(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】整準方法および整準装置
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20220118BHJP
G01C 9/00 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
G01C15/00 105S
G01C9/00 A
(21)【出願番号】P 2018047649
(22)【出願日】2018-03-15
【審査請求日】2021-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100087826
【氏名又は名称】八木 秀人
(74)【代理人】
【識別番号】100187182
【氏名又は名称】川野 由希
(72)【発明者】
【氏名】田上 政章
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-071961(JP,A)
【文献】特開2007-225307(JP,A)
【文献】特開平05-264275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 15/00
G01C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜センサと、温度センサとを備える機器本体において、
前記機器本体を、前記傾斜センサの検出角が所定の角度範囲に入るまで、前記機器本体の傾斜角が0′に近づく方向に傾動させ、
傾動後の傾斜状態を、第1の待機時間維持する、
第1のステップと、
前記第1のステップの後、
前記機器本体を、前記機器本体の傾斜角が0′に近づく方向に傾動させ、
傾動後の傾斜状態を、第2の待機時間維持する、
第2のステップとを備え、
前記第1の待機時間は、前記温度センサにより取得した温度および予め求められた応答遅れに基いて設定されることを特徴とする整準方法。
【請求項2】
前記第2の待機時間が、前記温度センサにより取得した温度、および予め求められた応答遅れに基いて設定されることを特徴する請求項1に記載の整準方法。
【請求項3】
前記温度センサが、前記第1のステップおよび前記第2のステップ毎に、温度を取得することを特徴とする請求項1又は2に記載の整準方法。
【請求項4】
傾斜センサと、温度センサと、機器本体を傾斜駆動するモータと、前記モータの駆動を制御する制御部とを備える整準装置において、
前記制御部は、前記傾斜センサの検出角が所定の角度範囲外にある場合、前記機器本体を、前記機器本体の傾斜角が0′に近づく方向に傾動させ、傾動後の傾斜状態を、第1の待機時間維持し、前記傾斜センサの検出角が所定の角度範囲内にある場合、前記機器本体を、前記機器本体の傾斜角が0′に近づく方向に傾動させ、傾動後の傾斜状態を、第2の待機時間維持するように前記モータを制御し、
前記制御部は、前記第1の待機時間を、前記温度センサにより取得した温度および予め求められた応答遅れに基いて設定することを特徴とする整準装置。
【請求項5】
前記制御部が、前記第2の待機時間を、前記温度センサにより取得した温度および予め求められた応答遅れに基いて設定することを特徴とする請求項4に記載の整準装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測量機等の測定機器に用いられる整準方法および整準装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、測量機等の測定機器は、その設置状態を水平にするための整準装置を備えている。例えば、特許文献1には、整準装置を備えた回転レーザ装置が開示されている。回転レーザ装置は、レーザ光線を回転照射して、基準面を形成する装置である。
【0003】
特許文献1の整準方法を、
図8(a)を参照しながら説明する。
図8(a)は、特許文献1の整準装置における、整準動作時の傾斜センサの出力状態を示す図である。
図8(a)において、破線Pは機器本体の傾斜角を示し、実線Rは傾斜センサが出力する検出角を示し、矢印a1,a2,a3は機器本体の傾動方向を示す。
【0004】
