の免疫系に広範囲に関連する因子であるために、TNF-αを抑制する薬剤の開発が活発に実施されている。TNF-αは、不活性型に生合成され、プロテアーゼによって切断されて活性型になるが、その活性化に関与する酵素は、腫瘍懐死因子変換酵素(TACE)と呼ばれている。従って、そのTACEを阻害する物質は、TNF-αから起因する疾患、病態、異常状態、状態が不良、不良な自覚症状などを治療、改善、予防することができる。
【0090】
HMGB1(high-mobility group box 1)タンパク質は、胸腺、リンパ節、睾丸、胎児の肝臓などで高い濃度で存在し、肝細胞と脳細胞とを除けば、ほとんどの細胞では、主に核内に存在する。そのような前記HMGB1タンパク質は、A-box、B-box、C-terminalから構成された3個のドメイン(domain)を有している。
【0091】
HMGB1タンパク質が炎症を誘発するサイトカインの役割を行うということは、1999年、Traceyらによって報告され、前記HMGB1の炎症誘発メカニズムは、外部刺激によって、核内に存在するHMGB1がアセチル化された後に細胞質に移動する。その後、細胞外に分泌されるか、あるいは懐死に陥った細胞から外部に分泌されると知られている(Bonaldi T et al., EMBO J, (22)5551-60, 2003)。
【0092】
以下、実施例及び実験例を挙げ、本発明の構成及び効果についてさらに具体的に説明する。しかし、下記実施例及び実験例は、本発明の理解の一助とするために、例示の目的にのみ提供されたものであり、本発明の範疇及び範囲がそれらによって制限されるものではない。
【実施例
【0093】
実施例1:PEP 1(配列番号1)の合成及び抗炎活性測定
実験例1:PEP 1(配列番号1)の合成
ヒトテロメラーゼから選別された下記配列SEQ ID:1(PEP 1)を有する下記化学構造1を有する16個のアミノ酸から構成されたペプチドを合成した。
【0094】
【化1】
【0095】
配列番号1のペプチドPEP 1は、従来公知の固相ペプチド合成法によって製造することができた。具体的には、ペプチドは、ASP48S(Peptron、Inc.,大韓民国大田所在)を利用して、Fmoc固相合成法(SPPS:solid phase peptide synthesis)を介して、C-末端からアミノ酸を一つずつカップリングすることによって合成した。次のように、ペプチドのC-末端の最初のアミノ酸が樹脂に付着したものを使用した。例えば、次の通りである:
【0096】
NH2-Lys(Boc)-2-chloro-Trityl Resin
NH2-Ala-2-chloro-Trityl Resin
NH2-Arg(Pbf)-2-chloro-Trityl Resin
【0097】
ペプチド合成に使用した全てのアミノ酸原料は、N-termがFmocによって保護され、残基は、いずれも酸で除去されるTrt、Boc、t-Bu(t-butylester)、Pbf(2,2,4,6,7-pentamethyl dihydro-benzofuran-5-sulfonyl)などによって保護されたものを使用した。例えば、次の通りである:
【0098】
Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Arg(Pbf)-OH、Fmoc-Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Pro-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Ile-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Thr(tBu)-OH、Fmoc-Lys(Boc)-OH、Fmoc-Gln(Trt)-OH、Fmoc-Trp(Boc)-OH、Fmoc-Met-OH、Fmoc-Asn(Trt)-OH、Fmoc-Tyr(tBu)-OH、Fmoc-Ahx-OH、Trt-Mercaptoaceticacid
【0099】
カップリング試薬(coupling reagent)としては、HBTU[2-(1H-Benzotriazole-1-yl)-1,1,3,3-tetamethylaminium hexafluorophosphate]/HOBt[N-Hydroxxybenzotriazole]/NMM[4-Methylmorpholine]を使用した。Fmoc除去は、20%のDMF中のピペリジン(piperidine in DMF)を利用した。合成されたペプチドをResinから分離し、残基の保護基を除去するためには、切断カクテル(cleavage cocktail)[TFA(trifluoroacetic acid)/TIS(triisopropylsilane)/EDT(ethanedithiol)/H2O=92.5/2.5/2.5/2.5]を使用した。
【0100】
