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特許7007822筆記具用油性インキ組成物およびそれを用いた筆記具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】筆記具用油性インキ組成物およびそれを用いた筆記具
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/16 20140101AFI20220118BHJP
【FI】
C09D11/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017121189
(22)【出願日】2017-06-21
(65)【公開番号】P2019006849
(43)【公開日】2019-01-17
【審査請求日】2020-05-01
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】益田 博考
【審査官】宮地 慧
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-307017(JP,A)
【文献】特開2016-017088(JP,A)
【文献】特開2015-033781(JP,A)
【文献】特開2016-125052(JP,A)
【文献】特開平11-105428(JP,A)
【文献】特開平11-131058(JP,A)
【文献】特開2000-178461(JP,A)
【文献】特開2000-191931(JP,A)
【文献】特開2000-191932(JP,A)
【文献】特開2000-191933(JP,A)
【文献】特開2000-191963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
B43K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤、有機溶剤、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール化合物、酸化防止剤を含んでなり、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール化合物が、一般式(化1)であり、さらに、水酸基量30mol%以上のポリビニルブチラール樹脂、HLB値が6~14である界面活性剤を含んでなることを特徴とする筆記具用油性インキ組成物。
【化1】
【請求項2】
前記ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール化合物の含有量が、インキ組成物全量に対して、0.1~15.0質量%であることを特徴とする請求項1に記載の筆記具用油性インキ組成物。
【請求項3】
前記酸化防止剤が、ヒンダードアミン化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の筆記具用油性インキ組成物。
【請求項4】
前記有機溶剤がアルコ-ル溶剤またはグリコールエーテル溶剤であることを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
【請求項5】
前記着色剤が、造塩染料であることを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
【請求項6】
20℃、剪断速度5sec-1におけるインキ粘度が3000~30000mPa・sであることを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
【請求項7】
請求項1ないしのいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物を収容してなることを特徴とする筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筆記具用油性インキ組成物およびそれを用いた筆記具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、筆記具用油性インキ組成物は、着色剤として顔料を用いたものは、筆跡の耐光性に優れるが、顔料単独では描線濃度がうすくなりやすく、望ましい色調の筆跡を形成し難しく、また、色相の調節が難しいといった問題がある。
一方、着色剤として染料を用いたインキは発色性に優れるため、良好な色調のインキが得られるものの、顔料に比べて筆跡の耐光性が劣り、退色が顕著であった。これは、光の照射によって、染料が化学反応を起こし、分解されるためである。
【0003】
こうした問題を解決するため、良好な筆跡の耐光性を得るために、染料骨格内にクロム、コバルト、銅などの重金属を有する含金染料を含有した筆記具用油性インキ組成物が多数提案されている。
【0004】
このような含金染料を用いた筆記具用油性インキ組成物としては、特開2002-3771号公報「油性ボールペン用インキ組成物」、特開2007-2163号公報「筆記具用油性インキ組成物及びそれを内蔵した筆記具」等に、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】「特開2002-3771号公報」
【文献】「特開2007-2163号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のような含金染料では、染料中にクロム、銅を含有しており、特許文献2のような含金染料としてC.I.ソルベントブラック29を用いた場合では、染料中にC.I.ソルベントブラック29は染料中にクロムを含有しているため、これを使用したインキは、安全性への影響が懸念され改良が望まれる。
