(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】食品生地の丸め装置
(51)【国際特許分類】
A21C 7/02 20060101AFI20220117BHJP
【FI】
A21C7/02
(21)【出願番号】P 2020005188
(22)【出願日】2020-01-16
【審査請求日】2021-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2019008186
(32)【優先日】2019-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516245139
【氏名又は名称】株式会社工揮
(74)【代理人】
【識別番号】100114498
【氏名又は名称】井出 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】川上 信行
【審査官】石黒 雄一
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3181727(JP,U)
【文献】特開2008-072973(JP,A)
【文献】実開昭60-106482(JP,U)
【文献】特開2018-186752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21C 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置フレームと、
一様な直径の外周面を有して円筒形に形成され、前記装置フレームに保持されて垂直な回転軸を中心に回転すると共に外周面が生地玉の搬送面となる搬送ドラムと、
前記搬送ドラムの外周面に対向配置され当該外周面と相俟って断面略V字状の生地玉の走行溝を形成する複数の案内部材と、を備え、
前記案内部材は、前記装置フレームに固定されると共に先端面が前記搬送ドラムの外周面と接するように配置されたボトムプレートと、前記ボトムプレートに配置されると共に前記搬送ドラムの外周面との間に前記走行溝を形成するガイドプレートと、を備え、
前記複数の案内部材は前記搬送ドラムの周方向に連なって配置されて、当該搬送ドラムの周囲には前記走行溝が多段に接続された生地玉の搬送通路が構成され、
各走行溝はその上流側端部が下流側端部よりも低い位置に存在するように傾斜し、且つ、各走行溝の下流側端部は後段に位置する走行溝の上流側端部よりも高い位置に存在し、
前記ボトムプレートは、当該ボトムプレートの上面と前記搬送ドラムの外周面の母線とが鋭角をなすように傾斜して設けられていることを特徴とする食品生地の丸め装置。
【請求項2】
前記装置フレームと前記ボトムプレートの間にはアジャスターが設けられ、当該アジャスターによって前記ボトムプレートの前記搬送ドラムの母線に対する傾斜角度を任意に調整可能であることを特徴とする請求項1記載の食品生地の丸め装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば混錬されたパン生地等の食品生地を所定サイズに分割した後に、分割された不整形の生地玉を丸める行程で使用する丸め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の丸め装置としては、例えば特許文献1に開示されるように円筒形の搬送ドラムを用いるものや、特許文献2に開示されるように逆円錐台形の搬送ドラムを用いるものが知られている。いずれの丸め装置も前記搬送ドラムは垂直な回転軸を有しており、当該搬送ドラムの外周面に沿って螺旋状に延びる生地玉の搬送通路が設けられている。前記搬送通路の入り口は前記搬送ドラムの下端近傍に、出口は前記搬送ドラムの上端近傍に設けられており、前記搬送通路に供給された生地玉は前記搬送ドラムの回転に伴って当該搬送通路内を下方から上方へ転がりながら進行する。前記生地玉は前記搬送通路内を転がる過程で丸められ、形状を整えられた状態で前記搬送通路の出口から排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-72973
【文献】特開2016-149952