アミノ酸保護基が結合された出発アミノ酸が固相支持体に結合されている状態を利用して、ここに当該アミノ酸をそれぞれ反応させ、溶媒で洗浄した後、脱保護する過程を反復することにより、各ペプチドを合成した。合成されたペプチドを樹脂から切り取った後、HPLで精製し、合成をMSで確認して、その後凍結乾燥した。
【0101】
PEP 1の具体的な合成過程について説明すれば、次の通りである。
1)カップリング
NH2-Lys(Boc)-2-chloro-Trityl Resinに保護されたアミノ酸(8当量)と、カップリング試薬HBTU(8当量)/HOBt(8当量)/NMM(16当量)とをDMFに溶解させて添加した後、常温で2時間反応させ、DMF、MeOH、DMFの順に洗浄した。
2)Fmoc脱保護
20%のDMF中のピペリジン(piperidine in DMF)を加え、常温で5分間2回反応させ、DMF、MeOH、DMFの順に洗浄した。
3)1及び2の反応を反復して行い、ペプチド基本骨格NH2-E(OtBu)-A-R(Pbf)-P-A-L-L-T(tBu)-S(tBu)-R(Pbf)L-R(Pbf)-F-I-P-K(Boc)-2-chloro-Trityl Resin)を作った。
4)切断(cleavage):合成が完了したペプチドResinに、切断カクテル(cleavage cocktail)を加え、ペプチドをレジンから分離した。
5)得られた混合物(mixture)に、cooling diethyl etherを加えた後、遠心分離して得られたペプチドを沈澱させる。
6)Prep-HPLCで精製した後、LC/MSで分子量を確認して凍結させ、パウダーに製造した。
【0102】
実験例2:PEP 1の抗炎症活性測定
細胞株培養
韓国細胞株銀行から分譲されたRaw 264.7macrophage cell(KCBL、40071)は、10% fetal bovine serum(FBS;Gibco Laboratories)と、100unit/mLのstreptomycin及びpenicillin(Gibco Laboratories)が添加されたDulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM;PAA,Austria)培地を使用して、1×106細胞/mlに調節した後、96ウェルプレートに接種し、37゜C、5% CO2の条件で前培養した。
【0103】
翌日、培地を除去し、新たな培地に代替し、実験例1を介して得られたペプチド試料を5μg/mL細胞に加えた。30分間CO2インキュベータで培養した後、50μlのLPS(最終濃度1μg/ml)を含んだ培地を処理し、インキュベータ(5%CO2、37℃)で24時間培養した。炎症反応モデルは、各ウェル当たり1μg/mLリポ多糖(LPS:lipopolysaccharide;Sigma,USA)を処理し、対照群は、フォスフェリン酸緩衝生理食塩水(PBS;pH7.2)処理を行った。LPS処理モデル及び対照群から得たそれぞれの細胞培養液は、追加分析のために、エッペンドルフチューブ(eppendorf tube)に入れて保管した。
【0104】
実験例2-1.酸化窒素(NO)分析
酸化窒素の定量は、Raw 264.7細胞(1×106細胞/ml)を利用して、グリース反応液システム(Griess reagent system;Promega,USA)を使用して測定する方法を使用した。96-ウェルプレートに培養液50μlを入れ、グリース反応液I(ナフチルエチレンジアミド(NED)溶液)及びグリース反応液II(スルファニルアミド溶液)を同量で混合して入れ、10分間の反応後、30分以内に、マイクロプレートリーダー(Molecular Devices,USA)を利用して、光学密度540nmで測定した。酸化窒素(NO)の濃度は、亜硝酸ナトリウムの標準曲線(0~100μM)を利用して計算した
下記表3に示されているように、LPSは、NOの生成を増加させたが、LPSとペプチドPEP 1とを同時に処理した場合、NO生成量が減少するということを確認することができた。特に、PEP 1を処理した場合には、炎症の誘発時に生成されるNOの生成量が65%減少したと推し量るとき、炎症誘発が抑制されたということが分かった。
【0105】
【表2】
【0106】
実験例2-2.サイトカイン生成抑制効果の分析
PEP 1の炎症性サイトカイン生成抑制効果を調査するために、RAW 264.7cellを、ヒトテロメラーゼ由来PEP 15μg/mL濃度でまず処理した後、LPS 1μg/mL濃度で処理し、24時間さらに培養した。細胞培養液(culture medium)を含む上澄み液サンプルを採集し、ELISAキット(eBioscience,San Diego)を使用して、サイトカインレベルを分析した。
【0107】
96-ウェルプレートは、100μlのキャプチャ抗体(capture antibodies;製造社のプロトコルによる推薦濃度によってなるコーティングバッファに溶解されたもの)でコーティングされ、4℃で一晩反応させた。そして、プレートを5回洗浄した後、200μlのアッセイ希釈液(diluents)を各ウェルに添加し、ブロッキングの間、室温で1時間反応させた。各ウェルをウォッシュバッファで5回洗浄した後、細胞培養液サンプル、または各サイトカイン標準タンパク質サンプルは希釈され、100μlずつ各ウェルに添加された。サンプルを含んだプレートは、4℃で一晩反応させた。その後、プレートをウォッシュバッファで5回洗浄した後、100μlの二次抗体と、アビジン(avidin)の接合体(conjugate)とを添加し、室温で1時間反応させた。
