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特許7007968ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/12 20060101AFI20220203BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20220203BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20220203BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
B32B27/12
C08L67/04 ZAB
B32B27/36
C08L101/16 ZBP
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018055655
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019166703
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大倉 徹雄
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-315666(JP,A)
【文献】特開2017-222791(JP,A)
【文献】特開2006-168159(JP,A)
【文献】特開2005-162884(JP,A)
【文献】特開2004-161802(JP,A)
【文献】特開2005-041997(JP,A)
【文献】特開2006-088490(JP,A)
【文献】特開2003-048964(JP,A)
【文献】特開平09-001703(JP,A)
【文献】特開2017-014412(JP,A)
【文献】特開2010-018023(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0274920(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B32B 1/00 - 43/00
C08L 101/16
D04H 1/00 - 18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布と、該基布の片面又は両面に形成された樹脂層とを有する樹脂シートであって、
基布が、天然繊維を含む布であり、
前記樹脂層が、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)を含むポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シート。
【請求項2】
前記天然繊維が、綿、麻及びレーヨンからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シート。
【請求項3】
前記基布が、ISO1974法に基づくエルメンドルフ引裂強度測定における破壊エネルギーが2000mN以上の基布である請求項1又は2に記載のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シート。
【請求項4】
海洋用途に用いられる請求項1~3のいずれか1項に記載のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シート。
【請求項5】
土中に埋没される用途に用いられる請求項1~4のいずれか1項に記載のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シート。
【請求項6】
前記樹脂層におけるポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の含有量は、70重量%以上100重量%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シート。
【請求項7】
前記樹脂層におけるポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の含有量は、90重量%以上100重量%以下である、請求項6に記載のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄プラスチックが引き起こす環境問題がクローズアップされ、特に海洋投棄や河川などを経由して海に流入したプラスチックが、地球規模で多量に海洋を漂流していることが判ってきた。この様なプラスチックは長期間形状を保つため、海洋生物を拘束、捕獲する、いわゆるゴーストフィッシングや、海洋生物が摂取した場合は消化器内に留まり摂食障害を引き起こすなど、生態系への影響が指摘されている。
【0003】
更には、プラスチックが紫外線などで崩壊・微粒化したマイクロプラスチックが、海水中の有害な化合物を吸着し、これを海生生物が摂取することで有害物が食物連鎖に取り込まれる問題も指摘されている。
【0004】
この様な中、地球規模での循環型社会の実現が切望される中で、使用後、微生物の働きによって水と二酸化炭素に分解される生分解性プラスチックが注目を集めている。
【0005】
一般的に生分解性プラスチックは、1)ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂といった微生物生産系脂肪族ポリエステル、2)ポリ乳酸やポリカプロラクトン等の化学合成系脂肪族ポリエステル、3)澱粉や酢酸セルロース等の天然高分子物といった、3種類に大別される。しかし、海洋などの自然環境は一般に温度が低く、ポリ乳酸などの化学合成系脂肪族ポリエステルは比較的分解に時間がかかる問題があり、また、天然高分子物は非熱可塑性であることや耐水性に劣るといった問題がある。
【0006】
一方、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は好気性、嫌気性下での分解性に優れた、植物原料を使用した微生物産生の熱可塑性プラスチックであり、押出成形や射出成形など汎用の樹脂加工法で成形体を得ることが可能である。更には、海洋中などの水中でも微生物により短期間で分解されるという特筆すべき性能を有している。
【0007】
この様にポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は生分解性に優れた材料ではあるが、シートとして使用する場合、機械強度、特に引裂強度は必ずしも充分ではなかった。例えば、土嚢など重量物を運搬する用途や、街路樹の剪定物を回収する袋や農業用マルチフィルムなど突き刺しで穴が開きやすい用途では、一旦裂けるとその箇所が伝播しやすく、これら用途への適用は容易ではなかった。
