(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】認知能力解析装置、認知能力解析方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20220117BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
A61B10/00 H
A61B5/11
(21)【出願番号】P 2020204127
(22)【出願日】2020-12-09
【審査請求日】2020-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】591112522
【氏名又は名称】株式会社ACCESS
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(72)【発明者】
【氏名】柳井 健一
(72)【発明者】
【氏名】坂本 将太
(72)【発明者】
【氏名】米田 貢
(72)【発明者】
【氏名】菊池 ゆひ
(72)【発明者】
【氏名】米田 隆
【審査官】高松 大
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-103617(JP,A)
【文献】特表2021-531606(JP,A)
【文献】特開2017-6745(JP,A)
【文献】国際公開第2017/142082(WO,A1)
【文献】特表2018-513707(JP,A)
【文献】特開2011-212231(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0005545(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
A61B 5/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速度及び角速度のうち少なくとも一方を含む端末状態を検出する状態検出部を備える携帯端末を用いてユーザの認知能力を解析する認知能力解析装置であって、
前記携帯端末を保持したユーザの手に荷重をかけ、その後に荷重を取り除く認知能力解析用動作が複数回繰り返し行われたときの少なくとも2回目以降の一部の前記認知能力解析用動作が行われたときの前記端末状態を前記状態検出部から取得する状態取得部と、
前記状態取得部が取得した前記2回目以降の前記認知能力解析用動作が行われたときの前記端末状態のうち、荷重をかける直前の前記端末状態と、荷重をかけた後の前記端末状態と、荷重を取り除く直前の前記端末状態と、荷重を取り除いた後の前記端末状態との少なくとも1つに基づいて、ユーザの認知能力を解析する解析部と
を備えることを特徴とする認知能力解析装置。
【請求項2】
前記解析部は、前記荷重をかける直前の前記端末状態及び前記荷重を取り除く直前の前記端末状態のうち少なくとも一方における前記端末状態の変化量及び変化期間のうち少なくとも一方に基づき、ユーザの認知能力を解析する
ことを特徴とする請求項1記載の認知能力解析装置。
【請求項3】
前記解析部は、荷重をかけた直後の前記端末状態及び荷重を取り除いた直後の前記端末状態のうち少なくとも一方における前記端末状態の変化量及び変化期間のうち少なくとも一方に基づいて、ユーザの認知能力を解析する
ことを特徴とする請求項1記載の認知能力解析装置。
【請求項4】
前記解析部は、前記荷重をかけた後の前記端末状態及び前記荷重を取り除いた後の前記端末状態のうち少なくとも一方が安定するまでの変化量及び変化期間のうち少なくとも一方に基づいて、ユーザの認知能力を解析する
ことを特徴とする請求項1記載の認知能力解析装置。
【請求項5】
前記状態取得部は、前記認知能力解析用動作が複数回繰り返し行われたときの2回目以降の複数回の前記認知能力解析用動作が行われたときの前記端末状態を前記状態検出部から取得し、
前記解析部は、前記2回目以降の複数回の前記認知能力解析用動作が行われたときの前記端末状態の前記変化量及び前記変化期間のうち少なくとも一方の平均及び標準偏差のうち少なくとも一方に基づいて、ユーザの認知能力を解析する
ことを特徴とする請求項2から4のいずれか1項記載の認知能力解析装置。
【請求項6】
加速度及び角速度のうち少なくとも一方を含む端末状態を検出する状態検出部を備える携帯端末を用いてユーザの認知能力を解析する認知能力解析方法であって、
前記携帯端末を保持したユーザの手に荷重をかけ、その後に荷重を取り除く認知能力解析用動作が複数回繰り返し行われたときの少なくとも2回目以降の一部の前記認知能力解析用動作が行われたときの前記端末状態を前記状態検出部からコンピュータによって取得し、
