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特許7007923半導体発光素子および半導体発光素子の製造方法
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  • 特許-半導体発光素子および半導体発光素子の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】半導体発光素子および半導体発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/20 20100101AFI20220118BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20220118BHJP
【FI】
H01L33/20
H01L33/32
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018004953
(22)【出願日】2018-01-16
(65)【公開番号】P2019125681
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】浅野 英樹
【審査官】大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-111102(JP,A)
【文献】国際公開第2017/072859(WO,A1)
【文献】特開2017-120837(JP,A)
【文献】特表2012-513681(JP,A)
【文献】特開2004-363343(JP,A)
【文献】特開2003-046134(JP,A)
【文献】特開2008-277592(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0315013(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107331736(CN,A)
【文献】特開2017-220535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00 - 33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線を発する発光部と、
前記発光部が発する紫外線が取り出される取り出し面の一部を覆う被覆部と、を備え
前記被覆部は、互いに離れた複数の孤立部で構成されており、
前記孤立部は、直径または一辺が1μm以上100μm以下であり、
前記孤立部は、前記取り出し面を構成する第1の材料の屈折率よりも低い屈折率を有する第2の材料で構成されており、
前記第1の材料は、サファイア基板または窒化アルミニウム基板であり、
前記第2の材料は、飽和結合のみを有する非晶質全フッ素化樹脂であることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
前記複数の孤立部は、ドット状に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記第2の材料は、紫外線に対する透過率が80%以上の樹脂材料であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記取り出し面は、前記被覆部で覆われてない部分の割合が10~90%であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の半導体発光素子。
【請求項5】
紫外線を発する発光部を準備する工程と、
前記発光部が発する紫外線が取り出される取り出し面の上に印刷で被覆部を形成する工程と、を含み、
前記被覆部は、互いに離れた複数の孤立部で構成されており、
前記孤立部は、直径または一辺が1μm以上100μm以下であり、
前記孤立部は、前記取り出し面を構成するサファイア基板または窒化アルミニウム基板の屈折率よりも低い屈折率を有し、飽和結合のみを有する非晶質全フッ素化樹脂で構成されている、
ことを特徴とする半導体発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子および半導体発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、波長の短い紫外線を発する半導体発光素子の開発が進められている。このような紫外線用の半導体発光素子は、窒化物系の半導体層で構成されたn型層、活性層、p型層などの各層が基板上に所定の順に積層されている。このような半導体発光素子は、活性層が発する紫外線を基板や各半導体層を介して外部へ取り出さなければならないが、通常の窒化物系の半導体層の屈折率が空気より非常に大きいこと、また、半導体層を構成する窒化物系の一部の材料(例えば窒化ガリウム)において紫外線の吸収が大きいことにより、そのままでは光取り出し効率の向上が難しい。
【0003】
