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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】ケースおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/06 20060101AFI20220203BHJP
   C22F 1/05 20060101ALI20220203BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20220203BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
C22C21/06
C22F1/05
C22C21/02
C22F1/00 602
C22F1/00 612
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 650F
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017237337
(22)【出願日】2017-12-12
(65)【公開番号】P2019104958
(43)【公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(74)【代理人】
【識別番号】100194467
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 健文
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正広
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-530259(JP,A)
【文献】特開2003-321755(JP,A)
【文献】特開2016-079475(JP,A)
【文献】特開平10-005906(JP,A)
【文献】特開平02-299738(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00-21/18
C22F 1/00- 1/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金からなり、底壁と側壁が一体に成形された有底ケースであり、
前記アルミニウム合金は、Si:0.2%~0.6%、Fe:0.1%~0.35%、Mg:0.45%~0.9%を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、熱伝導率が180W/(m・K)以上であり、HV硬さが55以上であることを特徴とするケース。
【請求項2】
前記アルミニウム合金が、さらに、Cu:0.01%~0.1%、Mn:0.01%~0.1%、Cr:0.01%~0.1%のうちの少なくとも1種を含む請求項1に記載のケース。
【請求項3】
前記アルミニウム合金が、さらに、Ti:0.002%~0.1%、B:0.001%~0.05%のうちの少なくとも1種を含む請求項1または2に記載のケース。
【請求項4】
Si:0.2%~0.6%、Fe:0.1%~0.35%、Mg:0.45%~0.9%を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金に、熱間圧延、熱間押出、溶体化処理のいずれかによる熱処理後に焼き入れし、170℃~200℃で人工時効処理を施して成形用の素材を作製し、120℃~200℃に加熱した前記素材にインパクト成形を施して底壁と側壁が一体化し、熱伝導率が180W/(m・K)以上であり、HV硬さが55以上の有底ケースを成形することを特徴とするケースの製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のうちのいずれかに記載のケースが用いられた車載電池であり、車体の構造体の一部を構成することを特徴とする車載電池。
【請求項6】
請求項に記載の車載電池が車体の構造体の一部として用いられていることを特徴とする車体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーター、二次電池、キャパシタなどの発熱を伴う装置のケース、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モーター装置は、円筒状のケース内部に磁石と誘電コイルを巻いた鉄心などを収めた構造となっており、誘電コイルに電気を流す際に誘電コイルの電気抵抗により発熱する。磁石が高熱にさらされると磁力の低下を招くため、ケースを通じて放熱することが求められる。また、ケースの材料は磁力を封じ込めるために非磁性材料が好ましく、アルミニウム製ケースが用いられてきた。充放電を繰り返す二次電池やキャパシタのケースも充放電時に発生する熱を放熱するため、モーター装置と同じくアルミニウム製ケースが用いられている。
