(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】吸着性及び光触媒性の除染ゲル、並びに前記除染ゲルを使用して表面を除染するための方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/06 20060101AFI20220203BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20220203BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20220203BHJP
A62D 3/176 20070101ALI20220203BHJP
C01G 23/04 20060101ALI20220203BHJP
C11D 3/40 20060101ALI20220203BHJP
C11D 3/37 20060101ALI20220203BHJP
C11D 3/20 20060101ALI20220203BHJP
C11D 17/08 20060101ALI20220203BHJP
C11D 3/43 20060101ALI20220203BHJP
C11D 3/12 20060101ALI20220203BHJP
G21F 9/28 20060101ALI20220203BHJP
G21F 9/12 20060101ALI20220203BHJP
G21F 9/06 20060101ALI20220203BHJP
A62D 101/02 20070101ALN20220203BHJP
A62D 101/43 20070101ALN20220203BHJP
【FI】
B01J20/06 A
B01J20/28 Z
B01J20/30
A62D3/176
C01G23/04 Z
C11D3/40
C11D3/37
C11D3/20
C11D17/08
C11D3/43
C11D3/12
G21F9/28 525B
G21F9/12 501D
G21F9/06 G
A62D101:02
A62D101:43
(21)【出願番号】P 2019501703
(86)(22)【出願日】2017-07-12
(86)【国際出願番号】 FR2017051922
(87)【国際公開番号】W WO2018011525
(87)【国際公開日】2018-01-18
【審査請求日】2020-06-24
(32)【優先日】2016-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アルバン・ゴサール
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン・フランス
(72)【発明者】
【氏名】セリア・ルペイトル
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102007014875(DE,A1)
【文献】国際公開第96/023051(WO,A1)
【文献】特表2013-532160(JP,A)
【文献】仏国特許出願公開第02789591(FR,A1)
【文献】国際公開第2014/154817(WO,A1)
【文献】特開2003-171693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28、20/30-20/34
A62D 1/00-9/00
C01G 1/00-23/08
C11D 1/00-19/00
A61L 2/00-2/28、11/00-12/14
G21F 9/00-9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着性及び光触媒性の除染ゲルであって、
- 前記除染ゲルの質量に対して15質量%~20質量
%の、任意選択でドーピングされていてもよいTiO
2;
- 任意選択で、前記除染ゲルの質量に対して0.01質量%~10質量
%の、少なくとも1種の色素及び/又は少なくとも1種の顔料;
- 任意選択で、前記除染ゲルの質量に対して0.1質量%~2質量%の、少なくとも1種の界面活性剤;
- 任意選択で、前記除染ゲルの質量に対して0.05質量%~5質量
%の、少なくとも1種の超吸収性ポリマー;及び
- 前記除染ゲルの質量に対して、40質量%~56質量
%の割合の水と、24質量%
~42.5質量%の割合のエタノールとの混合物から選択される、残分の溶媒
を含む
か又はそれらからなるコロイド溶液からなり、
4以上のpHを有する、吸着性及び光触媒性の除染ゲル。
【請求項2】
4から7未満の弱酸性pH;又は7の中性pH;又は7超から9未満の弱塩基性pH;又は9以上の強塩基性pHを有する、請求項1に記載の
除染ゲル。
【請求項3】
前記除染ゲルのpHが
、水酸化ナトリウムNaOH、水酸化カリウムKOH、及びこれらの混合物から選択される鉱物塩基の添加によって調節されている、請求項1又は2に記載の
除染ゲル。
【請求項4】
前記TiO
2が2~200nmの平均サイズの粒子の形態である、請求項1から3のいずれか一項に記載の
除染ゲル。
【請求項5】
少なくとも1
年の貯蔵期間を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の
除染ゲル。
【請求項6】
固体材料から作製された基材の少なくとも1つの表面を除染するための方法であって、前記表面が、前記表面上の、及び場合により、基材の深さ方向の前記表面の下(表面下)の、少なくとも1種の汚染種によって汚染されており、次の連続工程:
a)請求項1から5のいずれか一項に記載の
除染ゲルを前記表面上に塗布する工程;
b)前記除染ゲルが前記汚染種を吸収し、次いで前記汚染種が前記TiO
2粒子の表面上に吸着され、前記除染ゲルが乾燥して、前記TiO
2粒子の表面に吸着された前記汚染種を含有する乾燥固体残渣を形成するのに少なくとも十分な時間にわたって、前記表面上に前記除染ゲルを維持する工程;
c)前記除染ゲル内で前記TiO
2粒子の表面上に吸着された前記汚染種を含有する前記乾燥固体残渣を除去する工程
を含む少なくとも1つのサイクルを行う、方法。
【請求項7】
前記基材が、金属及び金属合
金;ポリマ
ー;ガラス;セメント及びセメント材料;モルタル及びコンクリート;石膏;れんが;天然又は人工の石;セラミックから選択される少なくとも1種の固体材料から作製されている、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記汚染種が、イオン、化学、生物、核又は放射性の汚染種から選択される、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記汚染種が、一価及び多価金属イオンか
ら選択されるイオン汚染種である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記汚染種が、細菌、真菌、酵母、ウイルス、毒素、
及び胞
子から選択される生物汚染種である、請求項
8に記載の方法。
【請求項11】
前記生物汚染種が、生体毒
種から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記汚染種が、毒性化学
種から選択される、請求項
8に記載の方法。
【請求項13】
前記除染ゲルを、除染されることとなる表面に、表面積1m
2当たりゲル100g~2000
gの割合で塗布し、これ
が、0.1mm~2m
mの、表面上に堆積したゲル層厚に相当する、請求項6から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記除染ゲルを、噴霧によって、又はブラシ
若しくはフロートを使用して前
記表面に塗布する、請求項6から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
工程a)の全部若しくは一部の間、及び/又は工程b)の全部若しくは一部の間
、前記表面に維持されている
除染ゲルを、可視光線又はA、B若しくはC紫外線(UVA、UVB又はUVC)に、或いは別の放射線に曝露して、光触媒作用によって前記汚染種を不活性化させる、及び/又は分解する、及び/又は還元する、及び/又は破壊する、請求項6から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
(工程b)中に)、乾燥を、1℃~50
℃の温度
及び20%~80
%の相対湿度下で行う、請求項6から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記除染ゲルを、2~72時
間にわたって前記表面上に維持する、請求項6から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記乾燥固体残渣が、1~10m
mのサイズを有する粒
子の形態である、請求項6から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記粒子が、フレークである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記乾燥固体残渣を、ブラッシング及び/又はバキューミング、吸引によって前
記表面から除去する、請求項6から
19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記サイクルを、各サイクルにおいて同じ
除染ゲルを使用して、又は1回若しくは複数のサイクルにおいて異なる
除染ゲルを使用して、1~10回繰り返す、請求項6から
20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
工程b)の間に、前記除染ゲルを、完全に乾燥させる前に、溶
媒で再湿潤させる、請求項6から
21のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、表面を除染するために有用な吸着性及び光触媒性の除染ゲルである。
【0002】
本発明は、このゲルを使用して表面を除染するための方法に更に関する。
【0003】
本発明の方法及びゲルは、あらゆる種類の表面、例えば、金属、プラスチック及びガラス状材料等の無機材料から作製された表面等を除染することができる。
【0004】
本発明の方法及びゲルは、とりわけ、モルタル及びコンクリート等のセメント材料;れんが;石膏;並びに天然石等の、多孔性材料の表面の除染に特に適用される。
【0005】
本発明の方法及びゲルはまた、あらゆる種類の汚染種(又は汚染物質)、特には、イオン、化学、生物又は核、放射性の汚染種を除去することができる。
【0006】
例えば、ゲルによって除去される汚染種がイオン汚染種である場合、そのゲルは、イオン除染ゲルと呼ばれる。
【0007】
したがって一般に、本発明の技術分野は、表面上、及び任意選択で表面の下に見出され、それらの表面上、又はその下に存在することが望ましくない汚濁物質(pollutant)、汚染物質(contaminant)を除去することを目的とする、表面除染の分野として定義され得る。
【背景技術】
【0008】
除染ゲルは、とりわけ原子炉設備を解体する際の表面放射性物質除染のために、特に開発された。
【0009】
例えば、核除染では、乾燥廃棄物の粉末性に関連する問題を克服し、かつゲルを使用する方法の有効性を上昇させるゲル化配合物が、文献[1](Faure, S.等、「Procede de traitement d'une surface par un gel de traitement, et gel de traitement」、2003、フランス特許第A1-2 827 530号)及び[2](Faure, S., P. Fuentes, et Y. Lallot、「Gel aspirable pour la decontamination de surfaces et utilisation」、2007、フランス特許第A1-2 891 470号)の対象となっている。
【0010】
これらの文献[1]及び[2に]は、噴霧され、次いで、乾燥すると、バキューム及び貯蔵することができるフレークの形態で放射性汚染を捕獲し、かつ閉じ込め(confining)ながら断片化するように特に配合されている「バキューム可能ゲル(vacuumable gel)」と呼ばれる無機コロイドゲルが記載されている。
【0011】
これらのコロイドゲルは、シリカ又はアルミナを含有する無機増粘剤、1種又は複数の活性除染剤及び任意選択で1種又は複数の界面活性剤(複数可)を含む。
【0012】
より具体的には、文献[1]には、無機増粘剤、一般にシリカ又はアルミナ;酸、又は例えば水酸化ナトリウム若しくは水酸化カリウム等の無機塩基であり得る、活性処理剤;及び、任意選択で、強酸性媒体中で1.4Vよりも高い標準レドックス電位E0を有する酸化剤、例えば、Ce(IV)、Co(III)又はAg(II)等を含むコロイド溶液から構成されるゲルが記載されている。
【0013】
文献[2]は、無機増粘剤、一般にシリカ又はアルミナ、界面活性剤、酸又は無機塩基、及び任意選択でCe(IV)、Co(III)又はAg(II)等の、強酸性媒体中で1.4Vよりも高い標準レドックス電位E0を有する酸化剤を含むコロイド溶液から構成されるゲルを記載している。
【0014】
それらの組成物中に含まれる種々の成分を理由とする、これらの無機コロイドゲルのレオロジーによって、それらは、汚染された表面上に噴霧され、続いて、垂直表面でも流れ落ちることなく、その表面に付着することができる。
【0015】
したがって、これは、基材の機械的特性を損なうことなく、汚染物質と活性除染剤との間の接触を延長し得る。
【0016】
噴霧された後に、ゲルは乾燥し、断片化し、基材に付着している「フレーク」と呼ばれる乾燥残渣をもたらし、次いで、そのフレークを、ブラッシング及び/又はバキューミングによって除去されて、直接包装されることができる。
【0017】
したがって、これらのバキューム可能なゲルを使用する除染方法は、いずれの液体の流出液及び僅かな乾燥固体残渣も生じない乾式経路の除染方法である。これらの乾燥固体残渣は平均して、初めに噴霧されたゲルの量の1/4に過ぎない。加えて、これらの方法は、放射性汚染に対する作業者曝露時間を限定し、それというのも、それらは、噴霧によって容易に塗布され、その後乾燥残渣がバキューム(vacuum:真空吸引)され、したがって、ゲルの乾燥中に作業者が存在する必要がないためである。
【0018】
