(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】スプリングスペーサー、鉄筋籠及び地中杭の打設工法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/34 20060101AFI20220203BHJP
E02D 13/04 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
E02D5/34 Z
E02D13/04
(21)【出願番号】P 2021010385
(22)【出願日】2021-01-26
【審査請求日】2021-01-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518450843
【氏名又は名称】株式会社ユーシン
(74)【代理人】
【識別番号】100117514
【氏名又は名称】佐々木 敦朗
(72)【発明者】
【氏名】矢内 友育
(72)【発明者】
【氏名】山本 靖一
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-059917(JP,A)
【文献】登録実用新案第3185266(JP,U)
【文献】特開2003-232034(JP,A)
【文献】実開平06-035325(JP,U)
【文献】特開2000-303455(JP,A)
【文献】特開平03-122317(JP,A)
【文献】米国特許第04627211(US,A)
【文献】韓国登録特許第10-0608510(KR,B1)
【文献】特開2015-017459(JP,A)
【文献】特表昭61-502001(JP,A)
【文献】特開2011-052525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/34
E02D 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に打設される地中杭中に建込まれる鉄筋籠に組み付けられるスプリングスペーサーであって、
前記鉄筋籠の主筋に沿わせた状態で緊結されて固定される緊結部分と、
前記緊結部分から前記地中杭の径方向に屈曲されて拡開する拡開部と、
前記拡開部に対して屈曲されて接続された屈曲部と
を有し、
前記屈曲部
は、前記拡開部に対して屈曲された直線部分を有するとともに、その直線部分の自由端側が地中杭の中心方向に
さらに屈曲され、
前記緊結部分、前記拡開部及び前記屈曲部は一本の鉄筋を屈曲させて一体的に形成されている
ことを特徴とするスプリングスペーサー。
【請求項2】
前記主筋の外周において前記地中杭の中心から放射状に拡開されていることを特徴とする請求項1に記載のスプリングスペーサー。
【請求項3】
前記緊結部分は、前記主筋に沿わせて配筋されて前記主筋と平行になるように配置され、
前記拡開部は、前記緊結部分に対して屈曲され、前記緊結部分の外方に向けて所定の角度をもって斜め上方に延設され、
前記屈曲部は、斜め上方に延設された前記拡開部の自由端側に形成される
ことを特徴とする請求項1に記載のスプリングスペーサー。
【請求項4】
地中に打設される地中杭中に建込まれる鉄筋籠であって、
垂直方向に平行に配筋される複数の主筋と、
前記複数の主筋を水平方向に接続するフープ筋と、
前記主筋に緊結されて固定されるスプリングスペーサー筋と
を備え、
前記スプリングスペーサー筋は、
前記鉄筋籠の主筋に沿わせた状態で緊結されて固定される緊結部分と、前記緊結部分から前記地中杭の径方向に屈曲されて拡開する拡開部と、前記拡開部に対して屈曲されつつ接続された屈曲部とを有し、
前記屈曲部
は、前記拡開部に対して屈曲された直線部分を有するとともに、その直線部分の自由端側が地中杭の中心方向に
さらに屈曲され、
前記緊結部分、前記拡開部及び前記屈曲部は一本の鉄筋を屈曲させて一体的に形成されている
ことを特徴とする鉄筋籠。
【請求項5】
前記スプリングスペーサー筋が、前記主筋の外周において前記地中杭の中心から放射状に拡開されていることを特徴とする請求項4に記載の鉄筋籠。