【0003】
ケース材料のアルミニウムとしては、熱伝導率が高く放熱性の優れた純アルミニウムが用いられる他、高強度が求められるケースでは、A3003合金などのAl-Mn系合金やAl-Mn-Cu系合金が用いられている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-125886号公報
【文献】特開2014-185377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、Al-Mn系合金やAl-Mn-Cu系合金は純アルミニウムよりも熱伝導率が低く放熱性が劣るという問題点がある。また、有底のケースを円盤形の素材にインパクト成形や絞り成形を施して作製する場合には、放熱性および強度に加えて、成形性が良好であることが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した背景技術に鑑み、良い放熱性、強度、成形性に優れたアルミニウム合金製のケースとその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
即ち、本発明は下記[1]~[8]に記載の構成を有する。
【0008】
[1]アルミニウム合金からなり、底壁と側壁が一体に成形された有底ケースであり、
前記アルミニウム合金は、Si:0.2%~0.6%、Fe:0.1%~0.35%、Mg:0.45%~0.9%を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、熱伝導率が180W/(m・K)以上であり、HV硬さが55以上であることを特徴とするケース。
【0009】
[2]前記アルミニウム合金が、さらに、Cu:0.01%~0.1%、Mn:0.01%~0.1%、Cr:0.01%~0.1%のうちの少なくとも1種を含む前項1に記載のケース。
【0010】
[3]前記アルミニウム合金が、さらに、Ti:0.002%~0.1%、B:0.001%~0.05%のうちの少なくとも1種を含む前項1または2に記載のケース。
【0011】
[4]Si:0.2%~0.6%、Fe:0.1%~0.35%、Mg:0.45%~0.9%を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金に、熱処理後に焼き入れして成形用の素材を作製し、120℃~200℃に加熱した前記素材にインパクト成形を施して底壁と側壁が一体化した有底ケースを成形することを特徴とするケースの製造方法。
【0012】
[5]前記熱処理は、熱間圧延、熱間押出、溶体化処理のいずれかである前項4に記載のケースの製造方法。
【0013】
[6]焼き入れ後の素材に人工時効処理を施す前項4または5に記載のケースの製造方法。
【0014】
[7]前項1~3のうちのいずれかのケースが用いられた車載電池であり、車体の構造体の一部を構成することを特徴とする車載電池。
【0015】
[8]前項7に記載の車載電池が車体の構造体の一部として用いられていることを特徴とする車体。
【発明の効果】
【0016】
上記[1]に記載のケースは、熱伝導率が180W/(m・K)以上であり、HV硬さが55以上であるから、放熱性および強度が高い。また、ケースは底壁と側壁が一体に成形された有底ケースであり、成形性が良好であることを示している。
【0017】
上記[2]に記載されたケースは強度および/または成形性が特に優れている。
【0018】
上記[3]に記載されたケースは成形性が特に優れている。
【0019】
上記[4]に記載されたケースの製造方法によれば、熱処理とその後の焼き入れによってMgSi粒子を析出させて強度および成形性の良い素材を作製し、かつ作製した素材を120℃~200℃の温間に加熱してインパクト成形を施すことにより、焼き入れ効果によって得た強度を減じることなく有底ケースに成形できる。
【0020】
上記[5]に記載のケースの製造方法によれば、熱間圧延、熱間押出、溶体化処理のいずれかの熱処理を行って[4]に記載した効果を得ることができる。
【0021】
上記[6]に記載のケースの製造方法によれば、時効硬化によって強度の高いケースを作製できる。
【0022】
上記[7]に記載の車載電池はケースの強度が高いので、車体の構造体の一部として利用できる。
【0023】
上記[8]に記載の車体は車載電池が構造体の一部を構成しているので、従来の車体と重複する部材を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明のケースの一実施形態を示す斜視図である。
