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特許7007630セルロースナノファイバーを配合した炭素繊維強化プラスチック
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバーを配合した炭素繊維強化プラスチック
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20220117BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220117BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20220117BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20220117BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
C08J5/04 CEZ
C08L101/00
C08K7/02
B32B5/02 B
B32B5/28 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017116235
(22)【出願日】2017-06-13
(65)【公開番号】P2019001872
(43)【公開日】2019-01-10
【審査請求日】2019-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(73)【特許権者】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大窪 和也
(72)【発明者】
【氏名】藤井 透
(72)【発明者】
【氏名】田中 亜弥
(72)【発明者】
【氏名】松田 大輝
(72)【発明者】
【氏名】西田 信雄
(72)【発明者】
【氏名】杉野 岳
(72)【発明者】
【氏名】大坪 雅之
(72)【発明者】
【氏名】森本 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】小倉 孝太
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-006131(JP,A)
【文献】特開2010-024413(JP,A)
【文献】特開2011-148214(JP,A)
【文献】特開2017-101227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16
B29B15/08-15/14
C08J5/04-5/10
C08J5/24
B29C41/00-41/36
B29C41/46-41/52
B29C70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂に0.1~0.5質量%の平均繊維長0.05μm~100μmのセルロースナノファイバーを配合した樹脂組成物100質量部に対して、炭素繊維を50~250質量部配合してなり、JIS K7074に基づく曲げ疲労試験における650MPaの曲げ応力での曲げ疲労寿命が1×10 4 回以上である、炭素繊維強化プラスチック(但し、オキサゾリドン含有エポキシ樹脂を含有するものを除く)。
【請求項2】
マトリックス樹脂に0.1~0.5質量%の平均繊維長0.05μm~100μmのセルロースナノファイバーを配合した樹脂組成物100質量部に対して、炭素繊維を50~250質量部配合してなり、JIS K7073に基づく引張疲労試験における650MPaの引張応力での引張疲労寿命が1×10 4 回以上である、炭素繊維強化プラスチック(但し、オキサゾリドン含有エポキシ樹脂を含有するものを除く)。
【請求項3】
マトリックス樹脂に0.1~0.5質量%の平均繊維長0.05μm~100μmのセルロースナノファイバーを配合した樹脂組成物100質量部に対して、炭素繊維を50~250質量部配合してなり、前記マトリックス樹脂の含有量が樹脂組成物に対し50~85質量%である、炭素繊維強化プラスチック(但し、オキサゾリドン含有エポキシ樹脂を含有するものを除く)。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバーの平均繊維長が1μm~100μmである請求項1~3のいずれか1項に記載の炭素繊維強化プラスチック。
【請求項5】
前記マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である請求項1~4のいずれか1項に記載の炭素繊維強化プラスチック。