【0108】
二次抗体と共に反応させた後、プレートを5回洗浄し、100μlのアビジン-HRP(BD Bioscience)と共に、30分間室温で反応させた。プレートを7回洗浄した後、100μlのTMB溶液(Pierce)を添加し、15分間室温で反応させた。反応は、各ウェルに、50μlの2N硫酸(H2SO4)を添加することによって終了した。450nmで、光学密度が、マイクロプレートリーダー(reader)を使用して測定された。統計学的分析は、SPSSプログラムのANOVAプロシージャを使用して、変量分析で実施され、分析間の有意点は、Duncan’s multiple range testを使用して検証された。
【0109】
実験例2-3:IL-6分泌測定
下記表4に示されているように、LPSは、サイトカインIL-6(interleukin-6)の分泌を増加させたが、LPS及びPEP 1を同時に処理した場合、炎症関連サイトカインIL-6の分泌量が減少するということを確認するということができた。特に、PEP 1を処理した場合には、炎症誘発関連サイトカインの分泌量を70%超減少させ、すぐれた抗炎活性を示した。
【0110】
【表3】
【0111】
実験例2-4:HMGB1、TNF-α、COX-2の発現抑制能測定
タンパク質発現の分析は、ウェスタンブロット分析(Western blot analysis)によって行ったが、ヒトテロメラーゼ由来ペプチドが処理された培地で育った細胞をPBSで洗浄し、0.05%トリプシン-EDTAを処理した後、遠心分離を行って細胞を集めた。そのように集められた細胞に、適量のリシスバッファで溶解させた後、細胞内残渣物を分離させ、同量のタンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離した。分離されたタンパク質を、ニトロセルロース膜(nitrocellulose membrane;Schleicherand Schuell,Keene,NH,USA)に転移させた後、特定タンパク質に対する抗体と、それに対する二次抗体との反応を実施した後、ECL(enhanced chemiluminoesence)溶液(Amersham Life Science Corp.,Arlington Heights,IL,USA)を適用させた後、X線フィルムに感光させ、タンパク質の発現程度を分析した。
【0112】
NO生成抑制メカニズムであるTNF-αと、COX-2タンパク質との関連性を確認するために、ウェスタンブロットを介して、発現量を測定した結果、下記表5に示されているように、LPSは、サイトカインHMGB1、TNF-α、COXの発現を増加させたが、LPS及びPEP 1を同時に処理した場合、炎症関連タンパク質の発現量が減少するということを確認することができた。特に、本発明のPEP 1を処理した場合には、炎症誘発関連サイトカインタンパク質の発現量を70%超減少させ、すぐれた抗炎症活性を示した。
【0113】
【表4】
【0114】
実験例3:PEP 1の肝臓癌細胞株でのTNFα阻害活性検証
実験例3-1:細胞株培養
健常者から血液を採血(50ml)した後、Ficoll-PaqueTM PLUS(GE Healthcare Life Sciences,Piscataway,NJ,USA)を使用して、PBMC(peripheral blood mononuclear cell)層を回収した。回収されたPBMCは、ヒト血清(20%)が添加されたRPMI 1640培地(Invitrogen/Life Technologies,Carlsbad,CA,USA)で富化させ、30分ほどヒト血清をコーティングした100-mmポリスチレン細胞培養プレートに移し、2時間37℃、5%CO2インキュベータで培養した。その後、細胞培養プレートの底に付着したモノサイトを、冷たいPBS(Phosphate Buffered Saline)(Gibco/Life Technologies,Carlsbad,CA,USA)で引き離した後、96ウェルプレートに、ウェル当たり1×105セルになるように、RPMI 1640培地(supplemented with penicillin-streptomycin;100mg/ml、human serum;20%)で実験前日に培養した。
【0115】
