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特許7007383カルシウム複合潤滑グリースの使用及びワイヤーロープの潤滑のためのカルシウムスルホネート複合潤滑グリース
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】カルシウム複合潤滑グリースの使用及びワイヤーロープの潤滑のためのカルシウムスルホネート複合潤滑グリース
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/06 20060101AFI20220203BHJP
   C10M 115/10 20060101ALN20220203BHJP
   C10M 129/32 20060101ALN20220203BHJP
   C10M 129/34 20060101ALN20220203BHJP
   C10M 137/02 20060101ALN20220203BHJP
   C10M 113/08 20060101ALN20220203BHJP
   C10M 117/04 20060101ALN20220203BHJP
   C10M 159/06 20060101ALN20220203BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20220203BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20220203BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20220203BHJP
   C10N 30/10 20060101ALN20220203BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20220203BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20220203BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20220203BHJP
   C10N 40/32 20060101ALN20220203BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
C10M169/06
C10M115/10
C10M129/32
C10M129/34
C10M137/02
C10M113/08
C10M117/04
C10M159/06
C10N10:04
C10N20:00 Z
C10N30:06
C10N30:10
C10N30:12
C10N30:00 Z
C10N30:08
C10N40:32
C10N50:10
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019534188
(86)(22)【出願日】2017-12-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 DE2017101100
(87)【国際公開番号】W WO2018113850
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-11-04
(31)【優先権主張番号】102016125289.1
(32)【優先日】2016-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】505448774
【氏名又は名称】フックス ペイトロルブ エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー,ロマン
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー,シュテファン
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0115416(US,A1)
【文献】特開2009-114293(JP,A)
【文献】特開2014-040518(JP,A)
【文献】特表2012-502139(JP,A)
【文献】特開2015-229723(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102827678(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤーロープのための潤滑剤としての潤滑グリース組成物の使用であって、
前記潤滑グリース組成物は、
(i)基油、有機スルホン酸の少なくとも1つの過塩基化カルシウム塩、少なくとも1つの錯化剤、及び石灰性構造の炭酸カルシウムからなるカルシウムスルホネート複合ハイブリッド潤滑グリース組成物、又は
(ii)基油、ヒドロキシ脂肪酸を含む少なくとも1つの脂肪酸の少なくとも1つのカルシウム石鹸、及び少なくとも1つの錯化剤からなるカルシウム複合ハイブリッド潤滑グリース組成物、又は
(iii)前記(i)及び前記(ii)の混合物
であり、
前記(i)、前記(ii)、及び前記(iii)による前記潤滑グリース組成物は、各々、10重量%~50重量%のワックスを含み、該ワックスは、炭化水素ワックスであり、かつ、70℃を超える凝固点を有し、
前記錯化剤として、少なくとも酢酸、ジカルボン酸、又はリン酸が使用される、使用。
【請求項2】
前記ワックスの量が、20重量%~35重量%である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
ワイヤーロープの製造中に、多重より糸及び/又はワイヤーがより合わせられてワイヤーロープを形成する前に、前記潤滑グリース組成物は前記ワイヤーロープに導入される、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記カルシウムスルホネート複合ハイブリッド潤滑グリース組成物(i)は、
(a)5重量%~80重量%の基油、
(b)10重量%~80重量%の、少なくとも部分的に石灰性構造の炭酸カルシウムを含むカルシウムスルホネート、
(c)さらなるスルホン酸、及び
(d)10重量%~50重量%のワックス
からなり、
前記潤滑グリース組成物は過塩基化されている、請求項1、2、又は3に記載の使用。
【請求項5】
前記カルシウムスルホネート複合ハイブリッド潤滑グリース組成物(i)は、
(a)20重量%~55重量%の基油、
(b)10重量%~80重量%の、少なくとも部分的に石灰性構造の炭酸カルシウムを含むカルシウムスルホネート、
(c)さらなるスルホン酸、及び
(d)20重量%~35重量%のワックス
からなり、
前記潤滑グリース組成物は過塩基化されている、請求項1、2、又は3に記載の使用。
【請求項6】
前記カルシウムスルホネート複合ハイブリッド潤滑グリース組成物(i)は、以下に示す活性化剤の1つ以上からなり、これらは、カルシウムスルホネート複合ハイブリッド潤滑グリース組成物(i)の生産中に該カルシウムスルホネート複合ハイブリッド潤滑グリース組成物(i)に添加され、
前記活性化剤は、潤滑グリース組成物の生産中に該潤滑グリース組成物中に存在し、熱処理によって少なくとも部分的に排除される、請求項に記載の使用:
i)1重量%~20重量%の、C1~C4のアルコールを含む水;
ii)1重量%~20重量%の、C1~C4のアルコール、アルコキシアルカノール、及び/又はグリコールであるポリアルコール;
iii)1重量%~20重量%の、ヒドロキシカルボン酸を含む水;並びに
