IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立台湾大学の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】甲状腺癌の予後のためのバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20220224BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20220224BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N27/62 V ZNA
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020537065
(86)(22)【出願日】2018-05-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-26
(86)【国際出願番号】 IB2018053374
(87)【国際公開番号】W WO2019053521
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2020-06-18
(31)【優先権主張番号】62/560,171
(32)【優先日】2017-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506292158
【氏名又は名称】国立台湾大学
【氏名又は名称原語表記】National Taiwan University
【住所又は居所原語表記】No. 1, Roosevelt Rd. Sec.4, Da‘an District, Taipei,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100154988
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 真知
(72)【発明者】
【氏名】王 治元
(72)【発明者】
【氏名】張 天鈞
(72)【発明者】
【氏名】黄 沛▲ジエ▼
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-062244(JP,A)
【文献】特開2016-165284(JP,A)
【文献】特開平08-297123(JP,A)
【文献】特表2012-512389(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0146542(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
甲状腺癌の治療を受けていた対象から得られたエキソソームに存在するサイログロブリンの増加および減少の傾向を検出する工程を含む、必要とする対象における甲状腺癌の予後を判定するための方法。
【請求項2】
前記対象は甲状腺癌患者として特定された、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記甲状腺癌の治療は、甲状腺全摘術、甲状腺部分切除、放射性ヨウ素による甲状腺レムナントアブレーション、標的療法、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項記載の方法。
【請求項4】
前記エキソソームは、前記対象の体液のサンプルから単離される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記サンプルは、尿、血漿、または血清である、請求項記載の方法。
【請求項6】
前記サンプルは尿である、請求項記載の方法。
【請求項7】
サイズ排除クロマトグラフィー、密度勾配遠心分離、分画遠心分離、ナノ膜限外濾過、免疫吸収性捕捉、アフィニティー精製、またはマイクロ流体分離により、前記サンプルから前記エキソソームを単離する工程をさらに含む、請求項記載の方法。
【請求項8】
前記エキソソームにおいてサイログロブリンの存在が増加傾向を示した場合、前記対象は再発性甲状腺癌を有すると判定する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記甲状腺癌は、濾胞性甲状腺癌、濾胞性変異型甲状腺乳頭癌、甲状腺乳頭癌、甲状腺髄様癌、ハースル細胞癌、甲状腺未分化癌、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記甲状腺癌は、濾胞性甲状腺癌または甲状腺乳頭癌である、請求項記載の方法。
