(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】フォトニック結晶フィルム、その製造方法およびこれを含む偽造防止物品
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20220117BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220117BHJP
B05D 3/06 20060101ALI20220117BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
C08J5/18 CFF
B05D7/24 302T
B05D7/24 303A
B05D3/06 Z
G02B5/30
(21)【出願番号】P 2019556642
(86)(22)【出願日】2018-04-18
(86)【国際出願番号】 KR2018004514
(87)【国際公開番号】W WO2018194374
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2019-10-17
(31)【優先権主張番号】10-2017-0049740
(32)【優先日】2017-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2017-0061447
(32)【優先日】2017-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514157489
【氏名又は名称】コリア ミンティング,セキュリティ プリンティング アンド アイディー カード オペレーティング コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】KOREA MINTING,SECURITY PRINTING & ID CARD OPERATING CORP.
【住所又は居所原語表記】80-67,Gwahak-ro Yuseong-gu Daejeon Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】特許業務法人ナガトアンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】キム, シン-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】リー, ガン ホー
(72)【発明者】
【氏名】チェ, ウォン ギュン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ス ドン
(72)【発明者】
【氏名】カン, ジュ ヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム, ホン ゴン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ヒョン ス
(72)【発明者】
【氏名】キム, エ デン
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106082119(CN,A)
【文献】特表2012-500415(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0161431(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104672733(CN,A)
【文献】国際公開第2009/041646(WO,A1)
【文献】特開2018-039904(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107119327(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/00-5/02
C08J5/12-5/22
G02F1/00-1/125
G02F1/21-7/00
G02B5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン系高分子マトリックスと、前記ポリウレタン系高分子マトリックスに分散し、結晶格子構造に配列されたコロイド粒子とを含むフォトニック結晶フィルムであって、
前記フォトニック結晶フィルムは、最大反射率が10%以上であり、折り畳み可能であり、およびセキュリティ要素用である、
フォトニック結晶フィルム。
【請求項2】
前記フォトニック結晶フィルムは、厚さが10~200μmである、請求項1に記載のフォトニック結晶フィルム。
【請求項3】
前記ポリウレタン系高分子マトリックスは、ポリウレタン系予備重合体から製造される、請求項1に記載のフォトニック結晶フィルム。
【請求項4】
前記ポリウレタン系予備重合体は、80℃での粘度が100~1000cpsである、請求項
3に記載のフォトニック結晶フィルム。
【請求項5】
前記ポリウレタン系予備重合体の重量平均分子量は、500~30,000g/molである、請求項
3に記載のフォトニック結晶フィルム。
【請求項6】
前記ポリウレタン系高分子マトリックスとコロイド粒子との屈折率の差は、0.02以上である、請求項1に記載のフォトニック結晶フィルム。
【請求項7】
前記ポリウレタン系高分子マトリックスの屈折率は1.4~1.5であり、コロイド粒子の屈折率は1.3~2.95である、請求項
6に記載のフォトニック結晶フィルム。
【請求項8】
前記コロイド粒子の平均粒径は、10~315nmである、請求項1に記載のフォトニック結晶フィルム。
【請求項9】
前記コロイド粒子は、下記関係式1を満たす、請求項
8に記載のフォトニック結晶フィルム。
[関係式1]
Da×0.95≦Ds≦Da×1.05
(前記関係式1中、Dsは、コロイド粒子の粒径(nm)であり、Daは、コロイド粒子の平均粒径(nm)である。)
【請求項10】
前記コロイド粒子は、金属ナノ粒子、金属酸化物ナノ粒子、有機ナノ粒子および炭素構造体ナノ粒子から選択されるいずれか一つまたは二つ以上である、請求項1に記載のフォトニック結晶フィルム。
【請求項11】
ポリウレタン系予備重合体、コロイド粒子および光開始剤を含む分散液を基材上に塗布するか、または二つの平行な透明平板の間に注入し、光照射するステップを含むフォトニック結晶フィルムの製造方法であって、
前記フォトニック結晶フィルムは、最大反射率が10%以上であり、折り畳み可能であり、およびセキュリティ要素用である、方法。
【請求項12】
前記分散液は、60~100℃の温度条件で前記基材上に塗布されるか、または前記二つの透明平板の間に注入される、請求項
11に記載のフォトニック結晶フィルムの製造方法。
【請求項13】
a)二つ以上の光重合性官能基を含有する多官能性化合物、コロイド粒子および光開始剤を含む分散液を第1の基材上に塗布し、前記分散液が塗布された第1の基材を第2の基材で覆うステップと、
b)前記塗布された分散液を30℃以上~200℃未満の温度で熟成するステップと、
c)前記熟成された分散液に光を照射して重合するステップとを含み、
前記第1の基材および第2の基材から選択されるいずれか一つ以上は、透明基材であるフォトニック結晶フィルムの製造方法であって、
前記フォトニック結晶フィルムは、セキュリティ要素用である、方法。
【請求項14】
前記熟成は、10分以上行われる、請求項
13に記載のフォトニック結晶フィルムの製造方法。
【請求項15】
前記熟成は、30℃~150℃の温度で行われる、請求項
