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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】渋滞前減速報知装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/14 20200101AFI20220203BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20220203BHJP
   G08B 21/24 20060101ALI20220203BHJP
   B60T 7/12 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
B60W50/14
G08G1/16 D
G08G1/16 E
G08B21/24
B60T7/12 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017231639
(22)【出願日】2017-12-01
(65)【公開番号】P2019098914
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】特許業務法人イトーシン国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】難波 亮介
(72)【発明者】
【氏名】小山 哉
(72)【発明者】
【氏名】溝口 雅人
(72)【発明者】
【氏名】財前 元希
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-058999(JP,A)
【文献】特開2001-216599(JP,A)
【文献】特開2012-030665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
G08B 19/00-21/24
B60T 7/12- 8/1769
B60T 8/32- 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の車速を検出する車速検出手段と、
前記自車両の前方の走行環境情報を取得する走行環境情報取得手段と、
前記自車両の前方の進行路の渋滞情報を取得する渋滞情報取得手段と、
前記自車両から渋滞車列の最後尾車両までの道のり距離を求める道のり距離算出手段と、
前記道のり距離算出手段で算出した前記道のり距離と前記車速検出手段で検出した前記車速とに基づき前記自車両が前記最後尾車両に到達するまでの到達時刻を算出する到達時刻算出手段と、
前記道のり距離算出手段で算出した前記道のり距離と、前記車速検出手段で検出した前記車速と前記最後尾車両の移動速度との相対車速とに基づき減速開始時刻を算出する減速開始時刻算出手段と
を有する渋滞前減速報知装置において、
運転者に減速開始タイミングを報知する警報手段と、
前記走行環境情報取得手段で前記最後尾車両が捕捉されていない場合、前記減速開始時刻算出手段で算出した前記減速開始時刻に余裕時刻を加算して警報開始時刻を設定する警報開始時刻設定手段と、
前記警報開始時刻設定手段で算出した前記警報開始時刻に達した場合に前記警報手段を作動させる警報作動手段と
を更に備えることを特徴とする渋滞前減速報知装置。
【請求項2】
自車両の車速を検出する車速検出手段と、
前記自車両の前方の走行環境情報を取得する走行環境情報取得手段と、
前記自車両の前方の進行路の渋滞情報を取得する渋滞情報取得手段と、
前記自車両から渋滞車列の最後尾車両までの道のり距離を求める道のり距離算出手段と、
前記道のり距離算出手段で算出した前記道のり距離と前記車速検出手段で検出した前記車速とに基づき前記自車両が前記最後尾車両に到達するまでの到達時刻を算出する到達時刻算出手段と、
前記道のり距離算出手段で算出した前記道のり距離と、前記車速検出手段で検出した前記車速と前記最後尾車両の移動速度との相対車速とに基づき減速開始時刻を算出する減速開始時刻算出手段と
を有する渋滞前減速報知装置において、
運転者に減速開始タイミングを報知する警報手段と、
前記走行環境情報取得手段で前記最後尾車両が捕捉されていない場合、前記減速開始時刻算出手段で算出した前記減速開始時刻に設定時刻を加算して警報開始時刻を設定する警報開始時刻設定手段と、
前記警報開始時刻設定手段で算出した前記警報開始時刻に達した場合に前記警報手段を作動させる警報作動手段と