iv)1重量%~20重量%の、前記i)及び前記ii)、又は、前記ii)及び前記iii)、又は、前記i)、前記ii)及び前記iii)からなる混合物。
【請求項7】
前記カルシウムスルホネートは、Ca(OH)及びCaCOからなる有機スルホン酸の過塩基化カルシウム塩である、請求項4又は5に記載の使用。
【請求項8】
前記カルシウム複合ハイブリッド潤滑グリース組成物(ii)は、
(a)40重量%~90重量%の基油、
(b)少なくとも1つの、ヒドロキシ脂肪酸を含む脂肪酸のカルシウム石鹸、
(c)少なくとも1つの錯化剤、及び
(d)10重量%~50重量%のワックス
からなる、請求項1、2、又は3に記載の使用。
【請求項9】
前記カルシウム複合ハイブリッド潤滑グリース組成物(ii)は、
(a)60重量%~80重量%の基油、
(b)少なくとも1つの、ヒドロキシ脂肪酸を含む脂肪酸のカルシウム石鹸、
(c)少なくとも1つの錯化剤、及び
(d)20重量%~35重量%のワックス
からなる、請求項1、2、又は3に記載の使用。
【請求項10】
前記潤滑グリース組成物はまた、以下の成分の1つ以上からなる、請求項1~9のいずれか1つに記載の使用:
潤滑グリース添加物;
他の増粘剤である
C12~C36の、ヒドロキシカルボン酸に加えてカルボン酸の、他の金属石鹸、
リン酸、酢酸、ホウ酸又はジカルボン酸、及び/又はこれらの塩での金属水酸化物の変換物、並びに/もしくは
ポリ尿素増粘剤。
【請求項11】
前記潤滑グリース組成物は、200~260(0.1mm単位、25℃)のコーン貫入値を有する、請求項1~10のいずれか1つに記載の使用。
【請求項12】
前記潤滑グリース組成物は、220~250(0.1mm単位、25℃)のコーン貫入値を有する、請求項1~11のいずれか1つに記載の使用。
【請求項13】
前記カルシウム複合ハイブリッド潤滑グリース組成物(ii)及び/又は前記カルシウムスルホネート複合ハイブリッド潤滑グリース組成物(i)は、ロープのコアに注入され、
前記カルシウム複合ハイブリッド潤滑グリース組成物(ii)及び前記カルシウムスルホネート複合ハイブリッド潤滑グリース組成物(i)はそれぞれ、400~475(0.1mm単位、25℃)のコーン貫入値を有する、請求項1~12のいずれか1つに記載の使用。
【請求項14】
前記カルシウム複合ハイブリッド潤滑グリース組成物(ii)及び/又は前記カルシウムスルホネート複合ハイブリッド潤滑グリース組成物(i)は、ロープのコアに注入され、
前記カルシウム複合ハイブリッド潤滑グリース組成物(ii)及び前記カルシウムスルホネート複合ハイブリッド潤滑グリース組成物(i)はそれぞれ、420~460(0.1mm単位、25℃)のコーン貫入値を有する、請求項1~12のいずれか1つに記載の使用。
【請求項15】
前記炭化水素ワックスは、パラフィンワックス、イソパラフィンワックス、ポリオレフィンワックス、FTワックス、GTLワックス、又はオゾケライトである、請求項1~14のいずれか1つに記載の使用。
【請求項16】
噴霧、拡散、吸入、ディップコーティング、フローコーティング、ローラーアプリケーション、又はパウダーコーティングの手段にてワイヤーへ適用することにより、
(i)基油、有機スルホン酸の少なくとも1つの過塩基化カルシウム塩、少なくとも1つの錯化剤、及び石灰性構造の炭酸カルシウムからなるカルシウムスルホネート複合ハイブリッド潤滑グリース組成物、又は
(ii)基油、ヒドロキシ脂肪酸を含む少なくとも1つの脂肪酸の少なくとも1つのカルシウム石鹸、及び少なくとも1つの錯化剤からなるカルシウム複合ハイブリッド潤滑グリース組成物、又は
(iii)前記(i)及び前記(ii)の混合物
を、ワイヤーロープのための潤滑剤として適用する方法で、
前記(i)、前記(ii)、及び前記(iii)による前記潤滑グリース組成物は、各々、10重量%~50重量%のワックスを含み、該ワックスは、炭化水素ワックスであり、かつ、70℃を超える凝固点を有し、
前記錯化剤として、少なくとも酢酸、ジカルボン酸、又はリン酸が使用される、方法。
【請求項17】
前記噴霧を、エアロゾルとして、無気で、又は静電手段によって起こす、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ワイヤーロープは、多重ワイヤーからなり、ワイヤー及び/又はより糸が結び合わさる前に、前記潤滑グリース組成物を前記ワイヤーロープの部材に適用する、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記炭化水素ワックスは、パラフィンワックス、イソパラフィンワックス、ポリオレフィンワックス、FTワックス、GTLワックス、又はオゾケライトである、請求項16、17、又は18に記載の方法。
【請求項20】
(i)基油、有機スルホン酸の少なくとも1つの過塩基化カルシウム塩、少なくとも1つの錯化剤、及び石灰性構造の炭酸カルシウムからなるカルシウムスルホネート複合ハイブリッド潤滑グリース組成物、又は
(ii)基油、ヒドロキシ脂肪酸を含む少なくとも1つの脂肪酸の少なくとも1つのカルシウム石鹸、及び少なくとも1つの錯化剤からなるカルシウム複合ハイブリッド潤滑グリース組成物、又は
(iii)前記(i)及び前記(ii)の混合物
が適用されてなるワイヤーロープで、
前記(i)、前記(ii)、及び前記(iii)による前記潤滑グリース組成物は、各々、10重量%~50重量%のワックスを含み、該ワックスは、炭化水素ワックスであり、かつ、70℃を超える凝固点を有し、
前記錯化剤として、少なくとも酢酸、ジカルボン酸、又はリン酸が使用される、ワイヤーロープ。
【請求項21】
前記潤滑グリース組成物(i)、(ii)、又は(iii)はさらに、請求項2~15に記載の特性の1つによって特徴付けられる、請求項20に記載のワイヤーロープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワックスを含むカルシウム複合潤滑グリース組成物(ハイブリッドカルシウム複合潤滑グリース)、並びに、ワイヤーロープのための潤滑剤としての、カルシウムスルホネート複合潤滑グリース組成物及び/又はワックスを含むカルシウムスルホネート複合潤滑グリース組成物(ハイブリッドカルシウムスルホネート複合潤滑グリース)に関する。さらに本発明は、ワイヤーロープの製造方法及び潤滑グリース組成物が適用されたワイヤーロープに関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑グリース又は潤滑グリース組成物の特徴は、それぞれ、液状油成分が増粘剤成分によって吸収され、保持されていることである。潤滑グリースの糊のような状態並びにその接着性と共に拡大性、作業性及び容易変形可能性という特性は、潤滑グリースによる潤滑点の湿潤及び摩擦論理的応力表面での長期に亘る潤滑効果の発展を確実にする。
【0003】
潤滑グリースの最も重要な流動学的特性の中で、稠度及びその降伏点は、それぞれ、安定した粘性/温度性質と共に、熱的/機械的応力下での後硬化及び過剰な油分堆積の回避を齎す。しばしば、潤滑グリースのチキソトロピー性(剪断減粘性)及び不安定な剪断応答は、有利に作用する。潤滑及びと器材要求の機能剤として高い使用値で潤滑グリースを産出するためには、多くの実経験が必要とされる。
【0004】
潤滑グリースは一般に、基油に均質に分散された増粘剤からなる。最も多様性の材料は基油として知られている。有機化合物及び無機化合物が増粘剤として使用される。非常に多くの潤滑グリース組成物が知られている。これらはまた、カルシウムスルホネート複合潤滑グリース及びカルシウム複合潤滑グリースを含んでいる。
【0005】