【請求項11】
前記エキソソームにおけるサイログロブリンの存在は、質量分析法によるペプチド配列決定によって検出される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
甲状腺癌の治療を受けていた対象から得られたエキソソームに存在するサイログロブリンの増加および減少の傾向を検出する工程を含む、甲状腺癌の治療の有効性を評価する方法であって、
前記エキソソームにおけるサイログロブリンのレベルは、甲状腺癌の治療の有効性を示す、甲状腺癌の治療の有効性を評価する方法。
【請求項13】
前記エキソソームにおいてサイログロブリンが増加傾向を示すことは、甲状腺癌の再発を示す、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記甲状腺癌の治療は、甲状腺全摘術、甲状腺部分切除、放射性ヨウ素による甲状腺レムナントアブレーション、標的療法、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項12記載の方法。
【請求項15】
前記対象の体液のサンプルから前記エキソソームを単離する工程をさらに含む、請求項12記載の方法。
【請求項16】
前記サンプルは尿である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
対象から得られたエキソソーム中のサイログロブリンである、甲状腺癌の予後の診断のためのバイオマーカー。
【請求項18】
甲状腺癌の治療を受けていた対象から得られたエキソソーム中のサイログロブリンである、甲状腺癌の治療を評価するためのバイオマーカーであって、
前記エキソソームにおけるサイログロブリンのレベルは、甲状腺癌の治療の有効性を示す、バイオマーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2017年9月18日に提出された米国仮出願番号第62/560,171号の優先権を主張し、その全体を参照により本明細書に組み込む。
【0002】
本開示は、対象、特に甲状腺癌の切除療法を受けた対象に甲状腺癌の予後のための実用的で信頼性が高いバイオマーカーに関する。
【背景技術】
【0003】
甲状腺癌は、内分泌系において最も一般的なタイプの癌である。ほとんどの甲状腺癌は治療可能であり、低悪性度の内分泌悪性腫瘍と見なされているが、過去数年間で発生率が増加している。それは過去30年間わたって米国で最も急速に増加している癌である。なお、甲状腺癌はすべての年齢層で発生し、他の成人癌の大部分とは異なり、通常、若い年齢で診断され、最も頻繁に診断されたのは45~54歳の人である。
【0004】
ほとんどの甲状腺癌患者は、アブレーション放射性ヨウ素療法(ablative radioactive iodine therapy)による甲状腺切除を受ける。ほとんどの甲状腺癌患者の予後は通常良好であるが、再発率は最大30%であり、最初の診断から数十年後でも再発が起こる可能性がある。したがって、甲状腺癌患者は、通常、定期的な追跡検査を受けることにより、癌が再出現したかどうかを検出し、また、この監測は患者の一生を通じて継続される。ゆえに、甲状腺癌は比較的に若い年齢で発生されながら、甲状腺癌患者の追跡および再発監測の期間は数十年まで続く可能性がある。
【0005】
甲状腺癌患者は、アブレーション放射性ヨウ素による甲状腺切除を受けた後、甲状腺の超音波検査と血清サイログロブリンの連続評価を行う。現在の診療では、血清サイログロブリンは、可能な残存腫瘍または甲状腺癌の再発を検出するための肝心なバイオマーカーと見なされている。一般的に、術後の血清サイログロブリンは遠隔転移を示唆する。低リスク患者は、通常、0.4ng/mL未満の非刺激術後血清サイログロブリン、または1.0ng/mL未満の甲状腺ホルモン休薬後のサイログロブリンを有すると定義されている。しかし、局所再発または遠隔転移を検出するための血清サイログロブリンを刺激するために、通常、高価な組換えヒト甲状腺刺激ホルモン(rhTSH)が必要とされるが、その刺激は必ずしも検出可能な血清サイログロブリンをもたらす結果になるとは限らない。したがって、甲状腺癌の予後を判定するために、より信頼性のある生物学的マーカーおよびより感度のある方法が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、本開示の目的は、対象における甲状腺癌の発生または再発を予知するための、バイオマーカーおよび方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様において、必要とする対象における甲状腺癌の予後の方法が提供される。当該方法は、前記対象からエキソソームを得る工程、および前記エキソソームにおいてサイログロブリンが存在するかどうかを検出する工程を含む。
