(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】ポリテトラフルオロエチレンヘキサフェライト複合材料
(51)【国際特許分類】
H01F 1/37 20060101AFI20220117BHJP
H01F 1/34 20060101ALI20220117BHJP
H01Q 7/06 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
H01F1/37
H01F1/34 180
H01Q7/06
(21)【出願番号】P 2020541537
(86)(22)【出願日】2019-02-14
(86)【国際出願番号】 US2019017920
(87)【国際公開番号】W WO2019164732
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-11-12
(32)【優先日】2018-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596024851
【氏名又は名称】ロジャーズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ホルン、アレン エフ.ザ サード
(72)【発明者】
【氏名】ラフランス、パトリシア エイ.
(72)【発明者】
【氏名】ケス、クリストファー ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】スプレントール、カール エドワード
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-169378(JP,A)
【文献】特開2010-238748(JP,A)
【文献】国際公開第2016/149465(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/127388(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104193224(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0101873(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/37
H01F 1/34
H01Q 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレンと、
前記ポリテトラフルオロエチレン及び複数のCo
2Zヘキサフェライト粒子の空隙がないベースでの総体積に対して、40体積%以
上の複数のCo
2Zヘキサフェライト粒子とを含んでなるヘキサフェライト複合材料において、
前記ヘキサフェライト複合材料は、前記ヘキサフェライト複合材料の総体積に対して
10%以上の気孔率を有し、
前記ヘキサフェライト複合材料は、いずれも500MHzで測定した場合に、2.5以上の透磁率及び、0.4以上の透磁率と誘電率の比を有し、
前記透磁率及び誘電率は、1インチ(25mm)の同軸エアラインで測定され、ベクトルネットワークアナライザを使用して測定された散乱パラメータからニコルソン・ロス法で抽出される、ヘキサフェライト複合材料。
【請求項2】
複数の前記Co
2Zヘキサフェライト粒子が、4マイクロメートル以
上のメジアン粒径を有し、
前記メジアン粒
径は、ASTM D4464-15に従って決定される、請求項1に記載のヘキサフェライト複合材料。
【請求項3】
前記ヘキサフェライト複合材料が、複数の前記Co
2Zヘキサフェライト粒子を60
体積%を超え、かつ90体積%
までにて含む、請求項1に記載のヘキサフェライト複合材料。
【請求項4】
複数の前記Co
2Zヘキサフェライト粒子が、芳香族シラン又はフッ素化脂肪族アルコキシシランの少なくとも1つを含有した表面処理を有する、請求項1に記載のヘキサフェライト複合材料。
【請求項5】
複数の前記Co
2Zヘキサフェライト粒子が、Al、Ba、Bi、Ni、Ir、Mn、Mg、Mo、Nb、Nd、Sr、V、Zn又はZrの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のヘキサフェライト複合材料。
【請求項6】
前記ヘキサフェライト複合材料が、空隙がないベースで
の前記ポリテトラフルオロエチレンと複数のCo
2Zヘキサフェライト粒子との総体積に対して、5~60体積
%の前記ポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項
1に記載のヘキサフェライト複合材料。
【請求項7】
気孔率はヘキサフェライト複合材料の総体積に対して、15~50体積
%である、請求項1に記載のヘキサフェライト複合材料。
【請求項8】
請求項
1に記載のヘキサフェライト複合材料において、
透磁率は500MHzで4.5~
7であること、
透磁率と誘電率の比は、500MHzで0.5~0.9
8であること、
前記ヘキサフェライト複合材料は、500MHzで4以
上の誘電率を有すること、
前記ヘキサフェライト複合材料は、500MHz
で0.1以
下の磁気損失正接を有すること、又は、
前記ヘキサフェライト複合材料は、500MHzで0.1以
下の誘電損失を有することのうちの少なくとも1つを満たす、ヘキサフェライト複合材料。
【請求項9】
前記ヘキサフェライト複合材料は、IPC試験方法650,2.4.9に従って測定した場合に、3~7pl
iの銅結合強度を有する、請求項
1に記載のヘキサフェライト複合材料。
【請求項10】
誘電性フィラー又は繊維層の少なくとも1つをさらに含む、請求項
1に記載のヘキサフェライト複合材料。
【請求項11】
請求項
1に記載のヘキサフェライト複合材料を含んでなる物品。
【請求項12】
前記物品がアンテナである、請求項11に記載の物品。
【請求項13】
5~60体積%のポリテトラフルオロエチレンと、
40~95体積%の複数のCo
2
Zヘキサフェライト粒子であって、ASTM D4464-15に従って決定される4マイクロメートル以上のメジアン粒径を有する複数のCo
2
Zヘキサフェライト粒子とを含んでなるヘキサフェライト複合材料において、
前記ポリテトラフルオロエチレン及び複数のCo
2
Zヘキサフェライト粒子の体積%は、前記ポリテトラフルオロエチレン及び複数のCo
2
Zヘキサフェライト粒子の空隙がないベースでの総体積に対するものであり、
前記ヘキサフェライト複合材料は、前記ヘキサフェライト複合材料の総体積に対して15~50体積%の気孔率を有し、
前記ヘキサフェライト複合材料は、いずれも500MHzで測定した場合に、2.5以上の透磁率及び、0.4以上の透磁率と誘電率の比を有し、
前記透磁率及び誘電率は、1インチ(25mm)の同軸エアラインで測定され、ベクトルネットワークアナライザを使用して測定された散乱パラメータからニコルソン・ロス法で抽出される、ヘキサフェライト複合材料。
【請求項14】
ヘキサフェライト複合材料を含んでなるシートを製造する方法において、
前記シートを形成するために、ポリテトラフルオロエチレンと複数のCo
2Zヘキサフェライト粒子とを含む混合物の、ペースト押出し、流延、又は成形のうちの少なくとも1つの工程を備え
、
前記シートは、前記ポリテトラフルオロエチレン及び複数のCo
2
Zヘキサフェライト粒子の空隙がないベースでの総体積に対して、40体積%以上の複数のCo
2
Zヘキサフェライト粒子とを含んでなる、前記ヘキサフェライト複合材料を備え、
前記ヘキサフェライト複合材料は、前記ヘキサフェライト複合材料の総体積に対して10%以上の気孔率を有し、
前記ヘキサフェライト複合材料は、いずれも500MHzで測定した場合に、2.5以上の透磁率及び、0.4以上の透磁率と誘電率の比を有し、
前記透磁率及び誘電率は、1インチ(25mm)の同軸エアラインで測定され、ベクトルネットワークアナライザを使用して測定された散乱パラメータからニコルソン・ロス法で抽出される、方法。
【請求項15】
前記シートの形成の工程がペースト押出し工程からなり、前記方法はシートをカレンダ加工する工程をさらに備える、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記混合物は、分散液又は粉末の形態のポリテトラフルオロエチレンと、複数のCo
2Zヘキサフェライト粒子と、潤滑剤とを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記シートの形成の工程が流延工程からなり、前記混合物はポリテトラフルオロエチレン及び複数のCo