また、従来の紫外線吸収剤として、無機系紫外線吸収剤として、酸化チタン、酸化亜鉛などがあるが、これらは、ある程度、筆跡の耐光性に優れるが、紫外線の吸収バンドが狭いため、適応吸収波長の範囲が狭く、十分ではない。さらに、無機系紫外線吸収剤自体が、着色しているため、インキの色調に影響してしまい、比重も大きいため、インキ中での分散安定性を考慮する必要があった。
【0007】
本発明の目的は、筆跡の耐光性を向上し、インキ経時安定性が良好である筆記具用油性インキ組成物およびそれを用いた筆記具を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために
「1.着色剤、有機溶剤、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール化合物、酸化防止剤を含んでなることを特徴とする筆記具用油性インキ組成物。
2.前記ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール化合物が、一般式(化1)であることを特徴とする第1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
【化1】

3.前記ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール化合物の含有量が、インキ組成物全量に対して、0.1~15.0質量%であることを特徴とする第1項または第2項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
4.前記酸化防止剤が、ヒンダードアミン化合物であることを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
5.前記有機溶剤がアルコ-ル溶剤またはグリコールエーテル溶剤であることを特徴とする第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
6.前記筆記具用油性インキ組成物に、さらにポリビニルブチラール樹脂またはケトン樹脂を含んでなることを特徴とする第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
7.第1項ないし第6項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物を収容してなることを特徴とする筆記具。」とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、紫外線を吸収することで、筆跡の耐光性を向上し、さらにインキ経時安定性が良好である筆記具用油性インキ組成物およびそれを用いた筆記具を得ることができた。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」などは特に断らない限り質量基準である。
【0011】
本発明の特徴は、着色剤、有機溶剤、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール化合物、酸化防止剤を含んでなる筆記具用油性インキ組成物とすることである。これは、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール化合物を含んでなることで、筆跡の耐光性を向上し、インキ中での経時安定性を良好とすることで、本発明の効果を安定的に得られる。
【0012】
(ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール化合物)
本発明で用いるヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール化合物については、ヒドロキシフェニルを有するベンゾトリアゾール骨格の化合物であり、400nm未満の波長の紫外線を吸収し、熱に変換するなどして、紫外線を吸収することで、筆跡の耐光性を向上し、インキ中でも安定して存在することが可能である。さらに、芳香環を有することで、筆記先端部での潤滑効果が得られるため、インキがスムーズに吐出でき、インキ消費量を多くすることで、筆跡の耐光性に有利に働き、さらに筆跡カスレも抑制し、筆記性を向上しやすく、特にボールペンとした場合は効果的である。
【0013】
ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール化合物としては、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(化1)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール(化2)、5% 2-メトキシ-1-メチルエチルアセテート 95% ベンゼンプロパン酸、3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-(1,1-1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、メチル3-3(3-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート/ポリエチレングリコール300の反応生成物(BASFジャパン株式会社製)、(2-(2'-ヒドロキシ-5'-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。具体的には、「TINUVIN PS」、「TINUVIN 928」、「TINUVIN 99-2」、「TINUVIN 900」、「TINUVIN 384-2」、「TINUVIN 1130」(BASFジャパン株式会社製)、「SEESORB709」(白石カルシウム社製)などが挙げられる。