そこで、屈折率が空気よりも高い樹脂で半導体発光素子の発光面を封止することで、発光面を挟んだ屈折率差による内面反射を低減することが行われている。また、発光面での内面反射を低減するために、発光面に微小な凹凸形状が形成された半導体発光素子も知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-66557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、半導体発光素子の発光面を樹脂で覆うことで発光面での内面反射が低減され、光取り出し効率の向上は図られる。しかしながら、紫外線に対して耐久性を有するとされる樹脂も、発光素子のオンオフに伴う温度サイクル、紫外線の吸収、樹脂内部の残留応力といった様々な要因により、クラックや発光面との剥離が生じることがある。そのため、耐久性や信頼性の観点からは更なる改善が必要である。
【0006】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的のひとつは、紫外線を発する半導体発光素子の耐久性や信頼性を更に向上する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の半導体発光素子は、紫外線を発する発光部と、発光部が発する紫外線が取り出される取り出し面の一部を覆う被覆部と、を有する。被覆部は、互いに離れた複数の孤立部で構成されており、孤立部は、取り出し面を構成する第1の材料の屈折率よりも低い屈折率を有する第2の材料で構成されている。
【0008】
一般的に、紫外線を発する発光部を構成する材料は、空気と比較して大きな屈折率を有するものが多い。そのため、光取り出し面が空気に露出している状態では、発光部内で内面反射する紫外線が多くなり、光取り出し効率は低くなる。そこで、この態様によると、少なくとも取り出し面と被覆部との界面での屈折率差が少なくなり、光取り出し効率が向上する。また、被覆部は、互いに離れた複数の孤立部で構成されているため、各孤立部の内部での残留応力を小さくできる。その結果、取り出し面と被覆部との界面で生じる引っ張り応力や圧縮応力が緩和され、界面での被覆部の剥離やクラックの発生が低減される。
【0009】
複数の孤立部は、ドット状に配置されていてもよい。これにより、孤立部を規則的に分散配置することができる。
【0010】
孤立部は、直径または一辺が1μm以上100μm以下であってもよい。これにより、印刷等の比較的簡易な方法で孤立部を形成できる。
【0011】
第2の材料は、飽和結合のみを有する非晶質全フッ素化樹脂であってもよい。これにより、紫外線に対する耐久性を向上できる。
【0012】
第2の材料は、紫外線に対する透過率が80%以上の樹脂材料であってもよい。これにより、高効率な半導体発光素子を実現できる。
【0013】
第1の材料は、サファイア基板または窒化アルミニウム基板であってもよい。
【0014】
取り出し面は、被覆部で覆われてない部分の割合が10~90%であってもよい。
【0015】
本発明の別の態様は、半導体発光素子の製造方法である。この方法は、紫外線を発する発光部を準備する工程と、発光部が発する紫外線が取り出される取り出し面の上に印刷で被覆部を形成する工程と、を含む。被覆部は、互いに離れた複数の孤立部で構成されており、孤立部は、取り出し面を構成する基板材料の屈折率よりも低い屈折率を有する樹脂材料で構成されている。
【0016】
この態様によると、少なくとも取り出し面と被覆部との界面での屈折率差が少なくなり、光取り出し効率が向上する。また、被覆部は、互いに離れた複数の孤立部で構成されているため、各孤立部の内部での残留応力を小さくできる。その結果、取り出し面と被覆部との界面で生じる引っ張り応力や圧縮応力が緩和され、界面での被覆部の剥離やクラックの発生が低減された半導体発光素子を製造できる。
【0017】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、紫外線を発する半導体発光素子の耐久性や信頼性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施の形態に係る半導体発光素子の概略構成を示す斜視図である。
図2】本実施の形態に係る半導体発光素子の構成を概略的に示す断面図である。
図3図3(a)~図3(b)は、発光部上の孤立部の変形例を模式的に示した図である。
図4】本実施の形態に係る半導体発光素子の製造方法を示すフローチャートである。
図5】半導体発光素子の全体を樹脂で封止した場合に耐久性に影響のある現象を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0021】
前述のように、屈折率が空気よりも高い樹脂で半導体発光素子の発光面を封止することで、発光面を挟んだ屈折率差による内面反射を低減することが可能である。しかしながら、樹脂はガラスやセラミックスと比較して耐光性は劣る。特に紫外線を発する半導体発光素子の場合、紫外線に対して耐久性のある樹脂は限られている。
【0022】
図5は、半導体発光素子の全体を樹脂で封止した場合に耐久性に影響のある現象を説明するための模式図である。
【0023】
図5に示す半導体発光素子10は、紫外線を発する発光部12と、発光部12の内部で生じた紫外線を取り出す取り出し面12aおよび側面12bを被覆して封止する封止樹脂14と、を有する。発光部12の取り出し面12aは、一辺の大きさが0.5~3mm程度の四角形であり、例えば、サファイアや窒化アルミニウムといった透明なセラミックス基板で構成されているが、これらの基板は屈折率が非常に高い(1.8~2.4)。そのため、基板の屈折率と空気の屈折率との間の屈折率を有する封止樹脂で取り出し面12aを被覆することで、光取り出し効率の向上が図られている。
