(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】ガラス板のスクライブ方法、及びガラス板のスクライブ装置
(51)【国際特許分類】
C03B 33/02 20060101AFI20220118BHJP
B28D 1/24 20060101ALI20220118BHJP
B28D 5/00 20060101ALI20220118BHJP
B28D 7/02 20060101ALI20220118BHJP
B28D 7/04 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
C03B33/02
B28D1/24
B28D5/00 Z
B28D7/02
B28D7/04
(21)【出願番号】P 2017551820
(86)(22)【出願日】2016-11-07
(86)【国際出願番号】 JP2016082948
(87)【国際公開番号】W WO2017086198
(87)【国際公開日】2017-05-26
【審査請求日】2019-04-09
【審判番号】
【審判請求日】2020-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2015224838
(32)【優先日】2015-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】中井 衛
(72)【発明者】
【氏名】田邊 英樹
(72)【発明者】
【氏名】末松 高宏
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】後藤 政博
【審判官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-189556(JP,A)
【文献】特開2015-36360(JP,A)
【文献】特公昭53-8191(JP,B2)
【文献】国際公開第2015/137161(WO,A1)
【文献】実開昭61-172129(JP,U)
【文献】特開2003-306339(JP,A)
【文献】実開昭50-77450(JP,U)
【文献】特開2014-31292(JP,A)
【文献】特開2014-31293(JP,A)
【文献】特開2017-65245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B33/00 - 33/14
B28D 1/00 - 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板の切断予定部を一方面側から支持部材で支持しつつ、他方面上で前記切断予定部に沿ってカッターホイールを走行させてスクライブラインを形成するガラス板のスクライブ方法であって、
液体が塗布された状態の前記切断予定部の他方面上を前記カッターホイールに走行させると共に、走行中の前記カッターホイールの進行方向前方に位置する前記切断予定部を押付部材によって前記支持部材に押し付け、
前記液体として、大気圧下での沸点が100℃以下の液体を用い
、
前記押付部材として、前記カッターホイールに先行して他方面上を前記切断予定部に沿って走行するローラーを用いると共に、走行中の前記ローラーによって前記切断予定部の他方面に前記液体を塗布することを特徴とするガラス板のスクライブ方法。
【請求項2】
前記スクライブラインの形成を開始するに際し、前記切断予定部の他方面に先に当接させた前記ローラーにより該切断予定部を前記支持部材に押し付けた後、前記カッターホイールを前記切断予定部の他方面に当接させることを特徴とする請求項
1に記載のガラス板のスクライブ方法。
【請求項3】
前記ガラス板の外周端部を除外して前記スクライブラインを形成することを特徴とする請求項
1又は2に記載のガラス板のスクライブ方法。
【請求項4】
前記ガラス板を縦姿勢とした状態で、前記スクライブラインを上下方向に沿って下方から上方に向かって形成することを特徴とする請求項
1~3のいずれかに記載のガラス板のスクライブ方法。
【請求項5】
前記液体として、アルコールを含んだ液体を用いることを特徴とする請求項
1~4のいずれかに記載のガラス板のスクライブ方法。
【請求項6】
前記液体として、エタノールと水とを含む混合液を用いると共に、前記混合液に含まれるエタノールの割合を50%以上とすることを特徴とする請求項
1~5のいずれかに記載のガラス板のスクライブ方法。
【請求項7】
前記ガラス板が可撓性を有していることを特徴とする請求項
1~6のいずれかに記載のガラス板のスクライブ方法。
【請求項8】
ガラス板の切断予定部を一方面側から支持する支持部材と、前記ガラス板の他方面上を前記切断予定部に沿って走行してスクライブラインを形成するカッターホイールとを備えたガラス板のスクライブ装置であって、
