(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】乳児期のストレスに起因する成長期の不安行動の予防剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/40 20060101AFI20220118BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20220118BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20220118BHJP
A23L 33/19 20160101ALI20220118BHJP
【FI】
A61K38/40 ZMD
A61P25/22
A61P25/24
A23L33/19
(21)【出願番号】P 2016211733
(22)【出願日】2016-10-28
【審査請求日】2019-09-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】竹内 崇
(72)【発明者】
【氏名】宮川 桃子
(72)【発明者】
【氏名】若林 裕之
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】Brain Research,2003年,Vol.979,pp.216-224
【文献】医学のあゆみ,2006年,Vol.218, No.5,pp.396-402
【文献】BMC Neuroscience,2010年,Vol.11,Article:123, pp.1-14
【文献】竹内崇ほか,新生子ラットの長期母子分離による発育期不安関連行動に対するラクトフェリンの効果,日本獣医学会学術集会講演要旨集,2005年08月31日,Vol.140th,p.193,ISSN 1347-8621, the whole document
【文献】福万朋子ほか,新生子期の母子分離ストレスによる発育期不安関連行動はラクトフェリンによって改善されるか,日本獣医学会学術集会講演要旨集,2005年03月01日,Vol.139th,p.181,ISSN 1347-8621, the whole document
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/40
A61P 25/22
A61P 25/24
A23L 33/19
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物が、出生時健常児でありかつ乳児期において
心理的ストレスを受ける乳児に対して、0~2歳の期間に
複数回経口摂取されるように用いることを特徴とする、
ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物を有効成分として含有する、乳児期の
心理的ストレスに起因する成長期の不安行動の予防剤。
【請求項2】
心理的ストレスが、母子父子関係の破綻である、請求項1記載の乳児期の
心理的ストレスに起因する成長期の不安行動の予防剤。
【請求項3】
母子父子関係の破綻が、母子分離である、請求項2記載の予防剤。
【請求項4】
出生時健常児が、在胎期間37週以上42週未満で出生した健常児である、請求項1~3の何れか1項記載の予防剤。
【請求項5】
ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物が、出生時健常児でありかつ乳児期において
心理的ストレスを受ける乳児に対して、0~2歳の期間に
複数回経口摂取されるように用いることを特徴とする、
ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物を有効成分として含有する、乳児期の
心理的ストレスに起因する成長期の不安行動を予防するための食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、乳幼児のストレスに起因する成長期の不安行動の予防剤及び乳幼児のストレスに起因する成長期の不安行動を予防するための食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、乳児期のストレスが将来の成長期の不安行動に影響を及ぼすことが知られるようになってきている。乳児期のストレスとして、例えば、周囲のヒト(例えば、養育者、保育者等)から愛されて大切にされているという感覚(基本的信頼感)の欠如等がある。この乳児期のストレスは、乳児に接するヒト(例えば、養育者、保育者等)との関係の破綻により生じることがある。この関係の破綻とは、例えば育児放棄やネグレクト等が挙げられ、家族関係不良(両親の離婚、家庭内の暴力、身内の病気によるもの等)、経済的な困難等によって生じている。ヒト乳児期のストレスと、その後の不安行動との関連性について、注目されるようになってきている。
この関連性の研究において、げっ歯類を用いて離乳前の脳発達期に母獣と仔を引き離す「母子分離モデル」が、乳児期ストレスの動物モデルとして広く用いられている。この「母子分離モデル」の結果から、乳児期の母子分離によって、成長期に不安行動が誘導されることが報告されている(非特許文献1及び2)。
【0003】
そして、乳児期のストレスの一つである母子分離について、乳児期の母子分離モデルの動物実験において、母子分離させた仔に対して、成長期に数週間に渡り抗不安薬を投与することによって、母子分離が誘導する不安行動が改善されることが報告されている(非特許文献1及び2)。抗不安薬(医療用医薬品)として、非特許文献1ではパロキセチン塩酸塩水和物、非特許文献2ではチアネプチンが使用されている。
【0004】
さらに、母子分離モデルの動物実験において、成長期に数週間に渡り抗不安作用を有する食品素材を投与しても、成長期の不安行動を予防することができなかったことが報告されている(非特許文献3)。非特許文献3ではLactobacillus Plantarum PS128が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5427713号公報
【文献】特開2016-121109号公報
【文献】国際公開第2014/099134号
【文献】US2015/0119322号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Huot R L et al., Psychopharmacology,2001; 158: 366-373
【文献】Trujillo V et al., Stress, 2016; 19(1): 91-103
【文献】Liu Y W et al., Brain Research, 2016; 1631: 1-12.
【文献】Semple B D et al., Prog Neurobiol, 2013; 106-107: 1-16.
【文献】Geva R et al., Pediatrics, 2006; 118(1):91-100.
【文献】Cosmi E et al., J Pregnancy, 2011; 364381.