カルシウムスルホネート複合潤滑グリースは、基油及びカルシウムスルホネート増粘剤を含んでおり、該カルシウムスルホネート増粘剤は、過塩基化された、特に炭酸カルシウムを含むアモルファスカルシウムスルホネートから得られる。この反応において、炭酸カルシウムは、少なくとも部分的に石灰性構造に推移し、好ましくは、大部分は重量フラクションに関する。このような、石灰を含む過塩基化カルシウムスルホネート潤滑グリースの詳細は、例えば、欧州特許第0613940号公報に記載されている。
【0006】
カルシウム複合潤滑グリースは、基油と、水酸化カルシウム、脂肪酸、及び錯化剤から形成される増粘剤とを含む。
【0007】
時にはスチールロープとも呼ばれるワイヤーロープは、水産業、鉱業、及び建設業における、特に運搬管理において、張力の移動に必須の機械的部品を構成する。
【0008】
ワイヤーロープは、特にガイロープの形態で静的役割が可能であり、例えばクレーン、エレベータ、ケーブルウェイ、又はスカイリフトにおいて、動的アプリケーションにおける力の移動に使用される。特に動的アプリケーションのために、ワイヤーロープは、絶えず負荷の変更に供され、ある一定期間の使用後に摩耗する。よって、定期的な交換が必要である。ワイヤーロープの摩耗は、中でも、互いに摩擦する個々の要素に起因する。特に摩擦摩耗の影響を受けるワイヤーロープは、動的アプリケーションに使用されるものである。それは、これらのワイヤーロープが、転換及び/又は回転のオンもしくはオフの間、絶えず歪んだ状態に供されているからである。
【0009】
新しいロープより合わせ技術によるワイヤーロープの寿命のさらなる最適化は、ワイヤーに使用されるスチールの質が向上する場合にのみ限定されて可能であると思われる。新しい潤滑剤それぞれの選択又は産出と、この10年程は低い優先順位でしか注目されて来なかった牽引部材の寿命の向上とが関係している。腐食及び摩擦酸化の予防だけでなく、牽引部材各々の部材及び/又はより糸の間の摩擦力を軽減する役割が、潤滑剤に与えられている。
【0010】
現在、瀝青系(ビチューメン系)潤滑剤と共に、溶媒和物に基づくチキソトロピー化された潤滑剤の発展があり、この場合の溶媒和物は、それほど頻繁ではないが石鹸グリース、主にリチウム石鹸グリースである。腐食保護のための、パラフィンワックス及びアルカリナフタレンスルホン酸塩を含むワイヤーロープ潤滑剤の例は、ドイツ特許第1130103号公報(米国特許第3125522号明細書)に記載されている。
【0011】
米国特許公開第2014/0182261号明細書には、カルシウム複合潤滑剤(ハイブリッドカルシウム複合潤滑剤ではない)、カルシウムスルホネート複合潤滑剤、又はハイブリッドカルシウムスルホネート複合潤滑剤の中でも、ワイヤーロープのために提案された非常に多くの異なる潤滑剤が記載されている。金属ロープよりも柔軟であり、潤滑剤として使用される無機固体物質に重点を置くと、この特性の保護は必須であることが、同様の欧州特許第2432859号公報に記載の試験方法から明らかである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】欧州特許第0613940号公報
【文献】ドイツ特許第1130103号公報
【文献】米国特許公開第2014/0182261号明細書
【文献】欧州特許第2432859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明にしたがって使用される潤滑剤の役割は、可能な限り次の特性を付与することである。すなわち、優れた粘性/温度作用、良好な繰り出し性(デリバリー性)、Fraass法による低い破壊点、吸水時の優れた腐食保護性、エラストマーとの良好な親和性、高い滴点(dripping point)、優れた摩耗保護性、極度の圧力下での良好な耐性、低い油分堆積、良好な酸化安定性、良好な接着性、pH緩衝に対する良好なキャパシティ、吸水による稠度の損失のなさ、及び優れた剪断安定性(チキソトロピー性潤滑剤と比較して)である。潤滑剤はまた、ビチューメンを含むべきではなく、実施態様においてはそのうえ、含まれる芳香結合炭化水素が低濃度であるか、又は含まない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
独立請求項の主題は、前記役割を担う。好ましい実施態様は、従属請求項の主題であるか、又は以下に説明される。本発明は、
(i)石灰性構造の炭酸カルシウムを含むカルシウムスルホネート複合潤滑グリース組成物(カルシウムスルホネート複合体)、及び、凝固点が70℃を超えるワックスを可能な限り含むカルシウムスルホネート複合潤滑グリース組成物(ハイブリッドカルシウムスルホネート複合体)、又は
(ii)凝固点が70℃を超える少なくとも1つのワックスをさらに含むカルシウム複合潤滑グリース組成物(ハイブリッドカルシウム複合体)、又は
(iii)前記(i)及び前記(ii)の混合物
を含むワイヤーロープに関する。また本発明は、前記潤滑グリースを含むワイヤーロープの製造方法及びワイヤーロープのための潤滑グリース組成物の使用に関する。前記ワイヤーロープは、好ましくは、エレベータ、空中ケーブル、又はスキーリフトに使用される。
【0015】
ワイヤーロープに使用される本発明の潤滑グリース組成物は、少なくとも以下の成分を有する。
【0016】
潤滑グリース タイプI:カルシウムスルホネート複合潤滑グリース又はハイブリッドカルシウムスルホネート複合潤滑グリース
前記カルシウムスルホネート複合潤滑剤は、以下の成分を含む。
(A)例えば、5重量%~80重量%、特には20重量%~55重量%の基油;
(B)例えば、10重量%~80重量%の量で存在し、少なくとも部分的に、恐らくは完全に、石灰性構造の炭酸カルシウムを含む、少なくとも1つの、有機スルホン酸の過塩基化カルシウム塩(以下、簡潔にカルシウムスルホネートという);
(C)可能な限り、それぞれ特にゲル化プロセス又は活性化のための、さらなるスルホン酸、好ましくはC12のアルキルスルホン酸;
(D)可能な限り、例えば以下に示す1つ以上の活性化剤:
i)1重量%~20重量%の、C1~C4のアルコール等の他のアルコールを含む水;
ii)1重量%~20重量%の、C1~C4のアルコール、アルコキシアルカノール、及び/又はグリコール等のポリアルコール;
iii)1重量%~20重量%の、ヒドロキシカルボン酸を含む水;並びに
iv)1重量%~20重量%の、前記i)及び前記ii)、又は、前記ii)及び前記iii)、又は、前記i)、前記ii)及び前記iii)からなる混合物
(ここで、前記活性化剤は、生産中に潤滑グリース組成物中に存在し、可能な限り熱処理によって少なくとも部分的に排除され得る);並びに
(E)可能な限り、凝固点が70℃を超えるワックス(ハイブリッドカルシウムスルホネート複合潤滑グリース)。
【0017】
潤滑グリース タイプII:ハイブリッドカルシウム複合潤滑グリース
使用される本発明のカルシウム複合潤滑グリースは、少なくとも以下の成分を有する。
(a)40重量%~90重量%、特には60重量%~80重量%の基油;
(b)少なくとも1つの、ヒドロキシ脂肪酸を含む少なくとも1つの脂肪酸のカルシウム石鹸;
(c)少なくとも1つの錯化剤;並びに
(d)凝固点が70℃を超えるワックス。
【0018】
両タイプの潤滑グリースは、以下の任意の成分を含むことができる。
潤滑グリース添加物;
他の増粘剤、例えば、
C10~C36の、ヒドロキシカルボン酸に加えてカルボン酸の、他の金属石鹸、
リン酸、酢酸、ホウ酸、及び/又はジカルボン酸の塩、並びに/もしくは
ポリ尿素増粘剤。
【0019】
