(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20220118BHJP
B41J 11/04 20060101ALI20220118BHJP
B65H 29/24 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
B41J2/01 305
B41J2/01 401
B41J11/04
B65H29/24 B
(21)【出願番号】P 2017230484
(22)【出願日】2017-11-30
【審査請求日】2020-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000208743
【氏名又は名称】キヤノンファインテックニスカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 秀行
【審査官】上田 正樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-024598(JP,A)
【文献】特開2011-173313(JP,A)
【文献】特開2014-000724(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0193856(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01
B41J 11/04
B65H 29/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
載置される記録媒体を吸引する複数の吸引孔を有する搬送ベルトと、
前記搬送ベルトに対向して配置され、前記吸引孔に吸着されて搬送されている記録媒体に吐出口からインクを吐出する記録ヘッドと、
搬送される記録媒体の先端からインクを吐出して記録する領域までの余白量が所定値未満である場合に、前記余白量が所定値以上である場合と比較して記録前に前記記録ヘッドから吐出
する予備吐出の吐出数を増加させ、前記余白量が所定値以上である場合と比較して前記吐出口から吐出するインクの吐出速度が速くなるように制御を行う制御手段と、
を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記余白量が小さくなるほど前記吐出数を多くし、前記吐出速度がより速くなるように制御することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
載置される記録媒体を吸引する複数の吸引孔を有する搬送ベルトと、
前記搬送ベルトに対向して配置され、前記吸引孔に吸着されて搬送されている記録媒体に吐出口からインクを吐出する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを加熱するヒータと、
前記記録ヘッドの温度を検出する温度検出手段と、
記録を開始する前に前記ヒータによる加熱を行い、前記温度検出手段が所定温度に達したことに応じて記録媒体への記録を開始する制御を行う制御手段であって、搬送される記録媒体の先端からインクを吐出して記録する領域までの余白量が所定値以上である場合には前記所定温度を第1の温度とし、前記余白量が所定値未満である場合には前記所定温度を前記第1の温度よりも高い第2の温度とし、前記余白量が所定値未満である場合には前記余白量が所定値以上である場合と比較して前記吐出口から吐出するインクの吐出速度が速くなるように制御する制御手段と、
を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記余白量が小さいほど前記第2の温度を高く設定し、前記吐出速度がより速くなるように制御することを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを記録媒体に吐出させて記録するインクジェット記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、搬送ベルトに空気を吸引するための吸引孔を設け、この吸引孔を介して空気を吸引することにより、搬送する記録媒体を搬送ベルトに吸着した状態で移動する搬送機構が記載されている。この搬送機構によれば、記録媒体を移動する搬送ベルトに同期させて確実に搬送することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の搬送機構を記録媒体にインクを吐出するインクジェット方式の記録装置に用いた場合、吸引のために生じる気流によって記録ヘッドから吐出されるインクの着弾位置がずれるという問題が生じるおそれがある。すなわち、記録媒体をベルトに吸引する際、ベルトに設けられた吸引孔のうち、記録媒体のベルト積載位置に応じて記録媒体で覆われない吸引孔が存在する。そして、記録媒体に対する記録ヘッドの吐出位置が、記録媒体で覆われない吸引孔に近い場合、その吸引孔を通る気流が吐出位置で吐出されるインク滴の飛翔方向を変え、結果として記録媒体上のインク着弾位置をずらすことがある。
