(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】連続遠心機
(51)【国際特許分類】
B04B 11/02 20060101AFI20220117BHJP
B04B 15/04 20060101ALI20220117BHJP
B04B 1/02 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
B04B11/02
B04B15/04
B04B1/02
(21)【出願番号】P 2020521810
(86)(22)【出願日】2019-04-26
(86)【国際出願番号】 JP2019017902
(87)【国際公開番号】W WO2019230299
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2020-09-18
(31)【優先権主張番号】P 2018104660
(32)【優先日】2018-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】520276604
【氏名又は名称】エッペンドルフ・ハイマック・テクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小村 崇人
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-079657(JP,U)
【文献】特開2004-290354(JP,A)
【文献】特開2013-022473(JP,A)
【文献】実開昭61-057834(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B04B 1/00-15/12
B01D 19/00-19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を分離するためであって内部を複数の空間に仕切るコアを有するロータと、該ロータが収納されるロータ室と、前記ロータを回転させる駆動部と、前記ロータの回転中に前記ロータに試料を連続的に供給および排出させるための試料ラインを備えた連続遠心機において、
前記試料ラインから供給された試料が前記ロータ内の試料分離空間に到達する前に、遠心力によって前記試料から気泡を捕集するエアトラップを設けたことを特徴とする連続遠心機。
【請求項2】
前記エアトラップは、前記ロータの内部に設けられるものであって、前記ロータと一緒に回転することによって遠心力により前記試料から前記気泡を分離し、前記気泡が捕集された
後の前記試料を前記試料分離空間に送出することを特徴とする請求項1に記載の連続遠心機。
【請求項3】
前記エアトラップは、前記コアの前記試料分離空間の内周部分に配置されることを特徴とする請求項2に記載の連続遠心機。
【請求項4】
前記コアは
、試料供給側
の端部に
凹部が形成された
コアボディと、前記凹部と嵌合するものであって前記凹部内に
サブの遠心分離空間を形成するためのコア端面パーツと、を含んで構成されることを特徴とする請求項3に記載の連続遠心機。
【請求項5】
前記コア端面パーツは前記コアに対して回転軸方向に可動式であって、前記凹部内にスプリングを配置することによって前記コアと前記コア端面パーツが離れる方向に付勢し、
前記コア端面パーツの反コア側は、前記ロータの試料供給側のロータカバーの内壁面に対応した円環状に形成されることを特徴とする請求項4に記載の連続遠心機。
【請求項6】
前記コア端面パーツの前記円環状の部分には、前記遠心分離空間の外周側から前記試料を軸方向の反コア側に取り出す複数の軸方向流路と、前記コア端面パーツの反コア側の面上に形成された溝であって前記軸方向流路から径方向に放射状に延びる径方向流路が形成されることを特徴とする請求項5に記載の連続遠心機。
【請求項7】
前記径方向流路は、前記コア端面パーツの反コア側の面上に形成された溝と前記ロータカバーの内周面によって形成されることを特徴とする請求項6に記載の連続遠心機。
【請求項8】
前記ロータは円筒形のロータボディと、前記ロータボディの上下開口を塞ぐように取りつけられる上側ロータカバーと下側ロータカバーを含んで構成され、
前記コア端面パーツには、回転軸心に沿って延びて前記下側ロータカバーの試料流入路と連通される試料通路が形成され、前記試料通路は前記遠心分離空間のうち径方向中周部分に開口することを特徴とする請求項7に記載の連続遠心機。
【請求項9】
前記スプリングの付勢力によって、前記コアが前記上側ロータカバーの内壁面に押し当てられることを特徴とする請求項8に記載の連続遠心機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を連続的に流して液体試料中の粒子をロータ内で遠心分離する連続遠心機に関し、特にロータ内へ送られた試料中に混入するエア(空気)を除去できるようにすることにある。
【背景技術】
【0002】
遠心分離機は、通常の重力場では沈降しないもしくは沈降しにくい粒子を分離するもので、例えばウイルスや菌体などが分離対象に含まれる。ウイルスや菌体は、薬品やワクチンなどの製造にとっては欠かせない原料であり、これらの製造過程において原料を分離精製する設備として連続遠心機が広く使用される。連続遠心機は、高速回転するロータおよびその上下に接続される貫通穴を有した2本の回転軸等とロータに試料を供給するための試料供給部を有する。
【0003】
試料供給部は、試料を供給するための送液ポンプや流量計および圧力計をシリコンチューブなどで接続したシステムが提案されている。連続遠心機が回転中は、ロータ内は完全に液体で満たされている必要がある。液体が完全に満たされていない状態で運転を行なうとロータはアンバランス状態となって過大な振動が発生する恐れがあり、好ましくない。最悪な場合は、連続遠心機は異常振動となり運転停止させなければならない。また、試料ラインに空気が留まっていると、試料注入時の試料ラインの圧力が高くなり、所定の流量で試料を注入できなくなってしまう虞がある。また、ロータの高速回転時には、コアボディと下側ロータカバーとの間において径方向に流れて遠心分離用の空間に試料を送るための流路が形成されるが、遠心中は外周ほど液圧が高くなるため、試料内の微細な気泡が最外部まで送り込めずに流路が詰まってしまい、試料が流れにくくなり、試料送液のための圧力が高くなってしまう。連続遠心機において安定した遠心分離性能を得るためには、試料送液のための圧力は低いほうが良いため、試料ラインに留まっている空気がロータ内に入り込まないように取り除くことが重要となる。例えば特許文献1では試料ラインに空気が混入したか否かを容易に検出できるようにし、ロータ室に注入する前に試料ラインの空気を排出するようにした連続遠心機が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