【文献】Higgins D J et al., Aggress Violent Behav, 2001; 6(6):547-578.
【文献】Heim C et al., Biol Psychiatry, 2001; 49(12):1023-1039.
【文献】Green J G et al., Arch Gen Psychiatry, 2010; 67(2):113-123.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、成長期の抗不安薬投与による不安行動の改善についての報告はあるが、乳児期の期間内に食品素材を投与し、その後に生じる成長期の不安行動を予防できるという報告は未だない。
そこで、本技術は、乳児期においてストレスを受ける乳児が摂取することによって、乳児期のストレスに起因する成長期の不安行動の予防剤を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
乳児に対して投与する場合、できるだけ副作用が少ない物質が好ましい。しかし、一般的に、副作用が少ない物質では強い効能が得られにくいので、本発明者らにとって、どのような物質が適しているか予測することは極めて困難であった。
【0009】
しかしながら、本発明者らは、種々検討した結果、出生時健常児でありかつ乳児期においてストレスを受ける乳児に対して、食品素材として利用されているラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物を、乳児期に摂取させることで、乳児期のストレスに起因する成長期の不安行動の予防ができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
ところで、特許文献1には、ラクトフェリンを有効成分とする統合失調症の陽性症状のための治療薬が開示され、また、特許文献2には、ラクトフェリン加水分解物を有効成分として含有する、表皮基底膜保護剤が開示されている。
【0011】
また、特許文献3には、小児対象における心理的ストレスを調節する方法であって、前記小児対象に非ヒト供給源からラクトフェリンを含有する乳ベースの栄養組成物を投与することを含む方法が開示されている。
また、特許文献4には、(a)牛乳脂肪球からなる脂質、(b)ラクトフェリン、(c)ポリデキストロース及びガラクトオリゴ糖からなるプレバイオティクスを特定量含む栄養組成物を小児被験者に摂取させるセロトニン受容体の発現調節方法が開示され、ここでは離乳後のラットに投与した後の不安行動を検証している。
【0012】
しかしながら、特許文献1~4のいずれにも、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物を、乳児期に摂取させることで、将来の乳児期のストレスに起因する成長期の不安行動が予防できることの示唆はない。
【0013】
例えば、特許文献3記載の実験モデルにおいて、予定出産前に帝王切開した早産児を用いてNECモデルに対するラクトフェリンの有効性が、検討されている。
しかしながら、本技術では出生時健常児を投与対象者としており、特許文献3の実験モデルと比較して投与対象者が異なる。また、特許文献3の実験モデルでは投与期間中のNEC(壊死性腸炎)発生率の低減を見ているに過ぎず、投与終了の後の経過観察は何らない。
【0014】
例えば、特許文献4記載の実験モデルにおいて、成長期のラットに、ラクトフェリン、ポリデキストロース及びガラクトオリゴ糖の混合物を投与し、テイルショックに起因する不安行動の低減が、検討されている。
しかしながら、本技術では乳児期を投与時期としており、特許文献4の実験モデルと比較して投与時期が異なる。
【0015】
さらに、食品素材は、日々食しても安全ということは副作用も少ないが効能も少ないと普通考えられている。さらに、非特許文献3(Liu Y.W. et al.)の実験結果からも後押しされて、食品素材は、将来生じる、乳児期のストレスに起因する成長期の不安行動を予防できないと考えるのが一般的である。
【0016】
すなわち、本技術は、
ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物が、出生時健常児でありかつ乳児期においてストレスを受ける乳児に対して、乳児期に摂取されるように用いることを特徴とする、
ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物を有効成分として含有する、乳児期のストレスに起因する成長期の不安行動の予防剤を提供することができる。
【0017】
また、本技術は、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物が、出生時健常児でありかつ乳児期においてストレスを受ける乳児に対して、乳児期に摂取されるように用いることを特徴とする、
ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物を有効成分として含有する、乳児期のストレスに起因する成長期の不安行動を予防するための食品組成物を提供することができる。
【0018】
本技術において、ストレスが、母子父子関係の破綻である場合、乳児期のストレスに起因する成長期の不安行動を予防することができる。
本技術において、母子父子関係の破綻が、母子分離である場合、乳児期のストレスに起因する成長期の不安行動を予防することができる。
本技術において、出生時健常児が、在胎期間37週以上42週未満で出生した健常児である場合、乳児期のストレスに起因する成長期の不安行動を予防することができる。
【発明の効果】
【0019】