【請求項6】
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート樹脂、ポリイソシアヌレート樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、およびポリイミド樹脂から成る群から選択される少なくとも一種である請求項1~のいずれか一項に記載の炭素繊維強化プラスチック。
【請求項7】
セルロースナノファイバーの平均径が1nm~100nmである請求項1~6のいずれか一項に記載の炭素繊維強化プラスチック。
【請求項8】
マトリックス樹脂に0.05~1質量%の平均繊維長0.05~22μmの第1のセルロースナノファイバーを配合した樹脂組成物に対して炭素繊維を配合してなる炭素繊維強化プラスチックから形成された第1層と、
前記第1層に積層された、マトリックス樹脂に0.05~1質量%の、第1のセルロースナノファイバーよりも平均繊維長が長く、かつ平均繊維長0.5μm~100μmの第2のセルロースナノファイバーを配合した樹脂組成物に対して炭素繊維を配合してなる炭素繊維強化プラスチックから形成された第2層と
を備えた積層体。
【請求項9】
第1のセルロースファイバーの平均繊維長が0.1~8μmであり、第2のセルロースファイバーの平均繊維長が1~100μmである請求項に記載の積層体。
【請求項10】
前記第2層の両面側に第1層が設けられている請求項またはに記載の積層体。
【請求項11】
前記第1層と前記第2層の間に炭素繊維からなるウェブが配置されている請求項8~10のいずれか一項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーを配合した炭素繊維強化プラスチックに関する。
【背景技術】
【0002】
比強度および比剛性に優れた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、自動車産業、航空宇宙産業等に用途が拡大されている。例えば、低燃費が要求される航空機の構造部材へのCFRP利用が普及している。そのため、CFRPの機械的特性および疲労寿命の向上がより一層求められている。
【0003】
特許文献1では、CFRPの母材にセルロースナノファイバー(CNF)を添加することで、CFRPの機械的特性および疲労寿命が改善されることを確認している。また、添加するCNFの長さを変更することで、CFRPの特性に対する影響が変化することを確認している。具体的には、繊維長の短いCNFを添加することで、それを添加したCFRPの引張特性が特に向上すること、また、繊維長の長いCNFを添加することで、それを添加したCFRPの層間特性が特に向上することを確認している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】第7回日本複合材料会議(JCCM-7)「セルロースナノファイバ(CNF)を添加したCFRPの機械的特性-CNFの繊維長の違いによる影響」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、耐疲労性をさらに向上させたCFRPおよびCFRP積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、以下の項に記載の主題を包含する。
[1]マトリックス樹脂に0.05~1質量%の平均繊維長0.05μm~100μmのセルロースナノファイバーを配合した樹脂組成物100質量部に対して、炭素繊維を50~250質量部配合してなる炭素繊維強化プラスチック。
[2]前記セルロースナノファイバーの平均繊維長が1μm~100μmである[1]に記載の炭素繊維強化プラスチック。
[3]樹脂組成物中のセルロースナノファイバーの配合量が0.1~0.5質量%である[1]または[2]に記載の炭素繊維強化プラスチック。
[4]前記マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である[1]~[3]のいずれかに記載の炭素繊維強化プラスチック。
[5]前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート樹脂、ポリイソシアヌレート樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、およびポリイミド樹脂から成る群から選択される少なくとも一種である[1]~[4]のいずれか一項に記載の炭素繊維強化プラスチック。
