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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】導電部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/12 20060101AFI20220203BHJP
   B29C 45/16 20060101ALI20220203BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20220203BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20220203BHJP
   H02G 3/04 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
B29C33/12
B29C45/16
B29C45/26
B29C45/14
H02G3/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021091811
(22)【出願日】2021-05-31
【審査請求日】2021-09-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512229506
【氏名又は名称】株式会社アテックス
(73)【特許権者】
【識別番号】000214272
【氏名又は名称】長瀬産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】成岡 瑞尚
(72)【発明者】
【氏名】柴田 典明
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-046196(JP,A)
【文献】特開2001-196741(JP,A)
【文献】米国特許第04822951(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
B29C 43/00-43/58
B32B 15/00-15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの金属板の間に絶縁フィルムが介在する導電部材の製造方法であって、
前記絶縁フィルムが少なくとも部分的に露出するように、前記絶縁フィルムを絶縁性の固化した第1の樹脂によって被覆した中間品を生成する一次成形工程と、
前記中間品における前記絶縁フィルムの露出部分の少なくとも一部を前記2つの金属板の間に挟み込んだ状態で、前記2つの金属板における前記絶縁フィルムの挟持部を絶縁性の第2の樹脂によって被覆する二次成形工程と、を含む
導電部材の製造方法。
【請求項2】
前記一次成形工程は、前記絶縁フィルムの周縁の全部又は一部を前記第1の樹脂によって被覆する工程である
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記一次成形工程は、前記第1の樹脂の被覆部分に対応したキャビティを持つ第1の金型内に前記絶縁フィルムを配置し、そのキャビティ内に溶融した前記第1の樹脂を射出した後に、前記第1の樹脂を固化する工程である
請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記一次成形工程では、前記第1の金型のキャビティ内に挿入される前記絶縁フィルムの一部を前記第1の金型によって固定した状態で、前記キャビティ内に溶融した前記第1の樹脂を射出する
請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記一次成形工程は、固化した前記第1の樹脂を前記絶縁フィルムに取り付ける工程である
請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記二次成形工程は、前記第2の樹脂の被覆部分に対応したキャビティを持つ第2の金型内に前記2つの金属板における前記挟持部を配置し、そのキャビティ内に溶融した前記第2の樹脂を射出した後に、前記第2の樹脂を固化する工程である
請求項1から請求項5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記二次成形工程では、前記第2の金型により、前記2つの金属板における前記挟持部を、一方面側又は両面側から前記絶縁フィルムに向かって押圧しながら、前記第2の金型のキャビティ内に溶融した前記第2の樹脂を射出する
請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記二次成形工程は、固化した前記第2の樹脂を前記2つの金属板における前記絶縁フィルムの挟持部に取り付ける工程である
請求項1から請求項5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
絶縁フィルムと、
前記絶縁フィルムの両面又は片面に部分的に積層された第1の樹脂層と、
前記第1の樹脂層が固化した後に前記第1の樹脂層が積層されていない前記絶縁フィルムの露出部分を少なくとも部分的に挟み込むように配置された2つの金属板と、
前記2つの金属板における前記絶縁フィルムの挟持部を被覆する第2の樹脂層と、を有する
導電部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バスバー等の導電性を有する2つの金属板の間に絶縁フィルムを介在させた導電部材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば電気自動車に搭載されるインバータやコンバータなどの電力変換装置では、大電流が流れる経路の配線にバスバーと呼ばれる導電部材が用いられている。バスバーは、銅やアルミニウム、その他の合金などの導電性の金属板を、所望の形状に成形した剛性を有する配線部材である。バスバーは、比較的大きな断面積を有するため電気抵抗が低く、またバスバー同士を面接触させることができることから電流の損失を小さくできるという利点がある。
【0003】
また、2つのバスバーの間に絶縁層を介在させて積層した導電部材も知られている。すなわち、一般的にバスバーに電流を発生させるとその周囲に磁界が発生するが、例えば電気自動車のバスバーのように大電流が流れるものであると、磁界による電流の損失が無視できないものとなり、電力量消費率(電費)が悪化して連続航続距離が短くなるという問題がある。その結果、電気自動車の連続航続距離を長距離化するために、蓄電池の大型化が必要になってしまう。このような磁界による電流の損失を抑制するための方策として、前述のように、バスバーを絶縁層を挟んで2つ重ね合わせた積層構造が提案されている。このように、積層された2つのバスバーに逆方向の電流を発生させることで磁界を相殺することができる。このとき、2つのバスバーの間のギャップ、すなわち絶縁層の厚みをできるだけ小さくすることで、インダクタンスを最小化し、電流の損失を抑えることができる。