また、TLR 2(toll-like receptor 2)が安定して発現されるHEK293(human embryonic kidney 293)細胞株(HEK293/TLR 2)と、一般的なHEK293(HEK293/null)細胞株とをソウル大学校歯科大学院から分譲してもらい、ルシフェラーゼ(luciferase)分析に使用した。HEK293/nullとHEK293/TLR 2細胞株は、ルシフェラーゼ分析実験前日に、12ウェルプレートに、ウェル当たり2.5×105セルになるように、DMEM(Dulbecco’s modified Eagle’s medium)培地(supplemented with blasticidin;10μg/ml、fetal bovine serum;10%)(Invitrogen/Life Technologies,Carlsbad,CA,USA)で富化させて実験前日培養した。
【0116】
実験例3-2:サイトカインアッセイ(Cytokine assay)
PEP 1がTNF-αのタンパク質発現程度に、いかなる影響を及ぼすかということを調べるために、ELISA(enzyme linked immunosorbent assay)実験を行った。PBMCに由来したモノサイトを、96ウェルプレートに、ウェル当たり1×105セルになるように実験前日に培養させた。その後、LPS(lipopolysaccharide;10ng/ml、Sigma)を2時間処理し、PBSで3回洗浄した。OPTI-MEM培地(Invitrogen/Life Technologies,Carlsbad,CA,USA)を入れ、1時間飢餓状態処理(starvation)した後、FITC(Fluorescein Isothiocyanate)、FITC-TAT、PEP 1-FITC及びFITC-PEP 1の4μMで処理し、TNF-αレベル測定前に2時間培養した。培養が終了した後、細胞培養液を集め、ELISA(R&D,Minneapolis,MN,USA)キットマニュアルによってTNF-αを定量した。具体的な定量方法は、次の通りである。
【0117】
TNF測定は、サンドイッチ(sandwich)ELISA法を利用する。あらかじめコーティングされている96ウェルプレートに、TNFα一次抗体(primary antibody)を100μlずつ入れ、4℃で前日に培養する。翌日、0.5%tween 20ウォッシュ溶液で、5分ずつ3回洗浄した後、測定するサンプルと標準溶液とを100μlずつ入れ、2時間常温で反応させる。前述のようにプレート洗浄した後、HRP結合された検出用二次抗体を、各100μlずつ入れ、2時間常温で反応させる。その後、さらにプレート洗浄し、avidin/biotinを添加して発色させ、吸光度を測定する。標準溶液の吸光度を利用して標準曲線を求め、それを利用して、各サンプルのTNF-αを定量する。
【0118】
PBMC由来モノサイトを、エンドトキシン(endotoxin)であるLPS(10ng/ml)で2時間刺激させ、1時間OPTI-MEMで飢餓状態処理(starvation)した後、FITC、FITC-TAT、PEP 1-FITC及びFITC-PEP 1で、4μMの濃度で2時間処理した。反応後、細胞培養液のTNF-αレベルを、ELISAで測定した結果、FITC及びFITC-TATの場合、LPSによって、TNF-αレベルが高く測定されたが(6.2及び6.7ng/ml)、PEP 1-FITC及びFITC-PEP 1の場合、TNF-αレベルが大きく低下した傾向を示し(0.17及び0.25ng/ml)、その差は、統計学的に有意な結果であると確認された(P<0.01)(図1)。
【0119】
実験例3-3:ルシフェラーゼ分析(Luciferase Assay)
炎症反応(inflammatory response)でのPEP 1の役割を調査するため、ルシフェラーゼ分析(Luciferase assay)を介して、NF-kB発現パターン(expression patterns)を評価した。第一に、12ウェルプレートに、ウェル当たり2.5x105セルになるように、HEK293/nullと、HEK293/TLR 2(Graduate School of Dentistry,Seoul National University)を24時間培養した。プレートをPBSで3回洗浄した後、培地は、OPTI-MEM(Invitrogen/Life Technologies,Carlsbad,CA,USA)に交換して4時間培養した後、3μl lipofectamine(Invitrogen/Life Technologies)、1μl NF-kB ルシフェラーゼ、10ng renilla luciferase(Promega,Madison,WI,USA)混合物を各ウェルに加えた後、4時間さらに培養した。陰性対照群を除外した全てのウェルに、Lipoprotein pam3cys(10ng/ml、Sigma-Aldrich,St.Louis,MO,USA)を加え、PBSで3回洗浄する前に、18時間FITC(4μM)とFITC-PEP 1(4μM)とで処理した。dual-luciferase reporter assayシステム(Promega)によって提供されることにより、それぞれのウェルに、50μl passive溶解緩衝剤(lysis buffer)を加えて細胞を溶解させた後、TD-20/20 luminometer(Turner designs,Sunnyvale,CA,USA)を介して、NF-kB活性化を確認した。Pcmv-renilla luciferase(Promega)のコトランスフェクションで、トレンスフェクション効能を確認し、ルシフェラーゼ値をcalibrateして結果を分析した。
