(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】条件付きノックアウト動物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A01K 67/027 20060101AFI20220203BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20220203BHJP
C12N 15/61 20060101ALI20220203BHJP
C12N 15/877 20100101ALI20220203BHJP
C12N 15/90 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
A01K67/027 ZNA
C12N15/09 Z
C12N15/09 110
C12N15/61
C12N15/877 Z
C12N15/90 104Z
(21)【出願番号】P 2018559561
(86)(22)【出願日】2017-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2017046837
(87)【国際公開番号】W WO2018124155
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2016254276
(32)【優先日】2016-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業「新規CRISPR-Casシステムセットの開発とその医療応用」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畑田 出穂
(72)【発明者】
【氏名】堀居 拓郎
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-189796(JP,A)
【文献】国際公開第2016/133165(WO,A1)
【文献】Sung-Bum Sohn et al.,Suitable Glass-Ceramic Sealant for Planar Solid-Oxide Fuel Cells,J. Am. Ceram. Soc.,2004年,Vol. 87, No. 2,pp. 254-260
【文献】MENKE D.B.,Engineering subtle targeted mutations into the mouse genome.,Genesis, 2013, Vol.51, pp.605-618
【文献】NAKAO H. et al.,A possible aid in targeted insertion of large DNA Elements by CRISPR/Cas in mouse zygotes.,Genesis, 2016.01.17, Vol.54, pp.65-77
【文献】YIU-FAI LEE A. et al.,Conditional targeting of Ispd using paired Cas9 nickase and a single DNA template in mice.,FEBS Open Bio, 2014, Vol.4, pp.637-642
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
A01K 67/027
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程
(A)非ヒト動物細胞の染色体上に第1のリコンビナーゼ認識配列を導入する工程;
(B)前記工程(A)の後に、前記動物細胞の前記染色体上に第2のリコンビナーゼ認識配列を導入する工程;
(C)前記工程(B)の後に、前記動物細胞から前記第1及び第2のリコンビナーゼ認識配列が染色体上に導入された形質転換非ヒト動物を得る工程;
を含む、形質転換非ヒト動物の製造方法であって:
第1および第2のリコンビナーゼ認識配列が、リコンビナーゼによりそれらの間で組み換えが起こる塩基配列であり、前記染色体上の標的部位を挟むように導入され、
第1および第2のリコンビナーゼ認識配列の導入が、エレクトロポレーション法を利用したCRISPR/Cas法により実施され、
前記工程(A)が受精卵に対して実施され、前記工程(B)が2細胞期胚に対して実施される、方法。
【請求項2】
第1および第2のリコンビナーゼ認識配列が、loxP、VloxP、SloxP、rox、FRT、RS、またはgixである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リコンビナーゼが、Cre、VCre、SCre、Dre、FLP、R、またはGinである、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
前記形質転換非ヒト動物が、サル、チンパンジー、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ、またはネコである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記標的部位が標的遺伝子のエクソンを含む部位である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記非ヒト動物細胞が条件付きで前記リコンビナーゼを発現する非ヒト動物の細胞であり、前記工程(A)~(C)により条件付き染色体改変非ヒト動物が得られる、条件付き染色体改変非ヒト動物の製造方法である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
下記工程(X)および(Y)を含む、条件付き染色体改変非ヒト動物の製造方法:
(X)請求項1~
5のいずれか1項に記載の方法により前記形質転換非ヒト動物を得る工程;
(Y)前記形質転換非ヒト動物と条件付きで前記リコンビナーゼを発現する非ヒト動物を交配し、条件付き染色体改変非ヒト動物を得る工程。
【請求項8】
条件付きで前記リコンビナーゼを発現する非ヒト動物が、前記リコンビナーゼを組織特異的または時期特異的に発現する非ヒト動物、または特定の条件下で機能するリコンビナーゼを発現する非ヒト動物である、請求項
6または
7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、条件付き(コンディショナル)ノックアウト動物の製造方法およびその関連技術に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子の働きは、その遺伝子を破壊(ノックアウト)した個体を作製し、正常な個体と表現型を比較することによって推定することができる。マウスは比較的ヒトと遺伝子の働きが似ており、取り扱いも容易なため、これまでに数多くのノックアウトマウスが作成され、遺伝子機能解析に利用されてきた。しかし、遺伝子が全身で機能し、且つその役割が重要である場合には、その遺伝子の通常のノックアウトでは胎生致死(胎児期に死亡して産まれてこない)となるため、個体での遺伝子機能解析を行うことができない。それを解決するために開発された方法が条件付きノックアウト(conditional knockout)である。条件付きノックアウトでは、組織特異的または時期特異的に遺伝子をノックアウトできるため、胎生致死とならず、産まれてきた個体での遺伝子機能解析が可能となる。
【0003】
条件付きノックアウトマウスの作製法として、例えば、Cre/loxPシステムやFlp/FRTシステムが利用される。最もよく利用されるCre/loxPシステムでは、例えば、まず、ノックアウトしたい遺伝子のエクソン(タンパク質をコードする領域)の両端のイントロン部分(タンパク質をコードしない領域)にそれぞれloxPという34塩基からなる配列を同方向に配置されるように挿入する。エクソンが2つのloxPに挟まれた状態をFlox(Flanked loxP)という。この段階ではエクソンは破壊されていないため、遺伝子は正常に機能する。loxPが同方向に配置されている場合、Flox染色体にCreリコンビナーゼが働くと、loxPに挟まれた領域が切り出され、欠失する。よって、Floxマウスと組織特異的にCreリコンビナーゼを発現するマウスとを交配させれば、特定の組織でのみ遺伝子がノックアウトされた条件付きノックアウトマウスを得ることができる。
【0004】
条件付きノックアウトマウスの作製は、従来、ES細胞とターゲティングカセットを用いて染色体にloxPが導入された相同組換えES細胞を樹立し、それらをマウスの初期胚に導入してキメラマウスを作製し、さらに交配をさせて子孫を得るという煩雑な作業により行われてきた。近年、CRISPR/Casを初めとするゲノム編集技術の台頭により、受精卵の染色体を直接改変することが可能となった。これにより、例えば、2つのloxPを1ステップで受精卵の染色体に導入し、短時間でFloxマウスを作製することができる(非特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Hui Yang, et al., One-step generation of mice carrying reporter and conditional alleles by CRISPR/Cas mediated genome engineering. Cell. 2013 Sep 12; 154(6): 1370-1379.
【文献】Nakagawa Y, et al., Hyperlipidemia and hepatitis in liver-specific CREB3L3 knockout mice generated using a one-step CRISPR/Cas9 system. Sci Rep. 2016 Jun 13;6:27857.