例えば、水平を0′として、最初に、機器本体が、傾斜センサの検出角度が+(プラス)となる方向(以下、「+方向」という。)に角度θ傾いている(A)場合、機器本体を、まず矢印a1で示す、+方向とは逆の-(マイナス)方向に傾動し、第1の0′(B)が検出された後、再度0′が検出されるように、矢印a2で示す+方向に傾動する。次に、第1の0′(B)と第2の0′(C)が検出される間の時間Tと、予め求めた傾斜センサの応答遅れに基づく係数とに基いて算出したモータの駆動時間Xt、機器本体を矢印a3で示す-方向に再度傾動する。
【0005】
駆動時間Xtが経過後(D)、機器本体の傾斜状態を維持しつつ、一定時間WTc待機する。(B)~(D)を検出角度が±(プラスマイナス)3′の範囲になるまで繰り返し、検出角度が±3′の範囲になったら(E)、角度の検出、0′の方向への傾動と一定時間の待機とを繰り返す微調整を行い、傾斜角を0′に収斂させて整準を完了する(F)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の整準方法では、(E)における検出角度が、所定の角度範囲、すなわち±3′の範囲に入るまでは、0°を挟んで±方向に機器本体の傾動を繰り返す必要があり、整準に時間がかかるという問題があった。
【0008】
しかも、従来の整準方法では、(C)でモータの駆動を停止した後、傾斜センサの安定するまで、温度の応答遅れを考慮した一定時間(待機時間WTc)待機する。待機時間WTcは、例えば温度等に影響を受けない最大時間である(特許文献1、段落0041)。なお、本明細書において、用語「待機時間」は、傾動後、傾斜センサが安定するまでの傾動停止時間をいう。
【0009】
応答遅れは、傾斜センサ内の液体の粘性に起因し、温度の影響を受ける。
図8(b)は、
図8(a)の(C)(D)間における、温度が低い場合(実線R
L)、温度が高い場合(実線R
H)の傾斜センサの出力状態を拡大して示したものである。また、理解の容易のため、(D)では、傾斜センサの検出角が0°に収束するものとする。
【0010】
温度が低い場合、液体の粘性が高くなり、応答遅れDLは大きい。しかし、待機時間WTCは一定であるので、傾斜センサが安定する時間t4までには、時間WTs不足する。この結果、傾斜センサの値が安定していない時間t3での傾斜角の値に基いて、機器本体の傾動を再開するため、必要以上にモータを回転し、整準が安定しなくなる。
【0011】
一方、温度が高い場合、液体の粘性が低くなり、応答遅れDHは小さい。しかし、待機時間WTCは一定であるので、傾斜センサの検出値が安定する時間t2の後、時間WTE無駄に待機することになる。
【0012】
この結果、いずれの場合にも整準完了が遅延するという問題があった。
【0013】
本発明は、係る事情を鑑みてなされたものであり、迅速にかつ安定して整準を完了することができる整準方法および整準装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の1つの態様にかかる整準方法は、傾斜センサと、温度センサとを備える機器本体において、前記機器本体を、前記傾斜センサの検出角が所定の角度範囲に入るまで、前記機器本体の傾斜角が0′に近づく方向に傾動させ、傾動後の傾斜状態を、第1の待機時間維持する、第1のステップと、前記第1のステップの後、前記機器本体を、前記機器本体の傾斜角が0′に近づく方向に傾動させ、傾動後の傾斜状態を、第2の待機時間維持する、第2のステップとを備え、前記第1の待機時間は、前記温度センサにより取得した温度および予め求められた応答遅れに基いて設定されることを特徴とする。
【0015】
上記態様において、前記第2の待機時間が、前記温度センサにより取得した温度、および予め求められた応答遅れに基いて設定されることも好ましい。
【0016】
上記態様において、前記温度センサが、前記第1のステップおよび前記第2のステップ毎に、温度を取得することも好ましい。
【0017】
