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  • 特許-耐水性マーキング用塗料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】耐水性マーキング用塗料
(51)【国際特許分類】
   C09D 193/04 20060101AFI20220117BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20220117BHJP
   C09D 101/00 20060101ALI20220117BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20220117BHJP
   C09D 7/41 20180101ALI20220117BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220117BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
C09D193/04
C09D133/00
C09D101/00
C09D7/20
C09D7/41
C09D7/63
C09D5/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019221948
(22)【出願日】2019-12-09
(65)【公開番号】P2021091762
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2020-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】390002808
【氏名又は名称】マークテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173406
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 真貴子
(74)【代理人】
【識別番号】100067301
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 順一
(72)【発明者】
【氏名】幡谷 尚宏
(72)【発明者】
【氏名】高荷 悠
【審査官】宮地 慧
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-336379(JP,A)
【文献】特開2017-186448(JP,A)
【文献】特開2017-226763(JP,A)
【文献】特開平04-283273(JP,A)
【文献】特開平11-321093(JP,A)
【文献】特開昭63-027565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主溶剤とロジンエステル樹脂とアクリル樹脂とセルロース樹脂と蛍光染料と添加剤を含有する塗料であって、前記主溶剤は重量比で酢酸プロピル1に対し酢酸ブチルを0.25~4の割合で混合してなる溶剤であり、前記アクリル樹脂と前記セルロース樹脂の重量比が1:1であり、前記ロジンエステル樹脂を4.0重量%以上含有するマーキング用塗料。
【請求項2】
前記セルロース樹脂を6.0重量%以上含有する請求項1記載のマーキング用塗料。
【請求項3】
前記添加剤が可塑剤である請求項1又は2記載のマーキング用塗料。
【請求項4】
振動式粘度計で測定した20℃における粘度が18~25cPである請求項1乃至3いずれか記載のマーキング用塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼材等のマーキングに好適に使用できるマーキング用塗料に関する。詳しくは、該マーキング用塗料は可視光下では透明だが、紫外線を照射すれば発光する塗料であり、また、耐水性が高く、マーキング直後に水に濡れても白化せずに透明性を維持し、水に浸漬しても剥がれたり、消滅したりし難く、しかも、人体や環境に影響が少ないマーキング用塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼材製造工場などでは、古くから鋼板や鋼材部品等の鉄鋼材の表面に材質や用途等を示す文字や記号、加工位置等を指示するためのラインや文字等のマークが印字される(以下「マーキング」と言う)。
【0003】
マーキング用の塗料には、自然光等の可視光で視認できる塗料や、可視光下では透明だが、紫外線の照射によって視認できるようになる塗料がある。
【0004】