取得した前記2回目以降の前記認知能力解析用動作が行われたときの前記端末状態のうち、荷重をかける直前の前記端末状態と、荷重をかけた後の前記端末状態と、荷重を取り除く直前の前記端末状態と、荷重を取り除いた後の前記端末状態との少なくとも1つに基づいて、前記コンピュータによってユーザの認知能力を解析する
ことを特徴とする認知能力解析方法。
【請求項7】
加速度及び角速度のうち少なくとも一方を含む端末状態を検出する状態検出部を備える携帯端末を用いてユーザの認知能力を解析するためのプログラムであって、
前記携帯端末を保持したユーザの手に荷重をかけ、その後に荷重を取り除く認知能力解析用動作が複数回繰り返し行われたときの少なくとも2回目以降の一部の前記認知能力解析用動作が行われたときの前記端末状態を前記状態検出部から取得する機能と、
取得した前記2回目以降の前記認知能力解析用動作が行われたときの前記端末状態のうち、荷重をかける直前の前記端末状態と、荷重をかけた後の前記端末状態と、荷重を取り除く直前の前記端末状態と、荷重を取り除いた後の前記端末状態との少なくとも1つに基づいて、ユーザの認知能力を解析する機能と
をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯端末を用いてユーザの認知能力を解析する、認知能力解析装置、認知能力解析方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被験者に実施させる身体運動指示データと、被験者が実施した身体運動の身体運動データとに基づいて身体運動の位置正確度及び時系列正確度を算出し、これらの位置正確度及び時系列正確度から求められる正確度と、予め取得された健常者の正確度を表す統計データとを比較することにより、被験者の認知障害度を評価する脳機能障害評価方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、脳が人間の体を制御する場合、遅く簡単な運動であれば体の感覚や視覚のフィードバックによって制御するが、フィードバックにかかる遅延を排除しなければならないような速い運動制御には、予測を利用したフィードフォワード制御が用いられる。このフィードフォワード制御は、高次の認知機能の獲得に関与する小脳によって行われる。
【0005】
フィードフォワード制御は、小脳に格納された内部モデルによって予測に基づく運動指令を出し、またそのフィードバックを受けて誤差を小さくしていく学習へも関与しており、運動だけではなく思考や認知機能にも関与するものであると明らかになってきている。フィードフォワード制御が上手く機能することで、予測とのずれ(誤差信号)を利用して指令を修正することで学習が生じ、うまく適応できるようになる。この時、外部世界の仕組みを脳内で模倣・シミュレーションを可能とする内部モデルが獲得されると考えられている。このフィードフォワード制御が上手く機能することで、人は周囲の環境の変化、自分の動きや感覚から予測して、現在の行動に利用することで様々な課題や生活に適応していることが分かってきた。
【0006】
先行研究では、小脳への機能障害が出て認知機能が低下したグループで、フィードフォワード制御機能が低下するという結果が出ている。また、認知症患者は、BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)と呼ばれる精神症状などの行動・心理症状を伴って生活で様々な問題が生じることで、認知症が発見されることが多く、約75%の人が認知症に進行してから初めて認知症と診断される。一方、軽度認知症(MCI:Mild Cognitive Impairment)の段階で診断を受けられれば、症状が回復したり或いは認知症の進行を遅らせたりすることが可能となる。
【0007】
本発明の目的は、ユーザの認知機能の低下を早期かつ簡単に発見することができる認知能力解析装置、認知能力解析方法、及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの態様では、認知能力解析装置は、加速度及び角速度のうち少なくとも一方を含む端末状態を検出する状態検出部を備える携帯端末を用いてユーザの認知能力を解析する認知能力解析装置であって、前記携帯端末を保持したユーザの手に荷重をかけ、その後に荷重を取り除く認知能力解析用動作が複数回繰り返し行われたときの少なくとも2回目以降の一部の前記認知能力解析用動作が行われたときの前記端末状態を前記状態検出部から取得する状態取得部と、前記状態取得部が取得した前記2回目以降の前記認知能力解析用動作が行われたときの前記端末状態のうち、荷重をかける直前の前記端末状態と、荷重をかけた後の前記端末状態と、荷重を取り除く直前の前記端末状態と、荷重を取り除いた後の前記端末状態との少なくとも1つに基づいて、ユーザの認知能力を解析する解析部とを備える。