本発明はまた、潤滑グリース組成物が適用されたワイヤーロープ、及び該潤滑グリース組成物を導入することによるワイヤーロープの製造に関する。
【0020】
ワックスは、20℃以上で固体の材料であり、混練され得る。ワックスは、透明乃至不透明であるが、ガラス状ではない。そして、40℃を超えると分解することなく溶融し、融点を超えると比較的低粘度である。
【0021】
前記潤滑グリース組成物はまた、ロープ潤滑剤として後に指定されている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係る潤滑グリース、並びに油及びワックスをベースとするロープ潤滑剤の、温度と粘度との関係を示すグラフである。
図2】本発明に係る潤滑グリース、並びに油及びワックスをベースとするロープ潤滑剤の、温度と貫入値との関係を示すグラフである。
図3】本発明に係る潤滑グリース、並びに油及びワックスをベースとするロープ潤滑剤の、温度と貫入値との関係を示すグラフである。
図4】本発明に係る潤滑グリース、並びに油及びワックスをベースとするロープ潤滑剤の、時間と摩擦係数との関係を示すグラフである。
図5】本発明に係る潤滑グリース、並びに油及びワックスをベースとするロープ潤滑剤の、距離と引っ張り力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のワイヤーロープは、極めて種々の実施態様を有することができる。これらは常に、多重ワイヤーで構成され、1つの好ましい実施態様によると、この多重ワイヤーは、より糸へとより合わせられるか、及び/又は、多重より糸がワイヤーロープを形成する方法でより合わせられる。
【0024】
一例として、ワイヤーロープは、スチール又はプラスチック製のファイバーコアを有することができ、該コアの周りには、より糸がそれぞれ6つのワイヤーと共により合わせられており、このワイヤー層についてさらなるワイヤー層が設置され、6つのワイヤーそれぞれが12のより糸を有する。個々の部材には、例えばプラスチックからなる一般的な被覆材料を供することができる。ワイヤー及びより糸と共に、インレー及びファイバーインサートもまた、使用することができる。
【0025】
ワイヤーロープは、例えば、インサート(ソウル(soul)ともいう)と共にコアワイヤー又はコアより糸の双方を有する。ファイバーインサートは、ファイバー又は固体ポリマーであり、同じ層又は重畳された層において、隣り合うより糸又はワイヤーを隔てるように配置されているか、もしくはロープの間隙を充填するように配置されている。必須のインレー材料は3つのタイプに区別される。天然繊維からのファイバーインレー、合成繊維からのファイバーインレー、及びスチールインレーである。スチールインレーは、1つ以上のワイヤーより糸から製造されるか、又は独立してより合わせられたワイヤーロープとして製造される。ポリマーインレーは、溝があるか又は溝がない円筒状の固体ポリマーを含むことができる。本発明の範囲のワイヤーロープは、このように、スチールのみで構成される必要はなく、その代わり、合成材料又は天然材料を含むことができる。
【0026】
まず、潤滑グリース タイプI:カルシウムスルホネート複合潤滑グリース及びハイブリッドカルシウムスルホネート複合潤滑グリースについて説明する。
【0027】
カルシウムスルホネート複合潤滑グリースを製造するために、過塩基化カルシウムスルホネートを基油中に配置する。炭酸カルシウムを添加することができるが、必要ではない。適度な混合の後、特に40℃~100℃で活性化剤の追加を行う。スルホン酸の添加により、いくらかの時間だけ遅れて、温度に応じてゲル化する。ゲル化は、僅かに過剰な加圧によっても起こり、反応速度が上がる。充分なゲル化の後、活性化剤の沸点を超える温度で加熱することにより、活性化剤混合物の除去が起こる。もし望むのであれば、前記他の増粘剤(前記「任意の成分」参照)をまた添加することにより、潤滑グリースの稠度をさらに増強させることができる。
【0028】
石鹸構造を最適にするために、約170℃~190℃で加熱し、この温度を30分~60分間に亘って維持する。約60℃~100℃へと冷却した後、摩耗を削減し、酸化に対する耐性、腐食保護性等を向上させるために、添加物を含めることができる。
【0029】
基油(A)は、分散媒体として、すなわち、固体粒子が分散している液状キャリアとして主に使用される。通常は、基油は、製造又は目的に応じた使用の間、本質的には化学的に不活性な有機液体で構成される。基油は、それぞれ40℃にて、20mm/s~1000mm/s、好ましくは100mm/s~500mm/sの動粘度を有することが望ましい。
【0030】
基油は一般に、室温では不揮発性の有機液体であり、合成又は精製の後には通常分離される揮発性成分を、また含むことができる。この場合、揮発性成分は、水又はC1~C4のアルコール等の、常圧で約100℃までで蒸発する成分として定義される。基油は、好ましくは、180℃よりも高い、特に200℃を超える引火点を有する。
【0031】
相当する有機液体の例としては、相応にアルキル基及び/又はアルケニル基で置換されていてもよい、アルカン類及びシクロアルカン類、芳香族類及び環状芳香族類;ジアルキルエーテル等のエーテル類;アルキルアリールエーテル類;シクロアルキルエーテル類;アルキルシクロアルキルエーテル類;アルカノール類、アルキレングリコール類、ポリアルキレングリコール類、及びこれらグリコール類のエステル類;アルキレングリコール類及びポリアルキレングリコール類のアルキルエーテル類;シリケートエステル類、グリセリド類、エポキシ化グリセリド類、脂肪族エステル類、及び芳香族エステル類;並びに/もしくはパラフィンスラッジ(パラフィンをベースとした未精製の石油フラクション)が挙げられる。
【0032】
一般的にオリゴマーといわれる、低分子量液状重合化物はまた、基油に適している。この重合化物には、ダイマー類、トリマー類、テトラマー類、ペンタマー類等が含まれる。この大きなグループの特別な例は、ポリ-α-オレフィン類である。該ポリ-α-オレフィン類は、平均2~6又はそれ以上の、C8~C13のα-オレフィン類の単位を有するか、もしくは、2mm/s~100mm/sの、100℃での粘度によって個々に定義される。別の重要なグループは、数平均で200g/mol~4000g/molのポリイソブチレン類である。
【0033】
容易な入手可能性、コスト、及び特性の視点から、アルキル、シクロアルキル、アリール、及びアルキルアリール炭化水素類は、基油の好ましい部類である。液状石油フラクションは、基油のさらに好ましい部類である。これらの好ましい部類には、ベンゼン類及びアルキル化ベンゼン類、ナフタレン類及びアルキルナフタレン類、シクロアルカン類及びアルキル化シクロアルカン類、シクロアルケン類及びアルキル化シクロアルケン類が含まれ、これらは、パラフィンをベースとする石油フラクションで生じるアルカン類だけでなく、ナフタレンをベースとする石油フラクションで生じる。
【0034】
ミネラル油のあるフラクションを少なくとも、分散媒体の成分として有する分散系が、特に好ましい。
【0035】
カルシウムスルホネート複合潤滑グリースと併せてここで使用される「カルシウムスルホネート」(B)は、一般に、スルホン酸(金属カウンターイオンなし)の分子量が200g/mol~1400g/molの範囲、特に300g/mol~700g/molの範囲であるスルホネートをいう。カルシウムスルホネートは、一般に、酸化カルシウム及び/又は水酸化カルシウム、特に好ましくは水酸化カルシウムと、好ましくは前記活性化剤のような揮発性有機溶剤の溶液であるスルホン酸と、ミネラル油との混合物から、そのまま形成される。
