(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】複合部材
(51)【国際特許分類】
C09K 3/10 20060101AFI20220117BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20220117BHJP
C08L 75/04 20060101ALI20220117BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20220117BHJP
H01R 43/24 20060101ALI20220117BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
C09K3/10 Z
C08L23/08
C08L75/04
C09K3/10 D
B29C45/14
H01R43/24
F16J15/10 X
(21)【出願番号】P 2017223238
(22)【出願日】2017-11-21
【審査請求日】2020-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2016226124
(32)【優先日】2016-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉野 剛正
(72)【発明者】
【氏名】志波 賢人
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-051661(JP,A)
【文献】特開2014-237813(JP,A)
【文献】国際公開第2004/104090(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/10-3/12
C08L 23/08
C08L 75/04
B29C 45/14
H01R 43/24
F16J 15/10
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部材が、シール材からなるシール層を介して一体化されてなる複合部材であって、シール材が、酸変性成分が1~10質量%である酸変性ポリオレフィン(A)100質量部とポリウレタン(B)1~40質量部とを含有することを特徴とする
複合部材。
【請求項2】
酸変性ポリオレフィン(A)が、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-不飽和カルボン酸共重合体を含有することを特徴とする請求項1記載の
複合部材。
【請求項3】
シール材が、さらに硬化剤(C)を含有することを特徴とする請求項1または2記載の
複合部材。
【請求項4】
少なくとも一つの部材が熱可塑性樹脂製部材であることを特徴とする請求項
1~3のいずれかに記載の複合部材。
【請求項5】
少なくも一つの部材が金属製部材であることを特徴とする請求項
1~4のいずれかに記載の複合部材。
【請求項6】
請求項
1記載の複合部材を製造するための方法であって、酸変性ポリオレフィン(A)とポリウレタン(B)を含有するシール層が表面に形成された一次部材を金型内に挿入した後、金型内に熱可塑性樹脂を注入して、一次部材と熱可塑性樹脂製部材とをシール層を介して一体化することを特徴とする複合部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシール材、複合部材、および複合部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や電気電子などの様々な分野において、軽量化、小型化のニーズに応えるため、金属製部材と樹脂製部材とからなる複合部材が用いられている。複合部材は、軽量化や小型化だけでなく、用途によって多種多様な物性が要求されており、特に、防水性、耐薬品性、耐ヒートサイクル性が求められている。
たとえば、自動車に搭載されるモーターやバッテリーなどへの電気配線には、コネクタが使用されており、特に外装用コネクタでは、自動車下部から巻き上げた雨水がコネクタ内に浸入するのを防止するために、コネクタを構成する金属製部材と樹脂製部材の間にはシール材が使用されている。たとえば、特許文献1~2に開示された防水コネクタにおいては、シール材として、特許文献1ではホットメルト樹脂が使用され、特許文献2ではアクリル系粘着剤層を有する両面テープが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-170627号公報
【文献】特開2015-11949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の防水コネクタにシール材として使用されている樹脂は、シール性に劣るものであり、特許文献2で使用されている両面テープは、水に対するシール性は良好であるが、耐溶剤性に劣り、溶剤に長時間浸漬すると、シール性が低下するものであった。特に、自動車エンジン周り部分で使用される、金属製部材を含有する複合部材には、水だけでなく、ガソリン、ウォッシャー液、エチレングリコールなどのクーラント液などの溶剤に対するシール性も求められ、また150℃程度の高温オイルに対する耐性も求められ、さらに高温環境と低温環境に繰り返しさらされてもシール性を維持することも求められている。
本発明の課題は、複合部材に使用することができるシール材であって、様々な部材との密着性に優れるとともに、水や溶剤などに対するシール性に優れ、また耐ヒートサイクル性に優れたシール材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の樹脂を特定の割合で含有するシール材が上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明の要旨は、下記の通りである。
【0006】
(1)複数の部材が、シール材からなるシール層を介して一体化されてなる複合部材であって、シール材が、酸変性成分が1~10質量%である酸変性ポリオレフィン(A)100質量部とポリウレタン(B)1~40質量部とを含有することを特徴とする複合部材。
(2)酸変性ポリオレフィン(A)が、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-不飽和カルボン酸共重合体を含有することを特徴とする(1)記載の複合部材。
(3)シール材が、さらに硬化剤(C)を含有することを特徴とする(1)または(2)記載の複合部材。