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このタイプの丸め装置において、生地玉は前記搬送ドラムに連れ回されて前記搬送通路内を転走することから、当該搬送通内における生地玉の自転方向が特定の方向に限定されやすく、特にピザ生地などの固めの生地玉に関しては丸め整形が不十分になり易いといった懸念がある。前記搬送通路長を十分に長く設定することができれば、そのような生地玉に対しても十分な丸め整形を施すことが可能であるが、丸め装置の小型化のために前記搬送ドラムを小型化すると、当該搬送ドラムの周囲に螺旋状に設けられた前記搬送通路の全長が短くなり、結果として生地玉の転走する距離が短くなることから、生地玉の丸め整形が不十分になり易い。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、その目的は、生地の種類にかかわらず、生地玉の丸め整形を十分に行うことが可能であり、しかも搬送ドラムの小型化、ひいては装置全体の小型化を図っても良好な丸め整形を行うことが可能な食品生地の丸め装置を提供することにある。
【0006】
すなわち、本発明は、垂直な回転軸を中心に回転すると共に外周面が生地玉の搬送面となる搬送ドラムと、前記搬送ドラムの外周面に対向配置され当該外周面と相俟って断面略V字状の生地玉の走行溝を形成する複数の案内部材と、を備えた食品生地の丸め装置であり、前記複数の案内部材は前記搬送ドラムの周方向に連なって配置されて、当該搬送ドラムの周囲には前記走行溝が多段に接続された生地玉の搬送通路が構成されている。そして、各走行溝の下流側端部は後段に位置する走行溝の上流側端部よりも高い位置に存在している。
【発明の効果】
【0007】
このような本発明によれば、多段に接続された生地玉の走行溝のうち、当該生地玉の転走方向に沿って前後する走行溝の間には段差が存在しており、生地玉は前後する走行溝を乗り移る際に当該段差を落下することになる。この落下の際、生地玉は走行溝から解放されて姿勢を変化させるので、走行溝を乗り移るたびに生地玉の自転方向は変化する。このため、生地玉の丸め整形が促進され、生地の種類にかかわらず、生地玉の丸め整形を十分に行うことが可能となる。また、生地玉の丸め整形が促進されるので、生地玉の搬送通路長を短縮化しても良好な丸め整形を行うことが可能であり、搬送ドラムの小型化、ひいては装置全体の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明を適用した食品生地の丸め装置の実施形態の一例を示す正面図である。
【
図2】本発明を適用した食品生地の丸め装置の実施形態の一例を示す右側面図である。
【
図3】本発明を適用した食品生地の丸め装置の実施形態の一例を示す背面図である。
【
図4】本発明を適用した食品生地の丸め装置の実施形態の一例を示す左側面図である。
【
図6】生地玉の走行溝の他の例を示す拡大断面図である。
【
図7】搬送ドラムの周囲における生地玉の搬送通路の一部を簡略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明を適用した食品生地の丸め装置の実施形態を説明する。
【0010】
図1乃至
図4は本発明をパン生地の丸め装置に適用した実施形態の一例を示すものであり、
図1は正面図、
図2は右側面図、
図3は背面図、
図4は左側面図である。この丸め装置は、生地分割機(図示せず)と組み合わせて使用されるものであり、所定大きさに分割されて当該分割機からベルトコンベアで次々に排出される生地玉を受け入れ、これら生地玉に対して丸め工程を施した後に排出するように構成されている。
【0011】
前記丸め装置は、略矩形状に形成された装置フレーム1と、この装置フレーム1の中央に搭載されて所定の回転数が与えられる搬送ドラム2と、この搬送ドラム2の周囲に配置されて当該搬送ドラム2の外周面と相俟って生地玉の走行溝を形成する複数の案内部材4とを備えている。また、前記複数の案内部材4は前記搬送ドラム2の周方向に連なって一列に配置されており、当該搬送ドラム2の周囲には各案内部材4が形成する前記走行溝を多段に接続した生地玉の搬送通路3が設けられている。
【0012】
この実施形態の丸め装置において、前記搬送通路3に対する生地玉の受け入れ口3aは当該装置の正面で且つ前記搬送ドラム2の下端近傍に設けられている。一方、丸め整形が完了した生地玉の排出口3bは当該装置の左側面で且つ前記搬送ドラム2の上端近傍に設けられている。従って、前記搬送通路3は前記搬送ドラム2の周囲を1+3/4周だけ巡っており、生地玉は前記搬送ドラム2の回転に伴って自転しながら前記搬送通路3を転走し、前記受け入れ口3aから前記排出口3bまで達する。また、前記排出口3bには丸め整形が完了した生地玉を次の処理工程へ落とし込む排出シュート30が設けられている。
【0013】
前記装置フレーム1は四本のポスト10を複数の梁11で結合して略矩形状に構成したものであり、中心には前記搬送ドラム2が収められている。また、各ポスト10は前記案内部材の支持部となっており、各ポスト10に対する前記案内部材4の固定位置を変更することで、前記搬送ドラム2の周囲における生地玉の搬送通路3の高低を任意に調整することが可能となっている。
