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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】表皮材及び表皮材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/28 20060101AFI20220117BHJP
   B32B 38/04 20060101ALI20220117BHJP
   D06N 3/00 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
B32B5/28 Z
B32B38/04
D06N3/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017243046
(22)【出願日】2017-12-19
(65)【公開番号】P2019107831
(43)【公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100111109
【氏名又は名称】城田 百合子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 淳一
(72)【発明者】
【氏名】三好 貴子
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/097999(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/022772(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/114070(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
D06N 1/00 - 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布層と、
該基布層とは反対側の位置に設けられたトップ層と、を備え、
前記トップ層及び前記基布層の双方には、孔が形成されており、
前記基布層は、厚み方向において前記トップ層から最も離れた位置に設けられた基布層底部を有し、
該基布層底部を構成する繊維は、起毛された状態にあり、
前記繊維の各々には、樹脂が含浸されていることを特徴とする表皮材。
【請求項2】
前記基布層は、トリコット編みの生地からなり、
前記起毛は、前記トリコット編みの生地を切り裂いて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の表皮材。
【請求項3】
前記基布層は、複数の層から形成され、
前記基布層底部を構成する最下層のみが切り裂かれていることを特徴とする請求項1又は2に記載の表皮材。
【請求項4】
前記繊維の各々には、ポリエステル樹脂が含浸されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の表皮材。
【請求項5】
前記基布層は、厚み方向において前記トップ層に近い第1層と、前記第1層よりも前記トップ層から遠い第2層と、を備え、
前記第2層は前記第1層よりも細い糸で形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の表皮材。
【請求項6】
前記第1層は、厚み方向において前記トップ層に近いバック層と、
前記第1層よりも前記トップ層から遠いミドル層から形成させており、
前記バック層と前記ミドル層では糸の縫い方が左右対称であることを特徴とする請求項5に記載の表皮材。
【請求項7】
前記第2層を構成する糸は、前記第1層を構成する糸よりも引っ張り強度が高く、
前記第2層を構成する糸が、切り裂かれることにより起毛していることを特徴とする請求項5又は6に記載の表皮材。
【請求項8】
前記第1層は1針振りで形成されており、
前記第2層は2針振りで形成されており、
前記第2層は樹脂が含浸されていることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか一項に記載の表皮材。
【請求項9】
基布層を用意する基布層用意工程と、
前記基布層の厚み方向において基布層底部を構成する繊維を起毛する起毛工程と、
前記繊維の各々に樹脂を含浸する樹脂含浸工程と、
前記基布層とトップ層とを積層する積層工程と、
前記トップ層及び前記基布層の双方に孔を形成するパンチング工程と、を行うことを特徴とする表皮材の製造方法。
【請求項10】
前記基布層は、トリコット編みの生地からなり、
前記起毛工程では、前記トリコット編みの生地を切り裂いて前記起毛を形成することを特徴とする請求項9に記載の表皮材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮材に係り、特に、孔が表皮に複数形成された表皮材及び該表皮材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乗物用シートの中には、シート本体に送風装置を取り付けて、シートに着座している乗員に対して風を送ることが可能なシートが存在する。このような乗物用シートでは、送風装置によって生じる風がシート内を通って乗員の身体に達するようになる。このため、送風装置が取り付けられている乗物用シートでは、通常、シート構成部品である表皮材に対して通気孔を穿設する。
【0003】