【0004】
このようなバスバーの積層構造に関して、例えば特許文献1には、2つのバスバーをインサートとして、これらのバスバーの間に絶縁性樹脂をモールドしたバスバーモジュール及びその製造方法が開示されている。また、特許文献2には、2つのバスバーの間に絶縁フィルム(スペーサポリマ部)を介在させたモールド成形体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-235625号公報
【文献】特開2007-038490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1のように2つのバスバーの間に絶縁性樹脂をモールドする場合、各バスバーの間のギャップが狭い(例えば0.5mm以下)ものであると、溶融樹脂をこのギャップに流し込むことが困難になる。このため、特許文献1の技術では、溶融樹脂を確実に流し込むことができる程度に各バスバーの間のギャップを大きく確保しておくことが必須となる。超低インクダンスのバスバーを実現するには、バスバー間のギャップを限りなく狭くすることが求められるが、上記のような理由から特許文献1のように絶縁性樹脂をモールドする技術ではその実現が困難である。
【0007】
一方で、特許文献2のように2つのバスバーの間に絶縁フィルムを挟み込む場合、絶縁フィルムの厚みを薄くすることで、特許文献1のようにバスバーの間に絶縁性樹脂をモールドする場合と比較して、各バスバーの間のギャップを狭くすることができる。ただし、2つのバスバーが通電してしまうと漏電等が発生して電子部品の故障や火災に直結することとなる。このため、特許文献2のような技術では、絶縁フィルムを各バスバーの間からはみ出すように配置して、この絶縁フィルムに余剰部分を形成することで、各バスバーの絶縁状態を確実なものとすることが求められる。
【0008】
しかしながら、非常に薄い絶縁フィルムをバスバー同士の間の介在させた後に射出成形(インサート成形)を行う場合、この絶縁フィルムの余剰部分(バスバーからはみ出した部分)は、射出成形の過程で溶融樹脂に押し流されて挙動が安定せず、結果として最終製品の品質にばらつきが生じるという問題があった。また、絶縁フィルムが非常に薄いものであると、射出成形時に、各バスバーの間で絶縁フィルムがピンと張った状態を維持することが難しい。例えばバスバーの間で絶縁フィルムに皺やヨレが生じているとバスバーのギャップが不均一となり、最終製品の品質に悪影響を与えてしまう。さらに、絶縁フィルムが非常に薄いものであると、このフィルムの両面側に精度良く2つのバスバーを配置することが難しいという課題もある。
【0009】
そこで、本発明は、絶縁フィルムを挟持する2つのバスバー(金属板)を樹脂被覆した導電部材を効率良く生産できるようにすることを、主な目的とする。また、本発明は、2つのバスバーの間に極めて薄い絶縁フィルムを介在させた導電部材の効率的な生産方法を確立することで、超低インダクタンス性能を持つ導電部材を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者らは、上記した従来技術の問題を解決する手段について鋭意検討した結果、絶縁フィルムの一部を絶縁樹脂で補強した後に、この絶縁フィルムの両面にバスバーを配置して絶縁樹脂で被覆することにより、極めて薄い絶縁フィルムを採用した場合でも効率的に導電部材を生産できるようになるという知見を得た。そして、本発明者らは、上記知見に基づけば、従来技術の課題を解決できることに想到し本発明を完成させた。具体的に説明すると、本発明は以下の工程又は構成を有する。
【0011】
本発明の第1の側面は、導電部材100の製造方法に関する。導電部材100は、2つの金属板30,40の間に絶縁フィルム10が介在する構造である。本発明に係る製造方法は、一次成形工程と二次成形工程を含む。
【0012】
一次成形工程では、絶縁フィルム10が少なくとも部分的に露出するように、この絶縁フィルム10を絶縁性の第1の樹脂20によって被覆した中間品60を生成する。具体的には、絶縁フィルム10が張った状態を維持できるように、絶縁フィルム10を絶縁性の第1の樹脂20によって補強することが好ましい。さらに具体的に説明すると、本発明では絶縁フィルム10の両面に金属板30,40を配置することになるため、この絶縁フィルム10は平面視において金属板30,40の配置予定部分とその他の余剰部分とに区分されることになるが、この余剰部分の大部分(90%以上)を第1の樹脂20によって被覆することが好ましい。一次成型工程は、射出成形工程によって絶縁フィルム10の一部を第1の樹脂20で被覆することとしてもよいし、予め成型された第1の樹脂20からなる部品を絶縁フィルム10に取り付けること(組立工程)によって絶縁フィルム10の一部を第1の樹脂20で被覆することとしてもよい。
【0013】
二次成型工程では、中間品60における絶縁フィルム10の露出部分の一部又は全部を2つの金属板30,40の間に挟み込んだ状態で、これら2つの金属板30,40における絶縁フィルム10の挟持部32,42を絶縁性の第2の樹脂50によって被覆する。このとき、各金属板30,40の端子部31,41は第2の樹脂50によって被覆せずに露出させておく必要がある。また、第2の樹脂50は、第1の樹脂20と同じものであってもよいし異なるものであってもよい。例えば、射出成形によって第1の樹脂20を絶縁フィルム10に取り付ける場合、この第1の樹脂20が固化した後に二次成型工程が行われる。このため、第2の樹脂50が第1の樹脂20と同じものであったとしても、第2の樹脂50と第1の樹脂20の間には界面が存在することとなる。二次成型工程は、一次成型工程と同様に、射出成形工程によって各金属板30,40における絶縁フィルム10の挟持部32,42を第2の樹脂50で被覆することとしてもよいし、予め成型された第2の樹脂50からなる部品を中間品60に取り付けること(組立工程)によって各金属板30,40における絶縁フィルム10の挟持部32,42を第2の樹脂50で被覆することとしてもよい。
【0014】