【文献】Yoshiko Nakagawa, et al., Ultra-superovulation for the CRISPR-Cas9-mediated production of gene-knockout, single-amino-acid-substituted, and floxed mice. Biology Open 2016 5: 1142-1148.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、2つのloxPを1ステップで受精卵の染色体に導入し、短時間でFloxマウスを作製する技術が報告されている。しかしながら、それらの技術によるFlox効率(Flox動物が得られる効率)は低い。
【0007】
本発明は、効率的な条件付きノックアウト動物の製造方法およびその関連技術(効率的なFlox動物の製造方法、等)を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、上記技術によるFlox効率が低い主な原因は、染色体を同時に2箇所で切断するため、染色体の欠失が優先的に起こることであると考えた。本発明者らは、2つのloxPを相異なるタイミングで(すなわち2ステップに分けて)染色体に導入することにより、高いFlox効率が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通り例示できる。
[1]
下記工程
(A)非ヒト動物細胞の染色体上に第1のリコンビナーゼ認識配列を導入する工程;
(B)前記工程(A)の後に、前記動物細胞の前記染色体上に第2のリコンビナーゼ認識配列を導入する工程;
(C)前記工程(B)の後に、前記動物細胞から前記第1及び第2のリコンビナーゼ認識配列が染色体上に導入された形質転換非ヒト動物を得る工程;
を含む、形質転換非ヒト動物の製造方法であって:
第1および第2のリコンビナーゼ認識配列が、リコンビナーゼによりそれらの間で組み換えが起こる塩基配列であり、前記染色体上の標的部位を挟むように導入される、方法。
[2]
第1および第2のリコンビナーゼ認識配列が、loxP、VloxP、SloxP、rox、FRT、RS、またはgixである、前記方法。
[3]
前記リコンビナーゼが、Cre、VCre、SCre、Dre、FLP、R、またはGinである、前記方法。
[4]
第1および第2のリコンビナーゼ認識配列の導入が、CRISPR/Cas法、TALEN法、またはZFN法により実施される、前記方法。
[5]
第1および第2のリコンビナーゼ認識配列の導入が、エレクトロポレーション法により実施される、前記方法。
[6]
第1および第2のリコンビナーゼ認識配列の導入が、マイクロインジェクション法により実施される、前記方法。
[7]
前記工程(A)および(B)が受精卵または胚に対して実施される、前記方法。
[8]
前記工程(A)が受精卵に対して実施され、前記工程(B)が2細胞期胚に対して実施される、前記方法。
[9]
前記形質転換非ヒト動物がサル、チンパンジー、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ、またはネコである、前記方法。
[10]
前記標的部位が、標的遺伝子のエクソンを含む部位である、前記方法。
[11]
前記非ヒト動物細胞が条件付きで前記リコンビナーゼを発現する非ヒト動物の細胞であり、前記工程(A)~(C)により条件付き染色体改変非ヒト動物が得られる、条件付き染色体改変非ヒト動物の製造方法である、前記方法。
[12]
下記工程(X)および(Y)を含む、条件付き染色体改変非ヒト動物の製造方法:
(X)前記方法により前記形質転換非ヒト動物を得る工程;
(Y)前記形質転換非ヒト動物と条件付きで前記リコンビナーゼを発現する非ヒト動物を交配し、条件付き染色体改変非ヒト動物を得る工程。
[13]
条件付きで前記リコンビナーゼを発現する非ヒト動物が、前記リコンビナーゼを組織特異的または時期特異的に発現する非ヒト動物、または特定の条件下で機能するリコンビナーゼを発現する非ヒト動物である、前記方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】マウス胚盤胞期胚におけるMeCP2遺伝子でのFlox効率(Flox数/胚盤胞数)のデータを示す図。
【
図2】マウス胚盤胞期胚におけるMeCP2遺伝子での生存率(胚盤胞数/受精卵数)のデータを示す図。
【
図3】マウス産仔におけるMeCP2遺伝子でのFlox効率および染色体欠失率のデータを示す図。
【
図4】Creリコンビナーゼを発現する受精卵を用いたFloxマウスの構築手順を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
<1>形質転換動物細胞および形質転換動物の製造方法
本発明の形質転換動物細胞の製造方法は、動物細胞の染色体上に第1および第2のリコンビナーゼ認識配列を導入する工程を含む、形質転換動物細胞の製造方法であって、第1および第2のリコンビナーゼ認識配列の導入が相異なるタイミングで(すなわち2ステップに分けて)実施される、方法である。同方法により製造される形質転換動物細胞を、「本発明の動物細胞」ともいう。同方法において、第1のリコンビナーゼ認識配列の導入が先に、第2のリコンビナーゼ認識配列の導入が後に実施されるものとする。以下、第1のリコンビナーゼ認識配列を導入する工程を「工程(A)」又は「工程A」、第2のリコンビナーゼ認識配列を導入する工程を「工程(B)」又は「工程B」ともいう。
【0013】
すなわち、本発明の形質転換動物細胞の製造方法は、言い換えると、下記工程(A)および(B)を含む、形質転換動物細胞の製造方法である:
(A)動物細胞の染色体上に第1のリコンビナーゼ認識配列を導入する工程;
(B)前記工程(A)の後に、前記動物細胞の前記染色体上に第2のリコンビナーゼ認識配列を導入する工程。
【0014】
また、得られた形質転換動物細胞から形質転換動物を得ることができる。すなわち、本発明の形質転換動物の製造方法は、前記方法により形質転換動物細胞を生成する工程、および該形質転換動物細胞から形質転換動物を得る工程を含む、形質転換動物の製造方法である。同方法により製造される形質転換動物を、「本発明の形質転換動物」ともいう。以下、形質転換動物細胞から形質転換動物を得る工程を「工程(C)」又は「工程C」ともいう。
【0015】
すなわち、本発明の形質転換動物の製造方法は、言い換えると、下記工程(A)~(C)を含む、形質転換動物の製造方法である:
(A)動物細胞の染色体上に第1のリコンビナーゼ認識配列を導入する工程;
(B)前記工程(A)の後に、前記動物細胞の前記染色体上に第2のリコンビナーゼ認識配列を導入する工程;
(C)前記工程(B)の後に、前記動物細胞から形質転換動物を得る工程。
【0016】
本発明の動物細胞および本発明の動物を総称して「本発明の形質転換体」ともいう。
【0017】
動物の種類はヒト以外の動物(非ヒト動物)であれば特に制限されない。非ヒト動物は、本発明の形質転換体の用途等の諸条件に応じて適宜選択できる。非ヒト動物としては、非ヒト哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫類が挙げられる。非ヒト動物としては、特に、非ヒト哺乳類が挙げられる。非ヒト哺乳類としては、サル、チンパンジー等の霊長類、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ウサギ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ等のその他の各種非ヒト哺乳類が挙げられる。