【0014】
前記ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール化合物の中でも、紫外線の吸収力が強いことで、筆跡の耐光性を向上しやすく、さらに、インキ中での有機溶剤、着色剤、樹脂との相溶性を良好とすることで、長期間の効果を奏することを考慮すれば、一般式(化1)を用いることが好ましい。
【化1】
【0015】
また、前記ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール化合物の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1~20.0質量%がより好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、所望の紫外線の吸収力が得られづらく、筆跡の耐光性が得られにくく、20.0質量%を越えると、インキ経時が不安定になりやすいためであり、その傾向を考慮すれば、1.0~12.0質量%が好ましく、より考慮すれば、3.0~10.0質量%が好ましい。
【0016】
(酸化防止剤)
本発明では、筆跡の耐光性をより向上することを考慮すれば、酸化防止剤を用いることが好ましい。これは、紫外線によって光励起された化学種が開裂することによって酸素などのラジカルが生じ、これが色素を劣化させる原因の一つとなるが、酸化防止剤を含有することで、酸素ラジカルなどを効果的に捕獲し、活性酸素を失活させることができるためである。本発明では、これら一連の反応を引き起こす原因をカットできるヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール化合物と、酸化防止剤とを併用することによって、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール化合物で紫外線を吸収しきれなかったとしても、酸化防止剤により、上記のような化学的な効果によって、筆跡の耐光性をより向上させることが可能である。
【0017】
酸化防止剤としては、ヒンダードアミン化合物、ベンゾエート化合物などが挙げられるが、酸素ラジカルなどを捕獲することで、筆跡の耐光性を向上することを考慮すれば、ヒンダードアミン化合物を用いることが好ましい。さらに、長期間において酸素ラジカルなどを捕獲しやすいため、ピペリジン構造を有するヒンダードアミン化合物を含んでなることが好ましい。ピペリジン構造は、6員環構造を持つ複素環式アミンであり、シクロヘキサンの1つの炭素原子を窒素原子で置換した構造をもつものであり、飽和6員環状のアミン構造となっていれば如何なる構造であっても構わず、ピペリジン構造の一部が置換基により置換されているものも含むものである。
【0018】
酸化防止剤としては、具体的には、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)-4-ピペリジニル)エステル、1,1-ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンの反応生成物(化2)、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケートとメチル1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルセバケートの混合物(化3)、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル) [[ 3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネートなどが挙げられる。具体的には、「TINUVIN 111FDL」、「TINUVIN 123」、「TINUVIN 144」、「TINUVIN 292」、「TINUVIN 479」(BASFジャパン株式会社製)、「KEMISORB112」、「KEMISORB113」、「KEMISORB113」、「KEMISTAB29」、「KEMISTAB62」、「KEMISTAB77」、「KEMISTAB94」(ケミプロ化成株式会社製)などが挙げられる。
【0019】
さらに、前記ヒンダードアミン化合物の中でも、酸素ラジカルなどへの捕獲力が強く、筆跡の耐光性をより向上することを考慮すれば、ピペリジン構造を有する一般式(化2)、(化3)を用いることが好ましく、インキ中での経時安定性を良好とすることで、本発明の長期間の効果を奏することを考慮すれば、一般式(化2)を用いることが好ましい。
【化2】

【化3】
【0020】
また、前記酸化防止剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1~10.0質量%がより好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、所望のラジカル捕獲効果が得られづらく、筆跡の耐光性が得られにくい傾向があり、10.0質量%を越えると、インキ経時が不安定になりやすい傾向があるためであり、その傾向を考慮すれば、0.5~8.0質量%が好ましく、より考慮すれば、1.0~5.0質量%が好ましい。
【0021】
(着色剤)
本発明に用いる着色剤は、染料、顔料等、特に限定されるものではなく、適宜選択して使用することができ、染料、顔料は併用して用いても良い。本発明は、着色剤として、染料を用いる場合は、筆跡の耐光性が劣りやすいので、効果的である。
