(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/24 20060101AFI20220118BHJP
【FI】
C08J3/24 A CEQ
C08J3/24 A CER
(21)【出願番号】P 2017235926
(22)【出願日】2017-12-08
【審査請求日】2020-09-18
(31)【優先権主張番号】P 2017064300
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100098752
【氏名又は名称】吉田 吏規夫
(72)【発明者】
【氏名】高森 義久
(72)【発明者】
【氏名】岩永 健太郎
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-026875(JP,A)
【文献】特開2003-026896(JP,A)
【文献】特開2007-070602(JP,A)
【文献】特開2016-020450(JP,A)
【文献】特開平10-212389(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0023680(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0178487(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00- 3/28;99/00
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマー及びゴム材料100重量部に対して反応開始剤を0.01~0.1重量部含み、前記熱可塑性エラストマー及び/又は
前記ゴム材料にアルコキシシリル基がグラフト化された、アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料と、熱可塑性樹脂とを、混練機中で溶融状態に混練する混練工程と、
前記混練機中に水成分を加え、前記混練機中で前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料のアルコキシシリル基と、前記水成分とを加水分解反応によりシラノール基化させ、次いで、前記シラノール基同士を縮合反応させ、シロキサン結合を形成させる動的架橋工程と、
を有し、
前記動的架橋工程により得られた熱可塑性樹脂組成物
(但し、前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及びゴム材料と、前記熱可塑性樹脂との合計100重量部に対して金属水酸化物が40~250重量部含まれているものを除く)が、海島構造を有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料(但し、イソブチレン系重合体及びイソブチレン系重合体ブロックと芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロックを含有するイソブチレン系ブロック共重合体を除く)にアルコキシシリル基がグラフト化された、アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料と、熱可塑性樹脂とを、混練機中で溶融状態に混練する混練工程と、
前記混練機中に水成分を加え、前記混練機中で前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料のアルコキシシリル基と、前記水成分とを加水分解反応によりシラノール基化させ、次いで、前記シラノール基同士を縮合反応させ、シロキサン結合を形成させる動的架橋工程と、
を有し、
前記動的架橋工程により得られた熱可塑性樹脂組成物(但し、前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及びゴム材料と、前記熱可塑性樹脂との合計100重量部に対して金属水酸化物が40~250重量部含まれているものを除く)が、海島構造を有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料にアルコキシシリル基がグラフト化された、アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料と、熱可塑性樹脂とを、混練機中で溶融状態に混練する混練工程と、
前記混練機中に水成分を加え、前記混練機中で前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料のアルコキシシリル基と、前記水成分とを加水分解反応によりシラノール基化させ、次いで、前記シラノール基同士を縮合反応させ、シロキサン結合を形成させる動的架橋工程と、
前記混練機中に前記熱可塑性樹脂を加えて該熱可塑性樹脂と、前記動的架橋工程により得られた熱可塑性樹脂組成物とを混練する熱可塑性樹脂追加混練工程と、
を有し、
前記混練工程と前記熱可塑性樹脂追加混練工程とにおける前記熱可塑性樹脂は、加水分解性を有する熱可塑性樹脂であり、
前記熱可塑性樹脂を、前記混練工程と前記熱可塑性樹脂追加混練工程とに分けて加え、
前記動的架橋工程により得られた熱可塑性樹脂組成物が、海島構造を有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、結晶性の熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料が、主鎖及び側鎖が飽和結合からなる熱可塑性エラストマーであり、
前記熱可塑性樹脂が、主鎖及び側鎖が飽和結合からなる熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記主鎖及び側鎖が飽和結合からなる熱可塑性樹脂が、オレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記オレフィン系樹脂が、ポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする請求項6に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記主鎖及び側鎖が飽和結合からなる熱可塑性エラストマーが、ポリエチレン/αオレフィン系共重合体であることを特徴とする請求項5から7の何れか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂組成物の耐候劣化後の色差値:ΔE*ab(JIS Z8781-4:2013/ISO 11664-4:2008準拠)が、0~3であることを特徴とする請求項5から8の何れか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
前記動的架橋工程において、
前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料のアルコキシシリル基が、前記シラノール基を経て、前記シロキサン結合を形成した際に、
前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料の粘度が、前記熱可塑性樹脂の粘度よりも大きくなり、
前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料が前記海島構造の島構造部へ相転移し、
前記熱可塑性樹脂が、前記海島構造の海構造部へ相転移する
ことを特徴とする請求項1から9の何れか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
前記海島構造の島構造部のゲル分率(JIS K6769/ISO-15875-2:2003準拠)が、90%以上であることを特徴とする請求項1から10の何れか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