上記工程のように、本発明では、一次成型工程で絶縁フィルム10の余剰部分を第1の樹脂20で被覆(補強)してから、二次成型工程で2つの金属板30,40における絶縁フィルム10の挟持部32,42を第2の樹脂50で被覆する。これにより、例えば二次成型工程が射出成形工程であっても、絶縁フィルム10の余剰部分は第1の樹脂20で補強されているため、射出成形時における絶縁フィルム10の余剰部分の挙動をコントロールすることが可能となる。また、二次成型工程時(射出成形)に、各金属板30,40の間で絶縁フィルム10がピンと張った状態を維持することが容易になり、2つの金属板30,40の間のギャップを均一にしやすい。さらに、第1の樹脂20によって被覆されていない絶縁フィルム10の露出部分に各金属板30,40を位置合わせすることができるため、絶縁フィルム10の両面側に2つの金属板30,40を精度良く配置することができる。このため、本発明によれば、最終的に得られる導電部材100の品質のばらつきを抑えることができ、その生産効率を高めることができる。さらに、本発明によれば、絶縁フィルム10が極めて薄いものであっても、その厚みを均一に保った状態で各金属板30,40の間に正確に配置することができる。このため、本発明によれば、各金属板30,40の間のギャップを限りなく小さくすることができ、超低インダクタンス性能を持つ導電部材100を実現することが可能となる。なお、各金属板30,40の間のギャップは、0.5mm以下であることが好ましく、0.1mm以下であることがより好ましい。
【0015】
本発明において、一次成形工程は、絶縁フィルム10の周縁の全部又は一部を第1の樹脂20によって被覆する工程であることが好ましい。絶縁フィルム10を2つの金属板30,40の間に挟み込む場合、絶縁フィルム10の周縁に余剰部分が形成されることになるが、この周縁を第1の樹脂20によって被覆しておくことで、前述した問題点を解消できる。
【0016】
本発明において、一次成形工程は、射出成形工程であることが好ましい。具体的には、一次成型工程では、第1の樹脂10の被覆部分に対応したキャビティを持つ第1の金型200内に絶縁フィルム10を配置し、そのキャビティ内に溶融した第1の樹脂20を射出した後に、この第1の樹脂20を固化する。これにより、第1の樹脂20によって補強された絶縁フィルム10からなる中間品60を効率的に製造できる。
【0017】
本発明において、一次成型工程が射出成形工程である場合に、第1の金型200のキャビティ内に挿入される絶縁フィルム10の一部を第1の金型200によって固定した状態で、このキャビティ内に溶融した第1の樹脂20を射出することが好ましい。例えば、絶縁フィルム10の周縁部に小孔11を形成しておき、第1の金型200のキャビティ内にこの小孔11に対応したピン221を設けておく。そして、絶縁フィルム10を第1の金型200内に配置する際には、絶縁フィルム10の小孔11に第1の金型200のピン221を挿し込むことで、絶縁フィルム10の周縁部を第1の金型200に固定できる。これにより、絶縁フィルム10の周縁部を第1の樹脂20によってより確実に被覆できるようになる。
【0018】
本発明において、一次成型工程は、組立工程であってもよい。具体的には、一次成形工程は、固化した第1の樹脂からなる部品を絶縁フィルム10に取り付ける工程であってもよい。組立工程は、例えば中間品60を小ロット生産するような場合に適している。
【0019】
本発明において、二次成型工程は、射出成形工程であることが好ましい。具体的には、二次成型工程では、第2の樹脂50の被覆部分に対応したキャビティを持つ第2の金型300内に2つの金属板30,40における絶縁フィルム10の挟持部32,42を配置し、そのキャビティ内に溶融した第2の樹脂50を射出した後に、この第2の樹脂50を固化する。一般的に、この二次成型工程(射出成形)では、2つの金属板30,40によって挟み込まれていない絶縁フィルム10の余剰部分が溶融した樹脂に押し流されるため、その挙動が不安定なものとなる。一方で、本発明では、前述のとおり、この絶縁フィルム10の余剰部分は第1の樹脂20によって補強しているため、この余剰部分の挙動を安定化することができる。
【0020】
本発明において、二次成形工程(射出成形)では、第2の金型300により、2つの金属板30,40における絶縁フィルム10の挟持部32,42を、一方面側又は両面側から、この絶縁フィルム10に向かって押圧しながら、第2の金型300のキャビティ内に溶融した第2の樹脂50を射出することが好ましい。これにより、2つの金属板30,40に挟み込まれている絶縁フィルム10の厚み(すなわち各金属板30,40の間のギャップ)を均一に維持しやすくなる。
【0021】
本発明において、二次成型工程は、組立工程であってもよい。具体的には、二次成形工程は、固化した第2の樹脂50を2つの金属板30,40における絶縁フィルム10の挟持部32,42に取り付ける工程である。このような組立工程は、例えば導電部材100を小ロット生産するような場合に適している。なお、一次成型工程と二次成型工程の方式の組み合わせ方としては、以下の例が挙げられる。
(1) 一次成型工程:射出成形、 二次成型工程:射出成形
(2) 一次成型工程:射出成形、 二次成型工程:組立
(3) 一次成型工程:組立、 二次成型工程:射出成形
(4) 一次成型工程:組立、 二次成型工程:組立
【0022】
本発明の第2の側面は、導電部材100に関する。具体的に、本発明の第2の側面に係る導電部材100は、前述した第1の側面に係る製造方法やその他方法によって製造できる。本発明に係る導電部材100は、絶縁フィルム10と、この絶縁フィルム10の両面又は片面に部分的に積層された第1の樹脂層20と、この第1の樹脂層20が積層されていない絶縁フィルム10の露出部分を少なくとも部分的に挟み込むように配置された2つの金属板30,40と、これら2つの金属板30,40における絶縁フィルム10の挟持部32,42を被覆する第2の樹脂層50とを有する。なお、各金属板30,40の端子部31,41は第2の樹脂層50によって被覆されずに露出することとなる。また、第1の樹脂層20と第2の樹脂層50は同じ樹脂素材からなるものであってもよいし、異なる樹脂素材からなるものであってもよい。ただし、第1の樹脂層20と第2の樹脂層50が同じ樹脂素材からなるものであっても、両層の間には界面が存在することとなる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、絶縁フィルムを挟持する2つのバスバー(金属板)を樹脂被覆した導電部材を生産するにあたり、その生産効率を高めることができる。また、本発明によれば、2つのバスバーの間に極めて薄い絶縁フィルムを介在させた導電部材を効率的に生産できるため、超低インダクタンス性能を持つ導電部材の実現が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る導電部材の構成要素を模式的に示した分解斜視図である。