【0008】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の引裂強度を改良する技術として、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロクラクトンなどの石油由来系樹脂を配合した樹脂組成物からなるシート(特許文献1参照。)などが開示されている。しかしながら、インフレーション法やTダイ押出し法でフィルムやシートに成形した場合、得られたフィルムやシートを幅方向に引っ張る時の引裂強度が不充分であった。
【0009】
一方、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の機械的性質などを改良する技術として、短繊維状の天然繊維強化材を配合した組成物(特許文献2参照)などが開示されているが、繊維の配向によりシートに加工した場合に幅方向の引裂強度の改良は不充分であった。
【0010】
また天然繊維は、環境中の微生物により生分解されうる素材であるがその分解速度は速いとは言えず、また織物、不織布などの布は水分の漏洩を止めることはできず、かつ吸水性が高いため泥や土など含水の多いものとの接触すると重量が増加するなどの課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2010/013483号公報
【文献】特開2008-195814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、上記の点に鑑み、水に強く、引裂強度に優れ、かつ海水中や土中など自然界で速やかに分解しうる樹脂シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シートに、天然繊維の布を積層することにより、耐水性や生分解性などを損なうことなく引裂強度を改良できることをようやく見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、例えば下記発明を提供する。
【0015】
[1]基布と、該基布の片面又は両面に形成された樹脂層とを有する樹脂シートであって、
基布が、天然繊維を含む布であり、
前記樹脂層が、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を含むポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シート。
【0016】
[2]前記天然繊維が、綿、麻及びレーヨンからなる群より選択される少なくとも1種である[1]に記載のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シート。
【0017】
[3]前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂が、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)である[1]又は[2]に記載のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シート。
【0018】
[4]前記基布が、ISO1974法に基づくエルメンドルフ引裂強度測定における破壊エネルギーが2000mN以上の基布である[1]~[3]のいずれか1つに記載のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シート。
【0019】
[5]海洋用途に用いられる[1]~[4]のいずれか1つに記載のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シート。
【0020】
[6]土中に埋没される用途に用いられる[1]~[5]のいずれか1つに記載のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シート。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の耐水性や優れた生分解性などの特徴を維持しつつ引裂強度が改良されたシートを提供することが可能となる。すなわち本発明は、海水中や、更には土中で酸素が少ない環境など、多様な自然環境中においても優れた生分解性を示すポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の特徴を維持しつつシートの引裂強度を改良することができ、更には天然繊維の欠点である吸水性を排除し、かつ天然繊維単独と遜色の無い速度で生分解(驚くべきことに、一態様(例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂がポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)の場合等)では天然繊維単独よりも速く生分解)することから、例えば土嚢や汚泥を運搬するフレコンや袋、街路樹の剪定物や草刈のごみを回収する袋、家畜などの死骸を回収する袋、海産物の廃棄物を回収する袋、農業用マルチフィルムなどに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シートについて説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0023】
本発明のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シートは、基布と、該基布の片面又は両面に形成された樹脂層とを少なくとも有する樹脂シートであって、基布が天然繊維を含む布であり、樹脂層がポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を含むものである。
【0024】
<樹脂層>
本発明のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シートを構成する樹脂層は、上述のようにポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を必須成分として含む。当該樹脂層は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂のみからなる層であってもよいし、他の成分(樹脂や添加剤等)をさらに含む層であってもよい。