を備え、
前記警報開始時刻設定手段は、前記走行環境情報取得手段で先行車が捕捉された場合、該先行車と前記自車両との間の車間距離と前記道のり距離算出手段で算出した前記道のり距離とを比較し、該道のり距離から所定誤差分を減算した値が前記車間距離よりも短い場合、前記先行車は前記渋滞車列の最後尾であると判定し、前記警報開始時刻を前記減速開始時刻に設定する
ことを特徴とする渋滞前減速報知装置。
【請求項3】
自車両の車速を検出する車速検出手段と、
前記自車両の前方の走行環境情報を取得する走行環境情報取得手段と、
前記自車両の前方の進行路の渋滞情報を取得する渋滞情報取得手段と、
前記自車両から渋滞車列の最後尾車両までの道のり距離を求める道のり距離算出手段と、
前記道のり距離算出手段で算出した前記道のり距離と前記車速検出手段で検出した前記車速とに基づき前記自車両が前記最後尾車両に到達するまでの到達時刻を算出する到達時刻算出手段と、
前記道のり距離算出手段で算出した前記道のり距離と、前記車速検出手段で検出した前記車速と前記最後尾車両の移動速度との相対車速とに基づき減速開始時刻を算出する減速開始時刻算出手段と
を有する渋滞前減速報知装置において、
運転者に減速開始タイミングを報知する警報手段と、
前記走行環境情報取得手段で前記最後尾車両が捕捉されていない場合、前記減速開始時刻算出手段で算出した前記減速開始時刻に設定時刻を加算して警報開始時刻を設定する警報開始時刻設定手段と、
前記警報開始時刻設定手段で算出した前記警報開始時刻に達した場合に前記警報手段を作動させる警報作動手段と
を備え、
前記警報開始時刻設定手段は、前記走行環境情報取得手段で先行車が捕捉された場合、該先行車と前記自車両との間の車間距離と前記道のり距離算出手段で算出した前記道のり距離とを比較し、該道のり距離から所定誤差分を減算した値が前記車間距離よりも長い場合、前記先行車は前記最後尾車両ではないと判定する
ことを特徴とする渋滞前減速報知装置。
【請求項4】
前記警報開始時刻設定手段は、前記走行環境情報取得手段で先行車が補足された場合、該先行車と自車両との間の車間距離と前記道のり距離算出手段で算出した前記道のり距離とを比較し、該道のり距離から所定誤差分を減算した値が前記車間距離よりも長い場合、前記先行車は前記最後尾車両ではないと判定する
ことを特徴とする請求項1或いは2記載の渋滞前減速報知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両の前方に渋滞が発生しているが、自車両の前方の走行環境情報を取得する走行環境情報取得手段では渋滞車列の最後尾車両が補足されていない状態で、減速が開始される際には、減速開始よりも、所定時刻だけ早期に減速する旨を運転者に報知する渋滞前減速報知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の車両においては、運転者の負担を軽減し、快適且つ安全に運転できるようにするための運転支援の技術が種々提案され、一部は既に実用化されている。
【0003】
この種の運転支援は、追従車間距離制御(ACC:Adaptive Cruise Control)機能と車線維持制御(Lane Keeping)機能とを備えることで、先行車との車間を維持しつつ走行車線に沿って車両を自動走行させることができる。更に、ロケータ機能を備えることで、自車両を目的地まで自動走行させることもできる。
【0004】
ACC制御では、例えば車両に搭載されている車載カメラや各種レーダセンサ、或いはそれらの組み合わせからなる前方認識装置により、先行車との距離を認識し、先行車に追従して走行させるものである。そして、このACC制御では、先行車が停車した場合は所定車間距離を開けて自車両を停車させ、先行車の発進に従って自車両を発進させる全車速追従制御が行われる。
【0005】
ところで、自車両が先行車に追従して自動停車するに際しては、先行車と自車両との相対車速、及び車間距離に基づき、自車両が先行車に対して所定車間距離を開けて停車するように減速制御を行う。例えば、高速道路走行等において、自車両前方に事故渋滞や工事渋滞等、車両の流れをいきなり滞らせるような渋滞が発生している状態であっても、前方認識装置により、渋滞車列の最後尾車両が遠方から認識されていれば、減速制御では、急減速させることなく、自車両を最後尾車両に対し、所定車間距離を開けた状態で停車、或いは低速追従させることができる。