図2図2は、図1に示した構成要素を組み合わせた導電部材の斜視図である。
図3図3は、図2のIII-IIIにおける断面構造を模式的に示した断面図である。
図4図4は、射出成形による一次成型工程の例を模式的に示している。
図5図5は、射出成形による二次成型工程の例を模式的に示している。
図6図6は、射出成形による二次成型工程の例を模式的に示している。
図7図7は、一次成型工程により得られた中間品のパターン例を示した平面図である。
図8図8は、一次成型工程により得られた中間品のパターン例を示した断面図である。
図9図9は、一次成型工程により得られた中間品と2つのバスバーの組み合わせ方の別例を模式的に示している。
図10図10は、主にバスバーの形状の例を模式的に示している。
図11図11は、絶縁フィルムにおける金属板の配置予定部分とその他の余剰部分の概念を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は、以下に説明する形態に限定されるものではなく、以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜変更したものも含む。
【0026】
図1から図3を参照して、本発明の一実施形態に係る導電部材100について説明する。図1は、導電部材100の構成要素を概念的に分解して示したものであり、図2は、図1に示した各構成要素を組み合わせた導電部材100の完成品を示している。また、この完成品の導電部材100の断面図(図2 III-III)を図3に示している。
【0027】
図1に示されるように、導電部材100は、基本的に、第1の金属板30と、第2の金属板40、これらの金属板30,40の間に介在した絶縁フィルム10を備える。各金属板30,40は、それぞれ例えば大電流を扱うバスバーとして利用できる。絶縁フィルム10は、各金属板30,40の絶縁状態を保つための要素である。絶縁フィルム10によって各金属板30,40を絶縁することで、例えば2つの金属板30,40にそれぞれ逆方向の電流を流すことが可能となる。これにより、各金属板30,40の周りにそれぞれ逆向きの磁界が発生するため、それぞれの磁界を打ち消すことができる。これにより、各金属板30,40を流れる電流の損失を軽減できる。特に絶縁フィルム10の厚みを極めて薄いものとし、各金属板30,40の間のギャップを狭くすることで、超低インダクタンスの導電部材100の実現も可能となる。
【0028】
各金属板30,40としては、一般的なバスバーを利用できる。例えば、金属板30,40は、銅やアルミニウム、その他の合金などの導電性を持つ板状の金属を、適宜切断加工あるいは折曲加工することにより形成できる。各金属板30,40は、それぞれ2つの端子部31を有し、一方の端子部31に入力された電気が他方の端子部31へと流れることとなる。図1に示した実施形態において、各金属板30,40は、長方形の板が2箇所において折り曲げ加工されたコの字型(U字型)に成形されている。各金属板30,40は、図面上において、水平方向に延びる平面部と、この平面部の両端において垂直方向に起立した2つの側面部を持つ。各金属板30,40の水平部が、絶縁フィルム10に直接接してこの絶縁フィルム10を挟み込む部位(挟持部32,42)となり、2つの側面部がそれぞれ端子部31,41として機能する。
【0029】
絶縁フィルム10としては、一般的なものを利用できる。絶縁フィルム10としては、例えばプラスチック製のフィルムを用いればよい。プラスチック素材の例は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリスチレン(PS)、アクリル(AC)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、フッ素樹脂(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド(PA)、及び液晶ポリマ(LCP)である。本発明によれば、極めて厚みの薄い絶縁フィルム10を扱うことができる。インダクタンスを低減する観点から、絶縁フィルム10の厚みは、0.5mm以下であることが好ましく、0.1mm以下であることが特に好ましく、0.05mm以下であることがさらに好ましい。なお、図示した例において絶縁フィルム10は長方形に形成されているが、絶縁フィルム10の形状はこれに限定されず適宜導電部材100の用途に応じた形状とすることができる。
【0030】
図1及び図3に示されるように、本発明に係る導電部材100は、絶縁フィルム10を補強するための要素として、第1の樹脂層20をさらに備える。なお、図1に示した分解図では、本実施形態における第1の樹脂層20の配置を分かりやすく示すために、第1の樹脂層20を絶縁フィルム10の表面側と裏面側に分割した層(20a,20b)として描画している。ただし、後述のように第1の樹脂層20を射出成形によって形成する場合、絶縁フィルム10の表側と裏側に存在する第1の樹脂層20(20a,20b)に実質的な分かれ目は存在せず、両層は一体的に形成されることになる。
【0031】
本実施形態において、第1の樹脂層20は、絶縁フィルム10の周縁を表面側と裏面側の両方から被覆するように形成される。具体的には、本実施形態において絶縁フィルム10は四角形に成形されたものであり、第1の樹脂層20は、この絶縁フィルム10の四辺を全て被覆している。一方で、第1の樹脂層20は、絶縁フィルム10における第1の金属板と第2の金属板40の配置予定部位は被覆しない。このため、本実施形態において、第1の樹脂層20は、絶縁フィルム10の四辺を表裏両面から覆うように枠状に形成されたものであり、この枠の中に各金属板30,40が配置されることとなる。すなわち、絶縁フィルム10と各金属板30,40との間に第1の樹脂層20が介在することなく、各金属板30,40は常に絶縁フィルム10と直接接することになる。なぜならば、本発明は、各金属板30,40の間のギャップを可能な限り狭くすることを目的として薄い絶縁フィルム10を採用しているが、各金属板30,40と絶縁フィルム10との間に第1の樹脂層20が介在すると、各金属板30,40の間のギャップが大きくなってしまい、上記目的を達成できない。このため、換言すると、第1の樹脂層20は、絶縁フィルム10のうちの各金属板30,40のいずれにも接触しない余剰部分(各金属板30,40からはみ出す部分)を被覆するものである。第1の樹脂層20は、このような絶縁フィルム10の余剰部分のうちの大部分、具体的には80%以上、90%以上、又は95%以上を片面側又は両面側から被覆するものであることが好ましい。