連続遠心機に用いられる試料ラインの配管は、シリコンチューブのように透明又は半透明なチューブを使用する場合、試料ラインに空気があるかどうかは目視で確認することができるので、シリコンチューブを摘んで試料ラインの圧力を一旦高くしてから解放したりするなどの操作者によるマニュアル操作によって空気を試料ラインから排出することができる。しかしながら、マニュアル操作による空気の排出をしても空気が十分排出できるとは限らないうえに、試料内に気泡として混入する空気まで排出させることが難しい。その対策として特許文献1では、試料がロータ内に入る前にエアセンサによって気泡を検出して、三叉路を介して外部に排出する。しかしながら、エアセンサの検出限界以下の微小な気泡や試料液中に溶けた気泡は検出することができないので除去できない。さらに、試料に含まれる気泡は、試料に溶け込んでいて遠心力を受けると現れるものもあり、ロータに供給する前に完全に分難すること難しい。
【0006】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、ロータに流入した試料中に混入している気体を捕えるためのエアトラップ機構を設けて、遠心分離を行う分離空間内に空気等の気体が入らないようにした連続遠心機を提供することにある。本発明の他の目的は、既存の連続遠心機のロータコア部を交換するだけで、容易にエアトラップ機能を実現できるようにした連続遠心機を提供することにある。本発明のさらに他の目的は、高速回転時のロータボディの変形によりロータコアが受ける負荷の影響を低減させて、ロータの寿命を延ばすようにした連続遠心機を提供することになる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願において開示される発明のうち代表的なものの特徴を説明すれば次の通りである。本発明の一つの特徴によれば、試料を分離するためであって内部を複数の空間に仕切るコアを有するロータと、ロータが収納されるロータ室と、ロータを回転させる駆動部と、ロータの回転中にロータに試料を連続的に供給および排出させるための試料ラインを備えた連続遠心機において、試料ラインから供給された試料がロータ内の試料分離空間に到達する前に、遠心力によって試料から気泡を捕集するエアトラップを設けた。エアトラップは、ロータの内部に設けられるものであって、ロータと一緒に回転することによって遠心力により試料から気泡を分離し、気泡が分離された後の試料を試料分離空間に送出する。このエアトラップは、コアの試料分離空間の内周部分に配置される。
【0008】
本発明の他の特徴によれば、コアは、試料供給側の端部に凹部が形成されたコアボディと、凹部と嵌合するものであって凹部内にサブの遠心分離空間を形成するためのコア端面パーツを有する。また、コア端面パーツはコアに対して回転軸方向に可動式であって、凹部内にスプリングを配置することによってコアとコア端面パーツが離れる方向に付勢される。さらに、コア端面パーツの反コア側は、ロータの試料供給側のロータカバーの内壁面に対応した円環状に形成される。コア端面パーツの円環状の部分には、遠心分離空間の外周側から試料を軸方向の反コア側に取り出す複数の軸方向流路と、コア端面パーツの反コア側の面上に形成された溝であって軸方向流路から径方向に放射状に延びる径方向流路が形成される。
【0009】
本発明のさらに他の特徴によれば、径方向流路は、コア端面パーツの反コア側の面上に形成された溝とロータカバーの内周面によって形成される。ロータは円筒形のロータボディと、ロータボディの上下開口を塞ぐように取りつけられる上側ロータカバーと下側ロータカバーを含んで構成され、コア端面パーツには、回転軸心に沿って延びて下側ロータカバーの試料流入路と連通される試料通路が形成され、試料通路の出口開口は遠心分離空間のうち径方向中周部分に開口する。コアは、スプリングの付勢力によって上側ロータカバーの内壁面に押し当てられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ロータ内に供給される試料内の気泡をロータ内に設けた専用のエアトラップ機構にて分離するので、ロータ内の遠心分離空間に到達する気泡(空気)を確実に取り除くことができ、コアボディの外周部に注入される流量を所定の流量に保つことができる。また、エアトラップ機構を、改良されたコアボディとコア端面パーツにて実現したので、従来のコア(ロータコア)を交換するだけで、容易に本発明を実施できる。さらに、コアボディの遠心分離空間に到達する気泡(空気)を確実に取り除くことができるので、遠心分離空間に到達する試料を供給する際の送液圧力を低く保ち、安定した分離性能を得ることができる。また、コアがロータの変形による負荷を受けなくなることで、ロータ及びロータコアの双方の長寿命化を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例に係る連続遠心機1の全体を示す斜視図である。
【
図2】
図1の遠心分離部10の詳細構造を示す断面図と、試料循環部の配管図である。
【
図4】ロータ100におけるエアトラップ機構150の配置構造と試料の流れを示すための模式図である。
【
図5】
図3のロータコア130を示す図であり、(A)は斜視図であり、(B)は上面の斜視図であり、(C)は底面の斜視図である。
【
図6】
図3のコア端面パーツ160を示す図であり、(A)は斜視図であり、(B)は底面側からみた斜視図であり、(C)は縦断面図である。
【
図7】
図3のコアボディ131とコア端面パーツ160の組み合わせ状態を示す図であり、(A)は縦断面図であり、(B)は底面側から見た斜視図であり、(C)は(B)の軸線を含む断面における断面斜視図である。