【0008】
本開示の一実施形態において、前記対象は甲状腺癌患者として特定されていた。本開示の別の実施形態において、前記対象は、甲状腺癌の治療を受けていた甲状腺癌患者として特定されていた。本開示のさらに別の実施形態において、前記甲状腺癌の治療は、甲状腺全摘術、甲状腺部分切除、放射性ヨウ素による甲状腺レムナントアブレーション(thyroid remnant ablation)、標的療法、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。本開示のさらに別の実施形態において、当該方法は、前記対象の甲状腺癌の治療後に実施される。本開示のさらなる実施形態において、当該方法は、甲状腺癌患者の定期的な追跡期間にわたって実施される。
【0009】
本開示の一実施形態において、前記甲状腺癌は、濾胞性甲状腺癌、濾胞性変異型甲状腺乳頭癌、甲状腺乳頭癌、甲状腺髄様癌、ハースル(Hurthle)細胞癌、甲状腺未分化癌(anaplastic thyroid cancer)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。本開示の別の実施形態において、前記甲状腺癌は、濾胞性甲状腺癌、甲状腺乳頭癌である。
【0010】
本開示の一実施形態において、前記エキソソームにおけるサイログロブリンの存在は、質量分析法によるペプチド配列決定(ペプチドシーケンシング)によって検出される。
【0011】
本開示の一実施形態において、前記エキソソームは、前記対象の体液のサンプルから単離される。本開示の別の実施形態において、前記サンプルは、尿、血漿、および血清から選択されてもよい。本開示のさらに別の実施形態において、前記サンプルは尿である
【0012】
本開示の一実施形態において、当該方法は、サイズ排除クロマトグラフィー、密度勾配遠心分離、分画遠心分離、ナノ膜限外濾過、免疫吸収性捕捉、アフィニティー精製、マイクロ流体分離、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される処理により、前記サンプルから前記エキソソームを単離する工程をさらに含む。本開示の別の実施形態において、前記エキソソームは、前記サンプルから密度勾配遠心分離により単離される。
【0013】
本開示の一実施形態において、当該方法は、前記エキソソームにおいてサイログロブリンの存在が検出された場合、前記対象は再発性甲状腺癌を有すると診断する工程をさらに含む。本開示の別の実施形態において、当該方法は、前記診断された対象に甲状腺癌の治療を施す工程をさらに含む。本開示のさらなる実施形態において、前記甲状腺癌の治療は、放射性ヨウ素、標的療法、およびそれらの組み合わせから選択される。
【0014】
本開示の他の一態様において、甲状腺癌の治療を評価する方法が提供される。当該方法は、甲状腺癌の治療を受けていた対象からエキソソームを得る工程、および前記エキソソームにおいてサイログロブリンが存在するかどうかを検出する工程を含み、前記エキソソームにおけるサイログロブリンのレベルは、甲状腺癌の治療の有効性を示す。
【0015】
本開示の一実施形態において、前記エキソソームにおいてサイログロブリンが存在することは、甲状腺癌の再発を示す。
【0016】
本開示の一実施形態において、前記エキソソームは、前記対象の体液のサンプルから取得される。本開示の別の実施形態において、前記エキソソームは、尿サンプルから取得される。
【0017】
本開示の一実施形態において、当該方法は、前記エキソソームにおいてサイログロブリンの存在が検出された場合、前記対象に甲状腺癌の治療を施す工程をさらに含み。本開示の別の実施形態において、前記甲状腺癌の治療は、放射性ヨウ素、標的療法、およびそれらの組み合わせから選択される。
【発明の効果】
【0018】