【0018】
「動物細胞」とは、動物の細胞をいう。細胞の種類は、特に制限されない。細胞は、本発明の形質転換体の用途等の諸条件に応じて適宜選択できる。細胞は、単細胞であってもよく、多細胞であってもよい。細胞としては、受精卵(未分割の受精卵)、胚、胚盤胞、幹細胞、体細胞、生殖細胞が挙げられる。胚としては、2細胞期胚やそれ以降の胚が挙げられる。
【0019】
各工程を実施する細胞の種類は、本発明の形質転換体が得られる限り特に制限されない。細胞の種類は、例えば、各工程の進行に伴って変動し得る。例えば、工程Bは、工程Aの実施後、細胞が細胞分裂する前に実施してもよく、細胞が細胞分裂した後に実施してもよい。工程Bは、工程Aの実施後、特に、細胞が1回またはそれ以上細胞分裂した後に実施してよく、さらに特には、細胞が1回細胞分裂した後に実施してよい。工程Aを実施する細胞としては、特に受精卵や胚が挙げられ、さらに特には受精卵が挙げられる。工程Bを実施する細胞としては、特に受精卵や胚が挙げられ、さらに特には胚が挙げられる。すなわち、具体的には、例えば、工程Aを受精卵に対して実施し、工程Bを胚に対して実施してよい。また、特には、工程Aを受精卵に対して実施し、工程Bを2細胞期胚に対して実施してよい。工程Cを実施する細胞としては、特に動物の個体へと直接発生し得る細胞が挙げられ、さらに特には受精卵、胚、胚盤胞が挙げられる。
【0020】
第1および第2のリコンビナーゼ認識配列は、染色体上の標的部位を挟むように導入される。すなわち、第2の改変染色体は、第1および第2のリコンビナーゼ認識配列、ならびにそれらに挟まれた部位(標的部位)を有する。同様に、第2の形質転換動物細胞(本発明の動物細胞)および本発明の動物は、染色体上に、第1および第2のリコンビナーゼ認識配列、ならびにそれらに挟まれた部位(標的部位)を有する。
【0021】
標的部位は、後述する条件付き染色体改変動物において、リコンビナーゼによる改変対象となる部位である。標的部位は、特に制限されない。標的部位は、本発明の形質転換体の用途等の諸条件に応じて適宜設定できる。標的部位としては、遺伝子の一部または全部を含む部位が挙げられる。遺伝子としては、例えば、条件付きノックアウトを希望する遺伝子(標的遺伝子)が挙げられる。遺伝子の一部としては、エクソン、イントロン、発現制御配列(プロモーター等)が挙げられる。遺伝子の一部としては、特に、エクソンが挙げられる。標的部位は、例えば、1つの遺伝子の一部または全部を含んでいてもよく、2つまたはそれ以上の遺伝子の一部または全部を含んでいてもよい。また、標的部位は、例えば、これら遺伝子の一部から選択される1つの部位を含んでいてもよく、2つまたはそれ以上の部位を含んでいてもよい。
【0022】
第1および第2のリコンビナーゼ認識配列は、染色体上の標的部位の両端にそれぞれ導入される。具体的には、例えば、エクソンの両端のイントロンに第1および第2のリコンビナーゼ認識配列をそれぞれ導入することにより、該エクソンを挟むように第1および第2のリコンビナーゼ認識配列を導入することができる。
【0023】
標的部位のいずれの端に先にリコンビナーゼ認識配列を導入するか、すなわち、標的部位のいずれの端に第1のリコンビナーゼ認識配列を導入するか、は特に制限されない。
【0024】
第1および第2のリコンビナーゼ認識配列は、染色体上で同方向に配置されていてもよく、染色体上で逆方向に配置されていてもよい。
【0025】
第1および第2のリコンビナーゼ認識配列は、リコンビナーゼによりそれらの間で組み換えが起こる塩基配列である。第1および第2のリコンビナーゼ認識配列は、リコンビナーゼによりそれらの間での組み換えが起こる限り、特に制限されない。該リコンビナーゼ(第1および第2のリコンビナーゼ認識配列の間での組み換えを起こすリコンビナーゼ)を「第1および第2のリコンビナーゼ認識配列に対応するリコンビナーゼ」ともいう。「リコンビナーゼにより第1および第2のリコンビナーゼ認識配列の間での組み換えが起こる」とは、第1および第2のリコンビナーゼ認識配列が対応するリコンビナーゼにより認識され、以て、それらに挟まれた部位(標的部位)の改変が起こることをいう。標的部位の改変としては、標的部位の欠損や逆位が挙げられる。標的部位の改変としては、特に、標的部位の欠損が挙げられる。一般的に、第1および第2のリコンビナーゼ認識配列が染色体上で同方向に配置されていれば標的部位の欠損が生じ得る。また、一般的に、第1および第2のリコンビナーゼ認識配列が染色体上で逆方向に配置されていれば標的部位の逆位が生じ得る。
【0026】
リコンビナーゼ認識配列とそれを認識するリコンビナーゼの組み合わせを「組換えシステム」ともいう。組換えシステムとしては、Cre/loxPシステム(B Sauer, Functional expression of the cre-lox site-specific recombination system in the yeast Saccharomyces cerevisiae. Mol. Cell. Biol.: 1987, 7(6);2087-96.)、VCre/VloxPシステム(WO2010/143606)、SCre/SloxPシステム(WO2010/143606)、Dre/roxシステム(US2006-094029A1)、FLP/FRTシステム(J R Broach, et al., Recombination within the yeast plasmid 2mu circle is site-specific. Cell: 1982, 29(1);227-34.)、R/RSシステム(H Araki, et al., Molecular and functional organization of yeast plasmid pSR1. J. Mol. Biol.: 1985, 182(2);191-203.)、Gin/gixシステム(S Maeser, R Kahmann, The Gin recombinase of phage Mu can catalyse site-specific recombination in plant protoplasts. Mol. Gen. Genet.: 1991, 230(1-2);170-6.)が挙げられる。
【0027】
すなわち、リコンビナーゼ認識配列としては、loxP、VloxP、SloxP、rox、FRT、RS、gixが挙げられる。また、リコンビナーゼとしては、それぞれ、loxP、VloxP、SloxP、rox、FRT、RS、gixに対応する、Cre、VCre、SCre、Dre、FLP、R、Ginが挙げられる。これらリコンビナーゼ認識配列の塩基配列を表1に示す。表1に示す塩基配列からなるリコンビナーゼ認識配列を「野生型リコンビナーゼ認識配列」ともいう。リコンビナーゼ認識配列は、一般的に、両端の逆方向反復配列とそれらに挟まれたスペーサー領域からなり、スペーサー領域がリコンビナーゼ認識配列の方向を規定する。例えば、loxPは、両端のそれぞれ13 bpの逆方向反復配列とそれらに挟まれた8 bpのスペーサー領域からなる。「第1および第2のリコンビナーゼ認識配列が染色体上で同方向に整列する」とは、それらリコンビナーゼ認識配列のスペーサー領域が染色体上で同方向を向いていることをいう。また、「第1および第2のリコンビナーゼ認識配列が染色体上で逆方向に整列する」とは、それらリコンビナーゼ認識配列のスペーサー領域が染色体上で逆方向を向いていることをいう。