(4)少なくとも一つの部材が熱可塑性樹脂部材であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の複合部材。
(5)少なくとも一つの部材が金属製部材であることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の複合部材。
(6)上記(1)記載の複合部材を製造するための方法であって、酸変性ポリオレフィン(A)とポリウレタン(B)を含有するシール層が表面に形成された一次部材を金型内に挿入した後、金型内に熱可塑性樹脂を注入して、一次部材と熱可塑性樹脂製部材とをシール層を介して一体化することを特徴とする複合部材の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、様々な部材との密着性を有するとともに、水に対するシール性、溶剤に対するシール性に優れ、耐ヒートサイクル性に優れたシール材が得られる。本発明のシール材からなるシール層を介して複数の部材と一体化された複合部材は、防水性能や耐溶剤性能、耐ヒートサイクル性能に優れ、たとえば防水コネクタを構成する複合部材や、金属製部材を含む複合部材などに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の複合部材を構成する構成部材の一例を示す図
【
図3】本発明の複合部材の一例を示す図(完成した状態)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明のシール材は、酸変性成分が1~10質量%である酸変性ポリオレフィン(A)とポリウレタン(B)とを含有する。本発明のシール材は、樹脂として酸変性ポリオレフィン(A)とポリウレタン(B)を含有することで、熱可塑性樹脂や金属などからなる部材との密着性を向上させることができる。
【0010】
まず、酸変性ポリオレフィン(A)樹脂について説明する。
酸変性ポリオレフィン(A)における酸変性成分の含有量は、シール材からなるシール層と部材との密着性の点から、1~10質量%であることが必要であり、1~8質量%であることが好ましく、2~7質量%であることがより好ましい。
酸変性成分は、不飽和カルボン酸成分(A1)であることが好ましく、不飽和カルボン酸や、その無水物により導入される。不飽和カルボン酸成分(A1)としては、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。また、不飽和カルボン酸成分(A1)は、ポリオレフィン中に共重合されていればよく、その形態は限定されず、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
【0011】
酸変性ポリオレフィン(A)を構成するオレフィン成分(A2)としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等の炭素数2~6のアルケンが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。この中で、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン等の炭素数2~4のアルケンがより好ましく、特にエチレンが好ましい。
酸変性ポリオレフィン(A)におけるオレフィン成分(A2)の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。酸変性ポリオレフィン(A)は、オレフィン成分(A2)の含有量が50質量%未満では、ポリオレフィン製部材に対する密着性や耐溶剤性等のポリオレフィン由来の特性が失われてしまう。
【0012】
酸変性ポリオレフィン(A)は、熱可塑性樹脂製部材との密着性を向上させる理由から、(メタ)アクリル酸エステル成分(A3)を含有することが好ましい。酸変性ポリオレフィン(A)における(A3)成分の含有量は、0.5~40質量%であることが好ましく、様々な熱可塑性樹脂製部材との良好な密着性を持たせるため、1~35質量%であることがより好ましく、3~30質量%であることがさらに好ましく、5~25質量%であることが特に好ましく、10~25質量%であることが最も好ましい。(A3)成分の含有量が1質量%未満では、シール材は、熱可塑性樹脂製部材との密着性が低下する恐れがある。一方、(A3)成分の含有量が40質量%を超えると、酸変性ポリオレフィン(A)はオレフィン由来の樹脂の性質が失われ、シール材は、耐溶剤性が低下する恐れがある。
(メタ)アクリル酸エステル(A3)成分としては、(メタ)アクリル酸と炭素数1~30のアルコールとのエステル化物が挙げられ、中でも入手のし易さの点から、(メタ)アクリル酸と炭素数1~20のアルコールとのエステル化物が好ましい。そのような化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの混合物を用いてもよい。この中で、熱可塑性樹脂製部材との密着性の点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチルがより好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルがより好ましく、アクリル酸エチルが特に好ましい。なお、「(メタ)アクリル酸~」とは、「アクリル酸~またはメタクリル酸~」を意味する。
【0013】
また、酸変性ポリオレフィン(A)は、上記成分以外に他の成分を酸変性ポリオレフィン(A)の10質量%以下程度、含有してもよい。他の成分としては、1-オクテン、ノルボルネン類等の炭素数6を超えるアルケン類やジエン類、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル類、(メタ)アクリル酸アミド類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、ぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類ならびにビニルエステル類を塩基性化合物等でケン化して得られるビニルアルコール、2-ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、置換スチレン、一酸化炭素、二酸化硫黄などが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。
【0014】