【0024】
しかしながら、紫外線に対して耐久性が高い樹脂であるフッ素系樹脂やシリコーン系樹脂は、セラミックス基板と比較して線膨張係数が1桁程度大きい。そのため、発光部12を覆うように封止樹脂14をポッティングし、加熱して硬化した後、使用環境まで温度を下げると、封止樹脂14は内部に応力が残留した状態となる。
【0025】
例えば、紫外線に対する耐久性が高いフッ素樹脂の一つである旭硝子株式会社製のサイトップS(CytopS;登録商標)の線膨張係数は7.4×10-5/℃であり、サファイア基板の線膨張係数は7.0×10-6/℃である。熱硬化温度を180℃、使用環境温度を30℃、サイトップSのヤング率を約2GPaとして、内部応力を概算すると、下記式で示す値となる。
(7.4×10-5-7.0×10-6)[1/℃]×(180-30)[℃]×2[GPa]≒2[kg/mm
【0026】
つまり、サファイア基板とフッ素樹脂との界面には、熱硬化後に使用環境まで温度を下げる過程で、1mmあたり2kgの残留応力が生じることになる。また、この応力は、封止樹脂14の厚みに比例するので、図5に示すように発光部12を半球状に封止する場合、残留応力は非常に大きなものとなる。そのため、形状に起因して応力が集中しやすい発光部12の角部にクラック16が生じやすい。また、発光部12の取り出し面12aの、特に紫外線出力強度の高い中央部において、基板と樹脂との間で剥離18を生じることがある。このような現象は、取り出し面の材料の線膨張係数に対して被覆部の線膨張係数が大きく異なるときに顕著であるが、仮に取り出し面の材料の線膨張係数に対して被覆部の線膨張係数が少しでも異なっていれば(例えば、基板の線膨張係数の2倍以上)、後述する対策は有効である。
【0027】
このように、発光部の取り出し面を発光部の材料よりも屈折率の低い材料で被覆することで、光取り出し効率を向上できる一方、このような低屈折率材料の内部の残留応力が耐久性に影響を及ぼすことがわかる。
【0028】
そこで、本発明者は、これらの知見に基づいて、低屈折率材料の内部の残留応力を低減することで半導体発光素子の耐久性や信頼性を向上できることに想到した。より詳述すると、発光部の取り出し面を被覆する低屈折率材料の大きさを小さくし、応力を分散することで、クラックや剥離を抑制できることに想到した。
【0029】
図1は、本実施の形態に係る半導体発光素子100の概略構成を示す斜視図である。図2は、本実施の形態に係る半導体発光素子の構成を概略的に示す断面図である。
【0030】
半導体発光素子100は、紫外線を発する発光部50と、発光部50が発する紫外線が取り出される取り出し面50aの一部を覆う被覆部60と、を有する。発光部50は、ベース構造体20と、発光構造体30とを備える。ベース構造体20は、基板22、第1ベース層24、第2ベース層26を含む。発光構造体30は、n型クラッド層32、活性層34、電子ブロック層36、p型クラッド層38、p側電極40、n側電極42を含む。
【0031】
発光部50は、中心波長が約365nm以下となる「深紫外線」を発するように構成されている。このような波長の深紫外線を出力するため、活性層34は、バンドギャップが約3.4eV以上となる窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系半導体材料で構成される。本実施の形態では、特に中心波長が約310nm以下の深紫外線を発する場合について示す。
【0032】
本明細書において、「AlGaN系半導体材料」とは、主に窒化アルミニウム(AlN)と窒化ガリウム(GaN)を含む半導体材料のことをいい、窒化インジウム(InN)などの他の材料を含有する半導体材料を含むものとする。したがって、本明細書にいう「AlGaN系半導体材料」は、例えば、In1-x-yAlGaN(0≦x+y≦1、0≦x≦1、0≦y≦1)の組成で表すことができ、AlN、GaN、AlGaN、窒化インジウムアルミニウム(InAlN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化インジウムアルミニウムガリウム(InAlGaN)を含むものとする。
【0033】
また「AlGaN系半導体材料」のうち、AlNを実質的に含まない材料を区別するために「GaN系半導体材料」ということがある。「GaN系半導体材料」には、主にGaNやInGaNが含まれ、これらに微量のAlNを含有する材料も含まれる。同様に、「AlGaN系半導体材料」のうち、GaNを実質的に含まない材料を区別するために「AlN系半導体材料」ということがある。「AlN系半導体材料」には、主にAlNやInAlNが含まれ、これらに微量のGaNが含有される材料も含まれる。
【0034】
基板22は、サファイア(Al)基板である。基板22は、変形例において窒化アルミニウム(AlN)基板であってもよい。基板22は、第1主面22aと、第1主面22aの反対側の第2主面22bとを有する。第1主面22aは、結晶成長面となる一主面であり、例えば、サファイア基板の(0001)面である。第2主面22bは、紫外線を取り出す取り出し面50aとなる一主面である。
