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特許7007375蓄電デバイス用組成物およびこの蓄電デバイス用組成物を用いた蓄電デバイス用セパレータおよび蓄電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用組成物およびこの蓄電デバイス用組成物を用いた蓄電デバイス用セパレータおよび蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/434 20210101AFI20220117BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20220117BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20220117BHJP
   H01M 10/52 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
H01M50/434
H01G11/52
C01G23/00 B
H01M10/52
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019515720
(86)(22)【出願日】2018-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2018017185
(87)【国際公開番号】W WO2018203522
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2021-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2017091480
(32)【優先日】2017-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017135139
(32)【優先日】2017-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000215800
【氏名又は名称】テイカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100157107
【弁理士】
【氏名又は名称】岡 健司
(72)【発明者】
【氏名】杉原 良介
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 桂一
(72)【発明者】
【氏名】爪田 覚
(72)【発明者】
【氏名】石本 修一
【審査官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-197649(JP,A)
【文献】特開2016-197648(JP,A)
【文献】特開2016-197647(JP,A)
【文献】国際公開第2016/159359(WO,A1)
【文献】特表2011-521881(JP,A)
【文献】特開平01-203039(JP,A)
【文献】特開2017-177064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/434
H01G 11/52
C01G 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折パターンにおける2θ(回折角)=18.4±0.1°のピーク強度(A)と2θ(回折角)=43.7±0.1°のピーク強度(B)の強度比(A/B)が、
1.10以上であるLiTiO70%以上含有することを特徴とする蓄電デバイス用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄電デバイス用組成物を用いることを特徴とする蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項3】
請求項2に記載の蓄電デバイス用セパレータを用いることを特徴とする蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン電池や電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスに用いられる組成物に関するものである。詳しくは、特定のピーク比を持つチタン酸リチウム(LiTiO)を主成分とすることによって、従前のリチウム化合物に比べて還元雰囲気における使用においても青変(還元)による導電性の発現を抑制することができる蓄電デバイス用組成物に関するものである。
また、特定のピーク比を持つチタン酸リチウム(LiTiO)を主成分とすることによって、電池特性を低下させることなく、従前の蓄電デバイスにおいて問題となっていた使用時や経時変化における炭酸ガス、水素ガス、フッ素ガスなどの各種のガスの発生を抑制することができる蓄電デバイス用セパレータおよび蓄電デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池や電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスは、高容量でありながら小型化が可能であることから、近年急速に実用化が行われている。
