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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】浮魚礁装置
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/75 20170101AFI20220117BHJP
   D07B 9/00 20060101ALI20220117BHJP
   D07B 1/06 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
A01K61/75
D07B9/00
D07B1/06 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017123315
(22)【出願日】2017-06-23
(65)【公開番号】P2019004757
(43)【公開日】2019-01-17
【審査請求日】2020-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000446
【氏名又は名称】岡部株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】306039164
【氏名又は名称】株式会社テザック
(74)【代理人】
【識別番号】100094042
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 知
(72)【発明者】
【氏名】志賀 隆顕
(72)【発明者】
【氏名】菊島 芳彦
(72)【発明者】
【氏名】金和 順一
(72)【発明者】
【氏名】内海 孝二
(72)【発明者】
【氏名】西 正寛
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0168786(US,A1)
【文献】特開2002-51665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/75
D07B 9/00
D07B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮魚礁に設けられる副係留索と、海底に沈設されるアンカーとを連結して、該浮魚礁を浮遊状態で係留する主係留索を有する浮魚礁装置であって、
上記主係留索は、合成樹脂製繊維材を編成した索体で形成され、上記副係留索を係止するアイ加工部と、該アイ加工部と上記アンカーとの間をつなぐ係留索部とを備え、
上記アイ加工部は、上記索体を長さ方向一端部でU字状に折り返し、折り返しで互いに向かい合う索体部分を相互に編み込んで、上記係留索部の外径寸法よりも大きな外径寸法で形成される編み込み部を含み、
上記係留索部には、上記編み込み部から上記アンカーに向かう適宜長さにわたり、該係留索部を包囲して金属製芯材入りの補強部材が取り付けられ、
前記補強部材は、前記金属製芯材周りにその長さ方向に沿って配した複数本の合成樹脂製素線を、該金属製芯材に接合することなく、当該金属製芯材に、ばらけて解れるように撚って巻き付け固定したストランドで編成されることを特徴とする浮魚礁装置。
【請求項2】
前記補強部材は、複数本の前記ストランドをスリーブ形態に編成して形成されることを特徴とする請求項1に記載の浮魚礁装置。
【請求項3】
前記金属製芯材は、ステンレス鋼よりも硬い、耐腐食性金属材料で形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の浮魚礁装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主係留索の構造面から疲労し易く、また損傷を受け易い個所を局部的に補強することが可能で、主係留索の重量増加やコストアップを抑えることができ、また、主係留索が新設であっても既設であっても補強することが可能な浮魚礁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海底に沈設されるアンカーに浮魚礁を浮遊状態で係留するための主係留索が備えられた浮魚礁装置として、特許文献1及び2が知られている。特許文献1の「浮魚礁」は、浮体と、アンカーと、浮体とアンカーとをつなぐ係留索を有し、潮流の速度が遅い時には浮体の上部が海面上に出、潮流の速度が速い時には浮体全体が海中に引き込まれるように、該浮体の浮力が調整されており、且つ、該浮体に係留索を介して標識ブイが取り付けられている。
【0003】
特許文献2の「中層浮魚礁」は、上部側に浮体、下部側に重錘を設け、静止海水に対して直立浮揚されるようにしていて、係留索の少なくとも上部に鋼線の編み上げ被覆を施したロープが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-236291号公報