13に記載のフォトニック結晶フィルムの製造方法。
【請求項16】
前記熟成は、30℃以上~200℃未満の温度まで1分当たり1℃~10℃の温度で昇温させることである、請求項
13に記載のフォトニック結晶フィルムの製造方法。
【請求項17】
請求項1から
10のいずれか一項に記載のフォトニック結晶フィルム、または請求項12から
16のいずれか一項に記載の製造方法により製造されたフォトニック結晶フィルムを含む、偽造防止物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトニック結晶フィルム、その製造方法およびこれを含む偽造防止物品に関する。詳細には、薄厚にもかかわらず高い反射率特性を有することで視認性に優れ、柔軟性が著しく向上することで折り畳み可能な(foldable)セキュリティ要素用フォトニック結晶フィルムおよびこれを含む偽造防止物品に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトニック結晶(photonic crystal)とは、マトリックスと互いに異なる屈折率を有する粒子が規則的に配列されて結晶格子をなす物質であって、光の波長の半分程度で誘電定数が周期的に変化することでフォトニックバンドギャップを有する物質を意味する。
【0003】
フォトニックバンドギャップは、半導体において電子のバンドギャップが電子を制御するのと同じ方式でフォトニック結晶で光子を制御するが、外部で広い範囲のスペクトルを有する光がフォトニック結晶に入射する場合、フォトニックバンドギャップに相当する波長帯の光のみが物質の内部に伝播されず選択的に反射する。かかるフォトニックバンドギャップが可視光領域に存在する場合、フォトニックバンドギャップによる選択的反射は反射色で示される。
【0004】
コロイド粒子の規則的な配列が反射色を示すことは前記と同じ原理であり、フォトニック結晶のフォトニックバンドギャップに相当する色である。コロイドフォトニック結晶の反射色は、コロイドおよびマトリックス物質の屈折率、結晶構造、粒径、粒子間の間隔などによって決定される。したがって、これを制御することで所望の反射色を有するフォトニック結晶を製造することができる。
【0005】
一方、フィルム状のフォトニック結晶は、フィルムの厚さを増やして反射率を向上させることで視認性に優れた反射色を出すようにすることはできるが、フォトニック結晶フィルム自体の機械的強度が非常に弱くて割れやすいなどの耐久性問題によって取り扱いが容易でなく、柔軟性を要する紙幣、セキュリティドキュメントなどの領域への適用には限界がある。
【0006】
そこで、高い反射率特性を有することで視認性に優れ、且つ柔軟性が著しく向上することで折り畳み可能な(foldable)フォトニック結晶フィルムの開発が必要となっている。
【0007】
類似先行文献としては、特許文献1が提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】韓国公開特許第10‐2015‐0031862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、薄厚にもかかわらず高い反射率特性を有することで視認性に優れ、柔軟性が著しく向上することで折り畳み可能なセキュリティ要素用フォトニック結晶フィルムを提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、高い反射率特性を有することで視認性に優れ、且つ柔軟性が著しく向上することで折り畳み可能なセキュリティ要素用フォトニック結晶フィルムの製造方法および前記フォトニック結晶フィルムを含む偽造防止物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するための本発明の一様態は、ポリウレタン系高分子マトリックスと、前記ポリウレタン系高分子マトリックスに分散し、結晶格子構造に配列されたコロイド粒子とを含むフォトニック結晶フィルムに関する。
【0012】
本発明の一様態によると、前記セキュリティ要素用フォトニック結晶フィルムは、最大反射率が10%以上であってもよい。
【0013】
本発明の一様態によると、前記セキュリティ要素用フォトニック結晶フィルムは、厚さが10~200μmであってもよい。
【0014】
本発明の一様態によると、前記ポリウレタン系高分子マトリックスは、ポリウレタン系予備重合体から製造されてもよい。
【0015】
本発明の一様態によると、前記ポリウレタン系予備重合体は、80℃での粘度が100~1000cpsであってもよい。
【0016】
本発明の一様態によると、前記ポリウレタン系予備重合体の重量平均分子量は、500~30,000g/molであってもよい。
【0017】
本発明の一様態によると、前記ポリウレタン系高分子マトリックスとコロイド粒子との屈折率の差は、0.02以上であってもよい。
【0018】
本発明の一様態によると、前記ポリウレタン系高分子マトリックスの屈折率は1.4~1.5であり、コロイド粒子の屈折率は1.3~2.95であってもよい。
【0019】
本発明の一様態によると、前記フォトニック結晶フィルムは厚さが10~200μmであってもよい。
【0020】
本発明の一様態によると、前記コロイド粒子の平均粒径は、10~315nmであってもよい。
【0021】
本発明の一様態によると、前記コロイド粒子は、下記関係式1を満たしてもよい。
[関係式1]
Da×0.95≦Ds≦Da×1.05
(前記関係式1中、Dsは、コロイド粒子の粒径(nm)であり、Daは、コロイド粒子の平均粒径(nm)である。)
【0022】
本発明の一様態によると、前記コロイド粒子は、金属ナノ粒子、金属酸化物ナノ粒子、有機ナノ粒子および炭素構造体ナノ粒子から選択されるいずれか一つまたは二つ以上であってもよい。
【0023】
本発明の一様態によると、前記フォトニック結晶フィルムはセキュリティ要素用であってもよい。
【0024】
本発明の他の様態は、ポリウレタン系予備重合体、コロイド粒子および光開始剤を含む分散液を基材上に塗布するか、または二つの平行な透明平板の間に注入し、光照射するステップを含むフォトニック結晶フィルムの製造方法に関する。
【0025】
本発明の他の様態によると、前記分散液は、60~100℃の温度条件で前記基材上に塗布されるか、または前記二つの透明平板の間に注入されてもよい。
【0026】
本発明のさらに他の様態は、a)二つ以上の光重合性官能基を含有する多官能性化合物、コロイド粒子および光開始剤を含む分散液を第1の基材上に塗布し、前記分散液が塗布された第1の基材を第2の基材で覆うステップと、
b)前記塗布された分散液を30℃以上~200℃未満の温度で熟成するステップと、
c)前記熟成された分散液に光を照射して重合するステップとを含み、
前記第1の基材および第2の基材から選択されるいずれか一つ以上は、透明基材であるフォトニック結晶フィルムの製造方法に関する。
【0027】
本発明のさらに他の様態によると、前記熟成は、10分以上行われてもよい。
【0028】
本発明のさらに他の様態によると、前記熟成は、30~100℃の温度で行われてもよい。
【0029】
本発明のさらに他の様態によると、前記熟成は、30℃以上~200℃未満の温度まで1分当たり1℃~10℃の温度で昇温させることを含んでもよい。
【0030】
