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  • 特許-二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/36 20100101AFI20220117BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
H01M10/36 A
H01M4/62 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019515155
(86)(22)【出願日】2018-03-20
(86)【国際出願番号】 JP2018011199
(87)【国際公開番号】W WO2018198607
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2020-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2017086971
(32)【優先日】2017-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(72)【発明者】
【氏名】山田 直仁
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/118561(WO,A1)
【文献】特開2017-069075(JP,A)
【文献】特開2016-162681(JP,A)
【文献】特開2007-227032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/36
H01M 4/62
H01M 50/434
H01M 50/443
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化マンガン及び/又は水酸化マンガン、導電助剤、及び水酸化物イオン伝導性無機固体電解質を含む正極と、
亜鉛及び/又は水酸化亜鉛、導電助剤、及び水酸化物イオン伝導性無機固体電解質を含む負極と、
前記正極と前記負極を隔離する、水酸化物イオン伝導性無機固体電解質を含むセパレータと、
を備えた、二次電池であって、前記二次電池はアルカリ電解液を含まない、二次電池
【請求項2】
前記正極、前記負極及び前記セパレータに含まれる前記水酸化物イオン伝導性無機固体電解質が層状複水酸化物(LDH)である、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記正極及び前記負極に含まれる前記導電助剤がカーボン系材料である、請求項1又は2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記正極、前記負極及び前記セパレータが水分を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項5】
前記正極に含まれる前記水酸化物イオン伝導性無機固体電解質が、前記正極内においてネットワークを形成しており、かつ、前記負極に含まれる前記水酸化物イオン伝導性無機固体電解質が、前記負極内においてネットワークを形成している、請求項1~4のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項6】
前記正極に含まれる前記導電助剤が、前記正極内においてネットワークを形成しており、かつ、前記負極に含まれる前記導電助剤が、前記負極内においてネットワークを形成している、請求項1~5のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項7】
前記正極、前記負極及び前記セパレータに含まれる前記水酸化物イオン伝導性無機固体電解質が複数のLDH粒子が互いに結合した構造を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項8】
前記正極及び前記負極に含まれる前記水酸化物イオン伝導性無機固体電解質の電子伝導性が、前記セパレータに含まれる前記水酸化物イオン伝導性無機固体電解質の電子伝導性よりも高い、請求項1~のいずれか一項に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池、特にマンガン亜鉛二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一次電池としてアルカリマンガン乾電池(アルカリ乾電池とも称される)が普及している。特に、負極に亜鉛を用い、電解液にアルカリ水溶液を用いたアルカリマンガン乾電池が、汎用性が高く安価であるため、広く普及している。例えば、特許文献1(特開2012-28240号公報)には、亜鉛粉末及びアルカリ電解液を含む負極を備えたアルカリマンガン乾電池が開示されている。