文献[1]及び[2]に記載されたゲルはとりわけ、除去が意図される汚濁が特にイオン形態にあるので、「イオン」除染ゲルとして認定することができる。
【0019】
これらのゲルの有効性は、酸の存在又は酸化セリウム等の強力な無機薬剤の存在による、除染されることとなる表面への化学的攻撃に帰せられる。
【0020】
また、場合によっては、表面上に存在する汚濁物質、汚染物質の抽出、除去を確実にしながら、除染されることとなる表面を保存し、かつその腐食を防止することが必要である。
【0021】
加えて、これらのゲルを乾燥し、バキュームした後に、これらの乾燥ゲルフレークが水と接触すると、ゲルフレークは、ゲルによって捕獲及び捕捉された汚濁種、汚染種を放出し得る。
【0022】
汚濁種は、乾燥ゲルフレーク内に「封入され」ているだけで、したがってこれは、いずれの「閉じ込め」特性も有さない。
【0023】
したがって、文献[1]及び[2]に記載されているもの等の除染ゲルは、除染されるべき表面の腐食、劣化をもたらし、かつ汚染、汚濁種を閉じ込めないフレークを形成するという欠点を有し、特に乾燥ゲルフレークが水等の液体と接触した場合には、これらの汚濁種を放出し得る。
【0024】
したがって上記を考慮すると、表面を腐食したり、攻撃したり、劣化させたりすることなく、イオン汚染種を効率的に移動させることができる「イオン」除染ゲルが必要とされている。
【0025】
汚染された表面の処理後に、乾燥ゲル内への汚染、汚濁種の閉じ込めを保証し、かつ特に乾燥ゲルフレークが水等の液体と接触した場合に、これらの汚濁、汚染種の放出を防止する前記「イオン」除染ゲルも必要とされている。
【0026】
表面の生物又は化学除染を実施するために、他のゲルが開発されている。
【0027】
前記生物除染ゲルは、文献[3](Cuer, F. et S. Faure、「Gel de decontamination biologique et procede de decontamination de surfaces utilisant ce gel」、2010、WO-A1-2012001046)及び[4](Ludwig, A., F. Goettmann, et F. Frances、「Gel alcalin oxydant de decontamination biologique et procede de decontamination biologique de surfaces utilisant ce gel」、2013、WO-A1-2014154818)の対象でとなっている。
【0028】
活性な生物除染剤として、これらのゲルは、強力な酸化剤及びより詳細には次亜塩素酸ナトリウムを含有する。
【0029】
より具体的には、文献[3]には、少なくとも1種の無機増粘剤、一般にシリカ又はアルミナ、少なくとも1種の活性な生物除染剤、少なくとも1種の超吸収性ポリマー、少なくとも1種の界面活性剤、及び残分の溶媒を含むコロイド溶液から構成される生物除染ゲルが記載されている。
【0030】
文献[4]には、少なくとも1種の無機増粘剤、一般にシリカ又はアルミナ;アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物及びこれらの混合物から選択される無機塩基と、過マンガン酸塩、過硫酸塩、オゾン、次亜塩素酸塩及びこれらの混合物から選択される塩基性媒体中で安定な酸化剤との組合せから構成される活性生物除染剤;任意選択で少なくとも1種の界面活性剤;並びに残分の溶媒を含むコロイド溶液から構成される生物除染ゲルが記載されており、そのゲルは、いずれの超吸収性ポリマーも含有しない。
【0031】
文献[1]、[2]、[3]及び[4]において、TiO2は、無機増粘剤として言及されていない。
【0032】
噴霧及びバキュームすることができるゲルである文献[3]及び[4]のゲルは、特に、それらの配合物中に塩素が存在することから、アルミニウム等の一部の金属の表面を攻撃し得る。
【0033】
これらのゲルは、毒性生物種の除去に良好な性能を示すが、化学的安定性が限定されている。結果として、完全にそれらの除染有効性を維持しながら、周囲温度で貯蔵され得るる期間は短い。
【0034】
実際に、ゲルを冷所で貯蔵しないと、6カ月後には次亜塩素酸ナトリウム中に含有される活性塩素の量が著しく減少する。
【0035】
したがって、長期有効性を有する、すなわち、使用されるときに、完全にその除染有効性を維持しながら、周囲温度で長期間にわたって貯蔵され得る生物及び化学除染ゲルが必要とされている。
【0036】
更に、効率的な表面除染を保証し、かつ、処理される表面を保存する、すなわち、この表面を腐食させない、攻撃しない、及び劣化させない、言い換えると、処理される表面のいずれの化学的、機械的又は物理的劣化ももたらさない、生物及び化学除染ゲルが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0037】
【文献】フランス特許第A1-2 827 530号
【文献】フランス特許第A1-2 891 470号
【文献】WO-A1-2012001046
【文献】WO-A1-2014154818
【文献】WO-A1-2014/154817
【非特許文献】
【0038】
【文献】L. BRANNON-PAPPAS及びR.HARLAND、「Absorbent Polymer Technology, Studies in Polymer Science 8」、Elsevier publications、1990
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0039】
本発明の目的は、特に上記の必要性及び要求を満たす除染ゲルを提供することである。
【0040】
本発明の更なる目的は、従来技術の除染ゲルの欠点、欠陥、限界及び短所を有さず、かつ従来技術の除染ゲル、とりわけ文献[1]、[2]、[3]、及び[4]の対象のゲルの問題を解決する、除染ゲルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0041】
この目的等は、本発明により、以下:
- ゲルの質量に対して、8質量%~30質量%、好ましくは10質量%~30質量%、より好ましくは15質量%~20質量%、更に好ましくは15%値を除く15質量%~20質量%、より良好には16質量%~20質量%、例えば、20質量%の、任意選択でドーピングされていてもよいTiO2;
- 任意選択で、ゲルの質量に対して、0.01質量%~10質量%、好ましくは0.1質量%~5質量%の、少なくとも1種の色素及び/又は少なくとも1種の顔料;
- 任意選択で、ゲルの質量に対して、0.1質量%~2質量%の、少なくとも1種の界面活性剤;
- 任意選択で、ゲルの質量に対して、0.05質量%~5質量%、好ましくは0.05質量%~2質量%の、少なくとも1種の超吸収性ポリマー;及び
- 水とエタノール等のC1~C10(1C~10C)飽和脂肪族アルコールとの混合物から選択される、残分の溶媒
を含む、好ましくはそれらからなるコロイド溶液からなり、
pH4以上を有する、吸着性及び光触媒性の除染ゲルで達成される。
【0042】
「残分の溶媒」とは、溶媒がコロイド溶液中に常に存在し、溶媒の量が、溶媒以外のコロイド溶液の成分の量(これらの成分は、上で言及したとおりの必須又は任意選択の成分であるか、又は言及されていようが、なかろうが更に他の任意選択の追加の成分である)に加えた場合に、コロイド溶液のすべての成分の合計量が100質量%になるような量であることを意味する。
【0043】
すべての事象で、コロイド溶液のすべての成分(これらの成分は、上で言及したとおり必須又は任意選択であるか、又は言及されている、又はされていない更に他の任意選択の追加の成分である)の合計量は明らかに、100質量%である。本発明のゲルは、本発明のゲルが増粘剤としてTiO2の無機固体鉱物粒子を含有し、その基本一次粒子の平均サイズが一般に2~200nmであることを意味するコロイド溶液である。
【0044】
いずれの有機増粘剤も含まずに、一般に専ら無機である増粘剤を使用することによって、本発明のゲルを使用した後に得られる最終固体廃棄物中の有機物質の含有率は一般に、4質量%未満、好ましくは2質量%未満であり、このことは、本発明のゲルの更なる利点になる。
【0045】
これらの無機固体鉱物粒子は、溶液、例えば水溶液をゲル化して、したがって、処理、除染される部分の表面に、その配置、形状及びサイズに関わらず、かつ除去される汚染物質の場所に関わらず付着させ得る増粘剤として作用する。
【0046】
本発明の除染ゲルを、TiO2ベースのコロイド除染ゲルと呼ぶことができる。
【0047】
本発明のゲルは、あらゆる種類の汚濁、汚染種、例えばイオン、化学又は生物汚染種によって汚染、汚濁された表面を除染し得る。
【0048】
本発明のゲルは、無機増粘剤としてTiO2を含有し、シリカ又はアルミナを含有しないことにおいて、文献[1]、[2]、[3]及び[4]のもの等の従来技術のゲルとは基本的に異なる。
【0049】
言い換えると、本発明の除染ゲルでは、シリカ又はアルミナのコロイド粒子等の従来技術除染ゲルで通常使用されるコロイド粒子が、TiO2のコロイド粒子によって置き換えられている。
【0050】
加えて、本発明のゲルは、極めて特有な量のTiO2、すなわち、ゲルの質量に対して、8質量%~30質量%、好ましくは10質量%~30質量%、より好ましくは15質量%~20質量%、更に好ましくは15%値を除く15質量%~20質量%、より良好には16質量%~20質量%、例えば、20質量%の含有率の、任意選択でドーピングされていてもよいTiO2を含有する。
【0051】
本発明によれば、上述の特有の範囲内、特に15質量%~20質量%、更に好ましくは15%値を除く15質量%~20質量%にあるTiO2含有率、濃度を有し、かつpH4以上を有するゲルが、驚くべきことに、天井又は壁等の非水平表面で優れた付着性、保持力(hold)を有することが見出されている。
【0052】
TiO2は、長期間、例えば少なくとも1年に達し得る期間にわたって安定していることに留意すべきである。
【0053】
除染ゲルへの、特に上述の非常に特有の含有率での、特にゲルの質量に対してTiO215%~20質量%の範囲での、より良好には15%値を除く15%~20質量%の範囲でのTiO2の組込みは、従来技術では、かつとりわけ上記で引用した文献[1]、[2]、[3]及び[4]では記載も示唆もされていない。
【0054】
本質的にシリカ又はアルミナの代わりに無機増粘剤としてTiO2を含有するという事実によって、本発明のゲルは、上述した必要及び要求をすべて満たす。これは、増粘剤としてシリカ又はアルミナを含有し、TiO2を含有しない文献[1]、[2]、[3]及び[4]のゲル等の従来技術のゲルの欠点、欠陥、限界及び短所を有さない。
【0055】
本発明のゲルを用いると、上述の目的を達成し、かつ汚染、汚濁種に関わらず高い除染有効性を得ながら、特に表面腐食、汚染種の放出、低い安定性及び限られた貯蔵時間の点におけるその欠点を有することなく、文献[1]、[2]、[3]及び[4]に記載のもの等の従来技術の除染ゲルの問題を解決することが可能である。
【0056】
驚くべきことに、本発明のゲルにおいて、二酸化チタンは、無機増粘剤としてだけではなく、除染剤としても作用するが、文献[1]、[2]、[3]及び[4]のもの等の従来技術の除染ゲルにおいて通常使用される除染活性剤と比較して、これらの表面に対して完全に無害であり、かつすでに上述したとおり、長期間にわたって安定しているという利点を有する。
【0057】
したがって、本発明のゲルは、少なくとも1年、好ましくは少なくとも2年、例えば1~2年間の貯蔵時間を有し、すなわち本発明のゲルは、この期間にわたって安定しており、これは、この期間中にいずれの種類のいずれの分解も受けない。
【0058】
本発明のゲルにおいて、TiO2が活性な除染剤として作用するという事実は、本発明のゲルが、文献[1]、[2]、[3]、及び[4]に述べられている活性除染剤等の、処理される表面の劣化、損傷、攻撃をもたらし得るいずれの刺激性、腐食性の活性除染剤も含まないことを意味する。
【0059】
本発明のゲル及びこのゲルを塗布する除染方法(下記)も、種類:イオン、化学、生物、核又は放射性に関わらず、汚濁、汚染種を、非常に高い有効性で、これらの汚染種で汚染、汚濁された固体基材の表面から除去するために、光放射下での二酸化チタンの吸収特性及び光触媒特性を利用する。本発明の方法で除去することができる汚染種の詳細な説明は、下の方法の説明で示す。
【0060】
言い換えると、本発明のゲルは、特にイオン汚染種及び有機化学化合物である汚染種に関して吸着特性、TiO2による吸着特性を有し、更には例えばイオン化合物の酸化状態を変えるか、又は有機化合物を還元させることができる「光触媒」特性を有する。
【0061】
すでに上記したとおり、TiO2は、少なくとも1年に達し得る長期間にわたって安定している。
【0062】
したがって、TiO2の存在によってゲルに付与され、かつ汚染種の毒性の低下を可能にする光触媒及び吸着特性は、従来技術のゲルに反して、少なくとも1年に達し得る長期間にわたって維持される。
【0063】
言い換えると、本発明のゲルの顕著で驚くべき効果の1つは、ゲルの吸着及び光活特性がTiO2に由来するので、これらの特性が長期間にわたって維持されることであるのに対して、特に活性除染剤として除染溶液に組み込まれるアルミナ又はシリカを含有するゲルでは、経時変化は、これらの除染溶液の有効性の低下をもたらし得る。
【0064】
本発明のゲルは、二酸化チタンのこの吸着特性、能力、及びこの光触媒特性、能力を、適切なレオロジー特性と組み合わせており、これは特に、噴霧によるゲルの塗布の保証、垂直な壁また天井でのその付着を可能にし、かつ一般にフレークの形態であるドライゲルが、ブラッシング又はバキューミング、吸引、及び好ましくはバキューミング、吸引によって容易に除去されることを可能にしている。したがって、本発明のゲルは、「噴霧可能なゲル」及び「バキューム可能なゲル」、「吸引可能なゲル」と認められ得る。
【0065】
本発明のゲル中に無機ゲル化増粘剤として二酸化チタンが存在することによって、本発明のゲルが噴霧可能となり、本発明のゲルが、汚濁除去、除染されるべき表面上に塗布及び乾燥された後にバキュームされることを可能にし、かつ最終的にゲルが長期貯蔵期間を有することを可能にするということができる。
【0066】
「バキューム可能なゲル」、「吸引可能なゲル」という用語は、この技術分野で広く使用されており、上記で想起されるとおり周知である定義を有する。