本技術によれば、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物を、出生時健常児でありかつ乳児期においてストレスを受ける乳児が摂取することによって、乳児期のストレスに起因する成長期の不安行動の予防剤を提供することができる。しかも、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物は食品素材として利用されているため、乳児に対しても安全性が高い。
なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本技術中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本技術を実施するための好適な実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0021】
本技術は、以下の(a)及び(b)を有するものである。
(a)出生時健常児でありかつ乳児期においてストレスを受ける乳児に対して、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物を、乳児期に摂取させるように用いることによって、乳児期のストレスに起因する成長期の不安行動を予防できること。
(b)ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物を有効成分として含有する乳児期のストレスに起因する成長期の不安行動の予防剤。
【0022】
本技術における「出生時健常児」とは、「一般的に出生時に健康といわれる新生児」をいう。
より具体的には、「妊娠期・分娩時に異常がみられない正期産児」をいう。さらに具体的には、「妊娠期に子宮内胎児発育遅延を示さない新生児であり、かつ、分娩時の異常(例えば、低酸素虚血脳症等)が認められない新生児」をいう。
【0023】
出生時健常児と子宮内胎児発育遅延を示す新生児とは中枢神経系の発育過程が異なるため、また本技術において、子宮内胎児発育遅延を示す新生児に対しての予防効果を確認しておらず本技術の特性上予測も困難であるので、「妊娠期に子宮内胎児発育遅延を示す新生児」については、本技術の予防対象者から除外した。
神経系は、胎児期の初期から出生後にかけて神経新生、グリア新生、シナプス形成、髄鞘形成、シナプス剪定等、長い期間を通して形態学的・機能的にダイナミックな変化が見られる(非特許文献4(Semple B D et al.))。中枢神経に受ける障害の発生時期、部位及び程度によってその後の脳への影響は異なる。
子宮内胎児発育遅延では、学習・記憶障害や言語障害等の障害を発症するリスクがあることが報告されている(非特許文献5(Geva R et al.)及び非特許文献6(Cosmi E et al.))。これらの発達の遅れによる障害は、神経発達障害(Neurodevelopmental disorders)として分類され(DSM-5)、自閉症スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder)や注意欠如・多動症(Attention-Deficit / Hyperactivity Disorder)や知的能力障害群(Intellectual Disabilities)等と診断されている。
【0024】
また、本技術における「出生時健常児」において、「正期産児」であることが好ましい。ここで、「正期産児」の「正期産」とは、「妊娠37週0日~41週6日の間の5週間の間のお産があること」をいい、「その間に生まれた新生児」を「正期産児」という。
本技術における「出生時健常児」において、「在胎期間37週以上42週未満で出生した健常児」であることが好ましい。
また、本技術における「出生時健常児」において、「正常出生体重の範囲内で生まれた正期産児」であることが、さらに好ましい。ここで、「正常出産体重の範囲内」の「体重」とは、「一般的に2,500g以上4,000g未満」をいう。
【0025】
本技術における「乳児期のストレス」とは、乳児の発達に悪影響を及ぼすような環境要因に曝されている状態をいい、好ましくは「周囲のヒト(例えば、養育者、保育者等)から愛されて大切にされているという感覚(基本的信頼感)の欠如を引き起こすようなストレス」をいう。
ここで、「乳児期」とは、「0(出生時)~3歳まで」をいう。
ここで、「乳児期のストレス」として、例えば、母子父子関係の破綻等が挙げられる。
【0026】
前記「母子父子関係の破綻」の「母子父子」は、「養育者」、「保育者」を意味し、父母にかぎらず、養育者、保育者であれば祖父母や第三者等でもよい。
ちなみに、本技術における「乳児の養育者」とは、「乳児を経済的に支え育てる者」をいう。また、本技術における「乳児の保育者」とは、「乳児を保育する者」をいい、これには、「親及び祖父母等の他、看護師及びベビーシッター等の職業的なヒト」も含まれる。
【0027】
前記「母子父子関係の破綻」とは、例えば、破綻に起因するものとして、乳児と母子父子(主に母子)の関係の不和・不良、家族関係の不和・不良等が挙げられる。
前記「乳児と母子父子(主に母子)の関係の不和・不良」として、例えば、母子分離、乳児に対するネグレクト、乳児に対する育児放棄・育児怠慢・監護放棄等、乳児に対する身体的虐待、乳児に対する心理的虐待等が挙げられる。本技術においては、母子分離を対象とすることが、好ましい。
前記「母子分離」とは、「母子父子」と分離される状態をいい、前記「乳児に対するネグレクト」を含み得る。対象として、より好ましくは、「母子分離」の狭義として「ネグレクトではないが、「母子父子」と分離され、良好な接触が少ないこと」である。
また、前記「家族関係不和・不良」とは、例えば、家族の身内での離婚、家族の身内での暴力、家族の身内での病気、産後うつ、経済的な困窮に起因すること、両親の離婚、家庭内暴力、親の長時間に渡る不在等が挙げられる。