前記カッターホイールが通過前の前記切断予定部の他方面に液体を塗布する塗布手段と、走行中の前記カッターホイールの進行方向前方に位置する前記切断予定部を前記支持部材に押し付ける押付部材とを備え、
前記液体は、大気圧下での沸点が100℃以下であ
り、
前記切断予定部の他方面に前記液体を塗布しつつ、前記カッターホイールに先行して他方面上を前記切断予定部に沿って走行するローラーを備え、
前記ローラーが、前記塗布手段と前記押付部材とを兼ねることを特徴とするガラス板のスクライブ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板の表面上でカッターホイールを走行させることで、ガラス板の切断の起点となるスクライブラインを形成するガラス板のスクライブ方法、及びガラス板のスクライブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、製品ガラス板の製造工程には、これの元となるガラス板を切断する切断工程が含まれることが通例である。そして、ガラス板を切断するための手法の一つとして、折割りによる切断が広く利用されるに至っている。この折割りによる切断では、ガラス板に切断の起点となるスクライブラインを形成した後、スクライブラインの周辺に曲げモーメントを作用させる。これにより、スクライブラインに含まれるメディアンクラックをガラス板の厚み方向に進展させ、ガラス板を切断する。
【0003】
ここで、特許文献1には、ガラス板にスクライブラインを形成するための方法の一例が開示されている。同文献に開示された方法では、ガラス板を一方面側から支持部材(同文献においてはテーブル)で支持しつつ、ガラス板の他方面上で切断予定部(折割りによって切断される部位)に沿ってカッターホイールを走行させることにより、ガラス板にスクライブラインを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された方法を用いた場合には、下記のような解決すべき問題が生じている。
【0006】
すなわち、ガラス板には、その成形の過程で生じた熱歪の残留等に起因して反りが発生している場合がある。このようなガラス板においては、カッターホイールが走行することになる切断予定部が、反りに起因して支持部材から浮き上がった状態になりやすい。なお、ガラス板の厚みが薄いほど反りは発生しやすいため、ガラス板の薄板化が推進されている現状の下では、とりわけ切断予定部が浮き上がりやすくなっている。
【0007】
そして、切断予定部が浮き上がった状態となると、これに沿って走行中のカッターホイールが跳ねてしまい、ガラス板に均等な深さのスクライブラインを形成することが不可能となる。このため、折割りによる切断の際に、ガラス板の切断端面が蛇行して形成されたり、切断端面にクラックが生じたり、ガラス板に欠けや割れが発生したりすることに起因して、最終的に得られる製品ガラス板の品質が悪化してしまう不具合が発生する。
【0008】
そこで、カッターホイールの跳ねを防止するための対策として、スクライブラインの形成時にカッターホイールがガラス板を押圧する圧力を大きくすることで、支持部材から浮き上がった切断予定部を押え付けて平坦化させることが考えられる。
【0009】
ところが、このような対策を施した場合には、圧力が大きくなった分だけ不可避的にカッターホイールの摩耗が進行しやすくなり、カッターホイールの寿命が短縮されてしまう。換言すれば、均等な深さのスクライブラインを形成し得るカッターホイールの限界の走行距離が短くなる。そのため、カッターホイールを新品に交換する等の対応を頻繁に行う必要が生じ、製造コストが嵩んだり、製造効率が悪化したりする難点があった。
【0010】
上記の事情に鑑みなされた本発明は、ガラス板の切断予定部にスクライブラインを形成するにあたり、これに用いるカッターホイールの摩耗を抑制して、その長寿命化を図ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために創案された本発明に係る方法は、ガラス板の切断予定部を一方面側から支持部材で支持しつつ、他方面上で切断予定部に沿ってカッターホイールを走行させてスクライブラインを形成するガラス板のスクライブ方法であって、液体が塗布された状態の切断予定部の他方面上をカッターホイールに走行させると共に、走行中のカッターホイールの進行方向前方に位置する切断予定部を押付部材によって支持部材に押し付けることに特徴付けられる。
【0012】