また、本発明の別の態様に係る整準装置は、傾斜センサと、温度センサと、機器本体を傾斜駆動するモータと、前記モータの駆動を制御する制御部とを備える整準装置において、前記制御部は、前記傾斜センサの検出角が所定の角度範囲外にある場合、前記機器本体を、前記機器本体の傾斜角が0′に近づく方向に傾動させ、傾動後の傾斜状態を、第1の待機時間維持し、前記傾斜センサの検出角が所定の角度範囲内にある場合、前記機器本体を、前記機器本体の傾斜角が0′に近づく方向に傾動させ、傾動後の傾斜状態を、第2の待機時間維持するように前記モータを制御し、前記制御部は、前記第1の待機時間を、前記温度センサにより取得した温度および予め求められた応答遅れに基いて設定することを特徴とする。
【0018】
上記態様において、前記制御部が、前記第2の待機時間を、前記温度センサにより取得した温度および予め求められた応答遅れに基いて設定することも好ましい。
【発明の効果】
【0019】
上記の態様に係る整準方法および整準装置によれば、機器本体を、0°を挟んだ±方向に繰り返し傾動しなくても、検出角を所定範囲とすることができるので、所定範囲の検出角まで水平に近づけるための時間を短縮することができる。また、過不足のない最適な待機時間を設定することができるので、整準の遅延が低減し、迅速なかつ安定した整準が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施の形態に係る整準装置を備える回転レーザ装置の、正面からみた縦断面図である。
【
図2】同形態に係る整準装置を備える回転レーザ装置本体の構成ブロック図である。
【
図3】同形態に係る整準装置の構成ブロック図である。
【
図4】同形態に係る整準装置の整準動作を示すフローチャートである。
【
図5】(a)は同形態に係る整準装置における、整準動作時の傾斜センサの出力状態の一部を示す図であり、(b)は同整準装置において、傾動速度が低速であると仮定した場合の、整準動作時の傾斜センサの出力状態を示す図である。
【
図6】同形態に係る整準装置における、整準動作時の傾斜センサの出力状態の一部を示す図である。
【
図7】(a)および(b)は、同形態に係る整準装置における、整準動作全体の傾斜センサの出力状態を示す図である。
【
図8】(a)および(b)は、従来の整準装置における、整準動作時の傾斜センサの出力状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施の形態について、実施例に基いて、図面を参照ながら説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
(実施の形態)
本発明の実施の形態に係る整準装置は、整準部30として回転レーザ装置100に備えられている。
図1は、回転レーザ装置100の正面から見た縦断面図、
図2は、回転レーザ装置本体1(機器本体)の構成ブロック図である。
【0023】
回転レーザ装置100は、回転レーザ装置本体1およびケーシング2を備える。
【0024】
回転レーザ装置本体1は、レーザ投光器10、回動部20、整準部(整準装置)30、傾斜センサ40、温度センサ50、および制御部60を備え、ケーシング2の内部に配置されている。回転レーザ装置本体1は、レーザ投光器10の傾動にともなって傾動するように構成されている。
【0025】
レーザ投光器10は、投光光軸11を有する、レーザ光線を射出する装置である。レーザ投光器10は、駆動ギア12を有する走査モータ13を備える。
【0026】
また、レーザ投光器10は、レーザ投光器10の周囲に設けられたX軸、Y軸に関し、それぞれX軸方向に延出するX軸傾斜アーム18x、Y軸方向に延出するY軸傾斜アーム(図示せず)を備える。
【0027】
回動部20は、レーザ投光器10の上部に設けられ、走査ギア21を備える。回動部20は、走査モータ13の回転が、駆動ギア12、走査ギア21を介して伝達されることにより回転駆動される。また、回動部20には、ペンタプリズム22が設けられている。
【0028】
整準部30は、レーザ投光器10の周囲に設けられたX軸、Y軸に関し、それぞれ、X軸傾斜機構31x、Y軸傾斜機構31y(
図3)を備える。
【0029】
X軸傾斜機構31xは、X軸傾斜用モータ32xと、レーザ投光器10と平行な方向に延びる回転中心軸を有するX軸傾斜用スクリュ33xと、X軸傾斜用スクリュ33xに螺合するスライドナット34xとを備える。X軸傾斜用モータ32xは、例えば、ステッピングモータ等の、回転角を制御可能なモータである。
【0030】