また、本発明のさらに他の様態は、上述のフォトニック結晶フィルムと製造方法により製造されたフォトニック結晶フィルムを含む偽造防止物品に関する。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係るフォトニック結晶フィルムによると、柔軟性を著しく向上させることができるというメリットがある。また、高分子とコロイド粒子との接着力に優れることでコロイド粒子が高分子マトリックスから簡単に分離しないというメリットがある。これは、簡単に割れたり剥がれるなどのフィルム損傷を防止することができ、フィルムの耐久性を向上させることができる。また、フィルムを容易に取り扱うことができ、柔軟性を要する紙幣、セキュリティドキュメントなどの偽造防止物品へのセキュリティ要素としての適用に有利であるというメリットがある。
【0032】
本発明に係るフォトニック結晶フィルムの製造方法によると、コロイド粒子が高分子マトリックスの内部で迅速に自己組立されるようにすることができ、自己組立の際、コロイド粒子が極めて均一に結晶格子構造に配列されることで製造されたフォトニック結晶フィルムの最大反射率を著しく増加させることができるというメリットがある。
【0033】
特に、毛管力を用いて二つの透明基材の間に分散液を注入する過程において非常に時間がかかった既存の方式とは異なり、本発明によると、単純に一つの基材上に分散液を塗布した後、その上に他の基材を載せるという非常に簡単な方式でフォトニック結晶フィルムを製造することができる。これは、フィルムの製造時にかかる時間が大幅に減少して製造効率を大きく向上させることができるというメリットがある。
【0034】
なお、分散液を熟成する工程を含むことで粘度の高い多官能性化合物も使用可能であるというメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】比較例1および実施例1により製造されたセキュリティ要素用フォトニック結晶フィルムの反射率(%)測定資料である。
【
図2】実施例4、5および比較例2により製造されたフォトニック結晶フィルムの可視光領域での反射顕微鏡測定イメージである。
【
図3】実施例4、5および比較例2により製造されたフォトニック結晶フィルムの反射率(%)測定資料である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、添付の図面を参照して、本発明に係るフォトニック結晶フィルム、その製造方法およびこれを含む偽造防止物品について詳細に説明する。以下に示される図面は、当業者に本発明の思想を十分に伝達するために例として提供されるものである。したがって、本発明は、以下に示される図面に限定されず、他の形態に具体化してもよく、以下に示される図面は、本発明の思想を明確にするために誇張して図示され得る。また、明細書の全体にわたり同じ参照番号は同じ構成要素を指す。
【0037】
この際、使用される技術用語および科学用語において他の定義がない限り、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が通常理解している意味を有しており、下記の説明および添付の図面で本発明の要旨を不明瞭にし得る公知の機能および構成に関する説明は省略する。
【0038】
本発明において、フォトニック結晶フィルムは、特定の波長に対して反射スペクトルを有する。
【0039】
本発明の第1の様態は、ポリウレタン系高分子マトリックスと、前記ポリウレタン系高分子マトリックスに分散し、結晶格子構造に配列されたコロイド粒子とを含むフォトニック結晶フィルムを提供する。
【0040】
本発明の第1の様態によると、前記フォトニック結晶フィルムは、ポリウレタン系高分子マトリックスを含むことで、高度の物理的変形が加えられた場合にフィルムが簡単に割れたり損傷することを防止できる特性を有する。また、フォトニック結晶フィルムの柔軟性が著しく向上することで折り畳み(folding)などの高度の物理的変形にも損傷を受けず、折り畳み可能な(foldable)素材への応用が実質的に可能であるというメリットがある。また、繰り返し変形が加えられてもフォトニック結晶フィルムの物性が低下しない特性を有する。また、原形がそのまま維持されてセキュリティ要素として適用する際にフォトニック結晶フィルムが必須に有すべき優れた反射率特性を維持し続けることができる。これにより、セキュリティ要素としての性質を維持できるという特性を有する。さらに、ポリウレタン系高分子とコロイド粒子との接着力に優れることでコロイド粒子がマトリックスから簡単に分離されず、フィルムの耐久性が向上し、フィルムを容易に取り扱うことができる。これは、柔軟性を要する紙幣、セキュリティドキュメントなどの偽造防止物品にセキュリティ要素として適用できるというメリットがある。
【0041】
本発明の第1の様態によると、前記フォトニック結晶フィルムは、最大反射率が10%以上、より好適には20%以上、好ましくは40%以上であってもよい。かかる特性を有することで、卓越した視認性および識別性の特性を有する。これは、既存の優れた反射率を示すフォトニック結晶フィルムに比べても全く劣らない反射率を示すことから、セキュリティ要素の用途に十分使用可能である。好ましくは、第1の様態によるフォトニック結晶フィルムの最大反射率は、48%以上であってもよい。最大反射率の上限は特に限定されないが、実質的な最大反射率の上限は60%以下であってもよい。この際、最大反射率が示される波長領域は、使用されるコロイド粒子の粒径に応じて異なり得るため、その波長領域を限定できないことは言うまでもない。具体例として、平均粒径が170nmの球状のシリカをコロイド粒子として使用する際、最大反射率は、530~535nmの波長領域で示され得、反射色は緑色系であり得る。もしくは、平均粒径が200nmの球状のシリカをコロイド粒子として使用する際、最大反射率は620~630nmの波長領域で示され得、反射色は赤色系であり得る。
【0042】
本発明の第1の様態によると、前記フォトニック結晶フィルムは、折り畳み可能な程度の極めて優れた柔軟性を有するために適切な厚さ範囲を有することが好ましい。具体的には、前記フォトニック結晶フィルムは、厚さが10~200μmであってもよい。前記範囲である場合、セキュリティ要素用フォトニック結晶フィルムが著しく優れた柔軟性を有し、且つ適切な機械的強度が維持されて高度の物理的変形が繰り返して印加される環境でもセキュリティ要素用フォトニック結晶フィルムが損傷されず、そのままの原形を維持することができる。より好適には、セキュリティ要素用フォトニック結晶フィルムの厚さは、30~150μmであってもよく、さらに好ましくは50~100μmであってもよい。
【0043】
本発明の第1の様態によると、前記高分子マトリックスとコロイド粒子を適切に選定することが、本発明が目的とする効果を達成するために好ましい。
【0044】
本発明の第1の様態によると、前記ポリウレタン系高分子マトリックスは、ポリウレタン系予備重合体から製造されてもよい。折り畳み可能な程度の柔軟性の確保およびコロイド粒子との接着力の向上の特性を有することでフォトニック結晶フィルムの損傷を防止するために、前記ポリウレタン系予備重合体は、その物性が調節されたものを使用することができる。この際、ポリウレタン系予備重合体は、硬化可能な官能基を含有している比較的重合度の低い重合体であり、ポリウレタン系高分子マトリックスになる前のポリウレタン系高分子を意味し得る。
【0045】
好ましくは、本発明の第1の様態による前記ポリウレタン系予備重合体は、適正温度で適正粘度範囲を有し得る。これにより、非常に薄厚のセキュリティ要素用フォトニック結晶フィルムの製造が可能である。また、自体柔軟性に極めて優れたポリウレタン系高分子マトリックスが形成されることで、フォトニック結晶フィルムが簡単に割れたり損傷することを防止することができる。なお、フォトニック結晶フィルムの製造の際、後述のとおり、分散液が二つの透明平板の間に容易に注入されて、フィルム製造工程時間を短縮できるという効果を有する。