【0003】
一般に、負極活物質として用いられる亜鉛は、単位質量当たりの理論放電容量が820mAh/gと大きい、毒性が低い、環境負荷が少ない、及び安価である等といった利点を有している。特に、アルカリマンガン乾電池の負極活物質としては、ガスアトマイズ法等で得られる不定形の亜鉛粉末が使用されている。この電池の放電反応は、一般に以下の式で表される。
・負極:Zn(s)+2OH(aq)→ZnO(s)+HO(l)+2e
・正極:2MnO(s)+HO(l)+2e→Mn(s)+2OH(aq)
【0004】
アルカリマンガン乾電池は充電することのできない一次電池であるが、充電できない理由としては以下のように言われている。すなわち、MnOの放電を軽度に留めてもKOH電解液中のKイオンがMnO粒子内に浸入してしまう上、放電の進行に伴いZnイオンもMnO粒子内に浸入してくる。このように粒子内に浸入したKとZnは、充電によっても粒子外へ脱離されることなく粒子内に留まってしまう。一方、放電の最終的な生成物はヒドロヘテロライト(ZnMn・HO)であり、それに至るまでの中間生成物としてMnとKMnOがある。後者は主として間欠充放電の場合に部分的に生ずる。Mnは充電するとKMnOになるが、当初のMnOの状態にまでは回復しない。KMnOは放電すると直ちにヒドロヘテロライトになる。このように、放電の程度に関わらずMnO粒子中に一度浸入したKとZnは充電によって粒子から脱離させることが困難であり、結果的に充電を困難とする不可逆的な変化をもたらす。
【0005】
ところで、近年、ニッケル亜鉛二次電池や空気亜鉛二次電池の分野において、水酸化物イオン伝導性無機固体電解質セパレータ、特に層状複水酸化物(LDH)セパレータの使用が提案されている。LDHセパレータのような水酸化物イオン伝導性無機固体電解質セパレータによれば、水酸化物イオンを選択的に透過させながら、アルカリ電解液中で負極から伸展する亜鉛デンドライトの貫通を阻止することができ、亜鉛デンドライトによる正負極間の短絡の問題を解消することができる。例えば、特許文献2(国際公開第2016/076047号)には、樹脂製外枠に嵌合又は接合されたLDHセパレータを備えたセパレータ構造体が開示されており、LDHセパレータが多孔質基材と複合化された複合材料の形で提供されることも開示されている。さらに、特許文献3(国際公開第2016/067884号)には多孔質基材の表面にLDH緻密膜を形成して複合材料を得るための様々な方法が開示されている。この方法は、多孔質基材にLDHの結晶成長の起点を与えうる起点物質を均一に付着させ、原料水溶液中で多孔質基材に水熱処理を施してLDH緻密膜を多孔質基材の表面に形成させる工程を含むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-28240号公報
【文献】国際公開第2016/076047号
【文献】国際公開第2016/067884号
【発明の概要】
【0007】
上述のとおり、アルカリマンガン乾電池においては、電解液に溶出したZnイオンと、電解液を構成する主成分であるKOHのKイオンの存在が、可逆的な充電反応を阻害する。すなわち、アルカリマンガン乾電池においては一般的にKOH電解液を用いるため、その強アルカリ性に起因してZnイオンも溶出し、KイオンとZnイオンが電解液中に存在し、正極活物質であるMnOとの相互作用が生じることになる。このため、この電池を充電可能にするには、KイオンとZnイオンが少なくともMnOと相互作用しないようにすることが必要となる。
【0008】
本発明者らは、今般、正極及び負極に導電助剤及び水酸化物イオン伝導性無機固体電解質を含有させ、かつ、LDHセパレータのような水酸化物イオン伝導性無機固体電解質を含むセパレータで正極と負極を隔離することにより、KOH電解液の使用を不要として可逆的な充放電を可能とするマンガン亜鉛二次電池を提供できるとの知見を得た。
【0009】
したがって、本発明の目的は、KOH電解液の使用を不要として可逆的な充放電を可能とするマンガン亜鉛二次電池を提供することにある。
【0010】
本発明の一態様によれば、二酸化マンガン及び/又は水酸化マンガン、導電助剤、及び水酸化物イオン伝導性無機固体電解質を含む正極と、
亜鉛及び/又は水酸化亜鉛、導電助剤、及び水酸化物イオン伝導性無機固体電解質を含む負極と、
前記正極と前記負極を隔離する、水酸化物イオン伝導性無機固体電解質を含むセパレータと、