スライドナット34xは、レーザ投光器10のX軸傾斜アーム18xと、ピンを介して係合している。また、X軸傾斜用モータ32xは、駆動ギア36xおよび傾斜用ギア37xを介して、X軸傾斜用スクリュ33を回転可能に構成されている。
【0031】
X軸傾斜用スクリュ33xが回転することにより、スライドナット34xが上下に移動し、これによりX軸傾斜アーム18xが傾斜してレーザ投光器10が傾動する。
【0032】
また、
図1には図示しないY軸傾斜機構31y(
図3)も、X軸傾斜機構31xと同様の機構により、レーザ投光器10をY軸方向に傾動するように構成されている。
【0033】
傾斜センサ40は、X軸傾斜センサ41xおよびY軸傾斜センサ41yを備える。X軸傾斜センサ41xおよびY軸傾斜センサ41yは、レーザ投光器10下部の、投光光軸11に対して直交する平面内のX軸方向、Y軸方向にそれぞれ設けられている。X軸傾斜センサ41x、Y軸傾斜センサ41yは、それぞれ、X軸傾斜アーム18x、Y軸傾斜アーム(図示せず)に対して平行である。
【0034】
X軸傾斜センサ41xおよびY軸傾斜センサ41yは、気泡管を備える傾斜センサであり、特に限定されないが、例えば、電気気泡管、光源、受光素子、および制御手段を備え、光源からの光を電気気泡管に透過させ、受光素子で受光し、その受光信号に基いて、制御手段が傾斜角度を演算するように構成された、いわゆる光学式チルトセンサである。
【0035】
X軸傾斜センサ41xおよびY軸傾斜センサ41yは、水平に対して微少角範囲については、角度検出が可能であるが、検出可能範囲を超えると、傾斜方向は検出可能であるが、傾斜角の値は検出できないという特性を有する。
【0036】
X軸傾斜センサ41xおよびY軸傾斜センサ41yは、レーザ投光器10の任意の方向の傾斜角を検出することができる。X軸傾斜機構31x、Y軸傾斜機構31y(
図3)には、X軸傾斜センサ41xおよびY軸傾斜センサ41yの検出結果に基いて、X軸傾斜アーム18x、Y軸傾斜アーム(図示せず)を介して、レーザ投光器10を鉛直になるように整準したり、任意の角度に傾斜させたりできる。
【0037】
温度センサ50としては、任意の温度センサを用いることができるが、例えば、サーミスタが用いることが好ましい。温度センサ50は、図示の例では、X軸傾斜センサ41xに取り付けられている。
【0038】
温度センサ50の配置は、特に限定されない。傾斜センサ40の周囲の温度を測定可能であれば、Y軸傾斜センサ41yに取り付けられていてもよく、X軸傾斜センサ41xおよびY軸傾斜センサ41yに直接取り付けることなく、単に近傍に配置してもよい。また、X軸傾斜センサ41x、Y軸傾斜センサ41yのそれぞれに温度センサ50を設けてもよい。
【0039】
制御部60は、例えば、マイクロコントローラであり、プロセッサとしてのCPU(Central・Processing・Unit)、および記憶装置としてのRAM(Random・Access・Memory)、ROM(Read・Only・Memory)等により構成されている。
【0040】
制御部60は、レーザ投光器10の発光を制御し、走査モータ13、整準部30の駆動を制御する。また、制御部60は、温度センサが取得した温度の値、傾斜センサが取得した検出角の値を記憶し、待機時間WT1,WT2を設定する。また、待機時間の設定に必要な応答遅れを記憶する。
【0041】
回転レーザ装置100は、レーザ投光器10が鉛直に整準された状態でレーザ光線を射出する。該レーザ光線が、ペンタプリズム22によって水平方向に偏向されて、
図1に矢印で示す水平方向に照射される。
【0042】
そして、走査モータ13による回転力が、駆動ギア12および走査ギア21を介して回動部20に伝達され、回動部20が回転されることにより、レーザ光線が回転照射され、水平基準面が形成される。
【0043】
また、レーザ投光器10が鉛直に整準された状態から、X軸傾斜用モータ32xが所定回転量(所定のパルス数)X軸傾斜用スクリュ33xを回転させることで、レーザ投光器10を所定の角度に傾斜させることができ、この状態でレーザ光線を回転照射することで、傾斜基準面が形成される。
【0044】
図3は、本発明の実施の形態に係る整準部(整準装置)30の構成ブロック図である。このように、整準部30は、整準制御部38と、X軸傾斜機構31xおよびY軸傾斜機構31yとを備えている。