【0120】
NF-kBルシフェラーゼを、HEK293/nullとHEK293/TLR 2細胞株とにトランスフェクションした後、合成リポプロテイン、FITC(4μM)、陰性対照群を共に処理し、pam3cysは、18時間培養するために、FITC-PEP 1(4μM)でさらに処理した。Passive溶解緩衝剤を加えた細胞溶解を介して、ルシフェラーゼ強度を利用したNF-kB発現パターン測定は、dual-luciferase reporter assayシステムによって提供され、リポプロテイン及びFITC-PEP 1処理、またはHEK293/null非処理に差を示していない。しかし、TLR 2の亢進剤であるリポプロテインを、HEK293/TLR 2細胞株で処理した場合(P<0.01)、処理していない場合よりNF-kB発現が増大し、それを介して、抗炎反応を確認することができた。また、NF-kB発現は、FITC-PEP 1で共に処理した場合、処理していない場合より増大し、リポプロテインとFITCとが共に処理された陰性対照群の場合(P<0.01)より低下した(図2)。結局、TLR 2によって発生する抗炎反応は、PEP 1が共に処理されたときに低減するということを確認することができた。
【0121】
実験例3-4:THP1細胞株でのサイトカインレベルに影響を及ぼすペプチド再分析
ヒト急性単核球性白血病(Human acute monocytic leukemia)細胞株であるTHP-1細胞(ATSS:American Type Culture Collection,Manassas,VA,USA)を使用して、PEP 1の効能を再確認した。細胞は、密度0.5-0.7x105cells/mLのRPMI 1640において、このときRPMI 1640は、10% FBS、0.05mM 2-メルカプトエタノール、100U/mlペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンを含み、37℃の5%CO2で維持された。THP-1細胞は、PMA(phorbol myristate acetate)100ng/mLを24時間37℃で処理し、大食細胞に分化させた。
【0122】
全ての試験薬及び培養液は、Gibco BRL.から購入した。PMA及びLPS、2-メルカプトエタノールは、Sigma(St.Louis,MO,USA)から購入した。ペプチドRIAは、ペプトロン(大田、大韓民国)で合成された。逆転写PCRキットは、Promega(Madison,WI,USA)から購入した。RT2 SYBR(登録商標) Green qPCRマスターミックス試験薬及びQIAzoldは、QIAGEN(Valencia,CA,USA)から購入した。
【0123】
大食細胞への分化後、THP-1細胞は、RPMI 1640(洗浄1回当たり5分)を使用して、2回洗浄された。その後、細胞は、4時間10ng/mlのLPS及び/または4μMのペプチドRIAで、FBSがないRPMI 1640で処理された。
【0124】
トータルRNAサンプルは、ペプチド処理されたTHP-1細胞からTrizol(QIAzol)試験薬を使用して分離され、cDNAは、Promegaの逆転写PCRキットを、製造社プロトコルによって利用した逆転写PCRから合成された。
【0125】
そして、リアルタイム(RT:real-time)qPCRは、CFX96(Bio-Rad)装置を、SYBR Greenシステムと共に使用して行われた。実験に使用されたプライマーは、表5に示した。PCRサイクル条件は、95℃、10分間のHotStart DNA Taq polymeraseの活動時間に設定され、95℃で10秒、55℃で30秒、及び72℃で30秒からなるサイクルの45回が続けて遂行された。全てのサンプルは、3回反復して測定され、遺伝子発現の差は、2サイクル限界点(threshold)方式を使用して計算された。全てのデータは、β-アクチン(ハウスキーピング遺伝子)に対して正規化され、3回の独立した実験を、+/-標準エラー(S.E.:standard error)の手段として使用した。
【0126】
【表5】
【0127】
図3を介して確認することができるように、炎症反応に関与するサイトカインは、LPSによって、PEP 1の処理によって目立って減少した。
【0128】
実験例4:ベータアミロイドによって誘導された炎症反応の分析
HMGB1タンパク質は、外部刺激によって、核内に存在するHMGB1タンパク質がアセチル化されて細胞質に移動していて、その後、細胞外部に分泌されることにより、炎症誘発サイトカインの役割を行うと知られている。このように、炎症がある場合、HMGB1タンパク質が細胞外部に分泌されるので、炎症性疾患であるチャーグ・ストラウス症侯群、リューマチ関節炎及びシェーグレン症候群の患者の血清は、正常人よりはるかに多量のHMGB1タンパク質を有する。従って、炎症が誘発されるいかなる刺激が与えられても、細胞核内のHMGB1タンパク質量が多ければ、それは、HMGB1タンパク質が細胞外部に分泌していないということを意味するので、炎症が抑制されていると見られる。