可視光にて視認できるマーキング用塗料を使用すれば、紫外線照射装置を使用しなくてもマークを視認できるため、作業自体は簡便であるが、マークを残存させることができない鉄鋼材等の場合は、後にマークを消去する工程が必要になる。
【0005】
しかし、可視光下では透明だが、紫外線を照射することで視認できるようになる塗料であれば、可視光下においては視認できないので、マークを消去する工程は不要になる。
【0006】
また、鉄管等にバーコードをマーキングする際、可視光にて視認できる塗料を使用すれば、外乱光の影響により読み取り精度が低下するという問題が生じる。
【0007】
紫外線を照射することにより視認できるようになる塗料でバーコードをマーキングすれば、外乱光が影響することがないため、読み取り精度が向上するという特長がある。
【0008】
しかしながら、このような可視光下で透明な塗料は、マーキング後、約1分程度の間に水に濡れると、塗料が白く変色してしまう(以下「白化」と言う)という問題がある。
【0009】
白化すれば、後に消去工程が必要になったり、バーコードの場合は読み取り精度が低下したりするという問題が生じる。
【0010】
そこで、可視光下では透明だが紫外線を照射することで視認できるようになる塗料であって、耐水性が高く、マーキング直後に水に濡れたとしても白化せずに透明性を維持し、また、水に浸漬したとしても剥がれたり、消滅したりし難く、人体や環境に影響の少ないマーキング用塗料の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開昭55-5896
【文献】特開平10-46072
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1にはアルミニウム製の缶等に使用するインキであって、可視光下では無色であるが、紫外線の照射により蛍光を示して視認できるようになり、また、低温殺菌のために水蒸気に当てることができるインクジェット式印刷に使用可能なインキが記載されている。
【0013】
しかし、実施例を参照すると、水溶性のメタノールを主溶剤とするインキであるため、印刷直後に水に濡れることによって塗膜が白化したり、浸水すればマークが剥がれたり、消滅したりする虞がある。
【0014】
特許文献2には、蛍光染料と酢酸ブチルの蒸発速度を100とした相対速度が150以上の乾燥性の高い溶媒を含有したジェット印刷用蛍光インクが記載されている。
【0015】
しかしながら、実施例を参照すると、水溶性のエタノールを主溶剤とするインクであるため、印刷直後に水に濡れることによって塗膜が白化したり、浸水すればマークが剥がれたり、消滅したりする虞がある。
【0016】
そこで、本発明者らは、前記諸問題点を解決することを技術的課題とし、試行錯誤的な数多くの試作・実験を重ねた結果、主溶剤とロジンエステル樹脂とアクリル樹脂とセルロース樹脂と蛍光染料と添加剤を含有する塗料であって、前記主溶剤は重量比で酢酸プロピル1に対し酢酸ブチルを0.25~4の割合で混合してなる溶剤であり、前記アクリル樹脂と前記セルロース樹脂の重量比が1:1であり、前記ロジンエステル樹脂を4.0重量%以上含有するマーキング用塗料であれば、可視光下では透明であるが紫外線を照射すれば発光して視認できるようになる塗料であって、耐水性が高く、マーキング直後に水に濡れたとしても白化せず透明性を維持し、浸水しても剥がれたり、消滅したりし難く、鉄鋼材等のマーキングに好適に使用できるマーキング用塗料になるという刮目すべき知見を得て、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記技術的課題は次のとおり、本発明によって解決できる。
【0018】
本発明は、主溶剤とロジンエステル樹脂とアクリル樹脂とセルロース樹脂と蛍光染料と添加剤を含有する塗料であって、前記主溶剤は重量比で酢酸プロピル1に対し酢酸ブチルを0.25~4の割合で混合してなる溶剤であり、前記アクリル樹脂と前記セルロース樹脂の重量比が1:1であり、前記ロジンエステル樹脂を4.0重量%以上含有するマーキング用塗料である。
【0019】
また、本発明は、前記セルロース樹脂を6.0重量%以上含有する前記マーキング用塗料である。
【0020】
また、本発明は、前記添加剤が可塑剤である前記マーキング用塗料である。
【0021】
また、本発明は、振動式粘度計で測定した20℃における粘度が18~25cPである前記マーキング用塗料である。
【0022】