[6]前記マトリックス樹脂の含有量が樹脂組成物に対し50~99質量%である[1]~[5]のいずれか一項に記載の炭素繊維強化プラスチック。
[7]セルロースナノファイバーの平均径が1nm~100nmである[1]~[6]のいずれか一項に記載の炭素繊維強化プラスチック。
[8]JIS K7074に基づく曲げ疲労試験における650MPaの曲げ応力での曲げ疲労寿命が1×104回以上である[1]~[7]のいずれか一項に記載の炭素繊維強化プラスチック。
[9]JIS K707に基づく引張疲労試験における650MPaの引張応力での引張疲労寿命が1×104回以上である請求項[1]~[8]のいずれか一項に記載の炭素繊維強化プラスチック。
[10]マトリックス樹脂に0.05~1質量%の平均繊維長0.05~22μmの第1のセルロースナノファイバーを配合した樹脂組成物に対して炭素繊維を配合しててなる炭素繊維強化プラスチックから形成された第1層と、
前記第1層に積層された、マトリックス樹脂に0.05~1質量%の、第1のセルロースナノファイバーよりも平均繊維長が長く、かつ平均繊維長0.5μm~100μmの第2のセルロースナノファイバーを配合した樹脂組成物に対して炭素繊維を配合してなる炭素繊維強化プラスチックから形成された第2層とを備えた積層体。
[11]第1のセルロースファイバーの平均繊維長が0.1~8μmであり、第2のセル
ロースファイバーの平均繊維長が1~100μmである[10]に記載の積層体。
[12]前記第2層の両面側に第1層が設けられている[10]または[11]に記載の積層体。
[13]前記第1層と前記第2層の間に炭素繊維からなるウェブが配置されている[10]~[12]のいずれか一項に記載の積層体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、CFRPの疲労寿命を向上させることができる。また、より平均繊維長の長いCNF(IMa)を配合することで、層間特性も向上させることができる。さらに、平均繊維長の短いCNF(FMa)を含有するCFRPからなる層と、IMaを含有するCFRPからなる層の積層体は、それらの異なる繊維長のCNFの特性を生かして、疲労強度をより効果的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】積層体の例を示す略側面図。
図2】疲労試験に用いた試験片。(A)曲げ試験に用いた試験片の側面図、(B)(A)の平面図、(C)引張試験に用いた試験片の側面図、(D)(C)の平面図。
図3】曲げ疲労試験の結果を示すグラフ。縦軸は最大負荷応力、横軸は疲労寿命までの回数。
図4】曲げ疲労試験において静的引張強度に対し80%の最大応力を加えた後の(A)CNF非含有CFRP、(B)FMa含有CFRP、および(C)IMa含有CFRPの破壊破面の電子顕微鏡写真。
図5】引張疲労試験の結果を示すグラフ。縦軸は静的引張強度に対する最大応力の比、横軸は疲労寿命までの回数。
図6】引張疲労試験の結果を示すグラフ。縦軸は最大負荷応力、横軸は疲労寿命までの回数。
図7】CNF非含有CFRP、FMa含有CFRP、およびIMa含有CFRPの引張疲労寿命試験中のトランスバースクラックの発生数を示すグラフ。
図8】引張疲労試験において静的引張強度に対し80%の最大応力を加えた後の(A)CNF非含有CFRP、(B)FMa含有CFRP、および(C)IMa含有CFRPの破壊破面の電子顕微鏡写真。
図9】曲げ疲労試験の結果を示すグラフ。縦軸は最大負荷応力、横軸は疲労寿命までの回数。黒三角はFMaを添加したCFRP、四角はIMaを添加したCFRP、黒菱形は、外層にFMaを含有するCFRP及び内層にIMaを含有するCFRPを備えたCFRP積層体を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のセルロースナノファイバー(CNF)を配合した炭素繊維強化プラスチック(CFRP)について説明する。
【0010】
本発明のCFRPは、少なくとも、炭素繊維と、マトリックスとなる樹脂と、CNFとを含有する成形体であり、マトリックス樹脂に0.05質量%~1質量%の平均繊維長0.05μm~100μmのCNFを配合した樹脂組成物100質量部に対して、炭素繊維を50~250質量部配合してなる。
【0011】
本発明に使用される炭素繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、気相成長系炭素繊維、これらの黒鉛化繊維などが挙げられ、コストと取扱い性の観点から、PAN系またはピッチ系の炭素繊維が好ましい。