2Zヘキサフェライト粒子を含む水性分散体であり、流延後に第1の温度に前記シートを加熱し、第2の温度で前記シートを焼結する工程をさらに備える、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記流延の工程が、前記混合物を布補強材、好適にはガラス布補強材に流延する工程を備える、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記シートを形成する工程が、粒状の
前記ポリテトラフルオロエチレンと前記複数のCo
2Zヘキサフェライト粒子とを混合して前記混合物を形成する工程と、前記混合物を乾式カレンダ加工又は成形のうちの少なくとも1つによってシートを形成する工程とを備える、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記シートの少なくとも1つの表面上に導電層を追加する工程をさらに備える、請求項
14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリテトラフルオロエチレンヘキサフェライト複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
比透磁率と比誘電率が1より大きい材料である磁性誘電材料には、AMラジオの黎明期からアンテナ設計者が大きな関心を寄せてきた。これらの材料に対する主な関心は、アンテナの小型化に対する需要によって推進されてきた。共振アンテナのサイズは、その共振周波数での電磁波の波長の関数である。自由空間(真空)では、電磁波の波長λは、式[1]に示すように、光速cをその波の周波数fで割った値で定義される。
【0003】
λ=c/f 式[1]
電磁波が比誘電率εr(単に誘電率とも言う)及び/又は比透磁率μr(単に透磁率とも言う)が1より大きい絶縁媒体を伝搬する場合、伝播速度が低下し、波長は材料内の伝播速度の関数として計算される(式[2]を参照)。
【0004】
【0005】
式[2]において、
【0006】
【0007】
は、波が媒体を通る間の伝播速度の減少である。この用語は、小型化係数とも呼ばれる。また、媒体には固有のインピーダンスがあるが、これは、媒体を伝播する横方向の電磁波についての電場と磁束密度の比である。式[5]に示すように、媒体の固有インピーダンスZは、相対透磁率と相対誘電率の比に自由空間の固有インピーダンス
【0008】
【0009】
を乗算したものから計算できる。
【0010】
【0011】
波の伝播の基本から、進行波がインピーダンスの不連続に遭遇すると反射が発生することが公知である。しかしながら、方程式[4]及び方程式[5]を評価することから、μr=εrであれば、方程式[6]が生じることが明らかになる。
【0012】
【0013】
したがって、高い比誘電率と高い比透磁率の両方を使用して高い小型化係数を示す材料を作成できる一方で、比誘電率と比透磁率が等しい材料を使用し、自由空間のインピーダンスに等しい固有インピーダンスを使用すると、大きな小型化係数を維持することができることが明らかである。アンテナ設計の固有インピーダンスのこの整合から提案される利点は、効率の改善と帯域幅の改善にある。透磁率、誘電率、及びアンテナ帯域幅の正確な関係は、アンテナ設計の関数となる。ただし、広く引用されている関係式は、2000年にハンセンとバークによって導出された式[7]の関係式である(非特許文献1)。ハンセンとバークは次の重要な結論を導き出した。「εとは異なり、μはパッチの帯域幅を狭めないことに注意することが重要である。このような基材には重要な利点がある。パッチの共振長が
【0014】
【0015】
だけ短くなるため、はるかに短い(及び小さい)パッチが、帯域幅がεのみのパッチと同一の帯域幅を有することになる。式[7]で、λ0は自由空間波長を示し、tは2:1の電圧対定在波比(VSWR)での部分帯域幅に等しくなる。
【0016】
【0017】
高分子マトリックスに組み込むための透磁性材料は、2つの基本カテゴリ、すなわち強磁性金属と、「フェライト」として知られる酸化鉄セラミックとに分類できる。これらの種類の材料の中で、いくつかの選択基準が当業者に公知である。磁性材料は、周波数に依存する電磁特性、主に実部透磁率と虚部透磁率の周波数依存性の影響を受ける。強磁性材料及びフェリ磁性材料は、式[8]に示されるように、スネークの法則として知られているスネークによって最初に記述された制限を受けることが当業者に公知である。スネークの法則は、初期の透磁率μ’-1と強磁性共鳴周波数(虚部透磁率のピークとして定義)の積F0は、磁気回転比γ4πの3分の2と磁気飽和MSの積に等しい定数値であることを規定している。一般的な規則は、低い磁気損失正接を達成することであり、強磁性共鳴周波数は、最大動作周波数よりも有意に高くなければならない。典型的には、「有意に高い」とは、強磁性共鳴が最大の所望の動作周波数よりも3~5倍高くなければならないことを意味すると理解されている。
【0018】
【0019】
スネークの法則の評価から、高い最大動作周波数を実現するには、4πMS値の高い材料から出発することが好適であることが明らかである。いくつかの既知の磁性材料の4πMS値を表Aに示す。
【0020】
【0021】
このことから、鉄、鉄ニッケル合金、鉄ケイ素合金、又は鉄コバルト合金などの強磁性金属の使用は、高い周波数で高い透磁率を達成するために有利であると当業者ならば想定する。複合材料を形成するためにポリマーマトリクスに組み込まれると、これらの材料は、高周波に対して高い透過性を示すが、表Bに示すように、特許文献1に記載されているような炭化水素熱硬化性樹脂系における体積比率で添加した場合に、少なくとも3つの領域で欠点があることが判明した。第1の点として、表Bは、強磁性金属を含有する複合材料の500メガヘルツ(MHz)での比誘電率が、金属酸化物を含有する複合材料の比誘電率よりも実質的に高いことを示している。第2に、500MHzでの誘電損失正接は実際の用途には高すぎる。最後に第3の点として、500MHzでの磁気損失正接は、強磁性共鳴周波数に相対して高くなる。
【0022】
【0023】
スピネル型フェライトは、最も一般的に製造されている「ソフト」な磁性酸化物である。ソフトなスピネル型フェライトの種類としては、マンガン亜鉛フェライト(MnZnフェライト)とニッケル亜鉛フェライト(NiZnフェライト)という2つの主要な材料ファミリーが使用される。マンガン亜鉛フェライトは通常、インダクタやトランスコアなどの電力産業の用途で使用される。比透磁率は500~15,000で、カットオフ周波数は1~10MHzである。カットオフ周波数が低いため、超短波(VHF)又は極超超短波(UHF)の磁性誘電体での使用において現実的な候補とはならない。ニッケル亜鉛フェライトは、通常、パワーインダクタやトランスコア、及びマイクロ波トランスコアで使用される。通常、比透磁率は20~3,500、カットオフ周波数は300MHz未満である。カットオフ周波数が低いため、UHF磁性誘電材料の候補にはならない。マグネタイト、Fe3O4は最初に発見された磁性酸化物であり、天然に存在する材料である。通常、カットオフ周波数が低く、抵抗率が低いため、低損失の磁性誘電材料への用途が制限される。
【0024】
六方晶フェライト材料である「ヘキサフェライト」は、1950年代にフィリップス社によって最初に作製されたフェリ磁性材料の一種である。それらは、磁気結晶異方性(及び「内部異方性磁場」)を示し、六方晶フェライトの各相は、大部分がその磁気特性を定義する内部異方性磁場を有する。典型的には、六方晶フェライトの比透磁率は異方性磁場に反比例するが、カットオフ周波数は異方性磁場に比例すると、理解されている。
【0025】
ヘキサフェライトには商業的に製造されているM,Y,Z相の3つの相があり、磁性誘電性複合材料として使用できる。Y相とZ相のヘキサフェライトは、しばしばその相と遷移金属とによって命名されている。例えば、コバルトZ相ヘキサフェライトは一般にCo2Zヘキサフェライトと呼ばれ、より適切にはCo2Zフェライトと呼ばれている。M相ヘキサフェライトは基本的にBaFe12O19の一般式を有する。M相ヘキサフェライトは、最も一般的に製造されているヘキサフェライトであり、通常は高い保磁力を示し、一般に有意量の実部比透磁率を示さない硬磁性材料として分類される。通常、BaM、バリウムヘキサフェライト、又はSrM、ストロンチウムヘキサフェライトと呼ばれている。製造が最も安価な磁性材料の1つとして知られており、低エネルギーの永久磁石やマイクロ波吸収材に使用されている。純粋なM相ヘキサフェライトの強磁性共鳴周波数は45~50ギガヘルツ(GHz)だが、比透磁率は1に近くなる。その低い実部透磁率に基づいて、低損失の磁性誘電体を製造するために実行可能な選択肢ではない。