【請求項6】
前記緊結部分は、前記主筋に沿わせて配筋されて前記主筋と平行になるように配置され、
前記拡開部は、前記緊結部分に対して屈曲され、前記緊結部分の外方に向けて所定の角度をもって斜め上方に延設され、
前記屈曲部は、斜め上方に延設された前記拡開部の自由端側に形成される
ことを特徴とする請求項4に記載の鉄筋籠。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれかに記載のスプリングスペーサーを用いた地中杭の打設工法であって、
地中に杭孔を掘削する工程と、
前記杭孔内に建込まれる鉄筋籠の主筋に前記スプリングスペーサーを緊結によって組み付ける工程と、
前記鉄筋籠を前記杭孔内に沈設する工程と、
前記杭孔にコンクリートを打設する工程と
を含むことを特徴とする地中杭の打設工法。
【請求項8】
前記杭孔を掘削する工程には、杭孔の地表開口部付近に掘削壁面を覆うケーシングを設置する工程が含まれ、
前記鉄筋籠を沈設する工程では、沈設後における前記スプリングスペーサーが、前記ケーシングで覆われた部分の深度に位置されるとともに、前記屈曲部が前記ケーシングの内壁部に接触される
ことを特徴とする請求項7に記載の地中杭の打設工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭孔へ鉄筋籠を吊り下ろして配置するスプリングスペーサー、鉄筋籠及び地中杭の打設工法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤中に杭を建込む工法として、所定の場所を掘削してその中に鉄筋籠を立て込んでからコンクリートを流し込む、場所打ちコンクリート杭や、既製の鉄筋コンクリート杭を打ち込む(あるいは埋め込む)既製鉄筋コンクリート杭がある。建築基準法では、敷地の地耐力(地盤が建物の荷重を支え続ける強さのこと)に応じて、場所打ちコンクリート杭などの基礎杭か、ベタ基礎、布基礎を選択するよう定めている。
【0003】
上述した場所打ち杭の施工において、地盤に削孔された杭孔に建て込む鋼管杭などのケーシングや杭鉄筋籠には、深さ方向の位置、杭の径方向の設置精度が要求される。この場所打ち杭の施工における深さ方向の設置精度を確保する方法として、例えば、特許文献1に開示された工法が知られている。この特許文献1に開示された工法では、定着筋を有する鋼管をワイヤで吊り下げて、地盤に垂直に埋設されたケーシング内の所定位置まで降下させた状態で、鋼管にネジ鉄筋を取り付け、ケーシング上縁に取り付けられた受け基台上に係止された螺合部材に、ネジ鉄筋を貫通させて回転可能に仮固定し、ネジ鉄筋を回転させることにより、鋼管の深度を微調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、杭鉄筋籠等の杭径方向の位置は、それにより杭鉄筋籠等の上部の定着筋の立ち上がり位置が定まるため精度が要求される。一方、杭上部においては、杭鉄筋籠等の上部の定着筋と基礎スラブ、地中梁、および柱の配筋などが交錯し配筋が複雑となる。また使用される鉄筋の径も大きい。このため、杭鉄筋籠等の定着筋が、基礎スラブや地中梁等の鉄筋と干渉を起こさないことが要求される。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示された工法では、杭鉄筋籠等の杭径方向の位置調整と位置精度の確保についての手段が設けられていないため、杭鉄筋籠の定着筋の位置精度に一定の限界があり打設された地中杭の杭芯にズレが生じるという惧れがあった。
【0007】
そこで、本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、杭鉄筋籠の杭の径方向の位置決めをより的確に行い保持し、地中杭の杭芯にズレが生じるのを防止できるスプリングスペーサー、鉄筋籠及び地中杭の打設工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、地中に打設される地中杭中に建込まれる鉄筋籠に組み付けられるスプリングスペーサーであって、鉄筋籠の主筋に沿わせた状態で緊結されて固定される緊結部分と、緊結部分から地中杭の径方向に屈曲されて拡開する拡開部と、拡開部に対して屈曲されて接続された屈曲部とを有し、前記屈曲部は、前記拡開部に対して屈曲された直線部分を有するとともに、その直線部分の自由端側が地中杭の中心方向にさらに屈曲され、前記緊結部分、前記拡開部及び前記屈曲部は一本の鉄筋を屈曲させて一体的に形成されている。