【0009】
他の1つの態様では、認知能力解析方法は、加速度及び角速度のうち少なくとも一方を含む端末状態を検出する状態検出部を備える携帯端末を用いてユーザの認知能力を解析する認知能力解析方法であって、前記携帯端末を保持したユーザの手に荷重をかけ、その後に荷重を取り除く認知能力解析用動作が複数回繰り返し行われたときの少なくとも2回目以降の一部の前記認知能力解析用動作が行われたときの前記端末状態を前記状態検出部からコンピュータによって取得し、取得した前記2回目以降の前記認知能力解析用動作が行われたときの前記端末状態のうち、荷重をかける直前の前記端末状態と、荷重をかけた後の前記端末状態と、荷重を取り除く直前の前記端末状態と、荷重を取り除いた後の前記端末状態との少なくとも1つに基づいて、前記コンピュータによってユーザの認知能力を解析する。
【0010】
他の1つの態様では、プログラムは、加速度及び角速度のうち少なくとも一方を含む端末状態を検出する状態検出部を備える携帯端末を用いてユーザの認知能力を解析するためのプログラムであって、前記携帯端末を保持したユーザの手に荷重をかけ、その後に荷重を取り除く認知能力解析用動作が複数回繰り返し行われたときの少なくとも2回目以降の一部の前記認知能力解析用動作が行われたときの前記端末状態を前記状態検出部から取得する機能と、取得した前記2回目以降の前記認知能力解析用動作が行われたときの前記端末状態のうち、荷重をかける直前の前記端末状態と、荷重をかけた後の前記端末状態と、荷重を取り除く直前の前記端末状態と、荷重を取り除いた後の前記端末状態との少なくとも1つに基づいて、ユーザの認知能力を解析する機能とをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0011】
前記態様によれば、ユーザの認知機能の低下を早期かつ簡単に発見することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る認知能力解析装置、及び携帯端末を示す機能ブロック図である。
【
図2】本発明の一実施の形態に係る認知能力解析装置のハードウェア構成例を示す図である。
【
図3】本発明の一実施の形態における認知能力解析用動作を説明するための図であり、(a)重りを載せる前の状態、(b)重りを載せた状態、及び(c)重りを取り除いた状態を示す説明図である。
【
図4】本発明の一実施の形態に係る認知能力解析方法を説明するためのフローチャートである。
【
図5】本発明の一実施の形態における荷重をかける前後のZ軸加速度の変化を示すグラフである。
【
図6】本発明の一実施の形態における荷重をかける前後のY軸角速度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態に係る、認知能力解析装置、認知能力解析方法、及びプログラムについて、図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、一実施の形態に係る認知能力解析装置1、及び携帯端末100を示す機能ブロック図である。
【0015】
図1に示す携帯端末100は、状態検出部110及び表示部120を備える。携帯端末100は、例えば、スマートフォン端末、タブレット端末、ノートパソコン、スマートウォッチ、腕時計型活動量計などであるが、状態検出部110を有し、携帯可能な端末であればよい。
【0016】
状態検出部110は、携帯端末100の加速度を検出する加速度センサ、角速度を検出するジャイロセンサなどの1つ以上のセンサを有し、加速度及び角速度を検出する。なお、状態検出部110は、加速度及び角速度のうち少なくとも一方を含む端末状態を検出するものであればよい。
【0017】
表示部120は、ユーザへの報知を行う報知部の一例であり、各種情報を表示するディスプレイである。なお、報知部としては、例えば、後述する認知能力解析用動作の実行指示をユーザへ報知するもの、或いは、認知能力の解析結果をユーザへ報知するものであればよいため、例えば、スピーカなどの音声出力部であってもよい。
【0018】
認知能力解析装置1は、状態取得部10と、解析部20とを備え、例えばネットワークを介して接続される携帯端末100を用いてユーザの認知能力を解析する。なお、携帯端末100自体が状態取得部10及び解析部20を有することで、認知能力解析装置として機能してもよい。