通気孔が形成された表皮材の一例としては、特許文献1に記載の表皮が挙げられる。特許文献1に記載の表皮材は、表皮層(トップ層)、接着層、基布層とから形成されており、基布層は、合成樹脂被覆層を有する繊維を含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-129994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
表皮材に孔を形成すると、基布層の繊維の一部がほどけ、トップ層の外側に糸として出て、ほつれが生じることがあった。特許文献1では、糸のほつれを抑制するために、芯となる繊維の周りに合成樹脂被覆層を形成し、当該繊維同士を部分的に融着させることになっている。このように特許文献1に記載の表皮材は、繊維同士を融着させる分、製造に若干の手間を要することとなる。そのため、基布における糸のほつれを抑制することが可能な表皮材については、特許文献1とは異なる構成によって実現することが望まれる。
【0006】
そこで、本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、表皮材において、孔を形成した際に孔周りにおける繊維のほつれが生じることを抑制することが可能な表皮材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、本発明の表皮材によれば、基布層と、該基布層とは反対側の位置に設けられたトップ層と、を備え、前記トップ層及び前記基布層の双方には、孔が形成されており、前記基布層は、厚み方向において前記トップ層から最も離れた位置に設けられた基布層底部を有し、該基布層底部を構成する繊維は、起毛された状態にあり、前記繊維の各々には、樹脂が含浸されていることにより解決される。
【0008】
上述のように構成された表皮材では、基布層の裏側に起毛が形成されていることにより、毛同士が絡みやすくなっていることに加え、表皮材は樹脂含浸しやすくなっている。これにより、表皮材に貫通孔を形成しても、貫通孔から毛が表面に出ること、すなわち孔周りでの繊維のほつれを抑制することが可能となる。したがって、表皮材の開口率を高くすることが可能となり、表皮材をパンチングレザーとして用いる場合の設計自由度を向上させることが可能となる。
【0009】
また、上記の構成において、前記基布層は、トリコット編みの生地からなり、前記起毛は、前記トリコット編みの生地を切り裂いて形成されているようにしてもよい。
上記の構成であれば、トリコット編みの糸を切り裂くことにより、毛同士が絡みやすくなるため、孔周りでの繊維のほつれをより一層抑制することが可能となる。
【0010】
また、上記の構成において、前記基布層は、複数の層から形成され、前記基布層底部を構成する最下層のみが切り裂かれているようにしてもよい。
上記の構成であれば、基布層底部を構成する最下層のみが切り裂かれているため、基布層の強度が低下することを抑制しつつ、孔周りでの繊維のほつれを抑制することが可能となる。
【0011】
また、上記の構成において、前記繊維の各々には、ポリエステル樹脂が含浸されていると好適である。
上記の構成であれば、ポリエステル樹脂を用いることで、ウレタン樹脂やアクリル系樹脂などの樹脂を用いた場合と比較して、基布の強度が高くなるため、穴を開けたときに糸のほつれをより抑制することが可能となる。
【0012】
このとき、前記基布層は、厚み方向において前記トップ層に近い第1層と、前記第1層よりも前記トップ層から遠い第2層と、を備え、前記第2層は前記第1層よりも細い糸で形成されていると好適である。
上述のように構成された表皮材では、基布層の剛性を保ちつつ、効果的に糸の使用量を低減させることが可能であるため、コストの低減及び軽量化が実現される。また、第2層の糸を細くすることにより、表皮材を曲げやすくなるので、表皮材のシートフレームやクッションパッドへの組み付け性が向上する。さらに、クッションパッドが第2層と接触することによって磨耗することが抑制される。
【0013】
このとき、前記第1層は、厚み方向において前記トップ層に近いバック層と、前記第1層よりも前記トップ層から遠いミドル層から形成させており、前記バック層と前記ミドル層では糸の縫い方が左右対称であると好適である。
上記の構成であれば、基布層の剛性を向上させることが可能となる。
【0014】
このとき、前記第2層を構成する糸は、前記第1層を構成する糸よりも引っ張り強度が高く、前記第2層を構成する糸が、切り裂かれることにより起毛していると好適である。
上記の構成であれば、第2層が切り裂かれた場合であっても、第1層に対して、バランスの良い引っ張り強度を維持することが可能となる。したがって、基布層の剛性を効率良く高めることが可能となる。
【0015】
このとき、前記第1層は1針振りで形成されており、前記第2層は2針振りで形成されており、前記第2層は樹脂が含浸されていると好適である。
上記の構成であれば、第2層を切り裂く工程を行う際、第1層がほつれることになっても、長い糸が出ることがない。このため、第1層の糸がトップ層の外に出ることが抑制される。また、第2層を切り裂く工程を行う際、第2層からは長い糸を出すことが可能であるため、樹脂を含浸しやすくなる。
【0016】
また、前記課題は、本発明の表皮材の製造方法によれば、基布層を用意する基布層用意工程と、前記基布層の厚み方向において基布層底部を構成する繊維を起毛する起毛工程と、前記繊維の各々に樹脂を含浸する樹脂含浸工程と、前記基布層とトップ層とを積層する積層工程と、前記トップ層及び前記基布層の双方に孔を形成するパンチング工程と、を行うことにより解決される。
【0017】
上述の表皮材の製造方法では、基布層の裏側に起毛が形成されることにより、毛同士が絡みやすくなることに加え、表皮材は樹脂含浸しやすくなっている。これにより、表皮材に貫通孔を形成しても、貫通孔から毛が表面に出ることが抑制される。したがって、表皮材の開口率を高くすることが可能となり、表皮材をパンチングレザーとして用いる場合の設計自由度を向上させることが可能となる。