【
図8】エアトラップ機構150における試料の流れを示す図である(その1)。
【
図9】エアトラップ機構150における試料の流れを示す図である(その2)。
【
図10】従来例のロータ100Aの縦断面図である。
【
図11】従来例のロータ100Aの上側部分における試料の流れを示す部分断面図である。
【
図12】従来例のロータ100Aの上側部分における超高速回転時の圧力方向を示す部分断面図である。
【
図13】従来例のロータ100Aの下側部分における試料の流れを示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0012】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。
【0013】
図1は、本実施例に係る連続遠心機(連続遠心分離機)1の全体を示す斜視図である。
図1に示されるように連続遠心機1は、ワクチン製造工程などに使用されるいわゆる“連続超遠心分離機”であり、遠心分離部10と制御装置部50の2つの主要部分から構成される。遠心分離部10と制御装置部50との間は配線・配管群40で接続される。連続遠心機1は、駆動部30に吊り下げたロータ100を、リフト16およびアーム17の操作によってチャンバ11に出し入れ可能な構造である。遠心分離部10には、ロータ室となる円筒状のチャンバ11と、チャンバ11を支持するベース12と、チャンバ11の内部に出し入れ自由に収容されて高速回転するロータ100と、チャンバ11の上部に配置されてロータ100を吊り下げた状態でこれを回転駆動する駆動部30と、チャンバ11の下側に取り付けられる下側軸受部20と、駆動部30を上下および前後方向に移動させるためのリフト16およびアーム17と、ロータ100に試料又は滅菌液を連続的に供給・排出する送液ポンプ73(
図2参照)を有して構成される。チャンバ11の内部には、駆動部30に吊り下げられたロータ100が収容される。回転体であるロータ100の外側面は、胴体部である円筒状のロータボディ101と、その両端をねじ込み式で閉止する上側ロータカバー110および下側ロータカバー120を含んで構成される。上側ロータカバー110の上側には、試料の通路であって回転軸ともなるロアシャフト105が設けられ、下側ロータカバー120の下側には、試料の通路であって回転軸ともなるロアシャフト105が設けられる。
【0014】
ロータ100は高速で回転駆動されるため、遠心分離中は、運転時の大気との風損や摩擦熱による発熱を抑える目的でチャンバ11の内部は減圧された状態に保たれる。チャンバ11内を減圧状態にするために、チャンバ11内の空気を排出する図示せぬ排出口がチャンバ11の胴部に形成され、図示しない真空ポンプが接続される。チャンバ11は複数のボルト13でベース12に固定され、ベース12は複数のボルト14により床面に固定される。
【0015】
制御装置部50には、チャンバ11の内部を冷却するための図示せぬ冷却装置と、図示せぬ真空ポンプと、ロータ100を所定の場所に移動させるための図示せぬリフト駆動装置と、ロータ100を駆動制御する図示せぬ遠心機コントローラ(制御部)等が収容される。制御装置部50の上部には、操作・入力する箇所である操作パネル60が配置される。制御部は、図示しないマイクロコンピュータ、記憶装置を含んだ電子回路で構成され、ロータ100を駆動制御だけでなく連続遠心機全体の制御を行なう。
【0016】
図2は
図1の遠心分離部10の詳細構造を示す断面図である。チャンバ11は、その内部に駆動部30に吊り下げられた状態のロータ100が収容され、ロータ100の周囲を覆うように円筒型のエバポレータ(蒸発配管)18が設置され、エバポレータ18の外側には円筒型の防御壁の機能を果たすプロテクタ19が設置される。エバポレータ18は、冷媒ガスを循環させる銅配管で構成されており、ロータ100の収容空間を冷却可能である。
【0017】
ロータ100の内部には、注入された試料を高重力場に導入するためのロータコア130が設置される。ロータコア130は、コアボディ131と、コアボディ131の胴部に設けられた羽根状の隔壁132(
図5で後述する132a~132f)によってロータ100の内部を複数の遠心分離空間に分割する。駆動部30は、リフト16(
図1参照)の先端部に取り付けられるもので、アッパーシャフト32を回転可能に軸支する。アッパーシャフト32の内部であって軸心位置には、鉛直方向に延びる試料通過孔が形成され、上側の試料の通路の一部を形成することになる。アッパーシャフト32の下端部は漏斗状に広がり、試料通過孔と上側ロータカバー110に形成された試料通過孔に連通するように、上側ロータカバー110がアッパーシャフト32にナット119によって固定される。このようにロータ100は、駆動部30から吊り下げられる形となり、駆動部30に含まれるモータの駆動によってアッパーシャフト32が高速回転されることにより、アッパーシャフト32に連結されたロータ100も高速回転する。ロータコア130の下側には、回転軸部であるロアシャフト105が取り付けられる。ロアシャフト105の軸中心には、下側の試料の通路の一部を形成する試料通過孔が貫通しており、試料通過孔は下側ロータカバー120に形成された試料通過孔に連通することにより下側パイプ72と接続される。
【0018】
ロータコア130はロータ100の内部に、出し入れ可能なようにして取りつけられる。遠心分離を行なう際は、ロアシャフト105から注入される試料が、下側の試料通過孔を通過してロータ100の内部に下から上方向に導入される。ロータ100内に導入された試料は、ロータコア130によって高遠心力場へ移動されて沈殿と上清とに分離され、上清(廃液)は、アッパーシャフト32から上方に排出される。
【0019】
本実施例では、試料タンク71から回収タンク86までであってロータ100の内部を除く一連のライン(流路)を“試料ライン”と定義する。遠心分離される試料は、試料を貯える試料タンク71から送液ポンプ73に向けて矢印75aの方向に流れ、送液ポンプ73を通過して矢印75b、75cのように下側パイプ72を通って下側軸受部20に流入する。下側軸受部20からはロータ100の内部に流入し、ロータ100の高速回転によって分離された上清(廃液)がアッパーシャフト32を通って駆動部30に流入し、駆動部30から上側パイプ82を通って矢印85a~85cのように流れて回収タンク86に到達する。ここでは図示していないが、下側パイプ72と上側パイプ82の流路中に図示しない方向切り替えバルブを設けて、試料や流路中に含まれる空気を排出したり、その他の液体を注入又は排出したりするように構成しても良い。