【0067】
本発明のゲルのレオロジー特性は、ゲルの溶媒内に分散した二酸化チタンの粒子のレオ流動化(rheofluidifying)、増粘特性、及び4以上であるゲルのpHによるものであり、それらによって、ゲルの粘度を調節することができ、とりわけ、垂直な壁また天井への噴霧によるゲルの塗布及び付着、保持が保証される。
【0068】
現在まで、TiO2が、シリカ又はアルミナと同様のレオ流動化特性を有する増粘剤であることは、証明されていなかった。
【0069】
それによって、増粘剤としてTiO2を含有する本発明のゲルは驚くべきことに、チキソトロピーレオ流動化流体の特性を有し、その粘度は、せん断に応じて、かつ経時的に変動する。
【0070】
加えて、本発明によれば、十分に高濃度のTiO2、すなわち8質量%、好ましくは10質量%、より好ましくは15質量%、更に好ましくは15質量%超(したがって15%値は除かれる)、更により良好には16質量%と、適合された配合、すなわち4以上のpHとによって、「ゲル」と呼ぶことができる十分に安定していて粘稠性である懸濁液を得ることが可能であることが証明されている。
【0071】
加えて、無機鉱物増粘剤として本発明のゲル中に含有されるTiO2は、本発明のゲルの乾燥に対して、及び得られる残渣の粒径に対して予測されていなかった影響を有する。
【0072】
実際に、乾燥ゲルは、特に無機増粘剤がTiO2からなるという事実により、一般に1~10mm、好ましくは2~5mmの範囲の平均サイズを有する制御サイズの、より具体的にはミリメートルの固体フレークの粒子の形態である。
【0073】
フレーク等の粒子のサイズは一般に、それらの最大寸法に対応すると明記される。
【0074】
言い換えると、本発明のゲル中のTiO2の固体鉱物粒子は、それらの増粘の役割に加えて、フレーク形態の乾燥廃棄物をもたらすゲルの断片化を保証するので、ゲルの乾燥についても重要な役割を果たす。
【0075】
より正確には、ゲルを調製する場合、TiO2粒子を初めに、本発明によればヒドロアルコール溶媒である溶媒内に分散させ、pHを4以上の値に上昇させて系の粘度を調節し、そのようにして除染される表面上に、特に、垂直な壁又は天井に噴霧し、次いでそれを保持、付着させることができるようにする。
【0076】
また、処理中に表面の化学的攻撃がないか、又はまれであるようにゲルのpHを調節することができ、すなわち、ゲルがわずかに酸性、又は僅かに塩基性、更には中性であるように、pHを調節することができる。
【0077】
実際に、本発明のゲルの利点の1つは、そのpHを容易に変えることが可能であることである。
【0078】
したがって、表面を攻撃しないことが望ましい場合、pHを、除染される表面に適合させることができる。
【0079】
他方で、僅かな表面攻撃が望ましい場合、ゲルのpHを、この攻撃を可能にするように変性する。
【0080】
或いは、脱脂特性、能力をゲルに付与するために、ゲルのpHを調節して、ゲルを強塩基性に、例えば9以上にすることができる。
【0081】
本発明のゲルのpHに関わらず、本発明のゲルで処理される表面は除染され、任意選択で脱脂され得、すべての事象において、無傷なままであり、攻撃、腐食されない。したがって、この表面を、任意選択で除染の後に再使用することができる。
【0082】
したがって、本発明によれば、光放射線下での二酸化チタンの吸着特性及び光触媒特性を、レオロジー特性と組み合わせている中性、塩基性又は弱酸性ゲルを配合し、特に、ゲルを噴霧可能及びバキュームすることができるようにする。
【0083】
実際に、二酸化チタンは、イオン及び有機化学化合物の優れた吸着特性を有する。
【0084】
より具体的には、二酸化チタンの表面に水が収着すると、表面の複雑な機構を介して、イオンを収着するために好ましい部位であるヒドロキシル基OHの形成が引き起こされる。
【0085】
したがって、二酸化チタンは、その表面上に多数のイオンを捕捉することができる。
【0086】
TiO2をベースとする本発明のゲルは、イオンを吸着するこの特性、このイオン吸着特性、したがってTiO2のイオン抽出特性を、除染される表面上に存在する汚染イオン種の捕捉を改善するために使用するが、表面を化学的に攻撃することはない。
【0087】
同様に、TiO2を含有する本発明のゲルは、TiO2が有する、有機化学化合物を吸着するこの特性、有機化学化合物のこの吸着特性、及びしたがって有機化学化合物の抽出のこの特性を、除染される表面上に存在する有機化学化合物である汚染種の捕捉を改善するために使用するが、表面を化学的に攻撃することはない。
【0088】
加えて、処理後に、ゲルフレーク中に含まれる汚染、汚濁種は、TiO2に化学的に結合したままであり、それによって、この汚濁の閉じ込めが保証され、したがって、乾燥ゲルフレークの偶発的な浸出の事象において、環境に汚濁を散布するリスクが最小化される。
【0089】
言い換えると、その表面上に汚染、汚濁種、特にイオン種を吸着し得るTiO2の吸着特性、能力によって、抽出された汚染種、特にイオン種は、フレークに化学的に結合し、したがって、ゲルの貯蔵中に乾燥ゲルフレークの浸出が起こったとしても、水への何らかの放出は制限される。
【0090】
加えて、二酸化チタンは、非常に強い光触媒特性、能力を有する。
【0091】
二酸化チタンは、高度に活性であり、多数の汚染、汚濁種、特に、六価クロムから三価クロムへの光化学的還元を可能にする。
【0092】
クロムCr等のイオン形態の多価元素、又はヒ素As若しくは水銀Hg等の重金属である汚染種での汚濁、汚染の事象では、汚染種の酸化状態の変化は、その毒性の劇的な低下をもたらし得る。
【0093】
酸性ゲル(一般に、pH<6:したがってゲルは4~6のpHを有する)を用い、かつUV線が作用する条件下では、六価クロムの還元率は、特に著しく上昇する。
【0094】
まとめると、TiO2によるゲルの光触媒特性は、イオン汚濁物質の酸化状態を還元し、それによって、それらの毒性を低下させることができる(Cr(VI)に関する様々な実施例の場合)。
【0095】
したがって、本発明のゲルは、従来技術のゲルによって満たされなかった、非常に大きな既存の必要性を満たすものである。
【0096】
エタノール等のアルコールの添加が、電子-正孔対の再結合の阻害剤として系内で作用し、それによって、クロム(VI)による電子の捕捉、したがってその還元をより容易にすることによって、本発明のゲルの還元有効性、例えば六価クロムの還元率を改善し得ることも示されている(下記及び実施例を参照されたい)。
【0097】
TiO2の光触媒性はまた、化学及び生物汚濁物質の破壊を可能にする。
【0098】
実際に、UV線の作用下で、ヒドロキシルラジカルが、TiO2の表面に吸着された水の酸化によって形成される。
【0099】
これらのラジカルが、化学又は生物汚濁物質と反応し、それらを分解し、それによって、それらの毒性を消滅させる。
【0100】
ゲル相内への汚染物質の吸着と、TiO2の光触媒特性、能力とが組み合わさった現象によって、本発明のゲルは、三重の特性、能力、三重の作用、すなわち:
- 汚染、汚濁種を除去する特性、能力、作用;
- 乾燥ゲルフレーク内の汚染、汚濁種と結合する特性、能力;
- 汚濁、汚染種に関わらず、例えば、それらがイオン、化学、又は生物汚濁、汚染種であっても、汚染、汚濁種の毒性を低下させる特性、能力
を有するということができる。
【0101】
加えて、ヒドロアルコール溶媒である本発明のゲルの特殊な溶媒でのTiO2の化学的安定性を理由として、本発明のゲルは、例えば1年、更には2年以上に達し得る非常に長期間にわたって保存、貯蔵することができることに注意されたい。
【0102】
結論すると、光放射線下での二酸化チタンの吸着有効性及び光触媒特性を組み合わせることによって、本発明のゲルは、イオン汚染種だけでなく、他にも化学、生物、放射性又は核汚染種で汚濁された表面を、非常に簡単に除染し得る。
【0103】
また、本発明のゲルは、除染ゲルの公知の利点、すなわち:低コスト、特に噴霧による容易な使用、及び、一般にバキューム可能、吸引可能なフレークの形態での、液体流出物が生じることのない、最終廃棄物の容易な管理、を有する。
【0104】
加えて、ゲルの配合物は、処理されることとなる表面にとって刺激性であるいかなる活性除染剤も含有しない。
【0105】
本発明のゲルの別の重要な特徴は、それが水とエタノール等の飽和C1~C10脂肪族アルコールとの混合物から選択される非常に特殊な溶媒を含有することである。
【0106】
すでに上で示したとおり、ゲルへのエタノール等のアルコールの添加が、電子-正孔対の再結合の阻害剤として系内で作用し、それによって、クロム(VI)による電子の捕捉、したがってその還元をより容易にすることによって、ゲルの還元有効性、効率、例えば六価クロムの還元率を改善し得ることが示されている(実施例を参照されたい)。
【0107】
加えて驚くべきことに、本発明のゲル中にエタノール等のアルコールが存在することによって(実施例を参照されたい)、水のみからなる溶媒を有する水性ゲルと比較して、ゲルの流動閾値(flow threshold)が上昇し得ることが証明されている。したがって、これによって、ゲルのより大きな層厚が、壁また天井等の非水平表面上に堆積し得る。
【0108】
言い換えると、水のみからなる溶媒を有する水性ゲルと比較して、本発明のゲル中にエタノール等のアルコールが存在することによって、壁また天井等の水平ではない表面上でのゲルの付着、保持が更に改善され得る(実施例を参照されたい)。
【0109】
上ですでに示したとおり、本発明のゲルは、4(4を含む)から7未満(すなわち、4~7、7は除外される)の弱酸性pH;7の中性pH;又は7超から9未満の弱塩基性pH;又は9以上の強塩基性pHを有し得る。
【0110】
好ましいpHの1つは、5(5を含む)~9(9を含む)である。
【0111】
特に好ましいpH値は、5、5.5及び9である。
【0112】
本発明のゲルのpHに関わらず、処理された表面の腐食、攻撃、劣化、侵襲は一般に観察されず、表面は無傷なままである。
【0113】
有利には、pHを、鉱物塩基の添加によって調節する。
【0114】
この鉱物塩基は、例えば、水酸化ナトリウムNaOH、水酸化カリウムKOH、及びこれらの混合物のうちから選択され得る。
【0115】
この鉱物塩基は一般に、従来技術の方法におけるような除染剤としては作用しない。
【0116】
しかし、ゲルのpHが9以上であって、かつ汚染物質がグリース中に含有される場合には、鉱物塩基は、もっぱら、及び任意選択で、脱脂特性をゲルに付与し得、この場合には、鉱物塩基が除染剤として作用し、TiO2はグリース中に含有される放射性核種等の汚染物質の吸着剤として作用すると任意に考えることができる。
【0117】
ゲル中の鉱物塩基の濃度は、ゲルのpHを4以上、有利には5から9の間の所望の値に調節するために必要な濃度である。
【0118】
有利には、鉱物塩基の濃度は、1.10-3M~2.10-2モル/ゲルLの範囲であり得る。
【0119】
前記濃度では、この無機塩基が汚染剤として作用することができず、除染される表面のいかなる腐食、劣化、攻撃をももたらさない。
【0120】
前記濃度は、低く、一般に、ゲル中の溶媒の質量及びTiO2の質量に対して無視することができる。
【0121】
本発明のゲルは更に任意選択で、少なくとも1種の色素及び/又は少なくとも1種の顔料を含有してもよい。
【0122】
有利には、顔料は、鉱物顔料である。これに関して、文献WO-A1-2014/154817を参照することができる。
【0123】
本発明の除染ゲルに組み込むことができる鉱物顔料に関して制限はない。
【0124】
一般に、鉱物顔料は、ゲル中で安定している鉱物顔料から選択される。
【0125】
安定な顔料とは一般に、ゲルを6カ月の最小期間にわたって貯蔵した場合に、その顔料が経時的に色の何らかの安定な変化を示さないことを意味する。
【0126】
この顔料の色に関する制限はなく、顔料は一般に、ゲルに付与しようとする色である。顔料のこの色は、黒色、赤色、青色、緑色、黄色、オレンジ色、紫色、茶色等、更には白色であってよい。
【0127】
したがって一般に、ゲルは、含有する顔料の色と同じ色を有する。しかしながら、ゲルが、含有する顔料の色と異なる色を有することも可能であるが、これは重要ではない。
【0128】
顔料は、特に白色の場合には一般に、無機増粘剤とは異なる。
【0129】
有利には、鉱物顔料は、ゲル(すなわち、乾燥前の湿った状態のゲル)に、ゲルが塗布される除染される表面の色とは異なる色を付与するように選択される。
【0130】
有利には、鉱物顔料は超微粉砕顔料であり、鉱物顔料粒子の平均サイズは、0.05~5μm、好ましくは0.1~1μmの範囲であってよい。
【0131】
顔料を超微粉砕することによって、顔料は、一般にアルミナの凝集物等の無機増粘剤のサイズである同じマイクロメーターサイズを有するので、顔料が、ゲルのレオロジー及び噴霧性能(「噴霧能」)を変えることを防ぐことができる。
【0132】
有利には、鉱物顔料を、金属及び/又はメタロイド水酸化物、金属及び/又はメタロイド水酸化物、金属及び/又はメタロイドオキシ水酸化物、金属フェロシアン化物及びフェリシアン化物、金属アルミナート、並びにその混合物のうちから選択する。
【0133】
好ましくは、鉱物顔料を、好ましくは超微粉砕された酸化鉄及びこれらの混合物のうちから選択する。
【0134】
酸化鉄は、種々の色を有することができ、例えば、黄色、赤色、紫色、オレンジ色、茶色又は黒色であり得る。
【0135】
実際に、酸化鉄顔料は、良好な被覆力並びに酸及び塩基に対する強力な耐性を有することが公知である。
【0136】
除染ゲルに組み込むために、酸化鉄は、安定性及び着色力の点において、良好な性能を示す。例えば、0.1質量%、更には0.01質量%の酸化鉄含有率でも、その特性を変化させることなく、ゲルの強い着色を得るには十分である。
【0137】
上ですでに示したとおり、酸化鉄顔料が好ましくは超微粉砕されているという事実は、顔料が、マイクロメーターサイズ、すなわち、アルミナの凝集物等、一般的に無機増粘剤のサイズであるサイズを有するので、顔料がゲルのレオロジー及び噴霧性能(「噴霧能」)を変えることを防ぐことができることを意味する。
【0138】
超微粉砕化酸化鉄は、Rockwood(登録商標)社から商品名Ferroxide(登録商標)で入手可能である。
【0139】