【0026】
Y相ヘキサフェライトの基本的な化学式はBa2Me2Fe12O22で、Meは遷移金属、通常はコバルト、マグネシウム、又は亜鉛です。他の利用可能なヘキサフェライトと比較すると、Y相ヘキサフェライトは通常、Co2Z又はBaMヘキサフェライトよりも低い飽和磁化、M相ヘキサフェライトよりも低い異方性磁場、及びZ相ヘキサフェライトよりも高い異方性磁場を示す。理想的なCo2Yヘキサフェライトは、約5.7GHzの強磁性共鳴と、約4の比透磁率とを有する必要がある。実際に実証されたCo2Yフェライトは、約3GHzの強磁性共鳴周波数で、約3の比透磁率を示す。研究文献に詳述されているYフェライトは、10~25の比誘電率を示す。誘電率に対する透磁率の比が3を超えると、高インピーダンスの磁性誘電性複合材料には適さなくなる。
【0027】
Z相ヘキサフェライトの基本的な一般式はBa3Me4Fe24O41であり、Meは遷移金属、通常はコバルト、亜鉛、又はチタンである。他の利用可能なヘキサフェライトと比較すると、Z相ヘキサフェライトは通常、M相ヘキサフェライトよりも低い飽和磁化を示すが、Y相よりも飽和磁化が高く、両方の材料よりも内部異方性磁界が低くなっている。純粋なZ相ヘキサフェライトの形成は非常に困難であると理解されており、Z相ヘキサフェライトと呼ばれる材料には、通常、少量の二次相(通常はM,Y又はW)が含まれている。理想的なCo2Zヘキサフェライトはカットオフ周波数が約3.4GHz、比透磁率は約9だが、実際にはカットオフ周波数は約1GHzと大幅に低くなっている。Z型フェライトの比誘電率は通常7~20の範囲であり、高インピーダンスの磁性誘電材料の候補としてより現実的なものになっている。しかしながら、Z型ヘキサフェライトの相対透磁率を増加させるために利用できる置換は、通常、材料の比誘電率も増加させ、ヘキサフェライト材料における透磁率と誘電率の比は、一般に、1.1以下である。Z相ヘキサフェライトは高インピーダンスの磁性誘電複合材料の候補ではあるが、自由空間とほぼ等しいインピーダンスを実現するには、ほぼ等しい透磁率と誘電率との比率を有するべきとの制限を克服する必要がある。
【0028】
特許文献2は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に45~55重量パーセントのCo2Zフェライトを含む基材を開示している。空隙が存在しない前提では、これらの値はそれぞれ25体積l%及び33体積%に相当する。この特許のCo2Zフェライト粉末は平均粒子サイズが1マイクロメートルであり、PTFE粉末とエタノールにブレンドされている。次に、湿った混合物を乾燥させ、PTFEフェライト複合材料混合物を10MPaの圧力と摂氏360℃(℃)の最高温度で成形する。この成形工程により、比透磁率が2.8~3.8、比誘電率が6.5~8.0の基材が得られた。しかしながら、複合材料は、比透磁率と比誘電率との比について良好な値を達成することができない。
【0029】
特許文献3は、ポリイミド中に85~90重量%のCo2Zフェライトを含む基材を開示し、この特許文献3の基材の比透磁率は2.5~4.5、比誘電率は7.0~9.0である。
【0030】
特許文献4は、PTFEバインダー中に83~98wt%のFe-Siを含む磁性シート、及び透過性を増加させる試みにおいて多孔性を減少させるために溶媒を排除する乾燥粉末混合プロセスを開示する。
【0031】
特許文献5は、強磁性共鳴で負の透磁率を示し、アスペクト比が10より大きい、より低量の炭化鉄フレークを含有する基材を開示している。誘電率を高めるためのグラファイト又は他の導電性材料の追加、及び、それらの基材が
図1及び3、ならびに
図3,4から推定されるように500Mzで0.3~1.0の非常に高い損失ε’’/ε’及び0.1~1.0μ’’/μ’を有することも開示している。比透磁率と比誘電率の比も非常に低い。例えば、500MHzで
図1と
図3の値を比較すると、最大透磁率と比誘電率の比は約0.04である。
図5,6で測定された基材の比透磁率と比誘電率の比は、わずか約0.01である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【文献】米国特許第5,223,568号
【文献】中国特許第104193224号
【文献】中国特許第103304186号
【文献】米国特許第7,976,720号
【文献】米国特許第8,641,918号
【非特許文献】
【0033】
【文献】Hansen,R.C. and Mary Burke,“Antennas with magneto―dielectrics”,Microwave and Optical Technology Letters 26.2(2000):75-78
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0034】
上記の特許のすべての基材では、比透磁率と比誘電率の比が0.6未満になることが観察された。したがって、比透磁率の増加及び比透磁率と比誘電率の比の増加のうちの1つ以上を有する磁性誘電材料が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0035】
本明細書では、PTFEと、PTFE及び複数のCo2Zヘキサフェライト粒子の総体積に対して、空隙なしのベースで、40体積%以上、又は40~90体積%以上の複数のCo2Zヘキサフェライト粒子とを含有するヘキサフェライト複合材が開示されている。ここで、ヘキサフェライト複合材は、ヘキサフェライト複合材の総体積に基づいて10体積%以上の気孔率を有し、ヘキサフェライト複合材料は、500MHzで測定した、2.5以上の透磁率と、0.4以上の透磁率と誘電率の比とを有する。
【0036】
さらに、ヘキサフェライト複合材料からなる物品が開示される。
PTFE及び複数のCo2Zヘキサフェライト粒子を含む混合物を、ペースト押出、流延、又は成形してシートを形成工程を備える、ヘキサフェライト複合材料からなるシートを製造する方法も開示される。
【0037】
上記及び他の特徴は、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲によって例示される。
【発明を実施するための形態】
【0038】
驚くべきことに、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と、空隙のないベースで、ポリテトラフルオロエチレンと複数のCo2Zヘキサフェライト粒子の総体積に対して、40体積%以上の複数のCo2Zヘキサフェライト粒子とを含んでなる多孔質ヘキサフェライト複合材料は、2.5以上の透磁率と、0.4以上の透磁率と誘電率の比の少なくとも一方を実現でき、どちらも500MHzで測定された数値である。Co2Zヘキサフェライト粒子の粒径と、Co2Zヘキサフェライト粒子の相対量と、ヘキサフェライト複合材料の気孔率とのうちの1つ以上を調整することにより、透磁率と、透磁率の誘電率に対する比との両方をさらに高めることができる。例えば、本ヘキサフェライト複合材料は、4.5~7、又は6~7の透過率、及び0.5~0.98、又は0.7~0.98の透過率と誘電率の比の少なくとも1つを達成することができる。
【0039】
ヘキサフェライト複合材料はPTFEを含んでなる。PTFEは、ホモポリマー又は微量変性ホモポリマーの少なくとも1つを含むことができる。本明細書で使用されるように、微量変性PTFEホモポリマーは、PTFEの総重量に基づいて、テトラフルオロエチレン以外のコモノマーから誘導される1重量%未満の繰り返し単位を含む。PTFEは、乳化重合によって重合されて分散液を形成し、これがさらに凝固されて凝固された分散液又は微粉末PTFEを形成することができる。シートは、ペースト押し出しとカレンダ加工により、微粉末用の凝固した分散液から形成できる。あるいは、PTFEは、懸濁重合によって重合して、粒状PTFEを形成することができる。ペースト分散とカレンダ加工によって形成された凝固分散液又は微粉末PTFEを含むヘキサフェライト複合材料は、同じ組成であるが粒状PTFEからなる基材と比較して、脆性が低くなる。
【0040】
ヘキサフェライト複合材料は、空隙がないベースで、PTFEと複数のCo2Zヘキサフェライト粒子の合計体積に対して、60体積%以下、又は5~60体積%、又は10~50体積%、又は10~40体積%のPTFEを含むことができます。
【0041】