【0020】
下側パイプ72の途中にはセンサ74が挿入される。センサ74は、試料ラインに供給される液体の圧力及び液体の流量を測定する。制御装置51はセンサ74の出力を用いて圧力データを取得することにより送液ポンプ73の駆動を制御し、ロータ100が遠心分離運転をしている際には、送液ポンプ73を駆動しながら連続的にロータ100に試料を送り続ける。
【0021】
ロータ100の内部には、エアトラップ機構150が設けられる。エアトラップ機構150は、ロータ100内に送出される試料(液体)中に含まれる気泡を捕集するための分離機構であって、ロータコア130の下側部分に配置される。エアトラップ機構150によって分離され、気体が取り除かれた試料は、ロータコア130内の遠心分離空間(
図3で後述する分離空間137)に送られる。エアトラップ機構150に捕集される気体は、主に空気であるが、試料中にその他の気体の気泡が含まれている場合は、その気泡も収集することができる。エアトラップ機構150に捕集された気体が一杯になると、試料の流路にエアが流れて詰まるため、試料ラインの圧力が上昇する。圧力の上昇は、センサ74を用いて監視することで、制御装置51はエアトラップ機構150に捕集された気体が一杯(満タン)になったことを感知できる。エアトラップ機構150の満タン状態を感知した制御装置51は、送液ポンプ73に停止信号を送ることができる。
【0022】
図2には記載していないが、下側パイプ72に方向切り替えバルブを設けて、試料ラインに滅菌液を流すことができるようにしても良いし、試料タンク71から供給される試料であって気泡が多い部分を方向切り替えバルブから外部に排出するように構成しても良い。また、下側パイプ72に流路上に液体が存在するかどうかを検出するエア検出センサ(図示せず)を設けても良い。エア検出センサとしては、光を流路の一方の側壁側から光をかざして、それを対岸の側壁に設けた光センサにより受光し、その光の強弱により流路に液体が存在するかを判断するセンサを用いることができる。このセンサによって流路の特定位置が液体で満たされているか、あるいは空気が混入しているか(又は空気で満たされているか)を検出できる。図示していないが上側パイプ82にも光センサを用いて液体で満たされているか否かを検出しても良い。これらのエア検出センサの出力は制御装置51に入力される。
【0023】
送液ポンプ73によって送出された試料がロータ100内に満たされて、上側パイプ82から試料が排出される状態が制御装置51によって確認されると、制御装置51は駆動部30の図示しないモータを制御して、ロータ100を高速回転まで加速する。ロータ100が回転するとエアトラップ機構150もロータ100と共に回転する。この結果、エアトラップ機構150内に形成されたサブの遠心分離空間(
図3で後述するサブ分離空間151)内に満たされた試料が回転するため、サブ分離空間151内の試料中に存在する気泡が中心方向に移動する。そして気泡以外の試料が外周付近に位置するので、サブ分離空間151の外側部分から液体をメインの遠心分離空間に送出することによって試料の連続的な遠心分離を行う。
【0024】
図3は
図2のロータ100の拡大図である。本実施例のロータ100が従来から用いられるロータと異なるのは、コアボディ131の形状と、コアボディ131の下側にエアトラップ機構150が設けられる点である。ロータ100のうち、円筒形であって上側と下側に開口を有するロータボディ101と、ロータボディ101の上側開口を閉鎖するものであって回転中心に試料通過孔を有する上側ロータカバー110と、ロータボディ101の下側開口を閉鎖するものであって回転中心に試料通過孔を有する下側ロータカバー120の形状は、従来から用いられるロータ100A(
図10にて後述)と共通の部品である。上側ロータカバー110には回転軸線に沿って延びる試料通路111と、試料通路111の途中から斜めに分岐するように形成される試料分岐通路112が形成される。試料通路111はアッパーシャフト32に形成された試料連通孔と連通する。アッパーシャフト32はナット119によって上側ロータカバー110に固定される。下側ロータカバー120には回転軸線に沿って延びる試料通路121と、試料通路121の途中から斜めに分岐するように形成される試料分岐通路122が形成される。試料通路121はロアシャフト105に形成された試料連通孔と連通する。ロアシャフト105はナット129によって下側ロータカバー120に固定される。
【0025】
駆動部30の図示しないモータが回転すると、アッパーシャフト32が矢印33の方向に回転し、それに同期するようにロータ100全体も回転する。ロアシャフト105は下側軸受部20(
図1参照)によって回転可能なように軸支されるので、ロータ100と共に回転する。
【0026】
エアトラップ機構150は、ロータコア130の下側部分に配置される。そのため、従来のロータコアの軸方向下側の端部に、軸方向上側に凹状に2段に窪む窪み部142とスプリング保持穴143を形成し、スプリング保持穴143の下側開口をコア端面パーツ160によって閉鎖することによって、試料中に含まれる気泡を分離及び収集を目的とする遠心分離空間、即ち、サブ分離空間151を設けた。ロータ100の高速回転によってサブ分離空間151内にも遠心力が加わり、試料中に含まれる気泡が径方向内側に移動し、気泡が取り除かれた試料が径方向外側に移動する。コア端面パーツ160には、試料通路121と連通する軸方向孔171と連通するものであって、サブ分離空間151への入口通路となる径方向孔172が形成される。コア端面パーツ160にはさらに、サブ分離空間151からの出口通路となる軸方向孔173が形成される。軸方向孔173は回転軸線と平行に配置されるもので、軸方向孔173の一方側がサブ分離空間151の径方向外側近くに開口し、他方側がコア端面パーツ160の下面であって、下側ロータカバー120の上面側に開口する。軸方向孔173の下側開口は、コア端面パーツ160の下面において径方向に延びるように形成される径方向溝174の内周側端部に開口するようにして、軸方向孔173から径方向溝174が試料の通路を形成する。軸方向孔173は複数(ここでは6本)形成され、径方向外側に向けて放射状に延びるように配置される(詳細は