【0005】
よって、本発明の目的は、記録媒体の搬送機構に使用する記録媒体吸着用の空気の気流による吐出インク滴への影響を抑制可能なインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
載置される記録媒体を吸引する複数の吸引孔を有する搬送ベルトと、搬送ベルトに対向して配置され、吸引孔に吸着されて搬送されている記録媒体に吐出口からインクを吐出する記録ヘッドと、搬送される記録媒体の先端からインクを吐出して記録する領域までの余白量に応じて、吐出口から吐出するインク吐出速度を変更する制御手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、記録媒体を搬送する吸引用の空気の流れによる画像品質の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るインクジェット記録装置の概略構成図である。
【
図2】
図1に示すインクジェット記録装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【
図3】第1実施形態に係るインクジェット記録装置における、主に記録媒体搬送のための機構を一部断面で示す図である。
【
図4】吸引ファンが記録媒体吸引時に生じる気流の吐出液滴に対する影響を説明する図である。
【
図5】
図4のインク着弾位置を上面からみた画像である。
【
図6】連続紙の先端における余白量と記録前に実行する予備吐出の吐出数(予備吐出数)との関係を内容とするテーブルを示す図である。
【
図7】本発明の第1実施形態に係る記録動作前に実行する予備吐出を含む記録動作までの処理を示すフローチャートである。
【
図8】第2実施形態における記録ヘッドから吐出されるインク滴、連続紙、搬送ベルトの吸引孔の位置関係を示す図である。
【
図9】本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録装置における搬送ユニットを上方から見た図である。
【
図10】吸引孔と記録開始位置との距離と記録前予備吐出数を決定するためのテーブルを示す図である。
【
図11】連続紙の先端における余白量と記録前に実行する加熱温度との関係を内容とするテーブルを示す図である。
【
図12】本発明の第3実施形態に係る記録動作前に実行する記録ヘッド加熱に関する処理を示すフローチャートである。
【
図13】吸引孔と記録開始位置との距離と加熱温度を決定するためのテーブルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るインクジェット記録装置の概略構成図である。インクジェット記録装置100(以下、単に記録装置ともいう)は、情報処理装置としてのホストコンピュータ101に接続される。ホストコンピュータ101は、プリンタケーブル102を介して、画像データ、記録媒体の切断位置、および記録媒体に関する情報などを制御コマンドとして記録装置100に出力する。ロール状に巻かれた記録媒体である連続紙103は、後述するように、画像が記録された後に切断される。連続紙103の搬送手段である搬送ユニット104には、搬送モータ105、搬送ベルト106、および吸引ファン107が備えられている。搬送ベルト106は、ガイドローラ108A、108B、108C、および駆動ローラ108Dの間に架け渡されている。正反転可能な搬送モータ105によって駆動ローラ108Dが回転し、連続紙103を載置して搬送する搬送ベルト106が矢印A1方向もしくは逆の矢印A2方向に移動する。吸引手段としての吸引ファン107が回転することにより、搬送ベルト106に複数形成された吸引孔116(
図4等参照)から空気が吸引されて、搬送ユニット104の排気口109から排出される。搬送ベルト106は、吸引孔116からの空気の吸引によって、搬送ベルト106の表面に連続紙103を吸着しつつ、その連続紙103を矢印A1方向および矢印A2方向に搬送可能である。