【0019】
状態取得部10は、
図3に示すように携帯端末100を保持したユーザの手400に重り300によって荷重をかけ、その後に荷重を取り除く認知能力解析用動作が複数回繰り返し行われたときの端末状態を状態検出部110から取得する。なお、状態取得部10は、複数回の認知能力解析用動作が行われたときの少なくとも2回目以降の一部(例えば、全10回のうちの後半5回などの後半部分)の認知能力解析用動作が行われたときの端末状態を取得するとよい。また、状態取得部10は、スマートウォッチなどの携帯端末100の状態検出部110によって検出された端末状態がBluetoothなどの通信手段によってスマートフォンなどの他の携帯端末に送られる場合には、この他の携帯端末を介して端末状態を取得してもよい。その場合には、上述の表示部120が行う、認知能力解析用動作の実行指示のユーザへの報知や認知能力の解析結果のユーザへの報知は、上記他の携帯端末によって行われればよい。
【0020】
詳しくは後述するが、解析部20は、状態取得部10が取得した、2回目以降の認知能力解析用動作が行われたときの端末状態のうち、荷重をかける直前の端末状態と、荷重をかけた後の端末状態と、荷重を取り除く直前の端末状態と、荷重を取り除いた後の端末状態との少なくとも1つに基づいて、ユーザの認知能力を解析する。この解析結果は、携帯端末100に送られ、表示部120によって表示されるとよい。
【0021】
図2は、認知能力解析装置1のハードウェア構成例を示す図である。
【0022】
図2に示すコンピュータ200は、プロセッサ201と、メモリ202と、補助記憶装置203と、入力装置204と、出力装置205と、可搬記録媒体208を駆動する可搬記録媒体駆動装置206と、バス207と、通信装置209とを備える。補助記憶装置203及び可搬記録媒体208は、それぞれプログラムを記録した非一過性のコンピュータ読取可能記録媒体の一例である。なお、コンピュータ200は、認知能力解析装置1として機能することができるが、携帯端末100として機能してもよい。
【0023】
プロセッサ201は、例えば、CPU(Central Processing Unit)を含む1つ以上の任意の処理回路である。プロセッサ201は、補助記憶装置203又は可搬記録媒体208に格納されているプログラムをメモリ202に展開して実行することで、
図1に示す認知能力解析装置1の機能的構成要素(例えば状態取得部10及び解析部20)の一部又は全部として機能してもよい。
【0024】
メモリ202は、例えば、RAM(Random Access Memory)などの任意の半導体メモリである。メモリ202は、プログラムの実行の際に、補助記憶装置203又は可搬記録媒体208に格納されているプログラムまたはデータを記憶するワークメモリとして機能する。補助記憶装置203は、例えば、ハードディスク、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリである。補助記憶装置203は、主に各種データ及びプログラムの格納に用いられる。
【0025】
可搬記録媒体駆動装置206は、可搬記録媒体208を収容する。可搬記録媒体駆動装置206は、メモリ202又は補助記憶装置203に記憶されているデータを可搬記録媒体208に出力することができ、また、可搬記録媒体208からプログラム及びデータ等を読み出すことができる。可搬記録媒体208は、持ち運びが可能な任意の記録媒体である。可搬記録媒体208には、例えば、SDカード、USB(Universal Serial Bus)フラッシュメモリ、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)などが含まれる。
【0026】
入力装置204は、キーボード、マウスなどである。
【0027】
出力装置205は、表示装置、プリンタなどである。なお、認知能力解析装置1ではなく携帯端末100として機能するコンピュータ200の場合には、出力装置205の表示装置が上述の表示部120として機能する。
【0028】
通信装置209は、携帯端末100と通信する無線又は有線の通信モジュールである。なお、通信装置209は、
図1に示す認知能力解析装置1の状態取得部10の一部又は全部として機能してもよい。
【0029】
バス207は、プロセッサ201、メモリ202、補助記憶装置203等を、相互にデータの授受可能に接続する。
【0030】
なお、
図2に示すコンピュータ200の構成は、