を備えた、二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明による二次電池を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に本発明による二次電池10を概念的に示す。図1に示されるように、二次電池10は、正極12と、負極14と、セパレータ16とを備える。正極12は、二酸化マンガン及び/又は水酸化マンガン、導電助剤、及び水酸化物イオン伝導性無機固体電解質を含む。負極14は、亜鉛及び/又は水酸化亜鉛、導電助剤、及び水酸化物イオン伝導性無機固体電解質を含む。セパレータ16は、水酸化物イオン伝導性無機固体電解質を含み、正極12と負極14を隔離する。このように、正極12及び負極14に導電助剤及び水酸化物イオン伝導性無機固体電解質を含有させ、かつ、LDHセパレータのような水酸化物イオン伝導性無機固体電解質を含むセパレータ16で正極と負極を隔離することにより、KOH電解液の使用を不要として可逆的な充放電を可能とするマンガン亜鉛二次電池10を提供することができる。
【0013】
すなわち、上述のとおり、アルカリマンガン乾電池においては、電解液に溶出したZnイオンと、電解液を構成する主成分であるKOHのKイオンの存在が、可逆的な充電反応を阻害する。すなわち、アルカリマンガン乾電池においては一般的にKOH電解液を用いるため、その強アルカリ性に起因してZnイオンも溶出し、KイオンとZnイオンが電解液中に存在し、正極活物質であるMnOとの相互作用が生じ、この相互作用が電池の可逆的な充電を妨げる。この点、本発明の二次電池は、電解液にKOH水溶液を用いないで、アルカリ電池と同じ水酸化物イオン(OH)をイオン伝導種として採用すること、具体的には水酸化物イオン伝導性無機固体電解質を採用することで、上記問題を解消する。こうして、KイオンとZnイオンが正極活物質であるMnOと反応しないようにし、MnOの放電生成物が可逆的に充電されてMnOに戻るようにすることで、可逆的な充放電を可能とするマンガン亜鉛二次電池10が実現される。したがって、二次電池10はアルカリ電解液(例えばKOH水溶液)を含まないのが典型的であり、それ故、基本的には全固体二次電池であるということができる。
【0014】
本発明の二次電池10の充電反応は以下のとおりであり、放電反応は以下の逆となる。
・正極:Mn(OH)+2OH→MnO+2HO+2e
・負極:Zn(OH)+2e→Zn+2OH 又は
ZnO+HO+2e→Zn+2OH
【0015】
正極12は二酸化マンガン及び/又は水酸化マンガンを含む一方、負極14は亜鉛及び/又は水酸化亜鉛を含む。二酸化マンガン及び/又は水酸化マンガンは正極活物質であり、亜鉛及び/又は水酸化亜鉛は負極活物質である。このように、本発明の二次電池10では、従来のアルカリマンガン乾電池と同様の正極活物質及び負極活物質である、二酸化マンガン及び亜鉛を用いることができる。特に、本発明の二次電池10を製造する場合、充電末状態と放電末状態のいずれも採用可能である。
【0016】
充電末状態で二次電池10を製造する場合は、通常の一般的なアルカリマンガン乾電池に使われている電解二酸化マンガンと金属亜鉛を用いればよい。この場合、一般的な金属亜鉛は粒径が数十μmと大きいため、粒子表面に放電生成物である絶縁性のZn(OH)やZnOが生成して表面を覆って不動態化してしまうと充分に放電しきれなくなることがある。このため、できるだけ粒子径が細かい金属亜鉛を用いるのが好ましい。ただし、金属の微粉末は粉塵爆発の危険があるため、安全には充分留意する必要がある。したがって、二酸化マンガン粒子の好ましい平均粒径は15~50μmであり、より好ましくは15~25μmである。金属亜鉛粒子の好ましい平均粒径は70~400μmであり、より好ましくは70~100μmである。
【0017】
一方、放電末状態で二次電池10を製造する場合は、水酸化マンガン及び水酸化亜鉛(又は酸化亜鉛)を用いるのが好ましい。これらは粉塵爆発の危険がないため、数ミクロンからサブミクロンの微粉末を用いることができる。具体的には、水酸化マンガン粒子の好ましい平均粒径は0.1~10μmであり、より好ましくは1~5μmである。水酸化亜鉛粒子(又は酸化亜鉛粒子)の好ましい平均粒径は0.1~10μmであり、より好ましくは0.5~5μmである。もっとも、水酸化マンガンは大気中で容易に酸化されるため、これを原料に用いるには酸化を避けるために特段の措置を講じることが望まれる。したがって、そのような特段の措置が不要な点、及び二酸化マンガンと金属亜鉛の電池グレードの粉末が工業的かつ安価に入手可能な点から、充電末状態で二次電池10を製造するのがより好ましい。
