IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コミー株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】表示一体型フレネルミラー
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/09 20060101AFI20220118BHJP
   G02B 5/08 20060101ALI20220118BHJP
   H01L 27/32 20060101ALI20220118BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20220118BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
G02B5/09
G02B5/08 A
H01L27/32
H05B33/02
H05B33/14 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021552211
(86)(22)【出願日】2021-05-11
(86)【国際出願番号】 JP2021017924
【審査請求日】2021-09-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390010526
【氏名又は名称】コミー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(72)【発明者】
【氏名】植木 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】河端 伸裕
【審査官】三宅 克馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-090749(JP,A)
【文献】特開2016-206213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/09
G02B 5/08
H01L 27/32
H05B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂からなる基板の表面側を鏡面にし、前記基板の裏面側に、傾斜面と段差面を断面L字状に形成すると共に、前記傾斜面にだけ金属膜の反射層を積層した溝を多数配列した集積溝群を設け、前記集積溝群の背面に封止樹脂層を積層した広角視野型のフレネルミラーであって、前記集積溝群よりも背面側に前記鏡面側から前記段差面を介して透視可能な表示部を設けた表示一体型フレネルミラー。
【請求項2】
前記集積溝群と前記封止樹脂層との間に前記表示部を層状に配置した請求項1に記載の表示一体型フレネルミラー。
【請求項3】
前記封止樹脂層を透明樹脂で構成すると共に、前記封止樹脂層の背面に前記表示部を層状に配置した請求項1に記載の表示一体型フレネルミラー。
【請求項4】
前記表示部が印刷層である請求項1~3のいずれか1項に記載の表示一体型フレネルミラー。
【請求項5】
前記表示部が電子ディスプレイの電子表示層である請求項1又は3に記載の表示一体型フレネルミラー。
【請求項6】
前記傾斜面が曲率半径75mm~1000mmに基づく構成からなる請求項1~5のいずれか1項に記載の表示一体型フレネルミラー。
【請求項7】
前記封止樹脂層を構成する透明樹脂の屈折率が、前記基板を構成する透明樹脂の屈折率の±0.35の範囲内である請求項3~6のいずれか1項に記載の表示一体型フレネルミラー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミラーに表示部を一体的に設けた表示一体型フレネルミラーに関する。
【背景技術】
【0002】
広角視野型のフレネルミラーは、平面形状でありながら凸面鏡と同等の広角な視野が得られる特長を有している。しかも、フレネルミラーは平面形状であるため取付面から突出しないような取付けが可能であるため、通行の邪魔にならないという利点がある。したがって、フレネルミラーをT字路やL字路などの交差部に設置すると、その交差部に互いに異なる通路から進行して来る通行人同士の衝突事故を防止することが出来るため、衝突防止手段として有効利用されている。
【0003】