特に、0.1μmの平均粒径を有する超微粉砕赤色酸化鉄であるFerroxide(登録商標)212M及び0.5μmの平均粒径を有する超微粉砕赤色酸化鉄であるFerroxide(登録商標)228Mを挙げることができる。
【0140】
酸化鉄に加えて、及び/又はその代わりに、ゲルのpHに関して、金属又はメタロイドの他の着色酸化物又は水酸化物を、本発明のゲルに組み込んでもよく、個別には、オレンジ色である酸化バナジウム(V2O5)、黒色である酸化マンガン(MnO2)、青色又は緑色である酸化コバルト、及び希土類の酸化物を挙げる。しかしながら、酸化鉄が、上記の理由のために好ましい。
【0141】
オキシ水酸化物のうち、高度に着色された針鉄鉱、すなわち、オキシ水酸化鉄FeOOHを挙げることもできる。
【0142】
金属フェロシアン化物の例として、プルシアンブルー、すなわちフェロシアン化第二鉄を挙げることができ、アルミナとして、コバルトブルー、すなわちコバルトアルミナートを挙げることができる。
【0143】
本発明のゲルへの鉱物顔料の組込みによって、ゲルが塗布される基材に関わらず、湿潤ゲル及び乾燥残渣がより良好に可視化され得る。
【0144】
本発明のゲルは任意選択で、少なくとも1種の超吸収性ポリマーを含有してもよい。
【0145】
「SAP」としても公知の「超吸収性ポリマー」とは一般に、少なくとも10倍、好ましくは少なくとも20倍の質量の水性液体、特に水、及び特に蒸留水を自発的に吸収することができる乾燥状態のポリマーを意味する。
【0146】
一部の「SAP」は、それらの質量の1000倍以上の液体を吸収することができる。
【0147】
前記超吸収性ポリマーはとりわけ、L. BRANNON-PAPPAS及びR.HARLANDによる研究「Absorbent Polymer Technology, Studies in Polymer Science 8」、Elsevier publications、1990に記載されており、これらを参照することができる。
【0148】
自発的吸収とは、約1時間までの範囲の吸収時間を意味する。
【0149】
超吸収性ポリマーは、それ自体の質量の10~2000倍、好ましくはそれ自体の質量の20~2000倍(すなわち、吸収性ポリマー1グラム当たり水20g~2000gを吸収)、より好ましくは30~1500倍、及び特に50~1000倍の水吸収能を有し得る。
【0150】
これらの水吸収特性は、温度(25℃)及び圧力(760mmHg、すなわち100000Pa)の基準状態及び蒸留水に関する。
【0151】
本発明の除染ゲルに任意選択で含有されるSAPは、ナトリウムポリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ポリマーでグラフトされたデンプン、(メタ)アクリル酸ポリマーでグラフトされた加水分解デンプン;デンプン、ゴム、及びセルロース誘導体をベースとするポリマー;並びにその混合物のうちから選択することができる。
【0152】
より具体的には、任意選択で本発明のゲルで使用することができるSAPは例えば:
- アクリル、メタクリル系ポリマー等の、水溶性エチレン系不飽和モノマーの部分的架橋を伴う重合から生じるポリマー(特に、アクリル酸及び/又はメタクリル酸及び/又はアクリレート及び/又はメタクリレートモノマーの重合に由来)、又はビニルポリマー、特に、とりわけゲル形態の架橋及び中和ポリ(メタ)アクリレート;並びにこれらのポリマーの塩、特に、ナトリウム又はカリウム塩等のアルカリ塩;
- ポリアクリレートでグラフトされたデンプン;
- 特にナトリウム又はカリウム塩の形態のアクリルアミド/アクリル酸コポリマー;
- 特にナトリウム又はカリウム塩の形態のアクリルアミド/アクリル酸でグラフトされたデンプン;
- カルボキシメチルセルロースのナトリウム又はカリウム塩;
- 架橋ポリアスパラギン酸の塩、特に、アルカリ塩;
- 架橋ポリグルタミン酸の塩、特に、アルカリ塩
のうちから選択することができる
【0153】
特に、「SAP」として、
- 商品名SALSORRB CL 10、SALSORB CL 20、FSA type 101、FSA type 102(Allied Colloids社);ARASORB S-310(Arakawa Chemical社);ASAP 2000、Aridall 1460(Chemdal社);KI-GEL 201-K(Siber Hegner社);AQUALIC CA W3、AQUALIC CA W7、AQUALIC CA W10;(Nippon Shokuba社);AQUA KEEP D 50、AQUA KEEP D 60、AQUA KEEP D 65、AQUA KEEP S 30、AQUA KEEP S 35、AQUA KEEP S 45、AQUA KEEP Al M1、AQUA KEEP Al M3、AQUA KEEP HP 200、NORSOCRYL S 35、NORSOCRYL FX 007(Arkema社);AQUA KEEP 10SH-NF、AQUA KEEP J-550(Kobo社);LUQUASORB CF、LUQUASORB MA 1110、LUQUASORB MR 1600、HYSORB C3746-5(BASF社);COVAGEL(Sensient technologies社)、SANWET IM-5000D(Hoechst Celanese社)で販売されている架橋ナトリウム又はカリウムポリアクリレート;
- 商品名SANWET IM-100、SANWET IM-3900、SANWET IM-5000S(Hoechst社)で販売されているデンプングラフトされたポリアクリレート;
- 商品名WATERLOCK A-100、WATERLOCK A-200、WATERLOCK C-200、WATERLOCK D-200、WATERLOCK B-204(Grain Processing Corporation社)で販売されているナトリウム又はカリウム塩の形態のデンプングラフトされたアクリルアミド/アクリル酸コポリマー;
- 商品名WATERLOCK G-400(Grain Processing Corporation社)で販売されているナトリウム塩形態のアクリルアミド/アクリル酸コポリマー;
- 商品名AQUASORB A250(Aqualon社)で販売されているカルボキシメチルセルロース;
- 商品名GELPROTEIN(Idemitsu Technofine社)で販売されている架橋ナトリウムポリグルタマート
から選択される化合物を使用することができる。
【0154】
例えばナトリウム又はカリウムポリ(メタ)アクリレートタイプの、ナトリウム又はカリウムイオン等のアルカリイオンを含有する超吸収性ポリマー、特に超吸収性ポリマー(高分子電解質)は、本発明の除染ゲルに多数の特性を付与する。
【0155】
それらは先ず、生成物のレオロジー、特にその流動閾値に影響を及ぼす。方法の実施の点において、超吸収性ポリマーの利点は、噴霧されたゲルの層厚が1mmを超える場合に、処理される材料上での、特に垂直及び突出表面上でのゲルの完璧な付着を保証することである。
【0156】
ゲルを使用する除染方法において、超吸収性ポリマーは、特に有利であり、それというのも、水素結合によって、これは、ゲルに含有される溶液の一部を吸収するためである。ゲル溶液とポリアクリル酸ナトリウム等の超吸収性ポリマーとの間で形成される水素結合の数が塩分負荷の関数であるので、除染ゲルの塩分負荷が変更されると、吸収/脱着の現象が起こる。
【0157】
したがって、例えばセメント状マトリックス等の鉱物多孔性材料が除染される場合には、この機構は、特に有利である。
【0158】
材料と接触すると、カルシウムを含有することが非常に多い鉱物粒子の存在を理由として、ゲルの塩分負荷が上昇する。ポリアクリル酸ナトリウム等の超吸収性ポリマー内で、カルシウムに由来するCa2+によってNa+対イオンが置換されると直ちに、カルシウムイオンの高い立体障害を理由として、溶液、例えば、殺菌溶液の放出現象が起こる。
【0159】
次いで、ポリアクリル酸ナトリウム等の超吸収性ポリマーによって放出された溶液量は、材料の多孔に直ちに拡散し、深部に浸透し得る。
【0160】
材料の中心部への除染剤の拡散現象は、いずれの超吸収剤も含有しないゲルではかなり限定される。
【0161】
したがって、本発明のゲルに超吸収性ポリマーを添加することによって、1又は数ミリメートル、例えば、最高2、5、10、20、更には100mmの層厚の深さで汚染されている多孔性材料の存在下でのゲル、及び本発明の方法の有効性を著しく上昇させることができる。
【0162】
超吸収性ポリマーを好ましくは、ARKEMA社によって販売されているAquakeep(登録商標)又はNorsocryl(登録商標)の範囲のうちから選択する。
【0163】
任意選択で、及び加えて、ゲルは、少なくとも1種の界面活性剤(すなわち、単一の界面活性剤又は界面活性剤の混合物)を含有してもよく、好ましくはこの、又はこれらの界面活性剤等は、ブロックコポリマー、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドのブロックコポリマー、並びにエトキシ化脂肪酸等の非イオン界面活性剤のファミリー;並びにその混合物から選択される。
【0164】
ゲルのこの種類では、界面活性剤は好ましくは、商品名PLURONIC(登録商標)でBASF社によって販売されているブロックコポリマーである。
【0165】
Pluronics(登録商標)は、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドのブロックコポリマーである。
【0166】
これらの界面活性剤は、ゲルのレオロジー特性、特に、生成物のチキソトロピー性及びその回復、復帰時間に影響を及ぼし、流出の開始を防止する。
【0167】
加えて、界面活性剤は、乾燥廃棄物の付着の制御、及び乾燥残渣のフレークのサイズの制御をもたらして、廃棄物の非粉末性を保証する。
【0168】
好ましくは、溶媒を、ゲルの質量に対して、10%~80質量%、好ましくは40%~70質量%、より好ましくは40%~56質量%、例えば40%、42.5%、又は56質量%の割合の水と、10%~60質量%、好ましくは10%~50質量%、より好ましくは24%~42.5質量%、更に好ましくは24%~40質量%、例えば24%、40%、又は42.5質量%の割合のエタノール等の飽和C1~C10脂肪族アルコールと、の混合物から選択する。
【0169】
水の量及びエタノール等の飽和脂肪族アルコールの量は、溶媒以外のコロイド溶液の成分の量(これらの成分は、上で言及したとおりの必須若しくは任意選択の成分、又は他の任意選択の言及した、若しくは言及していない追加の成分である)に加えた場合に、コロイド溶液のすべての成分の合計量が100質量%になるような量である。
【0170】
本発明の特に好ましいゲルの1つは、ゲルの質量に対して、42.5質量%の水及び42.5質量%のエタノール等の飽和C1~C10脂肪族アルコール、及び15質量%のTiO2を含む。このゲルのpHは、5.5~9、例えば、5.5又は9であってよい。
【0171】
本発明の別の特に好ましいゲルは、ゲルの質量に対して、56質量%の水、24質量%のエタノール等の飽和C1~C10脂肪族アルコール、及び20質量%のTiO2を含む。このゲルのpHは、5であってよい。
【0172】
本発明の更なる特に好ましいゲルは、ゲルの質量に対して、40質量%の水、40質量%のエタノール等の飽和C1~C10脂肪族アルコール、及び20質量%のTiO2を含む。このゲルのpHは、5であってよい。
【0173】
すでに上述したとおり、驚くべきことに、ゲルにエタノール等のアルコールを添加することによっても、ゲルの還元有効性、例えば六価クロムの還元率を改善し得ることが示されている。
【0174】
本発明は更に、固体材料から作製された基材の少なくとも1つの表面を除染するための方法であって、前記表面が、前記表面上、及び(任意選択で)起こり得る場合、基材の深さ方向の前記表面の下(表面下で)の、少なくとも1種の汚染種によって汚染されており、次の連続工程:
a)上記等の本発明のゲルを前記表面上に塗布する工程;
b)ゲルが汚染種を吸収し、次いで、汚染種がTiO2粒子の表面上に吸着され、ゲルが乾燥して、TiO2粒子の表面に吸着された前記汚染種を含有する乾燥固体残渣が形成されるのに少なくとも十分な時間にわたって、表面上にゲルを維持する工程;
c)ゲル内でTiO2粒子の表面上に吸着された前記汚染種を含有する乾燥固体残渣を除去する工程
を含む少なくとも1つのサイクルが行われる方法に関する。
【0175】
汚染種が表面上にある場合、表面上の汚染また表面汚染という用語、したがって、表面の/その上の除染又は表面除染という用語を使用する。
【0176】
汚染種が、基材の深さ方向の前記表面の下に(その下方に)ある場合、表面下の/表面下にある汚染又は表面下汚染という用語、したがって、表面下の/表面下にある除染又は表面下除染という用語を使用する。
【0177】
本発明の方法は、多孔性材料を表面下除染し得る(実施例4)。
【0178】
しかし、本発明の方法では、著しい深さでの除染は不可能であるが、数ミクロンに達し得る深さにわたるだけの、一般に、基材の表面からおそらく5ミクロンまでの深さにわたる、有利には基材の表面から2ミクロンまでの深さにわたる除染は可能である。
【0179】
非多孔性表面の場合には、「不活性化」汚染、例えば、単に表面汚染である生物汚染は、乾燥ゲルのフレークによって取り出されることに留意すべきである。
【0180】
他方で、セメント状材料等の多孔性材料の場合のような深部汚染では、乾燥ゲルは、表面汚染の残渣及び表面下汚染の残渣(表面から数ミクロンまでで見い出される汚染残渣)を含有する。
【0181】
固体基材は、多孔性基材、好ましくは鉱物多孔性基材であってよい。しかし、本発明のゲル及び方法の有効性は、非多孔性及び/又は非鉱物表面の存在下においてと同程度に良好である。
【0182】
有利には、基材は、ステンレス鋼、塗装された鋼、アルミニウム及び鉛等の金属及び金属合金;ポリ(塩化ビニル)すなわちPVC、ポリプロピレンすなわちPP、ポリエチレンすなわちPE、特に高密度ポリエチレンすなわちHDPE、ポリ(メタクリル酸メチル)すなわちPMMA、ポリ(フッ化ビニリデン)すなわちPVDF、ポリカーボネートすなわちPCのようなプラスチック材料又はゴム等のポリマー;ガラス;セメント及びセメント材料;モルタル及びコンクリート;石膏;れんが;天然又は人工石;セラミックから選択される少なくとも1種の固体材料から作製されている。