【0036】
カルシウムスルホネートは、「過塩基化された」といわれる。それは、炭酸カルシウム及び/又は水酸化カルシウムを過剰に含んでいるからである。水酸化カルシウムはまた、酸化カルシウムとして含まれ得る。金属の事実上の化学量論的超過は、著しく変化し得る。例えば、0.1モル当量から約30モル当量以上、特に0.5モル当量を超え、全塩基値(TBN)が設定される。過塩基化カルシウムスルホネートは、好ましくは、ISO 3771に準拠して測定したTBNが、40~600、特に200~600である。
【0037】
炭酸カルシウムは、分散媒体中にコロイダル粒子として存在する。好ましくは、最大粒子径が5000Åを下回る。特に好ましくは、平均粒子径が400Å未満、例えば20Å~300Åの範囲である。
【0038】
さらなるスルホン酸(C)は、恐らく水に溶解し得ると同時に、油にも溶解し得る。好ましいスルホン酸は、以下の構造を有する。すなわち、スルホネート基は、環状基又は芳香族基に結合しており、該環状基又は芳香族基はさらに、1つ以上の直鎖状又は分岐鎖状でC1~C30のヒドロカルビル基、好ましくは1つ又は2つのC8~C18のヒドロカルビル基を有する。その例は、dobanic acid(Dobansaure:ドデシルベンゼンスルホン酸)等のアルキルベンゼンスルホン酸である。
【0039】
これらのスルホン酸又はスルホネートは、合成され得るか、もしくは「マホガニースルホネート」と呼ばれる天然スルホネートである。「合成スルホネート」とは、使用する材料のスルホン化によって合成的に製造されるスルホネートをいう。合成スルホネートには、アルキルスルホネート類及びアルキル又はジアルキルアリールスルホネート類が含まれる。アリール基は、ベンゼン、トルエン、フェニルベンゼン、ジフェニルベンゼン、ジフェニルメタン、エチルベンゼン、キシレン異性体、又はナフタレンに由来し得る。環状基は、例えば、シクロヘキサン又はヘキサヒドロナフタレンであり得る。
【0040】
ジアルキルアリールスルホネート類の例として、それぞれ8個~18個の炭素原子を有するアルキル基を伴うものが挙げられる。これらは、直鎖状で、多量の二置換材料を含んでいる点で、スルホン化に使用される前述の材料と主に異なる。
【0041】
追加して使用可能なスルホネート類には、例えば、リグニンスルホネート類;モノ及びポリワックス置換ナフタレンスルホネート類;ジノニルナフタレンスルホネート類;ナフタレンジスルフィドスルホネート類;ジセチルチアントレンスルホネート類;ジラウリル-β-ナフトールスルホネート類;不飽和パラフィンワックススルホネート類;ヒドロキシ置換パラフィンワックススルホネート類;ラウリルシクロヘキシルスルホネート類、モノ又はポリワックス置換シクロヘキシルスルホネート類等の脂環式スルホネート類が含まれる。
【0042】
水と、1つ以上のアルコール類(グリコール類を含む)、短鎖(C1~C4)カルボン酸類又は相当するヒドロキシカルボン酸類との混合物の使用は、カルシウムスルホネート複合潤滑グリースにとって、過塩基化材料を、主にアモルファスから主に石灰性構造へと変換するために、特に効果的である。このような組み合わせはしばしば、工程に必要な時間を短縮し、活性化剤(E)といわれる。
【0043】
適したアルコール類は、脂肪族、脂環式及びアリール脂肪族の、モノ又はポリヒドロキシアルコール類である。例えば、炭素原子が12個よりも少ないアルコール類が特に適している。経済性及び方法の実務的な実行性を高めるという理由から、例えば炭素原子が8個よりも少ない、低級鎖状アルカノールが好ましい。このような例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、イソブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール等のアルカノール類;シクロペンタノール、シクロヘキサノール、4-メチルシクロヘキサノール、2-シクロヘキシルエタノール、シクロペンチルメタノール等のシクロアルキルアルコール類;ベンジルアルコール、2-フェニルエタノール、シンナミルアルコール等のフェニル脂肪族アルカノール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、グリセリン、ブチルグリコール、ブチルジグリコール、ブチルトリグリコール、ペンタエリスリトール等の、炭素原子が6個までのアルキレングリコール及びそのC1~C6のモノ、ジ又はトリアルキルエーテル類が挙げられる。
【0044】
特に効果的な組み合わせは、1つ以上の活性化剤と水との混合物からなり、該活性化剤と水との重量比は、約1:0.05~1:24、好ましくは1:2~1:6である。これらの水/アルカノール混合物のアルコールフラクションにおいて、少なくとも1つの低級鎖状アルカノール又はグリコールが存在していることが好ましい。
【0045】
水もしくは、C1~C4の脂肪族アルコール(好ましくはイソプロパノール)及び/又はアルコキシアルカノールもしくはグリコール類(特にモノ、ジ又はトリグリコール類)等の揮発性活性化剤、並びにこれら活性化剤の1つ以上の混合物を少量で使用することが、特に有利である。該脂肪族アルコールは、水溶性又は容易な水混和性又は水分散性を示す。該グリコール類は、水溶性又は容易な水混和性又は容易な水分散性を示し、それぞれ2個~20個の炭素原子を有しており、C1~C4のモノアルキルエーテルを含んでいる。
【0046】
次に、潤滑グリース タイプII:ハイブリッドカルシウム複合潤滑グリースについて説明する。
【0047】
通常、カルシウム複合潤滑グリースを製造するために、基油、ヒドロキシ脂肪酸類を含む脂肪酸、及び/又はトリグリセリドを容器に入れ、全成分が融解するまで約80℃に加熱する手順が含まれる。
【0048】
その後、Ca(OH)及び可能な限り水が添加される。また錯化剤も添加される。温度を100℃に上昇させて反応を開始させる。反応水を取り出した後、例えば最高270℃まで、反応混合物をさらに加熱する。約60℃~100℃まで冷却した後、摩耗を低減させ、酸化に対する耐性及び腐食保護性等を向上させるために、潤滑剤用添加物を含める。
【0049】
基油(a)は、前述の基油(A)と同様に特定され得る。
【0050】
カルシウム石鹸は、10個~36個、特に12個~22個の炭素原子を有し、可能な限り置換されている、1つ以上の飽和又は不飽和モノカルボン酸、特に好ましくは相当するヒドロキシカルボン酸のカルシウム塩である。適したカルボン酸は、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、又はベヘン酸であり、12-ヒドロキシステアリン酸が好ましい。遊離酸基の代わりに、相当する低級鎖状アルコールエステルもまた、ケン化に使用され得る。良好な分散を達成するためには、例えば、相当するトリグリセリド類及び酸/ヒドロキシ酸のメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、又はsec-ブチルエステル類が使用され得る。
【0051】
錯化剤(c)の例として、C1~C6のカルボン酸類、C6~C12のジ及び/又はトリカルボン酸類、安息香酸、ホウ酸類及びこれらの塩、リン酸類及びこれらの塩、特にカルシウム塩だけでなく、リチウム塩、ナトリウム塩、又はカリウム塩も挙げられる。これらの成分の2種以上の混合物もまた適している。特に適した錯化剤を以下に詳細に示す。
【0052】