図1に示す認知能力解析装置1のハードウェア構成の一例である。認知能力解析装置1は、この構成に限定されるものではない。認知能力解析装置1は、汎用装置であっても専用装置であってもよい。認知能力解析装置1は、例えば、専用設計の電気回路、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などを備えてもよい。また、認知能力解析装置1は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)を用いて構成されてもよい。
【0031】
図3は、本実施の形態における認知能力解析用動作を説明するための図であり、(a)重り300を載せる前の状態、(b)重り300を載せた状態、及び(c)重り300を取り除いた状態を示す説明図である。
【0032】
認知能力解析用動作は、携帯端末100を保持したユーザの手400に荷重をかけ、その後に荷重を取り除く動作であり、
図3(a)~(c)の例では、
図3(a)及び(b)に示すように、ユーザの手400によって保持された携帯端末100の上に液体を収容する例えば500グラム程度のペットボトル等の重り300を載せ、その後、
図3(c)に示すように、重り300を取り除く動作である。なお、手400に荷重をかけるためには、重り300を用いる場合に限らず、携帯端末100を保持する手400とは左右逆の手を用いてもよい。このように、重り300を手400に載せたり取り除いたりするのは、携帯端末100を保持するユーザ自身によって行われればよい。また、荷重は、手400に保持された携帯端末100に載せることによりかけるのではなく、手400のうち携帯端末100を保持していない部分に載せることによりかけたり、或いは、手400の指に引っ掛けることでかけたりしてもよい。また、荷重は、重り300等を手400に載せることにより鉛直下方にかけるのではなく、手400を例えば左右逆の手で押すことなどにより鉛直下方以外の方向にかけてもよい。また、ユーザがスマートウォッチ、腕時計型活動量計等の携帯端末100を腕に装着している場合には、認知能力解析用動作は、その腕と同じ手400(例えば手のひら)に荷重をかけ、その荷重が取り除かれる動作であるとよい。なお、携帯端末100が手400(例えば腕)に装着されている場合にも、携帯端末100は手400に保持されているといえる。
【0033】
認知能力解析用動作は、例えば、上述の
図1に示す携帯端末100の表示部120によりユーザへ実行指示が報知されることで、ユーザによって10回などの複数回繰り返し行われる。
【0034】
図4は、本実施の形態に係る認知能力解析方法を説明するためのフローチャートである。
【0035】
図5は、本実施の形態における荷重をかける前後のZ軸加速度の変化を示すグラフである。
【0036】
図4に示す各処理は、例えば、携帯端末100の認知能力解析用のアプリケーションが起動され、認知能力解析用動作が行われたときの端末状態が携帯端末100から認知能力解析装置1に送信されるとき以降に、認知能力解析装置1によって行われる。ユーザは、上記アプリケーションの起動後に、表示部120により認知能力解析用動作の実行指示が報知され、認知能力解析用動作を指示回数どおりに例えば10回実行する。この認知能力解析用動作は、手400の高さが変わらないように行われることが望ましいため、手400の高さが変わらないように認知能力解析用動作を行うべきことを表示部120によってユーザへ報知するとよい。
【0037】
まず、
図1に示す認知能力解析装置1の状態取得部10は、認知能力解析用動作が複数回繰り返し行われたときの端末状態(加速度及び角速度)を状態検出部100から取得する(ステップS1)。状態取得部10が取得する端末状態は、認知能力解析用動作が複数回繰り返し行われたときの少なくとも2回目以降の一部(例えば、全10回のうちの後半5回)の認知能力解析用動作が行われたときの端末状態を含めばよい。
【0038】
次に、解析部20は、取得した2回目以降(例えば、全10回のうちの後半5回)の認知能力解析用動作が行われたときの端末状態から特徴量を算出する(ステップS2)。なお、解析部20は、すべての回の認知能力解析用動作が行われたときの端末状態を状態取得部10が取得した場合には、2回目以降の一部のみ(例えば、全10回のうちの後半5回)の認知能力解析用動作が行われたときの端末状態から特徴量を算出するとよい。この特徴量は、例えば、