【0045】
なお、整準制御部38は、回転レーザ装置本体1の制御部60において、後述する傾斜用モータの駆動速度や、傾斜センサの応答遅れを表す温度係数等のデータ、整準動作を実行するためのプログラムがROM、RAMに格納されるとともに、該プログラムがCPUに読み込まれ、CPU上で実行されることにより機能を発揮するように構成された機能部である。
【0046】
(整準方法)
次に、本実施の形態に係る整準部(整準装置)30を用いた、回転レーザ装置100の整準動作について説明する。X軸方向およびY軸方向の整準動作は同様であるので、X軸方向についてのみ説明し、重複する説明は省略する。
【0047】
まず、回転レーザ装置100は、水平状態にはなく、X軸傾斜センサ41xの検出角が+(プラス)の値となる、+方向に、X軸傾斜センサ41xの最大検出角度θ以上傾斜しているものとする。
【0048】
整準部30において、整準動作が開始すると、ステップS101において、温度センサ50が温度データを取得する。
【0049】
次いで、ステップS102では、整準制御部38が、ステップS101において取得された温度データと、予め求められた応答遅れD1とに基いて、X軸傾斜センサ41xの第1の待機時間WT1を設定する。第1の待機時間WT1の設定については後で詳述する。
【0050】
次いで、ステップS103では、X軸傾斜センサ41xが傾斜角を検出する。
【0051】
次いで、ステップS104では、整準制御部38が、ステップS103で検出された傾斜角(検出角)が、所定の角度範囲内、例えば本実施例では±3′以内、であるか否かを判断する。
【0052】
ステップS104において検出角が±3′以内でない場合(No)、ステップS105に移行して、整準制御部38が、X軸傾斜用モータ32xを回転駆動するように制御し、レーザ投光器10を、傾斜角が0°に近づく方向、すなわち-(マイナス)方向に傾動する。
【0053】
X軸傾斜用モータ32xの駆動速度V1は、モータの性能を考慮して最適となるように設定され、比較的高速、例えば、モータの最大速の定速である。具体的には、本実施例においては、レーザ投光器10を数秒で1°傾斜させる速度である。
【0054】
次いで、処理はステップS101に戻り、ステップS104において、X軸傾斜センサ41xの検出角が±3′以内になるまでステップS101~S105を繰り返す。
【0055】
そして、ステップS104において、X軸傾斜センサ41xの検出角が±3′以内になると(Yes)、処理はステップS106に移行して、整準制御部38は、X軸傾斜用モータ32xの駆動を停止させ、レーザ投光器10を、ステップS102で設定した待機時間WT1、ステップS105後の傾斜状態に維持する。
【0056】
待機時間WT1が経過すると、処理はステップS107に移行して、X軸傾斜センサ41xの検出角が±3′以内であるか否かを判断する。
【0057】
ステップS107において検出角が±3′以内でない場合(No)、処理はステップS101に戻り、ステップS107で検出角が±3′以内になるまでステップS101~S107を繰り返す。
【0058】
ステップS107において検出角が±3′以内である場合(Yes)、ステップS108に移行して、温度センサ50は、再度温度を取得する。
【0059】
次いで、ステップS109では、整準制御部38が、ステップS108において取得された温度データと、予め求められた応答遅れD2とに基いて、X軸傾斜センサ41xの第2の待機時間WT2を設定する。第2の待機時間WT2については後で詳述する。
【0060】
次いで、ステップS110では、X軸傾斜センサ41xが傾斜角を検出する。
【0061】
次いで、ステップS111では、整準制御部38が、ステップS108で検出された傾斜角(検出角)が、所定の角度範囲内、本実施例において例えば±1″以内、であるか否かを判断する。
【0062】
ステップS111において、検出角が±1″以内でない場合(No)、ステップS112に移行して、整準制御部38が、X軸傾斜用モータ32xを回転駆動するように制御し、レーザ投光器10を、傾斜角が0°に近づく方向に傾動する
【0063】
ステップS112におけるX軸傾斜用モータ32xの駆動速度V
2は定速であり、駆動速度V