本開示のバイオマーカーおよび方法は、対象の体液から単離されたエキソソームにおけるサイログロブリンレベルの増加傾向を検出することにより、甲状腺癌の再発の早期検出を提供する。なお、本開示のバイオマーカーおよび方法は、血清サイログロブリンが検出できない患者の甲状腺癌再発に対する実用的かつ信頼性の高い予後診断を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
添付の図面では、本開示の好ましい実施形態が示されている。
図1A】手術前後の個々の患者の尿中エキソソームタンパク質レベルの傾向を示す図である。
図1B】手術前後の個々の患者の尿中エキソソームタンパク質レベルの傾向を示す図である。
図1C】手術前後の個々の患者の尿中エキソソームタンパク質レベルの傾向を示す図である。
図1D】手術前後の個々の患者の尿中エキソソームタンパク質レベルの傾向を示す図である。
図1E】手術前後の個々の患者の尿中エキソソームタンパク質レベルの傾向を示す図である。
図1F】手術前後の個々の患者の尿中エキソソームタンパク質レベルの傾向を示す図である。
図1G】手術前後の個々の患者の尿中エキソソームタンパク質レベルの傾向を示す図である。
図1H】手術前後の個々の患者の尿中エキソソームタンパク質レベルの傾向を示す図である。
図1I】手術前後の個々の患者の尿中エキソソームタンパク質レベルの傾向を示す図である。
図1J】手術前後の個々の患者の尿中エキソソームタンパク質レベルの傾向を示す図である。
図1K】手術前後の個々の患者の尿中エキソソームタンパク質レベルの傾向を示す図である。
図1L】手術前後の個々の患者の尿中エキソソームタンパク質レベルの傾向を示す図である。
図1M】手術前後の個々の患者の尿中エキソソームタンパク質レベルの傾向を示す図である。
図2】甲状腺全摘術および放射性ヨウ素アブレーションを受ける患者の手術前後の尿中エキソソームタンパク質レベルの傾向を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示は、エキソソームを分析することにより対象の甲状腺癌を特徴付ける方法およびバイオマーカーを提供し、より詳細には、バイオマーカーとして尿中エキソソームタンパク質を分析することにより、甲状腺癌患者の予後を判定する高感度かつ非侵襲的な方法を提供する。本開示の方法により、甲状腺癌の予後を判定する対象は、甲状腺ホルモンを休薬することも、rhTSH刺激を受けることも必要とされない。
【0021】
現在、アブレーション放射性I-131療法による甲状腺切除を受けた甲状腺癌患者では、血清サイログロブリンは追跡期間中に癌バイオマーカーとして使用されている。血清中にサイログロブリンが検出できない場合、患者は、抗サイログロブリン抗体の干渉とは無関係に、治療を完了したとみなされる。通常、生化学的に完全な治療を受けている患者では、高価なrhTSH刺激下でさえも血清サイログロブリンが検出できないため、甲状腺サイログロブリンの再発に対して血清サイログロブリンが不十分なバイオマーカーになる。本開示は、甲状腺癌患者の非侵襲性、再現性、簡便性、連続性、および正確な追跡マーカーとしての、尿中エキソソームサイログロブリンの使用を発見する。より具体的には、ペプチド配列を分析することにより、尿中エキソソーム中のサイログロブリンのレベルを定量化する。rhTSHを必要としないため、コストが削減され、患者は癌の追跡期間中に甲状腺ホルモンの使用を継続できる。
【0022】
本開示において、対象から得られた生物学的サンプルからのエキソソームは、甲状腺癌を特徴付けるために分析される。エキソソームは、さまざまな異なる細胞から細胞外環境に分泌されるナノベシクルであり、当該細胞は、例えば、外胚葉、内胚葉、または中胚葉から由来または誘導し、遺伝的、環境的、および/または他の変化または改変を受けた細胞(例えば、腫瘍細胞または遺伝的変異を有する細胞)を含むが、これらに限定されない。エキソソームの直径は通常40nm~100nmであり、エンドソームの多胞体の管腔内小胞に対応する。エキソソームは、約10、20、または30nmを超える直径を有することができるが、これらに限定されない。それらは、約30nmから1000nm、約30nmから800nm、約30nmから200nm、または約30nmから100nmの直径を有することができる。いくつかの実施形態において、エキソソームは、約10,000nm、1000nm、800nm、500nm、200nm、100nmまたは50nm未満の直径を有することができるが、これらに限定されない。全体で使用されるように、「約」という用語は、値または量を指す場合、いくつかの実施形態において、特定の量から±10%の変動が適切であるため、特定の量からの変動を包含することを意味する。