図5に示すZ軸加速度の例では、携帯端末100上に重り300が載せられたタイミング(第2の期間P12と第3の期間P13との間のタイミング)の直前のユーザの先行反応を表す第2の期間P12におけるZ軸加速度の変化量及び変化期間のうちの少なくとも一方である。ここで、先行反応は、複数回の認知能力解析用動作が繰り返される中で、前回以前の認知能力解析用動作を踏まえて、荷重をかけた後に手400が下がることを予測し、荷重をかける直前に手400を上げる反応である。なお、Z軸加速度の変化量は、例えば、定常状態である第1の期間P11におけるZ軸加速度(例えば、重力加速度)からの変化量とすることができる。また、第2の期間P12の始期及び終期は、定常状態である第1の期間P11からのZ軸加速度の変化量が一定値を超えることや、重り300が載せられた直後の第3の期間P13にZ軸加速度が変化するのとは正逆反対方向にZ軸加速度が変化することなどに基づき、判別可能である。
【0039】
また、上記の特徴量は、荷重をかけた直後の第3の期間P13におけるZ軸加速度の変化量及び変化期間のうち少なくとも一方であってもよいし、或いは、荷重をかけた後、例えば、Z軸加速度が第3の期間P13とは正逆反対方向に変化してからZ軸加速度が安定する第5の期間P15までの第4の期間P14の変化量及び変化期間のうち少なくとも一方であってもよい。なお、Z軸加速度が安定する第5の期間P15の始期(第4の期間P14の終期)については、Z軸加速度の変化量が所定の閾値以下となることなどに基づき、判別可能である。
【0040】
次に、解析部20は、上述の各特徴量について統計量を算出する(ステップS3)。この統計量は、例えば、各特徴量の2回目以降(例えば6~10回目などの後半複数回)の認知能力解析用動作における平均及び標準偏差のうちの少なくとも一方である。
【0041】
次に、解析部20は、認知能力解析装置1又はこの認知能力解析装置1にネットワークを介して接続される端末(サーバ)で動作する機械学習モデルに上記の統計量を入力し、MCI度合いを算出する(ステップS4)。機械学習モデルとしては、SVM(Support Vector Machine)、XGBoost(eXtreme Gradient Boosting)、DeepLerning(多層パーセプトロン、LSTM(Long short-term memory)など)などが例として挙げられる。なお、認知症又はMCI患者のように認知機能が低下すると、ユーザの先行反応を表す第2の期間P12,P22を除いて上記の変化量(平均及び標準偏差)が大きく且つ変化期間(平均及び標準偏差)が長くなるため、変化量が大きいほど或いは変化期間が長いほど、MCI度合い(MCI疑い)が高い結果となる。また、認知機能が低下すると、ユーザの先行反応を表す第2の期間P12,P22では、上記の変化量(平均及び標準偏差)が小さく且つ変化期間(平均及び標準偏差)が長くなったり、そもそも端末状態の変化が生じなかったりする。そのため、第2の期間P12,P22では、変化量が小さいほど或いは変化期間が長いほどMCI度合いが高い結果となり、端末状態の変化が生じない場合にもMCI度合いが高い結果となる。上述の変化量及び変化期間の平均及び標準偏差は、認知症・MCI患者や健常者のデータや過去のユーザ自身のデータとの比較を行ってもよい。
【0042】
MCI度合いは、例えば、60未満で「健常者」、60以上80未満で「MCIの可能性あり」、80以上で「認知症の可能性あり」など、スコアで表すとよい。
【0043】
次に、解析部20は、上記のスコアなどの解析結果を携帯端末100に送信する(ステップS5)。そして、携帯端末100は、表示部120に解析結果を表示することでユーザへの報知を行う。
【0044】
なお、上述の説明では、解析部20は、特徴量(変化量及び変化期間)及び統計量(平均及び標準偏差)を算出し、機械学習モデルに入力してから認知能力を解析しているが、この解析手法は一例にすぎず、例えば、上述の特徴量や統計量が所定の値を超えるか否かなどの他の手法によって、認知能力を解析してもよい。また、上述の説明では、2回目以降の複数回の認知能力解析用動作が行われたときの端末状態の特徴量(変化量及び変化期間)の統計量(平均及び標準偏差)を用いて認知能力を解析しているが、2回目以降の単一の認知能力解析用動作が行われたときの端末状態の特徴量を用いて認知能力を解析することも可能である。また、上述の説明では、解析部20が、端末状態の変化量及び変化期間を用いて認知能力を解析する例について説明したが、例えば、上述の第2~第4の期間P12~P14のうち少なくとも1つの期間における端末状態と、健常者又は認知症・MCI患者の比較用データの対応する期間の端末状態との一致度合い(端末状態の数値のズレ、時間ズレなど)を算出することによって認知能力を解析することも可能である。そのため、認知能力の解析は、端末状態の変化量や変化期間を用いる場合に限定されない。
【0045】
また、上述の説明では、端末状態として、Z軸加速度を例に説明したが、例えば、