【0032】
本実施形態において、第1の樹脂層20は、射出成形によって絶縁フィルム10に取り付けられる。このため、第1の樹脂層20としては、液体から個体に相転移する樹脂材料が用いられる。第1の樹脂層20は、例えば熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂のいずれであってもよいが、射出成形時の利便性を考慮すると、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。熱可塑性樹脂の例は、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びABS樹脂である。また、熱硬化性樹脂の例は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル、及びジアリルフタレートである。ただし、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂については、ここに挙げたものに限定されず、その他公知の樹脂を用いることができる。
【0033】
図1に示されるように、本実施形態において、絶縁フィルム10と第1の樹脂層20には、それぞれ複数の小孔11,21,22が形成されている。これらの小孔11,21,22は、絶縁フィルム10の余剰部分に第1の樹脂層20を射出成形によって取り付ける際に、金型の中で絶縁フィルム10の余剰部分を固定するために形成されたものである。本実施形態では、絶縁フィルム10の四辺全てに小孔11が形成されているが、例えば対向する一対の長辺にのみ小孔11を形成したり、一対の短辺にのみ小孔11を形成するということも可能である。また、第1の樹脂層20には、絶縁フィルム10の小孔11と重なる位置に設けられた第1の小孔21と、絶縁フィルム10の小孔11とは重ならない位置に設けられた第2の小孔22が形成されている。第1の樹脂層20の第1の小孔21は、一次成型工程において金型内で絶縁フィルム10の小孔11に挿し込まれるピンによって形成されたものである。一方で、第1の樹脂層20の第2の小孔22は、一次成型工程において金型内で絶縁フィルム10の小孔11には挿し込まれずに、絶縁フィルム10を挟み込むことによってこのフィルムを抑える別のピンによって形成されたものである。
【0034】
本願明細書において、絶縁フィルム10にそれを補強するための第1の樹脂層20を取り付けたものを、「中間品」と称する。中間品60は、後述する一次成形工程によって得ることができる。この中間品60は、後述する二次成型工程において、第1の金属板30及び第2の金属板40と一体化される。
【0035】
図1から図3に示されるように、本発明に係る導電部材100は、絶縁フィルム10と第1の樹脂層20とからなる中間品60に第1の金属板30と第2の金属板40とを結合するための要素として、第2の樹脂層50をさらに備える。なお、図1に示した分解図では、第1の樹脂層20と同様に、本実施形態における第2の樹脂層50の配置を分かりやすく示すために、第2の樹脂層50を絶縁フィルム10の表面側と裏面側に分割した層(50a,50b)として描画している。ただし、後述のように第2の樹脂層50を射出成形によって形成する場合、絶縁フィルム10の表側と裏側に存在する第2の樹脂層50(50a,50b)に実質的な分かれ目は存在せず、両層は一体的に形成されることになる。
【0036】
図2及び図3に示されるように、第2の樹脂層50は、中間品60と、絶縁フィルム10を挟み込んでいる2つの金属板30,40の挟持部32,42とを被覆することによって、中間品60と2つの金属板30,40を一体的に結合する。ただし、各金属板30,40の端子部31は、第2の樹脂層50によって被覆されておらず、第2の樹脂層50に形成された第1の穴部51を通じて外部に突出している。このため、2つの金属板30,40の絶縁状態を維持したまま、各金属板30,40に対してそれぞれ独立して電気を流すことができる。また、第2の樹脂層50には、各金属板30,40の挟持部32,42(水平部分)にまで貫通する第2の穴部52が形成されている。この第2の穴部52は、後述する二次成型工程(射出成形工程)において金型によって各金属板30,40を押し込む都合上、形成されたものである。なお、この第2の穴部52には、各金属板30,40に電気を流す際に発生する熱を外部に放熱する効果もある。
【0037】
本実施形態において、第2の樹脂層50は、射出成形によって形成される。このため、第2の樹脂層50としては、第1の樹脂層20と同様に、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が用いられる。第2の樹脂層50は、第1の樹脂層20と同種の樹脂材料によって形成されたものであってもよいし、異種の樹脂材料によって形成されたものでもよい。いずれの場合でも、第1の樹脂層20と第2の樹脂層50の間には界面が存在することになるため、最終的に得られた導電部材100を分析すれば両層20,50を確認することができる。
【0038】
続いて、図4から図6を参照して、本実施形態に係る導電部材100の製造方法について説明する。図4は、第1の樹脂層20によって絶縁フィルム10を補強した中間品60を得るための一次成型工程を示しており、図5及び図6は、この中間品60と2つの金属板30,40を第2の樹脂層50によって一体的に結合するための二次成型工程を示している。特に、本実施形態において、一次成型工程と二次成型工程はいずれも射出成形によって行われる。
【0039】
図4(a)に示されるように、一次成型工程では、まず、絶縁フィルム10と第1の金型200を用意する。絶縁フィルム10は、前述したものであり、余剰部分に小孔11が形成されている。第1の金型200は、上型210と下型220を含む。図4(b)に示されるように、第1の金型200の上型210と下型220の間に絶縁フィルム10が挟み込まれることになるが、上型210と下型220の内側には絶縁フィルム10の余剰部分に対応する位置にそれぞれ凹部が形成されている。この凹部以外の部位では、絶縁フィルム10は上型210と下型220に直接接して挟み込まれることとなる。そして、これらの上型210と下型220を嵌め合わせると、これらの凹部によってキャビティ230(空洞)が画定される。このキャビティ230の形状は、前述した第1の樹脂層20の形状に対応している。また、上型210には、このキャビティ230に繋がるゲート211が設けられている。ゲート211は一つのキャビティ230に対して一箇所設けられていればよいが、1つのキャビティ230に対して複数箇所設けることもできる。