【0129】
実験例4-1:PEP 1の抗炎症効果による神経幹細胞の生存効果及び増殖効果の分析
まず、PEP 1を、実施例1に記載されたペプチドの製造方法によって準備した。
【0130】
実験例4-2:神経幹細胞の培養及びベータアミロイド毒性評価
妊娠13日目の胎児ラットの頭から大脳皮質を分離した後、次のような培養条件で1週間、bFGF(Basic Fibroblast Growth Factor)で処理し、神経幹細胞を確保した。ベータアミロイドタンパク質が、前記培養された神経幹細胞に及ぼす影響を分析するために、あらかじめオリゴマー化させたベータアミロイドタンパク質を、0μMで、40μM濃度で神経幹細胞を48時間処理した後、CCK-8アッセイ、BrdU及びTUNELアッセイ利用して、細胞毒性評価を実施した。20μMのベータアミロイドタンパク質の処理後、60%ほどに細胞生存率が低下するということを確認し、前述のところと同一の濃度(0μM~40μM)を、その後の実験に利用した(図47及び図48参照)。
【0131】
実験例4-3:PEP 1の処理による細胞毒性評価
PEP 1が、前記培養された神経幹細胞に及ぼす影響を分析するために、既存に周知の方法によって、あらかじめ0,1,10,50,100,200μMまで多様な濃度で処理した後、MTTアッセイ、BrdU及びTUNELアッセイを利用して、細胞生存率と細胞増殖程度との評価を実施した。PEP 1の0ないし200μMの濃度では、細胞の生存及び増殖を阻害しないということが分かり、神経細胞系で安定しているということが確認された(図49及び図50参照)。
【0132】
実験例4-4:ベータアミロイドタンパク質及びテロメラーゼペプチド(GV1001)の同時処理後の細胞毒性評価
PEP 1がベータアミロイドタンパク質の神経毒性を抑制する効果があるか否かということを確認するために、20μMベータアミロイドタンパク質と、多様な濃度のPEP 1とで48時間処理後、細胞生存率及び死滅程度を、MTTアッセイ、CCK-8アッセイ、LDHアッセイ及びTUNELアッセイを利用して評価し、BrdUアッセイを利用して、神経幹細胞の増殖程度を分析した。
【0133】
MTTアッセイ、CCK-8アッセイの分析結果、10μM PEP 1が、ベータアミロイドタンパク質による神経毒性から神経幹細胞を保護し始め、100μMで、最良の保護効果が確認された(図8参照)。他の方法として、細胞の死滅程度を評価するLDHアッセイを実施し、ベータアミロイドタンパク質によって増大した細胞死滅が、PEP 1によって効果的に低減するということを確認することができ、この場合には、1μM濃度から効果を見せ始めた(図9参照)。
【0134】
BrdUアッセイを介しては、ベータアミロイドタンパク質によって低下した細胞の増殖(proliferation)が、PEP 1を処理した場合、増殖が回復するということを確認した(図10参照)。
【0135】
神経幹細胞の特性上、細胞移動性は、非常に重要な部分である。細胞移動性に係わる実験結果、ベータアミロイドタンパク質によって低下した細胞移動が、PEP 1処理によって回復し、10μM濃度の場合、対照群対比で、さらに増大しているということを確認し、その後、臨床実験で幹細胞移植前に前処理される場合、さらに効果的な結果が出てくるであろうということを示している(図11参照)。
【0136】
神経幹細胞損傷程度を直接的に確認するために、TUNELアッセイを実施した。20μMベータアミロイドタンパク質処理群において、神経幹細胞死滅が著しく増加することを観察し、1から100μM PEP 1処理によって、神経幹細胞死滅が低減するということを確認した(図12参照)。
【0137】
ベータアミロイドタンパク質による細胞死滅において、PEP 1保護効果の作用メカニズムを調べる。まず、ベータアミロイドタンパク質による酸化性損傷を、PEP 1が低減させるか否かということを調べる。DCF-DA染色試料(Molecular Probes,Eugene,OR)を利用して、ベータアミロイドタンパク質及びPEP 1の処理後、活性酸素の発生変化を観察した。20μMのベータアミロイドタンパク質によって、活性酸素が増加し、PEP 1と共に処理した群(1μM、10μM、50μM)では、増えた活性酸素が減少するということを確認した(図13参照)。
【0138】
実験例4-5:PEP 1を処理した群と、処理していない比較群とのタンパク質発現量比較分析
PEP 1処理された群と、処理されていない群とのタンパク質発現量を、2D-電気泳動技法(2-D gel electrophoresis)及び抗体マイクロアレイ(antibody microarray)技法で分析して定量した。前記実施例3の実験例1-1で培養された神経幹細胞から、プロテオームを抽出して200μgを準備し、PEP 1が処理されていない群を比較群として使用して、同一条件で比較分析した。