【0025】
本発明におけるポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、微生物から生産される脂肪族ポリエステル樹脂であり、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、及び/又は3-ヒドロキシブチレートと他のヒドロキシアルカノエートからなる共重合体である。
【0026】
本発明におけるポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の具体例としては、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタデカノエート)等が挙げられる。中でも、工業的に生産が容易であることから、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)が好ましい。特に生分解性に優れる点で、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)が好ましい。
【0027】
更には、繰り返し単位の組成比を変えることで、融点、結晶化度を変化させ、ヤング率、耐熱性などの物性を変化させることができ、ポリプロピレンとポリエチレンとの間の物性を付与することが可能であること、また上記したように工業的に生産が容易であり、物性的に有用なプラスチックであるという観点から、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)が好ましい。特に、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の中でもポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)は低融点樹脂が得られやすいことから、180℃以上の加熱下で熱分解しやすいポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂にあって、低温での成形加工が可能となることから好ましい。
【0028】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)の具体的な製造方法は、例えば、国際公開第2010/013483号(特許文献2)に記載されている。また、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)の市販品としては、株式会社カネカ「カネカ生分解性ポリマーPHBH」(登録商標)などが挙げられる。
【0029】
また、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)の繰り返し単位の組成比は、柔軟性と強度のバランスの観点から、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)/ポリ(3-ヒドロキシヘキサノエート)の組成比が80/20~99/1(mol/mol)であることが好ましく、75/15~97/3(mo1/mo1)であることがより好ましい。その理由は、柔軟性の点から99/1以下が好ましく、また樹脂が適度な硬度を有する点で80/20以上が好ましいからである。
【0030】
またポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)は、3-ヒドロキシブチレート成分と3-ヒドロキシバレレート成分の比率によって融点、ヤング率などが変化するが、両成分が共結晶化するため結晶化度は50%以上と高く、ポリ3-ヒドロキシブチレートに比べれば柔軟ではあるが、脆性の改良は不充分である。
【0031】
本発明のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シートを構成する樹脂層においてポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0032】
本発明のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シートを構成する樹脂層におけるポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の含有量は、特に限定されないが、樹脂シートの海洋中や土中等の環境中での生分解性を充分に維持する観点で、70重量%以上が好ましく、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。上限は特に限定されないが、例えば、100重量%以下、98重量%以下、80重量%以下等であってもよい。
【0033】
本発明のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シートにおける樹脂層には、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル系樹脂や、ポリブチレンアジペートテレフタレートなどの脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂、その他の樹脂を1種または2種以上含まれていてもよい。
【0034】
前記樹脂層におけるその他の樹脂の含有量は、特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂100重量部に対して、50重量部以下が好ましく、より好ましくは30重量部以下である。他の樹脂の含有量の下限は特に限定されず、0重量部であってもよい。
【0035】
また、前記樹脂層には、本発明の効果を阻害しない範囲で、例えば通常の添加剤として使用される無機充填剤、顔料、染料などの着色剤、活性炭、ゼオライト等の臭気吸収剤、バニリン、デキストリン等の香料、可塑剤、酸化防止剤、抗酸化剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、滑剤、離型剤、撥水剤、抗菌剤、摺動性改良剤、その他の副次的添加剤を1種または2種以上添加してもよい。これら添加剤の含有量は、適宜設定可能である。
【0036】
本発明のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シートにおける樹脂層(2以上の樹脂層を有する場合には各樹脂層)の厚さは、特に限定されないが、天然繊維への吸水を防止し、かつ充分な柔軟性を有していることから、10~500μmが好ましく、より好ましくは20~300μmである。
【0037】
<基布>