【0028】
【0029】
また、リコンビナーゼ認識配列は、リコンビナーゼにより第1および第2のリコンビナーゼ認識配列の間で組み換えが起こる限り、上記例示した塩基配列のバリアントであってもよい。リコンビナーゼ認識配列のバリアントは、例えば、上記例示した塩基配列に対し、50%以上、60%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、または97%以上の同一性を有する塩基配列からなるものであってよい。また、リコンビナーゼ認識配列のバリアントは、例えば、上記例示した塩基配列において、1または数個の塩基が置換、欠失、挿入、および/または付加された塩基配列からなるものであってもよい。「1または数個」とは、例えば、1~15個、1~12個、1~10個、1~8個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、または1個であってよい。例えば、loxPのバリアントとしては、lox66、lox71、lox511、lox2272、loxFAS、lox RE、lox LEが挙げられる。VloxPのバリアントとしては、Vlox2272、VloxM1、VloxM2、Vlox43R、Vlox43Lが挙げられる。SloxPのバリアントとしては、Slox2272、SloxM1、SloxV1R、SloxV1Lが挙げられる。これらバリアントの塩基配列を表2に示す。
【0030】
【0031】
上記例示した名称で特定されるリコンビナーゼ認識配列は、上記例示した野生型リコンビナーゼ認識配列に限られず、それらのバリアントも包含する。すなわち、例えば、「loxP」という用語は、野生型loxP(配列番号13のloxP)に限られず、lox66、lox71、lox511、lox2272、loxFAS、lox RE、lox LE等のloxPのバリアントも包含する。
【0032】
「リコンビナーゼ認識配列を染色体に導入する」とは、上記例示したようなリコンビナーゼ認識配列の塩基配列からなる塩基配列を染色体に導入する場合に限られず、それらの塩基配列を含む塩基配列を染色体に導入する場合も包含する。すなわち、例えば、上記例示したようなリコンビナーゼ認識配列の塩基配列に制限酵素の認識部位等の所望の配列が付加されてなる配列を染色体に導入する場合も、「リコンビナーゼ認識配列を染色体に導入する」ことに含まれる。
【0033】
第1および第2のリコンビナーゼ認識配列は、リコンビナーゼによりそれらの間での組み換えが起こる限り、同一の塩基配列からなるものであってよく、そうでなくてもよい。例えば、いずれかの野生型リコンビナーゼ認識配列およびそのバリアントからなる群より選択される単一の塩基配列を第1および第2のリコンビナーゼ認識配列として共通に用いることができる。具体的には、例えば、loxP(野生型loxPおよびそのバリアント)から選択される単一の塩基配列を第1および第2のリコンビナーゼ認識配列として共通に用いることができる。また、例えば、いずれかの野生型リコンビナーゼ認識配列およびそのバリアントからなる群より選択される2種の塩基配列を第1および第2のリコンビナーゼ認識配列として用いることができる。具体的には、例えば、loxP(野生型loxPおよびそのバリアント)から選択される2種の塩基配列を第1および第2のリコンビナーゼ認識配列として用いることができる。いずれの場合にも、第1および第2のリコンビナーゼ認識配列としては、適宜、リコンビナーゼによりそれらの間での組み換えが起こる組み合わせを選択する。例えば、loxP(野生型loxPおよびそのバリアント)はいずれもCreにより認識されるが、このことは、いずれのloxPの組み合わせでもCreにより組換えが起こることは意味しない。よって、第1および第2のリコンビナーゼ認識配列としてloxPを用いる場合、適宜、Creにより組換えが起こるloxPの組み合わせを選択する。一般的に、野生型loxP同士やlox2272同士等の同一の塩基配列からなるリコンビナーゼ認識配列同士ではCreによる組換えが起こる。一方、loxPとlox2272との間ではCreによる組換えが起こらない(実験医学 2014年11月号 Vol.32 No.18)。Creによって組み換えが起こる相異なる塩基配列からなるリコンビナーゼ認識配列の組み合わせとして、具体的には、lox66とlox71の組み合わせが挙げられる。
【0034】
工程Aは、動物細胞の染色体上に第1のリコンビナーゼ認識配列を導入する工程である。
【0035】
なお、工程Aを実施することを、例えば、「動物細胞に対して工程Aを実施する」または「染色体に対して工程Aを実施する」ともいう。
【0036】
工程Aを実施することにより、第1のリコンビナーゼ認識配列が導入された染色体(すなわち第1のリコンビナーゼ認識配列を有する染色体)が生成する。該染色体(工程Aにより生成した染色体)を「第1の改変染色体」ともいう。すなわち、工程Aは、より具体的には、動物細胞の染色体上に第1のリコンビナーゼ認識配列を導入し、第1の改変染色体を生成する工程であってよい。また、工程Aを実施することにより、染色体上に第1のリコンビナーゼ認識配列が導入された動物細胞(すなわち染色体上に第1のリコンビナーゼ認識配列を有する動物細胞)、言い換えると、第1の改変染色体を保持する動物細胞が生成する。該動物細胞(工程Aにより生成した動物細胞)を「第1の形質転換動物細胞」ともいう。すなわち、工程Aは、より具体的には、動物細胞の染色体上に第1のリコンビナーゼ認識配列を導入し、第1の形質転換動物細胞を生成する工程であってもよい。
【0037】
なお、「第1の改変染色体」とは、第1のリコンビナーゼ認識配列を有する限り、工程Aで第1のリコンビナーゼ認識配列の導入が起こった染色体そのものに限られず、該導入の後に該染色体から複製等の過程を経て生じた染色体も包含される。例えば、第1の形質転換動物細胞が細胞分裂して第1の改変染色体の娘染色体を保持する娘細胞が生じた場合、該娘染色体も「第1の改変染色体」に該当する。同様に、「第1の形質転換動物細胞」とは、第1の改変染色体を保持する限り、工程Aで染色体上に第1のリコンビナーゼ認識配列の導入が起こった動物細胞そのものに限られず、該導入の後に該動物細胞から細胞分裂等の過程を経て生じた細胞も包含される。例えば、第1の形質転換動物細胞が細胞分裂して第1の改変染色体の娘染色体を保持する娘細胞が生じた場合、該娘細胞も「第1の形質転換動物細胞」に該当する。
【0038】
工程Bは、前記工程Aの後に、前記染色体上に第2のリコンビナーゼ認識配列を導入する工程である。工程Bは、より具体的には、前記工程Aの後に、前記動物細胞の前記染色体上に第2のリコンビナーゼ認識配列を導入する工程である。工程Bは、工程Aの後に実施される。工程Bにおいていう「前記染色体」とは、工程Aの実施対象となった染色体であって、工程Aの実施後のものをいう。すなわち、工程Bにおいていう「前記染色体」とは、工程Aにより第1のリコンビナーゼ認識配列が導入された染色体であり、言い換えると、第1の改変染色体であり、より具体的には、第1の形質転換動物細胞が保持する第1の改変染色体である。また、工程Bにおいていう「前記動物細胞」とは、工程Aの実施対象となった動物細胞であって、工程Aの実施後のものをいう。すなわち、工程Bにおいていう「前記動物細胞」とは、工程Aにより染色体上に第1のリコンビナーゼ認識配列が導入された動物細胞であり、言い換えると、第1の形質転換動物細胞である。すなわち、工程Bは、言い換えると、第1の改変染色体上に第2のリコンビナーゼ認識配列を導入する工程であり、より具体的には、第1の形質転換動物細胞が保持する第1の改変染色体上に第2のリコンビナーゼ認識配列を導入する工程である。