【0006】
しかし、例えば、高速道路走行において、自車両の前方がカーブ路(図6参照)や高低差の大きな登坂路(図7参照)の場合、前方認識装置にて遠方から渋滞車列の最後尾を認識することができず、比較的近距離で渋滞車列の最後尾を認識した場合、減速制御では、自車両を急減速させて車間距離を確保することになる。
【0007】
渋滞車列の最後尾車両が遠方より認識することができない場合であっても、自車両を事前に減速させて、急減速を回避させる技術として、例えば、特許文献1(特開2001-216599号公報)では、測位衛星からの測位信号等に基づいて取得した自車両の現在位置と、道路交通情報配信サービスから取得した自車両の進行方向の渋滞情報に含まれている渋滞車列の最後尾車両の位置情報とに基づいて、最後尾までの距離を算出し、この距離が予め設定した一定距離以内の場合、運転者に減速を促す警告を発する技術が開示されている。
【0008】
更に、同文献には、最後尾までの距離が一定距離以内で、且つ車速が一定値以上の場合は、上述した警告に加え、変速比のダウンシフトとブレーキ動作との双方或いは一方の制御により車間距離が一定以上となるように強制的に減速させるようにした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2001-216599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した文献に開示されている技術によれば、見通しの悪いカーブ路の出口付近や登坂路の頂上から降坂路へ遷移する付近で渋滞が発生しており、運転者が最後尾車両を認識することができない場合であっても、自車両が最後尾の位置から一定距離以内となった場合は、運転者に警告が発せられるので、渋滞を認識させることができる。更に、車速が一定以上の場合には減速制御が行われるため追突を未然に防止することができる。
【0011】
しかし、上述した文献に開示されている技術は、基本的に運転者に対して減速操作を促すために警告を発するものであるが、上述したように見通しの悪い進行路で渋滞が発生している場合、運転者は最後尾車両が認識できないため、減速させるタイミング、及びどの程度まで減速させるかを容易に把握することができない。
【0012】
一方、最後尾車両と一定距離以内で、且つ車速が一定値以上の場合の強制的な減速制御は、運転者が最後尾車両を認識していない場合であっても警告と共にいきなり実行されるため、運転者を驚かせてしまい、誤作動と勘違いさせる原因となる可能性がある。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑み、見通しの悪い進行路において発生している渋滞車列の最後尾車両を認識することができない状況で、減速制御が自動的に作動する場合であっても、運転者を驚かせることがなく、余裕を持って追突防止のための減速動作に対応することのできる渋滞前減速報知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様は、自車両の車速を検出する車速検出手段と、前記自車両の前方の走行環境情報を取得する走行環境情報取得手段と、前記自車両の前方の進行路の渋滞情報を取得する渋滞情報取得手段と、前記自車両から渋滞車列の最後尾車両までの道のり距離を求める道のり距離算出手段と、前記道のり距離算出手段で算出した前記道のり距離と前記車速検出手段で検出した前記車速とに基づき前記自車両が前記最後尾車両に到達するまでの到達時刻を算出する到達時刻算出手段と、前記道のり距離算出手段で算出した前記道のり距離と、前記車速検出手段で検出した前記車速と前記最後尾車両の移動速度との相対車速とに基づき減速開始時刻を算出する減速開始時刻算出手段とを有する渋滞前減速報知装置において、運転者に減速開始タイミングを報知する警報手段と、前記走行環境情報取得手段で前記最後尾車両が捕捉されていない場合、前記減速開始時刻算出手段で算出した前記減速開始時刻に余裕時刻を加算して警報開始時刻を設定する警報開始時刻設定手段と、前記警報開始時刻設定手段で算出した前記警報開始時刻に達した場合に前記警報手段を作動させる警報作動手段とを更に備える。