酸変性ポリオレフィン(A)としては、たとえば、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸-無水マレイン酸共重合体、酸変性ポリエチレン、酸変性ポリプロピレン、酸変性エチレン-プロピレン樹脂、酸変性エチレン-ブテン樹脂、酸変性プロピレン-ブテン樹脂、酸変性エチレン-プロピレン-ブテン樹脂、あるいはこれらの酸変性樹脂にさらに(メタ)アクリル酸エステル等でアクリル変性したエチレン-(メタ)アクリル酸エステル-不飽和カルボン酸共重合体等が挙げられ、中でも、エチレン-(メタ)アクリル酸-無水マレイン酸共重合体が好ましい。さらに、酸変性ポリオレフィン(A)は5~40質量%の範囲で塩素化されていてもよい。
【0015】
酸変性ポリオレフィン(A)は、分子量の目安となる190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)が、0~100g/10分であることが好ましい。酸変性ポリオレフィン(A)のメルトフローレートが100g/10分を超えると、密着性やシール性が低下することがある。
【0016】
酸変性ポリオレフィン(A)として、住友化学工業社製のボンダインシリーズ、ヒュルスジャパン社製のベストプラストシリーズ、ダウ・ケミカル社製のプリマコールシリーズ、三洋化成社製のユーメックス、三井化学社製のアドマーシリーズ、東洋紡社製のトーヨータックなどの市販品を使用することができる。また、後述のように水系のコート液とする場合には、市販の水系のものを使用することができ、日本製紙ケミカル社製のスーパークロンシリーズ(E-723、E-503など)、住友精化社製のザイクセンシリーズ(ザイクセンA、ザイクセンL)、三井化学社製のケミパールシリーズ(S-100、S-75Nなど)、東洋紡社製のハードレンシリーズ(EH-801、TD-15B)等を使用することができる。
【0017】
次に、ポリウレタン(B)について説明する。
本発明のシール材を構成するポリウレタン(B)は、主鎖中にウレタン結合を含有する高分子であり、例えばポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との反応で得られるものが挙げられる。
【0018】
ポリウレタン(B)を合成するためのポリオール化合物としては、特に限定されず、例えば、水、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどの低分子量グリコール類、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの低分子量ポリオール類、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド単位を有するポリオール化合物、ポリエーテルジオール類、ポリエステルジオール類などの高分子量ジオール類、ビスフェノールAやビスフェノールFなどのビスフェノール類、ダイマー酸のカルボキシル基を水酸基に転化したダイマージオール等が挙げられる。
【0019】
また、ポリウレタン(B)を合成するためのポリイソシアネート化合物としては、芳香族、脂肪族および脂環族の公知ジイソシアネート類の1種または2種以上の混合物を用いることができる。ジイソシアネート類の具体例としては、トリレンジジイソシアネート、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジメリールジイソシアネート、リジンジイソシアネート、水添4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、水添トリレンジジイソシアネート、ダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート、およびこれらのアダクト体、ビウレット体、イソシアヌレート体などが挙げられる。また、ジイソシアネート類にはトリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネートなどの3官能以上のポリイソシアネート類を用いてもよい。
【0020】
市販のポリウレタン(B)としては、日本ミラクトラン社製のミラクトランシリーズなどが挙げられ、水系のものとしては、三井武田社製のタケラックシリーズ、旭電化工業社製のアデカボンタイターシリーズ、第一工業製薬社製のスーパーフレックスシリーズ、大日本インキ化学工業社製のハイドランシリーズ等が挙げられる。
【0021】
本発明のシール材において、ポリウレタン(B)の含有量は、酸変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、1~40質量部であることが必要であり、密着性、耐溶剤性の点から、2~35質量部であることが好ましく、低温乾燥による造膜性の点から、5~30質量部であることがより好ましく、10~30質量部であることがさらに好ましく、20~30質量部であることが特に好ましい。酸変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、ポリウレタン樹脂(B)の含有量が1質量部未満の場合は、耐溶剤性、密着性、シール性の発現が小さく、一方、40質量部を超えると耐溶剤性、密着性、シール性が低下する傾向がある。
【0022】
本発明のシール材のメルトフローレート(MFR)は、密着性、シール性向上の観点で、190℃、2160g荷重の条件で、10g/10分以下であることが好ましく、5g/10分以下であることがより好ましく、2g/10分以下であることがさらに好ましい。
【0023】
本発明のシール材は、硬化剤(C)を含有することが好ましい。硬化剤を含有することにより、耐溶剤性、金属製部材への密着性が向上する。硬化剤としては、自己架橋性を有する架橋剤、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物、多価の配位座を有する金属錯体等を用いることができ、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、ヒドラジド化合物、メラミン化合物、尿素化合物、カルボジイミド化合物、アジリジン化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤などが挙げられる。
【0024】
オキサゾリン化合物としては、2-イソプロペニル-2-オキサゾリンを含有するオキサゾリン化合物が好ましい。