前記海島構造の海構造部が、前記熱可塑性樹脂により構成され、再溶融可能であることを特徴とする請求項1から11の何れか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
前記熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料の100重量部に対して、着色剤の0.01重量部を配合した際の前記熱可塑性樹脂組成物の着色による色差値:ΔE*ab(JIS Z8781-4:2013/ISO 11664-4:2008準拠)が、1.5以上であることを特徴とする請求項1から12の何れか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
前記熱可塑性樹脂組成物が、建材用目地材又は建材用止水材、車両用内装材、車両用外装材、工業用ホース材として用いられることを特徴とする請求項1から13の何れか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械物性や着色性に優れ、再溶融による成形が可能な熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
押出成形や射出成形などで成形可能な熱可塑性エラストマー組成物は、ウェザーストリップ、ルーフモール、マッドガード等の自動車部品、止水材、目地材等の建築材、ホース等の工業用部材などに使用されている。
熱可塑性エラストマー組成物として、ポリプロピレン(PP)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、オイル、架橋剤等の配合で動的架橋したものがあるが、完全架橋の場合は、架橋剤としてフェノール系架橋剤が用いられ、部分架橋の場合、架橋剤として過酸化物架橋剤が用いられる(特許文献1、2)。
また、ポリエチレン(PE)、シランカップリング剤、過酸化物(反応開始剤)から作製したマスターバッチにスズなどの触媒マスターバッチを混合して成形し、その後の架橋工程において蒸気や空気中の水分等で架橋したシラノール架橋樹脂がある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-170930号公報
【文献】特公昭58-46138号公報
【文献】特開平10-245424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フェノール系架橋剤を用いて動的架橋された熱可塑性エラストマー組成物(TPV)は、完全架橋により圧縮永久歪等の機械物性には優れるものの、フェノールに起因する橙色が成形品に現れ、着色自由度が低い問題がある。一方、過酸化物架橋剤を用いて動的架橋されたTPVは、過酸化物架橋剤自体が無色透明であり着色自由度は高いものの、部分架橋のため機械物性に劣る問題がある。
また、シラノール架橋樹脂は、一旦架橋すると再溶融が不可能であり、再成形ができず、成形自由度が低い問題がある。
【0005】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであり、機械物性や着色性に優れ、再溶融による成形が可能な熱可塑性樹脂組成物の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料にアルコキシシリル基がグラフト化された、アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料と、熱可塑性樹脂とを、混練機中で溶融状態に混練する混練工程と、前記混練機中に水成分を加え、前記混練機中で前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料のアルコキシシリル基と、前記水成分とを加水分解反応によりシラノール基化させ、次いで、前記シラノール基同士を縮合反応させ、シロキサン結合を形成させる動的架橋工程と、を有し、前記動的架橋工程により得られた熱可塑性樹脂組成物が、海島構造を有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法に係る。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1の前記動的架橋工程において、前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料のアルコキシシリル基が、前記シラノール基を経て、前記シロキサン結合を形成した際に、前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料の粘度が、前記熱可塑性樹脂の粘度よりも大きくなり、前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料が前記海島構造の島構造部へ相転移し、前記熱可塑性樹脂が、前記海島構造の海構造部へ相転移することを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1または2において、前記海島構造の前記島構造部のゲル分率(JIS K6769/ISO-15875-2:2003準拠)が、90%以上であることを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1から3の何れか一項において、前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料を作製するために、前記熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料と、シランカップリング剤と、反応開始剤とを加え、前記混練機中で溶融状態に混練することにより、前記熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料に前記シランカップリング剤をグラフト化させるグラフト化工程を有し、前記グラフト化工程と、前記混練工程と、前記動的架橋工程とが、前記混練機中で、連続して行われることを特徴とする。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1から4の何れか一項において、前記海島構造の海構造部が、前記熱可塑性樹脂により構成され、再溶融可能であることを特徴とする。
【0011】
請求項6の発明は、請求項1から5の何れか一項において、前記熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料の100重量部に対して、着色剤の0.01重量部を配合した際の前記熱可塑性樹脂組成物の着色による色差値:ΔE*ab(JIS Z8781-4:2013/ISO 11664-4:2008準拠)が、1.5以上であることを特徴とする。
【0012】
請求項7の発明は、請求項1から6の何れか一項において、前記動的架橋工程後、前記混練機中に前記熱可塑性樹脂を加えて該熱可塑性樹脂と、前記動的架橋工程により得られた前記熱可塑性樹脂組成物とを混練する熱可塑性樹脂追加混練工程を行うことを特徴とする。
【0013】
請求項8の発明は、請求項1から7の何れか一項において、前記熱可塑性樹脂が、結晶性の熱可塑性樹脂であることを特徴とする。
【0014】
請求項9の発明は、請求項1から7の何れか一項において、前記熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料が、主鎖及び側鎖が飽和結合からなる熱可塑性エラストマーであり、前記熱可塑性樹脂が、主鎖及び側鎖が飽和結合からなる熱可塑性樹脂であることを特徴とする。
【0015】