【0018】
また、上記の構成において、前記基布層は、トリコット編みの生地からなり、前記起毛工程では、前記トリコット編みの生地を切り裂いて前記起毛を形成すると好適である。
上記の構成であれば、トリコット編みの糸を切り裂くことにより、毛同士が絡みやすくなるため、孔周りでの繊維のほつれをより一層抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の表皮材によれば、表皮材に貫通孔を形成しても、貫通孔から毛が表面に出ること、すなわち孔周りでの繊維のほつれを抑制することが可能となる。
また、本発明の表皮材によれば、トリコット編みの糸を切り裂くことにより、毛同士が絡みやすくなるため、孔周りでの繊維のほつれをより一層抑制することが可能となる。
また、本発明の表皮材によれば、基布層底部を構成する最下層のみが切り裂かれているため、基布層の強度が低下することを抑制しつつ、孔周りでの繊維のほつれを抑制することが可能となる。
また、本発明の表皮材によれば、ポリエステル樹脂を用いることで、ウレタン樹脂やアクリル系樹脂などの樹脂を用いた場合と比較して、基布の強度が高くなるため、穴を開けたときに糸のほつれをより抑制することが可能となる。
また、本発明の表皮材によれば、基布層の剛性を保ちつつ、効果的に糸の使用量を低減させることが可能であるため、コストの低減及び軽量化が実現される。また、第2層の糸を細くすることにより、表皮材を曲げやすくなるので、表皮材のシートフレームやクッションパッドへの組み付け性が向上する。さらに、クッションパッドが第2層と接触することによって磨耗することが抑制される。
また、本発明の表皮材によれば、基布層の剛性を向上させることが可能となる。
また、本発明の表皮材によれば、第2層が切り裂かれた場合であっても、第1層に対して、バランスの良い引っ張り強度を維持することが可能となる。したがって、基布層の剛性を効率良く高めることが可能となる。
また、本発明の表皮材によれば、第2層を切り裂く工程を行う際、第1層がほつれることになっても、長い糸が出ることがない。このため、第1層の糸がトップ層の外に出ることが抑制される。また、第2層を切り裂く工程を行う際、第2層からは長い糸を出すことが可能であるため、樹脂を含浸しやすくなる。
また、本発明の表皮材の製造方法によれば、表皮材に貫通孔を形成しても、貫通孔から毛が表面に出ることが抑制される。
また、本発明の表皮材の製造方法によれば、トリコット編みの糸を切り裂くことにより、毛同士が絡みやすくなるため、孔周りでの繊維のほつれをより一層抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る乗物用シートの全体図である。
図2】乗物用シートのシート本体と送風装置とを示す図である。
図3】表皮の積層構造を示す模式拡大図である。
図4】基布層の積層構造を示す模式拡大図である。
図5】基布層を構成する各層の編み方を示す模式図である。
図6】本発明の一実施形態に係る表皮材の製造方法を示すフロー図である。
図7】本発明の一実施形態に係る表皮及び比較例に係る表皮について、それぞれの仕様を示す図である。
図8】本発明の一実施形態に係る表皮及び比較例に係る表皮について、それぞれの仕様を示す図である。
図9】本発明の変形例に係る表皮材の製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態(本実施形態)に係る表皮材及び表皮材を備えた乗物用シート、表皮材の製造方法について説明する。なお、以下では、表皮材が乗物用シートに用いられる例を示して説明する。また、乗物用シートの一例として、車両に搭載されるシート(以下、車両用シートS)について、その構成を説明することとする。ちなみに、本発明の乗物用シートは、車両用シートに限定されるものではなく、車両以外の乗物(例えば、二輪車、あるいは船舶や航空機)に搭載されるシートとしても利用可能である。
【0022】
また、付言しておくと、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得る。また、当然ながら、本発明にはその等価物が含まれる。
【0023】
本明細書における方向を示す用語に関し、図1のように各方向を定義する。具体的には、以下の説明中、「前後方向」とは、車両用シートの着座者から見たときの前後方向を意味し、車両の走行方向と一致する方向である。「シート幅方向」とは、車両用シートの横幅方向を意味し、車両用シートの着座者から見たときの左右方向と一致する。また、「上下方向」とは、車両用シートの高さ方向を意味し、車両用シートを正面から見たときの上下方向と一致している。
【0024】
<車両用シートSの構成>
車両用シートSは、図1及び図2に示すように、乗員が着座可能なシート本体Shと、シート本体Shに取り付けられた送風装置10とを有する。シート本体Shは、シートクッションS1、シートバックS2及びヘッドレストS3を備える。シートクッションS1及びシートバックS2は、フレームFにクッションパッドPを載せ、クッションパッドPの表面を表皮1によって覆うことで構成されている。表皮1は、シートクッションS1及びシートバックS2の各々を構成する部品であり、シート本体Shにおいて乗員と対向する部分、具体的には着座面をなしている。
【0025】
より詳しく説明すると、シートクッションS1において、表皮1の一部は、車両用シートSに着座している乗員の臀部を下方から支える面(すなわち、シートクッションS1の上面)を構成している。また、シートバックS2において、表皮1の一部は、車両用シートSに着座している乗員の背部を後方から支える面(すなわち、シートバックS2の前面)を構成している。