【0035】
基板22の厚さtは、1μm以上であり、例えば、5μm、10μm、100μm、300μm、500μm程度の厚さを有する。基板22の第1主面22a上には、第1ベース層24および第2ベース層26が積層される。第1ベース層24は、AlN系半導体材料で形成される層であり、例えば、高温成長させたAlN(HT-AlN)層である。第2ベース層26は、AlGaN系半導体材料で形成される層であり、例えば、アンドープのAlGaN(u-AlGaN)層である。
【0036】
基板22、第1ベース層24および第2ベース層26は、n型クラッド層32から上の層を形成するための下地層(テンプレート)として機能する。また、これらの層は、活性層34が発する深紫外線を外部に取り出すための光取出層として機能し、活性層34が発する深紫外線が透過する。第1ベース層24および第2ベース層26は、活性層34が発する深紫外線の透過率が高まるように、活性層34よりもAlN比率の高いAlGaN系またはAlN系材料で構成されることが好ましく、活性層34より低屈折率の材料で構成されることが好ましい。
【0037】
また、第1ベース層24および第2ベース層26は、基板22より高屈折率の材料で構成されることが好ましい。例えば、基板22がサファイア基板(屈折率n=1.8程度)であり、活性層34がAlGaN系半導体材料(屈折率n=2.4~2.6程度)である場合、第1ベース層24や第2ベース層26は、AlN層(屈折率n=2.1程度)や、AlN組成比が相対的に高いAlGaN系半導体材料(屈折率n=2.2~2.3程度)で構成されることが好ましい。
【0038】
n型クラッド層32は、第2ベース層26の上に設けられるn型半導体層である。n型クラッド層32は、n型のAlGaN系半導体材料で形成され、例えば、n型の不純物としてシリコン(Si)がドープされるAlGaN層である。n型クラッド層32は、活性層34が発する深紫外線を透過するように組成比が選択され、例えば、AlNのモル分率が40%以上、好ましくは、50%以上となるように形成される。n型クラッド層32は、活性層34が発する深紫外線の波長よりも大きいバンドギャップを有し、例えば、バンドギャップが4.3eV以上となるように形成される。n型クラッド層32は、1μm~3μm程度の厚さを有し、例えば、2μm程度の厚さを有する。
【0039】
活性層34は、n型クラッド層32の一部領域上に形成される。活性層34は、AlGaN系半導体材料で形成され、n型クラッド層32と電子ブロック層36に挟まれてダブルヘテロ接合構造を構成する。活性層34は、単層若しくは多層の量子井戸構造を構成してもよい。このような量子井戸構造は、例えば、アンドープのAlGaN系半導体材料で形成されるバリア層と、アンドープのAlGaN系半導体材料で形成される井戸層とを積層させることにより形成される。活性層34は、波長355nm以下の深紫外線を出力するためにバンドギャップが3.4eV以上となるように構成され、例えば、波長310nm以下の深紫外線を出力できるようにAlN組成比が選択される。
【0040】
電子ブロック層36は、活性層34の上に形成される。電子ブロック層36は、p型のAlGaN系半導体材料で形成される層であり、例えば、アンドープのAlGaN層である。電子ブロック層36は、例えば、AlNのモル分率が40%以上、好ましくは、50%以上となるように形成される。電子ブロック層36は、AlNのモル分率が80%以上となるように形成されてもよく、実質的にGaNを含まないAlN系半導体材料で形成されてもよい。電子ブロック層36は、p型の不純物としてマグネシウム(Mg)がドープされるAlGaN系半導体材料またはAlN系半導体材料で形成されてもよい。電子ブロック層36は、1nm~10nm程度の厚さを有し、例えば、2nm~5nm程度の厚さを有する。
【0041】
p型クラッド層38は、電子ブロック層36の上に形成される。p型クラッド層38は、p型のAlGaN系半導体材料で形成される層であり、例えば、MgドープのAlGaN層である。p型クラッド層38は、電子ブロック層36よりもAlNのモル分率が低くなるように組成比が選択される。p型クラッド層38は、10nm~1000nm程度の厚さを有し、例えば、400nm~600nm程度の厚さを有する。
【0042】
p側電極40は、p型クラッド層38の上に設けられる。p側電極40は、p型クラッド層38との間でオーミック接触が実現できる材料で形成され、例えば、ニッケル(Ni)/金(Au)の積層構造により形成される。
【0043】
n側電極42は、n型クラッド層32の上に設けられる。n側電極42は、Ti/Al系電極であり、例えば、チタン(Ti)/Al/Ti/AuまたはTi/Al/Ni/Auの積層構造により形成される。
【0044】
被覆部60は、互いに離れた複数の孤立部60aで構成されている。孤立部60aは、取り出し面50aを構成する基板22の屈折率よりも低い屈折率を有する材料で構成されている。
【0045】
一般的に、紫外線を発する発光部50を構成する材料は、空気と比較して大きな屈折率を有するものが多い。そのため、取り出し面50aが空気に露出している状態では、発光部50内で内面反射する紫外線が多くなり、光取り出し効率は低くなる。
【0046】