請求項10の発明は、請求項9において、前記主鎖及び側鎖が飽和結合からなる熱可塑性樹脂が、オレフィン系樹脂であることを特徴とする。
【0016】
請求項11の発明は、請求項10において、前記オレフィン系樹脂が、ポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする。
【0017】
請求項12の発明は、請求項9から11の何れか一項において、前記主鎖及び側鎖が飽和結合からなる熱可塑性エラストマーが、ポリエチレン/αオレフィン系共重合体であることを特徴とする。
【0018】
請求項13の発明は、請求項9から12の何れか一項において、前記熱可塑性樹脂組成物の耐候劣化後の色差値:ΔE*ab(JIS Z8781-4:2013/ISO 11664-4:2008準拠)が、0~3であることを特徴とする。
【0019】
請求項14の発明は、請求項1から13の何れか一項において、前記熱可塑性樹脂組成物が、建材用目地材又は建材用止水材、車両用内装材、車両用外装材、工業用ホース材として用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1から14の発明によれば、シランカップリング剤を用いて動的架橋が行われるため、機械物性及び着色性が良好であり、さらに再溶融して再成形することが可能な成形自由度が高い熱可塑性樹脂組成物が得られる。
【0021】
請求項9から14の発明によれば、主鎖及び側鎖が飽和結合からなる熱可塑性エラストマーと主鎖及び側鎖が飽和結合からなる熱可塑性樹脂を原材料として使用し、シランカップリング剤を用いて動的架橋が行われるため、機械物性や着色性に優れ、再溶融して再成形が可能な成形自由度の高さに加え、耐候劣化が起こり難い熱可塑性樹脂組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】グラフト化工程、混練工程及び動的架橋工程を連続して行う混練機の概略図である。
【
図2】グラフト化工程、混練工程、動的架橋工程及び熱可塑性樹脂追加混練工程を連続して行う混練機の概略図である。
【
図3】アルコキシシリル基がシラノール基を経て、シロキサン結合へ変化する際の反応挙動である。
【
図4】実施例及び比較例の配合と物性測定結果を示す表である。
【
図5】ΔE*abをNBS単位及び色差の感覚で示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、混練工程と動的架橋工程とを有し、前記動的架橋工程後に熱可塑性樹脂追加混練工程を有することもある。
前記混練工程では、熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料にアルコキシシリル基がグラフト化された、アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料と、熱可塑性樹脂とを、混練機中で溶融状態に混練する。
【0024】
本発明で使用する熱可塑性エラストマー(TPE)は限定されず、例えば、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、水添スチレン系熱可塑性エラストマー(例えば、水添スチレンエチレンプロピレン系共重合体(SEP)、水添スチレンエチレンプロピレンスチレン系共重合体(SEPS)、水添スチレンエチレンブタジエン系共重合体(SEBS)等)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、重合型熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー(R-TPO)、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー(TPVC)、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー(TPF)などを、1種類または2種類以上併用することができる。
【0025】
前記熱可塑性エラストマーには、主鎖及び側鎖が飽和結合からなる熱可塑性エラストマーがあり、該主鎖及び側鎖が飽和結合からなる熱可塑性エラストマーは、主鎖及び側鎖に2重結合等の不飽和結合を含まない熱可塑性エラストマーである。前記主鎖及び側鎖が飽和結合からなる熱可塑性エラストマーとして、重合型熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー(R-TPO)、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー(TPVC)、フッ素系熱可塑性エラストマー(TPF)等が挙げられ、1種類又は2種類上併用することができる。特に、重合型熱可塑性ポリオレフィン系エラストマーが好ましく、具体的には、エチレン/αオレフィン系共重合体エラストマーが挙げられる。エチレン/αオレフィン系共重合体の共重合体部分は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であっても何れでもよい。
【0026】
本発明で使用するゴム材料は限定されず、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(ACM)などを、1種類又は2種類以上併用することができる。ゴム材料の中でも、主鎖に2重結合等の不飽和結合を含まないゴム材料が好ましく、エチレンプロピレン系ゴム(EPM、EPDM)、アクリルゴム(ACM)などが挙げられ、1種類または2種類以上併用することができる。
【0027】
本発明では、前記熱可塑性エラストマーと前記ゴム材料の何れか一方を単独使用、又は両方を併用する。
【0028】
また、前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー(主鎖及び側鎖が飽和結合からなる熱可塑性エラストマーを使用する場合は、アルコキシシリル基を有する飽和結合からなる熱可塑性エラストマー。以下同様。)及び/又はゴム材料を作製する場合、グラフト化工程を前記混練工程の前に行う。
前記グラフト化工程では、前記熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料と、シランカップリング剤と、反応開始剤と、適宜の添加剤とを加えて、混練機中で溶融状態に混練することにより、前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料からなる熱可塑性エラストマーを作製する。
【0029】
前記シランカップリング剤は架橋剤として用いられアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤が好ましい。アルコキシシリル基を有するシランカップリング剤としては、ビニル基を有するアルコキシシリル化合物、エポキシ基を有するアルコキシシリル化合物、アクリル基又はメタクリル基を有するアルコキシシリル化合物等が挙げられ、1種類又は2種類上併用することができる。特に、ビニル基を有するアルコキシシリル化合物は、熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料との反応性が良好であり、コストも安価であることから、より好ましい。具体的なビニル基を有するアルコキシシリル化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等が挙げられる。シランカップリング剤の配合量は、前記熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料100重量部に対して0.1~3重量部が好ましい。
【0030】