【0046】
本発明の第1の様態によると、前記ポリウレタン系予備重合体は、80℃での粘度が100~1,000cpsであってもよい。より好適には200~800cps、さらに好適には300~600cpsであってもよい。一方、80℃でポリウレタン系予備重合体の粘度が1,000cps超の場合、分散液の流動性が足りず、二つの透明平板の間への注入が困難になり得、そのため、フィルム状のフォトニック結晶の製造が困難になり得る。
【0047】
また、前記ポリウレタン系予備重合体は、重量平均分子量が500~30,000g/mol、具体的には800~10,000g/mol、より具体的には1,000~5,000g/molであってもよい。前記範囲である場合、極めて優れた柔軟性を有するポリウレタン系高分子マトリックスを容易に形成することができる。この際、重量平均分子量は、GPC(Gel Permeation Chromatography、agilent Tech社製、1260 infinity)で測定したものである。この際、カラムは、PLgel 5μm MIXED‐D 300×7.5mm2個、PLgel 5μm50×7.5mm1個を連結して使用したものであり、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を使用する。
【0048】
本発明の第1の様態によると、前記ポリウレタン系予備重合体は、少なくとも一つ以上の光硬化性官能基を含有してもよく、光硬化性官能基は、光照射により重合可能な重合性基であれば特に限定されないが、具体的例として、ビニル基、アクリレート基またはメタクリレート基などのエチレン性不飽和基であってもよい。
【0049】
前記ポリウレタン系予備重合体は、本発明において目標とする物性、例えば、柔軟性、屈折率および反射率などの物性を損なわけない範囲で、ポリイソシアネート系化合物とポリオール系化合物などの重合反応により製造され得る。
【0050】
前記ポリイソシアネート系化合物は、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネートおよび脂環族ポリイソシアネートからなる群から選択される一つまたは二つ以上であってもよい。具体的な一例として、芳香族ポリイソシアネートは、1,3‐フェニレンジイソシアネート、1,4‐フェニレンジイソシアネート、2,4‐トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6‐トリレンジイソシアネート、4,4´‐ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4‐ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4´‐ジイソシアナトビフェニル、3,3´‐ジメチル‐4,4´‐ジイソシアナトビフェニル、3,3´‐ジメチル‐4,4´‐ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5‐ナフチレンジイソシアネート、4,4´,4´´‐トリフェニルメタントリイソシアネート、m‐イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネートまたはp‐イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネートなどであってもよく、脂肪族ポリイソシアネートは、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、1,6,11‐ウンデカントリイソシアネート、2,2,4‐トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リシンジイソシアネート、2,6‐ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2‐イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2‐イソシアナトエチル)カーボネートまたは2‐イソシアナトエチル‐2,6‐ジイソシアナトヘキサノエートなどであってもよく、脂環族ポリイソシアネートは、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4´‐ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水添TDI)、ビス(2‐イソシアナトエチル)‐4‐ジクロヘキセン‐1,2‐ジカルボキシレート、2,5‐ノルボルナンジイソシアネートおよび2,6‐ノルボルナンジイソシアネートからなる群から選択されるいずれか一つ以上であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0051】
前記ポリオール系化合物は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールおよびこれらの混合物などを使用してもよく、具体的な一例として、ポリエステルポリオールは、ポリエチレンアジフェート、ポリブチレンアジフェート、ポリ(1,6‐ヘキサアジフェート)、ポリジエチレンアジフェートまたはポリ(e‐カプロラクトン)などであってもよく、ポリエーテルポリオールは、ポリエチレングリコール、ポリジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールまたはポリエチレンプロピレングリコールなどであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0052】
本発明の第1の様態によると、前記コロイド粒子は、フォトニック結晶フィルムの製造の際、高分子マトリックスに分散して結晶格子構造をなすことで、実質的にフォトニック結晶フィルムがフォトニック結晶特性を有するようにする物質であり、特定のサイズを満たし、当業界において通常使用されるものであれば、特に限定されず使用可能である。
【0053】
具体例としては、コロイド粒子は、金属ナノ粒子、金属酸化物ナノ粒子、有機ナノ粒子および炭素構造体ナノ粒子などから選択されるいずれか一つまたは二つ以上であってもよい。より詳細には、金属ナノ粒子は、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)およびケイ素(Si)などから選択されるいずれか一つまたはこれらの混合物またはこれらの合金などであってもよく、金属酸化物ナノ粒子は、前記金属ナノ粒子の酸化物であってもよい。有機ナノ粒子は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリジメチルシロキサン、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホンおよびポリカーボネートなどから選択されるいずれか一つまたは二つ以上の高分子ナノ粒子であってもよく、炭素構造体ナノ粒子は、グラファイトなどであってもよい。
【0054】