【0026】
シートクッションS1の表皮1には、シートクッション右側に設けられ前後方向に延在する吊りこみ部Ta(右側吊りこみ部)、シートクッション左側に設けられ前後方向に延在する吊りこみ部Tb(左側吊りこみ部)がそれぞれ設けられている。また、シートクッションS1の前方部分は、乗員の膝裏が当たる前方部S1aを構成している。
【0027】
シートバックS2の表皮1には、シートバックS2右側に設けられ上下方向に延在する吊りこみ部Tc(右側吊りこみ部)、シートバックS2左側に設けられ上下方向に延在する吊りこみ部Td(左側吊りこみ部)、シートバックS2上方に設けられシート幅方向に延在する吊りこみ部Te(上側吊りこみ部)がそれぞれ設けられている。
【0028】
送風装置10は、空調や換気のために設けられた機器であり、例えば、公知のブロアからなる。この送風装置10は、図2に示すように、シートクッションS1の下方位置に配置されている。
【0029】
また、シートクッションS1を構成するフレームF及びクッションパッドPのうち、送風装置10の上方に位置する箇所には貫通孔が形成されており、この貫通孔が風路11をなしている。なお、この風路11内には、筒状の板金材料からなるダクト(不図示)が配置されていてもよい。
【0030】
さらに、着座面をなす表皮1には、図3に示すように、表皮1を貫通する孔2が複数穿設されている。この孔2は、送風装置10によって生じる風が通過可能な孔であり、表皮1に対して公知のパーフォレーション処理(穿設処理)を施すことによって形成されたものである。
【0031】
そして、送風装置10をなすブロアが正回転すると、送風装置10からの風(気流)が風路11及び孔2を通じてシートクッションS1の着座面の上方まで送られ、シートクッションS1上に着座している乗員(厳密には、乗員の臀部)に当たるようになる。また、上記のブロアが逆回転すると、着座面付近の空気が風となって孔2及び風路11を通じて送風装置10に吸気されるようになる。
【0032】
なお、本実施形態では、シートクッションS1に送風装置10が取り付けられていることとしたが、これに限定されるものではなく、シートバックS2(より具体的には、シートバックS2の後方部)に送風装置10が取り付けられてもよい。
【0033】
また、本実施形態において、貫通する孔2が複数穿設されている表皮1が、シートクッションS1の幅方向に設けられ、車両用シートSの前後方向に延在する一対の溝部の内側、つまり、吊り込み部Taと吊り込み部Tbの内側に配置されていると、乗員の脚部が当たる部分に配置されることとなるため、効果的に乗員の蒸れを抑制することが可能となり好ましい。
【0034】
また、本実施形態において、貫通する孔2が複数穿設されている表皮1が、シートクッションS1の前方部分、つまり、前方部S1aに配置されていると、乗員の膝裏が当たる部分に配置されることとなるため、効果的に乗員の蒸れを抑制することが可能となり好ましい。
【0035】
本実施形態において、貫通する孔2が複数穿設されている表皮1が、シートバックS2の幅方向に設けられ、車両用シートSの上下方向に延在する一対の溝部の内側、つまり、吊りこみ部Tcと吊りこみ部Tdの内側に配置されていると、乗員の背中が当たる部分に配置されることとなるため、効果的に乗員の蒸れを抑制することが可能となり好ましい。
【0036】
また、本実施形態において、貫通する孔2が複数穿設されている表皮1が、シートバックS2に設けられ、車両用シートSの幅方向に延在する溝部の下方、つまり、吊りこみ部Teの下方に配置されていると、乗員の腰部が当たる部分に配置されることとなるため、効果的に乗員の蒸れを抑制することが可能となり好ましい。
【0037】
<表皮1の構成>
次に、表皮1の構造について図3及び4を参照しながら説明する。本実施形態に係る表皮1は、図3に示すように、積層構造となっており、具体的には三層構造となっている。表皮1を構成する層は、トップ層3、発泡層4及び基布層5である。
【0038】
(トップ層3)
トップ層3は、表皮1の厚み方向において表側(露出して乗員と対向する側)に位置するように設けられた層である。また、本実施形態において、トップ層3は、ポリ塩化ビニル(PVC)製の合成皮革からなる。
【0039】
(発泡層4)
発泡層4は、表皮1の厚み方向においてトップ層3と隣接する層であり、公知のワディング材からなる。なお、トップ層3と発泡層4との境界面には接着剤の塗布膜が形成されており、発泡層4の表面にトップ層3が貼り付けられている。
【0040】
(基布層5)
基布層5は、表皮1の厚み方向において裏側(トップ層3とは反対側)に位置するように設けられた層である。この基布層5は、繊維を編むことで構成された生地からなり、より詳しくは、トリコット編みの生地からなる。
【0041】
基布層5に用いられる繊維には、特に制限はなく、一般に合成皮革などの表皮材に使用しうる繊維であれば使用することが可能である。繊維の例としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリウレタン繊維、レーヨン繊維、ナイロン繊維、綿繊維からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましいが、これらの繊維に限定されるものではない。強度と柔軟性の観点からは、ポリエステル繊維を用いることが好ましい。繊維は1種の繊維であっても、2種以上の繊維の混紡でもあってもよい。また、繊維、例えば白色のポリエステル繊維を染料で染色してもよい。
【0042】