上述したフレネルミラーによる衝突防止効果を一層向上させるため、フレネルミラーの表面、或いはフレネルミラーを保持する外枠表面などに、注意喚起用の表示を印刷したり、或いはシールを貼りつけたりすることが多数知られている(例えば、特許文献1や特許文献2など)。しかしながら、フレネルミラーの表面に施した印刷やシールなどの表示は、外部障害物との接触によって汚れたり、損傷したりするため当初の表示機能を低下させやすい。特に屋外で使用されるフレネルミラーの場合では、紫外線や外気、風雨、砂塵に直接晒されるため一層劣化が進みやすい。このように表示部の劣化が進むと、表示部に対する人の関心が低下するため、表示部の本来の注意喚起力が失われ、衝突防止効果も低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-88565号公報
【文献】特開2016-206213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、フレネルミラーに設けた表示部の耐久性を向上すると共に、フレネルミラーに対する注意喚起力を一層向上するようにした表示一体型フレネルミラーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の表示一体型フレネルミラーは、透明樹脂からなる基板の表面側を鏡面にし、前記基板の裏面側に、傾斜面と段差面を断面L字状に形成すると共に、前記傾斜面にだけ金属膜の反射層を積層した溝を多数配列した集積溝群を設け、前記集積溝群の背面に封止樹脂層を積層した広角視野型のフレネルミラーであって、前記集積溝群よりも背面側に前記鏡面側から前記段差面を介して透視可能な表示部を設けたことを特徴とするものである。
【0007】
本発明は、さらに下記の態様を包含する。
[1]集積溝群と封止樹脂層との間に表示部を層状に配置したこと。
[2]封止樹脂層を透明樹脂で構成すると共に、封止樹脂層の背面に表示部を層状に配置したこと。
[3]表示部が印刷層であること。
[4]表示部が電子ディスプレイの電子表示層であること。
[5]傾斜面が曲率半径75mm~1000mmに基づく構成からなること。
[6]封止樹脂層を構成する透明樹脂の屈折率が、基板を構成する透明樹脂の屈折率の±0.35の範囲であること。
【発明の効果】
【0008】
本発明の表示一体型フレネルミラーは、表示部を基板の裏面側に配置しているので、表示部の耐久性を向上することができる。また、表示部が基板裏面側に配置してあっても、基板裏面側の集積溝群を形成する溝の傾斜面だけに反射層を積層し、段差面には積層していないため、その段差面を介して裏面側の表示部を鏡面側から視認することができる。さらに、広角視野型のフレネルミラーの集積溝群に配列する溝はミラー端部に向かうほど段差面が大きくなっているため、この段差面を介して鏡面側から透視する表示部の図柄や文字等の表示が、フレネルミラーに対面する人との相対位置の変化に伴って微妙に変化し、その表示部に対する注意喚起性を一層向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施形態に係る表示一体型フレネルミラーの正面図である。
図2A図2Aは、図1においてII―II矢視で示す部分の断面図である。
図2B図2Bは、図2Aの部分拡大図である。
図3図3は、図2AにおいてIII―III矢視方向から見た表示部の表面図である。
図4図4は、フレネルミラーの原理の説明図であって、(A)は凸面鏡の断面を示す原理図、(B)は同凸面鏡に対応するフレネルミラーの断面を示す原理図である。
図5図5は、本発明のフレネルミラーの基板の製造方法を例示する説明図である。
図6図6は、本発明のフレネルミラーを階段途中の踊り場に取り付けた状態を示す説明図である。
図7A図7Aは、図6の階段を下る通行人が上部側の階段から踊り場のフレネルミラーを見たときの表示部の見え方を例示する視認図である。
図7B図7Bは、図6の階段を上る通行人が下部側の階段から踊り場のフレネルミラーを見たときの表示部の見え方を例示する視認図である。
図8図8は、表示部の他の例を示す表面図である。
図9A図9Aは、本発明の他の実施形態に係る表示一体型フレネルミラーを示す縦断面図である。
図9B図9Bは、図9Aの部分拡大図である。
図10A図10Aは、本発明の更に他の実施形態に係る表示一体型フレネルミラーを示す縦断面図である。
図10B図10Bは、図10Aの部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の形態に限定されず、特許請求の範囲の精神及び範囲から逸脱しない任意の改変が本発明に包含されることが意図される。図面において、同一の符号が付された要素は、同様の構成又は機能を有することが意図される。
【0011】
図1図3は、本発明の実施形態からなる表示一体型フレネルミラー(以下、単に「フレネルミラー」と略称する。)を示す。
【0012】