前記コロイド粒子の粒径は、当業界において通常使用されるものであれば、特に限定されず使用可能である。具体的には、前記コロイド粒子の平均粒径は、10~315nmであってもよい。より具体的には、コロイド粒子の粒径は、コロイド粒子がフォトニック結晶フィルムで占める体積に応じて異なって調節され得る。すなわち、コロイド粒子の体積比率に応じて使用されるコロイド粒子の粒径が異なり得、フォトニック結晶フィルムの全体積に対して、コロイド粒子の体積が5~25体積%である場合、コロイド粒子の平均粒径は10~180nmであってもよく、コロイド粒子の体積が25超~60体積%である場合、コロイド粒子の平均粒径は180nm超~250nmであってもよく、コロイド粒子の体積が60超~90体積%である場合、コロイド粒子の平均粒径は250nm超~315nmであってもよいが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0055】
より具体的な一例示として、フォトニック結晶フィルムの全体積に対して、コロイド粒子の体積が33体積%である場合、コロイド粒子の平均粒径は140~220nmであってもよく、体積が5体積%である場合、コロイド粒子の平均粒径は50~120nmであってもよく、体積が90体積%である場合、コロイド粒子の平均粒径は180~315nmであってもよい。前記範囲内である場合、フォトニック結晶フィルムの視認性の確保に有利な特性を有し、前記範囲から逸脱する場合、可視光領域の反射波長から離脱してフォトニック結晶フィルムの視認性の確保が困難になり得る。
【0056】
この際、コロイド粒子の形状は、特に制限されないが、球状のナノ粒子を使用することが好ましい。
【0057】
特に、高分子マトリックスに分散して非常に均一且つ規則的に配列された結晶格子構造を形成して優れた反射率を確保するための面から、コロイド粒子は、下記の関係式1を満たしてもよい。
【0058】
[関係式1]
Da×0.95≦Ds≦Da×1.05
(前記関係式1中、Dsは、コロイド粒子の粒径(nm)であり、Daは、コロイド粒子の平均粒径(nm)である。)
【0059】
すなわち、コロイド粒子の平均粒径が200nmの場合、コロイド粒子それぞれの粒径は、190~210nmの粒径を満たしてもよい。この際、コロイド粒子の粒径および平均粒径(D50)は、粒径分布度(particle size distribution)から算出されてもよく、粒径分布度は、レーザ粒度分析装置を用いて測定されてもよい。
【0060】
このように、極めて均一な粒径を有するコロイド粒子を使用することで、高度に精度よく規則的に配列された結晶格子構造を形成することができ、これにより、フォトニック結晶フィルムがより優れた反射率を有することで優れた視認性を示すことができる。
【0061】
さらに、フォトニック結晶は、高分子マトリックスと互いに異なる屈折率を有する粒子が規則的に配列されて結晶格子をなす物質であるため、フォトニック結晶フィルムにおいても、高分子マトリックスの屈折率とコロイド粒子の屈折率が非常に重要である。
【0062】
好ましい一具体例として、高分子マトリックスとコロイド粒子の屈折率の差は、使用される物質に応じて異なり得、一具体例として、高分子マトリックスとコロイド粒子との屈折率の差は、0.02以上であってもよく、より好適には0.03~1.55であってもよい。前記範囲である場合、フォトニック結晶フィルムが、特定の波長に対して優れた反射スペクトルを有することができる。最大反射率は、10%以上、具体的には35%以上、より具体的には45%以上、さらに具体的には50%以上の最大反射率を有することができる。
【0063】
この際、高分子マトリックスの屈折率は1.4~1.5であり、コロイド粒子の屈折率は1.3~2.95であってもよい。より具体的には、非限定的な一例示として、高分子マトリックスの屈折率は1.45~1.49であってもよく、好適には1.47~1.49であってもよく、コロイド粒子の屈折率は、コロイド粒子の種類に応じて異なり得、具体的な一例示として、コロイド粒子がシリカナノ粒子の場合、シリカナノ粒子の屈折率は、1.43~1.5であってもよく、より具体的には1.45であってもよい。この際、屈折率は、プリズムカプラ(Prism coupler)を用いて測定されたものである。具体的には、可視光領域の波長範囲で反射率を測定し、屈折率波長分散の近似式としてコーシー(cauchy)の分散公式を使用して最小二乗法(curve fitting)により前記コーシー(cauchy)の分散公式の光学定数を計算し、550nmの波長および23℃の温度で屈折率を測定したものである。
【0064】
本発明の第2の様態は、ポリウレタン系予備重合体、コロイド粒子および光開始剤を含む分散液を基材上に塗布するか、または二つの平行な透明平板の間に注入し、光照射するステップを含むセキュリティ要素用フォトニック結晶フィルムの製造方法を提供するものである。
【0065】
本発明の第2の様態によると、前記製造方法は、基材上に分散液を塗布した後、これを光硬化してフォトニック結晶フィルムを製造するか、所望のフィルムの厚さだけの隙間を有する二つの透明平板の間に分散液を注入し、これを光硬化することで、フィルム形状を有するセキュリティ要素用フォトニック結晶フィルムを製造することができる。好適には、二つの透明平板の間に分散液を注入して光硬化フィルムを製造することが、フィルムの厚さを容易に調節することができ、非常に均一な厚さを有するフィルムを製造する面から好ましい。
【0066】
本発明の第2の様態によると、前記分散液は、ポリウレタン系予備重合体:コロイド粒子の体積分率が0.9:0.1~0.5:0.5であってもよい。前記範囲である場合、コロイド粒子間の反発力が効果的に作用して、コロイド粒子が結晶格子構造に配列され得る。また、特定の反射スペクトルを有することで優れた視認性および識別性を有することができる。好ましくは、前記ポリウレタン系予備重合体:コロイド粒子の体積分率は、0.8:0.2~0.6:0.4であってもよい。前記範囲である場合、コロイド粒子の結晶格子構造への配列がより効果的である。
【0067】
本発明の第2の様態によると、前記光開始剤は、ポリウレタン系予備重合体が十分に光硬化され得る程度であれば特に限定されないが、例えば、ポリウレタン系予備重合体の体積に対して0.3~3重量%添加され得る。より好適には、0.5~2重量%添加されることが、セキュリティ要素用フォトニック結晶フィルムの反射率を低下させない面で効果的である。
【0068】
この際、ポリウレタン系予備重合体およびコロイド粒子は、前記で詳述したとおりであるため、重複説明は省略する。
【0069】
前記光開始剤は、当業界において通常使用されるものであれば、特に限定されず使用可能である。具体的な一例として、1‐ヒドロキシ‐シクロヘキシル‐フェノール‐ケトン、2‐メチル‐1[4‐(メチルチオ)フェニル]‐2‐モルホリノプロパン‐1‐オン、ベンジルジメチルケトン、1‐(4‐ドデシルフェニル)‐2‐ヒドロキシ‐2‐メチルプロパン‐1‐オン、2‐ヒドロキシ‐2‐メチル‐1‐フェニルプロパン‐1‐オン、1‐(4‐イソプロピルフェニル)‐2‐ヒドロキシ‐2‐メチルプロパン‐1‐オン、ベンゾフェノン、2,2‐ジメトキシ‐2‐フェニルアセトフェノン、2,2‐ジエトキシ‐2‐フェニルアセトフェノン、2‐ヒドロキシ‐2‐メチル‐1‐プロパン‐1‐オン、4,4´‐ジエチルアミノベンゾフェノン、ジクロロベンゾフェノン、2‐メチルアントラキノン、2‐エチルアントラキノン、2‐メチルチオキサントン、2‐エチルチオキサントン、2,4‐ジメチルチオキサントンおよび2,4‐ジエチルチオキサントンなどから選択されるいずれか一つまたは二つ以上が挙げられるが、これに制限されるものではない。
【0070】
