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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】銅粉
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20220118BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20220118BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20220118BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20220118BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
B22F1/00 L
C22C9/00
H01B1/00 F
H01B1/22 A
H01B5/00 F
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017243025
(22)【出願日】2017-12-19
(62)【分割の表示】P 2016551999の分割
【原出願日】2015-09-28
(65)【公開番号】P2018076594
(43)【公開日】2018-05-17
【審査請求日】2018-06-13
【審判番号】
【審判請求日】2020-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2014205220
(32)【優先日】2014-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】向野 隆
(72)【発明者】
【氏名】後藤 善仁
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】境 周一
【審判官】土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-004905(JP,A)
【文献】特開2014-156634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00
C22C 9/00
H01B 5/00
H01B 1/00
H01B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線光電子分光装置(XPS)を用いて表面を測定して得られるX線光電子分光スペクトルにおいて、Cu(II)のピーク強度Pに対する、Cu(I)のピーク強度P及びCu(0)のピーク強度P0の比率であるP/(P+P)の値が0.4以上0.7以下であり、
収縮開始温度が480℃以上620℃以下であり、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50が、0.3μm以上10μm以下であり、
酸素の含有割合が、0.15質量%以上1.2質量%以下である、銅粉。
【請求項2】
請求項1に記載の銅粉と、バインダとを含有する導電性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は銅粉に関する。
【背景技術】
【0002】
銅粉は、導電性ペースト等の導電性組成物の原料として好適に用いられている。導電性組成物は、バインダ樹脂及び有機溶媒を含むビヒクル中に銅粉を分散させてなるものである。導電性組成物は、例えば電気回路の形成や、セラミックコンデンサの外部電極の形成などに用いられている。
【0003】
近年、電気回路などにおいてファインピッチ化が進むのに伴い、導電性組成物用の銅粉も微粉化され、銅粉の比表面積が大きくなってきている。そのことに起因して、銅粉は一層酸化しやすい状態となってきている。そこで、銅粉の酸化を防止するための技術が種々提案されている。例えば、アトマイズ法で銅粉を製造するときに、銅粉に対して0.01~0.1重量%のホウ素を添加することで、酸化膜の生成を少なくする技術が提案されている(特許文献1参照)。特許文献2には、Al、Mg、Ge及びGaのいずれかを含有する銅粉が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-95169号公報