反応開始剤としては、ジアルキルパーオキサイド系、ジアシルパーオキサイド系、アルキルパーエステル系等が挙げられ、1種類又は2種類上併用することができる。特に、ジアルキルパーオキサイド系が前記熱可塑性樹脂組成物との反応性やコストの点から好ましく、具体的には、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン等が挙げられる。反応開始剤の配合量は、前記熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料100重量部に対して0.01~0.5重量部が好ましい。
【0031】
さらに、シラノール架橋促進触媒を配合するのが好ましい。シラノール架橋促進触媒としては、ジブチル錫、脂肪酸アミド等が挙げられ、1種類又は2種類上併用することができる。シラノール架橋促進触媒の配合量は、前記熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料100重量部に対して0.001~0.5重量部が好ましい。
【0032】
適宜の添加剤としては、反応停止剤、光安定剤や酸化防止剤等の合成樹脂安定剤、滑材や離型剤等の加工助剤、軟化剤、着色剤、充填材(フィラー)、導電剤、難燃剤等が挙げられ、前記熱可塑性樹脂組成物の特性に影響を与えない範囲で配合することができる。前記反応開始剤、前記シラノール架橋促進触媒及び適宜の添加剤は、前記グラフト化工程の他、前記混練工程、前記動的架橋工程、前記熱可塑性樹脂追加混練工程の各工程において、混練機中に適宜混入すればよい。
【0033】
反応停止剤(ラジカル補足剤)としては、フェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤等、ラジカル補足が可能な化合物が挙げられ、1種類又は2種類上併用することができる。ヒンダードアミン系光安定剤は、ヒンダードアミン系光安定剤自体が無色であり、ラジカルの補足性にも優れるため、より好ましい。フェノール系酸化防止剤を使用する場合、フェノール系酸化防止剤自体が着色しているグレードがあったり、着色していないグレードであっても、混練機等で加工している際に着色するグレードもあるため、混練機等で加工しても着色しないグレードを選定することが好ましい。仮に、着色しているグレードや加工時に着色するグレードを使用する場合は、前記熱可塑性樹脂組成物への着色性に影響の無い配合量とすることが好ましい。反応停止剤の配合量は、前記熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料100重量部に対して、0.01~3重量部が好ましい。
【0034】
光安定剤や酸化防止剤等の合成樹脂安定剤としては、フェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられ、1種類又は2種類上併用することができる。合成樹脂安定剤を配合することにより、前記熱可塑性樹脂組成物の安定性(耐候劣化等)をより高めることができる。合成樹脂安定剤は、前記反応停止剤と同じ化合物を使用することができる。合成樹脂安定剤の配合量は、前記熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料100重量部に対して0.01~3重量部が好ましい。
【0035】
滑材や離型剤等の加工助剤としては、エルカ酸アミドやステアリン酸カルシウム等の金属石鹸が挙げられ、1種類又は2種類上併用することができる。加工助剤を配合することにより、押出機等の混練機の出口において、前記熱可塑性樹脂組成物の吐出を安定化させ、メルトフラクチャーを防止することができる。加工助剤の配合量は、前記熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料100重量部に対して、0.01~1重量部が好ましい。
【0036】
軟化剤としては、パラフィン系オイル、オレフィン系オイル、ナフテン系オイル、芳香族系オイル等が挙げられ、1種類又は2種類上併用することができる。ナフテン系オイルや芳香族系オイルは、オイル自体が淡黄色等に着色しているため、無色であるパラフィン系オイルやオレフィン系オイルを使用することがより好ましい。軟化剤の配合量は、目的とする硬さに応じて、適宜調整可能であり、前記熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料100重量部に対して0~150重量部が好ましい。
【0037】
着色剤としては、種々な色の顔料等の色材が挙げられ、1種類又は2種類上併用して調色することができる。着色剤は、混練機に直接配合してもよいが、分散性や均一性に優れ、飛散や混練機を汚す心配の無いマスターバッチを使用することが好ましい。着色剤の配合量は、目的とする色目にもよるが、前記熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料100重量部に対して0.001~3重量部が好ましい。
【0038】
前記混練工程で混入される熱可塑性樹脂(TP)としては、結晶性あるいは非晶性の何れでもよく、また両者を併用してもよい。結晶性の熱可塑性樹脂としては、オレフィン系樹脂(PO)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリアミド系樹脂(PA)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等)等が挙げられ、非晶性の熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン系樹脂(PS)、ポリカーボネート系樹脂(PC)、ポリ塩化ビニル系樹脂(PVC)等が挙げられ、1種類又は2種類上併用することができる。熱可塑性樹脂の配合量は、前記熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料100重量部に対して30~300重量部が好ましく、50~200重量部がより好ましい。
【0039】
前記熱可塑性樹脂には、主鎖及び側鎖が飽和結合からなる熱可塑性樹脂があり、該主鎖及び側鎖が飽和結合からなる熱可塑性樹脂は、主鎖及び側鎖に2重結合等の不飽和結合を含まない熱可塑性樹脂である。前記主鎖及び側鎖が飽和結合からなる結晶性の熱可塑性樹脂として、オレフィン系樹脂、ポリアセタール樹脂等が挙げられ、前記主鎖及び側鎖が飽和結合からなる非晶性の熱可塑性樹脂として、ポリ塩化ビニル系樹脂が挙げられる。
【0040】
混練工程で混入される熱可塑性樹脂としては、結晶性の熱可塑性樹脂が好ましい。これは、混練工程において、アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料と熱可塑性樹脂とが溶融状態にあり、次工程の動的架橋工程では、熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料のアルコキシシリル基がシロキサン結合を形成する際に、明確な融点(Tm)を持つ結晶性の熱可塑性樹脂の方が、明確な融点を持たない非晶性の熱可塑性樹脂に比べ、粘度差が生じ、相転移が起こり易くなるためである。
【0041】
混練工程で混入される熱可塑性樹脂は、次工程の動的架橋工程において水成分と共に混練されるため、加水分解性のある熱可塑性樹脂(PA、PBT等)を使用する場合、加水分解による影響を考慮することが好ましい。これは、加水分解反応により、熱可塑性樹脂の分子量が小さくなるため、流動性がよくなったり、低剛性や座屈性等の機械物性を有する熱可塑性樹脂組成物を得ることもできる。
【0042】