分散液が準備されると、これを基材上に塗布するか、または二つの透明平板の間に注入することができる。塗布方法は、通常使用されるものであれば、特に限定されず使用可能である。一例として、スピンコーティング、ドクターブレーディング、ディップコーティング、スプレーコーティング、キャスティング、スクリーンプリンティング、インクジェットプリンティング、電気流体力学プリンティング、マイクロコンタクトプリンティング、インプリンティング、グラビアプリンティング、リバースオフセットプリンティングまたはグラビアオフセットプリンティングなどを用いてもよい。なお、注入方法も特に限定されず、一例として、毛管力により二つの透明平板の間に分散液を充填することができる。
【0071】
この際、分散液は、60~100℃の温度条件で前記基材上に塗布されるか、または前記二つの透明平板の間に注入され得る。前記範囲である場合、ポリウレタン系予備重合体が適切な粘度を有することで、分散液が適切な厚さで基材上に塗布され得る。また、二つの透明平板の間に容易に注入されて製造工程時間を短縮できるというメリットがある。
【0072】
この際、前記基材は、フォトニック結晶フィルムを容易に分離できるものであれば、特に限定されず使用可能である。好ましくは、ガラス板などを使用することができる。
【0073】
前記二つの透明平板の間の間隔は、所望のフィルムの厚さに応じて異なって調節され得る。具体的には、30~150μm、より好適には50~100μmの間隔を有することができる。
【0074】
なお、透明平板は、光が透過してポリウレタン系予備重合体が十分に光重合され、且つセキュリティ要素用フォトニック結晶フィルムと容易に分離されるものを選択することが好適である。具体的な一例として、ガラス板を使用することができるが、これに制限されるものではない。
【0075】
分散液の塗布または注入後には、光を照射してポリウレタン系予備重合体を光重合することで、ポリウレタン系高分子マトリックスと、ポリウレタン系高分子マトリックスとに分散し、結晶格子構造に配列されたコロイド粒子とを含むセキュリティ要素用フォトニック結晶フィルムを製造することができる。
【0076】
この際、光は、紫外線を意味し得、より具体的には200~500nmの波長領域を有する光であってもよい。より好適には254~400nmの波長領域を有する光であってもよく、さらに好適には330~370nmの波長領域を有する光であってもよいが、これに限定されるものではない。また、様々な波長帯の光が混合された光、もしくは単一波長帯の光であってもよい。
【0077】
本発明の第2の様態によると、前記光照射は、セキュリティ要素用フォトニック結晶フィルムのサイズなどに応じてその条件を異なって調節することができ、ポリウレタン系予備重合体を含む分散液が十分に硬化するまで光が照射されることは言うまでもない。非限定的な一例として、光照射は、出力5~20mW/cm2の光を3~30秒間照射することで行われ得、より好適には、出力7~15mW/cm2の光を5~10秒間照射することで行われ得るが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0078】
次に、基材上または透明平板の間で製造されたセキュリティ要素用フォトニック結晶フィルムを分離し、硬化していない未反応物を除去する工程をさらに実施してもよいことは言うまでもない。
【0079】
本発明の第3の様態は、a)二つ以上の光重合性官能基を含有する多官能性化合物、コロイド粒子および光開始剤を含む分散液を第1の基材上に塗布し、前記分散液が塗布された第1の基材を第2の基材で覆うステップと、b)前記塗布された分散液を30℃以上~200℃未満の温度で熟成するステップと、c)前記熟成された分散液に光を照射して重合するステップとを含み、前記第1の基材および第2の基材から選択されるいずれか一つ以上は、透明基材である、フォトニック結晶フィルムの製造方法を提供する。
【0080】
フォトニック結晶フィルムは、公知の方法、例えば、所定の間隔で離れた二つのガラス基板によって発生する毛管力(capillarity)を用いて分散液が自然に二つのガラス基板の間に注入される浸透法(infiltration)により製造され得るが、これは、分散液を二つのガラス基板の間に注入するのにかなり時間がかかり、フィルム製造効率の向上に限界がある。また、高温作業が困難であるため、粘度の高い分散液は使用が困難である。
【0081】
かかる問題を解決するために、本発明の第3の様態による製造方法によると、単純な塗布および覆う方式だけでもより迅速にフォトニック結晶フィルムを製造することができ、且つ最大反射率を向上させることができる。
【0082】
本発明の第3の様態によると、フォトニック結晶フィルムの製造方法は、分散液を塗布した後、30℃以上~200℃未満の温度で熟成することで、コロイド粒子が多官能性化合物マトリックスの内部で迅速に自己組立されるようにすることができる。自己組立の際、コロイド粒子が極めて均一に結晶格子構造に配列されることで製造されたフォトニック結晶フィルムの最大反射率が著しく増加することができる。
【0083】
特に、毛管力を用いて二つの透明基材の間に分散液を注入する過程において非常に時間がかかった既存の方式とは異なり、本発明は、単純に一つの基材上に分散液を塗布した後、その上に他の基材を載せる非常に簡単な方式でフォトニック結晶フィルムを製造することができ、これによりフィルムの製造時にかかる時間が大幅に減少し、製造効率を著しく向上させることができるというメリットがある。
【0084】
なお、30℃以上~200℃未満の温度で分散液を熟成することで、粘度の低い多官能性化合物を使用することに制限されず、相対的に粘度の高い多官能性化合物も使用が可能であるというメリットがある。
【0085】
以下、本発明の第3の様態によるフォトニック結晶フィルムの製造方法について詳細に説明する。
【0086】
先ず、a)二つ以上の光重合性官能基を含有する多官能性化合物、コロイド粒子および光開始剤を含む分散液を第1の基材上に塗布し、前記分散液が塗布された第1の基材を第2の基材で覆うステップを行うことができる。この際、以降に塗布された分散液を光重合すべきであるため、第1の基材および第2の基材から選択されるいずれか一つ以上は必ず透明基材であることが好ましい。
【0087】
本発明の第3の様態によると、前記製造方法は、単純に一つの基材上に分散液を塗布した後、その上に他の基材を載せる非常に簡単な方式でフォトニック結晶フィルムを製造できることから、フィルムの製造時にかかる時間が大幅に減少し、製造効率を大きく向上させることができる。
【0088】
本発明の第3の様態によると、前記分散液は、特に限定されるものではないが、多官能性化合物:コロイド粒子の体積分率は、0.9:0.1~0.5:0.5であってもよい。前記範囲である場合、コロイド粒子間の反発力が効果的に作用してコロイド粒子が結晶格子構造に配列され得る。また、特定の波長で高い反射率を有することで優れた視認性および識別性を有する特性がある。より効果的にコロイド粒子を結晶格子構造に配列するための面から、より好適には、多官能性化合物:コロイド粒子の体積分率は、0.8:0.2~0.6:0.4であってもよい。
【0089】
前記光開始剤およびコロイド粒子は、前記で詳述したとおりであるため、重複説明は省略する。
【0090】
本発明の第3の様態によると、前記多官能性化合物は、熟成温度で液状であってもよい。具体的には、熟成温度での粘度が1~1000cps、好適には5~500cpsであるものを使用することが好ましい。
【0091】