【0009】
このような本発明によれば、鉄筋籠にスプリングスペーサー筋が組み付けられており、このスプリングスペーサー筋は、主筋との緊結部分から地中杭の径方向に拡開する拡開部と、拡開部に対して屈曲されて接続された屈曲部とを有している。このスプリングスペーサー筋の拡開部は、鉄筋の弾力により孔壁に追従するように接触して、孔壁からの反力を得て鉄筋籠を杭孔の中心に位置させることができる。また、拡開部はその先端側が屈曲された屈曲部となっていることから、スプリングスペーサー筋が孔壁やケーシング等に引っかかることがなく、円滑な鉄筋籠の沈設を妨げることがない。また、屈曲部の自由端側が地中杭の中心方向に屈曲されていることから、スプリングスペーサー筋が孔壁やケーシング等に引っかかるのをより確実に防ぐことができ、円滑な鉄筋籠の沈設が可能となる。
【0010】
上記発明において、スプリングスペーサーは、前記主筋の外周において前記地中杭の中心から放射状に拡開されていることが好ましく、また、前記緊結部分は、前記主筋に沿わせて配筋されて前記主筋と平行になるように配置され、前記拡開部は、前記緊結部分に対して屈曲され、前記緊結部分の外方に向けて所定の角度をもって斜め上方に延設され、前記屈曲部は、斜め上方に延設された前記拡開部の自由端側に形成されることが好ましい。また、上記発明において、屈曲部は、主筋と平行となるように屈曲されていることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、地中に打設される地中杭中に建込まれる鉄筋籠であって、垂直方向に平行に配筋される複数の主筋と、複数の主筋を水平方向に接続するフープ筋と、主筋に緊結されて固定されるスプリングスペーサー筋とを備え、スプリングスペーサー筋は、前記鉄筋籠の主筋に沿わせた状態で緊結されて固定される緊結部分と、前記緊結部分から前記地中杭の径方向に屈曲されて拡開する拡開部と、前記拡開部に対して屈曲されつつ接続された屈曲部とを有し、前記屈曲部は、前記拡開部に対して屈曲された直線部分を有するとともに、その直線部分の自由端側が地中杭の中心方向にさらに屈曲され、前記緊結部分、前記拡開部及び前記屈曲部は一本の鉄筋を屈曲させて一体的に形成されている。
【0012】
このような本発明によれば、鉄筋籠にスプリングスペーサー筋が組み付けられており、このスプリングスペーサー筋は、主筋との緊結部分から地中杭の径方向に拡開する拡開部と、拡開部に対して屈曲されて接続された屈曲部とを有している。このスプリングスペーサー筋の拡開部は、鉄筋の弾力により孔壁に追従するように接触して、孔壁からの反力を得て鉄筋籠を杭孔の中心に位置させることができる。また、拡開部はその先端側が屈曲された屈曲部となっていることから、スプリングスペーサー筋が孔壁やケーシング等に引っかかることがなく、円滑な鉄筋籠の沈設を妨げることがない。また、屈曲部の自由端側が地中杭の中心方向に屈曲されていることから、スプリングスペーサー筋が孔壁やケーシング等に引っかかるのをより確実に防ぐことができ、円滑な鉄筋籠の沈設が可能となる。
【0013】
上記発明において、スプリングスペーサーは、前記主筋の外周において前記地中杭の中心から放射状に拡開されていることが好ましく、また、前記緊結部分は、前記主筋に沿わせて配筋されて前記主筋と平行になるように配置され、前記拡開部は、前記緊結部分に対して屈曲され、前記緊結部分の外方に向けて所定の角度をもって斜め上方に延設され、前記屈曲部は、斜め上方に延設された前記拡開部の自由端側に形成されることが好ましい。また、上記発明において屈曲部は、主筋と平行となるように屈曲されていることが好ましい。