【0139】
2D電気泳動技法は、8.5x7サイズの12%アクリルアミドゲルを使用して、PI 4~10Nで、一次電気泳動を実施した。電気泳動後、クマシーブルー(Colloidal Coomassie Blue)染色試薬で発色させ、PDQuestソフトウェアを利用して、それぞれのスポットを分析して発現量を比較した。
【0140】
発現量の差が1.5倍超であるものは、MALDI-TOF MS(Matrix Desoprtion/lionization Time of Flight Mass Spectromestry)を利用して、タンパク質を同定した。そのうち、i-NOS及びHMGB-1のような炎症関連信号伝逹と相関関係があると知られたタンパク質を同定した(表6参照)。ベータアミロイドタンパク質によって、発現量の変化が1.5倍増加又は減少したが、PEP 1を加えたとき、発現量が陰性対照群の発現量に近く調節されているということを確認した(図14参照)。
【0141】
抗体マイクロアレイ技法は、細胞信号伝逹キット(CSAA1、PanoramaTM Ab Microarray Cell Signaling kit)を利用して実施し、GenePix Personal 4100Aスキャナを使用して、アレイスライドをスキャンし、GenePix Pro 5.0(Molecular Devices)を利用してデータを分析した。
【0142】
下記表6は、2D電気泳動技法を介して獲得された炎症関連タンパク質の発現分析結果である。対照群は、ベータアミロイドタンパク質またはPEP 1を処理していない正常細胞から抽出したタンパク質の発現量を示し、対照群の発現量を基準に増減した発現量の倍数を整理して示したものである。
【0143】
下記表6に提示されている分析結果を介して、PEP 1によって、炎症関連タンパク質の過剰発現(over-expression)及び過小発現(under-expression)が統制され、対照群のタンパク質発現量が陰性対照群に近い発現量を示すということを確認した。
【0144】
【表6】
【0145】
PI3K(phosphatidylinositol-3-kinase)/AKT信号伝達経路は、神経幹細胞の成長及び生存において決定的な役割を行う。PI3K経路は、多様な成長因子及び調節因子によって活性化され、神経幹細胞の成長及び生存の正常調節に関与する。AKT信号伝達経路は、多くのプロ細胞死滅因子(pro-apoptotic factor)を非活性化させ、すでに公知の代表的細胞死滅信号であるGSK3βを抑制させる。
【0146】
PEP 1の抗炎症効果について、さらに詳細に確認するために、タンパク質分析で明らかな変化を示したHMGB1に対するウェスタンブロットを行った。その結果、PEP 1の処理は、細胞生存信号であるKi67,pAKT,PI3K,HSTF-1及びBcl-2タンパク質の発現量を増加させ、細胞死滅信号であるBax,GSK3β,Cytochrom-c、caspase-3タンパク質の発現量を減少させた(図58参照)。
【0147】
非ヒストン(non-histone)構造を有し、DNAに結合するタンパク質であるHMGB1は、ヌクレオソーム(nucleosome)構造を安定化させて遺伝子発現調節を行うというような、細胞内で多様な役割を行う。炎症反応の後期段階で排出される炎症誘発物質のうち一つでもって、炎症反応が生ずるたびに刺激が加えられれば、初期に、大食細胞とモノサイドとによって排出されるが、神経細胞が著しく損傷されて懐死が生じれば、細胞外に排出され、非常に強烈な炎症反応を誘発させる。神経細胞の細胞質内で、ベータアミロイドタンパク質の処理後に減少したHMGB1が、テロメラーゼペプチド(GV1001)が、神経細胞死滅によるHMGB1の細胞外排出を阻害し、細胞内での重要な役割を増大させるということを反映することにより、GV1001が強力な抗炎症効果があり得ることを示す(図15参照)。
【0148】
ベータアミロイド凝集に対するPEP 1が、いかなる効果を示すかということを確認した。ベータアミロイドタンパク質の凝集誘導過程で、PEP 1で共に処理するとき、タンパク質凝集が阻害され(図16(A)参照)、すでに凝集が誘導されたベータアミロイドタンパク質にPEP 1処理を行うとき、タンパク質が分解されるということが確認された(図16(B)参照)。
【0149】
PEP 1の作用メカニズムにおいて、PI3K経路の細胞生存信号増加や細胞死滅信号減少などを確認したが、そのような現象が直接的なものであるか、あるいは間接的なものであるかということを確認するために、PI3K抑制剤であるLY294002(Promega)を前処理した結果、テロメラーゼペプチド(GV1001)の処理後に上昇した細胞生存率が、LY294002の前処理によって低下したものと見られ、GV1001の神経保護効果において、PI3K経路に対する直接的な影響が関与するものであると確認された(図17参照)。
【0150】