本発明の第3の様態によると、前記多官能性化合物は、二つ以上の光重合性官能基を含有する単量体または二つ以上の光重合性官能基を含有する予備重合体であってもよい。前記光重合性官能基は、光照射により重合可能な重合性基であれば、特に制限されず使用可能である。一例として、ビニル基、アクリレート基またはメタクリレート基などのエチレン性不飽和基であってもよい。もしくは、前記多官能性化合物は、光重合が可能なものは言うまでもなく、重合後に優れた柔軟性を提供できるものであれば、特に制限されず使用可能である。
【0092】
より具体的には、前記多官能性化合物は、エトキシレーティッドトリメチロールプロパントリアクリレート(ETPTA)、ジ(トリメチロールプロパン)テトラクリレート、グリセロールプロポキシレートトリアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート、またはトリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレートなどの光硬化性多官能性単量体からなる群から選択されるいずれか一つまたは二つ以上であってもよいが、これに制限されるものではない。また、ポリウレタン系予備重合体を含む。前記ポリウレタン系予備重合体は、第1の様態で詳述したとおりであるため、これに関する説明は省略する。
【0093】
本発明の第3の様態によると、準備された分散液は、第1の基材上に塗布される。塗布方法は、前記で詳述したとおりである。この際、前記第1の基材は、計画するフォトニック結晶フィルムの形状に応じて溝が形成されていてもよい。前記溝は、計画するフォトニック結晶フィルムの厚さに応じてその深さが調節されてもよく、具体例としては、10~200μm、より好適には30~150μmの深さを有してもよい。
【0094】
分散液の塗布後には、分散液が塗布された第1の基材を第2の基材で覆い塗布された分散液の厚さを精度よく調節することができ、このように非常に簡単な過程により、分散液が均一な厚さを有するフィルム形状を有するようにすることができる。
【0095】
なお、第1の基材および第2の基材から選択されるいずれか一つ以上は、光が透過して多官能性化合物が効果的に光重合され、且つフォトニック結晶フィルムと容易に分離されるものを選択することが好適であり、具体例としては、ガラス板を使用することができるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0096】
第1の基材または第2の基材が透明基材ではない場合、基材は、フォトニック結晶フィルムと容易に分離されるものであれば、いずれも使用可能である。
【0097】
次に、b)前記塗布された分散液を50℃以上~200℃未満の温度で熟成するステップを行うことができる。この際、熟成は、塗布された分散液を同一条件の温度で所定の時間放置することを意味し得、本発明の一例による分散液は、溶媒を含んでいないことから溶媒を除去するために熱を加えるものではなく、30℃以上~200℃未満の温度で分散液を熟成して多官能性化合物の粘度を適切に調節し、これにより、コロイド粒子を極めて精度よく規則的な結晶格子構造に配列するためのものである。
【0098】
このためには、熟成温度が最も重要である。前記熟成温度としては、好適には30℃~150℃、より好適には30℃~100℃の温度で熟成ステップを行うことが好ましい。かかる範囲である場合、コロイド粒子が高度に精度よく規則的に配列された結晶格子構造を形成することができ、これにより製造されるフォトニック結晶フィルムがより優れた反射率を有することで優れた視認性を示すことができる。一方、30℃未満と温度が低すぎる場合、コロイド粒子の結晶格子構造の精密性が若干低下し得、温度が200℃超と高すぎる場合、多官能性化合物が部分的に熱重合され得、この場合もまたコロイド粒子の結晶格子構造の規則性が低下し得る。
【0099】
また、熟成ステップは、所定の時間以上行うことが好適であり、具体例としては、熟成は10分以上行われ得る。10分未満で熟成を行う場合、コロイド粒子の結晶格子構造の精密性が若干低下し得、その状態で光を照射する場合、製造されたフォトニック結晶フィルムの最大反射率が低くなり得る。好ましくは、製造されるフォトニック結晶フィルムの最大反射率を大幅に増加させるための面から、好適には20分以上、より好適には30分以上熟成ステップを行うことが好ましい。また、熟成時間は、熟成温度に応じて異なって調節され得る。この際、熟成時間の上限は、特に限定されないが、所定の時間以上熟成しても最大反射率がそれ以上増加しないため、それ以上熟成を行うことは、時間およびエネルギーの無駄であり得、多官能性化合物が部分的に熱重合する可能性があるため好適ではない。詳細には、熟成時間の上限は24時間以下であり得、製造時間の短縮のための面から60分以下で熟成ステップを行うことが好ましい。
【0100】
また、前記熟成ステップは、熟成工程を行うために昇温または冷却する工程において、特定の範囲内の温度プロファイルを有してもよい。具体的には、50℃以上~200℃未満の温度範囲までの昇温速度が、1分当たり1℃~10℃、好ましくは1分当たり5℃~7℃であってもよい。また、熟成温度範囲内で温度制御が必要な場合、温度制御範囲は、-5℃~5℃、好ましくは-3℃~3℃の範囲を満たしてもよい。これは、熟成による効果の達成に有利な特性を有する。
【0101】
次に、c)前記熟成された分散液に光を照射して重合するステップを行うことができる。前記光を照射する重合工程は、前記で第2の様態で説明したとおりであるため、光の種類、光の照射条件などに関する説明は省略する。
【0102】
本発明の第3の様態によると、好ましくは、光照射が、熟成温度と類似した温度条件で行われ得る。具体的な一例として、光照射は、TA-5≦TL≦TA+5の温度条件で行われ得、好ましくは、同一温度条件で行うことが好適である。この際、TAは、熟成温度条件(℃)であり、TLは、光照射時温度条件(℃)である。このように、熟成ステップと光照射ステップの温度を類似に調節することで、急激な温度変化によってコロイド粒子の配列が乱れることを防止することができる。
【0103】
次に、第1の基材と第2の基材との間で製造されたフォトニック結晶フィルムを分離し、硬化されていない未反応物を除去する工程をさらに実施してもよいことは言うまでもない。
【0104】
上述のフォトニック結晶フィルムおよびフォトニック結晶フィルムの製造方法により製造されたフォトニック結晶フィルムを提供する。これは、偽造防止物品の偽造を防止するためのセキュリティ要素用として使用され得る。
【0105】
本発明のさらに他の様態は、上述のセキュリティ要素用フォトニック結晶フィルムを含む偽造防止物品を提供する。
【0106】
具体的には、偽造防止物品は、偽造防止を要する対象物品と、前記対象物品の片面に形成されたセキュリティ要素用フォトニック結晶フィルムとを含むことができる。すなわち、偽造防止物品は、対象物品とセキュリティ要素用フォトニック結晶フィルムが積層された構造を有することができる。また、公知のラミネート法により対象物品の片面にセキュリティ要素用フォトニック結晶フィルムを付着することができる。この際、対象物品とセキュリティ要素用フォトニック結晶フィルムとの接着力を高めるために、高分子接着剤を使用することができる。前記高分子接着剤は、特に制限されないが、一例として、ポリエステル、ナイロン、ポリイミド、ポリシロキサンまたはポリプロピレンなどであってもよい。
【0107】
本発明の一様態によると、前記対象物品は、偽造防止を要するものであれば、特に制限されない。前記対象物品は、紙幣、有価証券、公文書、証明書、識別カードまたは金融カードなどであってもよい。
【実施例】
【0108】