低級鎖状脂肪族カルボン酸は、C1~C6のカルボン酸である。これに分類される酸の例は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、イソ酪酸、カプリル酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、及びトリクロロ酢酸等である。ギ酸、酢酸、及びプロピオン酸が好ましく、酢酸及びプロピオン酸は特に適している。これらの酸の無水物もまた適しており、本発明において、酸には、酸そのものだけでなく、その無水物も含まれる。
【0053】
例えばp-ヒドロキシ安息香酸、サリチル酸類、2-ヒドロキシ-4-ヘキシル安息香酸、m-ヒドロキシ安息香酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸(ゲンチジン酸)、2,6-ジヒドロキシ安息香酸(γ-レソルシル酸)、又は4-ヒドロキシ-4-メトキシ安息香酸等のヒドロキシ安息香酸類もまた適している。特に、アジピン酸(C10)、セバシン酸(C1018)、アゼライン酸(C16)、及び/又は3-t-ブチルアジピン酸(C1018)は、ジカルボン酸類として非常に適している。
【0054】
ホウ酸又はボロン酸類もまた、適した錯化剤である。これらには、アルキル-B(OH)等のボロン酸、又はアリール-B(OH)、ホウ酸(すなわち、HBO)、テトラホウ酸、メタホウ酸、及びこれらホウ酸又はボロン酸類のエステル類が含まれる。使用可能なホウ酸エステル類の例には、例えばオルトホウ酸カルシウム又はテトラホウ酸リチウム等の、メタホウ酸エステル類、ジホウ酸エステル類、テトラホウ酸エステル類、又はオルトホウ酸エステル類が含まれる。
【0055】
リン酸類及びその塩類もまた、適した錯化剤である。これらには、種々のアルキルリン酸類及びアリールリン酸類、並びに、亜ホスフィン酸類、ホスホン酸類、及び亜ホスホン酸類が含まれる。低級鎖状アルカノール類又はポリイソブテン等の不飽和炭化水素類を、例えばP及びP等のリン酸化物及びリン硫化物で化成することによって製造されるリン酸類が、特に適している。考えられるリン酸塩は、リン酸二水素、リン酸水素、又はピロリン酸の、アルカリ金属(好ましくはリチウム)塩もしくはアルカリ土類金属(好ましくはカルシウム)塩である。
【0056】
このように、本発明における錯化剤は、例えば
いずれも置換されていてもよい、炭素数2~8、特には炭素数2~4の飽和又は不飽和モノカルボン酸もしくはヒドロキシカルボン酸、あるいは、炭素数2~16、特には炭素数2~12のジカルボン酸の、カルシウム塩;及び/又は
ホウ酸のカルシウム塩又はリチウム塩、及び/又は、リン酸のナトリウム塩又はカルシウム塩;及び/又は
酢酸、又は酢酸カルシウム等の酢酸塩
である。
【0057】
ワックスは、石鹸の製造中又は製造後に添加され得る。
【0058】
任意に、モンモリロナイト(そのナトリウムイオンは全体的に又は部分的にアンモニウムイオンに置換され得る)等のベントナイト類、アルミノシリケート類、クレイ類、シリカ(Aerosil(登録商標)等)、又はジ及びポリ尿素類もまた、共増粘剤として使用され得る。
【0059】
ベントナイト類、アルミノシリケート類、クレイ類、シリカ、及び/又は油溶性ポリマー類は、基材グリースの生産において添加され得るか、又は特に、第2工程における添加物としてよりも後に処方され得る。ジ及びポリ尿素類は、添加物として使用され得る。
【0060】
以下のさらなる成分を、カルシウムスルホネート複合潤滑グリース及びハイブリッドカルシウム複合潤滑グリースの双方に添加することができる。
【0061】
他の増粘剤として、C10~C36の、カルボン酸類及びヒドロキシカルボン酸類、並びにこれらのエステル類(モノ、ジ又はトリグリセリドとしての、メタノール又はグリセリンとのエステル類)を使用することができる。
【0062】
発明に係るロープ潤滑剤はワックス類を含む。この潤滑剤を「ハイブリッド潤滑剤」という。このワックス類は、パラフィンワックス類、イソパラフィンワックス類(マイクロワックス類)、PEワックス類又はPPワックス類等のポリオレフィンワックス類、FTワックス類、GTLワックス類、又はオゾケライトである炭化水素ワックス類である。さらなるワックス類のグループには、ポリアミドワックス類、カルナバワックス、キャンデリラワックス等のエステル系ワックス類、モンタンワックス類、又は、シェラックワックス類等のアルコール系ワックス類が含まれる。
【0063】
天然ワックス類のグループには、オゾライト及びモンタンワックス(鉱蝋類)、キャンデリラワックス及びカルナバワックス(植物性ワックス類)、又はシェラックワックス類(動物性ワックス類)が含まれる。合成ワックス類のグループには、ポリアミドワックス(ポリマーワックス)もしくは、GTLワックス又はFTワックスが含まれる。
【0064】
ワックス類は、70℃を超える、特には110℃を超える、又は140℃を超える凝固点(例えば、DIN ISO 2207に準拠して測定される)を有する。
【0065】
ワックス類は、潤滑グリース組成物中に、10重量%~50重量%、特に20重量%~35重量%の量で含まれる。
【0066】
1つのワックスフラクションが前記凝固点を有し、別のワックスフラクションが少なくとも10℃、好ましくは少なくとも20℃低い凝固点を有するような、2種以上のワックスが使用され得る。
【0067】
好ましくは、DIN ISO 2176に準拠した潤滑グリースの滴点は、325℃を超える。
【0068】
本発明の組成物には、混和剤として、さらに潤滑剤用添加物が含まれていてもよい。本発明における通常の添加物は、酸化防止剤、摩耗防止剤、腐食防止剤、洗浄剤、染料、潤滑性増強剤、粘性添加物、摩擦低減剤、高圧添加物、及び固体潤滑剤である。
【0069】
潤滑剤用添加物の例は、以下のとおりである。
・酸化防止剤
アミン化合物類(例えば、アルキルアミン類又は1-フェニルアミノナフタリン)、芳香族アミン類(フェニルナフチルアミン又はジフェニルアミン等)、フェノール化合物類(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール等)、硫黄酸化防止剤類
・高圧添加物
有機塩素、硫黄、及び/又はリン化合物類、もしくは、有機ビスマス化合物類
・接着促進剤
C2~C6のポリオール、ポリグリコール、脂肪酸、脂肪酸エステル、もしくは、動物性又は植物性油
・腐食防止剤
石油スルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、ソルビタンエステル類、サルコシン、スクシンイミド、脂肪酸誘導体、又はイミダゾリン
・金属不活性化剤
ベンゾトリアゾール及びその誘導体、メルカプトチアジアオール、又は亜硝酸ナトリウム
・粘性増強剤
ポリメチルアクリレート、ポリイソブチレン、ポリ-α-オレフィン類(オリゴ-dec-1-エン(オリゴデセン))、オリゴコポリマー類(エチレンとプロピレンとの共重合化物)、及びポリスチレン類
・摩耗保護添加物及び摩擦低減剤
モリブデン化合物類(有機モリブデン複合体(OMC)等、ジアルキルジチオリン酸モリブデン、ジアルキルジチオカルバミド酸モリブデン、又はジアルキルジチオカルバミド酸モリブデンスルフィド)、特に、ジ-n-ブチルジチオカルバミド酸モリブデン及びジアルキルジチオカルバミド酸モリブデンジスルフィド(Mo(ジアルキルカルバミド酸)(m=0~3及びn=4~1))、又はジチオカルバミド酸金属(例えば、亜鉛)塩又はアンモニウム塩
・摩擦低減剤
機能性ポリマー類(オレイルアミド類)、ポリエーテル類及びアミド類をベースとする有機化合物類(アルキル(ポリエチレングリコール)(テトラデシレングリコール)エーテル等)、アルキル及び/又はアリールリン酸エステル類、ホスホン酸エステル類、並びにチオリン酸エステル類
・光及びUV保護用添加物