【文献】特開2011-6739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1及び2に記載の銅粉では、銅以外の元素を銅粉中に含有させることで銅の酸化を防止している。そのため、該銅粉を含む導電性組成物から形成された導体中には、銅粉中に含まれていた元素が残存することになる。導体の使用態様や使用部位によっては、該元素が接合信頼性や導通特性に対して悪影響を及ぼすことがあるので、銅粉の使用場面が限られる場合がある。
【0006】
したがって本発明の課題は銅粉の改良にあり、更に詳しくは異種元素を用いなくても表面の安定性に優れ、導電性組成物の緻密性や酸素含有絶縁材料との密着性、分布の均一性に優れた銅粉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、X線光電子分光装置(XPS)を用いて表面を測定して得られるX線光電子分光スペクトルにおいて、Cu(II)のピーク強度Pに対する、Cu(I)のピーク強度P及びCu(0)のピーク強度Pの比率であるP/(P0+P1)の値が0.15以上1以下である、銅粉を提供するものである。
【0008】
また本発明は、前記の銅粉の好適な製造方法として、
乾燥した原料銅粉を、相対湿度が40%RH以上80%RH以下で、かつ温度が20℃以上120℃以下の大気雰囲気下に、20分以上650分以下静置して酸化処理を行う銅粉の製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の銅粉は、銅粒子の集合体からなるものである。本発明の銅粉は、銅粒子のみから実質的になるが、不可避不純物を含有することは許容される。また、必要に応じ、本発明の銅粉に、それ以外の粉体等を含有させてもよい。
【0010】
本発明の銅粉は、銅粒子の表面に存在する銅の酸化状態に特徴の一つを有する。詳細には、本発明の銅粉を構成する銅粒子は、銅粒子の表面における金属銅(つまりCu(0))、一価の銅(つまりCu(I))及び二価の銅(つまりCu(II))の存在比率が特異なものとなっている。これら各種価数の銅の存在比率はX線光電子分光装置(XPS)を用いて測定することができる。XPS測定によれば、各種元素のX線光電子分光スペクトルが得られる。XPSでは、銅粒子の表面から約十nmまでの深さの元素成分について定量分析を行うことができる。XPSによって本発明の銅粉を構成する銅粒子の表面状態を測定して得られたX線光電子分光スペクトルにおいては、Cu(II)のピーク強度Pに対する、Cu(I)のピーク強度P及びCu(0)のピーク強度Pの比率であるP/(P0+P1)の値が、好ましくは0.15以上1以下であり、更に好ましくは0.3以上0.9以下であり、一層好ましくは0.4以上0.7以下である。以下、P/(P+P)の値のことを「銅酸化率」と言う。なお、ピーク強度とは、ピークの高さのことである。
【0011】
X線光電子分光スペクトルにおいて、Cu(II)のピークは、主としてCuO及びCu(OH)に由来し、934.0eV以上936.0eV以下の範囲に観察される。これらのピークは同一位置に観察されるので、両者を区別することはできない。Cu(I)のピークは、主としてCuOに由来する。またCu(0)のピークは金属銅に由来する。Cu(I)のピーク及びCu(0)のピークは930.0eV以上933.5eV以下の範囲の同一位置に観察されるので、両者を分離することはできない。そこで本発明では、銅酸化率の定義を上述のとおりとする。
【0012】
銅酸化率が上述の範囲内である銅粒子からなる銅粉は、銅粒子表面に存在するCu(I)及びCu(0)の合計量よりも、Cu(II)の量の方が小さいか、又は同程度である。Cu(II)の量を適切に設定することで、本発明の銅粉を含む導電性組成物から得られる導体を緻密な構造にすることができる。また、導電性組成物と酸素含有絶縁材料との親和性が高いために、電子部品の基材や誘電材料との密着性が高くなり、密着信頼性の高い電子部品を得ることができる。したがって、本発明の銅粉を用いて、電子部品用電極を好適に製造することができる。更に、導電性組成物中にガラスフリットが含まれている場合には、導電性組成物をセラミックス電子部品の電極として用いたときに、銅粒子とセラミックス材料とガラスフリットとのなじみが良好になるので、焼結が必要なセラミックス電子部品用の導電性組成物として使った場合に、焼結中にガラス成分が偏析することが効果的に防止される。これによっても、導体を緻密な構造にすることができる。また、本発明の銅粉は、銅以外の異種元素を実質的に含まないので、使用場面の制約が少ないという点でも利点を有する。「異種元素を実質的に含まない」とは、銅粉を元素分析したときに、銅及び酸素以外の異種元素の含有割合の合計が0.1質量%以下であることを言う。前記の銅酸化率を満足する銅粉の好適な製造方法については後述する。