染料としては、油溶性染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料などや、それらの各種造塩タイプの染料等として、酸性染料と塩基性染料との造塩染料、塩基性染料と有機酸との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料などの種類の造塩染料が挙げられる。また、耐光性を考慮すれば、染料濃度が高い方が、耐光性が良くなる傾向があり、塩基性染料と有機酸との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料は、油溶性染料、酸性染料、塩基性染料を比べると、染料濃度が低くなるため、本発明のように、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール化合物を用いることが効果的である。
【0022】
さらに、着色剤としては、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール化合物を用いることでの相性によるインキ経時安定性を考慮して、少なくとも造塩染料を用いることが好ましく、さらに造塩結合が安定していることで経時安定性を保てることを考慮すれば、塩基性染料と有機酸との造塩染料、酸性染料の塩基性染料との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料を用いることが好ましく、より考慮すれば、塩基性染料と有機酸との造塩染料が好ましい。特に、インキ中で長期安定することを考慮すれば、有機酸として、アルキルベンゼンスルホン酸を用いた造塩染料であることが好ましい。
【0023】
染料について、具体的には、バリファーストブラック1802、バリファーストブラック1805、バリファーストブラック1807、バリファーストバイオレット1701、バリファーストバイオレット1704、バリファーストバイオレット1705、バリファーストブルー1601、バリファーストブルー1605、バリファーストブルー1613、バリファーストブルー1621、バリファーストブルー1631、バリファーストレッド1320、バリファーストレッド1355、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1101、バリファーストイエロー1151、ニグロシンベースEXBP、ニグロシンベースEX、BASE OF BASIC DYES ROB-B、BASE OF BASIC DYES RO6G-B、BASE OF BASIC DYES VPB-B、BASE OF BASIC DYES VB-B、BASE OF BASIC DYES MVB-3(以上、オリエント化学工業(株)製)、アイゼンスピロンブラック GMH-スペシャル、アイゼンスピロンバイオレット C-RH、アイゼンスピロンブルー GNH、アイゼンスピロンブルー 2BNH、アイゼンスピロンブルー C-RH、アイゼンスピロンレッド C-GH、アイゼンスピロンレッド C-BH、アイゼンスピロンイエロー C-GNH、アイゼンスピロンイエロー C-2GH、S.P.T.ブルー111、S.P.T.ブルーGLSH-スペシャル、S.P.T.レッド533、S.P.T.オレンジ6、S.B.N.バイオレット510、S.B.N.イエロー530、S.R.C-BH(以上、保土谷化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0024】
また、顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、ジケトピロロピロール系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ジオキサジン系、メタリック顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。
【0025】
着色剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、5.0~30.0質量%が好ましい。これは5.0質量%未満だと、濃い筆跡が得られにくい傾向があり、30.0質量%を越えると、インキ中での溶解性に影響しやすい傾向があるためで、よりその傾向を考慮すれば、7.0~25.0質量%が好ましく、さらに考慮すれば、10.0~20.0質量%である。
【0026】
前記ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール化合物のインキ組成物全量に対する含有量をA、前記着色剤のインキ組成物全量に対する含有量をB、とした場合、筆跡の耐光性を考慮すれば、0.01≦A/B≦2の関係であることが好ましい、これは、上記範囲であると、着色剤の量に対して、紫外線の吸収能力が十分とするヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール化合物の量となり、筆跡の耐光性を向上しやすく、より考慮すれば、0.1≦A/B≦1の関係であることが好ましい。
【0027】
(有機溶剤)
本発明に用いる有機溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール等のグリコールエーテル溶剤、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコール等のグリコール溶剤、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t-ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール溶剤など、筆記具用インキとして一般的に用いられる有機溶剤が例示できる。
【0028】