2および駆動時間TT
2(
図6におけるTT
2a,TT
2b)は、X軸傾斜センサ41の検出値が目的の角度範囲、例えば、本実施例においては±1″以内、になるまでの残りの角度に基いて適宜算出されて、設定される。
【0064】
具体的には、駆動速度V2は、V1の1/5~1/500の速度であり、残りの角度が小さくなるにつれて速度V2も小さくなるように、残りの角度に応じて段階的に設定される。また、駆動速度V2および駆動時間TT2を、このように算出した速度の2倍速に設定し、駆動時間TT2をこのように算出した駆動時間の1/2としてもよい。
【0065】
次いで、ステップS113に移行すると、整準制御部38は、X軸傾斜用モータ32xの駆動を停止させ、ステップS109で設定した待機時間WT2、レーザ投光器10をステップS112後の傾斜状態に維持する。
【0066】
次いで、処理はステップS108に戻り、ステップS111においてX軸傾斜センサ41xの検出角が±1″以内になるまで、ステップS108~S113を繰り返す(以下、この繰り返しの処理を微調整という。)。
【0067】
そして、ステップS111においてX軸傾斜センサ41xの検出角が±1″以内になった場合(Yes)、整準動作が終了する。
【0068】
次に、第1の待機時間WT1の設定について説明する。
【0069】
図5(a)は、ステップS101~S107までの、X軸傾斜センサ41xの出力状態を示す線図である。実線S
0,S
40は、それぞれ温度が0℃,40℃の場合の出力状態(検出角)を示し、破線Q
0,Q
40は、それぞれ温度が0℃,40℃の場合のレーザ投光器10の傾斜角を示す。なお、上記温度は、低温の場合と高温の場合との例示である。
【0070】
40℃の場合、時間t1においてX軸傾斜センサ41xが±3′以内を検出するまでは、X軸傾斜用モータ32xは連続的に駆動する(ステップS101~S105)。時間t1においてX軸傾斜センサ41xが+3′以内を検出すると(ステップS104)、X軸傾斜センサ41xは駆動を停止し、レーザ投光器10の傾斜状態を維持する(ステップS106)。
【0071】
一方、0℃の場合、X軸傾斜センサ41xが+3′以内を検出するのは時間t2となる。その後、X軸傾斜センサ41xは駆動を停止し、レーザ投光器10の傾斜状態を維持する(ステップS106)。
【0072】
この時、X軸傾斜センサ41xは、0℃,40℃の場合に、それぞれ応答遅れD1-0,D1-40(以下、これらを代表して、応答遅れD1という。)を示す。上記の通り、応答遅れD1は温度による応答遅れDTが含む。それに加えて、応答遅れD1は、傾動速度による応答遅れDmsを含む。
【0073】
傾動速度による応答遅れDmsは、傾動停止時の慣性力により、液面が安定しないこと等により起こり、傾動速度および傾動時間に依存する。
【0074】
図5(b)は、ステップS105において、傾動速度が低速であると仮定した場合のX軸傾斜センサ41xの出力状態を示す線図である。
図5(a)と同様に実線S
0,S
40は、それぞれ温度が0℃,40℃の場合の出力状態(検出角)を示し、破線Q
0,Q
40は、それぞれ温度が0℃,40℃の場合のレーザ投光器10の傾斜角を示す。
【0075】
図5(b)のように傾動速度が低速であるならば、応答遅れD
1における、傾動速度による応答遅れD
msは無視できるほど小さく、応答遅れD
1は温度に依存するとみなすことができる。
【0076】
しかし、実際には、X軸傾斜用モータ32xは、比較的高速、例えば最大速で駆動される。このため、傾動速度による応答遅れDmsは無視できないほど大きい。
【0077】
そのため、応答遅れD1は、温度による応答遅れDTと、傾動速度V1による応答遅れDmsの和として式1のように表すことができる。
D1=DT+Dms (式1)
【0078】
傾動速度V1による応答遅れDmsは、例えば式2のように表すことができる。
Dms=β×Tdt (式2)
(ここで、βは傾動速度V1に依存する係数を、TdtはX軸傾斜用モータ32xの駆動時間を表す。)
【0079】
また、温度による応答遅れDTは、例えば式3のように表すことができる。
DT=αT+b (式3)
(ここで、αは温度に依存する係数を、Tは温度を、bは定数を表す。)
【0080】