図1図3において、フレネルミラー10は基板1が透明樹脂から構成されている。その基板1の表面側を鏡面2にし、かつ基板1の裏面側に、中心軸Cに対して多数の径の異なる環状溝3を同心円状に配列した集積溝群4を形成している。図2A及び図2Bに示すように、集積溝群4を形成する環状溝3は、傾斜面3aと段差面3bとを断面L字状に連結すると共に、傾斜面3aにだけ金属膜の反射層5を積層し、段差面3bには積層していない構成になっている。さらに、集積溝群4の背面に封止樹脂層6が積層され、この封止樹脂層6により金属膜の反射層5の酸化劣化を防止するようになっている。封止樹脂層6は透明樹脂から構成され、その背面側に印刷層からなる表示部7が積層されている。
【0013】
図3は、印刷層により形成された表示部7を例示し、封止樹脂層6に対面する側がを示している。表示部7は人のフレネルミラー10に対する注意心を喚起する目的で設けられており、図柄や文字などが印刷されている。図3の例では、表示部7の両端部に一対の目玉7a、7bが互いに目線を内側に向けるように印刷されている。この表示部7は封止樹脂層6の背面に直接印刷されているが、予めフィルムなどの基材シートに印刷して、その基材シートの印刷層側を封止樹脂層6に向けて積層するように構成されていてもよい。印刷方法としては、インクジェット印刷やシルクスクリーン印刷が好ましい。
【0014】
中心軸Cの周りに同心円状に形成された環状溝3の傾斜面3aは、図4に示す原理図に基づいて構成されている。図4(A)側の円弧は、曲率半径Rの凸面鏡の鏡面Qに相当する。この鏡面Qが、中心軸Cの周りに中心の小円板q0と、その周囲に微小なピッチで同心円状に輪切りにされた環状帯q1,q2,q3・・・qnとが配置されるように構成されている。これらの小円板q0と多数の環状帯q1,q2,q3・・・qnとが、図4(B)側に示すように、平面状に並べ替えられることによりフレネルミラー10の多数の傾斜面3aを形成している。
【0015】
図2A及び図2Bでは、理解を容易にするため傾斜面3aが大きなピッチで図示されているが、実際のフレネルミラー10では、これら傾斜面3aは0.01mm~1.0mm、好ましくは0.01mm~0.5mmの微小なピッチで配列されている。微小なピッチで配列した多数の傾斜面3aは、それらの基板1の平面方向に対してなす傾斜角度θが、中心軸Cから離れた傾斜面3aほど大きくなり、かつ、傾斜面3aの傾斜角度θが大きくなるほど、段差面3bの幅(高さ)が順次大きくなっている。
【0016】
環状溝3の傾斜面3aにだけ反射層5を積層し、段差面3bには積層しないように加工する方法としては、好ましくは特許第3912873号公報に記載された方法により加工するとよい。すなわち、図5に示されるように、多数の環状溝3を形成した基板1を真空蒸着室50の中にセットし、多数の環状溝3を形成した基板1の中心軸Cの延長線上に、傾斜面3aの曲率半径Rの中心0よりも十分短い位置に金属蒸発源51をセットする。この状態で金属蒸発源51から金属粒を放射すると、直線状に飛翔した金属粒が環状溝3の傾斜面3aにだけ衝突し、段差面3bに対しては傾斜面3aに遮られて衝突しないため、傾斜面3aにだけ金属膜を積層することができる。
【0017】
本発明のフレネルミラー10は、表示部7がミラーの裏面側に設けられているが、この表示部7はミラーの鏡面2側から視認可能になっている。図2A及び図2Bに示すように、フレネルミラー10の一方の端部側の上方から、目Eの視線をフレネルミラー10の鏡面2に対する他方側の端部に向けると、その視線は透明な基板1の鏡面2に入射屈折したのち、反射層5のない段差面3bを通り、さらに透明な封止樹脂層6を通過して表示部7に至るため、その表示部7に印刷された図3に例示するような目玉7a、7b等を視認することができる。
【0018】
図6は、本発明のフレネルミラー10を上部側階段61と下部側階段62との間の踊り場63の壁面64に取り付けた実施例を示す。
【0019】
上部側階段61を下降中の人P1と下部側階段62を上行中の人P2は、仕切壁65によって相手側の存在が分からないため衝突する可能性がある。しかし、踊り場63の壁面64にフレネルミラー10が取り付けられていて、両人P1とP2はフレネルミラー10を介して相手側を視認することができるようになっている。この場合、上部側階段61を下降中の人P1は、フレネルミラー10中に図7Aに示される目玉7aを視認することができ、その目玉7aが指し示すミラー中央側に人P2の映像を確認することができる。同様に、下部側階段62を上行中の人P2は、フレネルミラー10中に図7Bに示される目玉7bを視認し、その目玉7bが指し示すミラー中央側に人P1を確認することができる。したがって、人P1と人P2は、両者間の衝突を防止することができる。