シール材におけるオキサゾリン化合物の含有量は、酸変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、1~20質量部であることが好ましく、2~15質量部であることがより好ましく、3~10質量部であることがさらに好ましく、3~5質量部であることが特に好ましい。オキサゾリン化合物の含有量が20質量部を超えると、耐溶剤性、金属製部材への密着性が低下する傾向がある。
【0025】
エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、変性ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテルなどを含有するエポキシ化合物が好ましい。
シール材におけるエポキシ化合物の含有量は、酸変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、5~30質量部であることが好ましく、5~25質量部であることがより好ましく、7~20質量部であることがさらに好ましく、10~15質量部であることが特に好ましい。エポキシ化合物の含有量が30質量部を超えると、耐溶剤性、金属製部材への密着性が低下する傾向がある。
【0026】
イソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートを含有するイソシアネート化合物が好ましい。中でも、低温の処理で、シール層の密着性などの性能が向上することから、非ブロック型の多官能イソシアネート化合物、すなわち、非ブロック型のイソシアネート基を1分子中に2個以上含有する化合物が好ましい。ここで「非ブロック型」とは、イソシアネート基がラクタム系やオキシム系の化合物(いわゆるブロック剤)でブロック(「保護」あるいは「マスク」ということもある。)されていないことを示す。改変生成物としては、上記のようなイソシアネート化合物を公知の方法で変性することによって、アロファネート基、ビューレット基、カルボジイミド基、ウレトンイミン基、ウレトジオン基、イソシアヌレート基等のイソシアネートから誘導される官能基を分子中に有する多官能イソシアネート化合物に変性した化合物や、トリメチロールプロパン等の多官能アルコールで変性したアダクト型の多官能イソシアネート化合物を挙げることができる。これらの中でも、イソシアヌレート基を有する多官能イソシアネート化合物は、シール材の耐溶剤性を向上させる点で特に好ましい。なお、多官能イソシアネート化合物には、20質量%以内の範囲でモノイソシアネートが含有されていてもよい。
シール材におけるイソシアネート化合物の含有量は、酸変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、0.5~5質量部であることが好ましく、0.6~4質量部であることがより好ましく、0.7~2質量部であることがさらに好ましい。イソシアネート化合物の含有量が5質量部を超えると、シール層形成用コート液は、液安定性が低下する傾向がある。
【0027】
ヒドラジド化合物としては、ホルムヒドラジド、アセトヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、カルボヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、クエン酸ジヒドラジドなどが例示され、好ましくは、アジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジドである。
シール材におけるヒドラジド化合物の含有量は、酸変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、0.2~5質量部であることが好ましく、0.3~4質量部であることがより好ましく、0.5~2質量部であることがさらに好ましい。ヒドラジド化合物の含有量が5質量部を超えると、金属製部材や熱可塑性樹脂製部材との密着性が低下する傾向がある。
【0028】
上記した硬化剤の中でも、耐溶剤性、金属製部材や熱可塑性樹脂製部材との密着性を向上させる点で、オキサゾリン化合物またはヒドラジド化合物が好ましい。
【0029】
本発明のシール材は、粘着付与剤を含有させてもよい。
粘着付与剤としては、ロジン類、ロジン誘導体、テルペン系樹脂、ブタジエン樹脂等が挙げられ、これらの1種を単独で、または2種以上の混合物を使用することができる。ロジン類としてはガムロジン、ウッドロジンもしくはトール油ロジンの原料ロジンまたは前記原料ロジンを不均化もしくは水素添加処理した安定化ロジンや重合ロジン等が挙げられる。また、ロジン誘導体としてはロジンエステル類、ロジンフェノール類が挙げられる。ロジンエステル類とは、前記ロジン類と多価アルコールとをエステル化反応させて得られたロジンエステル、原料ロジンを部分的にフマル化もしくはマレイン化し、次いでエステル化して得られる部分マレイン化もしくは部分フマル化ロジンの多価アルコールエステル、原料ロジンを部分的にフマル化もしくはマレイン化させた後、不均化し、次いでエステル化して得られる部分マレイン化もしくは部分フマル化不均化ロジンの多価アルコールエステル等をいう。また、ロジンフェノール類とは、ロジン類にフェノール類を付加させ熱重合したもの、または次いでエステル化したものをいう。なお、前記エステル化に用いられる多価アルコールは、特に制限はされず、ジエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,2,6-ヘキサントリオール、1,2,4-ブタントリオール、ペンタエリスリトール等の各種公知のものを例示できる。また、テルペン系樹脂としては、α-ピネン樹脂、β-ピネン樹脂や、α-ピネン、β-ピネン等のテルペン類とスチレン等の芳香族モノマーを共重合させた芳香族変性のテルペン系樹脂およびこれらの水素化物等を例示できる。ブタジエン樹脂としては、1,2-ブタジエン、1,3-ブタジエンまたはこれらの共重合体などが例示できる。これら粘着付与剤の中でも、部材への良好な密着性を発現させることから、ロジンエステル類またはテルペン系樹脂を用いることが好ましい。
粘着付与剤の含有量は、酸変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、5~50質量部が好ましく、10~45質量部がより好ましく、20~40質量部がさらに好ましい。
【0030】
本発明のシール材には、ブロッキング防止剤を含有させてもよく、たとえばシール層を形成した部材を重ねあわせた際の貼り付きを防止することができる。