【0011】
記録部110には、連続紙103に画像を記録可能な複数の記録ヘッド110H(
図4参照)が搬送ベルトに対向して着脱可能に搭載されている。記録ヘッド110Hは、電気熱変換素子(ヒータ)を吐出エネルギ発生素子として用いて、インクを吐出することができる。電気熱変換素子は、その発熱によりインクを発泡させ、その発泡エネルギを利用して記録ヘッドに形成されたノズルの先端の吐出口からインクを吐出することができる。本実施形態では、記録ヘッド110Hとして、連続紙103にフルカラー印刷を行うために、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、およびイエロー(Y)のインクを吐出するための記録ヘッド110K、110C、110M、および110Yを備える。これらは用紙搬送方向A1、A2に沿って配置されている。なお、色の数すなわち記録ヘッドの数は任意所望に定め得るものであり、以下では単に「記録ヘッド110H」として包括的に参照する。
【0012】
このような記録装置100には、インク吐出に関する回復処置として、予備吐出動作、加圧回復動作、吸引回復動作およびワイピング動作などがある。本実施形態の記録部110には、印刷動作に先立ち実施する予備吐出動作により吐出したインクを受けるキャップユニット(不図示)が配置されている。記録装置100には、記録タイミングを得るために連続紙103の先端を検知する先端検知センサ111、および連続紙103の切断タイミングを得るために連続紙103の先端を検知する先端検知センサ112が備えられている。連続紙103が所定の単位領域毎に記録されて切断される用紙であって、その単位領域の検出が可能なマークが付された用紙である場合には、そのマークを用いて、単位領域の先端を検出することができる。先端検知センサ111,112は、反射型センサ、透過型センサのいずれかまたは双方を備えた構成となっている。例えば、連続紙103がラベル紙の場合は、台紙と、その台紙に貼付けられたラベルと、の透過率の差によって、単位領域としてのラベルの先端を検出する。また、検出マーク付きの用紙の場合は、用紙とマークとの光の反射率の差によって、単位領域としてのページの先端を検出する。
【0013】
ガイドローラ108Aの回転軸には、その回転軸に同期して回転する不図示のエンコーダが備えられており、それは、連続紙103の搬送位置を検出するための検出手段である。搬送ユニット104による連続紙103の搬送、記録部110による記録タイミング、および後述する切断部113による切断タイミングは、そのエンコーダの検出信号に基づいて後述する制御部200のCPU201により制御される。
【0014】
切断部113としてのカッタは、回転刃113A、固定刃113B、およびストッパ113Cを備え、ストッパ113Cは、不図示のソレノイドによって解除(図中上方向に移動)される。このストッパ113Cの解除によって、回転刃113Aが矢印D方向に回転し、回転刃113Aと固定刃113Bとによって連続紙103が切断される。連続紙103は、搬送ユニット104によって矢印A1方向へ搬送される際に、連続紙103上の切断位置(不図示)が固定刃113Bに達するタイミングで切断される。
【0015】
図2は、
図1に示すインクジェット記録装置の制御系の構成を示すブロック図である。記録装置100の制御部200は、中央処理装置(CPU)201を備え、CPU201が不揮発性メモリ(ROM)202に格納されている、
図7などで後述するプログラムなどの制御プログラムを実行することにより、記録装置100の各構成要素を制御する。また、制御部200は、各種データ処理のワークエリアや受信バッファとして使用されるメモリ(RAM)203、および画像展開部としてのイメージメモリ204を備える。
【0016】
制御部200の制御回路210には、記録ヘッド110Hを駆動する記録ヘッド駆動回路205、モータドライバ207、およびセンサ208等を備えている。モータドライバ207は、記録ヘッド110Hのクリーニング動作、記録動作、および切断動作を駆動する各種モータ206のドライバである。センサ208は、記録装置100における各種動作の制御、および連続紙103の検知等のために用いられるセンサである。制御部200は、USB209を通してホストコンピュータ101に接続されている。
【0017】