この方法によれば、液体が塗布された状態の切断予定部の他方面上をカッターホイールに走行させることで、カッターホイールの摩耗を抑制することができる。なお、このような効果が得られるのは、走行中のカッターホイールに液体が付着することにより、下記のような作用が得られることに起因しているものと想定される。すなわち、液体がカッターホイールに発生した摩擦熱を抑制する作用や、カッターホイールを洗浄する作用に起因して、カッターホイールの摩耗が抑制されているものと考えられる。また、この方法においては、走行中のカッターホイールの進行方向前方に位置する切断予定部を押付部材によって支持部材に押し付けている。これにより、カッターホイールの進行方向前方では、切断予定部が支持部材に押し付けられて平坦な状態となっている。そして、この平坦化された切断予定部の他方面上をカッターホイールが走行することになる。従って、カッターホイールの跳ねを防止するために、カッターホイールがガラス板を押圧する圧力を大きくするような対策を施す必要がなくなる。その結果、カッターホイールの摩耗を更に抑制することが可能となる。以上のことから、この方法によれば、カッターホイールの摩耗を抑制でき、カッターホイールの長寿命化を図ることが可能である。
【0013】
上記の方法では、押付部材として、カッターホイールに先行して他方面上を切断予定部に沿って走行するローラーを用いると共に、走行中のローラーによって切断予定部の他方面に液体を塗布することが好ましい。
【0014】
このようにすれば、切断予定部を支持部材に押し付ける機能と、切断予定部の他方面に液体を塗布する機能との双方をローラーが備えることになる。そのため、押付部材としてのローラーに加え、切断予定部の他方面に液体を塗布するための塗布手段を別途に準備する必要がなくなる。これにより、スクライブラインの形成に要する設備コストを抑制することが可能となる。また、カッターホイールに先行して走行するローラーによって液体が塗布されることから、ローラーが液体を塗布した後、塗布領域をカッターホイールが通過するまでの時間を可及的に短縮することができる。これにより、液体として揮発性が高いものを用いた場合であっても、液体が揮発する前に塗布領域をカッターホイールに通過させることが可能となる。その結果、カッターホイールに液体を確実に付着させることができる。
【0015】
上記の方法では、スクライブラインの形成を開始するに際し、切断予定部の他方面に先に当接させたローラーにより切断予定部を支持部材に押し付けた後、カッターホイールを切断予定部の他方面に当接させることが好ましい。
【0016】
このようにすれば、カッターホイールが切断予定部の他方面に当接する際には、カッターホイールよりも先に当接させたローラーにより切断予定部が支持部材に押し付けられて平坦な状態となっている。このため、スクライブラインの形成を開始するに際し、カッターホイールが支持部材から浮き上がった切断予定部を支持部材側に押し込んで、切断予定部に過大な圧力が負荷されることを防止できる。これにより、ガラス板に割れが生じる等の不具合の発生を好適に回避することが可能となる。
【0017】
上記の方法では、ガラス板の外周端部を除外してスクライブラインを形成することが好ましい。
【0018】
このようにすれば、ガラス板の外周端部に圧力を負荷した場合、外周端部に含まれたクラック等を起点にガラス板が割れてしまう恐れがある。しかしながら、外周端部を除外してスクライブラインを形成するようにすれば、外周端部上をカッターホイールに走行させる必要が無くなることから、必然的に外周端部に圧力が負荷されることが回避される。そのため、ガラス板が割れてしまう恐れを的確に排除することができる。
【0019】
上記の方法では、ガラス板を縦姿勢とした状態で、スクライブラインを上下方向に沿って下方から上方に向かって形成することが好ましい。
【0020】
このようにすれば、カッターホイールの走行速度を安定させる上で好適となる。例えば、ガラス板を縦姿勢とした状態で、スクライブラインを上下方向に沿って上方から下方に向かって形成する場合に、一定速度でカッターホイールを走行させようとすると、重力の影響を相殺するためにブレーキを掛けながらカッターホイールを走行させる必要がある。しかしながら、本方法のようにスクライブラインを下方から上方に向かって形成すれば、このような必要をなくすことができる。また、下方から上方に向かって形成すれば、上方から下方に向かって形成する場合と比較して、塗布された液体が垂れて、本来あるべき領域から流出してしまうような事態が発生しにくくなる。これにより、液体の塗布領域を確実にカッターホイールに走行させやすくなる。
【0021】
上記の方法において、液体として、大気圧下での沸点が100℃以下の液体を用いることが好ましい。
【0022】
このようにすれば、液体が高い揮発性を有することになるため、スクライブラインの形成後においても液体が不当にガラス板上に残留し、ガラス板が汚染されるような事態の発生を回避することが可能となる。
【0023】