【0028】
本技術における摂取対象として、乳児期に、連続的に又は非連続的にストレスを受ける乳児を対象とするのが好ましい。
本技術における「乳児期のストレスを受ける期間」として、1日当たり少なくとも1時間ストレスを受ける乳児を対象とするのが好ましく、より好ましくは1日2~8時間、さらに好ましくは1日当たり2~4時間ストレスを受ける乳児を対象とするのが望ましい。
【0029】
「乳児期のストレスの検知」として、例えば、養育者又はその関係者に対して、上記「母子父子関係の破綻」に該当するか否かの問診等を行って判断することが可能である。
また、乳児期のストレスの検知として、例えば、乳児の血中ストレスホルモン(コルチゾール)の標準値と比較して、これよりも上昇が認められた乳児について、ストレスを受けている乳児と判断することもできる。例えば、標準値と比較し2倍程度以上認められた場合に、ストレスを受けている乳児と判断してもよい。
【0030】
本技術における「摂取期間」は、乳児期内において長期間であることが、本技術の「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物」は安全性も高く、予防効果も高まるので、好ましい。
本技術における「摂取期間」は、予防効果を高める点で、0(出生後)~3歳の期間であることが好ましい。また、一般的な育児用調製粉乳の摂取期間も考慮した場合、本技術における「摂取期間」は、好ましくは0(出生後)~2歳、より好ましくは0(出生後)~1歳である。
また、本技術の「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物」の摂取開始時期として、上述の判断手法にて、乳児期にストレスが生じていると判断した場合に摂取を開始すればよい。
【0031】
本技術における「摂取量」は、性別及び摂取間隔等により適宜選択することができる。
本技術における「摂取量」は、好ましくは0.01~1000mg/kg体重/日、より好ましくは30~1000mg/kg体重/日、さらに好ましくは50~1000mg/kg体重/日となる量を目安にすることができる。
本技術における「摂取間隔」は、特に限定されず、1日複数回にわけて行ってもよい。例えば、授乳時でもよく、一定時間間隔(数時間毎)に投与してもよい。
また、乳児が「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物」を含んだ製品を摂取している場合(概ね20mg/kg体重/日程度摂取)、これよりもさらに、10~30mg/kg体重/日多く摂取することが、望ましい。
【0032】
本技術における摂取方法として、経口投与及び非経口投与のいずれであっても良いが、乳児期のため、経口摂取が好ましい。
本技術における「予防剤の状態」として、液状、流動状、半固形状、固形状の何れでもよい。経口摂取させることが乳児には好ましいので、液状又は流動状が好ましい。
【0033】
本技術における「乳児期のストレスに起因する成長期の不安行動」の「成長期」とは、「6歳~19歳」をいう。本技術において、後記〔実施例〕から、好ましくは「思春期(12歳~18歳)の不安行動」に予防効果を奏すると考える。
本技術における「乳児期のストレスに起因する成長期の不安行動」の「不安」とは、一般的に「明確な対象を持たない恐怖のことを指し、その恐怖に対して自己が対応できないときに発生する感情の一種」をいう。
本技術における「不安行動」とは、強い不安、イライラ感、恐怖感、緊張感等の精神症状;パニック、心臓の動悸、息切れ、疲労、吐き気、頭痛、緊張性頭痛、頻脈、胸痛、胃痛、蒼白、発汗、震え、不眠、瞳孔散大等の身体症状により、不安を誘発するような刺激又は場面から回避する行動をいう。この回避する行動として、例えば、情緒不安定になる、人と接することを恐れる、引きこもりになる等の行動が挙げられ、社会生活が障害されることをいう。
本技術における「予防対象」とする「乳児期のストレスに起因する成長期の不安行動」とは、「乳児期のストレスによって成長期に不安行動が生じたという報告のある不安行動」であれば、特に限定されない。
前記「予防対象」とする「不安行動」とは、例えば、以下の(1)~(4)の精神疾患に起因する行動が挙げられる(非特許文献7(Higgins DJ et al.)、非特許文献8(Heim C et al.)及び非特許文献9(Green JG et al.))。
前記精神疾患として、例えば、不安を主症状とする(1)不安症群(Anxiety Disorder)、不安を伴う(2)双極性障害及び関連障害群(Biopolar and Related Disorder)、(3)抑うつ障害群(Depressive Disorders)、(4)心的外傷及びストレス因関連障害群(Trauma- and Stressor- Related Disortder)等が挙げられる。
本技術において、斯様な不安行動(例えば、上記症状の発症等)を予防することができる。
【0034】
本技術における「乳児期のストレスに起因する成長期の不安行動の予防剤」に、有効成分として使用するものとして、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物が挙げられる。このうち、ラクトフェリンが、効能の点で優れているので、好ましい。
【0035】
本技術における「ラクトフェリン」は、乳、涙、唾液、血液等に存在する鉄結合性糖タンパク質である。ラクトフェリンは、特に哺乳動物(例えば、ウシ、ヒト、ヒツジ、ヤギ、ブタ、マウス、ウマ等)の乳(初乳、移行乳、常乳、末期乳等)に含まれる。このうち、含有量、入手容易、安全性の点から、ウシ、ヒト等の乳が好ましい。
これらの分子量は、例えばウシラクトフェリンが86,000ダルトン、ヒトラクトフェリンが88,000ダルトン(以下、「Da」とする。)である。