本実施形態のホストコンピュータ101からプリンタケーブル102を介して記録装置100に送信される記録コマンドについて説明する。記録コマンドには、記録媒体のサイズ等を通知する記録媒体設定コマンド、記録領域等を指定するフォーマットコマンド、記録媒体の搬送速度を指定する搬送速度設定コマンド、および記録画像の画像データを通知するデータコマンドがある。さらに記録コマンドには、連続紙103に対する切断の有無と切断位置を指定するカット指定コマンドがある。後述する記録前処理に関する制御は、データコマンドの余白量(先端余白量)に基づいて行われる。
【0018】
切断間隔を1以上に設定すると、CPU201の制御により、切断部113は、カット指定コマンドにより連続紙103を切断する。切断間隔は、切断が行われる間隔を示し、切断間隔を1に設定した場合には、記録媒体縦サイズ(単位領域)毎に連続紙が切断される。例えば、記録枚数が複数枚指定され、かつ切断間隔を2以上の複数に設定した場合には、その切断間隔として設定された数と、記録媒体縦サイズと、を積算した領域毎に、連続紙が切断される。
【0019】
例えば、記録枚数が2枚以上で所謂コピー記録が行われる場合において、切断間隔が2、記録媒体縦サイズが40mmに設定された場合を想定する。この場合に、連続紙103のカット長は、切断間隔の2と記録媒体縦サイズの40mmとの積の80mm(=2×40mm)となる。よって、連続紙103は80mm毎に切断される。また、記録枚数に関わらず、切断間隔が1のときは、カット長は40mm(1×40mm)に設定され、連続紙103は、記録媒体縦サイズ(単位領域)の40mm毎に切断される。
【0020】
描画色コマンドには描画色数が格納されており、その描画色数に応じて、イメージデータコマンドには1個以上のデータが格納される。描画色がK(ブラック)のみの場合には、1個のイメージデータが格納され、また描画色がK(ブラック)、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の場合には、4個のイメージデータが順に格納される。
【0021】
図3は、第1実施形態に係るインクジェット記録装置における、主に記録媒体搬送のための機構を一部断面で示す概略図である。吸引ファン107が搬送ベルト106に設けられた吸引孔116(
図4等参照)を介して空気を吸引することによって、吸引孔116を覆う部分の連続紙103は搬送ベルト106の面に吸着されて押し付けられる。そして、連続紙103を搬送ベルト106に吸着させた状態で、搬送ベルト106を移動(走行)させることにより、連続紙103の矢印A1方向の搬送が行われる。連続紙103がラベル紙の場合、その連続紙103は、ラベルの先端が先端検知センサ111の下を通過して検知された後、ガイドローラ108Aの回転軸に同期して回転する不図示のエンコーダによってラベル紙の搬送位置が検出される。記録動作時は、連続紙103が矢印A1方向に連続的に搬送されつつ、記録部110の記録ヘッド110Hからインクが吐出されることにより、連続紙103上に1ページP1,2ページP2,・・・の画像115(1),115(2),・・・が記録される。
【0022】
図4(a)および(b)は、吸引ファンが記録媒体吸引時に生じる気流による吐出液滴に対する影響を説明する模式図であり、記録ヘッド110Hから吐出されるインク滴、連続紙103、搬送ベルト106の吸引孔の位置関係を示している。
図4(a)は、連続紙103が搬送され、連続紙103の先端が記録ヘッド110Hの全体を通過した後の状態を示している。このとき、吸引ファン107による吸引は行われており、連続紙103によって覆われていない吸引孔116では、それを通る気流が生じている。
図4(a)に示す状態は、連続紙103の先端が記録ヘッド110Hを通過し連続紙103が覆わない吸引孔116の位置が、記録ヘッド110Hがインクを吐出する位置と比較的大きく離れた状態である。その結果、吐出されるインク滴が吸引孔116を通る気流からの影響はほぼ無く、その吐出インクの着弾位置のずれは生じない。
図5(a)は、このときの連続紙103の記録面を上方から見た図である。同図に示すように、吐出インクによって記録される画像である直線(罫線)50を記録すべき位置にインク滴が着弾し、その直線50を構成していることが分かる。
【0023】
一方、
図4(b)は、連続紙103の先端が記録ヘッド110Hの吐出位置を通過するときの状態を示している。このとき、