混練工程で混入される熱可塑性樹脂として、主鎖及び側鎖が飽和結合からなる結晶性の熱可塑性樹脂を使用した場合、動的架橋工程において、熱可塑性樹脂の加水分解が起こらず、更に、主鎖及び側鎖に2重結合等の不飽和結合を含まないため、耐候劣化の起こり難い熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。主鎖及び側鎖が飽和結合からなる結晶性の熱可塑性樹脂としては、オレフィン系樹脂、ポリアセタール樹脂等が挙げられ、1種類又は2種類上併用することができる。前記オレフィン系樹脂(PO)としては、ポリエチレン系樹脂(PE)、ポリプロピレン系樹脂(PP)、ポリブテン系樹脂(PB)等が挙げられ。前記オレフィン系樹脂の中でも、前記熱可塑性樹脂組成物の耐熱性や成形性等の点から、特に、ポリプロピレン系樹脂が好ましく、単独重合(ホモPP)であっても、共重合体(ランダムPP、ブロックPP)であっても、何れでもよい。
【0043】
なお、前記熱可塑性樹脂として、加水分解性のある熱可塑性樹脂を使用し、高い機械物性の熱可塑性樹脂組成物を得たい場合、熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料100重量部に対する前記熱可塑性樹脂の混入量を、前記混練工程と、後の工程で行う熱可塑性樹脂追加混練工程とで分けて混入するのが好ましい。熱可塑性樹脂追加混練工程では、動的架橋工程において混入した水成分は、加水分解反応により消費されたり、ベント等を通じで混練機外へ放出されており、混練機中には存在していない。そのため、追加した加水分解性のある熱可塑性樹脂の加水分解は起こらず、高い機械物性を有する熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【0044】
前記混練工程では、前記混練機中で前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料と前記熱可塑性樹脂と、適宜の添加剤とを加えて溶融状態で混練する。
【0045】
前記動的架橋工程では、水成分を加えて混練する。混練機への水成分の混入は、直接液体のまま配合してもよく、充填材(フィラー)や吸水性ポリマー等との混合により水成分を含有する混合物を作製し、作製した混合物を配合してもよい。また、結晶水を含む化合物(有機化合物、無機化合物、有機化合物及び無機化合物の混合物等)や水酸化物等、加熱等により化合物中から水成分を放出する化合物等を配合してもよい。これらは、1種類又は2種類上併用することができる。なお、加熱された混練機に水成分を混入すると水成分が蒸発するので、アルコキシシリル基がシラノール基に変化する理論配合量に対して、1~10倍程度配合することが好ましい。水成分の配合量は、前記熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料100重量部に対して0.1~10重量部が好ましい。
【0046】
前記動的架橋工程において、それまで海島構造の海構造部を形成していた前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料のアルコキシシリル基が水成分と接触することにより加水分解反応が起こり、アルコキシシリル基がシラノール基に変化する。次いで、シラノール基同士が縮合反応(脱水縮合反応)することによりシロキサン結合が形成される。アルコキシシリル基を加水分解反応により、シラノール基化させ、さらにシラノール基を縮合反応させ、シロキサン結合を形成することにより、前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料の粘度が前記熱可塑性樹脂の粘度よりも高くなり、島構造部へ相転移が起こる。一方、それまで海島構造の島構造部を形成していた前記熱可塑性樹脂は、海構造部へ相転移が起こる。前記動的架橋工程において、前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料が海構造部から島構造部へ相転移し、前記熱可塑性樹脂が島構造部から海構造部へ相転移することにより、前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料と前記熱可塑性樹脂とが、相反転することによりで、前記熱可塑性樹脂組成物を得る。
図3には、前記アルコキシシリル基を有する飽和結合からなる熱可塑性エラストマーの場合について、アルコシキシリル基がシラノール基を経てシロキサン結合を形成するまでの反応挙動を示す。
【0047】
熱可塑性樹脂追加混練工程は、熱可塑性樹脂として、加水分解性のある熱可塑性樹脂(PA、PBT等)を使用する際に行うことが好ましい。動的架橋工程において、混入された水成分により、混練工程で混入された加水分解性のある熱可塑性樹脂の一部に、水成分との加水分解反応による分子量の低下等が起こるが、熱可塑性樹脂追加混練工程において、加水分解性のある熱可塑性樹脂を追加すれば、加水分解反応による影響を減らすことが可能となる。熱可塑性樹脂追加混練工程において、加水分解性のある熱可塑性樹脂を追加しても、前工程の動的架橋工程で熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料は既に動的架橋構により海島構造の島構造部を形成しており、島構造部への影響は起こらない。
特に、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂(PET、PBT等)は、加水分解性はあるもののオレフィン系樹脂等に比べ、機械物性に優れ、融点が高い特性を有しており、機械物性や耐熱性に優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【0048】
前記熱可塑性樹脂追加混練工程では、前記動的架橋工程後の前記熱可塑性樹脂組成物に熱可塑性樹脂を加えて混練する。前記熱可塑性樹脂追加混練工程で加える熱可塑性樹脂は、前記混練工程で混入した熱可塑性樹脂と同一種類に限られず、異なる種類の熱可塑性樹脂であってもよい。前記熱可塑性樹脂追加混練工程で混入する熱可塑性樹脂の比率は、目的とする熱可塑性樹脂組成物の特性により適宜決定されるが、前記熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料100重量部に対する前記熱可塑性樹脂の混入量(全混入量)に対して、15~80%であることが好ましく、40~80%であることがより好ましく、50~80%であることが特に好ましいい。
【0049】
前記熱可塑性樹脂組成物はペレット化とされ、押出成形や射出成形等の公知の樹脂成形により、自動車部品、止水材、建築材、工業用部材等にされる。
【0050】
図1に示す混練機10は、前記グラフト化工程と、前記混練工程と、前記動的架橋工程とを1台の混練機中で連続して行うことができ、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法に好適な混練機である。混練機としては、単軸押出機、2軸押出機、ニーダー等を用いることができる。特に、反応押出性やセルフクリーニング性の点から2軸押出機が好ましく、本実施形態では、2軸押出機を例に挙げて説明を行う。
【0051】
前記混練機10は上流側から下流側へ向かって、前記グラフト化工程を行う第1ゾーンと、前記混練工程を行う第2ゾーンと、前記動的架橋工程を行う第3ゾーンとが設けられており、シリンダー内部に設けられたスクリューがモータMにより回転し、混練物を順次下流側(第1ゾーン→第2ゾーン→第3ゾーン)へ送る構造になっている。
前記シリンダーにおいて前記グラフト化工程を行う第1ゾーンには第1供給口11、前記混練工程を行う第2ゾーンには第2供給口12、前記動的架橋工程を行う第3ゾーンには第3供給口13が設けられている。
【0052】