本発明の一態様は、自車両の車速を検出する車速検出手段と、前記自車両の前方の走行環境情報を取得する走行環境情報取得手段と、前記自車両の前方の進行路の渋滞情報を取得する渋滞情報取得手段と、前記自車両から渋滞車列の最後尾車両までの道のり距離を求める道のり距離算出手段と、前記道のり距離算出手段で算出した前記道のり距離と前記車速検出手段で検出した前記車速とに基づき前記自車両が前記最後尾車両に到達するまでの到達時刻を算出する到達時刻算出手段と、前記道のり距離算出手段で算出した前記道のり距離と、前記車速検出手段で検出した前記車速と前記最後尾車両の移動速度との相対車速とに基づき減速開始時刻を算出する減速開始時刻算出手段とを有する渋滞前減速報知装置において、運転者に減速開始タイミングを報知する警報手段と、前記走行環境情報取得手段で前記最後尾車両が捕捉されていない場合、前記減速開始時刻算出手段で算出した前記減速開始時刻に設定時刻を加算して警報開始時刻を設定する警報開始時刻設定手段と、前記警報開始時刻設定手段で算出した前記警報開始時刻に達した場合に前記警報手段を作動させる警報作動手段とを備え、前記警報開始時刻設定手段は、前記走行環境情報取得手段で先行車が捕捉された場合、該先行車と前記自車両との間の車間距離と前記道のり距離算出手段で算出した前記道のり距離とを比較し、該道のり距離から所定誤差分を減算した値が前記車間距離よりも短い場合、前記先行車は前記渋滞車列の最後尾であると判定し、前記警報開始時刻を前記減速開始時刻に設定する。
本発明の一態様は、自車両の車速を検出する車速検出手段と、前記自車両の前方の走行環境情報を取得する走行環境情報取得手段と、前記自車両の前方の進行路の渋滞情報を取得する渋滞情報取得手段と、前記自車両から渋滞車列の最後尾車両までの道のり距離を求める道のり距離算出手段と、前記道のり距離算出手段で算出した前記道のり距離と前記車速検出手段で検出した前記車速とに基づき前記自車両が前記最後尾車両に到達するまでの到達時刻を算出する到達時刻算出手段と、前記道のり距離算出手段で算出した前記道のり距離と、前記車速検出手段で検出した前記車速と前記最後尾車両の移動速度との相対車速とに基づき減速開始時刻を算出する減速開始時刻算出手段とを有する渋滞前減速報知装置において、運転者に減速開始タイミングを報知する警報手段と、前記走行環境情報取得手段で前記最後尾車両が捕捉されていない場合、前記減速開始時刻算出手段で算出した前記減速開始時刻に設定時刻を加算して警報開始時刻を設定する警報開始時刻設定手段と、前記警報開始時刻設定手段で算出した前記警報開始時刻に達した場合に前記警報手段を作動させる警報作動手段とを備え、前記警報開始時刻設定手段は、前記走行環境情報取得手段で先行車が捕捉された場合、該先行車と前記自車両との間の車間距離と前記道のり距離算出手段で算出した前記道のり距離とを比較し、該道のり距離から所定誤差分を減算した値が前記車間距離よりも長い場合、前記先行車は前記最後尾車両ではないと判定する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、自車両の前方の進行路で渋滞は発生しているが、走行環境情報取得手段では渋滞車列の最後尾車両が補足されない場合、減速開始時刻算出手段で算出した減速開始時刻に設定時刻を加算して警報開始時刻を設定し、警報開始時刻に達した場合に警報手段を作動させて、減速制御が開始されるよりも前に減速が開始されること報知するようにしたので、見通しの悪い進行路において発生している最後尾車両を認識することができない状況であっても、運転者は減速の開始を予め把握しているため、驚くことがなく、余裕を持って衝突防止のための減速動作に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】自動運転システムの概略構成図
図2】減速開始時刻算出ルーチンを示すフローチャート
図3】警報開始時刻算出ルーチンを示すフローチャート
図4】渋滞前減速制御ルーチンを示すフローチャート
図5】見通しの良い走行路での渋滞車列に対応した減速制御の開始のタイミングを示す説明図
図6】見通しの悪いカーブ路の出口付近で渋滞している状態を示す説明図
図7】見通しの悪い登坂路から降坂路に遷移する頂付近で渋滞している状態を示す説明図
図8】渋滞前減速制御の開始と警報出力とのタイミングを示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。図1に示す自動運転システム1は、自車両M(図5図7参照)に搭載されている。この自動運転システム1は、自車位置を検出する手段としてロケータユニット11と走行環境情報取得手段としてのカメラユニット21とが搭載されている。
【0018】