【0018】
正極12及び負極14は両方とも導電助剤を含んでいる。導電助剤は、電子を入出力させるために正極12及び負極14に添加される。従来のアルカリマンガン乾電池では、負極の亜鉛は導電性を有するため導電助剤は使用されないが、本発明の充電可能な二次電池10の負極14は、放電生成物であるZn(OH)又はZnOが導電性を有しないため、導電助剤の添加により導電性を付与する。正極12及び負極14に含まれる導電助剤は、カーボン系材料であるのが好ましい。カーボン系材料の例としては、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン等の各種導電性カーボンが挙げられる。導電助剤ないしカーボン系材料は粒子状であるのが好ましい。例えば、正極12の場合、二酸化マンガン粒子と導電性カーボン粒子を混合するのが好ましい。導電助剤粒子ないし導電性カーボン粒子の好ましい平均粒径は0.005~1μmであり、より好ましくは0.005~0.5μmである。
【0019】
正極12に含まれる導電助剤は、正極12内においてネットワークを形成しているのが好ましい。また、負極14に含まれる導電助剤は、負極14内においてネットワークを形成しているのが好ましい。このように導電助剤がネットワークを形成することで、正極12内及び/又は負極14内における導電性を向上することができる。典型的には、そのようなネットワークは導電性カーボン粒子が互いに連結することで形成される。
【0020】
正極12及び負極14は両方とも水酸化物イオン伝導性無機固体電解質を含んでいる。上述のとおり、本発明の二次電池10では、KOH電解液を用いる代わりに、電解質として水酸化物イオン伝導性無機固体電解質が用いられる。この固体電解質は、水酸化物イオン伝導性を有する無機固体電解質であれば特に限定されない。水酸化物イオン伝導性無機固体電解質の例としては、層状複水酸化物(LDH)、層状ペロブスカイト型酸化物等が挙げられる。最も好ましくは安価で且つ高い水酸化物イオン伝導性を呈する点から、LDHである。この点、有機固体電解質であるアニオン伝導性高分子は、水酸化物イオンによって劣化する可能性があるが、LDH等の水酸化物イオン伝導性無機固体電解質はそのような懸念が無いとの利点がある。水酸化物イオン伝導性無機固体電解質ないしLDHは粒子状であるのが好ましい。水酸化物イオン伝導性無機固体電解質粒子ないしLDH粒子の好ましい平均粒径は0.1~5μmであり、より好ましくは0.1~2μmである。
【0021】
正極12に含まれる水酸化物イオン伝導性無機固体電解質は、正極12内においてネットワークを形成しているのが好ましい。また、負極14に含まれる水酸化物イオン伝導性無機固体電解質は、負極14内においてネットワークを形成しているのが好ましい。このように水酸化物イオン伝導性無機固体電解質がネットワークを形成することで、正極12内及び/又は負極14内における水酸化物イオン伝導性を向上することができる。典型的には、そのようなネットワークは水酸化物イオン伝導性無機固体電解質粒子が互いに連結することで形成される。
【0022】
セパレータ16は水酸化物イオン伝導性無機固体電解質を含み、正極12と負極14を隔離する。すなわち、セパレータ16は、正極12と負極を水酸化物イオン伝導可能に、かつ、電子伝導を許容しないように隔離する、膜状、層状又は板状の部材である。セパレータ16は、水酸化物イオン伝導性固体電解質の粒子をプレスして得た圧粉体層であってもよいし、加熱や水熱処理等の手法で一体化させたものであってもよい。特に、本発明の二次電池10は電解液を用いなくて済むため、圧粉体層を用いても特段の不具合(例えば電解液浸透による劣化や崩れ等)は生じない。また、膜状に成形した水酸化物イオン伝導性無機固体電解質をセパレータ16として配置してもよい。水酸化物イオン伝導性固体電解質は、水酸化物イオン伝導性を有する無機固体電解質であれば特に限定されない。水酸化物イオン伝導性無機固体電解質の例としては、層状複水酸化物(LDH)、層状ペロブスカイト酸化物等が挙げられる。最も好ましくは安価で且つ高い水酸化物イオン伝導性を呈する点から、LDHである。特に、前述したように、ニッケル亜鉛二次電池や空気亜鉛二次電池の分野において、LDHセパレータが知られており(特許文献2及び3を参照)、このLDHセパレータを本発明の二次電池10にも好ましく使用することができる。このLDHセパレータは、特許文献2及び3に開示されるように多孔質基材と複合化されたものであってもよいが、その場合には多孔質基材中の厚さ方向の全域にわたって孔内にLDHが充填されていることが望まれる。こうすることでセパレータ16と接する正極12及び負極14と水酸化物イオンのスムーズな授受が可能となる。したがって、多孔質基材中にLDHで孔が充填されない部分が存在している場合には、そのような部分を切削、研磨等により除去してセパレータ16として用いることが望まれる。