炭素繊維束は、不連続な繊維束が好ましく、チョップド繊維がより好ましい。また、炭素繊維束を構成する単繊維の本数には、特に制限はないが、生産性の観点からは12,000本以上が好ましい。炭素繊維束の繊維長は、特に限定されないが、1mm~50mmであることが好ましい。炭素繊維は、公知の方法により製造してもよいし、市販の炭素繊維を入手してもよい。
【0012】
樹脂組成物を構成するマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート樹脂、ポリイソシアヌレート樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、およびポリイミド樹脂から成る群から選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0013】
樹脂組成物中のマトリックス樹脂の含有量は、50~99質量%であることが好ましく、60~90質量%であることがより好ましく、65~85質量%であることがより好ましい。
【0014】
樹脂組成物を構成するCNFは、平均繊維長100μmのCNFからなる。平均繊維長が0.05μm未満であると、耐疲労性等のCNFの機械的特性が十分に発現しない。平均繊維長が100μmを超えると、ファイバーの分散性が悪化する。平均繊維長が短い方がCFRPの引張特性の点では好ましく、平均繊維長が長い方がCFRPの層間特性の点では好ましい。
【0015】
CFRPの耐疲労性の点では、平均繊維長は好ましくは0.05μm~100μmであり、より好ましくは0.1μm~100μmであり、より好ましくは1μm~22μmである。
【0016】
CFRPの引張特性の点では、平均繊維長は好ましくは0.1μm~8μmである。
【0017】
CFRPの層間特性の点では、平均繊維長は好ましくは1μm~100μmであり、より好ましくは1μm~22μmである。平均繊維長は、電子顕微鏡写真から複数の繊維(通常10本以上)の長さを測定し、その平均を計算することにより算出することができる。
【0018】
セルロース原料は、リグニンやヘミセルロースを除去した結晶セルロースが好ましい。本明細書において「ナノファイバー(NF)」とは、繊維の幅がナノサイズになったものを意味する。例えば、セルロースは、本発明の方法の実施により繊維同士がほどけて1本の最小単位の繊維になると、その平均径は1nm~100nm程度であり、好ましくは2nm~50nm程度である。セルロース原料ないしNFの平均径(幅)は、電子顕微鏡写真により複数の繊維(通常10本以上)の直径を測定し、その平均を計算することにより算出することができる。このような繊維は、長さはナノサイズではないが、直径(幅)がナノサイズであるため、本明細書においてナノファイバー又はNFと記載する。CNFは、特開2012-051991等の公知の方法により製造してもよいし、市販のものを入手してもよい。
【0019】
樹脂組成物中のCNFの含有量は、0.05質量%~1質量%であり、好ましくは0.1質量%~0.5質量%であり、より好ましくは0.2質量%~0.4質量%である。含有量が0.05質量%未満であっても、1質量%を超えても、かかるCNFを含有するCFRPが疲労寿命の向上に作用しない。
【0020】
本発明のCFRPは、本発明の効果を損なわない範囲で、安定剤、離型剤、紫外線吸収剤、着色剤、難燃剤、難燃助剤、滴下防止剤、滑剤、蛍光増白剤、蓄光顔料、蛍光染料、流動改質剤、耐衝撃性改良剤、結晶核剤、無機または有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤、赤外線吸収剤、フォトクロミック剤などの添加剤、炭素繊維以外の充填材等を配合してもよい。
次に、本発明のCFRPの製造方法について説明する。本発明のCFRPは、(1)炭素繊維のウェブからなるシート状基材を形成した後、該シート状基材に上記樹脂組成物を含浸させる方法、(2)上記樹脂組成物と、炭素繊維とを押出機に投入して、炭素繊維を分散させて炭素繊維強化樹脂組成物を得て、これを溶融状態で塊状またはシート状に押出した後、所定の形状に賦形する方法などが挙げられる。これらの方法は公知である。
【0021】
このようにして得られたCFRPは、CNFを含有しないCFRPと比較して、優れた耐疲労性を有する。
【0022】