【0036】
本技術において、これらの乳又はこれらの処理物(脱脂乳、ホエー等)から常法(例えば、イオン交換クロマトグラフィー等)により分離したラクトフェリン(以下、「分離ラクトフェリン」ともいう);分離ラクトフェリンを、酸(例えば、塩酸、クエン酸等)により脱鉄したアポラクトフェリン;分離ラクトフェリンを、金属(鉄、銅、亜鉛、マンガン等)でキレートさせた金属飽和ラクトフェリン;各種飽和度で金属を飽和させたラクトフェリン等が挙げられる。
本技術において、ラクトフェリンは哺乳動物由来に限定されず、遺伝子操作微生物や動物等から生産された組み換えラクトフェリン;化学合成ラクトフェリン等が挙げられる。
また、ラクトフェリンは、非グリコシル化又はグリコシル化されたものでもよい。
このうち、単独で又は2種以上混合して使用してもよい。
また、ラクトフェリンは、市販品を用いてもよく、乳等の原料から調製してもよい。入手容易性から、市販品のラクトフェリン(例えば、森永乳業社製等)が挙られ、また、分離ラクトフェリンの調製方法は、特許文献1に記載されている。
【0037】
本技術における「ラクトフェリン分解物」は、上述の本技術の「ラクトフェリン」を原料とした加水分解物が好ましい。この原料として、含有量、入手容易性、安全性、製造容易性の点から、ウシ、ヒト等の乳から得られたラクトフェリンが好ましい。市販品のラクトフェリン分解物を使用してもよい。
ラクトフェリン分解物の平均分子量は、好ましくは5,000Da以下、より好ましくは2,000Da以下である。また、ラクトフェリン分解物の分解率は、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下である。
【0038】
<平均分子量の算定方法>
本技術におけるラクトフェリン加水分解物の平均分子量は、以下の数平均分子量の概念により求めるものである。
数平均分子量(Number Average of Molecular Weight)は、例えば文献(社団法人高分子学会編、「高分子科学の基礎」、第116~119頁、株式会社東京化学同人、1978年)に記載されているとおり、高分子化合物の分子量の平均値を次のとおり異なる指標に基づき示すものである。
すなわち、タンパク質加水分解物等の高分子化合物は不均一な物質であり、かつ分子量に分布があるため、タンパク質加水分解物の分子量は、物理化学的に取り扱うためには、平均分子量で示す必要があり、数平均分子量(以下、Mnと略記することがある。)は、分子の個数についての平均であり、ペプチド鎖iの分子量がMiであり、その分子数をNiとすると、次の式により定義される。
【0039】
【0040】
本技術における「ラクトフェリン分解物」の製造方法について、1例について説明するが、これに限定されるものではない(特許文献2参照)。
原料であるラクトフェリンを含有させた水分散液に、タンパク質分解酵素を添加してラクトフェリンを分解し、酵素反応停止後、適宜分離精製を行い、ラクトフェリン分解物を得る。
【0041】
前記ラクトフェリン含有水分散液は、通常、タンパク質換算で、ラクトフェリン3~15質量%前後の濃度に調整することが好ましい。
また、前記ラクトフェリン含有水分散液のpHは、使用するタンパク質分解酵素の至適pH(例えば2~4)になるように調整することが好ましい。
前記タンパク質分解酵素は、特に限定されないが、ラクトフェリン分解能を有する酵素が好ましい。
【0042】
前記タンパク質分解酵素として、例えば、プロテアーゼ、トリペプシン、キモトリプシン、プラスミン、ペプシン、パパイン、ペプチダーゼ及びアミノペプチダーゼ等が挙げられる。
また、細菌由来、動植物由来のいずれでもよい。
細菌由来として、例えば、バシラス属、ビフィドバクテリウム属、エンテロコッカス属、ラクトバシラス属、ラクトコッカス属、ロイコノストック属、ペディオコッカス属、プロピオンバクター属、シュードモナス属、ストレプトコッカス属又はそれらの混合物に由来するものが挙げられる。
動物由来として、胃液由来ペプシン(例えば、ヒツジ、ヤギ、ブタ、マウス、水牛、ラクダ、ヤク、ウマ、ロバ、ラマ、ウシ及びヒト等)等が挙げられる。
これらタンパク質分解酵素は、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
【0043】
前記タンパク質分解酵素の使用量は、原料濃度、酵素力価、反応温度、及び反応時間等により、適宜変更することができる。一般的には、ラクトフェリンのタンパク質換算質量1g当たり1000~20000単位(活性単位)の割合が望ましい。
【0044】
酵素反応中、反応系の温度は、特に限定されず、酵素作用が発現する最適温度範囲を含む実用に供され得る範囲から選ばれ、通常30~60℃の範囲から選ばれるのが好適である。また、反応時間は、2~10時間が好ましい。
反応継続時間は、反応温度、初発pH等の反応条件によって進行状態が異なり、例えば、酵素反応の反応継続時間を一定とすると、製造バッチ毎に異なる理化学的性質を有する分解物が生じる可能性等の問題があるため、一該に決定することが難しい。したがって、酵素反応をモニターすることにより、ラクトフェリン加水分解物の理化学的性質が所望の値となるように反応継続時間を決定することが望ましい。
【0045】
なお、酵素反応のモニタリング方法としては、例えば、前記反応溶液の一部を採取し、タンパク質の分解率及びタンパク質平均分子量等を測定する方法等が挙げられる。
【0046】
<タンパク質の分解率の算出方法>
タンパク質の分解率の算出方法は、ケルダール法(日本食品工業学会編、「食品分析法」、第102頁、株式会社光琳、昭和59年)により試料の全窒素量を測定し、ホルモール滴定法(満田他編、「食品工学実験書」、上巻、第547ページ、養賢堂、1970年)により試料のホルモール態窒素量を測定し、これらの測定値から分解率を次式により算出する。