PEP 1は、ベータアミロイドタンパク質による神経幹細胞の死滅を抑制する効果は、神経幹細胞でさらに明らかに確認された。また、神経幹細胞の移動能向上にも寄与するということを確認し、臨床適用時に多様な可能性を提示した。PEP 1の作用メカニズムにより、抗炎症効果、神経幹細胞生存因子増加及び死滅因子減少、特に、PI3K信号伝達体系の活性化や抗酸化の効果などが確認され、非常に多様な作用メカニズムを介して、ベータアミロイドタンパク質による神経毒性抑制を確認した。
【0151】
実験例5:qPCRアレイ
実験方法
THP-1細胞培養
ヒト急性単核球性白血病(Human acute monocytic leukemia)細胞株であるTHP-1細胞(ATCC:American Type Culture Collection(ATCC),Manassas,VA,USA)を使用して実験を進めた。THP-1を96ウェルプレートに、ウェル当たり1×105セルになるように、RPMI 1640培地で富化させ、24時間培養させた。懸濁液で正常に成長するTHP-1細胞は、付着大食細胞類似表現型(adherent macrophage-lik ephenotype)に分化され、それは、分化培地で24時間行われた(100ng/mLのphorbol 12-myristate 13-actate(PMA;Sigma-Aldrich)を含む完全成長培地条件)。分化の間、THP-1細胞(3x106cells/plate、~95%コンフルエンシー(増殖尺度))は、10/cmの組織培養プレートにシードされ、分化培地で培養された。
【0152】
抗炎症ペプチドPEP-1のTHP-1細胞に対する処理
分化後に、大食細胞類似THP-1細胞は、完全成長培地で2回洗浄された。その後、細胞は、10ng/mLのリポ多糖(Sigma-Aldrich)及び/または4μMのPEP-1で4時間37℃で処理された。
【0153】
THP-1細胞でのRNAの分離及びcDNAの合成
トータルRNAは、RNeasyminikit(Qiagen,Valencia,CA,USAから購入)を使用して抽出及び精製され、製造社のプロトコルに従った。cDNAは、逆転写を介して合成され、Reverse Transcription System(Madison,WI,USAで購入)を使用して、製造社のプロトコルに従った。
【0154】
PCRアレイ
その後、THP-1細胞から得たcDNAサンプルは、リアルタイム定量PCR(qPCR:real-time quantitative PCR)分析のテンプレートとして使用された。qPCR分析のために、RT2 Profilier PCRアレイキットを、SABiosciences/Qiagen(Valencia,CA,USA)から購入した。分離された信号伝達を分析する4個の異なるPCRアレイキットが実験に使用され、詳細な内容は、次の通りである:ヒト信号変換メカニズムファインダ、ヒト炎症サイトカイン及び受容体、ヒト転写因子、ヒトNF-κB信号メカニズム。PCRは、Bio-Rad(Mercules,CA,USA)のCFX 96リアルタイムPCR機器を使用して、SYBR Green感知システム(Qiagen)を介して行われた。
【0155】
熱的サイクリング条件は、次の通りである:95℃で10秒間、55℃で30秒間、95℃で10分間、95℃で10秒間、55℃で30秒間、そして72℃で30秒間を50回増幅サイクルにした。データは、3個の独立した実験で得た平均値を示し、%低下は、対象遺伝子発現を、LPS処理されたサンプルと、LPS+PEP-1処理されたサンプルとを比較して決定された。336個の遺伝子が分析される間、下記のものにおいてのみ、統計的に有意(p<0.05、student’s t-test)の%低下が示され、下記表7に示した。
【0156】
【表7】
【0157】
表7に表示されたPEP-1によって転写が抑制された遺伝子が%阻害度でもって示され、それは、LPS処理されたものと、LPS+PEP-1処理されたサンプル(THP-1細胞)との転写レベルの変化率と計算された。336個の遺伝子を分析する間、表7に示された13個の遺伝子のみがPEP-1処理後、統計的に有意の低下を示した。それら遺伝子は、それぞれ異なる機能カテゴリー別にグループ化され、前記機能は、ケモカイン(chemokyne)及びサイトカイン、TNFα受容体信号伝逹(signaling)、脂質代謝、細胞自殺及びNF-κB信号伝逹を含む。さらに重要な点は、ケモカイン及びサイトカインのカテゴリーの遺伝子がNF-κBの対象遺伝子として知られており、NF-κB一致DNA結合サイトを、それらのプローモーター領域に有するということである。それと共に、PCRアレイで得たデータは、PEP-1の抗炎効果が、NF-κBによる炎症に対する主要調節子(regulator)操作を利用して遂行されるということも裏付け、それにより、PEP-1が広い範囲の炎症疾患において、抗炎症治療剤として使用されるということも裏付ける。
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【配列表】
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