【0039】
なお、工程Bを実施することを、例えば、「動物細胞(具体的には第1の形質転換動物細胞)に対して工程Bを実施する」または「染色体(具体的には第1の改変染色体)に対して工程Bを実施する」ともいう。
【0040】
工程Bを実施することにより、第2のリコンビナーゼ認識配列がさらに導入された第1の改変染色体(すなわち第1および第2のリコンビナーゼ認識配列を有する染色体)が生成する。該染色体(工程Bにより生成した染色体)を「第2の改変染色体」ともいう。すなわち、工程Bは、より具体的には、第1の改変染色体上に第2のリコンビナーゼ認識配列を導入し、第2の改変染色体を生成する工程であってよい。また、工程Bを実施することにより、第1の改変染色体上に第2のリコンビナーゼ認識配列がさらに導入された動物細胞(すなわち染色体上に第1および第2のリコンビナーゼ認識配列を有する動物細胞)、言い換えると、第2の改変染色体を保持する動物細胞が生成する。該動物細胞(工程Bにより生成した動物細胞)を「第2の形質転換動物細胞」ともいう。第2の形質転換動物細胞は、言い換えると、「本発明の動物細胞」である。すなわち、工程Bは、より具体的には、第1の改変染色体上に第2のリコンビナーゼ認識配列を導入し、第2の形質転換動物細胞(本発明の動物細胞)を生成する工程であってもよい。
【0041】
なお、「第2の改変染色体」とは、第1および第2のリコンビナーゼ認識配列を有する限り、工程Bで第2のリコンビナーゼ認識配列の導入が起こった染色体そのものに限られず、該導入の後に該染色体から複製等の過程を経て生じた染色体も包含される。例えば、第2の形質転換動物細胞が細胞分裂して第2の改変染色体の娘染色体を保持する娘細胞が生じた場合、該娘染色体も「第2の改変染色体」に該当する。同様に、「第2の形質転換動物細胞」とは、第2の改変染色体を保持する限り、工程Bで染色体上に第2のリコンビナーゼ認識配列の導入が起こった動物細胞そのものに限られず、該導入の後に該動物細胞から細胞分裂等の過程を経て生じた細胞も包含される。例えば、第2の形質転換動物細胞が細胞分裂して第2の改変染色体の娘染色体を保持する娘細胞が生じた場合、該娘細胞も「第2の形質転換動物細胞」に該当する。
【0042】
このように、工程AおよびBを実施することにより、本発明の動物細胞が得られる。本発明の動物細胞は、第2の改変染色体について、ヘテロ接合体であってもよく、ホモ接合体であってもよい。また、本発明の動物細胞が複数個の細胞で構成される場合、本発明の動物細胞は、第2の改変染色体についてモザイク(すなわち、第2の改変染色体をヘテロで有する細胞、第2の改変染色体をホモで有する細胞、および第2の改変染色体を有さない細胞から選択される2種またはそれ以上の細胞のモザイク)であってもよい。
【0043】
工程Cは、前記工程Bの後に、前記動物細胞から形質転換動物を得る工程である。工程Cは、工程Bの後に実施される。工程Cにおいていう「前記動物細胞」とは、工程AおよびBの実施対象となった動物細胞であって、工程AおよびBの実施後のものをいう。すなわち、工程Cにおいていう「前記動物細胞」とは、工程AおよびBにより染色体上に第1および第2のリコンビナーゼ認識配列が導入された動物細胞であり、言い換えると、第2の形質転換動物細胞である。すなわち、工程Cは、言い換えると、第2の形質転換動物細胞から形質転換動物を得る工程である。
【0044】
なお、工程Cを実施することを、例えば、「動物細胞(具体的には第2の形質転換動物細胞)に対して工程Cを実施する」ともいう。
【0045】
工程Cを実施することにより、染色体上に第1および第2のリコンビナーゼ認識配列を有する動物、言い換えると、第2の改変染色体を保持する動物が得られる。該動物(工程Cにより得られた動物)は、言い換えると、「本発明の動物」である。すなわち、工程Cは、より具体的には、第2の形質転換動物細胞から本発明の動物を得る工程であってもよい。
【0046】
なお、「本発明の動物」とは、第2の改変染色体を保持する限り、工程Cにおいて第2の形質転換動物細胞から直接発生した動物個体そのものに限られず、該個体から交配、繁殖、クローニング等の過程を経て生じた個体も包含される。
【0047】
このように、工程A~Cを実施することにより、本発明の動物が得られる。本発明の動物は、第2の改変染色体について、ヘテロ接合体であってもよく、ホモ接合体であってもよい。本発明の動物が第2の改変染色体についてヘテロ接合体である場合、適宜、第2の改変染色体についてホモ接合体である動物個体を得ることができる。例えば、第2の改変染色体についてヘテロ接合体である親同士を交配し、生まれた子から第2の改変染色体についてホモ接合体である個体を選抜することができる。また、本発明の動物は、第2の改変染色体についてモザイクであってもよい。本発明の動物が第2の改変染色体についてモザイクである場合、適宜、第2の改変染色体についてモザイクでない(具体的には、第2の改変染色体についてヘテロ接合体またはホモ接合体である)動物個体を得ることができる。例えば、第2の改変染色体についてモザイクである親と、野生型の同種の親とを交配し、生まれた子から第2の改変染色体についてヘテロ接合体であるものを選抜することができる。
【0048】
本発明の形質転換体が第2の改変染色体を保持することは、例えば、染色体構造を決定する公知の手法により確認できる。そのような手法としては、第1および第2のリコンビナーゼ認識配列が導入された領域の塩基配列解析、第1および第2のリコンビナーゼ認識配列が導入された領域のPCR増幅断片のサイズの決定が挙げられる。本発明の形質転換体が第2の改変染色体を保持することは、具体的には、例えば、実施例に記載の手法により確認することができる。
【0049】
リコンビナーゼ認識配列を染色体に導入する手段は、リコンビナーゼ認識配列を染色体の所定の箇所に導入できる限り、特に制限されない。リコンビナーゼ認識配列の導入は、例えば、公知の部位特異的なゲノム編集法により実施することができる。部位特異的なゲノム編集法としては、各種ヌクレアーゼを利用した手法が挙げられる。そのような手法として、具体的には、CRISPR/Cas(CRISPR:clustered regularly interspaced short palindromic repeat, Cas:CRISPR-associated protein)法、TALEN(transcription-activator like effector nuclease)法、ZFN(Zinc finger nuclease)法が挙げられる。これらの手法では、それぞれ、Cas、TALEN、ZFNがヌクレアーゼとして用いられる。
【0050】
CRISPR/Cas法は、例えば、Cas、ガイドRNA(gRNA)、およびドナーDNAを利用して実施できる。Casとしては、Cas9やCpf1が挙げられる。CasとしてCas9を用いるCRISPR/Cas法を「CRISPR/Cas9法」、CasとしてCpf1を用いるCRISPR/Cas法を「CRISPR/Cpf1法」ともいう。ガイドRNAは、リコンビナーゼ認識配列を染色体の所定の箇所に導入できるように適宜設計できる。また、ガイドRNAに代えて、crRNAおよびtracrRNAを組み合わせて用いることもできる。なお、Cpf1の場合は、ガイドRNAとしてcrRNAを単独で用いることができる。