図4(a)に示す状態と同様、吸引ファン107による吸引は行われており、連続紙103によって覆われていない吸引孔116では、それを通る気流が生じている。しかし、
図4(b)に示す状態では、連続紙103の先端が記録ヘッド110Hの吐出位置を通過してそれ程時間が経過しておらず、連続紙103が覆わない吸引孔116の位置が、記録ヘッド110Hがインクを吐出する位置から比較的近い状態である。この場合、吐出されるインク滴は、近くの吸引孔116を通る気流の影響を受け、吐出するインクの飛翔方向が変わり、結果として着弾位置のずれが生じる。
図5(b)は、このときの連続紙103の記録面を上方から見た図である。同図に示すように記録ヘッド110Hから吐出されたインクは、目標とされる着弾位置である直線50を記録する位置よりも連続紙103の先端方向に向けて飛散して着弾する(インクドット51)。
【0024】
このように記録ヘッド110Hの吐出位置と、連続紙103に覆われていない搬送ベルト106の吸引孔116との距離が短くなると、インクの着弾位置がずれてしまう。本実施形態では、連続紙103に覆われていない搬送ベルト106の吸引孔116の位置は不明である。そこで、先端位置に吸引孔116が存在すると、連続紙103の先端から、最初にインクが吐出される記録開始位置までの距離である先端の余白量が小さくなるほど、吸引孔を通る気流の影響を受けて、インクの着弾位置がずれる可能性がある。そこで、本実施形態では、連続紙103の先端余白量に応じて、気流に対処する手段を変更する。
【0025】
本発明の一実施形態は、記録ヘッド110Hから吐出するインクの吐出速度を増すことにより、
図4(b)、
図5(b)にて上述した吸引に起因した気流の影響に対処する。具体的には、先端余白量が少ないほどインクの粘度を下げる。これにより、記録ヘッド110Hにおける吐出口、液路などによる粘性抵抗が下がりインクの吐出速度を上げることができる。その結果、気流によって吐出されて飛翔するインク滴に風圧が生じても、着弾位置のずれを小さくすることができる。本実施形態では、記録前に行う予備吐出の吐出数を増すことにより吐出口内のインクの温度を上げる。それによりインクの粘度を低下させ吐出速度を増す。そして、本実施形態では、上記予備吐出の吐出数を、先端からの距離が画像データにより変化する記録媒体の先端余白量に応じて定める。
【0026】
図6は、連続紙の先端における余白量と記録前に実行する予備吐出の吐出数(予備吐出数)との関係を内容とするテーブルを示す図で、このテーブルは制御部200のROM202に格納されている。本実施形態では、予備吐出数を、連続紙103の先端と、搬送ベルト106の連続紙103が覆っていない吸引孔116とが最も近い距離に位置している場合であっても、先端余白量に応じてインクの吐出速度が十分な値となるように設定している。また、先端余白量が小さくなる程、予備吐出数を増すものとしている。これは、先端余白量が小さくなる程、吸引孔116と吐出インクの着弾位置が近づき、吸引孔116からの気流の影響を受けやすくなるためである。従って、先端余白量が小さくなる程、予備吐出数を増やすことにより吐出ノズル内のインクの温度を上昇させてインクの粘度を低下させることで吐出速度を上げる。これにより、先端余白量が小さい場合であっても吸引による気流の影響に対応して吐出インクの着弾位置のずれを低減する。一方、吸引孔116からの気流の影響を受けにくい場合(先端余白量が大きい場合)は、予備吐出数を少なく設定することで、着弾位置のずれを減少させつつ、予備吐出により廃棄するインクの消費を最小限に抑えることができる。
【0027】
図7は、本発明の第1実施形態に係る記録動作前に実行する予備吐出に関する処理を示すフローチャートである。制御部200のCPU201は、記録装置100がホストコンピュータ101から記録コマンドを含む記録命令を受信すると、記録動作前の処理を開始する。先ず、データコマンドに基づいて先端余白量を判定する(S601)。そして、制御部200のROM202に格納されている、
図6に示す記録前予備吐出テーブルを参照し、ステップS601で判定した先端余白量に対応する記録前予備吐出数を決定する(S602)。その後、予備吐出を安定化させるために記録ヘッド110H内のインクを一定温度(30℃)になるように加熱を開始する(S603)。記録ヘッド110H内のインク温度が一定温度に達したか否かを、記録ヘッド110Hの流路内のヘッド内温度センサ211(