ヘキサフェライト複合材料は、複数のCo2Zヘキサフェライト粒子を含む。Co2Zヘキサフェライト粒子は、コバルトに加えて1つ以上の二価カチオンを含むことができる。例えば、1つ以上の他の二価カチオンは、Al、Ba、Bi、Ni、Ir、Mn、Mg、Mo、Nb、Nd、Sr、V、Zn、又はZrの少なくとも1つを含むことができる。より詳細には、1つ以上の他の二価カチオンは、Sr、Ba、Ni、Zn、V、又はMnのうちの少なくとも1つを含むことができる。一実施形態では、Co2Zヘキサフェライト粒子は、式Ba3Co2Fe24O41を有することができる。
【0042】
Co2Zヘキサフェライト粒子の形状は、不規則又は規則的であり得、例えば、球形、卵形、フレークなどであり得る。Co2Zヘキサフェライト粒子は、磁性ナノ粒子とマイクロメートルサイズの粒子の一方又は両方を含むことができる。Co2Zヘキサフェライト粒子は、ホリバ社LA-910レーザ光散乱PSDアナライザを使用して測定した場合、又はASTM
D4464-15に従って決定した場合、4マイクロメートル以上、又は10~100マイクロメートル、又は12~30マイクロメートルのメジアン粒径を有することができる。驚くべきことに、例えば粒径のメジアン値を10マイクロメートル以上に大きくするだけで、500MHzでのヘキサフェライト複合材料の透過率の値の増加、及び、透過率に対する誘電率の比の値が0.7~約1(0.97)との増加したマッチングのうちの少なくとも一方を有することができる。複数のCo2Zヘキサフェライト粒子は複数のモードの粒径分布を有することができ、例えば、1マイクロメートル以下のメジアン粒径を有する第1の複数の粒子と、5マイクロメートル以上のメジアン粒径を有する第2の複数の粒子とを含むことができる。
【0043】
ヘキサフェライト複合材料は、空隙がないベースで、ポリテトラフルオロエチレンと複数のCo2Zヘキサフェライト粒子の総体積に対して、40~95体積%、又は50~95体積%、又は60~90体積%にて、複数のCo2Zヘキサフェライト粒子を含むことができる。意外なことに、Co2Zヘキサフェライト粒子の体積%を、例えば60~95体積%の量に増やすと、500MHzにおける、透過率の値が4.6~6.5に増加し、透過率と誘電率の比0.7~約1(0.97)であるヘキサフェライト複合材料を生成できることがわかった。
【0044】
Co2Zヘキサフェライト粒子は、例えば、界面活性剤(オレイルアミン、オレイン酸など)、無機材料(SiO2,Al2O3,MgOなど)、シラン、チタン酸塩、又はジルコン酸塩のうちの少なくとも1つによって、表面処理(本明細書においてコーティングともいう)して、PTFEへの分散を促進してもよい。
【0045】
コーティングには、シランコーティング、チタネートコーティング、又はジルコネートコーティングの少なくとも1つを含むことができる。コーティングは、フェニルトリメトキシシラン、p-クロロメチルフェニルトリメトキシシラン、アミノエチルアミノトリメトキシシラン、アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、(トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシル)-1-トリエトキシシラン、ネオペンチル(ジアリル)オキシトリネオデカノイルチタネート、ネオペンチル(ジアリル)オキシトリ(ジオクチル)ホスフェートチタネート、ネオペンチル(ジアリル)オキシトリ(ジオクチル)ピロホスフェートジルコネート、又はネオペンチル(ジアリル)オキシトリ(N-エチレンジアミノ)エチルジルコネートのうちの少なくとも1つを含んでもよい。コーティングは、フェニルトリメトキシシランなどの芳香族シラン又は(トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリエトキシシランなどのフッ素化脂肪族アルコキシシランの少なくとも1つを含むシランコーティングを含むことができる。
【0046】
Co2Zヘキサフェライト粒子は、複合材料混合物を形成する前にコーティング剤で前処理しても、複合材料を形成する前にコーティング剤を複合材料混合物に添加してもよい。コーティングは、Co2Zヘキサフェライト粒子の総重量に対して、0.2~4重量%、又は1~3重量%の量で存在することができる。
【0047】
ヘキサフェライト複合材料は、複合材料の総体積に対して、10体積%以上、又は15~50体積%、又は20~45体積%の気孔率を有することができる。気孔率は、密度計算又はキシレン取り込み測定によって決定できる。多孔性の部分が存在すると、透磁率と誘電率の比が向上することが判明した。理論に拘束されるものではないが、PTFEの誘電率が2.1であるのと比較して、空気の誘電率が1.0と低いため、PTFEの体積を空気で置き換えると、複合材料全体の誘電率が低くなると考えられる。ただし、空気とPTFEの両方が磁性を有さず、透磁率が1.0であるため、複合材料の透磁率の値は多孔性の存在によって変化せず、透磁率と誘電率の比が1に近く改善される。細孔又は空隙空間は開いていてもよく、その結果、空気は、ヘキサフェライト複合材の一方の表面から、複合材の細孔を通ってヘキサフェライト複合材の反対側の表面に流れることができる。
【0048】
ヘキサフェライト複合材料(本明細書では複合材料とも呼ばれる)は、500MHzで2.5以上、又は2.5を超える、又は4.5~7、又は6~7の透磁率を有することができる。複合材料は、500MHzで4以上、又は5~8、又は6~7の誘電率を有することができる。複合材料は、500MHzで、0.4以上、又は0.5~0.98、又は0.7~0.98の透磁率対誘電率の比を有し得る。複合材料は、500MHzで0.1以下、又は0.08以下、又は0.01~0.07、又は0.01~0.05の磁気損失正接を有することができる。複合材料は、500MHzで0.1以下、又は0.05以下、又は0.001~0.05、又は0.01~0.05の誘電損失を有し得る。磁性誘電特性は、ベクトルネットワークアナライザを使用して測定された散乱パラメータからニコルソン・ロス法の引き出しを用いて同軸エアラインを使用して測定できる。
【0049】
ヘキサフェライト複合材料は、IPC試験方法650,2.4.9に準拠して測定したときに、3~7pli(ポンド/リニアインチ)(0.54~1.25キログラム/センチメートル(kg/cm))、又は4~6pli(0.71~1.07kg/cm)の銅結合強度を持つことができる。
【0050】
ヘキサフェライト複合材料は、誘電性フィラーを含むことができる。誘電性フィラーは、シリカ(例えば、溶融アモルファスシリカ)、ウォラストナイト、中実ガラス球、合成ガラスもしくはセラミック中空球、石英、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、アルミナ三水和物、マグネシア、マイカ、タルク、ナノクレイ、又は水酸化マグネシウムの少なくとも1つを含むことができる。誘電性充填剤は、空隙がないベースでのヘキサフェライト複合材料の総体積に基づいて、1~60体積%、又は10~50体積%の量で存在することができる。
【0051】
複合材料は、繊維層などの補強層を含むことができる。繊維層は、製織されたものでも、又はフェルトなどの不織のものでもよい。繊維層は、非磁性繊維(例えば、ガラス繊維及びポリマーベースの繊維)、磁性繊維(例えば、金属繊維及びポリマーベースの磁性繊維)、又は上記の少なくとも一方を含む組み合わせをからなることができる。そのような熱的に安定な繊維強化は、基材の平面内での硬化時の複合材料の収縮を低減する。さらに、布補強材を使用すると、比較的高い機械的強度を有した基材を形成するために役立つ。このような基材は、例えば、コーティング又は、ロールツーロールラミネーションを含むラミネーションによって処理することができる。繊維層は、その中に分散した磁性粒子を有することができる。
【0052】
ガラス繊維は、Eガラス繊維、Sガラス繊維、又はDガラス繊維のうちの少なくとも1つを含むことができる。ポリマーベースの繊維は、高温ポリマー繊維を含むことができる。ポリマーベースの繊維は、サウスカロライナ州フォートミルのクラレ・アメリカ社(Kuraray America Inc.)から市販されているVECTRAN(商標)などの液晶ポリマーを含むことができる。ポリマーベースの繊維は、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、又はポリエステルの少なくとも1つを含むことができる。空隙がないベースでのヘキサフェライト複合材料全体の20体積%以下などの比較的少量のガラスは、透磁率と誘電率の高い比率を維持するのに役立つため、好適である。
【0053】