上記の方法において、液体として、アルコールを含んだ液体を用いることが好ましい。
【0024】
このようにすれば、液体がアルコールを含んでいるため、液体の揮発性をより高めることができる。これにより、ガラス板の汚染を防止する効果を更に向上させることが可能となる。
【0025】
上記の方法において、液体として、エタノールと水とを含む混合液を用いると共に、混合液に含まれるエタノールの割合を50%以上とすることが好ましい。
【0026】
このようにすれば、混合液に揮発性の高いエタノールが含まれることで、ガラス板の汚染を防止する効果が得られることに加えて、混合液に水が含まれることから、可燃性の高いエタノールの発火等を回避する効果をも得ることができる。なお、混合液に含まれた水によってガラス板が汚染されることが危惧されるが、このような危惧は下記の理由によって的確に排除される。すなわち、混合液に含まれるエタノールの割合が50%以上であることから、混合液に含まれる水の割合は必然的に50%以下に抑制されていることになる。このように水の割合を抑制することで、水によるガラス板の汚染は可及的に回避することができる。
【0027】
上記の方法において、ガラス板が可撓性を有していてもよい。
【0028】
可撓性を有するような厚みの薄いガラス板には反りが発生しやすいため、必然的にガラス板の切断予定部が支持部材から浮き上がりやすくなる。そのため、ガラス板が可撓性を有する場合に、切断予定部の浮き上がりを防止できる本発明を適用すれば、その効果を有効に活用することが可能である。
【0029】
また、上記の課題を解決するために創案された本発明に係る装置は、ガラス板の切断予定部を一方面側から支持する支持部材と、ガラス板の他方面上を切断予定部に沿って走行してスクライブラインを形成するカッターホイールとを備えたガラス板のスクライブ装置であって、カッターホイールが通過前の切断予定部の他方面に液体を塗布する塗布手段と、走行中のカッターホイールの進行方向前方に位置する切断予定部を支持部材に押し付ける押付部材とを備えることに特徴付けられる。
【0030】
このような構成によれば、上記のガラス板のスクライブ方法に係る説明で既に述べた事項と同一の作用・効果を得ることが可能である。
【0031】
上記の構成において、切断予定部の他方面に液体を塗布しつつ、カッターホイールに先行して他方面上を切断予定部に沿って走行するローラーを備え、ローラーが、塗布手段と押付部材とを兼ねることが好ましい。
【0032】
このようにすれば、上記のガラス板のスクライブ方法に係る説明で既に述べた事項と同一の作用・効果を得ることが可能である。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係るガラス板のスクライブ方法、及びガラス板のスクライブ装置によれば、ガラス板の切断予定部にスクライブラインを形成するにあたり、これに用いるカッターホイールの摩耗を抑制でき、当該カッターホイールの長寿命化を図ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の実施形態に係るガラス板のスクライブ装置の概略を示す縦断側面図である。
【
図2】
図1におけるA-A断面を示す横断平面図である。
【
図3a】本発明の実施形態に係るガラス板のスクライブ装置において、カッターホイール及びローラーの近傍を示す側面図である。
【
図3b】本発明の実施形態に係るガラス板のスクライブ装置において、カッターホイール及びローラーの近傍を示す正面図である。
【
図4a】実施例において、カッターホイールの摩耗の状態を示す図である。
【
図4b】比較例において、カッターホイールの摩耗の状態を示す図である。
【
図5a】実施例において、折割りによる切断後のガラス板の切断端面を示す図である。
【
図5b】比較例において、折割りによる切断後のガラス板の切断端面を示す図である。
【
図6】本発明の他の実施形態に係るガラス板のスクライブ装置において、カッターホイール及びローラーの近傍を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態に係るガラス板のスクライブ装置、及び、このガラス板のスクライブ装置が実行する本発明の実施形態に係るガラス板のスクライブ方法について、添付の図面を参照しながら説明する。
【0036】
図1及び
図2に示すように、ガラス板のスクライブ装置1(以下、スクライブ装置1と表記)は、主たる構成要素として、縦姿勢とされた矩形のガラス板Gの上辺部Gaを厚み方向に把持する把持部材2と、把持部材2に把持されたガラス板Gの切断予定部Gxを一方面Gb側から支持する支持部材3と、ガラス板Gの他方面Gc上を切断予定部Gxに沿って下方から上方に向かって走行しつつ、切断予定部Gxを押圧してスクライブラインを形成するカッターホイール4と、カッターホイール4に先行して他方面Gc上を走行しながら切断予定部Gxを支持部材3に押し付けると共に、その回転周部5aに染み込んだ液体Lを切断予定部Gxに塗布するローラー5と、ローラー5の回転周部5aに対して液体Lを補充するための補充装置6と、補充装置6に液体Lを供給するための供給装置7とを備えている。