ロケータユニット11は道路地図上の自車両Mの位置(自車位置)を推定すると共に、この自車位置の前方の道路地図データを取得する。一方、カメラユニット21は自車両Mの前方の走行環境情報を取得して、走行車線の左右を区画する区画線、道路形状、先行車の有無等を認識すると共に、区画線中央の道路曲率、先行車との車間距離及び相対速度等を求める。
【0019】
ロケータユニット11は、ロケータ演算部12と記憶手段としての高精度道路地図データベース18とを有している。このロケータ演算部12、後述する前方走行環境認識部21d、及び自動運転制御部22は、CPU,RAM,ROM等を備える周知のマイクロコンピュータ、及びその周辺機器で構成されており、ROMにはCPUで実行するプログラムやベースマップ等の固定データ等が予め記憶されている。
【0020】
このロケータ演算部12の入力側に、自車両Mに作用する前後加速度を検出する加速度センサ13、前後左右各車輪の回転速度から車速を検出する車速検出手段としての車輪速センサ14、自車両Mの角速度或いは角加速度を検出するジャイロセンサ15、複数の測位衛星から発信される測位信号を受信するGNSS(Global Navigation Satelite System)受信機16等、自車両Mの現在位置(自車位置)を推定するに際し、必要とするパラメータを検出するセンサ類が接続されている。更に、ロケータ演算部12に対して道路地図上の目的地情報(住所、電話番号、モニタに表示された登録一覧からの選択等)を入力する目的地情報入力装置17が接続されている。
【0021】
又、ロケータ演算部12は、道路地図情報取得部12a、目標ルート作成演算部12bを備えている。道路地図情報取得部12aはGNSS受信機16で受信した測位信号に基づき自車両Mの位置座標(緯度、経度)を取得し、この位置座標と目的地情報入力装置17を介して入力された目的地の位置座標(緯度、経度)を、高精度道路地図データベース18に記憶されている道路地図上にマップマッチングして、両位置を特定し、現在の自車位置から目的地までの道路地図情報を目標ルート作成演算部12bに送信する。
【0022】
尚、道路地図情報取得部12aは、トンネル内走行等のようにGNSS受信機16の感度低下により測位衛星からの有効な測位信号を受信することができない環境では、車輪速センサ14で検出した車輪速に基づき求めた車速、ジャイロセンサ15で検出した角速度、加速度センサ13で検出した前後加速度に基づいて自車位置を推定する自律航法に切替えて、道路地図上の自車位置を推定する。
【0023】
ところで、上述した高精度道路地図データベース18はHDD等の大容量記憶媒体であり、高精度な道路地図情報(ダイナミックマップ)が記憶されている。この高精度道路地図情報は、自動運転を行う際に必要とする車線データ(車線幅データ、車線中央位置座標データ、車線の進行方位角データ、制限速度等)を保有しており、この車線データは、道路地図上の各車線に数メートル間隔で格納されている。
【0024】
目標ルート作成演算部12bは、道路地図情報取得部12aでマップマッチングした現在位置と目的地とを結ぶ目標ルートを道路地図上に作成すると共に、自車両M前方の目標ルート上に、自車両Mを走行車線(3車線であれば、左側車線、中央車線、右側車線の何れかの左右区画線の中央)に沿って自動走行させるための目標進行路を設定する。この目標進行路情報は自動運転制御部22で読込まれる。
【0025】
一方、カメラユニット21は、自車両Mの車室内前部の上部中央に固定されており、車幅方向中央を挟んで左右対称な位置に配設されているメインカメラ21a及びサブカメラ21bからなる車載カメラ(ステレオカメラ)と、画像処理ユニット(IPU)21c、及び前方走行環境認識部21dとを有している。このカメラユニット21は、両カメラ21a,21bで撮像した自車両M前方の走行環境画像情報をIPU21cにて所定に画像処理する。
【0026】
前方走行環境認識部21dは、IPU21cで画像処理された走行環境画像情報を読込み、この走行環境画像情報に基づき前方走行環境を認識する。認識する前方走行環境には、自車両Mが走行する進行路(自車進行路)の道路形状(左右を区画する区画線の中央の道路曲率[1/m]、及び左右区画線間の幅(車幅))、自車進行路及び隣接する車線を走行する先行車が含まれている。更に、先行車を検出した場合は、この先行車との車間距離、及びこの車間距離の変化に基づいて求めた相対車速も前方走行環境に含まれる。この前方走行環境情報が自動運転制御部22に送信される。