【0040】
なお、図4(a)及び(b)に示されるように、絶縁フィルム10の余剰部分には小孔11が形成されている。そして、第1の金型200のキャビティ230内には、この絶縁フィルム10の小孔11に挿し込まれるピン221が設けられている。図4に示した例では、下型220にピン221が設けられているが、これに代えて上型210にピンを設けることも可能である。第1の金型200のキャビティ230内において絶縁フィルム10の余剰部分は、どこにも固定されていない自由端となるが、このように余剰部分の小孔11に挿し込まれるピン221を設けることで、絶縁フィルム10の余剰部分の動きを制限できる。また、絶縁フィルム10の小孔11をピン221に挿し込むことで、絶縁フィルム10に張力を付与した状態を維持できるため、この一次成型工程の精度を高めることが可能となる。
【0041】
次に、図4(c)に示されるように、第1の金型200のゲート211を通じてキャビティ230に第1の樹脂層20を形成するための溶融樹脂20´を射出する。なお、溶融樹脂20´としては、一般的に熱可塑性樹脂が用いられる。この場合、キャビティ230内に射出される溶融樹脂20´は高温状態となっている。その後、キャビティ230内において溶融樹脂20´を固化させる。溶融樹脂20´として熱可塑性樹脂を用いた場合には、この樹脂をキャビティ230内において冷却すればよい。なお、溶融樹脂20´として熱硬化性樹脂を用いた場合には、この樹脂を金型内において加熱すればよい。溶融樹脂20´を固化させることによって、絶縁フィルム10の余剰部分を被覆する第1の樹脂層20が形成される。このようにして、図4(d)に示されるように、絶縁フィルム10の周縁を第1の樹脂層20によって補強した中間品60が得られる。なお、第1の樹脂層20には、第1の金型200のピン221の形状に対応した小孔21が形成されることとなる。この第1の樹脂層20の小孔21は絶縁フィルム10の小孔11と連通しており、これらの小孔11,21は中間品を厚み方向に貫通したものとなる。
【0042】
次に、二次成型工程では、図5(a)に示されるように、まず、一次成型工程で得た中間品60と、第1の金属板30と、第2の金属板40と、第2の金型300を用意する。2つの金属板30,40は、前述したものであり、絶縁フィルム10に直接接する挟持部32,42と、その両端に設けられた端子部31とを有する。第2の金型300は、上型310と下型320を含む。図5(b)に示されるように、第2の金型300の上型310と下型320の間に中間品60と2つの金属板30,40の挟持部32,42が収納されることになるが、上型310と下型320の内側には、それぞれ、これらの構成物品を収納するキャビティ330を形成するための凹部が形成されている。つまり、これらの上型310と下型320を嵌め合わせると、これらの凹部によってキャビティ330(空洞)が画定されることとなる。この第2の金型300のキャビティ330の形状は、前述した第3の樹脂層50の形状に対応している。また、上型310には、第1の金属板30の端子部31が挿し込まれる穴部311が形成されており、同様に、下型320にも、第2の金属板40の端子部41が挿し込まれる穴部321が形成されている。また、上型310には、このキャビティ330に繋がるゲート313が設けられている。ゲート313は一つのキャビティ330に対して一箇所設けられていればよいが、1つのキャビティ330に対して複数箇所設けることもできる。
【0043】
また、図5(b)に示されるように、第2の金型300内では、絶縁フィルム10のうち、第1の樹脂層20によって被覆されていない露出部分が、各金属板30,40の挟持部32,42によって挟み込まれる。一方で、絶縁フィルム10のうち、各金属板30,40の間に固定されていない余剰部分は、その大部分が第1の樹脂層20によって被覆されたものとなる。このため、絶縁フィルム10に第1の樹脂層20を予め取り付けておくことで、二次成型工程を行う前に、絶縁フィルム10の露出部分に合わせて各金属板30,40を配置すれば済むようになることから、絶縁フィルム10と各金属板30,40の位置合わせが容易になり、さらにその精度向上にも繋がる。
【0044】
また、図5に示されるように、第2の金型300は、上型310と下型320の内面側(キャビティ320側の面)に複数の凸部312,322が形成されている。この凸部312,322は、上型310と下型320を嵌め合わせたときに、絶縁フィルム10を挟み込んでいる2つの金属板30,40の挟持部32,42に当接する位置に設けられている。このため、第2の金型300を閉じると、これらの凸部312,322によって、2つの金属板30,40の挟持部32,42が、絶縁フィルム10に向かって押圧されることとなる。このように、2つの金属板30,40の挟持部32,42を絶縁フィルム10に向かって付勢しながら射出成形を行うことで、この射出成形工程中に絶縁フィルム10に皺やヨレが発生することを抑制できる。また、完成した導電部材100においては、第2の樹脂層50に、この第2の金型300の凸部312,322に対応した穴部が形成されることになるが、この穴部を通じて2つの金属板30,40に発生した熱を外部に放熱できる。
【0045】
次に、図6(c)に示されるように、第2の金型300のゲート313を通じてキャビティ330に第2の樹脂層50を形成するための溶融樹脂50´を射出する。なお、第2の樹脂50用の溶融樹脂50´としては、前述した第1の樹脂層20用の溶融樹脂20´と同様に、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が用いられる。その後、溶融樹脂50´は、第2の金型300のキャビティ330内において固化される。これにより、図6(d)に示されるように、絶縁フィルム10全体と、第1の樹脂層20全体と、2つの金属板30,40の挟持部32,42とが第2の樹脂層50内に封入された導電部材100が得られる。なお、この導電部材100において、2つの金属板30,40の端子部31は、第2の樹脂層50の穴部51を通じて外部に露出したものとなる。図6(d)に示した導電部材100の構造は、基本的に図3に示したものと同じである。
【0046】