図6に示すように、荷重をかける前後のY軸角速度に関する第1~第5の期間P21~P25においても、上述の
図5に示す第1~第5の期間P11~P15のZ軸加速度と同様にY軸角速度が変化する。そのため、特徴量は、Y軸角速度の各変化量や各変化期間であってもよい。また、加速度や角速度の方向(XYZ方向)については、荷重をかける方向によって変化する方向が異なるため、荷重をかける方向に応じた方向の加速度や角速度を用いて解析を行うとよい。
【0046】
また、上述の説明では、荷重をかける直前の端末状態及び荷重をかけた後(直後)のうち少なくとも一方の端末状態に基づいて認知能力を解析する例について説明したが、荷重を取り除く直前及び荷重を取り除いた後(直後)のうち少なくとも一方の端末状態も同様に変化するため、その変化量及び変化期間(これらの特徴量の平均又は標準偏差である統計量)のうちの少なくとも一方に基づいて認知能力を解析してもよい。
【0047】
以上説明した本実施の形態では、認知能力解析装置1は、加速度及び角速度のうち少なくとも一方を含む端末状態を検出する状態検出部110を備える携帯端末100を用いてユーザの認知能力を解析する認知能力解析装置1であって、携帯端末100を保持したユーザの手400に荷重をかけ、その後に荷重を取り除く認知能力解析用動作が複数回繰り返し行われたときの少なくとも2回目以降の一部の認知能力解析用動作が行われたときの端末状態を状態検出部110から取得する状態取得部10と、この状態取得部10が取得した2回目以降の端末状態のうち、荷重をかける直前の端末状態と、荷重をかけた後の端末状態と、荷重を取り除く直前の端末状態と、荷重を取り除いた後の端末状態との少なくとも1つに基づいて、ユーザの認知能力を解析する解析部20とを備える。
【0048】
また、他の1つの観点では、認知能力解析方法は、加速度及び角速度のうち少なくとも一方を含む端末状態を検出する状態検出部110を備える携帯端末100を用いてユーザの認知能力を解析する認知能力解析方法であって、携帯端末100を保持したユーザの手400に荷重をかけ、その後に荷重を取り除く認知能力解析用動作が複数回繰り返し行われたときの少なくとも2回目以降の一部の認知能力解析用動作が行われたときの端末状態を状態検出部110からコンピュータ200(例えば認知能力解析装置1)によって取得し、取得した2回目以降の端末状態のうち、荷重をかける直前の端末状態と、荷重をかけた後の端末状態と、荷重を取り除く直前の端末状態と、荷重を取り除いた後の端末状態との少なくとも1つに基づいて、コンピュータ200によってユーザの認知能力を解析する。
【0049】
また、他の1つの態様では、プログラムは、加速度及び角速度のうち少なくとも一方を含む端末状態を検出する状態検出部110を備える携帯端末100を用いてユーザの認知能力を解析するためのプログラムであって、携帯端末100を保持したユーザの手400に荷重をかけ、その後に荷重を取り除く認知能力解析用動作が複数回繰り返し行われたときの少なくとも2回目以降の一部の認知能力解析用動作が行われたときの端末状態を状態検出部110から取得する機能と、取得した2回目以降の端末状態のうち、荷重をかける直前の端末状態と、荷重をかけた後の端末状態と、荷重を取り除く直前の端末状態と、荷重を取り除いた後の端末状態との少なくとも1つに基づいて、ユーザの認知能力を解析する機能とをコンピュータ200(例えば認知能力解析装置1)に実行させる。
【0050】
ところで、小脳の予測を利用したフィードフォワード制御が機能していると、複数回の認知能力解析用動作が繰り返される中で、前回以前の認知能力解析用動作で小脳が学習することにより、荷重をかける直前、荷重をかけた後、荷重を取り除く直前、及び荷重を取り除いた後の端末状態が、認知能力が低下した場合とは異なる状態となる。本実施の形態に係る、認知能力解析装置1、認知能力解析方法、及びプログラムによれば、この状態の違いに表れるユーザの認知能力の低下を、端末状態から簡単に判別することができる。よって、本実施の形態によれば、ユーザの認知機能の低下を早期かつ簡単に発見することができる。
【0051】
また、本実施の形態では、解析部20は、荷重をかける直前の端末状態及び荷重を取り除く直前の端末状態のうち少なくとも一方における端末状態の変化量及び変化期間のうち少なくとも一方に基づき、ユーザの認知能力を解析する。
【0052】