しかしながら、このような蓄電デバイスにおいては、蓄電デバイスの内に存在する不純物(例えば活物質内に残存している未反応の炭酸リチウムなど)や水分の混入、あるいは使用によって電解液や電極を構成する材料が酸化分解することなどが原因となって、蓄電デバイス内に炭酸ガス、水素ガス、フッ素ガスなどのガスが発生してしまうという課題がある。係るガスは蓄電デバイスの電池特性を低下させる原因となるものであり、また、このようなガスの発生が継続することになると蓄電デバイスからの液漏れや形状変化(膨張)を招き、最終的には炎上、爆発という重大事象を引き起こすことになるものとなる。
ここで、このようなガスの中には、未反応の炭酸リチウムが経時劣化(分解)したり、充放電を繰り返すことによって電解液が酸化分解したりすることによって発生するガス(炭酸ガス)といったものもあるが、このようなガスとは別に、水素ガス、フッ素ガスの原因となるプロトン(H)も発生する。具体的には、蓄電デバイス内に浸入した水分自体が電気分解することによって発生するプロトン(H)や、電解液に電解質としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)やホウフッ化リチウム(LiBF)などを用いている場合に、係る電解質から分解したBF やPF などの陰イオンと蓄電デバイス内に浸入した水分とが反応して形成されたフッ化水素(HF)がさらに解離することによって発生するプロトン(H)などがある。そして、係るプロトン同士が結合することで水素ガスが発生したり、フッ化水素(HF)から解離したフッ素イオン同士が結合することでフッ素ガスが発生したりするのである。
また、電解質から分解したBF やPF などの陰イオンと未反応の炭酸リチウムとが反応することによって発生する炭酸ガスもある。
【0003】
そこで、従前から発生したガスを吸収するため、様々な化合物(主にリチウム化合物)を主成分とするガス吸収材が開発されている(特許文献1~3)。具体的には、特許文献1には、リチウム複合酸化物を炭酸ガスの吸収材として、ゼオライトを水素ガスの吸収材としてそれぞれ用いることが記載されている(特許文献1の請求項2、3および[0012]~[0014]参照)。特許文献2には、水酸化リチウムを炭酸ガスや水素ガスなどの吸収材として用いることが記載されている(特許文献2の請求項3および[0009]、[0010]参照)。特許文献3には、アルカリ土類金属の炭酸塩をフッ素ガスの吸収材として用いることが記載されている(特許文献3の請求項1、3、4および[0014]参照)。
【0004】
さらに、特許文献4には、炭酸リチウム粉末と酸化リチウム粉末と二酸化チタン粉末を特定の比率で混合した炭酸ガス吸収材が記載されており(特許文献4の請求項1および[0028]参照)、非特許文献1には、リチウム複合酸化物が炭酸ガスの吸収材料となり得ることが開示されている(非特許文献1の12頁の「新しいCO吸収材料の特長」を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-297699号公報
【文献】特開2003-197487号公報
【文献】特許第5485741号公報
【文献】特許第5231016号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】中川和明、加藤雅礼,「二酸化炭素を吸収する新セラミックス材料」,東芝レビュー、vol.56,No.8(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの文献はいずれも発生したガスを吸収することを目的とするものであり、ガスの発生自体を抑制すること、すなわちガス発生の源となるプロトン(H)自体を捕捉することを目的(技術的思想)とするものではない。
従って、これらの文献に記載されている各種の吸収材は、液漏れ、形状変化(膨張)、炎上、爆発という事象については防止することができるかもしれないが、ガスが発生している(電解液や電極を構成する材料の酸化分解などが発生している)ことには変わりがないことから、電池特性の低下を防止することはできないものとなっている。
【0008】
また、リチウム化合物は蓄電デバイス内においてはリチウムイオンとなって移動することになることから、特許文献1~4に記載されているようなリチウム化合物が負極の近傍や負極側に存在することになるとリチウムイオンが還元される(青変する)ことによって、導電性が発現してしまい、短絡(ショート)現象が発生してしまうという課題がある。
従って、従前においてリチウム化合物を用いる際には正極の材料として用いることが一般的となっている。また、リチウム化合物をセパレータの材料として用いる際には正極側に配置、塗布するような形態(負極側に露出しないような形態)で用いることになるが、このような形態とするためには製造工程が煩雑になってしまうという課題がある。
【0009】