【0013】
また、上述のピーク強度P、P及びPは、P:(P+P)の比率が、15:85~50:50、特に23:77~47:53、とりわけ29:71~41:59であることも、銅粉の耐酸化性を高める観点から好ましい。
【0014】
XPSによる銅粒子の銅酸化率の測定方法は以下のとおりである。装置としては、例えばアルバック・ファイ株式会社社製のQuantum2000を用いることができる。X線源としては、Al-Kα線(1486. 8eV)を用いることができる。X線源の条件は、例えば17kV×0.023Aとすることができる。帯電補正は、SiOの結合エネルギーを103.2eVとして行うことができる。またビーム径は200ミクロン(40W)とし、約300×900ミクロンの範囲で測定を行った。上述のピーク強度P、P及びPは、Cu(II)については934.0eV以上936.0eV以下の範囲、Cu(0)及びCu(I)については930.0eV以上933.5eV以下の範囲で最も高いカウント数(c/s)から算出する。これらは、銅粒子単体で測定が可能なほか、導電性組成物のバインダ成分との混合体であっても測定が可能である。その場合には、テルピネオールなどのアルコール有機溶剤で洗浄し、銅粒子を露出させた状態で測定すればよい。また、後述する電子部品用の電極を形成した場合において、銅粒子が焼結、溶融、溶着されていない電極においては、電極部材を中性の有機である溶剤(エーテル、ケトン、ラクトン、芳香族炭化水素、テルピネオール、カルビトールアセテート等)の混合溶液中で高温高圧で煮沸し樹脂を膨潤させることにより、表面の露出した銅粒子単体を取出し、ろ過し風乾させたもので測定することが可能である。
【0015】
本発明の銅粉は、銅粒子の表面酸化状態が上述のとおりであることに加えて、酸素の含有割合が低いことも特徴の一つである。詳細には、本発明の銅粉は、酸素の含有割合が0.15質量%以上1.2質量%以下であることが好ましく、0.4質量%以上1.0質量%以下であることが更に好ましい。酸素の含有割合がこの範囲にある本発明の銅粉を用いて導電性組成物を調製し、該導電性組成物から導体を形成すると、該導体は焼成膜中にボイドが少ない緻密なものとなる。また、酸素の含有割合がこの範囲にある本発明の銅粉を用いた導電性組成物は、酸素含有絶縁材料との親和性が高く、密着性が高くなりやすい。また、導電性組成物中にガラスフリットが含まれている場合には、銅粒子とガラスフリットとのなじみが良好になり、導体中でのガラスの存在が均一になりやすい。前記の酸素含有絶縁体の例としては、酸化物セラミックスが挙げられる。酸化物セラミックスとしては、例えばアルミナ、ジルコニア、チタニア、フェライト、マグネシア、シリカ等の単一金属種の酸化物セラミックやこれらの混合物の他、チタン酸バリウムやチタン酸ストロンチウム等の複合金属酸化物セラミック等が挙げられる。その他の酸素含有絶縁体の例としては、酸素が構造中に含まれる樹脂が挙げられる。酸素含有樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂(BT樹脂)、ポリフェニレンエーテル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂やポリアミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、液晶ポリマー、ポリエチレンテレフタラート樹脂、ポリエチレンナフタレン樹脂等の絶縁樹脂が挙げられる。その他、樹脂にシリカやアルミナ等の各種酸化物からなるフィラー粒子等が含有される場合、該樹脂は、本発明の銅粉を用いた導電性組成物との接着性が良好である。
【0016】
本発明の銅粉における酸素の含有割合は次の方法で測定される。装置として、例えば株式会社堀場製作所社製の酸素・窒素分析装置EMGA-620を用いることができる。銅粉0.1gを秤量し、ニッケルカプセルに入れた後、黒鉛坩堝内で燃焼させることで、酸素の含有割合を求めることができる。
【0017】
本発明の銅粉は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50が、0.3μm以上10μm以下、特に1.0μm以上5.5μm以下であることが好ましい。銅粉を構成する銅粒子の粒径がこの程度にまで小さくなると、比表面積が増大することに起因して銅粒子は酸化されやすくなるが、本発明の銅粉では、銅粒子の表面における銅の酸化状態が適切に制御されていることに起因して、経時変化による酸化の進行を防ぐことができる。
【0018】