【文献】特開2002-51665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
浮魚礁は、約10年程度の耐用年数が経過すると、環境問題等の理由から、海上へ引き揚げて回収される。回収作業に際しては、浮魚礁をアンカーに係留している主係留索に、回収船から繰り出される回収索を巻き掛け、その後、回収索を引き揚げることによって、主係留索を介して浮魚礁及びアンカーを回収船に引き揚げるようにしている。
【0006】
引き揚げた浮魚礁の調査で、主係留索において疲労や損傷を受けていることが判明した。主係留索は、浮魚礁の設置期間中に破断が生じると、浮魚礁の漂流を引き起こすという問題があった。また、破断に至っていないとはいえ、主係留索が設計低減率以上に強度が損なわれ損傷した状態であると、上記回収作業に際し、回収索を巻き掛けての引き揚げ作業で破断するおそれもあり、破断に至った場合には、作業員に危険を及ぼしかねず、また、浮魚礁が流れて回収作業が面倒になると同時に、アンカーの回収が困難になるなどの問題があった。
【0007】
このような問題に対しては、主係留索自体の強度を増強すればよいが、主係留索は数十メートルから数百メートルにわたるため、その重量が増大して取り扱い性が悪化するだけでなく、相当のコストアップになってしまうという課題があった。また、主係留索を新設する場合には、強度を増強したものを使用すればよいが、既に設置されている既存の主係留索に対しては、対策を講じることができない。
【0008】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、主係留索の構造面から疲労し易く、また損傷を受け易い個所を局部的に補強することが可能で、主係留索の重量増加やコストアップを抑えることができ、また、主係留索が新設であっても既設であっても補強することが可能な浮魚礁装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる浮魚礁装置は、浮魚礁に設けられる副係留索と、海底に沈設されるアンカーとを連結して、該浮魚礁を浮遊状態で係留する主係留索を有する浮魚礁装置であって、上記主係留索は、合成樹脂製繊維材を編成した索体で形成され、上記副係留索を係止するアイ加工部と、該アイ加工部と上記アンカーとの間をつなぐ係留索部とを備え、上記アイ加工部は、上記索体を長さ方向一端部でU字状に折り返し、折り返しで互いに向かい合う索体部分を相互に編み込んで、上記係留索部の外径寸法よりも大きな外径寸法で形成される編み込み部を含み、上記係留索部には、上記編み込み部から上記アンカーに向かう適宜長さにわたり、該係留索部を包囲して金属製芯材入りの補強部材が取り付けられ、前記補強部材は、前記金属製芯材周りにその長さ方向に沿って配した複数本の合成樹脂製素線を、該金属製芯材に接合することなく、当該金属製芯材に、ばらけて解れるように撚って巻き付け固定したストランドで編成されることを特徴とする。
【0010】
前記補強部材は、複数本の前記ストランドをスリーブ形態に編成して形成されることを特徴とする。
【0011】
前記金属製芯材は、ステンレス鋼よりも硬い、耐腐食性金属材料で形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる浮魚礁装置にあっては、主係留索の構造面から疲労し易く、また損傷を受け易い個所を局部的に補強することができて、主係留索の重量増加やコストアップを抑えることができ、また、主係留索が新設であっても既設であっても補強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る浮魚礁装置の好適な一実施形態を説明する説明図である。
図2図1に示した浮魚礁装置に適用される主係留索の要部拡大図である。
図3図2に示した主係留索の構造を説明する説明図である。
図4図2及び図3に示した補強部材の作製順序とその構造を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明にかかる浮魚礁装置の好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る浮魚礁装置を説明する説明図、図2は、図1に示した浮魚礁装置に適用される主係留索の要部拡大図、図3は、図2に示した主係留索の構造を説明するための説明図であって、図3(A)は、主係留索にアイ加工部を形成する前の真直な状態を示す図、図3(B)は、アイ加工部を形成するために主係留索を折り返した様子を示す図、図3(C)は、アイ加工部を形成した主係留索に補強部材を取り付ける様子を示す図、図4は、図2及び図3に示した補強部材の作製順序とその構造を説明するための説明図であって、図4(A)は、金属製芯材とその周りに配される複数本の合成樹脂製素線を示す図、図4(B)は、素線を芯材周りに撚って形成したストランドの様子を側面及び断面で示す図、図4(C)は、ストランドをスリーブ形態に編成した様子を一部破断側面及び断面で示す図である。