【0183】
汚染種は特に、イオン、化学、生物、核又は放射性汚染種のうちから選択され得る。
【0184】
本発明のゲル及び方法によって、種が有機若しくは無機、液体若しくは固体かどうかに関わらず;又はこの汚染種の形態に関わらず(この汚染物質が、固体又は微粒子形態で、部材の材料の表面層に含有されるか、フィルムの形態であるか若しくはフィルム、例えば、部材の表面上のグリースのフィルム中に含有されるか、又は部材の表面上に単に堆積しているか、に関わらず)汚染種を除去することができる。
【0185】
汚染の種類に応じて、本発明のゲルの作用様式は異なる:汚染フィルム、例えばグリースの可溶化(例えば、塩基性ゲルで)、又は、汚染物質、特に化学汚染物質又は病原種(炭疽)であれば生物汚染物質の、その場での吸着、それに続く不活性化及び/又は分解、及び/又は還元、及び/又は破壊(光触媒作用による)。
【0186】
イオン除染ゲルとは、イオン種、特に毒性イオン種と接触すると、この種を抽出し、その毒性を低下させ得る任意のゲルを意味する。毒性のこの低下は一般に、イオン種の還元によって行われる。
【0187】
このイオン種は、一価及び多価金属イオンのうちから、特に、クロム(VI)、ニッケル(II)、銀(I)、カドミウム(II)、水銀(II)、ヒ素(III)及び鉛(II)のイオン等の毒性一価及び多価金属イオンのうちから選択され得る。
【0188】
したがって、本発明のゲルを使用する本発明の方法は、汚濁イオンで汚染されている平滑表面を除染するために塗布することができる。これらの汚濁イオンを、表面を化学的に攻撃することなくゲル内に吸収し、続いて、TiO2粒子の表面に吸着することによって表面から除去する。
【0189】
したがって、本発明のゲルを使用する本発明の方法は、汚濁イオンで汚染された多孔性表面を除染するために塗布することができる。これらの汚濁イオンを、表面を化学的に攻撃することなくゲル内に吸収し、続いて、TiO2粒子の表面に吸着することによって表面から除去する。
【0190】
殺菌ゲルとも呼ばれ得る生物除染ゲルとは、生物種、特に毒性生物種と接触すると、毒性生物種を不活性化若しくは破壊する、又はその毒性を低下させることができる任意のゲルを意味する。
【0191】
生物種とは、細菌、真菌、酵母、ウイルス、毒素、胞子、特に炭疽菌(Bacillus anthracis)の胞子、プリオン、及び原生動物等の任意の種類の微生物を意味する。
【0192】
本発明のゲルによって除去、破壊、不活性化される生物種は本質的に、病原胞子、例えば、炭疽菌(Bacillus anthracis)の胞子、毒素、例えばボツリヌス菌毒素又はリシン、細菌、例えばペスト菌(Yersinia pestis)細菌及びウイルス、例えば、ワクチンウイルス又は出血熱のウイルス、例えばエボラ型のウイルス等の生体毒種である。
【0193】
化学除染ゲルとは、化学種、特に毒性化学種と接触すると、毒性化学種を破壊若しくは不活性化する、又はその毒性を低下させることができる任意のゲルを意味する。この化学種は一般に、有機分子である。
【0194】
本発明のゲルによって除去される化学種は特に、毒ガス、特に神経毒性又は水疱形成性(blistering)の毒性化学種である。
【0195】
これらの毒性ガスは特に、有機リン化合物であり、そのうち、サリン又はGB剤、VX、タブン又はGA剤、ソマン、シクロサリン、ジイソプロピルフルオロホスホナート(DFP)、アミトン又はVG剤、パラチオンを挙げることができる。他の毒性ガスは、マスタードガス又はH剤又はHD剤、ルイサイト又はL剤、T剤である。
【0196】
本発明のゲルで除去することができる核、放射性薬剤は、例えば、特に固体沈澱物の形態の金属酸化物及び水酸化物のうちから選択され得る。
【0197】
放射性種に関して、本発明者らは、破壊又は不活性化については語ってなく、イオン又は固体形態の核汚染を乾燥ゲルフレークに移動させることについて語っているに過ぎないことに留意すべきである。
【0198】
有利には、ゲルを、除染される表面に表面積1m2当たりゲル100g~2000g、好ましくは表面積1m2当たりゲル500~1500g、より好ましくは表面積1m2当たりゲル600~1000gの割合で塗布し、これは一般に、0.1mm~2mm、好ましくは0.5mm~2mm、より好ましくは1mm~2mmの、表面上で堆積したゲルの層厚に相当する。
【0199】
有利には、ゲルを、噴霧によって、ブラシ又はフロートを使用して固体表面に塗布する。
【0200】
有利には、工程a)の全部若しくは一部の間、及び/又は工程b)の全部若しくは一部の間、好ましくは工程b)の全期間の間、表面に維持されているゲルを、可視光線又はA、B若しくはC紫外線(UVA、UVB又はUVC)に、或いは別の放射線に曝露して、光触媒作用によって汚染種を不活性化させる、及び/又は分解する、及び/又は還元させる、及び/又は破壊する。
【0201】
特にTiO2が適切な化学元素でドーピングされている場合、可視光線又はA、B若しくはC紫外線以外の放射線へのゲルの曝露を企図することができる。
【0202】
工程b)の一部の間だけ、ゲルを(ゲルに照射するための)放射線に曝露することが可能であり、これによって、光触媒作用を調節し得る。光触媒作用は、照射時間中だけ生じる。
【0203】
表面に堆積したゲルを可視光線、及び好ましくは紫外線、又は別の放射線に曝露することによって、本発明のゲルに含有されているTiO2の光触媒作用を利用して、除染を達成する、例えば、イオンを還元する、又は有機分子等の化学汚染種若しくは生物汚染種を分解する。
【0204】
多価イオン等の還元可能なイオン汚染種に起因する汚濁の事象では、乾燥残渣は、当初の汚濁、汚染よりも低い毒性を有する。
【0205】
還元された種の毒性が当初の汚染種の毒性よりも低いように、汚染種を放射線下で、乾燥ゲルフレークを構成するTiO2粒子の光触媒作用によって還元して、酸化状態を有する還元された種にする。
【0206】
同様に、有機分子等の化学汚染種に起因する汚濁の事象では、乾燥残渣は、当初の汚濁、汚染よりも低い毒性を有する。
【0207】
実際には、汚染種を放射線下で、乾燥ゲルフレークを構成するTiO2粒子の光触媒作用によって酸化して、当初の汚染種よりも低い毒性を有する1種又は複数の分子にする。
【0208】
また同様に、微生物等の生物汚染種に起因する汚濁の事象では、乾燥残渣は、当初の汚濁、汚染よりも低い毒性を有する。
【0209】
実際には、微生物を放射線下で、乾燥ゲルフレークを構成するTiO2粒子の光触媒作用によって不活性化して、当初の汚染種よりも低い毒性を有する生物産物にする。
【0210】
言い換えると、及び一般に、ゲルの光触媒特性によって、汚染種の毒性の劣化/還元を意図した活性化が可能である。
【0211】
有利には(工程b)中に)、乾燥を1℃~50℃、好ましくは15℃~25℃の温度で、20%~80%、好ましくは20%~70%の相対湿度下で行う。
【0212】
有利には、ゲルを2~72時間、好ましくは2~48時間、より好ましくは4~24時間にわたって表面上に維持する。
【0213】
有利には、乾燥固体残渣は、1~10mm、好ましくは2~5mmのサイズを有する粒子、例えばフレークの形態である。
【0214】
有利には、乾燥固体残渣を、ブラッシング及び/又はバキューミング、吸引によって固体表面から除去する。
【0215】
本発明によれば、汚染種を含有する乾燥ゲルの残渣は、この汚染種を、特にそれがイオン汚染種である場合には、乾燥ゲル残渣、一般に乾燥ゲルのフレークの成分であるTiO2粒子の表面へのイオンの吸着による化学的複合体化によって閉じ込める。汚染種のこの吸着によって、特にフレークの形態の乾燥ゲル残渣の浸出の事象の際に、汚染種、特にイオン種の放出はない。
【0216】
有利には、上記サイクルを、すべてのサイクルにおいて同じゲルを使用して、又は1回若しくは複数のサイクルにおいて異なるゲルを使用して1~10回繰り返してもよい。
【0217】
有利には、工程b)の間に、ゲルを、完全乾燥の前に、溶媒で、好ましくは工程a)で塗布されるゲルの溶媒で再湿潤させるが、これは一般に、表面へのゲルの繰り返し塗布を回避するものであり、試薬の節約及び限定量の廃棄物を伴う。この再湿潤作業を例えば1~10回繰り返してもよい。
【0218】
本発明の方法はすべて、本質的にゲルのTiO2含分による、使用される除染ゲルに固有の有利な特性を有し、それらは大部分、上に記載している。
【0219】
まとめると、本発明の方法及びゲルは特に、次の有利な特性を有する:
- 噴霧によるゲルの塗布;
- 壁また天井への付着;
- 特に多孔性表面(表面下除染:上を参照されたい)の場合には、汚染が浸透している状況にある場合を含めて、ゲルの乾燥相の終了時に最大の除染有効性が獲得されること。
【0220】
一般に、乾燥時間は、吸着に必要とされ、任意選択で、放射線への曝露による光触媒作用による汚染種の不活性化及び/又は分解及び/又は還元及び/又は破壊に必要とされる時間に等しいか、それよりも長い時間と規定される。
【0221】
深部吸着、及び追加の不活性化の事象では、一般に、再湿潤に頼ることとなる。
【0222】
言い換えると、汚染種が、その毒性を低下させるために光触媒処理を受ける必要がある場合、乾燥時間は、汚染種の吸着及び光触媒不活性化に必要とされる時間に等しいか、それよりも長い時間と規定される。
【0223】
別段に、汚染種の光触媒処理が必要とされない場合には、その毒性を低下させるために、吸着に必要とされる時間に単純に等しいか、それよりも長い乾燥時間を用意すれば十分である。
- 非常に広範な材料の処理;
- 処理の終了時に、材料の機械的又は物理的損傷がない;
- 様々な気象条件下での方法の実行;
- 廃棄物の体積の減少;
- 乾燥廃棄物の容易な回収。
【0224】
添付の図面を参照しながら、例示のためであって、限定を目的とせずに示される次の詳細な説明を読むことで、本発明の他の特徴及び利点がより良好に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0225】
【
図1】溶媒が水であり、暗所で塗布及び乾燥したTiO
2ベースのゲル、すなわち、実施例1で調製したゲルのフレークが浸出した後に実施例3で得られた溶液のUV可視スペクトルを示すグラフである。このグラフを「暗所でのTiO
2-H
2Oゲル」と呼ぶ。x軸に沿って波長(nm)が、Y軸に沿って吸光度が示されている。
【
図2】溶媒が水であり、暗所で塗布及び乾燥したSiO
2を含有する本発明に合致しない比較ゲル、すなわち、実施例3で調製したゲルのフレークが浸出した後に実施例3で得られた溶液のUV可視スペクトルを示すグラフである。このグラフを「暗所でのSiO
2-H
2Oゲル」と呼ぶ。x軸に沿って波長(nm)が、Y軸に沿って吸光度が示されている。
【
図3】実施例5に記載の本発明によるゲル(「H
2O-40EtOHゲル」)のフレークが浸出した後に得られた溶液のUV可視スペクトルを示すグラフである。UVランプ(曲線A)の放射線下で乾燥することによるか、又は可視光(曲線B)下で乾燥することによるかのいずれかによって、これらのフレークを得た。比較のために、このグラフはまた、溶媒が水であり、暗所で塗布及び乾燥したTiO
2ゲル、すなわち実施例1で調製したゲルのフレークが浸出した後に得られた溶液のUV可視スペクトル(曲線C)を示す。x軸に沿って波長(nm)が、Y軸に沿って吸光度が示されている。
【
図4】実施例7に記載のゲル(「H
2Oゲル」(曲線A)、「H
2O-24EtOHゲル」(曲線B)、及び「H
2O-40EtOHゲル」(曲線C))(表7を参照されたい)のフレークが浸出した後に得られた溶液のUV可視スペクトルを示すグラフである。UVランプの下で乾燥することによって、これらのフレークを得た。比較のために、このグラフはまた、溶媒が水であり、暗所で塗布及び乾燥した本発明のTiO
2ベースのゲル、すなわち、実施例1で調製したゲルのフレークが浸出した後に得られた溶液のUV可視スペクトル(曲線D)を示す。x軸に沿って波長(nm)が、Y軸に沿って吸光度が示されている。
【
図5】「H
2Oゲル」(曲線A)及び「H
2O-40EtOHゲル」(曲線B)の、せん断速度を関数とした粘度の変化を示すグラフである(実施例8を参照されたい)。x軸に沿ってせん断速度(s-1)が、Y軸に沿って粘度(Pa.s)が示されている。
【
図6】「H
2Oゲル」(曲線A)及び「H
2O-40EtOHゲル」(曲線B)の、伸び率を関数としたせん断応力の変化を示すグラフである(実施例8を参照されたい)。x軸に沿って伸び率(単位なし)が、Y軸に沿ってせん断応力(Pa)が示されている。
【
図7】25℃及び50%相対湿度での「H
2Oゲル」(曲線A)、及び「H
2O-24EtOHゲル」(曲線B)で、時間を関数とした質量損失の変化を示すグラフである(実施例11を参照されたい)。
【
図8】深さ2mmのボート内で「H
2O-24EtOHゲル」を乾燥した後に得られたフレークの写真である(実施例11を参照されたい)。
【
図9】実施例9で研究したゲルでの、せん断速度を関数とした粘度の変化を示すグラフである。x軸に沿ってせん断速度(s
-1)が、Y軸に沿って粘度(Pa.s)が示されている。
【
図10】実施例10で研究したゲルでの、伸び率を関数としたせん断応力の変化を示すグラフである。x軸に沿って伸び率(単位なし)が、Y軸に沿ってせん断応力(Pa)が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0226】
本発明のゲルは、周囲温度で容易に調製することができる。
【0227】
例えば、好ましくは徐々に、例えば平均直径2~200nmの粒子の形態の所望の量の無機増粘剤、すなわちTiO2を、ゲルの溶媒に分散させることによって、本発明のゲルを調製することができる。
【0228】
この分散液は、機械撹拌によって、例えば3枚刃インペラーを備えた機械攪拌機を用いて得ることができる。回転速度は例えば200rpmであり、撹拌時間は例えば3~5分である。
【0229】
分散の後に、一般に約3.5のpHを有する不透明な白色の液体懸濁液が得られる。
【0230】
次いで、不透明な白色の粘稠性ゲルが形成し得る例えば5にpHが達するまで、撹拌の継続下で、塩基、例えば水酸化ナトリウム0.1M NaOHを使用して、pHを徐々に上昇させる。
【0231】
塩基、例えば水酸化ナトリウムを添加するときには、一切液飛びなしに、粘度が上昇して約400~600rpmに達するまで、撹拌速度を徐々に上昇させる。ゲルを例えば2~5分間にわたって撹拌し続けて、完全に均一なゲルを得る。