【0027】
自動運転制御部22は、渋滞情報取得部22a、車両制御演算部22bを備えており、入力側に、ロケータ演算部12、前方走行環境認識部21d以外に、渋滞情報取得手段としての渋滞情報受信機32が接続されている。この渋滞情報受信機32は、VICS( Vehicle Information and Communication System:登録商標)センタに代表される道路交通情報配信センタから配信される道路交通情報を受信する。この道路交通情報の1つに渋滞情報がある。この渋滞情報は、所定時間(例えば、5[sec])毎に更新されて配信される。
【0028】
又、この自動運転制御部22の出力側に、警報手段としての警報装置31、自車両Mを車線に沿って走行させる操舵制御部33、強制ブレーキにより自車両Mを減速させるブレーキ制御部34、自車両Mの車速を制御する加減速制御部35が接続されている。
【0029】
自動運転制御部22の渋滞情報取得部22aは、渋滞情報受信機32で受信した渋滞情報を取得する。ところで、渋滞は、一般に走行速度が20~40[Km/h]以下であって、車列が1[Km]以上と定義されている。従って、所定時間経過後の渋滞車列は、渋滞停車が継続している場合を除けば進行方向に移動していることになる。この渋滞情報には、渋滞車列の距離、移動速度、及び先頭の車両と最後尾車両Peとの各位置座標等が含まれている。この渋滞情報は車両制御演算部22bで読込まれる。
【0030】
車両制御演算部22bは、ACC(Adaptive Cruise Control)機能を有している。従って、カメラユニット21が目標進行路上に先行車を補足していない場合は、自車両Mをセット車速で走行させ、先行車が補足された場合は、所定車間距離を維持した状態で先行車に追従走行させる。このACCは自車両Mが渋滞車列の最後尾車両Peに近接する際に実行される渋滞前減速制御にも適用される。
【0031】
車両制御演算部22bが備える渋滞前減速制御は、先ず、渋滞情報取得部22aで取得した渋滞情報に基づき、目標ルート作成演算部12b設定した目標進行路の自車両M前方の所定距離(例えば、1~2[Km])よりも手前に渋滞が発生しているか否かを調べる。そして、渋滞が発生していると判定した場合、渋滞車列の最後尾車両Peに対して所定車間距離を開けて追従走行する車速まで減速させるための渋滞前減速開始時刻tdを算出し、この渋滞前減速開始時刻tdに達したとき減速を開始する。
【0032】
更に、その際、自動減速が開始される旨の警報を発する開始時刻(警報開始時刻)twを算出する。この警報開始時刻twは、前方走行環境認識部21dで渋滞車列の最後尾車両Peが認識されている状態で自動減速が開始される場合は、自動減速開始と同時に警報を発する。一方、前方走行環境認識部21dで渋滞車列の最後尾車両Peが認識されていない状態で自動減速が開始される場合は、自動減速が開始されるよりも設定時刻だけ早期に警報を発する。
【0033】
前方走行環境認識部21dで渋滞車列の最後尾車両Peが認識され難い状態とは、例えば、図6に示すように渋滞車列の最後尾車両Peが、見通しの悪いカーブ路の出口を走行している場合、或いは、図7に示すように登坂路の頂上から降坂路へ遷移する付近を最後尾車両Peが走行している場合がある。このような場合、渋滞前減速制御は、カメラユニット21で最後尾車両Peを補足する前に減速を開始して、追突を回避することになる。
【0034】
上述した車両制御演算部22bでの渋滞前減速制御は、具体的には図2図4に示すフローチャートに従って実行される。
【0035】
すなわち、図2に示す減速開始時刻算出演算処理ルーチンにて渋滞前減速開始時刻tdを算出し、図3に示す警報開始時刻算出ルーチンにて警報開始時刻twを算出する。そして、図4に示す渋滞前減速制御ルーチンにて渋滞前減速制御が実行される。
【0036】
図2に示すルーチンでは、先ず、ステップS1で、渋滞情報取得部22aで取得した渋滞情報を読込み、ステップS2で、最後尾車両Peの位置座標と自車両Mの位置座標から、目標進行路上の所定距離以内に渋滞車列の最後尾が存在しているか否かを調べる。尚、本実施形態では、図5図6に示すように、最後尾車両Peと自車両Mとの位置座標は、それぞれ車両前端の車幅方向中央の点J,Iに設定されている。
【0037】
又、所定距離は、渋滞車列の最後尾車両Peに対し、自車両Mを急減速させることなく所定車間距離を開けて追従させる車速まで減速させることの可能な距離である。この所定距離は、本実施形態では、1~2[Km]程度に設定しているが、これに限定されるものではない。