今般、本願発明者らは鋭意検討を行った結果、特定のピーク比を持つチタン酸リチウムを主成分とすることによって、従前のリチウム化合物に比べて還元雰囲気における使用においても青変(還元)による導電性の発現を抑制することができるという知見を得るに至った。特にセパレータの材料として用いる場合においても、従前のように正極側に配置、塗布するような形態(負極側に露出しないような形態)とする必要がなく、煩雑な製造工程を採用する必要がなくなるという知見を得るに至った。
また、青変(還元)による導電性の発現を抑制しつつ、従前の蓄電デバイスにおいて問題となっていた使用時や経時変化における炭酸ガス、水素ガス、フッ素ガスなどの各種のガスの発生も抑制すること、具体的にはガス発生の源となるプロトン(H)自体を捕捉することができるという知見を得るに至った。
【0010】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、青変(還元)による導電性の発現を抑制することができる蓄電デバイス用組成物の提供を目的とするものである。また、この蓄電デバイス用組成物を用いた蓄電デバイス用セパレータおよび蓄電デバイスの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る蓄電デバイス用組成物は、X線回折パターンにおける2θ(回折角)=18.4±0.1°のピーク強度(A)と2θ(回折角)=43.7±0.1°のピーク強度(B)の強度比(A/B)が、1.10以上であるLiTiO70%以上含有することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る蓄電デバイス用セパレータは、本発明の蓄電デバイス用組成物を用いることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る蓄電デバイスは、本発明の蓄電デバイス用セパレータを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る蓄電デバイス用組成物によれば、従前のリチウム化合物に比べて還元雰囲気における使用においても青変(還元)による導電性の発現を抑制することができる蓄電デバイス用組成物を得ることができる。
【0015】
また、特定のピーク比を持つチタン酸リチウムを主成分とすることによって、蓄電デバイス性能を低下させることなく(漏れ電流を少なくしつつ)、従前の蓄電デバイスにおいて問題となっていた使用時や経時変化における炭酸ガス、水素ガス、フッ素ガスなどの各種のガスの発生を抑制することができる蓄電デバイスを得ることができる。
具体的には、以下に示す反応式のように、本発明の蓄電デバイス用組成物のリチウムイオンと、蓄電デバイス内において発生するプロトンとがイオン交換反応をすることによって、ガス発生の源となるプロトン(H)自体を捕捉することができるのである。
また、本発明の蓄電デバイス用ガス組成物のチタン酸イオンと炭酸イオンとがイオン交換反応をすることによって、炭酸ガスも捕捉することができるのである。
LiTiO + 2H → HTiO + 2Li(プロトン捕捉=イオン交換反応)
LiTiO + CO → LiCO + TiO(CO吸収)
【0016】
さらに、本発明の蓄電デバイス用組成物を蓄電デバイスのセパレータに使用した場合には、セパレータの負極側に本発明の蓄電デバイス用組成物が多少露出するような形態であっても(従前のセパレータのようにリチウム化合物が負極側に露出しないような厳格な製造管理をしなくても)、電池特性の低下を起こすことがなく、各種のガスの発生を抑制することができる蓄電デバイスを得ることができる。
【0017】
(基本構造)
本発明の蓄電デバイス用組成物は、チタン酸リチウムの中でも213型のチタン酸リチウム(LiTiO)を主成分とするものであり、さらにX線回折パターンにおける2θ(回折角)=18.4±0.1°のピーク強度(A)と2θ(回折角)=43.7±0.1°のピーク強度(B)の強度比(A/B)が1.10以上であるLiTiOを主成分とするものである。このように、本発明の蓄電デバイス用組成物は、特定のピーク比を持つLiTiOを主成分とすることによって、従前のリチウム化合物に比べて還元雰囲気における使用においても青変(還元)による導電性の発現を抑制することができるのである。
【0018】
ここで、チタン酸リチウムは通常、原料となるLi源とTi源を混合して焼成することによって製造(合成)されることから、LiTiOだけでなく、スピネル型(LiTi12)やラムスデライト型(LiTi:124型、LiTi、237型)などの各種の構造のチタン酸リチウムも合成されてしまうことになる。
従って、本発明における「主成分とする」とは、上記のように各種の構造のチタン酸リチウムが含まれてしまう場合であってもLiTiOの組成を持つチタン酸リチウムを主成分とするとの意である。具体的には、LiTiOの組成を持つチタン酸リチウムの含有率が70%以上のものをいう。さらに、90%以上がより好ましく、95%以上が最も好ましい。
【0019】
(X線回折パターン)