【0232】
ここで、添加する塩基、例えば水酸化ナトリウムの量を、溶媒の当初量に対して無視できるとみなすことができること、したがって、TiO2及び溶媒の当初の質量組成は、pH=5となっても、有効なままであるとみなすことができることに留意する。
【0233】
したがって、こうして調製されたゲルのpHは、5であるので、弱酸性である。
【0234】
7のpHまでpHを上昇させ続けることによって、本発明のゲルに合致する、したがって、処理表面の化学的攻撃を防止する中性ゲル、及び7を超えるが9未満の弱塩基性pHで本発明に合致する弱塩基性ゲルも、又は9以上の強塩基性pHで、したがって脱脂特性、能力を有するが、処理表面を攻撃しない本発明に合致する強塩基性ゲルも得ることが可能である。
【0235】
中性ゲル及び弱塩基性ゲルだけではなく強塩基性ゲルでも、水酸化ナトリウムの量は一般に、無視できると通常はみなすことができる。
【0236】
一般に、本発明のゲルは、ある距離で(例えば1~5mの距離で)又は近くから(例えば1m未満、好ましくは50~80cmの距離で)、除染される表面上に噴霧することができるように、1000s-1のせん断下で200mPa.s未満の粘度を有さなければならない。
【0237】
粘度復帰時間は一般に1秒未満であり、低せん断下での粘度は、垂直壁から流出しないように、10Pa.sより高い。
【0238】
こうして調製される本発明のゲルを基材又は固体材料の除染すべき固体表面に、言い換えると、汚染に、例えば生物汚染に曝露された表面に塗布する。
【0239】
この汚染については、すでに上記した。特に、生物汚染は、既に上で定義した1種又は複数の生物種からなってよい。
【0240】
上ですでに示したとおり、本発明のゲルでは、TiO2は、無機増粘剤の役割に加えて、活性除染剤、例えば活性生物除染剤として作用して、汚濁、汚染種、例えば生物汚染種も除去、破壊又は不活性化し得る。
【0241】
除染される表面の構成材料に関して制限はなく、本発明のゲルは、あらゆる種類の材料を、脆弱な材料でも、いかなる損傷も伴わずに処理し得る。
【0242】
従来技術のゲルによっては、劣化させずに処理することができなかったアルミニウムタイプの軽金属の合金等の材料における表面も、本発明のゲルを用いると成功裏に処理することができる。
【0243】
本発明のゲルは、処理される材料のいかなる劣化、腐食、化学的機械的又は物理的攻撃ももたらさない。したがって、本発明のゲルは、いずれの手法でも、処理される材料の完全性に対して有害ではなく、その再利用さえ可能にする。例えば、軍用装置等のデリケートな装置を保全し、除染の後に再使用することができる一方で、本発明のゲルで処理されたモニュメントは全く劣化せず、それらの視覚的及び構造的完全性は保全される。
【0244】
したがって、基材のこの材料を例えば、ステンレス鋼、アルミニウム及び鉛等の金属及び金属合金;PVC、PP、PE、特にHDPE、PMMA、PVDF、PCを挙げることができるプラスチック材料又はゴム等のポリマー;ガラス;セメント及びセメント材料;モルタル及びコンクリート;石膏;れんが;天然又は人工石;セラミックのうちから選択することができる。
【0245】
すべての場合において、材料に関わらず、本発明のゲルによる除染有効性は完全である。
【0246】
処理される表面は塗装されていてもよいし、又は塗装されていなくてもよい。
【0247】
本発明のゲルは、セメント状材料、例えば、ペースト、モルタル及びコンクリート、れんが、石膏又は天然若しくは人工石等の多孔性材料にも有効である。
【0248】
本発明のゲルを用いる処理の有効性は一般に、数ミクロンの深さまで汚染された材料上も含めて、全体的である(上記を参照されたい)。
【0249】
除染される表面の形状、幾何学的形状及びサイズに関しても制限はなく、本発明のゲル及びゲルを実装する方法は、大きな寸法、複雑な幾何学的形状の、例えば、穴、角、くぼみを有する表面も処理し得る。
【0250】
本発明のゲルは、床等の水平表面だけでなく、壁、パーティション等の垂直表面又は天井等の傾斜若しくは突出表面でも効率的な処理を保証する。
【0251】
溶液等の液体を使用する既存の除染方法、例えば生物除染方法と比較すると、ゲルを使用する本発明の除染方法は特に、移動することができないか、又は戸外に設置された大きな表面積の材料を処理するために有利である。本発明の方法はゲルを使用するので、その場で除染することができ、環境に化学的溶液をこぼしたり、汚染種を分散させることを防止する。
【0252】
本発明のゲルは、当業者に公知のあらゆる塗布方法を使用して、処理される表面に塗布することができる。
【0253】
従来の方法は、例えば、ガンを用いる噴霧又はブラシ若しくはフロートを用いる塗布である。
【0254】
処理される表面上に本発明のゲルを噴霧することによる塗布では、コロイド溶液を、例えば低圧ポンプ、例えば7バール以下、すなわち約7.105パスカルの圧力を施与するポンプによって搬送することができる。
【0255】
表面へのゲルの噴射は、例えばフラット噴射又はラウンド噴射ノズルを使用して得ることができる。
【0256】
ポンプとノズルとの間にどのような距離があってもよく、例えば、1~50m、特に1~25mであってよい。
【0257】
本発明のゲルの粘度の十分に短い回復時間によって、噴霧されたゲルは、すべての表面、例えば壁に付着し得る。
【0258】
処理される表面上に堆積するゲルの量は一般に、100~2000g/m2、好ましくは500~1500g/m2、より好ましくは600~1000g/m2である。
【0259】
単位表面積当たりに堆積するゲルの量、したがって堆積したゲルの層厚は、乾燥速度に影響を有する。
【0260】
したがって、フィルム、ゲル層を0.5mm~2mmの層厚で、処理される表面に噴霧する場合、ゲルと表面との間の効率的な接触時間は、その乾燥時間と等しく、その期間中に、ゲル中に含有される活性成分、この場合はTiO2が、汚染と相互作用する。
【0261】
多孔性基材、例えばセメント状マトリックスの場合、材料の中心部に浸透した除染溶液、例えば殺菌溶液の作用時間は、ゲル乾燥時間よりも長くなり得、この場合、除染溶液での再湿潤を実施するか、又はゲル噴霧を繰り返すことが一般に必要である。
【0262】
加えて、上述の範囲内にある場合、特に500g/m2以上、特に500~1500g/m2の範囲内である場合の堆積ゲルの量(これは500g/m2以上の堆積ゲルの量で、堆積ゲルの最小層厚、例えば500μm以上に対応する)によって、乾燥後のゲルは、例えばサイズ1~10mm、好ましくは2~5mmのバキューム可能なミリメートルフレークの形態へと断片化し得ることが驚くべきことに示されている。
【0263】
好ましくは500g/m2以上、すなわち500μm、より好ましくは1000g/m2以上、すなわち1000μm(1mm)の体積ゲルの量、したがって体積ゲルの層厚が、ゲルの乾燥後に形成される乾燥残渣のサイズに影響を及ぼし、したがって、粉末残渣ではなくミリメートルサイズの乾燥残渣(機械的手段、好ましくはバキューミング、吸引によって容易に除去される)が形成することを保証する基本的なパラメータである。
【0264】
次いで、ゲルを、処理される表面上で、乾燥に必要な全期間にわたって維持する。本発明の方法の活性相を形成しているとみなすことができるこの乾燥工程を通じて、乾燥固体残渣が得られるまで、ゲルに含有される溶媒、例えばゲルに含有される水を蒸発させる。
【0265】
乾燥時間は、上記で示した成分の濃度範囲内でのゲルの組成に、しかしまた、すでに明記したとおり、単位表面積当たり堆積したゲルの量、すなわち、堆積ゲルの層厚に依存する。
【0266】
乾燥時間はまた、気象条件、すなわち、固体表面の周囲の大気の温度及び相対湿度に依存する。
【0267】
本発明の方法を、非常に広い気象条件下で、すなわち、1℃~50℃の温度T及び20%~80%の相対湿度RHで実行することができる。
【0268】
したがって、本発明のゲルの乾燥時間は一般に、1℃~50℃の温度T及び20%~80%の相対湿度RHで1時間~24時間である。汚染表面に塗布されたゲルを、乾燥時間中に光放射に曝露してもよい。
【0269】
光放射は、例えばUVランプによって生じる可視光線又はA、B又はC紫外線であり得る。例えば、表面に塗布されたゲルを、365nmの波長のUV線に曝露することができる。
【0270】
乾燥時間に対応する放射線への曝露時間は一般に、1~24時間である。乾燥は、このUV曝露によって促進され得る。
【0271】
表面上に存在する汚染種は、まず、可溶化、拡散、及びTiO2粒子の表面上での吸着によって、ゲル内に吸収される。
【0272】
次いで、TiO2の光触媒特性が、乾燥を通じて、汚染種の破壊及び/又は不活性化及び/又は分解、例えば多価元素の還元(例えば六価クロムから三価クロムへの変化)、化学汚染種(有機分子)の分解、又はTiO2の殺菌特性の活性化を可能にする。
【0273】
乾燥の終了時に、汚染種は破壊及び/又は不活性化及び/又は分解及び/又は吸収及び/又は吸着されている。
【0274】
特に、汚染種の毒性が劇的に、完全にすら無効化される。
【0275】
ゲルの乾燥後に、下記のとおり乾燥ゲル残渣を回収すると、汚染、例えば、不活性化された生物汚染は除去される。
【0276】
ゲルの乾燥後に、ゲルは均一に断片化して、非粉末状で、一般に固体フレークの形態である例えばサイズ1~10mm、好ましくは2~5mmのミリメートル乾燥固体残渣をもたらす。
【0277】
乾燥残渣は、1種又は複数の不活性化汚染種を含有し得る。
【0278】
乾燥後に得られたフレーク等の乾燥残渣は、除染材料の表面に対して僅かな付着を有する。このため、ゲルの乾燥後に得られた乾燥残渣を、単純なブラッシング及び/又はバキューミング、吸引によって容易に回収することができる。しかしながら、乾燥残渣をガスの噴射、例えば圧縮空気の噴射によって除去することもできる。
【0279】
したがって、液体でのすすぎは一般に、必要なく、本発明の方法は、いずれの二次的流出液ももたらさない。
【0280】
しかしながら、好ましくはないが、所望の場合には、乾燥残渣を液体の噴射によって除去することが可能である。
【0281】
したがって、本発明の方法は、溶液での洗浄を伴う除染方法と比較して、化学試薬の多大な削減を初めて達成している。また、廃棄物が直接バキューム可能な乾燥残渣の形態で得られるので、部材からの痕跡量の化学薬剤の除去を一般に必要とする水又は液体でのすすぎ作業が一般に回避される。結果は明らかに、生じる流出液の量の低減であるが、廃棄物の処理及び廃棄出口連鎖(disposal outlet chain)の点における顕著な簡素化でもある。
【0282】
本発明のゲルの主に鉱物組成及び生じる少量の廃棄物を理由として、乾燥廃棄物を貯蔵するか、又は事前処理することなく、排出チャンネル(evacuation channel)(廃棄出口)に向けることができる。
【0283】
本発明の方法が完了したら、固体廃棄物を、そのまま包装することができる、そのまま包装可能なフレークの形態で回収し;結果は、上記で示したとおり、生じる流出液の量の著しい低減、及び廃棄物の処理及び廃棄連鎖の点における顕著な簡素化である。
【0284】
加えて、核の分野では、廃棄物を包装する前に、フレークを再処理する必要がないという事実がかなりの利点となる;このことによって、液体流出物処理プラント(liquid effluent treatment plants;LETP)での作業上の制約を理由として、現在まで除染液では禁止されている高性能活性剤を使用することができる。
【0285】
例えば、表面積1m2当たりゲル1000グラムを塗布するルーチン的な場合には、生じる乾燥廃棄物の質量は、1m2当たり200グラム未満である。
【0286】
次に、本発明を、非限定的であり、例示を目的として示される次の実施例を参照して記載する。
【実施例】
【0287】
(実施例1)
この実施例では、実施例2、3、4、6及び7で使用される、TiO2をベースとする弱酸性、中性又は塩基性ゲル(TiO2ゲル)を記載する。
【0288】
TiO2をベースとする弱酸性ゲルは、質量百分率で次の組成を有するゲルであった:
- TiO220%;
- 蒸留水80%。
【0289】
TiO2は、Aerosil(登録商標)社によって商品名Degussa P25(登録商標)で販売されているTiO2であった。
【0290】
このゲルを次の手法で調製した:
初めに、3枚刃インペラーを備えた機械攪拌機を200rpmの速度で使用して、TiO2粒子を水に分散させた。
【0291】
約3.5のpHを有する不透明な白色の液体懸濁液が得られた。
【0292】
不透明な白色の粘稠性ゲルが形成し得る5にpHが達するまで、撹拌の継続下で、0.1M NaOHを用いて、pHを徐々に上昇させた。
【0293】
水酸化ナトリウムを添加するときには、液飛びせずに粘度が上昇して約400~600rpmに達するまで、撹拌を徐々に増加させる。次いで、ゲルを5分間にわたって撹拌し続けた。
【0294】
ここでは、添加される水酸化ナトリウムの量を、水の当初量と比較して、全体的には無視することができ、TiO220%及びH2O80%の質量組成は、pH=5となっても有効なままであるとみなすことができることに留意する。
【0295】
したがって、こうして調製されたゲルのpHは、5であるので、弱酸性である。
【0296】
pHを7のpHまで上昇させ続けることによって、したがって、処理表面の化学的攻撃を防止する中性ゲルを、及び9以上のpHを有し、したがって脱脂特性、能力を有する本発明に合致する強塩基性ゲルも得ることが可能である。
【0297】
中性ゲル及び弱塩基性ゲルでは、水酸化ナトリウムの量は、無視できると常にみなすことができる。
【0298】
(実施例2)
この実施例では、TiO2を含有する実施例1で調製されたゲルを使用して、平滑表面の除染の有効性を示す。
【0299】
除染試験を、Cr(VI)で汚濁された平滑表面で、実施例1で調製されたTiO2ゲルを使用して行った。
【0300】
平滑表面は、セラミック表面、アルミニウム表面及び高密度ポリエチレン表面(HDPE)であった。
【0301】
セラミックでの平滑表面の試験は、セラミックタイルを使用し、Cr(VI)の2.10-2M濃厚溶液に同等な10-2M K2Cr2O7溶液(Sigma-Aldrich(登録商標)製、純度≧99.0%、H2O中に溶解)0.25mlをセラミックタイル上に堆積させた。
【0302】