これらの有機溶剤の中でも、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール化合物との溶解性を考慮すれば、非水溶性有機溶剤を用いることが好ましく、その中でも、溶解安定性を考慮すれば、アルコ-ル溶剤またはグリコールエーテル溶剤を用いることが好ましく、芳香環を有するアルコ-ル溶剤またはグリコールエーテル溶剤は、潤滑性を向上しやすいため、より好ましい。
【0029】
また、有機溶剤の含有量は、溶解性、筆跡乾燥性、にじみ等を向上することを考慮すると、インキ組成物全量に対し、10.0~90.0質量%が好ましく、より考慮すれば、20.0~90.0質量%が好ましく、より好ましくは40.0~70.0質量%である。
【0030】
(樹脂)
また、インキ漏れ抑制をより向上するためには、樹脂をインキ粘度調整剤として、用いることが好ましい、樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ケトン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース樹脂、テルペン樹脂、アルキッド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂などが挙げられるが、その中でも、インキ中での安定性を考慮して、ポリビニルブチラール樹脂またはケトン樹脂を含んでなることが好ましい。さらに、ポリビニルブチラール樹脂を用いることが好ましいが、これはは、筆跡において、形成された樹脂膜によって、紫外線を遮りやすく、より筆跡の耐光性を向上しやすいためと推測する。
【0031】
さらに、前記ポリビニルブチラール樹脂についても、より高い潤滑効果が得られる潤滑層を形成しやすい。そのため、ボールペンの場合、ボールとボール座との間に常に弾力性があるインキ層を形成して、直接接触しづらくし、書き味を向上しやすいため、インキがスムーズに吐出でき、インキ消費量を多くすることで、筆跡の耐光性が有利に働き、さらに筆跡カスレも抑制し、筆記性を向上しやすい。また、前記ポリビニルブチラール樹脂を用いると、形成する被膜によって、インキ漏れをより向上しやすくなるため、好ましい。
ここで、ポリビニルブチラール樹脂は、ポリビニルアルコール(PVA)をブチルアルデヒド(BA)と反応させたものであり、ブチラール基、アセチル基、水酸基を有した構造である。
【0032】
また、ポリビニルブチラール樹脂は、水酸基量25mol%以上とすることが好ましい。これは、水酸基量25mol未満のポリビニルブチラール樹脂では、有機溶剤への溶解性が十分でなく、十分な潤滑効果や、インキ漏れ抑制の効果が得られにくく、さらに、吸湿性による書き出し性能などの筆記性を考慮すると、水酸基量25mol%以上のポリビニルブチラール樹脂を用いることが好ましいためである。また、前記水酸基量30mol%以上のポリビニルブチラール樹脂は、書き味を向上しやすいため、インキがスムーズに吐出でき、インキ消費量を多くすることで、筆跡の耐光性に有利に働き、さらに筆跡カスレも抑制し、筆記性を向上しやすいため、好ましい。これは、筆記時において、ボールの回転により摩擦熱が発生することで、チップ先端部のインキが温められて、該インキの温度が高くなるが、前記ポリビニルブチラール樹脂は他の樹脂とは違い、インキ温度が高くなっても、インキ粘度を下がりづらくする性質があり、ボールとボール座との間に常に弾力性があるインキ層を形成して、直接接触しづらくするため、書き味を向上しやすい傾向がある。特に、ボールペンでは、高筆圧で筆記することも多いため、筆記具では効果的である。また、前記水酸基量40mol%を越えるポリビニルブチラール樹脂を用いると、吸湿量が多くなりやすく、インキ成分との経時安定性に影響が出やすいため、水酸基量40mol%以下のポリビニルブチラール樹脂が好ましい。そのため、水酸基量30~40mol%のポリビニルブチラール樹脂が好ましく、さらに好ましくは、水酸基量30~36mol%が好ましい。
なお、前記ポリビニルブチラール樹脂の水酸基量(mol%)とは、ブチラール基(mol%)、アセチル基(mol%)、水酸基(mol%)の 全mol量に対して、水酸基(mol%)の含有率を示すものである。
【0033】
また、ポリビニルブチラール樹脂の平均重合度については、前記平均重合度は200以上であると、インキ漏れ抑制性能が向上しやすく、また、前記平均重合度は2500を超えると、インキ粘度が高くなりすぎて書き味に影響する傾向があるため、前記平均重合度は、200~2500が好ましい。さらに、より考慮すれば、前記平均重合度は1500以下が好ましい。ここで、平均重合度とは、ポリビニルブチラール樹脂の1分子を構成している基本単位の数をいい、JISK6728(2001年度版)に規定された方法に基づいて測定された値を採用可能である。
【0034】
ポリビニルブチラール樹脂の含有量は、油性ボールペン組成物中の全樹脂の含有量に対して70%以上とし、主たる樹脂として用いることが好ましい。これは、ポリビニルブチラール樹脂の含有量が全樹脂の含有量の70%未満となると、その他の樹脂によって、弾力性があるインキ層を形成するのを阻害してしまいやすく、書き味向上の効果が得られづらくなり、さらに、チップ先端の樹脂被膜の形成を阻害しやすく、インキ垂れ下がりを抑制できず、さらに弾力性があるインキ層を形成するのを阻害してしまい、書き味向上の効果が得られづらくなるためである。より書き味やインキ垂れ下がり性能を向上する傾向を考慮すれば、ポリビニルブチラール樹脂の含有量は、全樹脂の含有量に対して90%以上が好ましい。
【0035】