【0037】
このスクライブ装置1においては、ローラー5単体が、切断予定部Gxを支持部材3に押し付ける押付部材としての機能と、切断予定部Gxに液体Lを塗布する塗布手段としての機能とを兼ね備えている。なお、切断予定部Gxに塗布する液体Lとしては、大気圧下での沸点が100℃以下の液体を使用している。このような液体Lの例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール等のアルコールや、これらのアルコールを含んだ液体を挙げることができ、一つの具体例としては、エタノールと水とを混合した混合液を挙げることができる。このエタノールと水との混合液を液体Lとして使用する場合には、混合液に含まれるエタノールの割合を50%以上とする。
【0038】
ガラス板Gは、スクライブ装置1の上方に配置された成形装置(図示省略)がダウンドロー法によって成形し、成形装置から降下してきた長尺なガラスリボンを所定の長さ毎に切断して切り出したものである。このガラス板Gは、最終的に得られる製品ガラス板には不要となる非有効部Gyを幅方向(
図1では紙面に対して鉛直な方向、
図2では左右方向)の両端にそれぞれ備えると共に、両非有効部Gyの間に製品ガラス板となる有効部Gzを備えている。そして、両非有効部Gyのうち、一方側の非有効部Gyと有効部Gzとの境界、及び他方側の非有効部Gyと有効部Gzとの境界が、それぞれ上下方向に沿って延びる切断予定部Gxをなしている。スクライブ装置1は、ガラスリボンから順々に切り出されたガラス板Gに対し、二つの切断予定部Gxの各々にスクライブラインを形成する構成とされている。また、ガラス板Gは、例えば200μm~2000μmの範囲内の厚みに成形されており、可撓性を有している。なお、ガラス板Gには、その成形の過程で生じた熱歪の残留等に起因して反りが発生している。
【0039】
把持部材2は、
図1に矢印B‐Bで示すように、ガラス板Gの厚み方向に沿って開閉するチャック部2aを備えており、チャック部2aの開閉に伴ってガラス板Gの把持、及びその解除を行うことが可能となっている。この把持部材2は、以下の(1)~(4)の動作を繰り返し実行するように構成されている。
【0040】
(1)ガラスリボンから切り出されたガラス板Gがスクライブラインを形成するための形成領域(
図1においてガラス板Gが位置している領域)に搬入されると、チャック部2aを閉じてガラス板Gを把持する。(2)スクライブラインの形成の開始から終了までの間、ガラス板Gを把持した状態を維持する。(3)ガラス板Gへのスクライブラインの形成が終了すると、ガラス板Gを形成領域から移送するための移送装置(図示省略)のチャック(図示省略)にガラス板Gを把持させた後、把持部材2自身はチャック部2aを開いてガラス板Gの把持を解除する。これにより、把持部材2から移送装置にガラス板Gが受け渡される。なお、移送装置は、折割りによる切断を行うための切断領域(図示省略)にガラス板Gを移送した後、折割装置(図示省略)にガラス板Gを受け渡す。(4)ガラス板Gの把持を解除した後、新たにガラスリボンから切り出されたガラス板Gが形成領域に搬入されるまで待機する。
【0041】
支持部材3は、切断予定部Gxの上下方向に沿った全長を支持することが可能であると共に、
図1に矢印C‐Cで示すように、ガラス板Gに対して接近及び離反するように移動することが可能となっている。また、支持部材3は、切断予定部Gxと当接する部位が弾性部材3aで構成されており、支持部材3との当接に起因してガラス板Gの一方面Gbに傷が発生することを弾性部材3aが防止している。弾性部材3aとしては、例えばゴム板を使用することができる。上記の支持部材3は、以下の(5)~(8)の動作を繰り返し実行するように構成されている。
【0042】
(5)形成領域に搬入されたガラス板Gが把持部材2によって把持されると、ガラス板Gに一方面Gb側から接近して切断予定部Gxに当接し、当該切断予定部Gxを支持する。なお、
図2に示すように、支持部材3は、非有効部Gyと有効部Gzとの両部に跨った状態で切断予定部Gxを支持する。(6)スクライブラインの形成の開始から終了までの間、切断予定部Gxを支持した状態を維持する。(7)スクライブラインの形成が終了すると、ガラス板Gから離反して切断予定部Gxの支持を解除する。(8)切断予定部Gxの支持を解除した後、新たなガラス板Gが形成領域に搬入されるまで待機する。
【0043】