また、本発明は、乾燥性が30~60秒以内である前記マーキング用塗料である。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、可視光下では透明であるが、紫外線を照射すれば発光して視認できるようになるマーキング用塗料なので、マークを残存させることのできない鉄鋼材等に好適に使用することができ、また、マークの除去工程を省略することができるため作業効率に優れるマーキング用塗料である。
【0024】
また、バーコードのマーキングに使用すれば、紫外線を照射してバーコードを読み取るため、外乱光の影響を受けることがないから、読み取り精度を向上させることができる。
【0025】
また、酢酸プロピル1に対し酢酸ブチルを0.25~4の割合で混合してなる溶剤を主溶剤とするので、乾燥性が良い上、耐水性が高いので、マーキング直後に水に濡れたとしても白化せずに透明性を維持することができる。
【0026】
また、酢酸プロピルや酢酸ブチルは安全性が高いので、人体や環境に与える影響が少ない塗料である。
【0027】
また、ロジンエステル樹脂とアクリル樹脂とセルロース樹脂を含有するので、接着性が良く、浸水したとしてもマークが剥離したり、消滅したりし難い塗料である。
【0028】
また、振動式粘度計で測定した20℃における粘度が18~25cPであれば、ドット印字装置で好適に使用できる塗料になる。
【0029】
また、乾燥性が30~60秒以内であれば、ドット印字装置の細いノズルを通っても目詰まりを起こし難く、また、ノズル付近での固着が生じ難い塗料になる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明における塗料に可視光を照射した写真である。
図2】本発明における塗料に紫外線を照射した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、酢酸プロピルと酢酸ブチルを混合した溶剤を主溶剤とし、ロジンエステル樹脂とアクリル樹脂とセルロース樹脂と蛍光染料と添加剤を含有するマーキング用塗料である。
【0032】
主溶剤の20℃における水溶解度は、酢酸プロピルが18.9g/Lであり、酢酸ブチルが0.7g/Lであるから、本発明における塗料は耐水性の高い塗料になる。
【0033】
20℃における水溶解度80g/Lである酢酸エチルを主溶剤に混合すれば、マーキング直後に水に濡れると塗膜が白化するため好ましくない。
【0034】
また、メタノールやエタノールのような水溶性の溶媒を主溶剤に混合するとアクリル樹脂が溶解しないため好ましくない。
【0035】
酢酸プロピルと酢酸ブチルの割合は重量比で酢酸プロピル1に対し酢酸ブチルが0.25~4であることが好ましい。
【0036】
酢酸プロピル1に対し酢酸ブチルが重量比で0.25~4の範囲を外れると、ロジンエステル樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂が完全に溶解しない虞があるからである。
【0037】
本発明は、アクリル樹脂とセルロース樹脂を重量比で1:1の割合で含有する塗料である。
【0038】
アクリル樹脂とセルロース樹脂の割合が重量比で1:1でない場合は、浸水すればマークが剥がれたり、消滅したりする虞があるからである。
【0039】
アクリル樹脂は特に限定されないが、DEGALAN(登録商標)LP64/12(エボニックジャパン株式会社製)、ダイヤナールBR-106、MB-2660、MB-3015(三菱ケミカル株式会社製)が好適である。
【0040】
セルロース樹脂は特に限定されず、セルロースエステル樹脂、ブチラール樹脂を例示することができCAB-381-0.1(EASTMAN社製)を好適に使用することができる。
【0041】
本発明におけるセルロース樹脂の含有量は6.0重量%以上であることが好ましい。
【0042】
6.0重量%未満であると、粘度が低くなり過ぎて、ドット印字装置によってマーキングした際に、マークが滲む虞があるからである。
【0043】
本発明における塗料はロジンエステル樹脂を4.0重量%以上含有する。
【0044】
ロジンエステル樹脂が4.0重量%未満であると、接着性が低下するので水に浸漬すればマークが剥がれる虞があるからである。
【0045】
ロジンエステル樹脂は特に限定されず、マレイン変性ロジンエステル樹脂、スチレン・マレイン酸樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂を例示することができる。
【0046】
マレイン変性ロジンエステル樹脂として、ハリタックPAJA(ハリマ化成株式会社製)、マルキード8号(荒川化学工業株式会社製)を例示する。
【0047】
本発明における塗料は蛍光染料を含有する。