本実施の形態に係る半導体発光素子100は、少なくとも取り出し面50aと被覆部60との界面での屈折率差が少なくなり、光取り出し効率が向上する。また、被覆部60は、互いに離れた複数の孤立部60aで構成されているため、各孤立部60aの内部での残留応力を小さくできる。その結果、取り出し面50aと被覆部60との界面で生じる引っ張り応力や圧縮応力が緩和され、界面での被覆部60の剥離やクラックの発生が低減される。
【0047】
また、本実施の形態に係る半導体発光素子100は、複数の孤立部60aがドット状に配置されている。これにより、孤立部60aを規則的に分散配置することができる。なお、孤立部60aの形状は、図2に示す半球状(上面視における円形)に限られない。
【0048】
図3(a)~図3(b)は、発光部上の孤立部の変形例を模式的に示した図である。図3(a)に示す孤立部62aは、正方形であり、隣接する孤立部62aと離間した配置で取り出し面50aの上に形成されている。また、図3(b)に示す孤立部64aは、長方形であり、隣接する孤立部64aと離間した配置で取り出し面50aの上に形成されている。
【0049】
このように、被覆部60は、四角形や六角形等の多角形の孤立部をマトリックス状に分散配置したものであってもよい。あるいは、形状や大きさが異なる複数の孤立部を分散して配置してもよい。被覆部における孤立部の数や大きさ、隣接する孤立部との間隔は種々取り得るが、重要なのは、分散した複数の孤立部で被覆部を構成することで、孤立部の内部に生じる応力の大きさを低減することであり、これを実現できる孤立部であれば特定の形状や大きさに限定されない。
【0050】
以下、孤立部や取り出し面の構成の好ましい態様について例示する。孤立部は、直径または一辺が1μm以上100μm以下であるとよい。孤立部の直径または一辺が100μm以下、好ましくは、50μm以下、より好ましくは30μm以下であれば、取り出し面の大きさに対して、個々の孤立部の大きさが十分小さくなるため、孤立部の内部で生じる残留応力を小さくできる。
【0051】
一方、孤立部の直径または一辺が1μm以上、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であれば、印刷等の比較的簡易な方法で孤立部を形成できる。印刷方法としては、インクジェット法やスクリーン印刷法、インプリント法等が用いることができる。
【0052】
なお、取り出し面50aは、被覆部(孤立部)で覆われてない部分の割合が10~90%程度が好ましい。取り出し面50aの被覆部で覆われてない部分の割合が10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上であれば、被覆部の大きさに応じて取り出し効率の向上が図られる。一方、取り出し面50aの被覆部で覆われてない部分の割合が90%以下、好ましくは75%以下、より好ましくは60%以下であれば、取り出し面の大きさに対して、被覆部の大きさがある程度小さくなるため、被覆部の内部で生じる残留応力の総和を小さくできる。
【0053】
次に、被覆部(孤立部)の材料について説明する。被覆部の材料は、取り出し面を構成する材料よりも低い屈折率を有するものであれば無機物でも樹脂でもよいが、形成しやすさを考慮すれば樹脂が好ましい。特に、紫外線に対する耐久性を考慮すればフッ素系やシリコーン系の樹脂が好ましい。
【0054】
より好ましい樹脂は、飽和結合のみを有する非晶質全フッ素化樹脂である。「飽和結合のみを有する」とは、換言すれば、不飽和結合を実質的に有さないことである。具体的には、旭硝子株式会社製のサイトップS、デュポン製のテフロン(登録商標)AFなどが挙げられる。このような樹脂は、飽和結合のみを有するとともに全フッ素化されているため、結合エネルギーが高く、紫外線(特に深紫外線)のようなエネルギーの高い光に対しても優れた耐光性を有する。また、このような樹脂は、非晶質性を有するために深紫外線を含む幅広い波長域において高い透過率を有する。被覆部の紫外線に対する透過率は、80%以上、好ましくは90%以上である。これにより、高効率な半導体発光素子を実現できる。
【0055】
次に、被覆部を樹脂で形成する製造方法について説明する。図4は、本実施の形態に係る半導体発光素子の製造方法を示すフローチャートである。
【0056】
はじめに、紫外線を発する発光部を準備する行程(S10)と、発光部の光取り出し面の上に印刷で被覆部を形成する工程(S12)と、を含む。これにより、少なくとも取り出し面と被覆部との界面での屈折率差が少なくなり、光取り出し効率が向上する。また、被覆部は、互いに離れた複数の孤立部で構成されているため、各孤立部の内部での残留応力を小さくできる。その結果、取り出し面と被覆部との界面で生じる引っ張り応力や圧縮応力が緩和され、界面での被覆部の剥離やクラックの発生が低減された半導体発光素子を製造できる。なお、印刷方法は、種々採用できるが、孤立部の形状や大きさに応じて選択すればよい。
【0057】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0058】
22 基板、 50 発光部、 50a 取り出し面、 60 被覆部、 60a,62a,64a 孤立部、 100 半導体発光素子。
図1
図2
図3
図4
図5