【0020】
図8は、表示部7に印刷した印刷層の別の例を示す。例えば、図6において階上に販売店がある場合、図3の表示部7に代えて図8の表示部7を利用することができる。下部側階段62を上行して販売店に向かう客には、”Welcome!“の表示7cで呼びかけ、また上部側階段61を下行して販売店から帰る客には“Thank You!”の表示7dで呼びかけることができる。
【0021】
図9A及び図9Bは、本発明に係る表示一体型フレネルミラーの他の実施形態を示す。
【0022】
この表示一体型フレネルミラー20は、フレネルミラーの基礎構造はフレネルミラー10と同じ構造になっているが、封止樹脂層6の背面側に設ける表示部7を印刷層に代えて電子ディスプレイ21の電子表示層22にしている点が、表示一体型フレネルミラー10とは異なっている。電子ディスプレイ21は、有機EL素子などの自発光するものや発光ダイオードなどの発光層を内装したもの、又は、外光を反射するための反射板を内装したものなどがあり、本体23に設けた電子表示層22を表示部7として封止樹脂層6の背面側に設置している。電子表示層22に映る図柄や文字などの表示を、基板1の鏡面2から段差面3bを介して透視することができる。したがって、発明の効果は、上述した表示一体型フレネルミラー10と同じである。
【0023】
図10A及び図10Bは、本発明に係る表示一体型フレネルミラーの更に他の実施形態を示す。
【0024】
この表示一体型フレネルミラー30は、基板1の裏面側に多数の径の異なる環状溝3を同心円状に配列した集積溝群4を形成し、その集積溝群4の環状溝3の傾斜面3aにだけ金属膜の反射層5を積層し、段差面3bには反射層5を積層していない構成にしている点は、図1図3の表示一体型フレネルミラー10と同じである。この構成において、集積溝群4と封止樹脂層6との間に印刷層からなる表示部7を配置した点で、図1図3の表示一体型フレネルミラー10とは相違している。このフレネルミラー30では、封止樹脂層6は必ずしも透明樹脂から構成される必要はなく、不透明樹脂であってもよい。発明の効果は、上述した表示一体型フレネルミラー10と同じである。
【0025】
上述した本発明の表示一体型フレネルミラーにおいて、基板背面の集積溝群を形成する環状溝の傾斜面の曲率半径Rとしては、75mm~1000mmが好ましく、さらに好ましくは75mm~700mm、特に好ましくは100mm~500mmにするのがよい。曲率半径が大きすぎると、環状溝の段差面の幅(高さ)が小さくなりすぎるので、鏡面から表示部を透視することが難しくなる。また、曲率半径Rを小さくしすぎると、フレネルミラーの映像が小さくなりすぎるため、衝突防止手段などとしての利用が難しくなる。
【0026】
反射層に使用する金属としては、アルミニウム、銀、クロム、スズなどの金属、これら金属の合金や酸化物などを例示することができる。特に好ましくは、アルミニウム及びこれらを含む合金がよい。
【0027】
基板を構成する透明樹脂は、透明であれば特に限定されないが、好ましくはポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂などを使用するのがよい。
【0028】
また、封止樹脂層に用いる透明樹脂は基板の集積溝群の凹凸形状に追従しやすい柔軟性や密着性を有するものが好ましい。例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、ウレタン樹脂などを挙げることが出来る。これら封止樹脂層に使用する透明樹脂の屈折率は、基板の透明樹脂の屈折率に近いことが好ましく、特に基板の透明樹脂の屈折率の±0.35の範囲内とするのがよい。
【符号の説明】
【0029】
1 基板
2 鏡面
3 環状溝
3a 傾斜面
3b 段差面
4 集積溝群
5 反射層
6 封止樹脂層
7 表示部
10 表示一体型フレネルミラー
20 表示一体型フレネルミラー
30 表示一体型フレネルミラー
【要約】
表示部の耐久性を向上すると共に、注意喚起力も一層向上するようにした表示一体型フレネルミラーを提供する。
透明樹脂からなる基板1の表面側を鏡面2にし、その裏面側に傾斜面3aと段差面3bを断面L字状に形成し、かつ傾斜面3aにだけ金属膜の反射層5を積層した溝を多数配列した集積溝群4を設け、その背面に封止樹脂層6を積層した広角視野型のフレネルミラー10であって、集積溝群4よりも背面側に鏡面2側から段差面3bを介して透視可能な表示部7を設けている。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10A
図10B