ヘキサフェライト複合材料は、シートを形成し、シートをカレンダ加工してヘキサフェライト複合体を形成することによって調製することができる。シートは、PTFE、潤滑剤、及びヘキサフェライト粒子を含む潤滑されたクラムをペースト押出しすることによって形成することができる。潤滑剤の例には、テキサス州ヒューストンのエクソン・ケミカル・カンパニー社から市販されているISOPAR(登録商標)が含まれる。潤滑剤は、ジプロピレングリコールなどのグリコールエーテルを含むことができる。混合は、垂直方向に360°回転するタンブルミキサーでの混合を含み得る。潤滑クラムは、PTFE、ヘキサフェライト、潤滑剤を混合することで形成できる。混合は、最初にPTFEを混合し、次にヘキサフェライトを添加し、最後に潤滑剤を混合する工程を備えることができる。混合は、例えば、任意選択で1つ以上の混合ブレードを有する攪拌棒による補助混合を含むことができる。攪拌棒を有するミキサーの市販の例は、増強棒を備えたパターソンケリービーブレンダである。混合は、最初にPTFEとCo2Zヘキサフェライトをエアミルで混合することを含むことができる。エアミルの市販の例は、ジェット・パルヴェライザ(Jet Pulveriser)社によって製造されたマイクロン・マスター(Micron-Master)ミルである。空気粉砕された粉末は、物品がもろくなることなく、より高い充填剤の装填を可能にすることができる。混合は4~100分間、又は10~50分間行うことができる。
【0054】
潤滑クラムは、シートを形成する前に、例えば40~150℃の温度で1~40時間加熱することができる。シートは、ペースト押出しによって形成することができる。ペーストの押し出しは、15~150℃、又は40~60℃の温度で行うことができる。シートは圧縮成形によって形成することができる。
【0055】
シートはカレンダ加工することができる。カレンダ加工は、単一のカレンダ加工ステップ又は複数のカレンダ加工ステップを含むことができる。例えば、シートは、最初のカレンダ加工ステップに供することができ、シートは、間に調整可能な間隙の厚さを有する対向する少なくとも1つのステンレス鋼カレンダ加工ロールのセットを通過する。ロール間のギャップの厚さを調整して、ロール間を通過するシートの厚さを低減する。カレンダ加工の間、シートの幅は維持されるが、厚さが減少するにつれてシートの長さは増加する。市販のカレンダ加工機の一例は、小型のキリオン(商標)2ロールスタック(ニュージャージー州セダーグローブ、キリオン・エクストルーダーズ社(Killion Extruders,Inc.))である。次に、シートを、1つ以上のカレンダ加工ステップで、例えば、45~135°の角度、例えば、最初のカレンダ加工方向の90°でさらにカレンダ加工することができる。カレンダーロールは、例えば、40~150℃、又は45~60℃の温度に加熱することができる。
【0056】
カレンダ加工後、ヘキサフェライト複合材料を、例えば10~60分、又は15~20分間水に浸して溶媒を除去し、150~300℃、又は50~300℃、又は200~300℃の温度で1~40時間、又は5~15時間加熱する。加熱後、シートは、シートの総重量に対して、0.2重量%以下、又は0~0.1重量%の潤滑剤を含有し得る。
【0057】
ヘキサフェライト複合材料を含むシートは、流延によって形成することができる。例えば、流延には、PTFE、Co2Zヘキサフェライト粒子、液体担体、及び任意の粘度調整剤を含む水性分散液を担体シート上に流延する工程と、流延用分散液を乾燥させる工程と、焼結してシートを形成する工程と、担体シートから取り外す工程とを含み得る。液体担体は水を含むことができる。任意の粘度調整剤は、ポリアクリル酸、メチルセルロース、ポリエチレンオキシド、グアーガム、ローカストビーンガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム、又はトラガカントガムの少なくとも1つを含むことができる。流延には、ガラス繊維上への流延を含むことができる。この方法は、複数の流延工程を備えて、シートの厚さを増加させることができる。流延後、流延した分散液を第1の温度に加熱して、例えば150~300℃の温度で乾燥したシートを乾燥形成することができる。次に、乾燥したシートを、例えば、350~400℃の焼結温度で焼結することができる。流延は、米国特許第5,506,049号に従って行うことができる。
【0058】
ヘキサフェライト複合材料を含むシートは、成形によって形成することができる。例えば、成形は、粒状PTFE及びCo2Zヘキサフェライト粒子を含む成形混合物を混合し(例えば、空気粉砕により)、混合物を成形し、そして任意にカレンダ加工することを含み得る。混合は、良好な物理的性質を有する均一な成形部品を達成するために、成形混合物を激しく混合することを含み得る。例えば、成形混合物の混合は、粉末混合による混合及び追加の高強度混合工程を含み得る。高強度混合器には、ニュージャージー州ムーアズタウンのジェット・パルヴェライザ社によって製造されたマイクロン・マスターエアミル、サウスカロライナ州ランドラムのフラックテック(FlackTek)社によって製造されたスピードミキサー(SpeedMixer(商標))ブレードレスミキサー、又はインテンシファイアバー付きのヴィー・ブレンダ(Vee Blender(商標))が含まれる。強く混合した後、成形混合物を圧縮成形又は乾式カレンダ加工することができる。
【0059】
ヘキサフェライト複合体は、その上に配置された導電層を有することができる。有用な導電層には、例えば、ステンレス鋼、銅、金、銀、アルミニウム、亜鉛、スズ、鉛、遷移金属、又は上記の少なくとも1つを含む合金のうちの少なくとも1つが含まれる。導電層の厚さに関して特に制限はなく、導電層の表面の形状、サイズ、又は質感に関しても制限はない。導電層は、3~200マイクロメートル、又は9~180マイクロメートルの厚さを有することができる。2つ以上の導電層が存在する場合、2つの層の厚さは同じでも異なっていてもよい。導電層は銅層を含むことができる。適切な導電層には、回路の形成に現在使用されている銅箔、例えば電着銅箔などの導電性金属の薄層が含まれる。
【0060】
導電層は、導電層をヘキサフェライト複合材に積層することにより、直接レーザ構造化により、又は接着剤層を介して導電層をヘキサフェライト複合材に接着することにより、付着させることができる。当該技術分野で公知の他の方法を使用して、特定の材料及び回路材料の形態、例えば電着、化学蒸着などによって許容される場所に導電層を付着させることができる。
【0061】
積層は、ヘキサフェライト複合材料と、導電層と、ヘキサフェライト複合体と導電層との間の任意の中間層とを含んでなる多層スタックを積層して層状構造を形成することを伴うことができる。導電層は、中間層なしでヘキサフェライト層と直接物理的に接触してもよい。次に、層状構造を、層を結合して積層体を形成するために適した圧力及び温度下で、一定の時間の間、例えば真空プレスなどのプレスに置くことができる。積層及び任意の硬化は、例えば、真空プレスを使用する一段階プロセスによるものであり得るか、又は多段階プロセスによるものであり得る。一段階プロセスでは、積層構造をプレスに配置して、積層圧力(例:150~400ポンド/平方インチ(psi)(1~2.8メガパスカル))、及び積層温度(例:摂氏350~390度(℃))とする。積層温度及び圧力は、所望の均熱時間、すなわち20分間維持され、その後(圧力下で)150℃以下に冷却され得る。
【0062】
中間層は、導電層とヘキサフェライト複合材料との間に位置するポリフルオロカーボン膜からなることができる。ポリフルオロカーボン膜は、フルオロポリマー(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素化エチレンプロピレンコポリマー(テフロンFEPなど)など)と、完全にフッ素化されたアルコキシ側鎖を備えたテトラフルオロエチレン骨格を含むコポリマー(テフロンPFAなど)とで構成されます。
【0063】
導電層は、レーザ直接構造化によって付着させることができます。ここで、ヘキサフェライト複合材料は、レーザ直接構造化添加剤を含むことができる。レーザ直接構造化は、レーザを使用してヘキサフェライト複合材料の表面を照射する工程と、レーザ直接構造化添加剤のトラックを形成する工程と、導電性金属をトラックに付着させる工程とを含むことができる。レーザ直接構造化添加剤は、金属酸化物粒子(酸化チタン又は酸化銅クロムなど)を含むことができる。レーザ直接構造化添加剤は、スピネル銅などのスピネルベースの無機金属酸化物粒子を含むことができる。金属酸化物粒子は、例えば、スズ及びアンチモンを含む組成物でコーティングすることができる(例えば、コーティングの総重量に対して、50~99重量%のスズ及び1~50重量%のアンチモン)。レーザ直接構造化添加剤は、それぞれの組成物の100重量部に対して、2~20重量部の添加剤を含むことができる。照射は、10ワットの出力パワー、80キロヘルツ(kHz)の周波数、及び毎秒3メートルの速度の下で、1,064ナノメートルの波長を有するYAGレーザで行うことができる。導電性金属は、例えば銅を含む無電解メッキ浴でのメッキ工程を使用して付着させることができる。