本発明のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シートにおける基布は、上述のように天然繊維を含むものである。当該天然繊維としては、例えば植物繊維として綿、麻、木質繊維、竹繊維、動物繊維として絹、羊毛、モヘア、カシミア、アルパカ、アンゴラ、再生繊維としてレーヨン、キュプラ、更にはこれらの混紡等が挙げられる。これらの内、強度が高く安価であることから、綿、麻、レーヨンが好ましい。
【0038】
即ち本発明で使用される基布は、上記繊維もしくはそれを紡績した糸を用いて織物、編み物、ガーゼ、フェルト、不織布などに加工したものを指す。これらの内、本発明の樹脂シートの引裂強度が高く安価である観点では通常の織物や不織布であることが好ましく、また本発明の樹脂シートの背面、即ち袋に加工された場合の内容物、が見える観点ではガーゼ状の織物が好ましい。
【0039】
また、本発明で使用される基布(2層以上の基布を有する場合は各基布)の目付量は、補強効果があり重過ぎないことから、10~700g/mが好ましく、より好ましくは30~600g/mである。
【0040】
本発明のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シートにおける基布としては、袋として使用する際に、例えば先端が鋭利な内容物により樹脂シートに穴が開いても、穴を基点にした引裂が発生し難いことから、強度ISO1974法に基づくエルメンドルフ引裂強度測定における破壊エネルギーが2000mN以上であるものが好ましい。
【0041】
本発明のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シートは、基布を1層のみ有するものであってもよいし、2層以上有するものであってもよい。
【0042】
本発明のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シートの構成(層構成)は、基布と該基布の片面又は両面に形成された樹脂層とを有するもので限り、特に限定されない。
【0043】
本発明のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シートの厚み(総厚み)は、特に限定されず、例えば20~1000μmから適宜選択できる。
【0044】
本発明のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シートは、公知乃至慣用の方法により製造することができる。例えば、予め天然繊維からなる基布を含まないポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シートを、Tダイ押出成形やインフレーション成形、カレンダー成形などで製造し、しかる後に天然繊維からなる基布と熱ラミネートすることによって製造してもよいし、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂のTダイ押出の際に天然繊維からなる基布を繰り出して押出ラミネートしてもよいし、また、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂のカレンダー加工の際に天然繊維からなる基布を繰り出して積層してもよく、更にはこれらの手段を組み合わせて製造することもできる。
【0045】
本発明のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シートは、袋として使用する際に、例えば先端が鋭利な内容物により樹脂シートに穴が開いても、穴を基点にした引裂が発生し難いことから、強度ISO1974法に基づくエルメンドルフ引裂強度測定における破壊エネルギーが2000mN以上であることが好ましい。
【0046】
本発明は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シートに天然繊維の布を含む基布を含有させることにより、前記シートの機械強度、特に引裂強度を改良するものである。また天然繊維は土中や海洋中などの環境中で生分解されうるが、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シートを複合化しても全体の生分解性は損なわれず、むしろ生分解速度が促進される場合もある。生分解速度の促進機構については明確では無いが、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の分解、資化により初期に微生物が増加し、天然繊維を分解する可能性が推測される。
【0047】
本発明のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂シートは、海洋中や土中などの環境中においても良好な生分解性を有していることから、例えば、海洋用途(海洋で用いられる用途)や土中に埋没される用途、より具体的には例えば、土嚢や汚泥を運搬するフレコンや袋、街路樹の剪定物や草刈のごみを回収する袋、家畜などの死骸を回収する袋、海産物の廃棄物を回収する袋、農業用マルチフィルムなどに好適に用いることができる。
【実施例
【0048】
以下に実施例、比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0049】
(使用した樹脂)
・ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(以下PHBHと略す場合もある):株式会社カネカ製、「カネカ生分解性ポリマーPHBH(登録商標)」 X151A
・ポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂(以下PBATと略す場合もある):BASF製、「エコフレックス(登録商標)」C1200
【0050】
(樹脂組成物の製造)
PHBH80重量部とPBAT20重量部とを、二軸押出機(東芝機械製:TEM26)で、設定温度150℃、吐出量10kg/h、スクリュー回転数100rpmの条件で溶融混錬して、PHBH/PBAT樹脂組成物を得た。
【0051】
(積層用シートの製造)
PHBH、PBAT又はPHBH/PBAT樹脂組成物を、幅150mmのコートハンガーダイを装着したφ20mmの単軸押出機(東洋精機製ラボプラストミルに押出部を取り付け)に投入し、押出機シリンダー設定温度130~150℃、ダイ160℃の条件で押出し、キャストロール上で成形することにより、厚み50μm又は100μmのシート(積層用シート)を得た。なお、キャストロールの温度は、PHBH及びPHBH/PBAT樹脂組成物を用いた場合は60℃、PBATを用いた場合は30℃に設定した。