図2参照)の検知に応じて判定する(S604)。インク温度が一定の温度に達していない場合は一定温度になるまで加熱を継続する(S604NO)。そして、一定温度になると(S604YES)、記録ヘッド110H内の加熱を終了し(S605)、ステップS602で決定した予備吐出数になるまで予備吐出を開始する(S606)。予備吐出数に達すると(S607YES)、予備吐出を終了する(S608)。モータドライバ207によって、モータ206を駆動させ、記録ヘッド110Hを記録位置に移動させ(S609)、記録動作前の処理を終了し、記録動作に移行する(S610)。
【0028】
以上のように、本実施形態によれば、先端余白量に応じて、記録前の予備吐出数を変化させる。この予備吐出によって、吐出口とその内部のインクが加熱され、インクの粘度が下がることによりインクの吐出速度が上昇する。その結果、搬送部の吸引動作に起因して搬送ベルトの吸引孔を流れる気流によるインクの着弾位置のずれを抑えることができる。
【0029】
なお、本実施形態における記録部110は、フルラインタイプのインクジェット記録ヘッドを用いる構成となっている。しかし、記録部110は、このようなフルライン方式ではなく、記録ヘッドの主走査方向の走査と、連続紙103の副走査方向の搬送と、を伴って画像を記録するシリアルスキャン方式であってもよい。また、記録ヘッド110Hにおけるノズル列は1列に限らず、複数のノズル列が平行に形成されていてもよい。さらに、画像の記録に用いるインクの色は、単色のみに限定されず複数色であってもよい。
【0030】
また、本実施形態では、先端余白量と記録前の予備吐出数との関係を
図6で示すようなものとした。しかし、連続紙103の先端と吸引孔116とが最も近い距離に位置している場合であってもインクの吐出速度が十分な値となるように予備吐出数を設定できるのであれば、
図6で示した予備吐出数に限らなくてもよい。更に、先端余白量と予備吐出数との関係は、上述のように、予め設定して記憶しているテーブルではなくて、求めた先端余白量に所定の係数を掛けることで、インク吐出速度を増すために必要な予備吐出数を算出しても良い。
【0031】
なお、本実施形態では、記録媒体の先端側における、記録媒体で覆われていない吸引孔を通る気流のインク吐出に対する影響を抑制したが、搬送される記録媒体の後端側にも吸引孔が存在する。しかしながら、画像形成するときに記録ヘッドのインク吐出口は、記録媒体の先端側から画像を記録するため、搬送される連続紙103に向けて連続してインク吐出する。このため、吐出エネルギ発生素子としての電気熱変換素子(ヒータ)を連続駆動することになり、素子の連続駆動によるインク温度上昇でインク粘度が低下する。このため、インク吐出速度も増加するので、記録媒体の後端側に存在する吸引孔を通る気流は、インク吐出に関して影響は無視できる。また、記録媒体の搬送方向に直交する幅方向の記録媒体端部側に記録媒体が覆わない吸引孔が存在する搬送機構がある。この場合は記録媒体の幅方向の記録媒体端部側に位置するインク吐出口も、記録媒体の先端側から画像を記録するため、先端近くの記録では吸引孔の気流の影響を受ける。しかし、先端近くのインク吐出は本実施形態により対処可能であり、記録ヘッドのインク吐出口からは搬送される連続紙103に向けて連続してインク吐出する。このため、端部側のインク吐出口も電気熱変換素子(ヒータ)の連続駆動によるインク温度上昇により、インク粘度が低下して、インク吐出速度も増加するため、記録媒体端部側に位置する吸引孔を通る気流の影響は無視できる。
【0032】
(第2実施形態)
本実施形態の基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、以下においては、本実施形態の特徴的な構成についてのみ説明する。第1実施形態では、連続紙103の先端と吸引孔116とが最も近い距離に位置している場合を想定して設けたテーブルに基づいて予備吐出数を設定する構成であった。しかし、本実施形態では、吸引孔116と搬送ベルト106上の連続紙103の先端との距離を求めることで、吸引孔116と記録開始位置との距離をより精度良く検出し、インク吐出速度を増すために必要な予備吐出数を設定することができるものである。
【0033】
図8は、第2実施形態における記録ヘッド110Hから吐出されるインク滴、連続紙103、搬送ベルト106の吸引孔の位置関係を示す模式図である。また、