【0014】
上記発明において、請求項1乃至3のいずれかに記載のスプリングスペーサーを用いた地中杭の打設工法であって、地中に杭孔を掘削する工程と、杭孔内に建込まれる鉄筋籠の主筋にスプリングスペーサーを緊結によって組み付ける工程と、鉄筋籠を杭孔内に沈設する工程とを含むことを特徴とする地中杭の打設工法。
【0015】
このような本発明によれば、鉄筋籠にスプリングスペーサー筋が組み付けられており、このスプリングスペーサー筋は、主筋との緊結部分から地中杭の径方向に拡開する拡開部と、拡開部に対して屈曲されて接続された屈曲部とを有している。このスプリングスペーサー筋の拡開部は、鉄筋の弾力により孔壁に追従するように接触して、孔壁からの反力を得て鉄筋籠を杭孔の中心に位置させることができる。また、拡開部はその先端側が屈曲された屈曲部となっていることから、スプリングスペーサー筋が孔壁やケーシング等に引っかかることがなく、円滑な鉄筋籠の沈設を妨げることがない。
【0016】
上記発明において、杭孔を掘削する工程には、杭孔の地表開口部付近に掘削壁面を覆うケーシングを設置する工程が含まれ、鉄筋籠を沈設する工程では、沈設後におけるスプリングスペーサーが、ケーシングで覆われた部分の深度に位置されるとともに、前記屈曲部が前記ケーシングの内壁部に接触されることが好ましい。
【0017】
なお、沈設後におけるスプリングスペーサー筋がケーシングで覆われた部分の深度以下に位置され、スプリングスペーサー筋がケーシングにかからないように鉄筋籠の深さ方向の位置決めがなされた場合には、掘削壁面から杭の中心へ向かう土圧によって屈曲部が掘削壁面に接触されることが好ましい。このとき、ケーシングにより掘削壁面からの内方へ向けての土圧が抑止される一方、ケーシングが存在しないときにはその土圧が開放されるため、スプリングスペーサー筋がケーシングにかからない場合の拡開部の開度は、スプリングスペーサー筋がケーシングにかかる場合の拡開部の開度よりも小さくなる。
【発明の効果】
【0018】
以上述べたように、本発明では鉄筋籠にスプリングスペーサー筋が組み付けられており、このスプリングスペーサー筋は、主筋との緊結部分から地中杭の径方向に拡開する拡開部と、拡開部に対して屈曲されて接続された屈曲部とを有している。このスプリングスペーサー筋の拡開部は、鉄筋の弾力により孔壁に追従するように接触して、孔壁からの反力を得て鉄筋籠を杭孔の中心に位置させることができる。また、拡開部はその先端側が屈曲された屈曲部となっていることから、スプリングスペーサー筋が孔壁やケーシング等に引っかかることがなく、円滑な鉄筋籠の沈設を妨げることがない。これらの結果、本発明によれば、鉄筋籠の径方向位置を容易に調整し保持でき、打設された地中杭の杭芯にズレが生じるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係る地中杭の打設工法の手順を示す説明図である。
【
図2】実施形態に係るスプリングスペーサーの外観を示す側面図である。
【
図3】実施形態に係る鉄筋籠の外観を示す上面図である。
【
図4】実施形態に係る鉄筋籠の構成(スプリングスペーサーが拡開された状態)を示す斜視図である。
【
図5】実施形態に係る鉄筋籠の構成(スプリングスペーサーが収縮された状態)を示す斜視図である。
【
図6】実施形態に係る地中杭の打設工法(ケーシングあり)を示す断面図である。
【
図7】実施形態に係る地中杭の打設工法(ケーシングあり)を示す断面斜視図である。
【
図8】実施形態に係る地中杭の打設工法(ケーシングなし)を示す断面図である。
【
図9】実施形態に係る地中杭の打設工法(ケーシングなし)を示す断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照して、本発明に係るスプリングスペーサー、鉄筋籠及びこれらを用いた地中杭の打設工法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0021】
(工事設備の全体構成)