さらに、本発明の蓄電デバイス用組成物は、LiTiOの結晶構造中の002面の特徴的なピークである2θ(回折角)=18.4±0.1°のピーク強度をAとし、LiTiOの結晶構造中の113面の特徴的なピークである2θ(回折角)=43.7±0.1°のピーク強度をBとした場合の強度比(A/B)が1.10以上であるLiTiOを主成分とするものである。つまり、本発明の蓄電デバイス用組成物は、002面方向に成長したLiTiOという特徴を持つことによって、従前のリチウム化合物に比べて還元雰囲気における使用においても青変(還元)による導電性の発現を抑制することができるものとなり得るのである。
なお、ピーク強度比(A/B)が1.10以上であれば上限については特に限定されるものではないが、あまり高くなりすぎても青変(還元)の抑制効果が頭打ちとなることから、ピーク強度比(A/B)の上限値を1.50とすることが好ましい。そしてその中でもピーク強度比(A/B)を1.10~1.33とすることが好ましい。
【0020】
(Li源)
本発明の蓄電デバイス用組成物の原料となるLi源については、特に限定されるものではなく炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウムなど各種のLi源を用いることができる。そして、その中でも本発明の特定のピーク強度を持つ蓄電デバイス用組成物を作製し易いことから水酸化リチウムを用いることが好ましい。
【0021】
(Ti源)
本発明の蓄電デバイス用組成物の原料となるTi源についてもLi源と同様に特に限定されるものではなく、メタチタン酸などの各種のチタン酸化合物、アナタース型またはルチル型の酸化チタン、塩化チタン、硫酸チタン、硫酸チタニルなど各種のTi源を用いることができる。そして、その中でも本発明の特定のピーク強度を持つ蓄電デバイス用組成物を作製し易いことからアナタース型の酸化チタンを用いることが好ましい。
また、Ti源として酸化チタンを用いる場合には、その結晶構造中の含水率が25wt%未満であることが好ましく、15wt%未満であることがさらに好ましく、10wt%未満であることが最も好ましい。一方、結晶構造中の含水率が25wt%以上の酸化チタンを用いた場合には、本発明の特定のピーク強度を持つ蓄電デバイス用組成物を作製し難いことから好ましくない。ここで、結晶構造中の含水率は、熱重量分析(TG)において100℃から400℃の温度範囲での重量減少率を意味する。
【0022】
(明度(L値))
また、本発明の蓄電デバイス用組成物は、特定のピーク比とすることによって還元による導電性の発現を抑制することができるものとなることから、特徴的な色相を示すものとなる。
ここで、チタン酸リチウムは通常、還元されると青色に変色することが知られていることから、本発明の蓄電デバイス用組成物は充電の前後においても青変が抑制され、具体的には明度(L値)が80以上を示すものとなる。また、その中でも明度(L値)が82~93を示すものが好ましいこととなる。
【0023】
(製造方法)
なお、本発明の蓄電デバイス用組成物の製造方法としては公知の方法を用いることができるが、高い含有率で特定のピーク比を持つチタン酸リチウム(LiTiO)を得ることができる点から、大気中において650℃以上の温度で2hrの1回焼成を行うことによって製造することが好ましい。そして、その中でも、大気中において750~850℃の温度で2hrの1回焼成を行うことによって製造することがより好ましい。
また、前記LiTiOの組成を持つチタン酸リチウムの含有率を95%以上にするためには、厳密なLi/Ti(モル比)の管理が必須であり、Li/Ti(モル比)を1.85以上2.10以下とすることが好ましい。さらに好ましくは、1.90以上2.05以下であり、最も好ましくは1.95以上2.00以下である。
【0024】
(蓄電デバイス用セパレータ)
本発明に係る蓄電デバイス用組成物は、リチウムイオン電池や電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスの材料、具体的には正極やセパレータの材料として用いることができる。そしてその中でも、セパレータの材料として用いる場合には従前のように正極側に配置、塗布するような形態とする必要がなく、煩雑な製造工程を採用する必要がなくなることというメリットを有することになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1に係る蓄電デバイス用組成物のX線回折チャートである。
図2】実施例2に係る蓄電デバイス用組成物のX線回折チャートである。
図3】実施例3に係る蓄電デバイス用組成物のX線回折チャートである。
図4】比較例1に係る蓄電デバイス用組成物のX線回折チャートである。
図5】比較例2に係る蓄電デバイス用組成物のX線回折チャートである。
図6】比較例3に係る蓄電デバイス用組成物のX線回折チャートである。
図7】比較例4に係る蓄電デバイス用組成物のX線回折チャートである。
図8】比較例5に係る蓄電デバイス用組成物のX線回折チャートである。
図9】比較例6に係る蓄電デバイス用組成物のX線回折チャートである。
図10】作製した蓄電デバイスの構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0026】