図2】インパクト成形法を示す説明図である。
図3】車載電池を車体の構造体の一部として用いられた電気自動車を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[ケース]
図1に本発明のケースの一実施形態を示す。
【0026】
ケース1は、アルミニウム合金からなり、底壁11と側壁12が一体に成形された有底の円筒体であり、アルミニウム合金の化学組成、熱伝導率およびHV硬さが規定されている。
(アルミニウム合金の化学組成)
前記ケース1の材料のアルミニウム合金の化学組成において、各元素の添加意義および含有量の限定理由は以下のとおりである。また、各元素の含有量の単位は質量%であり、「%」と略して記載する。
【0027】
Siは、Mgと共存してMgSi粒子を析出させて合金の強度向上に寄与する。Si含有量が0.2%未満では、析出強化の効果が少なくなり、一方、0.60%を越えると、Siの粒界析出が多くなって粒界脆化が生じやすくなり、合金の靭性が低下する。従って、Si含有量は0.2%~0.6%とし、特に好ましいSi含有量は0.3%~0.5%である。
【0028】
Feは、AlFeSi相として晶出して結晶粒粗大化防止し、合金の焼入れ感受性を減少させ、また強度と靭性を向上させ、耐食性の向上に寄与する。Fe含有量が0.1%未満ではその効果が小さくなり、一方、0.35%を越えると熱伝導率が低下する。従って、Fe含有量は0.1%~0.35%とし、特に好ましいFe含有量は0.15%~0.25%である。
【0029】
Mgは、Siと共存してMgSi粒子を析出させて合金の強度向上に寄与する。Mg含有量が0.45%未満では強度向上の効果が小さく、一方、Mg含有量が0.9%を越えると成形性および熱伝導率が低下する。従って、Mg含有量は、0.45~0.9%とし、特に好ましいMg含有量は0.5%~0.8%である。
【0030】
前記アルミニウム合金は、要すればさらに、Cu、Mn、Crのうちの少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0031】
Cuは、CuAl2粒子を析出させてアルミニウム合金の強度向上に寄与する。Cu含有量が0.01%未満ではその効果が小さくなり、一方、Cu含有量が0.1%を超えると成形性が低下する。従って、Cu含有量は0.01%~0.1%とし、特に好ましいCu含有量は0.05%~0.08%である。
【0032】
Mnは、Al-Mn系粒子やAl-Mn-Fe-Si系粒子を析出させて組織を微細化し、成形時の塑性流動を促して成形性を向上させる効果がある。Mn含有量が0.01%未満では前記効果が小さく、一方、Mn含有量が0.1%を超えると熱伝導率を低下させるために好ましくない。従って、Mn含有量は0.01%~0.1%とし、特に好ましいMn含有量は0.03%~0.06%である。
【0033】
Crは、Al-Cr系粒子やAl-Cr-Fe-Si系粒子を析出させて組織を微細化し、成形時の塑性流動を促して成形性を向上させる効果がある。Cr含有量が0.01%未満では前記効果が小さく、一方、Cr含有量が0.1%を超えると熱伝導率を低下させるために好ましくない。従って、Cr含有量は0.01%~0.1%とし、特に好ましいCr含有量は0.03%~0.06%である。
【0034】
前記アルミニウム合金は、要すればさらに、Ti、Brのうちの少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0035】
TiおよびBは鋳塊組織の微細化する効果があり、鋳塊組織の微細化によって成形性が高まる。かかる効果を得るためにTi含有量は0.002%~0.1%が好ましく、さらに0.02%~0.08%が好ましく、0.002%~0.05%がなお一層好ましい。また、B含有量は0.0001%~0.05%が好ましく、さらに0.005%~0.01%が好ましい。
【0036】
前記アルミニウム合金の残部はAlおよび不可避不純物である。
(アルミニウム合金の物性)
アルミニウム合金は熱伝導率が180W/(m・K)以上であり、放熱性が優れている。特に好ましい熱伝導率は200W/(m・K)以上である。また、アルミニウム合金のHV硬さが55以上であり、強度が優れている。特に好ましいHV硬さ58以上である。さらに、ケース1は底壁11と側壁12が一体に成形された有底ケースであり、成形性が良好であることを示している。
【0037】
また、ケース1を構成するアルミニウム合金の引張強度は限定されないが、180MPa以上であることが好ましく、200MPa以上であればなお一層好ましい。
[ケースの製造方法]
前記ケース1は、素材にインパクト成形を施して作製する。
【0038】