図1は、本実施形態に係る地中杭の打設工法の手順を示す説明図である。本実施形態では、ビルの新築や建て替えに際して建造物を支持する杭基礎を構築するために地盤G中に杭孔G2を掘削する。具体的には、
図1に示すように、重機9のアーム91でケリーバー92を揚重して掘削用アースドリル93を吊下する。そして、ケリーバー92により掘削用アースドリル93を一方に回転しながら下降させて地中に埋入させ、杭孔G2を掘削する。また、重機9はケーシング8や鉄筋籠1を揚重して杭孔G2内に沈設するクレーン装備を有している。
【0022】
(鉄筋籠1の構成)
次いで、上記鉄筋籠1の構成について説明する。
図2~
図5に本実施形態に係る鉄筋籠1の構成を示す。同図に示すように、鉄筋籠1は、地盤G中に打設される地中杭中に建込まれる鉄筋籠である。具体的には、鉄筋籠1は、垂直方向に平行に配筋される複数の主筋11と、主筋11を水平方向に接続する環状のフープ筋12と、主筋11に緊結されて固定されるスプリングスペーサー筋2とを備えている。
【0023】
主筋11は、円周上に所定間隔で所定本数配置され、それぞれの主筋11は垂直方向に平行に配筋され、複数の主筋11は全体として筒状を形成している。主筋11の外周囲には円形のフープ筋12が杭軸方向に所定の間隔で設けられている。主筋11上部部分は基礎への定着筋となり、最上部のフープ筋12の上部に突出されている。主筋11の内側には、主筋11の円形配置を保持するための鋼製リング状の補強材等が設けられる。補強材は鉄筋籠1の杭軸方向に適宜間隔で取り付けられている。
【0024】
スプリングスペーサー筋2は、
図2に示すように、緊結部分24を鉄筋籠1の主筋11に沿わせた状態で番線25で緊結されて固定されている。スプリングスペーサー筋2は本実施形態では、D25の鉄筋により形成され、
図3に示すように、筒状に配置された主筋11の外周において杭の中心から放射状に拡開されている。
【0025】
また、スプリングスペーサー筋2は、
図6や
図8に示すように、杭天端よりも下方に位置されるように、鉄筋籠1の最上位(杭頭位置)に位置される第1フープ筋12aよりも下方に配置されている。なお、
図6ではケーシング8が地盤G中に埋設され、そのケーシング8の埋設深度(ケーシングで覆われた部分の深度)内にスプリングスペーサー筋2が配置された状態を示し、
図8では、ケーシング8が無い状態を示しているが、いずれの状態においても、鉄筋籠1の最上位(杭頭位置)に配筋される第1フープ筋12aよりも下方に、スプリングスペーサー筋2が配置されている。
【0026】
このスプリングスペーサー筋2は、
図2に詳細に示すように、鉄筋籠1の主筋11との緊結部分24から地中杭の径方向に拡開する拡開部23と、拡開部23に対して屈曲されつつ接続された屈曲部22とを有する。本実施形態では、一本の鉄筋を、緊結部分24から径方向に屈曲させ、拡開させて拡開部23を形成し、さらに拡開部23の自由端側を屈曲させて屈曲部22を形成され、緊結部分24、拡開部23及び屈曲部22が一体的に形成されている。
【0027】
緊結部分24は主筋11に沿わせて配筋されて主筋11と平行になるように配置され、拡開部23はこの緊結部分24に対して屈曲され、緊結部分24の外方に向けて所定の角度をもって斜め上方に延設されている。この斜め上方に延設された拡開部23の自由端側に屈曲部22が形成される。
【0028】
さらに、本実施形態において屈曲部22は、緊結部分24及び主筋11と平行となるように緊結部分24から拡開部23を経て屈曲されている。さらにこの屈曲部22の自由端21側は地中杭の中心側に向けて屈曲されている。
【0029】
これにより、スプリングスペーサー筋2の拡開部23が鉄筋の弾力により径方向外方へ向けて拡開されて、孔壁に追従するように接触し、掘削壁面(孔壁)G3又はケーシング8の内壁面からの反力を得て鉄筋籠1を杭孔の中心に位置させる。このとき拡開部23はその先端側が屈曲された屈曲部22となっていることから、スプリングスペーサー筋2が掘削壁面G3やケーシング8等に引っかかることがない。
【0030】
ここで、拡開部23の開度について詳述すると、
図6及び