【0064】
導電層は、導電層を接着剤で付着させることによって付着させることができる。導電層は、回路(別の回路の金属化層)、例えばフレックス回路であり得る。接着層は、1つ以上の導電層とヘキサフェライト複合材料との間に配置することができる。
【0065】
以下の実施例は、本発明を例示するために提供される。実施例は単に例示的なものであり、本開示に従って作製されたデバイスを、そこに記載されている材料、条件、又はプロセスパラメータに限定することを意図するものではない。
【0066】
(実施例)
実施例では、表1に示す材料が使用された。
Co2Z-4ヘキサフェライトは、ホリバ社LA-910レーザ光散乱PSDアナライザで測定した粒子サイズのメジアンが4マイクロメートルであり、比表面積は、ガス吸収表面分析で測定した場合に2~3メートル平方/グラム(m2/g)であり、ヘリウム比重測定法で測定した粒子密度は5.4グラム/立方センチメートル(g/cm3)であり、製造会社のデータによれば、透磁率は10,500メガヘルツ(MHz)での磁気Q係数は15より大きい。
【0067】
Co2Z-15ヘキサフェライトは、ホリバ社LA-910レーザ光散乱PSDアナライザで測定したメジアン粒径が15マイクロメートル、ガス吸収表面分析で測定した比表面積が約0.3g/m2、ヘリウム比重測定で測定した粒子密度が4.5g/cm3、及び製造会社のデータによれば、300MHzまでの透磁率が15,500Mzでの磁気Q係数が5であった。
【0068】
Co2Z-15Rヘキサフェライトは、スペクトラムマグネティクス社のCo2Z-15ヘキサフェライトの作製方法に従って社内で準備した。2つのヘキサフェライトは、上記で概説したものと同じ特性を備えていた。
【0069】
Co2Z-25Rヘキサフェライトは、スペクトラムマグネティクス社のCo2Z-15ヘキサフェライトの作製方法に従って社内で準備した。2つのヘキサフェライトは、粒子サイズが25~28マイクロメートルであることを除いて、上記で概説したのと同じ特性を有していた。
【0070】
【0071】
ヘキサフェライト粉末をPTFEに組み込む前に、芳香族アルコキシシランとフッ素化脂肪族アルコキシシランの重量比3:1の混合物で粉末を前処理した。さまざまな実験で、シランはヘキサフェライト粉末の総重量に対して0.5~9重量%の範囲で添加された。
【0072】
典型的なオルガノシラン処理方法は次の通りである。2重量%ブレンドの場合、446gのイソプロピルアルコール(IPA)を磁気スターラー上の1リットルビーカーに入れ、IPAに223グラムの芳香族アルコキシシランと、73グラムのフッ素化脂肪族アルコキシシランと、22.3グラムの水と、0.22グラムの1規定のHClとを加え、1時間混合して処理混合物を形成した。14,500グラムのヘキサフェライト粉末を、液体添加強化バーを備えた16クォートのパターソン・ケリー・ヴィー・ブレンダに入れた。ブレンダを密閉し、シェルを2分間回転させて粉末を混合した。次に、処理混合物を、増圧バーを介して8分間かけて加えた。ブレンダを停止し、電気コードを安全のためにコンセントから抜いた。ブレンダを開け、壁面をプラスチック製のスパチュラでこすった。ブレンダを再度密封し、増圧バーをさらに10分間稼働させながら回転させた。処理した粉末を大きなオーブントレイに開け、135℃で8時間、さらに260℃で3時間硬化し、冷却して処理したヘキサフェライトを形成した。
【0073】
以下の例示的な手順に従って、ペースト押出及びカレンダ加工により、60体積%のヘキサフェライトと40体積%のPTFEとを含む複合材料を調製した。処理されたヘキサフェライト粉末7,200グラムを、液体添加強化バーを備えた16クォートのパターソン・ケリー・ヴィー・ブレンダに入れた。1945.2グラムのPTFEもブレンダに入れた。ブレンダを強化バーなしで数分間回転させて、乾燥粉末をブレンドした。1,366.6グラムのジプロピレングリコール(DPG)を、10分間にわたって液体添加強化バーを介して添加した。ブレンダを停止し、電気プラグを安全のために壁のソケットから取り外し、壁面をプラスチック製スパチュラでこすり落とした。ブレンダを密閉し、強化バーつきでさらに2分間稼働させた後、さらに回転のみを4分間行った。 ブレンドされた潤滑クラムを密封されたプラスチックドラムに入れ、50℃のオーブンに24時間保管した後、ペーストを押し出し、カレンダ加工を行った。
【0074】
ペースト押出工程は、ジェニングス・インターナショナルの実験室用押出機を使用して行われた。直径1.5インチ(3.81cm)のバレルから幅1.5インチ(3.81cm)×0.100インチ(2.54mm)のスロットへのスムーズな移行を実現する単純なテーパーダイで幅1.5インチ(3.81cm)のテープが、形成された。バレルとダイの両方を加熱テープでトレースし、50℃の温度に維持した。得られた1.5インチ(3.81cm)幅のテープを15インチ(38.1cm)の長さに切断し、幅16インチ(40.64cm)×直径12インチ(30.48cm)の2ロールのコベルコスチュワートボリング社カレンダ機に横向き送りした。カレンダーロールを温水で50℃に加熱した。リボンは、15.5インチ(39.37cm)×22インチ(55.88cm)のシートにカレンダ加工された。シートを温水に20分間浸してDPG潤滑剤を除去し、次にオーブンで260℃にて6時間乾燥させた。
【0075】
乾燥したシートを14インチ(35.56cm)×19インチ(48.26cm)にトリミングし、秤量した。シートを、400psi(2.57MPa)の積層圧力で、700°F(371℃)90分の滞留時間で、研磨された当て板の間にて回路箔HFZ銅箔に積層した。各配合の最終密度(気孔率を含む)は以前の実験からわかっているため、基本重量に応じて完全なラミネートのコンポーネントシートを選択できる。
【0076】
表2は、5.4g/cm3フェライト密度と2.18g/cm3のPTFE密度を想定したヘキサフェライト複合材の重量パーセントと気孔なしの密度を示す。
【0077】
【0078】
実施例では、透磁率、誘電率、及び対応する磁気及び誘電損失正接の値が、ダマスクスの1インチ(25mm)同軸エアラインで45MHz~3GHzにて測定された。テストする材料の環状リングを正確に機械加工して、エアラインに堅固に嵌合した。キャリブレーション後、空のエアラインのSパラメータが対象の周波数範囲で測定された。次にサンプルをエアラインに挿入し、サンプルを含むエアラインのsパラメータを記録した。透磁率、誘電率、磁気及び誘電損失正接の値は、ニコルソン・ロス法を使用して抽出された。
【0079】
複合材料の理論的な気孔なしの密度、ρcomp,theoは、成分の密度と体積分率から次のように計算された。
【0080】
【0081】
ここで、ρiは成分iの密度、νiは成分iの体積分率である。複合材料の理論上の気孔なしの密度ρcompは、成分の密度と重量分率から
【0082】
【0083】
として計算することもできる。ここで、wiは成分iの重量分率である。空隙成分νfは、複合材料の実際に測定された密度ρcompから
【0084】
【0085】
として計算され、したがって、密度による気孔率は100×νfである。
キシレンの表面張力は比較的低いため、気孔率はキシレンの取り込み量によっても決まる。複合サンプルを計量し、キシレンに48時間浸漬し、再計量した。吸収されたキシレンの体積は、重量増加から計算された。この方法は、気孔に「アクセス可能」であり、密封又はカプセル化されていない限り正確である。
【0086】
(実施例1~8:ヘキサフェライト複合材料の量の増加の影響)
実施例1~8のヘキサフェライト複合材料は、表面処理されたCo2Z-15Rヘキサフェライトを使用して、上述のペースト押出し及びカレンダ加工プロセスによって調製された。実施例1~8の複合材料の得られた特性を表3に示すが、誘電特性及び磁気特性は500MHzで決定された。
【0087】
【0088】
特許文献2に記載されているヘキサフェライト複合材料は、比較例の役割を果たす。特許文献2は、1マイクロメートル未満のメジアン粒径を持つ最大33体積%のCo2Zフェライトを含む基材を開示している。特許文献2は、最大透磁率値3.8と透磁率対誘電率比の最大値0.475を示している。おそらく一部の理由として、実施例1~8で達成されたより高い体積の充填剤充填量及びより大きなメジアン粒子サイズのために、本件の複合材料は、特許文献2の基板材料よりも有意に高い透過性値を達成する。特許文献2の基板材料は、透磁率と誘電率の比の最大値としてわずか0.475を達成するが実施例1~8における透磁率と誘電率の比は0.79~0.88の範囲である。実施例1~8の比率の改善は、本発明の複合材料の22~39体積%との、特許文献2の基材材料よりも高い気孔率から生じている可能性が高い。