【0051】
TALEN法は、例えば、TALENおよびドナーDNAを利用して実施できる。TALENは特定の塩基配列を認識するモジュールであるTAL effectorを備えており、TAL effectorは、リコンビナーゼ認識配列を染色体の所定の箇所に導入できるように適宜設計できる。
【0052】
ZFN法は、例えば、ZFNおよびドナーDNAを利用して実施できる。ZFNは特定の塩基配列を認識するモジュールであるジンクフィンガードメインを備えており、ジンクフィンガードメインは、リコンビナーゼ認識配列を染色体の所定の箇所に導入できるように適宜設計できる。
【0053】
ヌクレアーゼは、野生型のヌクレアーゼであってもよく、そのバリアントであってもよい。バリアントは、リコンビナーゼ認識配列を染色体の所定の箇所に導入できる限り、特に制限されない。例えば、Cas9のバリアントとしては、ニッカーゼとして機能するCas9(D10A)やCas9(H840A)が挙げられる。CRISPR/Cas法でニッカーゼを利用する場合は、2種のガイドRNAを組み合わせて用いることができる。また、例えば、TALENのバリアントとしては、Platinum TALEN(Sakuma T, et. al., (2013) Repeating pattern of non-RVD variations in DNA-binding modules enhances TALEN activity. Sci Rep 3: 3379.)やGoldyTALEN(Bedell VM, et al., In vivo genome editing using a high-efficiency TALEN system. Nature. 2012 Nov 1;491(7422):114-8.)が挙げられる。
【0054】
ドナーDNAは、リコンビナーゼ認識配列を含むDNAである。上記手法では、ドナーDNAを利用した相同組換え修復によりリコンビナーゼ認識配列が染色体上に組み込まれ得る。ドナーDNAは、選択した手法の種類等の諸条件に応じて選択できる。ドナーDNAは、例えば、線状であってもよく、環状であってもよい。ドナーDNAは、例えば、一本鎖であってもよく、二本鎖であってもよい。ドナーDNAは、具体的には、例えば、一本鎖線状DNAであってもよい。
【0055】
リコンビナーゼ認識配列の導入は、具体的には、選択した手法に応じた必要物を細胞内に導入することにより実施できる。必要物としては、CRISPR/Cas法の場合、ヌクレアーゼ、gRNA等のRNA、ドナーDNAが挙げられる。また、必要物としては、TALEN法やZFN法の場合、ヌクレアーゼやドナーDNAが挙げられる。
【0056】
ヌクレアーゼは、例えば、直接細胞に導入してもよく、細胞内で発現させることにより間接的に細胞に導入してもよい。例えば、ヌクレアーゼをコードするmRNAまたはヌクレアーゼをコードするベクターを細胞に導入し、該mRNAまたは該ベクターからヌクレアーゼを発現させることができる。同様に、gRNA等のRNAは、例えば、直接細胞に導入してもよく、細胞内で発現させることにより間接的に細胞に導入してもよい。例えば、gRNA等のRNAをコードするベクターを細胞に導入し、該ベクターからgRNA等のRNAを発現させることができる。同様に、ドナーDNAは、例えば、直接細胞に導入してよい。用いるDNAは一本鎖でも2本鎖でもよい。PCR断片、合成オリゴ、ベクターを用いてもよい。ベクターとしては、プラスミドベクターやウイルスベクターが挙げられる。2種またはそれ以上の必要物をベクターから発現する場合、それら必要物は、単一のベクターにまとめてコードされていてもよいし、複数のベクターに分けてコードされていてもよい。ベクターは、ドナーDNAを兼ねていてもよい。
【0057】
必要物やそれらをコードするmRNAやベクター(以下、まとめて「必要物等」ともいう)としては、いずれも、利用可能な場合は市販品を用いてもよく、適宜製造したものを用いてもよい。ヌクレアーゼは、例えば、異種タンパク質発現系または無細胞タンパク質発現系を利用して製造できる。mRNAやgRNA等のRNAは、例えば、化学合成またはin vitro転写により製造できる。ドナーDNAは、例えば、化学合成またはPCR増幅により製造できる。ヌクレアーゼやgRNA等のRNAをコードするベクターは、例えば、化学合成またはクローニングにより製造できる。
【0058】
必要物等を細胞に導入する手段は特に制限されない。必要物等の導入は、例えば、タンパク質や核酸等の成分を細胞に導入する公知の手法により実施することができる。そのような手法として、具体的には、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リポフェクション法が挙げられる。また、ウイルスベクターの場合、該ベクターを細胞に感染させることにより、該ベクターを細胞内に導入することができる。そのような手法として、特に、エレクトロポレーション法やマイクロインジェクション法が挙げられる。そのような手法として、さらに特には、エレクトロポレーション法が挙げられる。特に、エレクトロポレーション法を利用することにより、マイクロインジェクション法等の他の手法を利用した場合と比較して、本発明の方法の成功率を向上させることができると期待される。本発明の方法の成功率を向上としては、細胞の生存率の向上や、第1および第2のリコンビナーゼ認識配列の導入効率の向上が挙げられる。
【0059】
第2の形質転換動物細胞(本発明の動物細胞)から本発明の動物を得る手段は特に制限されない。「細胞から動物を得る」とは、具体的には、細胞から動物の個体を発生させることをいう。細胞からの動物の個体の発生は、例えば、公知の手法により実施することができる。例えば、細胞が受精卵、胚、胚盤胞等の動物の個体へと直接発生し得る細胞である場合は、該細胞から動物の個体を直接発生させることができる。具体的には、例えば、該細胞を偽妊娠母体に移植して発生および出産させることより、産仔として動物の個体を得ることができる。また、例えば、幹細胞や体細胞等の細胞からのクローン化により、動物の個体を発生させることもできる。
【0060】
<2>条件付き染色体改変動物の製造方法
本発明の形質転換動物と条件付きリコンビナーゼ発現動物との交配により、条件付き染色体改変動物が得られる。すなわち、本発明の条件付き染色体改変動物の製造方法は、前記方法により本発明の形質転換動物を得る工程、および得られた形質転換動物と条件付きリコンビナーゼ発現動物を交配する工程を含む、条件付き染色体改変動物の製造方法である。同方法により製造される条件付き染色体改変動物を、「本発明の条件付き染色体改変動物」ともいう。
【0061】
すなわち、本発明の条件付き染色体改変動物の製造方法は、言い換えると、下記工程(X)および(Y)を含む、条件付き染色体改変非ヒト動物の製造方法である:
(X)前記工程(A)~(C)を行い、前記動物細胞から形質転換非ヒト動物を得る工程;
(Y)前記形質転換動物と条件付きリコンビナーゼ発現動物を交配し、条件付き染色体改変非ヒト動物を得る工程。
【0062】
工程(Y)は、本発明の動物と条件付きリコンビナーゼ発現動物を交配する工程である。
【0063】
なお、工程(Y)を実施することを、例えば、「動物(具体的には本発明の動物)に対して工程(Y)を実施する」ともいう。
【0064】
「条件付きリコンビナーゼ発現動物」とは、条件付きで第1および第2のリコンビナーゼ認識配列に対応するリコンビナーゼを発現する動物をいう。各リコンビナーゼ認識配列に対応するリコンビナーゼについては上述の通りである。