係数α、β、定数bは、実験、実測により予め求められる。例えば、温度を適宜変更して、既知の速度v1,v2・・・でX軸傾斜センサ41xを傾動させた場合の、X軸傾斜センサ41xの機械的な傾動速度に対する、検出角度の出力速度、出力値等を測定することにより求められる。
【0081】
このようにした求めた係数α,β、定数b、および式1~式3より、各温度における応答遅れD1が予め求め、関数、テーブル等、任意の形式で制御部60の記憶装置に記憶させる。
【0082】
第1の待機時間WT1(図中、符号WT1-0,WT1-40は、それぞれ温度が0℃,40℃の場合の第1の待機時間を示す。)は、このようにして予め求められた応答遅れD1の、ステップS101で取得した温度における応答遅れD1に相当する時間として設定される。
【0083】
次に、第2の待機時間WT2の設定について説明する。
【0084】
図6は、ステップS108以降の、X軸傾斜センサ41xの出力状態を示す、
図5に連続する線図であり、拡大したものである。図中時間t
3~t
8は、
図5(a)における時間t
1~t
3に連続する時間を示し、t
3は共通である。実線S
40および破線Q
40は、それぞれ温度が40℃の場合の、X軸傾斜センサ41xの出力状態およびレーザ投光器10の傾斜角を示し、それぞれ
図5における実線S
40および破線Q
40に連続する。なお、
図5のS
0のように、時間t
4において、検出される傾斜角が-の場合、-方向から0°へ向かう制御となるが、その挙動は制御の方向が反対であることを除き、温度が40℃の場合の制御と同様であるので重複する説明は省略する。
【0085】
時間t2においてX軸傾斜センサの検出角が±3′以内を検出した後、第1の待機時間WT1が経過すると、X軸傾斜センサ41xが±1″以内を検出するまで、傾斜角の検出(ステップS110)、駆動時間TT2のX軸傾斜用モータ32xの駆動(ステップS112)、および待機時間WT2の待機(ステップS113)を繰り返す。駆動速度V2,傾動時間TT2および待機時間WT2は、繰り返しの各回毎に、駆動速度V2a,V2b,…、傾動時間TT2a,TT2b,…および待機時間WT2a,WT2b,…のように設定される。
【0086】
待機時間WT2において、X軸傾斜センサ41xは、応答遅れD2(図中の符号D2a,D2bは、それぞれ1回目および2回目のステップS113における応答遅れを示す。)を示す。
【0087】
ここで、応答遅れD2も、応答遅れD1と同様に、温度による応答遅れDTと、駆動速度による応答遅れDmsとの和として式4のように表すことが考えられる。
D2=DT+Dms (式4)
【0088】
しかし、ステップS112におけるX軸傾斜用モータ32xの駆動速度V2はV1の1/5~1/500程度と小さく、残りの角度も3′位内と小さいため、駆動速度V2も、駆動時間TT2も共に小さく、駆動速度による応答遅れDmsは無視できるほど小さい。
【0089】
この結果、応答遅れD2は近似的に式5のように表せる。
D2=DT=αT+b (式5)
(ここで、αは温度に依存する係数を、Tは温度を、bは定数を表し、式3のα、T,bと共通する。)
【0090】
予め求められた応答遅れD2は、応答遅れD1と同様に、関数、テーブル等、任意の形式で制御部60の記憶装置に記憶される。
【0091】
第2の待機時間WT2は、このようにして予め求められた応答遅れD2の、ステップS108で取得した温度における応答遅れD2に相当する時間として設定される。
【0092】
図7(a)は、整準動作全体のX軸傾斜センサ41xの出力状態の1つの例を示す図である。実線Sおよび破線Qは、それぞれX軸傾斜センサ41xの出力状態およびレーザ投光器10の傾斜角を示す。
【0093】
図7(a)から、本実施の掲載の整準部30によれば、レーザ投光器10を0°を挟んだ±方向に繰り返し傾動することなく、検出角を±3′位内に導くことができ、機器本体を、0°を挟んだ±方向に繰り返し傾動する従来の整準方法に比べて、短時間で検出角の範囲が±3′位内になるように導けることがわかる。
【0094】
また、微調整においても、温度および応答遅れに基いた第2の待機時間WT2を採用しているため、微調整の時間も短縮されていることがわかる。
【0095】
図7(b)は、整準動作全体のX軸傾斜センサ41xの出力状態の1つの例を示す図である。