次に、本発明の蓄電デバイス用組成物を実施例および比較例に基づいて詳しく説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
まず、含水率9wt%に調整したアナタース型酸化チタン(テイカ社製AMT-100)300gと水酸化リチウム266gを湿式混合した。このときのLi/Ti(モル比)は1.98であった。次に、大気中において750℃で2hr焼成することによって、213型のチタン酸リチウム(LiTiO)を主成分とする実施例1の蓄電デバイス用組成物を作製した。
【0028】
(実施例2)
焼成温度を850℃とする以外は実施例1と同様にして、213型のチタン酸リチウム(LiTiO)を主成分とする実施例2の蓄電デバイス用組成物を作製した。
【0029】
(実施例3)
焼成温度を650℃とする以外は実施例1と同様にして、213型のチタン酸リチウム(LiTiO)を主成分とする実施例3の蓄電デバイス用組成物を作製した。
【0030】
(比較例1)
焼成温度を550℃とする以外は実施例1と同様にして、213型のチタン酸リチウム(LiTiO)を主成分とする比較例1の蓄電デバイス用組成物を作製した。
【0031】
(比較例2)
焼成温度を450℃とする以外は実施例1と同様にして、213型のチタン酸リチウム(LiTiO)を主成分とする比較例2の蓄電デバイス用組成物を作製した。
【0032】
(比較例3)
Li/Ti(モル比)を1.84とする以外は実施例1と同様にして、213型のチタン酸リチウム(LiTiO)を主成分とする比較例3の蓄電デバイス用組成物を作製した。
【0033】
(比較例4)
Li/Ti(モル比)を2.11とする以外は実施例1と同様にして、比較例4の蓄電デバイス用組成物を作製した。
【0034】
(比較例5)
Ti源として、含水率31wt%に調整したアナタース型酸化チタン(テイカ社製)396gを用いる以外は実施例1と同様にして、比較例5の蓄電デバイス用組成物を作製した。
【0035】
(比較例6)
焼成温度を550℃とする以外は比較例3と同様にして、比較例6の蓄電デバイス用組成物を作製した。
【0036】
(ピーク強度比A/Bの測定、X線回折の測定)
次に、作製した実施例1~3および比較例1~6の各蓄電デバイス用組成物についてX線回折装置(パナリティカル社製X‘Pert)による測定を行った。結果を図1図9に示す。
【0037】
また、2θ(回折角)=18.4±0.1°のピーク強度(A)と2θ(回折角)=43.7±0.1°のピーク強度(B)を測定し、係るピーク強度(A)、(B)からピーク強度比A/Bを算出した。その結果、表1に示すとおり、実施例1の蓄電デバイス用組成物のピーク強度比A/Bは1.25であり、実施例2の蓄電デバイス用組成物のピーク強度比A/Bは1.33であり、実施例3の蓄電デバイス用組成物のピーク強度比A/Bは1.10であり、比較例1の蓄電デバイス用組成物のピーク強度比A/Bは0.98であり、比較例2の蓄電デバイス用組成物のピーク強度比A/Bは0.34であり、比較例3の蓄電デバイス用組成物のピーク強度比A/Bは0.98であり、比較例4の蓄電デバイス用組成物のピーク強度比A/Bは1.09であり、比較例5の蓄電デバイス用組成物のピーク強度比A/Bは1.03であり、比較例6の蓄電デバイス用組成物のピーク強度比A/Bは0.72であった。
【0038】
作製した実施例1~3および比較例1~6の各蓄電デバイス用組成物のLi/Ti(モル比)、焼成温度(℃)、Ti源の含水率(wt%)、ピーク強度比(A/B)を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
次に、作製した各蓄電デバイス用組成物を用いて蓄電デバイス用セパレータを作製するとともに、係るセパレータを用いた蓄電デバイスを作製し、青変の抑制効果(明度(L値)の測定)、ガス発生の抑制効果、電池特性(漏れ電流)の評価を行った。
【0041】
(蓄電デバイス用セパレータの作製)
まず、実施例1~3および比較例1~6の各蓄電デバイス用組成物8.6gとポリフッ化ビニリデン4.5gを混練したのち、N-メチル-2-ピロリドン(キシダ化学社製)16.9gを用いて希釈することによって、各セパレータ用塗料を作製した。
次に、ワイヤーバーを用いて作製した各セパレータ用塗料をセパレータ(日本高度紙工業社製)に塗付することによって、各蓄電デバイス用セパレータを作製した。なお、塗布後の各蓄電デバイス用セパレータについては、後記する蓄電デバイスを作製する際に負極側となる面にもセパレータ用塗料が若干露出している状態であった。また、塗付量については10g/m、20g/m、40g/m、70g/mの4種類(水準)のものを作製した。
【0042】
(蓄電デバイスの作製)
まず、オルソチタン酸(テイカ社製)520gと水酸化リチウム・1水和物(FMC社製)218gを湿式混合したのち、大気中750℃、700℃、650℃、550℃で2hr焼成することによって、それぞれ、比表面積20m/g、50m/g、70m/g、100m/gの微粒子LiTi12を得た。
次に、上記にて作製した各蓄電デバイス用セパレータと、正極活物質として活性炭(ATエレクトロード社製AP20-0001)を用いた正極、負極活物質として前記の比表面積20m/g、50m/g、70m/g、100m/gのLiTi12を用いた4種類(水準)の負極を準備した。