図9は、本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録装置における搬送ユニットを上方から見た模式図である。連続紙103は、搬送ベルト106に設けられた吸引孔116に吸着された状態で搬送ベルト106によって搬送される。そして、第2実施形態における搬送ベルト106には、先端検知センサ111により検出される位置に基準凹部117を設けている。基準凹部117から各吸引孔116までの距離は予め決定されている。この基準凹部117と連続紙103の先端を先端検知センサ111により検出することで、制御部200のCPU201によって連続紙103の先端と最も近い吸引孔116の位置(位置B)を求める。具体的には、位置Bは、搬送ベルト106の吸引孔116のうち、連続紙103に覆われてなく、連続紙103の先端よりも切断部113側にあり、かつ連続紙103先端との最短距離に位置している。次に、データコマンドの余白量(先端余白量)から記録領域先端の記録開始位置Gに最も近く、連続紙103先端よりも以前に先端検知センサ111を通過した吸引孔116(B)との距離(BG間距離)をCPU201により算出する。そして、算出されたBG間距離に基づいて、記録前の予備吐出の吐出数を設定する。
【0034】
図10は、吸引孔(B)と記録開始位置(G)との距離(BG間距離)と記録前予備吐出数を決定するためのテーブルを示す図で、制御部200のROM202に格納されている。第1実施形態と同様に、
図7のフローチャートにおいて、記録装置100がホストコンピュータ101から記録コマンドを含む記録命令を受信後に記録動作前の処理を開始する。先ず、前述のBG間距離に応じて、
図10に示す記録前予備吐出テーブルを参照し、記録前予備吐出数を決定する。次に、一定温度(30℃)になるまで加熱した後に、記録前予備吐出を実施する。その後、記録動作に移行する。
【0035】
以上のように、第2実施形態においては、前述のBG間距離に応じて、記録前の予備吐出数を変更する。これによって、記録ヘッド内部のインクが加熱され、インクの粘度を下げることにより吐出速度が上昇するため、連続紙に覆われていない搬送ベルトの吸引孔により生じる気流によるインクの着弾位置のずれを抑制することができる。また、吸引孔116からの気流の影響を受けにくい場合(BG間距離が大きい場合)は、予備吐出数を少なく設定することで、着弾位置のずれを減少させつつ、予備吐出により廃棄するインクの消費を抑えることができる。なお、BG間距離と予備吐出数との関係は、上述のように、予め設定して記憶しているテーブルではなくて、BG間距離に所定の係数を掛けることでインク吐出速度を増すために必要な予備吐出数を算出しても良い。
【0036】
(第3実施形態)
本実施形態の基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、以下においては、本実施形態の特徴的な構成についてのみを説明する。なお、第1実施形態では、記録ヘッド110Hの吐出エネルギ発生素子として電気熱変換素子(ヒータ)を用いたが、本実施形態では吐出エネルギ発生素子としてピエゾ素子などの機械的なエネルギ発生素子を用いてもよい。
【0037】
本実施形態は、第1実施形態の記録前予備吐出数を決定する代わりに、記録ヘッド駆動回路205を介して記録ヘッド110Hのインク流路内に設けられたヘッド内温度センサ211(
図2参照)によりインク温度を管理する。そして、ヘッド内温度センサ211によってインク温度を管理しながら記録ヘッド内の加熱用のヒータを駆動することによりインクを加熱してインクの粘度を低下させる。これにより、記録ヘッド110Hから吐出されるインクは、吸引孔116によって生じる気流の影響に対抗して着弾位置のずれを低減する。
【0038】
図11は、連続紙の先端における余白量(先端余白量)と記録前に実行する加熱温度との関係を決定するテーブルを示す図で、このテーブルは制御部200のROM202に格納されている。
【0039】
図12は、本発明の第3実施形態に係る記録動作前に実行する記録ヘッド加熱に関する処理を示すフローチャートである。制御部200のCPU201は、記録装置100がホストコンピュータ101から記録コマンドを含む記録命令を受信すると、記録動作前の処理を開始する。先ず、第1実施形態同様、データコマンドに基づいて先端余白量を判定する(S1201)。そして、
図11に示す記録ヘッド加熱温度テーブルを参照し、ステップS1201で判定した先端余白量に対応する記録ヘッド加熱温度を決定する(S1202)。その後、記録ヘッド加熱温度を決定後、記録ヘッド110Hの加熱が開始される(S1203)。そして、記録ヘッド110Hのヘッド内温度センサ211(