分解率(%)=(ホルモール態窒素量/全窒素量)×100
【0047】
酵素反応停止は、加熱失活処理等の常法によって行われる。
失活後、常法の分離精製を行うことが好適である。分離精製方法として、例えば、濾過、精密濾過、膜分離処理、樹脂吸着等が挙げられる。これらを単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。分離精製時に使用酵素を除去することが可能である。
【0048】
「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物」を医薬品に利用する場合、該医薬品は、経口投与及び非経口投与のいずれでもよいが、経口投与が好ましい。非経口投与としては、例えば、注射(血液、皮膚、筋肉等)、直腸投与、吸入等が挙げられる。経口投与の剤形としては、例えば、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、シロップ剤、顆粒剤、散剤、軟膏等が挙げられる。
【0049】
また、製剤化に際しては、「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物」の他に、通常製剤化に用いられている賦形剤、pH調整剤、着色剤、矯味剤等の成分を用いることができる。更に、公知の又は将来的に見出される疾患の予防又は治療の効果を有する成分を、目的に応じて併用することも可能である。
【0050】
更に、投与方法に応じて、適宜所望の剤形に製剤化することができる。例えば、経口投与の場合、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の固形製剤;溶液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等に製剤化することができる。また、非経口投与の場合、座剤、噴霧剤、軟膏剤、貼付剤、注射剤等に製剤化することができる。
【0051】
加えて、製剤化は剤形に応じて適宜公知の方法により実施できる。製剤化に際しては、カゼイン酵素処理物のみ又は各分離・精製画分のみを製剤化してもよく、適宜、製剤担体を配合する等して製剤化してもよい。
【0052】
また、前記製剤担体としては、剤形に応じて、各種有機又は無機の担体を用いることができる。固形製剤の場合の担体としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤等が挙げられる。
【0053】
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニット、ソルビット等の糖誘導体;トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、α-デンプン、デキストリン、カルボキシメチルデンプン等のデンプン誘導体;結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等のセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルラン;軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム等の珪酸塩誘導体;リン酸カルシウム等のリン酸塩誘導体;炭酸カルシウム等の炭酸塩誘導体;硫酸カルシウム等の硫酸塩誘導体等が挙げられる。
【0054】
結合剤としては、例えば、上記賦形剤の他、ゼラチン;ポリビニルピロリドン;マクロゴール等が挙げられる。
【0055】
崩壊剤としては、例えば、上記賦形剤の他、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン等の化学修飾されたデンプン又はセルロース誘導体等が挙げられる。
【0056】
滑沢剤としては、例えば、タルク;ステアリン酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸金属塩;コロイドシリカ;ピーガム、ゲイロウ等のワックス類;硼酸;グリコール;フマル酸、アジピン酸等のカルボン酸類;安息香酸ナトリウム等のカルボン酸ナトリウム塩;硫酸ナトリウム等の硫酸塩類;ロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム等のラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物等の珪酸類;デンプン誘導体等が挙げられる。
【0057】
安定剤としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等のアルコール類;塩化ベンザルコニウム;無水酢酸;ソルビン酸等が挙げられる。
【0058】
矯味矯臭剤としては、例えば、甘味料、酸味料、香料等が挙げられる。
なお、経口投与用の液剤の場合に使用する担体としては、水等の溶剤、矯味矯臭剤等が挙げられる。
【0059】
「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物」をヒト若しくは動物用の飲食品に利用する場合、公知の飲食品に添加して調製することもできるし、飲食品の原料中に混合して新たな飲食品を製造することもできる。
【0060】
前記飲食品は、液状、ペースト状、固体、粉末等の形態を問わず、乳・乳製品等が挙げられる。
【0061】
また、本技術で定義される飲食品は、保健用途が表示された飲食品として提供・販売されることも可能である。
「表示」行為には、需要者に対して前記用途を知らしめるための全ての行為が含まれ、前記用途を想起・類推させうるような表現であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体等の如何に拘わらず、全て本技術の「表示」行為に該当する。