【0070】
さらに、本発明に係る潤滑グリース組成物には、キレート化合物、ラジカルトラップ、UV保護剤、反応層形成剤等として作用する、金属の影響だけでなく、腐食及び酸化に対する保護用の代表的な潤滑剤用添加物が含まれる。
【0071】
使用可能な固体潤滑剤としては、例えば、ポリアミド類、ポリイミド類又はPTFE等のポリマーパウダー類、グラファイト、金属酸化物類、窒化ホウ素、モリブデンジスルフィド、タングステンジスルフィド又はタングステン、モリブデン、ビスマス及び亜鉛をベースとする混合スルフィド類等の金属スルフィド類、炭酸カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の塩類が挙げられる。固体潤滑剤は、以下のグループに分類される。すなわち、モリブデンジスルフィド及びタングステンジスルフィド等の層状格子構造を有する化合物、グラファイト、六方晶系窒化ホウ素及びいくつかの金属ハロゲン化物、遷移及びアルカリ土類金属の酸化並びに水酸化化合物もしくは各々の炭酸塩又はリン酸塩、軟質金属類及び/又はプラスチック類である。所望の有利な潤滑特性は、固体潤滑剤を使用せずに、リグニンスルホネートを使用することによってもまた、成立し得る。多くの場合、これらは全体的に除外されるか又は少なくとも著しく低減され得る。
【0072】
ハイブリッドカルシウム複合石鹸をベースとするロープ潤滑剤は、少なくとも以下の成分を含む。
【0073】
【表1】
【0074】
カルシウムスルホネート複合石鹸又はハイブリッドカルシウムスルホネート複合石鹸をベースとするロープ潤滑剤は、少なくとも以下の成分を含む。
【0075】
【表2】
【0076】
求める特性を得るためにビチューメン系又は黒色固体潤滑剤を使用する必要がないので、本発明に用いられるロープ潤滑剤の特別な局面は、明るい外観である。
【0077】
ワイヤーにロープ潤滑剤を適用する代表的な方法は、スプレー(エアロゾル、エアレス、又は静電的手段による)、コーティング、噴射、浸漬コーティング、フローコーティング、ローラー塗布、パウダーコーティング等である。
【0078】
多重ワイヤーから、好ましくはワイヤー及び/又はより糸が結び合わさる前に、ワイヤーロープを生産するために、本発明に係るロープ潤滑剤は部材に適用される。ロープ潤滑剤は、再潤滑にもまた使用され得る。
【0079】
好ましくは、個々の耐張力部材は、固定スプレー装置を通して動かされる。この方法において、非常に長い個々の耐張力部材は、可能な限られた空間にて簡単な操作で、適用された潤滑グリース組成物を有することが可能となる。ここで、金属ワイヤー等の耐張力部材は、スプーラでロールから連続して解かれ、固定スプレー装置を通った後、柔軟で方向変換が可能な張力部材へと形成され、次いで受取ロールへと巻かれる。
【0080】
本発明に係るロープ潤滑剤は、可能な限り、各々薄くした後又は薄い形態で、もしくは加熱することによって、ロープのファイバーコア、例えばサイザルロープからなるロープファイバーコアを浸潤し、載置するためにもまた、使用され得る。そしてワイヤーファイバーコアは、再潤滑のために、そのうえ内部リザーバから使用される。
【実施例
【0081】
A.使用したロープ潤滑剤-市販品及び本発明に係る製品
A.1 カルシウムスルホネート複合石鹸(Ca-Sul-X)をベースとするロープ潤滑剤
【0082】
【表3】
【0083】
基油をカルシウムスルホネートと予混合し、80℃に加熱した。次いで、タップ水及びブチルグリコールを、定期的に撹拌しながら添加し、混合した後、撹拌しながらドデシルベンゼンスルホン酸を添加した(温度は80℃に維持)。遅れてゼラチンが生じた。
【0084】
約1時間後、温度を105℃に上昇させ、水酸化カルシウムを添加し、続けて12-ヒドロキシステアリン酸を添加した。15分間経過後、酢酸を滴下した。リン酸についても同様に滴下した。次いで、175℃~180℃で30分間加熱し、続けて冷却した。CaCOを約60℃で添加した。3ロールミルで潤滑グリースを均質化した。
【0085】
A.2 ハイブリッドカルシウムスルホネート複合剤及びワックス石鹸(ハイブリッドCa-Sul-X)をベースとするロープ潤滑剤
潤滑グリース容器において、25重量%のBrightstock BS 150を50重量%のCa-Sul-Xに添加し、撹拌しながら80℃に加熱した。次いで、凝固点が70℃のパラフィンワックス(25重量%)を滴下した。均質となるように混合した後、約60℃まで冷却した。次いで、3ロールミルで均質化した。
【0086】
A.3 カルシウム複合石鹸をベースとするハイブリッドCa-Xロープ潤滑剤
【0087】
【表4】
【0088】
基油を脂肪酸及び牛脂の混合物と予混合し、80℃に加熱した。次いで、Ca(OH)の水性スラリーを添加した。次いでさらに、リン酸3ナトリウム、4ホウ酸ナトリウム10水和物及び酢酸カルシウムの水溶液を添加した。そして、約30分間で、段階的に温度を250℃まで上昇させた。約60℃まで冷却した後、3ロールミルで潤滑グリース(Ca-X)を均質化した。
【0089】
潤滑グリース容器において、25重量%のBrightstock BS 150を45重量%のCa-Xに添加し、撹拌しながら80℃に加熱した。次いで、凝固点が70℃のパラフィンワックスを滴下した。均質となるように混合した後、約60℃まで冷却し、5重量%の腐食保護添加物(中性カルシウムスルホネート)を添加した。次いで、3ロールミルで均質化した。
【0090】
以下に示すカルシウムスルホネート複合石鹸をベースとするロープ潤滑剤(NLGI稠度番号:000号)は、サイザルファイバーコアを湿潤させるために使用され得る。
【0091】
【表5】
【0092】
A.4 使用した市販品
・ANTICORIT ERC 7540 EU
FUCHS(ドイツ連邦共和国、マンハイム)製
腐食保護及び摩耗低減の向上のための、基油ワックス及び添加物からの製品
・ELASKON SK 21-04
Elaskon(ドイツ連邦共和国、ドレスデン)製
ワックスベースのロープ潤滑剤
・ELASKON 20 BB 94
Elaskon(ドイツ連邦共和国、ドレスデン)製
ワックスベースのロープ潤滑剤
・NYROSTEN T55
Nyrosten(ドイツ連邦共和国、ゲルダーン)製
ワックスベースのロープ潤滑剤
・RENOLIT LC-WP 2
FUCHS(ドイツ連邦共和国、マンハイム)製
12-ヒドロキシステアリン酸リチウム/カルシウム(腐食保護添加物あり)
・RENOLIT CA-FG 50
FUCHS(ドイツ連邦共和国、マンハイム)製
12-ヒドロキシステアリン酸カルシウム(腐食保護添加物なし)
・Elaskon SK-U
Elaskon(ドイツ連邦共和国、ドレスデン)製
ワックスベースのロープ潤滑剤
・Elaskon SK-CE
Elaskon(ドイツ連邦共和国、ドレスデン)製
ワックスベースのロープ潤滑剤
・Berucoat AK 376
Beechem(ドイツ連邦共和国、ハーゲン)製
PTFEベースの水性ペースト(有機バインダーあり)
・Macromelt
Henkel(ドイツ連邦共和国、デュッセルドルフ)製
・Bio Grease MP 2
INTERFLON(オランダ王国、ローゼンダール)製
PTFE機能化リチウム石鹸グリース(リン含有摩耗保護添加物あり)
・OKS 450
OKS Spezialschmierstoffe(ドイツ連邦共和国、マイザッハ-ゲルンリンデン)製
ZnDTPを用いた合成油(モリブデン摩耗保護添加物及び腐食保護添加物としてのカルシウムスルホネートあり)
【0093】
B.1 DIN 51810に準拠した、回転粘度計を用いた潤滑グリースのせん断粘度の決定