上述の体積累積粒径D50の測定は、例えば以下の方法で行うことができる。0.1gの測定試料を、ヘキサメタリン酸ナトリウムの20mg/L水溶液100mlと混合し、超音波ホモジナイザ(日本精機製作所製 US-300T)で10分間分散させる。その後、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置、例えば日機装社製マイクロトラックMT-3000を用いて粒度分布を測定する。
【0019】
本発明の銅粉はこれを焼結させて用いてもよく、あるいは焼結させない粉体の状態で用いてもよい。本発明の銅粉を焼結させて用いる場合には、該銅粉はその収縮開始温度が、480℃以上620℃以下であることが好ましい。特に500℃以上580℃以下であることが好ましい。収縮開始温度がこの範囲にある本発明の銅粉を用いて導電性組成物を調製し、該導電性組成物から導体を形成すると、低温収縮による焼成膜の「ヒケ」や、逆に焼成不足による「ネッキング不良」の少ない焼成膜が形成できる。その結果、焼成膜はボイドが少ない緻密なものとなる。また、導電性組成物中にガラスフリットが含まれている場合には、銅粒子とガラスフリットとのなじみが良好になり、導体中での軟化したガラスの存在が均一となる焼成膜を得やすい。収縮開始温度は、熱機械分析装置(TMA)によって測定することができる。測定装置は、例えばセイコーインスツル社製 EXSTAR6000TMA/SS6200を用いることができる。収縮開始温度を測定するための試料としては、例えば予め秤量した銅粉0.2gを内径3.8mmφのアルミケースに入れ、4835Nの荷重をかけて成形した円柱成形体が用いられる。この円柱成形体を熱機械分析装置(TMA)に装着し、荷重98mN、窒素雰囲気下、速度10℃/minで昇温したときの縦方向の熱膨張率(%)をモニターし、膨張挙動が正から負へ初めて転じた温度(℃)を測定する。その温度を収縮開始温度と定義することができる。
【0020】
本発明の銅粉を構成する銅粒子は、その形状に特に制限はなく、例えば球状、フレーク状、板状、樹枝状など種々の形状で用いることができる。どのような形状の銅粒子を用いるかは、本発明の銅粉の具体的な用途に応じて適切に判断すればよい。銅粒子の形状は一般にその製造方法に依存する。球状の銅粒子は例えばアトマイズ法や湿式還元法で製造することができる。フレーク状の粒子は、例えば球状の粒子を機械的に塑性変形することで製造することができる。板状の粒子は例えば湿式還元法で製造することができる。樹枝状の銅粒子は例えば電解法で製造することができる。本発明の銅粉は、様々な形状の銅粒子の混合体であってもよい。
【0021】
なお、本発明の銅粉を構成する銅粒子が前記の各形状を呈するとは、本発明の銅粉を電子顕微鏡観察(例えば1000倍)で観察したときに、前記の各形状を呈する粒子が、個数基準で80%以上を占める場合を意味する。
【0022】
次に、本発明の銅粉の好適な製造方法について説明する。本発明の銅粉は、各種の方法で製造された原料銅粉を、所定の雰囲気下、適切な条件で酸化することによって好適に製造される。原料銅粉の製造方法に特に制限はないが、球状の銅粒子からなる銅粉を製造する場合には、例えばアトマイズ法を用いることが好適で、平均粒径3μm以下の微粒な銅粉を製造する場合には、湿式法が好適である。
【0023】
アトマイズ法としては、ガスアトマイズ法や水アトマイズ法を好ましく採用することができる。粒子形状の均整化を図る場合にはガスアトマイズ法を採用することが好ましい。一方、粒子の微細化を図る場合には水アトマイズ法を採用することが好ましい。ガスアトマイズ法及び水アトマイズ法の中でも、高圧アトマイズ法によれば、粒子を微細かつ均一に製造することができるので特に好ましい。高圧アトマイズ法とは、水アトマイズ法においては、50MPa以上150MPa以下程度の水圧力でアトマイズする方法である。ガスアトマイズ法においては、0.5MPa以上3MPa以下程度のガス圧力でアトマイズする方法である。
【0024】
湿式法としては、銅塩水溶液にアルカリ水溶液を添加したスラリーに、還元剤を添加する還元析出法を採用することができる。所定の微粒銅粉を図る場合にはスラリーに還元糖や次亜リン酸、亜硫酸ナトリウムなどの第一還元剤を添加し酸化第一銅スラリーを調整した後、水和ヒドラジン、硫酸ヒドラジンなどのヒドラジン化合物や水素化ホウ素ナトリウムなどの強塩基性還元剤を添加した、二段階還元法などが好ましい。
【0025】
原料銅粉は、これを酸化処理に付す前に分級してもよい。この分級は、目的とする粒度が中心となるように、適切な分級装置を用いて、得られた原料銅粉から粗粉や微粉を分離することにより容易に実施することができる。分級は、原料銅粉のD50の値が、先に述べた範囲となるように行うことが好ましい。