カッターホイール4及びローラー5の両者は、相互間の間隔Dが一定に維持された状態で共にカッターユニット8に保持されている。これにより、スクライブラインを形成する際には、カッターホイール4及びローラー5が、同期してガラス板Gの他方面Gc上を一体的に走行することが可能となっている。ここで、以下の(a)及び(b)の目的を達成するため、カッターホイール4とローラー5との相互間の間隔Dは、100mm以下とすることが好ましく、50mm以下とすることがより好ましい。(a)ローラー5によって切断予定部Gxに塗布された液体Lが揮発する前に、液体Lの塗布領域をカッターホイール4に通過させる。(b)ローラー5により支持部材3に押し付けられて平坦な状態となった切断予定部Gxが、カッターホイール4の通過前に支持部材3から再び浮き上がることを防止する。
【0044】
カッターユニット8は、カッターホイール4と連結された第一シリンダー機構9と、ローラー5と連結された第二シリンダー機構10とを内蔵している。また、第二シリンダー機構10には、その内圧を調節するためのレギュレーター11が接続されている。カッターホイール4が切断予定部Gxを押圧する荷重は、第一シリンダー機構9の内圧の大小によって決定される。この荷重の大きさは、3N~8Nの範囲内とすることが好ましい。また、ローラー5が切断予定部Gxを支持部材3に押し付ける荷重は、レギュレーター11により第二シリンダー機構10の内圧を調節することで決定される。この荷重の大きさは、3N~15Nの範囲内とすることが好ましい。さらに、レギュレーター11によって第二シリンダー機構10の内圧を変化させることで、
図1に矢印E‐Eで示すように、ローラー5は、カッターホイール4とは独立して前進動作、及び後退動作を行うことが可能となっている。これにより、ローラー5の位置を、カッターホイール4よりもガラス板G側に突出した位置、或いは、反ガラス板G側に退避した位置に移動させることが可能となっている。
【0045】
ローラー5は、
図2に示すように、非有効部Gyと有効部Gzとの両部に跨った状態で切断予定部Gxを支持部材3に押し付け、且つ、液体Lを塗布するように構成されている。軸線5bを中心に回転するローラー5の回転周部5aには、常に液体Lが染み込んだ状態となっている。この回転周部5aは、吸水性及び保水性に優れ、且つ、アスカーF硬度が40~100(より好ましくは、70~95)である材質で構成することが好ましく、例えば、多数の微細気孔を備えたポリウレタンフォームや、ポリイミド発泡体、メラミン樹脂発泡体、ポリアミドフォーム、メタアラミド繊維等の耐熱繊維の不織布等で構成することができる。また、回転周部5aの幅H(ガラス板Gの他方面Gcと当接する幅)は、3mm~30mmとすることが好ましく、5mm~15mmとすることがより好ましい。回転周部5aの幅Hが小さすぎると、液体Lの塗布領域から外れてカッターホイール4が走行する恐れがある。一方、回転周部5aの幅Hが大きすぎると、有効部Gzへの液体Lの付着量が多くなり、有効部Gzが汚れやすい。なお、ローラー5は、フリーローラーである。
【0046】
上記のカッターユニット8は、以下の(9)~(11)の動作を繰り返し実行するように構成されている。
【0047】
(9)切断予定部Gxが支持部材3に支持された後、ガラス板Gに他方面Gc側から接近し、保持したカッターホイール4及びローラー5を切断予定部Gxに当接させる。このとき、第二シリンダー機構10の内圧の調節により、保持したローラー5をカッターホイール4よりもガラス板G側に突出させた状態でガラス板Gに接近し、ローラー5をカッターホイール4よりも先に切断予定部Gxに当接させる。つまり、予めローラー5により切断予定部Gxを支持部材3に押し付けて平坦にした後で、カッターホイール4を切断予定部Gxに当接させている。これにより、スクライブラインの形成を開始するに際し、カッターホイール4が支持部材3から浮き上がった切断予定部Gxを支持部材3側に押し込んで、切断予定部Gxに過大な圧力が負荷されることを防止している。ここで、ローラー5がカッターホイール4よりもガラス板G側に突出した突出寸法は、0.5mm~5mmの範囲内とすることが好ましい。カッターホイール4が切断予定部Gxに当接した位置は、スクライブラインの始端となる。なお、本実施形態では、ガラス板Gの下辺部Gdから上方に離間した位置をスクライブラインの始端としている。
【0048】
(10)カッターホイール4及びローラー5が切断予定部Gxに当接すると、第一シリンダー機構9及び第二シリンダー機構10の内圧を一定に保った状態で、
図1に矢印Fで示すように上昇移動を開始する。この上昇移動に伴って、
図3aに示すように、走行中のカッターホイール4の進行方向前方において、ローラー5が切断予定部Gxを支持部材3に押し付ける。また、