一実施形態において、本発明のCFRPは、JIS K7074に基づく片振りの平面曲げ疲労試験(以下、単に「JIS K7074に基づく曲げ疲労試験」と称する)における650MPaの曲げ応力での曲げ疲労寿命および/またはJIS K707に基づく引張疲労試験における650MPaの引張応力での引張疲労寿命が1×104回以上である。これは、CNFを含有しないCFRPと比較して、顕著な曲げ疲労寿命の向上である。
【0023】
別の実施形態において、本発明のCFRPは、JIS K7074に基づく曲げ疲労試験における650MPaの曲げ応力での曲げ疲労寿命および/またはJIS K707に基づく引張疲労試験における650MPaの引張応力での引張疲労寿命が1×105回以上である。この場合、CFRPの疲労寿命はさらに向上する。
【0024】
別の実施形態において、本発明のCFRPは、JIS K7074に基づく曲げ疲労試験および/またはJIS K7073に基づく引張疲労試験における700MPaの曲げおよび/または引張り応力での曲げおよび/または引張疲労寿命が1×104回以上である。この場合も、CFRPの疲労寿命はさらに向上する。
【0025】
一実施形態において、本発明のCFRPは、JIS K7074に基づく曲げ疲労試験における650MPaの曲げ応力での曲げ疲労寿命および/またはJIS K707に基づく引張疲労試験における650MPaの引張応力での引張疲労寿命が、CNFを含有しない以外は同じ組成のCFRPと比較して4倍以上である。
【0026】
一実施形態において、本発明のCFRPは、JIS K7074に基づく曲げ疲労試験における650MPaの曲げ応力での曲げ疲労寿命および/またはJIS K707に基づく引張疲労試験における650MPaの引張応力での引張疲労寿命が、CNFを含有しない以外は同じ組成のCFRPと比較して10倍以上である。
【0027】
別の実施形態において、本発明のCFRPは、JIS K7074に基づく曲げ疲労試験における650MPaの曲げ応力での曲げ疲労寿命および/またはJIS K707に基づく引張疲労試験における650MPaの引張応力での引張疲労寿命が、CNFを含有しない以外は同じ組成のCFRPと比較して20倍以上である。
【0028】
次に、本発明の上記CFRPを備えた積層体について説明する。
【0029】
本発明の積層体は、マトリックス樹脂に0.05~1質量%の平均繊維長0.05~22μmの第1のCNFを配合した樹脂組成物に対して炭素繊維を配合してなるCFRPから形成された第1層と、第1層に積層された、マトリックス樹脂に0.05~1質量%の、第1のCNFよりも平均繊維長が長く、かつ平均繊維長0.5μm~100μmの第2のCNFを配合した樹脂組成物に対して炭素繊維を配合してなるCFRPから形成された第2層とを備えている。
【0030】
第1層における樹脂組成物に対する炭素繊維の配合量は、上記第1のCNFを配合した樹脂組成物100質量部に対して、炭素繊維50~250質量部である。第2層における樹脂組成物に対する炭素繊維の配合量は、上記第2のCNFを配合した樹脂組成物100質量部に対して、炭素繊維を50~250質量部である。
【0031】
炭素繊維のウェブに樹脂組成物を含浸させる方法で積層体を製造する場合、第1層における樹脂組成物に対する炭素繊維の比は、第1のCNFを配合した樹脂組成物100質量部に対して、炭素繊維50~250質量部である。第2層における樹脂組成物に対する炭素繊維の比率は、上記第2のCNFを配合した樹脂組成物100質量部に対して、炭素繊維を50~250質量部である。
【0032】
マトリックス樹脂、炭素繊維、CNF、CFRPから形成された第1層および第2層の製造方法については、本発明のCFRPに関して上述した通りである。
【0033】
上記積層体は、平均繊維長の短いCNFを含有するCFRPからなる第1層と、平均繊維長の長いCNFを含有するCFRPからなる第2層とを備えているため、第1層または第2層の一層の場合よりも、耐疲労性が向上する。
【0034】
第1のCNFの平均繊維長は、好ましくは0.1~8μmであり、第2のCNFの平均繊維長は好ましくは1~100μm、より好ましくは1~22μmである。この場合、積層体の耐疲労性がより向上する。
【0035】
好ましくは、第2層の両面側に第1層が設けられる。言い換えると、第2層が、2つの第1層により挟まれる。第2層は、第1層に直接接して積層されてもよいし、第2層と第1層の間には、上記炭素繊維からなるウェブ等の別の層が介在してもよい。
【0036】
積層体の外側の層として平均繊維長の短いCNFを含有するCFRPからなる第1層を配置し、積層体の内側の層として平均繊維長の長いCNFを含有するCFRPからなる第2層を配置することで、積層体に曲げ負荷がかかった場合に、引張応力が最大となる外側に、引張強さが大きい第1層が配置され、内側に層間特性が良好な第2層が配置されているため、曲げ負荷に対する利点が組み合わされ、CNFを含有しないマトリックス樹脂を用いたCFRPと比較して、CFRPの耐疲労性を更に向上させることができる。