前記混練機10を用いて行う熱可塑性樹脂組成物の製造について説明する。前記第1供給口11から、前記熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料と、前記シランカップリング剤と、前記反応開始剤と、適宜配合される前記シラノール架橋促進触媒及び適宜の添加剤をシリンダー内に供給し、前記グラフト化工程を行う第1ゾーンで溶融混練する。第1ゾーンにおける混練りによって、前記熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料にアルコキシシリル基をグラフト化させ、前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料を作製し、次の第2ゾーンへ送る。
【0053】
前記混練工程を行う第2ゾーンでは、前記第2供給口12から、前記熱可塑性樹脂及び適宜の添加剤をシリンダー内に供給して溶融混練し、混練物を次の第3ゾーンへ送る
【0054】
前記動的架橋工程を行う第3ゾーンでは、前記第3供給口13から、水成分をシリンダー内に供給して溶融混練する。第3ゾーンの混練では、前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料のアルコキシシリル基と水成分とを加水分解反応により、シラノール基化させ、次いで、シラノール基同士を脱水縮合反応させ、シロキサン結合を形成させる。前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料のアルコキシシリル基がシロキサン結合に変化することにより、前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料の粘度が、前記熱可塑性樹脂の粘度よりも高くなり、それまで海島構造の海構造部を形成していた前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料が、前記島構造部へ、それまで海島構造の島構造部を形成していた前記熱可塑性樹脂は、前記海構造部へ、それぞれ相転移し、前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料と前記熱可塑性樹脂とが、相反転することにより、前記熱可塑性樹脂組成物が得られる。前記混練機10から押し出された熱可塑性樹脂組成物はその後にペレタイザーによってペレット化され、押出成形、射出成形等の樹脂成形に使用される。
【0055】
図2に示す混練機10Aは、
図1の前記混練機10における前記動的架橋工程を行う第3ゾーンの次に、前記熱可塑性樹脂追加混練工程を行う第4ゾーンを設け、前記グラフト化工程と、前記混練工程と、前記動的架橋工程及び前記熱可塑性樹脂追加混練工程を1台の混練機中で連続して行うことができるようにした混練機であり、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法に好適な混練機である。なお、
図1の前記混練機10と同様の構成部分については、
図1の前記混練機10と同一の符号を付した。
図2に示す前記混練機10Aは、シリンダー内部に設けられたスクリューがモータMにより回転し、混練物を順次下流側(第1ゾーン→第2ゾーン→第3ゾーン→第4ゾーン)へ送る構造になっている。前記熱可塑性樹脂追加混練工程を行う第4ゾーンには第4供給口14が設けられ、前記第4供給口から熱可塑性樹脂を第4ゾーンに供給して混練する。前記第4ゾーンで混練された熱可塑性樹脂組成物は、その後にペレタイザーによってペレット化され、押出成形、射出成形等の樹脂成形に使用される。
【0056】
なお、前記グラフト化工程を事前に行い、得られた前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料を保管しておき、後日、保管しておいた前記アルコキシシリル基を有する熱可塑性エラストマー及び/又はゴム材料を用いて、前記混練工程及び前記動的架橋工程を経て、あるいはさらに前記熱可塑性樹脂追加混練工程を経て前記海島構造を有する熱可塑性樹脂組成物を作製してもよい。
【実施例】
【0057】
・実施例1
以下の原材料を用い、
図4の配合からなる実施例1~16及び比較例1~6の組成物を混練機で製造した。
図4の配合における各成分の数字は重量部である。また、比較例1及び2については、品名:サントプレン 201-64:エクソンモービル社製、比較例3については、品名:ミラストマー 7030N:三井化学社製を使用した。使用した混練機は、2軸押出機(L/D=72)であり、実施例1~13、16及び比較例1~6については、第1ゾーン~第3ゾーンを有する前記混練機10を使用し、実施例14~15については、第1ゾーン~第4ゾーンを有する前記混練機10Aを使用した。
【0058】
前記混練機10を使用する場合の製造条件は、実施例1~12、16及び比較例1~6については、第1ゾーンの温度:230℃、第2および第3ゾーンの温度:200℃であり、実施例13については、第1ゾーンの温度:230℃、第2および第3ゾーンの温度:230℃であり、スクリュー回転数:400rpm、出口での吐出量:30Kg/hrにて行った。
また、前記混練機10Aを使用する場合の製造条件は、実施例14については、第1ゾーンの温度:230℃、第2および第3ゾーンの温度:270℃、第4ゾーンの温度270℃であり、実施例15については、第1ゾーンの温度:230℃、第2および第3ゾーンの温度:250℃、第4ゾーンの温度250℃であり、スクリュー回転数:400rpm、出口での吐出量:30Kg/hrにて行った。
なお、第1ゾーンの温度は、使用する原材料(熱可塑性エラストマー、ゴム材料等)の融点、使用する反応開始剤の分解温度により適宜設定されるため、温度範囲の目安として200~250℃であることが好ましい。第2および第3ゾーン、第4ゾーンの温度は、使用する原料(熱可塑性樹脂等)の融点よりも10~30℃高く設定することが好ましく、温度範囲の目安として、TP-1、TP-5の場合、180~230℃であり、TP-2の場合、200~260℃であり、TP-3の場合、240~300℃であり、TP-4の場合、220~280℃である。
【0059】
・TPE-1(オレフィン系):エチレン/1-オクテン共重合体、ダウ・ケミカル社製、品名:ENGAGE 8842
・TPE-2(スチレン系):水添スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)、クレイトンポリマージャパン社製、品名:G1651
・TPE-3(ポリエステル系):ポリエステル系熱可塑性エラストマー、東洋紡社製、品名:P-40B
・ゴム-1:エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ダウ・ケミカル日本社製、品名:NORDEL IP 4760P
・ゴム-2:アクリルゴム、ユニマテック社製、品名:A5098
・架橋剤(シランカップリング剤):ビニルトリメトキシシラン、信越化学社製、品名:KBM-1003
・反応開始剤:脂肪族系有機過酸化物、日本油脂社製、品名:パーヘキサ25B
・反応停止剤-1:フェノール系酸化防止剤、BASF社製、品名:IRGANOX 1010
・反応停止剤-2:ヒンダードアミン系光安定剤、BASF社製、品名:TINUVIN XT 855 FF
・シラノール架橋促進触媒:オクチル錫化合物、ADEKA社製、品名:アデカスタブ OT-1
・光安定剤:ヒンダードアミン系光安定剤、BASF社製、品名:TINUVIN XT 855 FF
・軟化剤:パラフィン系プロセスオイル、出光興産社製、品名:ダイアナプロセスオイル PW-90
・TP-1:ポリプロピレン系樹脂(ブロックタイプ)、日本ポリプロ社製、品名:ノバテックEC7
・TP-2:ポリアセタール樹脂、ポリプラスチックス社製、品名:ジュラコン M25-44
・TP-3:ポリブチレンテレフタレート系樹脂、東レ社製、品名:トレコン 1401X06
・TP-4:ポリアミド系樹脂、東レ社製、品名:アミランCM1017