前記ポリビニルブチラール樹脂の含有量は、インキ組成物全量に対し、1.0質量%より少ないと、所望の潤滑性やインキ漏れ抑制性能が劣りやすく、40.0質量%を越えると、インキ中で溶解性が劣りやすいため、インキ組成物全量に対し、1.0~40.0質量%が好ましい。さらに、考慮すれば5.0質量%以上が好ましく、30.0質量%を越えると、インキ粘度が高くなりすぎて書き味に影響する傾向があるため、5.0~30.0質量%が好ましい。
【0036】
ポリビニルブチラール樹脂については、具体的には、積水化学工業(株)製の商品名;エスレックBH-3(水酸基量:34mol%、平均重合度:1700)、同BH-6(水酸基量:30mol%、平均重合度:1300)、同BX-1(水酸基量:33±3mol%、平均重合度:1700)、同BX-5(水酸基量:33±3mol%、平均重合度:2400)、同BM-1(水酸基量:34mol%、平均重合度:650)、同BM-2(水酸基量:31mol%、平均重合度:800)、同BM-5(水酸基量:34mol%、平均重合度:850)、同BL-1(水酸基量:36mol%、平均重合度:300)、同BL-1H(水酸基量:30mol%)、同BL-2(水酸基量:36mol%、平均重合度:450)などが挙げられる。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0037】
ポリビニルブチラール樹脂、ケトン樹脂以外の樹脂は、曳糸性付与剤を適宜用いてもよい。特に、ポリビニルピロリドン樹脂を配合することで、インキの結着性を高め、チップ先端における余剰インキの発生を抑制しやすいため、ポリビニルピロリドン樹脂を含有することが好ましい。
【0038】
(界面活性剤)
本発明においては、潤滑性と、チップ先端部を大気中に放置した状態で、該チップ先端部が乾燥したときの書き出し性能を向上することを考慮すれば、界面活性剤を用いることが好ましい。これは、界面活性剤を用いると、形成される被膜を柔らかくする傾向があり、書き出し性能を改良でき、さらに潤滑性も向上することで、インキがスムーズに吐出でき、インキ消費量を多くすることで、筆跡の耐光性を有利に働きやすい。界面活性剤としては、脂肪酸、脂肪酸エステル、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤などが挙げられる。その中でも、上記効果を考慮すれば、脂肪酸、リン酸エステル系界面活性剤を用いることが好ましく、より考慮すれば、リン酸エステル系界面活性剤が好ましい。
【0039】
前記界面活性剤については、より潤滑性と書き出し性能との両方を向上することを考慮すれば、HLB値が6~14であることが好ましい。これは、HLB値が14を越えると親水性が強くなりやすく、油性インキ中での溶解性が劣りやすいため、前記界面活性剤の効果が得られにくく、潤滑効果が得られにくいためである。また、HLB値が6未満だと、親油性が強くなり過ぎて、有機溶剤との相溶性に影響が出やすく、インキ経時が安定しにくく、さらに書き出し性能が向上しにくいためである。さらに、潤滑性を考慮すれば、HLB値が12以下にすることが好ましく、HLB値が6~12であることが好ましい。
尚、HLBは、一般式として、HLB=7+11.7log(Mw/Mo)、(Mw;親水基の分子量、Mo;親油基の分子量)から求めることができる。特に、ノック式筆記具や回転繰り出し式筆記具等の出没式筆記具においては、キャップ式筆記具とは異なり、常時ペン先が外部に露出した状態であるため、筆記先端部の乾燥時の書き出し性能に影響しやすいため、上記HLB値とした界面活性剤を用いることはより好ましい。
【0040】
界面活性剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1~5.0質量%がより好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、所望の潤滑性が得られにくい傾向があり、5.0質量%を越えると、インキ経時が不安定性になりやすい傾向があるためであり、その傾向を考慮すれば、インキ組成物全量に対し、0.3~3.0質量%が好ましく、より考慮すれば、0.5~3.0質量%が、最も好ましい。
【0041】
また、その他として、粘度調整剤として、脂肪酸アマイド、水添ヒマシ油、セルロース誘導体などの擬塑性付与剤を、エチレンオキシドを有するアミン、脂肪族アミンなどの有機アミンを、着色剤安定剤、可塑剤、キレート剤、水などを適宜用いても良い。これらは、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0042】
本発明の筆記具用油性インキ組成物のインキ粘度は、特に限定されるものではないが、20℃、剪断速度5sec-1(静止時)におけるインキ粘度が30000mPa・sを越えると、書き出し性能や書き味が劣りやすいため、20℃、剪断速度5sec-1(静止時)におけるインキ粘度は、30000mPa・s以下であることが好ましい。また、20℃、剪断速度5sec-1(静止時)におけるインキ粘度が3000mPa・s未満だと、インキ漏れを抑制しにくいため、インキ漏れを考慮すれば、3000mPa・s以上とすることが好ましい。よりインキ漏れ抑制、書き味、インキ追従性能、書き出し性能をより向上することを考慮すれば、前記インキ粘度は5000~25000mPa・sがより好ましく、さらに、より考慮すれば、5000~20000mPa・sが好ましい。
【0043】
また、本発明で用いるボールペンチップのボール表面の算術平均粗さ(Ra)については、0.1~12nmとすること好ましい。これは、算術平均粗さ(Ra)が0.1~12nmとすると、ボール表面に十分にインキが載りやすく、インキがスムーズに吐出でき、インキ消費量を多くすることで、濃い筆跡が得られ、筆跡の耐光性を有利に働きやすくなるためである。さらに、より上記効果を考慮すれば、前記算術平均粗さ(Ra)が0.1~10nmであることが好ましく、より好ましくは、2~8nmである。なお、表面粗さの測定は(セイコーエプソン社製の機種名SPI3800N)で求めることができる。