【0062】
また、「表示」は、需要者が上記用途を直接的に認識できるような表現により行われることが好ましい。具体的には、飲食品に係る商品又は商品の包装に前記用途を記載したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引き渡しのために展示し、輸入する行為、商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に上記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁気的(インターネット等)方法により提供する行為等が挙げられる。
【0063】
一方、表示内容としては、行政等によって認可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示等)であることが好ましい。また、そのような表示内容を、包装、容器、カタログ、パンフレット、POP等の販売現場における宣伝材、その他の書類等へ付することが好ましい。
【0064】
また、「表示」には、健康食品、機能性食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、医薬用部外品等としての表示も挙げられる。この中でも特に、消費者庁によって認可される表示、例えば、特定保健用食品制度、これに類似する制度にて認可される表示等が挙げられる。後者の例としては、特定保健用食品としての表示、条件付き特定保健用食品としての表示、身体の構造や機能に影響を与える旨の表示、疾病リスク減少表示等を挙げることができる。より具体的には、健康増進法施行規則(平成15年4月30日日本国厚生労働省令第86号)に定められた特定保健用食品としての表示(特に保健の用途の表示)及びこれに類する表示が典型的な例である。
【0065】
「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物」を飼料に利用する場合、公知の飼料(乳・乳製品等)に添加して調製することもできるし、飼料の原料中に混合して、新たな飼料を製造することもできる。
【0066】
よって、本技術の「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物」は、乳児期のストレスに起因する成長期の不安行動の予防用食品組成物等として使用することができ、又は、これら食品組成物に含有させて使用することも可能である。
また、本技術の「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物」は、乳児期のストレスに起因する成長期の不安行動に関連する(又はこの関連が予測される)各種疾患(予備軍含む)に対する予防法、改善法又は治療法のために使用することができ、又はこれら各種疾患に対する予防等のための成分として使用することができ、又はこれら各種疾患に対する予防等のための薬や食品の含有成分として使用することができ、又はこれら各種疾患に対する薬や食品等を製造するために使用することも可能である。
【0067】
このように、本技術は、医薬品、食品、食品用組成物、皮膚外用剤及び機能性食品等の幅広い分野に利用することが可能である。
【0068】
また、本技術は、以下の構成を採用することも可能である。
〔1〕 ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物が、出生時健常児でありかつ乳児期においてストレスを受ける乳児に対して、乳児期に摂取されるように用いることを特徴とする、
ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物を有効成分として含有する、乳児期のストレスに起因する成長期の不安行動の予防剤又は予防方法。
〔2〕 ストレスが、母子父子関係の破綻である、前記〔1〕記載の乳児期のストレスに起因する成長期の不安行動の予防剤又は予防方法。
〔3〕 母子父子関係の破綻が、母子分離である、前記〔2〕記載の予防剤又は予防方法。
〔4〕 出生時健常児が、在胎期間37週以上42週未満で出生した健常児である、前記〔1〕~〔3〕の何れか1つ記載の予防剤又は予防方法。
〔5〕 前記〔1〕~〔4〕のいずれか1つの、乳児期のストレスに起因する成長期の不安行動の予防のためのクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物。
【0069】
〔6〕 前記〔1〕~〔4〕のいずれか1つの、乳児期のストレスに起因する成長期の不安行動の予防剤へのラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物の使用。
〔7〕 前記〔1〕~〔4〕のいずれか1つの、乳児期のストレスに起因する成長期の不安行動の予防剤の製造のための、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物の使用。
〔8〕 ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物が、出生時健常児でありかつ乳児期においてストレスを受ける乳児に対して、乳児期に摂取されるように用いることを特徴とする、
ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物を有効成分として含有する、乳児期のストレスに起因する成長期の不安行動を予防するための食品組成物及びその製造方法。
【実施例】
【0070】