【0026】
このようにして得られた原料銅粉を酸化処理に付す。好適な酸化条件としては、例えば相対湿度が40%RH以上80%RH以下で、かつ温度が60℃以上120℃以下の大気雰囲気下に静置する条件が工業的な処理条件として挙げられる。銅粉の酸化処理の均一性保持と、過剰処理によるCu(II)の増加に伴う粒子凝集の防止の観点から、処理時間は、大気雰囲気の条件が上述の範囲内であることを条件として、20分以上650分以下であることが好ましく、30分以上600分以下であることが更に好ましく、30分以上180分以下であることが一層好ましい。相対湿度が低い場合には、酸化速度が遅い傾向にあるので、そのような場合は、温度を高めに設定すればよい。例えば、相対湿度が40%以上60%以下の場合は処理温度が70℃以上130℃以下であるのが好ましく、相対湿度が60%超80%以下の場合は処理温度が60℃以上90℃以下であるのが好ましい。処理中は、大気雰囲気の相対湿度及び温度を一定に保つこと、すなわち恒温恒湿が好ましいが、必要に応じ相対湿度及び/又は温度を変化させながら処理を行ってもよい。
【0027】
酸化の処理の対象となる銅粉としては、例えば水分含有割合の低い乾燥粉を用いることができる。この場合、水分含有割合は例えば0.1質量%以下とすることができる。相対湿度が低い場合には、酸化速度が遅い傾向にあるが、銅粉に水分を添加することで酸化速度を速めることができる。例えば、乾燥銅粉の質量に対して1質量%以上5質量%の範囲で水分を添加した状態下に、銅粉の酸化処理を行うことができる。
【0028】
以上の方法によって、目的とする銅粉を首尾よく製造することができる。このようにして得られた銅粉は、銅粒子表面の酸化状態を維持することを目的として、非透湿性材料の容器内に密封し、室温(25℃)以下の温度で保存することが好ましい。
【0029】
本発明の銅粉は、導電特性に優れており、耐酸化性が高く、またガラスフリットとのなじみが良好なので、導電性ペーストや導電性接着剤などの導電性樹脂組成物、あるいは導電性塗料など、各種導電性材料の主要構成材料として好適に用いることができる。
【0030】
例えば導電性ペーストを調製するには、本発明の銅粉をバインダ及び溶剤と混合すればよい。こうすることで、高温焼成型導電性ペーストを得ることができる。あるいは、本発明の銅粉を、バインダ及び溶剤、更に必要に応じて硬化剤やカップリング剤、硬化促進剤などと混合して樹脂硬化型導電性ペーストを調製することもできる。
【0031】
前記のバインダとしては、液状のエポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。溶剤としては、テルピネオール、エチルカルビトール、カルビトールアセテート、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトールアセテート等が挙げることができる。硬化剤としては、2エチル4メチルイミダゾールなどを挙げることができる。硬化促進剤としては、三級アミン類、三級アミン塩類、イミダゾール類、ホスフィン類、ホスホニウム塩類等を挙げることができる。
【0032】
更に、導電性ペーストを、焼結が必要な酸化物セラミックス電子部品に用いる場合には、酸化物セラミックスへの密着性を向上させる目的で、導電性ペースト中に更にガラスフリットを混合することが好ましい。ガラスフリットとしては、例えばシリカを必須成分として、アルミナ、酸化ホウ素、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ビスマス、酸化バナジウム、リン酸、酸化アンチモン、酸化鉄、酸化テルル、酸化スズ、酸化セリウム、酸化ランタン及び酸化スズからなる群から選択される少なくとも1種類の酸化物が添加された混合物を加熱溶融し、粉砕したものなどが挙げられる。
【0033】