スパチュラを用い、充分な量の潤滑グリースを、気泡が生じないようにプレートに適用した。測定システムとコーン及びプレートとを組み合わせた後、過剰量の潤滑グリースを拭い取った。一定の温度での回転速度の作用としてトルクを測定することにより、潤滑グリースのせん断粘度を決定した。せん断応力及びせん断速度は、回転のトルク及び速度から算出する。Anton Paar社製のコーン/プレート粘度計を用い、以下のパラメータにて測定を行った。
温度範囲:30℃~100℃
加熱速度:1℃/min
コーン径:50mm
コーン角:1°
せん断率:500sec-1
本発明に係るCa-Sul-Xグリースだけでなく、ANTICORIT ERC 7540 EU、ELASKON SK 21-04、及びELASKON 20 BB 94も調査した。
【0094】
油及びワックスをベースとするロープ潤滑剤と比較して、著しく向上した粘度/温度特性が認められた。図1に示すように、本発明に係るグリースの粘度/温度カーブは、求められるとおりのフラットなプロットである。
【0095】
B.2 DIN 51580又はDIN ISO 2137に準拠したコーン貫入値の決定
気泡がなく清浄な、融解したサンプルを、テストシリンダー内に注入し、所定の条件下で冷却した。貫入試験機を用い、負荷が与えられ、平衡化されたテストコーン(総質量:150g)の貫入深さを、一定温度での5秒間のテスト時間の間に決定した。ここで、図2に示すように、ハイブリッドCa-X、ハイブリッドCa-Sul-Xだけでなく、特にCa-Sul-Xはまた、油/ワックスベースのロープ潤滑剤(ELASKON SK 21-04)と比較して、より良好な稠度及び温度特性を有していた。また、コーン貫入値は、温度と共に、可能な限り僅かに増加することが望ましいが、少なくとも、高温においてのみ増加が起こることが望ましい。図3よって、油/ワックスベースのロープ潤滑剤と比較して、著しく良好なせん断安定性があることが明らかとなっている。せん断安定性の温度依存に関する測定を、DIN 51580(図3)及びDIN ISO 2137(図2及び3)に準拠して行なった。
【0096】
B.3 Fraass(DIN EN 12593)に準拠した破断点の決定
フラットブランクに適用したビチューメン層をここで、1分間につき1℃の割合で冷却し、各々1分間後に規定のとおりに屈曲させた。Fraassに準拠した破断点は、規定のテスト条件下で屈曲させている間に、ビチューメン層が破断又は欠損する温度(摂氏)である。
【0097】
以下の表によって、油/ワックスベースのロープ潤滑剤と比較して、著しく低温であることが明らかとなっている。
【0098】
【表6】
【0099】
B.4 DIN EN ISO 9227に準拠した塩水霧状スプレーテスト
15cm×10cmの大きさの冷却したロール状スチールテストサンプルを、30%のロープ潤滑剤及び溶媒の溶液に浸漬させ、非金属材料(合成ファイバー、綿ファイバー又は他の絶縁材料)に掛けて保存し、溶液を蒸発させた。サンプルのホルダーもまた、耐性を有する非金属材料からなるものであった。チャンバーにおいて、4つのサンプルを、4つの四分円内に20°(±5°)の角度で垂直に載置した。テスト温度は35℃、スプレー体積は1.5(±0.5)mL/h、スプレー溶液の濃度は50(±5)g/L NaClであった。
【0100】
示された腐食保護性は、油/ワックスベースのロープ潤滑剤のものに匹敵する。
【0101】
【表7】
【0102】
ANTICORIT ERC 7540 EU及びハイブリッドCa-Xと対照的に、Ca-Sul-X及びハイブリッドCa-Sul-Xは、追加の腐食保護添加物を含んでいなかった。
【0103】
B.5 潤滑グリースの腐食防止性についてのテスト:SKF-Emcor法(DIN 51802)
潤滑グリースに水を添加し、自動調心型玉軸受内にてテストを行った。加熱及び負荷なしで、規定のアイドル時間を設け、80min-1の回転速度にて規定の実行時間で所定のサイクルを実施した後、テスト軸受のための外部リングのトラックの腐食をチェックした。
【0104】
観察された腐食保護は、代表的な油/ワックスベースのロープ潤滑剤のものに匹敵するか、いくつかのケースでは、より良好であった。
【0105】
【表8】
【0106】
【表9】
【0107】
B.6 移動発振テスト装置におけるトライボロジーテスト(DIN 51834)
発振テスト装置のテストチャンバー内に挿入し、潤滑剤で湿らせたテストサンプルに、所定のテスト周波数及び所定の振動工程を有する所定の垂直力で機械的に負荷をかけた。連続的に摩擦力(摩擦係数)を測定した。
【0108】
図4に示すように、ELASKON SK 21-04、ELASKON 20 BB 94及びANTICORIT ERC 7540 EUと比較して、Ca-Sul-Xでは、より大きな圧縮で、著しく良好な耐荷重性が観測された。
【0109】
B.7 潤滑剤のテスト:四球テスターにおけるテスト(DIN 51350/4に準拠した粘稠性潤滑剤の溶接荷重の決定)
選択可能なテスト荷重にて、同型の3つの球の上を滑って動く回転球で構成される四球テスターにおいて、粘稠性潤滑剤をテストした。四球テスターの溶接が起こるまで、テスト荷重を段階的に増加させた。
【0110】
【表10】
【0111】
Ca-Sul-Xは、著しく高い耐荷重性を示した。
【0112】
B.8 潤滑剤のテスト:四球テスターにおけるテスト(DIN 51350/5に準拠した粘稠性潤滑剤の摩耗値の決定)
摩耗保護性を決定するために、規定の荷重で耐久テストを行った後、3つの静止球のキャロット径を測定し、平均値を得た。
【0113】
【表11】
【0114】
従来の市販のロープ潤滑剤組成物と比較して、Ca-Sul-X及びハイブリッドCa-Xでは、良好な摩耗保護性が観測された。
【0115】
B.9 プレート/プレート接着テスト(室内テスト法)
ロープ潤滑剤サンプルを、テンプレートを用いてプレート/プレートレオメータに供給し、80℃まで加熱した。この温度に達した後、スパチュラを用いて過剰量のサンプルを除去した。40℃まで冷却した後、テンプレートを除去し、予め規定したギャップに到達するまで、上部プレートを凝固した潤滑剤サンプルの上に下降させた。次いで、下部プレートから予め規定した距離の上部プレートへと到達した後、再び後退してサンプルから急激に動き出る前に、プリセットプログラムを用い、上部プレートを潤滑剤サンプル中へとゆっくりと下降させた。潤滑剤組成物から上部プレートを引っ張り出すのに必要な力を測定した。ここで、図5に示すように、ハイブリッドCa-X及びCa-Sul-Xベースの潤滑剤組成物は、従来の油/ワックスベースの潤滑剤よりも、著しく良好な接着性を有することが分かった。グリースはロープ中に保持されている必要があるので、接着性はロープ潤滑剤にとって特に重要な特性である。
【0116】
B.10 ロープの疲労テスト(Ottoテスト)
グリースを供給したテスト用のロープのループをローラーシステムに導入し、振子運動をさせてローラー上で動かせた。各々同じ負荷にて、合計1.2ミリオンのロールオーバーが行われた。破損したワイヤー数の計測、腐食の形成、及びホワイトペーパーテストにより、ロープを評価した。ホワイトペーパーテストは、テスト機器の下に載置された紙の上に落下した粒子の量又は数に関する。ホワイトペーパーテスト及び腐食形成についての評価スケールは、以下のとおりである。
0:粒子又は腐食がない
1:粒子又は腐食が殆どない
2:粒子又は腐食が少しある
3:粒子又は腐食が多い
4:粒子又は腐食が著しい度合いである
【0117】
【表12】
図1
図2
図3
図4
図5