図6にて後述)。径方向溝174の外周側の開口は、メインの遠心分離用の分離空間137に開口する。コア端面パーツ160の上側の円柱部は、スプリング保持穴143内に位置し、スプリング155によってロータコア130とコア端面パーツ160が双方に離反するように付勢される。
【0027】
図4は、ロータ100におけるエアトラップ機構150の配置構造と試料の流れを示すための模式図である。本実施例では、ロータ100の内部に設置されるロータコア130に、ロータコア130から独立したコア端面パーツ160を設け、ロータコア130の内部にコア端面パーツ160を押すためのスプリング155を設けることで、ロータコア130及びコア端面パーツ160を下側ロータカバー120及び上側ロータカバー110に押し付ける構造とした。コア端面パーツ160は、従来のコアボディの下側端部付近を円盤状に切り出した部材であり、その切り出した円盤状の部材と下側コアボディとの間をスプリング155によって回転軸方向に離反するように付勢して、コア端面パーツ160を矢印79の向きに下側ロータカバー120に押しつける。この反動によりロータコア130は矢印78のように上側ロータカバー110に押しつけられる。さらに、コアボディ131とコア端面パーツ160の間に形成される空間(
図3のサブ分離空間151)を、試料に含まれる気泡を取り除くための遠心分離空間とした。下側ロータカバー120を介して矢印75aのように流入する試料は、サブ分離空間151内に流入して、遠心力により気泡と液体に分離される。コア端面パーツ160もロータ100内に配置される部品であるため、ロータ100の回転によってサブ分離空間151にも遠心力が作用するからである。
【0028】
遠心分離を行う際には、まずは、ロータ100を回転させる前に、密度の異なる液体(密度液)を順次入れる。例えば密度の低い液体を入れたあとに、密度の高い液体を入れ、分離空間137を密度の異なる液体の液層で満たす。その後、ロータ100を所定の回転速度まで回転させた後、分離したい試料の入った試料タンク71(
図2参照)から、送液ポンプ73を駆動させて送液を開始する。矢印75aのようにロータ100内に試料が注入されると、試料は最初にエアトラップ機構150内に供給されることにより、サブ分離空間151においては試料に含まれる気泡が試料(液体)との比重の差から内周側に移動すると共に、試料に混在する気泡が内周側に移動する。サブ分離空間151の出口は、径方向中間位置よりも外周側部分であって径方向外側に近い側に設けられるので、矢印75bのように流れてコア端面パーツ160の下面を径方向外側に流れて、分離空間137内に流入する。
【0029】
以上のように、ロータ100の分離空間137に試料が流入する前に試料内の気泡を自動的に捕まえることができるエアトラップ機構150を設けたので、試料液中の気泡を分離空間137へ入れないように構成できた。また、スプリング155を用いてロータコア130とロータカバー(110、120)の間の流路を完全な状態で一定に保ち、かつ液中の気泡を流路へ入れないようにしたので、流路が気泡で詰まることなく低圧でスムーズに送液できる連続遠心機1を実現できた。さらに、ロータコア130の全長寸法およびスプリング155の寸法を適切な値に設定することで、高速回転時にロータボディ101とロータカバー(110、120)が変形して、ロータコア130がロータカバー(110、120)から負荷を受けてしまう現象を避けることができた。
【0030】
図5はコアボディ131を示す図であって、(A)は斜視図である。コアボディ131は合成樹脂製であって中実にて形成される円柱状のコアボディ131の外周側に、周方向に突出する6枚の羽根状の隔壁132a~132fを形成したものである。隔壁132a~132fは、軸方向に連続する形状であって、コアボディ131と一体成形され、隔壁132a~132fの外周側端部がロータボディ101の内周面に当接することによって、分離空間137(
図3参照)を周方向に均等な6つの空間に区画する。コアボディ131の下端面側には、エアトラップ機構150を設けるために軸方向に円柱状に窪む2つの凹部(窪み部142、スプリング保持穴143)が形成される。窪み部142の外周側には、円環状のコア下端面141が形成される。コア下端面141の円周上の2箇所にはコア端面パーツ160に設けられる位置決め用のピン168a、168bが嵌合するためのピン穴145a、145bが形成される。
【0031】
図5(B)は、コアボディ131の上面の斜視図である。この上面の形状は、従来のロータにおけるコアボディの形状と同じである。コアボディ131の上側端面、即ち上側ロータカバー110の内壁と接する面には、中央に円筒状の嵌合孔134が形成される。また、上側端面の外縁から嵌合孔134まで径方向に延びる6つのコア端面溝135a~135fが形成される。コア端面溝135a~135fは、上側ロータカバー110の内壁と接することによって分離空間137の内周側の比重の軽い上澄み液を排出するための試料通路を形成する。ここでは、コアボディ131の外周側に等間隔で配置された6枚の隔壁132a~132fの中間付近に位置する。
図5(C)は、コアボディ131の底面の斜視図である。従来のコアボディの底面部の形状は、
図5(B)に示す形状と基本的に同じ形状とされる。しかしながら本実施例ではエアトラップ機構150を設けるための空間を確保するために、窪み部142とスプリング保持穴143が形成される。
【0032】
ここで比較のために従来のロータ100Aにおけるコアボディ231を用いた遠心運転時のさらなる解決課題を
図10~
図13を用いて説明する。従来のロータ100Aの構成は、ロータコア230の形状が