【0015】
本実施形態に係る浮魚礁装置1は、図1に示すように、海の表層部Sや表層部Sから深度のある中層部Mに設置される、例えば中空籠状の浮魚礁2と、浮魚礁2から垂設される複数本の副係留索3と、海底Bに沈設されるアンカー4と、アンカー4と副係留索3とを連結する主係留索5とから構成され、浮魚礁2は、副係留索3及び主係留索5を介してアンカー4に係留されて、海中に浮遊状態で設置される。主係留索5は一本であったり、あるいは複数本を長さ方向につなげたりして構成される。
【0016】
図2及び図3に示すように、主係留索5は、合成樹脂製繊維材からなる素線を複数本撚るなどしてストランドを作製し、このストランドを複数本撚ったり編んだりするなどして編成された索体Aで形成される。
【0017】
索体Aは、長さ方向に一定の外径寸法を有する。この索体Aを用いる主係留索5には、浮魚礁2の設置時に、主係留索5の上端となるアイ加工部6と、このアイ加工部6から下方へ垂れ下がって、アンカー4に結合される主係留索5の下端に達する係留索部7とが備えられる。
【0018】
アイ加工部6には、浮魚礁2に一端が連結された複数の副係留索3の他端が一括して係止される。例えば、複数の副係留索3の他端をアイ加工部6に結び付ける等して、副係留索3はアイ加工部6に係止される。また、主係留索5の下端は、アンカー4に設けられた結合用金物4aに結び付ける等して結合される(図1参照)。これにより、アンカー4と副係留索3とが主係留索5によって連結される。
【0019】
アイ加工部6は、図3(A)~(C)に示すようにして形成される。主係留索5の主体をなす一本の索体A(図3(A)参照)を、長さ方向一端部でU字状に屈曲させて折り返す(図3(B)参照)。この折り返しにより、屈曲箇所6aから折り返した長さ分、U字状形態の索体部分6bが形成される。この索体部分6bでは、U字状の一方と他方とが互いに向かい合う。
【0020】
互いに向かい合う索体部分6bでは、索体Aを編成しているストランドを相互に編み込むことにより、編み込み部8が形成される。この編み込み部8により、この編み込み部8と屈曲個所6aとの間に環状のアイ部分9が形成される。すなわち、アイ加工部6は、編み込み部8と、この編み込み部8によって形成されるアイ部分9とを備えて構成される。編み込み部8は、当然ながら、主係留索5をなす索体Aの外径寸法よりも大きな外径寸法を有する。副係留索3は詳細には、アイ加工部6のうち、アイ部分9に係止される。
【0021】
そして、本実施形態にあっては、アイ加工部6の編み込み部8からアンカー4側へ向かう、編み込み部8よりも細径の索体Aそのものである係留索部7には、当該係留索部7を包囲して補強部材10が取り付けられる(図3(C)参照)。補強部材10は、編み込み部8に隣接する位置からアンカー4に向かう適宜長さで形成されて、当該長さにわたり係留索部7に設けられる。
【0022】
本実施形態では、補強部材10はスリーブ形態で形成され、係留索部7に挿入して設けられる。編み込み部8と隣り合わせで配置される補強部材10の長さ方向一端部は、紐材11の巻き付けによって、編み込み部8と一括して主係留索5に固定される。補強部材10の長さ方向他端部も、係留索部7への編み込みや紐材12の巻き付けによって、主係留索5に固定される。さらに、編み込み部8とアイ部分9の一部も、それらの境界を含めて、紐材13の巻き付けによって被覆固定がなされる。
【0023】
補強部材10は図4(A)~(C)に示すようにして、金属製芯材14を備えて構成される。金属製芯材14は、漁業資機材に用いられるステンレス鋼よりも硬くて切れ難く、かつ耐腐食性を有する金属材料で形成される。例えば、芯材14として、タングステン鋼やチタンを採用することが好ましい。
【0024】
金属製芯材14と、金属製芯材14よりも細径の複数本の合成樹脂製素線15を用いて(図4(A)参照)、ストランド16が形成される。合成樹脂製素線15としては、例えばポリエチレン繊維が用いられる。
【0025】
ストランド16は、芯材14の周りにその長さ方向に沿って複数本の素線15を配し、これら素線15を芯材14周りに撚って、当該芯材14に素線15を巻き付け固定して形成される(図4(B)参照)。この際、素線15と芯材14とは、接着などで両者を一体化する接合を一切行うことなく、素線15がばらけてほつれる(解れる)ように、素線15を撚って芯材14に巻き付けるだけとされる。
【0026】