【0038】
そして、渋滞が発生していない場合は、そのままルーチンを抜ける。一方、目標進行路上に渋滞が発生しており、その最後尾車両Peが自車両Mから所定距離以内にある場合は、ステップS3へ進む。ステップS3へ進むと、自車両Mから最後尾車両Peまでの道のり距離Leを求める。この道のり距離Leは、例えば、目標進行路に所定距離毎に設定されている車線中央位置座標間の距離を加算することで求める。尚、このステップS3での処理が、本発明の道のり距離算出手段に対応している。
【0039】
その後、ステップS4へ進み、車輪速センサ14で検出した車輪速に基づいて求めた車速(例えば、車輪速センサ14で検出した車輪毎の車輪速の平均値、或いは駆動輪の車輪速の平均値)V[Km/h]を読込み、続く、ステップS5で、道のり距離Leを車速Vで除算して、最後尾車両Peまでの到達時刻teを算出する(te←Le/V)。尚、このステップS5での処理が、本発明の到達時刻算出手段に対応している。
【0040】
次いで、ステップS6へ進み、渋滞前減速開始時刻tdを算出して、ルーチンを抜ける。この渋滞前減速開始時刻tdは、自車両Mの車速を渋滞車列の最後尾車両Peに対し所定車間距離を開けて追従させる車速まで減速させるに要する時間であり、道のり距離Leを最後尾車両Peと自車両Mとの相対車速で除算することで求める。尚、最後尾車両Peの移動速度は、渋滞情報取得部22aで取得した渋滞情報に含まれている渋滞車列の移動速度で代用する。尚、このステップでの処理が、本発明の減速開始時刻算出手段に対応している。
【0041】
次に、図3に示すルーチンでは、先ず、ステップS11で、減速開始時刻算出ルーチンで読込んだ渋滞情報に基づき、最後尾車両Peの位置座標と自車両Mの位置座標から、目標進行路上の所定距離(例えば、1~2[Km/h])以内に渋滞車列の最後尾が存在しているか否かで、渋滞が発生しているか否かを調べる。
【0042】
そして、渋滞が発生していない場合は、ルーチンを抜ける。一方、渋滞が発生している場合はステップS12へ進む。ステップS12では、減速開始時刻算出ルーチンで算出した道のり距離Leを読込み、続く、ステップS13で、前方走行環境認識部21dで認識した前方走行環境情報を読込む。
【0043】
その後、ステップS14へ進み、前方走行環境情報から先行車の有無を調べ、先行車が検出されている場合はステップS15へ進み、又、先行車が検出されていない場合、運転者は未だ渋滞を視認できていないと判定し、ステップS18へ分岐する。
【0044】
ステップS15へ進むと、先行車と自車両Mと車間距離Lpを算出する。そして、ステップS16で、車間距離Lpと道のり距離Leから誤差Reを減算した値とを比較する。図5図6に示すように、誤差Reは最後尾車両Peの座標位置(点J)を中心とする半径であり、渋滞情報の更新周期と渋滞車列の移動速度との関係から、渋滞情報が更新するまでの渋滞車列の移動距離を誤差としている。従って、例えば、渋滞情報が5[sec]毎に更新され、渋滞車列が20[Km/h]で移動しているとすれば、Re=30[m]程度となる。
【0045】
又、図5に示すように、走行車線が直線路の場合、運転者は渋滞車列の最後尾車両Peを比較的離れた位置から視認することができる。しかし、渋滞車列の最後尾車両Peと自車両Mとの間に、一点鎖線で示す先行車Paが走行している場合、前方走行環境認識部21dで認識した先行車は、この先行車Paか最後尾車両Peか否かは判別することができない。
【0046】
そのため、ステップS16では、先行車が道のり距離Leよりも手前で認識された場合((Le-Re)>Lp:図5ではLp’で表している)、最後尾車両Peではないと判定しルーチンを抜ける。この場合、自車両Mは先行車Paに対して、自動運転における先行車追従制御(ACC制御)が行われる。
【0047】
一方、(Le-Re)≦Lpの場合、先行車は渋滞車列の最後尾車両Peであると判定し、ステップS17へ進む。ステップS17へ進むと、警報開始時刻twを渋滞前減速開始時刻tdで設定して(tw←td)、ルーチンを抜ける。
【0048】
一方、ステップS14からステップS18へジャンプすると、運転者には渋滞車列の最後尾車両Peが視認されていないため、渋滞前減速開始時刻tdに余裕時刻taを加算した値で警報開始時刻twを設定して(tw←td+ta)、ルーチンを抜ける。