図2参照)により検知され、ステップS1202で決定された温度まで記録ヘッド110H内の温度に達したか否かを判定する(S1204)。インク温度が決定された温度になるまで加熱を継続する。そして、加熱温度に達すると(S1204YES)、予備吐出を行う(S1205)。そして、予備吐出動作が終了すると、モータドライバ207によって、モータ206を駆動させ、記録ヘッド110Hを記録位置へ移動させて(S1206)、記録動作に移行し(S1207)、処理を終了する。
【0040】
なお、先端余白量と加熱温度との関係は、上述のように、予め設定して記憶しているテーブルではなくて、画像データにより判定される先端余白量に所定の係数を掛けることで、インク吐出速度を増すために必要な加熱温度を算出しても良い。
【0041】
また、本実施形態では加熱専用のヒータを用いて、記録ヘッド内のインクを加熱している。しかし、第1実施形態のように記録ヘッドの吐出エネルギ発生素子として電気熱変換素子(ヒータ)を用いるときは、加熱専用のヒータを設けずに、吐出用のヒータ駆動時間を調整することで、インクを吐出することなく、記録ヘッド内のインクを加熱しても良い。
【0042】
(第4実施形態)
本実施形態の基本的な構成は第2実施形態と同様であるため、以下においては、本実施形態の特徴的な構成についてのみ説明する。なお、第2実施形態では、記録ヘッド110Hの吐出エネルギ発生素子として電気熱変換素子(ヒータ)を用いたが、本実施形態では吐出エネルギ発生素子としてピエゾ素子などの機械的なエネルギ発生素子を用いてもよい。
【0043】
図13は、吸引孔(B)と記録開始位置(G)との距離(BG間距離)と加熱温度を決定するためのテーブルを示す図で、制御部200のROM202に格納されている。第2実施形態の記録前予備吐数を決定する代わりに、求めたBG間距離に応じて記録ヘッド駆動回路205を介して記録ヘッド110Hの流路内に設けられたヘッド内温度センサ211(
図2参照)により温度を調節する。そして、ヘッド内温度センサ211によって温度を調節しながら加熱用のヒータを駆動することによりインクの粘度を低下させる。
【0044】
第3実施形態と同様に
図12のフローチャートにおいて、記録装置100がホストコンピュータ101から記録コマンドを含む記録命令を受信後、記録動作前処理を開始する。記録媒体設定コマンドの余白量(先端余白量)に応じて、
図13に示す記録ヘッド加熱温度テーブルを参照し、記録ヘッド加熱温度を決定する。記録ヘッド加熱温度を決定後、記録ヘッドを加熱する。そして、決定された温度まで記録ヘッド温度が上昇したことをヘッド内温度センサ211で検知後、記録前予備吐出を実施し、記録動作に移行する。この間、加熱用のヒータは決定された温度を維持するように駆動され、記録動作移行後はヘッドの加熱を終了する。
【0045】
なお、BG間距離と加熱温度との関係は、上述のように、予め設定して記憶しているテーブルではなくて、求めたBG間距離に所定の係数を掛けることでインク吐出速度を増すために必要な加熱温度を算出しても良い。
【0046】
また、本実施形態では加熱専用のヒータを用いて、記録ヘッド内のインクを加熱している。しかし、第2実施形態のように記録ヘッドの吐出エネルギ発生素子として電気熱変換素子(ヒータ)を用いるときは、加熱専用のヒータを設けずに、吐出用のヒータ駆動時間を調整することで、インクを吐出することなく、記録ヘッド内のインクを加熱しても良い。
【0047】
(他の実施形態)
連続紙は、ロール状のみに特定されず、例えば、蛇腹状に折り曲げられた記録媒体、あるいは真直ぐな連続する記録媒体、枚葉にカットされた記録媒体であってもよい。また、切断部113は、回転刃113Aを用いる構成のみに特定されず、例えば、スライド式に連続紙を切断するカッタであってもよい。
【0048】
また、搬送手段としての搬送ユニット104は、連続する記録媒体を吸引しつつ搬送することができればよく、必ずしも記録媒体を搬送ベルト106に吸着させて搬送する構成のみに特定されない。例えば、記録媒体を搬送面に吸引したまま、その搬送面上において記録媒体を搬送させる構成であってもよい。
【符号の説明】
【0049】
100 インクジェット記録装置
101 ホストコンピュータ
106 搬送ベルト
107 吸引ファン
110H 記録ヘッド
111 先端検知センサ
116 吸引孔
117 基準凹部