図7に示すように、沈設後におけるスプリングスペーサー筋2がケーシング8で覆われた部分の深度に位置され、スプリングスペーサー筋2がケーシング8にかかるように鉄筋籠1の深さ方向の位置決めがなされた場合には、鉄筋の弾力により径方向外方へ向けて拡開部23が拡開されて、屈曲部22がケーシング8の内壁部に接触されるように、拡開部23の開度が調整されている。
【0031】
また、
図8及び
図9に示すように、沈設後におけるスプリングスペーサー筋2がケーシング8で覆われた部分の深度以下に位置され、スプリングスペーサー筋2がケーシング8にかからないように鉄筋籠1の深さ方向の位置決めがなされた場合には、掘削壁面G3から杭の中心へ向かう土圧によって屈曲部22が掘削壁面G3に接触されるように拡開部23の開度が調整されている。なお、ケーシング8により掘削壁面G3からの内方へ向けての土圧が抑止される一方、ケーシング8が存在しないときにはその土圧が開放されるため、スプリングスペーサー筋2がケーシング8にかからない場合の拡開部23の開度は、スプリングスペーサー筋2がケーシング8にかかる場合の拡開部23の開度よりも小さくなる。
【0032】
一方、ケーシング8は断面がほぼ円形の中空筒状の鋼製部材である。ケーシング8の長さは、杭孔G2の地盤表層部の孔壁を保護できる十分な寸法を有している。このケーシング8内において、スプリングスペーサー筋2が杭天端よりも下方に位置されるように、鉄筋籠1の最上位(杭頭位置)に位置される第1フープ筋12aよりも下方に配置される。
【0033】
(地中杭の打設工法)
以上説明した工事設備及び鉄筋籠を用いて本発明の地中杭の打設工法を実施することができる。
図1及び
図5~
図8に、本実施形態にかかる地中杭の打設工法の手順を示す。
【0034】
先ず、地中に杭孔を掘削する工程を実行する。具体的には、
図1(a)に示すように、重機9のアーム91でケリーバー92を揚重して掘削用アースドリル93を吊下する。そして、ケリーバー92により掘削用アースドリル93を回転させながら下降させて地盤G中に埋入させ、杭孔G2を掘削する。このときの掘削では、ケーシング8が沈設可能な深さまで行う。
【0035】
所定の深さまで杭孔G2の掘削が進んだ後、同図(b)に示すように、杭孔G2の地表開口部付近に掘削壁面G3を覆うケーシング8を沈設する。このケーシング8の沈設は、重機9のクレーン設備を用いてケーシング8を揚重することにより行う。沈設に際しては、ケーシング8をその上端部が地上に現れるように地盤G中に挿入する。そして、同図(c)に示すように、ケーシング8内の杭孔底面G1の掘削を進め、ケーシング8の挿入深度より深い所定の深さまで削孔する。
【0036】
そして、
図1(d)に示すように、鉄筋籠1を杭孔内に沈設する工程を行う。この沈設に先行して鉄筋籠1の主筋11にスプリングスペーサー筋2を番線25による緊結によって組み付ける工程を行う。詳述すると、主筋11は、円周上に所定間隔で所定本数配置され、それぞれの主筋11は垂直方向に平行に配筋されるとともに、主筋11の外周囲に円形のフープ筋12を杭軸方向に所定の間隔で配筋し、鉄筋籠1は全体として筒状に形成される。そして、スプリングスペーサー筋2は、
図2に示すように、緊結部分24をケーシング8の主筋11に沿わせた状態で番線25で緊結されて固定される。
【0037】
スプリングスペーサー筋2は本実施形態では、
図3に示すように筒状に配置された主筋11の外周において、杭の中心から放射状に拡開されている。本実施形態においてスプリングスペーサー筋2は、杭の中心角において90度ずつ4本が配設されている。
【0038】
そして、このような鉄筋籠1を沈設する工程では、
図6及び
図7に示すように、沈設後におけるスプリングスペーサー筋2がケーシング8で覆われた部分の深度に位置されるように、鉄筋籠1の深さ方向の位置決めがなされる。このとき、屈曲部22がケーシング8の内壁部に接触されるように、拡開部23の開度が調整されている。なお、
図8及び