【0065】
リコンビナーゼは、野生型のリコンビナーゼであってもよく、そのバリアントであってもよい。バリアントは、第1および第2のリコンビナーゼ認識配列の間での組み換えを起こせる限り、特に制限されない。例えば、Creのバリアントとしては、Cre-ERが挙げられる。
【0066】
条件付きリコンビナーゼ発現動物としては、リコンビナーゼを組織特異的または時期特異的に発現する動物が挙げられる。リコンビナーゼを組織特異的または時期特異的に発現することは、例えば、組織特異的プロモーターまたは時期特異的プロモーターの制御下でリコンビナーゼを発現することにより達成できる。すなわち、リコンビナーゼを組織特異的または時期特異的に発現する動物としては、組織特異的プロモーターまたは時期特異的プロモーターの制御下で発現するリコンビナーゼ遺伝子を有する動物が挙げられる。
【0067】
また、条件付きリコンビナーゼ発現動物としては、特定の条件下で機能するリコンビナーゼを発現する動物も挙げられる。特定の条件下で機能するリコンビナーゼとしては、CreのバリアントであるCre-ERが挙げられる。Cre-ERは、Creと変異エストロゲン受容体の融合タンパク質であり、通常細胞質に存在するが、エストロゲン誘導体であるタモキシフェンと結合することにより核内に移行し、loxPの組換えを起こす。すなわち、Cre-ERは、タモキシフェン存在下で機能するリコンビナーゼである。
【0068】
条件付きリコンビナーゼ発現動物としては、利用可能な場合は市販品を用いてもよく、適宜製造したものを用いてもよい。条件付きリコンビナーゼ発現動物は、例えば、組織特異的または時期特異的に発現する遺伝子の開始コドン部位にリコンビナーゼ遺伝子をノックインすることや、組織特異的プロモーターまたは時期特異的プロモーターとその下流に接続したリコンビナーゼ遺伝子をノックインすることにより製造することができる。遺伝子のノックインは常法により実施できる。また、条件付きリコンビナーゼ発現動物は、例えば、特定の条件下で機能するリコンビナーゼを発現可能にノックインすることにより製造することができる。また、組織特異的または時期特異的転写制御配列の下流にリコンビナーゼ遺伝子を接続したコンストラクトのトランスジェニック動物、特定の条件下で機能するリコンビナーゼコンストラクトのトランスジェニック動物を用いてもよい。
【0069】
工程(Y)を実施することにより、薬剤誘導型、組織特異的または時期特異的のような条件付きでリコンビナーゼが機能し、それにより、染色体上の標的部位が改変される。すなわち、工程(Y)を実施することにより、具体的には、染色体上の標的部位が条件付きで改変される、あるいは染色体上の標的部位が条件付きで改変された、動物が得られる。該動物(工程(Y)により得られた動物)は、言い換えると、「本発明の条件付き染色体改変動物」である。すなわち、工程(Y)は、より具体的には、本発明の動物と条件付きリコンビナーゼ発現動物を交配し、本発明の条件付き染色体改変動物を得る工程であってもよい。
【0070】
標的部位の改変としては、標的部位の欠損や逆位が挙げられる。標的部位の改変により、例えば、遺伝子が破壊(ノックアウト)され得る。具体的には、例えば、標的部位が遺伝子の一部や全部を含む場合、標的部位の改変により、当該遺伝子が破壊され得る。すなわち、条件付き染色体改変動物としては、条件付き遺伝子破壊動物(条件付き遺伝子ノックアウト動物)が挙げられる。
【0071】
なお、「本発明の条件付き染色体改変動物」とは、条件付きでリコンビナーゼが機能するよう改変されている(すなわち、染色体上の標的部位が条件付きで改変される、あるいは染色体上の標的部位が条件付きで改変されている)限り、工程(Y)において本発明の動物と条件付きリコンビナーゼ発現動物との交配により直接産まれた動物個体そのものに限られず、該個体から交配、繁殖、クローニング等の過程を経て生じた個体も包含される。
【0072】
このように、工程(A)~(C)および(Y)を実施することにより、本発明の条件付き染色体改変動物が得られる。
【0073】
なお、条件付きリコンビナーゼ発現動物の細胞に対し工程(A)~(C)を実施することにより、工程(Y)を実施することなしに、本発明の条件付き染色体改変動物を得ることもできる。すなわち、一態様において、本発明の動物は本発明の条件付き染色体改変動物で同義であってもよい。また、本発明の形質転換動物細胞の製造方法の一態様は、前記動物細胞(工程(A)~(C)が実施される動物細胞)が条件付きリコンビナーゼ発現動物の細胞であり、工程(A)~(C)により条件付き染色体改変動物が得られる、条件付き染色体改変動物の製造方法であってもよい。
【0074】
また、本発明の条件付き染色体改変動物から、条件付き染色体改変動物細胞を得ることもできる。
【0075】
本発明の条件付き染色体改変動物やその細胞(条件付き染色体改変動物細胞)は、例えば、染色体上の標的部位(例えば遺伝子)の機能解析に利用することができる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより制限されるものではない。
【0077】
実施例:2ステップ導入によるFloxマウスの作製
<1>材料と方法
<1-1>受精卵の準備
受精卵の準備は、基本的にはHorii et al., Sci Rep. 4:4513, 2014に準じて行った。すなわち、8~10週齢のBDF1雌マウス(日本クレア)に7.5 Uの妊馬血清性性腺刺激ホルモン(pregnant mare serum gonadotropin;PMSG)を腹腔内注射し、その48時間後に7.5 Uのヒト絨毛性ゴナドトロピン(Human chorionic gonadotropin;hCG)を腹腔内注射し、同系統の雄マウスと交配させた。翌日、膣栓の有無により交尾の成立を確認した。同日の午後に、交尾の成立が確認された雌マウスを安楽死させて卵管を回収し、卵管内の受精卵をM2ヒアルロニダーゼ液に取り出した。卵丘細胞の分離を確認後、受精卵をM16培地に移し、操作までCO2インキュベータ(5% CO2、37℃)で培養した。
【0078】
<1-2>Cas9、gRNA、およびssODN
Cas9は、市販のリコンビナントタンパク質(Thermo Fisher Scientific社)を用いた。
【0079】
gRNAとしては、MeCP2遺伝子用およびTet3遺伝子用に、表3に示す塩基配列(TはUに読み替えるものとする)からなるRNAを合成した。表中、下線は染色体との結合部位を示す。gRNAの合成は、合成オリゴDNAを鋳型とする方法またはgRNAベクターからPCR増幅したDNAを鋳型とする方法(Horii et al., Int J Mol Sci. 14:19774-81, 2013)に準じて行った。具体的には、MEGAshortscript T7 Kit(Thermo Fisher Scientific社)を用いてin vitro転写を行った後、MEGAclear Kit(Thermo Fisher Scientific社)を用いて精製した。
【0080】
【0081】
ドナーDNAとして用いるssODN(1本鎖オリゴデオキシヌクレオチド)としては、MeCP2遺伝子用およびTet3遺伝子用に表4に示すloxPを含む塩基配列からなるDNAを合成した。表中、大文字はloxP配列、太字下線は外来の制限酵素サイトを示す。MeCP2遺伝子用のMeCP2-L2-lox66およびMeCP2-R1-lox71は、それぞれ、lox66およびlox71を含む。Tet3遺伝子用のTet3Ex8-2loxPLおよびTet3Ex9-3loxPRは、いずれも、loxPを共通で含む。