【0023】
細胞から分泌されるエキソソームは、細胞間で分子メッセージを伝達し、悪性腫瘍の診断と予後のために、癌の生物学的マーカーとして使用される。エキソソームタンパク質は、細胞内シグナル伝達、炎症、免疫に影響を与える可能性がある。なお、炎症性エキソソームタンパク質は、細胞の挙動におけるさまざまな病態生理学的プロセスに貢献する。エキソソームは、疾患を特徴付けるために、血清、組織液、尿のような対象の生体サンプルから収集できる。
【0024】
対象から得られた生体サンプルは、任意の体液であり得る。例えば、生体サンプルは、末梢血、血清、血漿、腹水、尿、脳脊髄液(CSF)、喀痰、唾液、骨髄、滑液、房水、羊水、耳垢、母乳、気管支肺胞洗浄液、精液(前立腺液を含み)、カウパー液または射精前液、女性の射精(female ejaculate)、汗、糞便、毛、涙、嚢胞液、胸膜・腹膜液、心膜液、リンパ液、キームス、乳び(chyle)、胆汁、間質液、月経、膿、皮脂、嘔吐物、膣分泌物、粘膜分泌物、便水、膵液、鼻腔(sinus cavity)からの洗浄液、気管支肺吸引液または他の洗浄液であり得る。生体サンプルは、胚盤腔、臍帯血、または胎児あるいは母体起源の母体循環も含むことができる。生体サンプルは、組織サンプルまたは生検材料であってもよく、そこからエキソソームを取得することができる。
【0025】
エキソソームは生体サンプルから直接に分析できるため、事前にエキソソームの単離、精製、または濃縮を行わずに、エキソソームのレベルを測定すること、またはエキソソームのバイオマーカーを測定することができる。あるいは、分析の前にサンプルからエキソソームを単離、精製、または濃縮してもよい。
【0026】
エキソソームの濃縮された集団は生体サンプルから取得できる。例えば、エキソソームは、サイズ排除クロマトグラフィー、密度勾配遠心分離、分画遠心分離、ナノ膜限外濾過、免疫吸収性捕捉、アフィニティー精製、またはマイクロ流体分離またはそれらの組み合わせを使用することにより、生体サンプルから濃縮または単離することができる。
【0027】
ゲル浸透カラム、遠心分離または密度勾配遠心分離のようなサイズ排除クロマトグラフィー、および濾過方法を使用できる。例えば、エキソソームは、分画遠心分離、陰イオン交換および/またはゲル浸透クロマトグラフィー、ショ糖密度勾配、オルガネラ電気泳動、磁気活性化セルソーティング(MACS)、またはナノ膜限外濾過濃縮器により単離できる。単離または濃縮方法のさまざまな組み合わせを使用できる。
【0028】
単離されたエキソソームは、甲状腺癌の予後または甲状腺癌の治療の評価のために、本開示のバイオマーカーの分析に供される。したがって、本開示の例示的な実施形態は、生体サンプルから単離されたエキソソーム中のサイログロブリンの存在または存在量を検出するための方法を提供する。サイログロブリンは、ELISA、質量分析またはフローサイトメトリーによって分析できる。エキソソームのプロテオーム分析は、当技術分野で周知の手順に従って、免疫細胞化学染色、ウエスタンブロッティング、電気泳動、クロマトグラフィー、またはX線結晶学によりエキソソームにおいて実施することもできる。
【0029】
他の実施形態では、エキソソームのタンパク質バイオシグネチャーは、2D示差ゲル電気泳動の使用、または液体クロマトグラフィー質量分析により分析されることができる。エキソソームは、活性に基づくタンパク質プロファイリングの対象となることができる。他の実施形態において、エキソソームは、ナノスプレー液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析を使用してプロファイルされ得る。別の実施形態において、エキソソームは、例えば、LTQおよびLTQ-FTイオントラップ質量分析計を使用する液体クロマトグラフィー/MS/MS(LC-MS / MS)のようなタンデム質量分析(MS)を使用してプロファイルされ得る。スペクトルカウントを比較することにより、タンパク質の同定を決定し、相対定量を評価できる。
【0030】