【0089】
(実施例9~13:ヘキサフェライトの増加する粒子サイズの影響)
実施例9~13は、実施例9~12で表面処理されたCo2Z-25Rヘキサフェライトが使用され、実施例13でサイズが小さく表面処理されたCo2Z-25Rヘキサフェライトが使用されたことを除いて、実施例1~8に従って調製された。ヘキサフェライト粉末は、2重量%のコーティング混合物でオルガノシラン処理を行った。複合材料は、60体積%のヘキサフェライトからなるものであった。結果を表4に示し、表中「NM」は未測定を表す。
【0090】
【0091】
表3と表4を比較すると、実施例9~12の大きなメジアン粒子サイズのヘキサフェライトは、透過率が実施例1,2の4.5,4.6から実施例9~12の6.3~6.5に増加したことがわかる。誘電率に対する透磁率の比も、実施例1及び2の0.79から実施例9~12の0.92~0.97に増加した。
【0092】
透磁率の増加及び透磁率/誘電率比の改善に帰着した要因が、主にメジアン粒径の増加であったことを確実に示すために、Co2Z-25Rヘキサフェライトのサンプルを粉砕して、粉砕したヘキサフェライトがボルトレックターボインパクトミルを使用して15マイクロメートルの中央値粒子を有するようにした。粉砕したサンプルを表面処理し、実施例13の60体積%のヘキサフェライト複合材料にした。メジアン粒径の減少により、透磁率が4.8に減少し、透磁率と誘電率の比が0.71に減少した。どちらの値も、CO2Z-15Rヘキサフェライトを使用して作成された実施例1,2の値とほぼ同じであった。
【0093】
(実施例14~21:ヘキサフェライトの粒子径を低減する効果)
実施例14~21は、2wt%のコーティング混合物で処理されたCo2Z-4ヘキサフェライトから調製された。ヘキサフェライト複合材料は、実施例1に記載されているようにペースト押出し及びカレンダ加工によって調製され、フラットベッドプレスで400psi(2.8メガパスカル)にて積層された。同軸エアラインテストによる誘電率と透磁率、及び密度と気孔率の測定に関する結果を表5に示す。
【0094】
【0095】
表5は、実施例14~21の透磁率値及び透磁率対誘電率の比が、より大きなサイズのヘキサフェライト粒子を含むヘキサフェライト複合材料と比較して減少していることを示している。
【0096】
実施例14~21の多くの透磁率対誘電率比は、 特許文献2に記載されているものより高いことに留意されたい。例えば、80体積%の最高充填量(実施例20)では、透磁率と誘電率の比は0.51である。
【0097】
(実施例22~23:積層圧力の影響)
実施例22,23は、それらが1200psi(8.3MPa)にてフラットベッドプレスで積層されたことを除いて、実施例14に記載されているように調製された。同軸エアラインテストによる誘電率と透磁率、及び密度と気孔率の測定に関する結果を表6に示す。ここでは、実施例14,18を比較のために再掲している。
【0098】
【0099】
表6は、積層圧力を増加させるだけで、多孔性を維持しながら、透過率及び透過率対誘電率の比を増加できることを示している。
(実施例24:ヘキサフェライト複合材の銅張積層板の剥離試験)
2重量%のコーティング混合物で処理した60重量%Co2Z-15Rヘキサフェライトを含む4つの複合材料を16クォーターのパターソン・ケリー・ヴィー・ブレンダで調製し、ペーストを押し出し、カレンダにかけて約15インチ(38.1cm)×22インチ(55.88cm)のシートを形成した。シートをトリミングし、1オンス/平方フィート(oz/ft2)(308g/m2)の2枚の回路ホイルシート、研磨した当て板上にHFZ処理した銅ホイルの間にて、予想される最終厚さが0.100インチ(2.54mm)になるように積層した。銅張りパネルは、積層の上に1,100psi(7.6メガパスカル)のフラットベッドプレスで、華氏700度(371℃)で90分の滞留時間で積層された。1/8インチ(3.18ミリメートル)幅のストリップを積層にエッチングし、TMIラボマスターリリース及び接着テスターで、90度の角度設定を使用して2インチ/分(5.08cm/分)で剥離した。平均剥離強度は、1リニアインチあたり3~6.1ポンド(pli)(2.54cmあたり1.36~2.77キログラム)の範囲にあった。
【0100】
以下に示すのは、本開示の様々な非限定的な実施形態である。
実施形態1: ヘキサフェライト複合材料であって、ポリテトラフルオロエチレンと、空隙なしのベースでポリテトラフルオロエチレン及び複数のCo2Zヘキサフェライト粒子の総体積に対して40体積%以上、又は40~90体積%以上の複数のCo2Zヘキサフェライト粒子とを含有し、ここで、ヘキサフェライト複合材料は、ヘキサフェライト複合材料の総体積に対して10体積%以上の気孔率を有し、ヘキサフェライト複合材料は、どちらも500MHzで測定される、2.5以上の透磁率と、0.4以上の透磁率と誘電率の比とを有する、ヘキサフェライト複合材料を要旨とする。透過率と誘電率は、1インチ(25mm)の同軸エアラインを使用し、ベクトルネットワークアナライザを使用して測定された散乱パラメータからニコルソン・ロス法抽出を使用して測定できる。透磁率と誘電率はNISTテクニカルノート1536に従って測定でき、これは2005年2月付「損失材料の誘電率と透磁率の測定:固体、液体、金属、建築材料、及び負インデックス材料」というタイトルである。
【0101】
実施形態2: 実施形態1のヘキサフェライト複合体において、複数のCo2 Zヘキサフェライト粒子は、4マイクロメートル以上、又は6~100マイクロメートル、又は12~100マイクロメートル、又は24~50マイクロメートルの中央粒径を有する。粒子サイズは、ホリバ社LA-910レーザ光散乱粒子サイズ分布アナライザで測定した。
【0102】
実施形態3: ヘキサフェライト複合材料が複数のCo2Zヘキサフェライト粒子を60~90体積%にて含んでなる、上記の実施形態のいずれか1つ以上のヘキサフェライト複合材料を要旨とする。
【0103】
実施形態4: 複数のCo2Zヘキサフェライト粒子が、芳香族シラン又はフッ素化脂肪族アルコキシシランの少なくとも1つを含有した表面処理を有する、上記の実施形態のいずれか1つ以上のヘキサフェライト複合材料を要旨とする。
【0104】
実施形態5: 複数のCo2Zヘキサフェライト粒子が、Al、Ba、Bi、Ni、Ir、Mn、Mg、Mo、Nb、Nd、Sr、V、Zn、Zrの少なくとも1つを含む、上記の実施形態のいずれか1つ以上のヘキサフェライト複合材料を要旨とする。
【0105】
実施形態6: ヘキサフェライト複合材料が、PTFE及び空隙がないベースでの複数のCo2Zヘキサフェライト粒子の合計体積に対して、5~60体積%、又は5~50体積%、又は10~40体積%のPTFEを含む、上記の実施形態のいずれか1つ以上のヘキサフェライト複合材料を要旨とする。
【0106】
実施形態7: ヘキサフェライト複合材料は、ヘキサフェライト複合材料の総体積に基づいて、15~50体積%、又は20~45体積%の気孔率を有する、上記の実施形態の1つ以上のヘキサフェライト複合材料を要旨とする。
【0107】
実施形態8: 上記の実施形態の少なくとも1つにおいて、ヘキサフェライト複合材料は次のうちの少なくとも1つを有する:500MHzで4.5~7、又は6~7の透磁率;及500MHzで4以上、5~8、又は6~7の誘電率;500MHzで0.5~0.98、又は0.7~0.98の透磁率と誘電率の比;500MHzで、0.1以下、又は0.08以下、又は0.01~0.07、又は0.01~0.05の磁気損失正接;又は、500MHzで0.1以下、又は0.05以下、又は0.001~0.05、又は0.01~0.05の誘電損失を要旨とする。
【0108】
実施形態9: IPC試験方法650,2.4.9に従って測定して、ヘキサフェライト複合材料が3~7pli、又は4~6pliの銅結合強度を有する、上記の実施形態のいずれか1つ以上のヘキサフェライト複合材料を要旨とする。
【0109】
実施形態10: 誘電性フィラー又は繊維層の少なくとも1つをさらに含む、上記の実施形態のいずれか1つ以上のヘキサフェライト複合材料を要旨とする。
実施形態11: 上記の実施形態のいずれか1つ以上のヘキサフェライト複合材料を含む物品を要旨とする。
【0110】
実施形態12: ヘキサフェライト複合材料の少なくとも1つの表面上に配置された導電層をさらに含む、実施形態11の物品を要旨とする。