図3bに示すように、ローラー5の回転周部5aに染み込んだ液体Lが切断予定部Gxに塗布される。そして、ローラー5に後続して液体Lの塗布領域(同図にクロスハッチングを施した領域)をカッターホイール4が走行する。これにより、切断予定部Gxに沿ってスクライブラインSが形成される。なお、本実施形態では、ガラス板Gの上辺部Gaから下方に離間した位置をスクライブラインSの終端としている。つまり、本実施形態では、ガラス板Gの外周端部の一部をなす上辺部Ga及び下辺部Gdを除外してスクライブラインSを形成している。
【0049】
(11)スクライブラインの形成が終了すると、
図1に二点鎖線(想像線)で示すように、ガラス板Gから離間するように移動した後、停止する。そして、停止中に補充装置6からローラー5の回転周部5aに対する液体Lの補充を受けて、回転周部5aに液体Lを染み込ませる。液体Lの補充が完了すると、下降移動して新たなガラス板Gが形成領域に搬入されるまで待機する。
【0050】
補充装置6は、定点に固定して設置されると共に、ローラー5の回転周部5aに向けて上方から液体Lを噴霧することにより、回転周部5aに液体Lを補充するように構成されている。この補充装置6としては、例えば電磁弁等を使用することができる。補充装置6が回転周部5aに向けて液体Lを噴霧する時間、及び噴霧する液体Lの量は、任意に設定することが可能となっている。
【0051】
供給装置7は、液体Lを貯留するタンク状の構成を有すると共に、液体Lの流路12を介して補充装置6と接続されている。また、供給装置7は、空気Kの流路13とも接続されており、流路13を通じて供給装置7に流入した空気Kの圧力により、流路12を通じて液体Lを補充装置6に送り出すことが可能となっている。なお、流路12及び流路13としては、例えばホース等を用いることができる。
【0052】
以下、上記のスクライブ装置1が実行する本発明の実施形態に係るガラス板のスクライブ方法について、その主たる作用・効果を説明する。
【0053】
このガラス板のスクライブ方法によれば、液体Lが塗布された状態の切断予定部Gxの他方面Gc上をカッターホイール4が走行することにより、カッターホイール4の摩耗を抑制することができる。また、走行中のカッターホイール4の進行方向前方に位置する切断予定部Gxをローラー5によって支持部材3に押し付けることで、平坦な状態となった切断予定部の他方面Gc上をカッターホイール4に走行させることが可能である。これにより、走行中のカッターホイール4の跳ねを防止するために、カッターホイール4がガラス板Gを押圧する圧力を大きくするような対策を施す必要がなくなる。従って、カッターホイール4の摩耗を更に抑制することができる。以上のことから、カッターホイール4の長寿命化を図ることが可能である。
【実施例】
【0054】
本発明の実施例及び比較例として、下記の条件(実施例と比較例との各々について1条件ずつ)の下でガラス板にスクライブラインを形成し、これに用いたカッターホイールの摩耗の状態について検証を行った。
【0055】
まず、実施例におけるスクライブラインの形成条件について説明する。
【0056】
実施例においては、上記の実施形態と同一の態様によってガラス板にスクライブラインを形成した。スクライブラインの形成の対象としたガラス板は、日本電気硝子社製のガラス板(製品名:OA-10G)である。ガラス板の寸法(上下寸法×幅寸法×厚み寸法)は、2580mm×2260mm×0.5mmである。使用したカッターホイールは、ダイヤモンドチップ(直径:3mm、刃先角度:125°)である。ローラーとしては、ロール形状のポリウレタンフォーム(アスカーF硬度:81、気孔率:80%、引張強度1.5MPa)を使用した。このローラーの回転周部の幅(ガラス板の他方面と当接する幅)は、8mmである。液体としては、エタノール(沸点:78.3℃)を使用した。
【0057】
カッターホイールが切断予定部を押圧する荷重は、4Nで一定とした。ローラーが切断予定部を支持部材に押し付ける荷重は、7Nとした。スクライブラインは、ガラス板の下辺部から15mm上方に離間した位置を始端とし、ガラス板の上辺部から15mm下方に離間した位置を終端として形成した。カッターホイール及びローラーが切断予定部に沿って下方から上方に向かって走行する速度は、300mm/sとした。カッターホイールとローラーとの相互間の間隔は、30mmとした。以上の条件の下で、カッターホイール(新品)を交換することなく多数枚のガラス板に対して連続的にスクライブラインを形成し続けた。
【0058】
次に、比較例におけるスクライブラインの形成条件について説明する。なお、比較例における形成条件の説明では、上記の実施例における形成条件と相違する点についてのみ説明する。
【0059】