【0044】
また、ボールに用いる材料は、特に限定されるものではないが、タングステンカーバイドを主成分とする超硬合金ボール、ステンレス鋼などの金属ボール、炭化珪素、窒化珪素、アルミナ、シリカ、ジルコニアなどのセラミックスボール、ルビーボールなどが挙げられる。
【0045】
また、ボ-ルペンチップの材料は、ステンレス鋼、洋白、ブラス(黄銅)、アルミニウム青銅、アルミニウムなどの金属材、ポリカーボネート、ポリアセタール、ABSなどの樹脂材が挙げられる。
【0046】
次に実施例を示して本発明を説明する。
実施例1の筆記具用油性インキ組成物は、造塩染料、有機溶剤、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール化合物、酸化防止剤、有機アミン、ポリビニルブチラール、リン酸エステル系界面活性剤、曳糸性付与樹脂としてポリビニルピロリドンを採用し、これを所定量秤量して、60℃に加温した後、ディスパー攪拌機を用いて完全溶解させて筆記具用油性インキ組成物を得た。具体的な配合量は下記の通りである。
尚、ブルックフィールド株式会社製粘度計 ビスコメーターRVDVII+Pro CP-52スピンドルを使用して20℃の環境下で剪断速度5sec-1(回転数2.5rpm)にて実施例1のインキ粘度を測定したところ、インキ粘度20000mPa・sであった。
【0047】
実施例1
着色剤(酸性染料と塩基性染料との造塩染料) 10.0質量%
着色剤(塩基性染料と有機酸との造塩染料) 2.0質量%
アルコール溶剤(ベンジルアルコール) 40.5質量%
グリコールエーテル溶剤(エチレングリコールモノフェニルエーテル)15.0質量%
ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール化合物(化1) 5.0質量%
酸化防止剤(化2) 5.0質量%
界面活性剤 1.0質量%
有機アミン 1.0質量%
ポリビニルブチラール 20.0質量%
曳糸性付与樹脂(ポリビニルピロリドン樹脂) 0.5質量%
【0048】
実施例2~9
表に示すように、各成分を変更した以外は、実施例1と同様な手順でインキ配合し、実施例2~の筆記具用油性インキ組成物を得た。表に測定、評価結果を示す。
【0049】
比較例1~4
表に示すように、各成分を変更した以外は、実施例1と同様の手順で、比較例1~4の筆記具用油性インキ組成物を得た。表に測定、評価結果を示す。
【表1】
【表2】
【0050】
試験および評価
実施例1~9および比較例1~4で作製した筆記具用油性インキ組成物を、インキ収容筒(ポリプロピレン製)の先端に、ボール(φ0.7mm)を回転自在に抱時したボールペンチップを装着するとともに、インキ収容筒内に、実施例1の筆記具用油性インキ組成物(0.2g)を直に収容してボールペンレフィルを(株)パイロットコーポレーション製の油性ボールペン(商品名:スーパーグリップ(登録商標))に配設して、油性ボールペンを作製し筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて以下の試験および評価を行った。
【0051】
耐光性試験:JIS P3201筆記用紙Aに筆記角度70°、筆記荷重100gの条件にて、筆記速度4m/minの速度で、らせん筆記試験を行い、1時間放置した後、キセノンフェードメーターX15F(スガ試験機株式会社製)を用いて、ブルースケールが3級退色するまで照射し、筆跡を観察した。
退色しない若しくは若干退色する ・・・◎
退色するが、実用上問題ないレベルのもの ・・・○
退色が目立ち、実用上問題になるレベルのもの・・・×
【0052】
インキ経時試験:チップ本体内のインキを顕微鏡観察した。
析出物がなく、良好のもの ・・・◎
析出物が微少に発生したもの ・・・○
析出物が発生したが、実用上問題のないもの ・・・△
析出物が発生し、カスレや筆記不良などの原因になるもの ・・・×
【0053】
書き味:手書きによる官能試験を行い評価した。
滑らかであるもの ・・・○
実用上問題ないレベルの滑らかさであるもの ・・・△
重いもの ・・・×
【0054】
実施例1~9では、筆跡の耐光性試験、インキ経時試験ともに良好な性能が得られ、書き味については、滑らかであり(評価:○)、良好であった。
【0055】
比較例1~2では、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール化合物を用いなかったため、筆跡の耐光性試験において、退色してしまった。
比較例3~4では、テトラゾール化合物(5員環の複素環式化合物で、環は炭素1個と窒素4個から成る化合物)を用いたため、筆跡の耐光性試験において、退色してしまった。
【0056】
また、本実施例では、インキ収容筒内に筆記具用油性インキ組成物を収容したボールペンレフィルを軸筒内に配設した油性ボールペンを例示したが、本発明の油性ボールペンは、軸筒自体をインキ収容筒とし、軸筒内に、筆記具用油性インキ組成物を直に収容した直詰め式の油性ボールペンであっても良く、インキ収容筒内に筆記具用油性インキ組成物を収容したもの(ボールペンレフィル)をそのままボールペンとして使用した構造であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は筆記具用油性インキ組成物として利用でき、さらに詳細としては、該筆記具用油性インキ組成物を充填した、キャップ式、ノック式等の油性ボールペンとして広く利用することができる。