本明細書で使用される説明用語または技術用語を含むすべての用語は、当業者に明らかな意味を有すると解釈されるべきである。しかし、これらの用語は、当業者の意図、事例の前例、または新しい技術の出現に応じて、異なる意味を持つ場合がある。また、いくつかの用語は、出願人によって任意に選択されてもよく、この場合には、選択された用語の意味は、本開示の詳細な説明で詳細に説明される。したがって、本明細書で使用される用語は、本明細書全体の説明とともに用語の意味に基づいて定義する必要がある。
【0031】
また、一部が成分または工程を「含む(include)」または「包含する(comprise)」場合には、それに反する特定の説明がない限り、当該一部は他の成分または工程をさらに含むことができ、それらを除外しない。
【0032】
本明細書で使用されるように、単数形である「一つ(a)」、「一つ(an)」、および「当該(the)」は、明示的かつ明確に1つの指示対象に限定されない限り、複数の指示対象を含むことにさらに留意されたい。「または」という用語は、文脈からそうでないことが明確に示されていない限り、「および/または」という用語と交換可能に使用される。
【0033】
対象または個体の「特徴付ける(to characterize)」という用語には、疾患または状態の診断、疾患または状態の予後、疾患段階または状態段階の決定、癌の再発の監測、薬効、生理学的状態、臓器苦痛または臓器拒絶反応、疾患または状態の進行、疾患または状態への治療関連の関連付け、または特定の生理学的または生物学的状態が含まれるが、これらに限定されない。
【0034】
本明細書で使用される「ペプチド」という用語は、複数のアミノ酸モノマーを含む短鎖を意味し、前記複数のアミノ酸モノマーはアミド結合によって互いに結合している。本開示のペプチドで使用されるアミノ酸モノマーは、天然アミノ酸に限定されず、ペプチドのアミノ酸配列には、非天然アミノ酸、類似の構造を有する化合物、またはアミノの欠乏も含まれ得ることに留意しなければならない。
【0035】
以下の実施例は、本開示を例示するために使用される。当業者は、本開示の明細書に基づいて、本開示の他の利点を思いつくことができる。本開示は、説明されるように、異なる実施例で実行または適用することもできる。異なる態様および用途について、その精神および範囲に反することなく本開示を実施するために上記の実施例を修飾および/または変更することが可能である。
【実施例
【0036】
本開示の例示的な実施形態は、本開示の範囲を限定しない以下の実施例でさらに説明される。
【0037】
次の実施例では、初期の予後生物学的マーカーとして尿サンプルから単離されたエキソソームにおける尿中エキソソームタンパク質を分析する工程を説明する。
【0038】
甲状腺乳頭癌または濾胞癌と新たに診断された13人の患者を6か月間追跡した。13人の患者全員は外科的評価後に甲状腺全摘を受け、9人の患者は手術後約4週間で放射性I-131アブレーションを受けた。
【0039】
実施例1 患者の評価
すべての患者は、基本的な人口統計情報に加えて、血清サイログロブリンおよび抗サイログロブリン抗体レベル、悪性腫瘍のTNM分類に従って決定された癌の病期分類を含む外科病理的所見を含有する甲状腺機能の包括的な術前および術後評価を受けた。サイログロブリンレベルは、固相の化学発光免疫測定法であるIMMULITE2000サイログロブリンを使用して測定した。その分析感度は0.2ng/mLである(ドイツ、エアランゲン、シーメンス)。抗サイログロブリン抗体のレベルは、ヒト血清中のサイログロブリン自己抗体を定量的に測定するための2段階のイムノアッセイであるARCHITECT Anti-Tgアッセイで測定された。その感度は≦1.0IU/mLである(米国イリノイ州、シカゴ、アボット研究所)。評価の結果を次の表1に示した。
【0040】
【表1】
【0041】
表1には、基本的な人口統計情報、血清サイログロブリンおよび抗サイログロブリン抗体レベルを含む甲状腺機能の術前および術後評価、悪性腫瘍のTNM分類に従って決定された癌の病期分類を伴う外科病理的所見を含む患者評価の結果がリストされている。
【0042】
実施例2 尿サンプルの収集
尿サンプルは、手術前、手術直後、術後3ヵ月および6ヵ月に患者から収集され、患者ごとに合計4回収集された。患者からの尿サンプルは、尿中エキソソーム沈殿のために収集された。具体的には、各患者について200mLの新鮮なヒト尿サンプルが収集された。これらのサンプルを3000×gで4℃、15分間遠心分離して細胞と細胞片を除去し、次に、10,000×gで4℃、30分間遠心分離して微小胞を除去した。