実施形態13: 上記の物品がアンテナである、実施形態11又は実施形態12の物品を要旨とする。
【0111】
実施形態14: 上記の実施形態のいずれか1つ以上のヘキサフェライト複合材料を含んでなるシートの製造方法は、PTFEと複数のCo2Zヘキサフェライト粒子を含む混合物をペースト押出、流延、又は成形してシートを形成する工程を含むことができる。
【0112】
実施形態15: 上記シートの形成がペースト押出しからなり、製造方法がシートをカレンダ加工する工程をさらに備える、実施形態14に記載の方法を要旨とする。
実施形態16: 混合物が、分散液又は粉末の形態のPTFEと、複数のCo2Zヘキサフェライト粒子と、潤滑剤とを含んでなる、実施形態14~15のいずれか1つ以上の方法を要旨とする。
【0113】
実施形態17: 上記シートの形成が流延からなり、混合物がPTFE及び複数のCo2Zヘキサフェライト粒子を含む水性分散体である、実施形態14~17のいずれか1つ以上の方法であって、この方法は、流延後に第1の温度にシートを加熱し、第2の温度でシートを焼結する工程をさらに備えることを要旨とする。
【0114】
実施形態18: 流延が、混合物を布補強材、好適にはガラス布補強材上に流延することを含む、実施形態17に記載の方法を要旨とする。
実施形態19: 上記シートの形成が、顆粒状のPTFEと複数のCo2Zヘキサフェライト粒子を混合して混合物を形成する工程と、混合物を乾式カレンダ加工又は流延してシートを形成する工程を含む、実施形態14~18のいずれか1つ以上の方法を要旨とする。
【0115】
実施形態20: シートを形成する前に、PTFE、複数のCo2Zヘキサフェライト粒子、及び潤滑剤を混合する工程をさらに備える、実施形態14~19のいずれか1つに記載の方法を要旨とする。
【0116】
実施形態21: 実施形態20の方法において、混合には、エアミリング、補助混合、タンブル混合、又は4~100分間の混合のうちの少なくとも1つが含まれる。
実施形態22: 実施形態14~21のいずれか1つ以上の方法であって、シートがカレンダ加工される場合、カレンダ加工は2回以上のカレンダ加工からなる。
【0117】
実施形態23: ヘキサフェライト複合材料を水に浸し、150~300℃、又は50~300℃、又は200~300℃の温度で1~40時間、又は5~15時間加熱する工程をさらに備える、実施形態14~22のいずれか1つ以上の方法を要旨とする。
【0118】
実施形態24: ヘキサフェライト複合材料の少なくとも1つの表面上に導電層を追加する工程をさらに備える、実施形態14~23のいずれか1つ以上の方法を要旨とする。
代替的に、組成物、方法、及び物品は、本明細書に開示されている任意の適切な材料、ステップ、又は構成要素を含む、それらからなる、又はそれらから本質的になることができる。組成物、方法、及び物品は、追加的又は代替的に、他の方法では組成物、方法、及び物品の機能又は目的の達成に必要でない任意の材料(又は種)、ステップ、又は構成要素を欠く、又は実質的に含まないように処方することができる。
【0119】
「カットオフ周波数」という用語は、透過性の虚数成分が最大に達する周波数である。「磁気結晶異方性磁場」という用語は、1つの軸と別の軸(通常は底面とC軸)に特定の磁化を誘導するために必要な磁化力の差の尺度である。「磁気飽和」という用語は、印加された磁場であり、印加された磁場が増加しても磁化は増加しない。飽和磁化という用語は、3つの異なる文脈で使用できることに注意されたい。「体積磁化」はemu/cm3で表され、4πMSの単位はガウスである。「質量磁化」はemu/gで表される。2つの材料の相対的な特性を比較する場合、単位は同一である。
【0120】
「比透磁率」という用語は、磁場に反応してある材料に見られる磁化の度合いを、同じ磁場が印加されたときに真空で見られる磁化の度合いで割ったものである。「比誘電率」という用語は、印加された電場に応じた磁束密度を、真空にかけられた場合の同一の電場に応じた磁束密度で割ったものである。「磁気損失正接」という用語は、与えられた周波数’での仮想透磁率と実際の相対透磁率の比u’’/uである。「誘電損失正接」という用語は、虚誘電率と実誘電率の比e’’/e’である。磁性材料の場合、測定周波数を特定する必要があるが、誘電材料は一般に広い周波数範囲で安定した誘電損失を示すため、誘電損失を説明する際にこの特定を省略できる。
【0121】
「固有インピーダンス」という用語は、媒体を伝播する横方向の電磁波の電場と磁束密度の比である。媒体の固有インピーダンスは、その絶対透磁率と絶対誘電率の比の平方根から計算できる。「高インピーダンス磁性誘電体」という用語は、ポリマーマトリックスと1より大きい透磁率を有したフィラー材料を含む材料であり、複合材料は1より大きい透磁率、1より大きい誘電率、及び上限動作周波数で350オームより大きい固有インピーダンスを示す。 「損失高インピーダンス磁性誘電体」という用語は、ポリマーマトリックスと1より大きい透磁率を持つフィラー材料を含む材料であり、複合材料は1より大きい透磁率、1より大きい誘電率、及びび上限動作周波数で350オームより大きい固有インピーダンスを示し、上限動作周波数は、磁気損失正接が0.07を超える最初の周波数として定義される。
【0122】
「a 」及び「an」という用語は、数量の制限を示すのではなく、参照される項目が少なくとも1つ存在することを示す。「又は」という用語は、文脈によって明確に示されていない限り、「及び/又は」を意味する。本明細書全体を通して「一実施形態」、「別の実施形態」、「いくつかの実施形態」、「態様」などへの言及は、関連して説明される特定の要素(例えば、特徴、構造、ステップ、又は特性)が明細書で説明される少なくとも1つの実施形態に含まれ、他の実施形態では存在しても、しなくてもよいことを意味する。さらに、記載された要素は、様々な実施形態において任意の適切な方法で組み合わされてもよいことが理解されるべきである。
【0123】
一般に、組成物、方法、及び物品は、代替的に、本明細書に開示される任意の成分、ステップ、又は構成要素を含む、それらからなる、又は本質的にそれらからなることができる。組成物、方法、及び物品は、追加的又は代替的に、本件の特許請求の範囲に係る発明の機能又は目的の達成に必要ではない成分、ステップ、又は構成要素を欠く、又は実質的に含まないように、処方、実施、又は製造することができる。「任意に」とは、この文言以後に記載する事象又は状況が発生する場合と発生しない場合があり、発明の記載には、事象が発生する場合と発生しない場合とが含まれることを意味する。
【0124】
ここに反対の記載がない限り、すべての試験規格は、この出願の出願日現在で有効な最新の規格であり、優先権が主張されている場合は、試験規格が記載されている最も早い優先出願の出願日で有効な最新の規格である。
【0125】
同一の要件又は特性に対するすべての範囲の端点は、端点を含み、独立して結合可能であり、すべての中間点と範囲を含むものと解すべきである。例えば、「25重量%まで、又は5~20重量%」の範囲には、終点と、10~23重量%などの「5~25重量%」の範囲のすべての中間値とが含まれる。層、フィルム、領域、又は基材などの要素が別の要素の「上」にあると呼ばれる場合、それは他の要素上に直接存在してもよく、あるいは、間に介在する要素が存在してもよい。対照的に、要素が別の要素に「直接物理的に接触している」と呼ばれる場合、介在する要素は存在しない。「少なくとも1つ」を含むリストは、そのリストに各要素が個別に含まれること、及びリストの中の2つ以上の要素の組み合わせ、及びリストの少なくとも1つの要素とリストにない同様の要素の組み合わせが含まれることを意味する。「組み合わせ」という用語は、ブレンド、混合物、合金、反応生成物などを含む。他に定義されない限り、本明細書で使用される技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0126】
引用されたすべての特許、特許出願、及びその他の参考文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。しかしながら、本出願の用語が、組み込まれた参考文献の用語と矛盾又は矛盾する場合、本出願の用語が、組み込まれた参考文献の矛盾する用語よりも優先される。特定の実施形態が説明されたが、代替案、修正、変形、改善、及び現在予期されないか又は予想されない可能性がある実質的な等価物が、出願人又は他の当業者に生じ得る。したがって、提出され、修正される可能性がある添付の特許請求の範囲は、そのようなすべての代替、修正、変形、改善、及び実質的な均等物を包含することを意図している。