【0048】
蛍光染料は紫外線を照射すれば発光する蛍光染料であれば特に限定されないが、フルオレセインが好適である。
【0049】
本発明は添加剤を添加できる。
【0050】
添加剤としては可塑剤、表面調整剤、密着性付与剤を例示できる。
【0051】
本発明における塗料の粘度は、20℃における振動式粘度計で測定した粘度が18~25cP、同じく20℃におけるフォードカップ3号(オリフィス径3.4mm)で測定した粘度が19~25秒であることが好ましい。
【0052】
18cP未満、又は、19秒未満であると、ドット印字装置で印字すれば表面で滲んでドットが形成され難く、25cPより高い、又は、25秒より遅ければ、ドット印字装置からの吐出が安定しない虞があるからである。
【0053】
本発明の塗料の乾燥性は30~60秒以内であることが好ましい。
【0054】
本発明における乾燥性とは、ガラス板に塗布後、指で触れ、指に塗料が付着しなくなる時間をいう。
【0055】
乾燥性が30秒未満であると、ドット印字装置で使用すれば目詰まりを起こし易くなるので吐出が安定しなかったり、ノズル付近で塗料が固着したりする虞があり、60秒より長ければ、作業効率が悪くなるからである。
【実施例
【0056】
本発明の実施例及び比較例を以下に示すが、本発明はこれに限定されない。
【0057】
表1に示すとおりの分量(重量%)で原料を混合し、500rpmで120分間攪拌して、各実施例及び比較例のマーキング用塗料を作製した。
【0058】
アクリル樹脂はDEGALAN(登録商標)LP 64/12(エボニックジャパン株式会社製)を使用した。
【0059】
セルロース樹脂としては、セルロースエステル樹脂(EASTMAN社製)を使用した。
【0060】
ロジンエステル樹脂はハリタックPAJA(ハリマ化成株式会社製)を使用した。
【0061】
蛍光染料はFPイエローM(化成品商事株式会社製)を使用した。
【0062】
添加剤として可塑剤TXP(大八化学工業株式会社製)を使用した。
【0063】
(白化試験)
ガラス板を各マーキング用塗料に浸漬した後取り出し、30秒以内に水をかけた。
【0064】
可視光下で観察して、塗膜が白化せず透明性を維持できれば〇、白化した場合は×として評価した。
【0065】
(浸水試験)
鋼板を塗料に浸漬させた後取り出して、十分乾燥させた後、30分間水に浸漬した。
塗膜が鋼板から剥がれず保持された場合は〇、剥がれた場合は×として評価した。
【0066】
(粘度(cP))
各マーキング用塗料を20℃に調整した後、E型粘度計TVE-25L(東機産業株式会社製)で粘度(cP)を測定した。
【0067】
(粘度(秒))
各マーキング用塗料を20℃に調整した後、フォードカップ3号(オリフィス径3.4mm)に100mlの各マーキング用塗料を入れ、全量が流出する時間(秒)を測定した。
【0068】
(乾燥性)
ガラス板を塗料に浸漬し取り出した後、指で触わり、塗料が指に付着しなくなった時間(秒)を測定した。
【0069】
各実施例の結果を表1、各比較例の結果を表2にそれぞれ示す。各成分は重量%の値である。
なお、表中の「ブチル/プロピル」の欄は、酢酸プロピルを1としたときの酢酸ブチルの重量比を表している。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
表1及び表2より、本発明におけるマーキング用塗料であれば、マーキング直後に水に濡れたとしても白化せず、また、水に浸漬しても剥がれ難い塗料であり、乾燥性にも優れる塗料であることが証明された。
【0073】
また、実施例6の塗料を塗布したものに可視光を照射した時の写真が図1、紫外線を照射した時の写真が図2であるが、本発明におけるマーキング用塗料は可視光下では視認できないが紫外線を照射すれば視認できるようになる塗料であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明におけるマーキング用塗料は、可視光下では透明であるが、紫外線を照射すれば視認できるようになる塗料なので、マークを除去する工程を省略できるから、マークを残存させることができない鉄鋼材等に好適に使用することができる。
また、バーコードのマーキングに使用すれば、紫外線を照射して読み取ることから、外乱光による読み取り不良を防止することができる。
また、耐水性が高く、マーキング直後に水に触れたとしても、マークは白化しないので、明瞭なマークを維持することができ、水に浸漬したとしてもマークは剥がれたり、消滅したりし難いマーキング用塗料である。
よって、本発明は産業上の利用可能性の高い発明である。
図1
図2