基布層5に用いられる繊維の太さは、強度と柔軟性とを両立するという観点から、30dtex~150dtexであることが好ましく、40dtex~120dtexであることがより好ましく、45dtex~90dtexであることが更に好ましく、50dtex~75dtexであることが特に好ましい。
【0043】
また、基布層5に用いられる繊維を撚り糸とする場合には、から、繊維を10フィラメント~100フィラメントの範囲とすることが好ましく、20フィラメント~90フィラメントの範囲とすることがより好ましく、25フィラメント~80フィラメントの範囲とすることが更に好ましく、30フィラメント~75フィラメントの範囲とすることが特に好ましい。
【0044】
また、前述したように、表皮1にはパーフォレーション処理によって形成された孔2が穿設されている。つまり、表皮1を構成する各層(トップ層3、発泡層4及び基布層5)には、各層を貫通する孔3a、4a、5aが複数設けられていることになる。各層の孔は、当然ながら互いに連通しており、図3に示すように直線状に連なっている。そして、それぞれの孔3a、4a、5aには、送風装置10によって生じる風が通過可能である。
【0045】
一方、一般的に、繊維を編み込んでなる生地に孔を穿つと、その孔の周辺に位置する繊維がほつれ易くなってしまう。これに対し、表皮1中の基布層5をなす生地では、孔5a周辺での繊維のほつれを効果的に抑制することが可能である。以下、基布層5の構成について詳しく説明する。
【0046】
基布層5において、繊維を編み込んで構成された生地中、基布層底部5bに相当する部分には、起毛処理が施されている。したがって、基布層底部5bを構成する繊維は、起毛された状態にあり、繊維同士が互いに絡み易くなっている。ここで、「基布層底部5b」とは、基布層5中、表皮1の厚み方向において最も裏側の位置(トップ層3から最も離れた位置)に設けられた部分である。ここで、起毛はトリコット編みの生地を切り裂いて形成されていると好適である。
【0047】
基布層底部5b(後述するフロント層5F)の糸が切り裂かれているので、基布層底部5b(フロント層5F)の糸について、長さが短いものが大半となる。このため、長い糸が貫通孔の外に出なくなるので、貫通孔から基布層底部5b(フロント層5F)の糸が出ても目立ちにくくなっている。
【0048】
ここで、起毛が樹脂含浸されているとよい。起毛に含浸する樹脂としては、ウレタン樹脂、水性ポリエステル樹脂などのポリエステル樹脂、アクリル樹脂などを用いることが可能であるが、柔軟性、表面特性、強度の観点から、ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。
【0049】
基布層5は、前述したように複数種類の繊維を編み込むことで構成されたトリコット編みの生地からなる。詳細に説明すると、基布層5は、図4に示すように、基布層5の厚み方向において表側(積層したときトップ層3や発泡層4に近い側)から順にバック層5B、ミドル層5M、フロント層5Fが積層された3層構成であり、フロント層5Fが基布層底部5bを構成する。ここで、フロント層5Fのみが切り裂かれて起毛が形成されていると好適である。また、バック層5Bとミドル層5Mを合せて第1層51と呼び、フロント層5Fを第2層52と呼ぶ。
【0050】
また、図5に示すように、編み方がバック層5B及びミドル層5M(第1層)で1針振りであり、フロント層5F(第2層)で2針振りであることが好ましい。なお、図5に示すように、バック層5Bとミドル層5Mでは糸の縫い方が左右対称である。また、図5に示すように、フロント層5Fの編み方を3針振りとしてもよい。
【0051】
本実施形態に係る基布層5において、各層を構成する繊維の太さは、例えば、バック層5Bで50d/72f、ミドル層5Mで75d/36f、フロント層5Fで75d/36fであるとよいが、これに限定されるものではない(d:dtex、f:フィラメント)。
【0052】
<表皮材の製造方法>
本実施形態の表皮材の製造方法は、基布層を用意する基布層用意工程と、前記基布層の厚み方向において基布層底部を構成する繊維を起毛する起毛工程と、前記繊維の各々に樹脂を含浸する樹脂含浸工程と、前記基布層とトップ層とを積層する積層工程と、前記トップ層及び前記基布層の双方に孔を形成するパンチング工程と、を行うことを特徴とする。
以下、各工程について、図6を参照して詳細に説明する。
【0053】
(基布層用意工程)
基布層用意工程では、基布層を用意する(ステップS1)。このとき、第1層と、前記第1層よりも細い糸で形成された第2層を備える基布層を用意して、前記第1層と前記第2層とを接着すると好適である。
【0054】
(起毛工程)
起毛工程では、前記基布層の厚み方向において基布層底部を構成する繊維を起毛する(ステップS2)。ここで、基布層底部は、基布層のトップ層から最も離れた位置に設けられる部分、換言すると、トップ層が積層される面と反対側の面に相当する。
【0055】
このとき、基布層は、トリコット編みの生地からなり、起毛工程では、前記トリコット編みの生地を切り裂いて起毛を形成すると好適である。
【0056】
(樹脂含浸工程)
樹脂含浸工程では、前記繊維の各々に樹脂を含浸する(ステップS3)。このとき、樹脂として、ポリエステル樹脂を用いると好適である。
【0057】
(積層工程)
積層工程では、前記基布層とトップ層とを積層する(ステップS4)。具体的には、ロールコーターによって基布層の基布層底部とは反対側の面(基布層の第1層側の面)に接着剤が塗り付けられた後、カレンダー工程によって、高熱化したトップ層が貼り付けられる。これにより、基布層とトップ層との接着が行なわれ、基布層の第1層側にトップ層が積層される。このとき、基布層とトップ層との間に発泡層等の層を介在させてもよい。