続いて、図7及び図8を参照して、一次成型工程によって得られる中間品60の様々なパターンについて説明する。まず、図7(a)に示したパターンでは、前述した実施形態と同様に、矩形状の絶縁フィルム10の四辺全てを第1の樹脂層20によって補強している。なお、このパターンにおいて、ピン留め用の小孔11,21は、絶縁フィルム10及び第1の樹脂層20の一対の長辺にのみ設けている。また、図7(b)に示したパターンでは、矩形状の絶縁フィルム10の三辺を第1の樹脂層20によって補強している。このように、絶縁フィルム10の全周を第1の樹脂層20によって被覆する必要はなく、部分的に被覆しない縁部を残すことも可能である。
【0047】
図7(c)及び図7(d)に示したパターンでは、絶縁フィルム10の対向する二辺(一対の長辺)のみを第1の樹脂層20によって補強するとともに、この二辺の第1の樹脂層20を繋ぐように、絶縁フィルム10の面上を横断する第1の樹脂層20の被覆部位をさらに設けている。図7(c)では、平面視において第1の樹脂層20がH字形となり、図7(d)では、平面視において第1の樹脂層20がZ字形となる。なお、このようなパターンでは、絶縁フィルム10の面上を横断している第1の樹脂層20の被覆部位に重ならないように、各金属板30,40を配置する。
【0048】
図7(e)に示したパターンでは、絶縁フィルム10の対向する二辺(一対の長辺)のみを第1の樹脂層20によって補強し、他の二辺(一対の短辺)は露出したままとしている。このようなパターンであっても、ピン留め用の小孔11,21を絶縁フィルム10及び第1の樹脂層20に形成することで、一次成型工程時に金型の内部で絶縁フィルム10に皺やヨレが生じることを防止できる。
【0049】
図7(f)に示したパターンでは、絶縁フィルム10の隣接する二辺(長辺と短辺)のみを第1の樹脂層20によって補強し、他の二辺(長辺と短辺)は露出したままとしている。このパターンでは、平面視において第1の樹脂層20がL字形となる。このパターンでは、第1の樹脂層20によって被覆されていない絶縁フィルム10の角部分(図中右上の角)が不安定になるため、好ましい形態であるとはいえないが、絶縁フィルム10上の各金属板30,40の配置を工夫することで、このようなパターンも採用し得る。
【0050】
なお、図7に示したパターンでは、絶縁フィルム10が長方形である場合を想定しているが、絶縁フィルム10の形状は長方形に限らず、三角形、五角形、その他多角形や、円形、楕円形など用途に応じた様々な形状とすることができる。
【0051】
図8では、中間品60の断面を示している。なお、図8では、第1の金属板30と第2の金属板40の配置予定部位をそれぞれ破線で示している。図8(a)に示したパターンでは、前述した実施形態と同様に、絶縁フィルム10の縁部(余剰部分)を、表面と裏面の両面側から、第1の樹脂層20によって被覆している。このようなパターンは、例えば、絶縁フィルム10の表側に配置する第1の金属板30と、その裏側に配置する第2の金属板40のサイズが同じ場合に適している。
【0052】
図8(b)に示したパターンでは、絶縁フィルム10の余剰部分を、表面(一方面)側からのみ第1の樹脂層20によって被覆しており、裏面(他方面)側には第1の樹脂層20の被覆部分を設けずに裏面全体を露出することとしている。このようなパターンは、例えば、絶縁フィルム10の表面側に配置する第1の金属板30のサイズよりも、その裏側に配置する第2の金属板40のサイズが大きいような場合に適している。
【0053】
図8(c)に示したパターンでは、絶縁フィルム10の余剰部分のうちの一辺については、表面(一方面)側からのみ第1の樹脂層20によって被覆し、裏面(他方面)側には第1の樹脂層20の被覆部分を設けずに露出している。一方で、絶縁フィルム10の余剰部分のうちの別の一辺については、裏面(他方面)側からのみ第1の樹脂層20によって被覆し、表面(一方面)側には第1の樹脂層20の被覆部分を設けずに露出している。このように、絶縁フィルム10の辺ごとに、第1の樹脂層20によって被覆する面を異ならせることもできる。このようなパターンは、例えば、絶縁フィルム10の表側に配置する第1の金属板30と、その裏側に配置する第2の金属板40とが完全には重ならずに、部分的にずれて配置されるような場合に適している。
【0054】
続いて、図9及び図10を参照して、導電部材100について、図1から図6で示した実施形態とは異なる変形例について説明する。まず、図9に示した例では、長方形の絶縁フィルム10の一対の長辺の余剰部分には、表面と裏面の両面を被覆するように第1の樹脂層20が形成されている。この一対の長辺に設けられた第1の樹脂層20の断面形状は、図8(a)に示した断面と同様である。一方で、絶縁フィルム10の一対の短辺の余剰部分のうち、一方の短辺については表面のみを被覆するように第1の樹脂層20が形成され、他方の短辺については裏面のみを被覆するように第1の樹脂層20(図面上描画されていない)が形成されている。この一対の短辺に設けられた第1の樹脂層20の断面形状は、図8(c)に示した断面と同様である。
【0055】
また、図9に示した例では、2つの金属板30,40として、長方形の板状のものが採用されており、折り曲げ加工などはされていない。第1の金属板30は、絶縁フィルム10の表面側に、第1の樹脂層20と重ならないように配置されている。第1の金属板30は、絶縁フィルム10の表面側のうち、第1の樹脂層20が設けられていない短辺から延出しており、この延出部分が端子部31となり、絶縁フィルム10と重なる部分が挟持部32となる。同様に、第2の金属板40は、絶縁フィルム10の裏面側に、第1の樹脂層20と重ならないように配置される。第2の金属板40は、絶縁フィルム10の裏面側のうち、第1の樹脂層20が設けられていない短辺から延出しており、この延出部分が端子部41となり、絶縁フィルム10と重なる部分が挟持部42となる。このため、第1の金属板30と第2の金属板40とは、部分的にずれた状態で、絶縁フィルム10の表面側と裏面側とにそれぞれ配置される。
【0056】
図9(b)では、第1の樹脂層20によって補強された絶縁フィルム10と2つの金属板30,40を第2の樹脂層50によって一体的に結合した状態を示している。なお、図9(b)では、第2の樹脂層50を透明化して示している。このように、比較的扁平な導電部材100を得ることも可能である。
【0057】
図10では、導電部材100、特に2つの金属板30,40の様々なバリエーションを示している。導電部材100(金属板30,40)の形状は図10に示したものに限定されないが、図10では、比較的汎用的に利用し得る3つのバリエーションを示している。なお、図10(a2)、(b2)、及び(c2)は、それぞれ、図10(a1)、(b1)、及び(c1)に示した導電部材100について、X-Xにおける断面形状を示したものである。