本発明の銅粉を含む導電性ペーストは、例えばスクリーン印刷による導体回路形成用や、各種電子部品の電気的接点部材用として好適に使用することができる。例えば、積層セラミックコンデンサの内部電極、インダクタやレジスター等のチップ部品、単板コンデンサ電極、タンタルコンデンサ電極、樹脂多層基板、低温同時焼成セラミック(LTCC)多層基板、アンテナスイッチモジュール、PAモジュールや高周波アクティブフィルター等のモジュールが挙げられる。セラミックス電子部品の絶縁材料としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、フェライト、マグネシア、シリカ等の酸化物セラミックの他、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等のセラミック複合酸化物等が挙げられる。また、絶縁材料として樹脂を用いた電子部品のフレキシブルプリント基板(FPC)、ビルドアップ多層配線板などのプリント配線板用電極の他、PDP前面板及び背面板やPDPカラーフィルター用電磁遮蔽フィルム、結晶型太陽電池表面電極及び背面引き出し電極、導電性接着剤、EMIシールド、RF-ID、及びPCキーボード等のメンブレンスイッチ、異方性導電膜(ACF/ACP)等にも使用可能である。絶縁材料として樹脂を用いる場合、具体的な樹脂の例としては、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂(BT樹脂)、ポリフェニレンエーテル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂やポリアミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、液晶ポリマー、ポリエチレンテレフタラート樹脂、ポリエチレンナフタレン樹脂等の絶縁樹脂が挙げられる。また樹脂には、シリカやアルミナ等の各種酸化物無機粒子からなるフィラー粒子等が含有される場合も挙げられる。
【実施例
【0034】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。実施例及び比較例に先立ち、原料銅粉の製造について説明する。
【0035】
〔原料銅粉Aの製造〕
電気銅(銅純度:Cu99.95%)を、ガス炉で加熱して溶湯とした。次いで、水アトマイズ装置におけるタンディッシュ中に前記溶湯100kgを注入し、タンディッシュ底部のノズル(口径5mm)から溶湯を落下させながら、フルコーン型のノズル(口径26mm)の噴射孔から水を逆円錐状の水流形状になるように前記溶湯にジェット噴射(水圧100MPa、水量350L/min)して水アトマイズすることにより銅粉を製造した。
次に、得られた銅粉を、分級装置(日清エンジニアリング株式会社製「ターボクラシファイア(商品名)TC-25(型番)」)により分級し、分級したものを原料銅粉Aとして用いた。原料銅粉Aは球状の乾燥粉であり、そのD50及び酸素の含有割合は以下の表1に示すとおりであった。
【0036】
〔原料銅粉Bの製造〕
原料銅粉Aの製造において、分級装置の分級点を変更した以外は、原料銅粉Aと同様にして原料銅粉Bを得た。原料銅粉Bは球状の乾燥粉であり、そのD50及び酸素の含有割合は以下の表1に示すとおりであった。
【0037】
〔原料銅粉Cの製造〕
原料銅粉Aの製造において、分級装置の分級点を変更した以外は、原料銅粉Aと同様にして原料銅粉Cを得た。原料銅粉Cは球状の乾燥粉であり、そのD50及び酸素の含有割合は以下の表1に示すとおりであった。
【0038】
〔原料銅粉Dの製造〕
硫酸銅(五水塩)100kgを溶解させて200Lの水溶液とし、これを60℃に維持しながら、25質量%水酸化ナトリウム水溶液125L及び450g/Lのグルコース水溶液80Lを添加して酸化第一銅スラリーを生成した。このスラリーに、更に20重量%水和ヒドラジン100Lを添加することにより原料銅粉Dを得た。原料銅粉Dは球状の乾燥粉であり、そのD50及び酸素の含有割合は以下の表1に示すとおりであった。
【0039】
【表1】
【0040】
〔実施例1〕
1000gの原料銅粉Aを、80℃・80%RHに調温・調湿された恒温恒湿槽内に30分間静置して大気雰囲気下で酸化処理を行った。このようにして、目的とする銅粉を得た。
【0041】
〔実施例2ないし10〕
以下の表2に示す条件で、同表に示す原料銅粉の酸化処理を行う以外は実施例1と同様にして、目的とする銅粉を得た。
【0042】
〔実施例11及び12〕
表2に示す原料銅粉の質量に対して3質量%の水分を添加して該原料銅粉を湿らせた状態下に、同表に示す条件で酸化処理を行う以外は実施例1と同様にして、目的とする銅粉を得た。
【0043】
〔実施例13〕
表2に示す原料銅粉の質量に対して1質量%の水分を添加して該原料銅粉を湿らせた状態下に、同表に示す条件で酸化処理を行う以外は実施例1と同様にして、目的とする銅粉を得た。
【0044】
〔比較例1ないし4〕
原料銅粉AないしDをそのまま用いた。
【0045】
〔比較例5ないし7〕
以下の表2に示す条件で、同表に示す原料銅粉の酸化処理を行う以外は実施例1と同様にして、目的とする銅粉を得た。
【0046】
〔比較例8〕