【0043】
Amicon(R) Ultra15遠心フィルター、100K(米国マサチューセッツ州、ビレリカ、ミリポア)を使用して、200mL尿サンプルを5mL~10mLに濃縮した。尿中エキソソームは、ExoQuick-TC(米国カリフォルニア州、パロアルト、システムバイオサイエンス)を使用して単離した。上清を新しいチューブに移し、cOmpleteTM、EDTAフリープロテアーゼ阻害剤カクテル(スイス、バーゼル、ロシュ)を加え、サンプルを-80℃で保存した。エキソソームペレットを溶解バッファー(7M尿素、2Mチオ尿素、4%CHAPS)に再懸濁した。このようにして調製したエキソソームタンパク質サンプルを、多重反応モニタリング(MRM)分析を行うまで-80℃で凍結した。
【0044】
実施例3 エキソソームタンパク質のトリプシン消化
尿中エキソソームサンプルを、-20℃の3倍量の冷メタノールで沈殿させた後、10,000×gで10分間遠心分離した。次に、沈殿したペレットを溶解バッファー(4M尿素、25mM重炭酸アンモニウム、pH8.5)に懸濁した。変性サンプルを周囲温度で200mMジチオトレイトールにより1時間還元し、次に、暗所において1時間200mMヨードアセトアミドでアルキル化した。残りのヨードアセトアミドを200mMのDTTの添加によりクエンチし、周囲温度で20分間インキュベートした。修飾されたシーケンスグレードのトリプシン(米国ウィスコンシン州、マディソン、プロメガ)がサンプルに追加された。消化は37℃で16時間行った。
【0045】
実施例4 直接注入を使用したMRM Q1/Q3イオンペアの選択
ガレクチン-3は、サイログロブリンレベルの傾向を確認するための比較に使用される。ガレクチン-3はガラクトシダーゼ結合タンパク質を介して細胞増殖を調節し、これは甲状腺乳頭癌の発生および転移と相関している。
【0046】
サイログロブリンおよびガレクチン-3のペプチド配列は、Peptide AtlasおよびUniProtから入手可能であり、以下の表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
標準ペプチドは、明欣生物科技(Mission Biotech)株式会社(台湾、台北)によって合成された。合成ペプチドを乾燥させ、エーテルで沈殿させた。230nmでのペプチド溶出を監測しながら、逆相高速液体クロマトグラフィーによりペプチドを精製した。シリンジポンプを使用して10μL/分の流量で注入するために、合成標準ペプチドを0.1%ギ酸で2μg/mLに希釈した。注入されたペプチド溶液は、TurboV源を備え、アナリストソフトウェア(Analyst software)で制御されたAB SCIEX QTRAP 5500質量分析計(米国マサチューセッツ州、フレーミングハム)を使用したエレクトロスプレーイオン化によって分析された。質量分析は、イオンスプレー電圧を5500Vに設定して、陽イオンモードで実施した。ソース温度は550℃に設定された。追加のパラメーターについて、ネブライザーおよび乾燥ガスの流量はそれぞれ60psiおよび45psiであった。アナリストソフトウェアを使用して、m/zの範囲が100~1000の2+および3+の両方のプリカーサーイオン電荷状態のためのすべての可能なbおよびyシリーズフラグメントイオンのリストを生成した。MRM Q1/Q3イオンペアの最適化のためのMRMスキャンは、Q1とQ3の両方を単位分解能(0.7Da半値全幅)に設定し、衝突エネルギー(CE)を5Vから55Vまでに1Vずつ増加し、各遷移の滞留時間が150ミリ秒であることで実施した。このデータから、ペプチドごとに最も強い信号を生成した4つの遷移が選択された。次に、これら4つの遷移から、信号干渉がなく、最も豊富な信号を生成する3つの遷移を選択した。
【0049】
実施例5 尿中エキソソーム消化物のLC-MRM/MS分析