【0058】
図10(a1)(a2)に示した導電部材100において、2つの金属板30,40は平面視において長方形のものが用いられている。また、絶縁フィルム10を挟み込んでいる2つの金属板30,40の挟持部32,42は、2点において直角に折り曲げられ、断面視においてクランク状に加工されている。さらに、2つの金属板30,40の端部を折り曲げ加工することで、各金属板30,40に2つの端子部31,41が形成されている。
【0059】
また、図10(b1)(b2)に示した導電部材100においても、2つの金属板30,40は平面視において長方形のものが用いられている。また、絶縁フィルム10を挟み込んでいる2つの金属板30,40の挟持部32,42は、1点において直角に折り曲げられ、断面視においてL字形に加工されている。さらに、2つの金属板30,40の端部を折り曲げ加工することで、各金属板30,40に2つの端子部31,41が形成されている。
【0060】
また、図10(c1)(c2)に示した導電部材100では、2つの金属板30,40は、それぞれ、平面視において屈曲部位を有する八角形状となるように切断加工あるいは打ち抜き加工されている。また、この導電部材100では、絶縁フィルム10を挟み込んでいる2つの金属板30,40の挟持部32,42は、断面視においても、鈍角に斜めに折り曲げ加工されている。さらに、2つの金属板30,40の端部を折り曲げ加工することで、各金属板30,40に2つの端子部31,41が形成されている。
【0061】
このように、導電部材100の形状、特に金属板30,40の形状は、導電部材100の用途に応じて適宜最適な形状に加工することが可能である。
【0062】
続いて、図11を参照し、絶縁フィルム10に関して、2つの金属板30,40の「配置予定部位」とその他の「余剰部分」との用語の意義について整理する。図11(a)に示したような絶縁フィルム10と2つの金属板30,40の配置関係を想定した場合に、絶縁フィルム10のうち、太字の破線で示した範囲が、配置予定部位12となり、それ以外の部分が余剰部分13となる。すなわち、配置予定部位12は、絶縁フィルム10のうち、2つの金属板30,40の両方又はいずれか一方と接触する部位である。この配置予定部位12には、2つの金属板30,40の両方に接触する両面接触部12aと、2つの金属板30,40のいずれか一方のみに接触する片面接触部12bが含まれる。図11(a)に示したように、2つの金属板30,40の位置がずれている場合、配置予定部位12内に片面接触部12bが形成されることになる。なお、図示は省略するが、2つの金属板30,40の位置がずれていない場合には、配置予定部位12は両面接触部12aのみとなる。一方で、余剰部分13は、絶縁フィルム10のうち、配置予定部位12以外の部分である。すなわち、余剰部分13は、2つの金属板30,40のいずれにも接触しない部分となる。このような余剰部分13は、主に絶縁フィルム10の周縁に形成されやすい。
【0063】
そして、図11(b)のように絶縁フィルム10を平面視した場合に、この絶縁フィルム10の余剰部分13の大部分を、両面側又は片面側から第1の樹脂層20によって被覆することが好ましい。具体的には、余剰部分13の80%以上、特に90%以上の範囲を、第1の樹脂層20によって両面側又は片面側から被覆するとよい。一方で、絶縁フィルム10の配置予定部位12のうち、両面接触部12aに第1の樹脂層20を形成することは不可能である。ただし、絶縁フィルム10の配置予定部位12のうち片面接触部12bについては、金属板30,40が接触している面と反対側の面を、第1の樹脂層20によって被覆することは可能である(図8(a)参照)。本発明では、この片面接触部12bについても、その大部分(80%又は90%以上の範囲)を、金属板30,40が接触している面と反対側の面側から第1の樹脂層20によって被覆しておくことが好ましい。
【0064】
以上、本発明の好ましい実施形態について、主に第1の樹脂層20と第2の樹脂層50をそれぞれ射出成形によって形成する場合を例に挙げて説明した。ただし、第1の樹脂層20と第2の樹脂層50については、予め樹脂を固化させた部品を作成しておき、この部品を最終的に絶縁フィルム10及び2つの金属板30,40と組み合わせることとしてもよい。この場合、例えば図1に示したように、第1の樹脂層20と第2の樹脂層50は、それぞれ、絶縁フィルム10や2つの金属板30,40とは別々の構成部品として作成される。そして、最終的にこれら全ての構成部品をアッセンブリする(組み合わせる)ことによって、導電部材100を製造することも可能である。
【0065】
以上、本願明細書では、本発明の内容を表現するために、図面を参照しながら本発明の実施形態の説明を行った。ただし、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本願明細書に記載された事項に基づいて当業者が自明な変更形態や改良形態を包含するものである。
【符号の説明】
【0066】
10…絶縁フィルム 11…小孔
12…配置予定部位 12a…両面接触部
12b…片面接触部 13…余剰部分
20…第1の樹脂層 21…第1の小孔
22…第2の小孔 30…第1の金属板
31…端子部 32…挟持部
40…第2の金属板 41…端子部
42…挟持部 50…第2の樹脂層
51…第1の穴部 52…第2の穴部
60…中間品 100…導電部材
200…第1の金型 210…上型
211…ゲート 220…下型
221…ピン 230…キャビティ
300…第2の金型 310…上型
311…穴部 312…凸部
313…ゲート 320…下型
321…穴部 322…凸部
330…キャビティ
【要約】
【課題】絶縁フィルムを挟持する2つの金属板を樹脂被覆した導電部材を効率良く生産する。
【解決手段】2つの金属板30,40の間に絶縁フィルム10が介在する導電部材100の製造方法であって、絶縁フィルム10が少なくとも部分的に露出するように、絶縁フィルム10を絶縁性の第1の樹脂20によって被覆した中間品60を生成する一次成形工程と、この中間品60における絶縁フィルム10の露出部分の少なくとも一部を2つの金属板30,40の間に挟み込んだ状態で、2つの金属板30,40における絶縁フィルムの挟持部32,42を絶縁性の第2の樹脂50によって被覆する二次成形工程とを含む。
【選択図】図1
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