・TP-5:ポリスチレン系樹脂、CHI MEI CORPORATION社製、品名:ポリレックスPH-88S
・着色剤:カラーマスターバッチ、東京インキ社製、品名:PEX3162 BLUE
【0060】
実施例1~7は、前記グラフト化工程、前記混練工程及び前記動的架橋工程を連続して行い、前記熱可塑性樹脂追加混練工程については行わない例であり、TPE-1(オレフィン系)とTP-1(ポリプロピレン系樹脂)を使用し、配合成分の配合量等を変化させた例である。なお、実施例1は着色剤を配合しない例、実施例2~7は着色剤を配合した例である。さらに実施例6は光安定剤を配合した例、実施例7は軟化剤を配合した例である。
【0061】
実施例8は、前記グラフト化工程、前記混練工程及び前記動的架橋工程を連続して行い、前記熱可塑性樹脂追加混練工程については行わない例であり、TPE-2(スチレン系)とTP-1(ポリプロピレン系樹脂)を使用し、着色剤を配合した例である。
実施例9は、前記グラフト化工程、前記混練工程及び前記動的架橋工程を連続して行い、前記熱可塑性樹脂追加混練工程については行わない例であり、TPE-3(ポリエステル系)とTP-1(ポリプロピレン系樹脂)を使用し、着色剤を配合した例である。
実施例10は、前記グラフト化工程、前記混練工程及び前記動的架橋工程を連続して行い、前記熱可塑性樹脂追加混練工程については行わない例であり、ゴム-1(エチレンプロピレンジエンゴム)とTP-1(ポリプロピレン系樹脂)を使用し、着色剤を配合した例である。
実施例11は、前記グラフト化工程、前記混練工程及び前記動的架橋工程を連続して行い、前記熱可塑性樹脂追加混練工程については行わない例であり、ゴム-2(アクリルゴム)とTP-1(ポリプロピレン系樹脂)を使用し、着色剤を配合した例である。
【0062】
実施例12は、前記グラフト化工程、前記混練工程及び前記動的架橋工程を連続して行い、前記熱可塑性樹脂追加混練工程については行わない例であり、TPE-1(オレフィン系)とゴム-1(エチレンプロピレンジエンゴム)を併用し、熱可塑性樹脂としてTP-1(ポリプロピレン系樹脂)を使用し、着色剤を配合した例である。
実施例13は、前記グラフト化工程、前記混練工程及び前記動的架橋工程を連続して行い、前記熱可塑性樹脂追加混練工程については行わない例であり、TPE-1(オレフィン系)とTP-2(ポリアセタール樹脂)を使用し、着色剤を配合した例である。
【0063】
実施例14は、前記グラフト化工程、前記混練工程、前記動的架橋工程及び前記熱可塑性樹脂追加混練工程を連続して行った例であり、TPE-1(オレフィン系)とTP-3(ポリブチレンテレフタレート樹脂)を使用し、着色剤を配合した例である。TP-3(ポリブチレンテレフタレート樹脂)は、前記第2ゾーンの混練工程で20重量部混入し、残りの50重量部を前記第4ゾーンの熱可塑性樹脂追加混練工程で混入した。
実施例15は、前記グラフト化工程、前記混練工程、前記動的架橋工程及び前記熱可塑性樹脂追加混練工程を連続して行った例であり、TPE-1(オレフィン系)とTP-4(ポリアミド系樹脂)を使用し、着色剤を配合した例である。TP-4(ポリアミド系樹脂)は、前記第2ゾーンの混練工程で20重量部混入し、残りの50重量部を前記第4ゾーンの熱可塑性樹脂追加混練工程で混入した。
【0064】
実施例16は、前記グラフト化工程、前記混練工程及び前記動的架橋工程を連続して行い、前記熱可塑性樹脂追加混練工程については行わない例であり、TPE-1(オレフィン系)とTP-5(ポリスチレン系樹脂)を使用し、着色剤を配合した例である。
【0065】
比較例1はフェノール架橋(完全架橋)の例、比較例2は比較例1に着色剤を配合した例、比較例3は過酸化物架橋(部分架橋)の例である。比較例4は実施例1の配合において架橋剤(シランカップリング剤)を含まない例である。比較例5は実施例1の配合において反応開始剤を含まない例である。比較例6は実施例1の配合において水成分を含まない例である。
【0066】
各実施例及び各比較例について、相反転、海島構造、島構造部のゲル分率の最大値、島構造部のゲル分率の測定値、島構造部のゲル分率(%)、耐候劣化による色差値(ΔE*ab)、着色による色差値(ΔE*ab)、圧縮永久歪(%)、再溶融性について調べた。結果は
図4に示す。なお、耐候劣化による色差値(ΔE*ab)については、実施例1~7及び比較例1~6に対して測定した。
【0067】
相反転の有無と海島構造の有無は、ウルトラミクロトーム(FC6:ライカ社製)で薄膜を作製し、透過型電子顕微鏡(H-7650:日立ハイテクノロジーズ社製)により観察し、確認した。
島構造部のゲル分率の最大値は、TPEの配合量(100重量部)である。
島構造部のゲル分率の測定値は、JIS K6769:2004に準拠した。JIS K6769:2004は、ISO 15875-2:2003に対応する規格である。
【0068】
島構造部のゲル分率(%)は、[(島構造部のゲル分率の測定値/島構造部のゲル分率の最大値)×100]により算出した。
耐候劣化による色差値(ΔE*ab)は、JIS Z8781-4:2013に準拠し、色差計(SMカラーコンピューター SM-T:スガ試験機社製)により測定した。JIS Z8781-4:2013は、ISO 11664-4:2008に対応する規格である。耐候劣化による色差値(ΔE*ab)は、耐候劣化前後の熱可塑性樹脂組成物の色差である。なお、耐候劣化試験は、JIS K7350-2:2008 B法に準拠し、耐光試験機(SC-700FP:スガ試験機社製)により、キセノンランプを放射照度:150W/m2(波長域300~400nm)で照射し、累積照射量:300MJ/m2、ブラックパネル温度:63±3℃の条件で行った。JIS K7350-2:2008は、ISO 4892-2:2006に対応する規格である。
【0069】
着色による色差値は、着色剤の配合の有無による着色性(発色性)について、上記の耐候劣化による色差値と同様にJIS Z8781-4:2013に準拠し、測定した。着色による色差値(ΔE*ab)は、着色剤の配合に伴う熱可塑性樹脂組成物の色差値である。なお、実施例2~16及び比較例3~6の着色による色差値は、実施例1(着色剤未配合)に対して、また比較例2の着色による色差値は、比較例1(着色剤未配合)に対して、それぞれ測定を行った。ΔE*abの数値が大きい程、着色性が良好であることを示している。
【0070】
色差値:ΔE*abは、CIE1976L*a*b*色空間における座標間のユークリッド距離として定義され、下式により計算される2つの色刺激間の色差を示している。
ΔE*ab=[(ΔL*)
2+(Δa*)
2+(Δb*)
2)]
1/2
また、色差値:ΔE*abは、
図5に示す通り、米国標準局の定めるNBS単位及び色差の感覚(感覚的な色差の程度の評価)で表すことができる。
図5のNBS単位の欄の数値は、上記の式で算出されるΔE*abの値である。
【0071】
圧縮永久歪は、JIS K6262:2013 A法(70℃×22h、25%圧縮)に準拠した。JIS K6262:2013は、ISO 815-1:2008及びISO 815-2:2008に対応する規格である。
再溶融性は、各実施例及び各比較例を、180℃で3分間熱プレスし、溶融有無を確認した。溶融した場合を「〇」、溶融しなかった場合を「×」とした。
【0072】
実施例1~16は、相反転「有」、海島構造「有」であって、島構造部のゲル分率が92~99%である。また、実施例1~16は、圧縮永久歪が29~40%と小さなものであり、かつ再溶融性が「○」である。なお、自動車部品、止水材、建築材、工業用部材等に使用する場合、圧縮永久歪は50%以下が好ましく、40%以下がより好ましい。実施例1~16は、島構造部分のゲル分率が92~99%であり、シランカップリング剤を用いて完全に架橋しているため、圧縮永久歪が29~40%と低く、自動車部品、止水材、建築材、工業用部材等として好適に使用することができる。