液滴を一晩乾燥した。黄色の斑点が得られ、その上に、実施例1で調製した酸性ゲル(pH=5)を堆積させたが、塗布は、暗所で1.25mmの層厚まで行った。
【0303】
ゲルを暗所で乾燥して、TiO2によるCr(VI)の光触媒作用でのいずれの還元も止めて、ゲルにおける吸収の現象だけが観察され得るようにした。4時間30分の乾燥時間の後に、乾燥ゲルフレークをブラッシングによって回収した。黄色の斑点は基材から完全に消え、ゲルフレークが黄色になっていたが(六価クロムの特徴的な色)、これは、クロムがフレーク内に実際に吸収された証拠である。
【0304】
次いで、フレークを、機械撹拌下で80℃で数時間にわたって純フッ化水素酸に溶解した。得られた溶液を、ThermoFisher Scientific社の機器であるiCAP 6000 Series(登録商標)を使用して「誘導結合プラズマ-発光分光分析」(ICP-OES)によって分析した。
【0305】
得られた結果を下の表1に示す。
【0306】
ここで、基材上に堆積した六価クロムの当初質量が0.26mgであったことに留意する。
【0307】
【0308】
TiO2ゲルが、Cr(VI)で汚染されたセラミックタイルを完全に除染したことが観察される。
【0309】
平滑なセラミック表面におけるのと同じ、ただし、ここでは、Cr(VI)で汚染されたアルミニウム表面、及び高密度ポリエチレン(HDPE)から製造された平滑表面で除染試験を行った。
【0310】
実験プロトコルは、平滑セラミック表面を除染するために上記したのと同じであった。
【0311】
それぞれの場合に、すべてのクロムがゲルフレークによって捕捉され、除染有効性100%をもたらした。
【0312】
したがって、TiO2ゲルは実際に、表面を構成する材料に関わらず、平滑表面上の六価クロムを完全に除染し得る。
【0313】
(実施例3)
この実施例では、TiO2ベースのゲルで表面を除染した後の、イオン汚濁の保持(閉じ込め)特性が示される。
【0314】
より正確には、この実施例の目的は、実施例1に記載したようなTiO2をベースとする酸性ゲル(pH=5)の、乾燥ゲルのフレーク中に六価クロムを閉じ込める能力を示すことであった。
【0315】
これらの特性、TiO2ゲルのこの閉じ込め、保持能力を、SiO2をベースとする比較ゲルの能力と比較した。
【0316】
SiO2をベースとする比較ゲル(SiO2ゲル)は、質量百分率で次の組成を有するゲルであった:
- シリカ12%;
- 蒸留水88%。
【0317】
このシリカは、EVONIK(登録商標)社から商品名Aerosil(登録商標)で市販されているシリカであった。
【0318】
比較SiO2ゲルを次の手法で調製した:
3枚刃インペラーを備えた機械攪拌機を200rpmの速度で使用する機械撹拌下で、シリカを蒸留水に徐々に加えた。シリカを添加するときには、液飛びせずに粘度が上昇して約400~600rpmに達するまで、撹拌を徐々に増加させる。次いで、ゲルを5分間にわたって撹拌し続けた。
【0319】
このゲルのpHは4.5であった。
【0320】
次いで、TiO2ゲルで除染試験を行った。最初は、この試験の作業プロトコルは、実施例2においてと同じであった。すなわち:Cr(VI)の2.10-2M濃厚溶液に同等な10-2M K2Cr2O7溶液0.25mL(Sigma-Aldrich社製、純度≧99.0%、H2Oに溶解)をセラミックタイルに堆積させた。
【0321】
液滴を終夜乾燥した。
黄色の斑点が得られ、その上に、実施例1で調製したTiO2ゲルを、(光触媒作用によるクロムの還元を防止するために)暗所で、1.25mmの層厚まで堆積及び塗布した。
【0322】
ゲルを暗所で乾燥して、TiO2によるCr(VI)の光触媒作用でのいずれの還元も止めて、ゲル内への吸収の現象だけが観察されるようにした。
【0323】
4時間30分の乾燥時間の後に、次のプロトコルを施与した:
- すべてのフレークを収集し、磁気撹拌棒を使用する機械撹拌下で2時間、H
2O20mL中に再分散した。こうしてフレークをH
2Oに浸出した。理論では、フレークに含有されるクロム全部が放出されると、[Cr(VI)]
0=2.5×10
-4Mの溶液が得られる。
[Cr(VI)]
0=2.5×10
-4Mのこの値は、次のとおりに得られる:20mLで最終的に見い出されるCr(VI)の乾燥2.10
-2M溶液0.25mL、すなわち(0.25×2.10
-2)/20=2.5×10
-4。
- 次いで、得られた懸濁液を30分間にわたって4400rpmで遠心し、最後に0.22μmフィルターを通して濾過した。
これらの工程によって、TiO
2粒子を完全に分離することができ、ゲルフレークに弱結合していた種を含有する浸出液が得られた。
- 浸出液を、予め較正しておいたShimadzu(登録商標)社によるUV可視UV-1800分光計で分析した。既知の濃度を有するK
2Cr
2O
7の異なる溶液を使用して、較正を行い、基線を超純水で得た。酸性媒体中での六価クロムの吸収スペクトルは、波長260nm及び352nmでピークを示した。
- TiO
2ゲルフレークから得られた浸出液でのスペクトルを
図1に示す。
【0324】
分析溶液中に含有されるCr(VI)の濃度は、ランベルト・ベールの法則によって得られる。
【0325】
この実施例、暗所で行われた試験(すなわち、ゲルの塗布、続く、ゲルの乾燥及び再分散)では、すべてのCrが必ず、Cr(VI)の形態であった。したがって、フレークによって放出されたクロムが、浸出液中に存在し、浸出液中のCr(VI)の含有率([Cr(VI)](浸出液))を、汚染のために使用された当初Cr(VI)含有率([Cr(VI)]0)と比較した。
【0326】
フレークが初めに、この場合の汚染をすべて含有することが示されたので(実施例2を参照されたい)、これらの測定によって、浸出後にフレーク中にまだ存在するクロムの量が得られた。得られた結果を下の表2に示す。
【0327】
【0328】
これらの結果は、機械撹拌下で、H2O中で2時間にわたるTiO2ゲルフレークの浸出後にも、クロムの35%しか、溶液中に放出されなかったことを示している。
【0329】
次いで、TiO2ゲルで行われたのと同じ除染試験を、比較SiO2ゲルで、同じプロトコルに従って再び暗所で行った。
【0330】
乾燥、フレークの再分散、遠心及び濾過の後に、浸出液をUV可視分光法によって分析した。
【0331】
SiO
2ゲルフレークから得られた浸出液のスペクトルは
図2に示されている。
【0332】
ランベルト・ベールの法則を使用することによって、浸出液中に含有されるCr(VI)の濃度、したがって、シリカフレーク中にまだ含有されるCr(VI)の量を決定することができた。得られた結果を、下のTable 3(表3)に示す。
【0333】
【0334】
これらの結果は、機械撹拌下でのH2O中でのシリカフレークの2時間の浸出後には、91%、すなわち実際的にすべてのクロムが溶液中に放出されたことを示している。
【0335】
この実施例を考慮すると、フレークを溶液中に入れた場合にクロムを保持するTiO2ゲルの能力と比較SiO2ゲルの能力との比較は、TiO2ゲルの有意な閉じ込め特性を明らかに示している。TiO2ゲルの閉じ込め特性は、比較SiO2ゲルの特性よりもかなり高い。したがって、汚染表面の処理後にフレークが劣化する事象において、汚濁の放出を制限するTiO2ゲルの能力は優れていて、比較SiO2ゲルの能力よりも良好である。
【0336】
(実施例4)
この実施例では、TiO2をベースとするゲル(TiO2ゲル)を使用して、多孔性表面の除染有効性を示す。
【0337】
比較のために、SiO2をベースとする「従来の」除染ゲル(SiO2ゲル)を使用して、同じ除染試験を行った。
【0338】
より正確には、この実施例の目的は、特に多孔性基材、すなわち、この場合にはコンクリート製の基材でのTiO2ゲルの吸着特性を実証することであった。
【0339】
試験されるTiO2ゲルは、実施例1に記載の酸性ゲル(pH=5)であった。これを、実施例3に記載したSiO2ゲルと比較した。
【0340】
当初、除染試験のための作業プロトコルは、実施例2についてと同じであった。基材だけが異なった:セラミックタイルの代わりに、コンクリートを使用した。
【0341】
各ゲルの乾燥及びフレークの回収の後に、これらを機械撹拌下で、純粋なフッ化水素酸中に、80℃で数時間にわたって溶解し、溶液をThermoFisher Scientific社の機器であるiCAP 6000 Series(登録商標)を使用して誘導結合プラズマ-発光分光分析(ICP-OES)によって分析して、これらのフレーク内のクロム濃度を決定した。
【0342】
得られた結果を下のTable 4(表4)に示す。
【0343】
ここで、基材のそれぞれに堆積した六価クロムの当初質量は0.26mgであったことに留意する。
【0344】
【0345】
したがって、これらの結果は、TiO2ゲルの吸着特性を示している。本発明に合致せず、SiO2をベースとする比較の「従来の」ゲル(SiO2ゲル)に反して、コンクリート等の多孔性基材で、TiO2ゲルによって、コンクリートの空孔中に含有されるクロムの少なくとも一部を除染することができる。
【0346】
(実施例5)
この実施例では、Cr(VI)の還元、したがって、その毒性の低下をもたらす、本発明のゲルの光触媒作用を実証する。
【0347】
より正確には、この実施例の目的は、Cr(VI)で汚染された表面を、その表面に本発明のTiO2ゲルを塗布することによって除染した後の、Cr(VI)毒性の低下に対するUV又は可視光線の影響を実証することであった。
【0348】
この実施例及び次の実施例7では(実施例6では、Crの量の測定はせず、目視観察のみであった)、乾燥ゲルフレークを水で浸出し、続いて、実施例3に記載のプロトコルを適用してUV可視分析した後に、ゲル中に含有される六価クロムの量の測定を行った。
【0349】
比[Cr(VI)](浸出液)/[Cr(VI)]0は、全六価クロムの還元(化学的還元)を表すとみなす。
【0350】
測定をフレーク中に含有された全クロムの約1/3でのみ行ったが(水で浸出した後に、フレーク中に含有されたクロムの35%のみが溶液に放出された)、TiO2粒子の表面に吸着され、フレーク内にまだ含有されているクロム原子は、浸出液中に含有されたものと少なくとも同じ還元された確率を有すると推測される。
【0351】
この実施例で使用された本発明のゲルは、次の組成を有した:
【0352】
【0353】
本発明に合致するこのゲルを、次のとおり調製した:
【0354】
初めに、3枚刃インペラーを備えた機械攪拌機を200rpmの速度で使用して、TiO2粒子を溶媒(水及びエタノール)に分散させた。
【0355】
約3.5のpHを有する不透明な白色の液体懸濁液が得られた。
【0356】
不透明な白色の粘稠性ゲルが形成し得る5にpHが達するまで、撹拌の継続下で、水酸化ナトリウム0.1M NaOHを用いて、pHを徐々に上昇させた。
【0357】
水酸化ナトリウムを添加するときには、液飛びせずに粘度が上昇して約400~600rpmに達するまで、撹拌を徐々に増加させた。次いで、ゲルを5分間にわたって撹拌し続けた。
【0358】
ここでは、添加される水酸化ナトリウムの量を、溶媒の量と比較して、全体的には無視することができ、したがって、TiO220%、H2O40%、及びエタノール40%の質量組成は、pH=5となっても有効なままであるとみなすことができることに留意する。
【0359】
したがって、こうして調整されたゲルのpHは、5であるので、弱酸性である。
【0360】
この実施例では、ゲルの還元有効性をUV可視分光測定によってモニターし、それから、Cr(VI)濃度を決定した。
【0361】
初めに、Cr(VI)の2.10-2M濃度に同等な10-2M K2Cr2O7溶液(Sigma-Aldrich(登録商標)社製、純度≧99.0%、H2O中に溶解)0.25mlをセラミックタイル上に堆積させた。
【0362】
この作業を2つの別々のセラミックタイルで行った。
【0363】
液滴を一晩乾燥し、その後、タイルのそれぞれに、斑点が得られた。
【0364】
この実施例では、上記のゲルを第1のセラミックタイルの斑点上に堆積させ、全体をUVランプ(Vilber(登録商標)社によるUVランプ、λ=365nm)の放射下に置き、体積層厚は1.25mmであった。
【0365】
上記のゲルをまた、第2のセラミックタイルの斑点上に1.25mmの層厚まで堆積させ、全体を可視光下に置いた。
【0366】
第1のサンプルは、UVランプ(Vilber(登録商標)社によるUVランプ、λ=365nm)の放射下で3時間にわたって乾燥し(黄色の斑点が形成し、その上に、ゲルを堆積させた)、第2のサンプルは、白昼に可視光下で乾燥させた。
【0367】
最終的に得られた乾燥ゲルフレークを、ブラッシングによって回収した。
【0368】
UV下で乾燥したゲルでは、フレークはわずかに緑色(Cr(III)の存在下で特徴的な色)又は茶色に見えた一方で、日光で可視光下で乾燥したゲルはまだ、それらの黄色の色相を有する。
【0369】
次に、乾燥ゲルフレークをH2O20mL中に1時間にわたって再分散した。
【0370】
遠心及び濾過の後に、浸出液をUV可視分光法によって分析した。
【0371】
得られたスペクトルを
図3に示す(比較のために、溶媒が水のみであり、暗所で乾燥した実施例1のTiO
2ゲルを表す曲線が示されている)。
【0372】
ランベルト・ベールの法則を適用した後に得られた結果を、下のTable 6(表6)にまとめる。
【0373】
一方では、浸出液中のクロムの分析は、実施例3において示されたとおり、浸出液中のクロムは、フレーク中に含有される全クロムの約35%に対応することを示した。
【0374】
他方で、ゲルが平滑基材上に存在したクロムを完全に抽出し得ることが示されたので、フレークは、当初クロムのすべてを含有した。
【0375】
したがって、フレーク中のCr(VI)の割合を、次の式で推定することができる:
【0376】
【0377】
【0378】
これらの結果は、UV線の使用によって、六価クロムの完全な還元(ほぼ100%)を得ることができる一方で、日光で、可視光下で乾燥したゲルでは、六価クロムの78.3%の還元しか得られなかったことを示している。
【0379】
しかしながら、この実施例は、Cr(VI)の78.3%還元が得られたので、可視光線によって、TiO2粒子が少なくとも部分的に活性化し得るという事実を証明している。
【0380】
(実施例6)
この実施例では、化学汚濁物質の破壊に対するTiO2ゲルの光触媒性作用を示す。