【0058】
(パンチング工程)
パンチング工程では、前記トップ層及び前記基布層の双方に孔を形成する(ステップS5)。孔の形成は、公知のパーフォレーション装置やパンチングロールを用いて行えば良い。
【0059】
このように製造された本実施形態に係る表皮は、基布層の裏側に起毛が形成されることにより、毛同士が絡みやすくなることに加え、樹脂含浸しやすくなっている。これにより、表皮材に貫通孔を形成しても、貫通孔から毛が表面に出ることが抑制される。
【0060】
図7は、本実施形態に係る表皮1(実施例1)及び比較例に係る表皮のそれぞれの仕様を示す図であり、図中、本実施形態に係る表皮1を「実施例1」と表記している。また、比較例としては、三つの例を挙げており、図中、それぞれの例を「比較例1」、「比較例2」及び「比較例3」と表記している。
【0061】
本実施形態に係る表皮1(実施例1)において、基布層5は三種類の糸をトリコット編みで編み込んで生地を構成し、その生地を基布層5として用いる。なお、本実施形態において、基布層5をなす生地の仕様について説明すると、目付が245g/m以下であり、密度が63C/37Wである。
【0062】
さらに、上記の繊維を編み込んで構成された生地中、基布層底部5bに相当する部分には、起毛処理が施されている。したがって、基布層底部5bを構成する繊維は、起毛された状態にあり、繊維同士が互いに絡み易くなっている。ここで、「基布層底部5b」とは、基布層5中、表皮1の厚み方向において最も裏側の位置(トップ層3から最も離れた位置)に設けられた部分である。ここで、基布層5は、トリコット編みの生地からなり、起毛は、トリコット編みの生地を切り裂いて形成されている。
【0063】
そして、基布層底部を構成する起毛された繊維の各々には、ポリエステル樹脂が含浸されている。なお、本実施形態において、各繊維におけるポリエステル樹脂の含浸量は、繊維の単位長あたり1~10g、実施例1では2gとなっている。
【0064】
以上のように、本実施形態に係る表皮1の基布層5によれば、孔5aの縁に位置する部分を含めて基布層5全体が、ポリエステル樹脂が含浸された繊維を編み込むことで構成された生地(厳密にはトリコット編みの生地)からなる。この結果、孔5a周辺の強度を確保し、孔5a周辺における繊維のほつれが効果的に抑制されるようになる。
【0065】
上記の効果を説明するために、本実施形態に係る表皮1の基布層5と、当該基布層5とは製造条件が異なる別の基布層(比較例の基布層)とを対比しながら説明する。なお、比較例としては三種類(比較例1、比較例2及び比較例3)の基布層を挙げることとし、各基布層の仕様(具体的には、繊維の編み方、繊維の種類及び太さ、生地の目付け及び密度、並びに、繊維におけるポリエステル樹脂の含浸の有無)については、図7に示す通りである。
【0066】
本実施形態に係る表皮1の基布層5(以下、本例の基布層5)を構成する生地の繊維(ポリエステル100%)は、図7に示すように、比較例1及び比較例2の基布層を構成する生地の繊維よりも太くなっている。また、実施例1の基布層5を構成する生地の目付けは、図7に示すように、比較例1の基布層を構成する生地の目付けよりも大きくなっている。また、実施例1の基布層5を構成する生地の密度は、図7に示すように、比較例1及び比較例2の基布層を構成する生地の密度よりも大きくなっている。また、図7に示すように、実施例1の基布層5を構成する生地の繊維にはポリエステル樹脂が含浸されているのに対し、比較例1~比較例3の基布層を構成する生地の繊維には、いずれもポリエステル樹脂が含浸されていない。さらに、いずれの基布層にも孔が複数穿設されている。
【0067】
そして、図7に示すように、比較例1~比較例3の基布層では、孔周辺での繊維のほつれが生じているのに対し、実施例1の基布層5では、孔周辺での繊維のほつれが抑制されている。また、実施例1の基布層5では、前述したように、基布層底部5bを構成する繊維が、起毛された状態にあって絡み易くなっている。このような状態も相俟って、実施例1の基布層5では、孔周辺での繊維のほつれが効果的に抑制されている。
【0068】
図8は、本実施形態に係る表皮1(実施例1及び実施例2)及び比較例に係る表皮のそれぞれの仕様を示す図であり、図中、本実施形態に係る表皮1を「実施例1」、「実施例2」と表記している。また、比較例としては、一つの例を挙げており、図中、「比較例4」と表記している。
【0069】
本実施形態に係る表皮1(実施例1及び実施例2)において、基布層5は、厚み方向においてトップ層3に近い第1層(バック層5Bとミドル層5M)と、第1層よりもトップ層3から遠い第2層(フロント層5F)と、を備え、第2層(フロント層5F)は第1層(バック層5Bとミドル層5M)よりも細い糸で形成されている。
【0070】
さらに、上記の繊維を編み込んで構成された生地中、基布層底部5bに相当する部分には、起毛処理が施されている。したがって、基布層底部5bを構成する繊維は、起毛された状態にあり、繊維同士が互いに絡み易くなっている。ここで、「基布層底部5b」とは、基布層5中、表皮1の厚み方向において最も裏側の位置(トップ層3から最も離れた位置)に設けられた部分である。具体的には、フロント層5F(第2層)を構成する細い糸が、切り裂かれることにより起毛が形成されている。ここで、フロント層5F(第2層)が切り裂かれた場合であっても、第1層であるバック層5Bとミドル層5Mに対して、バランスの良い引っ張り強度が維持されており、基布層5の剛性が高くなっている。
【0071】
本実施形態に係る表皮1(実施例1及び実施例2)において、基布層5を構成する三種類の繊維の各々は、ポリエステル樹脂が含浸されている。なお、本実施形態において、各繊維におけるポリエステル樹脂の含浸量は、繊維の単位長あたり1~10g、実施例2では2gとなっている。