インパクト成形は、図2に示すように、ダイス21のキャビテティ22に投入した素材2にパンチ23で衝撃を与え、素材2の厚みを減じて底壁11を形成しながらパンチ23の周面に沿って素材を伸び上がらせることにより、底壁11と側壁12を一体に成形する加工方法である。インパクト成形によれば、一つの工程で有底のケースを成形することができる。インパクト成形では素材2を薄くしながら側壁12を伸び上がらせるので、成形用の素材2は目的形状のケース1の底壁11よりも厚いものが用いられる。深絞り成形では、ケースの底壁と同程度の厚みの素材から側壁を成形する加工方法であるが、一つの工程で成形可能の側壁の高さに限界があるため、高い側壁を成形するには複数の工程が必要であり、各工程用のダイスとパンチが必要である。一方、インパクト成形は一つの工程で一組のダイス21とパンチ23で所期する高さの側壁が得られるので、深絞り成形よりも製造効率が良く製造コストを低減できる。
【0039】
インパクト成形によって有底のケースを成形するには素材の流動性が良く成形性が良いことが必要であるが、成形したケースはHV硬さが55以上の強度を有していることが条件である。本発明においては、素材のアルミニウム合金の化学組成を規定し、そのアルミニウム合金を鋳造して素材の形状に加工するまでの間に熱処理および焼き入れを行い、インパクト成形に供する素材の温度を規定することによって、インパクト成形における成形性を制御し、かつ成形されたケースが高い放熱性と強度を有するものとする。なお、放熱性はアルミニウム合金の化学組成に基づいて得ている。
【0040】
前記素材2は、厚みがケース1の底壁11よりも厚い板材であり、平面形状がケースの底壁11に略同一である。例えば円形ケースの素材は円形板であり、角形ケースの素材は角形板である。このような形状の素材の作製方法を大別すると、(A)素材相当の厚みで大サイズの板をファインブランキングによって素材の平面形状に打ち抜く方法と、(B)素材の平面形状を断面とする棒材を素材の厚みにスライス切断する方法がある。本発明のケースの製造方法は、インパクト成形用の素材を作製する工程中で熱処理と熱処理後の焼き入れを行い、かつインパクト成形に供する素材の温度を規定する。素材作製工程中の熱処理とその後の焼き入れによって上述した粒子を析出させる。即ち、MgSi粒子、CuAl2粒子を析出させて強度を向上させ、また、Al-Mn系粒子、Al-Mn-Fe-Si系粒子、Al-Cr系粒子やAl-Cr-Fe-Si系粒子粒子を析出させて強度および成形性を向上させる。
【0041】
以下に、(A)の大サイズの板材を作製する2種類の方法と(B)の棒状材を作製する2種類の方法を示し、各方法における熱処理条件について説明する。
(A-1)
スラブを半連続鋳造し、このスラブを均質化処理した後に面削し、熱間圧延後に焼き入れし、さらに素材2の厚みまで冷間圧延する。要すれば、冷間圧延材を時効処理する。前記冷間圧延で作製した大サイズの板材を、ファインブランキングにより打ち抜いて所要形状の素材2を作製する。
【0042】
上記工程においては、熱間圧延が本発明における熱処理に対応する。前記熱間圧延温度(スラブの予加熱温度)は420℃~520℃が好ましく、特に480℃~500℃が好ましい。そして、前記温度から焼き入れする。
(A-2)
ビレットを半連続鋳造し、このビレットを均質化処理した後に面削し、素材2の厚みの板材に熱間押出し、焼き入れする。要すれば、押し出した板材を時効処理する。前記押し出しで作製した大サイズの板材を、ファインブランキングにより打ち抜いて所要形状の素材2を作製する。
【0043】
上記工程においては、熱間押出が本発明における熱処理に対応する。前記熱間押出温度(ビレットの予加熱温度)は420℃~520℃が好ましく、特に450℃~500℃が好ましい。そして、前記温度から焼き入れする。
(B-1)
ビレットを半連続鋳造し、このビレットを均質化処理した後に面削し、素材2の平面形状を断面とする棒材を熱間押出し、焼き入れする。要すれば、押し出した棒材を時効処理する。前記棒材を素材2の厚みにスライス切断し、素材2を作製する。
【0044】
上記工程においては、熱間押出が本発明における熱処理に対応する。前記熱間押出温度(ビレットの予加熱温度)は420℃~520℃が好ましく、特に450℃~500℃が好ましい。そして、前記温度から焼き入れする。
(B-2)
素材2の平面形状を断面とする棒材を連続鋳造し、この連続鋳造材を均質化処理し、さらにピーリングし、素材2の厚みにスライス切断する。このスライス切断材に溶体化処理した後に焼き入れする。要すれば、焼き入れ後に時効処理する。これにより素材2を作製する。
【0045】
上記工程においては、スライス切断材の溶体化処理が本発明における熱処理に対応する。前記溶体化処理温度は480℃~560℃が好ましく、特に510℃~540℃が好ましい。また、溶体化処理時間は120分~360分が好ましく、特に150分~240分が好ましい。そして、前記温度から焼き入れする。