以下、実施例により、本発明に係るフォトニック結晶フィルム、その製造方法およびこれを含む偽造防止物品についてより詳細に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を詳細に説明するための一つの参照であって、本発明はこれに限定されるものではなく、様々な形態に実現され得る。また、他に定義されない限り、すべての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者の一人によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本願において説明に使用される用語は、単に特定の実施例を効果的に記述するためのものであって、本発明を制限することを意図しない。また、明細書および添付の特許請求の範囲で使用される単数形態は、文脈で特別な指示がない限り、複数形態も含むことを意図し得る。また、明細書において特に記載していない添加物の単位は重量%であってもよい。
【0109】
先ず、第1の様態および第2の様態によるフォトニック結晶フィルムとして、する実施例1~3および比較例1を実施した。
【0110】
[実施例1]
80℃で50μmの離隔距離を有する二つのガラス平板の間に分散液を注入し、UV(波長365nm、出力12mW/cm2)で7秒間光照射して前記分散液を光硬化した後、二つのガラス平板を除去し、セキュリティ要素用フォトニック結晶フィルムを製造した。
【0111】
分散液は、ウレタンアクリレート(Miwon Specialty Chemical社製、Miramer PU2100、25℃での粘度6,700cps、80℃での粘度400cps、重量平均分子量1,400g/mol)、平均粒径200nmのシリカナノ粒子および2‐ヒドロキシ‐2‐メチル‐1‐フェニル‐1‐プロパノン(Darocur 1173)を混合して製造しており、ウレタンアクリレート:シリカナノ粒子の体積分率は67:33であり、光開始剤であるDarocur 1173は、ウレタンアクリレートに対して1重量%添加した。なお、この際、分散液の80℃での粘度は1000cpsであった。
【0112】
[実施例2]
重量平均分子量が1,800g/mol、25℃での粘度が1,800cps、80℃での粘度が約10cpsであるウレタンアクリレート(Miwon Specialty Chemical社製、Miramer PU5000)を使用した以外のすべての工程を実施例1と同様に行った。なお、この際、分散液の80℃での粘度は約30cpsであった。
【0113】
[実施例3]
重量平均分子量が803g/mol、25℃での粘度が3,000cps、80℃での粘度が約10cpsであるウレタンアクリレートメタクリレート(Sigma‐Aldrich社製、MAU)を使用した以外のすべての工程を実施例1と同様に行った。なお、この際、分散液の80℃での粘度は約30cpsであった。
【0114】
[比較例1]
予備重合体としてETPTA(重量平均分子量428g/mol)を使用した以外のすべての工程を実施例1と同様に行った。
【0115】
実施例1~3および比較例1から製造されたフィルムを使用して400~800nm波長領域での反射率を測定しており、実施例1および比較例1の結果を
図1に図示した。
【0116】
結果、実施例1および2から製造されたフィルムは、最大反射率が既存に使用された比較例1のフォトニック結晶フィルムとほぼ類似した水準である約50%と測定されることから、優れた反射率を有することを確認することができた。これにより、セキュリティ要素用としての応用が可能であることを確認することができた。また、フィルムを150゜超の範囲で折り曲げる曲げ柔軟性テストを実施した結果、実施例1~3から製造されたフィルムは、卓越した柔軟性を有し、特に、実施例1および3は、折り畳み可能なほど非常に優れた柔軟性を示した。一方、比較例1から製造されたフィルムも柔軟性が足りず曲げ程度が強くなった時にフィルムが割れるという問題が生じた。
【0117】
次に、第3の様態によるフォトニック結晶フィルムとして、下記の実施例4~7および比較例2、3を実施した。
【0118】
[実施例4]
エトキシレーティッドトリメチロールプロパントリアクリレート(ETPTA、分子量428g/mol、25℃での粘度60cps)、平均粒径170nmのシリカナノ粒子および2‐ヒドロキシ‐2‐メチル‐1‐フェニル‐1‐プロパノン(Darocur 1173)を混合して分散液を製造しており、ETPTA:シリカナノ粒子の体積分率は、67:33であり、光開始剤であるDarocur 1173は、ETPTAに対して1重量%添加した。
【0119】
次に、50μmの深さを有するガラス基板の溝に製造された分散液を滴下した後、他のガラス基板で覆い、70℃のオーブンで30分間熟成した。
【0120】
次に、70℃でUV(波長365nm、出力12mW/cm2)で7秒間光照射し、熟成された分散液を光重合した後、二つのガラス基板を除去し、厚さ50μmのフォトニック結晶フィルムを製造した。
【0121】
[実施例5]
熟成時間を60分にした以外のすべての過程を実施例1と同様に行った。
【0122】
[実施例6]
熟成温度を120℃にした以外のすべての過程を実施例2と同様に行った。
【0123】
[実施例7]
ETPTAの代わりにウレタンアクリレート(PUA;Miwon Specialty Chemical社製、重量平均分子量1,400g/mol)を使用した以外のすべての過程を実施例2と同様に行った。
【0124】
[比較例2]
熟成過程を経ていない以外のすべての過程を実施例2と同様に行った。
【0125】
[比較例3]
熟成温度を200℃にした以外のすべての過程を実施例2と同様に行った。
【0126】
実施例4~7および比較例2、3から製造されたフォトニック結晶フィルムを使用して400~800nmの波長領域での反射率を測定しており、その結果を
図3および下記表1に示した。
【0127】
【0128】
結果、熟成過程を全く経ていない比較例2のフォトニック結晶フィルムは、最大反射率が28%と多少低く測定されたのに対し、30分間熟成過程を経た実施例4のフォトニック結晶フィルムは、最大反射率が45%と大きく増加した。また、60分間熟成過程を経た実施例5のフォトニック結晶フィルムは、最大反射率が59%と非常に著しく増加した。また、実施例6は、70℃で60分間熟成し最大反射率が59%と非常に高く測定されており、実施例7は、120℃で60分間熟成し最大反射率が58%と非常に高く測定された。一方、比較例3は、フィルムの一部の領域で反射色が観察されたものの、フィルムのほとんどの領域で反射色が観察されずフォトニック結晶フィルムが形成されなかった。これは、熟成温度が高すぎて光重合の前に、ETPTAの中の一部分が熱重合されてコロイド粒子の配列が大きく乱れたからであると判断される。
【0129】
前記で示されているように、特定の温度範囲での熟成過程を経ることで、シリカ粒子が迅速に結晶格子構造に配列され、フォトニック結晶フィルムの最大反射率が大きく増加することを確認することができ、前記フォトニック結晶フィルムをセキュリティ要素として活用した場合、簡単に偽造することが困難で強力なセキュリティ効果を実現できることを確認した。
【0130】
以上、本発明の好ましい実施例を説明しているが、本発明は、様々な変化と変更および均等物を使用することができ、前記実施例を適宜変形し、同様に応用することができることが明確である。したがって、前記の記載内容は、下記の特許請求の範囲の限界によって定められる本発明の範囲を限定するものではない。