ところで、ユーザが認知能力を十分に有していれば、荷重をかけた後に手400が下がることを予測し、荷重をかける直前に手400が上がる。同様に、荷重を取り除いた後に手400が上がることを予測し、荷重を取り除く直前に手400が下がる。このような先行反応による端末状態の変化は、ユーザが認知能力を十分に有していれば、変化量が大きく且つ変化期間が短くなる。そのため、荷重をかける直前及び荷重を取り除く直前の端末状態の変化量が小さい場合、変化期間が長い場合、及びそもそも変化が生じない場合に認知能力が低下したと判別することができる。したがって、ユーザの認知能力を正確に解析することができる。
【0053】
また、本実施の形態では、解析部20は、荷重をかけた直後の端末状態及び荷重を取り除いた直後の端末状態のうち少なくとも一方における端末状態の変化量及び変化期間のうち少なくとも一方に基づき、ユーザの認知能力を解析する。また、本実施の形態では、解析部20は、荷重をかけた後の端末状態及び荷重を取り除いた後の端末状態のうち少なくとも一方が安定するまでの変化量及び変化期間のうち少なくとも一方に基づき、ユーザの認知能力を解析する。
【0054】
ところで、ユーザが認知能力を十分に有していれば、荷重をかけた直後及び荷重を取り除いた直後の端末状態の変化量を小さく且つ変化期間を短くしたり、或いは、荷重をかけた後及び荷重を取り除いた後の端末状態が安定するまでの変化量を小さく且つ変化期間を短くしたりすることができる。そのため、変化量が大きい場合や変化期間が長い場合に認知能力が低下したと判別することができる。したがって、ユーザの認知能力を正確に解析することができる。
【0055】
また、本実施の形態では、状態取得部10は、認知能力解析用動作が複数回繰り返し行われたときの2回目以降の複数回の認知能力解析用動作が行われたときの端末状態を状態検出部110から取得し、状態取得部10は、2回目以降の複数回の認知能力解析用動作が行われたときの端末状態の変化量及び変化期間のうち少なくとも一方の平均及び標準偏差のうち少なくとも一方に基づいて、ユーザの認知能力を解析する。
【0056】
これにより、2回目以降の複数回の認知能力解析用動作における変化量及び変化期間の平均からは、各変化量の大小や各変化期間の長短をより正確に判別することができるため、上述のように、各変化量の大小や各変化期間の長短に基づくユーザの認知能力の解析を正確に行うことができる。また、2回目以降の複数回の認知能力解析用動作における変化量及び変化期間の標準偏差からは、認知能力が低下した場合に大きくなる各変化量の大小のばらつきや各変化期間の長短のばらつきを判別することができるため、ユーザの認知能力を正確に解析することができる。なお、特に上述の先行反応については、複数回の認知能力解析用動作において変化量や変化期間が安定(ばらつきが小さい)していれば、フィードフォワード機構はかなり保たれていて正常であるといえ、安定していなくてもフィードフォワード機構が働くことで小さく安定の方向に向かっていれば正常であると考えられる。そのため、複数回の認知能力解析用動作において変化量や変化期間が安定しない場合は、フィードフォワード機構が低下していると判断できる。
【0057】
以上、本発明の一実施の形態について詳細に説明したが、当業者にとっては、本発明が本明細書中で説明した実施の形態に限定されないということは明らかである。本発明は、特許請求の範囲の記載に基づいて定まる発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく修正及び変更態様として実施することができる。したがって、本明細書の記載は、例示説明を目的とし、本発明に対して何ら制限的な意味をもたらさない。
【符号の説明】
【0058】
1 認知能力解析装置
10 状態取得部
20 解析部
100 携帯端末
110 状態検出部
120 表示部
200 コンピュータ
300 重り
400 手
【要約】
【課題】認知機能の低下を早期かつ簡単に発見することができる認知能力解析装置、認知能力解析定方法、及びプログラムを提供する。
【解決手段】認知能力解析装置1は、加速度及び角速度のうち少なくとも一方を含む端末状態を検出する状態検出部110を備える携帯端末100を用いてユーザの認知能力を解析する認知能力解析装置1であって、携帯端末100を保持したユーザの手400に荷重をかけ、その後に荷重を取り除く認知能力解析用動作が複数回繰り返し行われたときの少なくとも2回目以降の一部の認知能力解析用動作が行われたときの端末状態を状態検出部110から取得する状態取得部10と、この状態取得部10が取得した2回目以降の端末状態のうち、荷重をかける直前の端末状態と、荷重をかけた後の端末状態と、荷重を取り除く直前の端末状態と、荷重を取り除いた後の端末状態との少なくとも1つに基づいて、ユーザの認知能力を解析する解析部20とを備える。
【選択図】
図1