Agilent 1260 Infinity HPLCシステム(米国カリフォルニア州、サンタクララ、アジレント・テクノロジー)を使用して、10μLの尿消化サンプルを周囲温度で維持された逆相分析カラム(100×2.1mm i.d.、2.7μm、Agilent Poroshell 120 EC-C18)に直接的に注入した。サンプルは、300μL/分の流速と移動相Bの3%~90%の勾配を使用して30分の合計実行時間で分離した。移動相Aは0.1%v/vギ酸で構成され、移動相BはACN/0.1%ギ酸で構成された。勾配法は、次のように複数の線形勾配で構成されており(時間:%B):0.1分、10%B;3.5分、11%B;6.5分、20%B;7分、21%B;7.5分、22%B;12.5分、22.5%B;17分、25%B;20分、30%B;22.5分、42%B;23.5分、90%B;27分、3%B;30分、3%B。アナリストソフトウェアで制御され、かつ、TurboVイオン化源を備えたAB SCIEX QTRAP 5500は、すべてのLC-MRM/MSサンプル分析に使用した。すべての収集方法では、次のパラメーターを使用した:イオンスプレー電圧が5500Vであり、ネブライザーと乾燥ガスの流量がそれぞれ60psiと45psiであり、ソース温度が550℃であり、Q1とQ3は単位分解能(0.7半値全幅)に設定した。
【0050】
MRM収集方法は、高信号を生成する干渉のない遷移とLC方法の開発の決定の時に、最初はペプチドごとに4つのイオンペアで構成されていた。最終的な分析方法は、ペプチドごとに1つの検証済みの定量イオンペアで構成され、一般的な尿の干渉について評価されたハイスループットで迅速な30分方法である。ただし、サンプルの尿分析は、すべてのマイナーなサンプル固有の信号を確実に検出するために、ターゲットペプチドごとに3つの検証済みのイオンペア遷移を含む収集方法で実行された。MRM収集方法は、フラグメントイオン固有の調整されたCE電圧と保持時間の制約を使用して構築された。
【0051】
実施例6 尿中エキソソーム消化物中のペプチド標的のMRMデータ分析
すべてのMRMデータは、AB SCIEX アナリストソフトウェア(バージョン1.5)を使用して処理され、ピーク積分用のインテグレーターアルゴリズムがデフォルト値に設定されていた。積分されたすべてのピークを手動で検査して、正しいピーク検出と正確な積分を確認した。すべての検量線の線形回帰は、標準の1/x2(x=濃度)重み付けオプションを使用して実行され、広いダイナミックレンジのカバーを補助した。各ペプチド標的の濃度は、観察された応答、および標準曲線から実験で確定された線形回帰式に基づいて計算された。計算された濃度はμM単位であり、式:(ng/mL)=(μM)×(分子量ダルトン)を使用して、処理されたタンパク質全体の重量を考慮して、ng/mLに変換された。
【0052】
13人の患者の尿中ペプチドバイオマーカー濃度を以下の表3にまとめ、各患者の傾向を図1A図1Mに示した。
【0053】
【表3】
【0054】
これらのデータには、血清サイログロブリンは高感度(0.2ng/mL)の化学発光免疫測定法で検出されなかったが、尿中エキソソームサイログロブリンはペプチドシーケンシングで検出できることを示していた。特に、放射性I-131アブレーション後の患者1、3、4、およびでは、血清サイログロブリンが検出されなかったが、尿中エキソソームサイログロブリンは増加傾向を示し、甲状腺癌の再発の可能性を示唆している。血清サイログロブリンを検出できる患者10、11、および12では、尿中エキソソームサイログロブリンのレベルも増加傾向とよく相関している。
【0055】
なお、甲状腺全摘術および放射性ヨウ素アブレーションを受けている患者における尿中エキソソームサイログロブリンの術前および術後の連続変化は図2に示した。
【0056】
図2に示すように、尿中エキソソームサイログロブリンは、軟部組織病変あるいはレベルIVリンパ節の転移を伴う甲状腺乳頭癌、またはリンパ管浸潤を伴う濾胞性甲状腺癌である患者1、3、4および8において、上昇傾向を示した。しかし、これらの患者の血清サイログロブリンは、アブレーション療法の術後6ヶ月の追跡においては検出できない。
【0057】
本開示の方法で使用する尿中エキソソームサイログロブリンは、血清サイログロブリンと比較して、甲状腺切除を受けた患者の炎症誘発性予測因子であり、甲状腺癌再発のより高感度のバイオマーカーである。このような患者の尿中エキソソームサイログロブリンの増加傾向は、再発の予測において検出不能な血清サイログロブリンのより良い代替物として使用でき、甲状腺癌患者の監測における敏感で初期のバイオマーカーとして機能できることを示唆している。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図1I
図1J
図1K
図1L
図1M
図2
【配列表】
0007007761000001.app