以下、実施例に基づいて本技術をさらに詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本技術の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0071】
<ラクトフェリン及びラクトフェリン分解物の製造方法>
(1)ラクトフェリンは、市販品で、ウシ乳汁より抽出したもの(森永乳業社製)を使用した。
(2)製造例1
ウシラクトフェリン(森永乳業社製)を精製水にて5質量%となるように溶解し、塩酸溶液にてpH3に調製した。調製したラクトフェリンを45℃に加温し、次いでラクトフェリンの質量に対して3%のペプシン(胃液由来)を添加して攪拌しながら6時間反応させて加水分解を行った。
加水分解反応が終了後、反応液を80℃に加温し、10分間保温して酵素を失活させた。反応液を冷却後、水酸化ナトリウム溶液を添加して反応液のpHを6に調整し、その後反応液を凍結乾燥してラクトフェリン加水分解物を製造した。なお、製造したラクトフェリン加水分解物の平均分子量は、上記<平均分子量の算定方法>によって、1,600Daであることを確認した。また、ラクトフェリン加水分解物の分解率は、<タンパク質の分解率の算出方法>によって、10%であった。
【0072】
<母子分離モデル実験>
母子分離モデルを用いて、乳児期におけるラクトフェリン及びラクトフェリン分解物のそれぞれの摂取が、母子分離によって誘導される不安行動を抑制するかどうか検証を行った。
母子分離モデル実験の試験デザインのスケジュールを表1に示す。
【0073】
【0074】
Sprague Dawley(SD)系妊娠ラットを購入し、自然分娩させて得られた新生仔を出生翌日に一腹当たり10匹(雄、雌5匹ずつ)に揃えた。
仔ラット(雄)を生後5日から21日目まで1日3時間、母親、同胞の仔ラット、飼育ケージから離し、個々の円筒形容器においた。体温低下を防ぐため、床面温度を5~15日齢は30℃、16~21日齢は28℃に維持した。同胞仔ラット(雌)は母獣から分離せず、仔を分離された母獣にストレスを与えないよう配慮した。
群構成は4群として、無処置群、母子分離+生理食塩水群(コントロール群)、母子分離+ラクトフェリン投与群(ラクトフェリン群)、母子分離+ラクトフェリン分解物投与群(ラクトフェリン分解物群)を設定した。
無処置群は、母子分離・投与をせず、通常飼育した仔ラットを用いた。母子分離群については、母獣の個体差による影響を避けるため、一腹あたりの雄5匹に対して、母子分離群3群を混ぜて割り当てた。
【0075】
無処置群は、仔ラットに対して母子分離をせず、ラクトフェリン及びラクトフェリン分解物の何れも投与しなかった群である。
ラクトフェリン群は、母子分離と同時期にラクトフェリン(300mg/kg/日)を仔ラットにゾンデ投与した群である。
ラクトフェリン分解物群は、母子分離と同時期にラクトフェリン分解物(300mg/kg/日)を投与した群である。
コントロール群は、母子分離と同時期にラクトフェリン及びラクトフェリン分解物の何れも投与しない代わりに生理食塩水を仔ラットに投与した群である。
【0076】
そして、4群とも、21日齢で離乳後、雄ラットを1ケージ2匹ずつ、通常飼料・飲用水のもとで飼育した。
【0077】
生後38、39日齢に高架式十字迷路を用いてラットの不安行動をモニターした。高架式十字迷路はラットの不安行動を測定するテストであり、薬理試験などでは頻繁に利用されている。床から約1mの高さに設置した十字型のプラットフォームのうち、向かい合うふたつのアームは壁があり(クローズドアーム)、ほかのふたつのアームは壁がない(オープンアーム)。中央部に置かれたラットは高所に対する恐怖が強ければオープンアームへの進入を避け、クローズドアームへの進入をより好む傾向が出てくる。
本試験においては、5分の試験時間において、ラットの移動距離・アーム進入回数を記録し、各アームに進入した割合(各アームへの進入回数/総進入回数×100)、移動距離を不安の指標として用いた。
【0078】
なお、乳仔期の母子分離モデルにおいて、10日齢における血中ストレスホルモン(コルチコステロン)レベルは、それぞれ「無処置群」で11.66ng/mL及び「母子分離+生理食塩水群」で20.11ng/mLであり、「母子分離+生理食塩水群」は、「無処置群」と比較し、約2倍の差が生じていた。
なお、コルチコステロンは齧歯類のストレスホルモンであり、ヒトにおいてはコルチゾールに相当する。
【0079】
母子分離モデル実験の結果を表2に示す。
無処置群と比較して、乳仔期の母子分離によってオープンアームへの進入率の減少、クローズドアームへの進入率の増加が見られ不安行動が誘導された(P<0.05, t-test)。
乳仔期にラクトフェリン又はラクトフェリン分解物の少なくともいずれかを経口投与したラットではオープンアームへの進入率の低下は見られず、無処置群と同程度であった。
総移動距離においても母子分離により有意な低下が見られたが、ラクトフェリン又はラクトフェリン分解物の少なくともいずれかの投与によって改善が見られた。
従って、乳仔期のラクトフェリン又はラクトフェリン分解物の少なくともいずれかの投与が、母子分離によって誘導される成長期の不安行動を抑制できることが示された。
【0080】
【0081】
母子分離モデル実験の母子分離条件のヒトへの挿入条件を表3に示す。
【0082】
【0083】
表3のヒトへの挿入条件に基づき、ヒト乳児期のラクトフェリン又はラクトフェリン分解物投与が、母子分離によって誘導される成長期の不安行動を抑制することが示された。
従って、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物が、出生時健常児でありかつ乳児期においてストレスを受ける乳児に対して、乳児期に摂取されるように用いることで、乳児期のストレスに起因する成長期の不安行動を予防できることが示された。