図3で示した実施例のロータコア130と異なるだけであって、その他の構成部品、特にロータボディ101、上側ロータカバー110、下側ロータカバー120は同じである。逆の言い方をすると、従来のロータ100Aのロータコア230を、本発明の実施例に係るロータコア130に取り替えることで、本発明によるエアトラップ機能付きのロータ100となる。上側ロータカバー110とロータボディ101はねじ込み式であって、上側ロータカバー110の円筒面の下端には雄ねじ114が形成され、ロータボディ101の上端開口には雌ねじ102が形成される。同様にして、下側ロータカバー120とロータボディ101はねじ込み式であって、下側ロータカバー120の円筒面の上端には雄ねじ124が形成され、ロータボディ101の下端開口には雌ねじ103が形成される。ロータ100Aは、駆動部30に含まれるモータによって矢印で示す回転方向33に回転する。この際のロータ100Aはチャンバ11の内部に位置し、図示しない真空ポンプによって減圧され、かつ、冷却された状態にて高速にて回転駆動される。
【0033】
上側ロータカバー110の下端側、即ちコアボディ231に接する側の軸心部分には、下向き凸状に突起する円柱状の嵌合軸113が形成される。上側ロータカバー110には中央の回転軸心に沿って試料通路111が形成される。試料通路111には途中から斜め径方向に分岐する試料分岐通路112が形成される。同様にして下側ロータカバー120の上端側、即ちコアボディ231に接する側の軸心部分には、上向き凸状に突起する円筒状の嵌合軸123が形成される。下側ロータカバー120には、中央の回転軸心に沿って試料通路121が形成される。試料通路121には途中から斜め径方向に分岐する試料分岐通路122が形成される。ロータ100Aの内部への連続的な試料の注入方向は、ここでは矢印75dのように下側から行い、矢印85aのようにロータ100の上側からアッパーシャフト32の試料貫通穴を介して分離された上澄み液(上清)が図示しない排出ラインに排出される。尚、連続遠心機1への試料の注入の仕方、とくに注入方向はロータ100Aの下側から入れて上側から出すだけでなく、逆方向にして上側から注入して下側から沈殿液を排出するようにしても良い。従来のロータ100Aにおいては、各部品の寸法差によって試料供給路が完全に形成されない場合や、送液される試料中に微小の気泡が含まれる場合に、試料の送液効率が低下する虞があるため、それらの対策のため十分な加工精度にて製造すると共に、ロータ100A内に供給される前に試料中の気泡を取り除くようにしている。
【0034】
図11はロータ100Aの上側部分における試料の流れを示す部分断面図である。ロータ100Aの組立時(非回転時)において、上側ロータカバー110を取り外した開口状態のロータボディ101内に、コアボディ231を挿入して、上側ロータカバー110を取りつけると、機械加工の公差(および部品の固体差)のためコアボディ231の上面と上側ロータカバー110の内面の間に隙間115ができる。この隙間115は、組み立てのために完全には0にすることはできない。上側ロータカバー110付近の分離された試料の流れは、矢印180~182、85aの通りとなる。つまり、ロータ100A内の分離空間237において比重の低い上澄み液部分が矢印180のように上方向に移動して、コアボディ231の上端面に形成されたコア端面溝135を矢印181によって内周側に移動し、試料分岐通路112を矢印182のように流れて試料分岐通路112に合流し、矢印85aの方向流れてロータ100Aの外部に排出される。この時、
図2のように直立状態(アッパーシャフト32が上側にある状態)では、コアボディ231は自重で下に落ちるため上側の隙間115が大きくなって、コアボディ231の上面と上側ロータカバー110の隙間115によって完全な流路(コア端面溝135)が形成されず、回転停止時などに試料を送る場合は隙間115の存在は試料送液の抵抗となり、試料送液ために高い圧力が必要になってしまう。
【0035】
図12は、ロータ100Aの上側部分における超高速回転時の圧力方向を示す部分断面図である。ロータ100が高速回転すると、外周側に位置するロータボディ101の遠心力が大きくなるとロータボディ101が矢印281のように径方向外側に膨らむようにして変形する。この変形位置はロータボディ101の上下中央付近が大きくなり、極端な例示をすると樽形に膨らむことになる(実際の膨らみはほんのわずかである)。ロータボディ101の矢印281のような変形をすると、上側ロータカバー110も同様にして矢印282で示すように外側に変形する。上側ロータカバー110は開口を下向きとしたお椀型の形状のため、内面は矢印283のようにロータ100Aの上下中心に向けて内側に変形する。すると、上側ロータカバー110がコアボディ231と接触して矢印284のように押しつけることになる。この回転軸方向の押しつけ力は、ロータ100Aの回転速度が上昇するほど強くなり、コアボディ231は軸方向の大きな負荷を受ける。この程度の負荷ではコアボディ231が破損する虞はないが、製品寿命の観点からみるとコアボディ231に大きな負荷が加わったり解放されたりするのは好ましくない。
【0036】
図13は、従来例のロータ100Aの下側部分における試料の流れを示す部分断面図である。下側部分おいても上側ロータと同じような試料の流れであって、矢印75dの方向に試料通路121から流入した試料は、試料分岐通路122を通って矢印176のように流れ、径方向通路245を通って矢印177の方向に流れてから、分離空間237に到達する。分離空間237では試料が矢印178の方向に連続的流れながら遠心分離運転が行われる。ロータ100Aの下側部分においても、高速回転時には
図12と同じように、下側ロータカバー120からロータコア230を軸方向に圧縮する方向の力(
図12の矢印283、284と逆向きの力)が働くことになる。
【0037】
再び本実施例の説明に戻る。
図6はコア端面パーツ160を示す図であり(A)は斜視図である。コア端面パーツ160は、軸方向に6つの部位で形成され、回転軸線方向にみて下側から、円盤部162と、円盤部162の上側に形成された大径円柱部163と、大径円柱部163の上方に位置する細径部164と、細径部の上側に配置される中径円柱部166である。細径部164と中径円柱部166の間は徐々に径が変化するテーパー部165となっている。また、中径円柱部166の上方にはスプリング155(
図3参照)を保持するための嵌合軸167が形成される。これら162~167の各部位は合成樹脂の一体成形によって製造される。細径部164及びテーパー部165の外周側と、ロータコア130の窪み部142(