【0052】
(使用した基布)
・綿ガーゼ:目付量40g/m
・綿織物:目付量131g/m
・麻織物:目付量206g/m
・レーヨン不織布:目付量221g/m
・絹織物:目付量114g/m
【0053】
(積層用シートと基布の熱ラミネートによる樹脂シート製造)
表1~3に示す組み合わせにて積層用シートと基布を重ねて、離型剤が塗布された厚み50μmのポリエチレンテレフタレートシート2枚の間に挟み、熱ラミネート機(フジプラ社製LPD3226)を用いて、ロール設定温度150℃、線速0.4m/分の条件で熱ラミネートし、最後に前記ポリエチレンテレフタレートシートを除去することにより、基布の片面若しくは両面に積層用シートが融着した樹脂シート、又は積層用シート2枚が融着した樹脂シートを作製した。なお、積層用シートの押出方向(以下、MD方向と略す場合もある)と基布の長尺方向とが同じ方向となるように積層した。
【0054】
(引裂強度測定)
得られた樹脂シートのMD方向の引裂強度を、エルメンドルフ引裂強度測定器(熊谷理器工業社製)を用い、JIS 8116に準拠して測定した。なお、前記樹脂シートは基布の表面性により厚みが正確に測定できない場合があるため、破断エネルギー(mN)の値を採用した。なお、引裂強度が高すぎて、測定において試験片が最後まで引裂かれなかった場合は、破断せずとした。
【0055】
(海水中での生分解評価)
得られた樹脂シートの海水中での生分解性を次のように評価した。目開き80μmのメッシュで異物を除去した海水(兵庫県高砂市の港湾部から採取)6Lと、ASTM D-7081に準じて3gの塩化アンモニウムと、0.6gのリン酸2カリウムとをプラスチックコンテナに入れ、5cm角に切り出した前記樹脂シート又は基布単体を投入した。なお、海水は水温を23℃に保ち、1ヶ月に1度海水の入れ替えを実施、その際に樹脂シート又は基布の重量減少を評価した。
【0056】
(止水性評価)
紙タオルの上に、前記樹脂シートまたは基布単体を載せ、上から水を滴下し、1分間放置した後に紙タオルを観察し、以下の基準で評価した。
○:水が浸みていない。
×:水が浸みている。
【0057】
(背面の視認性評価)
フォントサイズ12の文字の印刷物の上に、樹脂シート又は基布単体を載せ、以下の基準で評価した。
○:樹脂シート又は基布単体を通して印刷物の内容が確認できる。
×:樹脂シート又は基布単体を通して印刷物の内容が確認できない。
【0058】
<実施例1>
積層用シートとして厚み50μmのPHBHシート1枚を、基布として綿ガーゼ1枚を用い、これらの熱ラミネートを行って、綿ガーゼの片面にPHBH層が形成された樹脂シートを得た。当該樹脂シートの評価結果を表1に示す。
【0059】
<実施例2>
積層用シートとして厚み50μmのPHBHシートを2枚用い、綿ガーゼをこれら2枚のPHBHシートにより挟んで熱ラミネートしたこと以外は実施例1と同様にして、綿ガーゼの両側にPHBH層が形成された樹脂シートを得た。当該樹脂シートの評価結果を表1に示す。
【0060】
<比較例1>
厚み50μmのPHBHシート2枚のみを用い、綿ガーゼを使用せずに、これら2枚のPHBHシートを重ねて熱ラミネートしたこと以外は実施例1と同様にして、PHBHのみで形成された樹脂シートを得た。当該樹脂シートの評価結果を表1に示す。
【0061】
<比較例2>
積層用シートとして厚み50μmのPHBHシート2枚の代わりに厚み50μmのPBATシート2枚を用い、綿ガーゼをこれら2枚挟んで熱ラミネートしたこと以外は実施例1と同様にして、綿ガーゼの両側にPBAT層が形成された樹脂シートを得た。当該樹脂シートの評価結果を表1に示す。
【0062】
<比較例3>
評価サンプルとして綿ガーゼのみを使用した。評価結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
なお、実施例1、2と比較例1~3の海水中の生分解性評価は、同一の海水内で実施した。
比較例1の樹脂シートは引裂強度が低いのに対し、実施例1及び2の樹脂シートは引裂強度が改良されていることが判る。また、比較例2の樹脂シートは海水で生分解が全く進行しなかったのに対し、実施例1及び2の樹脂シートは生分解により重量が減少し、更には比較例3の綿ガーゼ単体が2ヶ月でまだ形状を維持していたのに対し、実施例1及び2の樹脂シートは形状が維持できないほどに分解が進行しており、生分解がより速い結果となった。
また、実施例1及び2の樹脂シートは止水性や背後の視認性も良好だった。
【0065】
<実施例3~12>
積層用シート及び基布を表2に示す組み合わせとしたこと以外は、実施例1又は2と同様にして樹脂シートを得た。なお、積層用シートとしては100μm厚のものを使用した。当該樹脂シートの評価結果を表2に示す。
【0066】
<比較例4>
厚み100μmのPHBHシート2枚のみを用い、綿ガーゼを使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして熱ラミネートを行い、PHBHのみで形成された樹脂シートを得た。当該樹脂シートの評価結果を表2に示す。
【0067】
<比較例5>
評価サンプルとして綿織物のみを使用した。評価結果を表2に示す。
【0068】
<比較例6>
評価サンプルとして麻織物のみを使用した。評価結果を表2に示す。
【0069】
<比較例7>
評価サンプルとしてレーヨン不織布のみを使用した。評価結果を表2に示す。
【0070】
<比較例8>
評価サンプルとして絹織物のみを使用した。評価結果を表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
なお、実施例3~12と比較例4~8の海水中の生分解性評価は、同一の海水内で実施した。比較例1と比較例4で海水中の生分解性に差異があるが、主には樹脂シートの厚みが影響したと推察する。
【0073】
実施例3~12の樹脂シートは、基布自体が不透明なため背後の視認性は無いが、引裂強度が大幅に改良されていることが判る。また、樹脂としてPHBHのみを使用した実施例3~10では、基布単体よりも重量保持率の減少が大きく、樹脂シート全体として海水中の生分解性がより進行していることが判る。また、比較例5~8の基布単体では止水性が悪いのに対し、実施例3~12の樹脂シートは止水性が良好であることが判る。また、実施例11及び12は、樹脂としてPHBHのみでなくPBATを20%含んでいることから、海水中の生分解性は実施例3および4に示すPHBHのみの場合に比べて遅くなっているものの、生分解が進行することが判る。