【0023】
上記のとおり、正極12、負極14及びセパレータ16に含まれる水酸化物イオン伝導性無機固体電解質はLDHであるのが好ましい。この場合、水酸化物イオン伝導性向上による電池特性向上の観点から、正極12、負極14及びセパレータ16に含まれる水酸化物イオン伝導性無機固体電解質が複数のLDH粒子が互いに結合した構造を有するのが好ましい。
【0024】
LDHは、以下の一般式:
2+ 1-x3+ (OH)n- x/n・mH
(式中、M2+は2価のカチオン、M3+は3価のカチオン、An-はn価のアニオン、xは0.1~0.4、nは1以上の整数、mは0以上である)
で表されることが多いが、これに限らず、少なくとも2種類の価数のカチオンを含む水酸化物であってよい。したがって、カチオンの種類が3種類以上の組成でも構わない。例えば、LDHは2価のMg(すなわちMg2+)と3価のAl(すなわちAl3+)とアニオンがCO 2-からなる一般的にハイドロタルサイトと称される組成であってもよい。あるいは、LDHは、2価のNi(すなわちNi2+)と4価又は3価のTi(すなわちTi4+又はTi3+)と3価のAl(すなわちAl3+)からなる組成でもよい。これらに限らず、LDHは水酸化物イオン伝導性が許容可能に高ければ、いかなる組成であってもよい。
【0025】
正極12に含まれる水酸化物イオン伝導性無機固体電解質、負極14に含まれる水酸化物イオン伝導性無機固体電解質、及びセパレータ16に含まれる水酸化物イオン伝導性無機固体電解質は、同じ材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。もっとも、正極12及び負極14内の電子伝導性向上及びセパレータ16の絶縁性向上の観点から、正極12及び負極14に含まれる水酸化物イオン伝導性無機固体電解質の電子伝導性が、セパレータ16に含まれる水酸化物イオン伝導性無機固体電解質の電子伝導性よりも高いのが好ましい。特に、正極12及び負極14に含まれる水酸化物イオン伝導性無機固体電解質の電子伝導性が高く、かつ、セパレータ16に含まれる水酸化物イオン伝導性無機固体電解質の電子伝導性が極力低いのがより好ましい。
【0026】
正極12、負極14及びセパレータ16は水分を含むのが好ましい。充放電反応がHOの生成及び利用を伴うため、予め電池構成体に水分を含ませておくことで、反応をよりスムーズに進行させることができる。特に、LDHは乾燥状態よりも湿潤状態の方が高い水酸化物イオン伝導性を呈するため、水分の添加は効果的である。したがって、ここでいう水分は単なるHOを意味するものであって、KOH水溶液のようないわゆるアルカリ電解液を意味するものではない。したがって、HOがLDHに接触してアルカリ性を帯びること自体は許容される。
【0027】
正極12、負極14及び/又はセパレータ16が水酸化物イオン伝導性無機固体電解質としてLDH粉末を含む場合、電池構成体に水蒸気処理を施してもよい。これは、LDH粉末は圧粉状態での水蒸気処理により粉末同士が連結する性質があるため、水蒸気処理を施すことで水酸化物イオン伝導性を高めることができるからである。水蒸気処理は、非処理物に高温の水蒸気を接触させるいかなる方法も採用可能である。例えば、オートクレーブの底に水を入れて、その上に、非処理物が水に浸漬されない状態で配置して密閉し、100℃以上に加熱することにより水蒸気処理を好ましく行うことができる。
【0028】
上述した本発明の二次電池10は、以下に概略的に見積もられるとおり、現実的な商品価値が高いものである。まず、既存のアルカリマンガン乾電池(正負極:MnO/Zn、電解質:KOH)は、容量が単三電池で2000~2700mAh、体積7.7cm(直径14mm及び高さ50mmに基づき算出)及び公称電圧1.5Vに基づくと、電力量3~4Wh、体積容量密度390~520Wh/Lと概算される。これに対し、電解液をLDH粉末に代え、かつ、導電助剤を添加することで、電池の体積が仮に2倍になったとしても、体積容量密度は190~260Wh/Lとなり、モバイル用等を除く定置用二次電池としては遜色の無い容量であるといえる。また、LDHとしてハイドロタルサイトを用いた場合、高コストな材料を使わずに済むため、乾電池の価格に近い低コストな二次電池の提供が可能となる。
図1