【0381】
より正確には、この実施例の目的は、有機化合物の分解に対するTiO2ゲルの光触媒特性を実証することであった。
【0382】
破壊、分解される有機化合物として、有機色素、Methyl Red(Sigma-Aldrich(登録商標))をこの色素の40mg/L溶液の形で使用した。
【0383】
この有機色素は、4.4未満のpH値では赤色、4.4から6.2の間のpH値でオレンジ色、及び6.2超のpH値で黄色であった。
【0384】
この色素の溶液の4つの液滴を、平滑基材、すなわち、セラミックタイルに堆積させた。液滴を乾燥して、4つの斑点を得、3種の異なるゲルを、スパチュラを使用して、これらの斑点のうちの3つに堆積させ、最後の斑点は露出させたままにして、いずれのゲルも与えず、したがって、これは対照色素斑点として作用した。
【0385】
3種のゲルは、
- 実施例1に記載したような酸性TiO2ゲル(pH=5);
- 実施例3に記載したような比較SiO2ゲル(これは酸性ゲルであった(pH=4.5));
- 比較Al2O3ゲル(このゲルは弱塩基性であった(pH=8))
であった。
【0386】
比較Al2O3ゲルは、質量百分率で、次の組成を有するゲルであった:
- アルミナ17%;
- 蒸留水83%。
【0387】
アルミナは、EVONIK(登録商標)社によって商品名Aeroxide(登録商標)Alu Cで販売されているアルミナであった。
【0388】
Al2O3を含有するこの比較ゲルを、次の手法で調製した:
3枚刃インペラーを備えた機械攪拌機を200rpmの速度で使用する機械撹拌下で、アルミナを蒸留水に徐々に加えた。アルミナを添加するときには、一切液飛びせずに粘度が上昇して約400~600rpmに達するまで、撹拌を徐々に増加させた。次いで、ゲルを5分間にわたって撹拌し続けた。
【0389】
このゲルのpHは、8であると測定された。
【0390】
これらのゲルを、UV線(Vilber社によるUVランプ、λ=365nm)下で、4時間30分間にわたって乾燥した。
【0391】
UV下で乾燥した後に、対照色素斑点は無傷であり、弱塩基性の比較Al2O3ゲルのフレークは、このゲルの塩基性の性質に一致して黄色であり、比較酸性SiO2ゲルのフレークは、このゲルの酸性の性質に一致して赤色であった。したがって、有機色素は、これらの比較ゲルによっては分解しなかった。
【0392】
他方で、TiO2ゲルのフレークは、完全に白色であり、UV線下でのTiO2の光触媒特性、能力によって、有機色素の分解をもたらした。
【0393】
したがって、この実施例で、TiO2をベースとする光活性化ゲルの使用によって、材料の表面上に存在する有機化合物(化学又は生物汚染物質等)を分解することが可能であることが実証された。
【0394】
(実施例7)
この実施例では、エタノールの存在の影響を本発明のTiO2ゲルで試験した。
【0395】
本発明による2種のゲル組成物を含む3種のゲル組成物を、この実施例では研究した。
【0396】
これらのゲルを実施例1と同じ手法で調製したが、ただし、本発明に合致する調製された2種の後者のゲルでは、溶媒が変えられて、水のみの代わりに、水及びエタノールの混合物を含んだ(下のTable 7(表7)を参照されたい)。
【0397】
改めて、添加される水酸化ナトリウムの質量を、溶媒の質量に対して無視できるとみなすことができ、したがって、質量組成は、pH=5となっても、一定なままであるとみなすことができる。
【0398】
【0399】
この実施例では、ゲルの還元有効性、効率を、実施例5においてと同じ測定プロトコルを使用して実証したが、UVランプ下での乾燥のみを使用した。
【0400】
乾燥、フレークの再分散、遠心及び濾過の後に、浸出液をUV可視分光法によって分析した。試験したゲルのそれぞれで、乾燥フレークの色は、緑色(Cr(III)の存在に特徴的な色)又は茶色であり、黄色の痕跡は、基材上でもはや観察されなかった。
【0401】
UV可視スペクトルは
図4に示されている(比較のために、溶媒が水のみであり、暗所で乾燥した実施例1のTiO
2ゲルを表す曲線が加えられている)。
【0402】
ランベルト・ベールの法則の適用によって得られた結果を、下のTable 8(表8)にまとめる。
【0403】
フレーク中のCr(VI)の%を、実施例5と同じ手法で計算した。
【0404】
【0405】
これらの結果は、この実施例で示された3つのゲル組成物では、UV下での乾燥で、六価クロムの少なくとも95.9%が還元されたので、優れた結果が得られたことを示している。
【0406】
電子-正孔対の再結合を防止するための犠牲要素として作用する、本発明のゲル中のエタノールの存在によって、ゲルの還元有効性がわずかに改善されて、六価クロムの100%還元を達成し得ることに留意する。
【0407】
(実施例8)
この実施例では、本発明のゲルを噴霧によって塗布することができることが示される。
【0408】
レオロジー研究を、実施例7に記載の3種のゲルのうちの2種で、すなわち、本発明の「H2O」ゲル及び「H2O-40EtOH」ゲルで行い、これらのゲルが、噴霧による塗布に適していることが示された。
【0409】
噴霧方法を使用してこれらのゲルを塗布するためには、それらは、非常に短い回復時間(1秒未満)を有し、かつ典型的には15~20Pa超の限界応力を有するレオ流動化、チキソトロピー流体の特性を有さなければならない。
【0410】
TA Instruments(登録商標)AR-1000によるレオメーターをベーン配置(vane geometry)で使用して、種々のレオロジー測定を行い、この実施例で示す。
【0411】
初めに、ゲルの粘度をせん断速度を関数として測定した。20s-1のせん断速度で5分間にわたる、次いで、6.72×10-3s-1で1分間にわたる事前せん断の後に、複数のせん断速度プラトー値を6.2×10-3s-1~100s-1の範囲で適用して、30秒ごとに粘度を測定した。
【0412】
図5は、この実施例で試験した2種のゲルの粘度(Pa.s)の変化を、せん断速度(s
-1)を関数として6.72×10
-3から100s
-1の間のせん断速度で示している。
【0413】
ゲルのそれぞれで、レオ流動化挙動に特徴的な、せん断速度に伴う粘度の劇的な低下が観察された。
【0414】
加えて、本発明に合致するゲル中のエタノールの存在によって、ゲルのレオ流動挙動がより完全なものとなる傾向があることが見出された。せん断速度を関数とする本発明の「H2O-40EtOH」ゲルの粘度値は、かなり不規則にジャンプする「H2O」ゲルの粘度値よりも直線的に進行する。
【0415】
また、実施例7に記載のこれら2種のゲル(本発明の「H2O」ゲル及び「H2O-40EtOH」ゲル)の限界応力値を、強制せん断速度下でのせん断応力及びそれらの歪みの変化を測定することによって決定した。
【0416】
低いせん断速度(6.72×10-3s-1)を各ゲルに常に適用し、静止から始めて、その変形を得、それによって、それらの流動閾値を決定した。
【0417】
図6は、実施例7に記載の2種のゲルで得られた歪みを関数として、せん断応力を示している。
【0418】
2つの曲線は同じ形状を有する:2つの状態が観察される。初めに、応力が著しく上昇し、材料は固体状態にある(弾性変形)。次いで、挙動の変化が観察され、応力は流動閾値に達し、材料は液体状態へと移動する(定常流)。次いで、限界応力は、ゲルの降伏応力、すなわち「H2O」ゲルでは52Pa及び「H2O-40EtOH」ゲルでは36Paに対応する。したがって、この限界応力は、ゲルが0から少なくとも2mmの間の層厚で壁に付着し得る20Paよりもかなり高い。
【0419】
この実施例を行うために、H2O及びH2O-40EtOHゲルは実際に、それらを異なる種類の表面(水平であろうとなかろうと)に容易に噴霧することができる適当なレオロジー特性を有する。ゲル中のエタノールの存在は、ゲルのレオロジーに著しい影響を有する:第一に、これによって、より顕著なレオ流動化性へと向かわせることができるが、第二に、ゲルは僅かに低い限界応力を有し、したがって、より容易に流動する。
【0420】
(実施例9)
この実施例では、本発明のゲルを噴霧によって塗布することができることが示される。
【0421】
噴霧技法を使用して塗布することができるように、本発明のゲルは、レオ流動化流体の特性を有さなければならない。
【0422】
本発明に合致する2種のゲル組成物を、この実施例では研究する。
【0423】
これらのゲルを、実施例1においてと同じ手法で調製した。
【0424】
改めて、添加される水酸化ナトリウムの質量を、溶媒の質量に対して無視できるとみなすことができる。
【0425】
【0426】
TA Instruments(登録商標)AR-1000レオメーターをベーン配置で使用して、レオロジー測定を実施し、この実施例で示す。
【0427】
ゲルの粘度を、せん断速度を関数として測定した。
【0428】
0.01s-1のせん断速度で5分間にわたる事前せん断の後に、複数のせん断速度プラトー値を0.01s-1~100s-1の範囲で適用して、粘度を測定した。
【0429】
図9は、この実施例9で試験した2種のゲルの粘度(Pa.s)の変化を、せん断速度(s
-1)を関数として0.01から100s
-1の間のせん断速度で示している。
【0430】
ゲルのそれぞれで、レオ流動化挙動に特徴的な、せん断速度に伴う粘度の劇的な低下が観察された。
【0431】
この実施例を結論すると、この実施例の2種のゲル、Ti15_pH5.5及びTi15_pH9は実際に、レオ流動化していて、したがって、噴霧によって塗布することができると述べることができる。
【0432】
(実施例10)
この実施例では、本発明のゲルは、壁又は天井等の非水平表面上に数ミリメートルの層厚で保持、付着し得ることが示される。
【0433】
そうなるためには、研究されるゲルは、十分に高い流動閾値、すなわち、10Pa超の限界応力を有さなければならない。
【0434】
4種のゲル組成物を、この実施例で試験した。これらのゲルを、実施例1と同じ手法で調製した。
【0435】
これら4種のゲル組成物のうち、2種、すなわち、「Ti15_H2O/EtOH pH5.5」及び「Ti15_H2O/EtOH_pH9」と名付けられたゲル組成物は、本発明に合致する。
【0436】
改めて、添加される水酸化ナトリウムの質量を、溶媒の質量に対して無視できるとみなすことができる。
【0437】
【0438】
この実施例に記載のゲルの限界応力値を、強制せん断速度下でのそれらのせん断応力及びそれらの歪みの変化を測定することによって決定した。
【0439】
測定を、TA Instruments(登録商標)AR-1000レオメーターでベーン配置で行い、この実施例で示す。
【0440】
低いせん断速度(0.01s-1)を各ゲルに常に適用し、静止から始めて、その変形を得、それによって、それらの流動閾値を決定した。
【0441】
図10は、この実施例に記載の4種のゲルで得られた歪みを関数として、せん断応力を示している。
【0442】
4つの曲線は同じ形状を示す:2つの状態が観察される。初めに、応力が著しく上昇し、材料は固体状態にある(弾性変形)。
【0443】
その後、挙動の変化が観察され、応力は流動閾値に達し、材料は液体状態へと変化する(定常流)。次いで、限界応力は、ゲルの降伏応力、すなわち「Ti15_H2O_pH5.5」ゲルでは12Pa及び「Ti15_H2O_pH 9」ゲルでは11Pa、「Ti15_H2O/EtOH_pH 5.5」ゲルでは14Pa及び「Ti15_H2O/EtOH_pH9」ゲルでは29Paに対応する。したがって、これらの限界応力は、ゲルが0から少なくとも1mmの間の層厚で壁に付着し得る10Paよりもかなり高い。
【0444】
加えて、本発明のゲル中のエタノールの存在によって、ゲルの流動閾値が上昇し、したがって、壁又は天井等の非水平表面でより大きなゲル層厚を堆積させることができることが観察される。
【0445】
(実施例11)
この実施例では、塗布及び乾燥の後に、本発明のゲルはバキューム可能、吸引可能であることが示される。
【0446】
より正確には、この実施例の目的は、先行する実施例に記載の本発明のゲルが、数時間の合理的な時間内に乾燥し、それらが断片化して、容易にバキューム、吸引され得るミリメートルサイズの非粉末フレークをもたらすことを示すことである。
【0447】
エタノールの存在の影響も、この実施例で、特に、乾燥時間に関して示す。
【0448】
この研究を行うために、本発明の「H2O」ゲル及び「H2O-24EtOH」ゲルを、それぞれ25℃及び50%に設定された温度及び相対湿度パーセントを有するBinder(登録商標)人工気候室内でそれぞれ乾燥した。
【0449】
ゲルを切削ステンレス鋼製のボートの上に塗布して、ボート内でゲルの2mmの制御層厚を得た。
【0450】
人工気象室内に、Sartorius(登録商標)精密はかりをMoticam(登録商標)カメラと共に取り付け、このカメラを円形LEDランプ(VWR)で囲み、はかりの上に設置した。
【0451】
はかり及びMoticam(登録商標)カメラを、人工気象室の外に設置されたコンピューターに接続して、制御雰囲気下での乾燥を通じて、ゲルで満たしたボートの質量及び画像を同時に得ることができるようにした。
【0452】
ゲルを含有するボートの秤量を精密はかりで行うこと、及び(人工気候室の作業に関連する気流を制限しながら、はかり内の制御雰囲気を維持するために)3cmの半開きになっている、送風機の反対側のドアを除いて、はかりのすべてのドアを閉鎖することに留意されたい。乾燥を通じて質量を記録することによって、乾燥速度をモニターすることができる。すべての結果が
図7に示されている。
【0453】
この実施例で試験した2種のゲルが、わずか数時間、すなわち、本発明に合致する「H2O」ゲルでは580分、すなわち9時間40分、及び「H2O-24EtOH」ゲルでは480分、すなわち8時間の最大時間以内に十分に乾燥することが観察される。
【0454】
したがって、エタノールの蒸発は水の蒸発よりも低い温度で生じるので、ゲル配合物中のエタノールの存在によって、ゲル乾燥時間を短縮することができる。
【0455】
断片化に関して、深さ2mmの秤量ボートに堆積した本発明のH
2O-24EtOHゲルで得られた乾燥フレークの写真を
図8に示す。
【0456】
これらのフレークは、ミリメートルサイズを有し、粉末状ではないので、形成したフレークの数、特にそれらのサイズは良好に一致していることが分かる。
【0457】