【0072】
そして、上記の繊維を編み込んで生地を構成し、その生地を基布層5として用いる。なお、本実施形態において、基布層5をなす生地の仕様について説明すると、目付が261g/m以下であり、密度が63C/37Wである。
【0073】
以上のように、本実施形態に係る表皮1の基布層5によれば、基布層5の剛性を保ちつつ、効果的に糸の使用量を低減させることが可能であるため、コストの低減及び軽量化が実現される。また、フロント層(第2層)の糸を細くすることにより、表皮材を曲げやすくなるので、表皮材のシートフレームやクッションパッドへの組み付け性が向上する。さらに、クッションパッドがフロント層(第2層)と接触することによって磨耗することが抑制される。また、孔5aの縁に位置する部分を含めて基布層5全体が、ポリエステル樹脂が含浸された繊維を編み込むことで構成された生地(厳密にはトリコット編みの生地)からなる。この結果、孔5a周辺の強度を確保し、孔5a周辺における繊維のほつれが効果的に抑制されるようになる。
【0074】
上記の効果を説明するために、本実施形態に係る表皮1の基布層5(実施例1及び実施例2)と、当該基布層5とは製造条件が異なる別の基布層(比較例の基布層)とを対比しながら説明する。なお、比較例としては比較例4の基布層を挙げることとし、各基布層の仕様(具体的には、繊維の編み方、繊維の種類及び太さ、生地の目付け及び密度、並びに、繊維におけるポリエステル樹脂の含浸の有無)については、図8に示す通りである。
【0075】
本実施形態に係る表皮1の基布層5(以下、本例の基布層5)を構成する生地の繊維(ポリエステル100%)は、図8に示すように、バック層5Bで75d/36f、ミドル層5Mで75d/36f、フロント層5Fで50d/72fである。つまり、フロント層5F(第2層)はバック層5B及びミドル層5M(第1層)よりも細い糸で形成されている。したがって、表皮1では、基布層5の剛性を保ちつつ、糸の使用量を低減させている。
【0076】
ここで、バック層5B及びミドル層5M(第1層)は1針振りで形成されており、フロント層5F(第2層)は3針振り(実施例1)又は2針振り(実施例2)で形成されており、フロント層5F(第2層)を切り裂く工程を行う際、バック層5B及びミドル層5M(第1層)がほつれることになっても、長い糸が出ることがない。このため、バック層5B及びミドル層5M(第1層)の糸がトップ層の外に出ることが抑制される。また、フロント層5F(第2層)を切り裂く工程を行う際、フロント層5F(第2層)からは長い糸を出すことが可能であるため、樹脂を含浸しやすくなっている。
【0077】
また、バック層5Bとミドル層5Mでは糸の縫い方が左右対称であり、基布層5の剛性が向上している(図5)。
【0078】
フロント層5F(第2層)を構成する糸の直径(50d)は、バック層5B及びミドル層5M(第1層)を構成する糸の直径(75d)の3分の2である。また、フロント層5Fを構成する糸は、ミドル層5Mを構成する糸よりも引っ張り強度が2倍である。
【0079】
また、実施例1及び実施例2の基布層5を構成する生地の目付けは、図8に示すように、比較例1の基布層を構成する生地の目付けよりも大きくなっている。また、実施例1及び実施例2の基布層5を構成する生地の密度は、図8に示すように、比較例4の基布層を構成する生地の密度よりも大きくなっている。また、図8に示すように、実施例1及び実施例2の基布層5を構成する生地の繊維にはポリエステル樹脂が含浸されているのに対し、比較例4の基布層を構成する生地の繊維には、いずれもポリエステル樹脂が含浸されていない。さらに、いずれの基布層にも孔が複数穿設されている。
【0080】
そして、比較例4の基布層では、孔周辺での繊維のほつれが生じているのに対し、実施例1及び実施例2の基布層5では、孔周辺での繊維のほつれが抑制されていた。また、実施例1及び実施例2の基布層5では、前述したように、基布層底部5bを構成する繊維が起毛された状態にあって絡み易くなっている。このような状態も相俟って、実施例1及び実施例2の基布層5では、孔周辺での繊維のほつれが効果的に抑制されていた。
【0081】
<変形例>
表皮材の用途としては、送風装置10を備える車両用シートSを示したが、送風装置の代わりに、ヒーターを備える構成としてもよい。また、送風装置に加えてヒーターを備える構成としてもよい。
【0082】
また、上記の実施形態では、表皮材を車両用シートの表皮として用いる例を示したが、表皮材1の用途は、これに限定されるものではなく、一般的な内装や被服、人工皮革で作成される靴、鞄、財布、手袋、ベルト等の日用品など、その用途は特に限定されるものではない。
【0083】
また、上記実施形態では、トップ層3としてポリ塩化ビニル(PVC)製の合成皮革を用いた例を示したが、トップ層3の材質はこれに限定されるものではなく、例えば、ウレタン製の合成皮革を用いてもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、図3において発泡層4を備える表皮1(換言すると、発泡PVCを備える表皮材)を示したが、発泡層4は必須の構成要素ではなく、発泡層4を備えない構成としてもよい。
【0085】
また、上記の実施形態で示した表皮材の製造方法において、各工程の順番を変更してもよい。例えば、図9に示すように、変形例に係る表皮材の製造方法として、基布層を用意する基布層用意工程(ステップS11)と、前記基布層とトップ層とを積層する積層工程(ステップS12)と、前記基布層の厚み方向において前記トップ層から最も離れた位置に設けられた基布層底部を構成する繊維を起毛する起毛工程(ステップS13)と、前記繊維の各々に樹脂を含浸する樹脂含浸工程(ステップS14)と、前記トップ層及び前記基布層の双方に孔を形成するパンチング工程(ステップS15)と、を行うものであってもよい。