ブロッキング防止剤としては、例えば、ステアリン酸アミド、カプリル酸アミド、カプリン酸アミド、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、アラギジン酸アミド、ベヘン酸アミド等の飽和脂肪酸モノアミド類、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド等の不飽和脂肪酸モノアミド類、N-ラウリルラウリン酸アミド、N-パルミチルパルミチン酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-オレイルオレイン酸アミド、N-ステアリルオレイン酸アミド、N-オレイルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、N-オレイルパルミチン酸アミド、N-ステアリル12ヒドロキシステアリン酸アミド、N-オレイル12ヒドロキシステアリン酸アミド等の置換アミド類等やメチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスカプリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、N,N-ジステアリルアジピン酸アミド、N-ジステアリルセバシン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、m-キシリレンビスステアリン酸アミド等のビスアミド類、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘン酸アミド等のメチロールアミド類、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、ライスワックス、カルナバワックス等のワックス類などが挙げられる。
ブロッキング防止剤の含有量は、酸変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して0.1~50質量部であることが好ましく、耐ブロッキング性と密着性との点から、0.1~30質量部であることがより好ましく、0.1~20質量部であることがさらに好ましく、0.1~10質量部であることが特に好ましく、1~5質量部であることが最も好ましい。
【0031】
本発明のシール材は、一体化する部材に応じて、さらに他の重合体を含有することができる。
他の重合体としては、特に限定されず、例えば、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビリニデン、スチレン-マレイン酸樹脂、スチレン-ブタジエン樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、変性ナイロン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。これらは、2種以上を混合して使用してもよい。
【0032】
本発明のシール材は、使用目的に応じて、顔料または染料を含有してもよい。顔料または染料は、特に限定されず、一般的に使用されているものを適宜選択すればよい。顔料としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化クロム、硫化カドミウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、シリカ、黄鉛、酸化鉄、カーボンブラックなどの無機顔料、アゾ系、ジアゾ系、縮合アゾ系、チオインジゴ系、インダンスロン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ベンゾイミダゾール系、ペリレン系、ペリノン系、フタロシアニン系、ハロゲン化フタロシアニン系、アントラピリジン系、ジオキサジン系などの有機顔料や蛍光顔料が挙げられる。また、染料としては、直接染料や反応染料、酸性染料、カチオン染料、バット染料、媒染染料などが挙げられる。これらは、2種類以上含有してもよい。
【0033】
本発明のシール材を用いたシール層の形成方法は限定されるものではなく、例えば、酸変性ポリオレフィン(A)とポリウレタン(B)とを含有する樹脂組成物を溶融し、シート状としたものをシール層として用いることができる。また、酸変性ポリオレフィン(A)とポリウレタン(B)を含有するコート液を作製し、これを塗布することによってシール層を形成することができる。
【0034】
前記、コート液によりシール層を形成する場合のコート液の製造方法について説明する。
前記コート液は、酸変性ポリオレフィン(A)とポリウレタン(B)が、溶媒に溶解および/または分散したものであり、その溶解および/または分散方法は特に限定されない。酸変性ポリオレフィン(A)とポリウレタン(B)を、一括して溶媒に溶解および/または分散してもよく、ゲル化を防止するために、個別に溶媒に溶解および/または分散し、その後それらを常温で混合してもよい。個別に溶媒に溶解および/または分散する場合の溶媒はかならずしも同一の溶媒を用いる必要はないが、互いの溶解性が良好な溶媒同士を選定することが液安定性の点から好ましい。
【0035】
コート液に用いる溶媒は、水溶性のもの(水を含む)であっても非水溶性のものであってもよい。ただし地球環境、職場環境問題の観点から、水および/または水溶性の有機溶媒が好ましい。
【0036】
非水溶性の溶媒としては、例えば、トルエン、ヘプタン、キシレン、アミルベンゼン、イソプロピルベンゼン、オクタン、シクロヘキサン、シクロへキシルベンゼン、シクロへキセン、シクロペンタン、ジペンテン、シメン、テレピン油、ヘキサン、ペンタン、メシチレン、メチルシクロヘキサン等に代表される炭化水素などを用いることができる。
【0037】
水溶性の有機溶媒としては、20℃における水に対する溶解性が50g/L以上の有機溶媒である。水溶性の有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec-アミルアルコール、tert-アミルアルコール、1-エチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸-n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸-sec-ブチル、酢酸-3-メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、さらには、3-メトキシ-3-メチルブタノール、3-メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチルなどが挙げられ、これらは単独であっても、2種類以上の混合液であってもよい。