【0046】
前記(A-1)(A-2)(B-1)(B-2)の工程において、焼き入れ後に行う時効処理は任意に行う工程である。時効処理によってAl-Cu、MgSiなどの時効析出物の微細析出によって強度および硬度が上昇するという効果がある。時効処理の好ましい条件は170℃~220℃×2時間~18時間であり、特に好ましい条件は180℃~200℃×4時間~10時間である。また、鋳造材に対する均質化処理も任意に行う処理であり、490℃~570℃で行うことが好ましい。均質化処理温度が前記の範囲内であれば、鋳造時の偏析を均質化する効果が得られ、再結晶核となる遷移金属元素の粗大化が起こらず、粗大再結晶防止の点から好ましい。均質化処理温度が490℃未満であれば鋳造時の偏析を均質化する効果が得られにくくなり、一方570℃を超えると遷移金属元素の析出が粗大となり、粗大再結晶防止効果が小さくなる。特にFe、Mnを添加したアルミニウム合金の場合、より高い効果を得るためには、この範囲が好ましい。また、均質化処理時間は3時間~20時間とすることが好ましい。
【0047】
前記(A-1)(A-2)(B-1)(B-2)の方法で作製した素材2は、表面を潤滑処理した後に120℃~200℃に加熱し、かかる温度でインパクト成形する。素材2の温度が120℃未満では成形性が不十分でインパクト成形による成形が困難である。一方、200℃を超えると焼き入れ効果が低減または消滅する。素材2の特に好ましい温度は140℃~180℃である。
【0048】
また、前記素材の成形方法は上述した4つの方法に限定されない。所要形状の素材を作製する工程中に熱処理とその後の焼き入れを行う限り、他の方法で素材を作製してもよい。
【0049】
本発明のケースの用途は限定されないが、放熱性が優れているので、モーター、電池、キャパシタ等の発熱を伴う装置のケースに適している。また、強度が優れていることから、荷重を支える構造体、または構造体の一部として利用することができる。例えば、図3に示すように、電気自動車3においては多数個の電池30を搭載する必要があり、電池30を車体の構造体の一部として利用している。多数個の電池30はケースの側壁同士が接するように組み付けて結束バンドを巻き付ける等の方法でブロック化することで構造材として利用できる。前記構造材はケースの側壁に平行する方向に対して高い強度を有しており、図3は多数個の電池30のケースの側壁でフロアパネル31の荷重Wを支持する構造を示している。また、構造材の寸法は電池の数と配置によって変更できる。このように、車載電池を車体の構造体の一部として利用することによって、従来の車体と重複する部材を減らすことができる。
【実施例
【0050】
[素材の製作]
表1の各例に示す化学組成のアルミニウム合金でスラブを鋳造し、540℃×12時間の均質化処理をした。次いで、前記スラブの表面を面削し、520℃で熱間圧延して厚みが15mmの厚板を成形し、この厚板を水冷焼入れした。そして、焼入れ後の厚板を冷間圧延により3mmまで圧延して冷間圧延板とし、この冷間圧延板を180℃×6時間の人工時効処理し、直径28mmのファインブランキング型を用いて打抜きをして素材2を作製した。素材2は厚み3mm×直径28mmの円盤である。
[インパクト成形および成形性]
作製した素材2に潤滑皮膜形成処理としてボンデ処理を施し、表1に示す温度に加熱して図2のダイス21とパンチ23を用いてインパクト成形し、有底のケース1(図1参照)に加工した。
【0051】
インパクト成形は、素材2の厚みの3mmから0.5mmの底壁11を成形することを目標とし、実際の成形値が目標値より薄く成形できたもの成形可、成形値が目標値に達しなかったものを成形不可と評価した。
[成形品の物性]
成形したケースの物性について下記の方法で測定した。
(HV硬さ)
ケース1の側壁12部分を切断し、断面におけるHV硬さを測定した。
(引張強度)
ケース1の側壁12から試験片を作製し、引張強度を測定した。
(熱伝導率)
ケース1の底壁11においてレーザーフラッシュ法により熱伝導率を測定した。
【0052】
これらの測定結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1より、実施例のケースは成形性、放熱性、強度を兼ね備えていることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のケースは、モーター、二次電池、キャパシタなどの発熱を伴う装置のケースとして利用できる。
【符号の説明】
【0056】
1…ケース
2…素材
3…電気自動車
11…底壁
12…側壁
21…ダイス
22…キャビティ
23…パンチ
30…電池
31…フロアパネル
図1
図2
図3