その後、複数本のストランド16を、例えば48打・64打構造でスリーブ形態に編成することで、補強部材10が形成される(図4(C)参照)。このように作製された補強部材10が、図3(C)に示すように、主係留索5の係留索部7に装着される。ストランド16については、芯材14と素線15とを、それらの長さ方向の端部のみにおいて接着などにより一体的に接合しておき、スリーブ形態に編成した後、接合した部分を切除して、芯材14と素線15の一体化を解除するようにしても良い。
【0027】
浮魚礁装置1が組立段階の場合には、上述したように、補強部材10は、これを係留索部7に挿入することで、主係留索5に取り付けられる。浮魚礁装置1が海中で使用中の場合には、スリーブ形態の補強部材10を布片のように平坦に畳み込み、この畳んだ補強部材10を係留索部7の周囲に巻き付けた後、紐材等で巻き付け固定して取り付けるようにする。
【0028】
次に、本実施形態に係る浮魚礁装置1の作用について説明する。浮魚礁2は波力を受けて動きが大きいため、主係留索5の上方部分には、曲げや折れなどの変形が加わり易くて、下方部分に比べ大きな負担がかかる。
【0029】
特に、主係留索5は、アイ加工部6の編み込み部8と係留索部7との境界で外径寸法が段違いに異なり、アイ加工部6は強度上問題がない一方で、境界となる編み込み部8からアンカー4にわたる係留索部7のうち、編み込み部8に近い係留索部7の部分に、耐用期間中に加わる外力によって屈曲や折れが生じるなどして疲労が蓄積し易い。これを考慮して、編み込み部8に近い係留索部7の部分を補強部材10で補強するようにしている。
【0030】
さらに、主係留索5は、漁船等で使用される漁業資機材と接触することがあり、その際、疲労が蓄積する主係留索5の上方部分に接触すると損傷し易くなる。この点からも、編み込み部8に近い係留索部7の部分を補強部材10で補強するようにしている。
【0031】
このように補強部材10で係留索部7を補強することにより、主係留索5が破断されることを防止して、浮魚礁2が漂流したり、回収作業に支障が生じることを未然に防ぐことができる。
【0032】
また、補強部材10は、編み込み部8からアンカー4に向かう適宜長さにわたって、すなわち外径寸法が段違いに細くなるという構造に起因して疲労が生じ易い個所に、しかも局部的に取り付けられて補強をするので、重量増加やコストアップとなる主係留索5自体の強度を増強する場合に比して、重量を抑制でき、またコストアップを招くことなく、取り扱い性良好に、主係留索5を補強することができる。
【0033】
また、補強部材10は、係留索部7を包囲して取り付けられるので、新しく設置する前の主係留索5の場合はもちろんのこと、海中に設置されている使用中の主係留索5であっても、巻き付けることによって、補強部材10により適切に補強を行うことができる。
【0034】
また、補強部材10は、金属製芯材14入りであるので、この芯材14により、瞬間的に作用する曲げ力や折曲力による変形に抵抗させることができ、係留索部7に疲労が蓄積することを防止することができる。
【0035】
また、補強部材10は、金属製芯材14と合成樹脂製素線15とを複合して形成したストランド16で編成されるので、素線15の滑り作用で柔軟性が発揮され、ゆっくりと緩やかに作用する曲げ力による変形に対し、高い屈曲性を確保することができる。
【0036】
また、補強部材10のストランド16は、金属製芯材14に合成樹脂製素線15を撚って巻き付け固定するようにして、両者を一体化する接合を行っていないので、両者を一体に接合した場合に比して、切断に対する耐久性を向上することができる。
【0037】
詳細には、切断作用が加わる際、素線15と芯材14の両者が一体の構造では融通性がなく、せん断が素線15にも芯材14にも直ちに作用してしまうのに対し、本実施形態のストランド16では、最初に複数の素線15がばらけて解れていき、素線15に抵抗作用が無くなるあたりから、次第に芯材14にせん断が作用していくので、切断に至るまでの耐久時間を延ばすことができる。
【0038】
また、金属製芯材14がステンレス鋼よりも硬い金属材料、例えばタングステン鋼などであるので、曲げや折れに対する高い抵抗力を発揮し、主係留索5に蓄積される疲労を軽減することができると共に、漁業資機材が接触しても主係留索5への損傷を抑制することができる。
【0039】
上記実施形態にあっては、補強部材10として、スリーブ形態のものを例示して説明したが、上記ストランド16を布形態に編成して形成しても良いことはもちろんである。
【符号の説明】
【0040】
1 浮魚礁装置
2 浮魚礁
3 副係留索
4 アンカー
5 主係留索
6 アイ加工部
6b 索体部分
7 係留索部
8 編み込み部
10 補強部材
14 金属製芯材
15 合成樹脂製素線
16 ストランド
A 索体
B 海底
図1
図2
図3
図4