【0038】
水および/または水溶性の有機溶媒に酸変性ポリオレフィン(A)を分散する方法としては例えば、不揮発性の乳化剤を添加せずに分散する方法として、特開2003-119328号公報などに例示された方法を好ましく使用することができる。
【0039】
以上のようにして得られる酸変性ポリオレフィン(A)の水性分散体と、ポリウレタン(B)の水性分散体とを所定の割合で混合することでシール層形成に使用するコート液を得ることができる。
なお、コート液における樹脂成分の含有量は、シール層の形成条件、目的とするシール層の厚さや性能等により適宜調整され、特に限定されず、コート液の粘性を適度に保ち、かつ良好なシール層形成能を発現させる点で、1~50質量%が好ましく、3~50質量%がより好ましく、5~45質量%がさらに好ましく、5~40質量%が特に好ましい。
【0040】
さらに、前記コート液は、必要に応じて、防錆剤、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤等の各種薬剤を含有することも可能である。また、コート液の保存安定性を損なわない範囲で、上記以外の有機もしくは無機の化合物を含有することも可能である。
【0041】
前記コート液は、公知の成膜方法、例えばグラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り、スクリーンコーティング法等により、各種部材表面に均一にコーティングし、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥または乾燥と焼き付けのための加熱処理に供することにより、均一なシール層を各種部材表面に密着させて形成することができる。加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用すればよい。また、加熱温度や加熱時間は、部材の特性や硬化剤の種類、含有量等により適宜選択され、特に限定されないが、前記コート液は、ポリウレタン(B)の含有量をより好ましい範囲で含有させることで、低温度、短時間の乾燥においても、密着性、耐溶剤性、耐ヒートサイクル性に優れたシール層を形成することができる。例えば、加熱温度としては、20~250℃の範囲が挙げられ、25~200℃の範囲が好ましく、30~150℃の範囲がより好ましい。また、硬化剤の反応を進行させるために、20~60℃程度の温度でエージング処理を行ってもよい。また、加熱時間は、1~60秒の範囲が挙げられ、2~40秒の範囲が好ましく、5~30秒の範囲がより好ましい。
【0042】
次に、本発明の複合部材について説明する。
本発明の複合部材は、複数の部材が本発明のシール材からなるシール層を介して一体化されたものである。
本発明の複合部材は、2種類以上の部材の隙間を本発明のシール材でシールされたものであって、部材の形状や材質に限定されるものではない。
【0043】
本発明の複合部材において、各部材を構成する材料としては、金属、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、合成ゴム等が挙げられ、特に限定されない。本発明の複合部材は、軽量化の観点で、少なくとも一つの部材が熱可塑性樹脂製部材であることが好ましい。なお、コート液によりシール層を形成する場合には、耐熱性の比較的低い材料、例えば、融点が180℃以下のPP、PE等の熱可塑性樹脂も部材に適用することができる。
【0044】
部材を構成する樹脂材料としては、ナイロン、ポリエステル、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ABS樹脂、ポリカーボネート、LCP、シンジオタクチックポリスチレン、PE、PP、架橋ポリエチレン、架橋ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニルなどの熱可塑性樹脂や、エポキシ、メラミン、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル、ポリウレタンなどの熱硬化性樹脂、アクリルゴム、ウレタンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、フッ素系ゴム、シリコンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴムなどの合成ゴムが挙げられ、加工性や耐熱性を向上させるために、これらの樹脂を2種類以上用いてもよい。
また、樹脂材料は、ガラス繊維、炭素繊維、ビニロン繊維、タルクなどの樹脂強度を向上させる繊維や無機粒子などを5~50質量%程度含有してもよく、また難燃剤、紫外線吸収剤、架橋剤、帯電防止剤などを0.1~50質量%程度含有してもよい。
【0045】
部材を構成する金属材料としては、アルミニウム、銅、金メッキ銅、銀メッキ銅、錫メッキ銅、ニッケルメッキ銅、クロムメッキ銅、真鍮、ステンレス鋼(SUS)などが挙げられる。また、これらの金属材料からなる部材は、表面に酸化処理、クロメート処理、シランカップリング剤処理などの処理を施して、シール層との密着性を向上させることが好ましい。
【0046】
以下、本発明の複合部材の製造方法を例示する。
【0047】
本発明の複合部材は、たとえば、表面にシール層が形成された一の部材(a)のシール層を介して、他の部材(b)を貼り合わせることにより、複合部材を作製することができる。複合部材において、部材(a)と部材(b)を構成する材料は、同じであっても異なっていてもよい。
シール層が形成された部材(a)に、部材(b)を貼り合わせる方法としては、例えば、シール層が形成された一次部材(a)を金型内に挿入し、部材(b)を構成する熱可塑性樹脂により包埋する方法が挙げられる。成形条件は特に限定されないが、金型温度50~100℃、樹脂温度150~300℃が好ましい。また、シール層が形成された一次部材(a)のシール層面に部材(b)を重ねて熱処理する方法が挙げられる。
本発明の複合部材は、予め部材(a)表面にシール層を形成し、他の部材(b)を貼り合せる方法以外では、たとえば、部材(a)と部材(b)の間にシール層を設け、熱処理により部材(a)と部材(b)を共にシール層を介して貼り合せた複合部材を作製する方法も挙げられる。
【0048】
本発明の複合材料におけるシール層の厚みは、シール性向上の観点から、5μm以上が好ましく、7μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましく、15μm以上が特に好ましい。
【0049】