【0082】
【0083】
Cas9/gRNA/ssODN溶液(Cas9、gRNA、およびssODNを含む溶液)を導入直前に以下のように調製し、これを基準濃度とした。濃度は最終濃度を示す。インジェクション用はRNaseフリー水に、エレクトロポレーション用はOpti-MEM(Thermo Fisher Scientific社)に希釈した。
【0084】
<1ステップ用溶液組成>
Cas9 nuclease 100 ng/μL
gRNA1 24 ng/μL
gRNA2 24 ng/μL
ssODN1 400 ng/μL
ssODN2 400 ng/μL
【0085】
<2ステップ用溶液組成>
<1回目>
Cas9 nuclease 100 ng/μL
gRNA1 24 ng/μL
ssODN1 400 ng/μL
<2回目>
Cas9 nuclease 100 ng/μL
gRNA2 24 ng/μL
ssODN2 400 ng/μL
【0086】
<1-3>マイクロインジェクション
hCG注射後、24-27時間経過した受精卵をインジェクションに用いた。Cas9/gRNA/ssODN溶液を、倒立顕微鏡下でマイクロマニピュレーターを用いて前核に注入した。2ステップのインジェクションを行う場合は、hCG後42-44時間目(2細胞期)に2回目のインジェクションを行った。なお、予備実験においてCas9/gRNA/ssODN溶液を原液、1/2希釈、1/4希釈で1ステップのインジェクションを行い、胚盤胞までの発生率を確認した。その結果、原液ではほとんどの胚が発生停止した。よって、この実験では、1ステップおよび2ステップの場合ともに、1/2希釈のCas9/gRNA/ssODN溶液を用いた。
【0087】
<1-4>エレクトロポレーション
hCG注射後、24-27時間経過した受精卵をエレクトロポレーションに用いた。2ステップのエレクトロポレーションを行う場合は、hCG後42-44時間目(2細胞期)に2回目のエレクトロポレーションを行った。この実験では、1ステップおよび2ステップの場合ともに、Cas9/gRNA/ssODN溶液の原液を用いた。エレクトロポレーターはCUY21 EDIT(BEX社)を用い、特に表記が無い場合は、30 V (3 msec ON + 97 msec OFF)×7回パルスの条件でエレクトロポレーションを行った。電気融合して4倍体になった胚を約30分後に取り除き、2倍体胚のみ以降の実験に用いた。
【0088】
<1-5>体外培養および胚移植
上記<1-3>および<1-4>で得られた処理胚の一部は、胚盤胞期まで体外培養を行い、発生率および遺伝子型の検定を行った。それ以外の処理胚は、2細胞期に偽妊娠マウスの卵管内に移植した。移植してから約20日後に産仔が得られた。
【0089】
<1-6>遺伝子型検定
胚盤胞または産仔の尻尾からDNAを抽出した。それを鋳型として2つのloxPを含む領域をPCRにより増幅した。用いたプライマーセットを表5に示す。
【0090】
【0091】
ssODNが挿入されていれば、loxPと共に挿入された制限酵素サイト(MeCP2の場合はNheIおよびEcoRI、Tet3の場合はBamHIおよびEcoRI)を制限酵素処理により切断することができる。よって、PCR産物を制限酵素処理後、アガロースゲル電気泳動を行い、バンドの長さによりssODNの挿入の有無を確認した。また、MeCP2遺伝子の一部およびTet3遺伝子の全てのサンプルについて、PCR産物を用いてTA-cloningを行い、塩基配列の確認を行った。
【0092】
<2>結果
胚盤胞期胚におけるMeCP2遺伝子でのFlox効率(Flox数/胚盤胞数)のデータを
図1に示す。また、胚盤胞期胚におけるMeCP2遺伝子での生存率(胚盤胞数/受精卵数)のデータを
図2に示す。また、産仔におけるMeCP2遺伝子でのFlox効率および染色体欠失率のデータを
図3に示す。
【0093】
図1に示すように、マイクロインジェクション法およびエレクトロポレーション法のいずれの場合でも、2つのloxPを1ステップで導入した場合と比較して、2つのloxPを2ステップに分けて導入した場合には、Flox効率の向上が認められた。特に、2ステップのエレクトロポレーション法の場合に最も高いFlox効率が得られた。具体的には、従来法(1ステップでのマイクロインジェクション法)でのFlox効率は5%弱であったのに対し、2ステップのエレクトロポレーション法でのFlox効率は23%であり、4.6倍に向上した。
【0094】
また、
図2に示すように、マイクロインジェクション法およびエレクトロポレーション法のいずれの場合でも、2つのloxPを1ステップで導入した場合と比較して、2つのloxPを2ステップに分けて導入した場合には、生存率の低下が認められた。しかしながら、マイクロインジェクション法の場合と比較して、エレクトロポレーション法の場合には、生存率の向上が認められた。エレクトロポレーション法における生存率の向上は、エレクトロポレーション法はマイクロインジェクション法と比較して胚へ与える物理的ダメージが少ないことに起因するものと考えられる。特に、2ステップのエレクトロポレーション法の場合には、従来法(1ステップでのマイクロインジェクション法)の場合の1.4倍の生存率が認められた。
【0095】
すなわち、2ステップのエレクトロポレーション法の場合には、従来法(1ステップでのマイクロインジェクション法)の場合と比較して、6.4倍(4.6倍×1.4倍)のFlox胚が得られた。
【0096】
また、
図3に示すように、産仔において、マイクロインジェクション法およびエレクトロポレーション法のいずれの場合でも、1ステップと比べて2ステップでは得られるFlox個体が多く、染色体欠失が劇的に減少していた。すなわち、従来法(1ステップのマイクロインジェクション法)ではFlox個体が1匹も得られなかったのに対し、最も効率の良かった2ステップのエレクトロポレーション法では13%がFlox個体であった。また、MeCP2遺伝子の他、Tet3遺伝子でも、2ステップのエレクトロポレーション法により50%(8匹中4匹)の高効率でFlox個体を得ることができた。
【0097】
また、別途、同様の手順で、
図4に示すようにCreリコンビナーゼを発現する受精卵に2ステップのエレクトロポレーション法を適用したところ、MeCP2遺伝子で20%(5匹中1匹)、Tet3遺伝子で25%(4匹中1匹)の効率でCreリコンビナーゼを発現するFloxマウス(Cre/loxマウス)を得ることができた。
【0098】
以上より、2ステップ法により、特に2ステップのエレクトロポレーション法により、Floxマウス等の染色体上にリコンビナーゼ認識配列のペアを有する動物を効率的に製造できることが明らかとなった。また、Creリコンビナーゼを発現する受精卵に2ステップ法を適用することで、直接Cre/loxマウスを得られることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明によれば、Flox動物等の、染色体上にリコンビナーゼ認識配列のペアを有する動物を効率的に製造することができる。
【0100】
〔配列表の説明〕
配列番号1~4:gRNA
配列番号5~8:ssODN
配列番号9~12:遺伝子型検定用プライマー
配列番号13~19:野生型リコンビナーゼ認識配列
配列番号20~35:リコンビナーゼ認識配列のバリアント
【配列表】