【0086】
<参考例>
(項目1)
基布層と、
該基布層とは反対側の位置に設けられたトップ層と、を備え、
前記トップ層及び前記基布層の双方には、孔が形成されており、
前記基布層は、厚み方向において前記トップ層に近い第1層(バック層及びミドル層)と、前記第1層よりも前記トップ層から遠い第2層(フロント層)と、を備え、
前記第2層は前記第1層よりも細い糸で形成されていることを特徴とする表皮材。
【0087】
項目1の表皮材によれば、基布層の剛性を保ちつつ、効果的に糸の使用量を低減させることが可能であるため、コストの低減及び軽量化が実現される。また、第2層の糸を細くすることにより、表皮材を曲げやすくなるので、表皮材のシートフレームやクッションパッドへの組み付け性が向上する。さらに、クッションパッドが第2層と接触することによって磨耗することが抑制される。
【0088】
(項目2)
前記第1層は、厚み方向において前記トップ層に近いバック層と、
前記第1層よりも前記トップ層から遠いミドル層から形成させており、
前記バック層と前記ミドル層では糸の縫い方が左右対称であることを特徴とする項目1に記載の表皮材。
【0089】
項目2の表皮材によれば、基布層の剛性を向上させることが可能となる。
【0090】
(項目3)
前記第2層を構成する糸の直径は、前記第1層を構成する糸の直径の3分の2以下であることを特徴とする項目1又は2に記載の表皮材。
【0091】
項目3の表皮材によれば、基布層の剛性を保ちつつ、より効果的に糸の使用量を低減させることが可能となる。
【0092】
(項目4)
前記フロント層を構成する糸は、前記ミドル層を構成する糸よりも引っ張り強度が2倍以上であることを特徴とする項目2に記載の表皮材。
【0093】
項目4の表皮材によれば、基布層の剛性を保ちつつ、より効果的に糸の使用量を低減させることが可能となる。
【0094】
(項目5)
項目1乃至4のいずれか一項に記載の表皮材と、シートバックとシートクッションを備える乗物用シートであって、前記表皮材は、前記シートバックの幅方向に設けられ、前記乗物用シートの上下方向に延在する一対の溝部の内側に配置されていることを特徴とする乗物用シート。
【0095】
項目5の表皮材によれば、貫通孔を備えた表皮材が、乗物用シートにおいて乗員の背中が当たる部分に配置されるため、効果的に乗員の蒸れを抑制することが可能となる。
【0096】
(項目6)
項目1乃至4のいずれか一項に記載の表皮材と、シートバックとシートクッションを備える乗物用シートであって、前記表皮材は、前記シートバックに設けられ、前記乗物用シートの幅方向に延在する溝部の下方に配置されていることを特徴とする乗物用シート。
【0097】
項目6の表皮材によれば、貫通孔を備えた表皮材が、乗物用シートにおいて乗員の腰部が当たる部分に配置されるため、効果的に乗員の蒸れを抑制することが可能となる。
【0098】
(項目7)
項目1乃至4のいずれか一項に記載の表皮材と、シートバックとシートクッションを備える乗物用シートであって、前記表皮材は、前記シートクッションの幅方向に設けられ、前記乗物用シートの前後方向に延在する一対の溝部の内側に配置されていることを特徴とする乗物用シート。
【0099】
項目7の表皮材によれば、貫通孔を備えた表皮材が、乗物用シートにおいて乗員の脚部が当たる部分に配置されるため、効果的に乗員の蒸れを抑制することが可能となる。
【0100】
(項目8)
項目1乃至4のいずれか一項に記載の表皮材と、シートバックとシートクッションを備える乗物用シートであって、前記表皮材は、前記シートクッションの前方部分に配置されていることを特徴とする乗物用シート。
【0101】
項目8の表皮材によれば、貫通孔を備えた表皮材が、乗物用シートにおいて乗員の膝裏が当たる部分に配置されるため、効果的に乗員の蒸れを抑制することが可能となる。
【0102】
(項目9)
第1層と、前記第1層よりも細い糸で形成された第2層を備える基布層を用意する基布層用意工程と、
前記基布層の前記第1層側にトップ層を積層する積層工程と、
前記トップ層及び前記基布層の双方に孔を形成するパンチング工程と、を行うことを特徴とする表皮材の製造方法。
【0103】
項目9の表皮材の製造方法によれば、表皮材における基布層の剛性を保ちつつ、効果的に糸の使用量を低減させることが可能であるため、コストの低減及び軽量化が実現される。
【0104】
(項目10)
前記基布層用意工程では、前記第1層と前記第2層とを接着することを特徴とする項目7に記載の表皮材の製造方法。
【0105】
項目10の表皮材の製造方法によれば、基布層の第1層と第2層が接着されているため基布層の剛性が向上する。
【符号の説明】
【0106】
1 表皮(表皮材)
2 孔
3 トップ層
3a 孔
4 発泡層
4a 孔
5 基布層
5a 孔
5b 基布層底部
51 第1層
5B バック層
5M ミドル層
52 第2層
5F フロント層
10 送風装置
11 風路
F フレーム
P クッションパッド
S 車両用シート(乗物用シート)
S1 シートクッション
Ta 吊り込み部(右側吊り込み部、溝部)
Tb 吊り込み部(左側吊り込み部、溝部)
S1a 前方部
S2 シートバック
Tc 吊り込み部(右側吊り込み部、溝部)
Td 吊り込み部(左側吊り込み部、溝部)
Te 吊り込み部(上側吊り込み部、溝部)
S3 ヘッドレスト
Sh シート本体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9