図5参照)との間の空間が、気泡をトラップするためのエアトラップ空間、即ちサブ分離空間151(
図3参照)となる。
【0038】
円盤部162は、下側ロータカバー120の内壁と接する面を形成するもので、外径が隔壁132a~132f(
図5参照)を除くコアボディ131(
図5参照)と同じ径とされる。また、コアボディ131と円盤部162の相対回転を防いで相対位置がずれないように、円盤部162には回り止め用のピン168a、168bが設けられる。ピン168a、168bは円盤部162と一体成形で製造されても良いし、別体部品としても良い。ここでは別体式の金属製のピンとしている。大径円柱部163は、コアボディ131の窪み部142の内径に相当する外径を有する。大径円柱部163の外周には、密閉のためのOリングを設けるための周方向に連続する周方向溝163bが形成される。大径円柱部163の径方向外側近くには、縦方向に貫通するように延びる軸方向孔173a~173fが設けられ、それらの上側開口が大径円柱部163の上面163aにて開口する。
【0039】
図6(B)はコア端面パーツ160の円盤部162の底面側の斜視図である。軸方向孔173a~173fは
、軸方向孔173a~173fの下側の端部であって、径方向外周部に延びる径方向溝174a~174fの内周側端部に接続される。径方向溝174a~174fは、円盤部162の底面162bの外縁まで延びる溝である。中央に形成された嵌合孔157の外周側には、図示しないOリングを収容するための円環溝162cが形成される。
【0040】
図6(C)は、(B)のA-A部の断面図(回転軸を含む縦断面図)である。細径部164の上側に形成された中径円柱部166はスプリング保持穴143(
図3参照)内に位置する部分であって、その上面にてスプリング155(
図3参照)を保持する。圧縮コイル式のスプリング155を保持するために、スプリング155の内径と一致する嵌合軸167が中径円柱部166の軸方向上側に形成される。大径円柱部163から細径部164、テーパー部165を通って中径円柱部166に至るまで、回転軸心に沿って軸方向孔171が形成される。軸方向孔171の下端は、嵌合孔157との境界面で開口し、軸方向孔171の上端は、放射状に延びる径方向孔172と連通する。軸方向孔171の下端より下側には、下側ロータカバー120の嵌合軸123を嵌合させるための嵌合孔157が形成される。嵌合孔157の外周側には図示しないOリングを設けるための円環溝162cが形成される。嵌合孔157は円柱状であるが、下側端部には下側に行くにつれて少し拡径するテーパー部157aが形成される。テーパー部157aは、下側ロータカバー120の嵌合軸123を挿入し易くするために設けられるものである。
【0041】
図7はコアボディ131とコア端面パーツ160の組み合わせ状態を示す図であって、(A)は縦断面図である。コアボディ131の下側部分であって窪み部142の開口は、コア端面パーツ160によって閉鎖されることによりサブ分離空間151が画定される。コア端面パーツ160に形成される径方向孔172はサブ分離空間151に開口するような位置関係となる。またコア端面パーツ160に形成された軸方向孔173はサブ分離空間151に開口する。コア端面パーツ160の円盤部162の上面162aは、コアボディ131のコア下端面141に当接する。コアボディ131のコア下端面141の間には試料が流れないため、コア端面パーツ160の大径円柱部163の外周側には周方向溝163bが形成され、そこにOリング(図示せず)が介在されて、サブ分離空間151から試料がコア下端面141に流れ込まないように密閉される。コア端面パーツ160はスプリング155によって下方向に付勢され、コアボディ131に対して回転軸方向に移動可能なように構成される。サブ分離空間151の上面側であってスプリング155が収容される空間との間には、周方向溝166aが形成され、そこにOリング(図示せず)が介在されて、サブ分離空間151から試料がスプリング155の収容空間内に流れ込まないように密閉される。
【0042】
図7(B)はロータコア130を底面側から見た斜視図である。このように下面側で見た形状は、
図10で示した従来のロータコア230と同等の形状である。従って、
図10で示す従来のロータ100Aのロータコア230を本実施例に係るロータコア130に置き換えることができる。
図7(C)は(B)の回転軸を含む断面における断面斜視図である。この図から理解できるように、エアトラップ機構150は従来のロータ100Aでは中実に形成される部分に収容されるものであり、ロータコア130とロータボディ101との間に形成される分離空間137(
図3参照)の容積には影響しない。更に、本実施例のロータコア130ではコア端面パーツ160がスプリング155によって軸方向にみてコアボディ131から離れる方向に付勢されるので、コア端面パーツ160と下側ロータカバー120の間、及び、ロータコア130と上側ロータカバー110の間を適切な圧力にて密接させることができる。尚、取り付け時に円盤部162の上面162aとコア下端面141の間にわずかな隙間を有するような位置関係とすれば
図12の矢印283のように遠心荷重による軸方向の力を受けた際であっても、上面162aとコア下端面141の隙間とスプリング155の作用によって軸方向に受ける力の影響を吸収することができるので、停止時から高速回転時に至るまで試料通路を適切に維持できる。
【0043】
図8はエアトラップ機構150における試料の流れを示す図である(その1)。送液ポンプ73(
図2参照)によりロアシャフト105(
図3参照)の試料貫通穴から矢印75dのようにロータ100内部に注入された試料は、下側ロータカバー120に設けられた試料通路121から矢印76aのように回転軸線方向上側に流れて、軸方向孔171に試料が流入する。軸方向孔171に流入した試料は矢印76bのように径方向孔172を流れてサブ分離空間151内に流れ込む。サブ分離空間151内では遠心力によって気泡と試料が分離される。このように試料に含まれる気泡は、ロータコア130の一端側のコア端面パーツ160によって形成されたエアトラップ機構150で自動的に捕まえられ、径方向溝174と下側ロータカバー120によって形成される流路へ気泡を入れないことで径方向溝174が詰まることなく低圧でスムーズに送液される。液中に溶け込んでおり常圧では現れない気泡もエアトラップ機構150で遠心荷重を受けることで試料内から分離され、液圧の高い外周部(分離空間137)へ送液される前にトラップされる。