比較例においては、ガラス板のスクライブ装置からローラーを取り除いた。つまり、ローラーによる切断予定部の支持部材への押し付け、及び、ローラーによる切断予定部への液体の塗布を実行しなかった。また、カッターホイールが切断予定部を押圧する荷重の初期値を、上記の実施例と同一の値である4Nとした。そして、この圧力の下でスクライブラインの形成を開始して、均等な深さのスクライブラインの形成が不可能となった場合、その度に荷重を1Nずつ大きくした。以上の条件の下で、カッターホイール(新品)を交換することなく多数枚のガラス板に対して連続的にスクライブラインを形成し続けた。
【0060】
図4aは、実施例において、スクライブラインを形成し続けた結果、その総走行距離が約600kmに達したカッターホイールの刃先を拡大して示す図である。一方、
図4bは、比較例において、スクライブラインを形成し続けた結果、その総走行距離が約10kmに達したカッターホイールの刃先を拡大して示す図である。これらの図を比較すると、実施例においては、比較例に対してカッターホイールの総走行距離が約60倍に達しているにも関わらず、刃先の摩耗が比較例よりも抑制されていることが分かる。
【0061】
図5aは、実施例において、総走行距離が約600kmに達したカッターホイールによりスクライブラインを形成した後、折割りによって切断したガラス板の切断端面を示す図である。一方、
図5bは、比較例において、総走行距離が約10kmに達したカッターホイールによりスクライブラインを形成した後、折割りによって切断したガラス板の切断端面を示す図である。これらの図を比較すると、比較例では、切断端面にクラックが発生しているのに対し、実施例では、クラックの無い綺麗な切断端面が得られていることが分かる。このことは、実施例では、カッターホイールの総走行距離が比較例の約60倍に達した時点においても、均等な深さのスクライブラインの形成が可能であったことを示唆している。
【0062】
上記の実施例と比較例との結果から、本発明に係るガラス板のスクライブ装置、及びガラス板のスクライブ方法によれば、ガラス板の切断予定部にスクライブラインを形成するにあたり、これに用いるカッターホイールの摩耗を抑制でき、当該カッターホイールの長寿命化を図ることが可能となるものと推認される。
【0063】
ここで、本発明に係るガラス板のスクライブ方法、及び、ガラス板のスクライブ装置は、上記の実施形態で説明した態様、構成に限定されるものではない。上記の実施形態においては、ローラー単体が、切断予定部を支持部材に押し付ける押付部材としての機能と、切断予定部に液体を塗布する塗布手段としての機能とを兼ね備えているが、押付部材と塗布手段とを別々に設けるようにしてもよい。例えば、
図6に示すように、ローラー5を押付部材としてのみ機能させると共に、切断予定部Gxが延びる方向と平行に移動しつつ、液体Lを噴霧することで切断予定部Gxに液体Lを塗布するノズル14を別途に塗布手段として設けてもよい。なお、
図6で示す形態では、ノズル14が、走行中のローラー5及びカッターホイール4の相互間に位置する切断予定部Gxに向けて液体Lを噴霧しているが、ローラー5の進行方向前方に位置する切断予定部Gxに向けて液体Lを噴霧するようにしてもよい。さらに、押付部材としては、必ずしもローラーを用いる必要はなく、走行中のカッターホイールの進行方向前方に位置する切断予定部を支持部材に押し付けることが可能なものであれば、ローラーに代用することができる。
【0064】
また、上記の実施形態においては、スクライブラインを上下方向に沿って形成(詳細には下方から上方に向かって形成)しているが、この限りではない。例えば、ガラス板の幅方向に沿ってスクライブラインを形成する場合にも、本発明を適用することが可能である。一つの具体例を挙げると、ダウンドロー法を実行する成形装置から降下中のガラスリボン(帯状のガラス板)に対し、その幅方向に沿ってスクライブラインを形成する場合に、本発明を適用することが可能である。この場合、ローラーの回転周部は、耐熱繊維(メタアラミド繊維等)の不織布で構成することが好ましい。この理由としては、ガラスリボンの熱による回転周部の劣化を可及的に抑制するためである。
【0065】
また、上記の実施形態においては、スクライブラインの形成を一回終了する度に、補充装置からローラーの回転周部に対して液体の補充を行っているが、これに限定されるものではない。スクライブラインの形成が所定の回数(複数回)終了する毎に、補充装置からローラーの回転周部に対して液体の補充を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 ガラス板のスクライブ装置
3 支持部材
4 カッターホイール
5 ローラー(押付部材)
14 ノズル
G ガラス板
Gb 一方面
Gc 他方面
Gx 切断予定部
S スクライブライン
L 液体