【0014】
前記搬送ドラム2は円筒形に形成されており、一様な直径の外周面を有している。この搬送ドラム2は鉛直方向に合致した回転軸が中心に設けられており、この回転軸の上端及び下端はベアリングを介して前記装置フレーム1に保持されている。また、前記回転軸の下端は減速機を介して電動モータに連結されており、前記搬送ドラム2には前記電動モータの回転数に応じた回転が与えられる。前記電動モータ及び減速機は前記装置フレーム1の下部に設けられた機器室12に設置されている。この実施形態における前記搬送ドラム2の回転方向は、当該搬送ドラム2を上方から観察した場合に左回りとなるように設定されている。尚、
図1乃至
図4では、前記搬送ドラム2の外周面の母線が前記ポスト10に後ろに隠れており、当該母線は図中に描かれていない。
【0015】
一方、各案内部材4は、前記装置フレーム1に固定されたボトムプレート5と、前記ボトムプレート5に配置された複数のガイドプレート6とを備えている。各ボトムプレート5は互いに隣接する2本のポスト10の間に傾斜した状態で固定されており、装置フレーム1に対するこれらボトムプレート5の固定高さは前記搬送ドラム2の回転方向に沿って徐々に高くなっている。尚、本実施形態では2本のポスト10の間における前記ボトムプレート5の傾斜角度は総ての案内部材4で同一としているが、一部の案内部材4ではボトムプレート5の傾斜角度を他の案内部材4と異ならせても差し支えない。
【0016】
図5は、前記案内部材4と前記搬送ドラム2との関係を示す断面図である。前記ボトトムプレート5は前記搬送ドラム2の外周面20の母線に対して直交しており、当該ボトムプレート5の先端面50は円筒形に形成された前記搬送ドラム2の外周面20と接するように配置されている。前記ボトムプレートの先端面50は
図5の紙面前後方向に沿って円弧状に形成されているが、前記ボトムプレート5は前記搬送ドラム2の回転軸に対して傾斜した状態で前記装置フレーム1に固定されていることから、前記ボトムプレート5の先端面50は単一曲率で円弧状に形成されているのではなく、曲率が徐々に変化する複合的な円弧状に形成されている。前記ボトムプレート5の先端面50は前記搬送ドラム2の側面20と隙間なく接するのが好ましいが、前述の如く当該先端面50の形状は複雑であることから、当該先端面50と搬送ドラム2の側面20との間には僅かな隙間が存在している。
【0017】
一方、前記ガイドプレート6は一枚のボトムプレート5に対して1枚又は2枚が設けられている。各ガイドプレート6は、前記ボトムプレート5に接しているベース部60と、このベース部60と鋭角をなして起立する生地走行部61とから構成されている。前記生地走行部61は前記搬送ドラム2の側面20に対しても鋭角をなして傾斜しており、前記生地走行部61と前記搬送ドラム2の側面20との間には上方が開放された断面略V字状の空間が形成され、この空間が生地玉7の転走する走行溝31となっている。また、前記生地走行部61は前記搬送ドラム2の周方向に沿った曲面状をなしており、かかる生地走行部61と前記搬送ドラム2の外周面との間隔、すなわち前記走行溝31の溝幅が略一定となっている。
【0018】
従って、前記走行溝31内に生地玉7が存在する状態で前記搬送ドラム2が回転すると、前記生地玉7に対して搬送ドラム2と逆方向の回転が発生し、かかる生地玉7はガイドプレート6の生地走行部61の表面62を転がりながら、前記走行溝31内を前記搬送ドラム2の回転方向と同一方向へ進行する。すなわち、生地玉は走行溝31内で自転しながら前記搬送ドラムの周囲を公転することになる。このときの生地玉の自転軸は
図5中に二点鎖線で示すように、前記案内部材4のボトムプレート5に対して起立し、前記搬送ドラム2の外周面20と前記生地走行部61の表面62とを二分したものとなる。
【0019】
また、前記ガイドプレート6のベース部60は前記ボトムプレート5に対してスライド自在に設けられており、かかるベース部60をボトムプレート5に対してスライドさせることで、
図5に破線で示すように、前記生地走行部61と前記搬送ドラム2の外周面20との距離、すなわち前記走行溝31の溝幅を任意に変更することができる。前記ガイドプレート6には例えばエアシリンダ、電動シリンダ等のアクチュエータを接続すれば、スイッチ操作に応じて前記走行溝31の溝幅を自動的に調整することが可能である。
【0020】
更に、