図9に示すように、沈設後におけるスプリングスペーサー筋2がケーシング8で覆われた部分の深度以下に位置され、スプリングスペーサー筋2がケーシング8にかからないように鉄筋籠1の深さ方向の位置決めがなされた場合には、掘削壁面G3から杭の中心へ向かう土圧によって屈曲部22が掘削壁面G3に接触される。このとき、ケーシング8により掘削壁面G3からの内方へ向けての土圧が抑止される一方、ケーシング8が存在しないときにはその土圧が開放されるため、スプリングスペーサー筋2がケーシング8にかからない場合の拡開部23の開度は、スプリングスペーサー筋2がケーシング8にかかる場合の拡開部23の開度よりも小さくなる。
【0039】
次いで、杭孔G2にコンクリートを打設する工程を行う。具体的には、
図1(e)に示すように、沈設された鉄筋籠1の内部を通じて杭孔底面G1に到達するようにトレミー管94を挿通する。その後、
図1(f)に示すように、コンクリート3を充填する。このとき、第1フープ筋12aが杭天端よりも下方に位置されるように、第1フープ筋12aの上方までコンクリート3を充填する。
【0040】
その後、コンクリート3の打設が完了した段階でケーシング8を地盤Gから引き抜き、杭打設工事が完了する。このケーシング8が地盤Gから引き抜かれた状態においても、スプリングスペーサー筋2は、
図8や
図9に示すように、杭天端よりも下方に位置されるように、鉄筋籠1の最上位(杭頭位置)に位置される第1フープ筋12aよりも下方に配置される。これによりコンクリートが硬化する前にケーシング8が引き抜かれて周囲の掘削壁面G3が変位した場合であっても、打設された地中杭の杭芯にズレが生じるのを防止できる。また、地盤Gのケーシング8が引き抜かれた部位には埋戻し土を充填する。
【0041】
(作用・効果)
以上説明した本実施形態によれば、鉄筋籠1にスプリングスペーサー筋2が組み付けられており、このスプリングスペーサー筋2は、主筋11との緊結部分24から地中杭の径方向に拡開する拡開部23と、この拡開部23に対して屈曲されて接続された屈曲部22とを有している。このスプリングスペーサー筋2の拡開部23は、鉄筋の弾力により孔壁に追従するように接触して、掘削壁面(孔壁)G3からの反力を得て鉄筋籠1を杭孔の中心に位置させることができる。
【0042】
また、拡開部23はその先端側が屈曲された屈曲部22となっていることから、スプリングスペーサー筋2が掘削壁面G3やケーシング8等に引っかかることがなく、円滑な鉄筋籠1の沈設を妨げることがない。これらの結果、本実施形態によれば、鉄筋籠1の径方向位置を容易に調整し保持でき、打設された地中杭の杭芯にズレが生じるのを防止できる。
【0043】
特に本実施形態では、屈曲部22が主筋11と平行となるように屈曲され、さらには、屈曲部22の自由端21側が地中杭の中心方向に屈曲されていることから、スプリングスペーサー筋2が掘削壁面G3やケーシング8等に引っかかるのをより確実に防ぐことができ、円滑な鉄筋籠1の沈設が可能となる。
【0044】
なお、上述した実施形態の説明は、本発明の一例である。このため、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0045】
G…地盤
G1…杭孔底面
G2…杭孔
G3…掘削壁面
1…鉄筋籠
2…スプリングスペーサー筋
3…コンクリート
8…ケーシング
9…重機
11…主筋
12…フープ筋
21…自由端
22…屈曲部
23…拡開部
24…緊結部分
25…番線
91…アーム
92…ケリーバー
93…掘削用アースドリル
94…トレミー管
【要約】 (修正有)
【課題】杭鉄筋籠の杭の径方向の位置決めをより的確に行い保持し、地中杭の杭芯にズレが生じるのを防止できるスプリングスペーサー、鉄筋籠及び地中杭の打設工法を提供する。
【解決手段】地盤に打設される地中杭中に建込まれる鉄筋籠1に組み付けられるスプリングスペーサー筋2であって、主筋11との緊結部分24から地中杭の径方向に拡開する拡開部23と、拡開部23に対して屈曲されて接続された屈曲部22とを有する。屈曲部22は、主筋11と平行となるように屈曲され、その自由端21側が地中杭の中心方向に屈曲されている。
【選択図】
図2