【0044】
気泡が取り除かれた試料は、矢印76dのように軸方向孔173を通って径方向溝174に到達し、矢印76eのように径方向外周側に流れて分離空間137に到達する。ここではスプリング155により、コアボディ131に対してコア端面パーツ160が下側ロータカバー120に押し付けられている状態にすることで、部品の個体差の影響を受けずに径方向溝174と下側ロータカバー120の間に形成される流路を完全な状態で一定に保つことが出来、圧力でスムーズに送液できる。分離空間137では、比重の大きい成分が外周側に溜まり、比重の軽い成分(上澄)が、連続的に分離空間137内に流入する試料によって矢印76fのように上側に押し出される。尚、ロータコア130及びコア端面パーツ160の全長寸法及びスプリング155の移動寸法を適切な値に設定することで、スプリング155の張りによってロータコア130およびコア端面パーツ160が常に下側ロータカバー120、上側ロータカバー110と良好に接触することになり、高速回転時に発生するロータ100の変形による荷重もスプリング155によって良好に受け止めることが可能となる。
【0045】
図9は、
図8の状態から遠心分離が進んで、サブ分離空間151内に気体152が収集された状態を示している。この図からわかるように、サブ分離空間151内に流入した試料は、比重の違いによって気体152(主に空気)と液体153(試料)に分離され、比重の大きい液体153が外周側に移動し、比重の小さい気体152が内周側に移動する。サブ分離空間151の出口となる軸方向孔173はサブ分離空間151の最外周近くに形成されるため、液体153で満たされる部分に開口する。従って、矢印75dのように試料が連続的に給送されると、サブ分離空間151内の気体が取り除かれた液体153が、流入する試料の圧力によって軸方向孔173から矢印76dのように排出され、径方向溝174を矢印76eのように流れて外周側の分離空間137に排出される。分離空間137では試料は矢印76fのように上側に流れながら遠心分離される。このようにコア端面パーツ160の下面に形成された径方向溝174と、下側ロータカバー120との問に形成される流路を通過した試料が分離空間137へ供給された後、遠心力によって遠心分離される。この分離空間137に供給される試料は、気泡等の気体成分が取り除かれた後であるので、試料中に含まれる気泡の影響によって遠心分離効率が低下する虞を排除することができる。
【0046】
以上のように本実施例によれば、ロータ100内の遠心分離空間137に到達する前の試料に含まれる気泡を、ロータ100の回転による遠心力によって分離して取り除くようにしたので、ロータ100に連続的に試料を供給する際の送液圧力を低く保つことができる。この結果、本実施例による連続遠心機1はロータ100への試料の連続供給を安定して行うことができ、良好な遠心分離性能を得ることができる。また、ロータコア130とコア端面パーツ160がスプリング155によって軸方向に可動式としたので、遠心荷重によってわずかに変形するロータボディ101とロータカバー(110、120)から受ける圧縮負荷の影響を吸収することができるので、ロータボディ101側と、ロータコア130側の双方の寿命を延ばすことが期待できる。
【0047】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、上述の実施例の連続遠心機1では、分離する試料を下側パイプ72からロータ100へ入れる下側試料供給の例で説明したが、それだけに限られずに、試料を上側パイプ82からロータ100内に入れて、下側パイプ72から廃液又は分離試料を回収タンク86に回収する上側試料供給であっても同様に適用できる。その場合は、エアトラップ機構150をロータコア130の上部に設ければ良い。更に、コアの材質はチタン合金等の金属製でも良く、その場合、エアトラップ機構150付近以外は中空にして、コアの軽量化と体積当たりの比重をできる限り水の比重と同等(例えば1~1.2g/mm3)にしておくと良い。
【符号の説明】
【0048】
1…連続遠心機、10…遠心分離部、11…チャンバ、12…ベース、13,14…ボルト、16…リフト、17…アーム、18…エバポレータ、19…プロテクタ、20…下側軸受部、30…駆動部、32…アッパーシャフト、33…回転方向、40…配線・配管群、50…制御装置部、51…制御装置、60…操作パネル、71…試料タンク、72…下側パイプ、73…送液ポンプ、74…センサ、75a~75c…試料の流れ、76a~76f…試料の流れ、78,79…(スプリング155による)付勢力、82…上側パイプ、85a~85c…廃液の流れ、86…回収タンク、100,100A…ロータ、101…ロータボディ、102,103…雌ねじ、105…ロアシャフト、110…上側ロータカバー、111…試料通路、112…試料分岐通路、113…嵌合軸、114…雄ねじ、115…隙間、119…ナット、120…下側ロータカバー、121…試料通路、122…試料分岐通路、123…嵌合軸、124…雄ねじ、129…ナット、130…ロータコア、131…コアボディ、132,132a~132f…隔壁、134…嵌合孔、135,135a~135f…コア端面溝、137…(メイン)分離空間、141…コア下端面、142…窪み部、143…スプリング保持穴、145a,145b…ピン穴、150…エアトラップ機構、151…サブ分離空間、152…気体、153…液体、155…スプリング、157…嵌合孔、157a…テーパー部、160…コア端面パーツ、162…円盤部、162a…上面、162c…円環溝、163…大径円柱部、163a…上面、162b…底面、162c…円環溝、164…細径部、165…テーパー部、166…中径円柱部、166a…周方向溝、167…嵌合軸、168a,168b…ピン、171…軸方向孔、172…径方向孔、173…軸方向孔、173a~173f…軸方向孔、174…径方向溝、174a~174f…径方向溝、176~178…試料の流れ、180~182…試料の流れ、230…ロータコア、231…コアボディ、234…嵌合孔、237…分離空間、245…径方向通路、254…嵌合孔