図6に示すように、前記ボトトムプレート5は前記搬送ドラム2の外周面20の母線に対して傾斜して設けることも可能である。このように前記ボトムプレート5の上面と前記搬送ドラム2の外周面20の母線がなす角度を鋭角に設定した場合、前記ガイドプレート6の生地走行部61が前記搬送ドラム2の外周面に対してより平行に近い状態となり、前記走行溝31内を転がる生地玉7に対して一層強い丸め作用を及ぼすことが可能となる。このため、ピザ生地などの固めの生地玉7の丸め整形に有効である。前記装置フレーム1に対して前記ボトムプレート5を固定するにあたり、前記装置フレーム1のポスト10と前記ボトムプレート5の間に角度調節のためのアジャスター(図示せず)を設けておけば、丸め整形を行う生地玉7の固さに応じて、前記搬送ドラム2の外周面20の母線に対する前記ボトトムプレート5の傾斜角度を任意に調節することができ、各種生地玉に対する適応性を高めることができる。
【0021】
図7は前記搬送ドラム2の周囲に構築される生地玉の搬送通路の一部を簡略的に示した図である。前述の如く各案内部材4は前記搬送ドラム2の外周面と相俟って生地玉7の走行溝31を形成しており、複数の案内部材4が当該搬送ドラム2の周方向に連なって配置されることで、前記走行溝31が多段に接続された生地玉の搬送通路3が構成されている。
図7中には前記搬送ドラムは描かれていないが、矢線A方向が前記搬送ドラムの回転方向である。前記搬送ドラムが矢線A方向へ回転することで、前記生地玉が走行溝31の内部で自転しながら前記搬送通路3内を矢線A方向へ進行する。
【0022】
図7に示すように、前記案内部材4Bの走行溝31の上流側端部は、前段に位置する案内部材4Aの走行溝31の下流側端部よりも低い位置に存在しており、また、案内部材4Bの走行溝31の下流側端部は、後段に位置する案内部材4Cの走行溝31の上流側端部よりも高い位置に存在している。すなわち、前記生地玉の搬送通路3には各走行溝31の接続部に段差が存在しており、生地玉は前段の走行溝31から後段の走行溝31に乗り移る度に、図中に一点鎖線で示すように段差を落下することになる。かかる段差は、前記装置フレーム1に対する前記案内部材4のボトムプレート5の取付け位置を調整することで作り出されている。
【0023】
図1乃至
図4に示した実施形態では7枚の案内部材4によって前記搬送ドラム2の周囲を1+3/4周する搬送通路3が設けられているが、各案内部材4の接続部に対して前記段差が設けられている。また、
図7に示されるように、後段に位置する案内部材4Cの走行溝31の上流側端部は、前段に位置する案内部材4Bの走行溝31の上流側端部よりも高い位置に存在しており、結果として、前記搬送通路3を走行する生地玉7は前記搬送ドラム2の周囲を受け入れ口3aから排出口3bへ向けて略螺旋状に上昇していくことになる。
【0024】
以上説明してきたように本実施形態の丸め装置では、生地玉の搬送通路3が複数の走行溝31を多段に接続して構成されており、これら走行溝31の接続部には前段側が後段側よりも高い逆段差が設けられている。このため、搬送通路3を走行する生地玉は前段側の走行溝31から後段側の走行溝31に乗り移る度に当該逆段差を落下し、この落下の際に生地玉は走行溝31から解放されて姿勢を変化させることになる。
【0025】
前記走行溝31内における生地玉は前記搬送ドラム2の外周面20と前記案内部材4のガイドプレート6に挟まった状態にあるので、
図5に示したように、当該搬送ドラム2の回転に伴う生地玉の自転軸は前記案内部材4のボトムプレート5に対して起立したものになる。しかし、生地玉は前記走行溝31の接続部では前記搬送ドラム2と前記ガイドプレート6による拘束から解放され、前転するようにボトムプレート5の上を転がって前段側の走行溝31から後段側の走行溝31に乗り移る。そして、乗り移った後段側の走行溝31で再び前記搬送ドラム2と前記ガイドプレート6によって拘束され、当該搬送ドラム2の回転に伴う自転軸が与えられる。すなわち、生地玉は走行溝31を乗り移るたびに自転方向を変化させることになり、生地玉が複数段の走行溝を通過することにより当該生地玉の丸め整形が促進される。
【0026】
従って、本発明を適用した丸め装置では生地の種類によって丸め整形が不十分になるといったトラブルを回避することができ、各種生地に対しての適応力の高い丸め装置を提供することが可能となる。また、生地玉の搬送通路3内に存在する段差が生地玉の丸め整形を促進するので、前記搬送ドラム2の周囲における生地玉の搬送通路3の全長を短縮化しても良好な丸め整形を行うことができ、搬送ドラム2の小型化を図って丸め装置全体の小型化を図ることが可能となる。
【0027】
尚、前述の実施形態では食品生地として混錬されたパン生地を例に挙げて説明したが、本発明の丸め装置の適用対象はこれ以外の他の食品生地であっても差し支えない。
【符号の説明】
【0028】
1…装置フレーム、2…搬送ドラム、3…搬送通路、4…案内部材、5…ボトムプレート、6…ガイドプレート、7…生地玉、20…搬送ドラム外周面、31…走行溝