本発明のシール材は、水や溶剤などに対するシール性に優れることから、防水コネクタ、電子管、真空管、進行波管(クライストロン)、マグネトロン、ブラウン管、プラズマディスプレイ、撮像管、半導体 トランジスタ、集積回路、ダイオード、液晶ディスプレイ、タッチパネル、電気モーター、抵抗器、コンデンサ(キャパシタ)、コイル、トランス 電磁石、ソレノイド、メーター、リレー、圧電素子、振動子、水晶振動子、セラミック発振子、スピーカー、電球、蛍光灯、放電灯、電池、プリント基板、コネクタ、ソケット、プラグ、スイッチ、ヒューズ、電線、アンテナなどの電子部材や、エンジン、シリンダーブロック、クランクケース、トランスミッション、ミッションケース、トランスファーケース、オイルパン、ヘッドカバー、チェーンカバー、インテークマニホールド、エキゾーストパイプなどの自動車用途のダイキャスト製品を含有する複合部材、さらに、玩具、家電(冷蔵庫、洗濯機など)、事務用品(パソコン、プリンターなど)、日用品(カメラ、スマートフォンなど)などの複合部材に好適に用いることができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0051】
なお、各種の特性については以下の方法によって測定または評価した。
1.酸変性ポリオレフィンの特性
(1)構成
1H-NMR分析(バリアン社製、300MHz)より求めた。オルトジクロロベンゼン(d4)を溶媒とし、120℃で測定した。
【0052】
2.酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の特性
(1)固形分濃度
水性分散体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、固形分濃度を求めた。
【0053】
3.シール材特性
(1)メルトフローレート(MFR)
シール層形成用コート液を100℃、2時間の条件で乾燥し、得られたシール材を、JIS K7210記載(190℃、2160g荷重)の方法で測定した。
【0054】
(2)密着性
表2、3記載の樹脂製または金属製の部材(5cm×10cm)全面に、コート液を乾燥後の厚みが表2に記載の厚みになるようにメイヤーバーで塗布して、120℃で1分間乾燥させて、部材上にシール層を形成した。前記シール層に粘着テープ(ニチバン社製TF-12)を貼り付けた後、勢いよくテープを剥離した。シール層の、部材からの剥がれ状態を目視で観察して、下記の基準で、密着性を評価した。
○:全く剥がれがなかった。
△:一部に剥がれが生じた。
×:全て剥がれた。
【0055】
(3)耐溶剤性
2cm×5cm×2mm厚みの錫メッキ銅に、得られたコート液を乾燥後の厚みが表2に記載の厚みになるようにメイヤーバーで2cm×2cmの範囲に塗布した後、120℃で1分間乾燥させて、錫メッキ銅上にシール層を形成した。
錫メッキ銅上に形成したシール層にPBT(ポリプラスチック社製、ジュラネックス531HS)の2cm×5cm×2mm厚みの部材を120℃で貼り合せて、接着面積が2cm×2cmの、錫メッキ銅製部材とPBT部材を含む複合部材を作製した。
作製した複合部材を40℃のエンジンオイル(カストロール社製、GTX DC-TURBO 10W-30 SM/CF)に24時間浸漬し、取り出し後にエンジンオイルをアセトンで洗浄した。洗浄後の複合部材のせん断強度を、引張り試験機(インテスコ社製精密万能材料試験機2020型)を用いて、引張り速度10mm/分の条件で測定し、下記の基準で、シール材の耐溶剤性を評価した。
また、PBT部材をNy(ユニチカ社製、ユニチカナイロン6 A1030GFL)部材に変更して同様にシール材の耐溶剤性を評価した。
◎:500N以上
○:300N以上、500N未満
△:50N以上、300N未満
×:50N未満
【0056】
(4)シール性
実施例、比較例で得られた複合部材(インサート成形品)を用いて、200kPaの圧力をかけることができる容器に、作製したインサート成形品と水を入れて、150kPaの圧力で4時間放置して、大気圧に戻してインサート成形品を取り出し、端子側以外の面については水分を拭き取った状態で
図4の試験装置10に固定し、エアーリーク試験にて、20、50、100kPaの各圧力にて、シール層からの空気の漏れと水の漏れにより、下記の基準でシール性を評価した。実用的には、20kPa以上の圧力をかけても空気の漏れも水の漏れもないものである。
◎:100kPaの圧力でも空気も水も漏れない。
○:50kPaの圧力では空気も水も漏れないが、100kPaの圧力で空気か水のいずれかが漏れる。
△:20kPaの圧力では空気も水も漏れないが、50kPaの圧力で空気か水のいずれかが漏れる。
×:20kPaの圧力で空気か水のいずれかが漏れる。
【0057】
(5)耐溶剤試験後のシール性
作製したインサート成形品を、40℃のエンジンオイル(カストロール社製、GTX DC-TURBO 10W-30 SM/CF)に24時間浸漬し、取り出し後にエンジンオイルをアセトンで洗浄した。この成形品を用いた以外は、上記(4)シール性の評価方法と同じ方法により、耐溶剤試験後のシール性を評価した。
【0058】
(6)ヒートサイクル試験後のシール性
作製したインサート成形品を、冷熱衝撃装置(ESPEC社製TSA-73)を使用して、マイナス40℃(30分間保持)と140℃(30分間保持)を1サイクルとし、10サイクルのヒートサイクル試験を行い、室温まで戻した。この成形品を用いた以外は、上記(4)シール性の評価方法と同じ方法により、ヒートサイクル試験後のシール性を評価した。
【0059】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体は、下記の方法で製造した。
【0060】
酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E-1の製造
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gの酸変性ポリオレフィンA-1(住友化学工業社製、ボンダインHX-8290)、60.0gのイソプロパノール、2.2gのトリエチルアミン、および177.8gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を120℃に保ってさらに20分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E-1を得た。水性分散体の各種特性を表1に示した。
【0061】
酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E-2の製造
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gの酸変性ポリオレフィンA-2(ヒュルスジャパン社製、ベストプラスト708)、45.0gのエチレングリコール-n-ブチルエーテル、6.9gのN,N-ジメチルエタノールアミンおよび188.1gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を140℃に保ってさらに60分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白黄色の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E-2を得た。この水性分散体の各種特性を表1に示した。
【0062】
酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E-3の製造
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gの酸変性ポリオレフィンA-3(ダウ・ケミカル社製、プリマコール5980I)、16.8gのトリエチルアミン、および223.2gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を130℃に保ってさらに30分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、微白色の酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E-3を得た。この水性分散体の各種特性を表1に示した。
【0063】
【0064】
ポリウレタン(B)は、下記の水性分散体を使用した。
【0065】
ポリエーテル型ポリウレタン樹脂水性分散体U-1:
DSM社製、NeoRez R-600(固形分濃度32質量%、水分68質量%)
ポリエステル型ポリウレタン樹脂水性分散体U-2:
アデカ社製、アデカボンタイターHUX-380(固形分濃度37質量%、水分63質量%)
【0066】
硬化剤(C)は、下記のものを使用した。
K-1:日本触媒社製、エポクロスWS-700(固形分濃度25質量%)
K-2:大塚化学社製、ADH(固形分濃度8質量%の水溶液)
【0067】
実施例1
(コート液の調製)
酸変性ポリオレフィン(E-1)の固形分100質量部に対して、ポリウレタン(U-1)の固形分が30質量部となるように、また硬化剤(K-1)の固形分が5質量部になるように、室温にてメカニカルスターラーで攪拌(100rpm)、混合し、コート液を得た。
(シール層の形成、複合部材(インサート成形品)の作製)
得られたコート液を、
図1に示すように錫メッキ銅の端子1ならびに端子1に接続される電線2に塗布し、150℃、30秒で乾燥させて1μm厚みになるようにシール層3を形成した。端子を、形成したNy樹脂(ユニチカ社製、ユニチカナイロン6 A1030GFL)製部材4の差込口5にはめ込み、
図2に示す一次成形品6を得た。
一次成形品6の所定箇所に前記同様にコート液を塗布して150℃、30秒で乾燥させて1μm厚みになるようにシール層7を形成した。そして、一次成形品6を金型内に配置し、PBT樹脂(ポリプラスチック社製、ジュラネックス531HS)を金型内に射出(インサート成形)し、
図3に示す射出樹脂製部材8を有する複合部材9を作製した。また別の複合部材を作製した。つまり、射出樹脂をNy樹脂(ユニチカ社製、ユニチカナイロン6 A1030GFL)やPPS樹脂(ポリプラスチック社製、ジュラファイド1130A6 HD9100)に変更し、また端子1をアルミ製のものに変更して同様に複合部材を得た。
【0068】
実施例2~37、比較例1~6
表2に示すように、酸変性ポリオレフィンの種類、ポリウレタンの種類や質量部、硬化剤の種類や質量部、シール層の厚み、乾燥条件を変更した以外は、実施例1と同様の操作を行ってシール層を形成し、また複合部材(インサート成形品)を作製した。
【0069】
比較例7
比較例7では、ブチルゴム系両面テープ(寺岡製作所社製、718、厚み0.5mm)を使用し、部材と部材を両面テープで貼り合せて複合部材を得た。
【0070】
比較例8
比較例8では、PP系ホットメルト接着剤(3M社製、Scotch-Weld3797)を使用し、部材上にシール層を形成した。そして、実施例1の複合部材の作製と同様の方法で、複合部材を作製した。
【0071】
比較例9
比較例9では、2液ウレタン接着剤(トーヨーポリマー社製、ルビロンKA-10(主剤)/KB-35ME(硬化剤))を使用し、部材上にシール層を形成した。そして、実施例1の複合部材の作製と同様の方法で、複合部材を作製した。
【0072】
実施例、比較例のシール材特性の結果を表2、3に示す。
【0073】
【0074】
【0075】
実施例のシール材は、様々な樹脂や金属との密着性、シール性に優れ、また、耐溶剤性にも優れており、耐溶剤試験後のシール性も良好であり、また、耐ヒートサイクル性にも優れていた。特に実施例8、9、15、17、18、21、24、25、30、31、33、34、37のシール材については、ポリウレタン(B)の含有量が特に好ましい範囲であり、シール材の厚みも特に好ましい範囲であるため、優れたシール性を有していた。また、ポリウレタン(B)の含有量が特に好ましい範囲である実施例2、4、6においては、コート液の乾燥条件が40℃、5秒という低い温度、短時間であってもシール性は良好であった。
一方、比較例1~3のシール材は、ポリウレタンの含有量が本発明で規定する量よりも少なかったため、密着性、シール性が劣っていた。
比較例4~6のシール材は、酸変性量が本発明の規定範囲を超えた酸変性ポリオレフィンをシール材に用いたため、耐溶剤性が劣っていた。
比較例7では、シール材がブチルゴム系の両面テープであるため、密着性は良好であったものの、耐溶剤性やシール性が不十分であった。
比較例8では、シール材がPP系のホットメルト接着剤であり、本発明で規定する酸変性ポリオレフィンとポリウレタンを含有するシール材組成ではないため、シール性が劣る結果となった。
比較例9では、シール材が2液ウレタン接着剤であるため、耐溶剤性に劣る結果であった。
【符号の説明】
【0076】
1 端子
2 電線
3 シール層
4 Ny製部材
5 差込口
6 一次成形品
7 シール層
8 射出樹脂製部材
9 複合部材
10 試験装置
11 空気
12 空気、水