そして、各蓄電デバイス用セパレータと負極活物質を表2に記載の組合せとし、図10のように配置(積層)した後、ケースに納め、さらに電解液として1MのLiBF/EC:DEC=1:2(キシダ化学社製)を注液した後、封止することによって、実施例4~12および比較例7~12の各蓄電デバイスを作製した。なお、このときの電気容量は600μAhであった。
また、比較例として、比較例7~12の各蓄電デバイスに加えて、日本高度紙工業社製のセパレータのみ(上記セパレータ用塗料を用いない蓄電デバイス用セパレータ)を用いた比較例13の蓄電デバイスについても作製した。
【0043】
(明度(L値)の測定)
作製した実施例4~12および比較例7~13の各蓄電デバイスを25℃の条件下において2.9Vまで充電した。そして、充電後の蓄電デバイスを解体してセパレータを取り出した後、色差計(日本電色工業株式会社製ZE6000)を用いてセパレータの明度(L値)を測定した。
【0044】
(漏れ電流の測定)
作製した実施例4~12および比較例7~13の各蓄電デバイスを60℃の条件下において2.9Vまで充電した後、2.9Vの定電圧を維持した。そして、定電圧を維持して30分後の電流値を漏れ電流として測定した。
【0045】
(ガス発生量の測定)
まず、作製した実施例4~12および比較例7~13の各蓄電デバイスの初期体積を、アルキメデスの原理に基づいて測定した。具体的には、25℃の水を張った水槽に蓄電デバイスを沈め、そのときの重量変化から各蓄電デバイスの初期体積を算出した。
次に、各蓄電デバイスを60℃の条件下において1.5~2.9Vの電圧範囲、0.5Cの充放電速度の条件の下で3サイクル充放電を行った。その後、上記測定方法と同様にして、充放電後の各蓄電デバイスの体積を算出し、初期体積との差から充放電前後の各蓄電デバイスの体積変化を求めることによって、各蓄電デバイスからのガス発生量を測定した。また、以下の計算式から、各蓄電デバイスの体積変化率も求めた。
体積変化率(%)=体積変化(ml)÷初期体積(ml)×100
【0046】
結果を表2に示す。その結果、実施例4~12の蓄電デバイスについては、ピーク強度比A/Bが1.10以上のチタン酸リチウム(LiTiO)をセパレータに塗布していることから、セパレータの明度(L値)が82から93という高い値となり、チタン酸リチウム(LiTiO)が負極側となる面に若干露出している状態であっても青変(還元)が抑制されているという結果となった。
一方、比較例7~12の蓄電デバイスは、ピーク強度比A/Bが1.10未満のチタン酸リチウム(LiTiO)をセパレータに塗布していることから、セパレータの明度(L値)が18~35という低い値となり、チタン酸リチウム(LiTiO)が青変(還元)されるという結果となった。
【0047】
次に、漏れ電流についても、実施例4~12の蓄電デバイスについては、青変(還元)が抑制されていることから、電流値が0.12~0.43mAhという低い値となった。
一方、比較例7~12の蓄電デバイスは、チタン酸リチウム(LiTiO)が青変(還元)されることから、電流値が0.87~0.96mAhという高い値となり、セパレータのみ(上記セパレータ用塗料を用いない蓄電デバイス用セパレータ)を用いた比較例13の蓄電デバイスの電流値(0.92mAh)とほとんど変わらないと結果となった。
【0048】
さらに、ガス発生の抑制効果についても、実施例4~12の蓄電デバイスについては、セパレータのみ(上記セパレータ用塗料を用いない蓄電デバイス用セパレータ)を用いた比較例13の蓄電デバイスに比べてガスの発生量(絶対量)が少なく、体積変化率も小さい(より具体的には、体積変化率が5%以下)という結果となった。
【0049】
【表2】
【0050】
以上の結果から、本発明に係る蓄電デバイス用組成物によれば、特定のピーク比を持つチタン酸リチウム(LiTiO)を主成分とすることによって、従前のリチウム化合物に比べて還元雰囲気における使用においても青変(還元)による導電性の発現を抑制することができることがわかった。また、青変(還元)による導電性の発現を抑制しつつ、漏れ電流を少なくすることができ、その上、従前の蓄電デバイスにおいて問題となっていた使用時や経時変化における炭酸ガス、水素ガス、フッ素ガスなどの各種のガスの発生を抑制することができることがわかった。
【0051】
本発明の蓄電デバイス用組成物は、リチウムイオン電池や電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスに用いることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 蓄電デバイス
2 正極
3 セパレータ(蓄電デバイス用組成物を含有)
4 負極
5 タブリード
6 ケース
図1
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図3
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