【0037】
また、第1層と第2層の間に炭素繊維ウェブ等の追加層が介在する場合、第1層と第2層の間の急な材料特性の変化を緩慢にすることができるという点で有利である。
【0038】
第1層および第2層は、
第1層、第2層、第1層
第1層、第2層、第1層、第2層、第1層
のように第1層と第2層を交互に配置してもよいが、
第1層、第2層、第2層、第1層
第1層、第2層、第2層、第2層、第1層
のように、積層体の2つの最外層を第1層とし、2つの最外層の間の層は第2層としてもよい。2つの最外層を第1層の間に配置される第2層の数は限定されないが、好ましくは2~10である。炭素繊維ウェブ等の追加層は、第1層と第2層の間だけでなく、隣り合う第2層の間に配置されてもよい。図1は、平均繊維長の短いCNFを含有するCFRPからなる第1層2が2つの最外層に配置され、平均繊維長の長いCNFを含有するCFRPからなる第2層3が、2つの最外層の間に配置され、炭素繊維ウェブの層4が第1層2と第2層3の間、および隣り合う第2層3の間に配置された積層体の例である。
【0039】
本発明のCFRPおよび積層体は、疲労強度が大幅に向上しているため、従来の炭素繊維強化プラスチックの種々の用途に使用することができる。例えば、本発明のCFRPおよび積層体は、航空機の構造部材(例えば、翼)、自動車の構造部材、建築物の補強、ゴルフクラブのシャフト、釣り竿を含むがそれらに限定されない用途に広く使用することができる。
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例
【0041】
実施例1 CNF配合CFRPの製作
1.CNF含有樹脂組成物の作製
FMaとして、株式会社スギノマシン製の平均繊維長6μnm、平均径20nmのCNFを使用し、IMaとして、株式会社スギノマシン製の平均繊維長22μm、平均径20nmのCNFを使用した。マトリックス樹脂は三菱化学株式会社のJER828(エポキシ当量190)を使用した。CNFはスラリー状態であるため、CNFに含有している水分をエタノールで置換した。具体的には、スラリーにその10倍のエタノールを加えて5,000rpmで30分間、撹拌した。その後、バキューム装置でろ過した。得られた液にエタノールを追加して再度、5,000rpmで30分間、撹拌した。次に、CNFの添加率が樹脂組成物全体に対して、0.3質量%となるようにマトリックス樹脂を入れ、10,000rpmで30分間、撹拌した。この混合物を80℃で真空環境下の電気炉中に7日間、保持してエタノールを揮発させ、CNF含有樹脂組成物を得た。
【0042】
2.CFRPの作製
炭素繊維は、三菱レイヨン株式会社のPAN系炭素繊維束であるTR3110M(縦、横原糸ともにTR30S 3L 引張強度:4.12GPa、引張弾性率:234GPa、ひずみ率1.8%)を使用した。硬化剤には、三菱化学の変形脂環族アミン系のJERキュア113を用い、樹脂100gに対して硬化剤を33g加えた(樹脂組成物中の硬化剤の割合は25質量%)。樹脂と硬化剤は混合前後にバキューム装置で脱泡した。脱泡後の樹脂と平織炭素繊維クロス8枚をハンドレイアップした。その後、ヒートプレスで0.86MPa、80℃で1時間、および150℃で3時間、加圧加熱硬化させ、さらに炉中で徐冷し、CFRPを得た。CFRPの厚さは2mmとした。
【0043】
実施例2 CFRPの疲労試験
1.疲労試験
実施例1で得られたCFRPについて、曲げ疲労試験をJIS K7074に基づいて行った。応力振幅は一定、最大応力は静的強度に対して80%、応力比は0.1、周波数は5Hzとした。曲げでは繰返し三点曲げ荷重を負荷した。
【0044】
試験片を図2に示す。電気油圧式材料試験機(サーボパルサ、定格荷重 50kN 島津製作所製)を使用した。
【0045】
図3は、曲げ疲労試験の結果である。図に示すように、FMaおよびIMaを含有するCFRPでは、CNFを含有しないCFRPと比較して、疲労寿命が大幅に増大した。特に最大負荷応力を600MPaとした場合、FMaおよびIMaを添加した場合は無添加の場合に比べて曲げ疲労寿命が約4倍向上し、最大負荷応力を650MPaとした場合、FMaおよびIMaを添加した場合は無添加の場合に比べて曲げ疲労寿命が約20倍以上向上した。CNFの繊維長が異なる2つのサンプルでは、繊維長が長いIMaを含むCFRPの方が、FMaを含むCFRPよりも疲労までの回数が大きく、疲労寿命向上率が大きい傾向がみられた。