図7(a)と同様に、実線Sおよび破線Qは、それぞれX軸傾斜センサ41xの出力状態およびレーザ投光器10の傾斜角を示す。本例では、1度目の-方向への傾動後の待機時間WT
1a経過後には、傾斜角が、±3′以内に収まらず、レーザ投光器10は、-方向に大きく傾動している。このような場合であっても、+方向への傾動および、待機時間WT
1bの待機を行うことにより、機器本体を、0°を挟んだ±方向に繰り返し傾動することなく検出角を±3′位内に導くことができることがわかる。
【0096】
このように、本実施の形態に係る整準部30によれば、温度センサ50を用いて、X軸傾斜センサ41xの温度データを取得し、該温度データと予め求められた応答遅れD1とに基いて第1の待機時間WT1を設定するので、温度による応答遅れDTと駆動速度による応答遅れDmsの両方を考慮した第1の待機時間WT1を設定することができる。したがって、過不足のない最適な待機時間の設定ができる。
【0097】
最適な待機時間の設定ができるので、迅速にかつ安定して、検出角が所定範囲内になるように傾斜用モータを制御することができる。この結果、機器本体を、0°を挟んだ±方向に繰り返し傾動しなくても、検出角を所定範囲とすることができるので、所定範囲の検出角まで水平に近づけるための時間を短縮することができる。この結果、整準動作全体の時間を短縮することができ、迅速かつ安定した自動整準が可能となる。
【0098】
また、本実施の形態に係る整準部30によれば、温度センサ50により取得した温度データと、予め求められた応答遅れD2とに基いて第2の待機時間WT2(WT2a,WT2b,…)を設定するので、微調整の段階でも過不足のない最適な待機時間を設定することができる。
【0099】
微調整の段階においても最適な待機時間の設定ができるので、微調整に係る時間を短縮することができる。この結果、整準動作全体の時間を短縮することができ、迅速かつ安定した自動整準が可能となる。
【0100】
(変形例)
なお、ステップS108を省略し、ステップS109では、ステップS101において取得した温度を用いて第2の待機時間WT2を設定してもよい。
【0101】
また、ステップS105において、
図4に破線矢印で示すように、ステップS101に戻るのに代えて、ステップS103に戻り、2度目以降のステップS101およびS102を省略し、ステップS106では、最初のステップS102において設定した第1の待機時間WT
1を用いてもよい。
【0102】
また、ステップS112において、
図4に破線矢印で示すように、ステップS108に戻るのに代えてステップS110に戻り、2度目以降のステップS108およびS109を省略し、ステップS113では、最初のステップS109において設定した第2の待機時間WT
2を用いてもよい。
【0103】
しかし、回転レーザ装置100等の測量機は、気温の変動の大きい環境下で使用されることも多いので、待機の毎に温度を取得し待機時間を設定するように構成すると、より的確な待機時間を設定することができるという点でより有利である。
【0104】
なお、上記の実施の形態においては、機器本体が+側に傾いている状態から整準動作を行う例について述べたが、機器本体が-側に傾いている状態からでも、同様に整準動作を行うことができる。
【0105】
以上、本発明の好ましい実施の形態に係る整準装置(整準部30)を、回転レーザ装置100に適用した例について述べたが、本実施の形態に係る整準装置(整準部30)は、回転レーザ装置100に関わらず、種々の測量機の適用することが可能であり、また、測量機に関わらず測定時に水平状態に設置することを要求される種々の装置に用いることができる。
【0106】
また、上記の実施の形態は本発明の一例であり、これらを当業者の知識に基づいて組み合わせることが可能であり、そのような形態も本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0107】
1 回転レーザ装置本体(機器本体)
30 整準部(整準装置)
32x X軸傾斜用モータ(モータ)
32y Y軸傾斜用モータ(モータ)
38 整準制御部(制御部)
40 傾斜センサ
41x X軸傾斜センサ
41y Y軸傾斜センサ
50 温度センサ