【0073】
着色性について実施例1と実施例2を比べると、TPE-1の100重量部に対して、着色剤の0.01重量部を配合した際の着色による色差値(Δ*abE)が5であって、NBS単位は3.0~6.0の間に位置し、色差の感覚は目立って感じられるレベルであり、着色性に優れるものであった。また、実施例3~16についても、実施例1と比べると、着色による色差値が4~6であって、実施例2と同様に着色性に優れるものであった。
また、
図4には示していないが、実施例1と実施例7(軟化剤配合例)について硬さを測定した。実施例1と実施例7を比べると、実施例1の硬さは、D60(タイプDデュロメータにより測定)であり、実施例7の硬さは、A65(タイプAデュロメータにより測定)であり、着色による色差値や圧縮永久歪等の特性を維持したまま熱可塑性樹脂組成物の硬度を下げることができる。硬さの測定はJIS K6253-3:2012に準拠した。JIS K6253-3:2012は、ISO 7619-1:2010に対応する規格である。
【0074】
主鎖及び側鎖が飽和結合からなる熱可塑性エラストマーを用いた実施例1~7は、耐候劣化による色差値(ΔE*ab)が2.1~2.8であって耐候劣化による色差値の小さなものである。
【0075】
比較例1は、側鎖に2重結合を有する熱可塑性エラストマー(EPDM)をフェノール架橋した例であり、相反転「有」、海島構造「有」であって、島構造部のゲル分率が100%であり、圧縮永久歪が33%と小さなものであり、再溶融性は「〇」あった。
比較例1は、EPDMを使用しているため耐候劣化による色差値(ΔE*ab)が13.2であって耐候劣化による色差値の大きなものである。
【0076】
比較例2は、比較例1に着色剤を配合した例であり、相反転「有」、海島構造「有」であって、島構造部のゲル分率が100%であり、圧縮永久歪が35%と小さなものであり、再溶融性は「〇」であった。比較例1と比較例2を比べると、サントプレン 201-64の100重量部に対して、着色剤の0.01重量部を配合した際の着色による色差値(ΔE*ab)が0.8であって、NBS単位は0.5~1.5の間に位置し、色差の感覚はわずかに感じられるレベルであり、実施例2の着色による色差値(ΔE*ab)5に比べ、劣るものであった。これはフェノール架橋に用いたフェノール自体が色調を有しており、着色剤を配合しても着色性が低いことを示している。着色剤の配合量を多くすればフェノール架橋熱可塑性樹脂組成物の着色による色差値(ΔE*ab)を大きくできるが、淡色に着色することは難しくなる。特に、CIE1976L*a*b*色空間において、フェノール系架橋剤自体の持つ色調と対極にある色をフェノール架橋熱可塑性樹脂組成物に淡色で着色することは非常に難しい。このことから本発明の熱可塑性樹脂組成物は、フェノール架橋熱可塑性樹脂組成物では着色することが難しい淡色に着色することが可能であり、着色の自由度に優れることを示している。
比較例2は、EPDMを使用しているため耐候劣化による色差値(ΔE*ab)が14.2であって耐候劣化による色差値の大きなものである。
【0077】
比較例3は、側鎖に2重結合を有する熱可塑性エラストマー(EPDM)を過酸化物架橋した例であり、相反転「有」、海島構造「有」であって、島構造部のゲル分率が60%であり、圧縮永久歪が52%と大きなものであり、再溶融性は「〇」であった。比較例3は、着色による色差値(ΔE*ab)が6であり、着色性に優れているが、熱可塑性樹脂組成物の島構造部が過酸化物架橋剤により架橋(部分架橋)されたため、島構造部のゲル分率が低く、圧縮永久歪が大きかった。
比較例3は、EPDMを使用しているため耐候劣化による色差値(ΔE*ab)が12.5であって耐候劣化による色差値の大きなものである。
【0078】
比較例4は、架橋剤(シランカップリング剤)を配合しない例であり、相反転「無」、海島構造「無」であって、圧縮永久歪が88%と大きなものであり、再溶融性は「〇」であったが、架橋が起こっていないため、島構造部のゲル分率は測定できなかった。較例4は、着色による色差値(ΔE*ab)が5であって着色性に優れているが、島構造部が架橋しておらず、圧縮永久歪が大きいため、自動車部品、止水材、建築材、工業用部材等には適さないものである。比較例4の再溶融性が「○」であったのは、得られた熱可塑性樹脂組成物がTPE-1やPO-1等の混合物であり、熱可塑性を有しているためである。
比較例4は、飽和結合からなる原材料を使用しているため耐候劣化による色差値(ΔE*ab)は2.7であって耐候劣化による色差値の小さなものである。
【0079】
比較例5は、反応開始剤を配合しない例であり、相反転「無」、海島構造「無」であって、圧縮永久歪が90%と大きなものであり、再溶融性は「〇」であったが、架橋が起こっていないため、島構造部のゲル分率は測定できなかった。比較例5は、着色による色差値(ΔE*ab)が4であって着色性に優れているが、島構造部が架橋しておらず、圧縮永久歪が大きいため、自動車部品、止水材、建築材、工業用部材等には適さないものである。比較例5の再溶融性が「○」であったのは、得られた熱可塑性樹脂組成物がTPE-1やPO-1等の混合物であり、熱可塑性を有しているためである。
比較例5は、飽和結合からなる原材料を使用しているため耐候劣化による色差値(ΔE*ab)は2.4であって耐候劣化による色差値の小さなものである。
【0080】
比較例6は、水成分を配合しない例であり、相反転「無」、海島構造「無」であって、圧縮永久歪が12%と小さいものであったが、再溶融性は「×」であった。比較例6は、着色による色差値(ΔE*ab)が5であって着色性に優れているが、再溶融しないため、再成形ができず、成形自由度が低いものである。比較例6の圧縮永久歪が小さかったのは、得られた熱可塑性樹脂組成物が海島構造を形成せずに、全体架橋を起こしていたためであり、島構造を有する熱可塑性樹脂組成物では無いため、再溶融による再成形が行えなかった。
比較例6は、飽和結合からなる原材料を使用しているため耐候劣化による色差値(ΔE*ab)は2.5であって耐候劣化による色差値の小さなものである。
【0081】
このように、本発明により得られる熱可塑性樹脂組成物は、着色性及び機械的物性に優れ、かつ再溶融による再成形が可能であり、自動車部品、止水材、建築材、工業用部材に好適である。さらに、主鎖及び側鎖が飽和結合からなる熱可塑性エラストマーを使用することにより、耐候劣化を生じ難くできる。
【0082】
本発明は、自動車部品、止水材、建築材、工業用部材等、耐候性が要求される用途において、機械物性や着色性に優れ、再溶融による成形が可能であることに加え、耐候劣化が起こり難い熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的としており、その目的を解決するための技術的手段として、以下の特徴を有していると言える。
<特徴>
主鎖及び側鎖が飽和結合からなる熱可塑性エラストマーにアルコキシシリル基がグラフト化された、アルコキシシリル基を有する飽和結合からなる熱可塑性エラストマーと、主鎖及び側鎖が飽和結合からなる熱可塑性樹脂とを、混練機中で溶融状態に混練する混練工程と、
前記混練機中に水成分を加え、前記混練機中で前記アルコキシシリル基を有する飽和結合からなる熱可塑性エラストマーのアルコキシシリル基と、前記水成分とを加水分解反応によりシラノール基化させ、次いで、前記シラノール基同士を縮合反応させ、シロキサン結合を形成させる動的架橋工程と、
を有し、
前記動的架橋工程により得られた熱可塑性樹脂組成物が、海島構造を有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。