以下の表2に示す原料銅粉の質量に対して3質量%の水分を添加して該原料銅粉を湿らせた状態下に、同表に示す条件で酸化処理を行う以外は実施例1と同様にして、目的とする銅粉を得た。
【0047】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた銅粉の銅酸化率、酸素の含有割合、D50を上述の方法で測定した。また、以下の方法で、収縮開始温度を測定し、更に焼成膜の緻密性及び焼成膜中のガラス均一性を評価した。また、総合評価も行った。その結果を以下の表2に示す。
【0048】
〔収縮開始温度〕
熱機械分析(TMA)によって、上述の方法で銅粉の収縮開始温度を測定した。
【0049】
〔焼成膜の緻密性I〕
実施例及び比較例で得られた銅粉に、テルピネオール及びアクリル樹脂を添加混合して導電性ペースト(1)を調製した。この導電性ペースト(1)に占める銅粉の割合は70質量%、テルピネオールの割合は25質量%、アクリル樹脂の割合は5質量%であった。この導電性ペースト(1)を、アルミナ基板上に、膜厚50μmで塗布して塗膜を形成した。この塗膜を窒素雰囲気下、845℃で20分間焼成して焼成膜を得た。得られた焼成膜の表面を、走査型電子顕微鏡(1000倍)で拡大し、10視野の画像を撮影した。この10視野の画像を解析し、以下の基準で緻密性を評価した。なお、ボイド面積比とは、1視野中に含まれるボイド(5μm以上)の面積を画像解析により求め、その10視野の値を算術平均した値である。ボイド面積が多すぎると緻密性が不足、逆に少なすぎると緻密性が高すぎて後述のガラス分布均一性に悪影響を来すものである。緻密性の良否は以下の3段階で評価した。
◎:ボイド面積比が3%以上7%以下である。
○:ボイド面積比が1%以上3%未満、又は7%超10%以下である。
×:ボイド面積比が1%未満、又は10%超である。
【0050】
〔焼成膜の密着性II〕
前記の焼成膜に対して、別の観点から密着性を評価した。詳細には、焼成膜を基板ごと超音波洗浄機に30秒浸漬させたあと、焼成膜の表面を、走査型電子顕微鏡(1000倍)で観察し、約100μm四方の観察視野での焼成膜の密着性の良否を以下の3段階で評価した。
◎:焼成膜の剥離が全く観察されない。
○:焼成膜面積の70%以上が密着している。
×:密着している焼成膜面積が30%未満である。
【0051】
〔焼成膜中のガラス分布均一性〕
実施例及び比較例で得られた銅粉に、テルピネオール、アクリル樹脂(大成ファインケミカル製KWE―250T)及びガラスフリット(旭硝子製ASF1891F)を添加混合して導電性ペースト(2)を調製した。この導電性ペースト(2)に占める銅粉の割合は70質量%、テルピネオールの割合は22質量%、アクリル樹脂の割合は3質量%、ガラスフリットの割合は5質量%であった。その他は前記の焼成膜の緻密性の評価と同様に操作し、焼成膜を得た。焼成膜の表面を視野約100μm四方、1000倍にて得られる像をEDX分析し、ガラスフリットに由来するSi量からガラス分布均一性を評価した。評価基準は以下のとおりである。なお、Si量はSi×100/(Si+Cu)で定義される量である。式中、Si及びCuはEDX分析におけるSi及びCuのピーク強度を表す。
◎:Si量が1%以上10%以下である。
○:Si量が0.5%以上1%未満、又は10%超20%以下である。
×:Si量が0.5%未満、又は20%超である。
【0052】
〔総合評価〕
上述した評価のうち、総合評価として下記の評価を行った。
◎:緻密性I、密着性II及び均一性評価のうち、2項目以上が◎である。
○:緻密性I、密着性II及び均一性評価のうち、1項目以上が○である。
×:緻密性I、密着性II及び均一性評価のうち、1項目以上に×がある。
【0053】
【表2】
【0054】
表2に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた銅粉は、比較例の銅粉に比べて酸化開始温度が高く、耐酸化性に優れていることが判る。また、各実施例で得られた銅粉を原料として製造された焼成膜は、比較例の銅粉を原料として製造された焼成膜に比べて、膜の緻密性が高く、しかも銅粉とガラスとのなじみが良好であることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、収縮温度制御に優れた銅粉が提供される。この銅粉は、焼成時におけるガラスフリットとのなじみが良好なので、この銅粉を用いることで緻密性に優れた焼成膜を得ることができる。また、この銅粉は、導電性組成物にした際、酸素含有絶縁材料との親和性が高く、密着信頼性の高い電子部品を得ることができる。