【0046】
2.破壊後波面観察
曲げ疲労寿命試験後に、試験片の中央を含む長さ方向に20mmの範囲の破壊破面の顕微鏡観察を行った。CNFを加えるとCNFを加えない場合に比べて母材CFRPはより残存し、IMaを添加した場合、外部応力の負荷による亀裂の進展がFMa添加と比べて、より抑制されていた(図4(A)~(C)参照)。CFRPの疲労に関し、CNF、特により繊維長が長いCNFの添加はCFRPの層間特性を改善する作用があると考えられる。
【0047】
実施例3 CNF配合CFRPの製作
1.CNF含有樹脂組成物の作製
FMaとして、株式会社スギノマシンの「BiNFi‐s」(「FMa-10002」(平均繊維長355nm、平均径50nm))を使用し、IMaとして、株式会社スギノマシンの「BiNFi‐s」(「IMa-10002」(平均繊維長1056nm、平均径50nm))を使用した以外は、実施例1と同じ条件でCNF含有樹脂組成物を得た。
【0048】
2.CFRPの作製
上記で得られたCNF含有樹脂組成物を用いて、実施例1と同じ条件でCFRPを得た。CFRPの厚さは2mmとした。
【0049】
実施例4 CFRPの疲労試験
1.疲労試験
実施例3で得られたCFRPについて、引張疲労試験をJIS K707に基づいて行い評価した。応力振幅は一定、最大応力は静的強度に対して80%、応力比は0.1、周波数は5Hzとした。静的引張強度はCNFを含まないCFRPで760MPa、FMaを含むCFRPで740MPa、IMaを含むCFRPで680MPaとした。
【0050】
試験片を図2に示す。電気油圧式材料試験機(サーボパルサ、定格荷重 50kN 島津製作所製)を使用した。
【0051】
図5および図6は、引張疲労試験の結果である。図に示すように、実施例1のCNFと比べて平均繊維長が短いCNF(FMaおよびIMa)を含有するCFRPでも、CNFを含有しないCFRPと比較して、疲労寿命が大幅に増大した。CNFの繊維長が異なる2つのサンプルでは、FMaを含むCFRPの方が、疲労までの回数が大きく、疲労寿命向上率が大きい傾向がみられた。
【0052】
2.トラバースクラック発生数
引張疲労寿命試験中の試験片の中央20mmの範囲で、片側面中のトランスバースクラックの発生数をマイクロスコープで計測した(図7参照)。CNFを添加するとCNFを添加しない場合に比べて、トランスバースクラックの発生数が低下し、特にIMa添加ではCNFを添加しない場合に比べて約20~50%クラック数が低下した。電子顕微鏡観察でも、CNFを加えるとCNFを加えない場合に比べて母材CFRPはより残存し、IMaを添加した場合、CFRP中のCNFはネットワーク構造を有し、外部応力の負荷による亀裂の進展がFMa添加と比べて、より抑制されていた(図8(A)~(C)参照)。CFRPの疲労に関し、CNFの添加は、CFRPの層間特性を改善する作用があると考えられる。
【0053】
実施例5 CFRP積層体の製作
図1に示すように、実施例3で製造したFMa-10002を含有する樹脂組成物から形成したシートを底面の第1層2として配置し、次に第1層2の上にPAN(ポリアクリロニトリル)系の炭素繊維ウェブ層4を配置し、さらにその上にIMa-10002を含有する樹脂組成物から形成したシートを第2層3として配置し、さらに隣り合う第2層3の間に当該炭素繊維ウェブ層4を配置し、さらに上面の第1層2と第2層3との間に当該炭素繊維ウェブ層4を配置することにより、上下対称なCFRP積層体を製造した。
【0054】
実施例6 CFRP積層体の疲労試験
実施例5で得られたCFRPについて、実施例2と同じ条件で曲げ疲労試験をJIS K7074に基づいて行った。
【0055】
図9は曲げ疲労試験の結果である。図に示すように、FMaを添加したCFRPでは、CNFを添加しない樹脂を使用したCFRPと比較して、最大負荷応力を650MPaとした際に曲げ疲労寿命が約4倍向上した。また、IMaを添加したCFRPでは、CNFを添加しない樹脂を使用したCFRPと比較して、最大負荷応力を650MPaとした際に曲げ疲労寿命が約20倍以上向上した。さらに、外層にFMaを含有するCFRP及び内層にIMaを含有するCFRPを備えたCFRP積層体では、IMaを添加したCFRPと比較して、最大負荷応力を675MPa及び700MPaとした際に、曲げ疲労寿命が約4~5倍以上向上した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9