【0049】
尚、この余裕時刻taは、渋滞車列の最後尾車両Peを運転者が視認できていない状態で、いきなり減速制御が開始されることを防止するため、減速制御が開始されることを事前に報知する時刻である。本実施形態では、余裕時刻taを1~5[sec]程度に設定しているが、これに限定されるものではない。尚、ステップS14~ステップS18での処理が、本発明の警報開始時刻設定手段に対応している。
【0050】
図2のルーチンで設定した到達時刻te、渋滞前減速開始時刻td、及び図3のルーチンで設定した警報開始時刻twは、図4に示す渋滞前減速制御ルーチンで読込まれる。
【0051】
このルーチンでは、先ず、ステップS31で到達時刻teを読込み、ステップS32で警報開始時刻twを読込む。そして、ステップS33で到達時刻teと警報開始時刻twとを比較し、tw<teの場合は、自車両Mが警報開始時刻twに到達していないと判定し、そのままルーチンを抜ける。一方、tw≧teの場合、自車両Mは警報開始時刻twに到達したと判定し、ステップS34へ進み、警報装置31を作動させて運転者に減速開始タイミングを報知した後、ステップS35へ進む。この警報装置31は音声スピーカやモニタであり、減速が開始される旨を音声や画像表示で報知する。なお、このステップS33,S34での処理が本発明の警報作動手段に対応している。
【0052】
この場合、図8に示すように、警報開始時刻twが、渋滞前減速開始時刻tdに余裕時刻taを加算した値で設定されている場合、後述するステップS37では減速制御が開始されるときよりも、余裕時刻taだけ早期に、減速が開始される旨の警報が報知される。
【0053】
次いで、ステップS35で渋滞前減速開始時刻tdを読込み、ステップS36で渋滞前減速開始時刻tdと最後尾車両Peまでの到達時刻teとを比較する。そして、td≧teの場合、自車両Mは渋滞前減速開始時刻tdに到達したと判定し、ステップS37へ進み、渋滞前減速制御処理を実行してルーチンを抜ける。一方、td<teの場合、自車両Mは未だ、渋滞前減速開始時刻tdに到達していないと判定し、そのまま、ルーチンを抜ける。
【0054】
ステップS37で実行される渋滞前減速制御処理は、自車両Mを最後尾車両Peに対して所定車間距離を開けた状態で追従させる車速まで減速させる制御を行う。すなわち、車両制御演算部22bは、先ず、加減速制御部35にアクセル開放信号を出力し、駆動源のエンジンブレーキや回生制動にて減速させる。そして、これらによる減速では、自車両Mを最後尾車両Peに対して所定車間距離を開けて追従する車速まで減速させることが困難と判定した場合は、ブレーキ制御部34にブレーキ信号を出力し強制ブレーキにより減速させる。
【0055】
このように、本実施形態では、カーブ路の出口付近や登坂路の頂上から降坂路へ遷移する付近等の運転者からは見通しが悪く、渋滞車列の最後尾車両Peが視認できない状況であって、車両制御演算部22bが、最後尾車両Peとの衝突を回避するために減速制御を自動的に開始した場合であっても、減速が開始される旨が事前に警報装置31から報知されるので、運転者を驚かせることなく、余裕を持って衝突防止のための減速動作に対応することができる。
【0056】
尚、本発明は、上述した実施形態に限るものではなく、例えば、渋滞情報受信機32は車々間通信によって渋滞情報を取得するものであっても良い。
【符号の説明】
【0057】
1…自動運転システム、
11…ロケータユニット、
12…ロケータ演算部、
12a…道路地図情報取得部、
12b…目標ルート作成演算部、
13…加速度センサ、
14…車輪速センサ、
15…ジャイロセンサ、
16…GNSS受信機、
17…目的地情報入力装置、
18…高精度道路地図データベース、
21…カメラユニット、
21a…メインカメラ、
21b…サブカメラ、
21c…画像処理ユニット、
21d…前方走行環境認識部、
22…自動運転制御部、
22a…渋滞情報取得部、
22b…車両制御演算部、
31…警報装置、
32…渋滞情報受信機、
33…操舵制御部、
34…ブレーキ制御部、
35…加減速制御部、
Le…道のり距離、
Lp…車間距離、
M…自車両、
Pa…先行車、
Pe…最後尾車両、
Re…誤差、
ta…余裕時刻、
td…渋滞前減速開始時刻、
te…到達時刻、
tw…警報開始時刻、
V…車速
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8